(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】網膜神経変性疾患の眼局所治療のためのジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/403 20060101AFI20220510BHJP
A61K 31/4985 20060101ALI20220510BHJP
A61K 38/26 20060101ALI20220510BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220510BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20220510BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220510BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220510BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220510BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220510BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220510BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220510BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20220510BHJP
A61K 31/40 20060101ALN20220510BHJP
A61K 31/522 20060101ALN20220510BHJP
A61K 31/513 20060101ALN20220510BHJP
A61K 31/496 20060101ALN20220510BHJP
A61K 31/4162 20060101ALN20220510BHJP
A61K 31/519 20060101ALN20220510BHJP
【FI】
A61K31/403
A61K31/4985
A61K38/26
A61P27/02
A61P27/06
A61P9/10
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K9/107
A61K9/06
A61K9/10
A61K45/00 ZNA
A61K31/40
A61K31/522
A61K31/513
A61K31/496
A61K31/4162
A61K31/519
(21)【出願番号】P 2018555725
(86)(22)【出願日】2017-04-28
(86)【国際出願番号】 EP2017060234
(87)【国際公開番号】W WO2017186934
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-04-23
(32)【優先日】2016-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512274953
【氏名又は名称】フンダシオ オスピタル ウニベルシタリ バル デブロン-インスティテュート デ レセルカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シモ カノンジェ,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】エルナンデス パスクアル,クリスティーナ
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-518002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0317856(US,A1)
【文献】特表2012-526524(JP,A)
【文献】特表2011-510986(JP,A)
【文献】Biomedicine & Aging Pathology (2013) vol.3, issue 2, p.65-73
【文献】 Biochim. Biophys. Acta (2015) vol.1852, issue 12, p.2618-2629
【文献】World J. Diabetes (2015) vol.6, issue 6, p.840-849
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/4985
A61K 31/403
A61P 27/02
A61P 27/06
A61P 9/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シタグリプチン及びサキサグリプチンからなる群から選択されるジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤又はその薬学的に許容される塩を含む、糖尿病性網膜症(DR)、加齢黄斑変性、緑内障、及び網膜色素変性症からなる群から選択される網膜神経変性疾患の眼局所治療及び/又は予防に使用するための医薬。
【請求項2】
網膜ジペプチジルペプチダーゼ-4の阻害による、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
前記網膜神経変性疾患が糖尿病性網膜症及び関連する微小血管障害である、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
前記糖尿病性網膜症の初期段階の眼局所治療に使用される、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
有効量のジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩及びこれらの混合物を、局所的な薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体と共に含み、前記ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤が、シタグリプチン及びサキサグリプチンからなる群から選択される、糖尿病性網膜症(DR)、加齢黄斑変性、緑内障、及び網膜色素変性症からなる群から選択される網膜神経変性疾患の眼局所治療及び/又は予防のための局所用医薬組成物又は獣医学的眼局所用組成物。
【請求項6】
有効量の哺乳動物グルカゴン様ペプチド-1、リラグルチド、エキセナチド、リキシセナチド、又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩及びこれらの混合物からなる群から選択される化合物を更に含む、請求項5に記載の局所用医薬組成物又は獣医学的眼局所用組成物。
【請求項7】
溶液、クリーム、ローション、軟膏、乳剤、及び懸濁剤からなる群から選択される、請求項5~
6のいずれか1項に記載の局所用医薬組成物又は獣医学的局所用組成物。
【請求項8】
点眼液である、請求項5~
7のいずれか1項に記載の局所用医薬組成物又は獣医学的局所用組成物。
【請求項9】
徐放性組成物である、請求項5~
8のいずれか1項に記載の局所用医薬組成物又は獣医学的眼局所用組成物。
【請求項10】
前記糖尿病性網膜症の初期段階の眼局所治療及び/又は予防に使用される、請求項5~
9のいずれか1項に記載の局所用医薬組成物又は獣医学的眼局所用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年4月29日に出願された欧州特許出願第16382190.3号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、部分的又は完全な失明につながり得る眼疾患のための医学的アプローチの分野に関する。本発明は、眼に局所施用されるペプチド-ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤の有用なファミリーを提供する。
【背景技術】
【0003】
網膜神経変性疾患は、進行性の神経細胞喪失を特徴とする網膜状態を指す。糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性、緑内障、及び網膜色素変性症は、神経変性が本質的な役割を果たす網膜疾患と考えられている。
【0004】
これらの疾患、その重大な部位並びに考えられる保護方法及び回復につながる方法の詳細な分析を、非特許文献1から引用することができる。
【0005】
糖尿病性網膜症(DR)は糖尿病の最も一般的な合併症であり、先進国の就労年齢者の失明の主因のままである。レーザー光凝固、コルチコステロイド、又は抗VEGF剤の硝子体内注射等のDRの現在の治療は、疾患のあまりに進行した段階で必要とされ、重大な副作用を伴う。
【0006】
DRは古典的に網膜の微小循環疾患であると考えられてきた。しかしながら、非特許文献2を代表してSimoらから推論され得るように、網膜神経変性がDRで生じる微小循環異常に関与するDRの発病における初期イベントであることを示唆するいくらかのデータが存在する。DRを治療するためのアプローチに言及している他の参考文献は、非特許文献3及び非特許文献4に開示されている。
【0007】
DRの場合、神経変性(有効な神経細胞の喪失)は疾患の初期段階で起こり、色彩判別とコントラスト感度の両方の喪失等の機能的異常を生じる。これらの変化は、2年未満の糖尿病期間でさえも、即ち、眼科検査で微小血管病変が検出され得る前でさえも、糖尿病患者における電気生理学的試験によって検出することができる。更に、遅延多焦点ERG(網膜電図検査)陰的時間(mfERG-IT)は、初期微小血管異常の発生を予測する。更に、神経網膜変性は、微小血管障害過程及び血液網膜関門の破壊(DRの発病における重要な要素)に関与するいくつかの代謝及びシグナル伝達経路を開始及び/又は活性化する。
【0008】
血液網膜関門(BRB)破壊(又は崩壊)は、光干渉断層撮影(OCT)によって評価することができる。
【0009】
これらの病態に関連する網膜神経変性疾患又は神経変性の初期段階は、網膜浮腫及び網膜血管新生につながる微小循環障害等の進行病変を予防するが、現在治療されていない。従って、特にDRの初期段階では、治療が施されず、患者の標準的フォローアップが実施される。
【0010】
他方、これらの網膜神経変性疾患、特にDRの初期段階が治療標的である場合、レーザー光凝固又は硝子体内注射などの積極的治療を推奨することは考えられない。今日まで、点眼剤の使用は、DRの予防又は抑止に向けた薬物投与のための優れた経路とは考えられていなかった。これは、これらの点眼剤が非特許文献5に明らかにされるように、眼の後区(即ち、硝子体及び網膜)に到達しないと一般的に思われているためである。角膜に投与された化合物が網膜に到達することができるというわずかな証拠が存在するが、それらは孤立した症例を表し、低分子量の化合物、例えば非特許文献6で言及されるものに相当する。Aielloらは、2つの異なるアッセイで、新血管形成及び網膜浮腫に関与するキナーゼの阻害剤として作用する能力を有するピロリジン誘導化合物(TG100572と命名、4-クロロ-3-(5-メチル-3-{[4-(2-ピロリジン-1-イルエトキシ)フェニル]アミノ}-1,2,4-ベンゾトリアジン-7-イル)フェノール))が、一旦点眼剤の形態で投与すると、網膜内の標的に到達することができたことを示している。
【0011】
しかしながら、角膜又は強膜を通過することによって網膜に到達することは、主にこの組織の解剖学的性質のために、困難で予測不可能である。局所的薬物施用は、多くの前区障害の治療に有用であるが、眼の独特の解剖学的、生理学的及び生化学的障壁のために、治療濃度の薬物の眼の後区への送達では非効率的であると考えられている。
【0012】
細胞層を通して流体及び溶質を移動させるための2つの主要経路が存在する:経細胞経路(エネルギーコストを伴う能動的イオン輸送)及び傍細胞経路(主に勾配濃度及び透過による受動的拡散に基づく)。角膜は3つの主要な複合層:上皮、間質、及び内皮に分けられる。角膜上皮は親油性であり、重層扁平細胞からなり、5~7細胞層厚さである。角膜上皮の直後には、コラーゲン性ボーマン膜がある。ボーマンの膜の後ろには、親水性の層状間質が見られる。これは親水性であるため、密着結合複合体を欠くにもかかわらず、間質は親油性分子に対する強い障壁となる。間質の隣には、デスメ膜の単一細胞層及び角膜の最深層である内皮によって分泌される細胞外マトリックスがある。角膜内皮は、厚さが単一の立方状細胞層であり、房水から角膜への栄養素の漏出を許容し、無血管角膜から前房に水を輸送するのを担う親油性領域である。従って、例示されるように、角膜の親油性-親水性-親油性の性質が、薬物透過性の課題の主要な原因である。
【0013】
更に、薬物の親油性及び親水性の性質(時には単一薬物中に両方が存在する)も、更なる課題を引き起こす。そのため、ある薬物は層の1つを通して容易に浸透することができるが、他を通して妨害され得る。この点で、化合物の分子量だけが限界速度であるのではなく、構造の各々における疎水性、親油性、溶解度等の他の特徴も制限因子である(非特許文献7参照)。これらのパラメータは全て、化合物が、低分子量(180Da未満)であっても、角膜を通って内部眼部分(硝子体液又は網膜)に到達することをとても困難にする。従って、例えある薬物が通過することができても、これは同じ分子量を有する別の薬物が眼の内部に到達することができることを意味するものではない。
【0014】
同様に、網膜に達するために薬物に対する強膜及び結膜の透過性が非常に複雑であり、薬物の性質の特徴の多くに強く依存する。特に、これらの困難に関しては、非特許文献8の広範な研究が挙げられる。
【0015】
これらの理由全てのために、網膜の疾患を治療する眼科用(眼内への局所的)組成物は、現在市販されていない。
【0016】
DPP-4阻害剤は、2型糖尿病の人に処方されている、グリプチン(gliptin)としても知られている比較的新しいクラスの経口糖尿病薬である。これらは、インクレチン(主にグルカゴン様ペプチド-1、GLP-1)と呼ばれる消化管ホルモンの群を破壊する酵素であるDPP-4の作用を遮断することによって作用する。インクレチンは、インスリンが必要とされるとき(例えば摂食後)にインスリンの産生を刺激し、必要とされないとき(例えば消化中)に肝臓によるグルカゴンの産生を減少させるのに役立つ。
【0017】
アデノシンデアミナーゼ複合体化タンパク質2又はCD26(分化抗原群26)としても知られるジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4又はDPP-IV)は、ヒトにおいてDPP4遺伝子によってコードされるタンパク質である。これは、第2のNH2末端位置にプロリン又はアラニンを有するペプチドに対する高い選択性を有する高度に保存されたペプチダーゼである。この遺伝子は、766アミノ酸のII型膜貫通タンパク質をコードし、これは、N末端に位置する単一疎水性セグメントによって脂質二重層に固定され、6アミノ酸の短い細胞質尾部を有する(非特許文献9参照)。CD26の細胞外部分は、グリコシル化ドメイン、システインリッチドメイン、及び触媒ドメインを含む。DPP-4は、最後から2番目の位置にプロリン又はアラニンを含む(Xaa-Pro-又はXaa-Ala-)タンパク質及びオリゴペプチドからN末端ジペプチドを優先的に切断する(非特許文献10参照)。DPP-4の基質には、多数の神経ペプチド(即ち、サブスタンスP)、ホルモン(即ち、GLP-1、GLP-2、インスリン成長因子-1、神経ペプチド-Y、ペプチドYY、成長ホルモン放出ホルモン、エリスロポエチン)、及びケモカイン(即ち、IP-10、RANTES、間質細胞由来因子-1)が含まれる(非特許文献11参照)。
【0018】
一般的な作用機序にもかかわらず、様々なDPP-4阻害剤(DI)の薬物動態にはかなりの不均一性が存在する。従って、これらは、半減期、生物学的利用能、代謝、及び排泄経路の差異を示す。いくつかのDPP-4阻害剤は競合的酵素阻害を通して作用する(シタグリプチン及びアログリプチン)が、他は基質酵素遮断薬である(サキサグリプチン及びビルダグリプチン)(非特許文献12参照)。
【0019】
糖尿病は、高血糖を特徴とする慢性疾患の群である。糖尿病性合併症を予防するためには、血糖低下剤を用いて高血糖を低下させることが必須である。DPP-4阻害剤等の抗糖尿病薬の投与は、疾患の主因又は原因、特に血液中の高レベルのグルコースが最終的に改善されるので、DR症状を改善又は減弱することができる。
【0020】
この点に関して、糖尿病性網膜症に対するゲミグリプチン(DPP-4阻害剤)の積極的な役割を示す1つの文書は、非特許文献13である。Jungらは、糖尿病マウス(db/db)に経口投与されたゲミグリプチンが、これらのマウスにおいて網膜周皮細胞のアポトーシス及び血管漏出を改善することができることを開示している。
【0021】
しかしながら、現在、これらの阻害剤の網膜に対する直接的に有益な効果に関するデータはない。これに関して、DPP-4阻害剤は、血液脳関門を通過しないことに更に留意すべきである。血液脳関門とBRBが非常に類似であることを考えると、それらがBRBを通過しないことも広く推定され、可能性が高い。DPP-4阻害剤のいくらかの量がBRBを通過することができるほとんど可能性のないケースでは、治療濃度で網膜に到達するために高用量が必要となり、従って全身性有害効果の可能性が増す。
【0022】
特許文献1で、驚くべきことに、それらの高分子量網膜にもかかわらず、いくつかのGLP-1アゴニスト及びGLP-1自体の局所的眼投与が、糖尿病性網膜症の初期段階で起こる神経変性過程を予防し得ることが分かった。この文書で、本発明者らはまた、神経変性が本質的な役割を果たす他の網膜疾患が、これらの化合物の局所的眼投与(点眼剤)により治療及び/又は予防され得るという証拠を提供した。
【0023】
現在、網膜神経変性疾患の代替治療が必要とされている。DR及び関連する網膜微小血管障害又は損傷の特定の場合では、背景網膜症又は非増殖性DR及び神経網膜の損傷(神経細胞の喪失をもたらす)からの保護のための代替治療。従って、神経変性が始まっているように見えたら、疾患の初期段階のための新しい薬理学的治療が必要である。DR及び他の網膜神経変性の早期治療は、レーザー光凝固、コルチコステロイド、又は抗VEGF剤の硝子体内注射、あるいは外科的介入等の積極的療法を必要とする進行段階への進行を減少させるのに有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】国際公開第2014/131815号パンフレット
【非特許文献】
【0025】
【文献】Schmidtら、Neurodegenerative Diseases of the Retina and Potential for the Protection and Recovery」、Current Neuropharmacology-2008、第6巻、164~178頁
【文献】Simoら、European Consortium for Early Treatment of Diabetic Retinopathy(EUROCONDOR).「Neurodegeneration is an early event in diabetic retinopathy:therapeutic implications」、Br.J.Ophthalmol.-2012、第96巻、1285~1290頁
【文献】Simo R、Hernandez C、「Novel approaches for treating diabetic retinopathy based on recent pathogenic evidence」、Prog Retin Eye Res-2015、第48巻、160~80頁
【文献】Simo R、Hernandez C;European Consortium for the Early Treatment of Diabetic Retinopathy(EUROCONDOR).「Neurodegeneration in the diabetic eye:new insights and therapeutic perspectives」、Trends Endocrinol Metab-2014;第25(1)巻、23~33頁
【文献】Urtti Aら、「Challenges and obstacles of ocular pharmacokinetics and drug delivery」Adv.Drug.Deliv.Rev.2006、第58巻、1131~1135頁
【文献】Aielloら、「Targeting Intraocular Neovascularization and Edema - One Drop at a Time」、N.Eng.J Med-2008、第359巻、967~969頁
【文献】Malhotraら、「Permeation through cornea」、Indian Journal of Experimental Biology-2001、第39巻、11~24頁
【文献】Prausnitzら、「Permeability of Cornea,Sclera,and Conjunctiva:A Literature Analysis for Drug Delivery to the Eye」、Journal of Pharmaceutical Sciences-1998、第87(12)巻、1479~1488頁
【文献】De Meester Iら、「CD26,let it cut or cut it down」、Immunol Today-1999、第20巻、367~375頁
【文献】Abbottら、「Cloning, expression and chromosomal localization of a novel human dipeptidyl peptidase(DPP)IV homolog,DPP8」、Eur J Biochem-2000;第267巻、6140~50頁
【文献】Kimら、「The Nonglycemic Actions of Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitors」-BioMed Research International 第2014巻、論文ID368703
【文献】Baettaら、「Pharmacology of dipeptidyl peptidase-4 inhibitors:similarities and differences」、Drugs-2011、第71巻、1441~1467頁
【文献】Jungら、「Gemigliptin, a dipeptidyl peptidase-4 inhibitor,inhibits retinal pericyte injury in db/db mice and retinal neovascularization in mice」、Biochimica et Biophvsica Acta,Molecular Basis of Disease-2015、第1852(12)巻、2618~2629頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明者らは、DDP-4がヒト網膜に存在し、糖尿病に罹患している患者の網膜、即ち、網膜色素上皮(RPE)で高度に発現されることを見出した。DPP-4酵素の阻害剤(シタグリプチン等の競合的酵素阻害を通して作用、又はサキサグリプチン等の基質酵素遮断薬である)が試験されており、驚くべきことに、これらは眼に局所施用すると(即ち、角膜又は結膜円蓋又は強膜、眼の表面への眼科的施用)、その分子量及び構造の複雑性にもかかわらず、網膜に到達した。これらの阻害剤は、網膜を変性及び血管漏出から保護及び予防することさえできた。これらの化合物は、網膜(特に、神経細胞を含むが網膜色素上皮を含まない網膜の一部である神経網膜)の神経保護剤(neuroprotector)として作用した。
【0027】
本発明による阻害剤の局所的投与は、網膜に到達するだけでなく、BRB破壊を予防し、DRに関連する微小血管障害を予防又は治療ことによって、DRの初期段階の発展を抑止するのに有効な濃度も達成することが強調されるべきである。この障害は主に、タンパク質網膜血管漏出によって検出される。
【課題を解決するための手段】
【0028】
従って、第1の態様では、本発明は、網膜神経変性疾患の眼局所治療及び/又は予防(topical eye treatment and/or prevention)に使用するための、DPP-4阻害剤又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物に関する。
【0029】
驚くべきことに、また予想外に、これらの阻害剤は、眼に局所施用(即ち、眼科的薬物投与)されると網膜に到達することができるという事実のために、眼局所治療及び/又は予防は、このようにして眼表面(即ち、角膜、強膜、又は結膜円蓋)に施用される治療及び/又は予防である。これは、本発明で開示される実施形態及び実施形態の組み合わせのいずれにも当てはまる。
【0030】
先行技術を考慮すると、疎水性(親油性)及び親水性部分を有するという点で高分子量を有し、化学的に複雑な分子が、一旦角膜表面、強膜、又は結膜に局所投与されると網膜に到達することができることは予想外であった。上記のように、化合物が角膜、強膜、又は結膜円蓋に施用され、次いで、網膜に到達することができるためには、異なる親油性及び親水性性質を有するいくつかの障壁を克服しなければならない。従って、本発明は、糖尿病における更なる身体障害性併発疾患のいくつか;特に糖尿病性網膜症を含む網膜神経変性疾患の予防を促進するために、一般的に使用される抗糖尿病薬であるDPP-IV阻害剤も眼に局所施用することができることを実証するための技術への実際の寄与も想定している。
【0031】
従って、眼科分野における長年の必要性も、眼局所投与によって又は局所用組成物(例えば、眼局所用組成物)の成分として、網膜に到達し、その中で神経保護効果を及ぼすことができるDPP-4阻害剤を提供することによって解決された。更に、これらの阻害剤の局所投与は、それらの作用を眼に限定し、関連する全身性有害効果を最小化する。
【0032】
本発明のこの態様は、阻害剤の神経保護効果による、網膜神経変性疾患の眼局所治療及び/又は予防、特に網膜神経変性疾患及び関連する網膜微小血管障害又は損傷の初期段階、特にDRの初期段階における網膜損傷の眼局所治療及び/又は予防のための医薬品を製造するための、ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物の使用として明確に述べることもできる。本発明はまた、網膜神経変性疾患の眼局所治療及び/又は予防、網膜神経変性疾患の初期段階、特にDR及び関連する網膜微小血管障害又は損傷の初期段階における神経保護のための方法であって、ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を、局所的な薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体と共に、ヒトを含む、それを必要とする対象において投与する(眼内での局所投与を意味する)工程を含む方法に関する。
【0033】
更に、本発明者らは、網膜DPP-4を阻害することによって、網膜に位置するこの酵素を通して直接作用することにより、網膜神経変性疾患を、特に網膜神経変性疾患及び関連する網膜微小血管障害又は損傷の初期段階で、血糖値を低下させることの二次効果としてではなく、網膜酵素に対する直接作用により治療することができることを実証する。従って、本発明はまた、網膜神経変性疾患の治療及び/又は予防に使用するための、特に網膜神経変性疾患及び関連する網膜微小血管障害又は損傷の初期段階における網膜損傷の眼局所治療及び/又は予防のための、DPP-4阻害剤又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩にも関する。
【0034】
本発明の別の態様は、有効量のジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩若しくは溶媒和物及びこれらの混合物を、局所的な薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体と共に含む、網膜神経変性疾患の眼局所治療及び/又は予防に使用するための医薬又は獣医学的眼局所用組成物である。
【0035】
更に、最終的な態様は、治療上有効量のDPP-4阻害剤又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩を、局所的な薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体と共に含む、医薬又は獣医学的局所用組成物であって、20℃、pH4.5~9.0で5.0×10-4Pa.s~300Pa.sの動粘度を有し、ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤が組成物の最終体積に対して5mg/ml~200mg/mlの濃度である、組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】腸、肝臓、及びヒト網膜(RPE及び神経網膜)中のDPP-4濃度(ng/ml)を示す棒グラフである。白色バー:非糖尿病ドナー。黒色バー:糖尿病ドナー。
*p<0.05
【
図2】網膜層におけるTUNEL陽性細胞の百分率のグラフである。アポトーシスを示すためのターミナルトランスファーdUTPニック末端標識(TUNEL)陽性細胞の百分率は、全ての網膜層(外顆粒層;ONL;内顆粒層;INL及び神経節細胞層;GCL)において、他の群(D-saxa及び対照)と比較して、ビヒクルで処理したdb/dbマウス(D-Sham)で有意に高かった(p<0.001)。N=10匹マウス/群(1網膜当たり最小10切片)。Saxa:サキサグリプチン。
【
図3】調査群におけるグルタミン酸の網膜濃度(μmol/gタンパク質)の棒グラフである。他の群と比較して
*p<0.05。Saxa:サキサグリプチン。
【
図4】任意単位(A.U.)のGLAST免疫蛍光の定量化の棒グラフである。n=10匹マウス/群。結果は平均±SDである。ビヒクルで処理したdb/db(D-Sham)と他の群(D-サキサグリプチン及び対照(db/+))の間で
*p<0.05。
【
図5】代表的な非糖尿病マウス(C(db/+))、ビヒクルで処理したdb/dbマウス(D-Sham)、及びサキサグリプチンで処理したdb/dbマウス(D-サキサグリプチン)における3200カンデラ(cd)s/m
2(パネルA)及び12800カンデラ(cd)s/m
2(パネルB)の刺激強度に応じた網膜電図検査(ERG)トレースを示す図である。Aは振幅を意味し、マイクロボルト(V)で測定される;Tは時間(ミリ秒)(ms)を意味する。
【
図6(A)】レーザー走査型共焦点顕微鏡で可視化した血清アルブミン結合エバンスブルーの血管漏出を示す図である。エバンスブルーアルブミン複合体漏出の数及び程度を可視化し、D-Shamにおいて矢印ではっきり示す。
【
図6(B)】下のパネルで、Fluoview FV 1000レーザー走査型顕微鏡によるデジタル画像のアルブミン免疫蛍光の定量化を任意単位(A.U.)で示す図である。結果は平均±SDである。ビヒクルで処理したdb/db(D-Sham)と他の群:D-サキサグリプチン及びC(db/+)の間で
*p<0.05。
【
図7】実施例3に関連して、全ての網膜層における、他の群(D-シタグリプチン及び対照(db/+))と比較した、ビヒクルで処理したdb/dbマウス(D-Sham)の網膜層におけるTUNEL陽性細胞の百分率を示す(
*p<0.01)図である。ONL:外顆粒層;INL:内顆粒層;GCL:神経節細胞層。N=10匹マウス/群(1網膜当たり最小10切片)。
【
図8】調査群におけるグルタミン酸の網膜濃度(μmol/gタンパク質)の棒グラフである。他の群と比較して
*p<0.05。Sita:シタグリプチン。
【
図9(A)】レーザー走査型共焦点顕微鏡で可視化した血清アルブミン結合エバンスブルーの血管漏出を示す図である。エバンスブルーアルブミン複合体漏出の数及び程度を可視化し、D-Shamにおいて矢印ではっきり示す。
【
図9(B)】下のパネルで、Fluoview FV1000レーザー走査型顕微鏡によるデジタル画像のアルブミン免疫蛍光の定量化を任意単位(A.U.)で示す図である。結果は平均±SDである。ビヒクルで処理したdb/db(D-Sham)と他の群:D-シタグリプチン及びC(db/+)の間で
*p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0037】
理解のために、以下の定義を含める。
【0038】
本発明の意味において、「神経保護」という用語は、神経網膜を構成する神経細胞が保存され、健康な対象動物(ヒトを含む)のものに相当する生理学的状態のままであるために使用することができる任意の種類の治療又は予防方法を意味する。「神経網膜」は、神経細胞を含み、網膜色素上皮を含まない網膜の一部である。神経網膜は、視覚サイクルを担う。
【0039】
「糖尿病性網膜症の初期段階における神経保護」という表現は、進行期のDRが確立する前に行われる任意の治療又は予防方法に関する。
【0040】
「糖尿病性網膜症の初期段階」とは、糖尿病の存在により、眼内で機能的異常(即ち、色彩判別、コントラスト感度、及び網膜電図検査異常)が検出され得るが、DRの微小血管変化パターンはまだ完全には確立されていない、即ち、非増殖性DRの典型的な病変を観察することはできない時として理解されるべきである。
【0041】
「糖尿病性網膜症に関連する網膜微小血管障害又は損傷」とは、(疾患の初期又は後期段階における)糖尿病性網膜症による累積血管損傷を反映する全身性及び焦点性動脈狭窄並びに網膜動静脈血管狭窄等の網膜微小血管異常を包含するものと理解されるべきである。この網膜微小血管障害又は損傷は、主に網膜血管漏出の存在によって検出され、網膜血管内血液から異なる網膜層へのタンパク質の検出(アルブミン溢出等)を可能にする。
【0042】
本明細書で使用される「治療上有効量」という表現は、投与された場合、対処される疾患の症状の1又は複数の発症を予防する又はある程度緩和するのに十分な化合物の量を指す。本発明により投与される化合物の特定の用量は、当然、投与される化合物、投与経路、治療される特定の状態及び同様の考慮事項を含む、症例を取り巻く特定の状況によって決定される。
【0043】
本明細書で使用される「薬学的又は獣医学的に許容される」という用語は、健全な医学的及び獣医学的判断の範囲内で、合理的な利益/リスク比で、有意な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の課題若しくは合併症なしに、対象(例えば、ヒト又は任意の他の動物)の組織と接触して使用するのに適した化合物、材料、組成物、及び/又は剤形に関する。各担体、賦形剤等はまた、医薬組成物の他の成分と適合性であるという意味で「許容される」ものでなければならない。これもまた、合理的な利益/リスク比で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、又は他の課題若しくは合併症なしに、ヒト及び動物の組織又は器官と接触して使用するのに適していなければならない。適切な担体、賦形剤等は、標準的な医薬品テキストに見出すことができ、例として、保存剤、凝集剤、湿潤剤、皮膚軟化剤、及び抗酸化剤が含まれる。
【0044】
上記のように、本発明者らは、非侵襲的であることに加えて、これらの疾患の初期段階の治療、特に網膜血管漏出によって検出されるDR及び関連するDR網膜微小血管障害の初期段階の治療において有用である網膜神経変性疾患(神経変性が本質的役割を果たす網膜疾患)のための新たな治療的アプローチを提案する。
【0045】
本発明の第1の態様の特定の実施形態では、DPP-4阻害剤が、網膜ジペプチジルペプチダーゼ-4の阻害によって使用するためのものである。即ち、網膜におけるDPP-4酵素の直接阻害のために、眼内への局所治療が行われる。
【0046】
別の特定の実施形態では、DPP-4阻害剤が、シタグリプチン、サキサグリプチン、ビルダグリプチン、リナグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、ゲミグリプチン、オマリグリプチン、これらの薬学的に許容される塩又は溶媒和物及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0047】
本発明の第1の態様の特定の実施形態では、上記の使用のためのDPP-4阻害剤がDPP-4競合的酵素阻害剤であり、シタグリプチン、リナグリプチン、アログリプチン、これらの薬学的に許容される塩又は溶媒和物及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0048】
本発明の第1の態様の更に別の特定の実施形態では、網膜神経変性疾患の眼局所治療及び/又は予防のためのDPP-4阻害剤が、DPP-4基質-酵素遮断薬であり、式サキサグリプチン、ビルダグリプチン、アナグリプチン、これらの薬学的に許容される塩又は溶媒和物及びこれらの混合物の化合物からなる群から選択される。
【0049】
更により具体的な実施形態では、DPP-4阻害剤が、サキサグリプチンである。別のより具体的な実施形態では、DPP-4阻害剤が、シタグリプチンである。
【0050】
これらの具体的な化合物全ての化学式を本明細書に列挙する。その構造式によると、DPP-4阻害剤を、類似の官能基又は類似の分子部分によってグループ分けすることができる:
【0051】
【0052】
他の使用可能なDPP-4阻害剤は、デュトグリプチン(dutogliptin)(及びその酒石酸塩)並びにルペオールである。
【0053】
特定の実施形態では、本発明による眼局所治療及び/又は予防に使用するためのDPP-4阻害剤が、DR、加齢黄斑変性、緑内障、及び網膜色素変性症からなる群から選択される網膜神経変性疾患の治療及び/又は予防に使用するためのものである。
【0054】
好ましい実施形態では、DPP-4阻害剤が、糖尿病性網膜症及びDRに関連する網膜微小血管障害の治療及び/又は予防に使用するためのものである。これは、DRにおいて起こり、網膜層におけるタンパク質の網膜血管漏出によって通常検出される網膜微小血管障害又は損傷を、DPP-4阻害剤の眼局所投与で治療することができることを意味する。
【0055】
更に、別の好ましい実施形態では、DPP-4阻害剤が、DRの初期段階の眼局所治療及び/又は予防に使用するためのものである。
【0056】
特に、DRがまだ確立されていないこれらの初期段階では、局所施用された本発明の阻害剤が神経網膜の神経保護剤として作用し、よって以下の例に示されるように神経保護効果を及ぼす。神経細胞が損傷及び機能喪失から保護され、健康な生理学的状態に維持される。同じ理由が他の網膜神経変性疾患にも当てはまる。実際、ペプチドをその神経保護特性のために使用することができる。
【0057】
糖尿病性網膜症の発症の簡単な概要を次に明らかにする。高血糖によって誘因される代謝経路及び高血糖自体がDRにつながるが、DRが眼科検査の下で診断され得るには少なくとも5年の期間を要する。見ることができる最初の段階は、背景網膜症又は非増殖性糖尿病性網膜症(VPDR)(微小動脈瘤、微小出血、及び硬質滲出液によって構成される)である。この段階では、具体的な治療法はなく、糖尿病対象の標準的フォローがある。この段階から、疾患の自然経過は、他方を排除しない2つの方向に従い得る。そのうちの1つは、最も重要な病原性要素が血液網膜関門(BRB)の破壊である臨床的に重要な糖尿病性黄斑浮腫(DMO)の発症である。こちらは、2型糖尿病患者においてより頻繁である。他の方向は、1型糖尿病においてより頻繁である増殖性糖尿病性網膜症(PDR)に対するものである。この後の設定において、毛細血管閉塞が血管新生因子と抗血管新生因子との間の不均衡を引き起こす重要な役割を果たし、最終的に血管新生(PDRの特徴)を刺激する。しかしながら、NPDRが眼科検査で検出され得る前でさえ、網膜神経変性及び血管漏出が存在する。DMO及びPDRが確立されると、積極的治療が行われる。これらの治療には、光凝固(PGC)、コルチコステロイド及び/又は抗血管内皮増殖因子剤(IVTR)の硝子体内注射、並びに硝子体切除術(VTR)が含まれる。
【0058】
本発明によるDRの眼局所治療及び/又は予防に使用するためのDDP-4阻害剤を用いると、機能的異常(即ち、色彩判別、コントラスト感度、及び網膜電図検査異常)及び血管漏出が検出され得る疾患の初期段階においてさえ、これらの積極的治療のいくつかを回避することができ、対象は網膜の神経保護を助ける化合物を受ける。そのため、網膜が慢性的血糖値の結果から保護されれば、主要な合併症が最小限に抑えられる、又は現れさえしなくなり、糖尿病患者の生活の質が本当に改善される。上に開示されるDPP-4阻害剤の眼への局所投与は、更なる積極的治療を回避する本当の利点となる。
【0059】
いくつかの眼科検査によって検出される網膜神経変性の保護は、血管異常が発生する前にDRを治療するための優れたアプローチとなる。DRの初期段階では、神経変性が存在する(色彩判別とコントラスト感度の両方の喪失、グリア活性化及び神経細胞のアポトーシスによって検出することができる)。本発明の局所投与(眼への局所投与)用のDPP-4阻害剤は、より進行段階のDRが確立される(臨床的に有意な糖尿病性黄斑浮腫及び/又は増殖性糖尿病性網膜症)までの、治療が必要とされず、フォローアップのみが推奨されるこれらの初期においても有用である。
【0060】
DRの初期段階での治療は、更なる合併症、即ち微小動脈瘤、微小出血、硬質滲出液、毛細血管閉塞、及び血管新生が回避されるという本当の利点を有する。
【0061】
別の実施形態では、本発明による使用のためのDPP-4阻害剤が、少なくとも1種の上に定義されるDPP-4阻害剤と、任意の薬学的又は獣医学的に許容される局所的担体及び/又は賦形剤とを含む医薬又は獣医学的眼局所用組成物の成分(構成成分)である。
【0062】
上記のように、本発明の別の目的は、有効量のジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩若しくは溶媒和物及びこれらの混合物を、局所的な薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体と共に含む、網膜神経変性疾患の眼局所治療及び/又は予防に使用するための医薬又は獣医学局所組成物である。
【0063】
本発明のこの第2の態様の特定の実施形態では、網膜神経変性疾患の眼局所治療及び/又は予防に使用するための医薬又は獣医学的眼局所用組成物が、シタグリプチン、サキサグリプチン、ビルダグリプチン、リナグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、ゲミグリプチン、オマリグリプチンからなる群から選択される少なくとも1種のDPP-4阻害剤を含む。特定の担体及び/又は賦形剤は、水、生理食塩水緩衝液、及び油中水又は水中油の混合物に関する。特定の賦形剤は、保存剤、凝集剤、湿潤剤、皮膚軟化剤、及び抗酸化剤から選択される。
【0064】
本発明のこの第2の態様の特定の実施形態では、上に示される使用のための医薬又は獣医学的眼局所用組成物が、哺乳動物GLP-1、特にヒトGLP-1(UniProt:P01275)、リラグルチド、エキセナチド、リキシセナチド、その塩及びこれらの混合物からなる群から選択される化合物を更に含む。
【0065】
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、食物(「インクレチン応答」)に応答して消化管のL細胞から分泌される内因性インスリン分泌性ペプチドである。GLP-1は、その受容体(GLP-1R)を通して作用することによって、グルコース依存性インスリン分泌、インスリン遺伝子発現、膵β細胞新生、胃腸運動、エネルギー恒常性、及び食物摂取に強力な効果を及ぼす。GLP-1受容体(GLP-1R)は、7回膜貫通型ヘテロ三量体Gタンパク質共役型受容体(GPCR)のペプチドホルモン結合クラスB1(セクレチン様受容体)ファミリーのメンバーである。GLP-1Rは広い分布を有し、それらは膵臓、脂肪組織、筋肉、心臓、消化管、及び肝臓に見られる。更に、GLP-1Rは中枢神経系(即ち、視床下部、線条体、脳幹、黒質、及び脳室下帯)のいたるところで見られ、GLP-1によるGLP-1R刺激が中枢神経系と末梢神経系の両方において神経保護効果を及ぼすといういくらかの証拠が存在する。
【0066】
ヒトGLP-1は、遠位回腸のL細胞、膵臓、及び脳中の動脈内(i.a.)で合成されるプレプログルカゴンに由来する37アミノ酸残基のペプチドである。ヒトプレプログルカゴンは、UniProtデータベース受託番号P01275、2007年2月6日;バージョン3で特定される。GLP-1(7-36)アミド、GLP-1(7-37)及びGLP-2を与えるプレプログルカゴンのプロセシングは、主にL細胞で起こる。このペプチドの断片及び類似体を記載するために、単純な系が使用される。よって、例えば、Gly8-GLP-1(7-37)は、アミノ酸残基1~6を欠失させ、8位の天然アミノ酸残基(Ala)をGlyによって置換することによって、GLP-1から正式に得られるGLP-1の断片(類似体)を示す。同様に、Lys34(Nε-テトラデカノイル)-GLP-1(7-37)は、34位のLys残基のε-アミノ基がテトラデカノイル化されているGLP-1(7-37)を示す。
【0067】
GLP-1の特定の類似体には、リラグルチド(Arg34Lys26(Nε-(Y-グルタミル(Nα-ヘキサデカノイル)))-GLP-1(7-37)とも呼ばれ、CAS番号204656-20-2(配列番号1)を有する)が含まれる。
【0068】
リキシセナチドは、アミノ酸配列HGEGTFTSDLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPSKKKKKXaa1(式中、Xaa1は-COOH末端が-NH2基によって修飾(アミド化)されたリジン残基である)(本明細書では、配列番号2としても開示される)を有する、別のGLP-1類似体(即ち、GLP-1アゴニスト)である。CAS番号は827033-10-3である。
【0069】
エキセナチドは、CAS番号141732-76-5を有する化合物である。これは、アミノ酸配列HGEGTFTSDLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPPXaa1(式中、Xaa1は末端-COOHが-NH2基によって修飾(アミド化)されたセリン残基である)(本明細書では、配列番号3としても開示される)を有するペプチドである。
【0070】
好ましい医薬又は獣医学的眼局所用組成物は、溶液(例えば、点眼剤)、クリーム、ローション、軟膏(unguent)、乳剤、エアゾール及び非エアゾールスプレー、ゲル、軟膏(ointment)、並びに懸濁剤からなる群から選択される。上記のように、医薬又は獣医学的眼局所用組成物は、角膜、強膜、又は結膜円蓋に施用可能な眼局所用組成物として理解されるべきである。
【0071】
これらの医薬又は獣医学的眼局所用組成物はまた、マトリックスに含まれる、DPP-4阻害剤の送達用の固体又は半固体のマトリックス又は支持体、特に生体侵食性及び/又は生分解性ポリマーマトリックスに関する。
【0072】
更に、本発明の組成物は、芳香剤、着色剤、及び眼局所製剤に使用するための先行技術で公知の他の構成成分等の他の成分を含有してもよい。
【0073】
本発明の眼局所用組成物は、先行技術で周知の方法によって調製することができる。適切な賦形剤及び/又は担体、並びに任意のpH緩衝剤、並びにこれらの量は、調製される製剤の種類に従って当業者によって容易に決定され得る。
【0074】
特定の湿潤剤(湿潤溶媒とも呼ばれる)の例は、ポリエチレングリコール(一般式H(OCH2CH2)nOH(式中、nはポリマー中のオキシエチレン基の平均である)のPEG)、プロピレングリコール、グリセリン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。本発明の文脈において、湿潤剤は、溶媒及び湿潤特性を有する化合物である。
【0075】
様々な分子量のPEGが、医薬組成物(局所、非経口、眼科、経口、及び直腸組成物である)において広く使用されている。本発明による使用のための眼局所用組成物に使用される適切なPEGは、300~35000g/mol、より具体的には600~20000g/mol、更により具体的には1000~8000g/mol、更に具体的には3000~6000g/mol、好ましくは約4000g/molの分子量を有する。
【0076】
本発明による使用のための組成物の特定の実施形態では、湿潤剤が、組成物の総体積に対して1%~49%(重量/体積)の量で含まれる。より具体的には5%~40%、更には10%~30%、更により具体的には15%~25%である。
【0077】
pH緩衝剤として使用される賦形剤は、4.5~9.0、より具体的には4.5~8.5、更により具体的には6.0~8.2、好ましくは7.0~8.1、更により好ましくは7.5~8.0のpHを可能にするものである。pH緩衝剤の例としては、クエン酸塩(クエン酸/クエン酸塩緩衝液)、リン酸塩(リン酸/リン酸緩衝液)、ホウ酸塩(ホウ酸/ホウ酸塩緩衝液)、及びこれらの混合物が挙げられ、全ての塩が薬学的に許容されるものである。pH緩衝剤は、アミノ酸、特にアルギニン、リジン、並びにメチルグルカミン及びトロメタモールから選択されるアミン由来化合物、並びにこれらの混合物を更に含んでもよい。
【0078】
親油性組成物(15~35℃で水と非混和性の組成物を意味する)により適した賦形剤及び/又は担体には、カカオ脂、植物性硬化油、及び固体半合成グリセリドを含む合成又は半合成の親油性賦形剤が含まれる。
【0079】
本発明の眼(眼科)局所組成物中の他の成分には、特定の実施形態では、界面活性剤(tensoactive)、溶媒(有機及び無機溶媒、即ち水)、粘性剤、保存剤、凝集剤、皮膚軟化剤、及び抗酸化剤、等張化剤及び/又は等浸透剤(isoosmozing agent)、粘膜付着性ポリマー、有効成分(即ち、DPP-4阻害剤)の吸収増強剤が含まれる。界面活性剤の中でも、特に、グリセリド、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、リン脂質(例えば、ホスファチジルコリン又はホスファチジルグリセロール)、ポリオキシエチレン脂肪酸、モノ-、ジ-、及びトリグリセリド、場合によりポリオキシエチレン置換、及びこれらの混合物が使用される。
【0080】
有機溶媒の中でも特に、リシン油、PEG、ポロキサマー、ポリソルベート、グリセリン、C6~C10炭素原子脂肪酸のトリグリセリド、及びこれらの混合物が使用される。
【0081】
粘性剤は、特にポリビニルアルコール、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース由来の化合物、カルボマー、PEG、並びにこれらの混合物である。保存剤は、特に、ホウ酸、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、C1~C4-アルキル鎖のp-ヒドロキシ安息香酸エステル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、及びこれらの混合物である。
【0082】
等張化剤及び/又は等浸透剤は、特に、塩化ナトリウム、デキストロース、トレハロース、マンニトール、アミノ酸、及びこれらの混合物である。有効成分の吸収増強剤には、サポニン、脂肪酸、ピロリドン、ポリビニルピロリドン、ピルビン酸、及びこれらの混合物が含まれる。粘膜付着性ポリマー(一般的にゲル化剤として使用される)は、特に、ヒアルロン酸、ポリガラクツロン酸、ポリアクリル酸、硫酸コンドロイチン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、メチルセルロース、チャンタンガム(chantan gum)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キトサン、カルボポール、ゲランガム、ペクチン、アルグネート(algunate)、カラゲネート(carragenate)、及びこれらの混合物である。
【0083】
乳剤及びマイクロエマルジョン基剤は、特に、グリセリンの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルコール、リシン油、C6~C10炭素原子脂肪酸のトリグリセリド、及びこれらの混合物である。
【0084】
クリーム及び軟膏基剤は、特に、ワセリン、パラフィン、PEG、シリコーン、及び混合物である。
【0085】
場合により上記又は下記の任意の実施形態と組み合わせた、好ましい実施形態では、本発明の眼局所組成物が、点眼液とも呼ばれる点眼剤の形態の溶液である。点眼剤の形態でのペプチドの投与は、それを必要とする対象によって使用されやすく、不快でないという大きな利点を意味する。
【0086】
本発明による使用のための組成物は、場合により上記又は下記の任意の実施形態と組み合わせた、特定の実施形態では、徐放性組成物である。即ち、組成物が、最小限の副作用で特定の期間、一定の薬物濃度を維持するために、有効成分(即ち、DPP-4阻害剤)を所定の速度で送達することを可能にする徐放送達システムとして製剤化される。
【0087】
徐放送達のための特定の製剤は、DPP-4阻害剤、リポソーム及びニオソーム(niosome)をカプセル化するナノ粒子及びマイクロ粒子を含み、これらの全てがポリ乳酸、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、ポリスチレン、キトサン、アルブミン、レクチン、ゼラチン、アクリレート及びメタクリレート、ポリカプロラクトン、ポリアクリルアミド、デキストラン、アガロース、ソルビタン、コレステロール、並びにこれらの混合物を含む。徐放送達のための他の特定の製剤は、ヒドロゲルを構成するDPP-4阻害剤と結合したポリマーを含む。
【0088】
これらの医薬又は獣医学的眼局所用組成物の全てが、場合により上記又は下記の任意の実施形態と組み合わせた、第2の態様の別の特定の実施形態で、糖尿病性網膜症(DR)、加齢黄斑変性、緑内障、及び網膜色素変性症からなる群から選択される網膜神経変性疾患の眼局所治療及び/又は予防に使用するためのものである。特に、これらは、糖尿病性網膜症及び関連する微小血管障害又は損傷の予防及び/又は治療に使用するためのものである。より具体的には、これらは、糖尿病性網膜症の初期段階の眼局所治療に使用するためのものである。
【0089】
示されるように、本発明は別の態様として、治療上有効量のDPP-4阻害剤又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩を、局所的な薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体と共に含む、医薬又は獣医学的局所用組成物であって、pH4.5~9.0で5.0×10-4Pa.s~300Pa.sの動粘度を有し、ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤が組成物の最終体積に対して5mg/ml~200mg/mlの濃度である、組成物を有する。
【0090】
より具体的には、治療上有効量のDPP-4阻害剤又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩を、局所的な薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体と共に含む、医薬又は獣医学的局所用組成物であって、20℃、pH4.5~9.0で5.0×10-4Pa.s~300Pa.sの動粘度を有し、ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤が組成物の最終体積に対して20mg/ml~200mg/mlの濃度である、組成物である。
【0091】
実際、本発明の医薬又は獣医学的眼局所用組成物は、クリーム又は軟膏の組成物の稠度を有する液体組成物又は半固体組成物である。
【0092】
本明細書において、組成物がある範囲内の特定の粘度を有することが示されている場合、それは動粘度に関連する。よって、本発明の医薬又は獣医学的局所用組成物は、室温(即ち、20±0.1℃)及び標準大気圧で、5.0×10-4Pa.s~300Pa.sの動粘度を有する。この第3の態様の特定の実施形態では、医薬又は獣医学的局所用組成物の動粘度が8.9×10-4Pa.s~100Pa.sである。
【0093】
欧州薬局方(第8版、2.2.8「粘度」)によると、動粘度又は粘度係数ηは、滑り面、1mの距離(x)の平行層に対して1m/秒の速度(v)の1m2の液体の層に平行に移動するのに必要なせん断応力Tとして知られており、パスカルで表される、単位表面当たりの接線力である。比dv/dxは、逆数秒(s-1)で表されるせん断Dの速度を与える速度勾配であり、η=T/Dとなる。動粘度の単位はパスカル秒(Pa.s)である。
【0094】
前述の全ての賦形剤及び/又は担体、並びに緩衝液は、この他の態様にも適用される。
【0095】
特に、指定される粘度を有するこれらの局所用組成物は、溶液(例えば、点眼剤)、クリーム、ローション(例えば、眼ローション)、軟膏、乳剤、エアゾール及び非エアゾールスプレー、ゲル、軟膏、並びに懸濁剤の形態である。これらの全てを眼の表面(角膜、結膜、強膜)に施用することができ、DPP-4阻害剤放出が網膜に到達することを可能にする。特定の組成物は、点眼剤、眼ローション剤、半固体眼製剤(即ち、軟膏、クリーム、又はゲル)である。眼溶液エンドローションのいくつかは、投与時に、適切な液体ビヒクル中に溶解又は懸濁するための乾燥した無菌形態で供給される点眼剤粉末又は眼ローション用粉末から調製され得る。
【0096】
より具体的には、DPP-4阻害剤は、前記のように、局所的な薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体と共に、シタグリプチン、サキサグリプチン、ビルダグリプチン、リナグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、ゲミグリプチン、オマリグリプチン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0097】
本発明の医薬又は獣医学的眼局所用組成物の別の特定の実施形態では、pHが5.5~7.5、より具体的には7.0である。
【0098】
本発明の医薬又は獣医学的眼局所用組成物の更に別の特定の実施形態では、DPP-4阻害剤が、組成物の最終体積に対して50mg/ml~150mg/mlの濃度である。より具体的には、濃度が50mg/ml~150mg/mlである。
【0099】
更により具体的には、阻害剤がサキサグリプチンである場合、これは組成物の最終体積に対して80mg/ml~120mg/mlの濃度である。より具体的には、濃度は、組成物の最終体積に対して80mg/ml~100mg/mlである。特に、これは、組成物の最終体積に対して100mg/mlである。
【0100】
更により具体的には、阻害剤がシタグリプチンである場合、これは組成物の最終体積に対して50mg/ml~120mg/mlの濃度である。より具体的には、濃度は、組成物の最終体積に対して50mg/ml~80mg/mlである。特に、これは、組成物の最終体積に対して50mg/mlである。
【0101】
明細書及び特許請求の範囲を通して、「含む(comprise)」という単語及びその変形は、他の技術的特徴、添加剤、構成要素、又は工程を排除することを意図しない。更に、「含む(comprise)」という単語は、「からなる(consisting of)」の場合を包含する。本発明の更なる目的、利点、及び特徴は、説明を調査すれば当業者に明らかとなる、又は本発明の実施によって習得され得る。以下の実施例及び図面は例示として提供され、本発明を限定するものではない。更に、本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態及び好ましい実施形態の全ての可能な組み合わせを網羅する。
【実施例】
【0102】
実施例1.DPP-4濃度はヒト糖尿病網膜において上昇する。
【0103】
DPP-4の発現を、糖尿病ドナー及び非糖尿病ドナー由来のヒト網膜で決定した。網膜は、本発明者らのセンターの組織バンク(Banc de Sang i Teixits Hospital Universitari Vall d´Hebron)から得た。年齢及び性別が一致する合計8人の糖尿病ドナー及び8人の非糖尿病ドナーをこの試験に含めた。網膜色素上皮(RPE)から神経網膜を分離するために1つの眼杯を採取し、両組織を液体窒素で直ちに凍結し、-80℃で保存した。この眼杯から得られた組織を、タンパク質の遺伝子発現及び測定の試験のために使用した。他方の眼杯も採取し、RPEと神経網膜の両方をパラフィンに浸し、免疫組織化学的試験を行うために使用した。死亡から眼球摘出までの時間は3.7±1.5時間であった。
【0104】
眼杯提供及びこの生物学的材料の取り扱いの手順は、本発明者らのセンターの組織バンクの提供プロトコルによって厳密に規制されており、倫理委員会によって承認されている。
【0105】
-RNA抽出及び定量的RT-PCR:
【0106】
「TRIzol」(登録商標)試薬(Invitrogen、Madrid、スペイン)を用いて全RNAを抽出した。次いで、RNA試料をDNAse(Qiagen、Madrid、スペイン)で処理してゲノム汚染を除去し、RNeasy MinEluteカラム(Qiagen、Madrid、スペイン)で精製した。RNA量をNanodrop分光光度計で測定し、完全性をAgilent 2100 Bioanalyzerで測定した。ランダムヘキサマープライマーを用いたHigh Capacityキット(Applied Biosystems、Madrid、スペイン)によって逆転写を行った。DPP-4用のプライマーを用いてリアルタイムPCRを行った。
【0107】
-DPP-4タンパク質測定:
【0108】
DPP-4濃度を、0.016ng/mLの検出下限を有する定量的サンドイッチ酵素イムノアッセイ(R&D Systems、Minneapolis、MN)によって網膜抽出物(RPE及び神経網膜)において評価した。
【0109】
-免疫組織化学
【0110】
眼のヒトドナー(8人の非糖尿病ドナー及び8人の糖尿病ドナー)の網膜切片をキシロール中で脱パラフィン処理し、段階的エタノール中で再水和させた。自己蛍光を排除するために、スライドを過マンガン酸カリウムで洗浄した。次いで、切片をPBS中2%BSA0.05%Tween中で1時間インキュベートして、非特異性をブロッキングした。一次抗体を同じブロッキング緩衝液(1:500;Abeam、Cambridge、英国)中、4℃で一晩インキュベートした。次いで、切片を洗浄し、「Alexa Fluor」(登録商標)488(Molecular Probes、Eugene、OR)と共に室温で1時間インキュベートした。スライドガラスを、細胞核の可視化のためのDAPI(Vector Laboratories、Burlingame、CA)を含有する一滴の封入剤と共にカバーガラスで覆った。共焦点レーザー走査型顕微鏡(FV1000、Olympus.Hamburg、ドイツ)で、488nm及び405nmレーザーラインを用いて40倍で画像を取得し、各画像を1024×1024ピクセルの解像度で保存した。
【0111】
-結果:
【0112】
DPP-4はヒトの網膜で発現していた。非糖尿病ドナーと比較して、糖尿病ドナーのRPEで高いDPP-4mRNAの発現が検出された(5.69±1.77対対照1.4±1.38、p<0.05)。神経網膜では、2つの群の間に有意な差は観察されなかった。
【0113】
DPP-4濃度は、非糖尿病ドナーと比較して、糖尿病ドナーのRPEで有意に高かった(p<0.05)。これらの全てのデータを
図1に示し、ここではDDP-4のレベル(ng/ml)が腸(参照)、肝臓(参照)、RPE、及び神経網膜で示されている。白色バー:非糖尿病ドナー。黒色バー:糖尿病ドナー。神経網膜では、2つの群の間に有意な差は観察されなかった。免疫組織化学分析は、DPP-4が網膜全体に散在して分布していることを示した。
【0114】
実施例2.点眼剤で投与されたサキサグリプチンは、糖尿病によって誘発される網膜神経変性を予防する。
【0115】
サキサグリプチンを含有する点眼剤の神経保護効果を、db/dbマウスモデルで試験した。db/dbマウスは、ヒト糖尿病の眼で起こる神経変性過程の特徴を再現することが報告されている。したがって、これは、神経保護薬を試験するための適切なモデルである(Bogdanovら、「The db/db mouse:a useful model for the study of diabetic retinal neurodegeneration」、PLoS One-2014、第9(5)巻:e97302による)。合計20匹の雄の10週齢のdb/db(BKS.Cg-+Lepr db/+Lepr db/OlaHsd)マウスをHarlan Laboratories,Inc.から購入した。更に、10匹の年齢が一致した非糖尿病(db/+)マウスを対照群として使用した。
【0116】
シリンジを用いて、サキサグリプチン又はビヒクル点眼剤を各眼の上角膜表面に直接投与した。サキサグリプチン(1μM)1滴(5μL)を各眼に又はビヒクル(0.9%塩化ナトリウム5μL)を各眼に1日2回、14日間投与した。15日目に、剖検の約1時間前に、サキサグリプチン又はビヒクル1滴を動物の眼に滴下した。この試験は、VHIR(Vail d’Hebron Research Institute)の動物実験委員会によって承認された。全ての実験は、ヨーロッパ共同体(86/609/CEE)及びARVO(視覚及び眼科学研究会議)の教義に従って行った。
【0117】
ISCEV(国際臨床視覚電気生理学会)勧告(Marmorら、「Standard for clinical electroretinography」、International Society for Clinical Electrophysiology of Vision(2004)、Doc Ophthalmol-2004;第108巻、107~114頁による)に従って、Ganzfeld ERGプラットホーム(Phoenix Research Laboratories、Pleasanton、CA)を用いて、全視野網膜電図検査(ERG)記録を測定した。
【0118】
-神経変性の測定:
【0119】
(A)グリア活性化の測定
【0120】
グリア活性化を、GFAP(グリア線維酸性タンパク質)に対する特異的抗体を用いたレーザー走査型共焦点顕微鏡によって評価した。切片を酸性メタノール(-20℃)で2分間固定し、引き続いてそれぞれ5分間、PBSで3回洗浄した。切片をTBS-Triton X-100 0.025%で透過処理し、室温で2時間、ブロッカー(1%BSA、及びPBS中10%ヤギ血清)中でインキュベートした。次いで、切片をウサギ抗GFAP(Abeam Ltd、ケンブリッジ、英国)(ブロッキング溶液中で調製した1:500希釈)と共に、湿潤雰囲気中、4℃で一晩インキュベートした。それぞれ5分間、PBSで3回洗浄した後、切片を二次抗体Alexa488ヤギ抗ウサギ(Invitrogen)(ブロッキング溶液中で調製した1:200希釈)と共にインキュベートした。切片をPBSで3回洗浄し、Hoestchで対比染色し、Mounting Medium Fluorescence(Prolong、Invitrogen)をマウントし、カバーガラスをマウントした。試料からの比較デジタル画像を、同一の輝度及びコントラスト設定を使用してFluoview FV1000レーザー走査型共焦点顕微鏡Olympusで記録した。
【0121】
グリア活性化の程度を評価するために、以前に記載されたGFAP染色の程度に基づく採点システムを使用した(Andersonら、「Glial and endothelial blood-retinal barrier responses to amyloid-beta in the neural retina of the rat」、Clin Ophthalmol-2008、第2巻、801~816頁)。この採点システムは以下の通りであった:ミューラー細胞エンドフィート領域/GCLのみ(スコア1);ミューラー細胞エンドフィート領域/GCL+いくつかの近位プロセス(スコア2);ミューラー細胞エンドフィート+多くのプロセスがあるが、ONLには至っていない(スコア3);ミューラー細胞エンドフィート+ONL中のいくらかを伴うプロセス(スコア4);ミューラー細胞エンドフィート+GCLからONLの外側マージンまでの多くの暗色プロセス(スコア5)。
【0122】
(B)アポトーシス評価のための免疫組織化学的分析
【0123】
TUNEL(ターミナルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識)染色を、DeadEnd Fluorometric TUNELシステムキット(PROMEGA、Madison、WI、米国)を用いて行った。網膜の凍結切片を、新たに調製した0.1%クエン酸ナトリウム中0.1%Triton X-100と共に氷上で2分間インキュベートすることによって透過処理した。二次抗体はAlexa488ヤギ抗ウサギ(Invitrogen、San Diego CA、米国)とした。レーザー走査型共焦点顕微鏡による評価のために、励起波長は488nmとし、515~565nm(緑色)の範囲の検出を使用した。
【0124】
(C)グルタミン酸定量
【0125】
アミノキノリン誘導体(AccQ-Tag化学、MassTrak AAA法及び機器、Waters、Milford、MA)として、逆相超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)(Acquity-UPLC、Waters)によってグルタミン酸の定量を行った。
【0126】
(D)GLASTの免疫組織化学
【0127】
主なグルタミン酸輸送体であるGLAST(グルタミン酸-アスパラギン酸輸送体)を、特異的抗体を用いて蛍光顕微鏡によって評価した。GLASTを、特異的抗体[ウサギ抗GLAST(EAAT1)(1:100、Abeam ab416、Cambridge、英国)を用いて蛍光顕微鏡によって評価した。
【0128】
細胞外空間中のグルタミン酸蓄積及びグルタミン酸受容体の過剰活性化(「興奮毒性」)が、網膜神経変性において重要な役割を果たす。グルタミン酸輸送体は、細胞外グルタミン酸濃度を神経毒性レベル未満に保つために不可欠である。グルタミン酸/アスパラギン酸輸送体(GLAST)は、哺乳動物網膜におけるグルタミン酸取り込みの少なくとも50%を占める、最も優勢なグルタミン酸輸送体である。
【0129】
-結果
【0130】
処理終了時の血糖濃度及び体重は、ビヒクルで処理したdb/dbマウスとサキサグリプチン点眼剤で処理したdb/dbマウスで類似していた。
【0131】
(A)網膜神経変性はサキサグリプチンで処理した糖尿病マウスで予防された:
【0132】
グリア活性化
【0133】
非糖尿病マウスにおいて、GFAP発現は網膜神経節細胞層(GCL)に限定され、従ってGFAPスコアは2未満であった。ビヒクルで処理した糖尿病マウス(D-Sham)は、齢が一致した非糖尿病マウス(C(db/+))より有意に高いGFAP発現を示した。よって、糖尿病マウスの100%が、3超のGFAPスコアを示した。2週間のサキサグリプチン(点眼剤)投与(D-サキサグリプチン)は反応性神経膠症の有意な減少をもたらし、サキサグリプチンで処理したマウスのGFAPスコアは全ての場合において3未満であった。ビヒクルで処理したdb/dbマウス(D-Sham)、サキサグリプチンで処理したdb/dbマウス(D-サキサグリプチン)、及び非糖尿病マウス(c(db/+))からの代表的な試料間で、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)を示すFluoview FV1000レーザー走査型顕微鏡を用いて、デジタル画像(図示せず)からこれらの全てのデータが導出可能である。核をHoechst(青色)で標識すると、外顆粒層(ONL)、内顆粒層(INL);及び神経節細胞層(GCL)が明確に見えた。
【0134】
理解のために、次の表1は、陽性GFAP標識の百分率(%)を示す:
【0135】
【0136】
この表1は、GFAP染色の程度に基づくグリア活性化の定量を示す。採点システムは以下の通りであった:ミューラー細胞エンドフィート領域/GCLのみ(スコア1);ミューラー細胞エンドフィート領域/GCL+いくつかの近位プロセス(スコア2);ミューラー細胞エンドフィート+多くのプロセスがあるが、ONLには至っていない(スコア3);ミューラー細胞エンドフィート+ONL中のいくらかを伴うプロセス(スコア4);ミューラー細胞エンドフィート+GCLからONLの外側マージンまでの多くの暗色プロセス(スコア5)。n=10匹マウス/群(マウス1匹当たり5つの網膜切片)。
【0137】
網膜アポトーシス
【0138】
アポトーシス率は、全ての網膜層において非糖尿病マウスよりもビヒクルで処理した糖尿病マウスで有意に高かった。2週間のサキサグリプチン(点眼剤)投与は、D-Shamマウス(糖尿病及び非処理、ビヒクルを各眼に投与)、D-Saxa(糖尿病及びサキサグリプチン点眼剤を受けた)、及び対照(非糖尿病)についてのTUNEL陽性細胞の百分率(%)の棒グラフである
図2から導出可能であるように、全ての網膜層においてアポトーシスの有意な予防をもたらした。
【0139】
(B)サキサグリプチン投与は糖尿病によって誘発されるグルタミン酸の増加を予防する。
【0140】
糖尿病網膜におけるグルタミン酸レベル(μmol/gタンパク質)は非糖尿病網膜よりも高かった。サキサグリプチンで処理した糖尿病マウスでは、グルタミン酸濃度が、ビヒクルで処理した糖尿病マウスと比較して有意に低く(p<0.05)、対照マウスと類似であった(p=n.s)。対照、D-Shamマウス、及びS-Saxaマウス(前と同じ意味)について、データを
図3に示す。
【0141】
この知見を説明すると、ビヒクルで処理したdb/dbマウス(D-Sham)、サキサグリプチンで処理したdb/dbマウス(D-サキサグリプチン)、及び非糖尿病マウス(対照(db/+))からの代表的な試料間で、グルタミン酸アスパラギン酸輸送体(GLAST)免疫蛍光(赤色)を示すFluoview FV1000レーザー走査型顕微鏡を用いて、デジタル画像(図示せず)で示されたように、ミューラー細胞によって発現される主要なグルタミン酸輸送体であるグルタミン酸/アスパラギン酸輸送体(GLAST)が、非糖尿病マウスと比較して、ビヒクルで処理した糖尿病マウス(D-Sham)の網膜において有意に減少することが観察された。核をHoechst(青色)で標識した。
【0142】
サキサグリプチンで処理した糖尿病マウス(D-サキサグリプチン)では、糖尿病によって誘発されるGLASTのこの下方制御が予防され、よって赤色染色を示し、対照画像に似ていた。
【0143】
これらの全てのデータを
図4に示す(任意単位(A.U.)でのGLAST免疫蛍光の定量化を示す)。n=10匹マウス/群。結果は平均±SDである。*ビヒクルで処理したdb/db(D-Sham)と他の群(D-サキサグリプチン及び対照(db/+))の間でp<0.05。
【0144】
(C)サキサグリプチンの局所投与は血液網膜関門(BRB)の破壊を予防する。
【0145】
初期の微小血管障害に対するサキサグリプチンの効果を評価するために、アルブミン漏出を調べた。対照動物(C db/+)と比較してビヒクルで処理したdb/dbマウス(D-Sham)で高いアルブミンの溢出が観察された。サキサグリプチンによる処理(D-サキサグリプチン、点眼剤)は、db/db/マウスでアルブミン漏出を予防した。
図6(A)は、レーザー走査型共焦点顕微鏡で可視化した血清アルブミン結合エバンスブルーの血管漏出を示す。エバンスブルーアルブミン複合体漏出(矢印)の数及び程度は、他の群よりD-Shamで明らかに増加した。下のパネル
図6(B)で、Fluoview FV1000レーザー走査型顕微鏡によるデジタル画像のアルブミン免疫蛍光の定量化を示す。アルブミン(赤色)の定量化を行ったFluoview FV1000レーザー走査型顕微鏡の免疫組織化学画像は示されていない。試験した3種類の試料は、D-Sham、D-サキサグリプチン及びC(db/+)であった。結果は平均±SDである。*ビヒクルで処理したdb/db(D-Sham)と他の群の間でp<0.05。
【0146】
(D)サキサグリプチン処理は糖尿病によって誘発されるERG異常を予防する。
【0147】
眼に局所投与されるサキサグリプチンによる処理は、糖尿病によって誘発されるa波及びb波振幅の減少、並びにa波及びb波陰的時間の増加を予防した。データを
図5に示す(3200cd*s/m
2(パネルA)及び12800cd*/s/m
2(パネルB)での網膜電図(ERG)を、D-shamマウス(ビヒクル点眼剤で処理した糖尿病)、対照(C;d/+)及びD-サキサグリプチンマウス(サキサグリプチン点眼剤で処理した糖尿病)について表す)。Aは振幅を意味し、マイクロボルト(μV)で測定される;Tは時間(ミリ秒)(ms)を意味する。
【0148】
実施例3.局所投与(点眼剤)されたサキサグリプチンは、糖尿病によって誘発される網膜神経変性を予防する。
【0149】
設計及び方法論は実施例2で使用されたものと同じであった。シタグリプチン点眼剤を用いて得られた結果は、サキサグリプチン点眼剤処理で得られた結果と非常によく似ていた。
【0150】
処理終了時の血糖濃度及び体重は、ビヒクルで処理したdb/dbマウス(D-Sham)とシタグリプチン点眼剤で処理したdb/dbマウス(S-シタグリプチン)で類似していた。
【0151】
グリア活性化
【0152】
2週間のシタグリプチン(点眼剤)投与は反応性神経膠症の有意な減少をもたらし、シタグリプチンで処理したマウスのGFAPスコアは、表2のデータから導出されるように、全ての場合において3未満であった。
【0153】
【0154】
網膜アポトーシス
【0155】
アポトーシス率は、全ての網膜層において非糖尿病マウスよりもビヒクルで処理した糖尿病マウスで有意に高かった。2週間のシタグリプチン(点眼剤)投与は、D-Shamマウス(糖尿病及びビヒクル点眼剤を受けた;各セットの左側の黒色バー)、D-シタグリプチン(シタグリプチン点眼剤を受けた;各セットの中央の灰色バー)及び対照(db/+)についてのTUNEL陽性細胞の百分率(%)の棒グラフである
図7から導出可能であるように、全ての網膜層においてアポトーシスの有意な予防をもたらした。異なる網膜層(神経節細胞層;GCL、内顆粒層;INN及び外顆粒層;ONL)のデータを示す。TUNEL陽性細胞の百分率は、全ての網膜層において、他の群と比較して、ビヒクルで処理したdb/dbマウスで有意に高かった(*p<0.01)。ONL:外顆粒層;INL:内顆粒層;GCL:神経節細胞層。N=10匹マウス/群(1網膜当たり最小10切片)。
【0156】
シタグリプチン処理(点眼剤)はまた、サキサグリプチンと同じ方法で糖尿病によって誘発されるGLASTの下方制御を抑止することによってグルタミン酸蓄積を予防した(
図8)。更に、シタグリプチンは、ERGによって測定される機能的異常も予防した。
【0157】
最後に、シタグリプチンはまた、BRBの密封機能も予防した。
図9(A)は、レーザー走査型共焦点顕微鏡で可視化した血清アルブミン結合エバンスブルーの血管漏出を示す。エバンスブルーアルブミン複合体漏出(矢印)の数及び程度は、他の群よりD-Shamで明らかに増加した。下のパネル
図9(B)で、Fluoview FV1000レーザー走査型顕微鏡によるデジタル画像のアルブミン免疫蛍光の定量化を示す。アルブミン(赤色)の定量化を行ったFluoview FV1000レーザー走査型顕微鏡の免疫組織化学画像は示されていない。試験した3種類の試料は、D-Sham、D-シタグリプチン及びC(db/+)であった。結果は平均±SDである。*ビヒクルで処理したdb/db(D-Sham)と他の群の間でp<0.05。
【0158】
対照動物(C db/+)と比較してビヒクルで処理したdb/dbマウス(D-Sham)でアルブミンの溢出が観察された。シタグリプチンによる処理(D-シタグリプチン、点眼剤)は、db/db/マウスでアルブミン漏出を予防した。
【0159】
サキサグリプチン及びシタグリプチン点眼剤のこれらの全ての効果は、血糖値の変化なしに観察され、よって、これらは糖尿病の環境の変化に起因するものではないことに留意すべきである。しかしながら、GLP-1受容体とは無関係の他の経路の活性化を除外することはできない。
【0160】
データは示されていないが、点眼剤によって投与されたDPP-4阻害剤(サキサグリプチン及びシタグリプチン)は、GLP-1及びその主要な下流メッセンジャーcAMPの網膜内含量を有意に増加させ、よって、db/dbマウスにおける神経変性及び血管漏出を予防した。これは、DPP-4阻害剤の有益な効果がもっぱらGLP-1の増強に起因することを意味するものではない。いかなる理論にも拘束されないが、本発明者らは、実際、DPP-4阻害剤自体が、神経保護に関与し得る無関係の下流GLP-1R経路を活性化すると考えている。
【0161】
これに関して、Dietrichら[Dietrich N、Kolibabka M、Busch Sら(2016)The DPP4 inhibitor Linagliptin Protects from Experimental Diabetic Retinopathy.PLoS One11:e0167853]が、近年、リナグリプチン(DPP-4阻害剤)が、線虫(C.EIegans)、GLP-1Rを発現しない高グルコースレベルによって誘発される神経変性のモデルにおいて神経保護効果を有することを報告した。また、網膜神経節細胞に富むGタンパク質共役型受容体(GPcR)凝固因子II受容体様1(F2rl1、以前はPar2として知られていた)が、DPP-IVによって活性化され得ることにも留意すべきである[Wronkowitz N、Gorgens SW、Romacho Tら(2014)Soluble DPP4 induces inflammation and proliferation of human smooth muscle cells via protease-activated receptor2.Biochim Biophys Acta1842(9):1613~21]。刺激後、F2rl1は、血管新生及び炎症を促進し、従って、DRを治療する際の重要な標的となり得る。更に、IL-1β受容体の競合的アンタゴニストであるIL-1RAが、DPP-4の基質であることが報告されている[Zhang H、Maqsudi S、Rainczuk Aら(2015)Identification of novel dipeptidyl peptidase9substrates by two-dimensional differential in-gel electrophoresis.FEBS J282(19):3737~57]。従って、DPP-4の阻害は、IL-1RAの切断を予防することにより、DRの発病におけるIL-1βの有害な役割を緩和することができるだろう。
【0162】
驚くべきことに、DPP-4阻害剤が、(角膜、強膜、又は結膜を介して)眼の表面に局所投与すると、網膜に有効に到達することができたことを考慮すると、その非ペプチド性のために、それらを含む組成物を調製する際により安定で、取り扱いが容易であるので、網膜に到達するための眼表面への局所的なGLP-1又はGLP-1アゴニストの使用の実際の代替と思われる。
【0163】
検索データの統計分析を行った。Kolmogorov-Smirnov検定を用いて変数の正規分布を評価した。データを平均±SDとして示した。独立スチューデントt検定を用いて連続変数の比較を行った。複数の比較を行う場合、一元配置ANOVAに続いてボンフェローニ検定を使用した。
【0164】
フィッシャーの正確確率検定によってカテゴリー変数間の比較を行った。統計学的有意性のレベルをp<0.05に設定した。
【0165】
これらのデータは全て、DPP-4阻害剤の局所的眼投与(点眼剤)が糖尿病性網膜症の初期段階で起こる網膜神経変性過程の予防に強力な効果を有するという最初の証拠を提供する。データはまた、神経変性が本質的な役割(GLP-1受容体経路に関連する又はしない)を果たす他の網膜疾患が、これらの化合物の眼局所投与(点眼)により治療及び/又は予防され得るという証拠を提供する。
【0166】
本願で引用した文献
【0167】
Schmidt et al., “Neurodegenerative Diseases of the Retina and Potential for the Protection and Recovery”, Current Neuropharmacology - 2008, Vol. No. 6, pp.: 164-178.
Simo et al., “Neurodegeneration is an early event in diabetic retinopathy: therapeutic implications”, Br. J. Ophthalmol. - 2012, vol. 96, pp.1285-1290.
Urtti A et al., “Challenges and obstacles of ocular pharmacokinetics and drug delivery”. Adv. Drug. Deliv. Rev. 2006, vol. 58, pp. 1131-1135.
Aiello et al., “Targeting Intraocular Neovascularization and Edema - One Drop at a Time”, N. Eng. J Med - 2008, vol. 359, pp. 967-969.
Malhotra et al., “Permeation through cornea”, Indian Journal of Experimental Biology-2001, vol. no. 39, pp.: 11-24.
De Meester I et al., “CD26, let it cut or cut it down”, Immunol Today- 1999, vol. no. 20, pp.:367-375.
Abbott, et al., “Cloning, expression and chromosomal localization of a novel human dipeptidyl peptidase (DPP) IV homolog, DPP8”, Eur J Biochem -2000; vol. no. 267, pp.: 6140-50.
Kim et al., “The Nonglycemic Actions of Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitors”- BioMed Research International Volume 2014, Article ID 368703.
Baetta et al., “Pharmacology of dipeptidylpeptidase-4 inhibitors: similarities and differences”, Drugs-2011, vol. no.71, pp.:1441-1467.
Prausnittz et al., “Permeability of Cornea, Sclera, and Conjunctiva: A Literature Analysis for Drug Delivery to the Eye”, Journal of Pharmaceutical Sciences - 1998, vol. no. 87(12), pp.: 1479-1488.
Jung et al., “Gemigliptin, a dipeptidyl peptidase-4 inhibitor, inhibits retinal pericyte injury in db/db mice and retinal neovascularization in mice”, Biochimica et Biophysica Acta, Molecular Basis of Disease- 2015, vol. no. 1852(12), pp.:2618-2629.
Anderson et al. “Glial and endothelial blood-retinal barrier responses to amyloid-beta in the neural retina of the rat”. Clin Ophthalmol - 2008, Vol. No.: 2, pp.:801-816.
Simo R, Hernandez C, “Novel approaches for treating diabetic retinopathy based on recent pathogenic evidence”, .Prog Retin Eye Res -2015, vol. no. 48, pp.:160-80.
Simo R, Hernandez C; European Consortium for the Early Treatment of Diabetic Retinopathy (EUROCONDOR). “Neurodegeneration in the diabetic eye: new insights and therapeutic perspectives”, Trends Endocrinol Metab -,2014; vol. no.25(1), pp.: 23-33.
Bogdanov et al., “The db/db mouse: a useful model for the study of diabetic retinal neurodegeneration”, PLoS One-2014, vol.no.9(5):e97302.
Marmor et al., “Standard for clinical electroretinography”, International Society for Clinical Electrophysiology of Vision (2004), Doc Ophthalmol-2004; vol.108, pp.:107-114.
Dietrich N, Kolibabka M, Busch S, et al (2016) The DPP4 Inhibitor Linagliptin Protects from Experimental Diabetic Retinopathy. PLoS One 11:e0167853
Wronkowitz N, Gorgens SW, Romacho T et al (2014) Soluble DPP4 induces inflammation and proliferation of human smooth muscle cells via protease-activated receptor 2. Biochim Biophys Acta 1842(9):1613-21]
Zhang H, Maqsudi S, Rainczuk A et al (2015) Identification of novel dipeptidyl peptidase 9 substrates by two-dimensional differential in-gel electrophoresis. FEBS J 282(19):3737-57
【配列表】