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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】変性パルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20220510BHJP
   C08B 15/05 20060101ALI20220510BHJP
   C08B 11/12 20060101ALN20220510BHJP
【FI】
C08B15/04
C08B15/05
C08B11/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018063395
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019172849
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】山口 正人
(72)【発明者】
【氏名】村松 利一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 啓吾
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/082395(WO,A1)
【文献】特開2016-069536(JP,A)
【文献】特開平05-171585(JP,A)
【文献】特開2002-356629(JP,A)
【文献】特開2014-014793(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014255(WO,A1)
【文献】特開2013-067906(JP,A)
【文献】特開平05-345801(JP,A)
【文献】特開2013-067904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/04
C08B 15/05
C08B 11/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性パルプの入口濃度が0.1~1.0重量%、出口濃度が2.0~4.0重量%となるように脱水を行う第1脱水工程と、
前記変性パルプの入口濃度が2.0~4.0重量%、出口濃度が10~14重量%となるように脱水を行う第2脱水工程とを有する変性パルプの製造方法であって、
前記変性パルプは、金属担持させた変性パルプである変性パルプの製造方法。
【請求項2】
前記第1脱水工程においては、ロータリースクリーンを使用して脱水を行い、前記第2脱水工程においては、スクリュープレスを使用して脱水を行う請求項1に記載の変性パルプの製造方法。
【請求項3】
前記金属担持させた変性パルプは、パルプ1gあたりの金属担持量が10~50mgの範囲である請求項1又は2記載の変性パルプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性パルプの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーは、1000nm以下のナノレベルの繊維径を持つ繊維であり、変性パルプを機械的せん断力で解繊することにより得ることができる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また変性パルプに金属粒子を担持させた金属担持パルプを原料とすることにより、製造した製品に抗菌、消臭等の機能性を持たせることができる(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-1728号公報
【文献】特開2015-84870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の変性パルプは、製造後に出荷され、後段の工程が行われる場所に輸送され、再分散されて紙おむつ等に加工されている。輸送コストを下げるためには、変性パルプの製造時に脱水して、水分含有率を減らす必要がある。
【0006】
しかしながら、過度に脱水を行うと、変性パルプの再分散性が悪化するため、後段の工程において製造ロスが発生していた。
【0007】
本発明の目的は、再分散性の良い変性パルプを低コストで製造することができる変性パルプの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)~(3)を提供する。
(1)変性パルプの入口濃度が0.1~1.0重量%、出口濃度が2.0~4.0重量%となるように脱水を行う第1脱水工程と、前記変性パルプの入口濃度が2.0~4.0重量%、出口濃度が10~14重量%となるように脱水を行う第2脱水工程とを有する変性パルプの製造方法。
【0009】
(2)前記第1脱水工程においては、ロータリースクリーンを使用して脱水を行い、前記第2脱水工程においては、スクリュープレスを使用して脱水を行う(1)に記載の変性パルプの製造方法。
【0010】
(3)前記変性パルプは、金属担持パルプである(1)又は(2)に記載の変性パルプの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、再分散性の良い変性パルプを低コストで製造することができる変性パルプの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態に係る変性パルプの製造方法について説明する。
【0013】
(変性パルプ)
本発明において、変性パルプは、セルロース原料に対して各種の化学変性を行うことで得られる。化学変性の種類としては、酸化(カルボキシル化)、カルボキシメチル化、リン酸エステル化等のエステル化、シランカップリング、フッ素化、カチオン化等が挙げられる。中でも、酸化(カルボキシル化)、カルボキシメチル化、カチオン化、エステル化が好ましく、酸化(カルボキシル化)、カルボキシメチル化がより好ましい。
【0014】
(セルロース原料)
本発明において、セルロース原料とは、セルロースを主体とした様々な形態の材料をいい、パルプ(晒又は未晒木材パルプ、晒又は未晒非木材パルプ、精製リンター、ジュート、マニラ麻、ケナフ等の草本由来のパルプなど)、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロース、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に紡糸された再生セルロース、及び上記セルロース原料に加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル等の機械的処理等をすることによってセルロースを解重合した微細セルロースなどが例示される。
【0015】
(化学変性)
(酸化)
本発明において、セルロース原料の酸化(カルボキシル化)は公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではないが、セルロース繊維の絶乾重量に対して、カルボキシル基の量が0.5mmol/g~3.0mmol/gになるように調整することが好ましい。
【0016】
その一例として、セルロースをN-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することにより得ることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基またはカルボキシレート基を有するセルロース系繊維(酸化パルプ)を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0017】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.02~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度がよい。
【0018】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0019】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.7~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0020】
酸化(カルボキシル化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、70~220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100重量部とした際に、0.1~30重量部であることが好ましく、5~30重量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~300分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化パルプの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0021】
(カルボキシメチル化)
本発明において、セルロース原料をカルボキシメチル化してカルボキシメチル化パルプを得る方法としては公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01~0.50となるように調整することが好ましい。その一例として次のような製造方法を挙げることができるが、従来公知の方法で合成してもよく、市販品を使用してもよい。セルロースを発底原料にし、溶媒に3~20重量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールの混合割合は、60~95重量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
【0022】
(カチオン化)
本発明において、セルロース原料のカチオン化は公知の方法を用いて行うことができ、カチオン化により例えば、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、これらアンモニウム、ホスホニウムまたはスルホニウムを有する基をセルロース分子に有することができるが、アンモニウムを有する基が好ましく、特に、四級アンモニウムを含む基が好ましい。具体的なカチオン化の方法としては、特に限定されるものではないが、一例として、セルロース原料にグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライト又はそのハロヒドリン型などのカチオン化剤と触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を水及び/又は炭素数1~4のアルコールの存在下で反応させることによって、四級アンモニウムを含む基を有する、カチオン変性されたパルプを得ることができる。
【0023】
(エステル化)
セルロース原料をエステル化して、エステル化パルプを得る方法は、特に限定されないが例えば、セルロース原料に対し化合物Aを反応させる方法が挙げられる。化合物Aについては後述する。
【0024】
セルロース原料に対し化合物Aを反応させる方法としては例えば、セルロース原料に化合物Aの粉末又は水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーに化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高まり、且つエステル化効率が高くなることから、セルロース原料又はそのスラリーに化合物Aの水溶液を混合する方法が好ましい。
【0025】
化合物Aとしては例えば、リン酸系化合物(例、リン酸、ポリリン酸)、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、これらのエステル等が挙げられる。化合物Aは、塩の形態でもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またセルロース原料(例、パルプ繊維)のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由から、リン酸系化合物が好ましい。リン酸系化合物は、リン酸基を有する化合物であればよく、例えば、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。用いられるリン酸系化合物は、1種、あるいは2種以上の組み合わせでもよい。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸のナトリウム塩がより好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがさらに好ましい。また、反応の均一性が高まり、且つリン酸基導入の効率が高くなることから、エステル化においてはリン酸系化合物の水溶液を用いることが好ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから、7以下が好ましい。パルプ繊維の加水分解を抑える観点から、pH3~7がより好ましい。
【0026】
エステル化の方法としては例えば、以下の方法が挙げられる。セルロース原料の懸濁液(例えば、固形分濃度0.1~10重量%)に化合物Aを撹拌しながら添加し、セルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料を100重量部とした際に、化合物Aがリン酸系化合物の場合、化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。これにより、エステル化パルプの収率をより向上させることができる。上限は500重量部以下が好ましく、400重量部以下がより好ましい。これにより化合物Aの使用量に見合った収率を効率よく得ることができる。従って、0.2~500重量部が好ましく、1~400重量部がより好ましい。
【0027】
セルロース原料に対し化合物Aを反応させる際、さらに化合物Bを反応系に加えてもよい。化合物Bを反応系に加える方法としては例えば、セルロース原料のスラリー、化合物Aの水溶液、又はセルロース原料と化合物Aのスラリーに、化合物Bを添加する方法が挙げられる。
【0028】
化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示すことが好ましく、塩基性を示す窒素含有化合物がより好ましい。「塩基性を示す」とは通常、フェノールフタレイン指示薬の存在下で化合物Bの水溶液が桃~赤色を呈すること、または/および化合物Bの水溶液のpHが7より大きいことを意味する。塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。アミノ基を有する化合物として例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすい点で、尿素が好ましい。化合物Bの添加量は、2~1000重量部が好ましく、100~700重量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常1~600分程度であり、30~480分が好ましい。エステル化反応の条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを抑制することができ、リン酸エステル化パルプの収率を向上させることができる。
【0029】
(金属担持)
本発明の変性パルプの内、カルボキシル基を有する酸化パルプ、カルボキシメチル基を有するカルボキシメチル化パルプ、及びリン酸基を有するリン酸エステル化パルプは、これらにAg、Au、Pt、Pd、Cu及びZnの群から選ばれる1種以上の金属粒子を担持させた、金属担持パルプであっても良い。金属担持パルプは、酸化パルプ、カルボキシメチル化パルプ、及びリン酸エステル化パルプに、金属化合物水溶液を接触させ、これら変性パルプにそれぞれ導入されたカルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸基と金属化合物とを結合させることによって得ることができる。
【0030】
金属化合物水溶液とは、金属塩または有機金属化合物の水溶液である。金属塩の例には、錯体(錯イオン)、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、および酢酸塩が含まれる。金属塩は水溶性であることが好ましい。金属化合物の接触方法に関しては、予め調製した変性パルプの分散液と金属化合物水溶液を混合してもよく、変性パルプを含む分散液を基材の上に塗布して膜とし、当該膜に金属化合物水溶液を滴下して含浸させてもよい。このとき、膜は基板上に固定されたままであってもよいし、基板から剥離された状態であってもよい。
【0031】
金属化合物水溶液の濃度は特に限定されない。金属化合物を接触させる時間は適宜調整してよい。接触させる際の温度は特に限定されないが20~40℃が好ましい。また、接触させる際の液のpHは2.5~13が好ましい。
【0032】
次に、上記のように得られた変性パルプに結合した金属化合物を還元することによって金属粒子が形成される。還元反応は、公知の方法で行ってよいが、金属化合物を還元しつつ、金属化合物と酸基との結合を開裂しないように行うことが好ましい。このような還元方法の例には、水素による気相還元法、および水素化ホウ素ナトリウム水溶液などの還元剤を用いた液相還元法が含まれる。
【0033】
(第1脱水工程)
上記のようにして得られた変性パルプの水分散液は、異物の除去を簡単に行うことができる観点から、濃度が0.1~1.0重量%、好ましくは0.5~1.0重量%に調整されている。なお、本発明において、変性パルプの水分散液の濃度は固形分濃度を示している。また、変性パルプが金属担持パルプである場合は、変性パルプの水分散液の濃度は、金属を含むパルプの固形分濃度である。
【0034】
本発明の第1脱水工程は、0.1~1.0重量%、好ましくは0.5~1.0重量%の変性パルプの水分散液を、脱水装置を用いて、2.0~4.0重量%、好ましくは3.0~4.0重量%となるように脱水する工程である。即ち、第1脱水工程においては、変性パルプの入口濃度が0.1~1.0重量%、好ましくは0.5~1.0重量%であり、出口濃度が2.0~4.0重量%、好ましくは3.0~4.0重量%である。
【0035】
第1脱水工程において、変性パルプの水分散液を出口濃度2.0~4.0重量%、好ましくは3.0~4.0重量%まで脱水することにより、次工程の第2脱水工程で使用する脱水装置の入口濃度とした場合に、再分散性が良く、輸送コストを抑えることができる濃度範囲である10~14重量%、好ましくは10~13重量%の変性パルプの水分散液を製造することができる。
【0036】
第1脱水工程において用いられる脱水装置としては、変性パルプの水分散液を上記の濃度範囲にできるものであれば特に制限はないが、サクションフィルター、ポリディスクフィルター、およびロータリースクリーン等が挙げられ、スクリュープレスでの脱水に適した固形分までの濃縮(0.1~1%を2~4%まで濃縮)が可能である観点からロータリースクリーンを用いることが望ましい。
【0037】
また、ロータリースクリーンは、円筒状のスクリーンドラムの中心に原料吐出口を設け、原料を軸方向に吐出させながら回転方向に脱水するものであり、この回転速度を変更することにより、変性パルプの水分散液の滞留時間及びろ過面積を調整することができ、出口濃度を所望の濃度とすることができる。
【0038】
(第2脱水工程)
第2脱水工程では、第1脱水工程において出口濃度2.0~4.0重量%、好ましくは3.0~4.0重量%まで脱水された変性パルプの水分散液を、脱水装置を用いて10~14重量%、好ましくは10~13重量%となるように脱水する工程である。即ち、第2脱水工程においては、変性パルプの入口濃度が2.0~4.0重量%、好ましくは3.0~4.0重量%であり、出口濃度が10~14重量%、好ましくは10~13重量%である。
【0039】
第2脱水工程において用いられる脱水装置としては、変性パルプの水分散液を上記の濃度範囲にできるものであれば特に制限はないが、ベルトプレス、スクリュープレス、ツインロールプレス、およびコニカルディスクプレス等のプレスタイプの脱水装置が挙げられ、設備機構が単純な点、また比較的設備が安価であるという観点から、スクリュープレスを用いることが望ましい。
【0040】
ここで、スクリュープレスは、円筒状のスクリーンの内部にスクリューが設置され、スクリューとスクリーンの間の容積が、原料出口に向かって徐々に小さくなる構造となっている。原料入口から投入された変性パルプの水分散液が、スクリューにより回転・搬送されることで、徐々に容積が小さくなり圧縮されて脱水される。スクリュープレスの回転数を調節する、またはスクリュープレス処理後原料出口を閉塞、もしくは開放することにより、出口濃度を所望の濃度とすることができる。
【0041】
本発明においては、価格が安価であり、機構が単純であり、さらに所望の濃度に脱水することができる観点から、第1脱水工程においてロータリースクリーンを、第2脱水工程においてスクリュープレスを組み合わせて用いることが好ましい。
【0042】
本発明は、変性パルプの水分散液を第1脱水工程および第2脱水工程の2段階で脱水するため、0.1~1.0重量%という比較的濃度の低い変性パルプ水分散液を、10~14重量%まで脱水することができる。そのため、本発明の方法により製造される変性パルプは、輸送コストが低い。また、本発明の方法により製造される変性パルプは再分散性に優れる。
【実施例
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0044】
(実施例1)
(第1脱水工程および第2脱水工程)
酸化パルプに金属担持することにより得られた金属担持パルプ(パルプ1gあたりの金属担持量:10~50mgの範囲で操業)の0.5重量%水分散液を、ロータリースクリーン(製品名:ロータリースクリーン、富国工業株式会社製)を用いて3.5重量%となるまで脱水を行った(第1脱水工程)。次に、3.5重量%の金属担持パルプの水分散液を、スクリュープレス(製品名:FKCスクリュープレス、富国工業株式会社製)を用いて11.8重量%となるまで脱水を行った(第2脱水工程)。
【0045】
(未離解片計数テスト)
得られた11.8重量%の金属担持パルプを水で1.2重量%まで薄めて、合計で2000mLとした。得られた試料を標準離解機(JIS P 8220-1に規定されるもの)に投入し、3000rpmで16分40秒間回転させることにより、累積50000回転させた。この試料について、0.2mm2以上の未離解片(JIS P8208に規定される夾雑物測定図表と対比した)個数を目視で計数した。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2~実施例13、比較例1~比較例7)
第2脱水工程において、表1に示す濃度まで脱水を行ったこと以外は、実施例1と同様に脱水を行った。また、実施例1と同様に、試料を作製し、標準離解機を用いて回転させた後に、0.2mm2以上の未離解片の個数を計数した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、第2脱水工程後の変性パルプの濃度が10~14重量%であると、未離解片の個数が0~3個と少なく、再分散性に優れる結果であった(実施例1~13)。一方、第2脱水工程後のパルプ濃度が15.8重量%以上であると、未離解片の個数が18個以上となり、再分散性に劣る結果であった(比較例1~7)。