IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タタ、スティール、ネダーランド、テクノロジー、ベスローテン、フェンノートシャップの特許一覧

特許7069039蒸発装置に液体材料を供給するための装置
<>
  • 特許-蒸発装置に液体材料を供給するための装置 図1
  • 特許-蒸発装置に液体材料を供給するための装置 図2A
  • 特許-蒸発装置に液体材料を供給するための装置 図2B
  • 特許-蒸発装置に液体材料を供給するための装置 図2C
  • 特許-蒸発装置に液体材料を供給するための装置 図3A
  • 特許-蒸発装置に液体材料を供給するための装置 図3B
  • 特許-蒸発装置に液体材料を供給するための装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】蒸発装置に液体材料を供給するための装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
C23C14/24 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018557825
(86)(22)【出願日】2017-05-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2017060316
(87)【国際公開番号】W WO2017191082
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】16168167.1
(32)【優先日】2016-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505008419
【氏名又は名称】タタ、スティール、ネダーランド、テクノロジー、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL NEDERLAND TECHNOLOGY BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】エッゾ、ゾエストベルヘン
(72)【発明者】
【氏名】コリン、コマンダー
(72)【発明者】
【氏名】ローランド、ヤン、スネイデルス
(72)【発明者】
【氏名】エデュアルト、パウル、マッテース、バッケル
(72)【発明者】
【氏名】ピーター、ウィリアム、ヘーゼレット
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス、アレクサンダー、ハミルトン
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン、ジェームズ、ウィディス
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー、ディーン、カイザー
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-535173(JP,A)
【文献】国際公開第2015/067662(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0072361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内の蒸発装置に液体金属を供給するための装置であって、液体金属を収容するように構成された容器と、前記容器から蒸発装置への供給管と、前記供給管に介設された電磁ポンプとをさらに備え、前記電磁ポンプを収容する真空筐体が設けられていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記真空筐体が、前記供給管の少なくとも一部を包囲する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記真空筐体が、前記真空チャンバおよび/または前記容器に接続される、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記真空筐体が、可撓性接続部材によって、前記真空チャンバおよび/または液体金属を収容するように構成された前記容器に接続される、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記電磁ポンプが、少なくとも部分的に導電材料から形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記電磁ポンプが、少なくとも部分的にグラファイトから形成されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記電磁ポンプの電極が、前記ポンプに対して設けられている、請求項5または6に記載の装置。
【請求項8】
液体金属を収容するように構成された前記容器内の液体金属への力を制御する制御手段が設けられている、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
液体金属を収容するように構成された前記容器が密閉容器であり、前記制御手段が前記密閉容器内のガスの圧力を制御する、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記電磁ポンプの磁場を制御する制御手段が設けられている、請求項1~9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記制御手段が、前記電磁ポンプに対する磁極の距離を制御し、および/または、前記磁場が直流電磁石または交流電磁石によって供給される場合に、前記電磁石のコイルを通る電流を制御する、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
石が、前記真空筐体の外側に設けられている、請求項1~11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記真空筐体の外側に設けられている前記磁石が、前記電磁ポンプに磁場を印加するための磁石であり、かつ、永久磁石を備える、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記供給管の前記電磁ポンプと前記蒸発装置との間に弁が介設されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
戻り管と、前記戻り管に介設された電磁ポンプとが設けられており、前記戻り管が、前記蒸発装置から前記容器へと敷設されている、請求項1~14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記供給管に介設された前記電磁ポンプと前記戻り管に介設された前記電磁ポンプとが互いに隣接して配置されており、両電磁ポンプのための磁場は同じ磁石によって供給される、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記供給管に介設された前記電磁ポンプと前記戻り管に介設された前記電磁ポンプとが互いに隣接して配置されており、両電磁ポンプのための電流は同じ電源によって供給される、請求項15に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内の蒸発装置に液体金属を供給するための装置に関する。このような装置は、例えば、物理的蒸着(PVD)による基板上への金属コーティングの蒸着に使用される。
【背景技術】
【0002】
工業規模での連続または半連続的なPVDコーティングの工程では、経年的に多量のコーティング材料を処理することができる真空コーティング設備が必要とされている。さらに、熱蒸発を使用する場合、蒸発装置内の液体の温度は、蒸発させる材料の融点よりもはるかに高い温度である必要がある。したがって、小型蒸発装置を有すること、および蒸発装置に材料を供給して需要を満たすことが望ましく、費用対効果が高い。材料は、固体または液体のいずれかの状態で供給を行うことができる。しかし、最良の方法は、蒸発器中の酸化物含有量が最小化するという利点、および溶融物の潜熱や材料の比熱を蒸発装置で補う必要がないという利点を有する大型液体リザーバから液体金属を供給することである。
【0003】
米国特許第2664852号明細書に開示されたPVDコーティング装置は、真空チャンバ内に液体金属用のリザーバを有する。この設備では、作用期間の最大値は非常に限られている。より最近のPVDコーティング装置において、液体金属リザーバは、真空チャンバの外側に配置されるが、例えば国際公開第2012081738号パンフレットを参照されたい。しかし、蒸発装置での真空と液体金属リザーバとの圧力差により、制御すべきリザーバ内の液体金属に対して力がかかる。この力は、リザーバ内の液体レベルが低下するか、蒸発装置における真空圧力が変化するか、或いは、蒸発装置内のレベルが変化したために蒸発装置への一定の供給を維持して一定の蒸発を確保する制御が必要となったときに変化する。
【0004】
液体金属容器から蒸発装置への液体金属の供給は、異なる方法で制御することができる。米国特許第3059612号明細書では、蒸発装置内の液体金属表面と液体金属容器内のレベルとの間の高さの差を一定に維持するために、液体金属の容器を上昇させることが開示されている。しかし、気圧の変化により、ただでさえ蒸発装置におけるレベルが変わるため、結果として蒸発の変化を生じさせることになる。
【0005】
米国特許第3581766号明細書では、主液体金属容器と蒸発装置との間に追加のリザーバが設けられる。この中間リザーバでは、液体が中間リザーバから主液体金属容器に戻るオーバーフロードレインによって、レベルが一定に保たれる。しかし、気圧が変化する問題は依然として存在しており、真空を破ることなくシステムを開始または停止する方法は困難であることが明らかにされている。したがって、まず、液体金属容器と蒸発装置との間には、弁が必要とされるが、例えば、国際公開第2012081738号パンフレットを参照されたい。このような弁を使用して流量を制御することが試みられているが、これは実用的ではなく、また、真空を破らずに実験の最後に蒸発装置を空にすることは不可能である。国際公開第2013143692号パンフレットでは、流れを制御するために弁とポンプの両方を使用するという、より良い解決法が開示されている。
【0006】
しかし、上記の公報には記載されていない他の問題も依然として存在する。真空チャンバの外側に配置されたリザーバの問題の1つは、供給管が真空チャンバの壁を通過する必要があるということに関連している。供給管による供給は、設備全体の加熱中に生じる膨張差を吸収できなければならないが、チャンバ内の真空状態に影響を与えるべきではない。これは、ベローズ型の接続によって達成できるが、(例えば、英国特許第1220020号明細書を参照)、この設備は、溶融物を凍結させ、閉塞などを生じさせる可能性のあるコールドスポットを生成しないことが重要である。
【0007】
もう1つの要件は、全ての管および電磁ポンプが必要な温度に加熱され、運転中にその温度に維持されるべきであるということである。特に、電磁ポンプの加熱は、電磁ポンプの構造上、ポンプ内にコールドスポットが起こりやすいため、特別な注意が必要である。
【0008】
リザーバが外側に配置されていることによる別の問題は、蒸発器または管に導入され、蒸発または閉塞の問題を引き起こし得る液体容器からの酸化物による供給システムの汚染の可能性である。特開昭5938379号では、還元性ガスを使用して酸化物を除去する開始手順が記載されている。しかし、これはあらゆる種類の液体に対して機能するわけではなく、真空はこの工程中に変化する。
【0009】
また別の要件は、全ての管が必要な温度に加熱されるべきであり、さらに米国特許第3408224号明細書で述べられているように、蒸着前に液体材料を脱気して、蒸発工程を妨害し得る脱気が蒸発器に生じないようにする必要があることである。
【0010】
最後に、国際公開第2015067662号パンフレットに開示された方法により、真空を破ることなく蒸発器からできるようになるが、それは、追加の対策なしには、システム内の全ての管を空にすることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第2664852号明細書
【文献】国際公開第2012081738号パンフレット
【文献】米国特許第3059612号明細書
【文献】国際公開第2013143692号パンフレット
【文献】英国特許第1220020号明細書
【文献】特開昭5938379号
【文献】国際公開第2015067662号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、十分に加熱した電磁ポンプを有する蒸発装置に液体金属を供給するための装置を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、十分に加熱したシステムの管を有する蒸発装置に液体金属を供給するための装置を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、電磁ポンプとシステムの管の熱損失がさらに制限された蒸発装置に液体金属を供給するための装置を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、供給管を通して供給することによる真空チャンバの圧力損失をできる限り防止した蒸発装置に液体金属を供給するための装置を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、供給管を通して供給することによる液体金属容器の圧力損失をできる限り防止した蒸発装置に液体金属を供給するための装置を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、真空チャンバ内の真空を損失することなく、供給管と電磁ポンプを空にすることができる蒸発装置に液体金属を供給するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様によると、さらに、液体金属を収容するように構成された容器と、容器から蒸発装置への供給管と、供給管に介設された電磁ポンプを備え、電磁ポンプを収容する真空筐体が設けられた真空チャンバ内の蒸発装置に液体金属を供給するための装置を提供することにより、本発明の1つ以上の目的が実現する。
【0019】
このような真空筐体では熱対流による熱損失が大きく減少するため、電磁ポンプの熱損失が小さくなる。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、真空筐体は、供給管の少なくとも一部を包囲することを特徴とする。供給管の少なくとも一部は、液体金属および真空チャンバを含むように構成された密閉容器の外側にある限り、供給管に部分的または全体的に関係する。
【0021】
真空筐体は、真空チャンバおよび/または密閉容器に接続されることが好ましい。この設備により、密閉容器と真空チャンバの外側にある供給管全体が真空筐体内にある。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、真空筐体は、可撓性接続部材によって真空チャンバおよび/または容器に接続されることを特徴とするものである。この機能により、密閉容器、真空筐体、真空チャンバの各々または全ての膨張分を収容することができるようになる。
【0023】
真空筐体内の電磁ポンプと供給管とにより、対流を介した熱損失は、密閉容器と真空チャンバとの間で最も多くの熱損失を与えるのみに制限されている。このようにして、電磁ポンプと供給管のコールドスポットが防止され、液体金属の流れが制限されたり、目詰まりが生じたりすることが防止される。
【0024】
真空筐体内の圧力は1ミリバールから大気圧の範囲であり、これはおおよそ1000ミリバールである。運転サイクルまたは装置のキャンペーンの開始と終了、すなわち供給管および電磁ポンプの充填と排出をそれぞれ伴う、真空筐体内の圧力は、おおよそ大気圧である。運転中、真空筐体内の圧力は、好ましくは、1~200ミリバールの範囲内に維持される。真空筐体内の圧力を低真空域に維持することにより、真空チャンバ内のガス漏れは、真空筐体がない場合よりもはるかに小さくなる。真空チャンバ内のこのような圧力損失は、供給管を通じての真空チャンバ内への供給時に発生し、設備全体の異なる部品の膨張差に影響される。
【0025】
本発明のさらなる態様によると、電磁ポンプは、少なくとも部分的に導電材料で形成される。この特徴により、電磁ポンプに対して抵抗加熱を適用することができる。導電材料は、液体金属を圧送する用途にも適しているべきである。電磁ポンプは、1つ以上の導電材料から構成されている場合は、実用的ではなく、利点を有するよりも多くの問題を生じさせるが、その限りではない。
【0026】
適した実施形態では、電磁ポンプは、少なくとも部分的にグラファイトで構成される。グラファイトは導電材料であり、高温に耐えることが可能であるとともに、亜鉛およびマグネシウムのような液体金属の化学的侵食に耐えることが可能である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、電磁ポンプの電極はポンプに対して設けられる。ポンプ本体の外部またはポンプ本体の凹部に電極を有することにより、電磁ポンプの制御に必要な電流は、電磁ポンプの本体を介した部分、そして、電磁ポンプで制御される液体金属を介した部分に対して伝導することができる。
【0028】
電磁ポンプは、印加された磁場と液体金属を通る電流とに依存する液体金属に作用するローレンツ力によって、液体金属の流れを制御する。電磁ポンプを加熱するためには、液体金属の流れの制御とは無関係に電流を制御できることが必要である。これは、印加された磁場を制御することによって、または容器内の液体金属に作用する力を制御することによって、または両方を制御することによって、実施することができる。磁場の制御は、電磁ポンプ本体への磁極の距離を制御することによって、また、直流電磁石または交流電磁石の場合には、電磁石のコイルを通る電流を制御することによって行われる。
【0029】
本発明のさらなる態様によれば、液体金属を収容するように構成された容器内の液体金属への力を制御する制御手段が設けられる。さらなる態様によると、液体金属を収容するように構成された容器は密閉された容器であり、制御手段は密閉容器内のガスの圧力を制御するものである。「密閉容器」という用語は、容器内のガスの圧力および/または組成が制御されるまたは制御できる容器を意味する。
【0030】
密閉容器内の液体金属の圧力を変化させることにより、蒸発装置への液体金属の流量を変化させることができる。電磁ポンプを通る電流を変化させることによって、液体金属に作用する力が変化し、それにより流量が変化する。電磁ポンプの温度を調整する必要がある場合には、電磁ポンプを通る電流は調整しなければならず、また、同時に流量を調節する必要がある場合には、密閉容器内の液体金属の圧力を調整しなければならない場合もある。
【0031】
特定の実施形態によれば、密閉容器内の液体金属の圧力は、電磁ポンプによって液体金属に作用する力が、蒸発装置への液体金属の流れ方向に対抗する力となるように制御される。この場合、電磁ポンプによる流量の制御は、蒸発装置への流れ方向に対抗する力によって決定される。この構成の利点は、流量が下がると自動的に温度が上昇することである。
流量が高い程、コールドスポットが凍結や閉塞の問題を引き起こすような変化が少なくなる。
【0032】
本発明のさらなる態様によれば、制御手段が設けられ、電磁ポンプの磁場を制御する。磁場を変化させることにより、電磁ポンプによって液体金属に作用する力が変化する。
【0033】
本発明のさらなる態様によれば、制御手段は、電磁ポンプに対する磁極の距離を制御し、および/または、磁場が直流電磁石または交流電磁石によって供給される場合に、電磁石のコイルを通る電流を制御する。
【0034】
さらに、電磁ポンプの磁場を印加するための磁石が真空筐体の外側に設けられている。利点は、真空筐体のサイズが小さくなること、電磁石の場合にはフィードスルーが不要であること、永久磁石を使用する場合に特に関連する高温を有する空間の外側に磁石が存在することである。また、電磁ポンプへの磁極の距離を制御することにより磁場を制御する場合には、真空筐体の外側の磁石に対して施工が複雑化することが少なくなる。
【0035】
電磁ポンプに磁場を印加する磁石を設けることによって、永久磁石をより簡単に構成することができる。
【0036】
本発明のさらに別の態様によれば、供給管の電磁ポンプと蒸発装置との間に弁が介設されている。弁を使用すると、供給管からされた後に供給管を閉じ、真空チャンバが密閉容器内の低真空または大気圧と接触することを防ぐことができる。
【0037】
本発明のさらに別の態様によれば、戻り管と、戻り管に介設された電磁ポンプとが設けられており、戻り管は、蒸発装置から液体金属を収容するように構成された容器へと敷設されている。供給管と戻り管とを用いて、蒸発装置内の液体金属の組成を制御することができる。組成の制御とは、組成が可能な限り一定を保、成分の蒸発速度が異なることにより変化することはないことを意味する
【0038】
本発明のさらなる態様によると、供給管に介設された電磁ポンプと戻り管に介設された電磁ポンプは互いに隣接して配置され、両電磁ポンプのための磁場は同じ磁石によって供給される。本発明の別の実施形態によると、供給管に介設された電磁ポンプと戻り管に介設された電磁ポンプは互いに隣接して配置され、両電磁ポンプのための電流は同じ電源によって供給される。
【0039】
本発明について、下記の図に示す例によってさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】液体金属用容器、真空筐体内の電磁ポンプおよび真空チャンバを備えた装置の概略図である。
図2A】供給管の電磁ポンプの概略図を示す。
図2B】供給管の電磁ポンプおよび戻り管の電磁ポンプの概略図を示す。
図2C】供給管の電磁ポンプおよび戻り管の電磁ポンプの概略図を示す。
図3A】電磁ポンプへの磁極の距離を制御するための2つの構成を概略的に示す。
図3B】電磁ポンプへの磁極の距離を制御するための2つの構成を概略的に示す。
図4】加熱手段を用いた供給管の詳細を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
<図面の詳細な説明>
図1は、両側に真空ロック2、3を備える真空チャンバ1を備えた装置の概略図であり、ストリップ4は該装置を貫通するように誘導される。蒸発装置5は、真空チャンバ1の内側に配置され、蒸気分配器6に接続されている。誘導コイルなどの蒸発装置に十分なエネルギーを供給する手段も、真空チャンバの内部に配置される。理解を容易にするため、これらの手段は図面には示されていない。真空チャンバはさらに、真空ポンプ7と、圧力計8とを備えている。
【0042】
図1の底部では、密閉容器9は容器内部に液体金属を保持する容器10が設けられている。密閉容器9はさらにポンプ11、圧力計12、および過圧中継装置13を備えている。容器には加熱手段(図示せず)が設けられ、金属を加熱して溶融させ、および/または液体金属を一定の温度で維持する。弁32を有するガス源31は密閉容器9に接続され、容器9内に最初から存在する空気を、例えば、Nなどの非酸化性ガスと置換する。昇降手段14が設けられ、容器10を昇降させて、供給管15の端部を液体金属の中に浸漬したり、液体金属から取り出したりする。昇降手段14は、昇降させることにより、容器内の液体レベルと、蒸発装置内の液体レベルの距離が変わるので、液体金属の蒸発装置5への流量を制御するために使用することもできる。
【0043】
容器10は、容器10の内容物の重量を連続的に測定することができる重量測定装置35上に配置され、液体金属の流量および蒸発速度に関する付加的な情報を提供する。
【0044】
ポンプ11は、密閉容器内の圧力を低下させるために使用される。容器中の液体金属の酸化を防止するために、密閉容器内の空気を除去し、完全にまたは部分的に不活性ガスと置換することができる。この操作により、まず空気が、不活性ガスと置換される前に部分的に除去されて減圧され、その後、密閉容器内の圧力が調整および制御されて、蒸発装置への液体金属の流量を制御する。
【0045】
供給管15は、密閉容器9内の容器10から上方向に、蒸発装置5に向かって敷設されており、供給管には電磁ポンプ16と弁17介設されている。電磁ポンプ16および弁17は、真空筐体18の内部に配置されている。真空筐体18は、運転中に低真空に維持されることにより、電磁ポンプ16からの対流、および供給管15からの対流による熱損失を大幅に防止する。そのために、真空筐体18は真空ポンプ34と圧力計35、またはこれらの配列とを備えている。
【0046】
真空筐体18は、ベローズ19、20によって密閉容器9および真空チャンバ1に接続する。ベローズ19、20による接続は、密閉容器9および真空チャンバ1の外側であり、容器9および真空チャンバ1の内部空間は接続していない。しかし真空筐体18内の真空度が低いため、供給管15の真空チャンバ1内への供給時の避けられない真空漏れは非常に小さい。
【0047】
電磁ポンプ16であるポンプには、永久磁石21が設けられており、電磁ポンプ内の液体金属を通して電流を流すための磁場および電源を生成する。磁場と電流によって生じるローレンツ力は液体金属に力を与え、液体金属の流量の制御に用いられる。ローレンツ力は、液体金属が電磁ポンプの電極22と接触し、永久磁石21の磁場中に存在する場合にのみ作用する。結果として、液体金属が下向きに押し出されるときに、液体金属レベルを電極の高さ付近のレベルより低くすることはできない。
【0048】
磁石21は、過熱されると磁場の強度を減少させるため、過熱されないことが重要である。そのため、磁石21は真空筐体18の外側に配置され、少なくとも磁石とその磁場の位置は非強磁性材料で形成されている。
【0049】
液体金属の上向きの力は、下式により圧力差とカラムの高さによって求める。
P3-P1-(X-Y)*密度液体
(式中、
P3=密閉容器内の圧力であり、
P1=真空チャンバ内の圧力であり、
X=蒸発装置または供給管内のどこかに存在する可能性がある液体金属の高さの上部レベルであり、
Y=密閉容器内の容器内の液体金属の高さレベルである。)
【0050】
蒸発装置内の液体金属の蒸発が開始されると、液体金属の駆動力は次式のようになる。
P3-P4-(X-Y)*密度液体
(式中、P4は、真空チャンバ内の圧力よりも高くなる蒸気分配器6内の圧力である。)
【0051】
電磁ポンプが液体金属の上向き流れに対して力を加えると、力は次式のようにして求められる。
P3-P1-(X-Y)*密度液体-B*I*C
(式中、Bは磁場であり、Iは液体金属を通る電流であり、Cは定数である。)蒸発が開始すると、式は次のように変化する。
P3-P4-(X-Y)*密度液体-B*I*C
【0052】
電磁ポンプの加熱を増加させる必要がある場合、上向きの流れに対してより大きなローレンツ力を必要とするP3を増加させることにより、上向きの流れを一定に保つ。ローレンツ力をより大きくすることにより、電磁ポンプおよび液体金属を通して電流を増加させることができ、これにより抵抗加熱を更に提供することになる。
【0053】
図2Aは、電磁ポンプ16の本体に対して対向する両側の電極22を有する供給管15用の電磁ポンプ16の概略図である。電極22は電源23、この場合には可変DC電源に接続されている。
【0054】
磁石21の極は電極22に対して垂直であり、この構成では磁石21はヨーク(図示せず)によって接続された2つの永久磁石である。永久磁石の代わりに、電磁石を使用することも可能であり、例えばDCコイルを有する電磁石を使用することも可能である。コイルを通して電流を変化させることによって磁場を変化させることができる。
【0055】
可変DC電源およびDCコイルの代わりに、電磁石に対して可変AC電源およびACコイルを使用することも可能である。
【0056】
図2Bは、互いに隣接する供給管15および戻り管24と、供給管15および戻り管24のそれぞれための電磁ポンプ18および25とを備えた、構成を示す。供給管15と戻り管24の両方の磁場は、同じ永久磁石21を備えている。また、ローレンツ力は逆方向であるため、各電極に逆接続された供給管15と戻り管24とのそれぞれには別の可変DC電源23および26が設けられている。供給管15と戻り管24は、互いに熱的に接触しているが、互いに電気的に絶縁されている。戻り管の流量は、蒸発速度によって、供給管内の流量とは異なり、そのため、戻り管24を通る電流は、供給管15を通る電流よりも大きくなる。
【0057】
図2Cは、供給管15の電極22と供給管24の電極22とが直列に接続され、そのため一方の電源23のみが必要であり、同じ電流が両方の供給管を通過する構成を示す図である。各管内の流量を制御するために、各管15および24内の磁石21および36の磁場は別々に制御される。
【0058】
図3Aおよび3Bは、磁束を短絡させることによって、または磁極の電磁ポンプへの距離を変更することによって、永久磁石の磁場の強度を制御するための概略的な2つの構成を示す。図3Aによる構成では、磁石21の極間の磁束は、第2の脚部38により磁束を短絡させることによって変化させることができる。磁束は、この第2の脚部の極間の距離を変化させることによって変化する。このため、ヨークの脚部38は、このような直線的な変位を可能にするように設計されている。
【0059】
図3Bによる構成では、磁石21の極間の距離を変化させることによって、磁気強度を変化させることができる。これは、回転または直線変位によって変化させることができる。回転変位は図3Bに示されるが、ヨーク37は旋回点39と、回転を制御すると同時に磁石21の極間の距離の変化を制御することができるスピンドル装置40を備える。
【0060】
図4は、チャネル27および2つの異なる加熱形態を有する供給管15のセグメントを概略的に示している。第1の加熱方法は、供給管の材料が抵抗として働く電源28を用いた抵抗加熱による供給管の加熱である。第2の加熱方法は、供給管15の穴または凹部に設けられている、電源30を備えたシースヒータ29による加熱である。電源28および30はDCまたはAC電源であってもよい。これは実際には抵抗加熱であり、抵抗はシース内に封入され、供給管から電気的に絶縁される。
【0061】
全ての管は、液体金属の融点より高い温度に加熱されなければならないが、溶融温度より40℃高ければ概ね十分である。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4