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7069426ユートロフィン遺伝子を標的とした筋ジストロフィーの治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】ユートロフィン遺伝子を標的とした筋ジストロフィーの治療方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220510BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220510BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220510BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20220510BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220510BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220510BHJP
   C07K 14/005 20060101ALI20220510BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220510BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
A61K31/7105
A61K35/76
A61K35/761
A61K48/00
A61P21/00
C07K14/005
C07K14/195
C12N7/01
C12N9/16 Z
C12N15/09 110
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/31
C12N15/33
C12N15/55
C12N15/63 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021551108
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2019045716
(87)【国際公開番号】W WO2020101042
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】62/768,474
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/861,039
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/931,925
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519187609
【氏名又は名称】株式会社モダリス
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】吉見 英治
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 克郎
(72)【発明者】
【氏名】山形 哲也
(72)【発明者】
【氏名】シン ユアンバウ
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン イーアン ロバート
(72)【発明者】
【氏名】カンナ ニディ
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/169983(WO,A1)
【文献】The American Journal of Human Genetics,2016年,Vol.98,PP.90-101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
C12N 15/09
C12N 15/11
C12N 15/31
C12N 15/55
C12N 15/33
C12N 15/63
C12N 15/864
C12N 15/861
C12N 15/867
C12N 7/01
C07K 14/195
C07K 14/005
C12N 9/16
A61K 48/00
A61K 35/76
A61K 35/761
A61K 31/7105
A61P 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の塩基配列を含む、ポリヌクレオチド:
(a)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列、及び
(b)配列番号45、46、58、59、60、135、141、153、155、156、157、159、167、又は172で表される塩基配列を含む、ガイドRNAをコードする塩基配列。
【請求項2】
少なくとも2つの異なる、ガイドRNAをコードする塩基配列を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
転写アクチベーターが、VP64及びRTAの転写活性化ドメインを含むペプチドである、請求項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質がdCas9である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
dCas9が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に由来するdCas9である、請求項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
ガイドRNAをコードする塩基配列に対するプロモーター配列及び/又はヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するプロモーター配列をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
ガイドRNAをコードする塩基配列に対するプロモーター配列が、U6プロモーター、SNR6プロモーター、SNR52プロモーター、SCR1プロモーター、RPR1プロモーター、U3プロモーター、及びH1プロモーターからなる群より選択される、請求項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するプロモーター配列が、EFSプロモーター、EF-1αプロモーター、CMVプロモーター、CK8プロモーター、MHCプロモーター、Desプロモーター、CAGプロモーター及びMYODプロモーターからなる群より選択される、請求項またはに記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
ガイドRNAをコードする塩基配列が、配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列を含み、
転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質が黄色ブドウ球菌に由来するdCas9であり、
ガイドRNAをコードする塩基配列に対するプロモーター配列が、U6プロモーターであり、そして
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するプロモーター配列が、CK8プロモーターである、
請求項のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
ガイドRNAをコードする塩基配列が、配列番号59で表される塩基配列を含む、請求項10に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項13】
ベクターが、プラスミドベクター又はウイルスベクターである、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターからなる群から選択される、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
AAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV587MTP、AAV588MTP、AAV-B1、AAVM41、AAVrh74、AAVS1_P1、及びAAVS10_P1からなる群から選択される、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、又は請求項1215のいずれか1項に記載のベクターを含む、医薬組成物。
【請求項17】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はベッカー型筋ジストロフィーの治療又は予防用の、請求項16記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願第62/768,474号(2018年11月16日出願)、米国仮出願第62/861,039号(2019年6月13日出願)及び米国仮出願第62/931,925号(2019年11月7日出願)(その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)の利益を請求する。
発明の背景
発明の分野
本発明は、ヒトユートロフィン(UTRN)遺伝子を標的とした筋ジストロフィーの治療方法等に関する。より詳細には、本発明は、ヒトUTRN遺伝子の特定の配列を標的としたガイドRNA及び転写アクチベーターとCRISPRエフェクタータンパク質との融合タンパク質を用いてヒトUTRN遺伝子の発現を活性化することにより筋ジストロフィーを治療又は予防する方法、並びに筋ジストロフィーの治療又は予防剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
背景の考察
筋ジストロフィーは進行性の筋萎縮と筋力低下を伴う遺伝性疾患の総称である。筋ジストロフィーのうち、X染色体上のジストロフィン遺伝子の変異に起因するものとして、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DUCHENNE muscular dystrophy)(DMD)およびその軽症型であるベッカー型筋ジストロフィー(BECKER muscular dystrophy)(BMD)が挙げられる。
【0003】
DMDは出生男子の約3500人に1人が発症する最も頻度の高い遺伝性進行性筋疾患である。その臨床症状としては、2~5歳頃から筋力低下がみられ、その後筋力低下が進行し、約10歳までに歩行不能となり、20歳代で心不全又は呼吸不全により死に至る(WO2009/044383を参照、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。
【0004】
DMDはジストロフィン遺伝子の変異が原因であることが知られている。ジストロフィン遺伝子はX染色体上に存在し、約220万塩基のDNAからなる巨大な遺伝子である。DNAからmRNA前駆体に転写され、さらにスプライシングによりイントロンが除かれて、79のエクソンから構成されるmRNAが生じる(約14kb)。このmRNAから3685のアミノ酸に翻訳され、ジストロフィンタンパク質が生成する。ジストロフィンタンパク質は筋細胞の膜安定性の維持に関与しているが、DMD患者ではジストロフィン遺伝子中に変異が生じておりジストロフィンタンパク質がほとんど発現していないため、筋細胞の構造が維持できず、その結果、筋力低下へとつながる。
【0005】
BMDもジストロフィン遺伝子の変異が原因であるが、その症状は一般的にDMDと比較して軽度である。DMDとBMDの臨床症状の違いは、DMDでは機能を持つジストロフィンタンパク質がほとんど発現しない一方で、BMDでは不完全ながらも機能を有するジストロフィンタンパク質が産生されている点にある。
【0006】
現在でも筋ジストロフィーに対して有効な根本治療薬は存在せず、ステロイドの投与等の対処療法がおこなわれている。DMDやBMDを治療するために複数の治療戦略が提案されてきたが、その戦略の一つとして遺伝子治療アプローチが注目されている。遺伝子治療においては、変異を持つ筋細胞に正常なジストロフィン遺伝子を補充し、正常ジストロフィンタンパク質を発現させることが目的となる。しかし、全長型ジストロフィンcDNAは約14kbとかなり長く、従ってアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター等の特定のベクターにとっては、搭載できるDNAサイズの制限等が問題となる。そこで、この問題の解決策の一つとして、最小限の機能ドメインを有する短縮型のジストロフィン遺伝子(ミニ/マイクロジストロフィン遺伝子)を用いる方法が提案されている(Sakamoto M. et al., Biochem Biophys Res Commun. 2002 May 17; 293(4):1265-72を参照、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。また、ジストロフィンを欠いているDMD患者にジストロフィンを導入することにより免疫応答が誘発される可能性があるため、この免疫応答を低減する目的でユートロフィン(本明細書において、「ユートロフィン」、「UTRN」等とも記載する場合がある)を用いる手段等も報告されている(Gilbert R. et al., Hum Gene Ther. 1999 May 20; 10(8):1299-310を参照、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。ユートロフィンは、ジストロフィンに高度に相同な細胞骨格タンパク質で、低いレベルではあるが、正常及びDMDの筋肉に存在する。ユートロフィンcDNAはジストロフィンと同様に非常に大きい(10kb超)。ユートロフィンは、また、ジストロフィンの有する筋細胞の膜安定化機能を代償し得ることが知られている(Gilbert R. et al., Hum Gene Ther. 1999 May 20; 10(8):1299-310 及び Liao H. et al., Cell. 2017 Dec 14; 171(7): 1495-507を参照、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。
【0007】
ユートロフィンを標的とする遺伝子治療として、例えば、WO2015/018503には、骨格筋組織または心筋組織で遺伝子を発現させるための組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを対象とした発明が開示されており、筋肉特異的プロモーターと融合タンパク質をコードする遺伝子を含み、前記融合タンパク質が以下の構成を有する:
a)転写活性化エレメント、及び
b)DNA結合エレメント、
ここで、該融合タンパク質は、該骨格筋組織または心筋組織で発現すると、ユートロフィンの発現を増加させることができる(WO2015/018503を参照、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。本発明では、DNA結合エレメントとしてジンクフィンガータンパク質が用いられる。
【0008】
一方、近年、ヌクレアーゼ活性を失活させたCas9(dCas9)と転写活性化ドメイン又は転写抑制ドメインとを組み合わせたシステムが開発されており、該システムでは遺伝子のDNA配列を切断することなくガイドRNAを用いてタンパク質を遺伝子にターゲティングすることで標的遺伝子の発現を制御する(WO2013/176772、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。その臨床利用が期待されている(Dominguez A. et al., Nat Rev Mol Cell Biol. 2016 Jan; 17(1): 5-15を参照、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。しかしながら、dCas9、ガイドRNA、および同時転写のアクチベーターの複合体をコードする配列は、インビボでの遺伝子導入に最も有望な方法である、最も一般的なウイルスベクター(例えば、AAV)のキャパシティを超えるという課題がある(Liao H. et al., Cell. 2017 Dec 14; 171(7): 1495-507を参照、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。
【0009】
2017年、(a)Cas9遺伝子を導入したDMDモデルマウス(mdxマウス)に、マウスUTRNをターゲットとしCas9のDNA切断能を阻害するガイドRNA(dgUtrn)と転写活性化ドメインを搭載したAAVを投与することにより、UTRNの発現量が増加して握力の改善も見られたこと、および(b)mdxマウスに、Cas9を搭載したAAVと前記dgUtrnと転写活性化ドメインを搭載したAAVとを同時にインジェクションすることにより、握力の改善が見られたことが報告された(Liao H. et al., Cell. 2017 Dec 14; 171(7): 1495-507を参照、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
従って、本発明の目的の1つは、筋ジストロフィー(特に、DMDおよびBMD)の新規治療手段を提供することにある。
【0011】
以下の詳細な説明の中で明らかになるであろう、この目的およびその他の目的は、本発明者らが、ヒトUTRN遺伝子(Gene ID:7402)の特定の配列を標的としたガイドRNA及び転写アクチベーターとヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質との融合タンパク質を用いることにより、ヒトUTRN遺伝子の発現を強力に活性化できることを見出したことによって達成された。また、本発明者らは、小型化したヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質及び小型化した転写アクチベーターを用いて、該融合タンパク質をコードする塩基配列とガイドRNAをコードする塩基配列とを搭載した単一のAAVベクターにより、ヒトUTRN遺伝子の発現を強力に活性化できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、以下を提供する:
(1)以下の塩基配列を含む、ポリヌクレオチド:
(a)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列、及び
(b)ヒトユートロフィン遺伝子の発現制御領域における、配列番号104、105、135、141、153、167、又は172で表される領域中の連続する18~24ヌクレオチド長の領域を標的とするガイドRNAをコードする塩基配列。
(2)ガイドRNAをコードする塩基配列が、配列番号45、46、58、59、60、135、141、153、155、156、157、159、167、若しくは172で表される塩基配列、又は配列番号45、46、58、59、60、135、141、153、155、156、157、159、167、若しくは172で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含む、(1)記載のポリヌクレオチド。
(3)少なくとも2つの異なる、ガイドRNAをコードする塩基配列を含む、(1)又は(2)記載のポリヌクレオチド。
(4)転写アクチベーターが、VP64及びRTAの転写活性化ドメインを含むペプチドである、(1)~(3)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(5)転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、(4)記載のポリヌクレオチド。
【0013】
(6)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質がdCas9である、(1)~(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(7)dCas9が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に由来するdCas9である、(6)記載のポリヌクレオチド。
(8)ガイドRNAをコードする塩基配列に対するプロモーター配列及び/又はヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するプロモーター配列をさらに含む、(1)~(7)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(9)ガイドRNAをコードする塩基配列に対するプロモーター配列が、U6プロモーター、SNR6プロモーター、SNR52プロモーター、SCR1プロモーター、RPR1プロモーター、U3プロモーター、及びH1プロモーターからなる群より選択される、(8)記載のポリヌクレオチド。
(10)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するプロモーター配列が、EFSプロモーター、EF-1αプロモーター、CMVプロモーター、CK8プロモーター、MHCプロモーター、Desプロモーター、CAGプロモーター及びMYODプロモーターからなる群より選択される、(8)又は(9)記載のポリヌクレオチド。
【0014】
(11)ガイドRNAをコードする塩基配列が、配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列、又は配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含み、
転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質が黄色ブドウ球菌に由来するdCas9であり、
ガイドRNAをコードする塩基配列に対するプロモーター配列が、U6プロモーターであり、そして
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するプロモーター配列が、CK8プロモーターである、
(8)~(10)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(12)ガイドRNAをコードする塩基配列が、配列番号59で表される塩基配列、又は配列番号59で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含む、(11)記載のポリヌクレオチド。
(13)(1)~(12)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
(14)ベクターが、プラスミドベクター又はウイルスベクターである、(13)記載のベクター。
(15)ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターからなる群から選択される、(14)に記載のベクター。
【0015】
(16)AAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV587MTP、AAV588MTP、AAV-B1、AAVM41、AAVrh74、AAVS1_P1、及びAAVS10_P1からなる群から選択される、(15)記載のベクター。
(17)AAVベクターが、AAV9である、(16)記載のベクター。
(18)(1)~(12)のいずれかに記載のポリヌクレオチド、又は(13)~(17)のいずれかに記載のベクターを含む、医薬組成物。
(19)デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はベッカー型筋ジストロフィーの治療又は予防用の、(18)記載の医薬組成物。
(20)(1)~(12)のいずれかに記載のポリヌクレオチド、又は(13)~(17)のいずれかに記載のベクターを、それを必要とする対象に投与することを含む、デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はベッカー型筋ジストロフィーの治療又は予防方法。
【0016】
(21)デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はベッカー型筋ジストロフィーの治療又は予防のための、(1)~(12)のいずれかに記載のポリヌクレオチド、又は(13)~(17)のいずれかに記載のベクターの使用。
(22)デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はベッカー型筋ジストロフィーの治療又は予防用医薬組成物の製造における、(1)~(12)のいずれかに記載のポリヌクレオチド、又は(13)~(17)のいずれかに記載のベクターの使用。
(23)以下を含む、リボヌクレオプロテイン:
(c)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質、及び
(d)ヒトユートロフィン遺伝子の発現制御領域における、配列番号104、105、135、141、153、167、又は172で表される領域中の連続する18~24ヌクレオチド長の領域を標的とするガイドRNA。
(24)ガイドRNAが、配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列、又は配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含む、(23)記載のリボヌクレオプロテイン。
(25)転写アクチベーターが、VP64及びRTAの転写活性化ドメインを含むペプチドである、(23)又は(24)記載のリボヌクレオプロテイン。
【0017】
(26)転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、(25)記載のリボヌクレオプロテイン。
(27)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質がdCas9である、(23)~(26)のいずれかに記載のリボヌクレオプロテイン。
(28)dCas9が、黄色ブドウ球菌に由来するdCas9である、(27)記載のリボヌクレオプロテイン。
(29)ガイドRNAが、配列番号194、195若しくは197で表される塩基配列、又は配列番号194、195若しくは197で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含み、
転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、そして
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質が黄色ブドウ球菌に由来するdCas9である、
(23)~(28)のいずれかに記載のリボヌクレオプロテイン。
(30)ガイドRNAが、配列番号197で表される塩基配列、又は配列番号197で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含む、(29)に記載のリボヌクレオプロテイン。
【0018】
(31)以下を含む、ヒトユートロフィン遺伝子の発現を活性化するための組成物又はキット:
(e)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質、又は該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び
(f)ヒトユートロフィン遺伝子の発現制御領域における、配列番号104、105、135、141、153、167、若しくは172で表される領域中の連続する18~24ヌクレオチド長の領域を標的とするガイドRNA、又は該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド。
(32)ガイドRNAが、配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列、又は配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含む、(31)記載の組成物又はキット。
(33)少なくとも2つの異なるガイドRNAを含む、(31)又は(32)記載の組成物又はキット。
(34)転写アクチベーターが、VP64及びRTAの転写活性化ドメインを含むペプチドである、(31)~(33)のいずれかに記載の組成物又はキット。
(35)転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、(34)記載の組成物又はキット。
【0019】
(36)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質がdCas9である、(31)~(35)のいずれかに記載の組成物又はキット。
(37)dCas9が、黄色ブドウ球菌に由来するdCas9である、(36)記載の組成物又はキット。
(38)(31)~(37)のいずれかに記載の組成物又はキットであって、
該組成物又はキットは、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド及びガイドRNAをコードするポリヌクレオチドを含み、
該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが融合タンパク質に対するプロモーター配列をさらに含み、及び/又は該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチドがガイドRNAに対するプロモーター配列をさらに含む。
(39)ガイドRNAに対するプロモーター配列が、U6プロモーター、SNR6プロモーター、SNR52プロモーター、SCR1プロモーター、RPR1プロモーター、U3プロモーター、及びH1プロモーターからなる群より選択される、(38)記載の組成物又はキット。
(40)融合タンパク質に対するプロモーター配列が、EFSプロモーター、EF-1αプロモーター、CMVプロモーター、CK8プロモーター、MHCプロモーター、Desプロモーター、CAGプロモーター及びMYODプロモーターからなる群より選択される、(38)又は(39)記載の組成物又はキット。
【0020】
(41)ガイドRNAが、配列番号194、195若しくは197で表される塩基配列、又は配列番号194、195若しくは197で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含み、
転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質が黄色ブドウ球菌に由来するdCas9であり、
ガイドRNAに対するプロモーター配列が、U6プロモーターであり、そして
融合タンパク質に対するプロモーター配列が、CK8プロモーターである、
(38)~(40)のいずれかに記載の組成物又はキット。
(42)ガイドRNAが、配列番号197で表される塩基配列、又は配列番号197で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含む、(41)に記載の組成物又はキット。
(43)以下(e)及び(f)を投与することを含む、デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はベッカー型筋ジストロフィーの治療又は予防方法:
(e)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質、又は該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び
(f)ヒトユートロフィン遺伝子の発現制御領域における、配列番号104、105、135、141、153、167、又は172で表される領域中の連続する18~24ヌクレオチド長の領域を標的とするガイドRNA、又は該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド。
(44)ガイドRNAが、配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列、又は配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列、又は該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチドを含む、(43)記載の方法。
(45)少なくとも2つの異なるガイドRNAを含む、(43)又は(44)記載の方法。
【0021】
(46)転写アクチベーターが、VP64及びRTAの転写活性化ドメインを含むペプチドである、(43)~(45)のいずれかに記載の方法。
(47)転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、(46)記載の方法。
(48)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質がdCas9である、(43)~(47)のいずれかに記載の方法。
(49)dCas9が、黄色ブドウ球菌に由来するdCas9である、(48)記載の方法。
(50)(43)~(49)のいずれかに記載の方法であって、
該方法は、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド及びガイドRNAをコードするポリヌクレオチドを投与することを含み、
該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが融合タンパク質に対するプロモーター配列をさらに含み、及び/又は該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチドがガイドRNAに対するプロモーター配列をさらに含む。
【0022】
(51)ガイドRNAに対するプロモーター配列が、U6プロモーター、SNR6プロモーター、SNR52プロモーター、SCR1プロモーター、RPR1プロモーター、U3プロモーター、及びH1プロモーターからなる群より選択される、(50)記載の方法。
(52)融合タンパク質に対するプロモーター配列が、EFSプロモーター、EF-1αプロモーター、CMVプロモーター、CK8プロモーター、MHCプロモーター、Desプロモーター、CAGプロモーター及びMYODプロモーターからなる群より選択される、(50)又は(51)記載の方法。
(53)ガイドRNAが、配列番号194、195若しくは197で表される塩基配列、又は配列番号194、195若しくは197で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入(inserte)、及び/若しくは付加された塩基配列を含み、
転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質が黄色ブドウ球菌に由来するdCas9であり、
ガイドRNAに対するプロモーター配列が、U6プロモーターであり、そして
融合タンパク質に対するプロモーター配列が、CK8プロモーターである、
(50)~(52)のいずれかに記載の方法。
(54)ガイドRNAが、配列番号197で表される塩基配列、又は配列番号197で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含む、(53)に記載の方法。
(55)デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はベッカー型(BECKER)筋ジストロフィーの治療又は予防用医薬組成物の製造における、以下(e)及び(f)の使用:
(e)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質、又は該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び
(f)ヒトユートロフィン遺伝子の発現制御領域における、配列番号104、105、135、141、153、167、又は172で表される領域中の連続する18~2ヌクレオチド長の領域を標的とするガイドRNA、又は該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド。
【0023】
(56)ガイドRNAが、配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列、又は配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含む、(55)記載の使用。
(57)少なくとも2つの異なるガイドRNAを含む、(55)又は(56)記載の使用。
(58)転写アクチベーターが、VP64及びRTAの転写活性化ドメインを含むペプチドである、(55)~(57)のいずれかに記載の使用。
(59)転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、(58)記載の使用。
(60)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質がdCas9である、(55)~(59)のいずれかに記載の使用。
【0024】
(61)dCas9が、黄色ブドウ球菌に由来するdCas9である、(60)記載の使用。
(62)(55)~(61)のいずれかに記載の使用であって、
該使用は、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの使用及びガイドRNAをコードするポリヌクレオチドの使用を含み、
該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが融合タンパク質に対するプロモーター配列をさらに含み、及び/又は該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチドがガイドRNAに対するプロモーター配列をさらに含む。
(63)ガイドRNAに対するプロモーター配列が、U6プロモーター、SNR6プロモーター、SNR52プロモーター、SCR1プロモーター、RPR1プロモーター、U3プロモーター、及びH1プロモーターからなる群より選択される、(62)記載の使用。
(64)融合タンパク質に対するプロモーター配列が、EFSプロモーター、EF-1αプロモーター、CMVプロモーター、CK8プロモーター、MHCプロモーター、Desプロモーター、CAGプロモーター、及びMYODプロモーターからなる群より選択される、(62)又は(63)記載の使用。
(65)ガイドRNAが、配列番号194、195若しくは197で表される塩基配列、又は配列番号194、195若しくは197で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含み、
転写アクチベーターが、配列番号117で表されるアミノ酸配列、又は配列番号117で表されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質が黄色ブドウ球菌に由来するdCas9であり、
ガイドRNAに対するプロモーター配列が、U6プロモーターであり、そして
融合タンパク質に対するプロモーター配列が、CK8プロモーターである、
(62)~(64)のいずれかに記載の使用。
(66)ガイドRNAが、配列番号197で表される塩基配列、又は配列番号197で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含む、(65)に記載の使用。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、ヒトユートロフィン遺伝子の発現を活性化することができ、結果としてDMDおよびBMDを治療することができると期待される。
【0026】
本発明とそれに付随する多くの利点は、以下の詳細な説明を参照し、添付の図面と併せて理解することで、より完全に理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1において、上パネルはヒトUTRN遺伝子のプロモーターAの領域を、中パネルはプロモーターBの領域を示し、各領域中に設定した、24のターゲティング配列(ガイド# sgED3-1~sgED3-24(配列番号129~152))の位置を表す。図1において、下パネルは、配列番号129~152で表されるターゲティング配列によりコードされるcrRNAを含むsgRNAと3種の異なるdSaCas9-転写アクチベーター融合タンパク質(dSaCas9-VP64(配列番号188)、dSaCas9-VPH(配列番号189)、dSaCas9-VPR(配列番号190))との組み合わせを用いてのヒトUTRN遺伝子発現の活性化を示す(N=3。エラーバーは標準偏差を示す。)。コントロールsgRNAを用いた場合と比較して、ガイド# sgED3-6及びsgED3-7(配列番号134及び135)を含む領域(領域A)並びにガイド# sgED3-13(配列番号141)を含む他の領域(領域B)に特異的に結合するsgRNAをそれぞれ用いた時、ヒトUTRN遺伝子の発現が強く活性化された。また、活性化効果は、3種のdSaCas9-転写アクチベーター融合タンパク質のうちdSaCas9-VPR融合タンパク質を用いたときが最も強かった。
図2図2において、上パネルはヒトUTRN遺伝子のプロモーターAの領域に設定した、ターゲティング配列(ガイド# sgED3-1~sgED3-20及びsgED3-25~sgED3-48(配列番号129~148及び153~176))の位置を表す。図2において、下パネルはターゲティング配列ガイド# sgED3-6、sgED3-13、sgED3-25~sgED3-48(配列番号134、141、153~176)によってコードされるcrRNAを含むsgRNAとdSaCas9-VPRとの組み合わせを用いてのHEK293FT細胞におけるヒトUTRN遺伝子発現の活性化を示す図である(N=3。エラーバーは標準偏差を示す。)。ターゲティング配列ガイド# sgED3-6、sgED3-13、sgED3-25~sgED3-32、sgED3-39、sgED3-40、sgED3-44(配列番号134、141、153~160、167、168、及び172)を含む領域に特異的に結合するsgRNAをそれぞれ用いた場合、コントロールsgRNAを用いた場合と比較して、ヒトUTRN遺伝子発現は2倍以上活性化された。
図3図3は、各sgRNAの機能を、プラスミドベクターを用いて検証した結果を示す図である(N=1)。ターゲティング配列ガイド# sgED3-6、sgED3-13、sgED3-25、sgED3-27、sgED3-30、sgED3-31、sgED3-39、sgED3-40、又はsgED3-44(配列番号134、141、153、155、158、159、167、168又は172)にコードされるcrRNAを含むsgRNAを発現する、pAAV-EFS-dSaCas9[-25]-miniVR-U6-sgRNA AIOプラスミドを調製し、これらをHEK293FT細胞にトランスフェクションして、その機能を検証した。コントロールsgRNAと比較して、ターゲティング配列ガイド# sgED3-6、sgED3-13、sgED3-25、sgED3-27、sgED3-30、sgED3-31、sgED3-39、sgED3-40、又はsgED3-44(配列番号134、141、153、155、158、159、167、168又は172)によりコードされるcrRNAを含むsgRNAを用いた場合、ヒトUTRN遺伝子発現の活性化が観察された。
図4図4は、各sgRNAの機能を、AAVベクターを用いて検証した結果を示す図である(N=1)。ターゲティング配列ガイド# sgED3-6、sgED3-30、又はsgED3-31(配列番号134、158又は159)によりコードされるcrRNAを含むsgRNAを発現する、pAAV-EFS-dSaCas9[-25]-miniVR-U6-sgRNA AIOプラスミドを用いて作製したAAV2を用いてHEK293FT細胞に遺伝子導入した。ターゲティング配列ガイド# sgED3-6、sgED3-30、又はsgED3-31(配列番号134、158、又は159)によりコードされるcrRNAを含むsgRNAの全てにおいて、コントロールsgRNAと比較してヒトUTRN遺伝子の活性化が観察された。
図5図5は、pAAV-EFS-dSaCas9[-25]-miniVR-U6-sgRNA AIOプラスミドのコンストラクトを示す図である。
図6図6において、パネルAは、ヒト骨格筋細胞のゲノムのH3K4me3とH3K27Acのパターンと、ヒトUTRN遺伝子の推定エンハンサー領域E1、E2、E3、推定プロモーター領域P1、P2を示す。パネルB~Fは、各ガイド#で表されるターゲティング配列(配列番号4~103で表される配列)の位置を示している。
図7図7は、HSMM細胞(N=2)において、各ガイド#で表されたターゲティング配列(配列番号4~103で表された配列)でコードされたcrRNAを含むsgRNAと、dSaCas9-miniVRとを用いて、ヒトUTRN遺伝子発現の活性化を評価した結果を示したものである。
図8図8において、上パネルは、ガイド#145、146、205、208、210(配列番号45、46、58、59、及び60)の5つのターゲティング配列の、カニクイザル(Macaca fascicularis)との相同性と位置する領域をそれぞれ示す。下パネルは、5つのターゲティング配列の組み合わせ、カニクイザルとの相同性、および位置する領域を示す。
図9図9は、ターゲティング配列ガイド#145、146、205、208、210(配列番号45、46、58、59、及び60)でそれぞれコードされるcrRNAを含むsgRNA、又はその組み合わせと、dSaCas9-miniVRとを用いた、5種類のHSMM細胞(N=2)におけるヒトUTRN遺伝子発現の活性化を示す。
図10図10は、pED260、pED261、又はpED263プラスミドバックボーンにおけるターゲティング配列ガイド#145、#146、又は#208によってコードされるcrRNAを含むsgRNAが、UTRNをアップレギュレートすることを示したものである。ガイド#145、#146、又は#208をそれぞれpED260、pED261、又はpED263のバックボーンで一過性に発現させたHEK293FT細胞から、相対的なmRNA発現を測定した。データは、3回の繰り返しによる平均値+標準偏差で表す(N=3、エラーバーは標準偏差を示す)。
図11図11において、左パネルに各AAV9サンプルとマーカーをアプライしたSDS-PAGEのレーンレイアウトを、右パネルにSDS-PAGEのイメージを示す。レーン11の横の数値は、分子量(kDa)を意味する。各AAVサンプルから3つのキャプシドタンパク質(VP1、VP2、及びVP3、それぞれ87、72、及び62kDa)が検出された。これらの結果は、プラスミド(pED261-145、pED261-146、pED261-208、pED263-145、pED263-146、及びpED263-208)にクローニングされた目的の遺伝子は、AAV9に搭載できることを示している。
図12図12は、HSMM細胞における、3種類のAAV9(AAV9-ED261-145、AAV9-ED261-208、及びAAV9-ED263-208)を用いた、ヒトUTRN遺伝子の発現の活性化を示す(AAV群はN=3~4、非AAV対照はN=8。エラーバーは標準誤差を示す。)。これらのAAV9によってヒトUTRN遺伝子の発現が活性化された。
図13図13は、標的ガイドを非標的ガイドに対して正規化したRNA-seqの結果を、log 2 倍率変化 vs 正規化カウントの平均値としてプロットしたものを示す(パネルA;ガイド#145 vs NTg1、パネルB;ガイド#146 vs NTg1、パネルC;ガイド#208 vs NTg1)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
好ましい実施形態の詳細な説明
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0029】
1.ポリヌクレオチド
本発明は、以下の塩基配列を含む、ポリヌクレオチド(以下、「本発明のポリヌクレオチド」とも称することがある)を提供する:
(a)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列、及び
(b)ヒトユートロフィン遺伝子の発現制御領域における、配列番号104、105、135、141、153、167、又は172で表される領域中の連続する18~24ヌクレオチド長の領域(即ち、18~24の連続したヌクレオチド)を標的とするガイドRNAをコードする塩基配列。
【0030】
本発明のポリヌクレオチドは、所望の細胞内に導入され、転写されることにより、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質及びヒトUTRN遺伝子の発現制御領域中の特定の領域を標的とするガイドRNAを生じる。これら融合タンパク質及びガイドRNAが複合体(以下、該複合体を「リボヌクレオプロテイン(ribonucleoprotein;RNP)」と称することがある)となって協同的に前記特定の領域に作用することにより、ヒトUTRN遺伝子の転写を活性化する。
【0031】
(1)定義
本明細書において「ヒトユートロフィン(UTRN)遺伝子の発現制御領域」とは、RNPがその領域へ結合することによりヒトUTRN遺伝子の発現が活性化され得る、あらゆる領域を意味する。即ち、ヒトUTRN遺伝子の発現制御領域とは、RNPの結合によりヒトUTRN遺伝子の発現が活性化される限り、ヒトUTRN遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン、エクソン等のいずれの領域に存在してもよい。本明細書中、ある特定の配列により発現制御領域を表す場合、発現制御領域とは、そのセンス鎖配列及びアンチセンス鎖配列の両方を含む概念である。
【0032】
本発明において、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質は、ガイドRNAによりヒトUTRN遺伝子の発現制御領域中の特定の領域へリクルートされる。本明細書において、「~を標的とするガイドRNA」とは、「~へ融合タンパク質をリクルートするガイドRNA」を意味する。
【0033】
本明細書において、「ガイドRNA(『gRNA』とも称することがある)」とは、ゲノム特異的CRISPR-RNA(「crRNA」と称する)を含むRNAである。crRNAは、ターゲティング配列(後述)の相補配列に結合するRNAである。CRISPRエフェクタータンパク質としてCpf1を用いる場合には、「ガイドRNA」とは、crRNAとその5’末端に付した特定の配列(例えばFnCpf1の場合、配列番号106で表されるRNA配列)からなるRNAを含むRNAを指す。CRISPRエフェクタータンパク質としてCas9を用いる場合には、「ガイドRNA」とは、crRNAとその3’末端に連結されたtrans-activating crRNA(「tracrRNA」と称する)を含むキメラRNA(「single guide RNA(sgRNA)」と称する)を指す。(例えば、Zhang F. et al., Hum Mol Genet. 2014 Sep 15;23(R1):R40-6及びZetsche B. et al., Cell. 2015 Oct 22; 163(3): 759-71を参照、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。
【0034】
本明細書において、ヒトUTRN遺伝子の発現制御領域中で、crRNAが結合する配列に対する相補配列を「ターゲティング配列(targeting sequence)」と称する。すなわち、本明細書において、「ターゲティング配列」とは、ヒトUTRN遺伝子の発現制御領域中に存在し、PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ(protospacer adjacent motif))が隣接するDNA配列である。PAMは、CRISPRエフェクタータンパク質としてCpf1を用いる場合にはターゲティング配列の5’側に隣接する。PAMは、CRISPRエフェクタータンパク質としてCas9を用いる場合にはターゲティング配列の3’側に隣接する。ターゲティング配列は、ヒトUTRN遺伝子の発現制御領域のセンス鎖配列側及びアンチセンス鎖配列側のいずれに存在してもよい(例えば、上述のZhang F. et al., Hum Mol Genet. 2014 Sep 15;23(R1):R40-6及びZetsche B. et al., Cell. 2015 Oct 22; 163(3): 759-71を参照、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。
【0035】
(2)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質
本発明では、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質を用いて、それに融合させた転写アクチベーターをヒトUTRN遺伝子の発現制御領域にリクルートさせる。本発明に用いられるヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質(以下では単に「CRISPRエフェクタータンパク質」と称する)としては、gRNAと複合体を形成して、ヒトUTRN遺伝子の発現制御領域にリクルートされる限り特に制限はないが、例えば、ヌクレアーゼ欠損Cas9(以下「dCas9」とも称することがある)又はヌクレアーゼ欠損Cpf1(以下「dCpf1」とも称することがある)が挙げられる。
【0036】
上記dCas9としては、例えばストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9(SpCas9;PAM配列:NGG(NはA、G、T又はC。以下同じ))、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)由来のCas9(StCas9;PAM配列:NNAGAAW(WはA又はT。以下同じ))、ナイセリア・メニンギチジス(Neisseria meningitidis)由来のCas9(NmCas9;PAM配列:NNNNGATT)、又は黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus))由来のCas9(SaCas9;PAM配列:NNGRRT(RはA又はG。以下同じ))のヌクレアーゼ欠損改変体等が挙げられるが、これらに限定されない(例えばNishimasu et al., Cell. 2014 Feb 27; 156(5): 935-49、Esvelt KM et al., Nat Methods. 2013 Nov;10(11):1116-21、Zhang Y. Mol Cell. 2015 Oct 15;60(2):242-55、及びFriedland AE et al., Genome Biol. 2015 Nov 24;16:257を参照、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。例えば、SpCas9の場合、10番目のAsp残基をAla残基に変換し、且つ、840番目のHis残基をAla残基で変換した二重変異体(「dSpCas9」と称することがある)を用いることができる(例えば上述のNishimasu et al., Cell. 2014を参照)。或いは、SaCas9の場合、10番目のAsp残基をAla残基へ変換し、且つ、580番目のAsn残基をAla残基で変換した二重変異体(配列番号107)、又は、10番目のAsp残基をAla残基へ変換し、且つ、557番目のHis残基をAla残基で変換した二重変異体(配列番号108)(以下、いずれの二重変異体についても「dSaCas9」と称することがある)を使用することができる(例えば上述のFriedland AE et al., Genome Biol. 2015を参照、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。
【0037】
また、本発明の一態様において、dCas9として、前記dCas9のアミノ酸配列の一部をさらに改変させた改変体であって、gRNAと複合体を形成してヒトUTRN遺伝子の発現制御領域にリクルートされる改変体を用いてもよい。かかる改変体としては、例えば、アミノ酸配列の一部を欠失させた短縮型の改変体が挙げられる。本発明の一態様において、dCas9として、PCT/JP2019/022795及びPCT/JP2019/041751(それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)において開示された改変体を用いることができる。具体的には、10番目のAsp残基をAla残基へ変換し、且つ、580番目のAsn残基をAla残基で変換した二重変異体であるdSaCas9の721番目~745番目のアミノ酸を欠失したdSaCas9(配列番号109)、若しくは該欠失部分をペプチドリンカーで置換したdSaCas9(例えば、該欠失部分をGGSGGSリンカー(配列番号110)で置換したものを配列番号111で示す、該欠失部分をSGGGSリンカー(配列番号213)で置換したものを配列番号214で示す)(以下、いずれの二重変異体についても「dSaCas9[-25]」と称することがある)、又は前記二重変異体であるdSaCas9の482番目~648番目のアミノ酸を欠失したdSaCas9(配列番号112)、若しくは該欠失部分をペプチドリンカーで置換したdSaCas9(該欠失部分をGGSGGSリンカーで置換したものを配列番号113で示す)を用いてもよい。
【0038】
また、上記dCpf1としては、例えば、フランシセラ・ノヴィシダ(Francisella novicida)由来のCpf1(FnCpf1;PAM配列:NTT)、アシダミノコッカス sp.(Acidaminococcus sp.)由来のCpf1(AsCpf1;PAM配列:NTTT)、又はラクノスピラ科細菌(Lachnospiraceae bacterium)由来のCpf1(LbCpf1;PAM配列:NTTT)のヌクレアーゼ欠損改変体等が挙げられるが、それらに限定されない(例えば、Zetsche B. et al., Cell. 2015 Oct 22;163(3):759-71、Yamano T et al., Cell. 2016 May 5;165(4):949-62、及びYamano T et al., Mol Cell. 2017 Aug 17;67(4):633-45を参照、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。例えば、FnCpf1の場合、917番目のAsp残基をAla残基に、且つ、1006番目のGlu残基をAla残基に変換した二重変異体を用いることができる(例えば、上述のZetsche B et al., Cell. 2015を参照、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。本発明の一態様において、dCpf1として、前記dCpf1のアミノ酸配列の一部を改変させた改変体であって、gRNAと複合体を形成してヒトUTRN遺伝子の発現制御領域にリクルートされる改変体を用いてもよい。
【0039】
本発明の一態様において、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質としては、dCas9が使用される。一態様において、dCas9はdSaCa9であり、特定の態様において、dSaCas9はdSaCas9[-25]である。
【0040】
CRISPRエフェクタータンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、例えば、それらのcDNA配列情報に基づいて、当該タンパク質の所望の部分をコードする領域をカバーするようにオリゴDNAプライマーを合成し、当該タンパク質を産生する細胞より調製した全RNAもしくはmRNA画分を鋳型として用い、PCR法によって増幅することにより、クローニングすることができる。また、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、クローン化されたCRISPRエフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド配列に、公知の部位特異的変異誘発法を用いて、DNA切断活性に重要な部位のアミノ酸残基(例えば、SaCas9の場合、10番目のAsp残基、557番目のHis残基、及び580番目のAsn残基;FnCpf1の場合、917番目のAsp残基や1006番目のGlu残基等が挙げられるが、これらに限定されない)を他のアミノ酸で変換するように変異を導入することにより、取得することができる。
【0041】
あるいはヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、それらのcDNA配列情報に基づいて、化学合成により、又は化学合成とPCR法もしくはギブソン・アッセンブリー(Gibson Assembly)法との組み合わせにより取得することができ、さらに、ヒトでの発現に適したコドンとなるようコドン最適化を行った塩基配列として構築することもできる。
【0042】
(3)転写アクチベーター
本発明において、ヒトUTRN遺伝子発現の活性化は、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質に融合された転写アクチベーターの作用により達成される。本明細書において、「転写アクチベーター」とは、ヒトUTRN遺伝子の転写活性化能を有するタンパク質又はその機能を保持するペプチド断片を意味する。本発明に用いられる転写アクチベーターとしては、ヒトUTRN遺伝子の発現を活性化し得るものである限り特に限定されないが、例えば、VP64、VPH、VPR、miniVR、及びmicroVR、並びに転写活性化能を有するそれらの改変体等が含まれる。VP64は、配列番号114で表される50アミノ酸からなるペプチドである。VPHは、VP64と、p65と、HSF1との融合タンパク質であり、具体的には、配列番号115で表される376アミノ酸からなるペプチドである。VPRは、VP64と、p65と、Epstein-Barrウイルスの複製転写活性化因子(replication and transcription activator(RTA))との融合タンパク質であり、例えば、配列番号116で表される523アミノ酸からなるペプチド、配列番号216で表される519アミノ酸からなるペプチド、等である。VP64、VPH、及びVPRは公知であり、例えば、Chavez A. et al., Nat Methods. 2016 Jul;13(7):563-7やChavez A. et al., Nat Methods. 2015 Apr;12(4):326-8(それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)に詳細に開示されている。本発明の一態様において、転写アクチベーターとしては、VP64とRTAの転写活性化ドメインを含むペプチドを用いることができる。RTAの転写活性化ドメインは公知であり、例えばJ Virol. 1992 Sep;66(9):5500-8等に開示され、その内容の全体は参照により本明細書に組み入れられる。そのようなペプチドの配列として、miniVRとは配列番号117で表される167アミノ酸からなるペプチドであり、microVRとは配列番号118で表される140アミノ酸からなるペプチドである。配列番号117で表されるアミノ酸配列は、RTAの493~605位のアミノ酸残基(より短いRTAの転写活性化ドメイン)とVP64とをG-S-G-Sリンカー(配列番号209)で連結したアミノ酸配列からなる。また、配列番号118で表されるアミノ酸配列は、RTAの520~605位のアミノ酸残基(さらにより短いRTAの転写活性化ドメイン)とVP64とをG-S-G-Sリンカーで連結したアミノ酸配列からなる。miniVRおよびmicroVRの詳細は、PCT/JP2019/030972に記載され、その内容の全体は参照により本明細書に組み入れられる。上述のいずれの転写アクチベーターも、その転写活性化能を維持する限り、あらゆる修飾及び/又は改変が加えられていてもよい。例えば、本発明における転写アクチベーターとしては、その転写活性化能を維持する限り、(i)配列番号117で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、(ii)配列番号117で表されるアミノ酸配列において1又は数個(例、2、3、4、5又はそれ以上)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むペプチド、(iii)配列番号117で表されるアミノ酸配列に90%以上(例、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)同一であるアミノ酸配列を含むペプチド、(iv)配列番号117で表されるアミノ酸配列において1又は数個(例、2、3、4、5又はそれ以上)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチド、又は(v)配列番号117で表されるアミノ酸配列に90%以上(例、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)同一であるアミノ酸配列からなるペプチドもまた用いることができる。例えば、本発明における転写アクチベーターとしては、その転写活性化能を維持する限り、(i)配列番号118で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、(ii)配列番号118で表されるアミノ酸配列において1又は数個(例、2、3、4、5又はそれ以上)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むペプチド、(iii)配列番号118で表されるアミノ酸配列に90%以上(例、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)同一であるアミノ酸配列を含むペプチド、(iv)配列番号118で表されるアミノ酸配列において1又は数個(例、2、3、4、5又はそれ以上)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチド、又は(v)配列番号118で表されるアミノ酸配列に90%以上(例、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)同一であるアミノ酸配列からなるペプチドもまた用いることができる。
【0043】
転写アクチベーターをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、化学合成により、又は化学合成とPCR法もしくはギブソン・アッセンブリー法との組み合わせにより構築することができる。さらに、転写アクチベーターをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、ヒトでの発現に適したコドンとなるようコドン最適化を行ったDNA配列として構築することもできる。
【0044】
転写アクチベーターをコードする塩基配列に、直接又はリンカー、NLS(核移行シグナル)、タグ、及び/若しくはその他をコードする塩基配列を付加した後に、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質をコードする塩基配列をライゲーションすることで、転写アクチベーターとヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質との融合タンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを調製することができる。本発明において、転写アクチベーターはCRISPRエフェクタータンパク質のN末端又はC末端のいずれに融合させてもよい。また、リンカーとしては、アミノ酸数が2から50個程度のリンカーを用いることができ、具体的には、グリシン(G)とセリン(S)が交互に連結したG-S-G-Sリンカー等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
(4)ガイドRNA
本発明において、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質のヒトUTRN遺伝子の発現制御領域へのリクルートは、ガイドRNAにより達成される。前記「(1)定義」の項に記載の通り、ガイドRNAはcrRNAを含み、該crRNAはターゲティング配列の相補配列に結合する。ガイドRNAが融合タンパク質を標的とする領域へリクルートすることができる限り、crRNAは、ターゲティング配列の相補配列と完全に相補的でなくてもよく、少なくとも1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたターゲティング配列の塩基配列を含んでいてもよい。
【0046】
ターゲティング配列は、例えば、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質としてdCas9を用いる場合、公開されているgRNA設計ウェブサイト(CRISPR Design Tool、CRISPR direct等)を用いて設定することが出来る。具体的には、目的遺伝子(即ち、ヒトUTRN遺伝子)の配列の中から、PAM(例えば、SaCas9の場合、NNGRRT)が3’側に隣接している約20ヌクレオチド長の候補ターゲティング配列をリストアップし、これらの候補ターゲティング配列の中から、ヒトのゲノム中のオフターゲットサイト数が少ないものをターゲティング配列として使用することができる。ターゲティング配列の塩基長は、18~24ヌクレオチド長、好ましくは20~23ヌクレオチド長、より好ましくは21~23ヌクレオチド長である。オフターゲットサイト数の予測をする一次スクリーニングとして、多数のバイオインフォマティクスツールが公知且つ公衆に利用可能であり、最もオフターゲット効果が小さいターゲティング配列を予測するために使用することができる。Benchling(https://benchling.com)やCOSMID(CRISPR Off-target Sites with Mismatches, Insertions and Deletions)(インターネット上のhttps://crispr.bme.gatech.eduで利用可能)等のバイオインフォマティクスツールが例示され、これらによりgRNAが標的とする塩基配列に対する類似性をまとめることができる。使用するgRNA設計ソフトウェアに対象ゲノムのオフターゲットサイトを検索する機能がない場合、例えば、候補ターゲティング配列の3’側の8~12ヌクレオチド(標的ヌクレオチド配列の識別能の高いシード(seed)配列)について、対象のゲノムに対してBlast検索をかけることにより、オフターゲットサイトを検索することができる。
【0047】
本発明の一態様において、ヒト染色体6番(Chr6)のGRCh38.p12ポジションに存在する領域中、以下の5つの領域が、ヒトUTRN遺伝子の発現制御領域となり得る。これらの領域はヒストンの修飾パターンにより発現制御領域であることが強く示唆される領域である。よって、本発明の一態様において、ターゲティング配列は、ヒト染色体6番(Chr6)のGRCh38.p12ポジションに存在する領域中、以下の5つの領域の少なくとも1つの領域にある18~24ヌクレオチド長、好ましくは20~23ヌクレオチド長、より好ましくは21~23ヌクレオチド長の塩基配列とすることができる:
(1)144,215,500-144,217,000、
(2)144,248,500-144,249,800、
(3)144,264,000-144,267,000、
(4)144,283,900-144,288,300、
(5)144,292,500-144,295,500。
【0048】
本発明の一態様において、ターゲティング配列は、上記(3)の領域に存在する配列番号104で表される領域又は上記(4)の領域に存在する配列番号105、135、141、153、167、若しくは172で表される領域中の、連続する18~24ヌクレオチド長、好ましくは20~23ヌクレオチド長、より好ましくは21~23ヌクレオチド長とすることができる。
【0049】
本発明の別の態様において、ターゲティング配列は、配列番号45、46、58、59、60、135、141、153、155、156、157、159、167、又は172で表される塩基配列とすることができる。配列番号45及び46で表される塩基配列は、前記配列番号104で表される領域中に含まれるターゲティング配列であり、配列番号58、59、60、155、156、157、及び159で表される塩基配列は、前記配列番号105で表される領域中に含まれるターゲティング配列である。
【0050】
本発明の一態様において、crRNAをコードする塩基配列は、ターゲティング配列と同じ塩基配列であり得る。例えば、配列番号4で表されるターゲティング配列(AGAAAAGCGGCCCCTAGGGGC)をcrRNAをコードする塩基配列として細胞に導入した場合、係る配列から転写されるcrRNAはAGAAAAGCGGCCCCUAGGGGC(配列番号119)となり、ヒトUTRN遺伝子の発現制御領域中に存在する、配列番号4で表される塩基配列の相補配列であるGCCCCTAGGGGCCGCTTTTCT(配列番号120)に結合する。別の態様において、crRNAをコードする塩基配列として、ガイドRNAが融合タンパク質を標的とする領域へリクルートすることができる限り、ターゲティング配列に対して少なくとも1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加された塩基配列を使用することができる。よって、本発明の一態様において、crRNAをコードする塩基配列として、配列番号45、46、58、59、60、135、141、153、155、156、157、159、167、若しくは172で表される塩基配列、又は配列番号45、46、58、59、60、135、141、153、155、156、157、159、167、若しくは172で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を使用し得る。
【0051】
本発明の一態様において、配列番号45、46、58、59、60、135、141、153、155、156、157、159、167、又は172で表される塩基配列をcrRNAをコードする塩基配列として用い、配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206又は207で表されるcrRNAを含むgRNAをそれぞれ製造することができる。本発明の別の態様において、gRNAは、配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列、又は配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含み得る。
【0052】
gRNAをコードする塩基配列は、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質としてdCpf1を用いる場合、5’末端に特定のRNAを付したcrRNAをコードするDNA配列として設計することができる。このようなcrRNAの5’末端に付するRNA及び該RNAをコードするDNA配列は、使用するdCpf1に応じて当業者に適宜選択され得、例えば、dFnCpf1を用いる場合、gRNAをコードする塩基配列としては、ターゲティング配列の5’側に配列番号121;AATTTCTACTGTTGTAGATを付した塩基配列を用いることができる(RNAに転写されると、下線部の配列同士が塩基対を形成しステム-ループ構造をとる)。このような5’末端に付する配列は、転写後にgRNAが融合タンパク質を発現制御領域へリクルートすることができる限り、各種のCpf1タンパク質に対して一般的に使用される配列に対して少なくとも1~6個の塩基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加された配列であってもよい。
【0053】
また、CRISPRエフェクタータンパク質としてdCas9を用いる場合、gRNAをコードする塩基配列は、crRNAをコードするDNA配列の3’末端に既知のtracrRNAをコードするDNA配列を連結したDNA配列として設計することが出来る。このようなtracrRNA及び該tracrRNAをコードするDNA配列は、使用するdCas9に応じて当業者に適宜選択され得、例えば、dSaCas9を用いる場合、tracrRNAをコードするDNA配列として、配列番号122で表される塩基配列が使用される。tracrRNAをコードするDNA配列は、転写後にgRNAが融合タンパク質を発現制御領域へリクルートすることができる限り、各種のCas9タンパク質に対して一般的に使用されるtracrRNAをコードする塩基配列に対して少なくとも1~6個の塩基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加された配列であってもよい。
【0054】
このように設計されたgRNAをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、公知のDNA合成方法を用いて、化学的に合成することができる。
【0055】
本発明の別の態様において、本発明のポリヌクレオチドは、少なくとも2つの異なる、gRNAをコードする塩基配列を含んでもよい。例えば、該ポリヌクレオチドは、少なくとも2つの異なる、ガイドRNAをコードする塩基配列を含み得る(ここで、少なくとも2つの異なる塩基配列は、配列番号45、46、58、59、60、135、141、153、155、156、157、159、167、又は172で表される配列を含む塩基配列から選択される)。本発明の一態様において、該ポリヌクレオチドは、少なくとも2つの異なる、ガイドRNAをコードする塩基配列を含み得る(ここで、少なくとも2つの異なる塩基配列は、配列番号45、46、又は59で表される配列を含む塩基配列から選択される)。
【0056】
(5)プロモーター配列
本発明の一態様において、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列及び/又はgRNAをコードする塩基配列のそれぞれの上流部分に、プロモーター配列が作動可能に連結されていてもよい。連結され得るプロモーターとしては、対象の細胞内においてプロモーター活性を有するものであれば特に限定されない。例えば、該融合タンパク質をコードする塩基配列の上流に連結され得るプロモーター配列としては、EFSプロモーター、EF-1αプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、CK8プロモーター、MHCプロモーター、MLCプロモーター、Desプロモーター、cTnCプロモーター、MYODプロモーター、hTERTプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CAGプロモーター、及びRSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター等が挙げられるが、これらに限定されない。gRNAをコードする塩基配列の上流に連結され得るプロモーター配列としては、pol III系のプロモーターである、U6プロモーター、SNR6プロモーター、SNR52プロモーター、SCR1プロモーター、RPR1プロモーター、U3プロモーター、H1プロモーター、及びtRNAプロモーター等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の一態様において、ポリヌクレオチドが、ガイドRNAをコードする2又はそれ以上の塩基配列を含む場合、1つのプロモーターが、2又はそれ以上の塩基配列の上流に作動可能に連結されていてもよい。別の態様においては、プロモーター配列が2又はそれ以上の塩基配列の各々の上流に作動可能に連結されていてもよく、ここで各塩基配列に作動可能に連結されたプロモーターは同一であっても異なっていてもよい。
【0057】
本発明の一態様において、前記融合タンパク質をコードする塩基配列の上流に連結され得るプロモーター配列としては、筋肉特異的なプロモーターを使用することができる。かかる筋肉特異的なプロモーターとしては、CK8プロモーター、CK6プロモーター、CK1プロモーター、CK7プロモーター、CK9プロモーター、心筋トロポニンCプロモーター、αアクチンプロモーター、ミオシン重鎖キナーゼ(MHCK)プロモーター、ミオシン軽鎖2Aプロモーター、ジストロフィンプロモーター、筋肉クレアチンキナーゼプロモーター、dMCKプロモーター、tMCKプロモーター、enh348MCKプロモーター、synthetic C5-12(Syn)プロモーター、Myf5プロモーター、MLC1/3fプロモーター、MYODプロモーター、Myogプロモーター、Pax7プロモーター、Desプロモーター等が挙げられるが、これらに限定されない(筋肉特異的プロモーターの詳細は、例えばUS2011/0212529A、McCarthy JJ et al., Skeletal Muscle.2012 May;2(1):8、およびWang B.et al., Gene Ther.2008 Nov;15(22):1489-99等を参照、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。
【0058】
本発明の一態様において、gRNAをコードする塩基配列に対するプロモーター配列としてU6プロモーターを用いることができ、融合タンパク質をコードする塩基配列に対するプロモーター配列としてCK8プロモーターを用いることができる。具体的には、U6プロモーターについては、以下の塩基配列を用いることができる;(i)配列番号128で表される塩基配列、(ii)配列番号128で表される塩基配列において1又は数個(例、2、3、4、5又はそれ以上)の塩基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加された、標的となる細胞中でのプロモーター活性を有する塩基配列、又は(iii)配列番号128で表される塩基配列に90%以上(例、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)同一である、標的となる細胞中でのプロモーター活性を示す塩基配列。CK8プロモーターについては、以下の塩基配列を用いることができる;(i)配列番号191で表される塩基配列、(ii)配列番号191で表される塩基配列において1又は数個(例、2、3、4、5又はそれ以上)の塩基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加された、標的となる細胞中でのプロモーター活性を有する塩基配列、又は(iii)配列番号191で表される塩基配列に90%以上(例、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)同一である、標的となる細胞中でのプロモーター活性を示す塩基配列。
【0059】
(6)その他の塩基配列
さらに、本発明のポリヌクレオチドは、上記以外にも、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列が転写されて生じるmRNAの翻訳効率を向上させる目的で、ポリアデニル化(ポリA(polyA))シグナル、コザック(Kozak)コンセンサス配列等の公知の配列をさらに含んでもよい。例えば、本発明においてポリアデニル化シグナルとしては、hGH polyA、bGH polyA、2x sNRP-1 polyA(US7557197B2を参照、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)等を挙げることができる。また、本発明のポリヌクレオチドは、リンカー配列をコードする塩基配列、NLSをコードする塩基配列、及び/又はタグをコードする塩基配列を含んでもよい。
【0060】
(7)本発明の例示的な態様
本発明の一態様では以下を含むポリヌクレオチドが提供される:
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するプロモーター配列、
1又は2の、ガイドRNAをコードする塩基配列(ここで、1又は2の塩基配列は、配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列、又は配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された配列を含む塩基配列から選択される)、及び
ガイドRNAをコードする塩基配列に対するU6プロモーター、
ここで、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質はdSaCas9又はdSaCas9[-25]であり、
ここで、転写アクチベーターは、VP64、VPH、VPR、miniVR、及びmicroVRからなる群より選択され、及び
ここで、融合タンパク質をコードする塩基配列に対するプロモーター配列は、EF-1αプロモーター、EFSプロモーター、及びCK8プロモーターからなる群より選択される。
該ポリヌクレオチドは、さらにhGH polyA、bGH polyA、又は2x sNRP-1 polyAを含んでもよい。
【0061】
本発明の一態様では以下を含むポリヌクレオチドが提供される:
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するCK8プロモーター、
1又は2の、ガイドRNAをコードする塩基配列(ここで、1又は2の塩基配列は、配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列、又は配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された配列を含む塩基配列から選択される)、及び
ガイドRNAをコードする塩基配列に対するU6プロモーター、
ここで、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質はdSaCas9又はdSaCas9[-25]であり、及び
ここで、転写アクチベーターは、miniVR又はmicroVRである。
該ポリヌクレオチドは、さらにbGH polyA又は2x sNRP-1 polyAを含んでもよい。
【0062】
本発明の一態様では以下を含むポリヌクレオチドが提供される:
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するCK8プロモーター、
1又は2の、ガイドRNAをコードする塩基配列(ここで、1又は2の塩基配列は、配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列、又は配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された配列を含む塩基配列から選択される)、及び
ガイドRNAをコードする塩基配列に対するU6プロモーター、
ここで、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質はdSaCas9であり、及び
ここで、転写アクチベーターは、miniVRである。
該ポリヌクレオチドは、さらにbGH polyA又は2x sNRP-1 polyAを含んでもよい。
【0063】
本発明の一態様では以下を含むポリヌクレオチドが提供される:
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するCK8プロモーター、
1又は2の、ガイドRNAをコードする塩基配列(ここで、1又は2の塩基配列は、配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列、又は配列番号45、46、若しくは59で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された配列を含む塩基配列から選択される)、及び
ガイドRNAをコードする塩基配列に対するU6プロモーター、
ここで、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質はdSaCas9であり、及び
ここで、転写アクチベーターは、microVRである。
該ポリヌクレオチドは、さらにbGH polyA又は2x sNRP-1 polyAを含んでもよい。
【0064】
本発明の一態様では以下を含むポリヌクレオチドが提供される:
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するCK8プロモーター、
配列番号59で表される塩基配列、又は配列番号59で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された配列を含むガイドRNAをコードする塩基配列、及び
ガイドRNAをコードする塩基配列に対するU6プロモーター、
ここで、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質はdSaCas9であり、及び
ここで、転写アクチベーターは、miniVRである。
該ポリヌクレオチドは、さらに2x sNRP-1 polyAを含んでもよい。
【0065】
本発明の一態様では以下を含むポリヌクレオチドが提供される:
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列、
ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質をコードする塩基配列に対するCK8プロモーター、
配列番号59で表される塩基配列、又は配列番号59で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された配列を含むガイドRNAをコードする塩基配列、及び
ガイドRNAをコードする塩基配列に対するU6プロモーター、
ここで、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質はdSaCas9であり、及び
ここで、転写アクチベーターは、microVRである。
該ポリヌクレオチドは、さらに2x sNRP-1 polyAを含んでもよい。
【0066】
本発明のポリヌクレオチドの一態様では、ポリヌクレオチドは、5’末端から順に、(i)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターの融合タンパク質をコードする塩基配列、及び(ii)gRNAをコードする塩基配列を含む。別の態様では、ポリヌクレオチドは、5’末端から順に、(ii)gRNAをコードする塩基配列、及び(i)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターの融合タンパク質をコードする塩基配列を含む。
【0067】
2.ベクター
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター(以下、「本発明のベクター」と称することがある)を提供する。本発明のベクターは、プラスミドベクター又はウイルスベクターであり得る。
【0068】
本発明のベクターがプラスミドベクターである場合、使用されるプラスミドベクターとしては、特に限定されず、クローニングプラスミドベクターや発現プラスミドベクター等のあらゆるプラスミドベクターであってよい。当該プラスミドベクターは、公知の方法を用いて、本発明のポリヌクレオチドをプラスミドベクターに挿入することにより調製される。
【0069】
また、本発明のベクターがウイルスベクターである場合、使用されるウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が挙げられるがこれらに限定されない。尚、本明細書において「ウイルスベクター(virus vector)」又は「ウイルスベクター(viral vector)」には、その派生物も含まれる。遺伝子治療における利用を考慮すれば、導入遺伝子を長期にわたり発現させられる点や非病原性ウイルス由来で安全性が高い等の理由から、AAVベクターが好適に用いられる。
【0070】
本発明のポリヌクレオチドを含むウイルスベクターは、公知の方法により調製することができる。簡潔には、本発明のポリヌクレオチドを挿入したウイルス発現用プラスミドベクターを調製し、これを適切な宿主細胞にトランスフェクトし、本発明のポリヌクレオチドを含むウイルスベクターを一過性に産生させ、該ウイルスベクターを回収する。
【0071】
本発明の一態様において、AAVベクターを用いる場合、AAVベクターの血清型としては、対象においてヒトUTRN遺伝子の発現を活性化できる限り特に限定されず、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9又はAAVrh.10等のいずれを用いてもよい(AAVの多様な血清型に関してはWO2005/033321及びEP2341068(A1)を参照、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。尚、AAVの派生物としては、例えば、キャプシド改変した新規血清型(例えば、WO2012/057363、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)等が挙げられるが、これに限定されない。例えば、本発明の一態様では、AAV587MTP, AAV588MTP, AAV-B1, AAVM41, AAVS1_P1,及びAAVS10_P1等、筋肉細胞への感染性が向上しているキャプシド改変された新規血清型を用いることができる(Yu et al., Gene Ther. 2009 Aug;16(8):953-62, Choudhury et al., Mol Ther. 2016 Aug;24(7):1247-57, Yang et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Mar 10;106(10):3946-51及びWO2019/207132を参照、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。
【0072】
AAVベクターを調製する場合、(1)プラスミドを用いる方法、(2)バキュロウイルスを用いる方法、(3)単純ヘルペスウイルスを用いる方法、(4)アデノウイルスを用いる方法、(5)酵母を用いる方法など、公知の方法を用いることができる(例えば、Appl Microbiol Biotechnol. 2018; 102(3): 1045-1054等、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。例えば、プラスミドを用いてAAVベクターを調製する場合、まず、野生型のAAVのゲノム配列のうち両端の末端逆位配列(inverted terminal repeat(ITR))と、Repタンパク質及びキャプシドタンパク質をコードするDNAの代わりに挿入された、本発明のポリヌクレオチドとを含むベクタープラスミドを作製する。一方で、ウイルス粒子の形成に必要とされるRepタンパク質及びキャプシドタンパク質をコードするDNAは、別のプラスミドに挿入する。さらに、AAVの増殖に必要なアデノウイルスのヘルパー作用を担う遺伝子(E1A、E1B、E2A、VA、及びE4orf6)を含むプラスミドを、アデノウイルスヘルパープラスミドとして作製する。これら3種のプラスミドを、宿主細胞にコトランスフェクションすることにより、該細胞内において組換えAAV(即ち、AAVベクター)が産生されるようになる。宿主細胞としては、前記ヘルパー作用を担う遺伝子の遺伝子産物(タンパク質)のうちの一部を供給し得る細胞(例えば、293細胞等)を用いることが好ましく、そのような細胞を用いる場合には、該宿主細胞より供給され得るタンパク質をコードする遺伝子を、前記アデノウイルスヘルパープラスミドに搭載する必要がない。産生されたAAVベクターは核内に存在するため、宿主細胞を凍結融解して細胞を破壊することでウイルスを回収し、塩化セシウムを用いた密度勾配超遠心法やカラム法等により、ウイルス画分の分離及び精製を行うことにより、所望のAAVベクターが調製される。
【0073】
AAVベクターは、安全性や遺伝子導入効率等の点から大きな利点があり、遺伝子治療に利用されている。しかしながら、AAVベクターに搭載可能なポリヌクレオチドのサイズに制限があることが知られている。例えば、本発明の一態様である、dSaCas9とminiVRまたはmicroVRとの融合タンパク質をコードする塩基配列、ヒトUTRN遺伝子の発現制御領域を標的とするgRNAをコードする塩基配列、並びにプロモーター配列としてEFSプロモーター配列又はCK8プロモーター及びU6プロモーター配列を含むポリヌクレオチドの塩基長と、ITR部とを含む全長は、約4.85kbであるので、単一のAAVベクターに搭載することが出来る。
【0074】
3.医薬組成物
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド又は本発明のベクターを含む、医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」と称することがある)を提供する。本発明の医薬組成物は、DMDやBMDの治療や予防に用いることができる。
【0075】
本発明の医薬組成物は、本発明のポリヌクレオチド又は本発明のベクターを有効成分として含み、かかる有効成分(即ち、本発明のポリヌクレオチド又は本発明のベクター)と、通常、医薬的に許容される担体を含む製剤として調製され得る。
【0076】
本発明の医薬組成物は、非経口に投与され、また局所的又は全身的に投与され得る。本発明の医薬組成物は、限定するものではないが、例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、又は筋肉内投与することができる。
【0077】
本発明の医薬組成物の対象への投与量は、治療及び/又は予防有効量である限り特に限定されない。有効成分、剤形、対象の年齢及び体重、投与スケジュール、並びに投与方法等に応じて適宜最適化すればよい。
【0078】
本発明の一態様において、本発明の医薬組成物は、DMD又はBMDに罹患している対象だけでなく、遺伝的バックグラウンド解析等に基づき、将来的にDMD又はBMDを発症する可能性のある対象に対して予防的に投与することもできる。また、本明細書における「治療」との用語には、疾患の治癒に加えて、疾患の寛解も含まれ得る。また、「予防」との用語には、疾患の発症を防ぐことに加えて、疾患の発症を遅らせることも含まれ得る。また、本発明の医薬組成物は、「本発明の剤」等とも言い換えることができる。
【0079】
4.DMD又はBMDの治療又は予防方法
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド又は本発明のベクターを、それを必要とする対象に投与することを含む、DMD又はBMDの治療又は予防方法(以下、「本発明の方法」と称することがある)を提供する。また、本発明には、DMD又はBMDの治療又は予防に使用するための、本発明のポリヌクレオチド又は本発明のベクターが含まれる。さらに、本発明には、DMD又はBMDの治療又は予防用医薬組成物の製造における、本発明のポリヌクレオチド又は本発明のベクターの使用が含まれる。
【0080】
本発明の方法は、上述した本発明の医薬組成物をDMD又はBMDを罹患する対象に投与することにより実施することができ、その投与量、投与経路、対象等は上記したものと同一である。
【0081】
症状の測定は本発明の方法を用いた治療の開始前に行ってよく、また、治療に対する対象の応答を判定するための治療後の任意のタイミングでおこなってよい。
【0082】
本発明の方法により、対象の骨格筋及び/又は心筋の機能が改善され得る。機能が改善される筋肉としては、特に限定はなく、あらゆる筋肉又は筋肉群が例示される。
【0083】
5.リボヌクレオプロテイン
本発明は、以下を含む、リボヌクレオプロテイン(以下、「本発明のRNP」と称することがある。)を提供する:
(c)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質、及び
(d)ヒトユートロフィン遺伝子の発現制御領域における、配列番号104、105、135、141、153、167、又は172で表される領域中の連続する18~24ヌクレオチド長の領域を標的とするガイドRNA。
【0084】
本発明のRNPに含まれるヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質、転写アクチベーター、およびガイドRNAとしては、上記「1.ポリヌクレオチド」の項目において詳細に説明される、ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質、転写アクチベーター、およびガイドRNAを使用することができる。また、本発明のRNPに含まれるヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質は、例えば、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを細胞や細菌、その他の生物体に導入して発現させることにより、あるいは該ポリヌクレオチドを用いて、インビトロ翻訳システムにより作製することができる。また、本発明のRNPに含まれるガイドRNAは、例えば、化学的に合成するか、あるいはガイドRNAをコードするポリヌクレオチドを用いて、インビトロ翻訳システムを用いて作製することができる。このようにして作製された融合タンパク質と、ガイドRNAとを混合することで、本発明のRNPを調製することができる。必要に応じて、金粒子などの他の物質を混合してもよい。本発明のRNPを標的細胞や組織等に直接送達するために、公知の方法により、該RNPは、脂質ナノ粒子(LNP)にカプセル化してもよい。本発明のRNPは、公知の方法により、標的細胞や組織等に導入することができる。LNPへのカプセル化や導入方法については、例えばLee K., et al., Nat Biomed Eng. 2017; 1:889-901, WO 2016/153012(それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)等を参酌することができる。
【0085】
本発明の一態様において、本発明のRNPに含まれるガイドRNAは、ヒト染色体6番(Chr6)のGRCh38.p12ポジションに存在する領域中、以下の5つの領域の少なくとも1つの領域にある連続する18~24ヌクレオチド長、好ましくは20~23ヌクレオチド長、より好ましくは21~23ヌクレオチド長を標的とする:
(1)144,215,500-144,217,000、
(2)144,248,500-144,249,800、
(3)144,264,000-144,267,000、
(4)144,283,900-144,288,300、
(5)144,292,500-144,295,500。
【0086】
1つの態様において、当該ガイドRNAは、配列番号104、105、135、141、153、167、又は172で表されるDNA配列中の連続する18~24ヌクレオチド長、好ましくは20~23ヌクレオチド長、より好ましくは21~23ヌクレオチド長の塩基配列を標的とする。1つの態様において、当該ガイドRNAは、配列番号45、46、58、59、60、135、141、153、155、156、157、159、167又は172で表される配列の全部又は一部を含む領域を標的とする。本発明の一態様において、配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される、又は配列番号194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206若しくは207で表される塩基配列において1~3塩基が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加された塩基配列を含む、crRNAを含むガイドRNAを用いることができる。
【0087】
6.その他
本発明はまた、以下を含む、ヒトユートロフィン遺伝子の発現を活性化するための組成物又はキットを提供する:
(e)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質、又は該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び
(f)ヒトユートロフィン遺伝子の発現制御領域における、配列番号104、105、135、141、153、167、又は172で表される領域中の連続する18~24ヌクレオチド長の領域を標的とするガイドRNA、又は該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド。
【0088】
本発明はまた、以下の(e)及び(f)を投与することを含む、デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はベッカー型筋ジストロフィーの治療又は予防方法を提供する:
(e)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質、又は該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び
(f)ヒトユートロフィン遺伝子の発現制御領域における、配列番号104、105、135、141、153、167、又は172で表される領域中の連続する18~24ヌクレオチド長の領域を標的とするガイドRNA、又は該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド。
【0089】
本発明はまた、デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はベッカー型筋ジストロフィーの治療又は予防用医薬組成物の製造における、以下(e)及び(f)の使用を提供する:
(e)ヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質と転写アクチベーターとの融合タンパク質、又は該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び
(f)ヒトユートロフィン遺伝子の発現制御領域における、配列番号104、105、135、141、153、167、又は172で表される領域中の連続する18~24ヌクレオチド長の領域を標的とするガイドRNA、又は該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド。
【0090】
これらの発明で使用されるヌクレアーゼ欠損CRISPRエフェクタータンパク質、転写アクチベーター、ガイドRNA、並びにこれらをコードするポリヌクレオチド及びそれらが搭載されるベクターとしては、上記「1.ポリヌクレオチド」、「2.ベクター」や「5.リボヌクレオプロテイン」の項目において詳細に説明されるものが使用できる。上記(e)及び(f)の投与量、投与経路、対象、製剤等は「3.DMD又はBMDの治療又は予防剤」の項目において説明したものと同様である。
本発明の他の特徴は、本発明の説明のために与えられた以下の例示的な態様の記載によって明らかになるであろうが、それらに限定されることを意図するものではない。
【実施例
【0091】
本実施例では、ヒトUTRN遺伝子発現の選択的な活性化をもたらすヒトUTRN遺伝子の定められた発現制御領域における、遺伝子発現を増強するための転写アクチベーターとdCas9の融合タンパク質の使用について述べる。遺伝子発現の修飾の目的は、欠陥のあるジストロフィン遺伝子産物の機能を補完する野生型のヒトUTRN遺伝子産物の発現を増強することである。また、本実施例では、他の遺伝子の発現への影響を最小限に抑えた、ヒトUTRN遺伝子の選択的な活性化を付与する特定のゲノム領域の決定について述べる。ヒトUTRN遺伝子の発現を増強する本発明の方法は、本明細書に記載および例示されているように、欠陥のあるジストロフィンに起因する欠陥のある筋機能を改善するための新規の治療または予防戦略を表している。
【0092】
実施例1 HEK293FT細胞を用いたヒトユートロフィン遺伝子に対するgRNAのスクリーニング
本実施例では、UTRN遺伝子の定められた発現制御領域を標的にしてUTRN遺伝子の活性化を達成するために、本明細書に記載された方法を使用することを説明している。この方法では、適切なsgRNA配列を設計することで、Cas9とsgRNAの複合体がゲノムの所望の遺伝子座にリクルートされるという特性を利用する。また、本方法は、Gilbert LA et al, Cell 2013 Jul; 154(2):442-51、およびGilbert LA et al., Cell 2014 Oct; 159(3):647-61(それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)に記載されるように、SaCas9タンパク質のヌクレアーゼ欠損型(D10AおよびN580A変異体(配列番号107)、またはD10AおよびH557A変異体(配列番号108);dSaCas9)を活用して、ゲノム配列をそのまま残すが、様々な転写/エピジェネティック機能ドメインまたはモチーフをdSaCas9につないで(tether)、sgRNA配列が標的とする意図した遺伝子座の所望の修飾を達成する。
【0093】
本実施例では、本明細書に記載の方法を使用して、野生型UTRNの発現を活性化できることを説明する。選択的かつ効果的な遺伝子活性化を与えるUTRN遺伝子の発現制御領域を標的としてsgRNAを設計した。図1に、ヒトのUTRN遺伝子座と、予測される2つの転写開始点(TSS)を示す(上段と中段)。UTRN遺伝子のTSSは、FANTOM5 human promoteromeデータベースを照会して同定した(www.fantom.gsc.riken.jp, Nature 2014 Mar; 507(7493):462-70、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。UTRN遺伝子には2つのプロモーター領域が報告されており(プロモーターA及びB)、我々は活性化について両方のプロモーターを検証した。これらの領域内で効果的かつ選択的な治療配列を決定するため、ガイドRNA配列は上記の領域をカバーするように設計した。
【0094】
(1)実験方法
sgRNA配列の選択
UTRN遺伝子のプロモーター領域周辺の配列(プロモーターA(Chr6:GRCh38/hg38;144,283,900-144,288,300)の約4.4kb、プロモーターB(Chr6:GRCh38/hg38;144,342,683-144,345,311)の約2.6kb)をスキャンし、dSaCas9とsgRNAの複合体が結合する認識配列の候補を探した。配列NNGRRTを持つプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)について該領域をスキャンした。PAMに隣接するターゲティング配列が同定された。ターゲティング配列(標的DNAにハイブリダイズするgRNAの部分)の長さは21ヌクレオチドとした。ターゲティング配列は、Benchlingソフトウェア(https://benchling.com)で生成された予測される特異性と効率性に基づいて選択し、選択された領域に均等に分布するようにした。ENCODE研究によるUTRN発現制御領域周辺のエピジェネティック情報(The ENCODE Project Consortium, Nature. 2012 Sep; 489: 57-74、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)をもまた参考にして、遺伝子の機能的要素に結合する可能性の高いgRNAを選択した。
【0095】
表1に記載の24のターゲティング配列(ガイド#sgED3-1~sgED3-24(配列番号129~152))について、UTRN遺伝子発現のモジュレーション機能を検証した(以下、表1に記載のターゲティング配列を「sgED3シリーズ」と称することがある)。
【0096】
UTRN遺伝子におけるターゲティング配列の位置も図1に示した(上段と中段)。
【0097】
選択した24個のターゲティング配列とコントロールのノンターゲティング配列(配列番号177)を、それぞれtracrRNA(配列番号122)をコードするDNA配列と融合させてsgRNA配列を形成し、Genecopoeia社のpCRISPR-LvSG03ベクター(#pCRISPR-LvSG03)にクローニングした。得られたベクターは、本明細書ではpCRISPR-LvSG03 sgRNA発現ベクターと表記する。sgRNAの発現はU6プロモーターで駆動し、また該ベクターはSV40プロモーター下でmCherry-IRES-Puromycin遺伝子を発現させ、sgRNA発現細胞の追跡と選択を容易にした。
【0098】
エフェクター分子のクローニング
ヌクレアーゼ欠損SaCas9タンパク質(D10AとN580A、またはD10AとH557A、dSaCas9)は、直接融合タンパク質の形をとり、機能的ドメイン/モチーフを結びつけるための主要な足場として機能する。dSaCas9には、エフェクター分子の核への効率的な局在化を可能にするために、N末端(配列番号178に示すアミノ酸配列、配列番号179に示すDNA配列)とC末端(配列番号180に示すアミノ酸配列、配列番号181に示すDNA配列)に2つの核局在化シグナル(NLS)を付加した。
【0099】
一例において、D10AおよびN580A変異を有するdSaCas9をコードするDNA配列を、合成アミノ酸の転写活性化部分であるVP64、VPHまたはVPRをコードするDNA配列とそのC末端で融合させた(配列番号182,183又は184)(Chavez A et al., Nat Methods. 2016 Jul; 13(7):563-67 and Chavez A et al., Nat Methods. 2015 Apr; 12(4):326-8を参照、それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)。得られた融合タンパク質は、本明細書ではそれぞれdSaCas9-VP64、dSaCas9-VPH、又はdSaCas9-VPR融合タンパク質と称する。
【0100】
この融合タンパク質は、UTRN遺伝子の発現制御領域にリクルートされることで、転写活性化作用を発揮する。その結果、UTRN遺伝子の発現が増強される。
【0101】
一例において、アミノ酸721-745を欠くdSaCas9タンパク質をコードするDNA配列(dSaCas9[-25]、(配列番号214))を、合成アミノ酸転写アクチベーター、miniVR(PCT/JP2019/030972を参照、その内容の全体を参照により本明細書に組み入れる)をコードするDNA配列と、そのC末端に融合させた(配列番号185)。得られた融合タンパク質は、本明細書ではdSaCas9[-25]-miniVR融合タンパク質(配列番号186)と称する。
【0102】
dSaCas9-VP64、dSaCas9-VPH、dSaCas9-VPR、及びdSaCas9[-25]-miniVRの融合タンパク質を発現させるために、融合タンパク質をコードするDNA断片を、Genecopoeia社のCP-LvC9NU-09レンチウイルス発現ベクター(Cat.# CP-LvC9NU-09)にクローニングした。オリジナルベクターのCas9コーディング配列を、融合タンパク質のコーディング配列に置き換えて、dSaCas9-VP64、dSaCas9-VPH、dSaCas9-VPR、又はdSaCas9[-25]-miniVRの4つの融合タンパク質のいずれかをコードするDNA断片を含むCP-LvC9NU-09レンチウイルス発現ベクターを調製した。本明細書では、得られたベクターは,それぞれCP-LvdSaCas9-VP64-09、CP-LvdSaCas9-VPH-09、CP-LvdSaCas9-VPR-09、又はCP-LvdSaCas9[-25]-miniVR-09プラスミドと表記する。該ベクターは、エフェクター分子の発現の為にEF1αプロモーターを、eGFP-IRES-Neomycin遺伝子の発現の為にSV40プロモーターを使用する。
【0103】
アデノ随伴ウイルスベクターでの発現の為に、dSaCas9[-25]-miniVR融合タンパク質をコードするDNA断片、U6プロモーター、及びsgRNAをタカラから入手したpAAV-CMVベクター(#6234)にクローニングした。CMVプロモーターをEFSプロモーター(配列番号187)に置き換えた。元のベクターからβグロビンイントロンを取り除き、hGHポリAをウシGHポリA(bGHポリA)に置き換えた。得られたベクターは、その5’端から3’端の順に、ITR、EFSプロモーター、dCas9、miniVR、bGH polyA、U6プロモーター、sgRNA、及びITRから構成されており(図5)、本明細書ではpAAV-EFS-dSaCas9[-25]-miniVR-U6-sgRNA AIOプラスミドと表記する。
【0104】
細胞培養とトランスフェクション
HEK293FT細胞(Thermo Fisher # R70007)は、トランスフェクションの24時間前に24ウェルプレート(CORNING # 351147)に1ウェルあたり75,000細胞の密度で播種し、10%FBSと2mMの新鮮なL-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、及び非必須アミノ酸を添加したDMEM培地(Thermo Fisher # 11140050)で培養した。レンチウイルス発現ベクターでの発現には、製造元の指示に従い、1.5μlのLipofectamine 2000(Life technologies # 11668019)を用いて、500ngのCP-LvdSaCas9-VP64-09、CP-LvdSaCas9-VPH-09、CP-LvdSaCas9-VPR-09、又はCP-LvdSaCas9[-25]-miniVR-09プラスミド、及び500ngのpCRISPR-LvSG03 sgRNA発現ベクターを細胞にトランスフェクションした。トランスフェクトされた細胞を、ピューロマイシン(1μg/ml)で選択した。アデノ随伴ウイルスベクターでの発現には、製造元の指示に従い、1.5μlのLipofectamine 2000(Life technologies # 11668019)を用いて、500ngのpAAV-EFS-dSaCas9[-25]-miniVR-U6-sgRNA AIOプラスミドを細胞にトランスフェクションした。トランスフェクトした細胞はピューロマイシンで選択しなかった。
【0105】
遺伝子発現解析のために、トランスフェクトした細胞を37℃、5%COで培養し、トランスフェクション後72時間で回収し、RLTバッファー(Qiagen # 74104)で溶解し、RNeasyキット(Qiagen # 74104)を用いて全RNAを抽出した。
【0106】
遺伝子発現解析
Taqman解析には、1.5μgの全RNAを用い、20μlの容量でTaqManTM High-Capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems # 4387406)を用いてcDNAを調製した。調製したcDNAを水で20倍に希釈し、Taqman反応1回につき6.33μlを使用した。UTRN遺伝子とHPRT遺伝子のTaqmanプライマーとプローブはApplied Biosystems社から入手した。Taqman遺伝子発現マスターミックス(Thermo Fisher # 4369016)を用いてRoche LightCycler 96またはLightCycler 480でTaqman反応を行い、LightCycler 96解析ソフトウェアを用いて解析した。UTRN遺伝子の発現レベルは、HPRT遺伝子の発現レベルで正規化した。
【0107】
Taqmanプローブ製品ID:
UTRN:Hs01125994_m1(FAM)
HPRT:Hs99999909_m1(FAM, VIC)
Taqman QPCR 条件:
ステップ1;95℃ 10分間
ステップ2;95℃ 15秒間
ステップ3;60℃ 30秒間
ステップ2及び3の繰り返し;40回
【0108】
アデノ随伴ウイルス(AAV)製造
アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)粒子は、150mmディッシュ(Corning)に1ディッシュあたり9,000,000細胞の密度で播種したAAVpro 293T細胞(Takara # 632273)を用い、10%FBS、2mMの新鮮なL-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、及び非必須アミノ酸を添加したDMEM培地(Thermo Fisher # 11140050)で培養して調製した。14.85μgのpRC2-mi342および14.85μgのpHelperベクター(Takara # 6234)と14.85μgのpAAV-EFS-dsaCas9[-25]-miniVR-U6-sgRNA AIOプラスミドを、81μlのTransIT-VirusGen(Mirus Bio # MIR6703)を用いて細胞にトランスフェクションした。72時間後、細胞を回収し、AAV2 Helper Free Systemプロトコール(Takara # 6230)の製造元の指示に従って、150mmディッシュあたり550μlで粗AAV2を抽出した。
【0109】
AAV2の細胞へのトランスダクション
HEK293FT細胞(Thermo Fisher # R70007)に形質導入するために、24ウェルプレート(CORNING # 351147)に1ウェルあたり75,000個の細胞を播種し、10% FBSと2mMの新鮮なL-グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、及び非必須アミノ酸を添加したDMEM培地(Thermo Fisher # 11140050)で16時間培養した。培地を、粗AAV2を10または1μl(それぞれ1:100または1:1000希釈)含む1000μlの新鮮な培地と交換した。続いて72時間培養した後、細胞を溶解し、製造元の指示に従って全RNAを抽出し(RNeasy Plus 96 kit)(Qiagen # 74192)、「遺伝子発現解析」に記載されているようにして、Taqmanによりユートロフィンの過剰発現を測定した。
【0110】
表1 UTRN遺伝子の発現制御領域のスクリーニングに使用したターゲティング配列
【0111】
【表1-1】
【0112】
【表1-2】
【0113】
【表1-3】
【0114】
表1において、「位置」は、SaCas9を使用した場合の、ターゲティング配列が存在する鎖のヌクレオチドの切断位置を示す。
【0115】
表1の「鎖」の項目では、1がセンス鎖、-1がアンチセンス鎖を示している。
【0116】
(2)結果
図1は、3種類の異なるdSaCas9-アクチベーター融合タンパク質(dSaCas9-VP64、dSaCas9-VPH、及びdSaCas9-VPR)によるUTRN遺伝子発現の活性化を、コントロールsgRNAと比較して示したものである。コントロールsgRNAは、ACGGAGGCUAAGCGUCGCAAG(配列番号215)とtracrRNAの配列を含み、ヒトゲノム上のどの配列にもターゲットを持たないように設計されている。ガイド#sgED3-6、sgED3-7、又はsgED3-13(配列番号134、135又は141)でコードされる、crRNAを含むsgRNAは、それぞれ、dSaCas9-アクチベーター融合タンパク質をUTRN遺伝子の発現制御領域にリクルートすることでUTRN遺伝子の発現を活性化した。活性化効果は、dSaCas9-VPR融合タンパク質で最も強かった。
【0117】
以上の結果から、Chr6:GRCh38/hg38;144,285,000-144,286,000(図1)に対応するガイド#sgED3-6~sgED3-7(配列番号134~135)(表1)がカバーする約1.0kbの領域(領域A)と、Chr6: GRCh38/hg38;144,287,000-144,287,300に対応するガイド#sgED3-13(配列番号141)周辺の約0.3kbの領域(領域B)は、UTRN遺伝子の発現を効率的に活性化させる。プロモーターBは、ガイド#sgED3-6、sgED3-7、及びsgED3-13(配列番号134、135、及び141)でコードされるcrRNAと比較して、比較的弱くUTRN遺伝子を活性化させる。
【0118】
図2では、UTRN遺伝子をより強力に活性化させる為に、Chr6:GRCh38/hg38;144,284,750-144,287,300に相当する領域A+Bにまたがる領域を、さらに24種類のsgRNA(表1、ガイド#sgED3-25~sgED3-48(配列番号153~176))とdSaCas9-VPRを用いてスクリーニングした。ガイド#sgED3-6、sgED3-13、sgED3-25~sgED3-32、sgED3-39、sgED3-40、及びsgED3-44(配列番号134、141、153~160、167、168、及び172)にそれぞれコードされるcrRNAを含むsgRNAは、前述のコントロールsgRNAと比較して、UTRN遺伝子の発現を2倍以上活性化した。
【0119】
図3では、ガイド#sgED3-6、sgED3-13、sgED3-25、sgED3-27、sgED3-30、sgED3-31、sgED3-39、sgED3-40、及びsgED3-44(配列番号134、141、153、155、158、159、167、168、及び172)でコードされるcrRNAを含む強力なsgRNAの一部に関して、それぞれ、pAAV-EFS-dSaCas9[-25]-miniVR-U6-sgRNA AIOプラスミドを調製し、機能検証のためにHEK293FT細胞にそれぞれトランスフェクションした。UTRN遺伝子の誘導は、前述のコントロールsgRNAと比較して、種々のsgRNAで種々の程度で観察された。
【0120】
図4では、EFS-dSaCas9[-25]-miniVR-U6-sgRNAを搭載したAAV2を作製し、HEK293FT細胞にトランスダクションした。sgRNAとしては、それぞれガイド#sgED3-6、sgED3-30、又はsgED3-31(配列番号134、158、又は159)にコードされるcrRNAを含むsgRNAを用いた。3つのsgRNAのいずれについても、前述のコントロールsgRNAと比較してUTRN遺伝子の誘導が認められた。
【0121】
実施例2 HSMM細胞を用いたヒトユートロフィン遺伝子に対するgRNAのスクリーニング
(1)実験方法
UTRNターゲティング配列の選択
ヒト骨格筋細胞におけるゲノムのH3K4me3およびH3K27Acパターンに基づき、ヒトUTRN遺伝子の推定エンハンサー(Eと表記)およびプロモーター(Pと表記)領域周辺の約13.2kbの配列をスキャンし、本明細書でターゲティング配列として定義されているgRNAと複合化したヌクレアーゼ欠損SaCas9(D10AおよびN580A変異体;dSaCas9[配列番号123(タンパク質)])によって標的化される配列を探した。UTRN遺伝子に対する標的ゲノム領域の位置を図6に示し、その座標を以下に示す:
1.Chr6:GRCh38.p12;144215500-144217000->約1.5kb(P2と表記)
2.Chr6:GRCh38.p12;144248500-144249800->約1.3kb(E1と表記)
3.Chr6:GRCh38.p12;144264000-144267000->約3.0kb(E2と表記)
4.Chr6:GRCh38.p12;144283900-144288300->約4.4kb(P1と表記)
Chr6:GRCh38.p12;144292500-144295500->約3.0kb(E3と表記)
【0122】
ターゲティング配列は,配列NNGRRTを有するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に隣接する21ヌクレオチドセグメント(5’-21ヌクレオチドターゲティング配列-NNGRRT-3’)で特定し、カニクイザル(Macaca fascicularis)ゲノムの対応する領域と完全に一致するもの(ターゲティング配列とPAM配列)を主に含むようにフィルタリングした(表3に「TRUE」と記載)。
【0123】
レンチウイルス導入プラスミド(pED176)の構築
pLentiCRISPR v2はGenscript社(https://www.genscript.com)から購入し、以下の変更を加えた:SpCas9 gRNAスキャフォールド配列をSaCas9 gRNAスキャフォールド配列(配列番号124)に置き換え、SpCas9をコドン最適化VP64-miniRTA(miniVRとも称される)に融合したdSaCas9に置き換えた[配列番号125(DNA)及び126(タンパク質)]。MiniVRの転写活性化ドメインは、転写を活性化することで遺伝子発現を活性化することができる。MiniVRはdSaCas9(D10AおよびN580A変異体)のC末端に結合され(以下、dSaCas9-miniVRと称する(配列番号192(DNA)及び193(タンパク質)))、そして、各ターゲティング配列にコードされたcrRNAを含むgRNAによって導かれ(directed)、ヒトUTRN遺伝子の推定エンハンサー領域またはプロモーター領域にターゲティングされる(図6)。調製したバックボーンプラスミドはpED176と名付けた。
【0124】
gRNAクローニング
3つのコントロールノンターゲティング配列(表3、配列番号1~3)と100のターゲティング配列(表3、配列番号4~103)をpED176にクローニングした。フォワードおよびリバースオリゴは、Integrated DNA Technologies社により以下のフォーマットで合成された;フォワード;5’CACC(G)-20~21塩基対ターゲティング配列-3’、及びリバース;5’AAAC-20~21塩基対の逆相補ターゲティング配列-(C)-3’。ターゲットがGで始まらない場合は括弧内の塩基が追加された。オリゴはトリス-EDTA緩衝液(pH8.0)に100μMで再懸濁した。各相補オリゴ1μlをNE Buffer 3.1(New England Biolabs (NEB) # B7203S)で10μlの反応液(reaction)に添加した(combined)。この反応液を95℃まで加熱し、サーモサイクラーで25℃まで冷却することで、pED176へのクローニングに適合する粘着末端オーバーハングを持つオリゴをアニーリングした。アニーリングしたオリゴを、BsmBIで消化してゲル精製したレンチウイルストランスファープラスミドpED176とあわせ、製造元のプロトコールに従ってT4 DNAリガーゼ(NEB # M0202S)でライゲーションした。2μlのライゲーション反応液で、製造元のプロトコールに従って、10μlのNEB Stable Competent cells(NEB # C3040I)を形質転換した。このようにして得られたコンストラクトは、U6プロモーター(配列番号128)によって、sgRNAの発現を駆動する。ここで、sgRNAは、個々のターゲティング配列がコードするcrRNAを含み、その3’末端にU6ポリメラーゼの終止シグナルTTTTTTが付加されたSaCas9 gRNAスキャフォールド配列からコードされるtracrRNA(guuuuaguacucuggaaacagaaucuacuaaaacaaggcaaaaugccguguuuaucucgucaacuuguuggcgagauuuuuu(配列番号127))が融合している。
【0125】
レンチウイルス調製
HEK293TA細胞(Genecopoeia # LT008)を6ウェル細胞培養皿(VWR # 10062-892)に0.75x10細胞/ウェルで播種し、2mlの増殖培地(10%FBSと2mMの新鮮なL-グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、及び非必須アミノ酸を添加したDMEM培地(Thermo Fisher # 11140050))中で、37℃/5%COで24時間培養した。翌日、1.5μgのパッケージングプラスミドミックス[1μgのパッケージングプラスミド(pCMV delta R8.2; addgene # 12263を参照)と0.5μgのエンベロープ発現プラスミド(pCMV-VSV-G; addgene # 8454を参照)]、およびdsaCas9-miniVRと示されたsgRNAをコードする配列を含む1μgのトランスファープラスミドを用いて、TransIT-VirusGENトランスフェクション反応(Mirus Bio # MIR6700)を製造元のプロトコールに従ってセットアップした。トランスフェクションから48時間後に、0.45μmのPESフィルター(VWR # 10218-488)に培地の上清を通すことにより、レンチウイルスを回収した。精製して分注したレンチウイルスは、使用するまで-80℃の冷凍庫で保存した。
【0126】
HSMM細胞のトランスダクション
表2に示すように、0~35歳の5つの異なるヒトドナーから採取した初代骨格筋筋芽細胞(HSMM)をLonza Inc.から入手した。
【0127】
【表2】
【0128】
細胞は、Lonzaから入手した、初代骨格筋細胞増殖用培地[SkBMTM-2 Basal Medium (# CC-3246)及び骨格筋細胞の増殖に要求されるSkGMTM-2 SingleQuotsTM supplements (# CC-3244)を含有する培養システムを含む、SkGMTM-2 Skeletal Muscle Growth Bullet Kit medium (# CC-3245)]中で培養した。CC-3246は1 x SkBMTM-2 Basal Medium, 500 mLを含む。1 x SkGMTM-2 SingleQuotsTM Supplement Pack (#CC-3244)は以下を含む:
1 x GA-1000, 0.50 mLが入った赤色キャップのバイアル
1 x hEGF, 0.50 mLが入った緑色キャップのバイアル
1 x デキサメサゾン, 0.50 mLが入ったナチュラルキャップのバイアル
1 x FBS, 50.00 mLのボトル
1 x L-Glutamine, 10.00 mLのボトル
【0129】
CC-3244の成分を、製造元の指示に従って500mlの培養液(# CC-3246)に添加した。トランスダクションにあたっては、増殖培地を入れた6ウェルの細胞培養皿(VWR # 10062-894)に0.125~0.33×10細胞/ウェルで細胞を播種し、37℃/5%COで24時間培養した。翌日、8μg/mlポリブレン(Sigma # TR-1003-G)を添加した1.5mlの増殖培地と、tracrRNAと融合した個々のターゲティング配列(表3)にコードされたcrRNAを含む各sgRNAに対応する1.0mlのレンチウイルス上清(上記参照)を各ウェルに添加した。レンチウイルスの力価は、Lenti-XTM qRT-PCR Titration Kit(Clontech # 631235)を用いて、10から10粒子/mlの範囲で測定した。細胞をレンチウイルスと6時間インキュベートした後、ウイルス培地を除去し、新鮮な増殖培地と交換した。トランスダクションから72時間後、細胞に選択培地[0.5μg/mlのピューロマイシン(Sigma # P8833-100MG)を添加した増殖培地]を与えた。細胞には2-3日ごとに新鮮な選択培地を与えた。細胞を選択培地に入れてから7-10日後、細胞を回収し、製造元の指示に従ってRNeasy 96キット(Qiagen # 74182)でRNAを抽出した。
【0130】
2つのウイルスの共トランスダクション実験も同様に、ウイルスの総量が1つのウイルスのトランスダクションと同じになるように行った。
【0131】
遺伝子発現解析
遺伝子発現解析のために、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems; Thermo Fisher # 4368813)のプロトコールに従って、約0.05~0.8μgの全RNAから10μlの容量でcDNAを調製した。cDNAを10倍に希釈し、Taqman Fast Advanced Master Mix(Thermo Fisher # 4444557)を用いて製造元のプロトコールに従って解析した。Taqmanプローブ(UTRN: Assay Id Hs01125994_m1 FAM; HPRT: Assay Id Hs99999909_m1 VIC_PL)は、Life Technologies社から入手した。Taqman Fast Advanced Master Mixのプロトコールに従って、QuantStudio 5 Real-Time PCRシステムでTaqman probe-based real-time PCR反応を進め解析した。
【0132】
データ解析
各サンプルと3つのコントロールについて、3回の技術的反復実験から得られたUTRNプローブのCt値の平均値からHPRTプローブの平均値を差し引くことにより、deltaCt値を算出した(平均Ct UTRN -平均Ct HPRT)。発現値(expression value)は、各サンプルについて、2-(deltaCt)の式を用いて求めた。次に、サンプルの発現値(表3;配列番号4~103)を、各実験について3つのコントロールの発現値(表3;配列番号1~3)の平均値で正規化し、各サンプルの相対的なUTRN発現量を求めた。各スクリーンから2つの生物学的反復実験を分析し、すべての実験の平均値を算出した(表3)。
【0133】
(2)結果
RNPによるUTRN遺伝子発現の活性化
dSaCas9-miniVRの発現カセットと各ターゲティング配列のsgRNAを、5人の異なるドナー由来の初代HSMM細胞に送達させるレンチウイルスを作製した(表2)。アッセイの大部分は、細胞の増殖速度の点から、ドナー#3(表2)のHSMM細胞で行った。トランスダクションされた細胞は、ピューロマイシンに対する耐性で選択され、Taqman Assayを用いてUTRNの発現量を定量した(表3)。各サンプルの発現値を、コントロールのsgRNAを導入した細胞のUTRN発現量の平均値で正規化した(表3、配列番号1~3)。ドナー#3の2回の実験で平均発現値を測定した(表3;図7)。
【0134】
表3 UTRN遺伝子の発現制御領域のスクリーニングに使用されたターゲティング配列
【0135】
【表3-1】
【0136】
【表3-2】
【0137】
【表3-3】
【0138】
【表3-4】
【0139】
表3において、「座標」は、SaCas9を使用した場合に、示されたすべてのgRNAのSaCas9切断部位の候補を示している。
【0140】
図7に示すように、調べた100個のターゲティング配列のうち、5個のターゲティング配列がHSMM ドナー#3細胞におけるUTRN mRNA発現の一貫したアップレギュレーションを示した(ガイド#145、146、205、208、及び210(配列番号:45、46、58、59、及び60))。これらのうち2つの配列、すなわち#145(配列番号45)と#146(配列番号46)はエンハンサーE2領域に、残りの3つの配列、すなわち#205(配列番号58)、#208(配列番号59)、#210(配列番号60)はプロモーターP1領域に集積していた。ガイド#205、208、及び210は、それぞれ実施例1の#sgED3-6、sgED3-30、sgED3-32と同一である。
【0141】
これら5つのターゲティング配列のうち、3配列、即ち、#145、#146、#208は、カニクイザルのゲノムの対応する領域と100%一致した。一方、これらの配列のうち2つ、即ち#205と#210は、カニクイザルゲノムの対応する領域とは一致しなかった(図8)。
【0142】
これらの5つのターゲティング配列を個別に調べると、5つの異なるドナー由来のHSMM(the 5 different HSMM donors)においてUTRN mRNAの発現が一貫して約2~4倍増加していた(図9)。プロモーター領域のガイド#205、#208、又は#210とエンハンサー領域のガイド#145、#146の組み合わせ(図8の模式図)では、ガイド#205と#145(#205+145)、ガイド#208と#145(#208+145)の2つの組み合わせで、5つの異なるドナー由来のHSMMにおいてUTRNの発現が約3~7倍に増加した(図9)。
【0143】
実施例3 AAVシス-プラスミドの調製と評価
(1)実験方法
AAV AIO シス-プラスミドの構築
表4に示すように、試験したすべてのプラスミドバックボーンpED260(配列番号210)、pED261(配列番号211)、pED263(配列番号212)は、完全長のdSaCas9、CK8プロモーター、U6プロモーターの塩基配列が同じで、pAAV-CMVベクター(Takara # 6234)のITR間の配列を置き換えている。
それらは、アクチベーター部分、polyAで異なっており、pED260、pED261はアクチベーター部分としてminiVRを含み、一方pED263はmicroVRを含む。pED260はbGH polyAを有しているのに対し、pED261、pED263は2x sNRP-1 polyA配列を有している(配列番号208)。
【0144】
【表4】
【0145】
ターゲティング配列 ガイド#145、#146、又は#208でコードされるcrRNAを含むsgRNA用の各オリゴを、これらの各バックボーンにクローニングし、オールインワン(AIO)プラスミドを作製して試験をした。得られた各AIOプラスミドは、表4で示されるように、pAAV-CK8-dSaCas9-miniVR-bGH polyA-U6-sgRNA#145(pED260-145)、pAAV-CK8-dSaCas9-miniVR-bGH polyA-U6-sgRNA#146(pED260-146)、pAAV-CK8-dSaCas9-miniVR-bGH polyA-U6-sgRNA#208(pED260-208)、pAAV-CK8-dSaCas9-miniVR-2x sNRP-1 polyA-U6-sgRNA#145(pED261-145)、pAAV-CK8-dSaCas9-miniVR-2x sNRP-1 polyA-U6-sgRNA#146(pED261-146)、pAAV-CK8-dSaCas9-miniVR-2x sNRP-1 polyA-U6-sgRNA#208(pED261-208)、pAAV-CK8-dSaCas9-microVR-2x sNRP-1 polyA-U6-sgRNA#145(pED263-145)、pAAV-CK8-dSaCas9-microVR-2x sNRP-1 polyA-U6-sgRNA#146(pED263-146)、又はpAAV-CK8-dSaCas9-microVR-2x sNRP-1 polyA-U6-sgRNA#208(pED263-208)と表記した。
【0146】
ヒトゲノムのどの部分とも相同性がないことが知られている2つの異なる配列をネガティブコントロールとして使用し、ノンターゲティングガイド(NTg1(配列番号1)、NTg2(配列番号2))と称した。又、NTg1又はNTg2の各オリゴをそれぞれのバックボーンにクローニングし、コントロールプラスミドとして使用した。
【0147】
HEK293FT細胞のトランスフェクション
HEK293FT細胞(Thermo Fisher # R70007)を24ウェルの細胞培養皿(CORNING # 351147)に5×10細胞/ウェルで播種し、0.5mlの増殖培地(10%FBSと2mMの新鮮なL-グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、及び非必須アミノ酸を添加したDMEM培地(Thermo Fisher # 11140050))中、37℃/5%COで24時間培養した。翌日、dSaCas9-miniVR又はdSaCas9-microVRをコードする配列および実施例2で選択したターゲティング配列(すなわちガイド#145(配列番号45)、#146(配列番号46)、又は#208(配列番号59))を含むsgRNAをコードする配列を含む0.5μgのプラスミドを用いて、製造元のプロトコールに従ってlipofectamine-2000トランスフェクション反応(Thermo Fisher # 11668019)をセットアップした(表4)。
【0148】
トランスフェクションから48時間後に細胞を回収し、製造元の指示に従ってRNeasy 96キット(Qiagen # 74182)を用いてRNAを抽出した。
【0149】
遺伝子発現解析
遺伝子発現解析のために、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems; Thermo Fisher # 4368813)のプロトコールに従って、約0.5μgの全RNAから10μlの容量でcDNAを調製した。cDNAを10倍に希釈し、Taqman Fast Advanced Master Mix(Thermo Fisher # 4444557)を用いて製造元のプロトコールに従って解析した。Taqmanプローブ(UTRN: Assay Id Hs01125994_m1 FAM; HPRT: Assay Id Hs99999909_m1 VIC_PL)は、Thermo Fisherから入手した。Taqman Fast Advanced Master Mixのプロトコールに指示される通り、QuantStudio 5 Real-Time PCRシステムでTaqman probe-based real-time PCR反応を進め解析した。
【0150】
データ解析
NTg1又はNTg2を含むプラスミドについては、結果の平均値をCtrlX2として示した。
【0151】
各サンプルについて、各プローブのデルタCt値は、ノンターゲティングガイドコントロールの3回の技術的反復実験の平均Ct値から、各サンプルの3回の技術的反復実験の平均Ct値を差し引くことにより算出した。
デルタCt UTRN=平均値 コントロールCt UTRN - 平均値 サンプルCt UTRN。
デルタCt HPRT=平均値 コントロールCt HPRT - 平均値 サンプルCt HPRT。
次に、各サンプルのUTRNのデルタCt値からHPRTのデルタCt値を差し引くことにより、デルタデルタCt値を算出した。
デルタデルタCt=デルタ Ct UTRN - デルタ Ct HPRT。
発現値は、各サンプルについて、2(deltadeltaCt)の式で求めた。
【0152】
(2)結果
ターゲティング配列ガイド#145(配列番号45)、#146(配列番号46)、#208(配列番号59)でコードされたcrRNAを含むsgRNAの存在下では、3つのテストしたバックボーン(pED260、261、及び263)はすべて、HEK293FT細胞においてUTRNをアップレギュレートすることができた(図10)。
【0153】
実施例4 dSaCas9、転写アクチベーター、及びsgRNAを搭載した組換えAAV9の調製
(1)実験方法
アデノ随伴ウイルス(AAV)産生
アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)粒子は、T225フラスコ(Corning)あたり0.96×10~1.8×10細胞の密度で播種し、10%FBSを添加したDMEM培地(Thermo Fisher # 11995-065)で培養した293T細胞(ATCC CRL-3216)を用いて調製した。pRC9プラスミドは以下のように構築した:AAV9のキャプシド配列(JP5054975Bを参照)を、AAV2のキャプシド配列に置き換えてpRC2-mi342プラスミド(Takara # 6230)にサブクローニングした。20μgのpRC9プラスミドと20μgのpHelperベクター(Takara # 6230)を、実施例3で使用したAIOプラスミド、pED261-145、pED261-146、pED261-208、pED263-145、pED263-146、又はpED263-208の6種類のうち1つを20μg、T225フラスコあたり180μlのTransIT-293 Transfection Reagent(Mirus Bio # MIR2700)を用いて、細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションの1日後、培養液を2% FBSを添加したDMEM培地に変更した。72時間後に細胞を回収し、製造元の指示に従ってAAVpro Purification Kit(All Serotypes) (Takara # 6666)を用いてAAVを抽出・精製した。精製したAAVの力価は、AAVpro Titration Kit(for Real Time PCR)(Takara # 6233)を用いて測定した。得られた各AAVを、AAV9-ED261-145、AAV9-ED261-146、AAV9-ED261-208、AAV9-ED263-145、AAV9-ED263-146、又はAAV9-ED263-208と表記する。
【0154】
AAVの確認
NuPAGE Sample Reducing Agent、抗酸化剤及びバッファー(Thermo Fisher # NP0009, # NP0005, # NP0007)を用いてAAVサンプルを調製した後、NuPAGE 4-12% Bis-Tris Protein Gels 1.0 mm x 12-well (Thermo Fisher # NP0322BOX)を用いてSDS-PAGEでAAVキャプシドタンパク質を確認した。各AAVのアプライ量は1.0x1010vg/レーンであった。オリオール蛍光ゲル染色液(BioRad # 161-0495)でゲルを染色した後、UV励起と580nmフィルターを用いてChemiDocTM Touch(BioRad)で画像を撮影した。
【0155】
(2)結果
T225フラスコで製造されたAAV9の力価は、以下のように算出された。
【0156】
【表5】
【0157】
SDS-PAGEでは、各AAVサンプルから3つのキャプシドタンパク質(VP1、VP2、及びVP3、それぞれ87kDa、72kDa、及び62kDa)が検出された(図11)。これらの結果から、AAV AIOシスプラスミドにクローニングされたdSaCas9や転写アクチベーター等の目的の遺伝子が、AAV9に搭載できることが示された。
【0158】
実施例5 dSaCas9、転写アクチベーター、及びsgRNAを搭載した組換えAAV9のユートロフィン アップレギュレーションに対するインビトロ薬理学的評価
(1)実験方法
AAV9産生
アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)粒子は、4.77x10細胞/700mL/Cell Stack 5 flask(Corning)の密度で播種し、10% FBS(Hyclone # SH30070.03)、1%MEM(Sigma # M7145)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Thermo Fisher # 15070-063)、及び2.5% HEPES(Sigma # H0887)を添加したDMEM培地で培養した293T細胞(ATCC # CRL-3216)を用いて調製した。その3日後、実施例4で構築したpRC9プラスミド227.9μg、pHelperベクター(Takara # 6230)、実施例3で使用した3つのAIOプラスミドpED261-145、pED261-208、又はpED263-208のいずれか1つを用いて、フラスコあたり683.7μlのポリエチレンイミンMax(2mg/mL)(Polysciences # 24765-2)で細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションの6日後に、細胞をTriton X-100(最終濃度 0.2%)(Roche # 10789704001)を用いて回収した。AAVサンプルに対し、遠心分離、ろ過、濃縮、クロマトグラフィー(AKTA avant 25, GE Healthcare, POROS CaptureSelect AAV Resins column, Thermo Fisher)及びCsClを用いた超遠心分離(Optima XE-90, Beckman Coulter)による精製を行った。目的とする分画を透析した後、AAVの力価をAAVpro Titration Kit (for Real Time PCR)(Takara # 6233)を用いて測定した。AAV9-ED261-145、AAV9-ED261-208、及びAAV9-ED263-208が得られた。
【0159】
細胞培養とAAV感染
ヒト骨格筋筋芽細胞(HSMM, Lonza # CC-2580, lot# 18TL211617)をコラーゲンIコートした24ウェルプレート(IWAKI # 4820-010)に1ウェルあたり100,000個の密度で播種し、500 U/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Thermo Fisher # 15070063)を添加したSkGMTM-2 Skeletal Muscle Cell Growth Medium-2 BulletKitTM(Lonza # CC-3245)中で、37℃、5% COで2日間培養した。培地を分化培地(2%FBS(GE Healthcare # SH30070.03)と500U/mLのペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM培地(Sigma # D6429))に交換し、37℃、5%COで3日間培養した。AAV感染のため、培地は、0.2、1.0、又は5.0×1011 vg/mLのAAV9-ED261-145、AAV9-ED261-208、又はAAV9-ED263-208を含む500μLの新鮮な分化培地に交換した。感染後、感染した細胞を37℃、5%COで3~4日間培養し、製造元の指示に従い、RNeasy Plus Mini Kit(Qiagen # 74134)を用いて全RNAを抽出した。AAVを感染させていない細胞からのRNAをコントロールとし、AAV(-)として示した。
【0160】
遺伝子発現解析
Taqman qPCRでは、SuperScriptTM VILOTM cDNA Synthesis Kit(Thermo Fisher # 11754250)を用いて、250ngの全RNAを20μLの反応容量でcDNAに変換した。cDNAは水で5倍希釈し、2μLをqPCRに使用した。UTRN用のTaqmanプローブ(Thermo Fisher # Hs01125994_m1, FAM)、HPRT1用のTaqmanプローブ(Thermo Fisher # Hs02800695_m1, FAM)、およびTaqManTM Universal PCR Master Mix(Thermo Fisher # 4324018)を含む10μLの最終容量で、QuantStudioTM 12K Flex Real-Time PCR System(Thermo Fisher)を用いてqPCRを実施した。qPCRのサイクル条件は以下の通り:95℃で10分間、続いて95℃で15秒間、60℃で1分間を45サイクル。データは、QuantStudioTM 12K Flex software (Thermo Fisher)で解析した。発現値は、各遺伝子の標準曲線を用いて解析し、UTRN遺伝子の発現レベルをHPRT1遺伝子の発現レベルで正規化した。
【0161】
(2)結果
AAV9-ED261-145、AAV9-ED261-208、又はAAV9-ED263-208をHSMM細胞に感染させたところ、ユートロフィンmRNAのアップレギュレーションが見られたことから、dSaCas9、miniVR又はmicroVR、及びガイド#145又は#208を含むsgRNAの導入遺伝子を搭載したAAV9が、ヒト筋細胞におけるユートロフィンのアップレギュレーションに対して薬理作用を持つことが示唆された(図12)。
【0162】
実施例6 RNA-Seq解析を用いたオフターゲット解析
(1)実験方法
レンチウイルス調製
HEK293TA細胞(Genecopoeia # LT008)を6ウェル細胞培養皿(VWR # 10062-892)に0.75x10細胞/ウェルで播種し、2mlの増殖培地(10%FBSと2mMの新鮮なL-グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、及び非必須アミノ酸を添加したDMEM培地(Thermo Fisher # 11140050))中、37℃/5%COで24時間培養した。翌日、1.5μgのパッケージングプラスミドミックス[1μgのパッケージングプラスミド(pCMV delta R8.2;addgene # 12263を参照)と0.5μgエンベロープ発現プラスミド(pCMV-VSV-G;addgene #8454を参照)]と、dSaCas9-miniVRと、実施例2で選択したターゲティング配列、すなわちガイド#145(配列番号45)、#146(配列番号46)、#208(配列番号59))、またはNTg1(ノンターゲティングガイド-1)(配列番号1)を含むsgRNAをコードする塩基配列を含むトランスファープラスミド1μgとを用いて、TransIT-VirusGENトランスフェクション反応を製造元のプロトコールに従ってセットアップした。トランスフェクションから48-72時間後に、0.45μmのPESフィルター(VWR # 10218-488)に培地の上清を通すことにより、レンチウイルスを回収した。精製して分注したレンチウイルスは、使用するまで-80℃の冷凍庫で保存した。
【0163】
HSMM cells細胞のトランスダクション及びRNAサンプル調製
0歳のヒトドナー由来の初代骨格筋筋芽細胞(HSMM)(Lot # 542368)をLonza Inc.より入手した。細胞は、Lonza社製の初代骨格筋細胞増殖用培地[SkGMTM-2 Skeletal Muscle Growth Bullet Kit培地(# CC-3245):骨格筋筋芽細胞の増殖に必要なSkBMTM-2 Basal Medium(# CC-3246)とSkGMTM-2 SingleQuotsTMサプリメント(# CC-3244)を含む培養システムを含む)]で培養した。トランスダクションにあたっては、増殖培地を入れた6ウェルの細胞培養皿(VWR # 10062-894)に0.125×10細胞/ウェルで細胞を播種し、37℃/5% COで24時間培養した。翌日、8μg/mlポリブレン(Sigma # TR-1003-G)を添加した増殖培地1.5mlと、個々のターゲティング配列(ガイド#145(配列番号45)、#146(配列番号46)、又は#208(配列番号59))にコードされたcrRNAおよびtracrRNAを含む各sgRNAに対応するレンチウイルス上清(力価は0.2-2x10コピー/ml、Lenti-XTM qRT-PCR Titration Kit(Clontech # 631235)を用いて測定)1.0mlを各ウェルに加えた。細胞をレンチウイルスと6時間インキュベートした後、ウイルス培地を除去し、新鮮な増殖用培地と交換した。トランスダクション後72時間で、細胞に選択培地[0.5μg/mlのピューロマイシン(Sigma # P8833-100MG)を添加した増殖用培地]を与えた。細胞には2~3日ごとに新鮮な選択培地を与えた。細胞を選択培地に入れてから7-10日後、細胞を回収し、製造元の指示の通りにRNeasy 96キット(Qiagen # 74182)でRNAを抽出した。コントロールとして使用したNTg1(ノンターゲティングガイド-1)の配列は、ACGGAGGCTAAGCGTCGCAA(配列番号1)である。
【0164】
オフターゲット解析
イルミナシーケンシングはGeneWiz,LLC社が行い、RNAライブラリーは製造元のプロトコールに従ってNEBNext Ultra RNA Library Prep Kit(Ipswich, MA, USA, NEB # E7530L)を用いて調製した。シークエンシングライブラリをIllumina HiSeq flow cellの3つのレーンにクラスタリングし、2X150 Paired Endコンフィギュレーションを用いてシークエンシングした。結果として得られた生の配列データ(.bclファイル)をfastqファイルに変換し、イルミナ社のbcl2fastq 2.17ソフトウェアを用いて、インデックス配列の同定に1ミスマッチを許容する条件でデマルチプレックスを行った。Fastqファイルは、STAR alignerを用いて、ヒトゲノムアセンブリGRCh38.p12にアラインした。差分解析はDESeq2を用いて行い、プロットはカスタムRスクリプトを用いてplotly(https://plot.ly)で作成した。
【0165】
(2)結果
各ガイドによるmRNAレベルのゲノムワイドな倍率変化を、ノンターゲティングガイド1(NTg1)の値を用いて正規化した。各ドットは1つの遺伝子を表す。X軸は遺伝子の平均発現量を示す。Y軸はNTg1サンプルに対する遺伝子発現のlog-2倍率変化を示す。水平方向のLog2=0より上の遺伝子は、NTg1サンプルよりも実験サンプル(例:ガイド#145)における方が遺伝子の発現が高いことを示し、水平方向のLog2=0より下の遺伝子は、NTg1サンプルよりも実験サンプルにおける方が遺伝子の発現が低いことを示す。また、NTg1サンプルよりも実験サンプルにおける方が高度にアップレギュレートされている又はダウンレギュレートされている遺伝子については、遺伝子IDを示している。gRNAが異なると、異なる遺伝子の発現変化が誘導される(図13A:ガイド#145、13B:ガイド#146、13C:ガイド#208)。ガイド#208は、UTRN遺伝子のアップレギュレーションが良好な一方で、他の遺伝子の発現変化をあまり引き起こさないように思われる。
【0166】
実施例7 ユートロフィン アップレギュレーションに対する薬理作用のインビボ評価
(1)実験方法
動物及び免疫抑制のレジメン
本研究では、AAV9-血清型陰性のカニクイザル(雄)を使用する。馴化1週間後、0.75mg/kg/日のプレドニゾロンリン酸ナトリウム(Abcam # ab142456)を、カニクイザルに経口投与する。投薬は、AAV投与の14日前から開始し、屠殺するまで続ける。
【0167】
AAV9処置及び筋肉組織サンプリング
1.0または6.0×1013vg/kgのAAV9-ED261-208(SignaGen社製)を橈側皮静脈経由でカニクイザルに静脈内投与する。大腿四頭筋生検では、サルに塩酸ケタミン10mg/kgと塩酸メデトミジン0.08mg/kgを筋肉内投与して麻酔をかけ、AAV投与前19日目と投与後28日目に50~200mgのサンプルを採取する。AAV9投与後56日目にサルを屠殺し、各筋肉と心臓のサンプルを採取する。サンプルは液体窒素中で凍結され、遺伝子及びタンパク質の発現解析に用いる。
【0168】
筋肉組織サンプルの、遺伝子及びタンパク質発現解析
Taqman qPCRのために、筋肉サンプルからRNeasy Fibrous Tissue Mini Kit (Qiagen # 74704)を用いて全RNAを抽出し、SuperScriptTM VILOTM cDNA Synthesis Kit (Thermo Fisher # 11754250)を用いてcDNAに変換する。UTRN用のTaqmanプローブ(Thermo Fisher, # Mf01126001_m1, FAM)とHPRT1用のTaqmanプローブ(Thermo Fisher, # Hs02800695_m1, FAM)、及びTaqManTM Universal PCR Master Mix(Thermo Fisher, # 4324018)を用いて、QuantStudioTM 12K Flex Real-Time PCR System(Thermo Fisher)でqPCRを実施する。UTRN遺伝子の発現レベルをHPRT1遺伝子の発現レベルで正規化する。
【0169】
タンパク質の発現解析には、プロテアーゼおよびホスファターゼインヒビターカクテル(Thermo Fisher # 78441)を含むRIPA緩衝液(Millipore # 20-188)を用いて全筋ライセートを調製し、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットに供する。ユートロフィンタンパク質は、ユートロフィンの一次抗体(SantaCruz # SC-33700)と西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した二次抗体(Cell Signaling # 7076)を用いて検出する。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明によれば、ヒト細胞においてUTRN遺伝子の発現を活性化することができる。すなわち、本発明はDMDおよびBMDの治療及び/又は予防に極めて有用であると期待される。
数字的な限界または範囲が記載されている場合には、その両端も含まれる。さらに、数字的な限界または範囲の中にあるすべての数値およびサブレンジもまた、あたかも明示的に記述されたかのように、明確に含まれる。
本明細書では、「a」や「an」等の単語は、「1以上」という意味を有する。
明らかに、上記の教示に照らして、本発明の多くの改変と変更が可能である。従って、添付の特許請求の範囲内で、本発明は、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で実施することができることが理解される
上述のすべての特許およびその他の文献は、この参照により、詳細に記載されている場合と同じように、ここに完全に組み入れられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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