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特許7069314塊状窒化ホウ素粒子、窒化ホウ素粉末、窒化ホウ素粉末の製造方法、樹脂組成物、及び放熱部材
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  • 特許-塊状窒化ホウ素粒子、窒化ホウ素粉末、窒化ホウ素粉末の製造方法、樹脂組成物、及び放熱部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】塊状窒化ホウ素粒子、窒化ホウ素粉末、窒化ホウ素粉末の製造方法、樹脂組成物、及び放熱部材
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20220510BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220510BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20220510BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C01B21/064 B
C08L101/00
C08K3/38
H01L23/36 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020527669
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2019025753
(87)【国際公開番号】W WO2020004600
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2018124451
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】竹田 豪
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳孝
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-020932(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145869(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/066277(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/043082(WO,A1)
【文献】特開2014-172768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C04B 35/583-35/5835
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集した塊状窒化ホウ素粒子であって、
断面における前記一次粒子の面積割合の平均値が45%以上であり、
断面における前記一次粒子の面積割合の標準偏差が25未満であり、
圧壊強度が8.0MPa以上である、塊状窒化ホウ素粒子。
【請求項2】
前記断面における前記一次粒子の面積割合の平均値が50~85%である、請求項1に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
【請求項3】
前記断面における前記一次粒子の面積割合の標準偏差が20以下である、請求項1又は2に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
【請求項4】
前記断面における前記一次粒子の面積割合の標準偏差が15以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の塊状窒化ホウ素粒子を含む、窒化ホウ素粉末。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の塊状窒化ホウ素粒子を含み、平均粒径が20~100μmであり、粉末X線回折から求められる配向性指数が12以下であり、かつタップ密度が0.85g/cm以上である、窒化ホウ素粉末。
【請求項7】
塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末の製造方法であって、
炭素量が18.0~21.0質量%である炭化ホウ素を、1800℃以上かつ0.6MPa以上の窒素雰囲気下で焼成して第一の焼成物を得る工程と、
前記第一の焼成物を酸素分圧が20%以上の条件下で焼成して酸化処理粉末を得る工程と、
前記酸化処理粉末とホウ素源と混合し、ホウ素を含有する液相成分を前記酸化処理粉末に真空含浸させる工程と、
前記液相成分を含浸した前記酸化処理粉末を1800℃以上の窒素雰囲気下で加熱焼成して第二の焼成物を得る工程と、
前記第二の焼成物を粉砕して塊状窒化ホウ素粉末を含む窒化ホウ素粉末を得る工程と、を含む、窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の窒化ホウ素粉末と、樹脂とを含む、樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂組成物の硬化物を含む、放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塊状窒化ホウ素粒子、窒化ホウ素粉末、窒化ホウ素粉末の製造方法、樹脂組成物、及び放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、及びCPU等の発熱性電子部品においては、使用時に発生する熱を如何に効率的に放熱するかが重要な課題となっている。従来から、このような放熱対策としては、(1)発熱性電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層を高熱伝導化すること、又は(2)発熱性電子部品又は発熱性電子部品を実装したプリント配線板を電気絶縁性の熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けることが一般的に行われてきた。プリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材としては、シリコーン樹脂又はエポキシ樹脂に対してセラミックス粉末を充填させた樹脂組成物が使用されている。
【0003】
近年、発熱性電子部品内の回路の高速化、高集積化、及び発熱性電子部品のプリント配線板への実装密度の増加に伴って、電子機器内部の発熱密度は年々増加している。そのため、従来にも増して高い熱伝導率を有するセラミックス粉末が求められてきている。
【0004】
以上のような背景の中で、高熱伝導率、高絶縁性、及び低比誘電率等の電気絶縁材料として優れた性質を有している、六方晶窒化ホウ素(Hexagonal Boron Nitride)粉末が注目されている。
【0005】
しかし、六方晶窒化ホウ素粒子は、面内方向(a軸方向)の熱伝導率が400W/(m・K)であるのに対して、厚み方向(c軸方向)の熱伝導率が2W/(m・K)であり、結晶構造と鱗片状に由来する熱伝導率の異方性が大きい。さらに、六方晶窒化ホウ素粉末は樹脂に充填すると、粒子同士が同一方向に揃って配向する。
【0006】
そのため、例えば、熱インターフェース材の製造時に、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)と熱インターフェース材の厚み方向が垂直になり、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)の高熱伝導率を十分に活かすことができなかった。
【0007】
特許文献1では、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)を高熱伝導シートの厚み方向に配向させたものが提案されており、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)の高熱伝導率を活かすことができる。
【0008】
しかし、特許文献1に記載の従来技術には、(1)配向したシートを次工程にて積層する必要があり製造工程が煩雑になり易く、また(2)積層・硬化後にシート状に薄く切断する必要があり、シートの厚みの寸法精度を確保することが困難であるという課題があった。また、六方晶窒化ホウ素粒子の形状が鱗片状であり、樹脂への充填時に粘度の増加、及び流動性の悪化を招くため、樹脂への窒化ホウ素粒子の高充填が困難であった。
【0009】
これらを改善するため、六方晶窒化ホウ素粒子の熱伝導率の異方性を抑制した種々の形状の窒化ホウ素粉末が提案されている。
【0010】
特許文献2では、一次粒子の六方晶窒化ホウ素粒子が同一方向に配向せずに凝集した窒化ホウ素粉末の使用が提案されており、熱伝導率の異方性が抑制できるとされている。またその他の凝集窒化ホウ素を製造する従来技術として、スプレードライ法で作製した球状窒化ホウ素(特許文献3)、炭化ホウ素を原料として製造した凝集体の窒化ホウ素(特許文献4)、及びプレスと破砕を繰り返し製造した凝集窒化ホウ素(特許文献5)も知られている。しかし、これらは実際には凝集粒子内の窒化ホウ素密度及び一次粒子の均一性が十分でなく、高い放熱性及び絶縁特性の凝集窒化ホウ素を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2000-154265号公報
【文献】特開平9-202663号公報
【文献】特開2014-40341号公報
【文献】特開2011-98882号公報
【文献】特表2007-502770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の従来技術では、作製した凝集粒子の内部に含まれる窒化ホウ素の密度(一次粒子の割合の平均値)が十分に高いとはいえず、一次粒子構造が十分に均一でもないことから、安定的な高い絶縁特性及び高い放熱特性が解決できなかった。
【0013】
本開示は、絶縁性及び熱伝導率に優れる塊状窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。本開示はまた、絶縁性及び熱伝導率に優れる窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定の製造方法によって、内部に含まれる窒化ホウ素の一次粒子密度が十分に高く、一次構造が均一な塊状窒化ホウ素粒子を製造できることを見出した。さらに、本発明者らは、上記塊状窒化ホウ素粒子は、異方性が低く、かつタップ密度が高く、当該塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末が絶縁性及び熱伝導率に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本開示の一側面は以下を提供できる。
(1)六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集した塊状窒化ホウ素粒子であって、断面における上記一次粒子の面積割合の平均値が45%以上であり、断面における上記一次粒子の面積割合の標準偏差が25未満であり、圧壊強度が8.0MPa以上である、塊状窒化ホウ素粒子。
(2)上記断面における上記一次粒子の面積割合の平均値が50~85%である、(1)に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
(3)上記断面における上記一次粒子の面積割合の標準偏差が20以下である、(1)又は(2)に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
(4)上記断面における上記一次粒子の面積割合の標準偏差が15以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の塊状窒化ホウ素粒子。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の塊状窒化ホウ素粒子を含む、窒化ホウ素粉末。
(6)平均粒径が20~100μmであり、粉末のX線回折から求められる配向性指数が12以下であり、かつタップ密度が0.85g/cm以上である、窒化ホウ素粉末。
(7)塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末の製造方法であって、炭素量が18.0~21.0質量%である炭化ホウ素を、1800℃以上かつ0.6MPa以上の窒素雰囲気下で焼成して第一の焼成物を得る工程と、上記第一の焼成物を酸素分圧が20%以上の条件下で焼成して酸化処理粉末を得る工程と、上記酸化処理粉末とホウ素源と混合し、ホウ素を含有する液相成分を上記酸化処理粉末に真空含浸させる工程と、上記液相成分を含浸した上記酸化処理粉末を1800℃以上の窒素雰囲気下で加熱焼成して第二の焼成物を得る工程と、上記第二の焼成物を粉砕して塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末を得る工程と、を含む、窒化ホウ素粉末の製造方法。
(8)(5)又は(6)に記載の窒化ホウ素粉末と、樹脂とを含む、樹脂組成物。
(9)(8)に記載の樹脂組成物の硬化物を含む、放熱部材。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、絶縁性及び熱伝導率に優れる塊状窒化ホウ素粉末を提供することができる。本開示によればまた、絶縁性及び熱伝導率に優れる窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例1の塊状窒化ホウ素粒子の電子顕微鏡による断面観察写真である。
図2図2は、比較例1の窒化ホウ素粒子の電子顕微鏡による断面観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<塊状窒化ホウ素粒子>
本明細書における「塊状窒化ホウ素粒子」及び「塊状粒子」とは、鱗片状の六方晶窒化ホウ素の一次粒子(以下、単に「一次粒子」という場合がある)が凝集して塊状になった窒化ホウ素の粒子のことをいう。本開示に係る塊状窒化ホウ素粒子の一実施形態は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集した塊状窒化ホウ素粒子であって、以下の(A)~(C)の条件をすべて満たす。
【0019】
(A)塊状窒化ホウ素粒子の断面における一次粒子の面積割合の平均値は45%以上である。塊状窒化ホウ素粒子の断面における一次粒子の面積割合の平均値は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは55%以上である。この面積割合の平均値に特に上限はないが、例えば、90%未満、85%以下又は85%未満であってよい。なお、塊状窒化ホウ素粒子が窒化ホウ素の一次粒子の凝集体であるため、85%以上の塊状窒化ホウ素粒子を製造することは通常は難しい。上述の面積割合の平均値が45%未満の場合には、塊状窒化ホウ素粒子の内部が疎な構造となることで、塊状窒化ホウ素粒子の熱伝導率が低下する傾向にある。塊状窒化ホウ素粒子の断面における一次粒子の面積割合の平均値は上述の範囲内で調整することができ、例えば、45~90%、又は50~85%であってよい。
【0020】
(B)塊状窒化ホウ素粒子の断面における一次粒子の面積割合の標準偏差は25未満である。塊状窒化ホウ素粒子の断面における一次粒子の面積割合の標準偏差は、好ましくは20以下であり、より好ましくは15以下であり、更に好ましくは15未満である。上述の標準偏差が25を超える場合には、各塊状窒化ホウ素粒子における樹脂の浸透度合いが異なってしまい、浸透が不十分の場合ボイド等の原因となり、絶縁性(特に、絶縁破壊電圧)が低下し、標準偏差の大きさに相関して絶縁性バラツキも大きくなってしまう。樹脂を塊状窒化ホウ素粒子内に十分に浸透させるために成形時のプレス圧力を大きくする方法が考えられる。しかし、プレス圧力を大きくしすぎると塊状窒化ホウ素粒子がくずれて、一次粒子が配向してしまい、熱伝導率が低下してしまう。
【0021】
本明細書における塊状窒化ホウ素粒子の「断面における一次粒子の面積割合」の平均値及び標準偏差は、実施例に記載の方法で決定される値を意味する。
【0022】
(C)圧壊強度が8.0MPa以上である。塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度は、好ましくは10.0MPa以上であり、より好ましくは12.0MPa以上である。圧壊強度が8.0MPa未満では、樹脂との混練時やプレス時などに応力で塊状窒化ホウ素粒子が崩れてしまい、熱伝導率が低下する問題が発生する。本明細書における「圧壊強度」は、JIS R1639-5:2007に準拠して求められる圧壊強度(単一顆粒圧壊強さ)を意味する。
【0023】
塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度が8.0MPa以上であることで、粉砕工程、放熱部材の製造工程等において塊状窒化ホウ素粒子の破壊を少なくすることが可能である。このため、本塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末は、放熱部材に好適に用いることができる。また、塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度の上限値は、特に制限はないが、例えば、30MPa以下、又は20MPa以下等になるよう製造可能である。
【0024】
塊状窒化ホウ素粒子を構成する一次粒子のアスペクト比(長径と厚みの比:長径の長さ/厚み)は、好ましくは11~18であり、より好ましくは12~15である。アスペクト比が11以上であることで、熱伝導率をより向上させることができる。アスペクト比が18以下であることで、圧壊強度の低下をより十分に抑制することができる。上記一次粒子のアスペクト比は、塊状窒化ホウ素粒子の電子顕微鏡写真から求めることができ、具体的には、実施例に記載の方法で決定される。
【0025】
<窒化ホウ素粉末>
本開示に係る窒化ホウ素粉末の一実施形態は、上述の塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末である。すなわち、上記窒化ホウ素粉末は、上記鱗片状の六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集した塊状窒化ホウ素粒子を含む。上記窒化ホウ素粉末は、好ましくは、さらに以下(D)から(F)の条件をすべて満たす。
【0026】
(D)窒化ホウ素粉末の平均粒径が20~100μmである。窒化ホウ素粉末の平均粒径は20μm以上であり、より好ましくは25μm以上であり、さらに好ましくは30μm以上である。また、窒化ホウ素粉末の平均粒径は100μm以下であり、より好ましくは90μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下である。窒化ホウ素粉末の平均粒径の範囲は20~100μmの範囲内で調整することができ、好ましくは25~90μmである。
【0027】
窒化ホウ素粉末の平均粒径が20μm未満と小さすぎる場合には、熱伝導率が低下する問題が発生する場合がある。また、窒化ホウ素粉末の平均粒径が100μmを超えて大きすぎる場合には、シートの厚みと窒化ホウ素粉末の平均粒径との差が少なくなるために、シートの作製が困難になる場合がある。
【0028】
(E)窒化ホウ素粉末の粉末X線回折から求められる配向性指数が12以下である。窒化ホウ素粉末の配向性指数は12以下であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下である。塊状窒化ホウ素粉末における、実質的に一次粒子が配向していない塊状窒化ホウ素粒子の存在割合が高くなるほど、窒化ホウ素粉末の配向性指数は小さくなる。窒化ホウ素粉末の配向性指数が12を超えて大きすぎる場合、すなわち凝集していない単粒子が多いことを示唆するため、熱伝導率が低下する問題が生じる。窒化ホウ素粉末の配向性指数の下限は特に制限はないが、一般に完全にランダムな場合でも6.7程度の値になると考えられる。
【0029】
本明細書における「配向性指数」とは、X線回折装置を用いて測定される(002)面と(100)面とのピーク強度比[I(002)/I(100)]を意味し、具体的には、実施例に記載の方法で決定される。
【0030】
(F)窒化ホウ素粉末のタップ密度が0.85g/cm以上である。窒化ホウ素粉末のタップ密度は0.85g/cm以上であり、より好ましくは0.90g/cm以上である。窒化ホウ素粉末のタップ密度が0.85g/cm未満の場合には、塊状窒化ホウ素粒子間のパーコレーションが十分ではなく、熱伝導率が低下する問題が生じる。窒化ホウ素粉末のタップ密度の上限は特に制限はないが、窒化ホウ素の理論密度(2.26g/cm)から考えて、現実的な上限値は1.5g/cm程度の値になると考えられる。
【0031】
本明細書における「タップ密度」は、JIS R 1628:1997に準拠して求められる値を意味し、具体的には、実施例に記載の方法で決定される。
【0032】
本開示に係る窒化ホウ素粉末の別の実施形態は、上記(D)から(F)の条件をすべて満たす、新規な窒化ホウ素粉末である。本窒化ホウ素粉末は、好ましくは上述の塊状窒化ホウ素粒子を含む。
【0033】
本開示に係る窒化ホウ素粉末の熱伝導率は、例えば、10W/(m・K)以上とすることができる。また、本開示に係る窒化ホウ素粉末は、これを含有させて調製した複数の評価サンプルを対象として絶縁破壊性を評価した場合に、40kV/mmの電圧下で絶縁破壊される評価サンプルの割合が5%以下とすることができる。このように本開示に係る窒化ホウ素粉末は、高い熱伝導率と、高い絶縁破壊電圧と併せて有する。よって上記窒化ホウ素粉末は、パワーデバイス等の発熱性電子部品(発熱を伴う電子部品)の放熱部材として好適に用いることができ、特には薄膜の放熱部材を形成するための原料として好適に使用できる。
【0034】
<塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末の製造方法>
本発明に係る塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末の一実施形態は、塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末の製造方法であって、炭素量が18.0~21.0質量%である炭化ホウ素を、1800℃以上かつ0.6MPa以上の窒素雰囲気下で焼成して第一の焼成物を得る工程(第一の工程)と、上記第一の焼成物を酸素分圧が20%以上の条件下で焼成して酸化処理粉末を得る工程(第二の工程)と、上記酸化処理粉末とホウ素源と混合し、ホウ素を含有する液相成分を上記酸化処理粉末に真空含浸させる工程(第三の工程)と、上記液相成分を含浸させた上記酸化処理粉末を1800℃以上の窒素雰囲気下で加熱焼成して第二の焼成物を得る工程(第四の工程)と、上記第二の焼成物を粉砕して塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末を得る工程(第五の工程)と、を含む。上記窒化ホウ素粉末の製造方法は、上述の塊状窒化ホウ素粒子が調製されることから、塊状窒化ホウ素粒子の製造方法ということもできる。第一の工程から第五の工程のそれぞれについて、以下に説明する。
【0035】
[第一の工程:加圧窒化焼成工程]
第一の工程では、特定の炭化ホウ素を、特定の焼成温度及び特定の加圧条件の窒素雰囲気下で、焼成を行うことで炭窒化ホウ素を得る。第一の工程は、例えば、炭素量が18.0~21.0質量%である炭化ホウ素を、1800℃以上かつ0.6MPa以上の窒素雰囲気下で焼成して第一の焼成物を得る工程である。上記第一の焼成物は、炭窒化ホウ素を含み、好ましくは炭窒化ホウ素である。
【0036】
(第一の工程に使用する炭化ホウ素)
炭化ホウ素の炭素量は、組成式BCから求められる理論量21.7質量%より低いことが望ましい。炭化ホウ素の炭素量は、18.0~21.0質量%の範囲であってよい。炭化ホウ素の炭素量の下限値は、好ましくは19質量%以上である。炭化ホウ素の炭素量の上限値は、好ましくは20.5質量%以下である。炭化ホウ素の炭素量が21質量%を超えて多すぎると、後述する第二の工程の際に揮発する炭素量が多くなりすぎ、緻密な塊状窒化ホウ素粒子が生成できず、また最終的にできる窒化ホウ素の炭素量が高くなりすぎる問題も発生するので好ましくない。また炭化ホウ素の炭素量が18.0質量%未満となる安定な炭化ホウ素を作製することは理論組成との乖離が大きくなり過ぎて通常困難である。
【0037】
炭化ホウ素には、不純物のホウ酸や遊離炭素が、不可避的なものを除いて含まれないか、または含まれるとしても少量であることが望ましい。
【0038】
炭化ホウ素の平均粒径は、最終的に得られる塊状窒化ホウ素粒子の平均粒径に影響を考慮して、例えば、8~60μmであってよい。炭化ホウ素の平均粒径は、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上である。炭化ホウ素の平均粒径が8μm以上であることで、生成される窒化ホウ素粉末の配向性指数の増大を十分に抑制することができる。炭化ホウ素の平均粒径の上限値は、好ましくは60μm以下、より好ましくは50μm以下であってよい。炭化ホウ素の平均粒径が60μm以下であることで、塊状窒化ホウ素粒子の成長を適度なものとし、粗大粒子の生成を抑制できる。
【0039】
炭化ホウ素は、市販の物を用いてもよく、別途調製したものを用いてもよい。炭化ホウ素を調製する場合の調製方法には、公知の調製方法を適用することができ、所望の平均粒径及び炭素量の炭化ホウ素を得ることができる。
【0040】
炭化ホウ素の調製方法としては、例えば、ホウ酸とアセチレンブラックとを混合したのち、不活性ガス雰囲気中、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、炭化ホウ素塊を得る方法が挙げられる。上記調製方法において、得られた炭化ホウ素塊を、例えば、粉砕、篩分け、洗浄、不純物除去、及び乾燥等を適宜行ってもよい。
【0041】
炭化ホウ素の原料であるホウ酸とアセチレンブラックとの混合は、アセチレンブラックの配合量が、ホウ酸100質量部に対して、例えば、25~40質量部であるのが好適である。
【0042】
炭化ホウ素を調製する際の雰囲気は、好ましくは不活性ガスである。不活性ガスとして、例えば、アルゴンガス及び窒素ガス等が挙げられる。不活性ガスは、アルゴンガス及び窒素ガス等を単独で又は組み合わせて使用することができる。不活性ガスは、上記ガスのうち、好ましくはアルゴンガスである。
【0043】
炭化ホウ素塊を粉砕する場合には、一般的な粉砕機又は解砕機を用いることができる。炭化ホウ素塊の粉砕時間は、例えば、0.5~3時間程度であってよい。炭化ホウ素塊の粉砕時間が上記範囲内であることで、適切な粒径の炭化ホウ素を得ることができる。粉砕後の炭化ホウ素は、例えば、篩網を用いて粒径75μm以下に篩分けすることが好適である。
【0044】
(第一の工程における各種条件)
第一の工程における焼成温度は1800℃以上であり、好ましくは1900℃以上である。また、第一の工程における焼成温度の上限値は、2400℃以下であり、好ましくは2200℃以下である。第一の工程における焼成温度は、上述の範囲内で調整することができ、例えば、1800~2200℃であってもよい。
【0045】
第一の工程における圧力は、好ましくは0.6MPa以上であり、より好ましくは0.7MPa以上である。また第一の工程における圧力の上限は、好ましくは1.0MPa以下であり、より好ましくは0.9MPa以下である。第一の工程における圧力は、上述の範囲内で調整することができ、例えば、0.7~1.0MPaであってよい。上記圧力が0.6MPa以上とすることで、炭化ホウ素の窒化をより十分に進行させることができる。またコスト面からは、圧力は1.0MPa以下であることが望ましいが、これ以上の値とすることも可能ではある。
【0046】
第一の工程における焼成温度及び圧力条件は、好ましくは、焼成温度1800~2200℃かつ0.7~1.0MPaである。焼成温度が1800℃のときに、圧力が0.7MPa未満であると、炭化ホウ素の窒化が十分進まないことがある。
【0047】
第一の工程における雰囲気は、炭化ホウ素の窒化反応が進行するガス雰囲気である。第一の工程における雰囲気としては、例えば、窒素ガス及びアンモニアガス等が挙げられる。窒素ガス及びアンモニアガス等は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。第一の工程における雰囲気としては、窒化のしやすさとコストに鑑みて、窒素ガスが好適である。第一の工程における雰囲気の窒素ガスの含有量は、好ましくは95%(V/V)以上であり、より好ましくは99.9%(V/V)以上である。
【0048】
第一の工程における焼成時間は、窒化が十分進むものであれば特に限定はされない。第一の工程における焼成時間は、好ましくは6~30時間であり、より好ましくは8~20時間である。
【0049】
[第二の工程:酸化処理工程]
第二の工程では、第一の工程にて得られた炭窒化ホウ素を特定雰囲気下で熱処理して、低炭素量の炭窒化ホウ素を得る。第二の工程は、例えば、上述の第一の焼成物を酸素分圧が20%以上の条件下で焼成して酸化処理粉末を得る工程である。上記酸化処理粉末は、第一の工程で得られた炭窒化ホウ素よりも炭素量が低い炭窒化ホウ素(低炭素量の炭窒化ホウ素)を含み、好ましくは低炭素量の炭窒化ホウ素である。
【0050】
第二の工程は、より具体的には、第一の工程にて得られた炭窒化ホウ素を、20%以上の酸素分圧雰囲気下にて、後述する特定の温度範囲で一定時間保持する熱処理を行うことによって、炭窒化ホウ素の大部分の炭素量を酸化し脱炭することで低炭素量の炭窒化ホウ素粒子を得る工程であってよい。すなわち第二の工程は、脱炭結晶化工程ともいえ、炭窒化ホウ素を脱炭化させることで内部に空隙をつくり、後の工程で使用するホウ素を含有する液相成分を含浸させやすくするとともに、ホウ素を含有する液相成分の使用量を低減できる。
【0051】
第二の工程における酸素分圧は、全圧に対して、20%以上であり、好ましくは30%以上である。大気より酸素分圧が高い条件で炭窒化ホウ素を処理することによって低温で脱炭を行うことができる。また炭窒化ホウ素の酸化処理を低温で行うことができるため、炭窒化ホウ素自体の過剰な酸化を防ぐことができる。
【0052】
第二の工程における加熱温度(酸化温度)の上限は、好ましくは950℃以下であり、より好ましくは900℃以下である。また第二の工程における加熱温度の下限は、好ましくは450℃以上であり、より好ましくは500℃以上である。加熱温度が450℃以上であることで炭窒化ホウ素の脱炭をより十分に進行させることができる。加熱温度が950℃以下であることで、炭窒化ホウ素自体の酸化をより十分に抑制できる。
【0053】
第二の工程における焼成時間は、酸化が十分進むものであれば特に限定はされない。第二の工程における焼成時間は、好ましくは3~25時間であり、より好ましくは5~20時間である。
【0054】
[第三の工程:含浸処理工程]
第三の工程では、第二の工程にて得られた低炭素量の炭窒化ホウ素を、ホウ素源となるホウ素を含有する成分と混合した後、ホウ素を含有する液相成分を含浸させる。第三の工程は、例えば、上記酸化処理粉末とホウ素源と混合し、ホウ素を含有する液相成分を上記酸化処理粉末に真空含浸させる工程である。
【0055】
第三の工程は、より具体的には、第二の工程にて得られた低炭素量の炭窒化ホウ素を、ホウ素源となるホウ素を含有する成分と混合した後、真空雰囲気にて、後述する特定の温度範囲で一定時間保持する熱処理を行うことによって、ホウ素を含有する液相成分と低炭素量の炭窒化ホウ素とを均一に、かつ低炭素量の炭窒化ホウ素中の空隙にホウ素を含有する液相成分を含浸した混合物を得る工程であってよい。
【0056】
第三の工程においては原料として、第二の工程で得られた低炭素量の炭窒化ホウ素に、ホウ素源を混合して更に脱炭結晶化を行う。ホウ素源としては、例えば、ホウ酸、及び酸化ホウ素等が挙げられる。ホウ素源は、ホウ酸及び酸化ホウ酸等を単独で又は組み合わせて使用することができる。第三の工程では、低炭素量の炭窒化ホウ素及びホウ素源に加えて、必要に応じて、当該技術分野において用いられる添加物を更に混合してもよい。
【0057】
炭窒化ホウ素とホウ素源との混合割合は、モル比に応じて適切に設定可能である。ホウ素源としてホウ酸又は酸化ホウ素を使う場合、ホウ酸及び酸化ホウ素の合計の配合量は、炭窒化ホウ素100質量部を基準として、例えば、好ましくは10~100質量部であり、より好ましくは20~80質量部である。また、必要に応じて、助剤を混合してもよい。助剤としては、例えば、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0058】
第三の工程における焼成温度は、含浸が十分進むものであれば特に限定はされない。第三の工程における焼成温度は、好ましくは200~500℃であり、より好ましくは250~450℃であり、さらに好ましくは300~400℃である。第三の工程における焼成温度が200℃以上であることで、ホウ素を含有する液相成分をより十分に炭窒化ホウ素内に含浸させることができる。第三の工程における焼成温度が500℃以下であることで、ホウ素を含有する液相成分の揮発を抑制することができる。
【0059】
第三の工程における真空度は、好ましくは1~1000Paである。第三の工程における処理時間は、好ましくは10分間~2時間であり、より好ましくは20分間~1時間である。またコストの関係上、第三の工程と後述する第四の工程は連続で行うことが望ましいが、それぞれ別々に行ってもかまわない。
【0060】
[第四の工程:結晶化工程]
第四の工程では、第三の工程にて得られたホウ素含有液相成分と低炭素量の炭窒化ホウ素の混合物を、窒素雰囲気下で加熱焼成して第二の焼成物を得る。第四の工程は、1800℃以上の窒素雰囲気下で加熱焼成して第二の焼成物を得る工程である。
【0061】
第四の工程は、より具体的には、第三の工程にて得られたホウ素を含有する液相成分と、低炭素量の炭窒化ホウ素との混合物を、常圧以上の窒素雰囲気下の下で、特定の昇温速度で保持温度になるまで昇温を行い、特定の温度範囲で一定時間保持する熱処理を行うことによって、一次粒子が凝集して塊状になった塊状窒化ホウ素粒子及びその凝集物を得ることができる。すなわち、第四の工程においては、炭窒化ホウ素を結晶化させ、所定の大きさの鱗片状にさせつつ、これらを均一に凝集させて塊状窒化ホウ素粒子とすることができる。
【0062】
第四の工程における窒素雰囲気の圧力は、常圧(大気圧)でもよく、加圧されていてもよい。加圧する場合の窒素雰囲気の圧力は、例えば、好ましくは0.5MPa以下であり、より好ましくは0.3MPa以下である。
【0063】
第四の工程にいては、焼成の保持温度に到達させる際の昇温速度を調整してもよい。第四の工程における保持温度へと昇温していく際の昇温速度は、例えば、好ましくは5℃/分(すなわち、摂氏度毎分)以下であり、より好ましくは4℃/分以下であり、さらに好ましくは3℃/分以下であり、更により好ましくは2℃/分以下である。
【0064】
上述の昇温後の保持温度は、1800℃以上であり、好ましくは2000℃以上である。また保持温度の上限値は特に限定されないが、好ましくは2200℃以下であり、より好ましくは2100℃以下である。保持温度が1800℃未満と低すぎると、粒成長が十分に起こらず、窒化ホウ素粉末の熱伝導率が低下する恐れがある。一方、保持温度が1800℃以上であると、粒成長が良好に起こりやすく、熱伝導率が向上しやすいという効果を奏する。
【0065】
保持温度における保持時間は、結晶化が十分に進むものであれば特に限定はされない。保持温度における保持時間は、好ましくは0.5時間超であり、より好ましくは1時間以上であり、更に好ましくは3時間以上であり、更により好ましくは5時間以上であり、更によりまた好ましくは10時間以上である。また保持時間の上限値は、好ましくは40時間未満であり、より好ましくは30時間以下、更に好ましくは20時間以下である。保持時間が0.5時間超の場合は粒成長が良好に起こることが期待される。また保持時間が40時間未満であると、粒成長が進みすぎて圧壊強度が低下することを低減でき、また、焼成時間が長いことで工業的にも不利になることも低減できると期待できる。保持温度における保持時間は、上述の範囲内で調整することができ、好ましくは0.5時間超40時間未満であり、より好ましくは1~30時間である。
【0066】
[第五の工程:粉砕工程]
第五の工程では、第四の工程において調製された第二の焼成物を粉砕して粒度を調整する。第四の工程は、例えば、上述の第二の焼成物を粉砕して、塊状窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素粉末を得る工程である。粉砕には、一般的な粉砕機又は解砕機を使用することができる。粉砕機又は解砕機としては、例えば、ボールミル、振動ミル、及びジェットミル等が挙げられる。なお本明細書における「粉砕」は、「解砕」も含むものとする。
【0067】
<樹脂組成物:熱伝導樹脂組成物>
本開示に係る樹脂組成物の一実施形態は、樹脂と、上述の窒化ホウ素粉末とを含む。当該樹脂組成物は、熱伝導性を発揮し得ることから熱伝導樹脂組成物ともいう。熱伝導樹脂組成物は、例えば、以下の方法で調製することができる。熱伝導樹脂組成物の調製方法は、例えば、上述した窒化ホウ素粉末を樹脂に混合する工程を有する。この熱伝導樹脂組成物の調製方法には、公知の樹脂組成物の製造方法を用いることができる。得られた熱伝導樹脂組成物は、例えば、放熱部材等に幅広く使用することができる。
【0068】
(樹脂)
熱伝導樹脂組成物に使用する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリイミド(例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等)、ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン樹脂)等を用いることができる。
【0069】
樹脂は、特にエポキシ樹脂(好適にはナフタレン型エポキシ樹脂)又はシリコーン樹脂が好適である。エポキシ樹脂を含む熱伝導樹脂組成物は、耐熱性と銅箔回路への接着強度とに優れていることから、プリント配線板の絶縁層として好適である。また、シリコーン樹脂を含む熱伝導樹脂組成物は、耐熱性、柔軟性及びヒートシンク等への密着性に優れていることから、熱インターフェース材として好適である。
【0070】
エポキシ樹脂を用いる場合の硬化剤としては、具体的には、フェノールノボラック樹脂、酸無水物樹脂、アミノ樹脂、及びイミダゾール類等が挙げられる。このうち、硬化剤は、好ましくはイミダゾール類である。この硬化剤の配合量は、原料(モノマー)100質量部に対して、好ましくは0.5~15質量部であり、より好ましくは1.0~10質量部である。
【0071】
窒化ホウ素粉末の含有量は、熱伝導樹脂組成物100体積%を基準として、好ましくは30~85体積%であり、より好ましくは40~80体積%である。窒化ホウ素粉末の含有量が30体積%以上であると、熱伝導率をより向上させることができ、より十分な放熱性能が得られやすい。また窒化ホウ素粉末の含有量が85体積%以下であると、放熱部材等への成形時に空隙等が生じることを低減することができ、絶縁性及び機械強度の低下をより低減できる。
【0072】
<放熱部材>
放熱部材の一実施形態は、上述の樹脂組成物(熱伝導樹脂組成物)を用いた部材である。放熱部材は、好ましくは上述の樹脂組成物の硬化物を含む。
【0073】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0074】
以下、本開示について、実施例及び比較例によって、詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
各種測定方法は、以下のとおりである。
【0076】
(1)塊状窒化ホウ素粒子の断面における一次粒子の面積割合の平均値及び標準偏差
塊状窒化ホウ素粒子の断面における一次粒子(窒化ホウ素粒子)の面積割合の平均値及び標準偏差は以下のように測定した。まず、作製した塊状窒化ホウ素粉末に対し、観察の前処理として、塊状窒化ホウ素粒子をエポキシ樹脂で包埋した。次に、CP(クロスセクションポリッシャー)法によって断面出し加工し、試料台に固定した。固定後、上記断面のオスミウムコーティングを行った。
【0077】
断面観察は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、「JSM-6010LA」)を用いて観察倍率:2000~5000倍で行った。得られた塊状窒化ホウ素粒子の断面画像を画像解析ソフトウェア(株式会社マウンテック製、「Mac-view」)に取り込み、塊状窒化ホウ素粒子の断面画像内の任意の10μm×10μmの領域における一次粒子(窒化ホウ素粒子)の面積割合を算出した。同様に50視野以上の箇所において一次粒子の面積割合の算出し、その平均値を、一次粒子の面積割合平均値とした。同様の手法で、一次粒子の面積割合の標準偏差を算出し、その値を、一次粒子の面積割合の標準偏差とした。実施例1で調製した塊状窒化ホウ素の断面のSEM像を図1に示す。
【0078】
なお、塊状窒化ホウ素粒子の内部構造を表すパラメーターとして、水銀ポロシメーターなどによる細孔径分布測定がある。しかし、塊状窒化ホウ素粒子のような凝集粒子の集合体である粉末に対する細孔径分布測定で得られた結果においては、凝集粒子間と凝集粒子内部との明瞭な区別が難しい。さらに、細孔径分布測定中に凝集粒子自体が崩れる可能性があり、凝集粒子断面に対する電子顕微鏡観察の結果と必ずしも一致しない。また、上述のような細孔径分布測定によって得られる結果と、得られる窒化ホウ素粉末の絶縁特性及び放熱特性とは必ずしも相関がない。そこで、本開示においては、上述のように画像解析による評価法を採用している。
【0079】
(2)塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度
圧壊強度は、JIS R1639-5:2007に準じて測定した。測定装置としては、微小圧縮試験器(株式会社島津製作所社製、「MCT-W500」)を用いた。圧壊強度(σ:単位MPa)は、粒子内の位置によって変化する無次元数(α=2.48)と圧壊試験力(P:単位N)と粒子径(d:単位μm)からσ=α×P/(π×d)の式を用いて算出される値である。具体的には、粒子を変えて20粒子以上に対して同じ測定を行い、その平均値を圧壊強度とした。
【0080】
(3)一次粒子のアスペクト比
鱗片状の六方晶窒化ホウ素の一次粒子におけるアスペクト比(長径と厚みとの比:長径の長さ/厚み)は、特開2007-308360の方法に準拠して行った。具体的には、塊状窒化ホウ素粒子の表面の電子顕微鏡写真から、一次粒子の長径(全長)と厚みとが確認される100点以上の一次粒子を選定し、その長径と厚みとを測定した。測定結果から厚みに対する長径の比を算出して、その平均値を一次粒子のアスペクト比とした。
【0081】
(4)窒化ホウ素粉末の平均粒径
窒化ホウ素粉末の平均粒径は、ISO 13320:2009に準拠し、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、「LS-13 320」)を用いて、測定した。ただし、測定処理の前に試料にホモジナイザーをかけずに測定した。本平均粒径は、累積粒度分布の累積値50%の粒径(メジアン径、d50)である。粒度分布測定に際し、該凝集体を分散させる溶媒には水を用い、分散剤にはヘキサメタリン酸を用いた。このとき水の屈折率には1.33を用い、また、窒化ホウ素粉末の屈折率については1.80の数値を用いた。
【0082】
(5)窒化ホウ素粉末の配向性指数
窒化ホウ素粉末の配向性指数は、X線回折装置(株式会社リガク製、「ULTIMA-IV」)を用いて測定した。付属のガラスセル上に窒化ホウ素粉末を固めて試料を作成し、試料にX線を照射して、(002)面と(100)面のピーク強度比[I(002)/I(100)]を算出し、これを配向性指数として評価した。
【0083】
(6)窒化ホウ素粉末のタップ密度
窒化ホウ素粉末のタップ密度は、JIS R 1628:1997に準拠して測定した。測定は、市販の装置を用いることができる。具体的には、窒化ホウ素粉末を100cmの専用容器に充填し、タッピングタイム180秒、タッピング回数180回、タップリフト18mmの条件でタッピングを行った後のかさ密度を測定し、得られた値をタップ密度とした。
【0084】
(7)熱伝導率
熱伝導率は、窒化ホウ素粉末を含んだ熱伝導樹脂組成物から作製したシートを測定用試料として測定した。熱伝導率(H:単位W/(m・K))は、熱拡散率(A:単位m/秒)、密度(B:単位kg/m)、及び比熱容量(C:単位J/(kg・K))から、H=A×B×Cの式に基づいて算出した。
【0085】
熱拡散率Aは、上述のシートを幅10mm×10mm×厚み0.3mmに加工した試料を調製し、これを対象としたレーザーフラッシュ法によって求めた。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、「LFA447NanoFlash」)を用いた。密度Bは、アルキメデス法を用いて求めた。比熱容量Cは、DSC(株式会社リガク製、「ThermoPlusEvo DSC8230」)を用いて求めた。熱伝導率の合格値は10W/(m・K)以上と設定し、12W/(m・K)以上を優秀とした。
【0086】
(8)絶縁性:絶縁破壊電圧
作製した基板の絶縁破壊電圧は、JIS C 6481:1996に準拠し、耐圧試験器(菊水電子工業株式会社製、「TOS 8650」)を用いて測定した。測定は、100サンプルを対象として行った。窒化ホウ素粉末を含む樹脂組成物の硬化層の厚み200μmのときに、40kV/mmの電圧を印加した際に絶縁破壊を起こすサンプルの割合が、5%以下のものを「A(合格)」、5~20%のものを「B」と評価し、20%以上のものを「C(失格)」と評価した。
【0087】
(9)炭化ホウ素の炭素量測定
炭化ホウ素の炭素量は、炭素分析装置(LECO社製、「IR-412型」)を用いて測定した。
【0088】
[実施例1]
実施例1は、以下に示すに従って窒化ホウ素粉末を作成した。また作成した窒化ホウ素粉末を樹脂に充填し、評価を行った。
【0089】
(炭化ホウ素合成)
ホウ酸(日本電工株式会社製、オルトホウ酸)100質量部と、アセチレンブラック(デンカ株式会社製、商品名:HS100)35質量部と、をヘンシェルミキサーで混合した後、得られた混合物を黒鉛ルツボ中に充填した。その後、アーク炉を用いて、アルゴン雰囲気且つ2200℃の条件下で上記混合物を5時間加熱し、炭化ホウ素(BC)を合成した。
【0090】
合成した炭化ホウ素塊をボールミルで1時間粉砕し、篩網を用いて粒径75μm以下に篩分けした。その後、炭化ホウ素を更に硝酸水溶液で洗浄して鉄分等の不純物を除去し、濾過及び乾燥することで、平均粒径が20μmの炭化ホウ素粉末を調製した。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は20.0質量%であった。
【0091】
(第一の工程)
合成した炭化ホウ素を窒化ホウ素製のルツボに充填した後、抵抗加熱炉を用いて、窒素ガス雰囲気、2000℃、且つ9気圧(0.8MPa)の条件下で、窒化ホウ素を10時間加熱することによって、炭窒化ホウ素(BCN)を調製した。得られた炭窒化ホウ素の炭素量は9.9質量%であった。
【0092】
(第二の工程)
合成した炭窒化ホウ素をアルミナ製のルツボに充填した後、マッフル炉を用いて、酸素分圧40%の雰囲気、且つ700℃の条件下で、炭窒化ホウ素を5時間加熱することによって、上述の第一の工程で得られた炭窒化ホウ素よりも低炭素量の炭窒化ホウ素を得た。当該低炭素量の炭窒化ホウ素の炭素量は2.5質量%であった。
【0093】
(第三の工程)
合成した炭窒化ホウ素100質量部と、ホウ酸45質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した後、得られた混合物を窒化ホウ素製のルツボに充填した。その後、抵抗加熱炉を用いて、100Paの真空雰囲気、且つ420℃の条件下で、上記混合物を1時間保持した。
【0094】
(第四の工程)
真空での含浸処理工程に連続して、抵抗加熱炉内に窒素ガス導入を行い、0.3MPa、且つ窒素ガス雰囲気の条件下で、昇温速度10℃/分で室温から1000℃まで昇温し、次いで昇温速度を2℃/分に変更して1000℃から2000℃まで昇温した。当該2000℃を保持温度として、保持時間5時間で、上述の混合物を更に加熱することによって、一次粒子が凝集し塊状になった塊状窒化ホウ素粒子の集合物を合成した。
【0095】
(第五の工程)
合成した塊状窒化ホウ素粒子の集合体を、ヘンシェルミキサーを用いて解砕した後、篩網を用いて、篩目100μmのナイロン篩にて分級を行うことで、平均粒径45μmの窒化ホウ素粉末を製造した。得られた窒化ホウ素粉末の空隙率は48%であり、比表面積は4.2m/gであった。なお、空隙率はJIS R 1655に準拠して、水銀ポロシメーターを用いて全細孔容積を測定することによって求めた。
【0096】
(樹脂組成物の調製:樹脂への充填)
得られた窒化ホウ素粉末の樹脂に対する充填材としての特性評価を行った。ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名:HP4032)100質量部と、硬化剤(四国化成工業株式会社製、イミダゾール類、商品名:2E4MZ-CN)10質量部の混合物を調製した。当該混合物を100体積%として、窒化ホウ素粉末が50体積%となるように、窒化ホウ素粉末を更に混合してスラリーを調製した。当該スラリーをPET製シートの上に厚みが0.3mmになるように塗布して塗布膜を形成した。その後、500Paの減圧下で塗布膜の減圧脱泡を10分間行った。次いで、温度150℃、圧力160kg/cmの条件で、塗布膜を60分間かけてプレス加熱加圧を行い、厚さ0.3mmのシートを形成した。
【0097】
下記表1及び表2に、他の実施例・比較例と併せて測定値及び評価結果を示した。
【0098】
[実施例2]
実施例2は炭化ホウ素の調製時の粉砕時間を30分間に変更して、「平均粒径40μmの炭化ホウ素」を調製したこと以外は実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を製造した。
【0099】
[実施例3]
実施例3は炭化ホウ素の調製時の粉砕時間を1.5時間に変更して、「平均粒径12μmの炭化ホウ素」を調製したこと以外は実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を製造した。
【0100】
[実施例4]
実施例4は第二の工程における保持時間を9時間に変更して、「低炭素量の炭窒化ホウ素(炭素量:0.8質量%)」を得たこと以外は実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を製造した。
【0101】
[実施例5]
実施例5は第二の工程における保持時間を0.5時間に変更して、「低炭素量の炭窒化ホウ素(炭素量:4.5質量%)」を得たこと以外は実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を製造した。
【0102】
[実施例6]
実施例6は第三の工程における焼成温度を200℃に変更して実施したこと以外は実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を製造した。
【0103】
[実施例7]
実施例7は第三の工程における焼成温度を350℃に変更して実施したこと以外は実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を製造した。
【0104】
[比較例1及び比較例2]
市販の窒化ホウ素粉末2種類(市販品a及びb)についても、実施例1~7と同様に評価した。市販品aの結果を比較例1、市販品bの結果を比較例2として表に示す。また比較例1のSEM像を図2に示す。比較例1での窒化ホウ素粉末の空隙率は38%であり、比表面積は3.2m/gであった。
【0105】
[比較例3]
比較例3は第二の工程及び第三の工程を実施せず、第四の工程の前に炭窒化ホウ素100質量部と、ホウ酸200質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した後、得られた混合物を、窒化ホウ素ルツボに充填したこと以外は実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を製造した。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本開示は、熱伝導率および絶縁破壊特性に優れた窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供できる。当該窒化ホウ素粉末は樹脂組成物に配合し、例えば、プリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材の樹脂組成物に充填して利用できる。当該樹脂組成物は硬化して用いることもできる。本開示の窒化ホウ素粉末を含む樹脂組成物及びその硬化物は、例えば、加熱部材等に利用できる。当該放熱部材は幅広く使用することができ、例えば、パワーデバイス等の発熱を伴う電子部品の放熱部材として使用できる。
図1
図2