IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本塗料株式会社の特許一覧

特許7068818インク受理層用塗料、塗膜、積層体、活性エネルギー線硬化性インク、及び塗料・インクセット
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】インク受理層用塗料、塗膜、積層体、活性エネルギー線硬化性インク、及び塗料・インクセット
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/02 20060101AFI20220510BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220510BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20220510BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D5/02
C09D11/101
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017253419
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2018109175
(43)【公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2016255388
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 磨美
(72)【発明者】
【氏名】坂口 真哉
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-119587(JP,A)
【文献】特開2007-098879(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133667(WO,A1)
【文献】特開2005-280311(JP,A)
【文献】特開2008-272953(JP,A)
【文献】特開2007-168427(JP,A)
【文献】特開2007-162017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/02
C09D 5/02
C09D 11/101
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化性インクのためのインク受理層用塗料であって、前記塗料は、樹脂を含む樹脂粒子の水分散体を含み、前記樹脂において、環状構造を有するモノマー由来の構造単位の比率が0~28質量%であり、コロイダルシリを含まない、塗料。
【請求項2】
前記樹脂は、溶解度パラメータが9.50~13.0であるエチレン性不飽和モノマー由来の少なくとも1種の構造単位を25~85質量%含有する重合体である請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
活性エネルギー線硬化性インクのためのインク受理層用塗料であって、前記塗料は、樹脂を含む樹脂粒子の水分散体を含み、前記塗料の乾燥物からなる塗膜の吸インク率が100%以下である塗料。
ただし、吸インク率を測定するインクは、下記組成を有するものである。
・黒色顔料;カーボンブラック4.0質量部
・重合性化合物:2-フェノキシエチルアクリレート40.0質量部、イソボルニルアクリレート40.0質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート10.0質量部
・重合開始剤:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド5.0質量部
・分散剤 :0.5質量部
・表面調整剤:0.5質量部
【請求項4】
前記塗料の乾燥物からなる塗膜の吸インク率が100%以下である請求項1又は2に記載の塗料。
ただし、吸インク率を測定するインクは、下記組成を有するものである。
・黒色顔料;カーボンブラック4.0質量部
・重合性化合物:2-フェノキシエチルアクリレート40.0質量部、イソボルニルアクリレート40.0質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート10.0質量部
・重合開始剤:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド5.0質量部
・分散剤 :0.5質量部
・表面調整剤:0.5質量部
【請求項5】
前記樹脂粒子において、前記樹脂の分子間に架橋が存在する請求項1~4のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項6】
前記粒子間に架橋が存在する請求項1~5のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塗料の乾燥物からなる塗膜。
【請求項8】
前記塗膜の伸び率が10~30%である請求項7に記載の塗膜。
【請求項9】
活性エネルギー線硬化性インクのためのインク受理層用塗料であって、前記塗料は、樹脂を含む樹脂粒子の水分散体を含み、前記樹脂において、環状構造を有するモノマー由来の構造単位の比率が0~28質量%である塗料であり、前記塗料の乾燥物である塗膜からなるインク受理層と、活性エネルギー線硬化性インクの硬化物からなるインク層と、を備え、前記インク層は、前記インク受理層上に形成されている積層体。
【請求項10】
活性エネルギー線硬化性インクのためのインク受理層用塗料であって、前記塗料は、樹脂を含む樹脂粒子の水分散体を含み、前記樹脂において、環状構造を有するモノマー由来の構造単位の比率が0~28質量%である塗料と、活性エネルギー線硬化性インクと、を含む塗料・インクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化性インクのためのインク受理層用塗料、前記塗料を用いた塗膜、前記塗膜からなるインク受理層を備える積層体、前記塗料とともに又は前記塗膜とともに用いられる活性エネルギー線硬化性インク、前記塗料と活性エネルギー線硬化性インクとを含む塗料・インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックや建築板等の基材を加飾するため、インクジェットプリンターを用いる印刷方法が利用されている。インクジェットプリンターによる加飾においては、基材上に直接インクを印刷するのではなく、インク受理層を基材上に設けて該インク受理層上で印刷を行うことが一般的である。近年では、硬化時間が短く、生産性に優れる紫外線硬化型インクが着目されており、紫外線硬化型インクを用いた印刷システムの開発が行われている。
【0003】
紫外線硬化型インクが適用されるインク受理層は、例えば、特許文献1及び2に開示されている。より具体的に、特許文献1には、計算ガラス転移点Tg35~90℃であるアクリル系樹脂エマルジョンである受理層用塗料が開示されている。また、特許文献2には、受理層用塗料として、架橋剤を含有する熱可塑性樹脂のエマルション塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-112073号公報
【文献】特開2013-63570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の受理層用塗料から得られる受理層上で、紫外線硬化型インクを用いた印刷を行った場合、紫外線硬化型インク中のモノマーが未硬化の状態で受理層内に残存し、当該受理層を備える加飾後の製品から臭気が発生する場合がある。また、紫外線硬化型インクを用いた印刷を行った場合、従来の上記受理層上では、ドットは広がりにくく、画像の発色性が良好となりにくい。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、紫外線硬化型インク等の活性エネルギー線硬化性インクを用いた印刷に用いられる受理層であって、当該印刷を行った後にモノマーが残存しにくく、発色性に優れるインク受理層を与えるインク受理層用塗料、前記塗料を用いた塗膜、前記塗膜からなるインク受理層を備える積層体、前記塗料とともに又は前記塗膜とともに用いられる活性エネルギー線硬化性インク、前記塗料と活性エネルギー線硬化性インクとを含む塗料・インクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、環状構造を有するモノマー由来の構造単位の比率が0~28質量%である樹脂を用いた塗料により、又は、吸インク率が100%以下である塗膜を与える塗料により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第1の実施形態に係るインク受理層用塗料は、活性エネルギー線硬化性インクのための塗料であって、樹脂を含む樹脂粒子の水分散体を含み、前記樹脂において、環状構造を有するモノマー由来の構造単位の比率が0~28質量%である。
【0009】
本発明の第1の実施形態に係るインク受理層用塗料の好適例において、前記樹脂は、溶解度パラメータが9.50~13.0であるエチレン性不飽和モノマー由来の少なくとも1種の構造単位を25~85質量%含有する重合体である。
【0010】
本発明の第2の実施形態に係るインク受理層用塗料は、活性エネルギー線硬化性インクのための塗料であって、前記塗料は、樹脂を含む樹脂粒子の水分散体を含み、前記塗料の乾燥物からなる塗膜の吸インク率が100%以下である。
【0011】
本発明の第2の実施形態に係るインク受理層用塗料の好適例では、前記塗料の乾燥物からなる塗膜の吸インク率が100%以下である。
【0012】
本発明に係るインク受理層用塗料の好適例では、前記樹脂粒子において、前記樹脂の分子間に架橋が存在する。
【0013】
本発明に係るインク受理層用塗料の好適例では、前記粒子間に架橋が存在する。
【0014】
本発明に係る塗膜は、本発明に係る塗料の乾燥物からなる。
【0015】
本発明に係る塗膜の好適例では、塗膜の伸び率が10~30%である。
【0016】
本発明に係る積層体は、本発明に係る塗膜からなるインク受理層と、活性エネルギー線硬化性インクの硬化物からなるインク層と、を備え、前記インク層は、前記インク受理層上に形成されている。
【0017】
本発明に係る活性エネルギー線硬化性インクは、本発明に係る塗料とともに又は本発明に係る塗膜とともに用いられる。
【0018】
本発明に係る塗料・インクセットは、本発明に係る塗料と、活性エネルギー線硬化性インクと、を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、紫外線硬化型インク等の活性エネルギー線硬化性インクを用いた印刷に用いられる受理層であって、当該印刷を行った後にモノマーが残存しにくく、発色性に優れるインク受理層を与えるインク受理層用塗料、前記塗料を用いた塗膜、前記塗膜からなるインク受理層を備える積層体、前記塗料とともに又は前記塗膜とともに用いられる活性エネルギー線硬化性インク、前記塗料と活性エネルギー線硬化性インクとを含む塗料・インクセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪インク受理層用塗料≫
本発明の第1の実施形態に係るインク受理層用塗料は、活性エネルギー線硬化性インクのための塗料であって、樹脂を含む樹脂粒子の水分散体を含み、前記樹脂において、環状構造を有するモノマー由来の構造単位の比率が0~28質量%である。本発明の第2の実施形態に係るインク受理層用塗料は、活性エネルギー線硬化性インクのための塗料であって、前記塗料は、樹脂を含む樹脂粒子の水分散体を含み、前記塗料の乾燥物からなる塗膜の吸インク率が100%以下である。いずれのインク受理層用塗料も、活性エネルギー線硬化性インクを用いた印刷に用いられる受理層であって、当該印刷を行った後にモノマーが残存しにくく、発色性に優れるインク受理層を与えることができる。
【0021】
上記樹脂としては、特に限定されず、例えば、環状構造を有しないモノマー由来の構造単位を含むポリマー、環状構造を有しないモノマー由来の構造単位と環状構造を有するモノマー由来の構造単位とを含むポリマーが挙げられる。環状構造を有しないモノマー由来の構造単位及び環状構造を有するモノマー由来の構造単位の各々は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
環状構造を有しないモノマーとしては、特に限定されず、例えば、直鎖状又は分岐状の不飽和炭化水素、直鎖状又は分岐状の不飽和カルボン酸、直鎖状又は分岐状の不飽和カルボン酸エステル、直鎖状又は分岐状の不飽和カルボン酸アミド等が挙げられる。直鎖状又は分岐状の不飽和炭化水素の具体例としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。直鎖状又は分岐状の不飽和カルボン酸の具体例としては、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0023】
直鎖状又は分岐状の不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート等のアルケニル(メタ)アクリレート;3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等の3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリアルコキシシラン等が挙げられる。直鎖状又は分岐状の不飽和カルボン酸アミドの具体例としては、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0024】
インク受理層の発色性の観点等から、環状構造を有しないモノマーとしては、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチルメタクリレート、メタクリル酸、ダイアセトンアクリルアミド、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、アリルメタクリレートが好ましい。
【0025】
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。
【0026】
環状構造を有するモノマーとしては、特に限定されず、例えば、脂環式基含有不飽和炭化水素、芳香環含有不飽和炭化水素、脂環式基含有不飽和カルボン酸、脂環式基含有不飽和カルボン酸エステル、脂環式基含有不飽和カルボン酸アミド、芳香環含有不飽和カルボン酸、芳香環含有不飽和カルボン酸エステル、芳香環含有不飽和カルボン酸アミド、脂環式基含有アルコキシシラン、芳香環含有アルコキシシラン等が挙げられる。上記脂環式基及び上記芳香環は、環中に窒素原子、酸素原子等のヘテロ原子を有してもよいし、置換基を有してもよい。
【0027】
上記脂環式基としては、特に限定されず、例えば、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)、シクロアルケニル基(例えば、シクロヘキセニル基)等の脂環式炭化水素基;ピペリジル基等の脂環式複素環基が挙げられる。上記芳香環としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族炭素環;ピリジン環等の芳香族複素環が挙げられる。
【0028】
脂環式基含有不飽和炭化水素の具体例としては、ビニルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香環含有不飽和炭化水素の具体例としては、スチレン等が挙げられる。脂環式基含有不飽和カルボン酸の具体例としては、3-シクロヘキシルアクリル酸等が挙げられる。脂環式基含有不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタアクリレート等が挙げられる。
【0029】
脂環式基含有不飽和カルボン酸アミドの具体例としては、N-シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。芳香環含有不飽和カルボン酸の具体例としては、3-フェニル(メタ)アクリル酸等が挙げられる。芳香環含有不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、フェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。芳香環含有不飽和カルボン酸アミドの具体例としては、N-フェニル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。脂環式基含有アルコキシシランの具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0030】
芳香環含有アルコキシシランの具体例としては、3-フェノキシプロピルトリメトキシシラン、3-フェノキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。インク受理層の発色性の観点等から、シクロヘキシルメタクリレート、スチレン、グリシジルメタクリレート、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタアクリレート等が好ましい。
【0031】
発色性に優れるインク受理層が得られることから、上記樹脂において、環状構造を有するモノマー由来の構造単位の比率は、0~28質量%、好ましくは0~26質量%、より好ましくは0~25質量%である。また、環状構造を有するモノマーのわずかな存在は、ドット径の調整に効果が期待できることから、0を超えて25質量%以下であることが好ましい。
【0032】
上記樹脂は、インク受理層の発色性の観点等から、溶解度パラメータが9.50~13.0であるエチレン性不飽和モノマー由来の少なくとも1種の構造単位を好ましくは25~85質量%含有する重合体である。なお、本明細書において、エチレン性不飽和モノマーとは、分子中に二重結合を有し、かつ、この二重結合への付加を通じて重合反応を起こすモノマーをいう。エチレン性不飽和モノマーとしては、特に限定されず、例えば、環状構造を有しないモノマー及び環状構造を有するモノマーとして上記で例示したもののうち、上記二重結合を有するものが挙げられる。
【0033】
上記樹脂の計算ガラス転移温度としては、特に限定されず、成膜性の観点から、好ましくは-15~85℃であり、より好ましくは-10~50℃であり、更により好ましくは-5~40℃である。上記計算ガラス転移温度が-15℃以上であると、乾燥後に粘着感が残りにくい。上記計算ガラス転移温度が85℃以下であると、乾燥が遅くなりにくい。本明細書において、計算ガラス転移温度とは、Foxの式により計算されたガラス転移温度をいう。
【0034】
上記樹脂を含む樹脂粒子の水分散体の製造方法は、例えば、常法に従い、水を主成分とする水性媒体中で、環状構造を有しないモノマー、環状構造を有しないモノマーと環状構造を有するモノマーとの組み合わせ等を乳化重合に供することにより製造することができる。
【0035】
上記樹脂の含有量はインク受理層を形成する成分に対して、10~60質量%が好ましく、20~45質量%が更に好ましい。上記含有量が10~60質量%であると、「当該印刷を行った後にモノマーが残存しにくく、発色性に優れる」性能を保持しつつ、インク受理層とインク層又はインク受理層とクリアー層との付着性を高めることができる。
【0036】
本発明に係るインク受理層用塗料は、上記水分散体の他に、顔料を含んでもよい。顔料としては、特に限定されず、塗料業界において一般的に使用される着色顔料(例えば、白色顔料)、防錆顔料、体質顔料等が挙げられる。
【0037】
着色顔料、防錆顔料、及び体質顔料の具体例としては、酸化チタン、ベンガラ、黄色酸化鉄、カーボンブラック、トリポリりん酸アルミニウム、りん酸亜鉛、縮合りん酸アルミニウム、メタホウ酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、タルク、クレー、マイカ、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、及び酸化マグネシウム等の無機顔料や、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ナフトールレッド、キナクリドンレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、及びジオキサジンバイオレット等の有機顔料が挙げられる。顔料は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記顔料の含有量はインク受理層を形成する成分に対して、35~85質量%が好ましく、40~75質量%が更に好ましい。上記含有量が35~85質量%であると、「当該印刷を行った後にモノマーが残存しにくく、発色性に優れる」性能を保持しつつ、インク受理層とインク層又はインク受理層とクリアー層との付着性を高めることができる。
【0039】
本発明に係るインク受理層用塗料は、更に、成膜助剤を含んでもよい。成膜性の観点から、成膜助剤の含有量は、上記塗料に対し、好ましくは0~10質量%である。
【0040】
本発明に係るインク受理層用塗料には、上記した成分以外にも、塗料業界で通常使用される添加剤、例えば、光重合開始剤、光安定剤、重合禁止剤、有機溶剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、防腐剤、光安定剤等を本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。
【0041】
本発明に係るインク受理層用塗料の乾燥物からなる塗膜の吸インク率は、100%以下であり、好ましくは90%以下であり、より好ましくは85%以下である。上記吸インク率が100%以下であると、活性エネルギー線硬化性インク中のモノマーが未硬化の状態で受理層内に残存する量を低減しやすく、当該受理層を備える加飾後の製品から臭気が発生するのを効果的に抑えることができる。なお、本明細書において、吸インク率とは、実施例中に記載する方法により測定される量をいう。
【0042】
また、本発明に係るインク受理層用塗料の乾燥物からなる塗膜の伸び率を10%以上に調整することにより、塗膜の靱性が得られる傾向がある。一方で、塗膜伸び率が30%以下であると、インクが浸透しにくくなる傾向がある。塗膜の伸び率については、後述する樹脂の分子間架橋密度や顔料の含有量により、調整することができる。
【0043】
本発明に係るインク受理層用塗料中の上記樹脂粒子において、上記樹脂の分子間に架橋が存在することが好ましい。上記樹脂の分子間に架橋が存在すると、(1)架橋密度が高まるほど、インク受理層への活性エネルギー線硬化性インクの浸透が抑えられるので、上記インク中のモノマーが未硬化の状態で受理層内に残存する量を低減しやすく、当該受理層を備える加飾後の製品から臭気が発生するのを効果的に抑えることができ、また、(2)上記モノマーや溶剤に対するインク受理層の耐溶解性が向上しやすい。
【0044】
上記樹脂の分子間における架橋は、上記樹脂を製造する際の原料モノマーとして、架橋性のモノマー、例えば、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート、アリルメタクリレート等を併用することで、導入することができる。例えば、エポキシ基はアクリル酸やメタクリル酸などのカルボキシル基と反応する。上記樹脂の分子間における架橋の導入に用いられる架橋性のモノマーは、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0045】
本発明に係るインク受理層用塗料において、上記粒子間に架橋が存在することが好ましい。上記粒子間に架橋が存在すると、架橋密度が高まるほど、インク受理層への活性エネルギー線硬化性インクの浸透が抑えられるので、上記インク中のモノマーが未硬化の状態で受理層内に残存する量を低減しやすく、当該受理層を備える加飾後の製品から臭気が発生するのを効果的に抑えることができる。上記粒子間における架橋は、上記樹脂を製造する際の原料モノマーとして、架橋性のモノマー、例えば、ダイアセトンアクリルアミド、やN-(ブトキシメチル)アクリルアミド等を併用することで、導入することができる。
【0046】
粒子間における架橋としては、例えば、オキサゾリン基を有する化合物、アジピン酸ジヒドラジド等の架橋剤を介して導入されるもの、樹脂同士が粒子間で自己架橋することにより導入されるものも挙げられる。オキサゾリン基を有する化合物を用いる場合には、樹脂中のカルボキシル基が架橋反応に関与する。アジピン酸ジヒドラジドを用いる場合には、樹脂中のカルボニル基が架橋反応に関与する。原料モノマー中にN-(ブトキシメチル)アクリルアミドが含まれる場合には、加熱することにより、ブトキシ基が脱離し、メチロール基が生成した後に、互いに異なる粒子上に存在する樹脂同士で自己架橋する。上記粒子間における架橋の導入に用いられる架橋性のモノマー及び架橋剤の各々は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0047】
本発明に係るインク受理層用塗料から形成されるインク受理層が対象とする活性エネルギー線硬化性インクについて、説明する。上記インクは、着色顔料を含む。着色顔料としては、公知の材料が使用でき、例えば、カーボンブラック、黄色酸化鉄、弁柄、複合酸化物(ニッケル・チタン系、クロム・チタン系、ビスマス・バナジウム系、コバルト・アルミニウム系、コバルト・アルミニウム・クロム系、ウルトラマリンブルー)、酸化チタン等の無機顔料や、キナクリドン系、ジケトプロロピール系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、アンスラピリミジン系、フタロシアニン系、スレン系、ジオキサジン系、アゾ系等の有機顔料が挙げられる。なお、耐候性の観点から、無機顔料を用いることが好ましい。
【0048】
上記インク中において、上記着色顔料の含有量は、特に限定されるものではない。上記含有量は、インクの発色性の観点から、2~20質量%であることが好ましい。
【0049】
上記インクは、分散剤を含むことが好ましい。分散剤としては、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤及びノニオン性分散剤が好ましい。なお、分散剤は、市販品を好適に使用することができる。
【0050】
上記インクは、活性エネルギー線重合性モノマーを含む。活性エネルギー線重合性モノマーとは、紫外線等の活性エネルギー線の照射により重合反応を起こすモノマーであり、例えば、活性エネルギー線照射時に反応性を示す官能基として、アクリロイルオキシ基やメタクリロイルオキシ基を有するものが好適である。活性エネルギー線重合性モノマーの重合後に得られるポリマーは、バインダーとして機能する。なお、活性エネルギー線重合性モノマーは、官能基の数に応じて、官能基数が1である単官能モノマー、官能基数が2である2官能モノマー及び官能基数が3以上の多官能モノマーに分類できる。
【0051】
上記活性エネルギー線重合性モノマーのうち、単官能モノマーは、その分子量が1000以下であるものが好ましく、具体例としては、ステアリルアクリレート、アクリロイルモルホリン、トリデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、デシルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、イソオクチルアクリレート、オクチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、N-ビニルカプロラクタム、イソアミルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、EO(エチレンオキシド)変性2-エチルヘキシルアクリレート、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルイミダゾール、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート等が挙げられる。なお、これら単官能モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
上記活性エネルギー線重合性モノマーのうち、2官能モノマーは、その分子量が1000以下であるものが好ましく、具体例としては、1,10-デカンジオールジアクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジアクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,8-オクタンジオールジアクリレート、1,7-ヘプタンジオールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、及びジプロピレングリコールジアクリレート等が挙げられる。なお、これら2官能モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記活性エネルギー線重合性モノマーのうち、3官能以上の多官能モノマーは、その分子量が2000以下であるものが好ましく、具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、EO変性ジグリセリンテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。なお、これら多官能モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
上記インク中において、活性エネルギー線重合性モノマーの含有量は、反応性の観点から、1~95質量%であることが好ましく、70~95質量%であることが更に好ましい。また、インク層の基材追随性及び耐クラック性を向上させる観点から、単官能モノマーを多く配合することが好ましく、上記インク中において、単官能モノマーの含有量は、20~85質量%であることが好ましい。
【0055】
また、上記活性エネルギー線重合性モノマーの中でも、インク層の耐擦過性を向上させる観点から、アクリロイルモルホリン、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等が好適に挙げられる。同観点から、このような耐擦過性に優れる活性エネルギー線重合性モノマーの含有量は、該インクの全質量中0.5~60.0質量%であることが好ましく、5.0~60.0質量%であることがより好ましい。
【0056】
また、上記インクは、アクリレートオリゴマーを使用してもよい。アクリレートオリゴマーとは、アクリロイルオキシ基(CH=CHCOO-)を一つ以上有するオリゴマーであり、官能基数は2~6であることが好ましい。また、アクリレートオリゴマーは、分子量が2000~20000であることが好ましい。
【0057】
なお、該分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。そして、アクリレートオリゴマーの具体例としては、アミノアクリレートオリゴマー[アミノ基(-NH)を複数持つアクリレートオリゴマー]、ウレタンアクリレートオリゴマー[ウレタン結合(-NHCOO-)を複数持つアクリレートオリゴマー]、エポキシアクリレートオリゴマー[エポキシ化合物とアクリル酸との反応により得られるエポキシアクリレートを複数持つオリゴマー]、シリコーンアクリレートオリゴマー[シロキサン結合(-SiO-)を複数持つアクリレートオリゴマー]、エステルアクリレートオリゴマー[エステル結合(-COO-)を複数持つアクリレートオリゴマー]及びブタジエンアクリレートオリゴマー[ブタジエン単位を複数持つアクリレートオリゴマー]等が挙げられる。なお、上記インク中において、アクリレートオリゴマーの含有量は、例えば0.4~20.0質量%である。
【0058】
上記インクには、光重合開始剤、光安定剤、重合禁止剤等を配合することが好ましく、更には、上述した成分以外にも、インク業界で通常使用される添加剤、例えば、水、有機溶剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、防錆剤、pH調整剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、浸透剤、表面調整剤等を本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。
【0059】
上記インクにおいて、印刷時の温度における表面張力は20~35mN/mであることが好ましく、また、印刷時の温度における粘度は、5~15mPa・sであることが好ましい。なお、印刷時のインクの温度は、35~50℃であることが好ましい。
【0060】
上記インクは、上記着色顔料と、活性エネルギー線重合性モノマーと、必要に応じて適宜選択される各種成分とを混合することによって調製できる。
【0061】
印刷後に形成されるインク層を、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ又は紫外線LED等を用いて紫外線光等の活性エネルギー線を照射して、硬化させることが好ましい。上記インク層を硬化させるために照射する活性エネルギー線の波長は、光重合開始剤の吸収波長と重複していることが好ましく、活性エネルギー線の主波長が360~425nmであることが好ましい。
【0062】
≪塗膜≫
本発明に係る塗膜は、本発明に係る塗料の乾燥物からなる。上記塗料の乾燥は、例えば、80~120℃において1~60分程度の加熱により、行うことができる。上記塗料の乾燥時には、単に水等の揮発成分が蒸発するだけでなく、上記粒子間に架橋が形成されてもよい。上記粒子間に架橋が形成された場合であっても、単に、塗料の乾燥物というものとする。
【0063】
≪積層体≫
本発明に係る積層体は、本発明に係る塗膜からなるインク受理層と、活性エネルギー線硬化性インクの硬化物からなるインク層と、を備え、前記インク層は、前記インク受理層上に形成されている。上記積層体は、更に、基材、クリア層等を備えてもよく、より具体的には、例えば、基材、インク受理層、インク層、及びクリア層がこの順に積層されて形成されている積層体が挙げられる。
【0064】
基材としては、特に限定されず、例えば、単板、合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木材を原料とする木質建材板;窯業系サイディングボード、フレキシブルボードや、珪酸カルシウム板、石膏スラグバーライト板、木片セメント板、石綿セメント板、パルプセメント板、プレキャストコンクリート板、軽量気泡コンクリート(ALC)板、石膏ボード等の窯業建材板;及びアルミニウム、鉄、ステンレス等の金属建材板等が挙げられる。基材の表面性状は、特に制限はなく、表面が平滑なものであっても、凹凸形状を有するものであってもよい。また、基材は、シーラーやプライマー等によって下地処理が施されていてもよい。基材の厚みは、特に制限されず、例えば3~30mmである。
【0065】
インク受理層は、例えば、本発明に係るインク受理層用塗料を上記基材上に塗布し、前述の通りに乾燥させることで形成することができる。塗布の方法としては、特に限定されず、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、ロールコーター塗装、フローコーター塗装等が挙げられる。インク受理層の厚みは、特に制限されず、例えば10~50μmである。
【0066】
インク層は、活性エネルギー線硬化性インクを、例えば、インクジェットプリンターによる印刷(即ち、インクジェット方式)等の印刷手段によって、上記インク受理層上に印刷した後、前述の通りに硬化させることで形成することができる。インク層の厚みは、特に制限されず、例えば10~50μmである。
【0067】
クリアー層は、主にインク層の表面を保護する目的で、少なくともインク層を覆うように配置される。クリアー層は、例えば、クリアー層用塗料組成物をインク層と、場合により露出したインク受理層の表面に塗布し、その後、乾燥等により成膜させることによって形成できる。クリアー層用塗料組成物の塗布方法としては、従来公知の塗布方法を特に制限無く使用することができ、具体的には、エアースプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、ロールコーター塗装、フローコーター塗装等が挙げられる。
【0068】
≪活性エネルギー線硬化性インク、及び、塗料・インクセット≫
本発明に係る活性エネルギー線硬化性インクは、本発明に係る塗料とともに又は本発明に係る塗膜とともに用いられる。また、本発明に係る塗料・インクセットは、本発明に係る塗料と、活性エネルギー線硬化性インクと、を含む。活性エネルギー線硬化性インクとしては、特に限定されず、例えば、本発明に係るインク受理層用塗料について上述する際に例示した活性エネルギー線硬化性インクが挙げられる。
【実施例
【0069】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中、「部」及び「%」は、特に断らない限り、それぞれ質量部及び質量%を意味するものとする。
【0070】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計、滴下装置、窒素導入管を備えた5つ口フラスコに、イオン交換水386部及びポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬(株)製;アクアロンKH10)10部を仕込み、反応器内を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。その後、反応器に、過硫酸アンモニウムを4部加え、次いで予め別容器にて撹拌混合しておいた、メチルメタクリレート579部、2-エチルヘキシルアクリレート348部、メタクリル酸39部、イオン交換水579部を3.5時間かけて連続滴下した。その後、撹拌を続けながら80℃で5時間熟成した後、室温まで冷却した。その後、28質量%アンモニア水溶液を用いてpH9まで中和し、樹脂粒子水分散体1を得た。
【0071】
(合成例2~16)
合成例1と同様に、表1、2の単量体組成で合成を行い、樹脂粒子水分散体2~16を得た。なお、本発明において計算Tgは、次のFOX式により求められる理論計算値である。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn
式中、Tgは、計算Tg(°K)であり、W1、W2、・・・、Wnは、各モノマーの質量分率であり、Tg1、Tg2、・・・、Tgnは、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(°K)である。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
※シランカップリング剤については、有機基のSP値のみを示す。
・CHMA;シクロヘキシルメタクリレート
・ST;スチレン
・GMA;グリシジルメタクリレート
・KBM403;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製)
・LA82;1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタアクリレート(ADEKA社製)
・MMA;メチルメタクリレート
・EA;エチルアクリレート
・BA;ブチルアクリレート
・EHA;2-エチルヘキシルアクリレート
・BMA;ブチルメタクリレート
・MAA;メタクリル酸
・DAAM;ダイアセトンアクリルアミド
・KBM503;3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製)
・AMA;アリルメタクリレート
【0075】
(インク受理層用塗料の調製例)
(実施例1~36、比較例1~12)
表3~表8に示す配合に従い、原料とチタニアビーズとを混合した後、ビーズミルで分散した。分散後、チタニアビーズを取り除き、インク受理層用塗料を調製した。
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
【表7】
【0081】
【表8】
【0082】
1)酸化チタン、密度3.8g/cm、(TITONE R-62N,堺化学社製)
2)重質炭酸カルシウム、密度2.7g/cm、平均粒子径 2μm(丸尾カルシウム製)
3)SNデフォーマー1316(サンノプコ社製)
4)ASE-60(ロームアンドハース社製)
5)Proxel AM(アーチケミカルズ社製)
6)TINUVIN 1130(BASF社製)
7)サノール LS-292(三共化成社製)
【0083】
<活性エネルギー線硬化性インクの調製例>
表9に示す配合処方に従い、原料とジルコニアビーズ(φ0.5mm)とを混合した後、ビーズミルで分散した。分散後、ジルコニアビーズを取り除き、黒色のUVインク(以下、UVインクともいう。)を調製した。
【0084】
【表9】
【0085】
8)MA100(カーボンブラック顔料、三菱化学(株)製商品名〕
9)DISPERBYK-2155(BYK社製)
10)BYK-UV3500(BYK社製)
【0086】
なお、活性エネルギー線硬化性インクの表面張力は、温度45℃にて表面張力計(協和界面化学製CBVP-Z)を用いて測定した。また、活性エネルギー線硬化性インクの粘度は、温度45℃、ずり速度10s-1にてレオメーター(AntonpaarPysica社製MCR301)を用いて測定した。
【0087】
<クリアー層用塗料組成物(以下、「クリアー塗料」という。)の調製例>
表10に示す配合処方に従い、原料を混合して、クリアー塗料を調製した。
【0088】
【表10】
【0089】
11)アクリルシリコーン樹脂系エマルジョン;ポリデュレックスG613,旭化成社製
【0090】
<建築板(加飾試験板)の製造例>
1.基材
スレート板(150mm×70mm×5mm、TP技研社製)の表面に水系シーラー(大日本塗料製、製品名:水性マイティーシーラーマルチ)を塗布量100g/mとなるようにエアスプレーで塗装し、室温で2時間乾燥することにより、基材を作製した。
2.インク受理層
シーラー塗装済みの基材を60℃に加温した状態で、基材のシーラー塗装面に、上述のインク受理層用塗料を塗布量120g/m(乾燥膜厚30μm相当)となるようにエアレススプレーで塗装した。その後、100℃で3分間乾燥させて、インク受理層を形成させた。なお、基材温度の測定は、赤外線放射型非接触温度計(ISK-8700II、アズワン(株)社製)を用いて行った。
3.インク層
インク受理層を作製した後、基材温度を50~60℃に調整した状態で、インクジェットプリンターを用いて、上記で調製したUVインク(黒色)の階調パターン(記録濃度を10%から100%まで20%刻みで段階的に記録したベタ画像)を形成させた。この際、インク吐出時のインクの温度は45℃であった。パターン形成後、メタルハライドランプにより、ピーク照度800mW/cmで積算光量300mJ/cmの紫外線を照射して、インクを硬化させた。なお、基材温度の測定は、赤外線放射型非接触温度計(ISK-8700II、アズワン(株)社製)を用いて行った。
4.クリアー層
インクを硬化させた後、硬化塗膜の表面温度が50℃になるよう調整した状態で、上述のクリアー塗料を塗布量が80g/m(乾燥膜厚25μm相当)になるよう塗装した。塗装後、80℃で20分乾燥させ、クリアー層を形成させた。なお、表面温度の測定は、赤外線放射型非接触温度計(ISK-8700II、アズワン(株)社製)を用いて行った。
【0091】
[評価方法]
以下の方法で、インク受理層の吸インク率、印字評価(発色性、ドット径)、付着性、耐水性、耐候性を評価した。測定結果を表11~13に示す。なお、特に指定の無い場合は、23℃50%RHの雰囲気下で評価を行った。
(1)発色性
加飾試験板作製1日後の階調パターンについて、肉眼及びマイクロスコープで観察することによって、発色性を評価した。評価基準は以下の通りである。
〇:インク本来の色が、ムラなく均一に印刷されており滲みもない。
×:階調パターンにムラ、擦れ、及び/又は滲みがある。
【0092】
(2)ドット径
加飾試験板作製1日後の階調パターンについて、任意の5箇所のドットの直径をマイクロスコープにて測定し、平均値を求めた。
【0093】
(3)付着性(JIS K5600-5-6:1999に準拠)
作製した建築板にカッターナイフを用いて縦横2mm間隔で切れ目を入れ、100マス目を作製して、セロテープ(登録商標)剥離試験を行った。なお、評価基準は以下の通りである。
○:分類0~1
△:分類2
×:分類3~5
なお、JIS K 5600-5-6:1999の8.3に記載される分類0~5は以下の通りである。
・分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
・分類1:積層塗膜の残存率が95~99%。
・分類2:積層塗膜の残存率が85%以上95%未満。
・分類3:積層塗膜の残存率が65%以上85%未満。
・分類4:積層塗膜の残存率が0%%以上65%未満。
・分類5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0094】
(4)耐水性(JIS K 5600-6-2:1999に準拠)
作製した建築板を、40℃に保った恒温水槽中に浸漬し、240時間後に取り出して乾燥させた。その後、発生した膨れ、白化等の外観の観察をし、また、付着性を上記(2)の方法と同様の方法で評価した。なお、評価基準は以下の通りである。
◎:膨れ、白化等の外観異常が無く、付着性が分類0である。
○:膨れ、白化等の外観異常が無く、付着性が分類1である
△:膨れ、白化等の外観異常が無く、付着性が分類2~3である。
×:膨れ、白化等の外観異常が見られる。付着性が分類4~5である。
【0095】
(5)促進耐候性(JIS K 5600-7-7:2008に準拠)
作製した建築板を、JIS K 5600-7-7に記載のキセノンランプ法に従い、ウェザオメーターCi4000(アトラス社製)により促進耐侯性試験を実施した。試験時間1000時間まで実施し、塗膜外観を目視で評価し、付着性を上記(2)の方法と同様の方法で評価した。なお、評価基準は以下の通りである。
〇:膨れ、白亜化、クラック等の外観異常が無く、付着性が分類0~1である。
△:膨れ、白亜化、クラック等の外観異常が無く、付着性が分類2~3である。
×:膨れ、白亜化、クラック等の外観異常が見られる。付着性が分類4~5である。
【0096】
(6)吸インク率測定方法
インク受理層用塗料を、予め60℃に加温した硬質塩ビ板に、20ミルのアプリケーターを用いて塗装し、100℃×3分(風下)乾燥させた。乾燥膜を剥がし、縦50mm×横50mmにカットして、質量を測定した。200mlガラス容器に、UVインク(黒色)100gを入れ、更に、カットした上記乾燥膜を入れた。50℃×24時間浸漬後、膜を取り出し、キムタオル(株式会社クレシア)の上に乗せ、更に、キムタオルの上に乗せた上記膜の上にキムタオルを乗せて膜を挟み、加重500gで膜表面のUVインクを取り除き、乾燥膜の質量を測定した。乾燥膜の浸漬前後の質量変化から、以下の算出式で吸インク率を算出した。
算出式
{(浸漬後の質量-浸漬前の質量)/浸漬前の質量}×100=吸インク率(%)
【0097】
(7)塗膜の伸び率
インク受理層用塗料を、ポリプロピレン板に20ミルのアプリケーターを用いて塗装し、23℃で24時間で乾燥させた。その後、80℃で3時間乾燥させた後、120℃で30分乾燥させた。そして、得られた乾燥膜を剥がし、縦70mm×横5mmにカットして試験片を得た。
試験片について、23℃50%RHにて島津製作所社製オートグラフAG-100KN I型を用い、5mm/minの速度で引っ張り試験を行って、以下の算出式で塗膜の伸び率を算出した。ここで、引っ張り試験における試験片長さは50mmになるようにした。
{(引っ張り試験での破断時の試験片長さ-試験前の試験片長さ)/(試験前の試験片長さ)}×100=塗膜の伸び率(%)
【0098】
<評価結果>
【0099】
【表11】
【0100】
【表12】
【0101】
【表13】
【0102】
※:インク受理層用塗料から得た乾燥膜がUVインク(黒色)に完全に溶解したことを示す。
【0103】
上記の通り本発明は、インク受理層の吸インク率、印字評価(発色性、ドット径)、付着性、耐水性、耐候性に優れている。