IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社PALの特許一覧

特許7068704老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤
<>
  • 特許-老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤 図1
  • 特許-老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤 図2-1
  • 特許-老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤 図2-2
  • 特許-老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤 図3
  • 特許-老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤 図4
  • 特許-老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤 図5
  • 特許-老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤 図6
  • 特許-老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤 図7
  • 特許-老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤 図8
  • 特許-老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/26 20060101AFI20220510BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220510BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220510BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220510BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220510BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220510BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20220510BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
A61K31/26
A61P43/00 105
A61P11/00
A61P9/10 101
A61P1/16
A23L33/105
A61K8/46
A61Q19/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018543997
(86)(22)【出願日】2017-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2017036547
(87)【国際公開番号】W WO2018066707
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2016199116
(32)【優先日】2016-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017079090
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518117832
【氏名又は名称】株式会社PAL
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 陽一
(72)【発明者】
【氏名】安部 千秋
(72)【発明者】
【氏名】宇都 義浩
(72)【発明者】
【氏名】平松 隆司
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-269415(JP,A)
【文献】国際公開第2010/084661(WO,A1)
【文献】特開2009-155334(JP,A)
【文献】特開2006-176440(JP,A)
【文献】国際公開第2006/030907(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0008313(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0287547(US,A1)
【文献】TOWNSEND, E. Brigitte et.al.,Dietary broccoli mildly improves neuroinflammation in aged mice but does not reduce lipopolysacchari,NUTRITION RESEARCH,2014年,Vol.34,pp.990-999,ISSN:0271-5317, 特に「アブストラクト」欄
【文献】BENEDETTA, Rizzo et. al.,Induction of antioxidant genes by sulforaphane and klotho in human aortic smooth muscle cells,Free Radical Biology and Medicine,2014年,Vol.75,pp.S14-S15,ISSN:0891-5849, 特に「OP1-6」欄
【文献】森島祐子 ほか,喘息とCOPDにおける遺伝子改変マウスを用いたトランスレーショナルリサーチ,呼吸,2015年,Vol.34, No.3,pp.312-324,ISSN:0286-9314, 特に第314頁左欄第9行~13行、「要旨」欄
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 36/00
A61K 8/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を含有する軟部組織の石灰化抑制剤。
【請求項2】
6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を含有する肺組織破壊抑制剤。
【請求項3】
軟部組織の石灰化に起因する疾患若しくは症状の治療又は予防用である、請求項1に記載の軟部組織の石灰化抑制剤。
【請求項4】
疾患又は症状が、肺気腫;動脈硬化;肝硬変からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項3に記載の軟部組織の石灰化抑制剤。
【請求項5】
飲食品、医薬品又は化粧料の形態である、請求項1、3又は4に記載の軟部組織の石灰化抑制剤。
【請求項6】
肺組織破壊に起因する疾患若しくは症状の治療又は予防用である、請求項2に記載の肺組織破壊抑制剤。
【請求項7】
疾患又は症状が、肺気腫である、請求項6に記載の肺組織破壊抑制剤。
【請求項8】
飲食品又は医薬品の形態である、請求項2、6又は7に記載の肺組織破壊抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を含有する老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤、それらを含む飲食品、医薬品及び化粧料、並びにそれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人の平均寿命が長くなり、いわゆる高齢化社会を迎えた現代においては、老化に伴う身体の機能低下を抑制し、より快適な生活を送ることができるようにサポートする飲食品、医薬品及び化粧料へのニーズが顕在化している。
【0003】
老化とCalpain-1の活性化とが関与していることが報告されている。例えば、老化モデルマウスであるα-klothoマウスでは、2週齢まではCalpain-1活性化が正常に制御されているが、3週齢以降でCalpain-1の異常な活性化が起こり、細胞骨格タンパク質であるα-II spectrinの分解を導くこと、29月齢のC57BL/6マウスでは、α-klothoの発現低下、Calpain-1の異常な活性化、及びα-II spectrinの分解が見られることが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また、Calpain-1の活性化は、軟部組織の石灰化に関連することが知られている。例えば、α-klotho KOマウスにカルパイン阻害剤であるBDA-410を投与すると、メンケベルグ型動脈硬化が抑制されることが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
ところで、6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート(以下、6-MSITCとも記載する)は、わさびに含有されている香料の1つであり、これまでに抗酸化・抗炎症作用の様々な薬理作用を有することが知られている(非特許文献3、4)。
【0006】
特許文献1には、6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートが、NAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼ(NQO1)を活性化することにより、NAD(P)/NAD(P)H比を調整し、エネルギー過剰から生じうる様々な疾患に使用されることが示唆されている(特許文献1:特表2009-526839)。
【0007】
特許文献2には、6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートが、TNF-αの産生を抑制することが記載されており、変形性関節炎、関節リウマチといった炎症性疾患に使用されることが示唆されている(特許文献2:特開2009-132635)。
【0008】
特許文献3には、6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートが、精神的及び/又は肉体的ストレス負荷後の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の血中濃度上昇の抑制、サイトカイン、ケモカインの増加を抑制することが記載されており、ストレスを起因とする疾患に使用されることが示唆されている(特許文献3:特開2009-126826)。
【0009】
しかしながら、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートが、老化抑制作用、軟部組織の石灰化抑制作用、及び肺組織破壊抑制作用を有することはこれまでに全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2009-526839号公報
【文献】特開2009-132635号公報
【文献】特開2009-126826号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Manya, H. et al. J Biol Chem. 277(38), 35503-35508 (2002)
【文献】Nabeshima, Y. et al. Sci Rep. 4,5847, (2014)
【文献】Mizuno, K. et al. J Pharmacol Sci 115(3), 320-328 (2011)
【文献】Uto, T. et al. Adv Pharmacol Sci. 2012,614046 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明で解決しようとする課題は、新規の老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤、それを含む飲食品、医薬品及び化粧料、並びにそれらの使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートが老化抑制作用、軟部組織の石灰化抑制作用、及び肺組織破壊抑制作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者らは、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートが、Calpain-1の活性化抑制作用を有し、これが老化抑制作用、軟部組織の石灰化抑制作用、及び肺組織破壊抑制作用をもたらしていることを見出した。
【0014】
本発明の老化抑制剤は、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を含有する。
【0015】
本発明の石灰化抑制剤は、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を含有する。
【0016】
本発明の肺組織破壊抑制剤は、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を含有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を含有する老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤を提供することができる。これを飲食品若しくは医薬品として摂取すること、又は化粧料として使用することにより、例えば、老化に関連する状態を改善すること、軟部組織の石灰化を抑制すること、又は肺組織の破壊を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】6-MSITCの老化モデルマウス(α-klotho KOマウス)に対する老化抑制効果を示す。
図2-1】ワサビ含有物6-MSITCのWild typeマウス及びα-klotho KOマウスにおける肺気腫抑制効果を示す。
図2-2】ワサビ含有物6-MSITCのWild typeマウス及びα-klotho KOマウスにおける異所性石灰化抑制効果を示す。
図3】6-MSITCの老化モデルマウス(α-klotho KOマウス)におけるCalpain-1の活性化抑制効果を示す。
図4】6-MSITCのWild typeマウス及びα-klotho KOマウスにおけるCalpain-1の活性化抑制効果を示す。
図5】6-MSITCの老化モデルマウス(SAMP1マウス)に対する老化抑制効果を示す(ビームバランステスト)。
図6】6-MSITCの老化モデルマウス(SAMP1マウス)に対する老化抑制効果を示す(皮膚の外見所見)。
図7】6-MSITCの老化モデルマウス(SAMP1マウス)に対する老化抑制効果を示す(組織学的解析)。
図8】6-MSITCのCalpain-1の活性化抑制効果を示す。
図9】6-MSITCのCalpastatinの分解抑制効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0020】
<ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート>
本発明において、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートは化学的に合成された物質であってもよく、また、アブラナ科植物から得られた抽出物としての天然物であってもよい。これら物質として、具体的には5-メチルスルフィニルペンチルイソチオシアネート、6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート、7-メチルスルフィニルヘプチルイソチオシアネート及び8-メチルスルフィニルオクチルイソチオシアネートが挙げられるが、本発明の目的を達成するためには、特に6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートが好ましい。
【0021】
本発明において、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートは、天然物である場合、本わさび、西洋わさび、キャベツ、クレソン、芽キャベツ、カリフラワー、大根、からみ大根、ナタネ、ブロッコリー、タカナ、カラシナ、カブ、ハクサイなどのアブラナ科植物群から選択される一種又は複数種から得られるものが好ましい。その中で、6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートの含有率が高い本わさび(Wasabia Japonica)がより好ましく、本わさび葉又は本わさび根茎いずれを用いてもよいが、より含有率の高い本わさび根茎が特に好ましい。
【0022】
ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートの調製方法を説明すると、例えば、以下のとおりである。
【0023】
例えば、Kiaerらの方法に従って(Kiaer et al. Acta chem. Scand、11、1298、1957年)、出発物質としてω-クロロアルケノールを用い、CH3-SNaと還流してω-メチルチオアルケノールを得、これにSOClを作用させてω-クロロアルケノールメチルサルファイドを得る。
【0024】
例えば、次に、Gabriel法を用いてアミノ基を導入し、N-(ω-メチルチオアルキル)-フタルイミドを生成し、これにヒドラジン水化物を加えて還流し、ω-メチルチオアルキルアミンを得る。さらに、Liらの方法(Li et al. J. Org. Chem.,62、4539、1997年)に従い、チウラムジスルフィドを経て得られたω-メチルチオアルキルイソチオシアネートをmCPBAでメチルチオ基を酸化し、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートを得る。
【0025】
例えば、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートを含有するアブラナ科植物からの抽出に当たっては、植物体を粉砕若しくはすりおろしの物理的手段で抽出の前処理に供し、水やメタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどの有機溶媒で抽出するか、水蒸気蒸溜や分子蒸溜などの蒸溜法で抽出することが好ましいが、特にこれらの方法に限定されるものではない。
【0026】
例えば、本わさびの有機溶剤での具体的抽出方法を示すと、本わさびの根茎をすりおろした後、酢酸エチル溶媒で抽出し、この抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水の後、エバポレータで濃縮し、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートを得る。この方法は特に6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートの抽出に最適である。6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートは、市販のものを用いてもよく、例えば、金印株式会社製のわさびスルフィニル(登録商標)(6-MSITC(登録商標))が挙げられる。
【0027】
例えば、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートのクレソンからの抽出の場合も、本わさびと同様に抽出される。例えば、クレソンをすりつぶした後、酢酸エチル溶媒で抽出し、この抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水の後、エバポレータで濃縮し、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートを得る。この方法は特に、7-メチルスルフィニルヘプチルイソチオシアネートや8-メチルスルフィニルオクチルイソチオシアネートの抽出に最適である。
【0028】
なお、上述の抽出液は抽出、濃縮の後、液液分配法、クロマトグラフィー、分子蒸溜、精留など、任意の方法によって精製される。精製手段の前後に、熱風乾燥、凍結乾燥などの乾燥手段を組み合わせてもよい。
【0029】
本発明において、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートは、具体的には、アリルイソチオシアネート、第2級ブチルイソチオシアネート、3-ブテニルイソチオシアネート、4-ペンテニルイソチオシアネート、5-ヘキセニルイソチオシアネート、5-メチルチオペンチルイソチオシアネート、6-メチルチオヘキシルイソチオシアネート、7-メチルチオヘプチルイソチオシアネート、8-メチルチオオクチルイソチオシアネートなどが挙げられる。
【0030】
本発明において、さらにω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート以外の成分を含んでもよく、これらの成分は、上述の方法により植物体から抽出する以外に、各種化学合成法により合成されてもよい。当業者は、当該分野で周知の方法によりこれらの成分を合成することができる。
【0031】
本発明において、「生理学的に許容し得る塩」は、生理学的効果を保持し、また生理学的か、若しくはそうでない理由で望ましくないものではない遊離塩基又は遊離酸の特性を保持する塩を意味する。本発明において、生理学的に許容し得る塩として、例えば、薬学的に許容される塩が挙げられる。
【0032】
<老化抑制剤>
本発明の老化抑制剤は、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含有し、老化を抑制できる。
【0033】
本発明において、「老化の抑制」とは、例えば、老化に伴う身体の生理学的変化を抑制することを意味し、例えば、老化を遅延すること、老化に関連する疾患又は症状と関係する体の状態を改善することが含まれる。老化に伴う身体の生理学的変化としては、例えば運動能力の低下を含む身体能力の低下が挙げられる。本発明の老化抑制剤は、老化を遅延することから、例えば、老化遅延剤ともいえる。
【0034】
本発明において、「老化に関連する疾患又は症状」とは、例えば、老化に伴って発症する疾患又は症状を意味し、具体的には、肺気腫(加齢に起因するものを含む);慢性閉塞肺疾患(COPD);骨粗しょう症;アルツハイマー;網膜変性症;メンケベルグ型動脈硬化等の動脈硬化;成長障害;早期死亡;骨密度低下;卵巣、子宮及び精巣の顕著な萎縮;小脳のプルキンエ細胞の脱落;胸腺の顕著な萎縮;胃壁、皮膚、気管、心臓弁、動脈の中膜等の軟部組織の石灰化;動脈の内膜の肥厚;皮膚の萎縮;毛根の減少;皮下脂肪の消失;運動能低下;異常歩行;成長ホルモン分泌顆粒の減少が挙げられる。
【0035】
本発明の老化抑制剤は、例えば、Calpain-1の活性化を抑制できる。したがって、本発明の老化抑制剤は、例えば、Calpain-1の活性化に起因する疾患又は症状と関係する体の状態を改善できる。Calpain-1の活性化に起因する疾患又は症状は、その疾患又は症状がCalpain-1の活性化に起因すればよく、例えば、前述の疾患又は症状が挙げられる。
【0036】
<軟部組織の石灰化抑制剤>
本発明の軟部組織の石灰化抑制剤は、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含有し、軟部組織の石灰化を抑制できる。
【0037】
本発明において、「軟部組織の石灰化」とは、例えば、軟部組織にカルシウム塩が沈着する現象あるいは沈着した状態を意味する。ここで、「軟部組織」とは、例えば、生体における骨格以外の支持組織のことを意味し、例えば、結合組織、血管、横紋筋、平滑筋、末梢神経組織等が含まれる。また、本発明において、「軟部組織の石灰化」は、「異所性石灰化」ともいえ、血管壁、内臓(例えば、心臓、肺、腎臓、肝臓等が挙げられる)等における石灰化を含む。
【0038】
本発明の軟部組織の石灰化抑制剤は、軟部組織の石灰化を抑制できることから、例えば、軟部組織の石灰化(異所性石灰化)に起因する疾患又は症状と関係する体の状態を改善できる。軟部組織の石灰化に起因する疾患又は症状は、その疾患又は症状が軟部組織の石灰化(異所性石灰化)に起因すればよく、例えば、肺気腫(喫煙に起因するものを含む)、動脈硬化(メンケベルグ型動脈硬化及び人工透析に伴う動脈硬化を含む)、肝硬変等が挙げられる。なお、本発明の軟部組織の石灰化抑制剤は、本発明の老化抑制剤と同様、例えば、Calpain-1の活性化を抑制でき、Calpain-1の活性化に起因する疾患又は症状と関係する体の状態を改善できる。
【0039】
<肺組織破壊抑制剤>
本発明の肺組織破壊抑制剤は、ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含有し、肺組織の破壊を抑制できる。
【0040】
本発明において、「肺組織破壊の抑制」とは、例えば、肺胞を含む肺に関連する組織の破壊の阻害、減少、遅延等を意味し、例えば、肺胞と肺胞とを仕切る肺胞壁の破壊の阻害、減少、遅延等を含む。肺組織の破壊は、例えば、Calpain-1の作用によるものを含む。
【0041】
本発明の肺組織破壊抑制剤は、肺組織破壊を抑制できることから、例えば、肺組織破壊に起因する疾患又は症状と関係する体の状態を改善できる。肺組織破壊に起因する疾患又は症状は、その疾患又は症状が肺組織破壊に起因すればよく、例えば、肺気腫(喫煙に起因するものを含む)が挙げられる。なお、本発明の肺組織破壊抑制剤は、本発明の老化抑制剤と同様、例えば、Calpain-1の活性化を抑制でき、Calpain-1の活性化に起因する疾患又は症状と関係する体の状態を改善できる。
【0042】
<老化抑制剤を有効成分及び/又は添加剤として含む、飲食品(機能性表示食品、特定保健食品)、医薬品、化粧料>
本発明の老化抑制剤は、飲食品(機能性表示食品、特定保健食品)、医薬品、化粧料に配合することができる。また、本発明の一態様は、老化抑制剤を有効成分及び/又は添加剤として含む、飲食品(機能性表示食品、特定保健食品)、医薬品、化粧料である。本発明の好ましい態様は、本発明の老化抑制剤を含む、内服用の医薬品(内服用の医薬部外品を含む)及び飲食品が挙げられる。
【0043】
本発明の老化抑制剤を飲食品に配合する場合、本発明の老化抑制剤の他に、甘味料、着色料、保存料、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤(防ばい剤)、イーストフード、ガムベース、香料、酸味料、調味料、乳化剤、pH調整剤、かんすい、膨脹剤、栄養強化剤、その他飲食品素材等を混合して、所望の形態に調製すればよい。本発明の老化抑制剤を含む飲食品の形態は、特に制限されるものではない。例えば、ゲル状剤、顆粒、細粒、カプセル、錠剤、粉末、液剤、半固形剤等のサプリメントタイプの食品;炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、アルコール飲料、果汁飲料、茶類、栄養飲料等の飲料;粉末ジュース、粉末スープ等の粉末飲料;ガム、タブレット、キャンディー、クッキー、グミ、せんべい、ビスケット、ゼリー等の菓子類;パン、麺類、シリアル、ジャム、調味料等が挙げられる。これらの食品は、例えば、一般の飲食品の他、栄養補助食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品等のニュートラシューティカルとしても使用できる。
【0044】
本発明の老化抑制剤を医薬品(医薬部外品を含む)に配合する場合、本発明の老化抑制剤の他に、必要に応じて、他の薬効成分、薬学的に許容される担体や添加剤等を任意に配合してもよい。薬学的に許容される担体及び添加剤としては、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤化剤、緩衝剤、保存剤、香料等が挙げられる。本発明の老化抑制剤を含む医薬品の形態は、特に制限されるものではない。例えば、注射剤、外用剤、吸入剤、座剤、フィルム剤、トローチ剤、液剤、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、点眼剤、洗眼剤、点鼻剤等が挙げられる。また、経口投与に適した形態(即ち、内服用医薬品)が好ましく、例えば、トローチ剤、液剤、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤等が挙げられる。これらの医薬品(医薬部外品を含む)は、老化抑制用の医薬品として使用される。
【0045】
本発明の老化抑制剤を化粧料(機能性化粧料を含む)又は外用医薬部外品に配合する場合、本発明の老化抑制剤に加えて、薬学的又は香粧学的に許容される担体(水、油性成分等)を配合して、所望の形態に調製することができる。化粧料としては、皮膚に適用可能である限り、その形態は、特に制限されるものではない。例えば、液状、乳液状、粉末状、固形状、懸濁液状、クリーム状、軟膏状、ムース状、顆粒状、錠剤状、ゲル状、ゼリー状、ペースト状、ジェル状、エアゾール状、スプレー状、リニメント剤、パック剤等の形態が挙げられる。これらの化粧料は、老化抑制作用を有する化粧料として使用される。
【0046】
更に、本発明の老化抑制剤は、飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)又は化粧料への添加剤としても使用でき、本発明の老化抑制剤を含有する飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)、化粧料によれば、本発明の老化抑制剤に起因する効果が得られる。本発明の老化抑制剤を飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)又は化粧料に配合することによって、老化抑制作用を付与することができる。本発明の老化抑制剤は、内服用の医薬品(内服用の医薬部外品を含む)及び飲食品への老化抑制剤機能の付与に使用することができる。
【0047】
本発明の老化抑制剤が添加剤として使用される場合も、配合される飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)、化粧料の形態等は限定されず、前述した飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)、化粧料の形態等が挙げられる。
【0048】
飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)、化粧料における本発明の老化抑制剤の配合量は特に制限されず、適用の目的(対象疾患や症状の種類等)、適用対象部位、適用者の性別や年齢、飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)又は化粧料の形態、これらの投与又は摂取方法や回数、嗜好等に応じて適宜設定される。従って、本発明の老化抑制剤の飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)又は化粧料への配合量は制限されないが、例えば、本発明の老化抑制剤は、成人1日当たりの適用量が、前記ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートが総量で0.1~100mg、好ましくは0.1~70mg、さらに好ましくは0.5~50mg、特に好ましくは0.5~30mgとなるよう配合することが例示される。また、前述したように、前記ω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートは本わさび、西洋わさび、キャベツ、クレソン、芽キャベツ、カリフラワー、大根、からみ大根、ナタネ、ブロッコリー、タカナ、カラシナ、カブ、及びハクサイ等のアブラナ科植物から抽出・精製処理して得ることをはじめ、これらの成分は植物から抽出・精製処理して得ることができ、この過程で得られる抽出物そのものを本発明の老化抑制剤としてもよく、この抽出物そのものを本発明の老化抑制剤とする場合には、飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)、化粧料に対して、抽出物を成人1日当たりの適用量として、0.01~1.0g、好ましくは0.01~0.7g、さらに好ましくは0.05~0.5g、特に好ましくは0.05~0.3gの範囲で配合することが望ましい。
【0049】
<軟部組織の石灰化抑制剤を有効成分及び/又は添加剤として含む、飲食品(機能性表示食品、特定保健食品)、医薬品、化粧料>
本発明の軟部組織の石灰化抑制剤は、本発明の老化抑制剤と同様にして、飲食品(機能性表示食品、特定保健食品)、医薬品、化粧料に配合することができる。また、本発明の一態様は、軟部組織の石灰化抑制剤を有効成分及び/又は添加剤として含む、飲食品(機能性表示食品、特定保健食品)、医薬品、化粧料である。本発明の好ましい態様は、本発明の軟部組織の石灰化抑制剤を含む、内服用の医薬品(内服用の医薬部外品を含む)及び飲食品が挙げられる。
【0050】
<肺組織破壊抑制剤を有効成分及び/又は添加剤として含む、飲食品(機能性表示食品、特定保健食品)、医薬品、化粧料>
本発明の肺組織破壊抑制剤は、本発明の老化抑制剤と同様にして、飲食品(機能性表示食品、特定保健食品)、医薬品、化粧料に配合することができる。また、本発明の一態様は、肺組織破壊抑制剤を有効成分及び/又は添加剤として含む、飲食品(機能性表示食品、特定保健食品)、医薬品、化粧料である。本発明の好ましい態様は、本発明の組織破壊抑制剤を含む、内服用の医薬品(内服用の医薬部外品を含む)及び飲食品が挙げられる。
【0051】
<医薬用途>
本発明の老化抑制剤等は、例えば、老化に関連する疾患又は症状の予防及び/又は治療に使用することができる。老化に関連する疾患又は症状とは、例えば、前述の通りである。本発明の老化抑制剤は、特に、肺気腫又は動脈硬化の予防及び/又は治療に使用することに適している。
【0052】
本発明の老化抑制剤等は、前述のように、Calpain-1の活性化を抑制できることから、例えば、Calpain-1の活性化に起因する疾患又は症状の予防及び/又は治療に使用することができる。Calpain-1の活性化に起因する疾患又は症状とは、例えば、前述の通りである。
【0053】
本発明の軟部組織の石灰化抑制剤は、本発明の老化抑制剤と同様、老化に関連する疾患又は症状の予防及び/又は治療に使用することができる。
【0054】
本発明の軟部組織の石灰化抑制剤は、前述のように、軟部組織の石灰化(異所性石灰化)を抑制できることから、例えば、軟部組織の石灰化(異所性石灰化)に起因する疾患又は症状の予防及び/又は治療に使用することができる。軟部組織の石灰化(異所性石灰化)に起因する疾患又は症状とは、例えば、前述の通りである。
【0055】
本発明の肺組織破壊抑制剤は、本発明の老化抑制剤と同様、老化に関連する疾患又は症状の予防及び/又は治療に使用することができる。
【0056】
本発明の肺組織破壊抑制剤は、前述のように、肺組織破壊を抑制できることから、例えば、肺組織破壊に起因する疾患又は症状の予防及び/又は治療に使用することができる。肺組織破壊に起因する疾患又は症状とは、例えば、前述の通りである。
【0057】
<表示等>
本発明において、本発明の老化抑制剤に係る商品、商品の包装、商品に係る情報、又は商品に係る広告(例えば、取引書類、取扱い説明書、添付文書、通信販売のカタログやインターネットサイト等)には、「アンチエイジング」、「加齢に伴う病気の予防」、又は「若さを保つ」等と表示をすることもでき、更にそれらに類似する表示をすることもできる。
【0058】
また、本発明の軟部組織の石灰化抑制剤は、「喫煙による悪影響をおさえる」、「人工透析における悪影響をおさえる」、又は「異常な石灰を抑制する」ために使用することができる。
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0060】
<ワサビ含有物6-MSITCの老化モデルマウスに対する老化抑制効果:α-klotho KOマウス>
α-klothoヘテロ欠損マウス同士の交配により出生してきたα-klotho KOマウスを使用した。α-klotho KOは、3週齢直前のマウスから尾の一部を採取し、genotypingを行い、PCRにより決定した。飼育は8:00-20:00の明暗周期で行い、餌、水は自由に摂取させた。41.7 ppmの6-MSITCを混水投与した。control群としては水を飲水させた。6-MSITC投与4-5週間後のマウスに麻酔後、心臓から4%PFAで還流固定を行った。還流固定後、採取した臓器を4%PFAで浸漬固定(4℃、overnight)後にPBSで洗浄し、パラフィン切片の作製、H&E染色、コッサ染色を行った。なお、パラフィン切片の作製から染色までは京都大学解剖センターに依頼した。
【0061】
水又は6-MSITCを投与したα-klotho KOマウスの組織学的解析の結果を図1に示す。7-8週齢時のα-klotho KOマウスの表現型として、大動脈の石灰化、肺気腫等が観察されるが、カルシウム沈着を検出するコッサ染色の結果より、6-MSITCを投与したマウスでは大動脈の石灰化が抑制されていた。また、H&E染色の結果より、6-MSITCを投与しなかったマウスでは、肺胞と肺胞とを仕切る肺胞壁の破壊による肺胞の拡大が見られ、肺気腫が生じていたのに対し、6-MSITCを投与したマウスでは、肺胞の拡大が見られず、肺気腫が抑制されていた。これらの結果は、6-MSITCが、老化モデルマウスにおける老化症状を抑制することを示している。
【実施例2】
【0062】
<ワサビ含有物6-MSITCの肺気腫及び異所性石灰化抑制効果:Wild typeマウス及びα-klotho KOマウス>
α-klothoヘテロ欠損マウス同士の交配により出生してきたα-klotho KOマウス及びWild typeマウスを使用した。それぞれ、3週齢直前のマウスから尾の一部を採取し、genotypingを行うことで、遺伝子型を決定した。6-MSITC投与を3-4週間とした以外は、実施例1と同様にして、α-klotho KOマウス及びWild typeマウスを処置し、パラフィン切片の作製、H&E染色、コッサ染色を行った。パラフィン切片の作製、H&E染色、コッサ染色は、以下の通り行った。まず、包埋したパラフィン切片をミクロトーム(RM2235、Leica BIOSYSTEMS)で4μmに薄切後、スライドガラスに貼り付け、40℃で1~2時間インキュベーションした。パラフィン切片を、キシレン漕に10分間浸水を3回、100%エタノール漕に10分間浸水を3回、90%エタノール漕に10分間浸水を1回、80%エタノール漕に10分間浸水を1回、70%エタノール漕に10分間浸水を1回ずつ行うことで、脱パラフィンを行った。HE染色では、脱パラフィン後の切片を蒸留水で切片に水がなじむまで水洗後に、マイヤーヘマトキシリン液で10分間浸水後に、37℃の水で軽く水洗し、37℃の水で5分間浸水した。70%エタノールになじませ、1%エオシン漕に1分30秒間浸水した。100%エタノール漕で10回出没を4回行った後に、キシレン漕で10回出没を4回行った。キシレンで透徹した切片をマリノール(武藤化学、品番20092)で封入し、顕微鏡で観察した。コッサ染色では、脱パラフィン後の切片を蒸留水で切片に水がなじむまで水洗後に、5%硝酸銀溶液に一晩浸水した。蒸留水で水洗後に5%チオ硫酸ナトリウム溶液に2~3分浸水させた。蒸留水で5分間水洗後、ケルンエヒトロート溶液(ヌクレアファストレッド 0.1%, 硫酸アルミニウム 5%))に5分浸水した。蒸留水で5分間水洗後、100%エタノール漕で10回出没を4回行った後に、キシレン漕で10回出没を4回行った。キシレンで透徹した切片をマリノール(武藤化学、品番20092)で封入し、顕微鏡で観察した。
【0063】
水又は6-MSITCを投与したWild typeマウス及びα-klotho KOマウスの、肺及び腎臓の組織学的解析の結果を、図2-1及び図2-2にそれぞれ示す。6-7週齢時のα-klotho KOマウスの表現型として、肺気腫、腎臓の石灰化等が観察されるが、カルシウム沈着を検出するコッサ染色の結果(図2-2)より、6-MSITCを投与したα-klotho KOマウスでは腎臓の石灰化が抑制されていた。(腎臓の画像において、矢印で示す茶褐色部分は石灰化を示す。)また、H&E染色の結果(図2-1)より、6-MSITCを投与しなかったα-klotho KOマウスでは、肺胞と肺胞とを仕切る肺胞壁の破壊による肺胞の拡大が見られ、肺気腫が生じていたのに対し、6-MSITCを投与したα-klotho KOマウスでは、肺胞の拡大が見られず、肺気腫が抑制されていた。なお、Wild typeは、実験上のコントロールとして示している。これらの結果は、6-MSITCが、老化モデルマウスにおける老化症状を抑制することを示している。また、これらの結果は、6-MSITCが肺気腫及び異所性石灰化抑制効果を有することを示している。
【実施例3】
【0064】
<ワサビ含有物6-MSITCのCalpain-1活性化抑制効果:α-klotho KOマウス>
ヒト老化様症状の病態モデルマウスとして、α-klotho KOマウスを使用した。飼育は8:00-20:00の明暗周期で行い、餌、水は自由に摂取させた。α-klothoヘテロ欠損マウスは自家繁殖を行い、2週齢直前に尾を採取しPCR法を用いたGenotypingにより、α-klotho KOマウスを選別した。2週齢の雄性α-klotho KOマウスに6-MSITC 5 mg/kgの腹腔内投与を6日間連続で行った。control群としては生理食塩水(大塚製薬、大塚生食注)を投与した。肺組織単離後に、肺重量の50倍量のProtease inhibitor cocktail含有RIPA buffer(ナカライテスク、型番:08714-04)を加え、バイオマッシャーSP(NIPPI、型番:893163)にてホモジナイズした。ホモジナイズ後、氷上で30分間インキュベートし、16,000rpm、4℃、10分間で遠心を行い、上清を回収した。タンパク定量はPierce BCA protein assay kit(THERMO FISHER SCIENTIFIC、型番:23227)で行った。タンパク定量後、sample bufferを加え95℃で5分間インキュベーションした肺組織抽出液をwestern blotサンプルとした。7.5%又は4-20%gradientゲルでSDS-PAGEを行い、タンパク分離した。膜を転写後、wash(5分間x3)、5%スキムミルクで1時間ブロッキング、洗浄(10分間x2、5分間x1)、1次抗体としてAnti-Calpain-1 large subunit antiobody(希釈倍率1:1000、CELL SIGNALING TECHNOLOGY、型番:#2556)、Anti-Calpastatin antibody(希釈倍率1:1000、CELL SIGNALING TECHNOLOGY、型番:#4146)、Anti-Alpha fodrin antibody (希釈倍率1:1000、ABCAM、型番:AB11755)、Anti-b-actin antibody(希釈倍率1:1000、 CELL SIGNALING TECHNOLOGY、型番:#4967)を用い、4℃、overnightで反応させた。1次抗体反応後、洗浄(10分間x2、5分間x1)、2次抗体としてECL-anti-rabbit IgG HRP抗体(希釈倍率1:10000、GE HEALTHCARE、型番:LNA934V/AG)を用い室温で1時間反応させた。wash(10分間x3)後にECL Prime Detection Reagent(GE HEALTHCARE、型番:RPN2236)と反応後、富士メディカルフィルムプロセサーFPM100にてバンドを検出した。
【0065】
肺組織でのCalpain-1活性化を、前記肺組織抽出液についてwestern blotでのバンドパターンを解析することにより評価した。図3に示すように、α-klotho KO/Control群とα-klotho KO/6-MSITC群とを比較すると、α-klotho KO/6-MSITC群では、α-klotho KO/Control群に対し、(I)Calpain-1の活性化を示すCalpain-1のcleavageバンド(Active form)の発現の抑制、(II)Calpain-1の基質である細胞骨格のタンパク質α-II spectrin(α-fodrinの別名表記)分解産物を示すα-II spectrinのcleavageバンドの減少、(III)Calpain-1の内在性阻害剤であるCalpastatinのより多くの残存が見られた。これらの結果は、6-MSITCはCalpain-1活性化を抑制することにより、肺組織損傷を抑制していることを示している。
【実施例4】
【0066】
<ワサビ含有物6-MSITCのCalpain-1活性化抑制効果:Wild typeマウス及びα-klotho KOマウス>
α-klothoヘテロ欠損マウス同士の交配により出生してきたα-klotho KOマウス及びWild typeマウスを使用した。2週齢直前に尾を採取しPCR法を用いたGenotypingにより、α-klotho KOマウス及びWild typeマウスを選別した。実施例3と同様にして、α-klotho KOマウス及びWild typeマウスを処置し、それぞれの肺組織抽出液について、western blotによる解析を行った。
【0067】
図4に、western blotの結果を示す。図4Aは、western blotのバンドバターンを示す画像である。図4BおよびCは、Calpain-1及びα-II spectrinについて、インタクトのバンド強度に対するcleavageバンド強度の割合を示すグラフである。バンド強度は、画像解析ソフトであるImageJにより定量化した。図4A~Cに示す通り、Wildtype/Control群(n=3)とα-klotho KO/Control群(n=3)を比較すると、α-klotho KO/Control群では、I)Calpain-1の活性化を示すCalpain-1のcleavageバンド(Active form)の発現の亢進、(II)Calpain-1の基質である細胞骨格のタンパク質α-II spectrin(α-fodrinの別名表記)分解産物を示すα-II spectrinのcleavageバンドの増加がみられ、Calpain-1活性化による肺組織細胞骨格の分解がみられた。一方、α-klotho KO/6-MSITC群(n=3)では、α-klotho KO/Control群に対し、(I)Calpain-1の活性化を示すCalpain-1のcleavageバンド(Active form)の発現の抑制、(II)Calpain-1の基質である細胞骨格のタンパク質α-II spectrin(α-fodrinの別名表記)分解産物を示すα-II spectrinのcleavageバンドの減少がみられた。これらの結果は、6-MSITCはCalpain-1活性化を抑制することにより、肺組織損傷を抑制していることを示している。
【実施例5】
【0068】
<ワサビ含有物6-MSITCの老化抑制効果:SAMP1マウス>
老化マウスモデルとして、SAM(Senescence-Accelerated Mouse)P1を使用した。飼育は8:00-20:00の明暗周期で行い、餌、水は自由に摂取させた。17週齢のSAMP1マウスを日本SLCより購入し、20週齢のSAMP1マウスに41.7 PPMの6-MSITCを混水投与した(6-MSITC群)。Control群としては水を投与した。64週齢時に運動テストとして協調運動、筋力、平衡感覚を評価するビームバランステスト(Beam balance test)を行った。ビームバランステスト装置として、地面より高さ50cmの位置に地面と平行に直径24cm、長さ95cmの棒を設置し、棒の片端にゴール地点として退避場所を設置し反対側にスタート地点を設定した。そして、スタート地点からマウスが80cmを移動するのに要した時間を測定することにより運動能力を評価した。1匹のマウスにつき3回テストを行い、平均値をそのマウスの走行時間値とした。なお、マウスは事前にスタート地点から退避場所に移動するように数日間訓練したマウスを用いた。
【0069】
前述の通り、協調運動、筋力、平衡感覚を評価するビームバランステストを行った結果を表1及び図5に示す。表1及び図5に示すように、Control群(n=3)と比べ6-MSTIC投与群(n=3)では、足場が不安定なスタート地点から安全な退避場所に移動する際の移動時間が早かったことから、6-MSITC投与したマウスでは運動能力の低下が抑制・遅延されていることが示された。運動能力の低下は老化で顕著に起こる現象であるため、この結果は、6-MSITCが老化の進展を抑制することを示している。
【0070】
【表1】
【実施例6】
【0071】
<ワサビ含有物6-MSITCの老化抑制効果:SAMP1マウス>
老化マウスモデルとして、SAM(Senescence-Accelerated Mouse)P1を使用した。飼育は8:00-20:00の明暗周期で行い、餌、水は自由に摂取させた。17週齢のSAMP1マウスを日本SLCより購入し、20週齢のSAMP1マウスに41.7 PPMの6-MSITCを混水投与した(6-MSITC群)。Control群としては水を投与した。77週齢時のマウスの外見評価後、心臓から4%PFAで還流固定を行った。還流固定後、採取した臓器を4%PFAで浸漬固定(4℃、overnight)後にPBSで洗浄し、パラフィン切片の作製、H&E染色を行った。パラフィン切片の作製、H&E染色は、以下の通り行った。まず、包埋したパラフィン切片をミクロトーム(RM2235、Leica BIOSYSTEMS)で4μmに薄切後、スライドガラスに貼り付け、40℃で1~2時間インキュベーションした。パラフィン切片を、キシレン漕に10分間浸水を3回、100%エタノール漕に10分間浸水を3回、90%エタノール漕に10分間浸水を1回、80%エタノール漕に10分間浸水を1回、70%エタノール漕に10分間浸水を1回ずつ行うことで、脱パラフィンを行った。脱パラフィン後の切片を水洗後、マイヤーヘマトキシリン液で10分間浸水後に、37℃の水で軽く水洗し、37℃の水で5分間浸水した。70%エタノールになじませ、1%エオシン漕に1分30秒間浸水した。100%エタノール漕で10回出没を4回行った後に、キシレン漕で10回出没を4回行った。キシレンで透徹した切片をマリノール(武藤化学、品番20092)で封入し、顕微鏡で観察した。
【0072】
6-MSITCを投与したSAMP1マウスの皮膚の外見所見と組織学的解析の結果を図6及び図7に示す。SAMP1マウスは週齢の進行に伴い目周囲に糜爛がみられる。図6に示す通り、SAMP1/Control群マウスは3匹中3匹で糜爛を呈していたが、SAMP1/6-MSITC群マウスでは2匹中1匹が糜爛を呈しており、糜爛を呈していないマウスの外見は正常であった。また、皮膚の組織学的所見として、図7に示す通り、SAMP1/Control(Vehicle)群マウスと比較して、SAMP1/6-MSITC群マウスでは脂肪組織の厚さならびに構造が保たれていた。これらの結果は、6-MSITCが老化の進展を抑制することを示している。
【実施例7】
【0073】
<ワサビ含有物6-MSITCのCalpain-1活性化抑制効果>
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの病態モデルマウスとして、C57/BL10-mdxマウスを使用した。Wildtypeマウスとして遺伝的backgroundであるC57BL/10マウスを使用した。飼育は8:00-20:00の明暗周期で行い、餌、水は自由に摂取させた。mdxマウスは自家繁殖を行い、C57BL/10マウスは日本SLCより購入した。4週齢の雄性mdxマウス、雄性C57BL/10マウスに125.1ppm 6-MSITCを4週間混水投与した。control群としては水を飲水させた。腓腹筋単離後に、筋重量の50倍量のProtease inhibitor cocktail含有RIPA buffer(ナカライテスク、型番:08714-04)を加え、バイオマッシャーSP(Nippi、型番:893163)にてホモジナイズした。ホモジナイズ後、氷上で30分間インキュベートし、16,000rpm、4℃、10分間で遠心を行い、上清を回収した。タンパク定量はPierce BCA Protein Assay Kit(THERMO FISHER SCIENTIFIC、型番:23227)で行った。タンパク定量後、sample bufferを加え95℃で5分間インキュベーションした筋抽出液をwestern blotサンプルとした。7.5%又は4-20%gradientゲルでSDS-PAGEを行い、タンパク分離した。膜を転写後、wash(5分間x3)、5%スキムミルクで1時間ブロッキング、洗浄(10分間x2、5分間x1)、1次抗体としてCalpain-1 Large subunit antiobody(希釈倍率1:1000、CELL SIGNALING TECHNOLOGY、型番:#2556)、calpastatin antibody(希釈倍率1:1000、CELL SIGNALING TECHNOLOGY、型番:#4146)、b-Actin antibody(希釈倍率1:1000、 CELL SIGNALING TECHNOLOGY、型番:#4967)を用い、4℃、overnightで反応させた。1次抗体反応後、洗浄(10分間x2、5分間x1)、2次抗体としてECL-anti-rabbit IgG HRP抗体(希釈倍率1:10000、GE HEALTHCARE、型番:LNA934V/AG)を用い室温で1時間反応させた。wash(10分間x2、5分間x1)後にECL Prime Detection Reagent(GE HEALTHCARE、型番:RPN2236)と反応後、富士メディカルフィルムプロセサーFPM100にてバンドを検出した。
【0074】
腓腹筋抽出液でのCalpain-1活性化をwestern blotでのバンドパターンより評価したところ、図8に示すように、mdx/control群とmdx/6-MSITC群を比較すると、mdx/6-MSITC群では完全長(intact)のCalpain-1が有意に残存し、かつcleavageバンドの減少がみられた。これは、6-MSITC投与によりCalpain-1活性化が抑制(p=0.020)されていることを示している。また、Calpain-1の内在性阻害物質であるCalpastatin発現量を評価したところ、図9に示すように、mdx/control群とmdx/6-MSITC群を比較すると、mdx/6-MSITC群ではCalpastainが多く残存していた(p=0.0049)。CalpastatinはCalpain-1の基質として作用することが知られていることから、この結果は、Calpain-1が基質を分解していないことを示している。なお、有差検定はmdx/control群とmdx/6-MSITC群間でStudent’s t-testを行った。有意差は*p<0.05、**p<0.01とする。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のω-メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネート又はその生理学的に許容される塩を含有する老化抑制剤、軟部組織の石灰化抑制剤、及び肺組織破壊抑制剤は、飲食品、医薬品又は化粧料に使用することができる。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9