(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】銀粉末の製造方法及び銀粉末を含む導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20220510BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220510BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F9/24 F
B22F1/00 K
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2020524380
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(86)【国際出願番号】 KR2018012183
(87)【国際公開番号】W WO2019088508
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】10-2017-0143176
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518050218
【氏名又は名称】エルエスニッコカッパー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】LS-NIKKO COPPER INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】カン、テフン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ゼウォン
(72)【発明者】
【氏名】リ、チャングン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ミヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジン、ウミン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨンファン
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/026722(WO,A1)
【文献】特開2006-002228(JP,A)
【文献】特開2016-216824(JP,A)
【文献】特開2005-330529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/24
B22F 1/00
B22F 1/102
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオン、アンモニア(NH
3)、有機酸アルカリ金属塩及び硝酸アンモニウムを含む第1反応液、及び還元剤を含む第2反応液を製造する反応液製造ステップ(S21)と、
第1反応液と第2反応液とを反応させて銀粉末を得る析出ステップ(S22)とを含む銀塩還元ステップ(S2);を含み、
前記銀イオンを含むものとして、硝酸銀を使用し、
前記有機酸アルカリ金属塩を500g/Lの前記硝酸銀(AgNO
3)120mlに対して8乃至32gの割合で添加
し、
前記有機酸アルカリ金属塩は、酢酸(CH
3
COOH)、ギ酸(CH
2
O
2
)、シュウ酸(C
2
H
2
O
4
)、乳酸(C
3
H
6
O
3
)、クエン酸(C
6
H
8
O
7
)、フマル酸(C
4
H
4
O
4
)、クエン酸(C
6
H
8
O
7
)、酪酸(C
4
H
8
O
2
)、プロピオン酸(CH
3
CH
2
COOH)及び尿酸(C
5
H
4
N
4
O
3
)よりなる群から選択される少なくとも1種の有機酸(短鎖脂肪酸)とリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)よりなる群から選択される少なくとも1種の金属とが塩を形成したものであり、
前記第1反応液は、銀イオン、アンモニア、有機酸アルカリ金属塩を含む第1溶液に硝酸を添加して前記アンモニアとの反応によって前記硝酸アンモニウムを生成することにより製造され、
前記第1溶液に添加される硝酸(HNO
3
)は、水溶液の形で使用され、
500g/Lの前記硝酸銀(AgNO
3
)120mlに対して濃度60質量%の前記硝酸の水溶液が1乃至20gの割合で添加され、
500g/Lの前記硝酸銀(AgNO
3
)120mlに対して25%のアンモニア水溶液が96ml乃至234mlの割合で添加される、銀粉末の製造方法。
【請求項2】
前記還元剤は、アルカノールアミン、ハイドロキノン、ヒドラジン及びホルマリンよりなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の銀粉末の製造方法。
【請求項3】
前記析出ステップ(S22)は、前記第1反応液を攪拌する状態で前記第2反応液を滴加するか、或いは一括添加して反応させるステップであることを特徴とする、請求項1に記載の銀粉末の製造方法。
【請求項4】
前記銀粉末の親水表面を疎水化する表面処理ステップをさらに含み、前記表面処理ステップではオクタデシルアミンを表面処理剤として使用する、請求項1に記載の銀粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用電極や積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターンなどの電子部品に使用される導電性ペーストに含まれる銀粉末の製造方法、及び銀粉末を含む導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
銀(silver)は、固有の高い電気伝導度と酸化安定性により電気電子分野で電極材料として広く使用されている。特に、最近では、所望の形態の回路を直接形成する印刷エレクトロニクス技術の発達に伴い、銀を粉末化し、これをペーストやインクの形に加工した導電性ペーストに関する産業が発達している。銀粉末が使用される導電性ペーストは、スルーホール、ダイボンディング、チップ部品などの伝統的な導電電極だけでなく、プラズマディスプレイパネル(PDP)、太陽電池の前面電極または背面電極、タッチスクリーンなど、その使用先が様々であり、その使用量が増加し続けている傾向にある。
【0003】
従来から、銀粉末の製造には、硝酸銀水溶液とアンモニア水で銀アンミン錯体水溶液を製造し、これに有機還元剤を添加する湿式還元プロセスが適用された。このような銀粉末は、チップ部品、プラズマディスプレイパネル、太陽電池などの電極または回路の形成に用いられている。
【0004】
銀粉末が太陽電池の前面電極に使用される場合には、前面電極の形成面積による遮蔽、散乱及び反射による損失を最小化して効率を向上させることができるように前面電極の線幅は減少させ、高さは増加させることが要求される。しかし、銀粉末が高い収縮率を有する場合に、焼結開始温度が低いため、ガラスフリットとの相溶性が低いことがある。つまり、銀粉末が高い収縮率を有する場合に、相対的に低い温度で銀粉末間の焼結が始まるので、ガラスフリットよりも先に焼結が起こることがある。これにより、銀粉末を含む導電性ペーストのエッチング及び濡れ性(wettability)が所望しない特性を持つことがあり、基板の原子移動経路に作用するガラスフリットが基板の下部へ移動することが阻害されるおそれがある。これにより、導電性ペーストを用いて形成された電極の接触抵抗が大きくなって太陽電池の効率が減少するおそれがあり、電極の接触強度が低下するため、激しい場合には電極の剥離が起こることがあって太陽電池の耐久性が低減するおそれがある。
【0005】
これを改善するために、導電性ペーストに含まれるバインダーまたはガラスフリットの物質または組成を変更すれば、導電性ペーストの他の特性が望まなく変更されるなどの問題がありうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたもので、その目的は、高い収縮率を有し且つ高い焼結開始温度を有することができる銀粉末の製造方法、及び銀粉末を含む導電性ペーストを提供することにある。
【0007】
しかし、本発明の目的は、上述した目的に制限されず、上述していない別の目的は、以降の記載から当業者に明確に理解できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る銀粉末の製造方法は、銀イオン、アンモニア(NH3)、有機酸アルカリ金属塩及び硝酸アンモニウムを含む第1反応液、及び還元剤を含む第2反応液を製造する反応液製造ステップ(S21)と、第1反応液と第2反応液とを反応させて銀粉末を得る析出ステップ(S22)とを含む銀塩還元ステップ(S2);を含む。
【0009】
前記第1反応液は、銀イオン、アンモニア、有機酸アルカリ金属塩を含む第1溶液に硝酸アンモニウム自体を添加するか、或いは反応によって硝酸アンモニウムを生成することにより製造できる。
【0010】
前記第1反応液は、前記第1溶液に硝酸を添加して前記アンモニアとの反応によって前記硝酸アンモニウムを生成することにより製造できる。
【0011】
前記第1溶液に添加される硝酸(HNO3)は、水溶液の形で使用され、前記500g/Lの硝酸銀(AgNO3)120mlに対して濃度60%の前記硝酸水溶液が1乃至20gの割合で添加できる。
【0012】
前記還元剤は、アルカノールアミン、ハイドロキノン、ヒドラジン及びホルマリンよりなる群から選択される1種以上であり得る。
【0013】
前記析出ステップ(S22)は、前記第1反応液を攪拌する状態で前記第2反応液を滴加するか、或いは一括添加して反応させるステップであり得る。
【0014】
前記銀粉末の親水表面を疎水化する表面処理ステップをさらに含み、前記表面処理ステップではオクタデシルアミンを表面処理剤として使用することができる。
【0015】
本発明に係る導電性ペーストは、銀粉末を含む導電性ペーストであって、平均粒径が1.9乃至2.2μmであり、比表面積が0.3乃至0.5m2/gであり、有機物含有量が0.5乃至0.7%であり、焼結開始温度が320乃至360℃である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態に係る銀粉末は、製造過程で硝酸アンモニウムを添加し、これを含む導電性ペーストの焼結時に収縮率を高く維持した状態で銀粉末の焼結開始温度を高めてガラスフリットとの相溶性を向上させることができる。このような導電性ペーストを太陽電池の前面電極に適用すると、前面電極の接触抵抗を下げ、接触強度を向上させることができる。このとき、銀粉末の製造時に硝酸アンモニウムを追加して焼結開始温度を調節するので、簡単な工程で所望の焼結開始温度を得ることができ、導電性ペーストに含まれるバインダー及びガラスフリットの物質及び組成を変更しなくてもよいので、これに伴う他の特性の変更などの問題を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】熱機械分析(TMA)による、実施例1及び3に係る銀粉末を含む導電性ペーストの時間による温度及び寸法変化(dimension change)を示すグラフである。
【
図2】実施例1に係る銀粉末を含む導電性ペーストの焼結後の写真である。
【
図3】比較例1に係る銀粉末を含む導電性ペーストの焼結後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するに先立ち、本明細書で使用された用語は、特定の実施形態を記述するためのものに過ぎず、添付する特許請求の範囲のみによって限定される本発明の範囲を限定しようとするものではないことを理解すべきである。本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、他の記載がない限り、技術的に通常の技術を有する者に一般的に理解されるのと同じ意味を持つ。
【0019】
本明細書及び請求の範囲の全般にわたり、他の記載がない限り、含む(comprise、comprises、comprising)という用語は、言及された物、ステップ、または一群の物及びステップを含むことを意味し、任意のある他の物、ステップ、または一群の物または一群のステップを排除する意味で使用されたものではない。
【0020】
一方、本発明の様々な実施形態は、明確な反対の指摘がない限り、その他のいくつかの異なる実施形態と組み合わせられてもよい。特に好ましいか有利であると指示するある特徴も、好ましいか有利であると指示したその他のいずれかの特徴及び複数の特徴と組み合わせられてもよい。以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態及びこれによる効果を説明することにする。
【0021】
本発明の一実施形態に係る銀粉末の製造方法では、硝酸アンモニウム(ammoniumnitrate)を添加して銀粉末を製造し、銀粉末を含む導電性ペーストの焼結時に収縮率を高く維持した状態で焼結開始温度を高めてガラスフリットとの相溶性を高めることができる。このような導電性ペーストを太陽電池の前面電極に適用すると、前面電極の接触抵抗を下げ、接触強度を向上させることができる。
【0022】
本発明の一実施形態に係る銀粉末の製造方法は、銀塩製造ステップ(S1);銀塩還元ステップ(S2);濾過及び洗浄などの精製ステップ(S3);表面処理ステップ(S4);及び後処理ステップ(S5)を含んでなる。本発明に係る銀粉末の製造方法は、銀塩還元ステップ(S2)を必ず含み、これ以外のステップは省略可能である。
【0023】
本発明の一実施形態に係る銀塩製造ステップ(S1)は、インゴット、チップ、グラニュール形態の銀(silver、Ag)を酸処理して、銀イオン(Ag+)を含む銀塩(silver salt)溶液を製造するステップである。本発明では、銀塩製造ステップ(S1)を経て銀塩溶液を直接製造することもでき、市販の硝酸銀(AgNO3)、銀塩錯体または銀中間体溶液を用いて以後のステップを行うことができる。
【0024】
本発明の一実施形態に係る銀塩還元ステップ(S2)は、銀塩溶液にアンモニア、還元剤、硝酸アンモニウムを添加して銀イオンを還元させることにより銀粒子(silver particle)を析出させるステップである。銀塩溶液、アンモニア、有機酸アルカリ金属塩および硝酸アンモニウムを含む第1反応液、及び還元剤を含む第2反応液を製造する反応液製造ステップ(S21)と、第1反応液と第2反応液とを反応させて銀粉末を得る析出ステップ(S22)とを含む。
【0025】
本発明の一実施形態に係る反応液製造ステップ(S21)は、銀イオンを含む銀塩溶液にアンモニア、有機酸アルカリ金属塩を添加して形成された第1溶液に硝酸アンモニウムを添加し、これを攪拌溶解して第1反応液を製造する。この際、第1溶液に硝酸アンモニウムを添加するために、硝酸アンモニウム自体を添加することもでき、硝酸とアンモニアの反応によって硝酸アンモニウムが形成されるようにすることもできる。この際、硝酸アンモニウム自体を入れることよりは、硝酸とアンモニアの反応によって硝酸アンモニウムを生成することが、取扱い安定性に優れるうえ、pH制御による特性制御もより容易である。例えば、pHが増加すると単分散、球状化が可能であり、見かけ特性などを効果的に制御することができる。このとき、硝酸とアンモニアをそれぞれさらに添加することもでき、pHを調節するアンモニアを十分な量で添加した状態で硝酸を添加して硝酸アンモニウムを生成することができる。
【0026】
さらに具体的には、銀イオンを含む銀塩溶液に有機酸アルカリ金属塩を添加し、アンモニアでpHを調節して第1溶液を製造する。
【0027】
前記銀イオンは、銀陽イオンの形態であれば制限されない。一例として、硝酸銀(AgNO3)、銀塩錯体または銀中間体であり得る。好ましくは、硝酸銀(AgNO3)を使用するのが良い。以下、銀イオンを含む硝酸銀(AgNO3)を使用することを一例示として述べる。以下、500g/Lの硝酸銀(AgNO3)120mLを基準にその他の成分の含有量などを説明する。
【0028】
前記有機酸アルカリ金属塩は、酢酸(CH3COOH)、ギ酸(CH2O2)、シュウ酸(C2H2O4)、乳酸(C3H6O3)、クエン酸(C6H8O7)、フマル酸(C4H4O4)、クエン酸(C6H8O7)、酪酸(C4H8O2)、プロピオン酸(CH3CH2COOH)及び尿酸(C5H4N4O3)よりなる群から選択される少なくとも1種の有機酸(短鎖脂肪酸)とリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)よりなる群から選択される少なくとも1種の金属とが塩を形成したものが挙げられる。好ましくは、酢酸カリウム(CH3COOK)、ギ酸カリウム(HCOOK)及びシュウ酸カリウム(C2K2O4)よりなる群から選択される少なくとも1種を使用するのが良い。
【0029】
前記500g/Lの硝酸銀(AgNO3)120mlに対して前記有機酸アルカリ金属塩が8乃至32gの割合で添加できる。有機酸アルカリ金属塩を上記の範囲で添加して収縮速度を高める効果を提供する。500g/Lの硝酸銀(AgNO3)120mlに対して前記有機酸アルカリ金属塩が8g未満の割合で添加される場合には、効果が微々たるものであり、500g/Lの硝酸銀(AgNO3)120mlに対して前記有機酸アルカリ金属塩が32gを超える割合で添加される場合には、それ以下で添加される場合と効果が類似しうる。
【0030】
アンモニア(NH3)は、水溶液の形で使用できる。例えば、25%のアンモニア水溶液を使用する場合、500g/Lの硝酸銀(AgNO3)120mlに対して25%のアンモニア水溶液が96ml乃至234mlの割合で添加できる。上述したように、本発明では、アンモニアがpHを制御する役割と、硝酸アンモニウムを生成する役割を一緒に行うことができる。これを考慮してpHを制御する役割と、硝酸アンモニウムを生成する役割を一緒に行うことができる程度にアンモニア水溶液を追加しなければならない。500g/Lの硝酸銀(AgNO3)120mlに対して25%のアンモニア水溶液が96ml未満の割合で添加されると、銀イオンがすべて還元されないか、或いは均一な粒子分布を形成させることが困難であるか、或いは硝酸が存在しても硝酸アンモニウムを生成するのに適さないことがある。500g/Lの硝酸銀(AgNO3)120mlに対して25%のアンモニア水溶液が234mlを超えた割合で添加される場合には、pHが高くなるにつれて粉末の球状化または単分散性は良くなるが、製造された銀粉末中の有機物含有量が所望の基準よりも高いため、導電性ペーストの製造後に炭素が集積されて導電性が低下するおそれがある。前記アンモニアは、その誘導体を含む。
【0031】
このように銀イオン、有機酸アルカリ金属塩及びアンモニアを含む第1溶液に硝酸を追加して硝酸アンモニウムを生成することにより、第1反応液を製造する。一例として、本実施形態では、第1溶液に硝酸を添加することにより、既に添加されたアンモニアと反応を起こして硝酸アンモニウムを生成させ、これを使用することができる。このような硝酸アンモニウムは、銀粉末またはこれを含む導電性ペーストの他の特性(例えば、見掛け特性)を変化させずに、焼結開始温度を向上させることができる。
【0032】
このとき、第1溶液にさらに添加される硝酸(HNO3)は、水溶液の形で使用でき、例えば濃度60%の硝酸水溶液を使用する場合、500g/Lの硝酸銀(AgNO3)120mlに対して、硝酸水溶液は1乃至20gの割合で添加できる。このとき、第1溶液にさらに添加されるアンモニアは、pHを調節するためのアンモニアよりも少ない量で含まれ得る。アンモニアまたは硝酸の含有量が上述の範囲未満であれば、焼結開始温度を高める効果が十分でないおそれがあり、上述した割合の範囲を超えれば、反応廃液の全窒素濃度が増加して廃水処理費用の増加により全体的な製造コストが増加するおそれがある。
【0033】
上述した第1反応液は、水などの溶剤に銀イオン、有機酸アルカリ金属塩、アンモニア水溶液を含む第1溶液に、硝酸水溶液を添加し、攪拌して溶解させることにより、水溶液状に製造でき、また、スラリー状にも製造できる。
【0034】
本発明の一実施形態に係る反応液製造ステップ(S21)は、また、還元剤を含む第2反応液を製造する。
【0035】
前記還元剤は、アルカノールアミン、ハイドロキノン、ヒドラジン及びホルマリンよりなる群から選択される1種以上であり、この中からハイドロキノンを好ましく選択することができる。このとき、還元剤は、第1反応液に含まれる500g/Lの硝酸銀120mlに対して20乃至30gで含まれ得る。500g/Lの硝酸銀120mlに対して還元剤が20g未満の割合である場合には、銀イオンがすべて還元されないことがあり、500g/Lの硝酸銀120mlに対して還元剤が30gを超えた割合で使用する場合には、有機物含有量が増加する問題がある。
【0036】
還元剤を含む第2反応液は、水などの溶媒に還元剤を添加し、攪拌して溶解させることにより、水溶液状に製造できる。
【0037】
本発明の一実施形態に係る析出ステップ(S22)は、第1反応液と第2反応液とを反応させて銀粉末を得るステップであって、反応液製造ステップ(S21)によって製造された第1反応液を攪拌する状態で第2反応液をゆっくりと滴加するか、或いは一括添加して反応させることができる。好ましくは、一括添加した後、10分乃至20分間さらに攪拌して混合液中で粒子を成長させることが、短時間で還元反応が一括終了して粒子同士の凝集を防止し、分散性を向上させることができて良い。
【0038】
一方、本発明の実施形態では、銀粒子の分散性向上及び凝集防止のために分散剤がさらに添加されて反応させることを権利範囲から除外しない。分散剤の例としては、脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属、キレート形成剤及び保護コロイドなどを挙げることができる。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、分散剤を含まなくてもよい。
【0039】
本発明の一実施形態に係る精製ステップ(S3)は、銀塩還元ステップ(S2)を介して銀粒子析出反応を完了した後、水溶液またはスラリー内に分散している銀粉末を濾過などを用いて分離し、洗浄するステップ(S31)を含む。さらに具体的には、銀粉末分散液中の銀粒子を沈降させた後、分散液の上澄み液を捨て、遠心分離器を用いて濾過し、濾材を純水で洗浄する。洗浄する過程は、粉末を洗浄した洗浄水を完全に除去することができる。選択的に濾過の前に反応完了溶液に上記の分散剤を添加して銀粉末の凝集を防止することも可能である。
【0040】
また、本発明の一実施形態に係る精製ステップ(S3)は、洗浄後、乾燥及び解砕ステップ(S32)をさらに含むことができる。ここで、含水率は10%以下であり得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
本発明の一実施形態に係る表面処理ステップ(S4)は、銀粉末の親水表面を疎水化するステップであって、選択的に行われ得る。これは、銀粉末が親水表面を持てば、長期保管の際に水分及び表面酸化によって特性が変化することがあり、導電性ペーストに製造する際に有機溶媒との相溶性及び最終印刷特性に大きい影響を及ぼすことがあるからである。このとき、表面処理剤としては、塩またはエマルジョン形態の単独または多種の化合物を使用することができる。
【0042】
一例として、濾過後に得られる銀粉末に、オクタデシルアミンを含む表面処理剤を添加して、銀粉末に疎水性を付与することができる。一例として、オクタデシルアミンを硝酸銀100重量部に対して0.01乃至0.1重量部(一例として、0.03重量部)で含むことができる。その後、再び濾過、洗浄、乾燥、解砕過程を経て銀粉末を得ることができる。銀粉末を表面処理する際に粉末の分散がうまく行われてこそ表面処理が十分に行われ、含水率が低い場合には分散効率に劣るので、一定量を含水率をもって表面処理するのが良い。
【0043】
本発明の一実施形態に係る後処理ステップ(S5)は、表面処理後に得られた銀粉末の乾燥及び凝集粉末を分散するための解砕過程、及び粗大粉末を除去するための分級工程を含むことができる。一例として、ジェットミル(Jetmil)などを用いて一定の空気圧(例えば、0.4kgf)及びフィーディング速度(例えば、30乃至60g/min)で解砕過程を行うことができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
本発明の一実施形態に係る銀粉末の製造方法によって製造された銀粉末は、平均粒径(D50)が1.9乃至2.2μmであり、比表面積が0.3乃至0.5m2/gであり、有機物含有量が0.5乃至0.7%であり、これを含む導電性ペーストの焼結開始温度が320乃至360℃(一例として、330乃至360℃)であり得る。
【0045】
本発明は、また、本発明の一実施形態によって製造される銀粉末を含む導電性ペーストを提供する。さらに具体的には、本発明に係る導電性ペーストは、本発明によって製造される銀粉末、ガラスフリット及び有機ビヒクルを含めて太陽電池の電極形成に好適に使用できる。
【0046】
本発明に係る導電性ペースト組成物は、必要に応じて通常知られている添加剤、例えば、分散剤、可塑剤、粘度調整剤、界面活性剤、酸化剤、金属酸化物、金属有機化合物などをさらに含むことができる。
【0047】
本発明は、また、前記導電性ペーストを基材上に塗布し、乾燥及び焼成することを特徴とする太陽電池の電極形成方法、及びこの方法によって製造された太陽電池電極を提供する。本発明の太陽電池の電極形成方法において、前記特性の銀粉末を含む導電性ペーストを使用する以外は、基材、印刷、乾燥及び焼成は、通常、太陽電池の製造に使用される方法が使用できるのはもちろんである。一例として、前記基材はシリコンウエハーであり得る。
【0048】
本発明の一実施形態に係る銀粉末は、製造過程で硝酸アンモニウムを添加し、これを含む導電性ペーストの焼結時に収縮率を高く維持した状態で銀粉末の焼結開始温度を高めてガラスフリットとの相溶性を高めることができる。このような導電性ペーストを太陽電池の前面電極に適用すると、前面電極の接触抵抗を下げ、接触強度を向上させることができる。このとき、銀粉末の製造時に硝酸アンモニウムを追加して焼結開始温度を調節するので、簡単な工程に所望の焼結開始温度を得ることができ、導電性ペーストに含まれるバインダー及びガラスフリットの物質及び組成を変更しなくてもよいので、これによる他の特性の変更などの問題を防止することができる。
実施例及び比較例
【0049】
(1)実施例1
常温の純水720gに500g/Lの硝酸銀120ml、シュウ酸カリウム22g及びアンモニア(濃度25%)210mlを含む第1溶液に硝酸水溶液(濃度60%)4gを添加し、25℃で30分間攪拌して第1反応液を調製した。一方、常温の純水800gにハイドロキノン24gを添加し、25℃で30分間攪拌して第2反応液を調製した。
【0050】
次いで、第1反応液に第2反応液を一括添加し、添加終了後から10分間さらに攪拌して混合液中で粒子を成長させた。その後、攪拌を停止し、混合液中の粒子を沈降させた後、混合液の上澄み液を捨て、混合液を遠心分離器を用いて濾過し、濾材を純水で洗浄し、70℃で12時間乾燥させる精製ステップを行うことにより、銀粉末を得た。
【0051】
続いて、精製ステップで得られた銀粉末を純水300gに投入して攪拌した状態で、オクタデシルアミン0.18gをエタノールに超音波洗浄器を用いて溶解させた後、投入し、10分間攪拌した。遠心分離器を用いてコーティングされた銀粉末を得た後、70℃で12時間乾燥させる表面処理ステップを行った。
【0052】
次いで、後処理ステップで凝集したものを除去するために、日本ニッシン(Nissin)社製のジェットミルを用いて0.04kgの空気圧及び30g/minのフィーディング速度で処理することにより、最終解砕された銀粉末を得た。
【0053】
(2)実施例2および3
【0054】
第1溶液に添加されるアンモニア及び硝酸の含有量を下記表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、銀粉末を得た。
【0055】
(3)比較例1
比較例1は、第1溶液にアンモニア及び硝酸を添加しないため、第1溶液自体を第1反応液として使用した以外は、実施例1と同様にして、銀粉末を得た。
【0056】
【0057】
実験例
(1)銀粉末の粒径の測定
【0058】
本発明の実施例及び比較例によって製造された銀粉末50mgをエタノール30mlに添加して超音波洗浄機に3分間分散させた後、レーザー回折法による粒度分布測定装置(S3500、Microtrac社製)を用いて粒径を測定することにより、平均粒径(D50)を測定した。その結果を下記表2に示す。
【0059】
(2)比表面積の測定
【0060】
本発明の実施例及び比較例によって製造された銀粉末を100℃で1時間乾燥させた後、比表面測定装置(BELSORP mini-II、BEL Japan社製)を用いて窒素吸着によって比表面積を測定した。その結果を下記表2に示す。
【0061】
(3)有機物含有量(強熱減量(Ignition loss))の測定
【0062】
本発明の実施例及び比較例によって製造された銀粉末に対して、セイコーインスツル(Seiko instrument)株式会社製のTG/DTA EXART6600を用いて、空気中、10℃/minの昇温速度で常温から500℃までの範囲で熱重量分析(thermogravimetric analysis、TGA)分析を行うことにより、有機物含有量を測定した。その結果を下記表2に示す。
【0063】
(4)焼結開始温度の測定
【0064】
エチルセルロース樹脂(STD200、The Dow Chemical Company社製)7.7wt%とブチルカルビトールアセテート(大井化金社製)92.3wt%を混合した有機ビヒクル10gに、発明の実施例及び比較例によって製造された銀粉末90gを自転空転式真空攪拌脱包装置で混合した後、3ロールミルで混練してペーストを製造した。
【0065】
前記製造されたペーストを200μmの厚さ、1cm×1cmのサイズでアルミナ基板上に塗布し、80℃で2時間乾燥させた後、乾燥体をスライスし、しかる後に、TMA(Thermomechanical Analysis)を介して50℃/minの昇温速度で800℃まで昇温しながら、温度による乾燥体の厚さ変化(寸法変化、dimension change)を確認して焼結開始温度を測定した。ここで、焼結開始温度は、signal change maximum技法を用いて測定された。
図1には実施例1及び3による銀粉末を含む導電性ペーストの時間による温度及び寸法変化(dimension change)を示し、表2には実施例1乃至3、および比較例1による銀粉末を含む導電性ペーストの焼結開始温度を示した。
【0066】
実施例1による銀粉末を含む導電性ペーストの焼結後の写真を
図2に添付し、比較例1による銀粉末を含む導電性ペーストの焼結後の写真を
図3に添付した。
【0067】
【表2】
実施例1乃至3による銀粉末を含む導電性ペーストは、
図1および表2に示されるように、焼結開始温度が320℃以上(一例として、320℃以上)であって比較例1に比べて高いことが分かる。このとき、銀粉末の平均粒径、比表面積、有機物含有量などの他の特性(特に、比表面積)は変化せずに、導電性ペーストの焼結開始温度のみが効果的に調節できることが分かる。
【0068】
図2及び
図3を参照すると、実施例1による銀粉末を含む導電性ペーストは、全体的に均一に焼成されたのに対し、比較例1による銀粉末を含む導電性ペーストは、焼結されていない領域が存在することが分かる。
【0069】
前述した各実施例で例示された特徴、構造、効果などは、実施例の属する分野における通常の知識を有する者によって他の実施例に対しても組み合わせまたは変形して実施可能である。よって、これらの組み合わせと変形に関わる内容は、本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。