(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】磁気閉鎖機構を有する実験室試料を保管するための実験室キャビネット装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220510BHJP
C12M 1/38 20060101ALI20220510BHJP
E05B 15/02 20060101ALI20220510BHJP
E05B 65/02 20060101ALI20220510BHJP
E05C 19/16 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12M1/38 Z
E05B15/02 H
E05B65/02 D
E05C19/16 Z
(21)【出願番号】P 2020539287
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2019056437
(87)【国際公開番号】W WO2019175320
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-03-24
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501186645
【氏名又は名称】エッペンドルフ・ソシエタス・エウロパエア
【氏名又は名称原語表記】Eppendorf SE
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】アルネ シャフリンスキ
【審査官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-0759752(KR,B1)
【文献】特開2005-110685(JP,A)
【文献】特開2006-61126(JP,A)
【文献】特表昭63-502797(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0043768(US,A1)
【文献】独国実用新案第8902181(DE,U1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0311659(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
E05B 15/02
E05B 65/02
E05C 19/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験室試料を保管する実験室キャビネット装置(1)であって、
前側(3)と、チャンバ内部空間(5)へ接近するために通る、前側のチャンバ開口部(4)及びチャンバドアの閉鎖位置においてチャンバ開口部を閉鎖するためのチャンバドア(6)を備えたチャンバハウジング(2)を有し、
磁気的な保持力によって閉鎖位置において前側にチャンバドアを保持するための閉鎖装置(10、7a、7b)を有し、閉鎖装置が操作部材(10)、第1の保持部材(7a)及び第2の保持部材(7b)を有し、
第1の保持部材(7a)が操作部材(10)に固定されており、かつ第2の保持部材(7b)が前側(3)に固定されており、かつ操作部材(10)がチャンバドア(6)に揺動可能に支承されているので、操作部材(10)は、前記第1の保持部材及び前記第2の保持部材が互いに対して磁気的な保持力を行使することができない第1の開放された揺動位置(P1)と、前記第1の保持部材及び前記第2の保持部材が互いに磁気的な保持力を行使することができる第2の閉鎖された揺動位置(P2)との間で揺動可能に移動することができ、
操作部材(10)がチャンバドア(6)のメイン平面(6a)に対して平行に延び、かつ端部を有し、前記端部がグリップタブセクションとして形成されており、前記グリップタブセクションが第2の揺動位置においてチャンバドア(6)の端縁(6b)を越えて張り出すので、チャンバドアの閉鎖位置において、かつ操作部材(10)の第2の揺動位置(P2)において、閉鎖装置(10、7a、7b)の磁気的な保持力はユーザーにより、操作部材(10)を第2の揺動位置(P2)から第1の揺動位置(P1)へ回転させることによっても、グリップタブセクション(11)を用いてチャンバドアを方向(A)においてチャンバドア(6)のメイン平面(6a)に対して垂直に引っ張ることによっても、克服可能である、
実験室キャビネット装置。
【請求項2】
前記第1の保持部材及び/又は前記第2の保持部材が、永久磁石を有し、あるいは永久磁石からなる、請求項1に記載の実験室キャビネット装置。
【請求項3】
前記操作部材がプレート形状の構成部分(10)であり、前記構成部分のメイン平面が揺動平面に対し、かつチャンバドア(6)のメイン平面(6b)に対して平行に延びている、請求項1又は2に記載の実験室キャビネット装置。
【請求項4】
前記操作部材が穴又は切り欠きを有し、前記穴又は切り欠きを通して前記操作部材の揺動軸に対して垂直に方向づけされた回転軸部材が配置されており、かつ前記操作部材を前記チャンバドアと揺動可能に結合する、請求項1から3のいずれか1項に記載の実験室キャビネット装置。
【請求項5】
前記第1の保持部材がグリップタブセクション(11)の領域内に、特に前記チャンバドアの第1の揺動位置において前記チャンバドアを向いた、前記グリップタブセクションの下側に、配置されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の実験室キャビネット装置。
【請求項6】
前記グリップタブセクションが少なくとも1つのタブセクションを有し、前記タブセクションが第2の揺動位置(P2)において、前記操作部材の揺動平面内で前記チャンバドアの端縁(6b)を越えて張り出す、請求項1から5のいずれか1項に記載の実験室キャビネット装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つのタブセクションが、第1のウィングセクション(11a)と第2のウィングセクション(11b)を有し、前記第1のウィングセクション及び前記第2のウィングセクションが、揺動運動の径方向に相当する、前記操作部材の長手軸(L)に対して垂直に、前記操作部材から側方へ張り出している、請求項6に記載の実験室キャビネット装置。
【請求項8】
前記閉鎖装置が好ましくは位置係止装置(21、25)を有し、前記位置係止装置を用いて前記操作部材が少なくとも第2の揺動位置内に係止され、かつ/又は少なくとも第1の揺動位置において係止される、請求項1から7のいずれか1項に記載の実験室キャビネット装置。
【請求項9】
前記位置係止装置が少なくとも1つの係止部材(21a)と少なくとも1つの係止セクション(25a)を有し、前記係止部材と前記係止セクションが少なくとも第1及び/又は第2の揺動位置において互いに係止される、請求項8に記載の実験室キャビネット装置。
【請求項10】
実験室試料を温度調節するための温度調節キャビネット、特に細胞培養のためのインキュベータである、請求項1から9のいずれか1項に記載の実験室キャビネット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドア用の磁気閉鎖機構を有する実験室試料を保管するための実験室キャビネット装置に関する。本発明は特に実験室試料を温度調節するための温度調節キャビネット、特に培養細胞を育成するためのインキュベータに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のインキュベータによって、生物学的及び医学的な実験室内で細胞培養内の細胞が管理された周囲条件のもとに維持され、そのようにして試験管内で生きている細胞の育成が可能となる。そのために、周囲から絶縁されたインキュベータチャンバの内部の雰囲気の温度と組成もしくは空気湿度がインキュベータの器械的装置によって所望の値に維持される。真核生物細胞は、CO2インキュベータを必要とする。雰囲気は、所定のCO2-及びO2含有量と所定の空気湿度を有する空気によって形成され、適切な温度は大体において37℃である。この種の温度調節キャビネットは、チャンバ開口部を備えた、実験室試料を保管するためのチャンバを有しており、そのチャンバ開口部を通してユーザーが試料をチャンバ内部に保管し、かつ再び取り出す。
【0003】
チャンバドアが、チャンバ内部を確実に閉鎖しなければならない。この目的のために、従来技術において種々の解決が知られている。機械的に作用する閉鎖機構は、たとえばロック閉鎖機構、クランプ閉鎖機構又は係止閉鎖機構であって、それらは開放するために解錠しなければならない。この種の機械的な解決は、煩雑であり、ハウジングに機械的な振動を発生させる。これら既知のロック閉鎖機構においては、片手の操作はしばしば非常に困難であるが、望まれる。実際においては、利用者は、チャンバ内部から取り出した試料容器あるいはチャンバ内部に挿入すべき試料容器を、片手で保持する。したがって使用者は、典型的なやり方で、チャンバドアの閉鎖機構を操作するのに片手しか使えない。試料容器内の大体は液体の実験室試料の振動又は強すぎる動きは、回避されなければならないので、閉鎖機構の操作は直覚的かつ確実に行うことができなければならず、利用者は試料の確実な取扱いにその主要な注意を向けることがでなければならない。
【0004】
保管されている実験室試料を保護するために、実験室キャビネット装置において、もしくは温度調節キャビネットにおいて、特に、内部空間を周囲にさらす時間を最小限に抑えることが重要である。本発明は、チャンバドアを閉鎖位置に保持し、かつ閉鎖する閉鎖機構の形態によって開放時間インターバルを調節することができる、という観察に基づいている。したがって開放時間を最小限に抑えるために、ユーザーが効率的に操作できる閉鎖装置を有する実験室キャビネット装置が開発された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の課題は、チャンバドア閉鎖機構が効率的に操作される、実験室キャビネット装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を本発明は、請求項1に記載の実験室キャビネット装置によって解決する。好ましい形態が、特に下位請求項の対象である。
【0007】
実験室キャビネット装置の閉鎖装置の形態によって、特にグリップタブセクションと、操作部材の揺動によっても、操作部材を引っ張ることによっても磁気的な保持力を克服する可能性とを有する操作部材の形態によって、効率的に操作可能な実験室キャビネット装置が実現される。ユーザーは常に、閉鎖装置を揺動させるか、あるいは引っ張ることによって開放する選択を有するので、本発明に係る閉鎖装置を有するインキュベータは、右操作によっても、左操作によっても常に効率的に操作可能である。互いに磁気的に作用する保持部材を使用することによって、機械的な形状結合によって作用する従来のロック閉鎖機構の、チャンバドアの開放前に操作部材をまず揺動させなければならず、もしくはチャンバドアの閉鎖前に操作部材を揺動させた位置に保持しなければならないという要請がなくなる。グリップタブセクションが、操作部材の直覚的な操作を許す。ユーザーが直覚的に行うグリップタブセクションのほぼ各操作が、磁気的な閉鎖機構の所望の開放もしくは閉鎖をもたらす。したがってインキュベータの駆動時間の間、チャンバドア閉鎖機構の操作を学習し、かつ遂行するために様々なユーザーが必要とする時間が減少される。特に閉鎖装置の片手の操作可能性が容易になる。というのは、操作可能性は、ユーザーの主観的優先性、右手又は左手、あるいは他の身体部分又は補助手段による操作に関係がなく、かつ閉鎖部材がチャンバドアの左側に取り付けられているか、右側に取り付けられているかに関係しないからである。チャンバの内部空間が周囲にさらされる時間は、この閉鎖装置によって最小に抑えられる。閉鎖装置は、実験室キャビネット装置内へ最適に組み込むことができる。というのは実験室キャビネット装置における閉鎖装置のスペース需要は、グリップタブセクションのスペース要請がコンパクトであることに基づいて小さいからである。
【0008】
実験室試料を保管するための実験室キャビネット装置は、特に実験室試料を温度調節するための温度調節キャビネットである。この種の器具は、電気的に駆動され、かつ電圧接続端を有している。保持装置は好ましくは1つ又は複数の永久磁石によって作動するので、保持装置は電圧供給に依存しない。したがってハウジングドアの閉鎖機構は、電圧供給がなくなった場合でも保証されている。互いに対して磁気的に作用する保持部材の代わりに、クリップ結合、特に係止結合を提供する結合装置も使用することができる。この種のクリップ結合は、特に、操作部材の揺動によっても、操作部材を引っ張ることによっても克服可能であるように、整えることができる。したがって本発明の対象は、その閉鎖装置が、互いに磁気的に作用する保持部材(第1と第2の保持部材)の代わりに、かつ/又はそれに加えて、クリップ結合を介して結合可能な少なくとも2つの保持部材を有する、実験室キャビネット装置にも関する。
【0009】
温度調節キャビネットは、実験室試料を温度調節し、すなわちチャンバ内部とそれに伴ってそこに保管している実験室試料を許容誤差の枠内で温度閉ループ制御することによって、特にユーザーによって調節可能な目標温度に維持する。
【0010】
この目標温度は、ヒートキャビネット又はインキュベータの場合がそうであるように、室温(周囲温度)を上回ることができ、あるいはクールキャビネット又は冷凍キャビネットの場合がそうであるように、室温を下回ることもできる。実験室キャビネット装置が空調キャビネットとして形成されている場合に、好ましくはチャンバの内部を前もって支配する空調パラメータも、許容誤差の枠内で閉ループ制御される。この空調パラメータは、空気湿度及び/又はガス濃度、たとえばCO2濃度、N2濃度及び/又はO2濃度とすることができる。この種の空調キャビネットは、たとえば生きている培養細胞からなる実験室試料用のインキュベータである。
【0011】
操作部材は、好ましくはプレート形状の、好ましくは実質的にフラットな、構成部分である。操作部材は、特に、好ましくは20cmx10cmx4cm、好ましくは15cmx6cmx3cmの寸法(縦x横x高さ)を有する直方体よりも大きくはない。操作部材は、好ましくは少なくとも1つの切り欠き及び/又は中空室を有する。この種の切り欠きもしくはこの種の中空室は、好ましくは他の機能的要素を収容するために利用され、かつ重量と製造コストを削減する。操作部材は、好ましくは長く延びるベースボディ、特にプレートボディを有しており、それが第1の端部としてグリップタブセクションと第2の端部を有している。ベースボディのこれらの端部の間に、好ましくは穴又は切り欠きが設けられており、それを通してベースボディの揺動平面もしくはプレート平面に対して垂直に回転軸を挿通することができる。回転軸部材は、チャンバドアに固定されている、金属ピン部材とすることができる。回転軸部材によって、操作部材が好ましくは揺動可能にチャンバドアに固定されている。
【0012】
チャンバドアに固定された操作部材は揺動平面を有しており、操作部材が第1と第2の揺動位置の間で揺動される場合に、操作部材はその揺動平面に対して常に平行に延びている。操作部材は、チャンバドアへ向いた下側と上側を有し、その上側はチャンバドアとは逆であり、特にユーザーへ向いている。
【0013】
グリップタブセクションは、好ましくは操作部材と一体的に形成されているので、操作部材は機械的に負荷をかけることができ、かつ実験室キャビネット装置の寿命全体にわたって確実に使用可能である。しかしグリップタブセクションは、別体の部分であってもよく、その部分が操作部材と結合されている。グリップタブセクションは、特に変形可能もしくはやわらかい部分セクションを有することができる。部分セクションは、特にエラストマー、たとえばシリコンからなることができ、かつグリップタブセクション又は操作部材全体のカバー又はケースとして形成することができる。エラストマーによって、グリップタブセクションの把持を容易にし、もしくはより快適にすることができる。
【0014】
グリップタブセクションは、好ましくは操作部材の第1の端部に形成されたエッジを有しており、そのエッジが回転軸を中心に延びる曲がりを有している。この形態によって、ユーザーは揺動運動による操作可能性を連想するので、操作部材の操作を直覚的に行うことができる。曲がったエッジは、特に回転軸に対して同心に延びることができる円周に従うことができる。
【0015】
グリップタブセクションは、好ましくは閉鎖位置においてチャンバハウジングの前側を向く下側に第1の保持部材を有している。第1の保持部材は、操作部材の上側まで開口することができ、あるいは上側から張り出すことができる。第1の保持部材は、操作部材の第1の端部を形成することもできる。
【0016】
グリップタブセクションは、好ましくは少なくとも1つのタブセクションを有しており、そのタブセクションが第2の揺動位置において操作部材の揺動平面内でチャンバドアのエッジを越えて張り出し、さらにこの揺動平面内で第1の保持部材の広がりを越えて張り出す。揺動平面内でタブセクションが張り出すことによって、場所をとらないグリップを実現することができ、そのグリップは操作部材とチャンバドア全体の確実かつ快適な操作を可能にする。
【0017】
グリップタブセクションは、特に少なくとも1つ、特に2つの、それぞれタブセクションとして形成されたウィングセクションを有することができ、そのウィングセクションは特にグリップタブセクションもしくは操作部材と一体的に形成されている。ウィングセクションは、プレートボディの揺動軸に対して、もしくはチャンバドアのメイン平面に対して平行に操作部材のプレートボディに対して側方へ張り出しているので、揺動位置P2においてユーザーの指がそれぞれ第1及び/又は第2のウィングセクションの後方へはまり込むことができ、それによってチャンバドアを引っ張って開けることができる。グリップタブセクションとウィングセクションは、プレートボディの揺動平面に対して、もしくはチャンバドアのメイン平面に対して平行に、特に第1の保持部材に対して側方へ張り出しているので、グリップタブセクションの後方把持が容易になる。この特別な形態は人間工学的に効果的である、特にそのようにして入り込む指が容易に接近できる空間が形成される。
【0018】
第1の保持部材はプレート部材とすることができ、そのプレート部材がグリップタブセクションの下側の切り欠き内へ挿入されて、螺合かつ/又は接着されている。保持部材は、操作部材に弾性変形するように支承して配置することもでき、それによって保持部材がプレートボディの揺動平面に対して、もしくはチャンバドアのメイン平面に対して垂直の方向に変位することが可能になる。
【0019】
チャンバドアの閉鎖位置において、かつ操作部材の揺動位置P2において、第1と第2の保持部材は互いに添接し、かつ磁気的な引きつけ力に基づいて-かつ/又はクリップ力に基づいて-互いに付着する。この引きつけ力は、操作部材が位置P2から位置P1へ回動することによって、方向Aに引っ張ることによるよりも、容易かつ快適に克服可能である。操作部材が位置P2に配置されている場合に、チャンバドアの開放された位置において、特に、磁力の影響領域内で磁気的な付着力が第1と第2の保持部材を直接互いに近づくように移動させることにより、チャンバドアの閉鎖が自動的に磁気的な閉鎖機構の閉鎖をもたらす。閉鎖装置は、好ましくは、保持部材の当接が-特に「当接音」として-音響的に知覚可能であるように、整えられているので、ユーザーはチャンバドアの閉鎖が行われたことについての音響的なフィードバックを得る。
【0020】
閉鎖装置は、好ましくは位置係止装置を有しており、それを用いて操作部材が少なくとも第2の揺動位置において係止され、かつ/又は少なくとも第1の揺動位置においても係止される。第2の揺動位置において、操作部材は好ましくは水平に配置されており、すなわちその長手軸Lは水平に延びる。第1の揺動位置においては、操作部材は好ましくは垂直に配置されており、すなわちその長手軸Lは垂直に延びる。
【0021】
位置係止装置は、少なくとも1つの係止部材、好ましくは複数の係止部材、好ましくは正確に1つの係止部材、好ましくは正確に2つの係止部材を有し、かつ特に好ましくは正確に3つの係止部材を有している。これらの1つ又は複数の係止部材は、支持体部材上に配置することができ、その支持体部材は特に係止部材プレートとして形成することができ、その上に少なくとも1つの係止部材が配置されている。少なくとも1つの係止部材は、係止位置もしくは係止された揺動位置を実現するために、少なくとも1つの係止セクションと協働する。係止セクションは、高さプロフィールの構成要素とすることができ、それは高さプロフィールセクション内に形成することができる。少なくとも1つの係止部材、特に支持体部材は、チャンバドアに固定することができ、かつ少なくとも1つの係止セクション、特に高さプロフィールセクションは、操作部材に固定することができ、特に操作部材と一体的に形成することができる。また、逆の構成も可能である:少なくとも1つの係止部材が操作部材に固定することができ、かつ少なくとも1つの係止セクションがチャンバドアに固定することができる。
【0022】
係止部材は、移動可能に支承されたスライド部材、特にボール、のための、揺動軸に対して垂直の方向に上方を向いたホルダを有することができる。ホルダ内にスライド部材を弾性的に支承して配置することができる。スライド部材は、特に高さプロフィールセクション内に形成された係止セクションの係止凹部内へ嵌入するように、適合されている。高さプロフィールセクションは、好ましくは操作部材の下側の中空室もしくは切り欠き内に統合されている。高さプロフィールセクションの高さプロフィールは、好ましくは円環トラックに沿って延びるように設けられており、その円環トラックは操作部材の回転軸と同心に配置されている。第1の係止凹部は、操作部材が第1の揺動位置に係止されるように、設けることができ、第2の係止凹部は、操作部材が第2の揺動位置に係止されるように、設けることができる。中空プロフィールは、さらに、好ましくは、スライド部材のホルダが中空プロフィールのあらかじめ定められた高くなった位置に当接するように、形成することができるので、操作部材が規定どおりにチャンバドアに取り付けられている場合に、操作部材はこの高くなった位置に相当する揺動位置の間でのみ揺動することができ、それを越えて揺動することはできない。第1と第2の揺動位置は、好ましくはそれぞれこれらの高くなった位置に相当する揺動位置と一致する。閉鎖装置の正しい閉鎖は、ユーザーにとって、特に位置係止装置の係止によっても知覚可能である。
【0023】
好ましくは位置係止装置、特にその高さプロフィールは、選択的に次のように、すなわちチャンバドアの右の端縁に固定された操作部材が第2の揺動位置から反時計方向にのみ第1の揺動位置へ揺動することができるように、あるいはチャンバの左の端縁に固定された操作部材が第2の揺動位置から時計方向にのみ第1の揺動位置へ揺動することができるように、取り付けられるように、整えられている
【0024】
他の好ましい特徴は、操作部材及び特にその位置係止装置、したがって特に高さプロフィール及びそれに対して相補的な係止部材プレートが次のように、すなわち操作部材と特にその係止部材プレートが選択的にドアの左の端縁又は右の端縁に取り付けることができるように、整えられていることである。そのために特に、高さプロフィールに沿って等間隔で分配された係止凹部及び/又は隆起部が設けられる。この特性に基づいて操作部材もしくはそのように形成された本発明に係る実験室キャビネット装置は効率的かつフレキシブルに構成可能もしくは後から変更できる。というのは左側のドア継ぎ手が必要とされるか、右側のドア継ぎ手が必要とされる状況において、同じ1つの操作部材が使用されるからである。
【0025】
実験室キャビネット装置は、ハウジング、好ましくはアウターハウジングを有することができ、そのハウジング壁が周囲と接触する。その場合にチャンバハウジングは、好ましくはアウターハウジングの内部に位置する。この場合において、インキュベータは、内側のハウジングとして用いられる少なくとも1つのチャンバハウジングを有することができ、そのチャンバハウジングが少なくとも1つのチャンバドアによって閉鎖可能である。チャンバドアに加えて、閉鎖位置において周囲と接する外側のハウジングドアを設けることもでき、その場合に外側のハウジングドアのみが閉鎖位置において周囲と接し、かつチャンバドアは外側のハウジングドアの閉鎖位置においてチャンバハウジング、外側のハウジング及び外側のハウジングの間の中空空間内に位置する。閉鎖位置は、閉位置とも称される。
【0026】
チャンバドアは、特に継ぎ手装置を有しており、それがチャンバドアをチャンバハウジングと揺動可能に結合する。この種の揺動ドアは、回転によって開放された位置と閉鎖位置との間で移動される。継ぎ手装置は、特に-実験室キャビネット装置の規定どおりの使用において-直方体形状のチャンバハウジングの垂直に方位づけされた外側エッジに隣接することができる。直方体形状のチャンバハウジングの底プレートは、実験室キャビネット装置の規定どおりの使用において、水平に配置されており、チャンバハウジングの側壁は特に垂直に配置されており、かつチャンバハウジングの天井壁は、特に底プレートに対向して水平に配置されている。閉鎖装置は、好ましくはチャンバハウジングの、継ぎ手装置が配置されていない、好ましくは閉鎖位置において継ぎ手装置に対向する、外側エッジに配置されている。しかし閉鎖装置は、代替的又は付加的に、チャンバハウジングの他の外側エッジに、特に水平に延びる外側エッジに、配置することもできる。
【0027】
チャンバドアは、スライドドアとすることもでき、そのスライドドアが開放された位置と閉鎖位置との間で並進運動によって移動される。チャンバドアの揺動/並進の混合した運動も可能である。
【0028】
実験室キャビネット装置は、1つより多い閉鎖装置を有することができ、その閉鎖装置はそれぞれ、定められたように、チャンバドアの閉鎖位置において互いに磁気的に相互作用する保持部材を有している。閉鎖装置が複数である場合に、これらは好ましくは閉鎖位置において互いに離隔して配置されている。それらは特に、チャンバハウジングの同じ外側エッジに、あるいはチャンバハウジングの異なる外側エッジに配置することができる。複数の閉鎖装置を準備することによって、ハウジングドアの均一な閉鎖及びハウジングドアとチャンバドアの間で作用する閉鎖力の分配を最適化することができる。
【0029】
好ましくは複数の閉鎖装置は、同一のやり方で少なくとも1つの第1の保持部材と第2の保持部材からなるように形成されている。しかしまた、複数の閉鎖機構部材を異なるやり方で、少なくとも1つの第1の保持部材と第2の保持部材からなるように形成することもできる。それによってハウジングドアの閉鎖機構特性、したがって、閉鎖位置からのチャンバドアの変位区間に対してもたらされる、閉鎖装置によってチャンバハウジングとチャンバドアの間に作用する力は、所望のやり方で調節することができる。
【0030】
閉鎖位置において、外側のハウジングドアがハウジング内部を好ましくは気密に閉鎖し、それは特にハウジングドアもしくはハウジング開口部のフレームの少なくとも1つのシール装置によってもたらされる。閉鎖位置においてチャンバドアがチャンバ内部を好ましくは気密に閉鎖し、それは特にチャンバドアもしくはチャンバ開口部のフレームの少なくとも1つのシール装置によってもたらされる。しかし本発明は、原則的に、周囲に対して内部を完全には密閉しないハウジング及び/又はチャンバハウジングを有する実験室キャビネット装置にも関する。
【0031】
閉鎖装置は、好ましくは磁気的に作用する保持部材のグループを有しており、そのグループは、チャンバハウジングに配置され、特に別体の構成部分としてそこに固定され、あるいはそこに一体化されている第1の保持部材と、チャンバドアに配置され、特に別体の構成部分としてそこに固定され、あるいはそこに一体化されている第2の保持部材とを有している。磁気的に作用する保持部材のグループは、好ましくは正確に2つの保持部材を有している。
【0032】
保持部材の磁気的な作用は、保持部材が少なくとも1つの磁石を有し、あるいは少なくとも1つの磁石からなることによって、少なくとも1つの保持部材が磁気部材として形成されていることに基づいている。磁石は、特に好ましい形態において、永久磁石である。しかしまた、電磁石であってもよい。
【0033】
好ましくは磁気的に作用する保持部材のグループは、磁気部材を有し、かつ特に強磁性を用いて、磁気的な吸い付け力を形成するための、磁気部材に対して相補的な磁気的部材を有している。保持装置は、所望の磁力を発生させる複数の磁気部材、特に2、3、4、5、6の磁気部材、あるいは他の数の磁気部材を有することができる。この種の形態によって、閉鎖特性を正確に調節することができ、かつ正確に定められた保持力によって再び外すことができる。
【0034】
保持部材もしくは磁気部材は、好ましくは別体の構成部分であり、それが実験室キャビネット装置を組み立てる場合にチャンバハウジング及び/又はチャンバドアと固定される。しかしまた保持部材もしくは磁気部材は、チャンバハウジング及び/又はチャンバドアの一体的な構成要素とすることもできる。
【0035】
磁気部材は、好ましくは永久磁石であり、あるいは永久磁石を有する。好ましくは磁石は、機械的損傷又は腐食から保護するために、カバー部材を有している。
【0036】
好ましくは永久磁石は、サマリウム-コバルト合金から形成されており、あるいはこれらの材料を有している。これらの材料は、きわめて温度耐性があり、湿った、もしくは化学薬品を含んだ実験室環境及び、特に殺菌のために180℃までの温度に加熱しなければならないチャンバ内部において腐食に耐えることが証明されている。しかしまた、他の永久磁石を使用することも可能である。
【0037】
好ましくは実験室キャビネット装置は、少なくとも1つの弾性的な部材を有しており、その部材は閉鎖位置においてチャンバハウジングとチャンバドアの間に配置され、かつ特に閉鎖位置において閉鎖装置の保持力によってチャンバハウジングとチャンバドアの間で圧縮されている。弾性的な部材は、特にチャンバハウジングにおけるチャンバドア用のストッパとして用いられ、そのストッパはチャンバハウジングにおけるチャンバドアの接触を機械的に緩和する。さらに弾性的な部材は、閉鎖位置において弾性的な部材を圧縮する、閉鎖装置の保持力のための受け台として用いられる。
【0038】
弾性的な部材は、特にシールであって、そのシールは閉鎖位置においてチャンバ内部もしくはハウジング内部を密閉して周囲から分離する。このシールは特に、ハウジングの、ハウジング開口部も有する外壁に、もしくはチャンバハウジングの、チャンバ開口部も有する外壁に、したがって特に前側に、配置されている。シールは、好ましくはハウジング開口部もしくはチャンバ開口部の周りをぐるりと一周している。代替的又は付加的に、この種のシールはハウジングドアもしくはチャンバドアの内側に、閉鎖位置においてハウジング開口部もしくはチャンバ開口部をぐるりと一周するように、配置することができる。シールは、好ましくはシリコン又はフッ素ゴムを有し、もしくは好ましくはシリコン又はフッ素ゴムからなる。シリコン又はフッ素ゴム(FKM)は発泡させることができ(シリコン泡又はフッ素ゴム泡)かつ/又は1つ又は複数の中空室及び/又は切り欠きを有することができる。この種の穴又は中空室によって、シールの所望の弾性もしくは熱的絶縁性が得られる。
【0039】
閉鎖位置は、特にチャンバ内部がチャンバドアによって閉鎖され、特に気密に閉鎖され、かつ特にシールによって気密に閉鎖されることを、特徴としている。閉鎖位置において、弾性変形可能な部材、もしくは弾性的に変形可能なシールが、閉鎖装置の磁気的な保持力によって弾性的に変形される。
【0040】
好ましくは保持部材のグループの少なくとも1つの保持部材は永久磁石を有し、かつこのグループの少なくとも1つの他の保持部材は、この永久磁石と磁気的に相互作用する材料を有している。好ましくは第1の保持部材が永久磁石を有し、第2の保持部材はこの永久磁石と磁気的に相互作用する材料を有している。好ましくは第2の保持部材が永久磁石を有し、第1の保持部材はこの永久磁石と磁気的に相互作用する材料を有している。特にこの材料は、チャンバドア又はチャンバハウジングのセクションとして形成することができる。
【0041】
好ましくは保持部材のグループの少なくとも1つの保持部材が第1の永久磁石を有し、このグループの少なくとも1つの他の保持部材がこの第1の永久磁石と磁気的に相互作用する第2の永久磁石を有している。好ましくは第1の保持部材が第1の永久磁石を有し、第2の保持部材はこの第1の永久磁石と磁気的に相互作用する第2の永久磁石を有する。第1と第2の永久磁石は、閉鎖位置において好ましくは同じ方向の極性で配置されているので、第1と第2の永久磁石の間に引きつける作用が生じる。
【0042】
好ましくは少なくとも1つの永久磁石は、保持部材のグループの保持部材の構成要素であり、かつ特に磁気部材の構成要素である。これは、好ましくはカバー部材あるいはフレームを有し、それによって少なくとも1つの永久磁石が部分的又は完全に包囲されている。
【0043】
本発明に係る実験室キャビネット装置の他の好ましい形態が、図に基づく実施例の説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】
図1は、実施例に基づく本発明に係る実験室キャビネット装置を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施例に基づく本発明に係る実験室キャビネット装置を示す正面図である。
【
図3a】
図3aは、
図1又は2に示す本発明に係る実験室キャビネット装置において使用される閉鎖装置を、操作部材の第2の揺動位置、閉鎖された揺動位置(P2)、チャンバドアの閉鎖位置において斜視的に示す正面図である。
【
図3b】
図3bは、
図3aの閉鎖装置を、操作部材の第1の揺動位置及びチャンバドアの開放された位置において斜視的に示す正面図である。
【
図4a】
図4aは、
図3bの閉鎖装置を斜視的に示す横断面図であって、その場合に横断面は操作部材の揺動平面に対して垂直かつその長手軸(L)に沿って延びている。
【
図4b】
図4bは、
図3bの操作部材の、チャンバドアへ向いた下側に形成された、位置係止装置の高さプロフィールを図式的に示す上面図である。
【
図4c】
図4cは、
図4aに示す位置係止装置において使用される、係止部材プレートを図式的に示す上面図である。
【
図4d】
図4dは、
図4aの操作部材とその高さプロフィール及びドアに堅固に取り付けられた係止部材を、
図4aの場合のように、ドアの右の端縁に取り付ける場合の第1の揺動位置で示している。
【
図4e】
図4eは、
図4aの操作部材とその高さプロフィール及びドアに堅固に取り付けられた係止部材を、ドアの右の端縁に取り付ける場合において第2の揺動位置で示している。
【
図4f】
図4fは、
図4aの操作部材とその高さプロフィール及び、
図4dと4eに比較してやや回動されてドアに固定された係止部材を、ドアの右の端縁に取り付ける場合において第1の揺動位置で示している。
【
図4g】
図4gは、
図4aの操作部材とその高さプロフィール及び、
図4dと4eに比較してやや回動されてドアに固定された係止部材を、ドアの右の端縁に取り付ける場合において第2の揺動位置で示している。
【
図5】
図5は、
図3aの閉鎖装置を斜視的な側面図において、操作部材の第2の揺動位置かつチャンバドアの閉鎖された位置で示している。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、温度調節キャビネットもしくはヒートキャビネットとして形成された、実験室試料を保管するための実験室キャビネット装置1、もっと正確に言うと、たとえば37℃の閉ループ制御された温度において定められた雰囲気内で生きている培養細胞を保管するためのCO
2インキュベータを示している。この目的のために、インキュベータのチャンバ内部空間5は熱絶縁されており、周囲に対して気密に閉鎖可能であり、内部空間内のガス組成は同様に閉ループ制御されており、かつハウジング接続端43を介して変化させることができる。インキュベータのチャンバハウジング2は、ベース44上に据えられており、内部空間5を包囲し、かつインキュベータの前側3において開放している。前側は、チャンバ開口部4を有しており、それを通してチャンバ内部空間5へ接近することができる。透明なチャンバドア6は、チャンバドアの閉鎖位置においてチャンバ開口部を閉鎖するために用いられる。インキュベータ1において、チャンバハウジング2はアウターハウジング40の内部空間の内部に位置決めされているので、チャンバハウジング2とアウターハウジング40は互いに離隔しており、かつ互いに熱絶縁されている。チャンバ内部空間内に、棚シート45と空気湿潤槽46が見られる。チャンバハウジングの前側3とアウターハウジングの前側は、ここでは一致している。
【0046】
アウタードア41とチャンバドア6は、開放された位置で示されている。アウタードア41は、継ぎ手を介してアウターハウジングの外端縁に揺動可能に支承され、一周するシリコンシール42を有し、そのシリコンシールがアウタードアとチャンバドアの閉鎖位置において前側に添接し、そのようにしてチャンバドアを縁取っている。シール42は、代替的又は付加的に、シール42bとして前側3に取り付けることもできる;
図2を参照。
図2に示すように、付加的な一周するシール42bを前側3に設けることができ、その前側には閉鎖位置においてシール42が添接する。
【0047】
チャンバ開口部4は、シリコンシール9によって縁取られており、そのシリコンシールが前側3に取り付けられているが、そのシリコンシールは代替的又は付加的にシール9’としてチャンバドア6の内側に取り付けることもできる。
【0048】
アウタードア41が開放された場合に、インキュベータのチャンバドア6は最初はまだ閉鎖されている。そのために閉鎖装置(10、7a、7b)が用いられる。チャンバドア6が閉鎖されている場合に、ユーザーは、ドアを開放して実験室試料を挿入し、あるいは取り出す前に、まず透明なドア壁を通して内部空間5を見ることができる。
【0049】
保管されている実験室試料を保護するために、実験室キャビネット装置もしくは温度調節装置において、内部空間が周囲にさらされる時間を最小限に抑えることが重要である。本発明は、チャンバドアを閉鎖位置に保持し、かつ閉鎖する閉鎖機構の形態によって開放時間インターバルを調節することができる、という観察に基づいている。したがって開放時間を最小限に抑えるために、ユーザーが効率的に操作することができる、閉鎖装置を有する実験室キャビネット装置が開発された。
【0050】
閉鎖装置は、閉鎖位置において磁気的な保持力によってチャンバドア6を前側3に保持するために用いられ、かつ操作部材10、第1の保持部材7a及び第2の保持部材7bを有している。第1の保持部材7aは、操作部材10に固定されており、第2の保持部材7bは前側3に固定されている。操作部材10は、チャンバドア6に揺動可能に軸承されているので、操作部材10は第1の開放された位置P1(
図3bに示す)と第2の閉鎖された位置P2(
図3aに示される)の間で揺動可能に移動することができ、第1の位置において第1と第2の保持部材は互いに磁気的な保持力を行使せず、第2の位置においては第1と第2の保持部材は互いに磁気的な保持力を行使する。操作部材10は、チャンバドア6のメイン平面6aに対して平行に配置されており、かつ第1の端部11を有している。操作部材10のこの端部は、好ましくはグリップタブセクション11として形成されており、それは第2の位置においてチャンバドア6の端縁6bを越えて張り出しているので、第2の位置P2において閉鎖装置の磁気的な保持力は、ユーザーが操作部材10を第2の位置P2から第1の位置P1へ回転させることによっても、グリップタブセクションを用いてチャンバドアをチャンバドア6のメイン平面6aに対して垂直の方向(A)へ引っ張ることによっても、克服することができる。
【0051】
グリップタブセクション及び操作部材を揺動させることによっても、操作部材を引っ張ることによっても磁気的な保持力を克服する可能性を有する操作部材の形態によって、コンパクトで効率的に操作可能な閉鎖部材装置が実現される。互いに磁気的に作用する保持部材7a、7bを使用することによって、機械的な形状結合によって作用する従来のロック閉鎖機構の、チャンバドアを開放する前にまず操作部材を揺動させなければならず、もしくはチャンバドアを閉鎖する前に操作部材を揺動された位置に保持しなければならない、という要請がなくなる。グリップタブセクションは、操作部材の直覚的な操作を許す。ユーザーによって直覚的に操作されるグリップタブセクションのほぼどの運動も、磁気的な閉鎖機構の所望の開放もしくは閉鎖をもたらす。したがってインキュベータの駆動時間の間、チャンバドア閉鎖機構の操作を学習し、かつ遂行するために様々なユーザーが必要とする時間が減少する。特に閉鎖装置の片手の操作が容易になる。というのは、操作可能性は、ユーザーの主観的な優先性、右手又は左手あるいは他の身体部分又は補助手段による操作に関係がなく、かつ閉鎖装置がチャンバドアの左側に取り付けられているか、右側に取り付けられているかに関係しないからである。
【0052】
操作部材10は、プレート形状の構成部分である。その構成部分が切り欠きもしくは中空室16を有しており、それがここでは好ましくは他の機能的な要素を収容するために利用される。操作部材10は、長く延びたプレートボディ14を有しており、そのプレートボディが第1の端部としてグリップタブセクション11を、そして第2の端部としてここでは角をとって丸く形成された終端セクション12を有している。操作部材のプレート平面に対して垂直に方向づけされた穴15が、回転軸部材13を収容するために用いられ、その回転軸部材によって操作部材11がチャンバドア6に揺動可能に軸承されている。グリップタブセクション11は、閉鎖位置において前側3を向いた下側(
図3a、3bでは見えない)に、第1の保持部材7aを有している。グリップタブセクション11は、第1のウィングセクション11aと第2のウィングセクション11bを有しており、それらはグリップタブセクション11もしくは操作部材10と一体的に形成されている。ウィングセクション11aと11bは、プレート14の平面に対し、もしくはチャンバドアのメイン平面6aに対して平行に、プレートボディ14に対して側方へ張り出しているので、チャンバドアを引っ張って開放するために、位置P2においてユーザーの指がそれぞれ第1及び/又は第2のウィングセクションの後方へ入り込むことができる。グリップタブセクションとウィングセクションは、特に第1の保持部材7aに対して、プレートボディ14の平面に対し、もしくはチャンバドアのメイン平面6aに対して平行に側方へ張り出しているので、グリップタブセクションの後方を把持することが容易になる。これが、
図5に示されている。
【0053】
第1の保持部材7aは、ここでは磁気的な特殊鋼からなるプレート部材として形成されており、そのプレート部材がグリップタブセクションの下側の切り欠き内へ挿入され、螺合され、かつ/又は接着されている。保持部材がプレートボディ14の平面に対し、もしくはチャンバドアのメイン平面6aに対して垂直の方向Aに変位することを可能にするために、保持部材7aは操作部材10に弾性変位するように支承して配置することもできる。代替的に、第1の保持部材は永久磁石として形成し、あるいは少なくとも1つの永久磁石を有することもできる。閉鎖位置P2において所望の引きつける磁力を発生させるために、この場合において永久磁石の極方向は、第2の保持部材も永久磁石として形成され、もしくは永久磁石を有する場合に、第2の保持部材の永久磁石の極方向に相当する。
【0054】
第2の保持部材は、ここでは永久磁石として形成されており、その永久磁石が、前側3に固定されたフレームによって縁取られており、したがって保護されている。永久磁石は、温度調節キャビネットの駆動パラメータを許容するように、選択されている。したがってその内部空間が特に110℃を越える加熱温度で殺菌されるインキュベータの場合においては、材料としてサマリウム-コバルト合金が選択された。第2の保持部材は、永久磁石を有する第1の保持部材の強磁性パートナーとして形成することもできる。
【0055】
チャンバドアの閉鎖位置において、かつ操作部材の位置P2において、第1と第2の保持部材は互いに添接し、かつ磁気的な引きつけ力に基づいて互いに付着する。操作部材を位置P2から位置P1へ回転させることによって、この引きつけ力は方向Aに引っ張るよりもずっと軽く、より快適に克服される。操作部材10が位置P2に配置されている場合に、チャンバドア6の開放位置において、磁力の影響領域内で磁気的な付着力が第1と第2の保持部材を直接互いに近づくように移動させることにより、チャンバドアの閉鎖は自動的に磁気的な閉鎖機構の閉鎖をもたらす。さらに、保持部材の当接は、「当接音」として認識可能であるので、ユーザーはチャンバドアが成功裏に閉鎖されたことについての音響的なフィードバックを得る。
【0056】
閉鎖装置は、ここではさらに位置係止装置21、25を有しており、その位置係止装置によって操作部材が第2の位置に係止され、かつ第1の位置に係止される。第2の位置において、操作部材は水平に配置され、すなわちその長手軸Lは水平に延びている(
図3aを参照)。第1の位置において操作部材は垂直に配置され、すなわちその長手軸Lは垂直に延びている(
図3bを参照)。軸線Aに沿って見て、操作部材は長手軸Lに対して鏡対称に形成されている。位置係止装置は、係止部材プレート20を有しており、その上に少なくとも1つの係止部材21が配置されている。この場合において係止部材ディスク20には円トラックBに沿って3つの等間隔に配置された係止部材21、21’、21”が設けられており、その場合にこの円トラックは係止部材ディスク20の長手軸23に対して同心に配置されており、かつ高さプロフィールの円トラックと一致する。操作部材が規定どおりにチャンバハウジングに取り付けられている場合に、係止部材プレート20は回転軸部材によってチャンバドアに固定され、操作部材10は回転軸Aと同心に配置されたスライドスリーブを中心に回転可能に配置されている。回転軸部材13は、軸Aの方向に位置する端部にヘッドセクションを有している。操作部材が回転可能であり続ける間、係止部材プレート20をチャンバドアに対して挟持固定するために、ナット19が設けられている。
【0057】
係止部材21は、軸線Aの方向に上方を向いた、弾性的に支承されたボール21aを備えたボールホルダ21bを有している。このボールは、高さプロフィール25内に形成された係止凹部25a内へ嵌入するように、適合されている。高さプロフィール25は、ここでは中空室16内に、もしくは操作部材10の下側に一体化されている。高さプロフィールは、操作部材の穴15と同心に配置されている円環トラック25に沿って設けられている。第1の係止凹部25’は、操作部材が第1の揺動位置において係止されるように、設けることができ、第2の係止凹部25aは、操作部材が第2の揺動位置に係止されるように、設けることができる。高さプロフィールは、さらに、係止部材のボールホルダが高さプロフィールの高くなった位置26a'、26aに当接するように、形成されているので、操作部材は、それが規定どおりにチャンバドアに取り付けられている場合に、第1と第2の揺動位置の間だけで揺動することができ、それを越えて揺動することはできない。第1と第2の揺動位置は、それぞれ第1と第2の係止位置と一致する。第1と第2の揺動位置において係止結合の所望の強さを得るために、高さプロフィール25は円トラックに沿ってここでは、互いに対して等間隔で配置された係止凹部の3つのペア25a’、25aを有し、それらはそれぞれ高くなった構造26a’から分離されている。しかし原則的には、第1と第2の揺動位置における係止を得るために、係止凹部の少なくとも1つのペア25a’、25aのみを設ければ済む。
【0058】
操作部材の特別な特徴は、ここでは、位置係止装置21、25、特に高さプロフィール25が次のように、すなわち選択的に、チャンバドアの右の端縁に固定された操作部材が第2の揺動位置から反時計方向においてのみ第1の揺動位置へ揺動可能であるか、あるいはチャンバドアの左の端縁に固定された操作部材が第2の揺動位置から時計方向においてのみ第1の揺動位置へ揺動できるように、取り付けられるように、整えられていることである。これは、高さプロフィール25内の高くなった位置26a’、26aによって達成され、ドアに堅固に取り付けられた係止部材は、それらの位置を通過できない。原則的に他の開放ロジックも可能である:操作部材を次のように、すなわち右側に取り付けられた場合に、操作部材が水平(の位置 閉鎖)から時計方向下方へ向かって垂直(の位置 開放)へ90°揺動されるように、取り付けることも可能である。左側に取り付けられた場合には、操作部材を次のように、すなわち水平(の位置 閉鎖)から反時計方向下方へ向かって垂直(の位置 開放)へ90°揺動されるように、取り付けることも可能である。
【0059】
他の特別な特徴として、操作部材10と特にその高さプロフィール及びそれに対して相補的な、係止部材を備えた係止部材プレートは、操作部材とその係止部材プレートが選択的にドアの左端縁又は右端縁に取り付けることができるように、整えられている。この特性は、係止部材プレートと高さプロフィールの構造と相対配置から得られる。
図4dには、ドアの右の端縁に取り付けられた操作部材10が第1の揺動位置P1で示され、
図4eにおいては第2の揺動位置P2で示されている。図示されないドアに堅固に支承されている、係止部材プレートもしくは係止部材21、21’、21”の位置は、
図4dと4eにおいて同一である。
図4fにおいて、同じ操作部材10が今度はドアの左の端縁に取り付けられており、かつ第1の揺動位置P1で示されており、
図4eにおいては第2の揺動位置P2で示されている。図示されないドアに堅固に支承されている、係止部材部材プレートもしくは係止部材21、21’、21”の位置は、
図4fと4gにおいて同一である。ドアの右の端縁又は左の端縁に取り付ける場合の唯一の差異は、2つの場合において同一の係止部材プレート(もしくは同一の係止部材)が使用されるが、それらはドアの左に取り付ける場合には右側の取り付けに対してやや回動された位置に配置されることである。これは、
図4dから4gから直接明らかにされる。この特性に基づいて操作部材10もしくはそのように形成された本発明に係る実験室キャビネット装置は、効率的かつフレキシブルに構成することができる。というのは、左側のドア継ぎ手が必要とされるか、右側のドア継ぎ手が必要とされる状況において、1つの同じ操作部材10を使用することができるからである。