(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
B41J2/01 303
B41J2/01 401
B41J2/01 305
B41J2/01 301
B41J2/01 109
(21)【出願番号】P 2018025675
(22)【出願日】2018-02-16
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100202393
【氏名又は名称】川口 康
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-229318(JP,A)
【文献】特許第5280073(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2006/0023025(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体を載置する平坦状の載置部と、
前記載置部に対向配置され、前記被記録媒体へインク滴を吐出するヘッド部と、
前記ヘッド部から前記インク滴を吐出しながら、前記載置部と平行な平面方向において、前記ヘッド部と前記載置部の少なくとも一方を移動させて、前記平面方向での前記ヘッド部と前記載置部の相対的な位置関係を変化させる平面方向駆動部と、
前記平面方向と垂直に交差する高さ方向において、前記ヘッド部と前記載置部の相対的な位置関係を変更する高さ方向駆動部と、
を備えるインクジェット印刷装置において、
前記平面方向駆動部は、前記ヘッド部と前記載置部の間の前記平面方向における相対速度を変更する平面方向移動速度変更機構を有し、
前記高さ方向駆動部は、前記ヘッド部と前記載置部の間の距離
となるヘッドギャップを変更する距離変更機構を有し、
前記距離変更機構により設定された前記
ヘッドギャップに基づいて前記
平面方向移動速度変更機構による前記相対速度を制御する制御部を備え
、
前記ヘッド部と前記載置部の間の空間であるインク滴飛翔空間にある空気を当該空気よりも比重の軽い気体に置換することで、インク滴の飛翔抵抗を変更する飛翔抵抗変更部を備え、
前記制御部は、前記距離変更部により設定された前記ヘッドギャップ、又は、前記相対速度に基づいて、前記飛翔抵抗変更部により前記インク滴の飛翔抵抗を変更することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
異なる条件で印刷を行う複数の印刷モードを記憶するモード記憶部を有し、
前記印刷モードとして、
前記
飛翔抵抗変更部による前記気体の置換を行わない第一印刷モードと、
前記ヘッドギャップが前記第一印刷モードより大き
く、かつ、前記相対速度が前記第一印刷モードよりも遅く、かつ、前記飛翔抵抗変更部による前記気体の置換を行なう第二印刷モードを有
することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記第二印刷モードでは、前記ヘッドギャップが20mm以上となることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
異なる条件で印刷を行う複数の印刷モードを記憶するモード記憶部を有し、
前記印刷モードとして、
前記飛翔抵抗変更部による前記気体の置換を行わない第一印刷モードと、
前記ヘッドギャップが前記第一印刷モードより大きく、かつ、前記相対速度が前記第一印刷モードと変わら
ず、かつ、前記飛翔抵抗変更部による前記気体の置換を行なう第三印刷モードをさらに有することを特徴とする請求項
1から3
のいずれか一項に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタの産業分野での応用は、デジタルテキスタイルやサイングラフィクス分野のワイドフォーマットプリンタから始まり、近年では量産から個産(受注生産)に対応が必要なデジタル印刷やデジタル加飾まで、広範な分野において実用に供されつつある。
【0003】
特に、従来のアナログ印刷が対応していた印刷分野との置き換えは、個別のデータープリントが主であるPOD(プリントオンデマンド)分野では順調に進んでいる。しかし、商品価値を高めるために画質が優先され、高精細・高解像度を必要とされる分野では、アナログ印刷が現在も主流の位置を占めている。
【0004】
図5(A)は、従来のインクジェット印刷装置101の上面図である。インクジェット印刷装置101は、インクを吐出、印刷をするヘッド部105と、ヘッド部105に対向する位置に配設される載置部110で構成され、載置部110は、被印刷物である被記録媒体140の下部を支持する。ヘッド部105は、制御部120で制御される主走査駆動部125によって、ガイドレール107に案内され主走査動作方向、具体的には、
図5(A)のY方向にスキャン(主走査動作)される。そして制御部120が副走査駆動部155を制御することで、ヘッド部105を副走査動作方向、具体的には
図6(A)のX方向へ走査(副走査動作)させる。主走査動作(後述する
図5(B)参照)をする際にヘッド部105が高速に移動すると、その移動自体とヘッド部105に生じる振動により、後述するように、印刷の鮮鋭度が低下する。
【0005】
図5(B)は、従来のインクジェット印刷技術におけるギャップサイズ(ヘッドギャップ)Gの説明図である。具体的には
図5(B)は、インクジェット印刷装置101の正面図である。ヘッド部105と載置部110上面との図上Z方向の距離Gは、従来のインクジェット印刷装置101においては、おおよそ3mm程度である。被記録媒体の厚みWとしては1mm以上である分厚いものについては、困難になる。したがって布地等の厚みのあるテキスタイルのインクジェット印刷装置101による印刷は困難であることが多い。
【0006】
特許文献1には、ヘッド部105と載置部110との間の空間を減圧してインク滴の空気抵抗を減らすことで、ヘッド部と載置部上面との距離Gの距離が大きい場合でも、ヘッド部105から吐出されるインク滴の着弾位置の正確性が向上する技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1記載の技術では、吐出するインクを構成する成分の蒸気圧の影響で、減圧範囲に制約があり、また過度に減圧をするとインクの特性が変化してしまうという問題点がある。また一般的に、高精細・高解像度を必要とされる分野において、従来のアナログ印刷技術からインクジェット印刷技術への置換が進まないのは、インクジェット印刷技術によるデジタルプリンタには、下記のような問題があったためである。
【0009】
(問題点1)解像度がアナログ印刷に比べて低い。
【0010】
インクジェット印刷方式のシリアルプリンタやラインプリンタに使用されている、オンデマンドインクジェットヘッドで安定してプリント出来るインク滴サイズは、数pL程度に制限される。これは、インク滴サイズが小さいほど、空気抵抗のためにインク滴の速度が急速に低下し、ヘッドの移動による横風の影響を強く受けて、特にヘッド移動方向(以下、Y方向)の着弾位置が不正確になるためである。
【0011】
図6は、ヘッド部105のスキャンがインク滴160の飛翔にどのような影響を与えるかを説明する図である。ヘッド部105から吐出されたインク滴160が、吐出縦方向速度V
iで、Z方向下向きに打ち出されるとする。このときヘッド部105がY方向に横方向速度V
Yでスキャンされているとすると、インク滴160の速度は、V
iとV
Yの合成速度Vとなり、着弾位置は本来インク滴160を着弾させたいCではなく、Fに向かって飛翔することとなる。またインク滴160には、Z方向下向きの重力Fgだけでなく空気抵抗による力Frも加わり、さらに吐出方向のバラツキも存在する。したがってインク滴160の着弾位置は、本来インク滴を着弾させたいCから、バラツキ角度θをもって、
図6のようにAからBまで着弾位置が変位しうる。このためインクジェット印刷方式では、60μm以下の幅の線をプリントすることが困難であり、また着弾の乱れで鮮鋭度が落ちるため、アナログ印刷技術の数分の一程度の鮮鋭度でしかできないので、シャープで高精細な画像のプリントが難しいという問題があった。
【0012】
(問題点2)高速度印刷やワイドギャップ印刷では、一層、鮮鋭度や解像度が低下する。
【0013】
吐出ノズルからメディアまでの距離が拡がるとインク滴の速度が急速に低下するために、インク滴の初速度やサイズや吐出角度のバラツキがあると、高速度印刷時に大きくなる横風の影響で着弾位置のバラツキが増大して着弾が不正確になり、印刷(プリント)した画像の鮮鋭度や解像度度が低下する。
【0014】
図7は、凹凸の大きい被記録媒体140への印刷における問題点を説明する図である。布地や織物などのテキスタイルは、厚みがあり、凹凸が大きい。したがってヘッド部105と載置部上面165との距離(ギャップサイズ、ヘッドギャップ)Gを大きく、すなわちワイドギャップにしなければならないが、被記録媒体140の場所によっては、深さDが大きく、インク滴の初速度やサイズや吐出角度のバラツキの影響が大きく出てしまい、必然的に鮮鋭度が低下することになる。
【0015】
このために、凹凸の大きなメディアや毛足の長い織物等に、高速、高解像度で鮮鋭度の高い画像をワイドギャップ印刷することは困難であった。
【0016】
本発明は、以上のような従来のインクジェット印刷技術における高解像度、高速度印刷、ワイドギャップ印刷を同時に満たせないという課題を解決可能なインクジェット印刷装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では、複数の印刷モードを設ける。その一つの印刷モードでは従来の高速で高解像度な印刷をおこない、他の印刷モードでは、例えばギャップサイズ(ヘッドギャップ)を大きくすると同時に、鮮鋭度を低下させないように主走査速度を減速する制御を行う印刷をおこなう。また他の一つの印刷モードでは、インクを吐出するヘッド部と被記録媒体の間のインク滴が飛翔する空間を空気以外の、例えばヘリウムガスに置換して印刷を行う。このような複数の印刷モードの切替を可能にすることで、一つのインクジェット印刷装置で、高解像度、高速度印刷、ワイドギャップ印刷を同時に実現する。
【0018】
具体的には、本発明は次の構成で実現される。
【0019】
(構成1)通常印刷、高解像度・ワイドギャップ印刷、スーパーワイドギャップ印刷の3つの印刷モードを設定する。
【0020】
(構成2)上述の3つの印刷モードを以下のように定義する。
【0021】
(1)通常印刷モード(高速度印刷モード):従来の1パス?マルチパス走査の方式で印刷(プリント)するモード。
【0022】
(2)高解像度・ワイドギャップ印刷モード(低速度印刷モード):メディア(被記録媒体)に対して相対移動するヘッドの走査速度を、インク滴の初期吐出速度の、例えば百分の一以下に低速化するか、あるいは吐出時に一時停止して印刷するモード。
【0023】
(3)スーパーワイドギャップ印刷モード(ヘリウムガス中印刷モード):少なくともインクジェットの吐出から着弾までの空間をヘリウムガス置換し、かつ、メディアに対して相対移動するヘッドの走査速度を、インク滴の初期吐出速度の、例えば百分の一以下に低速化するかあるいは吐出時に一時停止して印刷するモード。
【0024】
この発明では上記の3つの印刷モードを設定することにより、用途や目的に合わせて高速度印刷、高解像度・ワイドギャップ印刷およびスーパ-ワイドギャップ印刷を可能する方法を与える。
【0025】
また、より安全性の高い印刷や、焦げ目の付かないレザーカッティングプリンタとの組み合わせなどが可能な付加価値の高いインクジェット印刷装置の提供が可能になる。
【0026】
(1)本発明は、被記録媒体を載置する平坦状の載置部と、前記載置部に対向配置され、前記被記録媒体へインク滴を吐出するヘッド部と、前記ヘッド部から前記インク滴を吐出しながら、前記載置部と平行な平面方向において、前記ヘッド部と前記載置部の少なくとも一方を移動させて、前記平面方向での前記ヘッド部と前記載置部の相対的な位置関係を変化させる平面方向駆動部と、前記平面方向と垂直に交差する高さ方向において、前記ヘッド部と前記載置部の相対的な位置関係を変更する高さ方向駆動部と、を備えるインクジェット印刷装置において、前記平面方向駆動部は、前記ヘッド部と前記載置部の間の前記平面方向における相対速度を変更する平面方向移動速度変更機構を有し、前記高さ方向駆動部は、前記ヘッド部と前記載置部の間の距離を変更する距離変更機構を有し、前記距離変更機構により設定された前記距離に基づいて前記移動速度変更機構による前記相対速度を制御する制御部を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置を提供する。
【0027】
上記(1)に記載の発明によれば、ヘッド部と載置部との相対的な距離を変更する距離変更機構を設けることで、ヘッド部と載置部上面との距離を調整して、厚みのある被記録媒体にも対応可能になるという優れた効果を奏する。またヘッド部と載置部の間の距離(ヘッドギャップ)を変更する距離変更機構を有し、距離変更機構により設定された距離に基づいて移動速度変更機構による相対速度を制御するので、それぞれのヘッドギャップ等の条件に応じて適切なヘッド部の主走査速度であるキャリッジスピードを実現でき、高品位な印刷をし得るという優れた効果を奏する。
【0028】
(2)本発明は、異なる条件で印刷を行う複数の印刷モードを記憶するモード記憶部を有し、前記印刷モードとして、前記ヘッド部と前記載置部との間の距離であるヘッドギャップが小さい第一印刷モードと、前記ヘッドギャップが、前記第一印刷モードより大きい第二印刷モードを有し、前記第二印刷モードでは、前記相対速度が前記第一印刷モードよりも遅いことを特徴とする上記(1)に記載のインクジェット印刷装置を提供する。
【0029】
上記(2)に記載の発明によれば、第二印刷モードでヘッド部と載置部上面との距離を例えば3mm以上に変更できるので、厚みのあるテキスタイルのような被記録媒体にも印刷可能になるという優れた効果を奏する。またキャリッジスピードを遅くすることで、ヘッド部と被記録媒体の間の相対速度である横方向(Y方向)速度VYの影響が少なくなり、高品位の印刷が可能になるという効果を奏する。
【0030】
(3)本発明は、前記ヘッド部と前記載置部の間の空間であるインク滴飛翔空間を減圧するか、又は、前記インク滴飛翔空間にある空気を当該空気よりも比重の軽い気体に置換することで、インク滴の飛翔抵抗を変更する飛翔抵抗変更部を備え、前記制御部は、前記距離変更部により設定された前記距離、又は、前記相対速度に基づいて、前記飛翔抵抗変更部により前記インク滴の飛翔抵抗を変更することを特徴とする上記(2)に記載のインクジェット印刷装置を提供する。
【0031】
空気の平均分子量は約29g/molであり、ヘリウムの平均原子量は約4g/molである。したがって、例えばインク滴飛翔空間の気体をヘリウムガス濃度60体積%以上に維持すると、インク滴飛翔空間を空気で満たしたままである場合に比べて、気体の密度は、約半分となる。したがって上記(3)に記載の発明によれば、吐出縦方向速度Viの大きさが、ヘッド部と被記録媒体の間の相対速度である横方向(Y方向)速度VYよりも相対的に増大することで、VYの悪影響を小さくすることができ、高品位印刷が可能になるという優れた効果を奏する。
【0032】
(4)本発明は、前記印刷モードとして、前記ヘッドギャップが、前記第一印刷モードより大きく、前記相対速度が前記第一印刷モードと変わらない第三印刷モードをさらに有し、当該第三印刷モードは、前記制御部によって、前記インク滴の飛翔抵抗を変更するように前記飛翔抵抗変更部が制御されることを特徴とする上記(3)に記載のインクジェット印刷装置を提供する。
【0033】
ヘッド部と被記録媒体の間のインク滴飛翔空間を減圧するか、インク滴飛翔空間を満たす気体を、空気からヘリウムガスへ置換すると、空気抵抗(気体抵抗)によるインク滴への力が小さくなることで、吐出縦方向速度Viの大きさが、横方向(Y方向)速度VYよりも相対的に大きくなり、VYの悪影響を小さくすることができる。上記(4)に記載の発明によれば、ヘッドギャップを第一モードより大きくしても、ヘッド部の主走査速度であるキャリッジスピードが第一印刷モードと変わらない高速度印刷が可能になるという優れた効果を奏する。
【0034】
(5)本発明は、前記第二印刷モードは、前記制御部によって、前記インク滴の飛翔抵抗を変更するように前記飛翔抵抗変更部が制御されることを特徴とする上記(3)に記載のインクジェット印刷装置を提供する。
【0035】
ヘッド部と被記録媒体の間のインク滴飛翔空間を減圧するか、インク滴飛翔空間を満たす気体を、空気からヘリウムガスへ置換すると、空気抵抗(気体抵抗)によるインク滴への力が小さくなることで、吐出縦方向速度Viの大きさが、横方向(Y方向)速度VYよりも相対的に大きくなり、VYの悪影響を小さくすることができる。またヘッド部の主走査速度であるキャリッジスピードを遅くすることで、ヘッド部と被記録媒体の間の相対速度である横方向(Y方向)速度VYの影響が少なくなり、高品位の印刷が可能になるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0036】
本発明の請求項1~5記載のインクジェット印刷装置によれば、次のような効果を奏し得る。
【0037】
(1)複数の印刷モードからの選択により、高解像度・高速度印刷、ワイドギャップ印刷、さらにギャップサイズの大きな、いわばスーパーワイドギャップ印刷が可能なインクジェット印刷装置が実現され、幅広い分野で使用できる。
【0038】
(2)通常のプリンタに比べて、10倍以上のギャップサイズでの高解像度プリントが可能となり、凹凸の多い立体物へのプリントが可能となる。
【0039】
(3)鮮鋭度や解像度の高い線幅が30μm以下のプリントが可能となり、デジタル方式が印刷分野の広い分野で本格的に使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るインクジェット印刷装置における印刷モード切り替えの説明図である。
【
図3】ヘッド部と載置部の距離(ギャップサイズ(ヘッドギャップ))変更機能と、インク滴飛翔空間の気体をヘリウムガスに置換するガス置換装置を備えるインクジェット印刷装置についての説明図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係るインクジェット印刷装置1の説明図である。またガス置換装置により、インク滴飛翔空間をヘリウムガスで置換する印刷モードの説明図である。
【
図5】(A)従来のインクジェット印刷装置の上面図である。(B)従来のインクジェット印刷技術におけるギャップサイズの説明図である。
【
図6】ヘッド部のスキャンがインク滴の飛翔にどのような影響を与えるかを説明する図である。
【
図7】凹凸の大きい被記録媒体への印刷における問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0042】
図1~
図5は発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一物を表わす。なお、各図において一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。そして、部材の大きさ、形状、厚みなどを適宜誇張して表現する。
【0043】
なお、本明細書に記載しないインクジェット印刷装置の構成は、従来公知のインクジェット印刷装置と同様であるため詳細な記載を省略する。
【0044】
図1は、本発明の第一実施形態に係るインクジェット印刷装置1における印刷モード切り替えの説明図である。具体的には、インクジェット印刷装置1は、複数の印刷モードを記憶するモード記憶部(図示省略)を備える。モード切替は、スイッチをユーザーが操作することでおこなっても良く、またソフトウェアにより制御部20が切替を行ってもよい。
【0045】
複数の印刷モードとは、例えば、次に挙げる3つの印刷モードである。
【0046】
<印刷モードA>通常印刷モード(高速度印刷モード):従来の1パス?マルチパス走査の方式で印刷(プリント)するモード。
【0047】
<印刷モードB>高解像度・ワイドギャップ印刷モード(低速度印刷モード):被記録媒体(メディア)に対して相対移動するヘッドの走査速度を、インク滴の初期吐出速度V0の、例えば十分の一以下、望ましくは百分の一以下に低速化するか、あるいはインク吐出時に一時停止してプリントするモード。<印刷モードA>と比較して、ヘッドギャップは大きい。
【0048】
<印刷モードC>スーパーワイドギャップ印刷モード(ヘリウムガス中印刷モード):少なくともインクジェットの吐出から着弾までの空間をヘリウムガス置換し、かつ、メディアに対して相対移動するヘッドの走査速度を、インク滴の初期吐出速度V0の、例えば十分の一以下、望ましくは百分の一以下に低速化するか、あるいは吐出時に一時停止して印刷するモード。
【0049】
なお<印刷モードC>では、ヘッド部と載置台の間の空間であるインク滴飛翔空間を減圧するか、又は、前記インク滴飛翔空間にある空気を当該空気よりも比重の軽い気体に置換することで、インク滴の飛翔抵抗を変更する飛翔抵抗変更部を備え、制御部は、距離変更部により設定された距離に基づいて、飛翔抵抗変更部によりインク滴の飛翔抵抗を変更することを特徴とするともいえる。
【0050】
このうち<印刷モードA>の通常印刷モードは、従来のインクジェット印刷装置1で実現されているのと同様の印刷なので、詳しい説明は省略するが、スキャン周波数は、例えば20kHzであり、ノズルギャップを例えば600dpiとすると、印刷速度は840mm/secである。
【0051】
図2には、本実施形態に係るインクジェット印刷装置1において、考えられる印刷モードについての詳細を説明する図表を示す。
【0052】
第一印刷モードでは、制御部20が、平面方向駆動部により、平面方向におけるヘッド部5と載置部10の間の相対速度を、例えばインク滴の初期吐出速度の十分の一より速くする。
【0053】
第二印刷モードでは、制御部20が、距離変更機構によりヘッド部5と載置部10との間の距離を例えば3mm以上に変更した上で、メディアに対して相対移動するヘッドの走査速度VYをインク滴の初期吐出速度V0の、例えば十分の一以下、望ましくは百分の一以下で印刷を行う。
【0054】
他の印刷モードとしては、ヘッドギャップが、第一印刷モードより大きく、キャリッジスピードが第一印刷モードと変わらない第三印刷モードも考えられる。
【0055】
各印刷モードについて、インク滴飛翔空間の雰囲気としては、空気のままにする場合や、減圧をする場合、そして空気よりも比重の軽い気体、例えばヘリウムに置換する場合がそれぞれ考えられる。
【0056】
第三印刷モードでは、インク滴飛翔空間にある空気を当該空気よりも比重の軽い気体に置換することで、ヘッドギャップが大きい状態であっても、高速度高品位印刷が実現できるという効果を奏し得る。
【0057】
なお第二印刷モードに含まれる条件として、インク滴飛翔空間を空気のままにした場合でも、メディアに対して相対移動するヘッドの走査速度VYをインク滴の初期吐出速度V0の、例えば十分の一以下にすると、ヘッドギャップGを第一印刷モードより大きくすることが可能になり、厚みのあるテキスタイル等に対して高品位の印刷をし得る。
【0058】
また第二印刷モードに含まれる条件として、インク滴飛翔空間を減圧する場合、あるいは、空気よりも比重の軽い気体に置換した場合で、ヘッド部と載置部の相対速度を遅くした場合には、ヘッドギャップサイズを、例えば20mm以上での印刷が可能になる(上記した<印刷モードC>のスーパーワイドギャップ印刷モード)。
【0059】
図3は、本発明の第一実施形態に係るインクジェット印刷装置1であって、<印刷モードA>の通常印刷モードの他に、<印刷モードB>の高解像度・ワイドギャップ印刷モードと、<印刷モードC>のスーパーワイドギャップ印刷モードを実現するインクジェット印刷装置の説明図である。
図3は、具体的には、インクを吐出するノズルを有するヘッド部5と、被記録媒体40を支持する載置部10と、ヘッド部5と載置部10の距離(ギャップサイズ)を変更する距離変更機能30と、インク滴飛翔空間17の気体をヘリウムに置換するガス置換装置60を備えるインクジェット印刷装置1についての正面図である。
【0060】
インクジェット印刷装置1は、ノズルピッチが600dpi以上の高解像度のヘッド部5と、ヘッド部5を主走査動作方向に駆動する主走査駆動部25と、ヘッド部5と対向する位置に配設されて被記録媒体がその上面に載置される載置部10と、ヘッド部5と載置部10との相対的な距離を変更する距離変更機構30と、主走査駆動部25と距離変更機構30に対して、上記<印刷モードB>で設定される制御をおこなう制御部20とを備える。
【0061】
具体的には、インクジェット印刷装置1は、被記録媒体を載置する平坦状の載置部10と、載置部10に対向配置され、被記録媒体40へインク滴を吐出するヘッド部5と、ヘッド部5からインク滴を吐出しながら、載置部10と平行な平面方向において、ヘッド部5と載置部10の少なくとも一方を移動させて、平面方向でのヘッド部5と載置部10の相対的な位置関係を変化させる平面方向駆動部(Y方向については主走査駆動部25)と、平面方向と垂直に交差する高さ方向において、ヘッド部と載置部の相対的な位置関係を変更する高さ方向駆動部と、平面方向駆動部は、ヘッド部5と載置部10の間の平面方向における相対速度を変更する平面方向移動速度変更機構を有し、高さ方向駆動部は、ヘッド部5と載置部10の間の距離を変更する距離変更機構30を有し、距離変更機構30により設定された距離に基づいて移動速度変更機構による相対速度を制御する制御部20を備えることを特徴とする。
【0062】
インクを吐出するヘッド部5はガイドレール7に案内されて主走査動作方向(Y方向)にスキャンされる。ヘッド部5と載置部上面15との距離Gは、例えば3mmから20mmまで距離変更機構30によって変更され得る。
【0063】
言い換えると、主走査駆動部25は、ヘッド部5と載置部10の相対的な位置関係を、主走査動作方向に変化させる。
【0064】
なおここで載置部10と平行な平面内でのヘッド部5の駆動をおこなう駆動部、すなわち主走査駆動部25と副走査駆動部155(後述する
図5(A)参照)を総称して平面方向駆動部と定義する。
【0065】
インクジェット印刷装置1は、さらに、インク滴飛翔空間17をヘリウムガスに置換するために、さらにガス置換装置60等を備える。ガス置換装置60は、ヘッド部5や載置部10を内包する隔離室55と、隔離室55内の空気を吸い出す真空ポンプ65を備え、ヘリウムガスを隔離室55に引き込むヘリウムガス配管が接続されている。真空ポンプ65とヘリウムガス配管には、それぞれバルブ70Aとバルブ70Bが配設され、インク滴飛翔空間17にある気体をヘリウムガスに置換するように、例えば制御部20で制御される。
【0066】
ここで上記<印刷モードB>に示した高解像度・ワイドギャップ印刷モードについて説明する。
【0067】
図6にて示したように、速度V
Yで主走査動作方向(Y方向)に移動するヘッド部5から、インク滴の初期吐出速度V
0でZ方向(縦方向)に吐出されたインク滴は、空気抵抗で減速しながら被記録媒体40へと飛翔する。インク滴についてのZ方向の速度、すなわち吐出縦方向速度をViとすると、インク滴の速度は、V
iとV
Yとの合成速度Vとなる。空気抵抗で減速するインク滴のZ方向の吐出縦方向速度Viは、V
i=V
0exp(-t/τ)のように表される。ここで、τは、速度減衰の時定数で、通常数msec から数十msec程度の値となり、インク滴サイズが小さいほど短くなり、早く速度が減衰する。
【0068】
図6から分かるように、V
iが小さくなるほど着弾点がV
Y方向に大きくずれ、インク滴の吐出角度や初期吐出速度V
0のバラツキの影響を大きく受ける。もし、V
Yがゼロなら、V
iの速度に関係なく同じ位置に、液滴は着弾するのが分かる。上記<印刷モードB>で示した高解像度・ワイドギャップ印刷モードは、V
Yをゼロか、V
iに比べて十分小さくする印刷モードである。V
Yの値は、ゼロか、例えば0.1m/sec以下とする。
【0069】
VY=0を実現するためには、ヘッド部5のヘッド送りにはステッピングモーターを使用する。すなわちインクを吐出する際にはヘッド部5のスキャンは停止させる。上記<印刷モードB>で示した高解像度・ワイドギャップ印刷モードの動作を低速駆動のみに限定する場合、主走査駆動部は、低速駆動リニアモーターとエンコーダとの組み合わせで、主走査動作の速度をインク滴の初期吐出速度V0の、例えば十分の一以下、望ましくは百分の一以下に低速化する。言い換えれば、主走査駆動部は、ヘッド部5と載置部10の間の、主走査動作方向の相対速度である主走査速度を、インク滴の初期吐出速度の十分の一以下、望ましくは百分の一以下に低速化、場合によって主走査速度をゼロとする。
【0070】
また、上記<印刷モードB>で示した高解像度・ワイドギャップ印刷モードでは、プリント速度は例えば十分の一から百分の一程度に低下するので、次の対策を同時に実施することが好ましい。
【0071】
すなわちヘッド部5は、最終プリント解像度に等しい高解像度ヘッドを使用することが好ましい。これより、解像度向上の目的でのマルチパスが不要となり、1~4パスで高精細画像の印刷が可能となる。なおバンディング対策は既に1~4パスシリアルプリンタ向けに、パスの境界をぼかす方法が提案されており、その公知技術を採用することで対応する。
【0072】
なお<印刷モードB>に示した高解像度・ワイドギャップ印刷モードにおいて、スキャン周波数は、例えば1kHzであり、ノズルギャップを例えば600dpiとすると、印刷速度は42mm/secである。
【0073】
ヘッド部5は
図3の場合シリアルプリンタであるが、載置部10が平面方向、具体的には
図3におけるXY方向に移動されて印刷が可能ならば、ヘッド部5は、後述するように固定されたラインプリンタであっても良い。
【0074】
また制御部20はCPU、RAMおよびROMなどから構成され、各種制御を実行する。CPUはいわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて様々な機能を実現する。RAMはCPUの作業領域、記憶領域として使用され、ROMはCPUで実行されるオペレーティングシステムやプログラムを記憶する。
【0075】
次に上記<印刷モードC>に示したスーパーワイドギャップ印刷モードについて、詳細に説明する。<印刷モードC>に示したスーパーワイドギャップ印刷モードにおいては、隔離室55のインク滴飛翔空間17の気体は、ガス置換装置60によりヘリウムガスに置換される。
【0076】
ガス置換装置60は隔離室55の内部、インク滴飛翔空間17において、ヘリウムガス濃度60体積%以上、好ましくはヘリウムガス濃度90体積%以上に維持する。このときインク滴飛翔空間17のヘリウムガス濃度を一定に保つために、隔離室55の内部にヘリウムガス濃度計を配置することが好ましい。ヘリウムガス濃度計で測定されたヘリウムガス濃度に基づいて制御部20が隔離室55内部の気体濃度を制御することが好ましい。
【0077】
図4は、本発明の第二実施形態に係るインクジェット印刷装置1の説明図である。インクジェット印刷装置1は、インクを吐出するヘッド部5と、被記録媒体40が上面に載置される載置部10と、載置部10を
図4のXY方向、具体的には水平方向に移動させる移動機構75と、ヘッド部5と載置部10との相対的な距離を変更する距離変更機構30(図示省略)を備える。またインクジェット印刷装置1は、ヘッド部5と被記録媒体40の間のインク滴飛翔空間17を、大気から隔離する隔離室55と、載置部10を図のXY方向、具体的には水平方向に移動させる移動機構75と、隔離室55の内部であるインク滴飛翔空間17の気体をヘリウムガスに置換するガス置換装置60と、ヘリウム回収機構50を備える。隔離室55は、ヘリウム漏れ防止ゴムカーテン45を有し、ヘリウム漏れ防止ゴムカーテン45は、載置部10に当接することでヘリウムガスの漏れを防止する。ガス置換装置60は、隔離室55の気体を置換するための真空ポンプ65と、ヘリウムガスを送気するヘリウムガス配管72からのガスを制御するためのバルブ70B等を有する。インクジェット印刷装置1は、隔離室55内部のヘリウムガスをリサイクルすることでランニングコストを抑えることができる。
【0078】
本第二実施形態に係るインクジェット印刷装置1は、ヘッド部5が固定されたラインプリンタであり、被記録媒体40の下部を支持する載置部10がXY平面上を移動することで、印刷を行う。ヘッド部5はノズルピッチが600dpi以上の高解像度のヘッド部である。
【0079】
ヘッド部5が固定されているので、ヘッド部5のスキャンによる振動の影響は防止される。また載置部1については、ヘッド部5から吐出されたインクが飛翔中にヘッド部5と載置部10の相対的な移動から影響を受けないように、インク飛翔時には停止しているか、又は、インク滴の初期吐出速度V0の、例えば十分の一以下、望ましくは百分の一以下の低速で移動することが望ましい。
【0080】
なお
図4では、吐出するインクについて、UV光を照射することで硬化するUV光硬化インクの使用を前提にしており、インクジェット印刷装置1は、UV光源35を備えるが、吐出するインクの種類としては、UV光硬化インクに限らない。例えば水性インクやソルベントインクであってもよい。またUV光に限らず、電子線等で重合が進行するインクであってもよい。ヘッド部5は、例えばK(ブラック)、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)の各色のインクを吐出するインクノズルを有する。
【0081】
次に、本第二実施形態に係るインクジェット印刷装置1が有するガス置換装置60の構成について詳細に説明する。ガス置換装置60は、真空ポンプ65や真空引きを制御するためのバルブ70Aと、ヘリウムガス配管72に接続されたバルブ70を制御することで、隔離室55の内部、インク滴飛翔空間17において、ヘリウムガス濃度60体積%以上、好ましくはヘリウムガス濃度90体積%以上に維持する。このときインク滴飛翔空間17のヘリウムガス濃度を一定に保つために、隔離室55の内部にヘリウムガス濃度計を配置することが好ましい。ヘリウムガス濃度計で測定されたヘリウムガス濃度に基づいて制御部20が隔離室55内部の気体濃度を制御することが好ましい。
【0082】
インクジェット印刷装置1は、載置部10を移動させて、前述した<印刷モードC>に記載のスーパーワイドギャップ印刷モードに従って、印刷をおこなう。具体的には、スーパーワイドギャップ印刷モードでは、少なくともインクジェットの吐出から着弾までのインク滴飛翔空間17をヘリウムガスで置換し、且つ、ヘッド部5と被記録媒体40の相対速度を、インク滴の初期吐出速度V0の、例えば十分の一以下、望ましくは百分の一以下に低速化するかあるいは吐出時に一時停止して(相対速度ゼロにして)プリントする印刷モードである。
【0083】
この<印刷モードC>はヘリウムガスの密度が空気の七分の一程度で、インク滴飛翔時の気体抵抗が二分の一から三分の一になり、インク滴の速度の減衰が少なくなる性質を利用している。スーパーワイドギャップ印刷モードにすると、高解像度で安定して印刷出来るギャップ長を空気中で行う時に比べて2倍から3倍程度広げることができる。具体的には、例えば20mmを超えるギャップサイズでの高解像度印刷も可能となる。
【0084】
またインク滴飛翔空間17から、酸素を含む空気を除き、不活性ガスであるヘリウムで満たすことにより、より安全性の高い印刷や、焦げ目の付かないレザーカッティングプリンタとの組み合わせなどが可能な付加価値の高いインクジェット印刷装置の提供が可能になる。
【0085】
この発明では、通常の印刷モードを加えた3つの印刷モードを設定することにより、用途や目的に合わせて狭いギャップでの高速プリント、そして高解像度・ワイドギャップ印刷およびスーパーワイドギャップ印刷をユーザーの選択により、可能にする方法を与える。
【0086】
本発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置1によれば、複数の印刷モードでの動作を記憶するモード記憶部(図示省略)を有するので、高速・高解像度の印刷モードや、大きなギャップサイズが必要な被記録媒体に対する印刷モードを切り替えることで一つのインクジェット印刷装置1で多様な印刷が可能になるという効果を奏する。
【0087】
通常のインクジェット印刷装置においては、ノズルピッチが、例えば150dpiのものを使用して、マルチパス動作をさせて高解像度を実現する。具体的には4パス動作をさせれば600dpiが実現される。しかしインクを吐出するノズルを有するヘッド部がスキャンされると、そのスキャン動作によるY方向速度の影響で、インクの着弾位置が不正確になるという問題点が出てくる。またスキャン動作自体で生じる振動の影響も鮮鋭度の低下を招く。本発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置1によれば、600dpi以上の高解像度のヘッド部5を用いることで、シングルパス又は小回数のスキャンのみにする、又は、ヘッド部5を固定することで、上述したスキャン動作により生じる鮮鋭度の低下を防止するという効果を奏する。
【0088】
またヘッド部5と載置部10との相対的な距離を変更する距離変更機構30を設けることで、ヘッド部5と載置部上面15との距離Gを調整して、厚みのある被記録媒体40にも対応可能になるという優れた効果を奏する。
【0089】
ヘッド部と載置部が主走査動作方向へ相対的に移動している場合、吐出されたインク滴には、相対移動による主走査動作方向の速度成分の影響が出る。本発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置1によれば、少なくともひとつの印刷モードでは、主走査駆動部が、主走査速度をインク滴の初期吐出速度の十分の一以下、場合によっては主走査速度をゼロとするので、主走査動作方向(Y方向)への吐出の乱れが軽減されるという極めて優れた効果を奏する。
【0090】
本発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置1によれば、少なくともひとつの印刷モードでヘッド部5と載置部上面15との距離Gを例えば3mm以上に変更できるので、厚みのある被記録媒体40にも印刷可能になるという優れた効果を奏する。
【0091】
ヘッド部5と被記録媒体40の間の空間であるインク滴飛翔空間17を満たす気体を、空気からヘリウムガスへ置換すると、空気抵抗(気体抵抗)によるインク滴への力が二分の一から三分の一と小さくなり、吐出縦方向速度Viの大きさが、ヘッド部と被記録媒体の間の相対速度である横方向(Y方向)速度VYよりも大きくなることで、VYの悪影響を小さくすることができる。したがって本発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置1によれば、鮮鋭度を高く保ったまま、ヘッド部5と載置部上面15との距離Gをさらに大きくすることが可能になるという優れた効果を奏する。さらにVYの速度をインク滴の初期吐出速度の十分の一以下とすると、ヘッド部5と載置部上面15との距離Gを20mm以上のワイドギャップとすることが可能になるという極めて優れた効果を奏する。言い換えれば、ノズルピッチが600dpi以上の高解像度のヘッド部5を用意し、主走査動作速度を低下させることと、インク滴飛翔空間17の気体をヘリウムガスに置換することを組み合わせた印刷モードにおいては、被記録媒体の厚みWのであって、凹凸のある、例えばテキスタイルであっても、高解像度で鮮鋭度の高いインクジェット印刷が可能になるという著しく優れた効果を奏する。
【0092】
空気の平均分子量は約29g/molであり、ヘリウムの平均原子量は約4g/molである。したがって、例えばインク滴飛翔空間17の気体をヘリウムガス濃度60体積%以上に維持すると、空気のままである場合に比べて気体の密度は、約半分となる。したがって本発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置1によれば、吐出縦方向速度Viの大きさが、横方向(Y方向)速度VYよりも相対的に大きくなることで、VYの悪影響を小さくすることができるという優れた効果を奏する。
【0093】
尚、本発明のインクジェット印刷装置1は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0094】
例えばインクジェット印刷装置1において、印刷モードの組み合わせとしては、用途が固定される場合には、通常の印刷モードに加えて、上記<印刷モードB>に記載した高解像度・ワイドギャップ印刷モードと、上記<印刷モードC>に記載したスーパーワイドギャップ印刷モードのいずれか一つを組み合わせたものでもよい。
【0095】
被記録媒体(メディア)40と、その搬送方式については、ロールtoロール搬送、フラットベッド方式、枚葉送り等々、搬送方式を限定するものではない。
【0096】
また、シリアルインクジェットプリンタだけでなく、フラットベッドタイプのプリンタやラインヘッドを用いるプリンタでも良い。
【0097】
また、被記録媒体(メディア)40の材質は、紙、プラスチック、ゴム、皮、金属、ガラス、布、建材、内装材、立体物等々、机上や材質によらず適用できる。
【0098】
高解像度・ワイドギャップ印刷モードやスーパーワイドギャップ印刷モードの機能を最大に発揮させるには、プリンタの振動は少ない方が良い。このためには、ヘッドキャリッジの移動型でなく、ヘッドは固定で、フラットベッドに載せたプリントメディアを移動させる方式の方が、ヘッド移動による振動や風の発生を抑制し、より安定なワイドギャップで高解像度プリントが可能である。
【0099】
ヘッドの吐出方式はピエゾやサーマルジェット方式だけでなく、静電吸引方式やディスペンサー方式でも使用可能であり、液滴吐出方式を限定するものではない。
【0100】
上記<印刷モードB>に記載した高解像度・ワイドギャップ印刷モードと、上記<印刷モードC>に記載したスーパーワイドギャップ印刷モードにおいては、従来はインク滴のミスト化や、着弾位置の不正確さを抑えるために、ギャップサイズを小さくせざるを得なかった1pL以下の液滴での安定プリントが可能になり、線幅が50μm以下の超高解像度プリントが可能となる。
【0101】
インクは水性インク、UV硬化インク、SUV(溶剤希釈UVインク)、ラテックスインク、瞬間乾燥インク等々、使用するインクに限定するものではない。勿論、色材や色の有無や白やメタリックや蛍光色などの特色でも実施可能である。
【0102】
ヘリウムガスの回収については、メンブレンフィルター等でヘリウムガスの回収機構を付けて、再使用する機構を付加するのが良い。
【0103】
この発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置1は、サインディスプレイ向けワイドフォーマットプリンタ、産業用フラットベッドプリンタ、テキスタイルプリンタやTシャツやユニホームプリント等々の用途に広く使用できる。特に、凹凸のあるメディアにダイレクトプリントする用途に広く使用できる。
【符号の説明】
【0104】
1 インクジェット印刷装置
5 ヘッド部
7 ガイドレール
10 載置部
15 載置部上面
17 インク滴飛翔空間
20 制御部
25 主走査駆動部
30 距離変更機構
35 UV光源
40 被記録媒体
45 ヘリウム漏れ防止ゴムカーテン
50 ヘリウム回収機構
55 隔離室
60 ガス置換装置
65 真空ポンプ
70 バルブ
75 移動機構
101 インクジェット印刷装置
105 ヘッド部
107 ガイドレール
110 載置部
120 制御部
125 主走査駆動部
140 被記録媒体
155 副走査駆動部
160 インク滴
165 テキスタイル
G ヘッド部と載置部上面との距離(ギャップサイズ(ヘッドギャップ))
W 被記録媒体の厚み
D 深さ
VY 横(Y)方向速度
Vi 吐出縦方向速度
V 合成速度
Fr 空気抵抗による力
Fg 重力
θ バラツキ角度