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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】ピストンパッキン装着用治具
(51)【国際特許分類】
   B25B 27/12 20060101AFI20220510BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20220510BHJP
   F16J 9/00 20060101ALI20220510BHJP
   B23P 19/02 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
B25B27/12
F02F5/00 M
F16J9/00 Z
B23P19/02 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017189246
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2018069444
(43)【公開日】2018-05-10
【審査請求日】2020-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2016206622
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 彰
(72)【発明者】
【氏名】山下 純一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 謙一
【審査官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-326131(JP,A)
【文献】特開2001-162553(JP,A)
【文献】中国実用新案第2863370(CN,Y)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0002017(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0069499(US,A1)
【文献】特開2007-021694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 27/12
F02F 5/00
B23P 19/00-19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンヘッドの外周面に設けられた環状溝にピストンパッキンを装着する際に用いるピストンパッキン装着用治具であって、
前記ピストンヘッドの軸方向に沿って前記ピストンヘッドに装着される略円筒形状のピストンパッキン挿入用治具と、
前記ピストンヘッドの軸方向に沿って移動可能に設けられ、前記ピストンパッキン挿入用治具の外周面に沿って装着されるピストンパッキン押込み治具と、を含み、
前記ピストンパッキン挿入用治具は、
前記ピストンパッキンの内径以下の外径を有する第1外径領域と、
内部に前記ピストンヘッドが挿入され、前記第1外径領域よりも大きい外径を有する第2外径領域と、を有し、
前記ピストンパッキン押込み治具は、
周方向に沿って複数に分割された状態で配置され、それぞれ軸方向に沿って延びる弾性変形可能な押込み辺を有し、
前記ピストンヘッドの前記外周面に設けられた前記環状溝に前記ピストンパッキンを装着する際には、
前記ピストンパッキン挿入用治具の前記第2外径領域の下端部が、前記環状溝の近傍位置となるように前記第2外径領域内に前記ピストンヘッドを挿入した状態で、前記ピストンパッキン挿入用治具の前記第1外径領域に前記ピストンパッキンを嵌め入れ、さらに、前記ピストンパッキン押込み治具を前記ピストンパッキン挿入用治具の外周面に沿って装着し、前記ピストンパッキン押込み治具を軸方向に沿って移動させることで、前記押込み辺により前記ピストンパッキンが押し進められるとともに、前記第2外径領域の外径寸法に従って拡径された状態で、前記ピストンパッキンが前記第2外径領域の下端部を通過することで、前記環状溝に前記ピストンパッキンが装着されることを可能とし、
前記ピストンパッキン挿入用治具は、周方向に沿って複数に分割された状態で配置され、それぞれ軸方向に沿って延びるガイド辺を有し、
複数の前記ガイド辺の内部には、各前記ガイド辺を半径方向の外側に向けて移動させることにより、前記第1外径領域および前記第2外径領域の外径寸法を可変とする第1外形寸法可変機構が設けられ、
前記第1外形寸法可変機構は、複数の前記ガイド辺に設けられた第1位置決めピンを、第1カムプレートに形成された第1カム孔の階段状の形状に応じて一時停止可能とすることで前記ガイド辺の拡径寸法の調整が可能であり、
複数の前記押込み辺の内部には、各前記押込み辺を半径方向の外側に向けて移動させることにより、当該ピストンパッキン押込み治具の外径寸法を可変とする第2外形寸法可変機構が設けられ、
前記第2外形寸法可変機構は、複数の前記押込み辺に設けられた第2位置決めピンを、第2カムプレートに形成された第2カム孔の階段状の形状に応じて一時停止可能とすることで前記押込み辺の拡径寸法の調整が可能である、
ピストンパッキン装着用治具。
【請求項2】
前記ピストンヘッドの前記環状溝に装着された前記ピストンパッキンを半径方向に縮めるため、前記ピストンパッキン挿入用治具および前記ピストンパッキン押込み治具を前記ピストンヘッドから取り外した後に、前記ピストンパッキンが前記環状溝に装着された状態で、前記ピストンヘッドに巻きついて前記ピストンパッキンを半径方向に縮めるピストンパッキン締結装置をさらに備える、請求項1に記載のピストンパッキン装着用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピストンパッキン装着用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダ内を往復運動する筒状形態のピストンの外周面には、シリンダ内におけるピストンの仕事効率を高めるために、ピストンの外周面に設けられた環状の溝にピストンパッキンが装着されている。溝にピストンパッキンを装着する際には、一旦ピストンパッキンを径方向に拡径させる必要がある。たとえば、特開平10-235527号公報(特許文献1)には、ピストンリング装着装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-235527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示されるピストンリング装着装置は大掛かりな装置構成となるため、その取扱いには注意を要する場合がある。
【0005】
この発明の目的は、上記の課題を解決することにあり、簡便な装置構成により容易にピストンリングをピストンに装着することが可能なピストンパッキン装着用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このピストンパッキン装着用治具は、ピストンヘッドの外周面に設けられた環状溝にピストンパッキンを装着する際に用いるピストンパッキン装着用治具であって、以下の構成を備える。
【0007】
上記ピストンヘッドの軸方向に沿って上記ピストンヘッドに装着される略円筒形状のピストンパッキン挿入用治具と、上記ピストンヘッドの軸方向に沿って移動可能に設けられ、上記ピストンパッキン挿入用治具の外周面に沿って装着されるピストンパッキン押込み治具と、を含む。
【0008】
上記ピストンパッキン挿入用治具は、上記ピストンパッキンの内径以下の外径を有する第1外径領域と、内部に上記ピストンヘッドが挿入され、上記第1外径領域よりも大きい外径を有する第2外径領域と、を有する。上記ピストンパッキン押込み治具は、周方向に沿って複数に分割された状態で配置され、それぞれ軸方向に沿って延びる弾性変形可能な押込み辺を有する。
【0009】
上記ピストンヘッドの上記外周面に設けられた上記環状溝に上記ピストンパッキンを装着する際には、上記ピストンパッキン挿入用治具の上記第2外径領域の下端部が、上記環状溝の近傍位置となるように上記第2外径領域内に上記ピストンヘッドを挿入した状態で、上記ピストンパッキン挿入用治具の上記第1外径領域に上記ピストンパッキンを嵌め入れ、さらに、上記ピストンパッキン押込み治具を上記ピストンパッキン挿入用治具の外周面に沿って装着し、上記ピストンパッキン押込み治具を軸方向に沿って移動させることで、上記押込み辺により上記ピストンパッキンが押し進められるとともに、上記第2外径領域の外径寸法に従って拡径された状態で、上記ピストンパッキンが上記第2外径領域の下端部を通過することで、上記環状溝に上記ピストンパッキンが装着されることを可能とする。
【0010】
他の形態では、上記ピストンパッキン挿入用治具は、周方向に沿って複数に分割された状態で配置され、それぞれ軸方向に沿って延びるガイド辺を有し、複数の上記ガイド辺の内部には、各上記ガイド辺を半径方向の外側に向けて移動させることにより、上記第1外径領域および上記第2外径領域の外径寸法を可変とする第1外形寸法可変機構が設けられ、複数の上記押込み辺の内部には、各上記押し辺を半径方向の外側に向けて移動させることにより、当該ピストンパッキン押込み治具の外径寸法を可変とする第2外形寸法可変機構が設けられている。
【0011】
他の形態では、上記ピストンヘッドの上記環状溝に装着された上記ピストンパッキンを半径方向に縮めるため、上記ピストンパッキン挿入用治具および上記ピストンパッキン押し治具を上記ピストンヘッドから取り外した後に、上記ピストンパッキンが上記環状溝に装着された状態で、上記ピストンヘッドに巻きついて上記ピストンパッキンを半径方向に縮めるピストンパッキン締結装置をさらに備える。
【発明の効果】
【0012】
このピストンパッキン装着用治具によれば、簡便な装置構成により容易にピストンリングをピストンに装着することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1におけるピストンパッキン装着用治具の外観構成を示す全体斜視図である。
図2】実施の形態1におけるピストンパッキン装着用治具を用いたピストンパッキンの装着状態を示す第1模式図である。
図3】実施の形態1におけるピストンパッキン装着用治具を用いたピストンパッキンの装着状態を示す第2模式図である。
図4】実施の形態1におけるピストンパッキン挿入用治具の縦断面図である。
図5】実施の形態1におけるピストンパッキン挿入用治具を構成するカムプレートの平面図である。
図6図5中のVI-VI線矢視断面図である。
図7】実施の形態1におけるピストンパッキン挿入用治具を構成する底プレートの平面図である。
図8図7中のVIII-VIII線矢視断面図である。
図9】実施の形態1におけるピストンパッキン挿入用治具の第1外形寸法可変機構を用いて外径寸法を拡大させた状態の縦断面図である。
図10】実施の形態1におけるピストンパッキン押込み治具の縦断面図である。
図11】実施の形態1におけるピストンパッキン押込み治具を構成するカムプレートの平面図である。
図12】実施の形態1におけるピストンパッキン押込み治具を構成する底プレートの平面図である。
図13図12中のXIII-XIII線矢視断面図である。
図14】実施の形態1におけるピストンパッキン押込み治具の第2外形寸法可変機構を用いて外径寸法を拡大させた状態の縦断面図である。
図15】実施の形態2におけるピストンパッキン締結装置の外観構成を示す全体斜視図である。
図16】実施の形態3におけるピストンパッキン押込み治具の外観構成を示す全体斜視図である。
図17】実施の形態3におけるピストンパッキン押込み治具の底面図である。
図18】実施の形態3におけるピストンパッキン押込み治具の外観構成を示す第1全体分解斜視図である。
図19】実施の形態3におけるピストンパッキン押込み治具の外観構成を示す第2全体分解斜視図である。
図20】実施の形態3におけるピストンパッキン押込み治具の縦断面図である。
図21図20中のXXI-XXI線矢視断面図である。
図22図20中のXXII-XXII線矢視断面図である。
図23】実施の形態3におけるピストンパッキン押込み治具の押込み辺を最も拡径させた状態での外観構成を示す全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に基づいた実施の形態におけるピストンパッキン装着用治具について、以下、図を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0015】
(実施の形態1:ピストンパッキン装着用治具)
図1から図3を参照して、本実施の形態におけるピストンパッキン装着用治具について説明する。図1は、ピストンパッキン装着用治具の外観構成を示す全体斜視図、図2および図3は、ピストンパッキン装着用治具を用いたピストンパッキンの装着状態を示す第1および第2模式図である。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態におけるピストンパッキン装着用治具は、ピストンヘッド1の外周面に設けられた環状溝1gに無端環状のピストンパッキン20を装着する際に用いるピストンパッキン装着用治具である。
【0017】
ピストンパッキン装着用治具は、ピストンパッキン挿入用治具100と、ピストンパッキン押込み治具200とを含む。ピストンパッキン挿入用治具100は、ピストンヘッド1の軸方向に沿ってピストンヘッド1に装着される略円筒形状を有している。ピストンパッキン挿入用治具100は、ピストンパッキン20の内径以下の外径を有する第1外径領域100Aと、内部にピストンヘッド1が挿入され、第1外径領域100Aよりも大きい外径を有する第2外径領域100Bとを有している。
【0018】
本実施の形態では、第1外径領域100Aは、さらに、外径寸法が変化しない平行領域100A1と、この平行領域100A1と第2外径領域100Bとを平滑に連結するテーパ領域100A2を有している。
【0019】
詳細は後述するが、本実施の形態のピストンパッキン挿入用治具100は、第1外径領域100Aおよび第2外径領域100Bの外径寸法を可変とする第1外形寸法可変機構が設けられている。ピストンパッキン挿入用治具100は、外径寸法を可変とするために、周方向に沿って複数に分割された状態で配置され、それぞれ軸方向に沿って延びるガイド辺130を有している。本実施の形態では、円周上6分割され、6枚のガイド辺130を有している。図1に示す状態は、ピストンパッキン挿入用治具100の外径寸法は最も小さい寸法位置に設定されている。
【0020】
ピストンパッキン押込み治具200は、周方向に沿って複数に分割された状態で配置され、それぞれ軸方向に沿って延びる弾性変形可能な押込み辺220を有している。本実施の形態では、円周上12分割され、12枚の押込み辺220を有している。押込み辺220は例えば樹脂成形品などからなる。
【0021】
詳細は後述するが、本実施の形態のピストンパッキン押込み治具200も、当該ピストンパッキン押込み治具200の外径寸法を可変とする第2外形寸法可変機構が設けられている。各押込み辺220の上端は、カムプレート210に固定されている。図1に示す状態は、ピストンパッキン押込み治具200の外径寸法は最も小さい寸法位置に設定されている。
【0022】
(ピストンパッキン20の装着手順)
次に、図2および図3を参照して、上記構成からなるピストンパッキン挿入用治具100およびピストンパッキン押込み治具200を用いて、ピストンヘッド1の外周面に設けられた環状溝1gにピストンパッキン20を装着する手順について説明する。
【0023】
図2に示すように、ピストンパッキン挿入用治具100の第2外径領域100Bの下端部が、環状溝1gの近傍位置となるように第2外径領域100B内にピストンヘッド1を挿入する。次に、ピストンパッキン挿入用治具100の第1外径領域100Aにピストンパッキン20を嵌め入れる。次に、ピストンパッキン押込み治具200をピストンパッキン挿入用治具100の外周面に沿って装着する。
【0024】
図3に示すように、ピストンパッキン押込み治具200を軸方向(図中矢印P方向)に沿って移動させることで、各押込み辺220がピストンパッキン挿入用治具100の外面に沿って拡がりながら(図中矢印L1方向)ピストンパッキン20を押し進める。これにより、ピストンパッキン20は、ピストンパッキン挿入用治具100の第2外径領域100Bの外径寸法に従って拡径される。さらに、ピストンパッキン押込み治具200によりピストンパッキン20を押し進めることで(図中矢印P1方向)、ピストンパッキン20が第2外径領域100Bの下端部を通過して、ピストンヘッド1の外周面に設けられた環状溝1gにピストンパッキン20が装着される(嵌め入れられる)。
【0025】
このように、ピストンパッキン押込み治具200をピストンパッキン挿入用治具100の外面に沿って押し進めることのみで、容易にピストンヘッド1の外周面に設けられた環状溝1gにピストンパッキン20を装着することができる。
【0026】
(第1外形寸法可変機構/第2外形寸法可変機構)
ピストンヘッド1が1種類しかない場合には、ピストンパッキン挿入用治具100およびピストンパッキン押込み治具200のぞれぞれに第1外形寸法可変機構および第2外形寸法可変機構を設ける必要はないが、ピストンヘッド1には、様々なサイズが存在し、そのサイズに適合する様々なサイズのピストンパッキン20が存在する。
【0027】
そのサイズごとにピストンパッキン装着用治具を作成してもよいが、本実施の形態では、ピストンパッキン挿入用治具100およびピストンパッキン押込み治具200のぞれぞれに第1外形寸法可変機構および第2外形寸法可変機構を設けることにより、様々なサイズのピストンヘッド1およびピストンパッキン20に対して、一つのピストンパッキン装着用治具で対応可能としている。
【0028】
(ピストンパッキン挿入用治具100に採用される第1外形寸法可変機構)
図4から図9を参照して、ピストンパッキン挿入用治具100に採用される第1外形寸法可変機構について説明する。図4は、ピストンパッキン挿入用治具の縦断面図、図5は、ピストンパッキン挿入用治具を構成するカムプレートの平面図、図6は、図5中のVI-VI線矢視断面図、図7は、ピストンパッキン挿入用治具を構成する底プレートの平面図、図8は、図7中のVIII-VIII線矢視断面図、図9は、ピストンパッキン挿入用治具の第1外形寸法可変機構を用いて外径寸法を拡大させた状態の縦断面図である。
【0029】
図4を参照して、各ガイド辺130の内側には、スライドプレート160が設けられている。このスライドプレート160は、ガイド辺130と一体に成形されてもよいし、ガイド辺130とは別体構造とし、ボルト等を用いて一体構造としてもよい。スライドプレート160の上端部は、半径方向に延びる細長形状を有し、後述する底プレート150に設けられるガイド溝152(図7参照)内を半径方向に沿ってスライド可能に設けられる。スライドプレート160の上側には、カムプレート140が位置し、このカムプレート140の中心位置には円柱状のハンドルノブ110がボルトB1を用いて固定されている。カムプレート140の下方には、底プレート150が位置している。
【0030】
図5および図6を参照して、カムプレート140の中心には、ボルト孔142が設けられ、このボルト孔142の周りには、同心円上にハンドルノブ110の固定用のボルト孔144が3か所設けられている。さらに、ボルト孔144の周囲には、同心円上に放射状に拡がる複数のカム孔143が設けられている。本実施の形態では、60度ピッチで合計6箇所にカム孔143が設けられている。このカム孔143は、階段状に設けられ、合計5カ所に、後述の位置決めピンP1が一次停止可能な停止領域143pが設けられている。よって、5段階に拡径寸法を調節することができる。
【0031】
図7および図8を参照して、底プレート150は、円柱状のコア部材154と、このコア部材154の上端から半径方向の外方に向って拡がる円盤状のガイドプレート151とを有する。ガイドプレート151の中心位置には、雌ネジ孔153が設けられている。ガイドプレート151には、60度ピッチで半径方向に延びるガイド溝152が合計6箇所に設けられている。さらに、ガイド溝152が位置するコア部材154の側壁には、ガイド溝152に通じる縦溝155が設けられている。
【0032】
再び図4を参照して、ハンドルノブ110、カムプレート140、および、底プレート150は、ボルト120等を用いて一体となるように固定される。スライドプレート160は、ガイドプレート151のガイド溝152に沿って半径方向沿って摺動可能に嵌め入れられるとともに、スライドプレート160に設けられた位置決めピンP1が、カム孔143に挿入される。縦溝155とスライドプレート160に設けられたバネ孔160aとの間には、縦溝155に対してスライドプレート160を外方に向けて付勢するコイルバネCSが装着されている。
【0033】
上記構成を備えることにより、ハンドルノブ110を時計方向(図中矢印C方向)に回転させた場合には、位置決めピンP1がカム孔143の回転に沿って半径方向の外側に向って移動する。これにより、図9に示すように、スライドプレート160およびガイド辺130も半径方向の外側に向って移動することで、ピストンパッキン挿入用治具100の外径寸法を拡径させることができる。一方、ハンドルノブ110を反時計方向に回転させた場合には、ピストンパッキン挿入用治具100の外径寸法を縮径させることができる。
【0034】
(ピストンパッキン押込み治具200に採用される第2外形寸法可変機構)
図10から図14を参照して、ピストンパッキン押込み治具200に採用される第2外形寸法可変機構構について説明する。図10は、ピストンパッキン押込み治具200の縦断面図、図11は、ピストンパッキン押込み治具を構成するカムプレート210の平面図、図12は、ピストンパッキン押込み治具を構成する底プレート240の平面図、図13は、図12中のXIII-XIII線矢視断面図、図14は、ピストンパッキン押込み治具200の第2外形寸法可変機構を用いて外径寸法を拡大させた状態の縦断面図である。
【0035】
図10を参照して、各押込み辺220の内側には、スライドプレート230が設けられている。このスライドプレート230は、押込み辺220と一体に成形されてもよいし、押込み辺220とは別体構造とし、ボルト等を用いて一体構造としてもよい。スライドプレート230の上端部は、半径方向に延びる細長形状を有し、後述する底プレート240に設けられるガイド溝242(図12参照)内を半径方向に沿ってスライド可能に設けられる。スライドプレート230の上側には、カムプレート210が位置している。カムプレート210の下方には、底プレート240が位置している。
【0036】
図11を参照して、カムプレート210には、底プレート240を固定するために用いられるボルトB1を通過させる円弧形状のボルト孔213が、同心円状に6カ所設けられている。さらに、ボルト孔213の周囲には、同心円上に放射状に拡がる複数のカム孔212が設けられている。本実施の形態では、30度ピッチで合計12箇所にカム孔212が設けられている。このカム孔212は、階段状に設けられ、合計5カ所に、後述の位置決めピンP1が一次停止可能な停止領域212pが設けられている。よって、5段階に拡径寸法を調節することができる。
【0037】
図12および図13を参照して、底プレート240は、円盤状のガイドプレート241を有し、このガイドプレート241には、30度ピッチで半径方向に延びるガイド溝242が合計12箇所に設けられている。ガイド溝242の間には、60度ピッチで合計6箇所に、ボルトB1を用いて、底プレート240にカムプレート210を固定するためのボルト孔243が設けられている。
【0038】
再び図10を参照して、カムプレート210、および、底プレート240は、ボルトB1を用いて一体となるように固定される。スライドプレート230は、底プレート240のガイド溝242に沿って半径方向沿って摺動可能に嵌め入れられるとともに、スライドプレート230に設けられた位置決めピンP1が、カム孔212に挿入される。底プレート240とスライドプレート230に設けられたバネ孔230aとの間には、スライドプレート230を外方に向けて付勢するコイルバネCSが装着されている。
【0039】
上記構成を備えることにより、カムプレート210を時計方向(図中矢印C方向)に回転させた場合には、位置決めピンP1がカム孔212の回転に沿って半径方向の外側に向って移動する。これにより、図14に示すように、スライドプレート230および押込み辺220も半径方向の外側に向って移動することで、ピストンパッキン押込み治具200の外径寸法を拡径させることができる。一方、カムプレート210を反時計方向に回転させた場合には、ピストンパッキン押込み治具200の外径寸法を縮径させることができる。
【0040】
(実施の形態2:ピストンパッキン締結装置300)
次に、図15を参照して、ピストンパッキン締結装置300の構成について説明する。図15は、ピストンパッキン締結装置300の外観構成を示す全体斜視図である。
【0041】
上記実施の形態1に示したピストンパッキン装着用治具を用いてピストンパッキン20をピストンヘッド1の外周面に設けられた環状溝1gに装着した場合には、ピストンパッキン20が一旦半径方向の外方に向けて引き伸ばされた状態となってる。そこで、本実施の形態のピストンパッキン締結装置300を用いて、ピストンパッキン20の内径を縮める作業を行なうことが好ましい。
【0042】
ピストンパッキン締結装置300は、ピストンヘッド1の胴体部に巻き付けられる寸法矯正治具310と、寸法矯正治具310をピストンヘッド1の胴体部に締結ベルト320と、締結ベルト320を締め付ける締付具330とを含む。寸法矯正治具310は、帯状の部材を巻き付けた構造、半割状の部材を突き合わせる構造等の採用が考えられる。締結ベルト320は、締結ベルト320に設けられた係合孔(ラック)に、締付具330に設けられた爪部(ピニオン)が係合し、爪部を回転させることで締結ベルト320を締め付ける構造を採用することができる。
【0043】
(実施の形態3:ピストンパッキン押込み治具400)
図16から図23を参照して、本実施の形態におけるピストンパッキン締結装置400の構成について説明する。図16は、ピストンパッキン押込み治具400の外観構成を示す全体斜視図、図17は、ピストンパッキン押込み治具400の底面図、図18は、ピストンパッキン押込み治具400の外観構成を示す第1全体分解斜視図、図19は、ピストンパッキン押込み治具400の外観構成を示す第2全体分解斜視図、図20は、ピストンパッキン押込み治具400の縦断面図、図21は、図20中のXXI-XXI線矢視断面図、図22は、図20中のXXII-XXII線矢視断面図、図23は、ピストンパッキン押込み治具400の押込み辺を最も拡径させた状態での外観構成を示す全体斜視図である。
【0044】
上記実施の形態1において説明したピストンパッキン装着用治具と同様に、ピストンパッキン締結装置400は、ピストンパッキン挿入用治具100とともに用いられる。ピストンパッキン挿入用治具100およびピストンパッキン押込み治具400を用いた、ピストンヘッド1の外周面に設けられた環状溝1gにピストンパッキン20を装着する手順については、図2および図3に示した手順と同じであり、重複する説明は繰り返さないこととする。
【0045】
ピストンパッキン押込み治具400は、周方向に沿って複数に分割された状態で配置され、それぞれ軸方向に沿って延びる弾性変形可能な押込み辺420を有している。本実施の形態では、円周上6分割され、6枚の押込み辺420を有している。押込み辺420は例えば樹脂成形品などからなる。
【0046】
本実施の形態のピストンパッキン押込み治具400にも、上述のピストンパッキン押込み治具200と同様に、当該ピストンパッキン押込み治具400の外径寸法を可変とする第2外形寸法可変機構が設けられている。各押込み辺420の上端は、ベースプレート410に移動可能である。図16に示す状態は、ピストンパッキン押込み治具400の外径寸法は最も小さい寸法位置に設定されている。
【0047】
図16から図19を参照して、6枚の押込み辺420は、ベースプレート410に対して移動可能に保持されている。ベースプレート410の中心に設けられたハンドル460を回転させることで、押込み辺420によって規定される円の径を拡大させたり縮径させたりすることを可能にする第2外形寸法可変機構が採用されている。ベースプレート410には、ハンドル460を挟んで半径方向に張出す握手部410aが一対設けられている。ハンドル460は、把持部460aと、後述の回転盤470に固定される回転軸460bとを有する。
【0048】
図17を参照して、ベースプレート410の裏面側には、円弧形状のガイド溝410hが同芯円上に6カ所設けられている。各ガイド溝410hは、一端側から他端側に向けてベースプレート410の回転中心PCから徐々に遠ざかる円弧形状を有している。これにより、押込み辺420は、小径位置と大径位置との選択が可能となる。
【0049】
図18および図19を参照して、押込み辺420は、中間領域に薄肉領域420a、上端側に薄肉領域420aよりも厚さが厚い上側厚肉領域420eを有する。同様に、下端側にも薄肉領域420aよりも厚さが厚い下側厚肉領域420cを有する。上側厚肉領域420eには、後述する摺動ピン430を固定するための固定孔420hが設けられている。下側厚肉領域420cは、下端に向う程その厚さが厚くなるテーパ形状を有している。下側厚肉領域420cの外周面には、周方向に延びる溝420dが設けられている。
【0050】
ベースプレート410の裏面側には、回転盤470が設けられている。この回転盤470は、ハンドル460の回転動作にともなって、ベースプレート410に対して、回転中心PCを中心に回転可能に設けられている。回転盤470の側面には、半径方向に延びるガイド孔470pが、円周方向に6カ所設けられている。
【0051】
押込み辺420の上端には、上方に突出するガイドピン420bが設けられ、このガイドピン420bには、摺動リング490が嵌め入れられている。摺動リング490が嵌め入れられたガイドピン420bが、ベースプレート410の裏面側に設けられた円弧形状のガイド溝410hに収容されている。
【0052】
押込み辺420の上側厚肉領域420eに設けられた固定孔420hには、半径方向に延びる摺動ピン430の一端が固定ピン480(図20参照)を用いて固定されている。摺動ピン430の他端側は、上記した回転盤470の側面に設けられたガイド孔470pに摺動可能に収容されている。図19に示すように、180度対向する位置の摺動ピン430の外表面には、複数のリング溝430gが設けられている。
【0053】
図20を参照して、リング溝430gが設けられた摺動ピン430の外表面には、ガイド孔470pにおいて、摺動ピン430の軸方向に対して交差する方向に当接する位置決めピン495が設けられている。この位置決めピン495は、位置決めピン495の軸方向に向って弾性部材(図示省略)により摺動ピン430に向けて常に付勢されている。
【0054】
上記構成を備えるピストンパッキン押込み治具400においては、ハンドル460を回転させることにより、回転盤470が回転する。回転盤470の回転に伴なって押込み辺420も回転する。押込み辺420は、その上端がベースプレート410の裏面側に設けられたガイド溝410hに沿って移動する。同時に、摺動ピン430もガイド孔470pに沿って移動する。その結果、押込み辺420は、ハンドル460の回転方向に応じて、半径方向の内側または外側に移動する。この際、位置決めピン495が当接する摺動ピン430においては、位置決めピン495がリング溝430gに嵌り込むことで、段階的に押込み辺420の位置決め状態を固定させることができる。
【0055】
図16は、押込み辺420の位置が最も小径状態を示しており、図23は、ハンドル460を回転させることで、押込み辺420の位置が最も大径状態を示している。このように、本実施の形態におけるピストンパッキン押込み治具400によれば、ハンドル460を回転させることのみで、容易に押込み辺420の位置を変更させることができる。
【0056】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0057】
1 ピストンヘッド、1g 環状溝、20 ピストンパッキン、100 ピストンパッキン挿入用治具、100A1 平行領域、100A2 テーパ領域、100A 第1外径領域、100B 第2外径領域、110 ハンドルノブ、130 ガイド辺、140,210 カムプレート、142,144,213,243 ボルト孔、143,212 カム孔、143p,212p 停止領域、150,240 底プレート、151,241 ガイドプレート、152,242 ガイド溝、153 雌ネジ孔、154 コア部材、155 縦溝、160,230 スライドプレート、160a,230a バネ孔、200,400 ピストンパッキン押込み治具、220,420 押込み辺、300 ピストンパッキン締結装置、310 寸法矯正治具、320 締結ベルト、330 締付具、410 ベースプレート、410a 握手部、410h ガイド溝、420a 薄肉領域、420b ガイドピン、420c 下側厚肉領域、420d 溝、420h 固定孔、420e 上側厚肉領域、430 摺動ピン、430g リング溝、460 ハンドル、460a 把持部、460b 回転軸、470 回転盤、470p ガイド孔、480 固定ピン、490 摺動リング、495 位置決めピン、B1 ボルト、CS コイルバネ、P1 位置決めピン。
図1
図2
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図23