(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】電気機械変換器および電子時計
(51)【国際特許分類】
G04C 10/00 20060101AFI20220510BHJP
H02N 1/00 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G04C10/00 A
H02N1/00
(21)【出願番号】P 2018245732
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100161089
【氏名又は名称】萩原 良一
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】峯 昂輝
(72)【発明者】
【氏名】坂田 新之介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 和貴
(72)【発明者】
【氏名】古舘 優太
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-69999(JP,A)
【文献】特開2016-54646(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146483(WO,A1)
【文献】特開2006-147995(JP,A)
【文献】特開平9-186368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04C 1/00 - 99/00
G04G 3/00 - 99/00
H02N 1/00 - 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換を行う電気機械変換器であって、
回転軸の周りに回転する回転部材と、
前記回転部材に対向して配置された対向基板と、
前記回転部材の前記対向基板との対向面に、前記回転部材の回転方向に互いに間隔を空けて配置された帯電部と、
前記対向基板の前記回転部材との対向面において、前記回転部材の回転領域に対向して配置された対向電極と、
前記対向基板の前記対向面とは反対側である反対面に形成された絶縁膜と、を有し、
前記絶縁膜は、前記回転部材の回転領域に平面視で重ならない周辺領域に形成され、前記反対面の全面には形成されていない、
ことを特徴とする電気機械変換器。
【請求項2】
前記対向基板は、電力と動力の間の変換に用いられる電子部品を有し、
前記電子部品は、前記反対面の前記周辺領域に配置されている、請求項1に記載の電気機械変換器。
【請求項3】
前記対向基板は、外部から働く力により前記回転部材を回転させたときに前記帯電部と前記対向電極との間の静電誘導により発生する交流電流を整流する整流回路を有し、
前記電子部品は、前記整流回路を構成するダイオードである、請求項2に記載の電気機械変換器。
【請求項4】
帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換を行う電気機械変換器であって、
回転軸の周りに回転する回転部材と、
前記回転部材に対向して配置された対向基板と、
前記回転部材の前記対向基板との対向面に、前記回転部材の回転方向に互いに間隔を空けて配置された帯電部と、
前記対向基板の前記回転部材との対向面において、前記回転部材の回転領域に対向して配置された対向電極と、
前記対向基板の前記対向面とは反対側である反対面に配置された、電力と動力の間の変換に用いられる電子部品と、を有し、
前記電子部品は、前記回転部材の回転領域に平面視で重ならない周辺領域に配置されている、
ことを特徴とする電気機械変換器。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載の電気機械変換器を有する電子時計であって、
重量バランスに偏りがあり、外部から働く力により駆動されて回転する回転錘と、
前記回転錘の回転により得られる動力を用いて前記回転部材を回転させたときに前記帯電部と前記対向電極との間の静電誘導により発生する電力を蓄積するための回路部品を含む回路基板と、をさらに有し、
蓄積された前記電力を用いて時刻を計時し、
前記対向基板と前記回路基板とは、前記電子時計の厚さ方向に重ねて配置され、
前記電子部品と前記回路部品とは、前記対向基板と前記回路基板の平面方向にずれて配置されている、
ことを特徴とする電子時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換器および電子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
相対移動する帯電部と対向電極との間の静電誘導により発電する発電器や、帯電部と対向電極との間で発生する静電気力により駆動力を得るモータなどの電気機械変換器が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、平板状の基板と、基板の平面に対面して回転する回転部材と、回転部材により回転駆動される時刻指示用の指針と、回転部材にその回転中心部から放射状に形成された放射部を備えた第1電極と、第1電極の放射部と対向するように平板状の基板に形成された放射部を備えた第2電極と、第1電極と第2電極との一方に設けられた電荷保持体とを備える時計用発電装置が記載されている。
【0004】
特許文献2には、ハウジングと、ハウジングに固定された第1基板と、ハウジングに回転自在に軸支された軸を有する円板状の第2基板と、帯電膜と、対向電極と、帯電膜および対向電極間で発生した電力を出力する出力部とを有する静電誘導型発電器が記載されている。この発電器では、対向電極は第1基板の第1対向面に設置され、帯電膜は第1対向面に対向する第2基板の第2対向面に設置され、第2基板の第2対向面には、所定角度毎に、帯電膜と、帯電膜が設置されていない間隔部とが交互に配置され、第1基板、帯電膜、第2基板、対向電極および出力部からなる1組の発電部が複数組設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-286428号公報
【文献】特開2017-069999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
小型の電気機械変換器を実現するには、電力と動力の間の変換に用いられる電子部品(回路部品)を、帯電部に対向する対向電極の基板(対向基板)に配置することが望ましい。そのためには、絶縁性の被覆膜(絶縁膜)を塗布などにより対向基板に形成する必要があるが、絶縁膜は、対向基板上で対向電極がある側の面には塗布できないので、対向電極とは反対側の片面のみに形成される。この場合、絶縁膜は塗布後に乾燥すると収縮するため、対向基板に反りが生じやすくなる。静電的な相互作用を利用する電気機械変換器では、帯電部と対向電極が配置される回転部材と対向基板とを近接させてその隙間を高精度に調整する必要があり、対向基板の反りによって回転部材との隙間が設計値からずれると、性能の低下を招くことになる。
【0007】
そこで、本発明は、電子部品の実装用の絶縁膜を形成することによる電気機械変換器の対向基板の反りの発生と、それによる性能の低下を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換を行う電気機械変換器であって、回転軸の周りに回転する回転部材と、回転部材に対向して配置された対向基板と、回転部材の対向基板との対向面に、回転部材の回転方向に互いに間隔を空けて配置された帯電部と、対向基板の回転部材との対向面において、回転部材の回転領域に対向して配置された対向電極と、対向基板の対向面とは反対側である反対面に形成された絶縁膜とを有し、絶縁膜は、回転部材の回転領域に平面視で重ならない周辺領域に形成され、反対面の全面には形成されていないことを特徴とする電気機械変換器が提供される。
【0009】
対向基板は、電力と動力の間の変換に用いられる電子部品を有し、電子部品は、反対面の周辺領域に配置されていることが好ましい。
【0010】
対向基板は、外部から働く力により回転部材を回転させたときに帯電部と対向電極との間の静電誘導により発生する交流電流を整流する整流回路を有し、電子部品は、整流回路を構成するダイオードであることが好ましい。
【0011】
帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換を行う電気機械変換器であって、回転軸の周りに回転する回転部材と、回転部材に対向して配置された対向基板と、回転部材の対向基板との対向面に、回転部材の回転方向に互いに間隔を空けて配置された帯電部と、対向基板の回転部材との対向面において、回転部材の回転領域に対向して配置された対向電極と、対向基板の対向面とは反対側である反対面に配置された、電力と動力の間の変換に用いられる電子部品とを有し、電子部品は、回転部材の回転領域に平面視で重ならない周辺領域に配置されていることを特徴とする電気機械変換器が提供される。
【0012】
上記のいずれかの電気機械変換器を有する電子時計であって、重量バランスに偏りがあり、外部から働く力により駆動されて回転する回転錘と、回転錘の回転により得られる動力を用いて回転部材を回転させたときに帯電部と対向電極との間の静電誘導により発生する電力を蓄積するための回路部品を含む回路基板とをさらに有し、蓄積された電力を用いて時刻を計時し、対向基板と回路基板とは、電子時計の厚さ方向に重ねて配置され、電子部品と回路部品とは、対向基板と回路基板の平面方向にずれて配置されていることを特徴とする電子時計が提供される。
【発明の効果】
【0013】
上記の電気機械変換器およびそれを有する電子時計では、電子部品の実装用の絶縁膜を形成することによる対向基板の反りが発生しにくく、それによる性能の低下も起こりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】電子時計1の内部構造を示す破断斜視図である。
【
図4】静電発電器2の回路構成の例を示す模式図である。
【
図5】上側基板30の上面30aおよび下面30bの一部を示す平面図である。
【
図6】回路基板14と上側基板30の一部を示す側面図である。
【
図7】静電モータ3の回路構成の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、電気機械変換器および電子時計について説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
【0016】
図1および
図2は、電子時計1の内部構造を示す断面図および破断斜視図である。電子時計1は、裏蓋と文字板の間に、回転錘11、受け板12、支持台13、回路基板14、支持台15、静電発電器2および地板16を、厚さ方向にこの順に有する。電子時計1の主な構成要素のうち、裏蓋、外装ケース、文字板、指針および風防ガラスは以下の説明に必要ないため図示を省略し、
図1および
図2では、これらが取り除かれた電子時計1を示している。各図の上側は裏蓋側に、下側は文字板側に相当する。
【0017】
静電発電器2は、回転錘11の回転エネルギーを用いて静電誘導により静電気を発生させることで動力から電力を取り出す発電装置であり、静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換(静電変換)を行う電気機械変換器の一例である。回転錘11は、円板形状を有する電子時計1の平面の半分程度を覆う略半円形の板材であり、電子時計1の中央に設けられた回転軸11Cに固定され、電子時計1の円形領域の略全体を回転領域とする。回転錘11は、重心が回転軸11Cよりも外周側にずれていることで重量バランスに偏りを有し、例えば電子時計1を携帯する使用者が体を動かすことで生じる振動を動力源として、回転軸11Cの周りに時計回りまたは反時計回りに回転する。受け板12は回転錘11を、支持台13は受け板12をそれぞれ支持するための部材である。
【0018】
回路基板14は、回転錘11の回転により静電発電器2で発生する電力を蓄積したり、指針駆動用の図示しないモータを駆動したりするための回路を有する。支持台15は、回路基板14を支持するための部材である。回路基板14、指針を駆動するモータおよび輪列、ならびに回路基板14およびモータに電力を供給する電池などにより、電子時計1のムーブメント(時計機構の本体部分)が構成される。電子時計1は、静電発電器2で発生した電力を用いて時刻を計時するとともに、指針を回転させて時刻を表示する。
【0019】
図3は、静電発電器2の分解斜視図である。静電発電器2は、回転軸20、スペーサ25、上側基板30、ロータ40および下側基板50を有する。
【0020】
回転軸20は、ロータ40の回転中心となる軸であり、上側基板30と下側基板50を貫通し、受け板12と地板16に設けられた軸受21で軸支されている。回転軸20には、回路基板14と上側基板30の間にカナ22が設けられており、カナ22は歯車23に連結している。歯車23は、図示しない歯車列を介して回転錘11の回転軸11Cに連結されている。
【0021】
スペーサ25は、ロータ40の周囲を取り囲みかつロータ40の回転領域を除いて上側基板30と下側基板50の間を埋め尽くすように成形された樹脂製の部材である。スペーサ25は、静電発電器2の側方からスペーサ25を通してロータ40の位置を目視で確認できる程度の透光性を有することが好ましく、透明であることがより好ましい。スペーサ25には、上側基板30と下側基板50との隙間が小さくなり過ぎるのを防いでその隙間を一定に保つ効果と、ロータ40の回転領域に外部からゴミが混入することを防ぐ効果もある。
【0022】
上側基板30は、対向基板の一例であり、例えばガラスエポキシ基板などの周知の基板材料で構成され、支持台15と地板16の間における支持台15側に配置されている。ロータ40との対向面である上側基板30の下面30b(
図5(B)を参照)には、ロータ40と平面視で重なる円形領域内に、対向電極31,32が形成されている。
図3では上側基板30の上面30aを示しているが、対向電極31,32は上側基板30の下面30bに形成されているため、
図3では破線で示している。対向電極31,32は、それぞれ略台形の同じ形状および大きさを有し、回転軸20が通る貫通孔30cを中心として、円周方向に交互かつ放射状に配置されている。
【0023】
ロータ40は、回転部材の一例であり、例えばアルミニウムもしくはその合金などの金属か、ガラスまたはシリコンなどの材料で構成された略円板状の部材であり、上側基板30と下側基板50の間に配置されている。ロータ40は、その中心が回転軸20に固定されており、回転軸20とともに時計回りまたは反時計回りに回転する。軽量化のために、
図3に示すように、ロータ40には、その中心付近から放射状に広がる略台形の溝部42が円周方向に等間隔に形成されている。同じ円周上では、溝部42と溝部42でない部分とは、互いに同じ幅を有する。
【0024】
ロータ40の上面および下面における溝部42同士の間の表面には、帯電部41が形成されている。溝部42があることで、帯電部41は、上側基板30および下側基板50との対向面であるロータ40の上面および下面において、円周方向に互いに間隔を空けて配置されている。帯電部41は、エレクトレット材料で構成された薄膜であり、静電荷を保持し、すべて同一の極性(例えば負)に帯電している。このエレクトレット材料としては、例えば、CYTOP(登録商標)などの樹脂材料、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルデンジフルオライド(PVDF)もしくはポリビニルフルオライド(PVF)などの高分子材料、またはシリコン酸化物(SiO2)もしくはシリコン窒化物(SiN)などの無機材料が用いられる。
【0025】
帯電部41は、ロータ40の上面および下面における溝部42同士の間の表面のみに形成されていてもよいし、溝部42よりも中心側の円環部分を含むロータ40全面に形成されていてもよい。
【0026】
なお、ロータ40は、
図3では、帯電部41の最外周部同士が円周方向に互いに連結されることで車輪のような形状を有しているのに対し、
図2では、この連結部分がなく溝部の外周部分が開放されることで花弁のような形状を有している。このように、ロータ40の形状は、2つの図の間で一致していないが、
図2の花弁型と
図3の車輪型のどちらでもよく、これらの差異は以下で説明する内容には影響しない。
【0027】
下側基板50は、上側基板30と同様に周知の基板材料で構成され、支持台15と地板16の間における地板16側に配置されている。ロータ40との対向面である下側基板50の上面50aには、ロータ40と平面視で重なる円形領域内に、対向電極51,52が形成されている。対向電極51,52は、それぞれ略台形の同じ形状および大きさを有し、回転軸20が通る貫通孔を中心として、円周方向に交互かつ放射状に配置されている。
【0028】
図4は、静電発電器2の回路構成の例を示す模式図である。静電発電器2は上側基板30の上面30aに整流回路C1を有し、
図4では、上側基板30の下面30bの対向電極31,32、下側基板50の上面50aの対向電極51,52、および整流回路C1を示している。対向電極31,32は上側基板30上で整流回路C1に電気的に接続され、対向電極51,52も、下側基板50と上側基板30とを接続する図示しないばねを介して、整流回路C1に電気的に接続されている。整流回路C1は、計8個のダイオード33を有するブリッジ式の回路であり、ダイオード33は、発電用の回路部品(電力と動力の間の変換に用いられる電子部品)の一例である。
【0029】
外部から働く力により回転錘11が回転すると、図示しない歯車列を介して歯車23およびカナ22が回転する。すると、回転軸20とともにロータ40が回転し、それに伴い、帯電部41と対向電極31,32,51,52との重なり面積が増減する。例えば帯電部41に負電荷が保持されているとすると、ロータ40の回転に伴い、対向電極31,32,51,52に引き寄せられる正電荷が増減する。こうして、静電誘導により対向電極31,51と対向電極32,52との間に交流電流が発生し、その交流電流は整流回路C1で整流されて回路基板14に出力される。これにより、電子時計1内の充放電可能な電池が充電される。
【0030】
図5(A)および
図5(B)は、それぞれ、上側基板30の上面30aおよび下面30bの一部を示す平面図である。
図5(A)では上側基板30に隠れて図示されていないが、
図5(A)に示す上面30aの裏側に、下面30bの対向電極31,32とその下のロータ40が配置されている。
図5(A)における破線の内側の円形領域は、下面30b上で対向電極31,32が配置されている領域およびロータ40の回転領域の直上に相当する。以下では、この円形領域のことを回転領域R1という。また、上面30aにおける回転領域R1の外側全体を周辺領域R2という。周辺領域R2は、上側基板30の端部であり、対向電極31,32の配置領域およびロータ40の回転領域に平面視で重ならない領域である。
【0031】
図4の整流回路C1を構成する8個のダイオード33は、上面30aの周辺領域R2のみに集約して配置され、上面30aに半田で実装されている。すなわち、静電発電器2では、ダイオード33は、ロータ40の回転領域および対向電極31,32と平面的に重ならない位置に配置されている。こうした電子部品をロータ40との対向面である下面30bに配置するのはスペースの点で困難であり、上面30a上でも回転領域R1内に配置すると、対向電極31,32での電位の誘導が阻害される恐れがあるため好ましくない。一部の電子部品は回転領域R1内に配置されていてもよいが、静電誘導への悪影響を避け、発電性能を高めるためには、上面30a上のすべての電子部品を対向電極31,32から遠い周辺領域R2内に配置することが好ましい。また、整流回路C1の先に接続される図示しないコンデンサも、周辺領域R2内に配置することが好ましい。
【0032】
上側基板30では、上面30aの周辺領域R2におけるダイオード33の周辺の一部分に、半田流れを防止するための樹脂製の絶縁コート34(レジストまたは絶縁膜)が塗布されている。位置関係を分かりやすくするために、
図5(B)でも、上面30a側のダイオード33および絶縁コート34の位置を破線で示している。絶縁コート34は上面30aのみに塗布されるので、その全面に塗布されると、乾燥時の収縮により上側基板30の上反りが大きくなって、静電発電器2の性能が低下する恐れがある。このため、絶縁コート34は、(一部が回転領域R1内に跨っていてもよいが)大部分または全部が周辺領域R2内に形成され、上面30aの全面には形成されていない。このように、絶縁コート34の塗布面積を最小限にすることで、上側基板30の反りが少なくなり、対向電極31,32がロータ40に平行になるため、発電性能の低下を防ぐことができる。
【0033】
図示した形態とは異なり、整流回路C1を(すなわちダイオード33を)下側基板50に配置してもよい。この場合、8個のダイオード33を、下側基板50の下面(対向電極51,52とは反対側の面)における、対向電極51,52の配置領域およびロータ40の回転領域に平面視で重ならない周辺領域に配置することが好ましい。この場合、絶縁コートは、下側基板50の下面上の周辺領域におけるダイオード33の周辺の一部分に形成される。あるいは、整流回路C1を上側基板30と下側基板50の両方に配置してもよい。この場合、4個のダイオード33を上側基板30の上面30aの周辺領域R2に、残り4個のダイオード33を下側基板50の下面上の周辺領域に、分けて配置すればよい。
【0034】
図6は、回路基板14と上側基板30の一部を示す側面図である。回路基板14と上側基板30とは、電子時計1の内部でその厚さ方向に重ねて配置されており、
図6に示すように、回路基板14上の回路部品14Cと上側基板30上のダイオード33とは、回路基板14および上側基板30の平面方向にずれて配置されている。ダイオード33がある周辺領域R2は上側基板30の端部であるため、回路部品14Cは、回路基板14上で、周辺領域R2の直上よりも電子時計1の中心側に配置されている。回路部品14Cは、例えば、指針駆動用の回路を構成するコンデンサなどの部品である。回路基板14の回路部品14Cと上側基板30の電子部品とを電子時計1の平面方向にずらす(平面視で重ねない)ことにより、両者の部品を厚さ方向に1直線上に並べた場合と比べて、
図6に矢印dで示す分だけ電子時計1の厚さを薄くすることができる。
【0035】
図7は、静電モータ3の回路構成の例を示す模式図である。静電モータ3は、整流回路C1が駆動回路C2に置き換えられている点が静電発電器2とは異なり、静電発電器2のものと同じ回転軸20、上側基板30、ロータ40および下側基板50を有する。
図7では、上側基板30の下面30bの対向電極31,32、下側基板50の上面50aの対向電極51,52、および駆動回路C2を示している。静電モータ3は、駆動回路C2に入力された電気信号に応じて発生する静電気力を利用してロータ40を回転させることで電力から動力を取り出す駆動装置であり、電気機械変換器の一例である。電子時計1は、静電発電器2に替えて、または静電発電器2に加えて、静電モータ3を有してもよい。
【0036】
駆動回路C2は、ロータ40を駆動するための回路であり、クロックCLKおよび2個の比較器35を有する。
図7に示すように、クロックCLKの出力は2個の比較器35の入力に接続され、一方の比較器35の出力は対向電極31,51に、他方の比較器35の出力は対向電極32,52に、それぞれ電気的に接続されている。2個の比較器35は、それぞれクロックCLKからの入力信号の電位と接地電位とを比較し、互いに逆符号の信号を2値で出力する。クロックCLKからの入力信号がHのときには、対向電極31,51は+V、対向電極32,52は-Vの電位になり、入力信号がLのときには、対向電極31,51は-V、対向電極32,52は+Vの電位になる。
【0037】
駆動回路C2は、対向電極31,51には帯電部41の静電荷と同じ符号の電圧を印加し、対向電極32,52には帯電部41の静電荷とは異なる符号の電圧を印加して、それらの電圧の符号を交互に反転させる。すると、帯電部41が作る電界と対向電極31,32,51,52が作る電界との相互作用により、帯電部41と対向電極31,32,51,52との間に引力または斥力が発生する。駆動回路C2は、極性が交互に切り替わる電圧を対向電極31,32,51,52に印加することで、帯電部41と対向電極31,32,51,52の間で発生する静電気力によりロータ40を回転させる。これにより、回転軸20、カナ22および歯車23が回転するので、図示しない歯車列を介して電子時計1の指針を駆動することができる。
【0038】
静電モータ3では、比較器35がモータ用の回路部品(電力と動力の間の変換に用いられる電子部品)の一例である。静電モータ3は、静電発電器2と同様に、例えば上側基板30の上面30aに駆動回路C2を有する。上面30aでは、
図5(A)の周辺領域R2に2個の比較器35が配置され、周辺領域R2におけるそれらの周辺の一部分に絶縁コートが形成される。これにより、駆動回路C2の電子部品による帯電部41と対向電極31,32の間の静電的な相互作用への影響や、絶縁コートに起因する上側基板30の反りによる静電モータ3の性能低下を避けることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 電子時計
2 静電発電器
3 静電モータ
11 回転錘
14 回路基板
14C 回路部品
20 回転軸
30 上側基板
31,32,51,52 対向電極
33 ダイオード
34 絶縁コート
40 ロータ
41 帯電部
50 下側基板