(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物およびその成形体、光透過性樹脂組成物、レーザー溶着体、レーザー溶着体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20220510BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K7/02
(21)【出願番号】P 2019572299
(86)(22)【出願日】2019-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2019005694
(87)【国際公開番号】W WO2019160117
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018026310
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 浩平
(72)【発明者】
【氏名】宝谷 洋平
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/159834(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/191269(WO,A1)
【文献】特開2008-266434(JP,A)
【文献】特開2012-040715(JP,A)
【文献】特開2013-199570(JP,A)
【文献】特開2011-063795(JP,A)
【文献】特開2015-058608(JP,A)
【文献】特開2003-064262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/06
C08K 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が300℃以上であるポリアミド樹脂(A)を30~89.9質量部と、
示差走査熱量測定(DSC)により測定される融点を実質的に有しないポリアミド樹脂(B)を0~45質量部と、
波長800~1064nmの範囲に吸収波長の極大値を有さない光透過性色素(C)を0.1~5質量部と
繊維状充填材(D)を10~55質量部と、
を含むポリアミド樹脂組成物であって(ただし、(A)、(B)、(C)および(D)の合計を100質量部とする)、
前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)と、ジアミンに由来する成分単位(a2)とを含み、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)の合計100モル%に対して、テレフタル酸に由来する成分単位を20~100モル%、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位および炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位の少なくとも一方を0~80モル%含み、
前記ジアミンに由来する成分単位(a2)は、炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位と炭素原子数4~20の脂環族ジアミンに由来する成分単位の少なくとも一方を含み、
前記ポリアミド樹脂組成物の、示差走査熱量計(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)を、前記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対する前記繊維状充填材(D)以外の成分の合計質量の比で除して得られる補正融解熱量(ΔH
R)は、10~70J/gであり、
前記ポリアミド樹脂組成物の成形体の、厚み1.6mmにおける波長940nmのレーザー光の透過率が15%以上である、
ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記光透過性色素(C)は、ナフタロシアニン、アニリンブラック、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリレン、クオテリレン、アゾ染料、アントラキノン、スクエア酸誘導体、又はインモニウム染料である、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ジアミンに由来する成分単位(a2)は、前記ジアミンに由来する成分単位(a2)の合計100モル%に対して、前記炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位を50~100モル%含む、
請求項1
又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位は、炭素原子数4~8の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する成分単位を含む、
請求項
3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記炭素原子数4~8の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する成分単位は、炭素原子数4~8のアルキレンジアミンに由来する成分単位である、
請求項
4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記炭素原子数4~8のアルキレンジアミンに由来する成分単位は、1,6-ヘキサンジアミンに由来する成分単位である、
請求項
5に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)は、イソフタル酸に由来する成分単位をさらに含む、
請求項1~
6のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂(B)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)と、ジアミンに由来する成分単位(b2)とを含み、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)は、イソフタル酸に由来する成分単位を含み、
前記ジアミンに由来する成分単位(b2)は、炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位を含む、
請求項1~
7のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)は、テレフタル酸に由来する成分単位をさらに含んでいてもよく、
前記イソフタル酸に由来する成分単位と前記テレフタル酸に由来する成分単位とのモル比は、前記イソフタル酸に由来する成分単位/前記テレフタル酸に由来する成分単位=55/45~100/0(モル比)である、
請求項
8に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
前記繊維状充填材(D)の含有量は、(A)、(B)、(C)および(D)の合計100質量部に対して40質量部以下である、
請求項1~
9のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物からなる、
レーザー溶着用の光透過性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【請求項13】
請求項1~
10のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる第1成形体と、
前記第1成形体とレーザー溶着された、前記ポリアミド樹脂(A)と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物を成形してなる第2成形体と、
を有する、
レーザー溶着体。
【請求項14】
請求項1~
10のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形して、第1成形体を得る工程と、
熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物を成形してなる第2成形体を得る工程と、
前記第1成形体と前記第2成形体とを重ね合わせ、前記第1成形体を介してレーザー光を照射して、前記第1成形体と前記第2成形体とを溶着させる工程と
を含む、レーザー溶着体の製造方法。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂である、
請求項
14に記載のレーザー溶着体の製造方法。
【請求項16】
前記ポリアミド樹脂は、前記ポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂(A)と同じである、
請求項
14または15に記載のレーザー溶着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびその成形体、レーザー溶着体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂部材同士を接合する方法の一つとして、レーザー溶着方法が知られている。レーザー溶着方法の特徴として、溶着すべき箇所にレーザー光発生部を接触させることなく溶着が可能であること、局所加熱であるため周辺部への熱影響がごく僅かであること、機械的振動のおそれがないこと、微細な部分や立体的で複雑な構造を有する部材同士の溶着が可能であること、再現性が高いこと、高い気密性を維持できること、溶着強度が比較的高いこと、溶着部分の境目が目視で分かりにくいこと、粉塵が発生しないことなどが挙げられる。
【0003】
レーザー溶着方法としては、レーザー光に対して弱吸収性である第一樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性である第二樹脂部材とを重ね合わせて、第一樹脂部材を介してレーザー光を照射し、これらを溶着させる方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。具体的には、第一樹脂部材として、ポリアミド6と、変性エチレン・α-オレフィン系共重合体(レーザー光に対して弱吸収性の添加剤)とを含む樹脂組成物が用いられており、第二樹脂部材として、ポリアミド6と、カーボンブラック(レーザー光に対して吸収性の添加剤)0.3重量%とを含む樹脂組成物が用いられている。
【0004】
また、レーザー溶着用樹脂組成物として、ポリアミド樹脂と、ポリカーボネート樹脂と、ガラス繊維などの充填材とを含む樹脂組成物が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-148800号公報
【文献】特開2006―273992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示される第一樹脂部材および第二樹脂部材は、充填材などを含まないため、機械的強度や剛性が十分ではなかった。したがって、これらの樹脂部材の溶着物は、高い機械的強度や剛性を必要とされる用途には適していなかった。
【0007】
また、特許文献2に記載の樹脂組成物でも、レーザー透過率は十分ではなく、十分なレーザー溶着性が得られにくいという問題があった。また、樹脂組成物中における充填材の配合量が少なく、機械的強度や剛性が十分ではなかった。また、機械的強度や剛性を高めるために充填材の配合量を多くすると、レーザー透過率や成形体の外観が低下しやすいなどの問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、レーザー光の透過率を低下させることなく、レーザー溶着する際に良好な溶着強度を発現しうる高いレーザー溶着性、高い機械的強度および高い耐熱性を有するポリアミド樹脂組成物、およびそれを用いたレーザー溶着体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] 示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が300℃以上であるポリアミド樹脂(A)を30~89.9質量部と、示差走査熱量測定(DSC)により測定される融点を実質的に有しないポリアミド樹脂(B)を0~45質量部と、光透過性色素(C)を0.1~5質量部と繊維状充填材(D)を10~55質量部と、を含むポリアミド樹脂組成物であって(ただし、(A)、(B)、(C)および(D)の合計を100質量部とする)、前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)と、ジアミンに由来する成分単位(a2)とを含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)の合計100モル%に対して、テレフタル酸に由来する成分単位を20~100モル%、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位および炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位の少なくとも一方を0~80モル%含み、前記ジアミンに由来する成分単位(a2)は、炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位と炭素原子数4~20の脂環族ジアミンに由来する成分単位の少なくとも一方を含み、前記ポリアミド樹脂組成物の、示差走査熱量計(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)を、前記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対する前記繊維状充填材(D)以外の成分の合計質量の比で除して得られる補正融解熱量(ΔHR)は、10~70J/gであり、前記ポリアミド樹脂組成物の成形体の、厚み1.6mmにおける波長940nmのレーザー光の透過率が15%以上である、ポリアミド樹脂組成物。
[2] 前記ジアミンに由来する成分単位(a2)は、前記ジアミンに由来する成分単位(a2)の合計100モル%に対して、前記炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位を50~100モル%含む、[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3] 前記炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位は、炭素原子数4~8の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する成分単位を含む、[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[4] 前記炭素原子数4~8の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する成分単位は、炭素原子数4~8のアルキレンジアミンに由来する成分単位である、[3]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[5] 前記炭素原子数4~8のアルキレンジアミンに由来する成分単位は、1,6-ヘキサンジアミンに由来する成分単位である、[4]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[6] 前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)は、イソフタル酸に由来する成分単位をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[7] 前記ポリアミド樹脂(B)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)と、ジアミンに由来する成分単位(b2)とを含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)は、イソフタル酸に由来する成分単位を含み、前記ジアミンに由来する成分単位(b2)は、炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位を含む、[1]~[6]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[8] 前記ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)は、テレフタル酸に由来する成分単位をさらに含んでいてもよく、前記イソフタル酸に由来する成分単位と前記テレフタル酸に由来する成分単位とのモル比は、前記イソフタル酸に由来する成分単位/前記テレフタル酸に由来する成分単位=55/45~100/0(モル比)である、[7]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[9] 前記繊維状充填材(D)の含有量は、(A)、(B)、(C)および(D)の合計を100質量部に対して40質量部以下である、[1]~[8]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物からなる、レーザー溶着用の光透過性樹脂組成物。
[11] [1]~[9]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる、成形体。
[12] [1]~[9]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形して、第1成形体を得る工程と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物を成形してなる第2成形体を得る工程と、前記第1成形体と前記第2成形体とを重ね合わせ、前記第1成形体を介してレーザー光を照射して、前記第1成形体と前記第2成形体とを溶着させる工程とを含む、レーザー溶着体の製造方法。
[13] 前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂である、[12]に記載のレーザー溶着体の製造方法。
[14] 前記ポリアミド樹脂は、前記ポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂(A)と同じである、[13]に記載のレーザー溶着体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーザー光の透過率を低下させることなく、レーザー溶着する際に良好な溶着強度を発現しうる高いレーザー溶着性、高い機械的強度および高い耐熱性を有するポリアミド樹脂組成物を提供することができる。そのようなポリアミド樹脂組成物の成形体を用いたレーザー溶着体の製造方法によれば、高い溶着強度を有するレーザー溶着体を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、特定のポリアミド樹脂(A)と光透過性色素(C)を含み、かつ補正融解熱量(ΔHR)が調整されたポリアミド樹脂組成物は、繊維状充填材(D)を比較的多く含んでいても、レーザー光に対する透過性を顕著に低下させることなく、レーザー溶着する際に良好な溶着強度を発現しうることを見出した。それにより、当該ポリアミド樹脂組成物は、良好な機械的強度および耐熱性を有しつつ、レーザー溶着する際に良好な溶着強度を発現しうることを見出した。
【0013】
この理由は明らかではないが、以下のように推測される。成形体同士を、高い溶着強度(接合強度)でレーザー溶着させるためには、通常、溶着部分において、レーザー光のエネルギーによって樹脂を十分に溶融させて、大きな溶融部を形成することが望まれる。
これに対し、本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる特定のポリアミド樹脂(A)および光透過性色素(C)は、レーザー光を比較的透過させやすい。それにより、ポリアミド樹脂組成物は、繊維状充填材(D)を含んでいても、良好なレーザー光の透過率を維持しうる。また、ポリアミド樹脂組成物は、結晶性が適度に調整されたポリアミド樹脂(A)や、必要に応じて低結晶性のポリアミド樹脂(B)を含むことから、ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)は、機械的強度や耐熱性を損なわない程度に適度に低く調整されている。つまり、結晶部を溶融させるのに必要なエネルギーが低減されている。これらの結果、レーザー光の照射エネルギーが少なくても、樹脂を十分に溶融させることができるため、大きな溶融部を形成しやすく、高い溶着強度(接合強度)が得られやすいと考えられる。
【0014】
ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)は、ポリアミド樹脂(A)の結晶性を適度に低くしたり、結晶性が相対的に高いポリアミド樹脂(A)と結晶性が相対的に低いポリアミド樹脂(B)とを組み合わせたり、繊維状充填材(D)の含有量を多くしたりすることによって調整することができる。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0015】
1.ポリアミド樹脂組成物
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)と、光透過性色素(C)と、繊維状充填材(D)と、を含む。
【0016】
1-1.ポリアミド樹脂(A)
ポリアミド樹脂(A)は、示差走査熱量計(DSC)において融点(Tm)が測定されるポリアミド樹脂である。ポリアミド樹脂(A)の示差走査熱量計(DSC)により測定される融点(Tm)は、300~340℃であることが好ましい。ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)が300℃以上であると、成形体に高い耐熱性を付与しやすく、340℃以下であると、成形温度を過剰に高くする必要がないため、溶融重合や成形時における樹脂や他の成分の熱分解を抑制できる。ポリアミド樹脂(A)の融点は、300~330℃であることがより好ましい。
【0017】
ポリアミド樹脂(A)の示差走査熱量計(DSC)により測定されるガラス転移温度(Tg)は、80~150℃であることが好ましく、90~135℃であることがより好ましい。
【0018】
ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(例えばDSC220C型、セイコーインスツル社製)にて測定することができる。具体的な測定条件は、後述の実施例と同様としうる。
【0019】
ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)やガラス転移温度(Tg)は、例えば後述するジカルボン酸に由来する成分単位(a1)の組成によって調整されうる。ポリアミド樹脂(A)の融点を高めるためには、例えばテレフタル酸に由来する成分単位の含有比率を多くすればよい。
【0020】
ポリアミド樹脂(A)の示差走査熱量測定(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)は、5J/g超であることが好ましい。融解熱量は、樹脂の結晶性の指標であり、融解熱量が大きいほど、結晶性が高いことを示す。ポリアミド樹脂(A)の融解熱量(ΔH)が5J/gを超えると、結晶性が高いため、得られる成形体の耐熱性や機械的強度を高めうる。ポリアミド樹脂(A)は、結晶性を示すことが好ましい。
【0021】
融解熱量(ΔH)とは、JIS K7122に準じて求められる値である。すなわち、融解熱量(ΔH)は、示差走査熱量測定(DSC)により、昇温速度10℃/minで走査したときに得られる示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶化に伴う発熱ピークの面積から求められる。融解熱量(ΔH)は、履歴を消さない1回目の昇温過程における値である。
【0022】
ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)と、ジアミンに由来する成分単位(a2)とを含む。
【0023】
[ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)]
ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)は、少なくともテレフタル酸に由来する成分単位を含むことが好ましい。テレフタル酸に由来する成分単位を含むポリアミド樹脂(A)は、結晶性が高く、成形体に良好な耐熱性や機械的強度(引張強度、剛性)を付与しうる。
【0024】
具体的には、ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)は、テレフタル酸に由来する成分単位20~100モル%と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位0~80モル%および炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位0~40モル%の少なくとも一方とを含むことがより好ましく、テレフタル酸に由来する成分単位55~100モル%と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位0~45モル%とを含むことがさらに好ましい。ただし、ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)の合計量を100モル%とする。
【0025】
テレフタル酸の例には、テレフタル酸やテレフタル酸エステル(テレフタル酸の炭素数1~4のアルキルエステル)が含まれる。
【0026】
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸の例には、イソフタル酸、2-メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸およびこれらのエステルが含まれ、好ましくはイソフタル酸でありうる。
【0027】
炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸は、炭素原子数6~12の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、その例には、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などが含まれ、好ましくはアジピン酸でありうる。
【0028】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)における、テレフタル酸に由来する成分単位とテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸(好ましくはイソフタル酸)に由来する成分単位とのモル比は、テレフタル酸に由来する成分単位/テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸(好ましくはイソフタル酸)に由来する成分単位=55/45~80/20であることが好ましく、60/40~85/15であることがより好ましい。テレフタル酸に由来する成分単位の量が一定以上であると、得られる成形体の耐熱性や機械的強度を高めやすい。テレフタル酸に由来する成分単位の量が一定以下であると、得られる成形体におけるレーザー溶着に要するレーザー光の照射エネルギーを低減しやすい。
【0029】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)は、本発明の効果を損なわない範囲で、脂環族ジカルボン酸に由来する成分単位をさらに含んでもよい。脂環族ジカルボン酸の例には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸などが含まれる。
【0030】
[ジアミンに由来する成分単位(a2)]
ジアミンに由来する成分単位(a2)は、炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位と炭素原子数4~20の脂環族ジアミンに由来する成分単位の少なくとも一方を含む。
【0031】
炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位は、炭素原子数4~8の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する成分単位を含むことが好ましい。
【0032】
炭素原子数4~8の直鎖状脂肪族ジアミンは、炭素原子数6~8の直鎖状脂肪族ジアミンであることがより好ましい。炭素原子数4~8の直鎖状脂肪族ジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-オクタンジアミンなどの炭素原子数4~8の直鎖状アルキレンジアミンが含まれる。これらの中でも、1,6-ヘキサンジアミンが好ましい。炭素原子数4~8の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する成分単位は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0033】
炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位は、炭素原子数4~15の分岐状脂肪族ジアミンに由来する成分単位をさらに含んでいてもよい。炭素原子数4~15の分岐状脂肪族ジアミンの例には、2-メチル-1,8-オクタンジアミンや2-メチル-1,5-ペンタンジアミンなどが含まれる。このような分岐状脂肪族ジアミンは、ポリアミド樹脂(A)の結晶性を適度に低くしうる。そのため、ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)を適度に低くし、溶着強度を高めやすくする観点では、炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位は、分岐状脂肪族ジアミンに由来する成分単位を含むことが好ましい。
【0034】
炭素原子数4~20の脂環族ジアミンの例には、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジシクロヘキシルプロパン、4,4'-ジアミノ-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチル-5,5'-ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチル-5,5'-ジメチルジシクロヘキシルプロパン、α,α'-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-p-ジイソプロピルベンゼン、α,α'-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-m-ジイソプロピルベンゼン、α,α′-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-1,4-シクロヘキサン、α,α'-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-1,3-シクロヘキサンなどが含まれる。中でも、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジシクロヘキシルメタンが好ましく;1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(アミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンがより好ましい。
【0035】
炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位と炭素原子数4~20の脂環族ジアミンに由来する成分単位の合計含有量(好ましくは炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位の含有量)は、ジアミンに由来する成分単位(a2)の合計量に対して50モル%以上であることが好ましい。上記合計含有量が50モル%以上であると、得られる成形体の耐水性が高まりやすい。炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位と炭素原子数4~20の脂環族ジアミンに由来する成分単位の合計含有量(好ましくは炭素原子数4~8の直鎖状脂肪族ジアミン成分単位の含有量)は、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であってもよい。ただし、ジアミンに由来する成分単位(a2)の合計量を100モル%とする。
【0036】
ジアミンに由来する成分単位(a2)は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミンに由来する成分単位をさらに含んでもよい。他のジアミンの例には、芳香族ジアミンが含まれる。芳香族ジアミンの例には、メタキシリレンジアミンなどが含まれる。他のジアミンに由来する成分単位の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(a2)の合計量に対して50モル%以下であり、好ましくは40モル%以下でありうる。
【0037】
ポリアミド樹脂(A)の具体例には、ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)が、テレフタル酸に由来する成分単位およびイソフタル酸に由来する成分単位であり、直鎖状脂肪族ジアミンに由来する成分単位が、1,6-ジアミノヘキサンである樹脂や;ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)がテレフタル酸に由来する成分単位およびアジピン酸に由来する成分単位であり、直鎖状脂肪族ジアミンに由来する成分単位が1,6-ジアミノヘキサンである樹脂などが含まれる。ポリアミド樹脂(A)は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0038】
ポリアミド樹脂(A)の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.7~1.6dl/gであることが好ましく、0.8~1.2dl/gであることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]が一定以上であると、成形体の強度が十分に高まりやすい。極限粘度[η]が一定以下であると、樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくい。極限粘度[η]は、ポリアミド樹脂(A)の分子量によって調整される。
【0039】
ポリアミド樹脂(A)の極限粘度は、ポリアミド樹脂(A)0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解して試料溶液とする。この試料用液の流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して、25±0.05℃の条件下で測定し、得られた値を下記式に当てはめて算出することができる。
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)]
【0040】
上記式において、各代数または変数は、以下を表す。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
【0041】
ηSPは、以下の式によって求められる。
ηSP=(t-t0)/t0
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0042】
ポリアミド樹脂(A)は、コンパウンドや成形時の熱安定性の観点から、少なくとも一部の分子の末端基が末端封止剤で封止されていてもよい。ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量は、0.1~300mmol/kgであることが好ましく、20~300mmol/kgであることがより好ましく、35~200mmol/kgであることがより好ましい。
【0043】
末端アミノ基量は、以下の方法で測定することができる。ポリアミド樹脂1gをフェノール35mLに溶解させ、メタノールを2mL混合し、試料溶液とする。そして、チモールブルーを指示薬として、当該試料溶液に対して0.01規定のHCl水溶液を使用して青色から黄色になるまで滴定を実施し、末端アミノ基量([NH2]、単位:mmol/kg)を測定する。
【0044】
ポリアミド樹脂(A)は、公知のポリアミド樹脂と同様の方法で製造することができ、例えばジカルボン酸とジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与して重縮合させることで製造することができる。
【0045】
ポリアミド樹脂(A)の極限粘度を調整する場合は、反応系に末端封止剤(分子量調整剤)を添加することが好ましい。末端封止剤は、例えばモノカルボン酸またはモノアミンでありうる。モノカルボン酸の例には、炭素原子数2~30の脂肪族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸および脂環族モノカルボン酸が含まれる。これらの末端封止剤は、ポリアミド樹脂(A)の分子量を調整すると共に、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基の量を調整することができる。芳香族モノカルボン酸および脂環族モノカルボン酸は、環状構造部分に置換基を有していてもよい。
【0046】
脂肪族モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸およびリノ-ル酸が含まれる。芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸およびフェニル酢酸が含まれる。脂環族モノカルボン酸の例には、シクロヘキサンカルボン酸が含まれる。
【0047】
末端封止剤は、ジカルボン酸とジアミンとの反応系に添加される。添加量はジカルボン酸の合計量1モルに対して、0.07モル以下であることが好ましく、0.05モル以下であることがより好ましい。このような量で分子量調整剤を使用することにより、少なくともその一部がポリアミド中に取り込まれ、これによりポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]が、所望の範囲内に調整されやすくなる。
【0048】
ポリアミド樹脂(A)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、光透過性色素(C)および繊維状充填材(D)の合計を100質量部としたとき、30~89.9質量部であることが好ましい。ポリアミド樹脂(A)の含有量が30質量部以上であると、成形体の機械的強度や耐熱性を高めやすく、89.9質量部以下であると、成形体の溶着に要するレーザー光の照射エネルギーを低減させやすい。ポリアミド樹脂(A)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、光透過性色素(C)および繊維状充填材(D)の合計を100質量部としたとき、40~85質量部であることがより好ましく、60~85質量部であることがさらに好ましい。
【0049】
ポリアミド樹脂(A)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の合計を100質量部としたとき、85.7~99.9質量部であることが好ましい。ポリアミド樹脂(A)の含有量を上記範囲とすることで、レーザー光の透過率をより高めて、良好なレーザー溶着性を有する成形体が得られやすい。このように、レーザー光の透過率が高く、レーザー溶着性に優れた成形体は、レーザー溶着における光透過性樹脂部材として好ましく用いられる。ポリアミド樹脂(A)の含有量は、上記の観点から、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の合計100質量部としたとき、90~99.9質量部であることがより好ましい。
【0050】
1-2.ポリアミド樹脂(B)
ポリアミド樹脂(B)は、示差走査熱量計(DSC)において融点(Tm)が実質的に測定されないポリアミド樹脂である。そのようなポリアミド樹脂(B)は、結晶性が適度に低いため、ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)を小さくしやすく、得られる成形体において、レーザー溶着に要するレーザー光の照射エネルギーを低減しうる。また、得られる成形体の耐衝撃性を高めうる。
【0051】
「融点(Tm)が実質的に測定されない」とは、示差走査熱量計(DSC)を用いた前述の融点の測定において、2度目の加熱(室温から330℃まで)において結晶融解に基づく吸熱ピークが実質的に観測されないことをいう。吸熱ピークが実質的に観測されないとは、ポリアミド樹脂(B)の、示差走査熱量測定(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)が5J/g以下であることをいう。
【0052】
すなわち、ポリアミド樹脂(B)の、示差走査熱量測定(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)は、5J/g以下であることが好ましく、0J/gであることがより好ましい。ポリアミド樹脂(B)の融解熱量(ΔH)が5J/g以下であると、結晶性が適度に低いため、ポリアミド樹脂(A)との相溶性に優れ、かつポリアミド樹脂組成物の成形体の外観が優れる点で好ましい。ポリアミド樹脂(B)は、非晶性を示すことが好ましい。融解熱量(ΔH)は、前述と同様の方法で測定することができる。
【0053】
ポリアミド樹脂(B)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)と、ジアミンに由来する成分単位(b2)とを含む。
【0054】
[ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)]
ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)は、少なくともイソフタル酸に由来する成分単位を含むことが好ましい。イソフタル酸に由来する成分単位は、ポリアミド樹脂(B)の結晶性を低くしうる。
【0055】
イソフタル酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)の合計量に対して40モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましい。イソフタル酸に由来する成分単位の含有量が40モル%以上であると、得られる成形体にレーザー溶着に要するレーザー光の照射エネルギーを低減しやすい。
【0056】
ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)は、本発明の効果を損なわない範囲で、イソフタル酸に由来する成分単位以外の他のジカルボン酸に由来する成分単位をさらに含んでいてもよい。他のジカルボン酸の例には、テレフタル酸、2-メチルテレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸などのイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸;脂肪族ジカルボン酸;ならびに脂環族ジカルボン酸が含まれる。脂肪族ジカルボン酸および脂環族ジカルボン酸は、前述の脂肪族ジカルボン酸および脂環族ジカルボン酸とそれぞれ同様でありうる。中でも、イソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0057】
ジカルボン酸に由来する成分単位(b1)における、イソフタル酸に由来する成分単位とイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸(好ましくはテレフタル酸)に由来する成分単位のモル比は、イソフタル酸に由来する成分単位/イソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸(好ましくはテレフタル酸)に由来する成分単位=55/45~100/0(モル比)であることが好ましく、60/40~90/10(モル比)であることがより好ましい。イソフタル酸に由来する成分単位の量が一定以上であると、ポリアミド樹脂(B)は非晶性となりやすく、得られる成形体におけるレーザー溶着に要するレーザー光の照射エネルギーを低減しやすい。イソフタル酸に由来する成分単位の量が一定以下であると、得られる成形体の耐熱性や機械的強度が損なわれにくい。
【0058】
[ジアミンに由来する成分単位(b2)]
ジアミンに由来する成分単位(b2)は、炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位を含むことが好ましい。
【0059】
炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンは、前述の炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンと同様であり、好ましくは1,6-ヘキサンジアミンである。
【0060】
炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b2)の合計量に対して50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましい。
【0061】
ジアミンに由来する成分単位(b2)は、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素原子数4~15の脂肪族ジアミンに由来する成分単位以外の他のジアミンに由来する成分単位をさらに含んでもよい。他のジアミンの例には、脂環族ジアミンおよび芳香族ジアミンが含まれる。脂環族ジアミンおよび芳香族ジアミンは、前述の脂環族ジアミンおよび芳香族ジアミンとそれぞれ同様でありうる。他のジアミン成分単位の含有量は、50モル%以下であり、好ましくは40モル%以下でありうる。
【0062】
ポリアミド樹脂(B)の具体例には、イソフタル酸/テレフタル酸/1,6-ヘキサンジアミン/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン/ω-ラウロラクタムの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン/ω-ラウロラクタムの重縮合体、及びイソフタル酸/テレフタル酸/その他ジアミン成分の重縮合体などが含まれる。中でも、イソフタル酸/テレフタル酸/1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体が好ましい。ポリアミド樹脂(B)は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0063】
ポリアミド樹脂(B)の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.6~1.6dl/gであることが好ましく、0.65~1.2dl/gであることがより好ましい。ポリアミド樹脂(B)の極限粘度[η]は、前述のポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]と同様の方法で測定することができる。
【0064】
ポリアミド樹脂(B)は、前述のポリアミド樹脂(A)と同様の方法で製造することができる。
【0065】
ポリアミド樹脂(B)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、光透過性色素(C)および繊維状充填材(D)の合計を100質量部としたとき、0~45質量部であることが好ましく、0.1~45質量部であってもよく、5~35質量部であってもよい。ポリアミド樹脂(B)の含有量が0.1質量部以上であると、得られる成形体は、少ない照射エネルギーでもレーザー溶着させやすく、45質量部以下であると、成形体の機械的強度や耐熱性(荷重たわみ)が顕著には損なわれにくい。
【0066】
ポリアミド樹脂(B)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対して、0~60質量部であることが好ましく、5~50質量部であることがより好ましく、10~40質量部であることがさらに好ましい。ポリアミド樹脂(B)の、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対する含有量が5質量部以上であると、得られる成形体に、溶着に要するレーザー光の照射エネルギーを低減させやすく、50質量部以下であると、成形体に十分な耐熱性や剛性(荷重たわみ)を付与しやすい。
【0067】
1-3.光透過性色素(C)
光透過性色素(C)は、レーザー光に対する透過率を低下させずに、ポリアミド樹脂組成物を着色するための成分である。すなわち、光透過性色素(C)は、レーザー光に対する透過性を有する色素であり、具体的には、波長800~1064nmの範囲に吸収波長の極大値を有しない色素である。
【0068】
光透過性色素(C)は、後述する特性を満たす黒色色素であることが好ましい。そのような黒色色素の例には、ナフタロシアニン、アニリンブラック、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリレン、クオテリレン、アゾ染料、アントラキノン、スクエア酸誘導体、およびインモニウム染料などが含まれる。
【0069】
光透過性色素(C)の市販品の例には、オリエント化学工業社製の着色剤であるeBind ACW-9871、e-BIND LTW-8731H、e-BIND LTW-8701Hなどが例示される。また、有彩色色素を2種類以上混ぜて黒系色素としたものを用いてもよい。
【0070】
光透過性色素(C)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の波長940nmの光の透過率が後述する範囲となるように設定されればよい。具体的には、光透過性色素(C)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、光透過性色素(C)および繊維状充填材(D)の合計を100質量部としたとき、0.1~5質量部であることが好ましい。光透過性色素(C)の含有量が0.1質量部以上であると十分に着色しやすいため、意匠性を高めやすく、5質量部以下であると、レーザー光の透過率の顕著な低下やそれによる溶着強度の顕著な低下、色素成分の分解による混錬中や成形中の連続生産性悪化などをより確実に抑制することができる。光透過性色素(C)の含有量は、上記の観点から、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、光透過性色素(C)および繊維状充填材(D)の合計を100質量部としたとき、0.1~4質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましく、0.25~2.5質量部であることがさらに好ましい。
【0071】
光透過性色素(C)は、1種類のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。2種類以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0072】
1-4.繊維状充填材(D)
繊維状充填材(D)の例には、ガラス繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバーおよびカットファイバーなどが含まれる。これらのうち、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。中でも、成形体の機械的強度を高めやすいことなどから、ワラストナイト、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカーが好ましく、ワラストナイトまたはガラス繊維がより好ましい。
【0073】
繊維状充填材(D)の平均繊維長は、ポリアミド樹脂組成物の成形性、および得られる成形体の機械的強度や耐熱性の観点から、1μm~20mmであることが好ましく、5μm~10mmであることがより好ましく、10μm~5mmであることがさらに好ましい。また、繊維状充填材(D)のアスペクト比は、5~2000であることが好ましく、30~600であることがより好ましい。
【0074】
繊維状充填材(D)の平均繊維長と平均繊維径は、以下の方法により測定することができる。
1)ポリアミド樹脂組成物を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(0.1/0.9体積%)に溶解させた後、濾過して得られる濾過物を採取する。
2)前記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本それぞれの繊維長(Li)と繊維径(di)を計測する。繊維長がLiである繊維の本数をqiとし、次式に基づいて重量平均長さ(Lw)を算出し、これを繊維状充填材(D)の平均繊維長とする。
重量平均長さ(Lw)=(Σqi×Li2)/(Σqi×Li)
同様に、繊維径がDiである繊維の本数をriとし、次式に基づいて重量平均径(Dw)を算出し、これを繊維状充填材(D)の平均繊維径とする。
重量平均径(Dw)=(Σri×Di2)/(Σri×Di)
【0075】
繊維状充填材(D)は、表面処理が施されたものであってもよい。表面処理が施されていると、マトリックス樹脂であるポリアミド樹脂(A)との接着性が高まりやすい。表面処理剤の例には、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、およびアルミネート系カップリング剤などのカップリング剤;集束剤などが含まれる。好適に使用されるカップリング剤の例には、アミノシラン、エポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランおよびビニルトリメトキシシランが含まれる。また、好適に使用される集束剤の例には、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物、カルボン酸系化合物、ウレタン/マレイン酸変性化合物およびウレタン/アミン変性系化合物が含まれる。繊維状充填材(D)は、一種類の表面処理剤で処理されていてもよく、二種以上の表面処理剤で処理されていてもよい。特に、カップリング剤と集束剤とで処理されていると、繊維状充填材(D)とポリアミド樹脂(A)との接着性が高まりやすく、得られる成形体の機械的特性が高まりやすい。
【0076】
繊維状充填材(D)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、光透過性色素(C)および繊維状充填材(D)の合計を100質量部としたとき、10~55質量部であることが好ましい。繊維状充填材(D)の含有量が10質量部以上であると、成形体に高い機械的強度や耐熱性を付与しやすい。繊維状充填材(D)の含有量が55質量部以下であると、成形体のレーザー光の透過性が損なわれにくく、それによる溶着強度の低下や成形時の過度な粘度上昇なども生じにくい。繊維状充填材(D)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、光透過性色素(C)および繊維状充填材(D)の合計を100質量部としたとき、10~50質量部であることが好ましく、25~45質量部であることがより好ましく、30~40質量部であることがさらに好ましい。
【0077】
1-5.他の成分(E)
本発明のポリアミド樹脂組成物は、必要に応じてポリアミド樹脂(A)やポリアミド樹脂(B)、光透過性色素(C)、繊維状充填材(D)以外の他の成分(E)をさらに含んでいてもよい。他の成分の例には、核剤、エラストマー(ゴム)、難燃剤(臭素系、塩素系、リン系、アンチモン系および無機系など)、流動性向上剤、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類およびリン類など)、耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類、ハロゲン化銅およびヨウ素化合物など)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類およびオギザニリド類など)、他の重合体(ポリオレフィン類、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂およびLCP)などが含まれる。他の成分の合計含有量は、特に制限されないが、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0078】
1-5-1.核剤
核剤は、ポリアミド樹脂(A)やポリアミド樹脂(B)の結晶化を促進するものであればよく、板状、粉状または粒状の充填材でありうる。
【0079】
核剤の例には、タルク、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイトなどの珪酸塩、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、セラミックビ-ズ、窒化ホウ素、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスフレーク、ガラス粉、ガラスバルーン、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材、およびモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母などの膨潤性雲母に代表される層状珪酸塩が含まれる。層状珪酸塩は、層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された層状珪酸塩であってもよく、有機オニウムイオンとしてはアンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが含まれる。これらの核剤は、1種類で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、タルク、マイカ、カオリン、クレー、ガラスフレーク、カーボンブラック、黒鉛、モンモリロナイトなどの板状充填材が好ましく、タルク、マイカ、ガラスフレークがより好ましい。
【0080】
核剤は、シラン系、チタネート系などのカップリング剤、その他表面処理剤でさらに処理されていてもよい。中でも、エポキシシラン、アミノシラン系のカップリング剤で処理された核剤は、樹脂成分中に良好に分散しやすく、ポリアミド樹脂(A)やポリアミド樹脂(B)の結晶化を促進しうるため、得られる成形体に良好な機械的強度を付与しうる。
【0081】
核剤の平均粒子径は、0.1~30μmであることが好ましい。核剤の平均粒子径が0.1μm以上であると、得られる成形体の球晶を微細化しやすく、平均粒子径が30μm以下であると、成形体の表面の外観が低下しにくい。核剤の平均粒子径は、0.5~25μmであることがより好ましく、1.0~23μmであることがさらに好ましい。核剤の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定して得られる算術平均径であり、体積平均粒子径(MV)である。
【0082】
核剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.01~10質量%であることが好ましい。核剤の含有量が0.01質量%以上であると、ポリアミド樹脂の結晶化を十分に促進しうるので、得られる成形体の球晶を微細化しやすく、10質量%以下であると、成形性や表面外観が損なわれにくい。核剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~2質量%であることがより好ましい。
【0083】
なお、本発明のポリアミド樹脂組成物は、光吸収性色素を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、例えば、ポリアミド樹脂組成物の0.0001質量%以下であることをいう。
【0084】
1-6.物性
(補正融解熱量(ΔHR))
本発明のポリアミド樹脂組成物の、示差走査熱量計(DSC)により測定される補正融解熱量(ΔHR)は、10~70J/gであることが好ましい。ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)が10J/g以上であると、成形体の耐熱性を十分に高めやすく、70J/g以下であると、レーザー光のエネルギーの大部分が結晶部の溶融に消費されることがなく、大きな溶融部を形成しやすいことから、溶着強度を高めやすい。ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)は、溶着強度をさらに高めやすくする観点から、10~53J/gであることがより好ましい。
【0085】
補正融解熱量(ΔHR)とは、ポリアミド樹脂組成物の融解熱量(ΔH)を、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対する繊維状充填材(D)以外の成分の合計質量の比で除した値である。ポリアミド樹脂組成物の融解熱量(ΔH)は、ポリアミド樹脂(A)や(B)における融解熱量(ΔH)と同様の方法で測定することができる。
【0086】
ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)は、ポリアミド樹脂(A)の組成や、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の含有比率などによって調整することができる。補正融解熱量(ΔHR)を低くするためには、例えばポリアミド樹脂(A)に、結晶性を低くしうる成分、例えばイソフタル酸を添加したり、分岐状の脂肪族ジアミンを添加したりする方法や、結晶性を低くしうるポリアミド樹脂(B)の含有比率を高めたり(B/(A+B)を高くしたり)すればよい。
【0087】
(レーザー光の透過率)
本発明のポリアミド樹脂組成物の波長940nmのレーザー光の透過率は、成形体の厚みが1.6mmであるとき、15%以上であることが好ましく、36%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましい。本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体の波長940nmのレーザー光の透過率は、成形体の厚みが3.2mmであるとき、7.2%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、12%以上であることがさらに好ましい。これらの波長940nmのレーザー光の透過率の上限値は、特に制限されないが、例えば70%、あるいは60%であってもよい。ポリアミド樹脂組成物のレーザー光の透過率は、オフィール社製パワーメータF300-SHにより、試料を透過させた場合と透過させない場合のレーザー光強度を比較することで測定することができる。
【0088】
波長940nmのレーザー光の透過率は、ポリアミド樹脂(A)の組成や、光透過性色素(C)の種類および含有量によって調整することができる。波長940nmのレーザー光の透過率を高くするためには、ポリアミド樹脂(A)を構成する成分として、結晶性が高すぎない成分を含むことが好ましく、光透過性色素(C)の含有量は少なくすることが好ましい。
【0089】
このように、本発明のポリイミド樹脂組成物は、繊維状充填材(D)を含んでいるにも係わらず、レーザー光に対する高い透過性を有する。そのため、本発明のポリアミド樹脂組成物は、レーザー溶着用の光透過性樹脂組成物として好ましく用いることができる。
【0090】
2.ポリアミド樹脂組成物の製造方法
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、少なくとも前述の比率のポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、光透過性色素(C)および繊維状充填材(D)を、一軸押出機、多軸押出機、ニーダーもしくはバンバリーミキサーなどで溶融混練する工程と、当該溶融混練物を造粒もしくは粉砕する工程を経て製造することができる。なお、必要に応じて、溶融混練工程の前に、公知の方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダーもしくはタンブラーブレンダーなどで混合する方法で混合する工程を実施してもよい。
【0091】
中でも、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸または2軸の押出機を用いて溶融混練する方法が好ましい。ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、光透過性色素(C)、繊維状充填材(D)および必要に応じて配合される他の成分(E)は、押出機に一括して供給してもよいし、ポリアミド樹脂(A)に他の配合成分を順次供給してもよい。ガラス繊維などの繊維状充填材(D)は、混練時に破砕するのを抑制するため、押出機の途中から供給することが好ましい。また、上記(A)~(D)成分のうち2種類以上の成分を予め混合、混練しておいてもよい。例えば、光透過性色素(C)は、熱可塑性樹脂を用いてマスターバッチしたものをあらかじめ調製し、これを残りの配合成分と溶融混合押出して所定の配合比率としてもよい。
【0092】
マスターバッチに用いられる熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂であることが好ましい。マスターバッチに用いられるポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂(A)であってもよいし、ポリアミド6やポリアミド66などの、ポリアミド樹脂(A)以外の他のポリアミド樹脂であってもよい。例えば光透過性色素(C)を、ポリアミド66でマスターバッチ化したものを用いることができる。
【0093】
3.成形体
本発明の成形体は、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形して得ることができる。
【0094】
成形方法は、特に制限されず、公知の成形方法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形などの成形方法を適用することができる。中でも、流動性が良好である観点から、射出成形が好ましい。射出成形法では、樹脂温度を250~300℃に調整することが好ましい。
【0095】
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体は、繊維状充填材(D)を含んでいるにも係わらず、レーザー光に対する高い透過性を有する。そのため、本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体は、レーザー溶着方法において、レーザー光を透過させる光透過性樹脂部材として好ましく用いることができる。
【0096】
4.レーザー溶着体の製造方法
本発明では、本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体(第1成形体、光透過性樹脂部材)と、光吸収性樹脂組成物の成形体(第2成形体、光吸収性樹脂部材)とを、当該第1成形体(光透過性樹脂部材)を介してレーザー光を照射し、溶着させて、レーザー溶着体を製造することができる。それにより、接着剤を用いなくても、第1成形体(光透過性樹脂部材)と第2成形体(光吸収性樹脂部材)とを強固に溶着させることができる。
【0097】
まず、光吸収性樹脂部材である第2成形体を構成する光吸収性樹脂組成物について、説明する。
【0098】
4-1.光吸収性樹脂組成物
光吸収性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、光吸収性色素とを含む。
【0099】
4-1-1.熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂は、特に制限されないが、本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体との良好な溶着強度を得やすくする観点から、ポリアミド樹脂であることが好ましい。
【0100】
ポリアミド樹脂の示差走査熱量計(DSC)により測定される融点(Tm)は、290~340℃であることが好ましい。ポリアミド樹脂の示差走査熱量計(DSC)により測定されるガラス転移温度(Tg)は、75~150℃であることが好ましい。ポリアミド樹脂の融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、前述と同様の方法で測定することができる。このような融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)を有するポリアミド樹脂を含む光吸収性樹脂組成物は、高い機械的強度や耐熱性を有するだけでなく、前述のポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂(A)との親和性が良好であるため、前述のポリアミド樹脂組成物の成形体(第1成形体)との溶着強度を高めやすい。
【0101】
ポリアミド樹脂は、融点(Tm)やガラス転移温度(Tg)が上記範囲を満たすものであればよく、特に制限されない。ポリアミド樹脂の例には、ジアミンに由来する成分単位と、炭素原子数8以下の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位とを含むもの;芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位と、脂肪族ジアミンに由来する成分単位とを含むもなどが含まれる。中でも、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位と、脂肪族ジアミンに由来する成分単位とを含むポリアミド樹脂が好ましい。そのようなポリアミド樹脂は、前述のポリアミド樹脂(A)と同様のものを用いることができる。良好な溶着強度を得る観点では、本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂(A)と、光吸収性樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂とは、同一であることがより好ましい。
【0102】
光吸収性樹脂組成物に含まれる樹脂成分と、本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる樹脂成分とは、90質量%以上で共通していることが好ましい。
【0103】
4-1-2.光吸収性色素
光吸収性色素は、照射するレーザー光の波長の範囲、すなわち、波長800~1064nmの範囲に吸収波長を有する色素である。そのような光吸収性色素は、レーザー光を吸収して発熱し、熱可塑性樹脂を溶融させる。その熱により、第1成形体に含まれる樹脂成分も溶融させることで、溶着させることができる。
【0104】
光吸収性色素は、無機顔料であってもよいし、有機顔料であってもよい。無機顔料の例には、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック)などの黒色顔料;酸化鉄赤などの赤色顔料;モリブデートオレンジなどの橙色顔料;酸化チタンなどの白色顔料が含まれる。有機顔料の例には、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料などが含まれる。中でも、無機顔料は、一般的に隠ぺい力が強いため好ましく、黒色顔料がより好ましい。
【0105】
光吸収性色素は、分散性を向上させる観点から、光吸収性樹脂組成物の製造時にマスターバッチとして添加されることが好ましい。カーボンブラックのマスターバッチの例には、日弘ビックス株式会社製、PA-0896A(カーボンブラック含有量50質量%のマスターバッチ)などが含まれる。
【0106】
光吸収性色素は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。光吸収性色素の含有量は、樹脂成分100質量部に対して0.01~1質量部であることが好ましい。
【0107】
4-1-3.その他の成分
光吸収性樹脂組成物は、必要に応じて繊維状充填材や核剤などをさらに含んでいてもよい。
【0108】
繊維状充填材は、前述の繊維状充填材(D)と同様のものを用いることができる。中でも、繊維状充填材は、ガラス繊維であることが好ましい。繊維状充填材の平均繊維長やアスペクト比は、前述と同様としうる。核剤も、前述の核剤(E)と同様のものを用いることができる。
【0109】
4-2.レーザー溶着体の製造方法
次に、本発明のレーザー溶着体の製造方法について説明する。
【0110】
本発明のレーザー溶着体の製造方法は、1)本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体(第1成形体)を得る工程と、2)前述の光吸収性樹脂組成物の成形体(第2成形体)を得る工程と、3)第1成形体と第2成形体とを重ね合わせ、第1成形体を介してレーザー光を照射して、第1成形体と第2成形体とを溶着させる工程とを含む。
【0111】
1)および2)の工程について
1)の工程では、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形して、成形体(第1成形体)を得る。2)の工程では、前述の光吸収性樹脂組成物を成形して、成形体(第2成形体)を得てもよいし、市販品を用いてもよい。成形方法は、3.成形体における成形方法と同様である。
【0112】
第1成形体および第2成形体の形状は、特に制限されないが、成形体同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面接触が可能な面(平面または曲面)を有する。レーザー溶着では、光透過性樹脂部材である第1成形体を透過したレーザー光が、光吸収性樹脂部材である第2成形体に吸収されて溶融し、両部材が溶着される。本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる第1成形体は、繊維状充填材(D)を含んでいるにも係わらず、レーザー光に対する透過性が高いことから、レーザー溶着方法における透過樹脂部材として好ましく用いることができる。
【0113】
第1成形体の厚み(レーザー光が透過する部分におけるレーザー透過方向の厚み)は、用途や、ポリアミド樹脂組成物の組成などを考慮して適宜設定されうるが、例えば5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。
【0114】
3)の工程について
第1成形体と第2成形体とを重ね合わせ、第1成形体を介してレーザー光を照射して、第1成形体と第2成形体とをレーザー溶着させる。
【0115】
具体的には、第1成形体と第2成形体の溶着箇所同士を相互に接触させる。このとき、第1成形体と第2成形体の溶着箇所は、面接触していることが好ましい。面接触は、平面同士の接触であってもよいし、曲面同士の接触であってもよいし、平面と曲面の接触であってもよい。
【0116】
次いで、レーザー光を、光透過性樹脂部材である第1成形体を介して照射する。レーザー光の照射は、レーザー光を効率よく溶着面に到達させやすくする観点から、溶着面に対して85~95°の角度から行うことが好ましい。また、必要に応じてレンズ系を用いて、第1成形体と第2成形体の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは、第1成形体中を透過し、第2成形体の表面近傍で吸収されて発熱し、溶融する。次に、その熱は熱伝導によって第1成形体にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールが形成される。この溶融プールは、冷却固化されて、溶着部(接合部)となる。
【0117】
用いられるレーザー光源は、光吸収性色素の光に応じて選択することができる。例えば、波長800~1064nmのレーザー光源が好ましく、例えば、半導体レーザーを用いることができる。
【0118】
このようにして、第1成形体と第2成形体とをレーザー溶着させて得られるレーザー溶着体は、高い溶着強度(接合強度)を有する。なお、本発明におけるレーザー溶着体には、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含まれる。
【0119】
(レーザー溶着体)
得られたレーザー溶着体は、機械的強度が良好で、高い溶着強度を有し、レーザー光照射による樹脂の損傷も少ない。そのため、得られたレーザー溶着体は、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、温度調節バルブ部品、サーモスタットケース、カメラ筐体など)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0120】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0121】
1.材料の調製
(1)ポリアミド樹脂(A)
<ポリアミド樹脂(A-1)の調製>
1,6-ヘキサンジアミン2800g(24.1モル)、テレフタル酸2774g(16.7モル)、イソフタル酸1196g(7.2モル)、安息香酸36.6g(0.30モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gおよび蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.03MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して、低次縮合物を抜き出した。その後、この低縮合物を室温まで冷却後、低次縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。得られた低次縮合物の水分量は4100ppm、極限粘度[η]は0.15dl/gであった。
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて180℃まで昇温させた。その後、1時間30分反応させて、室温まで降温させた。得られたプレポリマーの極限粘度[η]は、0.20dl/gであった。
その後、得られたプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(A-1)を得た。
得られたポリアミド樹脂(A-1)の極限粘度は1.0dl/g、融点(Tm)は330℃、ガラス転移温度(Tg)は125℃、末端アミノ基量は30mmol/kgであった。
【0122】
<ポリアミド樹脂(A-2)の調製>
1,6-ヘキサンジアミン2800g(24.1モル)、テレフタル酸2176g(13.1モル)、アジピン酸1578g(10.8モル)、安息香酸36.6g(0.30モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gおよび蒸留水554gを、内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.01MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して、低縮合物を抜き出した。その後、この低縮合物を室温まで冷却後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。得られた低縮合物の水分量は3600ppm、極限粘度[η]は0.14dl/gであった。
次に、この低縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて220℃まで昇温した。その後、1時間反応させ、室温まで降温した。得られたプレポリマーの極限粘度[η]は、0.48dl/gであった。
その後、得られたプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(A-2)を得た。
得られたポリアミド樹脂(A-2)の極限粘度[η]は1.0dl/g、融点(Tm)は310℃、ガラス転移温度(Tg)は85℃、末端アミノ基量は45mmol/kgであった。
【0123】
<ポリアミド樹脂(A-3)の調製>
原料を、1,6-ヘキサンジアミン2905g(25.0モル)、テレフタル酸2475g(14.9モル)、アジピン酸1461g(10.0モル)、安息香酸73.2g(0.60モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gに変えた以外はポリアミド樹脂(A-1)の調製と同様にして、ポリアミド樹脂(A-3)を得た。
得られたポリアミド樹脂(A-3)の極限粘度[η]は0.8dl/g、末端アミノ基量は110mmol/kg、融点(Tm)は320℃、ガラス転移温度(Tg)は95℃であった。
【0124】
<ポリアミド樹脂(A-4)の調製>
1,6-ヘキサンジアミン1312g(11.3モル)、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン1312g(11.3モル)、テレフタル酸3655g(22.0モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム5.5g(5.2×10-2モル)、およびイオン交換水640mlを1リットルの反応器に仕込み、窒素置換後、250℃、35kg/cm2の条件で1時間反応させた。1,6-ヘキサンジアミンと2-メチル-1,5-ペンタンジアミンとのモル比は50:50とした。1時間経過後、反応器内に生成した反応生成物を、この反応器と連結され、かつ圧力が約10kg/cm2低く設定された受器に抜き出して、極限粘度[η]が0.15dl/gであるプレポリマーを得た。
次いで、得られたプレポリマーを乾燥させた後、二軸押出機を用いてシリンダー設定温度330℃で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(A-4)を得た。
得られたポリアミド樹脂(A-4)の極限粘度[η]は1.0dl/g、融点(Tm)は300℃、ガラス転移温度(Tg)は140℃、末端アミノ基量は45mmol/kgであった。
【0125】
<ポリアミド樹脂(A-5)の調製>
1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとの混合物[1,9-ノナンジアミン:2-メチル-1,8-オクタンジアミン=80:20(モル比)]4385g(27.7モル)、テレフタル酸4537.7g(27.3モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物9.12g(原料の総質量に対して0.1質量%)および蒸留水2.5リットルを、内容積20Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間攪拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温させた。このとき、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧させた。そのまま2時間反応を続けた後、230℃に昇温し、その後、2時間230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を1MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度[η]が0.15dl/gのプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを、100℃、減圧下で12時間乾燥させた後、2mm以下の粒径まで粉砕した。粉砕したプレポリマーを230℃、13Pa(0.1mmHg)にて10時間固相重合させて、ポリアミド樹脂(A-5)を得た。
得られたポリアミド樹脂(A-5)の極限粘度[η]は1.2dl/g、融点(Tm)は300℃、ガラス転移温度(Tg)は120℃、末端アミノ基量は80mmol/kgであった。
【0126】
(2)ポリアミド樹脂(B)
<ポリアミド樹脂(B―1)の調製>
1,6-ヘキサンジアミン2800g(24.1モル)、テレフタル酸1390g(8.4モル)、イソフタル酸2581g(15.5モル)、安息香酸109.5g(0.9モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gおよび蒸留水545gを、内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.02MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。その後、低次縮合物を室温まで冷却後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。得られた低次縮合物の水分量は3000ppm、極限粘度[η]は0.14dl/gであった。
次に、この低次縮合物を、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(B-1)を得た。
得られたポリアミド樹脂(B-1)の極限粘度[η]は0.68dl/g、融点(Tm)は測定されず、ガラス転移温度(Tg)は125℃、融解熱量(ΔH)は0J/gであった。
【0127】
(3)比較用のポリアミド樹脂
<ポリアミド樹脂(a-1)>
東レ社製ナイロン樹脂、アミランCM3001-N(66ナイロン、極限粘度[η]:1.6dl/g、融点(Tm):262℃、ガラス転移温度(Tg):53℃)
【0128】
<ポリアミド樹脂(a-2)>
メタキシリレンアジパミド樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ポリアミドMXD6 レニー「#6002」、融点(Tm):243℃、融解熱量(ΔH):52J/mg)
【0129】
得られたポリアミド樹脂(A-1)~(A-5)および(B-1)の極限粘度[η]、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)、ならびに末端アミノ基量を、以下の方法で測定した。
【0130】
[極限粘度[η]]
JIS K6810-1977に準拠して、ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させて、試料溶液とした。得られた試料溶液の流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して25±0.05℃の条件下で測定した。測定結果を下記式に当てはめて、ポリアミド樹脂の極限粘度[η]を算出した。
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)]
ηSP=(t-t0)/t0[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0131】
[融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)、融解熱量(ΔH)]
ポリアミド樹脂の融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定した。具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱した。当該樹脂を完全融解させるために、350℃で5分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却した。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行なった。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)をポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とした。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、1回目の昇温過程での結晶化の発熱ピークの面積から求めた。
【0132】
[末端アミノ基量]
ポリアミド樹脂1gをフェノール35mLに溶解させ、メタノールを2mL混合し、試料溶液とした。そして、チモールブルーを指示薬として、当該試料溶液に対して0.01規定のHCl水溶液を使用して青色から黄色になるまで滴定を実施し、末端アミノ基量([NH2]、単位:mmol/kg)を測定した。
【0133】
ポリアミド樹脂(A-1)~(A-5)および(B-1)、ならびに比較用のポリアミド樹脂(a-1)~(a-2)の組成および特性を、表1にまとめた。表1の括弧内の数値は、ジアミン全量またはジカルボン酸全量を100モル%としたときの、各ジアミンまたはジカルボン酸のモル%を示す。
【0134】
【0135】
(4)光透過性色素(C)
8701H:オリヱント化学工業社製、e-BIND LTW-8701H(ポリアミド66と、光透過性色素のマスターバッチ(光透過性色素50質量%))
【0136】
比較用化合物(レーザー光に対する透過性を有しない色素):オリヱント化学工業社製、Nubian Black TH-827
【0137】
(5)繊維状充填材(D)
ガラス繊維(GF):ECS03T―747H 日本電気硝子社製、平均繊維径9.5~10.5μm、カット長3mm
ガラス繊維の平均繊維長および平均繊維径は、以下のように測定した。
【0138】
(平均繊維長、平均繊維径)
ガラス繊維のうち任意の100本の繊維長と繊維径を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて50倍でそれぞれ計測した。そして、得られた繊維長の平均値を平均繊維長とし、得られた繊維径の平均値を平均繊維径とした。アスペクト比は、平均繊維長/平均繊維径とした。
【0139】
(6)その他の成分(E)
タルク(核剤):平均粒子径1.6μm
【0140】
2.ポリアミド樹脂組成物の調製・評価
<実施例1~10、参考例1、比較例1~2>
(ポリアミド樹脂組成物(PA1-1)~(PA1-13)の調製)
表2に示される組成比で、ポリアミド樹脂、光透過性色素(C)、繊維状充填材(D)およびその他の成分(E)を、タンブラーブレンダーにて混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)+15)℃で溶融混錬した。なお、光透過性色素(C)の添加は、マスターバッチの状態で行い、マスターバッチの添加量は表2に示される値とした。その後、溶融混練した樹脂をストランド状に押出し、水槽で冷却した。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットして、ペレット状のポリアミド樹脂組成物(光透過性樹脂組成物)を得た。
【0141】
<比較例5>
光透過性色素(C)を、上記比較用化合物(オリヱント化学工業社製、Nubian Black TH-827)に変更した以外は実施例3と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
【0142】
得られたポリアミド樹脂組成物(比較例5以外は光透過性樹脂組成物)の融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)、レーザー光の透過率、荷重たわみ温度、引張強度、および補正融解熱量(ΔHR)を、以下の方法で測定した。
【0143】
[融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)]
得られたポリアミド樹脂組成物の融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、前述と同様の方法で測定した。
【0144】
[レーザー光の透過率]
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記射出成形機を用いて、下記の成形条件で成形して、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.6mmの試験片を得た。
成形機:東芝機械(株)製 EC75N-2(A)
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂組成物の融点(Tm)+10℃
金型温度:ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)-5℃
射出設定速度:50mm/sec
以下の測定においても同様とした。
そして、得られた試験片の波長940nmにおけるレーザー光の透過率をオフィール社製パワーメータF300-SHを用いて測定した。
【0145】
[荷重たわみ温度]
下記の射出成型機を用い、下記の成型条件で、厚さ3.2mmの試験片を得た。
成型機:(株)ソディック プラスティック、ツパールTR40S3A
成型機シリンダー温度:ポリアミド樹脂組成物の融点(Tm)+15℃
金型温度:ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)+20℃
次いで、得られた試験片を荷重たわみ試験機にセットし、スパンを100mmに固定して、35℃から昇温速度120℃/hrで1.8MPaの圧力をかけて、たわみ量が0.254mmになった際の温度を「荷重たわみ温度」とした。
【0146】
[引張強度]
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記の射出成形機を用いて、下記成形条件で成形して、厚み3.2mmのASTMダンベル型試験片Type Iを得た。
(成形条件)
成形機:住友重機械工業社製 SG50M3
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂組成物の融点(Tm)+10℃
金型温度:120℃
射出設定速度:60mm/sec
得られた試験片を、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、ASTMD638に準拠して、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で引張試験を行い、引張強度を測定した。
【0147】
[補正融解熱量(ΔHR)]
引張強度における試験片の作製方法と同様にして、試験片を得た。得られた試験片の一部を5mg取出し、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて、10℃/minで昇温させたときの1回目の昇温過程での発熱ピークの面積から、融解熱量(ΔH)を算出した。得られた融解熱量(ΔH)を、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対する繊維状充填材(D)以外の成分の合計質量の比で除して、補正融解熱量(ΔHR)を算出した。
【0148】
実施例1~10、参考例1および比較例1~2の評価結果を、表2に示す。
【0149】
【0150】
表2に示されるように、実施例1~10のポリアミド樹脂組成物は、いずれも比較例1および2、ならびに参考例1のポリアミド樹脂組成物よりも荷重たわみ温度が高く、高い耐熱性を有することがわかる。また、実施例4、9および10のポリアミド樹脂組成物は、いずれも比較例1および2ならびに参考例1のポリアミド樹脂組成物と同等かそれよりも高いレーザー光の透過率および引張強度を有することがわかる。
【0151】
中でも、ポリアミド樹脂(A)の結晶性を適度に低くする(イソフタル酸を含有させたり、分岐状脂肪族ジアミンを含有させたりする)ことで、ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)を適度に低くし、溶着強度をさらに高めやすいことがわかる(実施例4、9および10の対比)。
【0152】
また、ポリアミド樹脂組成物における繊維状充填材(D)の含有量を適度に多く(高くし過ぎない程度に多く)することで、ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)を低くし、引張強度をさらに高めやすいことがわかる(実施例1、4および6の対比)。
【0153】
また、ポリアミド樹脂組成物における光透過性色素(C)の含有量を、高くし過ぎない程度に多くすることで、ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)を低くし、溶着強度をさらに高めやすいことがわかる(実施例3~5の対比)。
【0154】
また、光透過性色素(C)に代えて、比較用化合物を用いた比較例5のポリアミド樹脂組成物は、レーザー光を吸収し(透過せず)、発熱および発火した。そのため、レーザー光の透過率は測定不可能であり、他の測定も行わなかった。
【0155】
3.溶着体の作製・評価
<実施例11~22、参考例2、比較例3~4>
(光吸収性樹脂組成物(PA2-1)~(PA2-9)の調製)
表3の下段に示される組成比で、ポリアミド樹脂、光吸収性色素、繊維状充填材および核剤を、タンブラーブレンダーにて混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド樹脂(A’)の融点(Tm)+15)℃で溶融混錬した。その後、溶融混練した樹脂をストランド状に押出し、水槽で冷却した。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットして、ペレット状の光吸収性樹脂組成物を得た。
【0156】
なお、光吸収性樹脂組成物の調製において、ポリアミド樹脂としては、前述のポリアミド樹脂(A-1)~(A-5)、(B-1)、(a-1)~(a-2)を用いた。光吸収性色素としては、カーボンブラック(三菱化学社製、MA600B)を用いた。繊維状充填材としては、前述のガラス繊維を用いた。核剤としては、前述のタルクを用いた。
【0157】
そして、表3の上段のポリアミド樹脂組成物(光透過性樹脂組成物)の成形体と、表2の下段の光吸収性樹脂組成物の成形体との溶着強度を、以下の方法で測定した。
【0158】
[溶着強度]
(成形体の作製)
ポリアミド樹脂組成物(光透過性樹脂組成物)と光吸収性樹脂組成物とを、以下の射出成形機を用いて、以下の成形条件でそれぞれ成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.6mmの第1成形体(レーザー光透過性成形体)および第2成形体(レーザー光吸収性成形体)を得た。
成形機:東芝機械(株)製 EC75N-2(A)
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点(Tm)+10℃
金型温度:ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)-5℃
射出設定速度:50mm/sec
【0159】
(レーザー溶着体の製造)
図1は、溶着強度の測定方法を示す模式図である。
図1に示されるように、得られた第1成形体(光透過性樹脂部材)の長さ方向の一方の端部と、第2成形体(光吸収性樹脂部材)の長さ方向の他方の端部とを、重なり幅(成形体の長さ方向の幅)が1cmとなるように重ね合わせ、第1成形体(光透過性樹脂部材)の端部から0.5mmの部分を中心として、成形体の長さ方向に±10mmの範囲で、重なり部分にレーザー光を照射した。レーザー光の照射条件は、以下の通りとした。
試験機:ファインディバイス社製fd-200
抑え圧:0.5MPa
レーザー径:2mmφ
走査距離:10mm
第2成形体に到達するエネルギー総量:12J
【0160】
(溶着強度の測定)
得られたレーザー溶着体について、JIS K6301-2に準拠して、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で引張試験を行い、引張強度を測定した。得られた引張強度を「溶着強度」とした。
【0161】
実施例11~22、参考例2および比較例3~4の評価結果を、表3に示す。
【0162】
【0163】
表3に示されるように、実施例14、17、21および22の溶着体は、いずれも比較例3および4の溶着体よりも高い溶着強度を有することがわかる。中でも、ポリアミド樹脂組成物の補正融解熱量(ΔHR)を適度に低くする(例えば54J/gよりも低くする)ことで、溶着強度を高めうることがわかる(実施例14、21および22の対比)。
【0164】
また、ポリアミド樹脂組成物における繊維状充填材(D)の含有量を、高くし過ぎない程度に多くすることで、溶着強度をさらに高めうることがわかる(実施例11、14および16の対比)。
【0165】
また、ポリアミド樹脂組成物における光透過性色素(C)の含有量を、高くし過ぎない程度に多くすることで、溶着強度をさらに高めうることがわかる(実施例13~15の対比)。
【0166】
本出願は、2018年2月16日出願の特願2018-026310に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明によれば、レーザー光の透過率を低下させることなく、レーザー溶着する際に良好な溶着強度を発現しうる高いレーザー溶着性、高い機械的強度および高い耐熱性を有するポリアミド樹脂組成物、およびそれを用いた溶着体の製造方法を提供することができる。