(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】膜担体及びそれを用いた液体試料検査キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
G01N33/543 521
(21)【出願番号】P 2019510013
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012901
(87)【国際公開番号】W WO2018181540
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2017062945
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017062946
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】青山 周平
(72)【発明者】
【氏名】門田 健次
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-505418(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098740(WO,A1)
【文献】特開2009-241375(JP,A)
【文献】特開2013-053897(JP,A)
【文献】特開2007-024498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 1/00- 1/44
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路と、検知ゾーンと、を備え、
前記流路の底面に微細構造が設けられ、
前記微細構造における
凸部の表面平均粗さが、0.005~10.0μmであり、
前記微細構造の底面の径が5~1000μmである、膜担体。
【請求項2】
流路と、検知ゾーンと、を備え、
前記流路の底面に微細構造が設けられ、
前記検知ゾーンの表面には、炭素原子及び窒素原子の少なくとも一方の原子と酸素原子とが存在しており、前記各原子の原子数の合計に対する前記酸素原子数比(前記酸素原子数/(前記炭素原子数+前記窒素原子数+前記酸素原子数))が0.01~0.50である、膜担体。
【請求項3】
前記微細構造の底面の径が5~1000μmである、請求項2に記載の膜担体。
【請求項4】
前記微細構造の高さが、5~1000μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の膜担体。
【請求項5】
前記微細構造同士の最近接距離が、前記流路内で0~500μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の膜担体。
【請求項6】
前記微細構造のアスペクト比が、0.1~10である、請求項1~5のいずれか一項に記載の膜担体。
【請求項7】
前記膜担体が、液体試料中の被検出物質を検出する検査キット用膜担体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の膜担体。
【請求項8】
前記検知ゾーンが、前記被検出物質を検出した際に色変化を示す、請求項7に記載の膜担体。
【請求項9】
前記被検出物質を検出した際に色変化を生じせしめる検出物質が、前記検知ゾーンに固定されている、請求項7又は8に記載の膜担体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の膜担体を有する液体試料検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜担体及びそれを用いた液体試料検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗原抗体反応等を用いることで、感染症への罹患や妊娠、血糖値等を測定する、Point of Care Test(POCT、臨床現場即時検査)試薬が注目を集めている。POCT試薬は、例えば、被検者の傍らで行われる検査、あるいは被検者自らが行う検査試薬であり、短時間で結果の判別が可能、使用方法が簡便、安価であるといった特徴を有する。これらの特徴から、症状が軽度の段階での診察や定期診察等に多く使用されており、今後増加することが予想される在宅医療においても重要な診察ツールとなっている。
【0003】
多くのPOCT試薬では、血液等の液体試料を検査キットに導入し、その中に含まれる特定の被検出物質を検出することで判定を行っている。液体試料から特定の被検出物質を検出する方法としてイムノクロマトグラフィ法がよく用いられている。イムノクロマトグラフィ法とは、検査キットの膜担体上に滴下された液体が膜担体上を移動する中で、被検出物質と標識物質とが結合し、更に、これらが検査キット中に固定化された物質(以下、検出物質という)と特異的に結合し、その結果生じた色や質量の変化等を検出するという手法である。検出物質は、試薬(reagent)と言い換えてもよい。
【0004】
液体試料を移動させるための膜担体としては、ニトロセルロース膜がよく用いられている(特許文献1)。ニトロセルロース膜は、直径が数μm程度の微細な孔を多数有しており、その孔の中を液体試料が毛細管力によって移動する。
【0005】
しかし、ニトロセルロース膜は天然物由来であり、孔径や孔同士のつながり方が一様ではないため、それぞれの膜で液体サンプルの流れる流速に差異が生じてしまう。流速に差異が生じると、被検出物質を検出するためにかかる時間も変化してしまい、その結果、被検出物質が結合を生じる前に非検出として誤って判断してしまう可能性がある。
【0006】
上記の課題を解決するため、微細流路を人工的に作製した液体試料検査キットが考案されている(特許文献2)。特許文献2は、合成材料を用いることで、均一な構造を有する膜担体を作製することができるため、被検出物質が結合を生じる前に非検出として誤って判断してしまう可能性を低減できる。
【0007】
合成材料を用いた際、検出感度向上のためには、検出物質と材料の親和性を高くする必要があり、予め材料に各種表面処理を行うことが有効と考えられている(特許文献3~4)。特許文献5は、液体試料中の被検出物質を検出する検査キット用の膜担体であって、液体試料を輸送できる少なくとも一つの流路を備え、流路の底面に、液体試料を輸送するための毛細管作用を生じせしめる微細構造が設けられている、液体試料検査キット用膜担体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-062820号公報
【文献】特許第5799395号公報
【文献】特開2013-113633号公報
【文献】米国特許出願公開第2011/0284110号明細書
【文献】国際公開第2016/098740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3~4では、表面処理による材料への影響や、より高感度とするための適正な処理条件を提示できておらず、その結果、系の性能を十分に発揮できていなかった。また、特許文献3~5では、膜担体の微細構造における表面平均粗さ及び検知ゾーンの表面の酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))については記載されていない。
【0010】
本発明は、高感度な判定が可能な膜担体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、以下の通りである。
(1)流路と、検知ゾーンと、を備え、流路の底面に微細構造が設けられ、微細構造における表面平均粗さが、0.005~10.0μmである、膜担体。
(2)流路と、検知ゾーンと、を備え、流路の底面に微細構造が設けられ、検知ゾーンの表面には、炭素原子及び窒素原子の少なくとも一方の原子と酸素原子とが存在しており、各原子の原子数の合計に対する酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))が0.01~0.50である、膜担体。
(3)微細構造の高さが、5~1000μmである、(1)又は(2)に記載の膜担体。
(4)微細構造の底面の径が5~1000μmである、(1)~(3)のいずれかに記載の膜担体。
(5)微細構造同士の最近接距離が、流路内で0~500μmである、(1)~(4)のいずれかに記載の膜担体。
(6)微細構造のアスペクト比が、0.1~10である、(1)~(5)のいずれかに記載の膜担体。
(7)膜担体が、液体試料中の被検出物質を検出する検査キット用膜担体である、(1)~(6)のいずれかに記載の膜担体。
(8)検知ゾーンが、被検出物質を検出した際に色変化を示す、(7)に記載の膜担体。
(9)被検出物質を検出した際に色変化を生じせしめる検出物質が、検知ゾーンに固定されている、(7)又は(8)に記載の膜担体。
(10)
(1)~(9)のいずれかに記載の膜担体を有する液体試料検査キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、高感度な判定が可能な膜担体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による実施形態の一例であり、検査キットの模式的な上面図である。
【
図2】本発明による実施形態の一例であり、膜担体の模式的な上面図である。
【
図3】(a)は、本発明による実施形態の一例であり、微細構造の俯瞰図(上面図)であり、(b)は、(a)に示す微細構造を構成する凸部の斜視図である。
【
図4】(a)は、本発明による実施形態の一例であり、微細構造の俯瞰図(上面図)であり、(b)は、(a)に示す微細構造を構成する凸部の斜視図である。
【
図5】(a)は、本発明による実施形態の一例であり、微細構造の俯瞰図(上面図)であり、(b)は、(a)に示す微細構造を構成する凸部の斜視図である。
【
図6】(a)は、本発明による実施形態の一例であり、微細構造の俯瞰図(上面図)であり、(b)は、(a)に示す微細構造を構成する凸部の斜視図である。
【
図7】本発明による実施形態の一例であり、微細構造の模式的な上面図である。
【
図8】本発明による実施形態の一例であり、表面処理の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明の実施態様は、後述する形態例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0015】
膜担体は、一実施形態において、液体試料中の被検出物質を検出する液体試料検査キット用の膜担体である。
【0016】
ここで、被出検物質は、何ら限定されるものではなく、各種病原体、各種臨床マーカー等、抗体と抗原抗体反応することが可能ないかなる物質であってもよい。被検出物質の具体例としては、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、HAV、HBs、HIV等のウイルス抗原、MRSA、A群溶連菌、B群溶連菌、レジオネラ属菌等の細菌抗原、細菌等が産生する毒素、マイコプラズマ、クラミジア・トラコマティス、ヒト絨毛性ゴナドトロピン等のホルモン、C反応性タンパク質、ミオグロビン、心筋トロポニン、各種腫瘍マーカー、農薬及び環境ホルモン等を例示できるが、これらに限定されるものではない。被検出物質が、特に、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、C反応性タンパク質、ミオグロビン及び心筋トロポニンのような検出と治療措置に急を要する項目の場合にはその有用性が特に大きい。被検出物質は、単独で免疫反応を誘起できる抗原であってもよいし、単独では免疫反応を誘起できないが抗体と抗原抗体反応により結合することが可能なハプテンであってもよい。被検出物質は、通常、液体試料中で浮遊又は溶解した状態にある。液体試料は、例えば、上記被検出物質を緩衝液に浮遊又は溶解させた試料であってよい。
【0017】
本実施形態に係る液体試料検査キット(以下、単に「検査キット」ともいう)は、液体試料中の被検出物質を検出する。
図1は、検査キットの模式的な上面図である。例えば、
図1に示すように、検査キット18は、膜担体3と、膜担体3を収容する筐体18aと、を備える。膜担体3は、その表面に、液体試料が滴下される滴下ゾーン3xと、液体試料中の被検出物質を検出するための検知ゾーン3yと、を有している。滴下ゾーン3xは、筐体18aの第一開口部18bにおいて露出している。検知ゾーン3yは、筐体18aの第二開口部18cにおいて露出している。
【0018】
図2は、膜担体3の模式的な上面図である。
図2に示すように、膜担体3は、液体試料を輸送する少なくとも一つの流路2を備えている。流路2の底面には、微細構造が設けられている(図示せず、詳細は後述)。微細構造は、少なくとも滴下ゾーン3xと検知ゾーン3yとの間に位置する。膜担体3の表面全体にわたり、微細構造が設けられていてもよい。膜担体3の表面全体が、液体試料の流路2であってよい。微細構造は、毛細管作用を生じせしめる。微細構造の毛細管作用により、液体試料は、微細構造を介して、滴下ゾーン3xから検知ゾーン3yへ(輸送方向dに沿って)輸送される。液体試料中の被検出物質が検知ゾーン3yにおいて検出されると、検知ゾーン3yの色が変化する。
【0019】
膜担体3の全体の形状は、特に限定されないが、例えば、四角形等の多角形、円形、又は楕円形であってよい。膜担体3が四角形である場合、膜担体3の縦幅(短手方向の長さ)L1は、例えば、2mm~100mmであってよく、膜担体3の横幅(長手方向の長さ)L2は、例えば、2mm~100mmであってよい。微細構造の高さを除く膜担体の厚みは、例えば、0.1mm~10mmであってよい。
【0020】
図3~6は、それぞれ、本実施形態における、流路の底面に設けられた微細構造及びそれを構成する凸部の一例を示す。
図3~6中、(a)は、それぞれ微細構造の俯瞰図(上面図)であり、(b)は、それぞれ(a)に示す微細構造を構成する凸部の斜視図である。
図3~6に示すように、微細構造7は、凸部8の総体である。つまり、膜担体3は、液体試料の流路2の底面に相当する平坦部9と、平坦部9から突出する複数の凸部8と、を備える。毛細管作用により、複数の凸部8の間の空間が、液体試料を膜担体3の表面に沿って輸送する流路2として機能する。換言すれば、毛細管作用により、微細構造7における空隙が、液体試料を膜担体3の表面に沿って輸送する流路2として機能する。複数の凸部8は、規則的に、又は、並進対称的に、膜担体3の表面上に並んでいてよい。
【0021】
上記の微細構造7を構成する複数の凸部8の形状は、自由に選択することができる。凸部8の形状としては、例えば、円錐、多角錐、円錐台、多角錐台、円柱、多角柱、半球、半楕円体等が挙げられる。微細構造の底面としては、円形又は多角形(例えば、正方形、ひし形、長方形、三角形、若しくは六角形等)等が挙げられる。例えば、
図3に示すように、凸部8aの形状は、円錐であってよい。例えば、
図4に示すように、凸部8bの形状は、四角錐であってもよい。例えば、
図5に示すように、凸部8cの形状は、六角錐であってもよい。例えば、
図6に示すように、凸部8dの形状は、四角柱(凸部8dがライン状であるライン&スペース構造)であってもよい。微細構造7を俯瞰した(上面から見た)際に膜担体3の全表面を視認でき、被検出物質が検出された際の色変化を光学的手法で確認しやすい点で、これらの中では、円錐や多角錐等の錐体構造が凸部8の形状として適している。錐体構造の中では、円錐が好ましい。
【0022】
微細構造7を構成する凸部8の形状は、幾何学的に正確な形状である必要はなく、角部が丸みを帯びている形状や表面に微細な凹凸が存在する形状等であってもよい。
【0023】
上記微細構造7を構成する凸部8の底面10の径4は、好ましくは5μm以上1000μm以下であり、より好ましくは10μm以上500μm以下である。凸部8の底面10の径4が5μm以上である場合、微細加工の精度を低く抑えることができ、微細構造7を形成するためのコストが安くなりやすい。凸部8の底面10の径4が1000μm以下である場合、一つの検査キット内の凸部8の数が多くなり、液体試料を展開しやすくなる。
【0024】
凸部8の底面10の径4は、凸部8の底面10における代表長さとして定義される。底面10における代表長さは、底面10の形状が円の場合は直径、三角形又は四角形の場合は最も短い一辺の長さ、五角形以上の多角形の場合は最も長い対角線の長さ、それ以外の形状の場合は底面10における最大の長さとする。
【0025】
図3に示すように、凸部8aの形状が円錐である場合、凸部8aの底面10aの径4aは、円錐の底面(円)の直径である。
図4に示すように、凸部8bの形状が正四角錐である場合、凸部8bの底面10bの径4bは、底面(正四角形)10bの辺の長さである。
図5に示すように、凸部8cの形状が正六角錐である場合、凸部8cの底面10cの径4cは、底面(正六角形)10cの中心を通る対角線の長さ(最も長い対角線の長さ)である。
図6に示すように、凸部8dの長方形である場合、凸部8dの底面10dの径4dは、底面(長方形)10dの最も短い一辺の長さ(
図6では、液体試料の輸送方向dと直交する方向の長さ)である。
【0026】
上記微細構造7を構成する凸部8の高さ6は、好ましくは5μm~1000μmであり、より好ましくは10μm~500μmである。凸部8の高さ6が5μm以上である場合、流路2の体積が大きくなり、液体試料がより短時間で展開可能となる。凸部8の高さ6が1000μm以下である場合、微細構造7を作製する時間とコストを低減でき、微細構造7の作製がより容易となる。
【0027】
凸部8の高さ6は、平坦部9に直交する方向における凸部8の最大長さとして定義される。
図3に示すように、凸部8aの形状が円錐である場合、凸部8aの高さ6aは、平坦部9に直交する方向における凸部8aの最大長さ(円錐の高さ)である。
図4に示すように、凸部8bの形状が四角錐である場合、凸部8bの高さ6bは、平坦部9に直交する方向における凸部8bの最大長さ(四角錐の高さ)である。
図5に示すように、凸部8cの形状が六角錐である場合、凸部8cの高さ6cは、平坦部9に直交する方向における凸部8cの最大長さ(六角錐の高さ)である。
図6に示すように、凸部8dの形状が四角柱である場合、凸部8dの高さ6dは、平坦部9に直交する方向における凸部8dの最大長さ(四角柱の高さ)である。
【0028】
上記微細構造7を構成する凸部8同士の最近接距離5は、0~500μmが好ましい。好ましくは500μm以下、より好ましくは2μm以上100μm以下である。凸部8同士の最近接距離5は、0μmより小さいことは有りえず、500μm以下である場合、液体試料と流路2との接触面積が増大し、これにより毛細管力が増大するため液体試料を移動させることがより容易になる。ここで、「凸部8同士の最近接距離」とは、隣り合う一対の凸部8の最近接距離である。
【0029】
上記微細構造7を構成する凸部8のアスペクト比は、0.1~10が好ましく、0.1~2.0がより好ましい。ここで言うアスペクト比とは、凸部8の高さ6(Lh)を、凸部8の底面10の代表長さ(径4)(Lv)で割った値(Lh/Lv)である。アスペクト比が0.1以上である場合、液体試料と流路2との接触面積が増大し、これにより毛細管力が増大するため液体試料を移動させることがより容易になる。アスペクト比が10以下である場合、微細構造の作製がより容易になる。
【0030】
本実施形態の液体試料検査キット18の微細構造7及び膜担体3は、熱可塑性プラスチックからなっていてよい。換言すれば、熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材を加工することにより、微細構造7を有する膜担体3を作製することができる。
【0031】
加工方法としては、例えば、熱インプリント、UVインプリント、射出成型、エッチング、フォトリソグラフィー、機械切削、レーザー加工等が挙げられる。この中でも安価に精密な加工を施す手法として、熱可塑性プラスチックに対する熱インプリントが適している。熱可塑性プラスチックとしてはポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂及びアクリル系樹脂等が挙げられ、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレン(PE)等様々な種類のものを用いることができる。
【0032】
インプリントや射出成型といった金型を用いた加工方法の場合、錐体は、底面に比べ上部が細くなっているため、同底面の柱体を作製するよりも金型作製時に削り出す体積は少なくて済み、金型を安価に作製することができる。この場合、液体試料中の被検出物質の検出をより安価に行うことが可能となる。
【0033】
以上説明したとおり、膜担体3は、膜担体3の一面上に設けられた微細構造7と、微細構造7により形成された、液体試料を輸送する流路2と、液体試料中の被検出物質を検出するための検知ゾーン(検出部)3yと、を備えている。膜担体3は、液体試料中の被検出物質を検出する液体試料検査キット18用の膜担体3であってよい。
【0034】
一実施形態において、膜担体3の微細構造7における表面平均粗さ(Ra)は、0.005~10.0μmである。膜担体3の微細構造7における表面平均粗さは0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましく、1μm以上が更により好ましい。膜担体3の表面平均粗さは、10μm以下、5μm以下、1μm以下、又は、0.1μm以下であってもよい。膜担体3の微細構造7における表面平均粗さ(Ra)とは、凸部8の表面平均粗さを意味し、JIS B0601:2013で規定された定義を用いるものとする。膜担体3の微細構造7における表面平均粗さは、膜担体3の微細構造7における凸部8の表面平均粗さと言い換えることもできる。
【0035】
膜担体3では、平坦部9の表面平均粗さ(Ra)は、0.005~10.0μmであってよい。平坦部9の表面平均粗さは、上記膜担体の平均粗さとして例示した値であってもよい。平坦部9の表面平均粗さ(Ra)は、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましく、2μm以下が更により好ましい。
【0036】
図7は、微細構造7における凸部8の表面平均粗さの測定方法を説明するための図である。凸部8の頂点中心部(例えば、凸部中心19)を中心点として凸部8の表面に沿って(上面からみたときに直線20に沿って)凹凸プロファイルを測定する。直線20は、頂点中心部(例えば、凸部中心19)を中心点とし、長さ20dの任意の一本の直線である。長さ20dは、凸部8の底面の径と同じ長さである。直線20が同一平面上の直線である場合(例えば両端及び中心が同一平面上にある場合)、すなわち凸部8が円錐台、多角錐台、円柱、多角柱等の形状である場合、凹凸プロファイルよりJIS B0601で規定された表面平均粗さ(Ra)を算出する。直線20が同一平面上の直線ではない場合、すなわち凸部8が円錐、多角錐、半球、半楕円体等の形状である場合、凹凸プロファイルより傾き補正を施し、平面としてJIS B0601で規定された表面平均粗さ(Ra)を算出する。
【0037】
膜担体3の微細構造7における表面平均粗さは、熱インプリントにより微細構造7を有する膜担体3を作製する際には、例えば、エッチング、フォトリソグラフィー、機械切削、レーザー加工等により、上記数値範囲内に調整することができる。特に、熱インプリントに使用される金型(モールド)表面の表面平均粗さを所定の値にすることにより、膜担体3の微細構造7における表面平均粗さを調整することが好ましい。例えば、金型(モールド)の表面を、エッチング、フォトリソグラフィー、機械切削、研磨加工、レーザー加工等により、膜担体3の微細構造7における表面平均粗さを調整することが好ましい。研磨加工としては、ダイシング、サンドブラスト等による切削が挙げられる。レーザー加工は、レーザーの出力を制御することにより、表面平均粗さを調整できる。
【0038】
すなわち、本実施形態に係る検査キット18の製造方法は、熱インプリントにより微細構造7を有する膜担体3を作製する工程(熱インプリント工程)を備えることが好ましい。熱インプリント工程では、複数の凹部が形成された金型(モールド)の表面を、例えば、熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材に当てて、且つ基材を加熱することにより、凹部の形状に対応する微細構造7(複数の凸部8)と平坦部9とを有する膜担体3が形成される。
【0039】
一実施形態において、検知ゾーンの表面には、炭素原子及び窒素原子の少なくとも一方の原子と酸素原子とが存在している。
【0040】
各原子の原子数の合計に対する酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))は、0.01~0.50である。一実施形態の膜担体において、検知ゾーンの表面の酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))は、0.01以上であり、0.05以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.20以上が更に好ましい。一実施形態の膜担体において、検知ゾーンの表面の酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))は、0.50以下であり、0.40以下が好ましく、0.38以下がより好ましく、0.36以下が更に好ましく、0.30以下が更により好ましく、0.10以下が更によりまた好ましい。検知ゾーンの表面の酸素原子数比が高くなる程、検出物質が表面に固着しやすくなる。検出物質が表面に固着することにより、液体試料を展開した際に流されてしまう検出物質を減らし、高感度な検査が可能となる。検知ゾーンの表面の酸素原子数比が0.50以下であると、被検出物質を含まない溶液を展開した際の、標識物質と検出物質との反応による誤検出の発生がより抑制される。
【0041】
検知ゾーンの表面の酸素原子数比は、X線電子分光分析(XPS)により算出される。XPSによる酸素原子数比の算出について以下に記す。測定により得られたスペクトルの結合エネルギー補正をC1sスペクトルにおけるC-C結合で行う。結合エネルギー補正を行ったスペクトルのC1sスペクトル、N1sスペクトル、O1sスペクトルの各ピークについて、バックグラウンド(BG)を差し引く。各ピークよりBGを差し引いて算出された各原子のピーク面積(信号強度)を補正係数(相対感度係数、透過関数、及び運動エネルギー補正)で割り算し、補正後の面積の合計が100になるように計算した。得られた各値をそれぞれ炭素原子数、窒素原子数、酸素原子数とし、酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))を算出する。
【0042】
検知ゾーンの表面の酸素原子数比は、検知ゾーンの表面を表面処理することにより、上記範囲内に調整することができる。表面処理の方法としては、何ら限定されるものではなく、例えば各種プラズマ処理、コロナ処理、UV照射、UV/オゾン処理、3-AminopropyltriethoxysilaneやGlutaraldehydeによる表面修飾等種々の手法を用いることができる。
【0043】
表面処理は検知ゾーンのみに行うことが好ましい。検知ゾーンのみに行うことで、流路内の非検知ゾーン(検知ゾーン以外の領域)では検出物質が固着せず、検知ゾーンのみに高い効率で検出物質を固着できる。その結果、検知ゾーンにおいて検出シグナルを認識しやすくなる(S/N比が高くなる)。
【0044】
検知ゾーンの表面を選択的に表面処理して、検知ゾーンの表面を改質させる方法としては、検知ゾーン以外の箇所を遮へい可能なマスク(遮へい物)で被覆し、露出させた検知ゾーンに対して、表面処理を施す方法が挙げられる。
図8は、検知ゾーンの表面を選択的に表面処理する方法を説明するための図である。空隙部を有する遮へい物14を、膜担体3上に配置して、検知ゾーン(表面処理部)を露出させる。膜担体3のうち遮へい物14で覆った部分は未処理部(非検知ゾーン)15となる。遮へい物14としては、金属板が好ましい。露出させた箇所を表面処理することにより、検知ゾーンの表面の酸素原子数比が上記範囲内である膜担体3を得る。
【0045】
上記実施形態において、膜担体の材料としては、表面の酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))が0.01未満の樹脂を用いることが好ましく、0.005以下の樹脂を用いることがより好ましい。表面の酸素原子数比が0.01未満の樹脂は、主成分の構造式に酸素原子を含まない樹脂であり、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッ素系樹脂等の炭素原子を含み、窒素原子及び酸素原子を含まない樹脂であってよい。このような樹脂として、具体的には、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。表面の酸素原子数比が0.01未満の樹脂は、ポリイミド樹脂等の炭素原子及び窒素原子を含む、酸素原子を含まない樹脂であってよい。炭素原子を含み、窒素原子及び酸素原子を含まない樹脂を用いる場合、検知ゾーンの酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))は、酸素原子数/(炭素原子数+酸素原子数)の値と実質的に等しくなる。
【0046】
表面の酸素原子数比が0.005以下である場合、膜担体を作製し、作製した膜担体を用いて検査キットを作製し、液体試料を展開した際の、非検知ゾーンにおける標識物質の付着がより抑制される。非検知ゾーンで標識物質が付着すると、検知ゾーンにおいて同強度のシグナルが生じていても、認識しにくくなる(S/N比が低くなる)。
【0047】
本実施形態に係る液体試料検査キット18では、膜担体3が有する検知ゾーン3yが、被検出物質を検出した際に色変化を示す。色変化は、光学的手法で確認可能な色変化であってよい。
【0048】
上記光学的手法としては、主に目視による判定と蛍光強度を測定する手法の2つが挙げられる。目視によって判定する場合には、検知前と検知後の色をCIE1976L*a*b*色空間の表色系で測定した際の、2つの色刺激間の色差(JIS Z8781-4:2013に記載のΔE)が0.5以上となるような色変化が生じることが好ましい。この色差が0.5以上であると、色の違いを目視で確認することが容易になる。蛍光強度を測定して判定する場合には、検知ゾーン3yでの蛍光強度(Fl1)と、検知ゾーン3yに隣接する上流域および下流域での蛍光強度(Fl2)との比(Fl1/Fl2)=10/1以上となるような色変化が生じることが好ましい。この比が10/1以上であると、シグナルとノイズの分離が容易になる。
【0049】
本実施形態の液体試料検査キット18に検知ゾーン3yを作製するためには、一実施形態において、流路2の少なくとも一部に、検出物質が固定化されている。つまり、検知ゾーン3yには、被検出物質を検出する検出物質が固定されている。検知ゾーン3yにおける色変化は、被検出物質が検出物質により(検出物質と反応して)検知ゾーン3yに保持されることによって生じる。
【0050】
言い換えれば、液体試料検査キット18の製造方法は、検知ゾーン3yに、被検出物質を検知ゾーン3yに保持することによって色変化を生じせしめる検出物質を固定する工程を備えている。検知ゾーン3yに検出物質(試薬)をより効率よく固定化できる点から、膜担体3における検知ゾーン3yを設ける箇所に予め表面処理を施していてよい。表面処理の方法としては、上記例示した方法を用いることができる。
【0051】
本実施形態において、上記検出物質(試薬)としては、例えば、抗体が挙げられる。抗体は、被検出物質と抗原抗体反応する抗体であり、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
【0052】
検知ゾーン3yにおける色変化は、液体試料中の被検出物質と特異的に反応する抗体又はその抗原結合性断片を有する標識体によって生じるものであってよい。色変化は、例えば、標識体が、検出物質により(検出物質と反応(結合)して)検知ゾーン3yに保持されて呈色することによって生じる。
【0053】
標識体は、例えば、コロイド粒子、ラテックス粒子等の粒子に上記抗体又はその抗原結合性断片が結合したものであってよい。抗原結合性断片とは、被検出物質と特異的に結合することができる断片をいい、例えば、抗体の抗原結合性断片をいう。標識体は、抗体又はその抗原結合性断片を介して被検出物質に結合することができる。粒子は、磁性又は蛍光発光性を有してもよい。コロイド粒子としては、金コロイド粒子、白金コロイド粒子の金属コロイド粒子等が挙げられる。粒子は、粒径制御、分散安定性及び結合容易性の点で、好ましくはラテックス粒子である。ラテックス粒子の材料としては特に限定されないが、ポリスチレンが好ましい。
【0054】
粒子は、視認性の点で、好ましくは着色粒子又は蛍光粒子であり、より好ましくは着色粒子である。着色粒子は、肉眼で色が検出可能なものであればよい。蛍光粒子は、蛍光物質を含有すればよい。粒子は、着色ラテックス粒子又は蛍光ラテックス粒子であってよい。粒子が着色ラテックス粒子である場合、上述の色変化が、目視により好適に判定される。また、粒子が蛍光ラテックス粒子である場合、上述の色変化が、蛍光強度の測定により好適に判定される。
【0055】
上述したような標識体が、滴下される液体試料中の被検出物質と反応し得るように、検査キット18の少なくとも一部に設けられている。標識体は、例えば、検査キット18中の部材に設けられていてよく、膜担体3の流路2の少なくとも一部(検知ゾーン3yより上流側)に設けられていてよい。そして、被検出物質と反応(結合)した標識体は、検出物質により(検出物質が被検出物質と反応(結合)することにより)検知ゾーン3yに保持される。これにより、検知ゾーン3yにおける色変化(標識体による呈色)が生じる。
【0056】
本実施形態の一側面に係る液体試料の検査方法は、検査キット18を用いる検査方法である。
【0057】
検査キット18を用いる、液体試料の検査方法は、液体試料と、液体試料中の被検出物質と特異的に結合する標識体とを混合して混合液体試料(混合済み液体試料)を調製し、被検出物質と標識体とを互いに結合させる工程と、混合液体試料を膜担体3に設けられた滴下ゾーン3xに滴下する工程と、微細構造7により、混合液体試料を滴下ゾーン3xから検知ゾーン3yへ輸送する工程と、検知ゾーン3yにおける色変化(標識体の呈色)を検知する工程と、を備えてよい。
【0058】
また、例えば、上記検査方法は、液体試料を、膜担体3の表面のうち滴下ゾーン3xに滴下する工程と、膜担体3の表面に形成されている微細構造7(複数の凸部8)が奏する毛細管作用により、微細構造7を介して、液体試料を滴下ゾーン3xから検知ゾーン3yへ輸送する工程と、輸送過程において、液体試料中の被検出物質を、上記の抗体又はその抗原結合性断片を介して標識体と結合させ、更に、被検出物質を、検知ゾーン3yに固定された試薬と結合させて、検知ゾーン3yにおける色変化を検知する(色変化の有無を光学的に判定する)工程と、を備えてよい。
【0059】
上記の検査方法の被検出物質と標識体とを互いに結合させる工程では、液体試料と標識体とを混合する方法は特に制限されない。例えば標識体の入れられた容器に液体試料を添加する方法でもよいし、例えば標識体をふくむ液体と液体試料とを混合してもよい。また例えば液体試料の入れられた容器の滴下口にフィルターを挟み、そのフィルター中に標識体を固定化していてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本実施形態を実施例及び比較例を挙げて本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1-1]
<膜担体の準備>
ポリスチレンシート(デンカ株式会社製デンカスチレンシート、膜厚300μm)に熱インプリントを施し、微細構造(凸部)の底面の径(以下、「凸部の径」又は、「径」ということもある)10μm、微細構造(凸部)の高さ(以下、「高さ」ということもある)10μmの円錐型の凸部8が、微細構造同士の最近接距離を5μmとして
図3のような三角配列形式で並んだ表面平均粗さ0.102μmの膜担体を作製した。表面平均粗さは、金型(モールド)の表面にサンドブラスト処理を施すことにより、所定の値にした。表1及び2の表面平均粗さは、微細構造における表面平均粗さ(凸部の表面平均粗さ)の値を示した。表面平均粗さの測定には三次元粗さ解析電子顕微鏡(株式会社エリオニクス製ERA-600)を用いた(
図7参照)。円錐型の凸部8を任意に3個選んだ。3個の凸部8について、凸部8の頂点中心部(凸部の中心点19)を中心点とした、長さ20dが10μmである直線20の凹凸プロファイルをそれぞれ測定した。3本の直線20の凹凸プロファイルに傾き補正を施し、平面としてJIS B0601で規定された表面平均粗さ(Ra)をそれぞれ算出した。得られた3つのデータを平均した値を評価値とした。
【0062】
<検知ゾーン(検出部)の作製>
上記のように作製した膜担体の微細構造の端から0.7~1.0cmの部分にのみエネルギー照射できるように金属板でマスクした後、UVを照射した。金属板は、0.7~1.0cmの部分に空隙を設け、膜担体を露出させた。マスクする方法としては、膜担体に金属板を配置する方法を用いた。このようにして、表面処理した膜担体3を得た。
図8において、0.7~1.0cmの部分は検知ゾーン3y(表面処理部)、金属板は遮へい物14に相当する。
【0063】
<検出物質のセット>
上記のようにUV処理を施した部分に、抗A型インフルエンザNP抗体浮遊液、並びに抗B型インフルエンザNP抗体浮遊液を線幅1mmで塗布し(塗布量3μL)、温風下で良く乾燥させた。このようにして、抗A型インフルエンザNP抗体、並びに抗B型インフルエンザNP抗体を検知ゾーン3yに固定した。
【0064】
<標識物質のセット>
精製抗A型インフルエンザウイルスNP抗体(上記と別の抗体)及び精製抗B型インフルエンザウイルスNP抗体(上記と別の抗体)を使用した。抗A型インフルエンザウイルスNP抗体に粒子径0.394μmの赤色ラテックス粒子(CM/BL セラダイン製)を共有結合で標識し、糖、界面活性剤及びタンパク質を含むトリス緩衝液にラテックス粒子の濃度が0.025w/v%になるように懸濁し、超音波処理を行って充分に分散浮遊させた抗A型標識体を調製した。同様に抗B型インフルエンザウイルスNP抗体に青色ラテックス粒子(CM/BL セラダイン製)を標識した抗B型標識体を調製した。
【0065】
抗A型標識体と抗B型標識体とを混合し、混合液を調製した。大きさが3cm×1cmのガラス繊維(33GLASS NO.10539766 Schleicher&Schuell製)に1平方センチメートルあたり50μLになる量の混合液を塗布し、温風下で良く乾燥させ、標識体パッドを作製した。その後、上記のように作製した膜担体(表面処理した膜担体3に相当)の検知ゾーン13yに近い方の端部に、標識物質パッドを重ねた。標識物質パッドが重なる膜担体の幅(端部の幅)は2mmであった。標識物質パッドが重なる膜担体を、幅5mmの短冊状にカッターで裁断して、一体化された膜担体及び標識物質パッドから構成される液体サンプル検査キットを作製した。
【0066】
上記のように作製された液体試料検査キットの端部に、液体試料(液体サンプル)を100μL滴下した。液体試料が滴下された液体試料検査キットの端部は、検知ゾーンに近いほうの端部であった。液体サンプルは、希釈溶液としてデンカ生研社製クイックナビ―Fluに付属している検体浮遊液を用い、A型インフルエンザウイルス A/Beijing/32/92(H3N2)を2×104倍に希釈したものと、B型インフルエンザウイルス B/Shangdong/7/97を2×103倍に希釈したものの2種を用いた。
【0067】
検出の判定は、液体試料滴下15分経過後に検知ゾーン(A型インフルエンザウイルス検出部並びにB型インフルエンザウイルス検出部)の着色ライン(抗A型インフルエンザNP抗体並びに抗B型インフルエンザNP抗体を固定した部分)の有無を目視により観察して行った。滴下後の液体試料が検査キット上で移動する様子を平均流速により確認し、液体サンプルの移動の有無を確認した。平均流速は、液体試料を液体試料検査キットの端部に滴下し液体試料が膜担体に流れ出してから、検知ゾーンの着色ラインに到達するまでの時間より算出した。
【0068】
判定の結果、A/Beijing/32/92(H3N2)を2×104倍に希釈したものを用いた場合はA型検知ゾーンのみに色の変化が確認でき、B/Shangdong/7/97を2×103倍に希釈したものを用いた場合はB型検知ゾーンのみに色の変化が確認できた。
【0069】
次いで、A型インフルエンザウイルス A/Beijing/32/92(H3N2)の希釈倍率を2×104から大きくしていった際、試験開始15分後に着色ラインの有無を目視できなくなる倍率を求め、A型目視判定可能な限界倍率とした。次いで、B型インフルエンザウイルスB/Shangdong/7/97の希釈倍率を2×103から大きくしていった際に、着色ラインの有無を目視できなくなる倍率を求め、B型目視判定可能な限界倍率とした。
【0070】
[実施例1-2]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ0.094μmとした以外は、実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0071】
[実施例1-3]
実施例1-1における微細構造を、径が500μm、高さが500μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ0.109μmとした以外は実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0072】
[実施例1-4]
実施例1-1における微細構造を、径が1000μm、高さが100μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ0.121μmとした以外は、実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0073】
[実施例1-5]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが10μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ0.094μmとした以外は、実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0074】
[実施例1-6]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが200μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ0.120μmとした以外は、実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0075】
[実施例1-7]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ0.048μmとした以外は、実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0076】
[実施例1-8]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ0.015μmとした以外は、実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0077】
[実施例1-9]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ0.27μmとした以外は、実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0078】
[実施例1-10]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ6.8μmとした以外は実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0079】
[実施例1-11]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部、微細構造同士の最近接距離を100μm、表面平均粗さ0.095μmとした以外は、実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0080】
[実施例1-12]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部とし、微細構造同士の最近接距離を500μm、表面平均粗さ0.058μmとした以外は実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0081】
[比較例1-1]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ0.002μmとした以外は、実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0082】
[比較例1-2]
実施例1-1における微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部、表面平均粗さ17μmとした以外は、実施例1-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0083】
上記実施例1-1~1-12及び比較例1-1~1-2で得られた液体サンプル検査膜担体、及び液体サンプル検査キットの評価結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
表1の結果から、本実施形態による液体試料検査キットは、流路中の微細構造の高さ、微細構造の径、微細構造同士の最近接距離、アスペクト比を適切な範囲の値とすることで、毛細管流れを生じさせることが示された。微細構造における表面平均粗さを適切な範囲の値とすることで、検知ゾーンの抗体担持量を増加させ、検出物質を高感度に検出できることが示された。
【0086】
[実施例1-13~1-24]
用いる粒子を着色ラテックス粒子から蛍光ラテックス粒子(micromer-F 蛍光ラテックス粒子 材料ポリスチレン コアフロント社製)に変更し、試験開始10分後に着色ラインの有無をイムノクロマトリーダ(C11787 浜松ホトニクス株式会社製)で読み取りできなくなる倍率(蛍光判定可能な限界倍率)、即ち、S/N比が10以下を示す倍率を求めた。微細構造の径、微細構造の最近接距離、微細構造の高さ、アスペクト比は、表2に示す値にした。これ以外の内容は実施例1-1~1-12と同様に行った。
【0087】
上記実施例1-13~1-24で得られた液体試料検査キット用膜担体、液体試料検査キットの評価結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
本実施形態は、膜担体表面の表面平均粗さを制御することにより、担持できる検出物質の量を増やすことができ、検出感度を向上できる。
【0090】
本実施形態は、被検出物質が検出されたことを光学的に検出可能なイムノクロマトグラフィ法において、材料の表面平均粗さをコントロールすることで、検知ゾーンのシグナルを増強させ、高感度な判定が可能な液体試料検査キットを提供する。
【0091】
[実施例2-1]
<膜担体の準備>
ポリスチレンシート(デンカ株式会社製デンカスチレンシート、膜厚300μm)に熱インプリントを施し、微細構造の底面の径(以下、微細構造の径や、径ということもある)10μm、微細構造の高さ(以下、高さということもある)10μmの円錐型の凸部8が、微細構造同士の最近接距離を5μmとして
図3のような三角配列形式で並んだ膜担体3を作製した。作製した膜担体の微細構造の端から0.7~1.0cmの部分にのみエネルギー照射できるように金属板でマスクした後、UVを照射し、酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))0.35の膜担体を作製した。UV処理時に、UVの光量、強度、波長、照射時間、UV照射エネルギーを変更することにより、酸素原子数比を調整した。
【0092】
金属板は、0.7~1.0cmの部分に空隙を設け、膜担体を露出させた。マスクする方法としては、膜担体に金属板を配置する方法を用いた。このようにして、表面処理した膜担体3を得た。
図8において、0.7~1.0cmの部分は検知ゾーン3y、金属板は遮へい物14に相当する。
【0093】
<酸素原子数比の算出>
各原子の半定量値をXPSにより求めた。測定装置はThermo SCIENTIFIC社製、K-ALPHAを用いた。測定条件について、X線源としてモノクロメータ付きAl-Kα線、帯電中和は低速電子と低速Ar+イオンの同軸照射型のデュアルビーム、検出角度は90°、出力:36W、測定領域は約400μm×200μm、パスエネルギーは50eV、データは0.1eV/step、50msecの条件下で取り込み、積算回数5回、測定範囲は以下にて行った。炭素C1sスペクトル:279~298eV、酸素O1sスペクトル:525~545eV、窒素N1sスペクトル:392~410eV。得られたスペクトルの結合エネルギー補正をC1sスペクトルにおけるC-C結合(284.8eV)で行った。結合エネルギー補正を行った上記記載のスペクトルについて、以下の範囲にてShirley法を用いてバックグラウンド(BG)を引いて、下記のように修正した。炭素C1sスペクトル:281~292eV、酸素O1sスペクトル:526~536eV、窒素N1sスペクトル:395~403eV。上記測定範囲にて得られたピークよりBGを差し引いて算出された各原子のピーク面積(信号強度)を補正係数(相対感度係数、透過関数、運動エネルギー補正)で割り算し、補正後の面積の合計が100になるように計算した。得られた各値をそれぞれ炭素原子数、窒素原子数、酸素原子数とし、酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))を算出した。
【0094】
<検出物質のセット>
膜担体の表面処理を施した部分(検知ゾーン3yに相当)に、抗A型インフルエンザNP抗体の浮遊液、並びに、抗B型インフルエンザNP抗体の浮遊液を線幅1mmで塗布し(塗布量3μL)、温風下で良く乾燥させた。このようにして、抗A型インフルエンザNP抗体、並びに抗B型インフルエンザNP抗体を検知ゾーン3yに固定した。
【0095】
<標識物質のセット>
精製抗A型インフルエンザウイルスNP抗体(上記と別の抗体)及び精製抗B型インフルエンザウイルスNP抗体(上記と別の抗体)を使用した。抗A型インフルエンザウイルスNP抗体に粒子径0.394μmの赤色ラテックス粒子(CM/BL セラダイン製)を共有結合で標識し、糖、界面活性剤及びタンパク質を含むトリス緩衝液にラテックス粒子の濃度が0.025w/v%になるように懸濁し、超音波処理を行って充分に分散浮遊させた抗A型標識体を調製した。同様に抗B型インフルエンザウイルスNP抗体に青色ラテックス粒子(CM/BL セラダイン製)を標識した抗B型標識体を調製した。
【0096】
抗A型標識体と抗B型標識体とを混合し、混合液を調製した。大きさが3cm×1cmのガラス繊維(33GLASS NO.10539766 Schleicher&Schuell製)に1平方センチメートルあたり50μLになる量の混合液を塗布し、温風下で良く乾燥させ、標識体パッドを作製した。その後、上記のように作製した膜担体(表面処理した膜担体3に相当)の、検知ゾーン3yに近い方の端部に、標識物質パッドを重ねた。標識物質パッドが重なる膜担体の幅(端部の幅)は2mmであった。標識物質パッドが重なる膜担体を、幅5mmの短冊状にカッターで裁断して、一体化された膜担体及び標識物質パッドから構成される液体試料検査キットを作製した。
【0097】
上記のように作製された液体試料検査キットの端部に、液体試料(液体サンプル)を100μL滴下した。液体試料が滴下された液体試料検査キットの端部は、検知ゾーンに近いほうの端部であった。液体試料は、以下のように2種を調製した。検出物質として、A型インフルエンザウイルス A/Beijing/32/92(H3N2)と、B型インフルエンザウイルス B/Shangdong/7/97と、を用いた。希釈溶液としてデンカ生研株式会社製クイックナビ―Fluに付属している検体浮遊液を用いた。A型インフルエンザウイルス A/Beijing/32/92(H3N2)を検体浮遊液で2×104倍に希釈したものを液体試料Aとした。B型インフルエンザウイルス B/Shangdong/7/97を検体浮遊液で2×103倍に希釈したものを液体試料Bとした。液体試料Aと液体試料Bはそれぞれ個別に滴下した。
【0098】
検出の判定は、液体試料滴下15分経過後に検知ゾーン(A型インフルエンザウイルス検出部並びにB型インフルエンザウイルス検出部)の着色ライン(抗A型インフルエンザNP抗体並びに抗B型インフルエンザNP抗体を固定した部分)の有無を目視により観察して行った。滴下後の液体試料が検査キット上で移動する様子を目視し、液体試料の移動の有無を確認した。
【0099】
判定の結果、A/Beijing/32/92(H3N2)を2×104倍に希釈したものを用いた場合はA型検知ゾーンのみに色の変化が確認でき、B/Shangdong/7/97を2×103倍に希釈したものを用いた場合はB型検知ゾーンのみに色の変化が確認できた。
【0100】
次いで、A型インフルエンザウイルス A/Beijing/32/92(H3N2)の希釈倍率を2×104から大きくしていった際、試験開始15分後に着色ラインの有無を目視できなくなる倍率を求めた。次いで、B型インフルエンザウイルスB/Shangdong/7/97の希釈倍率を2×103から大きくしていった際に、着色ラインの有無を目視できなくなる倍率を求めた。
【0101】
[実施例2-2]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0102】
[実施例2-3]
実施例2-1の微細構造を、径が500μm、高さが500μmの円錐型の凸部とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0103】
[実施例2-4]
実施例2-1の微細構造を、径が1000μm、高さが100μmの円錐型の凸部とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体サンプル検査キットを作製した。
【0104】
[実施例2-5]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが10μmの円錐型の凸部とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体試料検査キットを作製した。
【0105】
[実施例2-6]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが200μmの円錐型の凸部とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体試料検査キットを作製した。
【0106】
[実施例2-7]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部とし、酸素原子数比を0.12とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体試料検査キットを作製した。
【0107】
[実施例2-8]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部とし、酸素原子数比を0.05とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体試料検査キットを作製した。
【0108】
[実施例2-9]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部とし、酸素原子数比を0.01とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体試料検査キットを作製した。
【0109】
[実施例2-10]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部とし、微細構造同士の最近接距離を100μmとした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体試料検査キットを作製した。
【0110】
[実施例2-11]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部とし、微細構造同士の最近接距離を500μmとした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体試料検査キットを作製した。
【0111】
[実施例2-12]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部とし、酸素原子数比を0.50とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体試料検査キットを作製した。
【0112】
[比較例2-1]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部とし、UV照射を行なわず酸素原子数比を0.005とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体試料検査キットを作製した。
【0113】
上記実施例2-1~2-12及び比較例2-1で得られた液体試料検査キット用膜担体、液体試料検査キットの評価結果を表3に示す。
【0114】
【0115】
[比較例2-2]
実施例2-1の微細構造を、径が100μm、高さが100μmの円錐型の凸部とし、酸素原子数比を0.50とした以外は、実施例2-1と同様の条件で液体試料検査キットを作製した。
【0116】
上記比較例2-2で得られた液体試料検査膜担体の評価結果を表4に示す。液体試料として、ウイルスを含まない液体試料を使用した。実施例2-2、実施例2-12についても同様に実施した。
【0117】
【0118】
表3~4の結果から、本実施形態による液体試料検査キットは、毛細管流れを生じさせることが示された。本実施形態は、酸素原子数比を適切な範囲の値とすることで、検出物質を高感度に検出でき、誤検出の可能性が小さいことが示された(例えば、実施例2-2と実施例2-7~2-9と実施例2-12を参照)。本実施形態は、流路中の微細構造の高さを適切な範囲の値とすることで、検出物質を高感度に検出できることが示された(例えば、実施例2-2と実施例2-4を参照)。酸素原子数比が小さいと、高感度な判定ができなかった(比較例2-1)。酸素原子数比が大きいと、誤検出した(比較例2-2)。
【0119】
[実施例2-13~2-24]
用いる粒子を着色ラテックス粒子から蛍光ラテックス粒子(micromer-F 蛍光ラテックス粒子 材料ポリスチレン コアフロント社製)に変更し、試験開始10分後に着色ラインの有無をイムノクロマトリーダ(C11787 浜松ホトニクス株式会社製)で読み取りできなくなる倍率(蛍光判定可能な限界倍率)、即ち、S/N比が10以下を示す倍率を求めた。微細構造の径、微細構造の最近接距離、微細構造の高さ、アスペクト比は、表5に示す値にした。これ以外の内容は実施例2-1~2-12と同様に行った。
【0120】
上記実施例2-13~2-24で得られた液体試料検査キット用膜担体、液体試料検査キットの評価結果を表5に示す。
【0121】
【0122】
本実施形態は、被検出物質が検出されたことを目視で確認可能なイムノクロマトグラフィ法において、検知ゾーンの酸素原子数をコントロールすることで、検知ゾーンのシグナルを増強させ、高感度な判定が可能な液体試料検査キットを提供する。
【0123】
検査キット用膜担体は、短時間で量産するために、材料への表面処理量が比較的高く、表面の酸素原子数比が高い傾向があった。本実施形態は、例えば、酸素原子数比を特定することにより、被検出物質を含まない溶液を展開した際に標識物質が検出物質と反応し、誤検出する可能性が小さい、といった効果を有する。例えば、本実施形態は、検知ゾーンの表面の酸素原子数比を高くすることで、検知ゾーンの抗体固着量を増加させ、検出物質を高感度に検出できる。
【0124】
本実施形態の液体試料検査キットは、短時間で高感度な検査を実施できるため、使い捨て可能なPOCT試薬に有用である。
【符号の説明】
【0125】
2 流路
3 微細構造が設けられた膜担体
3x 滴下ゾーン
3y 検知ゾーン(検出部)
4,4a,4b,4c,4d 凸部の底面における代表長さ(凸部の底面の径)
5 最近接微細構造間距離
6,6a,6b,6c,6d 凸部の高さ
7,7a,7b,7c,7d 微細構造
8,8a,8b,8c,8d 凸部
9 平坦部
10,10a,10b,10c,10d 凸部の底面
遮へい部 14
18 液体試料用の検査キット
18a 筐体
18b 第一開口部
18c 第二開口部
19 凸部の中心
20 凸部の中心を通る直線
20d 凸部の中心を通る直線の長さ
d 液体試料の流れる方向(輸送方向)