(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】コンジュゲート及びコンジュゲート試薬
(51)【国際特許分類】
C07K 1/13 20060101AFI20220510BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20220510BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220510BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220510BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C07K1/13 ZNA
C07K16/00
A61K47/68
A61K39/395 L
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2018560890
(86)(22)【出願日】2017-05-19
(86)【国際出願番号】 GB2017051407
(87)【国際公開番号】W WO2017199046
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-05-15
(32)【優先日】2016-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514321622
【氏名又は名称】ポリセリックス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アントニー・ゴドウィン
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/063006(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0302505(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンカーを介して治療剤、診断剤又は標識化剤にコンジュゲートされているタンパク質又はペプチドのコンジュゲートであって、前記リンカーが、一般式:
【化1】
(式中、
Prは、前記タンパク質又はペプチドを表し、
各Nuは、前記タンパク質
若しくはペプチド中に存在する又は
前記タンパク質若しくはペプチドに付着
している
硫黄原子又はアミン基を表し、
A及びBの各々は独立して、C
1~4アルキレン又はアルケニレン鎖を表し、
W'は、
ケト基-CO-、エステル基-O-CO-、スルホン基-SO
2
-、又はこれらの基のうちの1つの還元によって得られる基を表す)
を有するタンパク質又はペプチド結合部分を含み、
前記リンカーが、シクロデキストリンも含
み、前記シクロデキストリンが、前記リンカーの骨格に繋がれているペンダント基として存在する、コンジュゲート。
【請求項2】
前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンである、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
前記シクロデキストリンが、3位又は6位を介して前記リンカーの残りに結合されている、請求項1又は2に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
前記シクロデキストリンが、単環式である、請求項1から3のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
治療剤を含む、請求項1から
4のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
前記リンカーが、部分
【化2】
(式中、AAは、プロテアーゼ特異的アミノ酸配列を表す)
を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
前記タンパク質又はペプチドが、抗体又は抗体断片である、請求項1から
6のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
式:
【化3】
のタンパク質又はペプチド結合部分を含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
式:
【化4】
のタンパク質又はペプチド結合部分を含む、請求項
8に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
各Nuが、前記タンパク質又はペプチド中に存在するシステイン残基中に存在する硫黄原子を表す、請求項1から
9のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
式:
【化5】
(式中、Dは、前記治療剤、診断剤又は標識化剤を表し、CDは、前記シクロデキストリンを表し、F'は、前記タンパク質又はペプチド結合部分を表す)
を有する、請求項1から
10のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項12】
式:
【化6】
を有する、請求項
11に記載のコンジュゲート。
【請求項13】
タンパク質又はペプチドと反応することができ、治療剤、診断剤又は標識化剤、及びタンパク質又はペプチドと反応することができる官能基を含むリンカーを含むことができるコンジュゲート試薬であって、前記官能基が、式:
【化7】
(式中、
Wは、
ケト基-CO-、エステル基-O-CO-又はスルホン基-SO
2
-を表し、
A及びBの各々は独立して、C
1~4アルキレン又はアルケニレン鎖を表し、
mは、0から4であり、
各Lは独立して、脱離基を表す)
の基であり、
前記リンカーが、シクロデキストリンも含
み、前記シクロデキストリンが、前記リンカーの骨格に繋がれているペンダント基として存在する、コンジュゲート試薬。
【請求項14】
請求項2から
6のいずれか一項に規定の特徴を含む、請求項
13に記載のコンジュゲート試薬。
【請求項15】
前記官能基が、式:
【化8】
を有する、請求項
13又は
14に記載のコンジュゲート試薬。
【請求項16】
前記官能基が、式:
【化9】
を有する、請求項
15に記載のコンジュゲート試薬。
【請求項17】
式:
【化10】
(式中、Dは、前記治療剤、診断剤又は標識化剤を表し、CDは、前記シクロデキストリンを表し、Fは、タンパク質又はペプチドと反応することができる
前記官能基を表す)
を有する、請求項
13から
16のいずれか一項に記載のコンジュゲート試薬。
【請求項18】
式:
【化11】
を有する、請求項
17に記載のコンジュゲート試薬。
【請求項19】
タンパク質又はペプチドを請求項
13から
18のいずれか一項に記載のコンジュゲート試薬と反応させることを含む、請求項1から
12のいずれか一項に記載のコンジュゲートの調製のための方法。
【請求項20】
ペイロードが治療剤である請求項1から
12のいずれか一項に記載のコンジュゲートを、薬学的に許容される担体と一緒
に含む医薬組成物。
【請求項21】
ペイロードが治療剤である請求項1から12のいずれか一項に記載のコンジュゲートを、薬学的に許容される担体及びさらなる活性成分と一緒に含む、請求項20に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新規なコンジュゲート及び新規なコンジュゲート試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの研究調査が近年、広範囲の用途のためのペプチド及びタンパク質への、多種多様なペイロード、例えば治療剤、診断剤及び標識化剤のコンジュゲーションに専念してきた。タンパク質又はペプチドそれ自体は、治療的特性を有することがあり、及び/又はそれは、結合性タンパク質であり得る。
【0003】
ペプチド及びタンパク質は、治療剤としての潜在的使用を有し、コンジュゲーションは、それらの特性を改善する1つのやり方である。例えば、水溶性合成ポリマー、特にポリアルキレングリコールは、治療活性ペプチド又はタンパク質をコンジュゲートするために広く使用される。これらの治療用コンジュゲートは、好ましくは循環時間を延長すること及びクリアランス速度を減少すること、全身的毒性を減少すること、並びにいくつかの場合において、臨床的効力の増加を呈することによって、薬物動態を変えることが示された。ポリエチレングリコール、PEGを、タンパク質に共有結合でコンジュゲートする方法は、「PEG化」として共通して知られている。PEG鎖は、ペイロード、例えば治療剤、診断剤又は標識化剤を保有することができる。PEGの代替ポリマーが提案されているが、PEGは依然として、一般に選択される主体ポリマーである。
【0004】
結合性タンパク質、特に抗体又は抗体断片は、頻繁にコンジュゲートされる。標的細胞及び分子の表面上の特異的マーカーに対する結合性タンパク質の特異性は、それら自体で治療剤若しくは診断剤として又は治療剤、診断剤若しくは標識化剤を含み得るペイロードのための担体としてのいずれかで、それらの広範な使用に至っている。標識及びレポーター基、例えばフルオロフォア、放射性同位体及び酵素にコンジュゲートされているこうしたタンパク質は、標識化及び画像化の用途における使用を見出し、一方、細胞毒性剤及び化学療法薬等の薬物へのコンジュゲーションで抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を生成することは、特定の組織又は構造、例えば特別な細胞型又は成長因子へのこうした薬剤の標的化送達を可能にして、正常の健常組織に対する影響を最小化し、化学療法処置に関連する副作用を著しく低減する。こうしたコンジュゲートは、いくつかの疾患部域において、特にがんにおいて広範な潜在的治療用途を有する。
【0005】
タンパク質及びペプチドをコンジュゲートする多くの方法が文献に報告されてきた。おそらく、最も共通して使用される方法は、マレイミドに基づくコンジュゲート試薬の使用を伴う。こうした試薬は、多くの公報、例えばWO 2004/060965に記載されている。より均質な生成物に至る代替の手法が、Liberatoreら、Bioconj. Chem 1990、1、36~50頁、及びdel Rosarioら、Bioconj. Chem. 1990、1、51~59頁によって記載されており、これらは、抗体を含めてタンパク質におけるジスルフィド結合間をクロスリンクするために使用することができる試薬の使用を記載している。WO 2005/007197は、タンパク質中のジスルフィド結合から誘導される両方の硫黄原子とコンジュゲートすることで新規なチオエーテルコンジュゲートを得る能力を有する新規なコンジュゲート試薬を使用する、タンパク質へのポリマーのコンジュゲーションための方法を記載しており、一方、WO 2009/047500は、同じコンジュゲート試薬の使用で、タンパク質に付着されているポリヒスチジンタグに結合させることを記載している。WO 2010/100430は、タンパク質中のジスルフィド結合間に単一の炭素架橋を形成できる試薬を記載している。タンパク質のコンジュゲーションに関する他の文書としては、WO 2014/064423、WO 2013/190292、WO 2013/190272及びEP 2260873が挙げられる。
【0006】
WO 2014/064424は、薬物がメイタンシンであるとともに抗体がジスルフィド結合間をクロスリンクすることによって結合されている特定のADCを記載している。WO 2014/064423は、薬物がオーリスタチンであるとともに抗体がジスルフィド結合間をクロスリンクすることによって結合されている特定のADCを記載している。これらの文書の実施例に例示されているリンカーは、PEG部分を含有し、ここで、PEG鎖の一方の端部はリンカーのさらなる部分を介して薬物に付着されており、一方、PEG鎖の他方の端部は、リンカーのさらなる部分を介して抗体に付着されている。これは、ADCについて共通の構造パターンである。
【0007】
近年にわたって、コンジュゲートにおいてペイロードをタンパク質又はペプチドに連結するリンカーの重要性が明らかになってきている。しばしば、行うべき重要な決定は、開裂可能なリンカー、即ちコンジュゲートの投与で分解して遊離ペイロードを放出するリンカー、又は開裂不可能なリンカーを有することが所望されるかどうかである。別の重要な決定は、リンカーにPEGを含む又は含まないかである。これらの考慮に従って、原則として、任意のリンカーが使用され得る。しかしながら実際に、リンカーの構造の変化は、コンジュゲート試薬又は結果として得られたコンジュゲートのいずれかの特性における差異に至ることがある。
【0008】
シクロデキストリンは、環中にて一緒に結合されている5つ以上のグルコース(α-D-グルコピラノシド)単位で構成されている環式オリゴ糖類であり、典型的にはそれらの1位及び4位によって連結されている。最も一般的なシクロデキストリンは、それぞれ6個、7個及び8個の員環であるα、β及びγである。シクロデキストリンの構造は決定されており、一方の端部が他方よりもわずかに狭いトロイド又はバレルとして記載することができる。この構造は、低親水性分子を水中に可溶化する際に補助するシクロデキストリンの親水性シェルによって外部環境から保護されている、低親水性分子が存在することができる無極性空洞を提供する。こうした複合体におけるシクロデキストリンへのゲスト分子の結合は、一般に非共有結合性であり、シクロデキストリン-薬物複合体は、「封入複合体」としばしば称され、ここで、シクロデキストリン「ホスト」分子は、非共有結合性相互作用において「ゲスト」薬物分子を保持する。複合体を形成する能力の結果として、シクロデキストリン及びシクロデキストリン誘導体は、医薬調製物内の賦形剤として広範に使用されてきた。
【0009】
代替として、しかしあまり一般的ではないが、シクロデキストリンは、活性成分と反応させることで、共有結合性コンジュゲートを形成してきた。WO 91/13100は、抗体又はその断片であり得る標的化用担体に共有結合的に付着されているシクロデキストリンを記載している。WO 90/02141は、医薬品等の薬剤に共有結合されているシクロデキストリンを開示している。US 2001/0034333は、個々の単量体シクロデキストリンを使用する困難さを考察し、これらの問題を解決するために架橋シクロデキストリンポリマーの使用を提案している。それは、架橋シクロデキストリンポリマーに共有結合的に連結された蛍光ペイロードを記載しており、これは引き続いて、NHSエステル官能性を使用して抗体にコンジュゲートされていた。
【0010】
本発明者らは、ここで、特別な構造のコンジュゲートへのシクロデキストリンの組み込みが、驚くほど有効な結果を与えることを見出した。これらのコンジュゲートは、インビボにおいて驚くほど強力である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】WO 2004/060965
【文献】WO 2013/090590
【文献】WO 2005/007197
【文献】WO 2009/047500
【文献】WO 2010/100430
【文献】WO 2014/064423
【文献】WO 2013/190292
【文献】WO 2013/190272
【文献】EP 2260873
【文献】WO 2014/064424
【文献】WO 91/13100
【文献】WO 90/02141
【文献】US 2001/0034333
【文献】US 4,179,337
【文献】GB 1418186
【文献】WO 2016/059377
【非特許文献】
【0012】
【文献】Liberatoreら、Bioconj. Chem 1990、1、36~50頁
【文献】del Rosarioら、Bioconj. Chem. 1990、1、51~59頁
【文献】Endo & Ueda、FAB AD J. Pharm. Sci.、2004、29、27~38頁
【文献】Dreborgら Crit. Rev. Therap. Drug Carrier Syst. (1990) 6 315~365頁
【文献】Nature Protocols、2006、1(54)、2241~2252頁
【発明の概要】
【0013】
本発明は、リンカーを介して治療剤、診断剤又は標識化剤にコンジュゲートされているタンパク質又はペプチドのコンジュゲートを提供し、ここで、リンカーは、一般式:
【0014】
【0015】
(式中、Prは、前記タンパク質又はペプチドを表し、各Nuは、タンパク質又はペプチド中に存在する又はそれに付着されている求核試薬を表し、A及びBの各々は独立して、C1~4アルキレン又はアルケニレン鎖を表し、W'は、電子求引基又は電子求引基の還元によって得られる基を表す)
を有するタンパク質又はペプチド結合部分を含み、リンカーはシクロデキストリンも含む。
【0016】
本発明は、タンパク質又はペプチドと反応することができ、治療剤、診断剤又は標識化剤、及びタンパク質又はペプチドと反応することができる官能基を含むリンカーを含むことができるコンジュゲート試薬も提供し、前記官能基は、式:
【0017】
【0018】
(式中、Wは電子求引基を表し、A及びBは、上記に示されている意味を有し、mは、0から4であり、各Lは独立して、脱離基を表す)
の基であり、ここでリンカーは、シクロデキストリンも含む。
【0019】
本発明は、タンパク質又はペプチドを本発明によるコンジュゲート試薬と反応させることを含む、本発明によるコンジュゲートの調製のための方法も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のコンジュゲートは、リンカーを介してタンパク質又はペプチドに共有結合的に連結されている治療剤、診断剤又は標識化剤(ペイロード)を含み、一方、本発明の試薬は、タンパク質又はペプチド(タンパク質結合部分)と反応することができる式II又はII'の官能基に共有結合的に連結されているペイロードを含む。本発明のコンジュゲート又は試薬におけるシクロデキストリンは、リンカーの骨格内に存在することができるか、又はそれは、リンカーの骨格に繋がれているペンダント基として存在することができる。
【0021】
前者構造を有するコンジュゲートは、式D~CD~F'によって模式的に表すことができ、ここで、Dは、治療剤、診断剤又は標識化剤を表し、F'は、式Iの基を表し、CDは、シクロデキストリンを表し、一方、対応する構造を有する試薬は、式D~CD~Fによって模式的に表すことができ、ここで、Dは、治療剤、診断剤又は標識化剤を表し、Fは、式II又はII'の基を表し、CDは、シクロデキストリンを表す。しかしながら好ましくは、本発明のコンジュゲート及び試薬は後者構造を有し、即ち、シクロデキストリンは、リンカーの骨格に繋がれているペンダント基として存在する。この構造を有する本発明のコンジュゲートは、式:
【0022】
【0023】
によって模式的に表すことができ、式中、Dは、治療剤、診断剤又は標識化剤を表し、F'は、式Iの基を表し、CDは、シクロデキストリンを表し、一方、本発明の試薬は、式:
【0024】
【0025】
によって模式的に表すことができ、式中、Dは、治療剤、診断剤又は標識化剤を表し、Fは、式II又はII'の基を表し、CDは、シクロデキストリンを表す。官能グルーピングFは、下記で説明されている通り、タンパク質又はペプチド中に存在する2個の求核試薬と反応することができる。
【0026】
シクロデキストリン
シクロデキストリンは、α-D-グルコピラノシド単位の環式オリゴマーである。環式グルコース単位は、それらの1,4位で一緒に結合されている。様々なサイズの環が可能であり、最も一般的なのは、環内に6つの糖部分を有するα-シクロデキストリン;環内に7つの糖部分を有するβ-シクロデキストリン;及び環内に8つの糖部分を有するγ-シクロデキストリンである。これらのシクロデキストリンは天然型であり、下記に示されている:
【0027】
【0028】
異なる環サイズを有する他のシクロデキストリンは、公知の方法によって、例えばEndo & Ueda、FAB AD J. Pharm. Sci.、2004、29、27~38頁によって記載されている通りに合成的又は酵素的に調製することができる。本発明の一実施形態において、シクロデキストリンはα-シクロデキストリンであり;別の実施形態において、シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであり;及び別の実施形態において、シクロデキストリンはγ-シクロデキストリンである。
【0029】
シクロデキストリンは、単環式であり得るか(即ち、単一のシクロデキストリン環で構成されている)、又はシクロデキストリンの二量体若しくはポリマーを形成する2個以上のシクロデキストリン環が存在し得る。シクロデキストリンの二量体及びポリマーは知られており、公知の方法によって合成することができる。好ましくは、シクロデキストリンは単環式である。
【0030】
未変性シクロデキストリンにおける各環式グルコース単位は、3個のヒドロキシ基を保有し、これらのうちの2個は2位及び3位にあり、グルコース環によって直接的に保有され、これらのうちの1個は6位にあり、ヒドロキシメチル基の一部である。これらのうちの1個又は複数は、任意の他の所望の基によって置き換えられることで、誘導体化シクロデキストリンを形成することができる。こうした誘導体化シクロデキストリンは、本発明の範疇内であると理解されるべきである。例えば、ヒドロキシ基は、ハロゲン原子によって置き換えることができ;或いはヒドロキシ基は、式-YRbの基によって置き換えることができ、ここで、Yは、-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-CO-NRb-、-NRb-CO-、-CO-、-SO-、-SO2-、-S-CO-、-CO-S-、-N=CRb-、-CH=N-Rb、-O-CO-O-、-O-SO2-、-SO2-O-又は-O-SO2-O-を表し、Rbは、水素原子、或いは各々が非置換である又は1個若しくは複数のヒドロキシ基によって置換されていてよいアルキル(好ましくはC1~6アルキル、例えばメチル)基、アルケニル(好ましくはC2~6アルケニル)基、アルキニル(好ましくはC2~6アルキニル、例えばプロパルギル)基、アリール(好ましくはフェニル)基若しくはアルキル-アリール(好ましくはC1~6アルキルフェニル)基を表し;或いはヒドロキシ基は、式-Rb、-NRbRb、=NRb、-SiRbRbRb、-O-SiRbRbRb、-PRbRb、-PO-RbRb又は-O-PO(ORb)2の基によって置き換えることができ、ここで、各Rbは独立して、上記に示されている意味を有する。
【0031】
ヒドロキシル基と置き換わることができる好ましい基としては、ハロゲン原子、又はアミノ基、メルカプト基、アジド基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基、ヒドロキシアルキニル基若しくはアルキルシリルオキシ基が挙げられる。その上好ましいのは、ヒドロキシ基がエステル化されて硫酸エステル又はリン酸エステルを形成するシクロデキストリンである。多数の誘導体化シクロデキストリンが市販されており、これらのいずれもが本発明において使用され得る。例えば、α-シクロデキストリンの以下の誘導体が市販されている(一部、塩の形態で):ヘキサキス(6-O-t-ブチルジメチルシリル)-α-シクロデキストリン;ヘキサキス(6-アジド-6-デオキシ)-α-シクロデキストリン;ヘキサキス(6-アミノ-6-デオキシ)-α-シクロデキストリン;ヘキサキス(6-ブロモ-6-デオキシ)-α-シクロデキストリン;ヘキサキス(6-ヨード-6-デオキシ)-α-シクロデキストリン;ヘキサキス(6-メルカプト-6-デオキシ)-α-シクロデキストリン;カルボキシメチル-α-シクロデキストリン;α-シクロデキストリンホスフェート;α-シクロデキストリンサルフェート;(2-ヒドロキシプロピル)-α-シクロデキストリン;ヘキサキス(3-アミノ-3-デオキシ)-α-シクロデキストリン;及びメチル-α-シクロデキストリン。
【0032】
β-シクロデキストリンの以下の誘導体が市販されている:ヘプタキス(6-O-t-ブチルジメチルシリル)-β-シクロデキストリン;ヘプタキス(6-アジド-6-デオキシ)-β-シクロデキストリン;ヘプタキス(6-アミノ-6-デオキシ)-β-シクロデキストリン;ヘプタキス(6-ブロモ-6-デオキシ)-β-シクロデキストリン;ヘプタキス(6-デオキシ-6-ヨード)-β-シクロデキストリン;6-モノトシル-β-シクロデキストリン;6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン;ヘプタキス(6-デオキシ-6-メルカプト)-β-シクロデキストリン;カルボキシメチル-β-シクロデキストリン;β-シクロデキストリンホスフェート;β-シクロデキストリンサルフェート;(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン;ヘプタキス(3-アミノ-3-デオキシ)-β-シクロデキストリン;A,D-6-ジアミノ-6-ジデオキシ-β-シクロデキストリン;及びメチル-β-シクロデキストリン。
【0033】
γ-シクロデキストリンの以下の誘導体が市販されている:オクタキス(6-O-t-ブチルジメチルシリル)-γ-シクロデキストリン;オクタキス(6-アジド-6-デオキシ)-γ-シクロデキストリン;オクタキス(6-アミノ-6-デオキシ)-γ-シクロデキストリン;オクタキス(6-ブロモ-6-デオキシ)-γ-シクロデキストリン;オクタキス(6-デオキシ-6-ヨード)-γ-シクロデキストリン;及びオクタキス(6-デオキシ-6-メルカプト)-γ-シクロデキストリン;カルボキシメチル-γ-シクロデキストリン;γ-シクロデキストリンホスフェート;γ-シクロデキストリンサルフェート;(2-ヒドロキシプロピル)-γ-シクロデキストリン;オクタキス(3-アミノ-3-デオキシ)-γ-シクロデキストリン;及びメチル-γ-シクロデキストリン。
【0034】
これらのいずれもが本発明のコンジュゲート又は試薬に組み込まれ得る。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、1個のグルコース環中に存在する3-ヒドロキシ基若しくは6-ヒドロキシ基のいずれか又は両方が、NH2基によって置き換えられている。これは、下に記載されている通りに、本発明によるコンジュゲート又は試薬のリンカーにシクロデキストリンを共有結合する好都合な方法を提供する。好都合な合成経路を提供するための3-及び/又は6-ヒドロキシ基の代わりとなり得る代替基としては、チオール基、アジド基、-O-プロパルギル基、アルデヒド基及びカルボキシ基が挙げられる。
【0036】
シクロデキストリンは、1個又は複数の環式グルコース基における任意の適当な位置からリンカーの残りに結合されていてよい。好ましい一実施形態において、シクロデキストリンは、3位又は6位を介してリンカーの残りに結合されている。他の位置も、ヒドロキシ基を介して又は上に記載されている通りの置換基を介してのいずれかで結合部位を提供することができる。
【0037】
ペイロード
本発明のコンジュゲート及び試薬は、治療剤、診断剤又は標識化剤であるペイロードを保有する。このペイロードは、シクロデキストリンに及びリンカーを介してタンパク質又はペプチドに共有結合されている。治療剤、診断剤又は標識化剤の単一分子が存在し得るか、又は2つ以上の分子が存在し得る。1つ又は複数の薬物分子、例えば細胞毒性剤又は毒素の包含が好ましい。オーリスタチン、メイタンシノイド及びデュオカルマイシンは、典型的な細胞毒性薬である。薬物コンジュゲート、特に抗体薬物コンジュゲートは、該薬物の複数のコピーを含有するべきであることがしばしば好ましい。標識化剤(これは、画像化剤を含むと理解されるべきである)としては、例えば、放射性核種、蛍光薬剤(例えば、5-ジメチルアミノナフタレン-1-(N-(2-アミノエチル)等のアミン誘導体化蛍光プローブ)スルホンアミド-ダンシルエチレンジアミン、Oregon Green(登録商標)488カダベリン(カタログ番号O-10465、Molecular Probes)、ダンシルカダベリン、N-(2-アミノエチル)-4-アミノ-3,6-ジスルホ-1,8-ナフタルイミド、二カリウム塩(ルシファーイエローエチレンジアミン)、又はローダミンBエチレンジアミン(カタログ番号L2424、Molecular Probes)、又はチオール誘導体化蛍光プローブ、例えばBODIPY(登録商標)FL L-シスチン(カタログ番号B-20340、Molecular Probes)が挙げられ得る。ビオチンも使用することができる。
【0038】
好ましくは、該ペイロードは、治療剤、殊に、上に記述されているものの1つである。
【0039】
治療剤、診断剤又はイメージング剤は、シクロデキストリンと複合体を形成することができることが知られており、ここで、前記薬剤は、非共有結合を介してシクロデキストリンによって複合体化されている。本発明によるコンジュゲートは、本発明によるコンジュゲートの必須の特徴として必要とされるものに加えて、第2の治療剤、診断剤又はイメージング剤、特に第2の治療剤を含有することができ、前記第2の薬剤は、シクロデキストリンとの複合体の形態で存在する。
【0040】
タンパク質
このセクション及び他所における便宜上、「タンパク質」は、文脈が他の意味を必要としている場合を除いて、「タンパク質及びペプチド」を含むと理解されるべきである。
【0041】
本発明のコンジュゲート中に存在することができる適当なタンパク質としては、例えば、ペプチド、ポリペプチド、抗体、抗体断片、酵素、サイトカイン、ケモカイン、受容体、血液因子、ペプチドホルモン、毒素、転写タンパク質又は多量体タンパク質が挙げられる。
【0042】
酵素としては、炭水化物特異的酵素及びタンパク質分解酵素等、例えば、US 4,179,337によって開示されているオキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ及びリガーゼが挙げられる。特定の対象酵素としては、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、キモトリプシン、リパーゼ、ウリカーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルクロニダーゼ、ガラクトシダーゼ、グルコセルブロシダーゼ(glucocerbrosidase)及びグルタミナーゼが挙げられる。
【0043】
血液タンパク質としては、アルブミン、トランスフェリン、因子VII、因子VIII又は因子IX、フォンビルブランド因子、インスリン、ACTH、グルカゲン(glucagen)、ソマトスタチン、ソマトトロピン、チモシン、副甲状腺ホルモン、色素性ホルモン、ソマトメジン、エリスロポエチン、黄体化ホルモン、視床下部放出因子、抗利尿ホルモン、プロラクチン、インターロイキン、インターフェロン、例えばIFN-α又はIFN-β、コロニー刺激因子、ヘモグロビン、サイトカイン、抗体、抗体断片、絨毛性ゴナドトロピン、濾胞刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、及び組織プラスミノゲン活性化因子が挙げられる。
【0044】
他の対象タンパク質は、ポリ(アルキレンオキシド)等のポリマーとコンジュゲートされているとともにその結果として寛容誘発剤としての使用に適当である場合、低減されたアレルゲン性を有するような、Dreborgら Crit. Rev. Therap. Drug Carrier Syst. (1990) 6 315~365頁によって開示されているアレルゲンタンパク質である。開示されているアレルゲンには、ブタクサ抗原E、ミツバチ毒液、及びダニアレルゲン等がある。
【0045】
糖ポリペプチド、例えば免疫グロブリン、オバルブミン、リパーゼ、グルコセレブロシダーゼ、レクチン、組織プラスミノゲン活性化因子及びグリコシル化インターロイキン、インターフェロン、並びにコロニー刺激因子が、免疫グロブリン、例えばIgG、IgE、IgM、IgA、IgD及びその断片と同様に対象である。
【0046】
特別な対象は、診断的及び治療的な目的で臨床医学において使用される受容体及びリガンド結合性タンパク質並びに抗体及び抗体断片である。抗体-薬物コンジュゲートは、殊に薬物が細胞毒性薬、例えばオーリスタチン、メイタンシノイド又はデュオカルマイシンである場合、本発明の殊に好ましい実施形態である。文脈が他の意味を必要としている場合を除いて、この明細書における本発明のコンジュゲートへのいずれの言及も、抗体薬物コンジュゲートへの具体的な言及を含むと理解されるべきである。
【0047】
タンパク質は、所望であれば誘導体化又は官能化することができる。特に、コンジュゲーションより前に、タンパク質、例えば未変性タンパク質は、その上の感受性基を保護するために様々な遮断基と反応させていてよいか;又はそれは、1つ又は複数のポリマー又は他の分子と事前にコンジュゲートされていてよい。それは、コンジュゲーション反応中にコンジュゲート試薬によって標的化することができるポリヒスチジンタグを含有してよい。
【0048】
タンパク質又はペプチド、及びコンジュゲート試薬の結合
本発明のコンジュゲート試薬は、WO 2005/007197及びWO 2010/100430に開示されている一般の型である。官能グルーピングII及びII'は、互いの化学的等価物である。グループIIを含有する試薬がタンパク質と反応する場合、第1の脱離基Lが失われてグループII'を含有するコンジュゲート試薬をインサイチュで形成し、これは第1の求核試薬と反応する。第2の脱離基Lが次いで失われ、第2の求核試薬との反応が起きる。したがって、出発材料として官能グルーピングIIを含有する試薬を使用する代替として、官能グルーピングII'を含有する試薬が出発材料として使用され得る。
【0049】
脱離基Lは、例えば、-SP、-OP、-SO2P、-OSO2P、-N+PR2R3、ハロゲン又は-OΦであってよく、ここでPは、水素原子又はアルキル(好ましくはC1~6アルキル)基、アリール(好ましくはフェニル)基若しくはアルキル-アリール(好ましくはC1~6アルキル-フェニル)基を表すか、或いは-(CH2CH2O)n-部分を含む基であり、ここで、nは2以上の数であり、R2及びR3の各々は独立して、水素原子、C1~4アルキル基又はP基を表し、Φは、少なくとも1個の置換基、例えば-CN、-NO2、-CF3、-CO2Ra、-COH、-CH2OH、-CORa、-ORa、-OCORa、-OCO2Ra、-SRa、-SORa、-SO2Ra、-NRaCORa、-NRaCO2Ra、-NO、-NHOH、-NRaOH、-CH=N-NRaCORa、-N+Ra
3、ハロゲン、殊に塩素又は殊にフッ素、-C≡CRa、及び-CH=CRa
2を含有する置換アリール基、殊にフェニル基を表し、ここで、各Raは、水素原子又はアルキル(好ましくはC1~6アルキル)基、アリール(好ましくはフェニル)基若しくはアルキル-アリール(好ましくはC1~6アルキル-フェニル)基を表す。電子吸引性置換基の存在が好ましい。
【0050】
Pが-(CH2CH2O)n-部分を含む基を表し、ここでnが2以上の数であるコンジュゲート試薬は、WO 2016/059377の優先権を主張する本発明者らの同時係属出願GB 1418186の対象である。この出願は、以下を開示している:
「脱離基は、例えば、-(CH2CH2O)n-R1を含むことができ、ここでR1はキャッピング基である。非常に広い範囲のキャッピング基が使用され得る。R1は、例えば、水素原子、アルキル基、殊にC1~4アルキル基、特にメチル基、又は任意選択により置換されているアリール基、例えば任意選択により置換されているフェニル基、例えばトリル基であってよい。代替として、キャッピング基は、カルボキシル基又はアミン基等の官能基を含むことができる。こうしたキャッピング基は、例えば、式-CH2CH2CO2H又は-CH2CH2NH2を有することができ、-(CH2CH2O)n-鎖の末端単位を官能化することによって調製することができる。代替として、キャッピング基によって終端されるよりもむしろ、-(CH2CH2O)n-基は、コンジュゲート試薬内に2つの付着点を有することができることで、2個の脱離基の化学的等価物が存在し、2個の求核試薬と反応することができる。
脱離基の-(CH2CH2O)n-部分は、PEG、ポリエチレングリコールに基づく。PEGは直鎖又は分岐であってよく、それは、任意のやり方で誘導体化又は官能化することができる。nは、2以上の数、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である。例えば、nは5から9であってよい。代替として、nは10以上の数であってよい。nについて特別な上限はない。nは、例えば150以下、例えば120以下、例えば100以下であってよい。例えばnは、2から150、例えば7から150、例えば7から120であってよい。脱離基のPEG部分-(CH2CH2O)n-は、例えば、1kDaから5kDaの分子量を有することができ;それは例えば、1kDa、2kDa、3kDa、4kDa又は5kDaであってよい。脱離基は、所望であれば、1つ又は複数のスペーサーによって隔てられている2つ以上の-(CH2CH2O)n-部分を含有することができる。
本発明によるコンジュゲート試薬における脱離基は、適当には、式-SP、-OP、-SO2P、-OSO2P、-N+PR2R3であり、ここで、Pは、-(CH2CH2O)n-部分を含む基であり、R2及びR3の各々は独立して、水素原子、C1~4アルキル基又はP基を表す。好ましくは、R2及びR3の各々は、C1~4アルキル基、殊にメチル基、又は殊に水素原子を表す。代替として、コンジュゲート試薬は、式-S-P-S-; -O-P-O-; -SO2-P-SO2-; -OSO2-P-OSO2-;及び-N+R2R3-P-N+R2R3-の基を含むことができる。この型の特定の基としては、-S-(CH2CH2O)n-S-、-O-(CH2CH2O)n-O-; -SO2-(CH2CH2O)n-SO2-; -OSO2-(CH2CH2O)n-OSO2-;又は-N+R2R3-(CH2CH2O)n-N+R2R3-が挙げられる。それらは、型:
【0051】
【0052】
の基も挙げることができ、式中、-(CH2CH2O)n-基は、任意の適当な連結基、例えばアルキル基によって保有される。これらの二価の基は、2個の求核試薬と反応することができる2個の脱離基と化学的に等価である。」
【0053】
本発明による新規なコンジュゲート試薬中に存在する殊に好ましい脱離基Lは、-SP又は-SO2P、殊に-SO2Pである。この基内において、好ましい一実施形態は、Pがフェニル基、又は殊にトリル基を表す場合である。別の好ましい実施形態は、Pが、-(CH2CH2O)n-部分を含む基、殊に、nが上に記述されている値の1つ、殊に7を有する基を表す場合である。殊に好ましい脱離基Lは、-SO2-(CH2CH2O)n-H/Me、殊に-SO2-(CH2CH2O)7-H/Meである。この明細書の全体にわたって、脱離基Lへのいずれの言及も、これらの好ましい基、殊に-SO2-(CH2CH2O)n-H/Me、及びより殊に-SO2-(CH2CH2O)7-H/Meへの具体的な言及を含むと理解されるべきである。
【0054】
電子求引基Wは、例えばケト基-CO-、エステル基-O-CO-又はスルホン基-SO2-であってよい。好ましくは、W'は、これらの基の1つ又は下に記載されている通りこれらの基の1つの還元によって得られる基を表す。好ましくは、Wはケト基を表し、好ましくは、W'は、ケト基又はケト基の還元によって得られる基、殊にCH.OH基を表す。
【0055】
好ましくは、グルーピングF'及びFは、式:
【0056】
【0057】
殊に
【0058】
【0059】
を有する。
【0060】
タンパク質における求核基は、例えば、システイン残基、リジン残基又はヒスチジン残基によって提供され、Nuは、例えば、硫黄原子又はアミン基であってよい。本発明の好ましい一実施形態において、各Nuは、タンパク質中に存在するシステイン残基中に存在する硫黄原子を表す。こうした構造は、タンパク質中に存在するジスルフィド結合の還元によって得ることができる。別の実施形態において、各Nuは、前記タンパク質に付着されているポリヒスチジンタグ中に存在するヒスチジン残基中に存在するイミダゾール基を表す。
【0061】
リンカー
本発明のコンジュゲート中のタンパク質又はペプチド結合部分に又は本発明のコンジュゲート試薬中の官能グルーピングに、治療剤、診断剤又は標識化剤を接続するリンカーは、上に記載されている通りの1つ又は複数のシクロデキストリンを含まなければならない。それは、任意の他の所望の基、特に、この分野において共通して見出される従来の基のいずれかを含有することもできる。
【0062】
サブセクション(i)。一実施形態において、ペイロードと式F'/Fのグルーピングとの間のリンカー、特に、式F'/Fのグルーピングに直に隣接するリンカーのその部分は、アルキレン基(好ましくはC1~10アルキレン基)、又は任意選択により置換されているアリール基又はヘテロアリール基を含み、これらのいずれも、1個又は複数の酸素原子、硫黄原子、-NRa基(ここでRaは、水素原子、又はアルキル(好ましくはC1~6アルキル)基、アリール(好ましくはフェニル)基、若しくはアルキル-アリール(好ましくはC1~6アルキル-フェニル)基を表す)、ケト基、-O-CO-基、-CO-O-基、-O-CO-O基、-O-CO-NRa-基、-NR-CO-O-基、-CO-NRa-基及び/又は-NRa.CO-基によって終端又は中断されていてもよい。適当なアリール基としては、フェニル基及びナフチル基が挙げられ、一方、適当なヘテロアリール基としては、ピリジン、ピロール、フラン、ピラン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、ピリダジン、ピリミジン及びプリンが挙げられる。グループF/F'に直に隣接するリンカーのその部分として殊に好ましいのは、アリール基又はヘテロアリール基、殊にフェニル基である。
【0063】
アリール基又はヘテロアリール基は、-NRa.CO-基又は-CO.NRa-基、例えば-NH.CO-基又は-CO.NH-基である又は含有する連結基のさらなる部分に隣接していてよい。この明細書の全体にわたるここ及び他所で、Ra基が存在する場合、これは、好ましくはC1~4アルキル基、殊にメチル基、又は殊に水素原子である。
【0064】
任意選択により置換されているアリール基、殊にフェニル基、又はヘテロアリール基上に存在することができる置換基としては、例えば、アルキル(好ましくは、OH又はCO2Hによって任意選択により置換されているC1~4アルキル、殊にメチル)、-CN、-CF3、-NO2、-NRa
2、-CO2Ra、-COH、-CH2OH、-CORa、-ORa、-OCORa、-OCO2Ra、-SRa、-SORa、-SO2Ra、-NRaCORa、-NRa.CO2Ra、-NO、-NRa.OH、-CH=N-NRa.CORa、-N+Ra
3、ハロゲン、例えばフッ素又は塩素、-C≡CRa、及び-CH=CRa
2から選択される同じ又は異なる置換基の1つ又は複数が挙げられ、ここで、各Raは独立して、水素原子又はアルキル(好ましくはC1~6アルキル)基、アリール(好ましくはフェニル)基若しくはアルキル-アリール(好ましくはC1~6アルキル-フェニル)基を表す。電子吸引性置換基の存在は殊に好ましい。好ましい置換基としては、例えば-CN、-NO2、-ORa、-OCORa、-SRa、-NRa.CORa、-NHOH及び-NRa.CO2Ra、殊にCN及びNO2が挙げられる。
【0065】
好ましくは、該リンカーは、グルーピングF'/Fに隣接する上記基の1つを含む。殊に好ましいのは、グルーピング:
【0066】
【0067】
又は殊に:
【0068】
【0069】
を含むコンジュゲート及びコンジュゲート試薬である。
【0070】
上記構造のいずれも、下記のサブセクション(ii)及び(iii)に記述されている構造のいずれかに隣接していてよい。
【0071】
全ての上記式III、IV、V及びVIにおいて、好ましくは、F'は、式I、例えば上記のIa又はIbを有し、好ましくは、Fは、式II又はII'、例えば上記のIIa、IIb、II'a又はII'bを有する。
【0072】
サブセクション(ii)。一実施形態において、リンカーは、分解性基を含有することができ、即ち、それは、生理学的条件下で切断する基を含有することができ、それが結合された又は結合されるタンパク質とペイロードとを隔てる。代替として、それは、生理学的条件下で開裂可能でないリンカーであってよい。リンカーが生理学的条件下で切断する場合、それは、好ましくは、細胞内条件下で開裂可能である。標的が細胞内である場合、好ましくは、リンカーは、細胞外条件に対して実質的に非感受性である(即ち、治療剤の十分な用量の細胞内標的への送達が妨げられないように)。
【0073】
該リンカーが分解性基を含有する場合、これは一般に、加水分解条件に対して感受性であり、例えばそれは、ある特定のpH値(例えば酸性条件)で分解する基であってよい。加水分解性/酸性条件は、例えば、エンドソーム又はリソソームにおいて見出され得る。酸性条件下で加水分解に感受性の基の例としては、ヒドラゾン、セミカルバゾン、チオセミカルバゾン、cis-アコニットのアミド、オルトエステル及びケタールが挙げられる。加水分解条件に感受性の基の例としては、以下が挙げられる:
【0074】
【0075】
好ましい実施形態において、リンカーは、
【0076】
【0077】
を含む。
【0078】
例えば、それは、以下を含むことができる:
【0079】
【0080】
該リンカーは、還元条件下での分解にも感受性であり得る。例えば、それは、チオール等の生物学的還元剤への曝露で開裂可能であるジスルフィド基を含有することができる。ジスルフィド基の例としては、以下が挙げられ:
【0081】
【0082】
式中、R、R'、R''及びR'''は、各々独立して、水素又はC1~4アルキルである。好ましい実施形態において、リンカーは、
【0083】
【0084】
を含む。
【0085】
例えば、それは、
【0086】
【0087】
を含むことができる。
【0088】
該リンカーは、酵素分解に感受性である基も含有することができ、例えばそれは、プロテアーゼ(例えばリソソームプロテアーゼ又はエンドソームプロテアーゼ)又はペプチダーゼによる開裂に感受性であってよい。本発明の殊に好ましい実施形態において、リンカーの一部は、少なくとも1個、例えば少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、又は少なくとも5個のアミノ酸残基、具体的には、天然型アルファアミノ酸を含むペプチジル基を含有する。例えば、リンカーのその部分は、配列Phe-Leu、Gly-Phe-Leu-Gly、Val-Ala、Val-Cit、Phe-Lys、又はGlu-Glu-Gluを含有することができ、Val-Citペプチジル基の存在が好ましい。下記で考察されている通りの、配列Val-Cit-PABを含有するリンカーが殊に好ましい。
【0089】
酵素分解に感受性の基の特に好ましい例は:
【0090】
【0091】
であり、式中、AAは、アミノ酸配列、殊にプロテアーゼ特異的アミノ酸配列、例えば上に記述されているものの1つ、殊にVal-Citを表す。
【0092】
好ましい実施形態において、リンカーは、以下を含む:
【0093】
【0094】
例えば、それは、
【0095】
【0096】
を含むことができる。
【0097】
該リンカーは、単一のペイロードD、又は1個超のD基を保有することができる。複数のD基は、例えばアスパルテート若しくはグルタメート又は同様の残基を組み込むことができる分岐状リンカーの使用によって組み込むことができる。これは、式:
【0098】
【0099】
の分岐状要素を導入し、式中、bは1、2、3又は4であり、b=1はアスパルテートであり、b=2はグルタメートであり、b=3は好ましい一実施形態を表す。上記式におけるアシル部分の各々は、D基にカップリングすることができる。上記の分岐状基は、-CO.CH2-基、したがって:
【0100】
【0101】
を組み込むことができる。
【0102】
所望であれば、アスパルテート若しくはグルタメート又は同様の残基は、さらなるアスパルテート並びに/若しくはグルタメート及び/又は同様の残基、例えば:
【0103】
【0104】
等にカップリングすることができる。
【0105】
同様のやり方において、アミノ酸リジン、セリン、スレオニン、システイン、アルギニン若しくはチロシン又は同様の残基が導入されることで、分岐状基、したがって:
【0106】
【0107】
(式中、bは、リジンについて4である)、及び
【0108】
【0109】
(式中、bは、セリンについて1である)
を形成することができる。
【0110】
同様の分岐状基が使用されることで、シクロデキストリン基をリンカーに組み込むことができ、こうした構造は、本発明の更に好ましい実施形態を形成する。それで、例えば、上に記述されている分岐状要素、例えばアスパルテート、グルタメート、リジン若しくはセリン又は同様の残基の1つは、治療剤、診断剤又は標識化剤、例えば薬物Dに至る1つの分枝を有して存在することができ、一方、他は、シクロデキストリン基を含有する分枝に至る。上に記述されている様々なリンカー部分は、分岐状基の前又は後のいずれの任意の位置に存在することができる。
【0111】
明らかであるように、グルーピングF/F'とペイロードとの間のリンカーのために多くの代替立体配置が可能である。1つの好ましい立体配置は、以下の通りに模式的に表すことができ:
【0112】
【0113】
式中、Eは、上記のサブセクション(i)に記述されている基の1つを表し、Xは、このサブセクション(ii)に記述されている基の1つを表す。
【0114】
特定の特に好ましい構築が下記に示されており:
【0115】
【0116】
式中、D、CD、F'及びFは、上記に示されている意味及び好ましい意味を有する。好都合には、シクロデキストリンは、アミド結合を介して上記式におけるリンカーの残りに結合されていてよく、したがって:
【0117】
【0118】
であり得る。
【0119】
こうした構造の特に好ましい例は、以下の通りである:
【0120】
【0121】
こうしたコンジュゲート及び試薬は、3-又は6-ヒドロキシ基が、上に記載されている通り、NH2基によって置き換えられたシクロデキストリンから調製することができる。
【0122】
サブセクション(iii)。本発明のコンジュゲート中のタンパク質若しくはペプチドに又は本発明のコンジュゲート試薬中の官能グルーピングに、治療剤、診断剤又は標識化剤を接続するリンカーは、所望であれば、PEGを含有することができるか、又はそれはPEGがなくてよい。それは、例えば、模式的に、したがって:
【0123】
【0124】
と示されるリンカーの骨格中にPEGを含有することができる。
【0125】
代替として又は追加として、PEGは、模式的に:
【0126】
【0127】
として示されるリンカー上のペンダント鎖として存在することができる。
【0128】
これらの式において、p、q及びrは、コンジュゲート又は試薬のリンカー中に存在する様々な可能なPEG鎖中に存在するエチレングリコール単位の数を表す。明確にするため、PEG単位は直鎖単位として示されているが、単位のいずれもが分岐鎖を含み得ると理解される。
【0129】
PEGが存在するならば、本発明のコンジュゲート及び試薬中に存在する~(CH2-CH2-O-)~単位の総数は、当然、意図される用途に依存する。一部の用途のため、高分子量PEGが使用されることがあり、例えば、数平均分子量は、最大約75,000g/モルまで、例えば最大50,000g/モル、40,000g/モル又は30,000g/モルまでであってよい。例えば、数平均分子量は、500g/モルから約75,000g/モルの範囲であってよい。しかしながら、より小さいPEG部分が一部の用途にとって好ましいことがある。例えば、PEG部分は、最大3,000g/モルまでの分子量を有することがある。しかしながら、わずか2個のエチレングリコール反復単位、例えば2個から50個の反復単位を含有するPEG基が一部の用途について有用である。2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の反復単位、又は12個、20個、24個、36個、40個若しくは48個の反復単位を有するPEG含有部分が、例えば使用され得る。
【0130】
サブセクション(iv)。本発明のコンジュゲート中のタンパク質又はペプチドに又は本発明のコンジュゲート試薬中の官能グルーピングに、治療剤、診断剤又は標識化剤を接続するリンカーは、2つ以上のシクロデキストリンを含有することができ、これらは、リンカーの骨格中に、又はリンカーの骨格に繋がれているペンダント基として、存在することができる。これは、2つのペンダントシクロデキストリンについて模式的に、したがって:
【0131】
【0132】
と例示することができ、明らかに2個超のこうした基が同様に存在することができる。
【0133】
複数のシクロデキストリンが、任意の適当な方法を使用してリンカーに組み込まれ得る。ポリペプチド鎖は、例えば、上記で考察されているリンカー部分のいずれか中に存在する任意の反応性グルーピングとの反応によって導入することができる。上に記載されている式の分岐状基が使用され得る。例えば、特定の一実施形態において、2つのシクロデキストリンが、構造:
【0134】
【0135】
の使用によって組み込まれ得る。
【0136】
代替として、分岐状は、ポリオール官能性、例えば:
~CHs[(CH2)tO~]3~s~
の使用によって導入することができ、ここで、sは0、1又は2であり、tは1から4である。例えば、特定の一実施形態において、3つのペンダントポリペプチド鎖は、構造:
~C[CH2O-(CH2)2-CO-NH~CD]3
の使用によって組み込むことができる。
【0137】
コンジュゲート方法
本発明によるコンジュゲート試薬は、タンパク質又はペプチドと反応させることで、本発明によるコンジュゲートを形成することができ、こうした反応は、本発明のさらなる態様を形成する。したがって、官能グルーピングII又はII'を含めたコンジュゲート試薬は、タンパク質又はペプチドと反応させることで、グルーピングIを含めたコンジュゲートを形成する。コンジュゲーション方法の即時生成物は、電子吸引性基Wを含有するコンジュゲートである。しかしながら、コンジュゲーション方法は、適当な条件下で可逆的である。これは、一部の用途にとって、例えばタンパク質の急速な放出が必要とされる場合に望ましいことがあるが、他の用途にとって、タンパク質の急速な放出が望ましくないことがある。そのため、電子吸引性部分Wの還元によってコンジュゲートを安定化させることで、タンパク質の放出を防止する部分を得ることが望ましくあり得る。したがって、上に記載されている方法は、コンジュゲート中の電子求引基Wを還元する追加の任意選択のステップを含むことができる。還元剤としての水素化ホウ素、例えば水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム又はトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムの使用が特に好ましい。使用することができる他の還元剤としては、例えば塩化スズ(II)、アルコキシド、例えばアルミニウムアルコキシド、及び水素化アルミニウムリチウムが挙げられる。
【0138】
したがって、例えば、ケト基を含有するW部分を、CH(OH)基を含有する部分に還元することができ;エーテル基CH.ORaは、エーテル化剤とのヒドロキシ基の反応によって得ることができ;エステル基CH.O.C(O)Raは、アシル化剤とのヒドロキシ基の反応によって得ることができ;アミン基CH.NH2、CH.NHRa若しくはCH.NRa
2は、還元的アミノ化によってケトンから調製することができ;又はアミドCH.NHC(O)Ra若しくはCH.N(C(O)Ra)2は、アミンのアシル化によって形成することができる。スルホンは、スルホキシドエーテル、スルフィドエーテル又はチオールエーテルに還元することができる。
【0139】
本発明のコンジュゲート試薬を使用する重要な特徴は、α-メチレン脱離基及び二重結合が、マイケル活性化性部分として働く電子求引性官能基とクロスコンジュゲートされることである。脱離基が、直接的置き換えよりもむしろクロス官能性試薬において脱離しやすく、電子吸引性基がマイケル反応にとって適当な活性化性部分であるならば、逐次の分子内ビス-アルキル化は、連続したマイケル反応及びレトロマイケル反応によって起き得る。脱離部分は、第1のアルキル化が起きることで官能グルーピングII'を含めた試薬を得た後まで曝露されない潜在的な共役二重結合をマスクする働きをし、ビス-アルキル化は、逐次の及び相互作用的なマイケル反応及びレトロマイケル反応に起因する。クロス官能性アルキル化剤は、二重結合に又は脱離基と電子求引基との間でコンジュゲートされている多重結合を含有することができる。
【0140】
タンパク質への結合が、タンパク質中のジスルフィド結合から誘導される2個の硫黄原子を介する場合、該方法は、ジスルフィド結合を還元することによって実施することができ、これに続いて、還元生成物は、本発明による試薬と反応する。ジスルフィド結合は、例えば、従来の方法を使用してジチオスレイトール、メルカプトエタノール又はトリス-カルボキシエチルホスフィンで還元することができる。
【0141】
コンジュゲーション反応は、WO 2005/007197、WO 2009/047500、WO 2014/064423及びWO 2014/064424に開示されている条件を含めて、公知のコンジュゲーション方法と同様の条件下で実施することができる。該方法は、例えば、全ての反応物が可溶である溶媒又は溶媒混合物中で実施することができる。例えば、タンパク質は、水性反応媒体中でポリマーコンジュゲート試薬と直接的に反応させることができる。この反応媒体は、求核試薬のpH要件に依存して、緩衝することもできる。該反応のための最適なpHは、一般に少なくとも4.5、典型的に約5.0から約8.5の間、好ましくは約6.0から7.5である。最適な反応条件は、当然、用いられる特定の反応物に依存する。
【0142】
3~40℃の間の反応温度は、一般に、水性反応媒体を使用する場合に適当である。有機媒体(例えばTHF、酢酸エチル、アセトン)中で行われる反応は、典型的に、最大室温までの温度で行われる。好ましい一実施形態において、該反応は、有機溶媒のある割合、例えば有機溶媒の体積により最大20%まで、典型的に有機溶媒の体積により5%から20%で含有することができる緩衝水溶液中で実施される。
【0143】
タンパク質は、化学量論的当量又はわずかに過剰のコンジュゲート試薬を使用して、有効にコンジュゲートすることができる。しかしながら、過剰の化学量論のコンジュゲート試薬を用いてコンジュゲーション反応を行うことも可能であり、これは、一部のタンパク質にとって望ましいことがある。過剰の試薬は、例えばイオン交換クロマトグラフィー又はHPLCによって、コンジュゲートの後続の精製中に、簡便に除去することができる。
【0144】
当然、1個超のコンジュゲート試薬がタンパク質にコンジュゲートされることは可能であり、ここでタンパク質は、十分な適当な付着点を含有する。例えば、2個の異なるジスルフィド結合を含有するタンパク質において、又は1個のジスルフィド結合を含有し、ポリヒスチジンタグも保有するタンパク質において、タンパク質の1分子当たり試薬の2個の分子をコンジュゲートすることが可能であり、こうしたコンジュゲートは本発明の一部を形成する。
【0145】
医薬組成物及び有用性
ペイロードが治療剤である本発明によるコンジュゲートは、ペイロードの性質に依存して様々な病状の処置において有用性を見出す。典型的に、ペイロードは細胞毒性剤であり、本発明はがんの処置において有用性を見出す。したがって、本発明は、本発明によるコンジュゲート、特に、ペイロードが治療剤であるコンジュゲート、詳細には、薬学的に許容される担体と一緒の、及び任意選択によりさらなる活性成分と一緒の抗体-薬物コンジュゲートを更に提供する。本発明は、治療におけるこうしたコンジュゲートの使用を更に提供し、本発明によるコンジュゲート又は医薬組成物を患者に投与することを含む、患者の処置の方法において有用性を見出す。本発明は、例えばがんの処置のための医薬の製造における本発明によるコンジュゲートの使用を更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【0147】
以下の実施例は本発明を例示する。
【実施例1】
【0148】
アミド-6'-β-シクロデキストリン及びオーリスタチン細胞毒性ペイロード、MMAEを含むコンジュゲーション試薬1の合成。
【0149】
【0150】
ステップ1:化合物2の合成。
【0151】
【0152】
DMF(1mL)中のFmoc-Glu-(OH)-OAll(48mg)の溶液に、HATU(110mg)を添加し、溶液を30分間0℃で撹拌した。これに、DMF(1mL)中のVal-Cit-PAB-MMAE.TFA塩(Levena Biopharma社、120mg)及びNMM(32μL)の溶液を添加した。反応混合物を室温で2.5時間の間撹拌した。溶媒を真空中で濃縮し、粗製物をDMF(1.5mL)中に溶解した後に、NMM(32μL)を添加した。テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(45mg)を反応混合物に添加し、これを次いで20時間の間室温で撹拌した。反応溶液を真空中で濃縮し、残渣を、緩衝液A(v/v):水:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。有機溶媒を真空中で除去し、水性溶媒を凍結乾燥によって除去することで、化合物2を白色の固体として得た(98.0mg)。m/z [M+H]+ (1475 Da、100%)、[M+2H]2+ (738、50%)。
【0153】
ステップ2:化合物3の合成。
【0154】
【0155】
DMF(300μL)中の化合物2(23mg)の溶液に、HATU(7mg)を添加し、混合物を20分間0℃で撹拌した。NMM(2μL)を反応混合物に添加し、これを更に10分間室温で撹拌した。DMF(100μL)中の6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン塩酸塩(20mg)の溶液に、NMM(2μL)を添加し、溶液を15分間室温で撹拌した。2つの溶液を次いで合わせ、追加分量のHATU(7mg)及びNMM(2μL)を、合わせた溶液に添加し、これを2時間の間室温で撹拌した。ピペリジン(16μL)を次いで添加し、反応混合物を室温で0.5時間の間放置撹拌させておいた。反応溶液を真空中で濃縮し、残渣を、緩衝液A(v/v):水:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製する。有機溶媒を真空中で除去し、水性溶媒を凍結乾燥によって除去することで、化合物3を白色の固体として得た(15mg)。m/z [M+H]+ (2369、15%)、[M+2H]2+ (1185、100%)。
【0156】
ステップ3:化合物4の合成。
【0157】
【0158】
DMF(70mL)中の4-[2,2-ビス[(p-トリルスルホニル)-メチル]アセチル]安息香酸(1.5g、Nature Protocols、2006、1(54)、2241~2252頁)の撹拌溶液に、アルファ-メトキシ-オメガ-メルカプトヘプタ(エチレングリコール)(3.2g)及びトリエチルアミン(2.5mL)を添加した。結果として得られた反応混合物を不活性窒素雰囲気下にて室温で撹拌した。19時間後、揮発分を真空中で除去した。結果として得られた残渣を水(2.4mL)中に溶解し、緩衝液A(v/v):水:5%アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。有機溶媒を真空中で除去し、水性溶媒を凍結乾燥によって除去することで、化合物4を濃い清澄な無色の油として得た(1.88g)。m/z [M+H]+ 901。
【0159】
ステップ4:試薬5の合成。
【0160】
【0161】
メタノール:水(18mL、9:1 v/v)中の4(1.32g)の撹拌溶液に、室温で、Oxone(登録商標)(2.7g)を添加した。2.5時間後、揮発分を真空中で除去し、水をアセトニトリル(2×15mL)と共沸除去した。結果として得られた残渣をジクロロメタン(3×10mL)中に溶解し、硫酸マグネシウムのカラムを介して濾過し、ジクロロメタン(2×7mL)で洗浄した。溶離液及び洗浄液を合わせ、揮発分を真空中で除去することで、濃い清澄な淡黄色の油を得た(1.3g)。残渣の一部(700mg)を、水:アセトニトリル(1.5mL、3:1 v/v)中に溶解し、緩衝液A(v/v):水:5%アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。有機溶媒を真空中で除去し、水性溶媒を凍結乾燥によって除去することで、試薬5を濃い清澄な無色の油として得た(520mg)。m/z [M+H]+ 965。
【0162】
ステップ5:試薬1の合成。
DMF(250μL)中の試薬5(6.3mg)の溶液に、HATU(2.6mg)を添加し、溶液を0℃で20分間撹拌した。NMM(0.5μL)を溶液に添加し、これを更に10分間室温で撹拌した。DMF(250μL)中の化合物3(15mg)の別の溶液に、NMM(0.75μL)を添加し、溶液を10分間0℃で撹拌した。2つの溶液を次いで合わせ、追加分量のHATU(2.6mg)及びNMM(0.75μL)を添加した後に、反応混合物を室温で2時間の間放置撹拌させておいた。反応溶液を真空中で濃縮し、残渣を、緩衝液A(v/v):水:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。有機溶媒を真空中で除去し、水性溶媒を凍結乾燥によって除去することで、試薬1を白色の固体として得た(13mg)。m/z [M+2H]2+ (1659、70%)、[M+3H]3+ (1106、100%)。
【実施例2】
【0163】
アミド-6'-α-シクロデキストリン及びオーリスタチン細胞毒性ペイロード、MMAEを含むコンジュゲーション試薬6の合成。
【0164】
【0165】
実施例1の試薬1に類似したやり方で、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン塩酸塩の代わりに6-モノデオキシ-6-モノアミノ-α-シクロデキストリン塩酸塩を使用して、試薬6を合成した。試薬6を白色の固体として単離した、m/z [M+2H]2+ (1578、50%)、[M+3H]3+ (1052、100%)。
【実施例3】
【0166】
アミド-6'-γ-シクロデキストリン及びオーリスタチン細胞毒性ペイロード、MMAEを含むコンジュゲーション試薬7の合成。
【0167】
【0168】
実施例1の試薬1に類似したやり方で、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン塩酸塩の代わりに6-モノデオキシ-6-モノアミノ-γ-シクロデキストリン塩酸塩を使用して、試薬7を合成した。試薬7を白色の固体として単離した、m/z [M+2H]2+ (1740、30%)、[M+3H]3+ (1160、100%)。
【実施例4】
【0169】
アミド-3'-α-シクロデキストリン及びオーリスタチン細胞毒性ペイロード、MMAEを含むコンジュゲーション試薬8の合成。
【0170】
【0171】
実施例1の試薬1に類似したやり方で、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン塩酸塩の代わりに3-モノデオキシ-3-モノアミノ-α-シクロデキストリン水和物を使用して、試薬8を合成した。試薬8を白色の固体として単離した、m/z [M+2H]2+ (1578、90%)、[M+3H]3+ (1052、100%)。
【実施例5】
【0172】
アミド-3'-γ-シクロデキストリン及びオーリスタチン細胞毒性ペイロード、MMAEを含むコンジュゲーション試薬9の合成。
【0173】
【0174】
実施例1の試薬1に類似したやり方で、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン塩酸塩の代わりに3-モノデオキシ-3-モノアミノ-γ-シクロデキストリン水和物を使用して、試薬9を合成した。試薬9を白色の固体として単離した、m/z [M+2H]2+ (1740、40%)、[M+3H]3+ (1160、100%)。
【実施例6】
【0175】
アミド-3'-β-シクロデキストリン及びオーリスタチン細胞毒性ペイロード、MMAEを含むコンジュゲーション試薬10の合成。
【0176】
【0177】
実施例1の試薬1に類似したやり方で、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン塩酸塩の代わりに3-モノデオキシ-3-モノアミノ-β-シクロデキストリン水和物を使用して、試薬10を合成した。試薬10を白色の固体として単離した、m/z [M+2H]2+ (1658、90%)。
【実施例7】
【0178】
アミド-6'-β-シクロデキストリン及びメイタンシノイド細胞毒性ペイロードを含むコンジュゲーション試薬11の合成。
【0179】
【0180】
ステップ1:化合物12の合成
【0181】
【0182】
DMF(1mL)中のFmoc-Glu-(OtBu)-OH(55mg)の溶液に、DMF(1mL)中のHATU(116mg)の溶液、NMM(34μL)、及びDMF(2mL)中の6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン塩酸塩(150mg)の溶液を添加した。反応混合物を16時間の間室温で撹拌した後、NMM(13μL)、更に1時間後、DMF(200μL)中の追加の6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン塩酸塩(8mg)を添加した。3時間後、揮発分を真空中で除去した。残渣をDMF(5mL)中に溶解し、ピペリジン(151μL)を溶液に添加し、これを1時間の間室温で撹拌した。反応溶液を次いで真空中で濃縮し、その結果得られた油をジエチルエチル(4×200mL)中に室温で沈殿し、濾過することで、化合物12を白色の固体として得た、m/z [M+H]+ (1320、50%)。
【0183】
ステップ2:化合物13の合成。
【0184】
【0185】
DMF(2mL)中の試薬5(156mg)の溶液に、DMF(1mL)中のHATU(141mg)の溶液、NMM(41μL)、及びDMF(2.5mL)中の化合物12(196mg)の溶液を添加した。2.5時間の間0℃で撹拌した後、DMF(500μL)中の追加の試薬5(19mg)を添加した。20分後、溶液を真空中で濃縮し、残渣を、緩衝液A(v/v):水:5%アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。有機溶媒を真空中で除去し、水性溶媒を凍結乾燥によって除去することで、化合物13を無色の油として得た(76mg)。m/z [M+H]+ (2267、20%)、[M+2H]2+ (1134、100%)。
【0186】
ステップ3:化合物14の合成。
【0187】
【0188】
THF:クロロホルム(5mL、1:4 v/v)中の化合物13(33mg)の溶液に、p-トルエンスルホン酸(14mg)を添加し、結果として得られた懸濁液を室温で撹拌した。3.5時間後、揮発分を真空中で除去し、結果として得られた残渣を、緩衝液A(v/v):水:5%アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。有機溶媒を真空中で除去し、水性溶媒を凍結乾燥によって除去することで、化合物14を無色の油として得た(26mg)。m/z [M+H]+ (2212、25%)、[M+2H]2+ (1106、100%)。
【0189】
ステップ4:試薬11の合成。
DMF(250μL)中の化合物14(18mg)の撹拌溶液に、不活性なアルゴン雰囲気下にて室温で、HATU(6mg)を添加した。1時間後、追加のHATU(6mg)及びNMM(1.1μL)を添加し、溶液を更に0.5時間の間放置撹拌させておいた。DMF(100μL)中のVal-Ala-PAB-AHX-DMl.TFA塩(Levena Biopharma社、7.5mg)及びNMM(1.7μL)の別の溶液を調製し、20分間室温で撹拌した後に、2つの溶液を合わせた。追加のHATU(6mg)及びNMM(1.7μL)を添加し、溶液を室温で撹拌した。2時間後、追加のHATU(6mg)を添加し、溶液を更に4時間の間室温で放置撹拌させておいた後に、追加のNMM(1.7μL)を添加した。3.5時間後、揮発分を真空中で除去し、結果として得られた残渣を、緩衝液A(v/v):水:5%アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。有機溶媒を真空中で除去し、水性溶媒を凍結乾燥によって除去することで、試薬11を得た(2.7mg)。m/z [M+Na+2H]3+ (1100、65%)。[M+3H]3+ (1094、100%)。
【実施例8】
【0190】
アミド-6'-β-シクロデキストリン及びデュオカルマイシン細胞毒性ペイロードを含むコンジュゲーション試薬15の合成。
【0191】
【0192】
ステップ1:化合物16の合成。
【0193】
【0194】
無水ジクロロメタン(2mL)中のBoc-Val-Cit-PAB-デュオカルマイシン(Abzena社、TCRS、17mg)の懸濁液に、0℃で、トリフルオロ酢酸(1mL)を添加し、結果として得られた溶液を0℃で75分間撹拌した。揮発分を次いで真空中で除去することで、化合物16を黄色の固体として得た(想定される定量的収量、17.7mg)。m/z [M+H]+ (798、100%)。
【0195】
ステップ2:化合物17の合成。
【0196】
【0197】
DMF(600μL)中の化合物16(17.7mg、前のステップからの想定される定量的収量)の撹拌溶液に、DMF(200μL)中のFmoc-Glu(OH)-OtBu(9mg)の溶液を添加した。HATU(22mg)を反応混合物に添加し、これを0℃に冷却した後に、NMM(6.4μL)を添加した。20分後、反応混合物を室温に加温し、50分間撹拌した後に、追加のHATU(22mg)及びNMM(6.4μL)を添加した。30分後、反応混合物を、緩衝液A(v/v):水:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。溶媒を凍結乾燥によって除去することで、化合物17を黄色の固体として得た(想定される定量的収量、23.4mg)。m/z [M+H]+ (1206、5%)。
【0198】
ステップ3:化合物18の合成。
【0199】
【0200】
化合物17(前のステップからの想定される定量的収量)を、ジクロロメタン:トリフルオロ酢酸(2.5mL 2:1 v/v)の溶液中に溶解した。溶液を4℃で5.5時間の間置いた後に、-20℃で17時間の間貯蔵した。溶液を真空中で濃縮し、残渣を、緩衝液A(v/v):水:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。溶媒を凍結乾燥によって除去することで、化合物18を黄色の固体として得た(3mg)。m/z [M+H]+ (1149、100%)。
【0201】
ステップ4:化合物19の合成。
【0202】
【0203】
DMF(220μL)中の化合物18(3mg)の溶液に、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン塩酸塩(3.7mg)及びHATU(3mg)を添加した。撹拌溶液を0℃に冷却した後に、NMM(0.9μL)を添加した。30分後、溶液を室温に加温させておいた後に、ピペリジン(2.6μL)を添加し、反応混合物を3.5時間の間室温で撹拌した。反応混合物を次いで、緩衝液A(v/v):水:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。溶媒を凍結乾燥によって除去することで、化合物19を黄色の固体として得た(6.3mg)。m/z [M+2H]2+ (1022、100%)。
【0204】
ステップ5:試薬15の合成。
DMF(400μL)中の化合物19(6mg)の溶液に、試薬5(3mg)及びHATU(3.3mg)を添加した。撹拌溶液を0℃に冷却した後に、NMM(1μL)を添加した。1時間後、追加のHATU(0.6mg)及びNMM(0.2μL)を反応混合物に添加し、これを更に30分間撹拌した。反応混合物を次いで、緩衝液A(v/v):水:0.05%トリフルオロ酢酸及び緩衝液B(v/v):アセトニトリル:0.05%トリフルオロ酢酸(100:0 v/vから0:100 v/v)で溶出する逆相C18カラムクロマトグラフィーによって精製した。溶媒を凍結乾燥によって除去することで、試薬15を黄色の固体として得た(3.7mg)。m/z [M+2H]2+ (1495、100%)、[M+Na+2H]3+ (1005、30%)。
【実施例9】
【0205】
DAR 4との抗体薬物コンジュゲート(ADC)を生成するための、抗体への試薬のコンジュゲーションの一般のプロトコール。
20mMのリン酸ナトリウム、pH7.5(150mMのNaCl及び20mMのEDTAを含有する)中5.2mg/mLの濃度の抗体を、40℃に加熱ブロック中で15分間加熱した。TCEP(1mAb当たり6当量)をmAb溶液に添加し、穏やかに混合し、40℃で1時間の間インキュベートした後に、22℃に冷却させておいた。コンジュゲーション試薬1、6、7、8、9、10、11及び15をDMF中に溶解させることで、1.5mMの溶液を得た。還元されたmAb溶液を4.4mg/mLに、20mMのリン酸ナトリウム、pH7.5(150mMのNaCl及び20mMのEDTAを含有する)で希釈した。コンジュゲーション試薬(1mAb当たり5.6当量)をmAb溶液に添加し、反応物を穏やかに混合し、22℃で6から22時間の間インキュベートした。この後、反応物を50mMのN-アセチル-L-システイン(試薬を20当量超える)にて22℃で1時間の間処理した。粗製のコンジュゲーション混合物を疎水性相互作用クロマトグラフィーによって分析した。粗製反応物を、50mMのリン酸ナトリウム、pH7(4MのNaCl)の等体積と混合し、結果として得られた溶液を、50mMのリン酸ナトリウム、pH7(2MのNaCl)で平衡化されたToyoPearl社 Phenyl-650S HICカラムにロードした。ADCをカラムから、50mMのリン酸ナトリウムの勾配、pH7(20%イソプロパノール)で溶出した。DAR 4 ADCを含有する画分をプールし、濃縮した(Vivaspin 20、10kDa PES膜)。濃縮試料をPBS、pH7.1~7.5へと緩衝液交換し、滅菌濾過した(0.22μmのPVDF膜)。DAR割り当ては、A248/A280吸収比に基づいた。コンジュゲートの平均DARを、280nmでのHIC分析に続いて個々のDAR種の相対的ピーク面積から算出した。コンジュゲーション試薬1、6、7、8、9、10及び15とのブレンツキシマブ抗体のコンジュゲーションは、DAR 4コンジュゲート20、21、22、23、24、25及び26をそれぞれ生成した。試薬11との抗PSMA抗体のコンジュゲーションは、DAR 4コンジュゲート27を生成した。
【実施例10】
【0206】
インビトロ細胞生存能アッセイによる抗体薬物コンジュゲート(ADC)の分析
実施例9において調製された抗体薬物コンジュゲート20、21、22、23、24、25、26及び27のインビトロ効力を、がん細胞株を過剰発現する標的の細胞成長に対するそれらの阻害効果を測定することによって決定した。
【0207】
インビトロにおけるADC又は遊離ペイロードでの処置に続く腫瘍細胞生存能の喪失は、化合物の増加する濃度の存在下で細胞株を成長させること、及びCell-Titer Glo(登録商標)発光試薬(Promega社)を使用して増殖又は代謝活性の喪失を定量化することによって測定することができる。プロトコールは、ウェル中に存在する細胞の数に直接相関するATP合成に基づく未処置細胞を参照して、細胞播種、薬物処置、及び細胞生存能の決定を記載する。
【0208】
細胞株の特徴並びにアッセイのための播種密度は、下記の表に記載されている。本発明者らは、Karpas-299細胞株の提供についてDr. Karpasに感謝する。使い捨てのNeubauerカウントチャンバーを使用して細胞をカウントし、下記の表に詳述されている通りに細胞密度を調整した。Karpas-299細胞及びLNCaP細胞を、組織培養処理された不透明な壁面の96ウェル白色プレート中に50μL/ウェルで播種し、24時間の間37℃及び5% CO2でインキュベートした。
【0209】
【0210】
8点系列希釈の化合物を関連培養培地中で調製した。滴定範囲を各化合物/細胞株組合せについて調整した。Karpas-299細胞を50μL/ウェルの2x ADC希釈物の単純な添加によって処置した。LNCaP細胞について、成長培地を除去し、100μL/ウェルの1x ADC希釈物に置き換えた。細胞を次いで37℃及び5% CO2で更に96時間の間インキュベートした。
【0211】
細胞生存能アッセイを、製造者によって記載されている通りにCell-Titer Glo(登録商標)発光試薬(Promega社)を使用して実施した。
【0212】
Molecular Devices社SpectramaxM3プレートリーダーを使用して発光を記録し、GraphPad社Prism 4パラメータ非線形回帰モデルを使用してデータを引き続き分析した。生存能を未処置細胞の%として表し、以下の式を使用して算出した:
【0213】
【0214】
%生存能をnMの薬物濃度の対数に対してプロットして、全てのコンジュゲートについてIC50値を外挿した。
【0215】
インビトロ細胞毒性研究の結果は、Table 1 (表2)に示されている。これらのデータは、シクロデキストリンADCがインビトロにおいて強力な細胞死滅特性を有することを示している。
【0216】
【実施例11】
【0217】
ブレンツキシマブ-薬物コンジュゲート20、23及び24(比較用)をAdcetris(登録商標)(比較用)と比較するKarpas-299マウス異種移植片研究。
17.5gの平均体重を有する健康な雌性CB17-SCIDマウス(CBySmn.CB17-Prkdcscid/J、Charles River Laboratories社)を細胞接種(0日目)のために使用した。腫瘍細胞注射より24時間から72時間前に、マウスにγ-照射(1.44Gy、60Co)した。動物をSPF健康状態にFELASAガイドラインに従って住居室に制御環境条件下で維持した。
【0218】
右側腹部への、200μLのRPMI 1640中の107 Karpas-299細胞(T未分化大細胞リンパ腫、ALCL)の皮下注射によって、腫瘍を誘発した。腫瘍をノギスで週2回測定し、式:
【0219】
【0220】
を使用して体積を概算した。
【0221】
腫瘍移植の14日後(14日目)、Vivo manager(登録商標)ソフトウェアを使用して、動物を8匹のマウス群にランダム化し(233mm3の平均腫瘍体積)、処置を開始した。ビヒクル群からの動物は、PBSの単一の静脈内(i.v.)注射を受けた。処置群に、0.5mg/kg又は1mg/kgでADCの単一のi.v.注射を投薬した。
【0222】
隔週の体重測定及び処置関連副作用の臨床的兆候についての毎日の観察によって、処置耐容性を判定した。人道的エンドポイントに達した時(例えば、1,600mm3の腫瘍体積)又は投薬後の最大6週後、マウスを安楽死させた。
【0223】
1mg/kg用量についての平均腫瘍体積±標準誤差は、各群について
図1から
図4に表されている。全ての化合物が良好な耐容性を示した。この用量で、コンジュゲート20は全体的に平均腫瘍体積の大きな低減を示し、完全応答(即ち、ゼロへの腫瘍体積の総低減率)が、研究の持続期間生存した6/8匹の動物において観察された。コンジュゲート23は平均腫瘍体積の総退縮を示し、全ての(8/8)動物が研究持続期間生存した。コンジュゲート24も、6/8匹の動物における完全応答とともに、平均腫瘍体積の大きな低減を呈した。対照的に、市販のAdcetris(登録商標)コンジュゲートは、研究の過程の全体にわたって平均腫瘍体積の増加を示し、完全応答は同じ用量で2匹の動物だけに観察された。
【実施例12】
【0224】
凍結融解試験による抗体薬物コンジュゲート(ADC)の安定性。
ADC試料20、21、22、23、24及び25を、0.5mg/mLでDPBS pH7.1~7.5を用いる希釈によって各々調製した。
【0225】
ADC試料を-80℃で1時間の間インキュベートした後に、4℃で融解した。試料を次いで、TOSOH Bioscience社TSKゲルSuper SW 3000カラムを使用するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析した。280nmでのUV吸光度を、0.2Mリン酸カリウム緩衝液、pH6.8(0.2M塩化カリウム及び15%イソプロパノール)を用いる均一溶媒溶出中にモニタリングした。
【0226】
Table 2(表3)は、凍結融解試験に続くADCの凝集の程度を示している。SEC分析から誘導された曲線下の百分率面積(Abs280)を使用して、各試料内に存在する凝集種の分量を決定した。
【0227】
【0228】
Table 2(表3)におけるこれらのデータは、コンジュゲートの各々が、試料の凍結及び融解に続いて良好な安定性を呈することを示している。