(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】ジアミン/二酸塩の水溶液の製造
(51)【国際特許分類】
C08G 69/28 20060101AFI20220510BHJP
C07C 55/14 20060101ALI20220510BHJP
C07C 211/12 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C08G69/28
C07C55/14
C07C211/12
(21)【出願番号】P 2019515570
(86)(22)【出願日】2017-09-15
(86)【国際出願番号】 EP2017073329
(87)【国際公開番号】W WO2018054784
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-01
(32)【優先日】2016-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520147359
【氏名又は名称】ポリテクニール,エスアエス
【氏名又は名称原語表記】POLYTECHNYL SAS
【住所又は居所原語表記】190,avenue Thiers 69006 LYON FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フランソワ・ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】トマ・テルニジアン
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/179066(WO,A1)
【文献】特表2010-529066(JP,A)
【文献】国際公開第2014/179062(WO,A1)
【文献】特開2015-120642(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0135072(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/28
C07C 55/14
C07C 211/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンを含有する供給流と、二酸を含有する供給流と、任意選択的な追加的な供給流とを第1の反応ゾーンの中に供給する工程を含む、ジアミンと二酸との塩の水溶液の製造方法であって、前記第1の反応ゾーンを出る流出流中の二酸/ジアミンのモル比が1.1より大きくなるように、前記供給流の流量が調節され、前記第1の反応ゾーンが水性媒体を含むこと、並びに前記供給流の前記流量が前記第1の反応ゾーン中の水性媒体の音速及び/又は密度の変化に応じて調節されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第1の反応ゾーンを出る前記流れの中に溶解している反応物の濃度が40重量%~70重量%、好ましくは55重量%~65重量%の範囲になるように前記供給流の前記流量が調節される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二酸を含有する前記供給流が固体の二酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記二酸が前記ジアミン及び水の供給と同時に前記第1の反応ゾーンに供給される、又は前記二酸が、既に水及び/又はジアミンを含んでいる前記第1の反応ゾーンに供給される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ジアミンを含有する前記供給流が、好ましくは10重量%~50重量%の濃度で前記ジアミンの水溶液を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ジアミンを含有する前記供給流を得るために前記ジアミンを水の中に溶解させる又は前記ジアミンの水溶液を水で希釈する追加的な工程を含み、前記供給流中の前記ジアミンの濃度が、前記第1の反応ゾーン中の前記水性媒体の音速及び/又は密度の変化に応じて調節される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
・前記第1の反応ゾーンで得られた前記水溶液を第2の反応ゾーンへ移動させる工程;並びに
・前記第2の反応ゾーンを出る流出流の中の二酸/ジアミンのモル比が0.9~1.1、好ましくは1.00~1.01の範囲になるように、ジアミンを含有する流れと任意選択的な水を含有する流れとを前記第2の反応ゾーンに導入する工程;
を追加的に含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の反応ゾーンを出る前記流出流中の溶解している反応物の濃度が50重量%~70重量%、好ましくは60重量%~70重量%の範囲になるように、前記第2の反応ゾーンに供給される前記流れの流量が調節される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の反応ゾーンに供給される前記ジアミンを含有する前記流れの流量が、前記第2の反応ゾーン中の前記溶液のpHの変化に応じて調節される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
・前記第2の反応ゾーンで得られた前記水溶液を第3の反応ゾーンへ移動させる工程;並びに
・前記第3の反応ゾーンを出る流出流の中の二酸/ジアミンのモル比が0.995~1.005、好ましくは1.00~1.003の範囲になるように、ジアミンを含有する流れ及び/又は二酸を含有する流れ及び/又は水を含有する流れを前記第3の反応ゾーンに導入する工程;
を追加的に含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第3の反応ゾーンを出る前記流れの中の溶解している反応物の濃度が50重量%~70重量%、好ましくは55重量%~70重量%、より好ましくは60重量%~70重量%の範囲になるように、前記第3の反応ゾーンに供給される前記流れの流量が調節される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第3の反応ゾーンに供給される前記流れの流量が、前記第3の反応ゾーン中の前記溶液のpH及び/又は屈折率の変化に応じて調節される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が連続的に行われる、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ジアミンがヘキサメチレンジアミンを含み、前記二酸がアジピン酸を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を含む、ポリアミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドを製造するためのジアミンと二酸との塩の水溶液の製造方法に関する。
【0002】
より詳しくは、本発明は、ポリアミド、より具体的にはPA66の製造のための出発材料として使用される、ナイロン塩又はN塩とも呼ばれるヘキサメチレンジアンモニウムアジペート塩の高濃度溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
高分子量の二酸モノマーとジアミンモノマーとを含むポリアミドを得るために、ジアミン分子と二酸分子との間の反応によって形成される塩の水溶液が一般的に使用される。水溶液の主な仕様の1つは、ジアミン分子と二酸分子との間のモルバランスである。繊維糸などの特殊な用途のための仕様を満たす高分子量及び末端基濃度を有するポリマーに近づけるためには、モル比の制御に必要とされる精度は1E-4程度でなければならない。
【0004】
この溶液は、その後、最初に水を留去するために、次いで縮合機構により重合を開始させるために加熱され、その結果アミド官能基を含む高分子鎖が得られる。
【0005】
塩溶液は、通常化学量論量の二酸及びジアミンを含有する。ナイロン塩の重量濃度は通常50%~70%である。この溶液は通常貯蔵され、任意選択的には必要に応じて重合設備で使用される前に輸送される。
【0006】
析出又は結晶化の問題を回避するためのナイロン塩の最大許容濃度は、大気圧で70重量%程度である。この濃度より上では、析出又は結晶化を防止するために、大気圧より高い圧力で110℃~170℃の温度で溶液を加熱することが必要とされる。これらの温度範囲及び圧力範囲は貯蔵及び輸送と容易には両立しない。
【0007】
ナイロン塩溶液を製造するためのいくつかの方法が提案されている。これらの方法は一般的に、中和反応によって発生した熱を排出しながら、アジピン酸をヘキサメチレンジアミン及び水に添加することからなる。
【0008】
米国特許出願公開第2010/0168375A1号明細書には、1.5~5の範囲の二酸/ジアミンモル比及び40重量%~75重量%の範囲の水中の溶解種の濃度で二酸とジアミンとの不均衡な水溶液を第1の反応器の中で最初に製造し、得られた水溶液を第2の反応器の中に移し、ジアミンを含む流れを第2の反応器に供給し、結果として0.9~1.1の範囲の二酸/ジアミンのモル比を得ることによる、二酸とジアミンとを混合することによって得られるジアミンとジカルボン酸との塩の水溶液の製造方法が記載されている。最初の工程では、二酸は粉末形態で添加されても水性懸濁液の形態で添加されてもよい。二酸/ジアミンのモル比を調節する最終工程では、このモル比は溶液のpH測定により制御される。
【0009】
米国特許第6,696,544号明細書には、分光法によるポリアミドの製造方法において二酸/ジアミンの比率を制御することが示唆されている。好ましい実施形態では、二酸/ジアミンの比率は近赤外分光分析によって決定される。
【0010】
米国特許第5,213,668号明細書には、例えばポリアミドの製造方法において、高温でのプロセス流中、イオン、特に水素イオンの濃度(添加水素イオンはpH測定値に等しい)を監視及び制御するための方法及び装置が開示されている。
【0011】
本発明者らは、プロセス工程中の二酸及びジアミンの正確な計量が困難な場合があることを見出した。アミン官能基とカルボン酸官能基との間の反応は熱を発生し、これは溶液の沸点に近い温度でプロセスを実行するという問題につながる。更に、生産性の観点からは、プロセスの追加的な工程で蒸発させるべき水の量を制限するために、高濃度の有機物成分(二酸及びジアミン)下で反応を大量に行わなければならない。加えて、この有機物成分はモル過剰の二酸を含み得る。
【0012】
これは、pH値測定又は近赤外分光分析などの公知の手法による二酸/ジアミンのモル比の正確な測定をより難しくする。
【0013】
特に、pH測定などの電位差測定法は、塩溶液の高い操作温度と高い有機物含有率の影響を受けることが周知である(添付の
図2を参照)。
【0014】
更に、プロセスの追加的な段階で蒸発させなければならない大量の水を回避するために、酸を粉末形態又は水性懸濁液の形態で供給することが有利である。しかしながら、固体の二酸粒子の存在は、公知の分析方法による二酸/ジアミン比率の測定の正確性に悪影響も及ぼす。特に、固形分は、粒子サイズ及び配向のために、近赤外などの分光測定法を使用して読み取られるシグナルを変える場合がある。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的の1つは、特にモノマーの1つが他方に対してモル過剰で特には粉末又は懸濁液の形態で添加される場合に、及び/又はプロセスが高温で行われる場合に、溶液中の二酸/ジアミンのモル比をプロセスの工程全体にわたって容易かつ正確に測定することができる、ナイロン塩溶液の調製方法を提供することである。
【0016】
本発明者らは、この問題は、驚くべきことには、反応混合物中の音速及び/又は反応混合物の密度を測定し、これらの測定結果を第1の反応ゾーンに添加される二酸とジアミンとの質量収支の調整のために使用することによって解決できることを見出した。
【0017】
したがって、本発明は、ジアミンを含有する供給流と、二酸を含有する供給流と、任意選択的な追加的な供給流とを第1の反応ゾーンの中に供給する工程を含む、ジアミンと二酸との塩の水溶液の製造方法であって、第1の反応ゾーンを出る流出流中の二酸/ジアミンのモル比が1.1より大きくなるように供給流の流量が調節され、第1の反応ゾーンが水性媒体を含むこと、並びに供給流の流量が第1の反応ゾーン中の水性媒体の音速の変化及び/又は水性媒体の密度の変化に応じて調節されることを特徴とする方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、連続モードの実施形態による方法を行うための設備の概略的なスキームを表す。
【
図2】
図2は、異なる温度でのpH値測定感度と水溶液中の溶解種の濃度との間の関係を示す。
【
図3】
図3は、2つの異なる温度における、密度と水溶液中での遊離形態のアジピン酸の濃度との間の関係を示す。
【
図4】
図4は、2つの異なる温度における、音速と水溶液中の遊離形態のアジピン酸の濃度との間の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここで及び以下のプロセスの工程において、「供給流の流量を調整する」は、供給流の少なくとも1つの質量流量又は体積流量を調節することとして理解されるべきである。したがって、供給流のうちの1つの流量は、他方を一定に保ちながら調節することができる。例えば、特にこの二酸の供給が一定である場合、より好ましくは例えば機械式コンベアによって二酸が粉末形態で供給される場合、ジアミンの供給流の流量は、二酸の供給量に応じて調節されることが有利な場合がある。
【0020】
ここで及び以下のプロセスの工程において、「反応ゾーン」は、例えば機械的撹拌だけでなく任意の他の追加的な機器(副流管、機械的コンベヤ、容器、フィルター、遠心ポンプを用いた再循環ライン及び/又はサンプリングライン、スタティックミキサー又は特定の混合装置、並びにこれらの任意の組み合わせ等)も含む反応器などの、タンク型反応器として理解されるべきである。タンク型反応器が稼働していない時又は製造プログラムが変更される期間中にタンク型反応器を加熱又は冷却するための手段も備えていてもよい。
【0021】
各反応ゾーンは、塩溶液の沸騰によって発生した水蒸気を凝縮するための第2の反応ゾーンにおける凝縮器などの、各反応ゾーンの熱的平衡を調整するための加熱又は冷却システム流のための手段も備えていてもよい。
【0022】
本発明の方法は、バッチモードの実施形態又は連続モードの実施形態で行うことができる。連続モードの実施形態での実施が好ましい。
【0023】
本発明の方法は、反応ゾーンで行われる。好ましくは、各反応ゾーンは別個の反応器の中に含まれる。すなわち第1の反応ゾーンは第1の反応器の中に含まれ、第2の反応ゾーンは第2の反応器の中に含まれ、以下同様である。その結果、本発明の方法は、好ましくは、直列に配置された複数の反応器を含む設備において行われ、各反応器は方法の1つの工程の実施に対応する。
【0024】
ある実施形態では、1つ以上の反応ゾーンはそれぞれ並行して稼働する複数の反応器を含んでいてもよい。
【0025】
しかしながら、本発明の文脈から逸脱することなしに、方法の様々な工程は同じ反応器中で連続的に行われてもよい。同様に、設備は、方法の1つの工程を行うために、並列に配置された複数の反応器を含んでいてもよい。
【0026】
好ましくは、方法は、ナイロン塩のかなり高濃度の溶液を生じる。そのため、供給流の流量は、好ましくは、第1の反応ゾーンを出る流れの総重量を基準として、第1の反応ゾーンを出る流れの中に溶解している反応物の濃度が40重量%~70重量%、好ましくは55重量%~65重量%の範囲になるように調節される。
【0027】
用語「溶解している反応物」は、媒体中に未反応形態で存在する、又は塩を形成するための二酸とジアミンとの中和反応の結果得られる種として存在する、全ての二酸種及びジアミン種を意味すると理解されるべきである。更に、「溶解している反応物」は、全ての二酸種及びジアミン種が媒体に可溶であり、温度及び圧力の運転条件下で均一な水溶液をもたらすことも追加的に意味し得る。
【0028】
ここで及び以降のプロセスの工程において、「供給流」はナイロン塩の水溶液を製造するための反応に関与している二酸反応物又はジアミン反応物の流れとして理解されるべきである。更に、これは、脱塩水又は任意のその他のものなどの反応物を溶解するために使用される媒体又は溶媒、及び重合に必要とされるその他の製品を指す場合もある。
【0029】
本発明に適した二酸としては、脂肪族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸及びこれらの任意の混合物を挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0030】
脂肪族ジカルボン酸は、直鎖、分岐、脂環式、又はヘテロ環式脂肪族であってもよい。脂肪族ジカルボン酸は、例えば4~18個の炭素原子を有していてもよく、例えばアジピン酸としても知られている1,6-ヘキサン二酸、1,8-オクタン二酸、1,10-デカン二酸、又は1,12-ドデカン二酸のように6、8、10、又は12個の炭素原子を有していてもよい。
【0031】
芳香族ジカルボン酸は、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、又はナフタレンジカルボン酸であってもよい。
【0032】
アジピン酸(AA)が好ましい二酸である。
【0033】
二酸は、粉末の形態で又は水溶液の形で、あるいは懸濁液の形態で使用することができ、この中の固形分含有率は、好ましくは懸濁液の総重量を基準として0%超最大45%、特には最大50重量%の含有率の範囲の中で選択される。粉末形態又は水性懸濁液の形態でのその使用が好ましい。粉末形態でのその使用が特に好ましい。二酸を含有する流れは他の化合物及び/又は溶媒を含有していてもよい。
【0034】
「懸濁液」という用語は、二酸が飽和しているかほぼ飽和しており運転条件下で過剰の固体形態の二酸を含有する水溶液として理解されるべきである。
【0035】
本発明に適したジアミンとしては、脂肪族ジアミンを挙げることができる。
【0036】
脂肪族ジアミンは、直鎖、分岐、脂環式、又はヘテロ環式脂肪族であってもよい。これらはそれらの構造中に芳香環を含んでいてもよい。脂肪族ジアミンは、例えば2~18個の炭素原子を有していてもよい。より好ましくは、脂肪族ジアミンは、1分子当たり2~12個の炭素原子を有していてもよく、例えば1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、又はこれらの誘導体(2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、又は2,5-ジメチルヘキサンジアミン等)などの6、8、10、又は12個の炭素原子を有していてもよい。芳香環を含む脂肪族ジアミンの例は、m-キシリレンジアミン又はp-キシリレンジアミンである。
【0037】
ヘキサメチレンジアミン(HMD)が好ましいジアミンである。
【0038】
本発明の方法では、ジアミンは純粋な形態で、あるいは水溶液の形態で供給される。このような水溶液は、水溶液の総重量を基準として少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも90重量%のジアミンを含み得る。
【0039】
二酸を含有する流れだけでなく、ジアミンを含有する流れも他の化合物及び/又は溶媒を含有していてもよい。
【0040】
第1の反応ゾーンに供給される流れの流量は、第1の反応ゾーンにおいて、モル過剰の二酸を含み不均衡水溶液と呼ばれる不均衡なジアミンと二酸との塩の水溶液を得るために制御されてもよい。好ましくは、二酸モノマー及びジアミンモノマーは、方法の追加的な工程における中和反応の完了後の水中のナイロン塩の見込まれる最終濃度が50重量%~70重量%、好ましくは55重量%~70重量%、更に好ましくは60重量%~65重量%の範囲に到達するように添加される。
【0041】
第1の反応ゾーンに供給されるそのような流れの温度は、ジアミンと二酸との不均衡な塩の均一な溶液を得るために制御されてもよく、これは50℃よりも高いが溶液の沸点よりも低い温度でのプロセスの実行をもたらす。好ましくは、第1の反応工程における温度は、中和反応により供給される熱を使用して、更なる反応工程における溶液の沸点に到達させるのに十分な高い温度で維持される。
【0042】
この文脈における「制御される」とは、第1の反応ゾーンに供給される流れの流量、濃度、及び/又は温度を制御することとして理解される。例えば、ジアミンを含有する供給流は、第1の反応ゾーンに供給される熱のバランスをとるために加熱又は冷却することができる。
【0043】
ある実施形態では、二酸は、ジアミン及び/又は水の供給と同時に第1の反応ゾーンに供給される。別の実施形態では、二酸は、既に水及び/又はジアミンを含んでいる第1の反応ゾーンに供給される。その後、追加のジアミン及び/又は水は、二酸と同時に添加することができる。
【0044】
第1の反応ゾーンに供給される流れは異なっていてもよい。この場合、ジアミンは、好ましくは、純粋な形態で、又は高濃度水溶液の形態で、第1の反応ゾーンに供給される。そのような水溶液は、水溶液の総重量を基準として少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%のジアミンを含有していてもよい。
【0045】
別の好ましい実施形態では、ジアミンは、水溶液の形態などで水と共に添加されてもよい。この場合、水溶液中のジアミンの濃度は、それぞれ水溶液供給流の総重量を基準として例えば10重量%~50重量%、好ましくは20重量%~40重量%、より好ましくは25重量%~35重量%の範囲であってもよい。この実施形態では、水とジアミンとを含有する供給流中のジアミンの濃度は、この供給流の導電率を測定することによって制御することができる。
【0046】
同様に、二酸は、粉末形態又は懸濁液形態で供給されてもよく、例えば溶解している二酸又は溶解している二酸/ジアミン混合物も含有する水の中に供給されてもよい。このような懸濁液の固形分含有率は、好ましくは懸濁液の全総重量を基準として0重量%超最大50重量%の含有率の範囲で選択される。粉末形態でのその使用が特に好ましい。
【0047】
第1の反応ゾーンに供給される供給流の流量は、第1の反応ゾーンを出る流れの中の二酸/ジアミンのモル比が、2~5、より好ましくは2~3のように、1.1より大きく、好ましくは1.5より大きく、更に好ましくは2より大きくなるように調節される。第1の反応ゾーンに供給される二酸の量は、好ましくは、望みの量の塩水溶液を製造するために必要とされる二酸の合計量の少なくとも90%に相当する。第1の反応ゾーンに供給される水の量は、好ましくは、望みの量の塩水溶液を製造するために必要とされる水の合計量の少なくとも80%である。例えば、第1の反応ゾーンを出る流れの中に溶解している反応物の濃度は、第1の反応ゾーンを出る流れの総重量を基準として40重量%~70重量%、好ましくは55重量%~65重量%の範囲である。
【0048】
流量の調節は、第1の反応ゾーンにおける媒体の音速及び/又は密度の変化に応じて行われる。第1の反応ゾーン中の反応媒体中の音速及び/又は反応媒体の密度を測定することにより、1E-2程度の精度で望みの二酸/ジアミンのモル比を得るために、供給流、好ましくはジアミン及び/又は水を含有する供給流の流量を容易に調節できることが見出された。密度測定を使用して±0.05以上、音速測定を使用して約±0.03以上のより正確な精度を得ることができる。
【0049】
音速及び/又は密度測定の応答は、これらの測定が第1の反応ゾーンに含まれる全ての反応物を考慮して均一な溶液中で行われる場合は更に正確である。しかしながら、音速及び/又は密度の測定は、第1の反応ゾーンにおける全ての反応物の溶解の完了に必要な時間の間にも行うことができることが見出された。
【0050】
第1の反応ゾーンに供給される流量は、第1の反応ゾーンにおける音速及び/又は密度の変化に応じて調節される。密度と音速の両方は、例えば水溶液中の溶解している反応物の濃度に依存する。例えば、二酸の例としてアジピン酸を使用している
図3及び
図4に示されているように、遊離二酸の増加は密度の増加及び音速の減少をもたらす。
【0051】
密度測定と音速測定は共に一定の温度で行われる必要があり、あるいは温度が経時的に変動する場合には、結果として生じる密度又は音速の変化は、第1の反応ゾーンに供給される流れの流量の調節において考慮されなければならない。これは、65℃及び70℃の温度での密度及び音速について、それぞれ
図3及び
図4に示されている。
【0052】
密度及び/又は音速の測定による溶解している反応物の濃度の知見は、液体供給流に対する好ましい行為と共に、供給流の流量の非常に効率的な監視を行い易くする。第1の反応ゾーンにおける物質収支を合わせるために及び望みのモル比を達成するために、2つの戦略を適用することができる:
- 一方の供給流、好ましくはジアミン供給流の流れを制御し、他方の流れを一定に保つこと。この場合、水溶液中の個々の濃度を決定するためには1つの物理的特性の測定で十分である。二酸/ジアミンのモル比の調節は、第1の反応ゾーンにおける音速又は密度の変化に応じて行われる。
- 二酸供給流を一定に保ちながら、2つの供給流、好ましくはジアミン及び水供給流の流れを並行して制御すること。この場合、水溶液中の個々の濃度を決定するために第2の物理的特性の測定が必要とされる。二酸/ジアミンのモル比の調節は、第1の反応ゾーンにおける音速及び密度の変化に応じて行われる。
【0053】
音速及び/又は密度は、第1の反応ゾーンで測定される。測定は、例えば攪拌されている反応槽内で直接行われてもよく、あるいは第1の反応ゾーン内の水溶液のできるだけ代表的な試料を採取することによって行われてもよい。例えば、そのような試料は、反応器の再循環ループの中の流れの一部であってもよく、この二次流れは、質量流量計を用いて制御される(例えば1000L/h、好ましくは500L/h未満の最大流れ)。このようにして得られた水溶液の試料は、溶解している種の含有率に影響を与えずに固体粒子を除去するために濾過装置に、気泡を防ぐために脱気装置に、並びに音速及び/又は密度の測定を行う前に一定温度の流れを得るために熱交換器に、送られてもよい。
【0054】
第1の反応ゾーンにおける音速及び密度は、市販の装置などの当業者に公知の装置を使用して測定することができる。例えば、音速は、音響変換器と、変換器の音響中心から既知の距離に取り付けられた反射面とを使用する音速プローブを用いて測定することができる。パルスの送信から受信までに要した時間を測定することができる。この時間から、音の速度を計算することができる。音速プローブで使用される変換器は、典型的には、送受信距離が大幅な吸収損失を軽減するほどに十分近いため、高周波数(1~4MHz付近)で作動する。
【0055】
材料の密度は、その質量を体積で割ったものとして定義される。密度測定は、その固有振動数で作動する機械的振動子の振動周期の測定に基づくことができる。機械的振動子は、連続的に流れている試料が入っているU字型の管から構成されていてもよい。振動の周期は、機械的振動子の中の試料の密度及び振動子の機械的特性(管の内径、壁厚、弾性等)に依存する。試料の密度及び管の機械的特性は共に温度に依存する。そのため温度も測定され、この情報も密度の決定に必要とされる。
【0056】
音速「sv」は、音波パルスが伝わる距離「d」を対応する伝播時間「t」で割ったものとして定義される。
【0057】
超音波パルスは、圧電トランスミッタを使用して生成される。パルスはトランスミッタから試料を通って受信機へ及ぶ。試料はトランスミッタと受信機との間を流れる。超音波パルスの伝播時間が測定され、周期的信号へと変換される。試料の音速及び変換器の機械的特性は共に温度に依存する。そのため温度も測定され、音速の計算に使用される。
【0058】
例えば、本発明の方法では、オーストリアのAnton Paar GmbH社からのDSRn(例えばDSRn427)又はDPRnなどの密度及び音速変換器を使用することができる。変換器及び測定についての詳細は、製造元から入手可能な取扱説明書に示されている。
【0059】
好ましい実施態様では、ジアミンは水溶液の形態で第1の反応ゾーンに供給される。この水溶液は設定濃度で使用される状態になっていてもよく、第1の反応ゾーンで得られた二酸/ジアミンのモル比は、音速又は密度の変化に応じてジアミン供給流の流量を調節することにより監視される一方で、二酸は粉末形態で一定の速度で供給される。しかしながら、別の実施態様においては、ジアミンを含有する供給流を得るために、純粋なジアミンを水に溶解させるかより高濃度のジアミン水溶液を水中に希釈することにより、第1の反応ゾーンにおける音速及び密度の変化に応じて供給流中のジアミンの濃度を調節することも可能である。そのため、第1の反応ゾーンで得られる二酸/ジアミンのモル比は、ジアミン供給流の流量を調節することによってだけではなく、更にその供給流中のジアミンの濃度も調節することによって監視しなければならない。
【0060】
第1の反応ゾーンで得られた水溶液は、第2の反応ゾーンに移され、ここでジアミンを含有する流れと、任意選択的な水を含有する流れとが導入されることで、第2の反応ゾーンを出る流れの中の二酸/ジアミンのモル比が0.900~1.100、好ましくは0.950~1.050、更に好ましくは1.000~1.010の範囲にされてもよい。塩水溶液の最終調節の前に、モル過剰の二酸化合物に保つことが好ましい。
【0061】
好ましくは、第2の反応ゾーンの中に供給される流れの流量は、第2反応ゾーンを出る流れ中に溶解している反応物の濃度が50重量%~70重量%、好ましくは55重量%~70重量%、更に好ましくは約65重量%などの60重量%~65重量%の範囲になるように調節される。
【0062】
第2の反応ゾーンに供給される流れの流量は、例えば、第2の反応ゾーンにおける溶液のpHの変化に応じて調節することができる。pH値測定によるモル比の調節は、米国特許出願公開第2014/0249330A1号明細書及び国際公開第2014/179067号パンフレットに記載されている。
【0063】
pH測定の精度は、水溶液中に含まれる有機種の温度及び濃度の影響を受ける。第2及び第3の反応ゾーンにおいて望ましい精度を得るために、溶液はpH測定の前に希釈及び冷却される。
【0064】
反応器を通って再循環する流れの一部に対して希釈法が行われ、この流れが質量流量計(最大流量1000L/h、好ましくは500L/h未満)で制御される。ナイロン塩溶液は、三方バルブなどの混合要素を通って流れてもよく、ここでナイロン塩の希釈を達成するために水の側流が注入される。希釈率は、溶液の出口温度又は混合要素を通る入口の流れの比率に従って調節することができる。希釈が行われる混合要素は、有利には、短時間で塩溶液を水と効率的に混合できるような特殊な設計を有する(例えば、バルブの出口で乱流方式で塩を動かすための渦効果)。最後に、希釈された塩溶液はpH測定の前に熱交換器内で冷却されてもよい。この系を使用すると、pHプローブを通って流れる溶液の希釈率と温度の両方を制御することができ、必要とされるモル比の範囲に従って高精度でpHを測定することが可能になる。希釈率は、100℃~20℃の温度範囲内で50重量%~10重量%、好ましくは40℃で50重量%、より好ましくは30℃で20重量%、更に好ましくは20℃又は25℃で10重量%の濃度で溶液を分析するために行うことができる。
【0065】
第2反応ゾーンにおいて、二酸/ジアミンのモル比は、1E-3程度の精度で調節することができる。
【0066】
本発明の方法の更なる実施態様では、第2の反応ゾーンで得られた水溶液は第3の反応ゾーンに移され、ここでジアミンを含有する流れ及び/又は二酸を含有する流れと、任意選択的な水を含有する流れとが導入されることで、0.995~1.005、好ましくは0.9997~1.0003から選択される第3の反応ゾーンを出る流出流の中の二酸/ジアミンのモル比にされる。
【0067】
第3の反応ゾーンに供給される流れの流量は、第3の反応ゾーンを出る流れの中の溶解している反応物の濃度が、第3の反応ゾーンを出る流れの総重量を基準として50重量%~70重量%、好ましくは55重量%~70重量%、更に好ましくは約65重量%などの60重量%~65重量%の範囲になるように調節することができる。
【0068】
本発明の好ましい実施形態では、第3の反応ゾーンに供給される流れの流量は、第3の反応ゾーンの中の溶液のpH及び任意選択的な屈折率の変化に応じて調節される。この調節は、+/-0.0003以上に匹敵する二酸/ジアミンモル比の精度、及び質量で+/-0.2%以上に匹敵する溶液濃度の精度を可能にする。
【0069】
屈折率は、溶液内で直接又は希釈した流れの中で測定することができる。pH測定は、最も好ましくは希釈された流れの中で行われる。
【0070】
本発明の方法に従って得られる高濃度塩溶液は、直接かつ連続的に重合装置の中に供給されてもよく、あるいは移送及び使用の前に貯蔵されてもよい。
【0071】
本発明の方法の2つの実施形態の詳細な説明が、添付の
図1~
図4を参照しつつ以降で示される。
【0072】
図1は、連続モードの実施形態による方法を行うための設備の概略的なスキームを表し;
【0073】
図2は、異なる温度でのpH値測定感度と水溶液中の溶解種の濃度との間の関係を示し;
【0074】
図3は、2つの異なる温度における、密度と水溶液中での遊離形態のアジピン酸の濃度との間の関係を示し;
【0075】
図4は、2つの異なる温度における、音速と水溶液中の遊離形態のアジピン酸の濃度との間の関係を示す。
【0076】
図2はナイロン塩溶液の濃度及び温度の関数としてのpH測定の感度を示している。曲線中の各点は、上で示した条件下でのpH対MR(MR:モル比)の曲線上で読み取られた最大の傾きに対応する。この傾きは、モル当量(モル比=1)で読み取られるΔpH/ΔMRの値として理解される。pH値は、ガラス及び銀/塩化銀電極を使用してpHメーター実験室で読み取られる。図によれば、測定がより低い濃度及びより低い温度の溶液で行われる場合にpH感度はより高くなる。例えば、20℃で15重量%のナイロン塩溶液のpHで読み取った傾きは、70℃で45%の溶液でpH測定を行ったものよりも7倍感度が高いことを示している。
【0077】
図3及び
図4は、二酸濃度及び溶液の温度の関数としての密度及び音速の測定値の変化を示している。ここで「遊離アジピン酸」は、溶液中に溶解しているがジアミンと化学的に反応していないアジピン酸の量として理解されるべきである。つまり、これは、過剰のアジピン酸量対ジアミンとの厳密な中和反応に対応する化学量論量に相当する。曲線上の各点は、既知の組成のナイロン塩とアジピン酸との水性混合物について得られた密度又は音速の値に関する。遊離アジピン酸濃度の範囲は、42重量%の濃度のナイロン塩からなる出発溶液にアジピン酸粉末を徐々に添加することによって得られる。値は、共にフランスの供給業者であるProanatecからのものである2つの装置(密度を測定するための1つのU字形の機械的振動子、及び音速のための1つの圧電トランスミッタ)を使用して読み取られる。
【0078】
図5は、時間の関数としての音速測定のばらつきを示している。曲線上の各点は、3時間にわたる10秒の頻度でのDSRn427変換器からの戻り信号の測定値に対応する。グラフ中で読み取れる2本の直線は、二酸/ジアミンのモル比プロセス制御に関する上側及び下側の仕様を示す。音速測定の能力は、仕様の幅とプロセスの短期の幅との比較によって与えられる:Cp=(USL-LSL)/(6*σsv)。この場合、能力は1.7より高く、これはプロセス制御が要求される仕様に従って有効であることを意味する。
【0079】
本発明は、本方法の連続モードの実施形態に従って得られるナイロン塩の高濃度溶液の製造例によっても説明される。
【0080】
以下の説明において、アジピン酸(AA)及びヘキサメチレンジアミン(HMD)という用語は、二酸及びジアミンを意味するために使用される。しかしながら、この方法は上で示した他の二酸及び他のジアミンにも適用される。
【0081】
図1を参照すると、この図は、連続モードに従って運転される本発明の方法の一実施形態を説明している。この装置は第1の撹拌反応器1を含み、その中にアジピン酸がエンドレススクリューシステム2によって固体粉末の形態で通常供給され、その中にヘキサメチレンジアミンの液体流3及び脱塩水又はその他の製品の流れ4が同時に添加される。ヘキサメチレンジアミンは、有利には、15重量%~90重量%、例えば23%のHMDを含有する水溶液であり、その結果、反応器1の中に、1.5~5、好ましくはおよそ2.4の二酸/ジアミンモル比を含む溶液、及び40重量%~70重量%、例えば55重量%の溶解している種の濃度が得られる。
【0082】
モル比は、有利には、溶液の音速及び/又は密度を測定する装置6の応答に応じて質量収支を出力するプログラマブルロジックコントローラ5、並びに流れ2、3、及び4の入口質量流によって制御及び調節される。音速及び/又は密度の測定を最適な条件で行うために、循環中の水性媒体の一部は、測定を行う前に、濾過7、脱気8、及び熱交換器9を備えたサンプリングラインに向けられる。第1の反応ゾーンにおける音速及び/又は密度の変化は、一方の供給流、好ましくはジアミン供給流3の流量に作用し、他方の供給流は一定に保たれる。別の実施形態では、ジアミンの一部が主流3とは独立した流れによって反応器1の中に供給され、その結果、スタティックミキサー11の循環ループの上流に供給されるヘキサメチレンジアミン流10によって、あるいはこれらの2つの流れ3及び10を添加することによって、反応器1へのモル比を正確に制御することができる。反応器1の中の温度は、二酸とジアミンとの間の中和反応からの熱、並びに熱交換器12の出口でジアミン及び/又は脱塩水の流れの温度を調節することにより有利に加えられる少量の熱を使用して、溶液の凝固点より上に維持される。しかしながら、反応器1内の溶液の温度は、プロセスを通して及び工程の最後で常にできるだけ低く、好ましくは運転圧力での溶液の沸点未満に、より一般的には80℃未満にされる。溶液中の酸過剰と組み合わされたこの低い温度水準は、媒体中に存在する酸素によるHMDの酸化を抑えるために有利である。酸素は、特にアジピン酸粉末供給物中に侵入した又は吸着した空気由来の場合がある。
【0083】
水性媒体は、有利にはポンプ14を含む外部循環ループ13の中で再循環される。ループ内を循環する生成物の一部は、図示のようにポンプ17を含む外部中和ループ16を備えた中和反応器とも呼ばれる第2の撹拌反応器15に供給される。ヘキサメチレンジアミンの大部分は、1.01程度、好ましくは1.005程度のAA/HMDモル比、及び50重量%~70重量%、好ましくは55重量%~70重量%、更に好ましくは60重量%~70重量%、例えばほぼ65重量%の溶解している塩の濃度を得るために、ライン18を介してこの第2の反応器15の中に供給される。過剰の二酸化合物に留め、有利にはヘキサメチレンジアミンの液体流を使用して塩のモルバランスの最終微調整を行うことが好ましい。モル比は、溶液のpHを測定するために使用される装置19によって制御及び調節される。pH測定を最適な条件で行うために、pH測定を行う前に、試料ラインからの塩を水21の側流と混合するための特殊な装置20及び熱交換器22を備えたサンプリングラインに、循環中の塩水溶液の一部を回してもよい。第2の反応ゾーンにおけるpH値の変化は、ヘキサメチレンジアミン流供給物18の流量に作用する。別の実施形態では、ジアミンの一部が主流18とは独立した流れ23によって反応器15の中に供給され、その結果、スタティックミキサー24の循環ループの上流に供給される流れ23によって、あるいは2つの流れ18及び23を添加することによって、反応器15へのモル比を正確に制御することができる。第1の反応工程のように、有利には外部とほとんど熱が交換されず、中和により放出される熱は、最大で運転圧力下で溶液の沸点に達するまで溶液の温度を上昇させることができる。結果として留去される水を凝縮するために、コンデンサー25を反応器15の頂部に配置することで水の完全な還流が得られる。このコンデンサーの中で交換される熱量は非常に少なく、これは、第1の反応工程で予熱されたヘキサメチレンジアミン及び/又は脱塩水の流れによりもたらされる全体的な熱収支に対してわずかに過剰な熱に起因する。好ましい実施態様によれば、中和反応により放出される熱の大部分は、塩水溶液を加熱し、温度をその凝固点より上に維持するために使用される。より具体的には、沸点への到達は、水蒸気蒸留によって、媒体中に存在する酸素、特に溶解している形態で存在する酸素を除去可能にすることから有利である。
【0084】
本発明の好ましい実施形態である図示の実施形態では、第2の反応器15中で得られた溶液は、例えば、ポンプ28と有利にはコンデンサー29とを有する外部循環ループ(
図1には図示せず)の戻り点に取り付けられたジェットノズルなどの撹拌装置を備えた第3の反応器又はタンク26に供給される。
【0085】
調整反応器とも呼ばれる第3の反応器26の作用原理は第2の反応器と同様であり、AA/HMD比を0.995~1.005、好ましくは0.9997~1.0003の範囲の値に正確に調節するためのHMDの添加30を含む。モル比は、溶液のpHを測定するために使用され、塩溶液の一部をサンプリングするため並びに濃度及び温度の最適な条件下でpHを測定するための前の工程と同じ作用原理及び装置が使用される、装置31によって制御及び調節される。第3の反応ゾーンにおけるpHの変化は、ヘキサメチレンジアミンの流れの供給物30の流量に作用する。ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート塩の濃度を50重量%超、好ましくは55重量%~70重量%、より好ましくは60重量%~70重量%、例えば65重量%の濃度に調節するために水を添加することもできる。塩溶液の濃度は、塩溶液の屈折率を測定するために使用される装置32によって制御及び調節される。第3の反応ゾーンにおける屈折率値の変化は、脱塩水の流れの供給物34の流量に作用する。この水の流れも、有利にはスタティックミキサー33の再循環ループの上流に接続されるヘキサメチレンジアミンの流れ30と混合することができる。
【0086】
このようにして得られた溶液35は、重合装置で直接使用することができ、あるいは貯蔵タンクもしくは緩衝タンク又は輸送に適したコンテナの中に貯蔵することができる。
【0087】
好ましい実施形態によれば、設備の反応器は、反応器の運転中に不活性な反応器雰囲気を維持及び更新するように、窒素などの不活性ガスを供給することによって酸素を含まない雰囲気下に維持される。各反応器への窒素供給は
図1には示されていない。この実施態様では、溶存酸素は脱気され、水蒸気蒸留中に反応器から逃げる窒素に同伴される。この窒素の排気は、好ましくは窒素流に伴われる蒸気を凝縮するようにコンデンサーを通して行われる。
【0088】
有利には、反応器は、環境との熱交換を抑制し結果として熱損失を抑えるために、断熱材を備える。
【実施例】
【0089】
実施例1:
第1の反応ゾーンにおける音速の変化並びに第2及び第3のゾーンにおけるpHの変化に応じて二酸/ジアミンのモル比を調節することによる、52重量%ナイロン塩水溶液の製造。
【0090】
反応ゾーン1-アジピン酸の溶解
アジピン酸及びヘキサメチレンジアミンの水溶液は、攪拌容器の中で一定の供給速度(8000kg/h)で機械的スクリューを介してアジピン酸粉末を連続的に供給することによって調製する。33.6重量%の濃度のHMD溶液を同時に添加し、二酸/ジアミンのモル比が第1の反応ゾーンの中で2.0に維持されるように、混合物中に過剰の二酸が常に存在するように注意する。機械的スクリューによるアジピン酸の供給速度の変動は供給流量の約+/-5%であり、これは約+/-0.1のモル比の変動に相当する。33.6重量%HMDの供給速度(約9466kg/h)は、DSRn427変換器及びコリオリ式質量流量計に接続された制御バルブを使用して音速の変化(1775m/s+/-2m/s)に応じて調節する。音速は、濾過及び脱気システムを用いて低流量(250kg/h)で運転される補助ループ上で測定する。短期間の標準偏差に基づく音速測定の能力(6×σ
sv=+/-0.9m/s、センサー精度0.1m/s)は、
図5によれば、+/-0.3重量%の精度で水溶液中のアジピン酸濃度を制御することを可能にする。そのため、二酸/ジアミンのモル比は、+/-0.02の精度で調節することができる。
【0091】
HMD溶液の濃度は、HMD溶液の導電率を測定することによって、反応ゾーン1での供給前に制御する。HMD溶液の濃度は、完全に中和した後に溶液中で52重量%の最終N塩濃度に達するように33.6重量%に設定する。反応ゾーン1の容器内の温度を65℃に保つためにプレート式熱交換器を用いて33.6重量%HMDの供給温度を調節する(40℃)。
【0092】
反応2-中和
反応ゾーン1で得られた水溶液を第2の容器に移し、そこで33.6重量%のHMDを連続的に添加することにより未反応のアジピン酸の中和を完結する。33.6重量%HMDの供給速度(約9372kg/h)は、コリオリ質量流量計に接続された制御バルブを用いてpHの変化(7.45+/-0.05のpH単位)に応じて調節する。pHは、希釈システムを用いて低流量で運転される補助ループで測定する。希釈は、三方制御バルブを介して冷却脱塩水と53%のN塩とを混合することによって行う。N塩(500kg/h)及び脱塩水(168kg/h)の流量は、希釈システムの出口で40重量%の濃度に到達するように、コリオリ質量流量計に接続された制御バルブを使用して調節する。その後、希釈された流れを、プレート式熱交換器を介して40℃まで冷却してからpH測定する。短期間の標準偏差に基づくpH測定の能力(6×σ
sv=+/-0.15のpH単位)は、
図2によれば、+/-0.002の精度で水溶液中のモル比を制御することを可能にする。
【0093】
反応3-調節
同様の方法で、反応ゾーン2で得られたナイロン塩溶液を第3の容器に移し、そこで連続的に33.6重量%のHMDを計量することにより二酸/ジアミンのモル比を調節する。33.6重量%HMDの供給速度(約89kg/h)は、コリオリ質量流量計に接続された制御バルブを用いてpHの変化(7.85+/-0.05のpH単位)に応じて調節する。pHは、希釈システムを用いて低流量で運転される補助ループで測定する。希釈は、三方制御バルブを介して冷却脱塩水と52%のN塩とを混合することによって行う。N塩(125kg/h)及び脱塩水(538kg/h)の流量は、出口で10重量%の濃度に到達するように、コリオリ質量流量計に接続された制御バルブを使用して調節する。その後、希釈された流れを、プレート式熱交換器を介して20℃まで冷却してからpH測定する。短期間の標準偏差に基づくpH測定の能力(6×σ
sv=+/-0.02のpH単位)は、
図2によれば、+/-0.00008の精度で水溶液中のモル比を制御することを可能にする。
【0094】
実施例2:
第1の反応ゾーンにおける密度の変化並びに第2及び第3のゾーンにおけるpHの変化に応じて二酸/ジアミンのモル比を調節することによる、62重量%のナイロン塩の水溶液の製造。
【0095】
反応ゾーン1-アジピン酸の溶解
アジピン酸及びヘキサメチレンジアミンの水溶液は、攪拌容器の中で一定の供給速度(10000kg/h)で機械的スクリューを介してアジピン酸粉末を連続的に供給することによって調製する。24.8重量%の濃度のHMD溶液を同時に添加し、二酸/ジアミンのモル比が第1の反応ゾーンの中で2.4に維持されるように、混合物中に過剰の二酸が常に存在するように注意する。機械的スクリューにより添加されるアジピン酸の供給速度の変動は供給流量の約+/-5%であり、これは約+/-0.1のモル比の変動に相当する。24.8重量%HMDの供給速度(約13360kg/h)は、DSRn427変換器及びコリオリ式質量流量計に接続された制御バルブを使用して密度の変化(1108kg/m3+/-1kg/m3)に応じて調節する。密度は、濾過及び脱気システムを用いて低流量(250kg/h)で運転される補助ループ上で測定する。短期間の標準偏差に基づく密度測定の能力(6×σsv=+/-0.6kg/m3、センサー精度0.1~0.05kg/m3)は、+/-0.5重量%の精度で水溶液中のアジピン酸濃度を制御することを可能にする。そのため、二酸/ジアミンのモル比は、+/-0.04の精度で調節することができる。
【0096】
HMD溶液の濃度は、HMD溶液の導電率を測定することによって、反応ゾーン1への供給前に制御する。HMD溶液の濃度は、完全に中和した後に溶液中で62重量%の最終N塩濃度に達するように24.8重量%に設定する。反応ゾーン1の容器内の温度を65℃に保つためにプレート式熱交換器を用いて24.8重量%HMDの供給温度を調節する(55℃)。
【0097】
反応2-中和
反応ゾーン1で得られた水溶液を第2の容器に移し、そこで純粋なHMDを連続的に添加することにより未反応のアジピン酸の中和を完結する。純粋なHMDの供給速度(約4599kg/h)は、コリオリ質量流量計に接続された制御バルブを用いてpHの変化(7.45+/-0.05のpH単位)に応じて調節する。pHは、希釈システムを用いて低流量で運転される補助ループで測定する。希釈は、三方制御バルブを介して冷却脱塩水と64重量%のN塩とを混合することによって行う。N塩(500kg/h)及び脱塩水(300kg/h)の流量は、出口で40重量%の濃度に到達するように、コリオリ質量流量計に接続された制御弁を使用して調節する。その後、希釈された流れを、プレート式熱交換器を介して40℃まで冷却してからpH測定する。短期間の標準偏差に基づくpH測定の能力(6×σ
sv=+/-0.15のpH単位)は、
図2によれば、+/-0.002の精度で水溶液中のモル比を制御することを可能にする。
【0098】
反応3-調節
同様の方法で、反応ゾーン2で得られたナイロン塩溶液を第3の容器に移し、そこで連続的に純粋なHMDを計量することにより二酸/ジアミンのモル比を調節する。純粋なHMDの供給速度(約37kg/h)は、コリオリ質量流量計に接続された制御バルブを用いてpHの変化(7.85+/-0.05のpH単位)に応じて調節する。pHは、希釈システムを用いて低流量で運転される補助ループで測定する。希釈は、三方制御バルブを介して冷却脱塩水と63重量%のN塩とを混合することによって行う。N塩(125kg/h)及び脱塩水(668kg/h)の流量は、出口で10重量%の濃度に到達するように、コリオリ質量流量計に接続された制御バルブを使用して調節する。その後、希釈された流れを、プレート式熱交換器を介して20℃まで冷却してからpH測定する。短期間の標準偏差に基づくpH測定の能力(6×σ
sv=+/-0.02のpH単位)は、
図2によれば、+/-0.00008の精度で水溶液中のモル比を制御することを可能にする。