(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】非水二次電池及びそれに用いる非水電解液、並びにその非水二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220510BHJP
H01M 4/1315 20100101ALI20220510BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220510BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20220510BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20220510BHJP
H01M 10/0525 20100101ALN20220510BHJP
H01M 10/0585 20100101ALN20220510BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/1315
H01M4/139
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0525
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2019544506
(86)(22)【出願日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2018033101
(87)【国際公開番号】W WO2019065151
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2019-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2017191408
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「先進・革新蓄電池材料評価技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】喜多 房次
(72)【発明者】
【氏名】水野 悠
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-072858(JP,A)
【文献】特開平10-188950(JP,A)
【文献】特開2000-357505(JP,A)
【文献】特開2001-222995(JP,A)
【文献】特開2002-075367(JP,A)
【文献】特開2014-120456(JP,A)
【文献】特開2007-220335(JP,A)
【文献】特開2016-186918(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094416(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/00-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極及び非水電解液を含む非水二次電池であって、
前記正極は、正極合剤層を含み、
前記正極合剤層の空隙率が、22%以上35%以下であり、
1/3Cの電流で4.5Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電した後の前記正極を、メチルエチルカーボネートで洗浄した後に真空乾燥し、その後、前記正極の表面をX線光電子分光分析法で分析した場合、
前記正極の表面における、酸素原子の含有割合をRo(原子%)、フッ素原子の含有割合をRf(原子%)、1s軌道の結合エネルギーが289~291eVの炭素原子の含有割合をRc(原子%)とすると、
Rf/Roが0.05以上1.3以下であるか、又はRc/Roが0.05以上0.75以下であることを特徴とする非水二次電池。
【請求項2】
前記正極の表面のX線光電子分光分析法による分析において、下記(1)~(3)のいずれかを満たす請求項1に記載の非水二次電池。
(1)前記正極の表面における窒素原子の含有割合が0.1原子%以上1原子%以下
(2)前記正極の表面におけるリン原子の含有割合が0.5原子%以上10原子%以下
(3)前記正極の表面におけるコバルト、ニッケル、マンガン及び鉄の含有割合の合計が0.1原子%以上15原子%以下
【請求項3】
前記正極の表面が、リグニン化合物、ポリ酸塩、モノフルオロリン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、ジエチレントリアミン五酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、ポリペプチド類又はその塩、及びポリアリルアミンよりなる群から選択される少なくとも1種の成分で被覆されている請求項1に記載の非水二次電池。
【請求項4】
前記正極は、フッ素含有化合物及び炭酸化合物から選ばれる少なくとも一方を含む請求項1に記載の非水二次電池。
【請求項5】
正極、負極及び非水電解液を含む非水二次電池を製造する方法であって、
正極の表面に塗布する処理液を準備する工程と、
前記処理液を正極の表面に塗布する工程とを含み、
前記処理液が、リグニン化合物、ポリ酸塩、モノフルオロリン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、ジエチレントリアミン五酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、ポリペプチド類又はその塩、及びポリアリルアミンよりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含み、
前記電池を1/3Cの電流で4.5Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電した後の前記正極を、メチルエチルカーボネートで洗浄した後に真空乾燥し、その後、前記正極の表面をX線光電子分光分析法で分析した場合、
前記正極の表面における、酸素原子の含有割合をRo(原子%)、フッ素原子の含有割合をRf(原子%)、1s軌道の結合エネルギーが289~291eVの炭素原子の含有割合をRc(原子%)とすると、
Rf/Roが0.05以上1.3以下であるか、又はRc/Roが0.05以上0.75以下であることを特徴とする非水二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記正極は、正極合剤層を含み、
前記正極合剤層をプレス処理する工程と、前記プレス処理された正極合剤層の表面に前記処理液を塗布する工程とを含む請求項5に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記正極合剤層をプレス処理する工程において、前記正極合剤層の空隙率を、22%以上35%以下とする請求項6に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記処理液における前記成分の濃度が、0.01質量%以上20質量%以下であり、
前記処理液の前記正極の表面への塗布量が、前記処理液の乾燥成分質量換算で、0.0002mg/cm
2以上0.5mg/cm
2以下である請求項5に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項9】
正極、負極及び非水電解液を含む非水二次電池を製造する方法であって、
リグニン化合物、ポリ酸塩、モノフルオロリン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、ジエチレントリアミン五酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、ポリペプチド類又はその塩、及びポリアリルアミンよりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む非水電解液を準備する工程と、
正極、負極及び前記非水電解液を用いて電池を組み立てる工程と、
前記組み立てた電池を、4.35V以上となる電圧まで充電した後に放電する工程とを含み、
前記電池を1/3Cの電流で4.5Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電した後の前記正極を、メチルエチルカーボネートで洗浄した後に真空乾燥し、その後、前記正極の表面をX線光電子分光分析法で分析した場合、
前記正極の表面における、酸素原子の含有割合をRo(原子%)、フッ素原子の含有割合をRf(原子%)、1s軌道の結合エネルギーが289~291eVの炭素原子の含有割合をRc(原子%)とすると、
Rf/Roが0.05以上1.3以下であるか、又はRc/Roが0.05以上0.75以下であることを特徴とする非水二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池及びそれに用いる非水電解液、並びにその非水二次電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等のポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化等に伴い、小型・軽量で且つ高容量・高エネルギー密度の二次電池が必要とされるようになってきている。
【0003】
現在、この要求に応え得る非水二次電池、特にリチウムイオン電池では、正極活物質にコバルト酸リチウム(LixCoO2)、ニッケル酸リチウム(LixNiO2)、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム(LixNiy1Coy2Mny3O2:0.9<x<1.1、0<y1~3<1、y1+y2+y3=1)等のリチウム含有複合酸化物あるいはこれらの複合体や混合物を用い、負極活物質に黒鉛等を用いている。そして、非水二次電池の適用機器の更なる発達に伴って、非水二次電池の更なる高容量化・高エネルギー密度化が求められている。
【0004】
非水二次電池の高容量化及び高エネルギー密度化を図る手法の一つとして、正極活物質を高電圧で充電して用いることが挙げられる。しかし、非水二次電池の高エネルギー密度化及び高電圧化に伴い、電池の充放電サイクル特性の低下が顕著になってきた。
【0005】
従来、高電圧下における充放電サイクル特性の低下を抑制するため、正極活物質に異種金属を固溶させ、正極の表面を金属酸化物で被覆することが提案されているが、被膜の高電圧安定性に劣り、被膜と電解液との相互作用により被膜が劣化するという問題がある。また、同様の目的で、正極の表面を有機物やアルカリ金属塩、アルカリ土類塩で被覆することも種々検討されている。しかし、有機化合物からなる被膜の場合、一般にフッ素化合物等の耐高電圧性材料を用いて被膜を形成しなければ高電圧用の被膜としては使用に耐えない。また、有機化合物からなる被膜は、電解液により膨潤しやすいため、電解液と正極とを遮断するという被膜効果は低いと考えられる。更に、アルカリ金属塩、アルカリ土類塩で被覆を形成した場合、被膜が電解液に溶解しやすく、また、被膜が電解液を吸収しやすく、いずれも被膜効果が低下する問題がある。
【0006】
例えば、非特許文献1には、正極活物質を無機酸化物でコーテイングする例が記載されている。これにより、活物質の副反応は抑制できるが、活物質表面の電子伝導性が阻害される恐れがある。特許文献1には、活物質の表面が、多価のフッ素含有有機リチウム塩で被覆された例について記載されており、高電圧に強いフッ素化合物で被覆することで電解液の高電圧下での反応は抑制されるが、簡便な手法ではなく、抵抗の増加も懸念される。特許文献2には、正極塗料中に保護膜材料を添加し、正極材料表面に熱作動保護膜を形成し、電池の安全性を改善することが提案されているが、塗料に保護膜材料を添加するため、電極の抵抗増加が懸念される。特許文献3には、電極表面(特に負極)表面に多孔質保護膜を形成することが提案されているが、多孔質であるため電解液と正極の反応抑制には効果が低いと考えられる。また、特許文献3には、正極表面に保護膜を形成する具体例は記載されていない。
【0007】
また、従来、安全性確保のために様々な電解液添加剤が検討されてきた。シクロヘキシルベンゼンやビフェニル等がその代表例であるが、4.35V程度の高電圧まで充電されるタイプの電池では、通常の充電状態でも添加剤が反応する領域になってしまい、実用上はそれらの添加剤を使用できない場合が多くなってきている。また、通常の4.2V充電であっても添加剤の一部は反応して電池性能に影響を与える。そこで、高電圧下でも使用可能で、安全性を確保できる電解液添加剤が必要になってきている。
【0008】
特許文献4には、高い電圧下でも使用可能な非水二次電池が提案されており、その電池の電解液添加剤として分子内にニトリル基を2以上有する化合物を使用することが記載され、具体的には、スクシノニトリル等のジニトリルを用いることが記載されている。一方、特許文献4では、電極の反応性を考慮すると分子内にニトリル基を2以上有する化合物の添加量は、1質量%以下が望ましい範囲としている。
【0009】
また、特許文献5には、電解液添加剤としてグルタロニトリル等のジニトリルを高濃度で用いる非水電解液二次電池が提案されている。特許文献5では、充放電サイクル特性の向上は記載されているが、その充放電サイクル特性の評価を、対極としてリチウム金属を用いて行っており、負極の反応に課題がある。一般にニトリル類は、電池の膨れを抑制するなどの効果はあるが、負極の反応性に課題があり、我々の検討でも充放電サイクル特性に課題があることが分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-243696号公報
【文献】特開2010-157512号公報
【文献】特開2009-301765号公報
【文献】特開2008-108586号公報
【文献】特開平9-161845号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Y.J.Kim 他、Journal of The Electrochemical Society、150(12)、A1723-A1725(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記問題を解決するものであり、高電圧での充放電サイクル特性に優れた非水二次電池及びそれに用いる非水電解液、並びにその非水二次電池の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の非水二次電池は、正極、負極及び非水電解液を含む非水二次電池であって、前記正極の表面が、成分1、成分2及び成分3から選ばれる少なくとも1つの成分で被覆されており、前記成分1が、糖類似化合物であり、前記成分2が、金属塩であり、前記成分3が、窒素含有化合物であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の非水二次電池は、正極、負極及び非水電解液を含む非水二次電池であって、前記非水電解液又は前記正極は、フッ素含有化合物又は炭酸化合物を含み、前記非水電解液は、ビニレンカーボネート以外の添加剤を含み、前記非水電解液における前記添加剤の濃度が、0.05質量%以上3質量%以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の非水電解液は、上記本発明の非水二次電池に用いる非水電解液であって、フッ素含有化合物及び炭酸化合物から選ばれる少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第1の非水二次電池の製造方法は、上記本発明の非水二次電池を製造する方法であって、成分1、成分2及び成分3から選ばれる少なくとも1つの成分を含む処理液を準備する工程と、前記処理液を正極の表面に塗布する工程とを含み、前記成分1が、糖類似化合物であり、前記成分2が、金属塩であり、前記成分3が、窒素含有化合物であり、前記正極は、プレス処理後の正極であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第2の非水二次電池の製造方法は、上記本発明の非水二次電池を製造する方法であって、成分1、成分2及び成分3から選ばれる少なくとも1つの成分を含む非水電解液を準備する工程と、正極、負極及び前記非水電解液を用いて電池を組み立てる工程と、前記組み立てた電池を充放電する工程とを含み、前記成分1が、糖類似化合物であり、前記成分2が、金属塩であり、前記成分3が、窒素含有化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高電圧での充放電サイクル特性に優れた非水二次電池及びそれに用いる非水電解液、並びにその非水二次電池の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、非水二次電池の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(非水二次電池の第1の実施形態)
本発明の非水二次電池の第1の実施形態は、正極、負極及び非水電解液を備え、上記正極の表面が、成分1、成分2及び成分3から選ばれる少なくとも1つの成分で被覆されており、上記成分1が糖類似化合物であり、上記成分2が金属塩であり、上記成分3が窒素含有化合物である。
【0021】
上記正極の表面を上記成分で被覆することにより、高電圧下でも安定な被膜を正極の表面に形成でき、正極と非水電解液との接触を減少させて、高電圧下での充放電サイクル特性を向上できる。
【0022】
また、本発明者らは、上記正極の表面を上記成分で被覆することを検討する中で、正極の表面を特定の表面状態にすることにより、電解液の添加剤効果がより向上でき、高電圧下での充放電サイクル特性を確実に向上できることを確認した。具体的には、電池を1/3Cの電流で4.5Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電した後の正極を、メチルエチルカーボネートで洗浄した後に真空乾燥し、その後、上記正極の表面をX線光電子分光分析法で分析した場合、上記正極の表面における、酸素原子の含有割合をRo(原子%)、フッ素原子の含有割合をRf(原子%)、1s軌道の結合エネルギーが289~291eVの炭素原子の含有割合をRc(原子%)とすると、Rf/Roが0.05以上1.3以下であるか、又はRc/Roが0.05以上0.75以下である表面状態が好ましいことが判明した。
【0023】
以下、本実施形態の各要素について詳述する。
【0024】
<成分1、成分2及び成分3>
電池の充電電圧がリチウム基準で4.2Vを超える場合に、電解液や電極に含有させる物質として、従来、高電圧下で反応しにくい耐高電圧性のフッ素系化合物等がよく利用されてきた。一方、本発明者らの検討の結果、高電圧で反応しやすい窒素原子を含有する化合物、及び、電池に使用するのは望ましくないと考えられてきたOH基を有するポリマー等も、高電圧下での充放電サイクル特性の向上に効果が高いことが分かった。具体的には、糖類似化合物(成分1)、金属塩(成分2)及び窒素含有化合物(成分3)である。特に、糖類似化合物(成分1)はOH基を有するものが多く、また、窒素含有化合物(成分3)は酸化に弱い窒素原子部を有しており、従来は、高電圧下で使用される正極と共には通常使用されないものである。しかし、本発明者らは、高電圧充電電池に通常用いられない物質についてもあえて検討した結果、高電圧下での充放電サイクル特性の向上に効果があることを確認した。上記成分1~3は、正極にバインダ以外として含有させることにより効果を発揮するが、特に正極の表面に多く存在させることにより効果があり、正極の表面を成分1、成分2及び成分3から選ばれる少なくとも1つの成分で被覆することが最も効果が大きい。また、成分1~3に該当する具体的な物質は、一つの物質で複数の成分に分類されているものが好ましく、例えば、リグニンスルホン酸マグネシウムは、糖類似化合物(成分1)であり、且つ、金属塩(成分2)でもあるので、好ましい成分である。
【0025】
[成分1]
上記成分1は、糖類似化合物である。上記糖類似化合物は、糖類とその関連物質を含む。上記糖類としては、ブドウ糖等の単糖類、スクロース等の多糖類、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、グルコマンナン等も含まれる。また、α-、β-、γ-シクロデキストリン、デオキシリボース、フコース、ラムノース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、グルコサミン、ガラクトサミン、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、アスコルビン酸(ビタミンC)、グルクロノラクトン、グルコノラクトン等も糖類に含まれる。また、上記糖類の関連物質には、OH基を複数有する化合物であるリグニン、リグニン誘導体、アルギン酸、アルギン酸塩等も含まれ、OH基を複数有する化合物には、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等も含まれる。
【0026】
上記糖類としては、スクロース等の多糖類が望ましく、上記OH基を複数有する化合物としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、リグニン化合物(リグニン、リグニン誘導体)、アルギン酸、アルギン酸塩が望ましい。
【0027】
上記糖類似化合物の分子量は、電解液中で溶解しにくいように200以上が望ましく、500以上がより望ましく、1000以上が最も望ましい。
【0028】
上記成分として、本来不安定なOH基を有する化合物が高電圧で効果がある理由については明確ではないが、高電圧による分子状態の変化、及び、その分子間の水素結合が作用していると考えられる。また、上記成分にフッ素原子を含有していないことが望ましい。上記成分にフッ素原子を含有すると被覆物の溶解や膨潤が起きやすくなり正極の保護効果が低下する傾向にあるからである。
【0029】
[成分2]
上記成分2は、金属塩であり、望ましくはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であり、より望ましくはマグネシウム塩又はナトリウム塩である。また、リン系の塩、硫酸塩、カルボン酸塩が望ましく、特にリン系の塩が望ましい。上記リン系の塩としては、例えば、モノフルオロリン酸塩(MA2PO3F)、メタリン酸塩((MAPO3)n)、ピロリン酸塩(MA4P2O7)が挙げられる。上記化学式中のMAは、金属元素を示し、価数は1~3である。
【0030】
また、上記成分2としては、ポリ酸塩も望ましい。上記ポリ酸塩とは、化学式が[MxOy]n-(Mは、Mo、V、W、Ti、Al、Nb等)で表される分子を含む塩を指す呼称である。例えば、タングステン酸、モリブデン酸、ヴァナジン酸、マンガン酸等の塩類が挙げられる。上記のリン系の塩やポリ酸塩が望ましいのは、高電圧でも安定で電解液にも溶解しにくいためと考えられる。
【0031】
[成分3]
上記成分3は、窒素含有化合物である。上記窒素含有化合物は、部分的に塩になっていることが望ましい。これにより、窒素含有化合物が水溶性となり電極処理がしやすくなるからである。通常は、窒素含有化合物は、高電圧には弱く電池を劣化させやすいと思われている。しかし、多くの窒素含有化合物は、高電圧で反応している可能性が高いが、反応した後に良好な被覆効果を示すことも多い。
【0032】
上記窒素含有化合物としては、アミン、アミド、イミド、アミノ酸、タンパク質等が挙げられる。一方、上記窒素含有化合物は、非水電解液中に溶解すると被覆効果が十分に得られない場合もあるので、溶解しにくいように塩になっているか、分子量が200以上の化合物であることが望ましく、塩であることがより望ましい。上記窒素含有化合物塩のアニオン部分は、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基が望ましい。上記窒素含有化合物塩としては、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム等のジエチレントリアミン五酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム等のエチレンジアミン四酢酸塩、及びその他のマグネシウム塩、ポリグルタミン酸ナトリウム等のポリペプチド類とその塩、タンパク質、アスパラギン酸塩、ヒアルロン酸ナトリウム(鶏冠由来)、ポリイミド塩、ポリアミド塩、ポリアリルアミン等が挙げられる。化合物1分子中において、上記塩の部分が複数個あることが望ましく、上記塩の部分が4個以上あることがより望ましく、5個以上が最も望ましい。上記窒素含有化合物塩は、アミンの酢酸塩であることがより望ましい。
【0033】
また、上記成分にフッ素原子を含有していないことが望ましい。上記成分にフッ素原子を含有すると被覆物の溶解や膨潤が起きやすくなり正極の保護効果が低下する傾向にあるからである。
【0034】
[正極の被覆]
上記正極の被覆は、上記成分1~3を少なくとも主成分として被覆処理を行うことが望ましい。副成分としてアルミナ等の絶縁材料や添加物を入れることもできるが、副成分が多くなると副成分の部分から電解液が浸入し被覆による保護効果が損なわれるおそれがあるからである。具体的な正極の被覆方法は、上記成分1~3を少なくとも含む処理液を正極の表面に塗布することにより行うことができる。その場合の上記処理液中の上記成分1~3の固形分中の割合は、50質量%以上が望ましく、70質量%以上がより望ましく、90質量%以上が最も望ましい。
【0035】
また、上記正極の他の被覆方法としては、上記成分1~3を正極活物質中に含有させるか、又は上記成分1~3を非水電解液中に含有させて、電池を組み立てた後に、充放電する方法がある。
【0036】
上記正極の被覆方法がどの方法であっても、正極の電子伝導を確保する点、及び被膜の破壊を防ぐ点から、プレス処理後の正極に上記被膜を形成することが望ましい。
【0037】
<正極の表面状態>
上記正極の表面状態とは、前述のとおり、電池を1/3Cの電流で4.5Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電した後の上記正極を、メチルエチルカーボネートで洗浄した後に真空乾燥し、その後、上記正極の表面をX線光電子分光分析法(XPS)で分析した場合、上記正極の表面における、酸素原子の含有割合をRo(原子%)、フッ素原子の含有割合をRf(原子%)、1s軌道の結合エネルギーが289~291eVの炭素原子の含有割合をRc(原子%)とすると、Rf/Roが0.05以上1.3以下であるか、又はRc/Roが0.05以上0.75以下である正極の表面状態をいう。上記正極の表面状態においては、上記正極の表面に何らかの被膜が形成されていると考えられる。上記被膜は、前述の成分1~3による正極の被覆の作用により形成されてもよいし、後述する非水電解液に含まれる特定の成分又は特定の添加剤の作用により形成されてもよい。
【0038】
上記Rf/Roは、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、また、1.3以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.5以下が最も好ましい。また、上記Rc/Roは、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、また、0.75以下が好ましく、0.6以下がより好ましく、0.5以下が最も好ましい。これらの値が大きすぎると形成された被膜の電極保護性能が低くなる傾向があり、小さすぎると電極保護性能は高いが、抵抗増加による電気特性が低下する傾向がある。
【0039】
上記Rf/Ro及び上記Rc/Roが、どうして上記範囲内であることが望ましいかは検討中であるが、正極の表面は様々な酸素を含む化合物を含む状態で形成されている(例えば、活物質の酸素、電解液分解物の酸素等)。また、酸素の含有量についても炭素に次いで多く、一方で酸素はイオンの移動と電極の保護に重要な元素である。例えば、金属酸化物正極の場合は、酸素は活物質の構成元素であり、イオン輸送や反応性にかかわる。また、正極の表面にできた生成物も、炭酸化合物(炭酸塩、炭酸エステル等)、リン酸化合物、硫酸化合物、アルコラート、エーテル化合物等の被膜形成とその形成反応に重要な成分である。
【0040】
ここで、上記Rf/Ro及び上記Rc/Roが上記範囲内であることは、正極の表面に良好な保護膜が特定の状態で形成され、1s軌道の結合エネルギーが289~291eVの炭素原子を含む炭素含有化合物あるいはフッ素化合物等の電解液の分解等による生成物が正極の表面に形成されることを抑えることができることを意味していると考えられる。即ち、上記炭素含有化合物は主に炭酸化合物と考えられ、高電圧下ではCO2を発生させる場合もあるので多すぎると望ましくない。また、正極の表面に存在するフッ素は、電解液中のLiPF6等のフッ素化合物成分や正極に含まれるフッ素化合物成分由来であるが、このフッ素が正極の表面に多く存在するとLiイオンの出入りがしにくくなり電池特性が低下してしまうと共に不均一な反応も起こり、高電圧のサイクル特性も低下する恐れがある。一方、上記炭素含有化合物やフッ素化合物は、電極保護やイオンの輸送にもかかわっているので、少量は存在しないと電気特性に影響するものと推察される。
【0041】
上記正極が上記表面状態である場合、上記正極の表面におけるコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及び鉄(Fe)の含有割合の合計は、上記被膜の形成により、低下するが、低下しすぎると電気特性が損なわれる。このため、上記正極の表面をXPS分析した場合、上記正極の表面におけるCo、Ni、Mn及びFeの含有割合の合計は、0.1原子%以上が好ましく、0.2原子%以上がより好ましく、0.5原子%以上が最も好ましく、また、15原子%以下が好ましく、5原子%以下がより好ましく、3原子%以下が最も好ましい。
【0042】
上記正極を前述のリン系の塩、硫酸塩、ポリ酸塩、窒素含有化合物等により被覆した場合は、上記正極の表面におけるリン(P)、イオウ(S)、金属成分(Mo、V、W、Ti、Al、Nb等)、及び窒素(N)の各含有割合が特定の範囲にあることが望ましい。
【0043】
具体的には、上記正極の表面をXPS分析した場合、S、金属成分(Mo、V、W、Ti、Al、Nb等)及びNの各含有割合は、0.1原子%以上が望ましく、0.2原子%以上がより望ましく、0.5原子%以上が最も望ましく、また、1原子%以下が望ましく、0.5原子%以下がより望ましい。また、同様にP原子の含有割合は、0.5原子%以上が望ましく、1原子%以上がより望ましく、2%原子以上が最も望ましく、また、10原子%以下が望ましく、5原子%以下がより望ましい。これらの値が大きすぎると形成された被膜の電極保護性能が低くなる傾向があり、小さすぎると電極保護性能は高いが、抵抗増加による電気特性が低下する傾向がある。
【0044】
前述のとおり、上記正極の表面のXPS分析は、電池を1/3Cの電流で4.5Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電した後の正極を、メチルエチルカーボネートで洗浄した後に真空乾燥した後に行うが、上記正極の洗浄は、通常、不活性雰囲気中で行う。XPS測定装置は、例えば、Kratos社製のXPS測定装置"AXIS-NOVA"を用い、X線源として単色化AlKα(1486.6eV)を用い、分析領域700μm×300μmの範囲で観察を行う。上記装置に試料をセットする際は、トランスファベッセルを用いて、試料に水分ができるだけ触れないようにして行うことが好ましい。
【0045】
次に、本実施形態の非水二次電池の各要素について、代表的なリチウムイオン電池を例示して説明する。上記リチウムイオン電池は、正極と、負極と、非水電解液と、セパレータとを備えている。
【0046】
<正極>
上記正極には、例えば、正極活物質、導電助剤及びバインダ等を含有する正極合剤層を、集電体の片面又は両面に有する構造のものが使用できる。
【0047】
上記正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム含有遷移金属酸化物等が使用される。リチウム含有遷移金属酸化物としては、従来から知られているリチウムイオン電池に使用されているものが挙げられる。具体的には、LiyCoO2(但し、0≦y≦1.1である。)、LizNiO2(但し、0≦z≦1.1である。)、LipMnO2(但し、0≦p≦1.1である。)、LiqCorM2
1-rO2(但し、M2は、Mg、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Al、Ti、Ge及びCrよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素であり、0≦q≦1.1、0<r<1.0である。)、LisNi1-tM3
tO2(但し、M3は、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ti、Ge及びCrよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素であり、0≦s≦1.1、0<t<1.0である。)、LifMnvNiwCo1-v-wO2(但し、0≦f≦1.1、0<v<1.0、0<w<1.0である。)等の層状構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、これらのうちの1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
上記バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸塩、ポリイミド、ポリアミドイミド等が好適に用いられる。
【0049】
また、上記導電助剤としては、例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等の黒鉛(黒鉛質炭素材料);アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカ-ボンブラック;炭素繊維;等の炭素材料等が挙げられる。
【0050】
上記正極は、例えば、上記正極活物質、上記バインダ及び上記導電助剤を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の正極合剤含有塗料を調製し、これを集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてプレス処理を施す工程を経て製造される。但し、正極は、上記の製造方法で製造されたものに制限される訳ではなく、他の製造方法で製造されたものであってもよい。
【0051】
上記正極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10~100μmであることが好ましい。上記正極合剤層の密度は、集電体に積層した単位面積あたりの正極合剤層の質量と、厚みとから算出され、3.0~4.5g/cm3であることが好ましい。上記正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質の量が60~95質量%であることが好ましく、バインダの量が1~15質量%であることが好ましく、導電助剤の量が3~20質量%であることが好ましい。
【0052】
上記正極の表面に前述の成分1~3を少なくとも含む処理液を塗布して、上記正極の表面を被覆する場合、上記正極合剤層の空隙率は、22%以上が望ましく、25%以上がより望ましく、28%以上が最も望ましく、また、35%以下が望ましく、32%以下がより望ましく、29%以下が最も望ましい。上記正極合剤層の空隙率が大きすぎると上記処理液の大半が正極内部に浸入してしまい、表面での被覆効果が低くなるからであり、また、小さすぎると上記成分により形成される被覆が表面に限定されてしまい、被覆強度が低下するからである。
【0053】
上記正極の集電体には、従来から知られているリチウムイオン電池の正極に使用されているものと同様のものが使用でき、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又はそれらの合金からなる箔、パンチドメタル、エキスパンドメタル、網等が挙げられ、通常、厚みが10~30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0054】
<負極>
上記負極には、例えば、負極活物質及びバインダ等を含有する負極合剤層を、集電体の片面又は両面に有する構造のものが使用できる。
【0055】
上記負極合剤層に含まれる負極活物質には、リチウムを脱挿入できる化合物や、リチウムと合金化可能な元素を含む材料が使用できるが、黒鉛質炭素材料を用いることが好ましい。黒鉛質炭素材料としては、従来から知られているリチウムイオン電池に使用されているものが好適であり、例えば、鱗片状黒鉛等の天然黒鉛;熱分解炭素類、メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維等の易黒鉛化炭素を2800℃以上で黒鉛化処理した人造黒鉛;等が挙げられる。また、リチウムと合金化可能な元素を含む材料としては、リチウムと合金化可能な金属(Si、Sn等)又はその合金が挙げられるが、一般組成式SiOx(但し、Siに対するOの原子比xは、0.5≦x≦1.5である。)で表されるSiとOとを構成元素に含む材料も用いることができる。
【0056】
上記負極合剤層に使用するバインダには、前述した正極のバインダとして例示したバインダと同じものが使用できる。
【0057】
また、上記負極合剤層には、更に導電助剤として導電性材料を添加してもよい。上記導電性材料としては、リチウムイオン電池内において化学変化を起こさないものであれば特に限定されず、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の各種カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維等の材料を1種又は2種以上用いることができる。
【0058】
上記負極は、例えば、負極活物質及びバインダ、更には必要に応じて導電助剤をNMPや水等の溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の負極合剤含有塗料を調製し、これを集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてプレス処理を施す工程を経て製造される。但し、負極は、上記の製造方法で製造されたものに制限される訳ではなく、他の製造方法で製造されたものであってもよい。
【0059】
上記負極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10~100μmであることが好ましい。上記負極合剤層の密度は、1.0~1.9g/cm3であることが好ましい。上記負極合剤層の組成としては、負極活物質の量が80~99質量%であることが好ましく、バインダの量が1~20質量%であることが好ましく、導電助剤を使用する場合には、導電助剤は、負極活物質の量及びバインダの量が上記の好適値を満足する範囲内で使用することが好ましい。
【0060】
上記負極の集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル等を用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、機械的強度を確保するためには厚みの下限は5μmであることが好ましい。
【0061】
<非水電解液>
上記非水電解液には、有機溶媒に無機リチウム塩や有機リチウム塩等の電解質塩を溶解した非水電解液が使用される。
【0062】
上記有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、燐酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3-プロパンサルトン等の非プロトン性有機溶媒が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
上記無機リチウム塩としては、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸Li、LiAlCl4、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランLi、四フェニルホウ酸Li等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記有機リチウム塩としては、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCn1F2n1+1SO3(2≦n1≦7)、LiN(Rf1OSO2)2[但し、Rf1はフルオロアルキル基である。]等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
上記電解質塩の濃度は、非水電解液中、例えば、0.2~3.0mol/dm3であることが好ましく、0.5~1.5mol/dm3であることがより好ましく、0.9~1.3mol/dm3であることが更に好ましい。
【0066】
前述のとおり、電池を1/3Cの電流で4.5Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電した後の正極を、メチルエチルカーボネートで洗浄した後に真空乾燥し、その後、上記正極の表面をX線光電子分光分析法(XPS)で分析した場合、上記正極の表面における、酸素原子の含有割合をRo(原子%)、フッ素原子の含有割合をRf(原子%)、1s軌道の結合エネルギーが289~291eVの炭素原子の含有割合をRc(原子%)とすると、Rf/Roが0.05以上1.3以下であるか、又はRc/Roが0.05以上0.75以下である正極の表面状態を得るためには、上記非水電解液は、上記リチウム塩としてフッ素含有化合物を含むことが好ましく、上記有機溶媒として炭酸化合物を含むことが好ましい。上記非水電解液は、上記フッ素含有化合物又は上記炭酸化合物のいずれか一方を少なくとも含めばよいが、上記フッ素含有化合物と上記炭酸化合物とを共に含むことが好ましい。但し、上記フッ素含有化合物と上記炭酸化合物は、正極に含有されていてもよい。
【0067】
上記正極の表面状態を得るための非水電解液としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びメチルエチルカーボネートより選ばれる少なくとも1種の鎖状カーボネートと、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートより選ばれる少なくとも1種の環状カーボネートとを含む溶媒に、LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)を溶解した非水電解液を使用することが特に好ましい。
【0068】
また、上記非水電解液には、充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵特性や過充電防止等の安全性を向上させる目的で、次に示す添加剤を適宜含有させることができる。上記添加剤としては、例えば、無水酸、スルホン酸エステル、ジニトリル、1,3-プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビニレンカーボネート(VC)、ビフェニル、フルオロベンゼン、t-ブチルベンゼン、環状フッ素化カーボネート[トリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等]、又は、鎖状フッ素化カーボネート[トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)、トリフルオロジエチルカーボネート(TFDEC)、トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)等]、フッ素化エーテル[Rf2-OR4(但し、Rf2はフッ素を含有するアルキル基であり、R4はフッ素を含有してもよい有機基である。]、リン酸エステル[エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA):(C2H5O)2(P=O)-CH2(C=O)OC2H5]、リン酸トリス(トリフルオロエチル)(TFEP):(CF3CH2O)3P=O、リン酸トリフェニル(TPP):(C6H5O)3P=O等(上記各化合物の誘導体も含む。)が挙げられる。
【0069】
前述の正極の被覆と合わせて用いると高電圧下での充放電サイクル特性の向上に効果が高い添加剤は、分子内にニトリル基を2つ以上有する化合物である。上記分子内にニトリル基を2つ以上有する化合物としては、例えば、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,12-ジシアノドデカン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、4-ジシアノペンタン、2,6-ジシアノヘプタン、2,7-ジシアノオクタン、2,8-ジシアノノナン、1,6-ジシアノデカン、1,2-ジシアノベンゼン等のジニトリル等が挙げられる。また、これらのジニトリル等は、その一部がフッ素化されていてもよい。
【0070】
上記非水電解液における上記分子内にニトリル基を2つ以上有する化合物の濃度は、0.1質量%以上が望ましく、2質量%以上がより望ましく、10質量%以上が最も望ましく、また、50質量%以下が望ましく、30質量%以下がより望ましく、20質量%以下が最も望ましい。
【0071】
<セパレータ>
上記セパレータとしては、強度が十分で、且つ非水電解液を多く保持できるものがよく、例えば、厚さが5~50μmで開口率が30~70%の、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン製の微多孔膜を用いることができる。上記セパレータを構成する微多孔膜は、例えば、PEのみを使用したものやPPのみを使用したものであってもよく、エチレン-プロピレン共重合体を含んでいてもよく、また、PE製の微多孔膜とPP製の微多孔膜との積層体であってもよい。
【0072】
また、上記セパレータとして、融点が140℃以下の樹脂を主体とした多孔質層(A)と、融点が150℃以上の樹脂又は耐熱温度が150℃以上の無機フィラーを主体として含む多孔質層(B)とから構成された積層型のセパレータを使用することもできる。上記多孔質層(A)は、主にシャットダウン機能を確保するためのものであり、リチウムイオン電池の内部温度が多孔質層(A)の主体となる成分である樹脂の融点以上に達したときには、多孔質層(A)に係る樹脂が溶融してセパレータの空孔を塞ぎ、電気化学反応の進行を抑制するシャットダウンを生じる。一方、上記多孔質層(B)は、リチウムイオン電池の内部温度が上昇した際にも正極と負極との直接の接触による短絡を防止する機能を備えたものであり、融点が150℃以上の樹脂又は耐熱温度が150℃以上の無機フィラーによって、その機能を確保している。即ち、電池が高温となった場合には、喩え多孔質層(A)が収縮しても、収縮し難い多孔質層(B)によって、セパレータが熱収縮した場合に発生し得る正負極の直接の接触による短絡を防止できる。また、この耐熱性の多孔質層(B)がセパレータの骨格として作用するため、多孔質層(A)の熱収縮、即ちセパレータ全体の熱収縮自体も抑制できる。ここで、「融点」とは、日本工業規格(JIS)K7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度を意味し、「耐熱温度が150℃以上」とは、少なくとも150℃において軟化等の変形が見られないことを意味している。
【0073】
上記セパレータ(ポリオレフィン製の微多孔膜からなるセパレータや、上記積層型のセパレータ)の厚みは、10~30μmであることがより好ましい。
【0074】
<電極体>
本実施形態の非水二次電池に用いられる電極体としては、上記正極と上記負極とを上記セパレータを介して積層した積層電極体や、上記積層電極体を更に渦巻状に巻回した巻回電極体が挙げられる。
【0075】
<電池の形態>
上記リチウムイオン電池の形態としては特に限定されず、例えば、コイン形、ボタン形、シート形、積層形、円筒形、扁平形、角形、電気自動車等に用いる大型のもの等のいずれであってもよい。
【0076】
<非水二次電池の特性>
本実施形態の非水二次電池の充電電圧は、リチウム基準で4.35V以上が望ましく、4.45V以上がより望ましく、4.55V以上が最も望ましい。充電電圧が高くなるほど本実施形態の正極被覆による電極保護作用が有効に作用するからである。また、上記充電電圧は、5.5V以下が望ましい。充電電圧が高すぎると保護膜自体の分解の恐れがあるからである。更に、リチウムイオン電池の充電電圧がリチウム基準で望ましくは4.4V以上、更に望ましくは4.55V以上になると、電池の継続的発熱状態がより低い温度から始まるため、前述のジニトリルを含有する電解液との組み合わせがより最適となる。
【0077】
本実施形態の非水二次電池では、1/3Cの電流で4.35Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電することを1サイクルとし、1サイクル時の放電容量に対する100サイクル時の放電容量の割合(%)を4.35V容量維持率:RLとし、1/3Cの電流で4.5Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電することを1サイクルとし、1サイクル時の放電容量に対する100サイクル時の放電容量の割合(%)を4.5V容量維持率:RHとした場合、容量維持率比:RH/RLを0.75以上とすることができる。上記容量維持率比:RH/RLは、0.8以上がより望ましく、0.9以上が最も望ましい。即ち、本実施形態の非水二次電池では、高電圧下においても充放電サイクル特性の低下を低く抑えることができる。また、本実施形態と充電電圧が異なる場合は、その充電電圧での充放電サイクル試験での容量維持率をRH'とし、その充電電圧より0.15V低い電圧で同様の充放電サイクル試験を行った場合の容量維持率をRL'としたとき、RH'/RL'は、0.8以上がより望ましく、0.9以上が最も望ましい。
【0078】
また、正極の被覆を行わなかった以外は本実施形態の非水二次電池と同様にして作製した従来の非水二次電池において、1/3Cの電流で4.35Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電することを1サイクルとし、1サイクル時の放電容量に対する100サイクル時の放電容量の割合(%)を4.35V容量維持率:RLCとし、1/3Cの電流で4.5Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電することを1サイクルとし、1サイクル時の放電容量に対する100サイクル時の放電容量の割合(%)を4.5V容量維持率:RHCとした場合、4.35Vにおいて本実施形態のRLと従来のRLCから下記式(1)で計算される4.35V容量維持率改善割合Aと、4.5Vにおいて本実施形態のRHと従来のRHCから下記式(2)で計算される4.5V容量維持率改善割合Bとを比較すると、本実施形態では、当初の予想に反して、4.5V容量維持率改善割合Bが4.35V容量維持率改善割合Aより大きくすることができる。
A=〔(RL-RLC)/RLC〕×100 (1)
B=〔(RH-RHC)/RHC〕×100 (2)
【0079】
また、4.5V容量維持率改善割合Bと4.35V容量維持率改善割合Aとから求められるB/Aの値が1以上であれば、高電圧での充放電サイクル特性が高いことを示す。よって、B/Aは、1以上が望ましく、5以上がより望ましく、10以上が最も望ましい。
【0080】
また、本実施形態と充電電圧が異なる場合でも、その充電電圧での容量維持率改善割合をB'とし、その充電電圧より0.15V低い充電電圧での容量維持率改善割合をA'としたときも、B'/A'は、1以上が望ましく、5以上がより望ましく、10以上が最も望ましい。
【0081】
(非水二次電池の第2の実施形態)
本発明の非水二次電池の第2の実施形態は、正極、負極及び非水電解液を備え、上記非水電解液又は上記正極は、フッ素含有化合物又は炭酸化合物を含み、上記非水電解液は、ビニレンカーボネート以外の添加剤を含み、上記非水電解液における上記添加剤の濃度が、0.05質量%以上3質量%以下である。
【0082】
上記構成の非水二次電池とすることにより、電池を1/3Cの電流で4.5Vまで充電した後、1/3Cの電流で3Vまで放電した後の上記正極を、メチルエチルカーボネートで洗浄した後に真空乾燥し、その後、上記正極の表面をX線光電子分光分析法(XPS)で分析した場合、上記正極の表面における、酸素原子の含有割合をRo(原子%)、フッ素原子の含有割合をRf(原子%)、1s軌道の結合エネルギーが289~291eVの炭素原子の含有割合をRc(原子%)とすると、Rf/Roが0.05以上1.3以下であるか、又はRc/Roが0.05以上0.75以下とすることができる。これにより、高電圧下での充放電サイクル特性を向上できる。
【0083】
上記フッ素含有化合物及び上記炭酸化合物は、前述の第1の実施形態の非水二次電池で用いるものと同様のものが使用できる。
【0084】
また、上記ビニレンカーボネート以外の添加剤としては、窒素含有化合物が望ましく、非フッ素系(フッ素を含有しない)窒素含有化合物がより望ましい。更に、上記窒素含有化合物では、窒素原子にH原子が少なくとも1つ結合していることが望ましく、窒素原子にH原子が2つ結合していることがより望ましい。上記窒素含有化合物としては、アミン、アミド等が挙げられるが、アミンが特に望ましい。上記窒素含有化合物として、より具体的には、ジエチレングリコールビスアミノプロピルエーテル、ジエチレンオキサイドビスヘキサメチレントリアミン、ジシクロヘキシルアミン等を用いることができる。
【0085】
上記非水電解液における上記添加剤の濃度は、0.05質量%以上が望ましく、0.1質量%以上がより望ましく、また、3質量%以下が望ましく、1質量%以下がより望ましい。上記添加剤は、正極と反応して被膜を形成させるので、少なすぎると十分な被膜が形成されず、多すぎると抵抗が高くなるためである。
【0086】
また、本実施形態の非水二次電池の上記構成以外の構成は、前述の第1の実施形態の非水二次電池の構成と同様とすることができる。
【0087】
(非水二次電池の製造方法の実施形態)
本発明の非水二次電池の製造方法の第1の実施形態は、前述の第1の実施形態の非水二次電池を製造する方法であって、成分1、成分2及び成分3から選ばれる少なくとも1つの成分を含む処理液を準備する工程と、上記処理液を正極の表面に塗布する工程とを含み、上記成分1が、糖類似化合物であり、上記成分2が、金属塩であり、上記成分3が、窒素含有化合物であり、上記正極は、プレス処理後の正極である。
【0088】
上記成分1~3は、前述の第1の実施形態の非水二次電池で用いるものと同様のものが使用できる。
【0089】
上記正極として、プレス処理後の正極を用いるのは、上記正極の正極合剤層の空隙率を調整するためである。また、プレス処理後の正極では、既に導電性ネットワークが形成されており、その状態で被覆処理を行うことで、導電性への影響が少なく、且つ、導電材への被覆も合わせて行うことができ、電池特性上好適である。
【0090】
上記正極合剤層の空隙率は、22%以上が望ましく、25%以上がより望ましく、28%以上が最も望ましく、また、35%以下が望ましく、32%以下がより望ましく、29%以下が最も望ましい。上記正極合剤層の空隙率が大きすぎると上記処理液の大半が正極内部に浸入してしまい、表面での被覆効果が低くなるからであり、また、小さすぎると上記成分により形成される被覆が表面に限定されてしまい、被覆強度が低下するからである。
【0091】
本実施形態では、上記正極を上記処理液中に10秒間浸漬処理した後に取り出して、5秒放置した後に上記正極の質量を測定した場合、上記正極の上記浸漬処理前後の質量増加率は、3%以上が望ましく、20%以上がより望ましく、また、50%以下が望ましい。上記質量増加率が上記範囲内にあれば、正極の表面を上記処理液で適度に濡らすことができる。
【0092】
上記処理液における上記成分の濃度は、0.01質量%以上が望ましく、0.05質量%以上がより望ましく、0.1質量%以上が最も望ましく、また、20質量%以下が望ましく、10質量%以下がより望ましく、2質量%以下が最も望ましい。上記濃度が低すぎると被覆効果が低下し、上記濃度が高すぎると、被覆量の調整が困難となり、電極の抵抗が増大するためである。
【0093】
また、上記処理液の上記正極の表面への塗布量は、上記処理液の乾燥成分質量換算で、0.0002mg/cm2以上が望ましく、0.002mg/cm2以上がより望ましく、0.008mg/cm2以上が最も望ましく、また、0.5mg/cm2以下が望ましく、0.15mg/cm2以下がより望ましく、0.1mg/cm2以下が最も望ましい。上記塗布量が少なすぎると被覆効果が低下し、上記塗布量が多すぎると、電極の抵抗が増大するためである。
【0094】
また、本発明の非水二次電池の製造方法の第2の実施形態は、前述の第1の実施形態の非水二次電池を製造する方法であって、成分1、成分2及び成分3から選ばれる少なくとも1つの成分を含む非水電解液を準備する工程と、正極、負極及び上記非水電解液を用いて電池を組み立てる工程と、上記組み立てた電池を充放電する工程とを含み、上記成分1が、糖類似化合物であり、上記成分2が、金属塩であり、上記成分3が、窒素含有化合物である。
【0095】
上記成分1~3は、前述の第1の実施形態の非水二次電池で用いるものと同様のものが使用できる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0097】
(実施例1)
図1に示すラミネート型リチウムイオン電池を次のように作製した。
【0098】
〔正極の作製〕
先ず、正極活物質であるLiCoO2(日本化学工業社製、"C20F")100質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック3質量部と、バインダであるPVDF3質量部(NMP溶液として固形分量を供給)とを、溶媒であるNMPに均一になるように混合して正極合剤含有ペーストを調製した。次に、得られた正極合剤含有ペーストを、厚みが20μmのアルミニウム箔からなる集電体の片面に、塗布量が正極合剤含有ペーストの固形分量として18.0mg/cm2となるように塗布して乾燥させた後、カレンダー処理を行って、全厚が75μmになるように正極合剤層の厚みを調整し、タブ溶接部を残して長さ30mm、幅30mmになるように切断して正極を作製した。更に、この正極のタブ溶接部の活物質を取り除き、そのタブ溶接部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0099】
上記正極の質量を測定した後、上記正極をイオン交換水中に10秒間浸漬処理した後に取り出して、5秒放置した後に上記正極の質量を測定したところ、上記正極の上記浸漬処理前後の質量増加率は35%であった。
【0100】
〔正極の被覆処理〕
東京化成社製のジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム(約40質量%水溶液、成分2及び成分3に該当)をイオン交換水で希釈して、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%の水溶液を、本実施例の処理液として調製した。次に、上記で作製した正極の表面に、セルロースを巻いた塗り棒を用いて、上記処理液を約1mg/cm2の塗布量で塗布し、その後、上記正極を120℃で乾燥し、表面処理した正極を作製した。
【0101】
〔負極の作製〕
負極活物質である黒鉛(日立化成社製、"MAGE")100質量部と、バインダであるCMC1質量部(1質量%の水溶液として固形分量を供給)とSBR1.5質量部とを、溶媒であるイオン交換水に混合して負極合剤含有ペーストを調製した。次に、得られた負極合剤含有ペーストを、厚み16.5μmの銅箔の片面に、塗布量が負極合剤含有ペーストの固形分量として12.7mg/cm2となるように塗布して乾燥させた後、カレンダー処理を行って、全厚が113μmになるように負極合剤層の厚みを調整し、タブ溶接部を残して長さ32mm、幅32mmになるように切断して負極を作製した。更に、この負極のタブ溶接部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0102】
〔セパレータの準備〕
セパレータとしては、厚さ25μmのポリエチレン製微多孔膜を長さ45mm、幅40mmに切断したものを準備した。
【0103】
〔非水電解液の調製〕
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)との体積比1:3の混合溶媒1kgに、1.0molのLiPF6を溶解して混合液を作製し、その混合液100質量部に、更にビニレンカーボネート(VC)2質量部とスクシノニトリル3質量部とを加えて、非水電解液を調製した。
【0104】
〔電池の組み立てと充電〕
上記正極と上記負極とを、上記セパレータを介在させて重ね、正極/セパレータ/負極の3枚構成の積層電極体を作製した。得られた積層電極体をアルミニウムラミネートフィルムからなる外装体内に収納し、上記非水電解液を注入した後に封止を行った。最後に、上記ラミネート型リチウムイオン電池を10mA(1/3C相当のレート)で、上限電圧4.35V(Li基準で4.45V)、下限電圧3Vで5回充放電を行い、本実施例のラミネート型リチウムイオン電池とした。
【0105】
図1に作製したラミネート型リチウムイオン電池の平面図を示す。
図1において、ラミネート型リチウムイオン電池10は、積層電極体及び非水電解液が、平面視で矩形のアルミニウムラミネートフィルムからなる外装体11内に収納されている。そして、正極外部端子12及び負極外部端子13が、外装体11の同じ辺から引き出されている。
【0106】
(実施例2)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの濃度を2質量%とした以外は、実施例1と同様にして実施例2のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0107】
(実施例3)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの濃度を5質量%とした以外は、実施例1と同様にして実施例3のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0108】
(実施例4)
非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例4のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0109】
(実施例5)
非水電解液のスクシノニトリルの添加量を20質量部とした以外は、実施例1と同様にして実施例5のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0110】
(実施例6)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(成分2及び成分3に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例6のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0111】
(実施例7)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、フラクタン(成分1に該当)1質量%及びガンマグルタミン酸(成分3に該当)0.9質量%の混合水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例7のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0112】
(実施例8)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、Li2MoO4(成分2に該当)の1質量%水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例8のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0113】
(実施例9)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、Li2MoO4(成分2に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例9のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0114】
(実施例10)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、Li2WO4(成分2に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例10のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0115】
(実施例11)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、リグニンスルホン酸ナトリウム(日本製紙社製"サンエキスP252"、成分1及び成分2に該当)の5質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例11のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0116】
(実施例12)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、リグニンスルホン酸ナトリウム(日本製紙社製"サンエキスP321"、成分1及び成分2に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液のスクシノニトリルの添加量を20質量部とした以外は、実施例1と同様にして実施例12のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0117】
(実施例13)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、スクロース(成分1に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液のスクシノニトリルの添加量を20質量部とした以外は、実施例1と同様にして実施例13のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0118】
(実施例14)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、カルボキシメチルセルロース(CMC、成分1に該当)の0.1質量%水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例14のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0119】
(実施例15)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、カルボキシメチルセルロース(CMC、成分1に該当)の0.1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例15のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0120】
(実施例16)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、アルギン酸ナトリウム(成分1及び成分2に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液のスクシノニトリルの添加量を20質量部とした以外は、実施例1と同様にして実施例16のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0121】
(実施例17)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、モノフルオロリン酸ナトリウム(Na2PO3F、成分2に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例17のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0122】
(実施例18)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、Na3PO4(成分2に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例18のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0123】
(実施例19)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、メタリン酸ナトリウム〔(NaPO3)n、成分2に該当〕の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例19のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0124】
(実施例20)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、ピロリン酸ナトリウム(Na4P2O7、成分2に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例20のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0125】
(実施例21)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム(成分2に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例21のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0126】
(実施例22)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、ジベンゼンスルホン酸イミドリチウム(成分2及び成分3に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例22のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0127】
(実施例23)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、β-シクロデキストリン(成分1に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例23のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0128】
(実施例24)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、α-シクロデキストリン(成分1に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例24のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0129】
(実施例25)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、アルギン酸ナトリウム(成分1及び成分2に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例25のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0130】
(実施例26)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、アルギン酸とアルギン酸ナトリウム(アルギン酸の50%部分中和品、成分1及び成分2に該当)の1質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例26のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0131】
(実施例27)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、ポリアクリル酸ナトリウム(分子量:3~4万、成分1及び成分2に該当)の0.3質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例27のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0132】
(実施例28)
正極の被覆処理に用いた処理液において、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムの1質量%水溶液に代えて、ポリアクリル酸(分子量:25万、成分1に該当)の0.3質量%水溶液を用い、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして実施例28のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0133】
(実施例29)
処理液の塗布による正極の被覆処理を行わず、エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)との体積比1:3の混合溶媒1kgに、1.0molのLiPF6を溶解して混合液を作製し、その混合液100質量部に、更にビニレンカーボネート(VC)2質量部と、スクシノニトリル3質量部と、ジエチレングリコールビスアミノプロピルエーテル0.3質量部とを加えて非水電解液を調製し、この非水電解液を使用した以外は、実施例1と同様にして実施例29のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0134】
(比較例1)
処理液の塗布による正極の被覆処理を行わず、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0135】
(比較例2)
処理液の塗布による正極の被覆処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして比較例2のラミネート型リチウムイオン電池を作製した。
【0136】
次に、上記の実施例1~29及び比較例1~2の電池について下記評価試験を行い、並びに実施例1、5、11、12、19、20、29及び比較例1~2の正極表面のXPS分析を行った。
【0137】
<充放電サイクル試験>
[4.35V充放電サイクル試験]
電流10mA(1/3Cの電流値に相当)、上限電圧4.35V、下限電圧3Vの条件で、100回充放電を繰り返した。これに基づき、1サイクル時の放電容量に対する100サイクル時の放電容量の割合(%)を、実施例1~29については4.35V容量維持率:RLとして算出し、比較例1については4.35V容量維持率:RLC1として算出し、比較例2については4.35V容量維持率:RLC2として算出した。
【0138】
[4.5V充放電サイクル試験]
電流10mA(1/3Cの電流値に相当)、上限電圧4.5V、下限電圧3Vの条件で、100回充放電を繰り返した。これに基づき、1サイクル時の放電容量に対する100サイクル時の放電容量の割合(%)を、実施例1~29については4.5V容量維持率:RHとして算出し、比較例1については4.5V容量維持率:RHC1として算出し、比較例2については4.5V容量維持率:RHC2として算出した。
【0139】
[4.35V容量維持率改善割合Aの算出]
実施例1~29及び比較例2については下記式Aにより4.35V容量維持率改善割合Aを算出した。
A=〔(RL-RLC1)/RLC1〕×100
【0140】
[4.5V容量維持率改善割合Bの算出]
実施例1~29及び比較例2については下記式Bにより4.5V容量維持率改善割合Bを算出した。
B=〔(RH-RHC1)/RHC1〕×100
【0141】
[B/Aの算出]
上記4.35V容量維持率改善割合A及び上記4.5V容量維持率改善割合Bから、B/Aを算出した。
【0142】
<加熱試験>
ラミネート型リチウムイオン電池の外部端子を切断し、電池構成を保ったまま、その切断部にイミドテープを巻いてで絶縁処理を施し、それをアルミニウム箔で包み、測定試料とした。その後、その測定試料をセタラム社製のカロリーメーター"C80"の100気圧耐圧のステンレス製の試料容器に挿入し、更にその試料容器を"C80"の本体に挿入し、40℃から300℃まで1℃/分で昇温試験を行い、電池の発熱を計測し、200℃以上に見られる電池の発熱ピークの温度を測定した。
【0143】
<XPS分析>
電流10mA(1/3Cの電流値に相当)、上限電圧4.5V、下限電圧3Vの条件で1回充放電を行った後、電池を分解して正極を取り出し、上記正極を不活性雰囲気中で、メチルエチルカーボネートで洗浄した後に真空乾燥した。その後、Kratos社製のXPS測定装置"AXIS-NOVA"を用い、X線源として単色化AlKα(1486.6eV)を用い、分析領域700μm×300μmの範囲で、Pass Energy:20eVで不活性雰囲気から真空引きを行い、正極の表面のXPS分析を行った。また、上記XPS分析では、正極に含まれる導電助剤(カーボンブラック)のピーク位置(1s軌道の結合エネルギー:284.4eV)においてピーク位置補正を行い、ピーク分割については、位置ピークとピーク幅とをそろえて分離した。
【0144】
上記XPS分析結果として、上記正極の表面における、酸素原子の含有割合をRo(原子%)、フッ素原子の含有割合をRf(原子%)、1s軌道の結合エネルギーが289~291eVの炭素原子の含有割合をRc(原子%)として、Rf/Ro及びRc/Roを算出した。また、正極の表面の他の原子の含有割合も測定した。
【0145】
上記の実施例1~29及び比較例1~2で用いた正極表面処理剤及び非水電解液中のニトリル化合物の有無を表1及び表2に示す。また、上記評価試験及び正極表面のXPS分析の結果を表3及び表4に示す。また、表3及び表4では、他の原子割合として、N:窒素原子、P:リン原子、S:イオウ原子、M:活物質金属成分の含有割合もそれぞれ示した。
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
表1~4より、糖類似化合物(成分1)、金属塩(成分2)、窒素含有化合物(成分3)の少なくとも一種で被覆されている正極、あるいは特定の表面状態の正極を用いた電池は、高電圧下において優れた充放電サイクル特性が得られることが分かる。また、本来は充放電サイクル特性の悪いジニトリル化合物を電解液に用いることで安全性も改善でき、充放電サイクル特性も向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明によれば、高電圧での充放電サイクル特性に優れた非水二次電池を提供でき、本発明の非水二次電池は、小型・軽量で且つ高容量・高エネルギー密度の二次電池が必要とされる携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等のポータブル電子機器用電池や、電気自動車用電池として用いることができる。
【符号の説明】
【0152】
10 ラミネート型リチウムイオン電池
11 外装体
12 正極外部端子
13 負極外部端子