(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】ゲッター層を有する発光半導体デバイスを製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20220510BHJP
H01S 5/02235 20210101ALI20220510BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
H01S5/343
H01S5/02235
H01S5/183
(21)【出願番号】P 2020096559
(22)【出願日】2020-06-03
(62)【分割の表示】P 2016553545の分割
【原出願日】2015-02-20
【審査請求日】2020-06-25
(32)【優先日】2014-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520344981
【氏名又は名称】トルンプフ フォトニック コンポーネンツ ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイヒマン,ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】コルプ,ヨハンナ ゾフィー
(72)【発明者】
【氏名】エンゲルハルト,アンドレーアス ペーター
(72)【発明者】
【氏名】メンヒ,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】シェマン,マルセル フランツ クリスティアン
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-174876(JP,A)
【文献】特開2006-135215(JP,A)
【文献】特開2013-093489(JP,A)
【文献】特開2005-167099(JP,A)
【文献】特表2004-502298(JP,A)
【文献】特開2001-339099(JP,A)
【文献】特開2001-251019(JP,A)
【文献】特開2000-312026(JP,A)
【文献】特開平11-261174(JP,A)
【文献】特開平11-238912(JP,A)
【文献】特開平04-328822(JP,A)
【文献】特開昭63-278395(JP,A)
【文献】特開昭63-276215(JP,A)
【文献】特開昭63-198320(JP,A)
【文献】特開昭61-058899(JP,A)
【文献】米国特許第05038356(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
H01L 33/00 - 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光半導体デバイスを製造する方法であって、
基板を用意するステップと、
発光層構造を第1の成長条件で設けるステップと、
前記発光半導体デバイスの層構造内の不純物を減らすためのAlGaAsゲッター層を、前記第1の成長条件とは異なる第2の成長条件で設けるステップと
を有し、
前記第1及び第2の成長条件は、砒素分圧、酸素分圧、堆積温度、総堆積圧力、及びアルミニウムの堆積速度からなる群から選択され、
前記第2の成長条件は、前記AlGaAsゲッター層内の前記不純物の濃度である第1の不純物濃度が、アルミニウムを含む前記発光層構造の層内の前記不純物の濃度である第2の不純物濃度と比較して、少なくとも50%高いように選定され、
アルミニウム含有量が第1のアルミニウム含有量と該第1のアルミニウム含有量とは異なる第2のアルミニウム含有量との間を0.5%/nm未満で変化するサブレイヤを、前記AlGaAsゲッター層が有するように、前記AlGaAsゲッター層のアルミニウムの堆積速度が選定され、
前記AlGaAsゲッター層内の格子欠陥の数が、アルミニウムを含む前記発光層構造の層と比較して増加されるように、前記AlGaAsゲッター層の堆積中の砒素分圧が、ガリウム分圧の2倍と200倍との間の範囲のうちの少なくとも一部内で変化さ
れ、
前記AlGaAsゲッター層に組み入れられる不純物は硫黄である、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記AlGaAsゲッター層は、前記基板と前記発光層構造内の活性層との間に配置される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
アルミニウムを含む前記発光層構造の層内のアルミニウム含有量が少なくとも0.5%/nmで変化するように、アルミニウムを含む前記発光層構造の層内のアルミニウムの堆積速度が選定される、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記AlGaAsゲッター層内の酸素の濃度である第1の酸素濃度が、アルミニウムを含む前記発光層構造の層内の酸素の濃度である第2の酸素濃度と比較して、少なくとも50%高いように、前記AlGaAsゲッター層の堆積中の酸素分圧が増大される、請求項1乃至
3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記AlGaAsゲッター層の堆積中の堆積温度が、500℃と750℃との間の範囲のうちの少なくとも一部内で変化される、請求項1乃至
4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記AlGaAsゲッター層の堆積中の総圧が、50mbarと150mbarとの間の範囲のうちの少なくとも一部内で変化される、請求項1乃至
5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記AlGaAsゲッター層は少なくとも50nmの厚さを備える、請求項1乃至
6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
当該方法は、少なくとも第1及び第2のAlGaAsゲッター層を設けることを有し、前記第1及び第2のAlGaAsゲッター層に異なる不純物が組み入れられるように、前記第1及び第2のAlGaAsゲッター層の成長条件が異なる、請求項1乃至
7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED)又は例えば垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)若しくは端面発光レーザダイオードなどのレーザダイオードのような発光半導体デバイスに関する。本発明は更に、そのような発光半導体デバイスを製造する対応した方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(US6447604B1)は、UV-LEDで使用され得るIII-V族窒化物ホモエピタキシャルマイクロエレクトロニクスデバイス構造を記載している。薄い酸化物層が(Al,In,Ga)N基板上に成長され、その後、成長の直前に、アルカリ溶液内で剥離され、あるいはその他の好適手法でエッチング除去される。この薄い酸化物層の目的は、潜在的な不純物を基板からゲッタリングすなわち除去して、基板表面の最初の数層の単分子層にホモエピタキシャル層阻害不純物(例えば、C、Si、S又はOなど)及び/又はその他の不純物がないことを可能にすることである。
【0003】
デバイスの寿命及び性能を高めるために、発光半導体デバイスの成長プロセスにおいて不純物を減らすことが更に望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
故に、本発明の1つの目的は、改善された発光半導体デバイスと、そのような発光半導体デバイスを製造する対応した方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様によれば、基板と、発光層構造と、該発光層構造内の不純物を減らすためのAlGaAsゲッター層とを有する発光半導体デバイスが提案される。発光層構造は、活性層と、アルミニウム含有量が変化する層とを有し、アルミニウムを含む発光層構造の層の成長条件は、AlGaAsゲッター層内の第1の不純物濃度が、アルミニウムを含む発光層構造の層内の第2の不純物濃度と比較して、少なくとも50%高いように、AlGaAsゲッター層の成長条件と比較して異なる。成長条件は、砒素分圧、酸素分圧、堆積温度、総堆積圧力、及びアルミニウムの堆積速度からなる群から選択される。前記AlGaAsゲッター層のアルミニウムの堆積速度は、アルミニウム含有量が第1のアルミニウム含有量と該第1のアルミニウム含有量とは異なる第2のアルミニウム含有量との間を0.5%/nm未満で変化するサブレイヤを前記AlGaAsゲッター層が有するように選定される。
【0007】
発光半導体デバイスは、発光ダイオード(LED)、又は例えば垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)若しくは端面発光レーザダイオードのようなレーザダイオードを有する。AlGaAsゲッター層は、組成式AlxGa1-xAsによって記述されることができ、xは、AlGaAsゲッター層内で変化し得るAlGaAsゲッター層のアルミニウム含有量を記述する。AlGaAsは、ゲッター層の有効性に影響を及ぼすことなく、更なる元素を少ない量で含み得る。アルミニウム含有量は、x1=0とx2=1との間で変化することができ、一般的な値はx1=0.05とx2=0.9との間である。光子の吸収及び例えばAlAsの酸化が役割を果たさないようにAlGaAsゲッター層が基板と発光層構造との間に置かれる場合、x1=0とx2=1との間の範囲全体を使用することができる。不純物がAlGaAsゲッター層の中に囲われ、その結果、堆積装置内の気相中の不純物の濃度が低減される。AlGaAsゲッター層の堆積において、砒素分圧、酸素分圧、堆積温度、総堆積圧力、及びアルミニウムの堆積速度からなる群からの成長条件の、1つのみが異なってもよいし、2つ以上の組み合わせが異なってもよい。例えば、砒素分圧、又は気相中のガリウム分圧に対する砒素分圧の比が、発光層構造の層の砒素分圧と等しくありながら、AlGaAsゲッター層の堆積中のAl堆積速度によって決定されるAlGaAsゲッター層のアルミニウム含有量が、発光層構造の層と比較してAlGaAsゲッター層の中で異なるように変化するとし得る。
【0008】
他の例では、砒素分圧が、AlGaAsゲッター層の堆積中に、アルミニウムを含む発光層構造の層の堆積と比較して異なるように制御され得る。これは、ガリウム分圧に対する砒素分圧の異なる比、又はAlGaAsゲッター層の堆積中のこの比の動的変化を有し得る。
【0009】
AlGaAsゲッター層の堆積における異なる成長条件の動的な変化又は変更は、不純物の濃度を下げるために特定の条件に厳密に一致させることが必要ないという利点を有し得る。AlGaAsゲッター層の堆積中に成長条件を変化させることで十分であることがあり、それにより、1つ以上の不純物をAlGaAsゲッター層内に埋め込むための条件に堆積条件が一致するときに堆積装置の気相中の濃度が有意に低減されることが遅くされ得る。有意とは、この点において、気相中のそれぞれの不純物のうちの少なくとも20%、好ましくは50%、より好ましくは90%の減少を意味する。また、2つ以上のAlGaAsゲッター層が存在してもよく、第1の層でAl堆積速度が変化され、第2の層でAs分圧が変化され、第3の層で温度が変化される等々とし得る。AlGaAsゲッター層の堆積中の成長条件の変化はまた、成長条件のオシレイション(振動)を有していてもよい。AlGaAsゲッター層のAl含有量は、例えば、第1のAl含有量x1から第2のAl含有量x2まで増加し、その後、第3のAl含有量x3まで減少してもよい。
【0010】
S、P、O、Zn、Si、B、N、Inなどのような、発光半導体デバイスの寿命に影響を及ぼし得る数多くの不純物が気相中に存在する。不純物とは、この点において、それぞれの元素が、1つの特有の堆積工程において、堆積装置又は機器の気相への望まれない付け足しであることを意味する。1つの堆積工程で望まれるドーパントが、別の堆積工程において不純物となり得る。
【0011】
実験が示していることには、特に硫黄は、発光半導体デバイスの寿命を著しく縮め得る。故に、AlGaAsゲッター層は、堆積装置の気相中の硫黄濃度を低下させるために、硫黄を組み入れるように適応され得る。
【0012】
量子井戸のような発光層を有する活性層は、発光半導体デバイスの寿命に影響を及ぼす不純物の組み込みに関して非常に影響を受けやすい。故に、AlGaAsゲッター層は好ましくは、基板と活性層との間に配置される。1つ以上のAlGaAsゲッター層が、基板上に直接的に堆積されることができ、あるいは、例えば、VCSELの場合に、活性層の堆積に先立って堆積される下側の誘電体分布ブラッグ反射器(DBR)の中に埋め込まれ得る。
【0013】
実験が示していることには、アルミニウムの堆積速度は、不純物の組み込みに強く影響する。AlGaAsゲッター層のアルミニウムの堆積速度は、AlGaAsゲッター層のアルミニウム含有量が0.5%/nm未満で変化するように選定される。実験が更に示していることには、AlGaAsゲッター層内のAl含有量のゆっくりした変化が、堆積装置の気相中の不純物の改善された減少を可能にし得る。アルミニウム含有量は、AlGaAsゲッター層の始まりにおける第1のアルミニウム含有量x1からAlGaAsゲッター層の終わりにおける第2のアルミニウム含有量x2まで0.4%/nmの、又は好ましくは、更には0.3%/nmの一定の割合で増加され得る。アルミニウム含有量は、それに代えて減少されてもよい。下側のアルミニウム含有量x1は0.1又は0.2とすることができ、上側のアルミニウム含有量x2は0.9とすることができる。第2のアルミニウム含有量x2は好ましくは、0.6、0.5、又は0.4とし得る。AlGaAsゲッター層が、増加及び減少するアルミニウム含有量を持つ1つ以上のサブレイヤを有することが有利であり得る。増加及び減少するとは、基板に隣接するAlGaAsゲッター層の側を基準にしている。後者は、例えば、その他の成長条件に応じて、x1=0.2とx2=0.4との間のAl含有量で不純物が好ましく組み入れられ得る場合に有利であり得る。続けて0.3%/nmの割合でx1とx2との間でAl含有量を変化させることによって、薄いAlGaAsゲッター層の中に1つ以上の不純物の大部分を組み入れることが可能であり得る。いずれにせよ、AlGaAsゲッター層が一定のアルミニウム含有量の領域を有することも可能であり得る。
【0014】
加えて、アルミニウムを含む発光層構造の層内のアルミニウムの堆積速度が、アルミニウムを含む発光層構造の層内のアルミニウム含有量が少なくとも0.5%/nmで変化するように選定され得る。実験が示していることには、アルミニウム含有量の速い変化は、ゆっくりした変化とは対照的に、発光層構造の層内に不純物が組み込まれる確率を低下させる。後者は、不純物の濃度が閾値よりも低い場合に、活性層の中の及び活性層に隣接した影響を受けやすい領域での不純物の組み込みを回避する助けとなる。故に、活性層の中の及び活性層に隣接した領域におけるAl含有量の速い変化は、堆積装置の気相中の1つ以上の不純物の濃度を低下させるAlGaAsゲッター層の効果を支援する。
【0015】
上述の手段に代えて、あるいは加えて、AlGaAsゲッター層の堆積中の砒素分圧が、ガリウム分圧の2倍と200倍との間の範囲のうちの少なくとも一部内で変化され得ることが有利であり得る。砒素分圧は好ましくは、AlGaAsゲッター層の堆積中に、ガリウム分圧の5倍と80倍との間の範囲のうちの少なくとも一部内で変化され得る。この変化は、例えば、ガリウム分圧の10倍から30倍まで、又はガリウム分圧の60倍から20倍まで、砒素分圧を線形に変えることによって連続的に変えられ得る。これに代えて、あるいは加えて、砒素とガリウムとの間の分圧の比が段階的に変化されてもよい。また、(Al含有量に関して上述したのと同様に、)砒素とガリウムとの間の振動的な分圧比を供することが可能であり得る。砒素とガリウムとの間の分圧比のオシレイションは、堆積装置の気相中の不純物の濃度を低下させるように適応された比較的薄いAlGaAsゲッター層を可能にし得る。砒素とガリウムとの間の分圧比を変化させることは、必ずしも、AlGaAsゲッター層の全体的な結晶構造を変化させないが、格子欠陥の数が変化され、それによりAlGaAsゲッター層内への不純物の組み入れの確率が変わり得る。
【0016】
上述の手段に代えて、あるいは加えて、AlGaAsゲッター層内の酸素の第1の酸素濃度が、アルミニウムを含む発光層構造の層内の第2の酸素濃度と比較して、少なくとも50%高いように、AlGaAsゲッター層の堆積中の酸素分圧が増大され得る。AlGaAsゲッター層の堆積中に堆積装置内の酸素分圧を増大させることは、AlGaAsゲッター層内への不純物の組み入れを増やし得る。増大された酸素分圧はまた、AlGaAsゲッター層内の酸素含有量を増加させ得る。故に、追加の酸素が発光層構造の層にダメージを生じさせないよう注意を払わなければならない。酸素分圧は、故に、AlGaAsゲッター層内の酸素濃度が1018cm-3未満、より好ましくは2×1017cm-3未満であるように選定される。酸素分圧は、第1の分圧から第2の分圧、第3の分圧などへと連続的あるいは段階的に変化されることができ、あるいは更には、As分圧又はAl堆積速度に関して上述したように、振動的に変化されてもよい。
【0017】
上述の手段に代えて、あるいは加えて、AlGaAsゲッター層の堆積中の堆積温度が、500℃と750℃との間の範囲のうちの少なくとも一部内で変化され得る。温度は、第1の温度から第2の温度、第3の温度などへと連続的あるいは段階的に変化されることができ、あるいは更には、As分圧、Al堆積速度、又は酸素分圧に関して上述したように、振動的に変化されてもよい。温度は、例えば、発光半導体デバイスの層構造を備えたウエハ、そして特には、材料が上に堆積される表面を、電磁放射線によって加熱することによって、非常に迅速に変化され得る。電磁放射線は、急な温度変化を可能にする半導体光源によって供給され得る。急な温度変化は、非平衡状態でのAlGaAsの堆積を可能にし、それが、AlGaAsゲッター層の吸収能力及びAlGaAsゲッター層内への不純物の組み入れの確率を更に高めるために使用され得る。
【0018】
上述の手段に代えて、あるいは加えて、AlGaAsゲッター層の堆積中の総圧が、50mbarと150mbarとの間の範囲のうちの少なくとも一部内で変化され得る。総圧は、第1の圧力から第2の圧力、第3の圧力などへと連続的あるいは段階的に変化されることができ、あるいは更には、As分圧、Al堆積速度、酸素分圧、又は温度に関して上述したように、振動的に変化されてもよい。
【0019】
AlGaAsゲッター層を堆積するのに必要な時間は、総処理時間を長くさせ得るが、堆積装置の気相中の不純物の濃度を効率的に低下させることには最小限の厚さが必要とされるのみである。故に、AlGaAsゲッター層の厚さは、少なくとも50nmとし得る。堆積装置に応じて、100nm、200nm、300nm、又は更には500nmに至る厚さを持つAlGaAsゲッター層を設けることが有利であり得る。
【0020】
発光半導体デバイスは、第1、第2、第3、又は更には、いっそう多くのAlGaAsゲッター層を有することができ、それらは、異なるAlGaAsゲッター層に異なる不純物が優先的に組み入れられるように、異なる成長条件によって堆積され得る。各AlGaAsゲッター層が全ての不純物を組み入れてもよいが、主に1つの不純物のみが組み入れられてもよい。これらゲッター層は互いに積層され得る。それに代えて、あるいは加えて、例えば、先に堆積された層にドーパントを加えた後に、発光半導体デバイスにAlGaAsゲッター層を付加することが有利なことがある。ドーパントはその後に堆積される層にとっての不純物となり得るので、AlGaAsゲッター層は、気相中のドーパント(例えば、Si)の濃度を低下させるように適応され得る。
【0021】
発光半導体デバイスは、第1の電極と第2の電極とを有する垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)とすることができ、発光層構造は、底部DBRと、活性層と、頂部DBRとを有し、AlGaAsゲッター層のアルミニウム含有量が、AlGaAsゲッター層内で、底部DBR又は頂部DBRの層のアルミニウム含有量の変化と比較して少なくとも5倍のゆっくりさで変化し得る。AlGaAsゲッター層の堆積中のアルミニウム含有量の比較的ゆっくりした変化は、気相中の1つ以上の不純物の濃度を低下させる確率を増大させ得る。堆積速度の変化は、0.5%/nm、0.4%/nm、0.3%/nm、又はそれより低くし得る。VCSELの活性層の近くに堆積され得るグレーデッドインデックスレイヤ(GRIN)(傾斜屈折率層)に関して注意を払わなければならない。GRINのAl含有量は、一方のDBRの層のAl含有量よりも遥かにゆっくりと変化する。GRIN内のAlの堆積速度の変化は、気相中の1つ以上の不純物の濃度が閾値を超えている限りにおいて、GRINがVCSELの活性層の隣のAlGaAsゲッター層として作用することを回避するために、0.5%/nmよりも高く、0.6%/nmよりも高く、好ましくは0.7%/nmよりも高くされ得る。
【0022】
更なる一態様によれば、発光半導体デバイスを製造する方法が提供される。この方法は、
基板を用意するステップと、
発光層構造を第1の成長条件で設けるステップと、
発光半導体デバイスの層構造内の不純物を減らすためのAlGaAsゲッター層を、第1の成長条件とは異なる第2の成長条件で設けるステップと
を有し、
第2の成長条件は、AlGaAsゲッター層内の第1の不純物濃度が、アルミニウムを含む発光層構造の層内の第2の不純物濃度と比較して、少なくとも50%高いように選定され、第1及び第2の成長条件は、砒素分圧、酸素分圧、堆積温度、総堆積圧力、及びアルミニウムの堆積速度からなる群から選択され、アルミニウム含有量が第1のアルミニウム含有量と該第1のアルミニウム含有量とは異なる第2のアルミニウム含有量との間を0.5%/nm未満で変化するサブレイヤを、AlGaAsゲッター層が有するように、AlGaAsゲッター層のアルミニウムの堆積速度が選定される。
【0023】
AlGaAsゲッター層を設けるステップは、発光層構造の堆積に先立って行われ得る。それに代えて、あるいは加えて、AlGaAsゲッター層は、発光層構造の一部を設けた後に配設あるいは堆積されてもよい。
【0024】
理解されるべきことには、それぞれの独立項との従属項の如何なる組み合わせも本発明の一好適実施形態とすることができる。また、製造する方法は、従属項及びそれぞれの実施形態の説明によって記述される発光半導体デバイスの実施形態に対応する実施形態を有し得る。
【0025】
更なる有利な実施形態が以下に規定される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明のこれら及びその他の態様が、以下に記載される実施形態を参照して明らかになる。
【0027】
ここに、添付の図面を参照して、実施形態に基づいて、例として、本発明を説明する。図面は以下を示す。
【
図1】第1の実施形態に従った発光半導体デバイスを示している。
【
図2】第2の実施形態に従った発光半導体デバイスを示している。
【
図3】従来技術のVCSEL構造のAlプロファイルを示している。
【
図4】従来技術のVCSEL構造のAl及び硫黄のプロファイルを示している。
【
図5】
図4に示したプロファイルの拡大図を示している。
【
図6】
図4に示したプロファイルとの比較で、変更された成長条件でのVCSEL構造のAl及び硫黄のプロファイルを示している。
【
図7】本発明に従った第1の発光半導体デバイスのAlプロファイルを示している。
【
図8】本発明に従った第2の発光半導体デバイスのAlプロファイルを示している。
【
図9】発光半導体デバイスの層の堆積中の酸素分圧の変化に伴う発光半導体デバイスのAl、S及びOのプロファイルを示している。
【
図10】本発明に従った方法の主な略図を示している。
【
図11】発光半導体デバイスの発光層構造内のS濃度を低下させることの効果を示している。 図面においては、全体を通して、似通った参照符号が同様のオブジェクトを表す。図中のオブジェクトは必ずしも縮尺通りに描かれていない。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の様々な実施形態を図面により説明する。
【0029】
図1は、第1の実施形態に従った発光半導体デバイス100を示している。発光半導体デバイス100はVCSELであり、GaAs基板120の第1の面上に設けられた第1の電極110と、GaAs基板120の第2の面上に設けられたAlGaAsゲッター層190と、発光層構造155と、第2の電極170とを有している。発光層構造155は、AlGaAsゲッター層190の頂部上に設けられた好ましくは99%よりも高い反射率を持つ底部DBR130と、活性層140と、閉じ込め層150と、第2の電極170の下に設けられた頂部DBR160とを有している。頂部DBRは、好ましくは95%よりも高い反射率を持ち、頂部DBR160を介したレーザ放射を可能にしている。活性層140は、第1の電極110及び第2の電極170を介して電力が供給される場合にレーザ光を発する量子井戸を有する。レーザ光は、頂部DBR160を介して、リング形状の第2の電極170を通過して放射される。
【0030】
AlGaAsゲッター層190はまた、
図2に示す本発明に従った発光半導体デバイス100の第2の実施形態に示されるように、底部DBR130の中に配置されてもよい。幾つかのAlGaAsゲッター層190を設けることも可能であり得る。それらAlGaAsゲッター層190のうちの1つ以上が基板上に設けられ、1つ以上のその他のAlGaAsゲッター層190が、底部DBR130の最初の層と頂部DBR160の最後の層との間に設けられ得る。
【0031】
図3は、従来技術のVCSEL構造のAlプロファイル380を示している。
図3において約8000nmの位置にある基板120の上でエピタキシャル成長が始まる。VCSELの最初の部分は、約3000nm位置まで延在している底部DBR130であり、それに活性層140が続いている。活性層140は、グレーデッドインデックスレイヤ(GRIN)、キャビティスペーサ、量子井戸、及びそれらの間のバリアとで形成されている。2500nmよりも僅かに上の位置で、構造内の最も高いAlレベルが、閉じ込め層150を構築する酸化物開口の位置を指し示しており、それに頂部DBR160が続いている。頂部DBR160は、光の一部をレーザ放射として透過させるので、底部DBR130よりも少ないミラー対を有している。
図3において0nmに近い位置にあるVCSELの最後の2つの部分は、電気コンタクトを形成するために及び半導体材料と空気との間の屈折率の飛びを考慮した反射率に一致させるために必要とされるサブキャップ層及びキャップ層である。材料の導電率を高めるには、ドーパントを使用しなければならない。典型的に、pドーパントとして炭素が使用され、nドーパントとしてSiが使用されるが、ドーパントとして首尾良く使用された多様なその他の元素:Sn、S、Se、Te、Zn、Be、Mg、・・・が文献にて知られている。これらの物質の他に、反応炉内には通常、酸素及び水素も存在しており、これらがエピタキシャル構造内に組み入れられる。更なる物質も存在し、例えば、基板の洗浄又は堆積装置若しくは反応炉の部品の洗浄に使用される物質や、ガス中に存在する物質が存在する。これらの物質は全て、1つの処理工程では有用であり得るが、後続の処理工程において発光半導体の性能に影響を及ぼす不純物となり得る。メカニズムに応じて、導電率が上昇したり、光電効率が低下したり、あるいはデバイスの寿命が縮んだりし得る。故に、エピタキシャル構造内の不純物の量を低減することが非常に望ましい。
【0032】
図4は、構造内のアルミニウム含有量及びこのケースでは硫黄(S)である不純物の濃度のSIMSスペクトルを示している。硫黄プロファイル中のピーク430によって示されるように、2800nmと2600nmとの間のAlプロファイル450のGRIN内の位置に、最も多く不純物が組み込まれている。これらのスペクトルのうち、より狭い範囲を、
図5に示している。明らかなように、Al含有量がゆっくりと変化している領域に不純物が組み込まれている。GRINの堆積中、Al含有量が0.31%/nmで変化するようにAlの堆積速度を制御した。2800nmと2600nmとの間でのAl含有量の増加とともに、硫黄がGRINに埋め込まれている。炭素(C)によるGRINのpドーピングを可能にするために、活性層の2800nmと2600nmとの間で、As分圧とGa分圧との間の比を低下させた。2800nmと3400nmとの間の範囲では、As分圧とGa分圧との間の比を、炭素の組み込みが回避されるように選定した。S濃度は、およそx1=0.25のAl含有量で始まっておよそx2=0.4のAl含有量で終わる明らかなピークを有している。硫黄の組み込みは、硫黄がその中にトラップされ得るGRIN内の格子欠陥の数を増加させ得るものであるGa分圧に対するこの低めのAs分圧によって支援されているとし得る。
図11は、このような標準的なVCSELを用いて行った、170℃且つ駆動電流6mAでの加速寿命実験結果を示している。このような高い硫黄含有量を持つVCSELは、400時間未満という低寿命を有する。
【0033】
図6は、
図4に示したプロファイルとの比較で、変更したVCSEL構造のアルミニウムプロファイル450及び硫黄プロファイル430を示している。
図4及び5とは対照的に、このSIMSスペクトルは、より低いS含有量及び異なる構造を示している。これは、
図4及び5に示した構造内の硫黄濃度よりも硫黄濃度が遥かに低いという事実によって生じ得る。加えて、GRIN領域内でAl含有量を遥かに速く変化させることによって、硫黄を好ましく吸収するAlGaAsゲッター層としてGRIN層が作用することが回避される。基本的に、この領域内に硫黄は見当たらない。実験が示していることには、発光半導体デバイスの速い劣化を回避するためには、このケースでは硫黄の濃度を、1×10
15cm
-3の範囲とし得る所定の閾値未満に低下させることが肝要である。故に、発光層構造内で、特に、活性層内及びその隣で、低い硫黄濃度を可能にするため、気相中の不純物濃度を閾値未満まで低下させるために、反応炉内に存在する可能性のある不純物を組み入れるようにAlGaAsゲッター層190が使用され得る。加えて、影響を受けやすい活性層140の隣には、如何なるAlGaAsゲッター層190も回避されるべきである。故に、AlGaAsゲッター層190は好ましくは、基板120と発光層構造との間に置かれ、あるいは基板120の隣の底部DBR130の下側半分の中に置かれる。
【0034】
このようなAlGaAsゲッター層190を有する構造の一例が、第1の実施形態に従ったVCSEL構造のAlプロファイル780を示す
図7に示されている。この構造は、およそ8000nmの位置で200nmにわたっての、低い方のAlレベルと高い方のAlレベルとの間でのAl含有量のゆっくりした上昇及び減少を有している。この上昇は、DBRスタック内においてよりも遥かにゆっくりしたものである。
【0035】
他の一例が、第2の実施形態に従ったVCSEL構造のAlプロファイル880を示す
図8に示されている。このケースでは、およそ8000nmの位置に、ゆっくり変化するAl含有量を持つ構造が成長されている。
図7及び8の例では、このようなAlGaAsゲッター層190が一度のみ繰り返されている。当然ながら、アルミニウムを含む発光層構造155のレイヤ群の成長条件と比較して成長条件を変更することによって、Sのような不純物又はその他の不純物の組み入れを向上させるために、これらのAlGaAsゲッター層190のうちの2つ以上を、場合により互いに隣接させて、成長させることも可能である。成長条件は、砒素分圧、酸素分圧、堆積温度、総堆積圧力、及びアルミニウムの堆積速度からなる群から選択される。
【0036】
図9は、発光半導体デバイス100の層の堆積中の酸素分圧の変化に伴う発光半導体デバイス100のアルミニウム濃度910、硫黄濃度930、及び酸素濃度920を示している。硫黄は主に、およそ8000nm及び4500nmの位置の酸素濃度のピークによって指し示される増大される酸素分圧にて埋め込まれる。故に、増大される酸素分圧は、1つ以上のAlGaAsゲッター層190内に不純物をトラップするために使用され得る。この更なる手段は、このケースにおいて、
図9の右側に示されるAlGaAsゲッター層190を支援している。
【0037】
図10は、本発明に従った発光半導体を製造する方法の主な略図を示している。ステップ1010にて、基板120が用意される。ステップ1020にて、発光層構造155が、第1の成長条件で設けられる。ステップ1030にて、基板120と発光層構造155との間に、発光半導体デバイスの層構造155内の不純物を減らすためのAlGaAsゲッター層190が、第1の成長条件とは異なる第2の成長条件で設けられる。第2の成長条件は、AlGaAsゲッター層190内の第1の不純物濃度が、アルミニウムを含む発光層構造155のレイヤ群内の第2の不純物濃度と比較して、少なくとも50%高くなるように選定される。第1及び第2の成長条件は、砒素分圧、酸素分圧、堆積温度、総堆積圧力、及びアルミニウムの堆積速度からなる群から選択される。
【0038】
図11は、発光半導体デバイス100の発光層構造155内のS濃度を低下させることの効果を示している。発光半導体デバイス100の寿命を、170℃且つ駆動電流6mAでの加速寿命試験により測定した。この寿命試験が示すことには、AlGaAsゲッター層190なしでおよそ400時間の寿命を持つ発光半導体デバイス100に対して、発光層構造155内の最大硫黄濃度がAlGaAsゲッター層190によって低下された発光半導体デバイス100の寿命は、1000時間より長くまで、又は更には1500時間より長くまで延ばされている。
【0039】
図面及び以上の記載にて本発明を詳細に図示して説明してきたが、これらの図示及び説明は、限定的なものではなく、例示的あるいは典型的なものとみなされるべきである。
【0040】
本開示を読むことにより、その他の変更が当業者に明らかになる。それらの変更は、技術的に既知であり且つここで既に述べた特徴に代えて又は加えて使用され得るような、その他の特徴を含んでいてもよい。
【0041】
開示の実施形態への変形が、図面、本開示及び添付の請求項の検討から、当業者によって理解されて実現され得る。請求項において、用語“有する”はその他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞“a”又は“an”は複数の要素又はステップを排除するものではない。特定の複数の手段が相互に異なる従属項に記載されているという単なる事実は、それらの手段の組合せが有利に使用され得ないということを指し示すものではない。
【0042】
請求項中の如何なる参照符号も、その範囲を限定するものとして解されるべきでない。
【符号の説明】
【0043】
100 発光半導体デバイス
110 第1の電極
120 基板
130 底部DBR
140 活性層
150 閉じ込め層
155 発光層構造
160 頂部DBR
170 第2の電極
190 AlGaAsゲッター層
380 従来技術のVCSEL構造のAlプロファイル
430 硫黄プロファイル
450 Alプロファイル
780 第1の実施形態に従ったVCSEL構造のAlプロファイル
880 第2の実施形態に従ったVCSEL構造のAlプロファイル
910 Al濃度
920 O濃度
930 S濃度
1010 基板を用意するステップ
1020 発光層構造を設けるステップ
1030 AlGaAsゲッター層を設けるステップ