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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】繰り返し屈曲ディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20220510BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20220510BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220510BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220510BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20220510BHJP
   C09J 7/10 20180101ALI20220510BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/00
B32B27/00 M
B32B27/30 A
C09J201/00
C09J7/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019034965
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020139035
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-04-19
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋一
(72)【発明者】
【氏名】荒井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】小▲鯖▼ 翔
(72)【発明者】
【氏名】小澤 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 旭平
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018602(WO,A1)
【文献】特開2013-177568(JP,A)
【文献】特開2017-155205(JP,A)
【文献】特開2020-138544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し屈曲されるディスプレイを構成する一の屈曲性部材および他の屈曲性部材と、
前記一の屈曲性部材と前記他の屈曲性部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた繰り返し屈曲ディスプレイであって、
前記粘着剤層の厚さが、10μm以上、100μm未満であり、
前記粘着剤層を構成する粘着剤の-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)が、0.01MPa以上、1MPa以下であり、
前記粘着剤層の両面がそれぞれ2枚のガスバリアフィルムのガスバリア層に接するように、前記2枚のガスバリアフィルムと前記粘着剤層とを積層し、固定した一方のガスバリアフィルムから他方のガスバリアフィルムを垂直方向に5mm/minの速度で引き上げたときの最大応力である面接着力が、35N/cm以上であり、
最小屈曲径3mmφにて3万回以上繰り返し屈曲される
ことを特徴とする繰り返し屈曲ディスプレイ。
【請求項2】
前記粘着剤層の両面がそれぞれ2枚のポリイミドフィルムに接するように、前記2枚のポリイミドフィルムと前記粘着剤層とを積層し、固定した一方のポリイミドフィルムから他方のポリイミドフィルムを垂直方向に5mm/minの速度で引き上げたときの最大応力である面接着力が、30N/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の繰り返し屈曲ディスプレイ。
【請求項3】
前記粘着剤層を構成する粘着剤の85℃における貯蔵弾性率G’(85)が、0.005MPa以上、0.30MPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の繰り返し屈曲ディスプレイ。
【請求項4】
前記粘着剤層を構成する粘着剤の25℃における貯蔵弾性率G’(25)が、0.01MPa以上、0.30MPa以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の繰り返し屈曲ディスプレイ。
【請求項5】
前記粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率が、30%以上、95%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の繰り返し屈曲ディスプレイ。
【請求項6】
前記粘着剤層を構成する粘着剤が、アクリル系粘着剤であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の繰り返し屈曲ディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し屈曲されるデバイス用の粘着シート、ならびに繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デバイスの一種である、電子機器の表示体(ディスプレイ)として、屈曲可能な屈曲性ディスプレイが提案されている。屈曲性ディスプレイとしては、1回だけ曲面成形するものの他に、繰り返し屈曲させる(折り曲げる)用途の繰り返し屈曲ディスプレイが提案されている。
【0003】
上記のような繰り返し屈曲ディスプレイにおいては、当該屈曲性ディスプレイを構成する一の屈曲可能な部材(屈曲性部材)と、他の屈曲性部材とを粘着シートの粘着剤層によって貼合することが考えられる。しかしながら、繰り返し屈曲ディスプレイに従来の粘着シートを使用すると、粘着剤層と被着体との界面に浮きや剥がれが発生するという問題が生じる。
【0004】
特許文献1は、繰り返し屈曲させても粘着剤層の浮きや剥がれの発生を抑制することを課題とした粘着剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-108555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、上記のような繰り返し屈曲ディスプレイにおいては、繰り返し屈曲させたときに、屈曲部に線ができてしまうことがある。特許文献1に記載の粘着剤では、かかる繰り返し屈曲性の問題を十分に解決することができない。
【0007】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、繰り返し屈曲性に優れた粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有する粘着シートであって、前記粘着剤層の厚さが、2μm以上、100μm未満であり、前記粘着剤層を構成する粘着剤の-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)が、0.01MPa以上、50MPa以下であり、前記粘着剤層の両面がそれぞれ2枚のガスバリアフィルムのガスバリア層に接するように、前記2枚のガスバリアフィルムと前記粘着剤層とを積層し、固定した一方のガスバリアフィルムから他方のガスバリアフィルムを垂直方向に5mm/minの速度で引き上げたときの最大応力である面接着力が、35N/cm以上であることを特徴とする粘着シートを提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)に係る粘着シートは、粘着剤層が上記の物性を有することにより、当該粘着剤層によって一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合してなる積層体を屈曲させたときに、繰り返し屈曲性に優れ、幅広い温度下で屈曲部に線ができ難いものとなる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記粘着剤層の両面がそれぞれ2枚のポリイミドフィルムに接するように、前記2枚のポリイミドフィルムと前記粘着剤層とを積層し、固定した一方のポリイミドフィルムから他方のポリイミドフィルムを垂直方向に5mm/minの速度で引き上げたときの最大応力である面接着力が、30N/cm以上であることが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1,2)においては、前記粘着剤層を構成する粘着剤の85℃における貯蔵弾性率G’(85)が、0.005MPa以上、0.30MPa以下であることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1~3)においては、前記粘着剤層を構成する粘着剤の25℃における貯蔵弾性率G’(25)が、0.01MPa以上、0.30MPa以下であることが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明1~4)においては、前記粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率が、30%以上、95%以下であることが好ましい(発明5)。
【0014】
上記発明(発明1~5)においては、前記粘着剤層を構成する粘着剤が、アクリル系粘着剤であることが好ましい(発明6)。
【0015】
上記発明(発明1~6)においては、前記粘着シートが、2枚の剥離シートを備えており、前記粘着剤層が、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持されていることが好ましい(発明7)。
【0016】
第2に本発明は、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材および他の屈曲性部材と、前記一の屈曲性部材と前記他の屈曲性部材とを互いに貼合する粘着剤層とを備えた繰り返し屈曲積層部材であって、前記粘着剤層が、前記粘着シート(発明1~7)の粘着剤層からなることを特徴とする繰り返し屈曲積層部材を提供する(発明8)。
【0017】
第3に本発明は、前記繰り返し屈曲積層部材(発明8)を備えたことを特徴とする繰り返し屈曲デバイスを提供する(発明9)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスは、繰り返し屈曲性に優れ、幅広い温度下で屈曲部に線ができ難い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る粘着シートの断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る繰り返し屈曲積層部材の断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着シート〕
本発明の一実施形態に係る粘着シートは、繰り返し屈曲デバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有しており、好ましくは、当該粘着剤層の片面または両面に剥離シートを積層してなる。繰り返し屈曲デバイスおよび屈曲性部材については、後述する。
【0021】
上記粘着剤層の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)は、2μm以上、100μm未満である。また、上記粘着剤層を構成する粘着剤の-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)は、0.01MPa以上、50MPa以下である。さらに、上記粘着剤層の両面がそれぞれ2枚のガスバリアフィルムのガスバリア層に接するように、それら2枚のガスバリアフィルムと上記粘着剤層とを積層し、固定した一方のガスバリアフィルムから他方のガスバリアフィルムを垂直方向に5mm/minの速度で引き上げたときの最大応力である面接着力は、35N/cm以上である。
【0022】
本実施形態における粘着剤層が上記の物性を有することにより、当該粘着剤層によって一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合してなる積層体を屈曲させたときに、繰り返し屈曲性に優れ、幅広い温度下で屈曲部に線ができ難いものとなる。特に、上記の面接着力が35N/cm以上であると、繰り返し屈曲しても、粘着剤層と被着体との界面に浮きや剥がれが発生することが抑制される。また、特に、貯蔵弾性率G’(-20)が0.01MPa以上であると、粘着剤層と被着体との界面に微小な浮きが生じ難くなると推定される。さらに、特に、貯蔵弾性率G’(-20)が50MPa以下であると、粘着剤層の硬さに起因する被着体に対する作用が小さくなって、被着体自体に線ができ難くなる。また、特に、粘着剤層の厚さが2μm以上であると、所望の粘着力を発揮し易く、屈曲部に線ができることを、効果的に抑制することができる。さらに、特に、粘着剤層の厚さが100μm未満であると、屈曲時に、粘着剤層から被着体に作用する力が緩和され、繰り返し屈曲性がより良好になる。かかる作用効果が総合的に発揮されることにより、幅広い温度下で屈曲部に線ができ難くなると考えられる。具体的には、上記積層体を-20℃、25℃、85℃の各温度下で3万回屈曲させたときにも、屈曲部に線ができ難く、もちろん気泡や浮き・剥がれの発生も抑制される。特に、当該積層体における一の屈曲性部材がガスバリアフィルムまたはガスバリアフィルムを含む積層体である場合にも、上記の優れた繰り返し屈曲性が発揮される。
【0023】
上述した繰り返し屈曲性の観点から、上記粘着剤層を構成する粘着剤の-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)は、0.01MPa以上であることを要し、0.02MPa以上であることが好ましく、特に0.06MPa以上であることが好ましく、さらには0.08MPa以上であることが好ましい。同じく繰り返し屈曲性の観点から、-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)は、50MPa以下であることを要し、10MPa以下であることが好ましく、1MPa以下であることがより好ましく、特に0.3MPa未満であることが好ましく、さらには0.1MPa未満であることが好ましい。
【0024】
上記粘着剤層を構成する粘着剤の85℃における貯蔵弾性率G’(85)は、0.30MPa以下であることが好ましく、0.23MPa以下であることがより好ましく、特に0.14MPa以下であることが好ましく、さらには0.09MPa以下であることが好ましく、0.03MPa以下であることが最も好ましい。これにより、屈曲に伴い、粘着剤層から被着体に作用する力が低減し、高温における耐屈曲性に優れたデバイスを得ることができる。一方、85℃における貯蔵弾性率G’(85)は、0.005MPa以上であることが好ましく、0.008MPa以上であることがより好ましく、特に0.01MPa以上であることが好ましい。これにより、高温でも粘着剤層が柔らかくなりすぎずに凝集力が維持されるとともに、屈曲部分と非屈曲部分とで粘着剤層に密度差等が生じ難いため、粘着剤層自体に線や白濁等が発生することを抑制し易い。
【0025】
上記粘着剤層を構成する粘着剤の25℃における貯蔵弾性率G’(25)は、0.30MPa以下であることが好ましく、0.20MPa以下であることがより好ましく、特に0.09MPa以下であることが好ましく、さらには0.05MPa以下であることが好ましい。これにより、粘着性を発揮し易くなる。一方、25℃における貯蔵弾性率G’(25)は、0.01MPa以上であることが好ましく、0.02MPa以上であることがより好ましく、特に0.03MPa以上であることが好ましい。これにより、標準環境温度領域での繰り返し屈曲性が優れるほか、チップカットなどの加工性が良好となる。
【0026】
なお、本明細書における貯蔵弾性率の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0027】
上記粘着剤層のガスバリアフィルムに対する面接着力は、前述した繰り返し屈曲性の観点から、35N/cm以上であることを要し、38N/cm以上であることが好ましく、特に40N/cm以上であることが好ましく、さらには45N/cm以上であることが好ましい。一方、当該面接着力の上限値は、特に限定されないが、リワーク性の観点から、1000N/cm以下であることが好ましく、特に500N/cm以下であることが好ましく、さらには100N/cm以下であることが好ましい。
【0028】
上記粘着剤層のガスバリアフィルムに対する面接着力の測定方法においては、具体的には、まず、改質ポリシラザンからなるガスバリア層を有するガスバリアフィルムをガラス板に貼付したもの(ガスバリア層側が露出面)を2枚用意する。そして、それぞれのガスバリアフィルムのガスバリア層が粘着剤層(10mm×10mm)と接するように、上記粘着剤層を上記2枚のガスバリアフィルムにより挟持する。その後、一方のガスバリアフィルムを固定し、他方のガスバリアフィルムを垂直方向(水平に設置したガスバリアフィルムの平面に対する垂直方向)に5mm/minの速度で引き上げたときの最大応力(N/cm)として測定することができる。さらに詳細な測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0029】
また、上記粘着剤層の両面がそれぞれ2枚のポリイミドフィルムに接するように、上記2枚のポリイミドフィルムと粘着剤層とを積層し、固定した一方のポリイミドフィルムから他方のポリイミドフィルムを垂直方向に5mm/minの速度で引き上げたときの最大応力である面接着力は、30N/cm以上であることが好ましい。これにより、特に、当該積層体における一の屈曲性部材がポリイミドフィルムまたはポリイミドフィルムを含む積層体である場合にも、前述した優れた繰り返し屈曲性が良好に発揮される。
【0030】
上記粘着剤層のポリイミドフィルムに対する面接着力は、前述した繰り返し屈曲性の観点から、30N/cm以上であることが好ましく、特に35N/cm以上であることが好ましく、さらには40N/cm以上であることが好ましい。一方、当該面接着力の上限値は、特に限定されないが、リワーク性の観点から、1000N/cm以下であることが好ましく、特に500N/cm以下であることが好ましく、さらには100N/cm以下であることが好ましい。
【0031】
上記粘着剤層のポリイミドフィルムに対する面接着力の測定方法は、被着体をガスバリアフィルムからポリイミドフィルムに変更する以外、上記のガスバリアフィルムに対する面接着力の測定方法と同様である。
【0032】
上記粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率は、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、特に50%以上であることが好ましく、さらには60%以上であることが好ましい。これにより、粘着剤は、繰り返し屈曲に耐え得ることのできる好適な凝集力を発揮する。その結果、前述した繰り返し屈曲性がより優れたものとなる。一方、本実施形態における粘着剤のゲル分率は、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、特に85%以下であることが好ましく、さらには80%以下であることが好ましく、77%以下であることが最も好ましい。これにより、繰り返し屈曲による粘着剤中における架橋構造の破壊が抑制されるものと推定され、粘着剤層自体が白濁することが抑制される。なお、本明細書におけるゲル分率の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0033】
上記粘着剤層の厚さの下限値は、粘着力に起因する繰り返し屈曲性の観点から、2μm以上であることを要し、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、上記粘着剤層の厚さの上限値は、粘着剤層から被着体に作用する力に起因する繰り返し屈曲性の観点から、100μm未満であることを要し、80μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、特に40μm以下であることが好ましく、より薄い繰り返し屈曲デバイスを得ることができる観点から、さらには30μm以下であることが好ましい。なお、粘着剤層は単層で形成してもよいし、複数層を積層して形成することもできる。
【0034】
本実施形態に係る粘着シートの一例としての具体的構成を図1に示す。
図1に示すように、一実施形態に係る粘着シート1は、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着剤層11とから構成される。なお、本明細書における剥離シートの剥離面とは、剥離シートにおいて剥離性を有する面をいい、剥離処理を施した面および剥離処理を施さなくても剥離性を示す面のいずれをも含むものである。
【0035】
1.構成要素
1-1.粘着剤層
粘着剤層11は、前述した物性および厚さを有するものである。
粘着剤層11を構成する粘着剤の種類は、上記の物性(特に-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)およびガスバリアフィルムに対する面接着力)が満たされれば特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等のいずれであってもよい。また、当該粘着剤は、エマルション型、溶剤型または無溶剤型のいずれでもよく、架橋タイプまたは非架橋タイプのいずれであってもよい。それらの中でも、前述した物性を満たし易く、粘着物性、光学特性等にも優れるアクリル系粘着剤が好ましく、特に、溶剤型のアクリル系粘着剤が好ましい。
【0036】
本実施形態における粘着剤は、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、架橋剤(B)とを含有する粘着性組成物(以下「粘着性組成物P」という場合がある。)を架橋してなる粘着剤であることが好ましい。かかる粘着剤であれば、前述した物性を満たし易く、また、良好な粘着力が得られ易い。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0037】
(1)粘着性組成物Pの成分
(1-1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、分子内に反応性官能基を有するモノマー(反応性官能基含有モノマー)とを含有することが好ましい。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することで、好ましい粘着性を発現することができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。アルキル基は、直鎖状または分岐鎖状であってもよいし、環状構造を有するものであってもよい。
【0039】
アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。中でも、前述した貯蔵弾性率G’および面接着力に関する物性の観点から、アルキル基の炭素数が1~8の(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、アルキル基の炭素数が4~8の(メタ)アクリル酸エステルが特に好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸n-ブチルおよび(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルが好ましく、特にアクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルが好ましい。なお、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを60質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましく、特に90質量%以上含有することが好ましく、さらには95質量%以上含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルを上記の量以上とすれば、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)に好適な粘着性を付与させることができるとともに、貯蔵弾性率G’を低めの値に調整し易い。また、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを99.9質量%以下含有することが好ましく、特に99.5質量%以下含有することが好ましく、さらには99.0質量%以下含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルを上記の量以下とすることにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を所望量導入することができる。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として反応性官能基含有モノマーを含有することで、当該反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基を介して、後述する架橋剤(B)と反応し、これにより架橋構造(三次元網目構造)が形成され、所望の凝集力を有する粘着剤が得られる。当該粘着剤は、前述した貯蔵弾性率G’に関する物性および面接着力(ならびにゲル分率)を満たし易いものとなる。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として含有する反応性官能基含有モノマーとしては、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にカルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)などが好ましく挙げられる。これらの反応性官能基含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
上記反応性官能基含有モノマーの中でも、水酸基含有モノマーまたはカルボキシ基含有モノマーが好ましく、特に、水酸基含有モノマーが好ましい。水酸基含有モノマーは、前述した貯蔵弾性率G’に関する物性を満たし易い。すなわち、水酸基含有モノマーであれば、とりわけ、低温の貯蔵弾性率G’を小さくすることができ、得られる粘着剤の貯蔵弾性率G’の微調整がし易いものとなる。
【0044】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。上記の中でも、前述した貯蔵弾性率G’に関する物性の満たし易さの観点から、炭素数が1~4のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが好ましい。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が好ましく挙げられ、特に、アクリル酸2-ヒドロキシエチルまたはアクリル酸4-ヒドロキシブチルが好ましく挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。中でも、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の粘着力の点からアクリル酸が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、下限値として0.1質量%以上含有することが好ましく、特に0.5質量%以上含有することが好ましく、さらには1.0質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、上限値として10質量%以下含有することが好ましく、特に6質量%以下含有することが好ましく、さらには3質量%以下含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量で反応性官能基含有モノマーを含有すると、架橋剤(B)との架橋反応により、得られる粘着剤の凝集力が適度なものとなり、前述した貯蔵弾性率G’に関する物性および面接着力(ならびにゲル分率)、とりわけ-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)を満たし易いものとなる。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを含まないことも好ましい。カルボキシ基は酸成分であるため、カルボキシ基含有モノマーを含有しないことにより、粘着剤の貼付対象に、酸により不具合が生じるもの、例えばスズドープ酸化インジウム(ITO)等の透明導電膜や、金属膜、金属メッシュなどが存在する場合にも、酸によるそれらの不具合(腐食、抵抗値変化等)を抑制することができる。
【0048】
ここで、「カルボキシ基含有モノマーを含まない」とは、カルボキシ基含有モノマーを実質的に含有しないことを意味し、カルボキシ基含有モノマーを全く含有しない他、カルボキシル基による透明導電膜や金属配線等の腐食が生じない程度にカルボキシ基含有モノマーを含有することを許容するものである。具体的には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に、モノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下の量で含有することを許容するものである。
【0049】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、所望により、当該重合体を構成するモノマー単位として、他のモノマーを含有してもよい。他のモノマーとしては、反応性官能基含有モノマーの前述した作用を阻害しないためにも、反応性官能基を含有しないモノマーが好ましい。かかるモノマーとしては、例えば、N-アクリロイルモルホリン、N-ビニル-2-ピロリドン等の非反応性の窒素原子含有モノマー、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、25万以上であることが好ましく、30万以上であることがより好ましく、特に40万以上であることが好ましく、さらには50万以上であることが好ましく、70万以上であることが最も好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、230万以下であることが好ましく、200万以下であることがより好ましく、特に170万以下であることが好ましく、さらには140万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量が上記の範囲内にあると、前述した貯蔵弾性率G’に関する物性、面接着力およびゲル分率が満たされ易くなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0052】
粘着性組成物Pにおいて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
(1-2)架橋剤(B)
架橋剤(B)は、当該架橋剤(B)を含有する粘着性組成物Pの加熱等をトリガーとして、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を架橋し、三次元網目構造を形成する。これにより、得られる粘着剤の凝集力が向上し、前述した貯蔵弾性率G’に関する物性、面接着力およびゲル分率が満たされ易くなる。
【0054】
上記架橋剤(B)としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有する反応性基と反応するものであればよく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。上記の中でも、反応性官能基含有モノマーとの反応性に優れたイソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。なお、架橋剤(B)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートまたはトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0056】
粘着性組成物P中における架橋剤(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.06質量部以上であることが好ましく、さらには0.12質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、2.0質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、特に1.0質量部以下であることが好ましく、さらには0.5質量部以下であることが好ましい。架橋剤(B)の含有量が上記の範囲内にあると、前述した貯蔵弾性率G’に関する物性、面接着力およびゲル分率が満たされ易くなる。
【0057】
(1-3)各種添加剤
粘着性組成物Pには、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。なお、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pを構成する添加剤に含まれないものとする。
【0058】
粘着性組成物Pは、上記のシランカップリング剤を含有することが好ましい。これにより、得られる粘着剤層において、被着体である屈曲性部材との密着性が向上し、粘着力がより好ましいものとなる。
【0059】
シランカップリング剤としては、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物であって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相溶性がよく、光透過性を有するものが好ましい。
【0060】
かかるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
粘着性組成物P中におけるシランカップリング剤の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.05質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、1質量部以下であることが好ましく、特に0.5質量部以下であることが好ましく、さらには0.3質量部以下であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が上記の範囲にあることで、得られる粘着剤層は、被着体である屈曲性部材との密着性が向上し、粘着力がより大きいものとなる。
【0062】
(2)粘着性組成物Pの製造
粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、架橋剤(B)とを混合するとともに、所望により添加剤を加えることで製造することができる。
【0063】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、重合体を構成するモノマーの混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法により行うことが好ましい。溶液重合法によって(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を重合することにより、得られる重合体の高分子量化と、分子量分布の調整とが容易となり、さらに低分子量体の生成を低減することが可能となる。このため、ゲル分率を比較的小さくして架橋の程度を緩めた場合であっても、繰り返し屈曲に伴う粘着剤の偏りが生じ難く、繰り返し屈曲性に優れた粘着剤が得られ易い。
【0064】
溶液重合法で使用する重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0065】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等が挙げられる。
【0066】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0067】
なお、上記重合工程において、2-メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0068】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の溶液に、架橋剤(B)、ならびに所望により添加剤および希釈溶剤を添加し、十分に混合することにより、溶剤で希釈された粘着性組成物P(塗布溶液)を得る。
【0069】
なお、上記各成分のいずれかにおいて、固体状のものを用いる場合、あるいは、希釈されていない状態で他の成分と混合した際に析出を生じる場合には、その成分を単独で予め希釈溶媒に溶解もしくは希釈してから、その他の成分と混合してもよい。
【0070】
上記希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0071】
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物Pの濃度が10~60質量%となるように希釈する。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着性組成物Pがコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶剤を添加しなくてもよい。この場合、粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合溶媒をそのまま希釈溶剤とする塗布溶液となる。
【0072】
(3)粘着剤の製造
本実施形態における粘着剤層11を構成する粘着剤は、好ましくは粘着性組成物Pを架橋してなるものである。粘着性組成物Pの架橋は、通常は加熱処理により行うことができる。なお、この加熱処理は、所望の対象物に塗布した粘着性組成物Pの塗膜から希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。
【0073】
加熱処理の加熱温度は、50~150℃であることが好ましく、特に70~120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、10秒~10分であることが好ましく、特に50秒~2分であることが好ましい。
【0074】
加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1~2週間程度の養生期間を設けてもよい。この養生期間が必要な場合は、養生期間経過後、養生期間が不要な場合には、加熱処理終了後、粘着剤が形成される。
【0075】
上記の加熱処理(及び養生)により、架橋剤(B)を介して(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が十分に架橋されて架橋構造が形成され、粘着剤が得られる。
【0076】
1-2.剥離シート
剥離シート12a,12bは、粘着シート1の使用時まで粘着剤層11を保護するものであり、粘着シート1(粘着剤層11)を使用するときに剥離される。本実施形態に係る粘着シート1において、剥離シート12a,12bの一方または両方は必ずしも必要なものではない。
【0077】
剥離シート12a,12bとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0078】
上記剥離シート12a,12bの剥離面(特に粘着剤層11と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。なお、剥離シート12a,12bのうち、一方の剥離シートを剥離力の大きい重剥離型剥離シートとし、他方の剥離シートを剥離力の小さい軽剥離型剥離シートとすることが好ましい。
【0079】
剥離シート12a,12bの厚さについては特に制限はないが、通常20~150μm程度である。
【0080】
2.物性
(1)粘着力
本実施形態に係る粘着シート1のソーダライムガラスに対する粘着力は、下限値として1.0N/25mm以上であることが好ましく、2.0N/25mm以上であることがより好ましく、特に3.0N/25mm以上であることが好ましく、さらには5.0N/25mm以上であることが好ましい。粘着シート1のソーダライムガラスに対する粘着力の下限値が上記であると、繰り返し屈曲性がより優れたものとなる。一方、上記粘着力の上限値は特に限定されないが、通常は、50N/25mm以下であることが好ましく、40N/25mm以下であることがより好ましく、粘着シートの貼合ミスをした際、粘着シートの貼り直しを可能とするリワーク性の観点においては、30N/25mm以下であることが特に好ましく、20N/25mm以下であることがさらに好ましい。
【0081】
(2)ヘイズ値
本実施形態に係る粘着シート1の粘着剤層11のヘイズ値は、30%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、特に5%以下であることが好ましく、さらには1%以下であることが好ましい。粘着剤層11のヘイズ値が上記であることにより、光透過性に優れ、繰り返し屈曲ディスプレイ用として好適なものとなる。上記ヘイズ値の下限値は、特に限定されず、0%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましい。
【0082】
なお、上記ヘイズ値は粘着剤層の厚さも含めた特性値であり、粘着剤層の厚さにかかわらず、上記ヘイズ値を満たすことが好ましい。ここで、本明細書におけるヘイズ値は、JIS K7136:2000に準じて測定した値とする。
【0083】
(3)色味
本実施形態に係る粘着シート1の粘着剤層11は、CIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*が、-5.0~5.0であることが好ましく、特に-3.0~3.0であることが好ましく、さらには-2.0~2.0であることが好ましい。また、上記粘着剤層11は、CIE1976L*a*b*表色系により規定される色度b*が-5.0~5.0であることが好ましく、特に-3.0~3.0であることが好ましく、さらには-2.0~2.0であることが好ましい。色度a*および色度b*が上記範囲にあることで、粘着剤層11は無色透明に近いものとなり、繰り返し屈曲ディスプレイ用として好適なものとなる。なお、本明細書における色度a*および色度b*の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0084】
3.粘着シートの製造
粘着シート1の一製造例として、上記粘着性組成物Pを使用した場合について説明する。一方の剥離シート12a(または12b)の剥離面に、粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成した後、その塗布層に他方の剥離シート12b(または12a)の剥離面を重ね合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。加熱処理および養生の条件については、前述した通りである。
【0085】
粘着シート1の他の製造例としては、一方の剥離シート12aの剥離面に、粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12aを得る。また、他方の剥離シート12bの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12bを得る。そして、塗布層付きの剥離シート12aと塗布層付きの剥離シート12bとを、両塗布層が互いに接触するように貼り合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記の積層された塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。この製造例によれば、粘着剤層11が比較的厚い場合であっても、安定して製造することが可能となる。
【0086】
上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
【0087】
〔繰り返し屈曲積層部材〕
図2に示すように、本実施形態に係る繰り返し屈曲積層部材2は、第1の屈曲性部材21(一の屈曲性部材)と、第2の屈曲性部材22(他の屈曲性部材)と、それらの間に位置し、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22を互いに貼合する粘着剤層11とを備えて構成される。
【0088】
上記繰り返し屈曲積層部材2における粘着剤層11は、前述した粘着シート1の粘着剤層11である。
【0089】
繰り返し屈曲積層部材2は、繰り返し屈曲デバイス自体であるか、または繰り返し屈曲デバイスの一部を構成する部材である。繰り返し屈曲デバイスは、繰り返しの屈曲(折り曲げを含む)が可能なディスプレイ(繰り返し屈曲ディスプレイ)であることが好ましいが、これに限定されるものではない。かかる繰り返し屈曲デバイスとしては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ、電気泳動方式のディスプレイ(電子ペーパー)、基板としてプラスチック基板(フィルム)を用いた液晶ディスプレイ、フォルダブルディスプレイ等が挙げられ、タッチパネルであってもよい。
【0090】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22は、繰り返しの屈曲(折り曲げを含む)が可能な部材であり、例えば、カバーフィルム、ガスバリアフィルム、ハードコートフィルム、偏光フィルム(偏光板)、偏光子、位相差フィルム(位相差板)、視野角補償フィルム、輝度向上フィルム、コントラスト向上フィルム、拡散フィルム、半透過反射フィルム、電極フィルム、透明導電性フィルム、金属メッシュフィルム、フィルムセンサー(タッチセンサーフィルム)、液晶ポリマーフィルム、発光ポリマーフィルム、フィルム状液晶モジュール、有機ELモジュール(有機ELフィルム,有機EL素子)、電子ペーパーモジュール(フィルム状電子ペーパー)、TFT(Thin Film Transistor)基板等が挙げられる。
【0091】
上記の中でも、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の一方が、ガスバリアフィルム、または粘着剤層11側にガスバリアフィルムを備えた積層体であることが好ましい。また、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の他方は、ポリイミドフィルム、または粘着剤層11側にポリイミドフィルムを備えた積層体であることが特に好ましい。ガスバリアフィルムおよびポリイミドフィルムは、一般的に粘着剤層との密着性が低いが、本実施形態における粘着剤層11によれば、ガスバリアフィルムまたはポリイミドフィルムが被着体であっても、繰り返し屈曲性に優れ、幅広い温度下で屈曲部に線ができ難いものとなる。
【0092】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22のヤング率は、それぞれ0.1~10GPaであることが好ましく、特に0.5~7GPaであることが好ましく、さらには1.0~5GPaであることが好ましい。第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22のヤング率がかかる範囲にあることで、各屈曲性部材について繰り返し屈曲させることが容易になる。
【0093】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の厚さは、それぞれ10~3000μmであることが好ましく、特に25~1000μmであることが好ましく、さらには50~500μmであることが好ましい。第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の厚さがかかる範囲にあることで、各屈曲性部材について繰り返し屈曲させることが容易になる。
【0094】
上記繰り返し屈曲積層部材2を製造するには、一例として、粘着シート1の一方の剥離シート12aを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11を、第1の屈曲性部材21の一方の面に貼合する。
【0095】
その後、粘着シート1の粘着剤層11から他方の剥離シート12bを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11と第2の屈曲性部材22とを貼合し、繰り返し屈曲積層部材2を得る。また、他の例として、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の貼合順序を入れ替えてもよい。
【0096】
〔繰り返し屈曲デバイス〕
本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスは、上記の繰り返し屈曲積層部材2を備えたものであり、繰り返し屈曲積層部材2のみからなってもよいし、一または複数の繰り返し屈曲積層部材2と、他の屈曲性部材とを備えて構成されてもよい。一の繰り返し屈曲積層部材2と他の繰り返し屈曲積層部材2とを積層するとき、または繰り返し屈曲積層部材2と他の屈曲性部材とを積層するときには、前述した粘着シート1の粘着剤層11を介して積層することが好ましい。
【0097】
本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスは、粘着剤層が前述した粘着剤からなるため、幅広い温度下(例えば、-20℃、25℃、85℃の各温度下)で繰り返し屈曲させた場合(例えば3万回)でも、屈曲部に線ができることが抑制され、もちろん気泡や浮き・剥がれの発生も抑制される。
【0098】
本実施形態における一例としての繰り返し屈曲デバイスを図3に示す。なお、本発明に係る繰り返し屈曲デバイスは、当該繰り返し屈曲デバイスに限定されるものではない。
【0099】
図3に示すように、本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイス3は、上から順に、カバーフィルム31と、第1の粘着剤層32と、偏光フィルム33と、第2の粘着剤層34と、タッチセンサーフィルム35と、第3の粘着剤層36と、有機EL素子37と、第4の粘着剤層38と、TFT基板39とを積層して構成される。上記のカバーフィルム31、偏光フィルム33、タッチセンサーフィルム35、有機EL素子37およびTFT基板39は、屈曲性部材に該当する。
【0100】
第1の粘着剤層32、第2の粘着剤層34、第3の粘着剤層36および第4の粘着剤層38の少なくともいずれか1層は、前述した粘着シート1の粘着剤層11である。第1の粘着剤層32、第2の粘着剤層34、第3の粘着剤層36および第4の粘着剤層38のいずれか2層以上が前述した粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましく、全ての粘着剤層32,34,36,38が粘着シート1の粘着剤層11であることが最も好ましい。
【0101】
カバーフィルム31は、第1の粘着剤層32側にガスバリア層を有するガスバリアフィルム、または第1の粘着剤層32側にガスバリアフィルム(ガスバリア層が粘着剤層11側)を備えた積層体であることが好ましい。この場合、少なくとも第1の粘着剤層32は、前述した粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましい。また、例えば、TFT基板39がポリイミドフィルムを含む場合、特に、第4の粘着剤層38側にポリイミドフィルムを備えている場合は、少なくとも第4の粘着剤層38は、前述した粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましい。
【0102】
上記繰り返し屈曲デバイス3においては、幅広い温度下(例えば、-20℃、25℃、85℃の各温度下)で繰り返し屈曲させた場合(例えば3万回)でも、少なくとも、粘着シート1の粘着剤層11からなる粘着剤層と、当該粘着剤層によって貼合された屈曲性部材との積層部分において、屈曲部に線ができることが抑制され、もちろん気泡や浮き・剥がれの発生も抑制される。
【0103】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0104】
例えば、粘着シート1における剥離シート12a,12bのいずれか一方または両方は省略されてもよく、また、剥離シート12aおよび/または12bの替わりに所望の屈曲性部材が積層されてもよい。
【実施例
【0105】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0106】
〔実施例1〕
1.(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の調製
アクリル酸n-ブチル49質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル50質量部、およびアクリル酸4-ヒドロキシブチル1質量部を溶液重合法により共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)79万であった。
【0107】
2.粘着性組成物の調製
上記工程1で得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、架橋剤(B)としてのトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネート(XDI;綜研化学社製,製品名「TD-75」)0.15質量部と、シランカップリング剤としての3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Si1)0.20質量部とを混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、粘着性組成物の塗布溶液を得た。
【0108】
3.粘着シートの製造
得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET752150」)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布した。そして、塗布層に対し、90℃で1分間加熱処理して塗布層を形成した。
【0109】
次いで、上記で得られた重剥離型剥離シート上の塗布層と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381130」)とを、当該軽剥離型剥離シートの剥離処理面が塗布層に接触するように貼合し、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、厚さ25μmの粘着剤層を有する粘着シート、すなわち、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:25μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の厚さは、JIS K7130に準拠し、定圧厚さ測定器(テクロック社製,製品名「PG-02」)を使用して測定した値である。
【0110】
ここで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を100質量部(固形分換算値)とした場合の粘着性組成物の各配合(固形分換算値)を表1に示す。なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
[(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)]
BA:アクリル酸n-ブチル
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
4HBA:アクリル酸4-ヒドロキシブチル
AA:アクリル酸
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
MA:アクリル酸メチル
EO9:メトキシ化ポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキシド9モル付加物)
[架橋剤(B)]
XDI:トリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネート(綜研化学社製,製品名「TD-75」)
TDI:トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(トーヨーケム社製,製品名「BHS8515」)
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
【0111】
〔実施例2~8,比較例1~6〕
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する各モノマーの種類および割合、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)、架橋剤(B)の種類および配合量、シランカップリング剤の配合量、ならびに粘着剤層の厚さを表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして粘着シートを製造した。なお、実施例4および比較例1においては、軽剥離型剥離シート上に形成した塗布層の積層数を変更することにより、粘着剤層の厚さを変更した。
【0112】
〔製造例1〕
片面が易接着処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,製品名「PET50A4100」,厚さ:50μm)を基材とし、当該基材の片面(易接着処理されていない平滑面)に、紫外線(UV)硬化性樹脂および反応性シリカを含む組成物(JSR社製,製品名「オプスターZ7530」)をマイヤーバーで塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を70℃で1分間乾燥させた。そして、コンベア型UV光照射装置(フュージョン社製,製品名「F600V」)を用いて、下記条件にて上記塗膜にUVを照射して、当該塗膜を硬化させ、厚さ1μmのアンカーコート層を形成した。
<UV照射条件>
・UVランプ:高圧水銀灯
・ライン速度:20m/分
・積算光量:120mJ/cm
・照度:200mW/cm
・ランプ高さ:104mm
【0113】
次いで、ペルヒドロポリシラザンを主成分とするコーティング材(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製,製品名「AZ-110a-20」)を、上記アンカーコート層の表面にスピンコート法により塗布した。そして、120℃で1分間加熱して、ペルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン層を形成した。形成されたポリシラザン層の厚さは、200nmであった。
【0114】
次に、プラズマイオン注入装置を用いて、上記ポリシラザン層の表面にアルゴン(Ar)をプラズマイオン注入して、改質ポリシラザンからなるガスバリア層を形成した。このようにして、基材(PETフィルム)の片面に改質ポリシラザンからなるガスバリア層を有するガスバリアフィルムを得た。なお、ポリシラザンの改質は、ポリシラザン層の表面から進行する。そのため、改質の程度は、ガスバリア層の表面状態に影響を与えず、したがって、耐屈曲性等に影響しない。
【0115】
〔試験例1〕(ゲル分率の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートを80mm×80mmのサイズに裁断して、その粘着剤層をポリエステル製メッシュ(品名:テトロンメッシュ #200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM1とする。
【0116】
次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着剤を、室温下(23℃)で酢酸エチルに24時間浸漬させた。その後粘着剤を取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(%)は、(M2/M1)×100で表される。結果を表2に示す。
【0117】
〔試験例2〕(貯蔵弾性率(G’)の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層を複数層積層し、厚さ3mmの積層体とした。得られた粘着剤層の積層体から、直径8mmの円柱体(高さ3mm)を打ち抜き、これをサンプルとした。
【0118】
上記サンプルについて、JIS K7244-6に準拠し、粘弾性測定器(REOMETRIC社製,DYNAMIC ANALAYZER)を用いてねじりせん断法により、以下の条件で貯蔵弾性率G’を測定し、-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)、25℃における貯蔵弾性率G’(25)および85℃における貯蔵弾性率G’(85)(MPa)を取得した。結果を表2に示す。
測定周波数:1Hz
測定温度:-20℃~140℃
【0119】
〔試験例3〕(面接着力の測定)
(1)ガスバリアフィルムに対する面接着力
製造例1で作製したガスバリアフィルムを25mm×25mmに裁断し、ガスバリア層が露出面となるように接着剤によりガラス板(厚さ3mm)に固定した。これを試験片として、2枚用意した。
【0120】
実施例および比較例で得られた粘着シートを10mm×10mmに裁断し、その粘着剤層を、上記2枚の試験片の中央部におけるそれぞれのガスバリア層と接するように、当該2枚の試験片により挟持し、貼合した。そして、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置し、これを測定サンプルとした。
【0121】
得られた測定サンプルを、専用の治具を使用して、万能引張試験機(オリエンテック社製,製品名「テンシロンRTA-T-2M」)に対し、ガスバリアフィルムの平面(主面)が地面と水平になるように設置した。そして、固定した一方の試験片から他方の試験片を鉛直方向(ガスバリアフィルムの平面に対する垂直方向)に5mm/minの速度で引き上げて、完全に剥離するまでに測定された最大応力(N/cm)を、面接着力(ガスバリアフィルムに対する面接着力)とした。結果を表2に示す。
【0122】
(2)ポリイミドフィルムに対する面接着力
ポリイミド(PI)フィルム(東レ・デュポン社製,製品名「カプトン 100PI」,厚さ:25μm)を25mm×25mmに裁断し、接着剤によりガラス板(厚さ3mm)に固定した。これを試験片として、2枚用意した。この試験片について、上記(1)と同様にして、面接着力(ポリイミドフィルムに対する面接着力)を測定した。結果を表2に示す。
【0123】
〔試験例4〕(粘着力の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「PET A4300」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、重剥離型剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。得られた積層体を25mm幅、110mm長に裁断した。
【0124】
23℃、50%RHの環境下にて、上記積層体から重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス板(日本板硝子社製,厚さ:1.1mm)の一方の面に貼付し、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。その後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,テンシロン)を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件で、PETフィルムと粘着剤層との積層体を被着体から剥離したときの粘着力(N/25mm)を測定した。ここに記載した以外の条件はJIS Z0237:2009に準拠して、測定を行った。結果を表2に示す。
【0125】
〔試験例5〕(ヘイズ値の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層をガラスに貼合して、これを測定用サンプルとした。ガラスでバックグラウンド測定を行った上で、上記測定用サンプルから重剥離型剥離シートを剥離して粘着剤面を露出させ、23℃の条件にて、JIS K7136:2000に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH-5000」)を用いてヘイズ値(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0126】
〔試験例6〕(L*a*b*の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートの粘着剤層について、同時測光分光式色度計(日本電色工業社製,製品名「SQ2000」)を使用し、CIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*を測定した。結果を表2に示す。
【0127】
〔試験例7〕(繰り返し屈曲性の評価)
23℃、50%RHの環境下にて、実施例および比較例で作製した粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、ポリイミド(PI)フィルム(東レ・デュポン社製,製品名「カプトン 100PI」,厚さ:25μm,ヤング率:3.4GPa)の一方の面に貼合した。次いで、重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、製造例1で作製したガスバリアフィルム(ヤング率:4.2GPa)のガスバリア層面に貼合した。そして、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置した。このようにして得たPIフィルム/粘着剤層/ガスバリアフィルムからなる積層体を、50mm幅、200mm長に裁断し、これをサンプルとした。
【0128】
得られたサンプルを、耐久試験機(ユアサシステム機器社製,製品名「面状体無負荷U字伸縮試験機」)を用いて、以下の条件で繰り返し屈曲させた。その後、屈曲部の状態を目視により確認し、以下の基準により各試験温度における繰り返し屈曲性を評価した。結果を表2に示す。
【0129】
<試験条件>
屈曲方向:PIフィルム側が対向するように屈曲
最小屈曲径:3mmφ
屈曲回数:30000回
試験温度:-20℃,25℃,85℃
<繰り返し屈曲性の評価基準>
◎…屈曲部に線は存在しない。
〇…屈曲部に線が存在し、真正面から見ても当該線の存在は確認できる。
△…屈曲部の一部に、気泡が発生している。
×…屈曲部に浮き・剥がれが発生している。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
表2から分かるように、実施例の粘着シートの粘着剤層は、2つの屈曲性部材を貼合して、低温から高温の各温度下で繰り返し屈曲させたときに、屈曲部に線ができることを抑制することができた。また、実施例の粘着シートの粘着剤層は、無色透明性の程度が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、繰り返し屈曲デバイスを構成する一の屈曲性部材(特にガスバリアフィルムまたはガスバリアフィルムを含む積層体)と他の屈曲性部材とを貼合するのに好適である。
【符号の説明】
【0134】
1…粘着シート
11…粘着剤層
12a,12b…剥離シート
2…繰り返し屈曲積層部材
21…第1の屈曲性部材
22…第2の屈曲性部材
3…繰り返し屈曲デバイス
31…カバーフィルム
32…第1の粘着剤層
33…偏光フィルム
34…第2の粘着剤層
35…タッチセンサーフィルム
36…第3の粘着剤層
37…有機EL素子
38…第4の粘着剤層
39…TFT基板
図1
図2
図3