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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/40 20060101AFI20220510BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C21D9/40 B
C21D1/10 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017153439
(22)【出願日】2017-08-08
(65)【公開番号】P2019031714
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】508056109
【氏名又は名称】株式会社ネツレンタクト
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 久明
(72)【発明者】
【氏名】清澤 裕
(72)【発明者】
【氏名】北村 孝次
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-041419(JP,A)
【文献】特開昭63-303204(JP,A)
【文献】特開2005-238394(JP,A)
【文献】特開2009-084609(JP,A)
【文献】特開2012-046805(JP,A)
【文献】米国特許第03699792(US,A)
【文献】特開2014-080640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/02- 1/84
C21D 9/00- 9/44, 9/50
F15B 11/00-11/22,21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のワークを熱処理する熱処理本体部と、
前記ワークをワーク周方向に回転させる回転機構と、
前記ワークを径方向の内側から外側に向かう方向と外側から内側に向かう方向とのうち一方に付勢する付勢ローラと、
前記付勢ローラによって付勢される方向に前記ワークが移動することを規制する固定ローラと、を備え、
前記付勢ローラは、前記ワークの外周領域に配置され、エアーシリンダ装置で進退され、
前記エアーシリンダ装置は減圧弁を有し、
前記固定ローラは前記ワークの外周領域であって前記ワークの回転中心を挟んで前記付勢ローラとは反対側に配置され、
前記熱処理本体部は、前記ワークの内周領域に配置された加熱部を有し、
前記付勢ローラは第一付勢ローラと第二付勢ローラとを備え、前記固定ローラは第一固定ローラと第二固定ローラとを備え、前記第一付勢ローラと前記第一固定ローラとは対とされ、前記第二付勢ローラと前記第二固定ローラとは対とされ、前記第一付勢ローラと前記第一固定ローラとを結ぶ線分と前記第二付勢ローラと前記第二固定ローラとを結ぶ線分とは交差している
ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
環状のワークを熱処理する熱処理本体部と、
前記ワークをワーク周方向に回転させる回転機構と、
前記ワークを径方向の内側から外側に向かう方向と外側から内側に向かう方向とのうち一方に付勢する付勢ローラと、
前記付勢ローラによって付勢される方向に前記ワークが移動することを規制する固定ローラと、を備え、
前記付勢ローラは、前記ワークの内周領域に配置され、エアーシリンダ装置で進退され、
前記エアーシリンダ装置は減圧弁を有し、
前記固定ローラは前記ワークの内周領域であって前記ワークの回転中心を挟んで前記付勢ローラとは反対側に配置され、
前記熱処理本体部は、前記ワークの外周領域に配置された加熱部を有し、
前記付勢ローラは第一付勢ローラと第二付勢ローラとを備え、前記固定ローラは第一固定ローラと第二固定ローラとを備え、前記第一付勢ローラと前記第一固定ローラとは対とされ、前記第二付勢ローラと前記第二固定ローラとは対とされ、前記第一付勢ローラと前記第一固定ローラとを結ぶ線分と前記第二付勢ローラと前記第二固定ローラとを結ぶ線分とは交差している
ことを特徴とする熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のワークを熱処理する熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環状のワークを加熱処理する装置として、例えば、風車の部品を構成する大型の環状のワークを加熱及び冷却して焼入れするための旋回型焼入れ装置が知られている。
この旋回型焼入れ装置の従来例として、ワークを載置するように周方向に配列した複数の回転ローラを有するワーク支持部と、ワーク支持部に載置されたワークを周方向に沿って回転させる回転駆動部と、ワークを加熱する加熱部と、ワークの内周又は外周を径方向に加圧する加圧部とを備えた熱処理装置がある(特許文献1)。
【0003】
特許文献1の従来例では、加圧部は、ワークを挟んで内外に配置された内側加圧部と外側加圧部とを備えている。内側加圧部には、ワークの回転方向に沿って回転自在に設けられたインナーローラと、インナーローラをワーク側に向けて付勢するスプリングとが設けられている。同様に、外側加圧部には、ワークの回転方向に沿って回転自在に設けられたアウターローラと、アウターローラをワーク側に向けて付勢するスプリングとが設けられている。インナーローラとアウターローラとはワークを挟んで配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-80640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の従来例では、内側加圧部及び外側加圧部は、ともにスプリングによってローラをワークに向けて付勢する構成である。そのため、内側加圧部と外側加圧部の双方のスプリングのばね力を正確に調整しないと、ワークの調芯ができなくなるという課題がある。
特に、加熱部で加熱されたワークは熱膨張するため、スプリングで押圧されるローラはワークに追従しにくくなり、この点からも、ワークの調芯が十分ではないという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、ワークの調芯を確実に行える熱処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱処理装置は、環状のワークを熱処理する熱処理本体部と、前記ワークをワーク周方向に回転させる回転機構と、前記ワークを径方向の内側から外側に向かう方向と外側から内側に向かう方向とのうち一方に付勢する付勢ローラと、前記付勢ローラが前記ワークを付勢する方向の移動を規制する固定ローラと、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明では、回転機構によってワークをその周方向に沿って回転させながら、熱処理本体部でワークに焼入れや焼き戻し等の熱処理を施す。この際、付勢ローラは、ワークをワーク径方向のうち一方向、例えば、ワークの径方向の外側から内側に向かう方向に付勢し、固定ローラは当該方向の移動を規制する。つまり、固定ローラでワークの径方向の移動が規制されている状態でワークを付勢ローラで付勢するので、ワークが回転しても、回転中心がずれることが少なく、ワークが調芯されることになる。
本発明では、ワークへの付勢力の調整は、付勢ローラのみで十分であるから、ワークの内外においてスプリングでローラを付勢する従来例に比べて、ワークの調芯が容易に行われる。
しかも、熱処理されたワークが径方向に膨張や収縮しても、その膨張や収縮が付勢ローラで吸収されることになるので、この点からも調芯が容易に行えることになる。
【0009】
本発明では、前記付勢ローラは、エアーシリンダ装置で進退される構成が好ましい。
この構成では、エアーシリンダ装置で付勢ローラがワークに向けて付勢されるから、エアーシリンダ装置に供給するエアーの量を調整することで、付勢ローラの付勢力をワークの大きさに合わせて正確に調整することができる。
【0010】
本発明では、前記エアーシリンダ装置は減圧弁を有する構成が好ましい。
この構成では、ワークの膨張により、付勢ローラを介してエアーシリンダ装置に大きな負荷がかかっても、その負荷を減圧弁により逃がすことができる。そのため、ワークの破損を防止できる。
【0011】
本発明では、前記付勢ローラは前記ワークの外周領域に配置され、前記固定ローラは前記ワークの外周領域であって前記ワークの回転中心を挟んで前記付勢ローラとは反対側に配置され、前記熱処理本体部は、前記ワークの内周領域に配置された加熱部を有する構成が好ましい。
この構成では、装置が大がかりになりやすい付勢ローラと加熱部とがワークの内外に配置されるので、装置の設置を効率的に行うことができる。
しかも、付勢ローラと固定ローラとがワークを挟んで反対側に位置するので、付勢ローラでワークを付勢する向きが若干ずれたとしても、固定ローラでその移動を確実に規制することができ、ワークの調芯が確実に行える。これに対して、固定ローラと付勢ローラとがワークを挟みワークの内外に配置されているとすると、付勢ローラでワークを付勢する方向が若干ずれたとしても、ワークの回転中心がずれる方向に力が働くことになり、調芯が十分ではなくなる。
【0012】
本発明では、前記付勢ローラは前記ワークの内周領域に配置され、前記固定ローラは前記ワークの内周領域であって前記ワークの回転中心を挟んで前記付勢ローラとは反対側に配置され、前記熱処理本体部は、前記ワークの外周領域に配置された加熱部を有する構成が好ましい。
この構成では、付勢ローラと固定ローラとがワークの回転中心を挟んで反対側に位置するので、付勢ローラでワークを付勢する向きが若干ずれたとしても、固定ローラでその移動を確実に規制することができ、ワークの調芯が確実に行える。
しかも、装置が大がかりになりやすい付勢ローラと加熱部とがワークの内外に配置されるので、装置の設置を効率的に行うことができる。
【0013】
本発明では、前記付勢ローラは第一付勢ローラと第二付勢ローラとを備え、前記固定ローラは第一固定ローラと第二固定ローラとを備え、前記第一付勢ローラと前記第一固定ローラとは対とされ、前記第二付勢ローラと前記第二固定ローラとは対とされ、前記第一付勢ローラと前記第一固定ローラとを結ぶ線分と第二付勢ローラと前記第二固定ローラとを結ぶ線分とは交差している構成が好ましい。
この構成では、付勢ローラと固定ローラとが2対用いられ、対となる付勢ローラと固定ローラとを結ぶ線が互いに交差する。そのため、ワークの調芯を異なる2つの方向から行うことになるので、ワークの調芯をより確実に行える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態にかかる熱処理装置を示す平面図。
図2】前記熱処理装置の側面図。
図3】付勢機構を示す正面図。
図4】付勢機構を示す平面図。
図5】本発明の第2実施形態にかかる熱処理装置の概略を示す平面図。
図6】本発明の変形例の概略を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1から図4には本発明の第1実施形態が示されている。第1実施形態は、大型の円環形状の加熱対象を加熱及び冷却して焼入れするための旋回型焼入装置である。
第1実施形態の全体構成が図1及び図2に示されている。
図1及び図2において、熱処理装置は、ワークWを支持する治具1と、治具1に支持されたワークWを回転させるための回転駆動部2と、治具1に載置されたワークWを熱処理する熱処理本体部3とを備える。
【0016】
[ワーク]
ワークWは、鋼材のような焼入可能な材料であって、所定の大きさ、例えば、直径が1m以上の円環形状を有する部材である。ワークWは、その軸方向に沿う断面形状が全周で略一定に形成されている。
ワークWは、表面側のみが加熱されるものであっても、内部まで加熱されるものであってもよいが、ここでは軸方向の一方側と他方側とで形状が異なる非対称形状を有し、ワークWの外側表面に無端帯状に設けられた被加熱領域を有している。
【0017】
[装置概要]
治具1は、ワークWを載置するワーク支持部5と、ワーク支持部5の中央に設けられた中央構造部6と、中央構造部6から駆動力をワーク支持部5へ伝達してワーク支持部5に載置されたワークWを環形状に沿って回転させる回転機構7と、ワーク支持部5に載置されたワークWを調芯する調芯機構8と、を備える。
ワーク支持部5は、中央構造部6の下部に接合されて放射方向に延びる8本の放射架台51と、放射架台51の先端側に放射方向に沿って配置された回転ローラ52とを備える。放射架台51及び回転ローラ52は、円周方向に略均等な間隔で配列されている。
回転ローラ52は、鋼又はセラミックスからなり、各放射架台51に径方向に沿って配置されている。
【0018】
中央構造部6は、ワーク支持部5の中央から上方に突出して設けられ、上部に図示しない搬送機構が接続されている。治具1は搬送機構により搬送及び昇降可能となっている。中央構造部6の上端にモータ等の回転駆動部2が接続されている。
回転機構7は、中央構造部6及びワーク支持部5に設けられ、回転駆動部2の駆動力を回転ローラ52まで伝達するように構成されている。
回転機構7は、中央構造部6の内部に配置された駆動軸71と、各放射架台51の上に回転可能に設けられた従動軸72とを備え、図示しないユニバーサルジョイントを介して回転ローラ52に連結されている。
【0019】
[調芯機構]
調芯機構8は、放射架台51に回転自在に設けられワークWの外周面に周面が当接する固定ローラ81と、固定ローラ81とはワークWを挟んで反対側に配置される付勢機構82とを備える。
付勢機構82は、ワークWを径方向の外側から内側に向かう方向に付勢する付勢ローラ83と、付勢ローラ83を進退するエアーシリンダ装置84とを備えている。
固定ローラ81は、付勢ローラ83がワークWを付勢する方向の移動を規制するものである。
【0020】
[固定ローラ]
図1に示される通り、固定ローラ81は、8本の放射架台51のうち1本の放射架台51の先端に配置された第一固定ローラ811と、当該放射架台51に対して直交配置された放射架台51の先端に配置された第二固定ローラ812とを有する。
[付勢ローラ]
付勢ローラ83は、第一固定ローラ811が配置された放射架台51とはワークWの回転中心(中央構造部6)を挟んで反対側の放射架台51の先端に配置された第一付勢ローラ831と、第二固定ローラ812が配置された放射架台51とはワークWの回転中心を挟んで反対側にある放射架台51の先端に配置された第二付勢ローラ832とを有する。
【0021】
第一付勢ローラ831及び第二付勢ローラ832は、それぞれワークWの外周領域に配置され、第一固定ローラ811及び第二固定ローラ812は、それぞれワークWの外周領域に配置されている。
第一付勢ローラ831と第一固定ローラ811とは対とされ、第二付勢ローラ832と第二固定ローラ812とは対とされる。
第一付勢ローラ831と第一固定ローラ811とを結ぶ線分と第二付勢ローラ832と第二固定ローラ912とを結ぶ線分とは直交している。
図2に示される通り、第一固定ローラ811は、下端が放射架台51に取り付けられた軸81Aと、軸81Aに回転自在に設けられたローラ本体81Bとを有する。第二固定ローラ812は第一固定ローラ811と同じ構造である。
【0022】
[付勢機構]
付勢機構82の詳細な構成が図3及び図4に示されている。
図3及び図4において、前述の通り、付勢機構82は付勢ローラ83及びエアーシリンダ装置84を備えて構成されている。
エアーシリンダ装置84は、放射架台51に取り付けられたL字状のベース85と、ベース85の一片部に固定されたシリンダ86と、シリンダ86に進退自在に設けられたピストン87と、ベース85の一片部に取り付けられたガイドロッド88と、ピストン87を進退駆動させるピストン駆動回路9とを備えている。ベース85の他片部は放射架台51に取り付けられている。
【0023】
ガイドロッド88は、ベース85の他片部に取り付けられた筒状部881と、筒状部881に進退自在に設けられたロッド882とを有し、ロッド882はピストン87と平行に配置されている。
ロッド882の先端部及びピストン87の先端部は、付勢ローラ83の取付部とされる。
付勢ローラ83は、ガイドロッド88の先端部とピストン87の先端部とに設けられた取付プレート83Aと、取付プレート83Aに固定されたローラ支持部83Bと、ローラ支持部83Bに固定され上下に延びる軸83Cと、軸83Cに回転自在に設けられたローラ本体83Dとを有する。ローラ本体83Dは、ワークWの外周部に当接される。
【0024】
ピストン駆動回路9は、シリンダ86の一端部に接続された第一配管部91と、シリンダ86の他端部に接続された第二配管部92と、第一配管部91と第二配管部92とのそれぞれに設けられた逆止弁付流量制御弁93,94と、第一配管部91に設けられた減圧弁95と、第一配管部91と第二配管部92とに選択的に空気を供給する切換弁96とを有する。切換弁96を制御して、第一配管部91に空気を供給すると、ピストン87が前進して付勢ローラ83でワークWを付勢し、第二配管部92に空気を供給すると、ピストン87が後退して付勢ローラ83がワークWから離れる。第一配管部91に供給される空気の圧力が過剰な値となると、減圧弁95が作動する。
【0025】
[熱処理本体部]
図1及び図2に戻り、熱処理本体部3は、治具1の上のワークWを加熱する加熱部としての加熱コイル30と、加熱コイル30の下方に設けられた冷却部4とを備えている。
加熱コイル30は、所定高さに配置された治具1の互いに隣接する放射架台51の各間隙であって、ワークWの内周領域に配置されている。加熱コイル30は、ワークWの回転中心に対して周方向に略均等に配設されるのが好適である。
加熱コイル30は、図示しない変位手段により進退可能となっており、治具1が所定位置に配置された状態で、ワークWの被加熱領域に対向近接するように構成されている。
冷却部4は、熱処理本体部3の下方に設けられており、冷却液吐出部41が水槽42に配置された構造である。
【0026】
[熱処理方法]
次に、第1実施形態の熱処理装置を用いてワークWを焼入処理する方法について説明する。
まず、治具1を所定位置に配置して、ワーク支持部5の複数の回転ローラ52の上にワークWを載置する。
[加熱工程]
治具1を搬送あるいは昇降してワークWを所定位置に配置する。そして、加熱コイル30を移動させて、ワークWの被加熱領域に対向配置する。この状態で、ピストン駆動回路9を作動させて第一付勢ローラ831と第二付勢ローラ832とでワークWを互いに直交する径方向に付勢する。第一付勢ローラ831でワークWを付勢する方向には第一固定ローラ811が配置され、第二付勢ローラ832でワークを付勢する方向には第二固定ローラ812が配置されているので、第一固定ローラ811と第二固定ローラ812とでワークWの径方向の移動が規制される。
【0027】
治具1の回転ローラ52によりワークWを環形状に沿って回転させつつ、加熱コイル30に給電して誘導加熱する。
誘導加熱に伴って、ワークWが熱膨張するが、熱膨張に伴って第一付勢ローラ831と第二付勢ローラ832とがそれぞれ後退することになる。
[冷却工程]
加熱終了後、治具1を下降させて冷却部4の所定位置に配置する。加熱工程と同様に、第一付勢ローラ831と第二付勢ローラ832とでワークWを互いに直交する径方向に付勢するとともに、第一固定ローラ811と第二固定ローラ812とでワークWの径方向の移動を規制する。そして、ワークWを回転させつつ冷却液吐出部41から冷却液をワークWに接触させ、ワークWの全体を冷却する。
冷却に伴って、ワークWが熱収縮するが、熱収縮に伴って第一付勢ローラ831と第二付勢ローラ832とがそれぞれ前進することになる。
冷却後、再び治具1を所定の搬出位置に搬送し、ワークWを搬出することで、焼入処理を終了する。
【0028】
[実施形態の効果]
第1実施形態では次の効果を奏することができる。
(1)環状のワークWを熱処理する熱処理本体部3と、ワークWをワーク周方向に回転させる回転機構7と、ワークWを径方向のうち外側から内側に向かう方向に付勢する付勢ローラ83と、付勢ローラ83がワークWを付勢する方向の移動を規制する固定ローラ81とを備えて熱処理装置を構成した。回転機構7によってワークWを回転させながら、熱処理本体部3でワークWに熱処理を施す際に、付勢ローラ83がワークWを付勢するとともに、固定ローラ81でワークWの移動を規制するので、ワークWの回転中心がずれることが少なく調芯が行われる。ワークWの調芯にあたり、ワークWへの付勢力の調整は、付勢ローラ83のみで十分であるから、調芯が容易に行われる。しかも、熱処理されたワークWが径方向に膨張あるいは収縮しても、その膨張や収縮が付勢ローラ83で吸収されることになるので、この点からも調芯が容易に行えることになる。
【0029】
(2)付勢ローラ83はエアーシリンダ装置84で進退されるから、エアーシリンダ装置84に供給するエアーの量を調整することで、付勢ローラ83の付勢力をワークWの大きさに合わせて正確に調整することができる。
【0030】
(3)エアーシリンダ装置84は減圧弁95を有するから、ワークWの膨張により、付勢ローラ83を介してエアーシリンダ装置84に大きな負荷がかかっても、その負荷を減圧弁95により逃がすことで、ワークWの破損を防止できる。
【0031】
(4)付勢ローラ83と固定ローラ81とがそれぞれワークWの外周領域であってワークWの回転中心を挟んで配置されているので、付勢ローラ83でワークWを付勢する向きが若干ずれたとしても、固定ローラ81でワークWの移動を確実に規制することができる。
(5)加熱コイル30は、ワークWの内周領域に配置されているので、装置が大がかりになりやすい付勢ローラ83と加熱コイル30とがワークWの外内に配置されるので、装置の設置を効率的に行うことができる。
【0032】
(6)付勢ローラ83と固定ローラ81とがそれぞれ2対用いられ、対となる第一付勢ローラ831と第一固定ローラ811とを結ぶ線と第二付勢ローラ832と第一固定ローラ811とを結ぶ線とが互いに直交するため、ワークWの調芯を異なる2つの方向から行うことになり、ワークWの調芯をより確実に行える。
【0033】
(7)エアーシリンダ装置84は、シリンダ86に進退自在に設けられたピストン87と、ピストン87と平行に配置されたガイドロッド88とを備え、ガイドロッド88のロッド882の先端部及びピストン87の先端部が付勢ローラ83の取付部とされるので、ガイドロッド88により、付勢ローラ83が連結されたピストン87が安定して進退駆動される。そのため、この点からも、ワークWの調芯が確実に行える。
【0034】
次に、本発明の第2実施形態を図5に基づいて説明する。
第2実施形態は第1実施形態とは固定ローラ81、付勢ローラ83及び加熱コイル30の配置位置が相違するものであり、他の構成は第1実施形態と同じである。第2実施形態の説明において、第1実施形態と同一構成部分は同一符号を付して説明を省略する。
図5は、第2実施形態の熱処理装置の平面を示すものであるが、第1実施形態が示される図1に比べて簡略して表示されている。
第2実施形態では、付勢ローラ83はワークWの内周領域に配置され、固定ローラ81はワークWの内周領域であってワークWの回転中心を挟んで付勢ローラ83とは反対側に配置されている。
【0035】
加熱コイル30は、ワークWの外周領域に配置されている。なお、図5では、放射架台51が十字状に配置されている状態が示されているが、図1と同様の配列でもよい。図5では、回転ローラ52、回転駆動部2及び中央構造部6の図示が省略されている。
加熱コイル30は、隣合う放射架台51の間であってワークWの外周領域に配置されている。
第2実施形態におけるワークWの熱処理方法は第1実施形態と同じである。
【0036】
[第2実施形態]
従って、第2実施形態では、第1実施形態の(1)~(3)(6)(7)と同様の効果を奏することができる他、次の効果を奏することができる。
(8)付勢ローラ83と固定ローラ81とがそれぞれワークWの内周領域であってワークWの回転中心を挟んで離れて配置されているので、付勢ローラ83でワークWを付勢する向きが若干ずれたとしても、固定ローラ81でワークWの移動を確実に規制することができる。
(9)加熱コイル30は、ワークWの外周領域に配置されているので、装置が大がかりになりやすい付勢ローラ83と加熱コイル30とがワークWの内外に配置されるので、装置の設置を効率的に行うことができる。
【0037】
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記各実施形態では、付勢ローラ83と固定ローラ81とをワークWの回転中心を挟んで互いに離れた位置に配置したが、本発明では、図6に示される通り、付勢ローラ83と固定ローラ81とをワークWを挟んで近接配置してもよい。即ち、付勢ローラ83をワークWの内周に当接させ、固定ローラ81をワークWの外周に当接させる構成としてもよい。
【0038】
前記各実施形態では、付勢ローラ83を進退させる手段としてエアーシリンダ装置84を用いたが、本発明では、エアーシリンダ装置84に代えてスプリングを用いてもよい。
さらに、本発明では、熱処理するワークWによっては、熱処理本体部3として冷却部4を必ずしも設けることを要せず、加熱コイル30のみとしてもよい。
さらに、加熱部は加熱コイル30に限定されるものではなく、他の加熱手段、例えば、ヒータでもよい。
また、本発明では、付勢ローラ83と固定ローラ81とをそれぞれ1対用いるものでもよい。
【符号の説明】
【0039】
3…熱処理本体部、30…加熱コイル(加熱部)、4…冷却部、51…放射架台、7…回転機構、8…調芯機構、81…固定ローラ、811…第一固定ローラ、812…第二固定ローラ、82…付勢機構、83…付勢ローラ、831…第一付勢ローラ、832…第二付勢ローラ、84…エアーシリンダ装置、9…ピストン駆動回路、95…減圧弁、W…ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6