(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】電線接続体、電線接続体の製造方法、センサ素子およびセンサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02G 15/08 20060101AFI20220510BHJP
H02G 1/14 20060101ALI20220510BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220510BHJP
B23K 26/57 20140101ALI20220510BHJP
H01R 4/02 20060101ALI20220510BHJP
H01R 43/02 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
H02G15/08
H02G1/14
B23K26/21 L
B23K26/57
H01R4/02 C
H01R43/02 B
(21)【出願番号】P 2021559983
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010057
【審査請求日】2021-10-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145242
【氏名又は名称】株式会社芝浦電子
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】中村 和正
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-162758(JP,A)
【文献】特開2004-063373(JP,A)
【文献】特開2008-071700(JP,A)
【文献】特開平08-148256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 15/08
H02G 1/14
B23K 26/21
B23K 26/57
H01R 4/02
H01R 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電線と、
前記第1電線と電気的に接続される第2電線と、
前記第1電線と前記第2電線とを繋ぐ接続部と、
前記接続部の周囲を覆う絶縁被覆体と、を備え
る電線接続体の製造方法であって、
前記接続部は、
前記第1電線と前記第2電線との突き合せ溶接により接続されており、かつ、前記絶縁被覆体の内部において溶接されたものである、
ことを特徴とする電線接続体
の製造方法。
【請求項2】
前記絶縁被覆体は、
前記第1電線と前記第2電線のいずれか一方の線径と同等の内径を有し、
前記接続部は、
前記第1電線および前記第2電線のいずれか一方の線径と同等の線径を有する、
請求項1に記載の電線接続体
の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁被覆体は、
前記第1電線および前記第2電線のいずれか一方に予め設けられている、芯線の周囲を覆う絶縁被覆体であるか、または、
前記第1電線と前記第2電線の絶縁被覆体と同等の線径を有する別体で形成された中空の絶縁体からなる、
請求項1または請求項2に記載の電線接続体
の製造方法。
【請求項4】
前記絶縁被覆体は、フッ素樹脂またはガラスからなる、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電線接続体
の製造方法。
【請求項5】
第1電線と、
前記第1電線と電気的に接続される第2電線と、
前記第1電線と前記第2電線とを繋ぐ接続部と、を備え、
前記第1電線および前記第2電線のいずれか一方は、芯線と前記芯線の周囲を覆う絶縁被覆体を有しており、
前記接続部は、
前記絶縁被覆体の内側において、前記第1電線と前記第2電線との突き合せ溶接により接続されている、
ことを特徴とする電線接続体。
【請求項6】
前記第1電線の前記絶縁被覆体のレーザ光の吸収率が、前記第1電線の芯線のレーザ光の吸収率より小さい、
請求
項5に記載の電線接続体。
【請求項7】
検知体と、
前記検知体に電気的に接続される一対の、請求項
5または請求項
6に記載の電線接続体と、を備えるセンサ素子。
【請求項8】
第1電線と第2電線とを突き合せ溶接により繋ぐ電線接続体の製造方法であって、
前記第1電線および前記第2電線のいずれか一方に予め設けられている絶縁被覆体を透過して、前記絶縁被覆体に覆われる芯線にレーザを照射することにより、前記絶縁被覆体の内部に前記芯線の存在しない空隙を形成するポケット成形工程と、
前記絶縁被覆体の内部の前記空隙において、前記第1電線と前記第2電線の前端面同士を突き合せる突き合せ工程と、
突き合された前記第1電線と前記第2電線にレーザを照射して溶接による接続部を形成する照射工程と、を備え
る、
ことを特徴とする電線接続体の製造方法。
【請求項9】
前記ポケット成形工程において、
前記芯線の先端部への前記レーザの照射により生ずる、前記芯線の溶融および凝固に伴う体積の減少によって、前記空隙が形成される、
請求項
8に記載の電線接続体の製造方法。
【請求項10】
前記ポケット成形工程において、
前記芯線への前記レー
ザの照射により、前記芯線を溶断するとともに、前記溶断よりも先端側の前記芯線を取り除くことによって、前記空隙が形成される、
請求項
8に記載の電線接続体の製造方法。
【請求項11】
検知体に一対の電線接続体を電気的に接続するセンサ素子の製造方法であって、
請求項
8から請求項
10のいずれか一項に記載の電線接続体の製造方法により、前記検知体に前記電線接続体を接続する、
ことを特徴とするセンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前端面同士が突き合せ溶接により接続される電線接続体に関する。
【背景技術】
【0002】
別体をなす一対の電線の端部同士を接続して用いられる例は多数ある。その中で、例えば特許文献1は、温度センサの電極線に接続される中継線と、リード線の撚り線からなる導電線とを抵抗溶接によって接続する方法を提案する。特許文献1の接続方法は、第1の抵抗溶接と第2の抵抗溶接を含む。
第1の抵抗溶接は、導電線の先端を挟むように一対の溶接用電極を配置し、この溶接用電極間に電流を流して、各芯線からなる導電線を溶融接合して一体化した第1の溶着部を形成する。
第2の抵抗溶接は、導電線と中継線とを接続する。具体的には、導電線と中継線とを重ね合わせて配置し、第1の溶着部よりも後端側にて、導電線と中継線とを挟むように、第2の抵抗溶接に用いる溶接用電極を配置し、この溶接用電極間に電流を流して、ジュール熱を発生させて芯線および中継線を溶接する。これにより、第2の溶着部が形成される。
第2の抵抗溶接の後、特許文献1は、電気絶縁性を有する補助リングを移動させて、第1の溶着部と第2の溶着部を電気的にシールする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の抵抗溶接による接続方法は、第1の抵抗溶接に先んじてリード線の端部の絶縁被覆を剥ぎ取る作業に加えて、補助リングを移動させる作業が必要である。また、特許文献1の接続方法は、導電線と中継線とを重ね合わせるので、その分だけ接続部分の径が膨らむ。
【0005】
そこで本発明は、溶接による接続作業が簡易であるとともに、溶接部分の径を押さえることができる電線の接続体を提供することを目的とする。また、本発明はそのような接続体を得ることのできる接続方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電線接続体は、第1電線と、第1電線と電気的に接続される第2電線と、第1電線と第2電線とを繋ぐ接続部と、接続部の周囲を覆う絶縁被覆体と、を備える。接続部は、第1電線と第2電線との突き合せ溶接により接続されている。
【0007】
本発明において、絶縁被覆体は、好ましくは、第1電線と第2電線のいずれか一方の線径と同等の内径を有し、接続部は、好ましくは、第1電線および第2電線のいずれか一方の線径と同等の線径を有する。
【0008】
本発明において、絶縁被覆体は、好ましくは、第1電線および第2電線のいずれか一方に予め設けられている絶縁被覆体であるか、または、第1電線と第2電線の絶縁被覆体と同等の線径を有する別体で形成された中空の絶縁体からなる。
【0009】
本発明において、絶縁被覆体は、好ましくは、フッ素樹脂またはガラスからなる。
本発明において、好ましくは、第1電線の絶縁被覆体のレーザ光の吸収率が、第1電線の芯線のレーザ光の吸収率より小さい。
【0010】
本発明は、検知体と、検知体に電気的に接続される一対の電線接続体と、を備えセンサ素子を提供する。この電線接続体として、本発明の電線接続体が適用される。
【0011】
本発明は、第1電線と第2電線とを突き合せ溶接により繋ぐ電線接続体の製造方法を提供する。この製造方法は、第1電線と第2電線の前端面同士を突き合せる突き合せ工程と、突き合された第1電線と第2電線にレーザ光を照射して溶接による接続部を形成する照射工程と、を備える。
本発明は、少なくとも照射工程の前に、接続部が形成される領域が絶縁被覆体で覆われている。
【0012】
本発明における絶縁被覆体は、好ましくは、第1電線および第2電線のいずれか一方に予め設けられている絶縁被覆体である。この場合、絶縁被覆体を透過して、絶縁被覆体に覆われる芯線にレーザ光を照射することにより、絶縁被覆体の内部に芯線の存在しない空隙を形成するポケット成形工程を行った後に、この空隙において、第1電線と第2電線の前端面同士を突き合せる突き合せ工程を行うことができる。
【0013】
本発明におけるポケット成形工程において、好ましくは、芯線の先端部へのレーザ光の照射により生ずる、芯線の溶融および凝固に伴う体積の減少によって、空隙が形成される。
【0014】
本発明におけるポケット成形工程において、好ましくは、芯線へのレーザ光の照射により、芯線を溶断するとともに、溶断よりも先端側の芯線を取り除くことによって、空隙が形成される。
【0015】
本発明において、好ましくは、絶縁被覆体は、第1電線および第2電線の絶縁被覆体とは別体をなす。この場合、突き合せ工程において、第1電線の剥き出しとされた芯線および第2電線の剥き出しとされた芯線とを、別体をなす絶縁被覆体の内部で突き合わせる。
【0016】
本発明において、好ましくは、絶縁被覆体は、第1電線および第2電線の絶縁被覆体とは別体をなすレーザ光を透過する材料から構成される治具からなる。この場合、突き合せ工程において、第1電線の剥き出しとされた芯線および第2電線の剥き出しとされた芯線とを、治具の内部で突き合わせる。そして、照射工程において、レーザ光は治具を透過して芯線に照射される。
【0017】
本発明は、検知体に一対の電線接続体を電気的に接続するセンサ素子の製造方法を提供する。これは以上で説明した電線接続体の製造方法により、検知体に電線接続体を接続する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶接による接続作業が簡易であるとともに、溶接部分の径を抑えることができる電線の接続体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る電線の接続体を示す図である。
【
図2】
図1の電線接続体の第1実施形態に係る製造方法を説明する図である。
【
図3】
図2に続いて、第1実施形態に係る製造方法を説明する図である。
【
図4】第1実施形態に係る製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る電線の接続体を示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る製造方法を説明する図である。
【
図7】
図6に続いて、第2実施形態に係る製造方法を説明する図である。
【
図8】第2実施形態に係る製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の第3実施形態に係る製造方法を説明する図である。
【
図10】
図9に続いて、第3実施形態に係る製造方法を説明する図である。
【
図11】第3実施形態に係る製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の第4実施形態に係る製造方法を説明する図である。
【
図13】
図10に引き続いて、第4実施形態に係る製造方法を説明する図である。
【
図14】第4実施形態に係る製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図15】本発明の電線接続体の具体的な適用例を示す図である。
【
図16】本発明の電線接続体の具体的な他の適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の電線の接続体および電線の接続体の製造方法の実施形態を説明する。本実施形態は、電線の金属部分をレーザ光の照射により溶融、凝固させることで接続体を得るが、この溶融、凝固の際に、一対の電線の接続部分をレーザ光(以下、単にレーザ)が透過する樹脂材料などの絶縁被覆体で保持する。これにより、絶縁被覆体が一対の電線の接続部分を案内して位置合せすることにより、容易に接続部分を突き合せ状態で接続できる。
以下、四つの実施形態を順に説明した後に、本実施形態に係る電線接続体の具体的な適用例を説明する。
【0021】
[第1実施形態:
図1,
図2,
図3,
図4]
第1実施形態に係る電線接続体1Aは、
図1に示すように、第1電線10Aと、第1電線10Aと電気的に接続される第2電線20Aと、を備える。第1電線10Aの芯線11と第2電線20Aは、絶縁被覆体13の内部に収容される接続部30により機械的および電気的に接続される。なお、電線について、第1電線10Aの第2電線20Aが接続される側を前(F)と定義し、その逆側を後(B)と定義される。
【0022】
[第1電線10A,第2電線20A,接続部30:
図1]
第1電線10Aは、芯線11と、芯線11の外周を覆う絶縁被覆体13と、を備える。
芯線11は、導電性の優れた例えば銅および銅合金、ニッケルおよびニッケル合金および鉄系合金などの金属材料から構成される。また、これらの金属材料の表面にメッキなどの表面処理を施した材料、例えば銅または銅合金をニッケルまたは錫でメッキした材料を用いることができる。また、芯線11としては、単線および撚線の何れも適用される。
【0023】
絶縁被覆体13は、電気的な絶縁材料から構成されるのに加えて、レーザの吸収率が芯線11に比べて十分小さい材料から構成される。これは、本実施形態において、レーザを照射することにより第1電線10Aの芯線11と第2電線20Aを溶接により接合するが、この接合の際にレーザが絶縁被覆体13を透過して芯線11と第2電線20Aの接続部分に照射させるためである。絶縁被覆体13はこの目的を果たすことのできる材料から構成され、例えば、アクリル、PC(ポリカーボネート)、PVC(ポリ塩化ビニル)PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)などの樹脂材料、フッ素樹脂およびガラスなどが適用され。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが適用される。これらの中で、耐熱性の観点からガラス、フッ素樹脂が好ましい
絶縁被覆体13の内径は、ここでは第2電線20Aの線径と同等の例が示されているが、後述する適用例に示されているように、第2電線20Aの線径の方が小さくてもよい。ここでいう線径は、直径を意味する。
【0024】
第2電線20Aは、本実施形態においては、導体のみから構成され、芯線11と同様の金属材料で構成される。ただし、第1実施形態における第2電線20Aの外径(R20)と芯線11の外径(R11)は、好ましくは、R20≦R11の関係を有する。この関係は、後述する電線接続体1Aの製造方法に起因する。また、本実施形態において、R11およびR20の制限はないが、電線接続体1Aの製造方法によれば、5mm以下、さらには3mm以下という細線について、芯線11と第2電線20Aの前端面同士を突き合せて接合できる。
第1電線10Aおよび第2電線20Aの破断線より先の部分の接続先は任意であり、電気的な素子、電源、計測機器などに繋げることができる。
【0025】
[接続部30:
図1]
第1電線10Aの芯線11と第2電線20Aを接続する接続部30は、芯線11と第2電線20Aの双方が溶融した後に凝固して形成される。接続部30を介しているが、芯線11と第2電線20Aはお互いの前端面同士が突き合せられている。接続部30の形成のための溶融は、後述するようにレーザ(LASER:Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)の照射により行われる。
【0026】
図1に示すように、接続部30は第1電線10Aに予め設けられている絶縁被覆体13の内部に設けられる。このように、第1電線10Aと第2電線20Aが絶縁被覆体13の内部で接合されるので、接続部30を絶縁被覆する別部材としての絶縁被覆体を省くことができる。このことは、接続部30を収容する絶縁被覆体13の外径が他の部位と同等の範囲で収まる。
接続部30は芯線11および第2電線20Aの外周面と同等か、外周面を超えていても微小量の範囲に収まる。これは、接続部30が形成される前の溶融状態において、絶縁被覆体13により径方向の外側への膨張が拘束されるからである。
【0027】
[電線接続体1Aの製造方法:
図2,
図3,
図4]
次に、電線接続体1Aの製造方法について、
図2、
図3および
図4を参照して、説明する。
この製造方法は、
図4に示すように、以下の工程を含む。
S101:第1電線の端部を切断する工程
S103:第1のレーザ照射工程
S105:レーザ照射された第1電線の芯線を凝固/収縮させる工程
S107:ポケットに第2電線の先端部を挿入し、第1電線と突き合わせる工程
S109:第2のレーザ照射工程
S111:レーザ照射された部分を凝固/接合する工程
以下、
図2および
図3を参照して、各工程をS101~S111の順で説明する。
【0028】
<第1電線の端部を切断する工程(S101):
図2(a)>
はじめに、
図2(a)に示すように、第1電線10Aの一方の端部を切断して前端面10Eを平坦な面に整える。これは相手側の第2電線20Aについても同様である。こうすることにより、第1電線10Aと第2電線20Aの突き合わせ状態が良好になる。
【0029】
<第1のレーザ照射工程(S103):
図2(b)>
次に、
図2(b)に示すように、第1電線10Aの前端面10Eに臨む部位に第1のレーザLA1を照射する。この第1のレーザLA1は、絶縁被覆体13を透過して芯線11に至り、芯線11を溶融させる。照射される第1のレーザLA1は、前端面10Eおよびその近傍の芯線11を溶融するのに必要なスポット径を有しており、好ましくは、芯線11の線径と同等またはそれ以下のスポット径が採用される。
【0030】
第1のレーザLA1としては、例えばイットリウム・アルミニウム・ガーネット (Yttrium Aluminum Garnet)を用いた固体レーザのYAGレーザを用いることができる。YAGレーザの波長は1064nmであり、芯線11と絶縁被覆体13のYAGレーザの吸収率は、芯線11<<絶縁被覆体13の関係を有する。芯線11および絶縁被覆体13のそれぞれを構成するいくつかの材料のYAGレーザの吸収率は以下の通りである。
なお、芯線11を構成する材料については、吸収率に加えて反射率を併記し、絶縁被覆体13を構成する材料については、吸収率に加えて透過率を併記する。また、YAGレーザの波長は1064nmである。
【0031】
芯線11を構成する材料(反射率,吸収率の順)
ステンレス;55%,45% ニッケル;12%,88%
銅;75%,25% アルミニウム;74%,26%
絶縁被覆体13を構成する材料(透過率,吸収率の順)
PTFE;90%,10% PE;89%,11% PC;91%,9%
PET;91%,9% PVC;53%,47%
ガラス;92%,8% アクリル;92%,8%
【0032】
第1のレーザLA1の照射により、芯線11のレーザ照射領域およびその近傍が溶融される。芯線11は金属材料であるから、溶融時の温度は高く、例えば、銅の融点は1084.6℃であり、ニッケルの融点は1455℃である。したがって、芯線11の溶融により絶縁被覆体13への熱的なダメージが懸念されるが、スポット径を絞り込んで短時間、例えば10msec.で芯線11を溶融できることから、絶縁被覆体13への熱的なダメージを小さく抑えることができる。
【0033】
<レーザ照射された芯線を凝固/収縮させる工程(S105):
図2(c)>
所定時間を経過して第1のレーザLA1の照射を終えると、溶融した芯線11を構成する金属材料が冷えることで凝固部SPが形成される。この凝固部SPは凝固の過程で芯線11の状態のときよりも体積が減少する。この体積の減少は、芯線11が連なっている第1電線10Aの後(B)に向けて生じる。これにより、凝固部SPよりも前(F)に位置する絶縁被覆体13の内部にはこの体積の減少により空隙が生じる。この空隙を第1電線10Aのポケット12と称する。
以上のように、この凝固/収縮の工程は、凝固部SPを形成する第1機能とポケット12を形成する第2機能の2つの機能を奏する。
【0034】
<ポケットに第2電線を挿入する工程(S107):
図3(a)>
第1電線10Aにポケット12が形成された後に、このポケット12に第1電線10Aの接合相手である第2電線20Aを挿入する。この挿入は、
図3(a)に示すように、第2電線20Aの前端面20Eが第1電線10Aの凝固部SPに突き合わせられるように行われる。
第2電線20Aの挿入、凝固部SPへの突き合せの過程で、ポケット12の周囲の絶縁被覆体13は第2電線20Aのガイドとして機能する。したがって、本実施形態によれば、第2電線20Aをポケット12に挿入してしまえば、第2電線20Aの前端面20Eと凝固部SPの前端面11Eとの位置合せが容易である。なお、本実施形態では第1電線10Aの芯線11と第2電線20Aの外径(R11,R20)が同じ径を有している例を示しているが、第2電線20Aの外径(R20)は、芯線11の外径(R11)よりも小さくても、ポケット12と絶縁被覆体13によるガイド機能は有効である。
【0035】
<第2のレーザ照射工程(S109):
図3(b)>
第2電線20Aの前端面20Eと第1電線10Aの凝固部SPとを突き合わせた後、
図3(b)に示すように、突き合せされた部分およびその近傍に対し、第2電線20Aと凝固部SPに第2のレーザLA2を照射する。第2のレーザLA2の照射により、第2電線20Aと凝固部SPのレーザ照射領域およびその近傍が溶融され、後の凝固を通じて第2電線20Aと芯線11とが接合される。第2のレーザLA2は、第1のレーザLA1に適用されるレーザの種類、照射時間などの照射条件を踏襲できる。
【0036】
<レーザ照射された部分を凝固/接合する工程:
図3(c)>
所定時間の間、第2のレーザLA2を照射した後、第2のレーザLA2の照射を終えると、溶融した第2電線20Aと芯線11を構成する金属材料が冷えることで接続部30が形成され、電線接続体1Aが得られる。この電線接続体1Aは、接続部30が第1電線10Aに予め設けられる絶縁被覆体13の内部に配置される。
【0037】
[第1実施形態が奏する効果]
以下、第1実施形態に係る電線接続体1Aおよびその製造方法により奏される効果を説明する。
[電線接続体1Aが奏する効果]
<電線接続体1Aの小寸法化・省スペース化>
電線接続体1Aの絶縁被覆体13の径方向の寸法は、絶縁被覆体13により肥大化を抑制できる。つまり、電線接続体1Aの接続部30は、第1電線10Aの絶縁被覆体13に覆われているから、絶縁被覆体13は接続部30を形成する前と同等の径方向の寸法に収めることができる。
また、電線接続体1Aを種々の機器類に設置する場合、径方向の寸法が抑えられることにより、設置するスペースを狭くできる。これにより、設置するスペースを省くことができることを通じて、機器類の小型化にも寄与する。
また、芯線11と第2電線20Aの接続を突き合せ溶接で行うので、例えば接続端子などの接続用部材が不要であり、接続部30自体の径方向の寸法を押さえることができる。
さらに、接続部30が絶縁被覆体13の内部に収納されるため、第2電線20Aの他方端に例えばセンシング要素を設ける場合に、第1電線10Aの前端面10Eからセンシング要素までの寸法を短くできる。センシング要素を備える具体例については、後述する。
【0038】
<用途に応じた高応答化>
周囲の環境から保護するために、例えば金属製の保護管に収容される温度センサに電線接続体1Aが適用される場合、小径の保護管に温度センサを収容できる。そうすると、この保護管からの温度センサ要素への熱伝導が迅速に行われるので、高応答な温度測定が可能になる。電線接続体1Aは、温度センサ以外のセンシング要素に適用できるので、その場合でも高応答のセンシングが可能になる。
【0039】
<耐電圧性能向上>
電線接続体1Aは、芯線11と第2電線20Aとが突き合せで溶接、接合され、接続部30が絶縁被覆体13の内部に収納されている。したがって、接続部30の外周面は平坦であり突起がなく、また、接続端子もないので接続端子による凹凸もない。例えば、接続部30が絶縁被覆体13に収納されているため、外部環境と接続部30の絶縁距離が近接しにくくなくなるため、耐電圧性能が向上する。
【0040】
<接続部30の耐応力性向上>
接続部30が絶縁被覆体13の内部に収納されていることにより、外部からの応力が接続部30にかかりにくく、接続部30における断線などの危険性が低減される。
【0041】
[電線接続体1Aの製造方法が奏する効果]
次に、
図2~
図4を参照して説明した電線接続体1Aの製造方法が奏する効果を説明する。
<細線接合が容易>
本実施形態に係る製造方法によれば、ポケット12を取り囲む絶縁被覆体13がガイドとして機能するため、周囲に何もガイドとしての機能を有しないのと比べて、芯線11と第2電線20Aの位置合せが容易である。また、芯線11と第2電線20Aの線径が異なる場合であっても、その影響を小さくすることができる。したがって、導体および機能性素子の細線接合が容易に可能である。例えば0.10mm程度の線径の突き合わせによる接続ができる。
【0042】
<溶接作業の簡易化>
通常、線材同士のレーザ溶接では、接合のために2本の線材を高精度に突き合せることが必要だが、本製造方法によれば、絶縁被覆体13がガイドの役割をする。そのため、位置合せが容易となり、位置合せのための設備などを簡素化できる上で、溶接作業性が向上し、自動化も容易となる。
特に、線径の小さい電線の場合、接合のために2本の線材を突き合せる位置合わせがより困難となるため、本方法の有効性が増す。
また、接続部が絶縁被覆体の中に形成されるため、接続部の絶縁処理の手間が省ける。
【0043】
[第2実施形態:
図5,
図6,
図7,
図8]
次に、第2実施形態に係る電線接続体1Bを説明する。
第2実施形態に係る電線接続体1Bは、
図5に示すように、第1電線10Bと、第1電線10Bと電気的に接続される第2電線20Bと、を備える。第1電線10Bの芯線11と第2電線20Bの芯線21は、絶縁チューブ40の内部に収容される接続部30により機械的および電気的に接続される。電線接続体1Bは、接合される第1電線10Bおよび第2電線20Bの双方が芯線11,21および絶縁被覆体13,23を備えている。絶縁チューブ40は、第1電線10Bと第2電線20Bとは別体をなすものである。
第1電線10B、第2電線20Bは、第1実施形態の第1電線10A、第2電線20Aと同様の材料、構成を適用できるので、以下では電線接続体1Bの製造方法について説明する。
【0044】
[電線接続体1Bの製造方法:
図6,
図7,
図8]
電線接続体1Bの製造方法について、
図6、
図7および
図8を参照して、説明する。
この製造方法は、
図8に示すように、以下の工程を含む。
S201:第1電線、第2電線および絶縁チューブを位置合わせする工程
S203:第1電線の芯線を絶縁チューブへ挿入する工程
S205:第2電線の芯線を絶縁チューブへ挿入し、突き合せる工程
S207:突き合せ部にレーザを照射する工程
S209:レーザ照射された領域を凝固させる工程
以下、
図6および
図7を参照して、各工程をS201~S209の順で説明する。
【0045】
<第1,第2電線および絶縁チューブを位置合わせする工程(S201):
図6(a)>
はじめに、
図6(a)に示すように、第1電線10B、絶縁チューブ40および第2電線20Bのそれぞれの中心軸線Cの位置合わせをする。これは、以後の芯線11および芯線21の絶縁チューブ40への挿入を容易にするためである。この位置合わせ工程の前提として、以下の処理が行われる。
【0046】
第1電線10Bおよび第2電線20Bの一方の端部について、
図6(a)に示すように、絶縁被覆体13および絶縁被覆体23を剥ぎ取り、芯線11および芯線21を剥き出しにしておく。中心軸線Cの方向の剥き出しの量は任意であるが、絶縁チューブ40に芯線11および芯線21が挿入された後に、双方の前端面10E,20Eを突き合せる必要がある。したがって、芯線11および芯線21の剥き出し長さL11,L21と絶縁チューブ40の全長L40は、以下の式(1)の関係を有する。なお、電線接続体1Bは、
図5から明らかなように、式(2)の関係を有する。そうすれば、芯線11および芯線21を絶縁チューブ40で覆い隠すことができる。また、電線接続体1Bは、式(3)に示すように、芯線11の剥き出し長さL11と芯線21の剥き出し長さL21が等しい例として示されているが、長さL11と長さL21は異なっていてもよい。
L11+L21≧L40 … 式(1)
L11+L21=L40 … 式(2)
L11=L21 … 式(3)
【0047】
なお、絶縁チューブ40の代替としてテープ状の絶縁材料を巻き付けてもよい。
【0048】
<第1電線の芯線を絶縁チューブへ挿入する工程(S203):
図6(b)>
第1電線10B、第2電線20Bおよび絶縁チューブ40の位置合わせができたなら、
図6(b)に示すように、第1電線10Bの芯線11を絶縁チューブ40の内部に挿入する。挿入は、第1電線10Bの絶縁被覆体13が絶縁チューブ40に突き合せられるまで行われる。
【0049】
<第2電線の芯線を絶縁チューブへ挿入する工程(S205):
図6(c)>
第1電線10Bの芯線11が絶縁チューブ40に挿入されたなら、
図6(c)に示すように、第2電線20Bの芯線21を絶縁チューブ40の内部に挿入する。挿入は、第2電線20Bの絶縁被覆体23が絶縁チューブ40に突きあわせられるまで行われる。
電線接続体1Bにおいて、式(2)を充たすので、芯線11の前端面10Eと芯線21の前端面20Eは、絶縁チューブ40の内部で突き合せられる。なお、芯線11と芯線21が突き合せされるのは、絶縁チューブ40の全長L40の中間地点である。
【0050】
ここでは第1電線10B、第2電線20Bの順で絶縁チューブ40に挿入する例を説明したが、第2電線20B、第1電線10Bの順で挿入してもよいし、第1電線10Bと第2電線20Bを同時に挿入してもよい。
【0051】
<突き合せ部にレーザを照射する工程(S207):
図7(a)>
次に、
図7(a)に示すように、第1電線10Bの前端面10Eと第2電線20Bの前端面20Eの突き合せ部を含む領域にレーザLAを照射する。このレーザLAは、絶縁チューブ40を透過して芯線11および芯線21に至り、芯線11および芯線21を溶融させる。照射されるレーザLAのスポット径などの条件は、第1実施形態と同じでよい。
【0052】
<レーザ照射された部分を凝固/接合する工程:
図7(b)>
所定時間を経過したならレーザLAの照射を終える。溶融した芯線11および芯線21を構成する金属材料が冷えることで接続部30が形成され、電線接続体1Bが得られる。この電線接続体1Bは、接続部30が絶縁チューブ40の内部に配置されるとともに、芯線11および芯線21の剥き出しにされた部分が絶縁チューブ40に覆われることで外部に露出しない。絶縁チューブ40は、接続部30を内部に収容できるだけの全長を備えることが好ましい。
なお、絶縁チューブ40の代替としてテープ状の絶縁材料を巻き付けてもよい。
【0053】
[第2実施形態が奏する効果]
第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏するのに加えて、以下の効果を奏する。
第2実施形態によれば、芯線を備える電線同士であっても、絶縁チューブを用意するだけで、突き合せ溶接を実現できる。
また、第2実施形態によれば、絶縁被覆体13から剥き出しにされる芯線11および絶縁被覆体23から剥き出しにされる芯線21の全長が絶縁チューブ40の内部に収容されるので、他に絶縁被覆を用意する必要がない。
【0054】
[第3実施形態:
図9,
図10,
図11]
次に、第3実施形態に係る電線接続体1Cを説明する。
第3実施形態に係る電線接続体1Cは、
図10(d)に示すように、第1電線10Cと第2電線20Cとが接続部30により接続される。第1実施形態および電線接続体1Cは、電線の絶縁被覆の代わりに、レーザLAを透過させる治具50を用いて、第1電線10Cと第2電線20Cの突き合せ状態を維持しつつ、レーザLAを照射して溶接を行う。なお、電線接続体1Cはともに導電体からなる第1電線10Cと第2電線20Cが接続部30により接合される単純な形態であるため、その構成についての説明は省略し、第1電線10Cの製造方法の説明から始める。
【0055】
[電線接続体1Cの製造方法:
図9,
図10,
図11]
電線接続体1Cの製造方法について、
図9、
図10および
図11を参照して、説明する。
この製造方法は、
図11に示すように、以下の工程を含む。
S301:第1電線および第2電線を治具に対して位置合せする工程
S303:第1電線と第2電線を突き合せて、治具で固定する工程
S305:突き合せ部分にレーザを照射する工程
S307:レーザ照射された部分を凝固/接合する工程
S309:治具を取り除く工程
以下、
図9および
図10を参照して、各工程をS301~S309の順で説明する。
【0056】
<第1電線および第2電線を治具に対して位置合せする工程(S301):
図9(a)>
はじめに、
図9(a)に示すように、第1電線10Cおよび第2電線20Cを治具50に対して位置合せする。この位置合せは、第1電線10Cおよび第2電線20Cの中心軸線の位置を合わせるとともに、第1電線10Cの前端面10Eおよび第2電線20Cの前端面20Eが、治具50の範囲に収まるように、治具50の間隔が空けられた上型51と下型55の間に配置される。上型51および下型55の駆動源、駆動源と上型51および下型55を繋ぐ機構は任意であるため記載を省くが、上型51および下型55の少なくとも一方を昇降させることができれば、第3実施形態を実行できる。
【0057】
ここで、治具50について説明しておく。
治具50は、
図9(a)および
図9(b)に示すように、上型51と下型55を備える。
上型51は、型本体52と、型本体52の下型55と対向する面に設けられるキャビティ53と、を備える。キャビティ53は、第1電線10Cおよび第2電線20Cの外形に倣って、横断面の形状が円弧状をなしている。また、キャビティ53は、上型51の長手方向に貫通して形成されている。
下型55は、型本体56とキャビティ57を備えており、
図9(b)に示すように、上型51と同じ構造を有している。ただし、上下を反転させることで、上型51のキャビティ53と下型55のキャビティ57が対向するように配置される。
【0058】
上型51および下型55を構成する材料については、レーザLAを透過させることを考慮して選択される。例えば、
図9(b)にLA1と示すように、レーザが上型51の上方から照射されるものとすると、上型51はレーザLA1が透過する材料から構成されることが必要であるが、下型55はレーザLA1を透過しない材料で構成されてもよい。逆に、
図9(b)にLA2と示すように、レーザが下型55の下方から照射されるものとすると、下型55はレーザLA2が透過する材料から構成されることが必要であるが、上型51はレーザLA2を透過しない材料で構成されてもよい。さらに、
図9(b)に示すように、レーザLA3が上型51および下型55の側方から照射されるものとすると、上型51および下型55の両方がレーザLA3を透過する材料から構成される必要がある。ただし、この場合において、上型51および下型55のレーザLA3が直接的には照射されない領域については、レーザLA3を透過しない材料で構成されてもよい。
【0059】
<第1電線および第2電線を治具で固定する工程(S303):
図10(a)>
第1電線10Cおよび第2電線20Cを治具50に対して位置合せした後に、第1電線10Cの前端面10Eと第2電線20Cの前端面20Eを突き合せる。突き合せられる第1電線10Cと第2電線20Cは、上型51のキャビティ53と下型55のキャビティ57の投影面の範囲に配置される。第1電線10Cと第2電線20Cが突き合せた状態で、上型51と下型55の間隔がなくなるように、上型51および下型55の一方または双方を移動させる。これにより、第1電線10Cと第2電線20Cは治具50で固定され、レーザLAを照射する準備が整う。
【0060】
<突き合せ部分にレーザを照射する工程(S305):
図10(b)>
第1電線10Cおよび第2電線20Cを治具50で固定したならば、第1電線10Cと第2電線20Cの突き合せられた部分およびの近傍にレーザLAを照射して、第1電線10Cと第2電線20CにおけるレーザLAの照射領域およびその近傍を溶融する。この溶融部分が後に凝固することにより、第1電線10Cと第2電線20Cが接合される。
【0061】
<レーザ照射された部分を凝固/接合する工程(S307):
図10(c)>
所定時間を経過したならレーザLAの照射を終える。溶融した第1電線10Cおよび第2電線20Cを構成する金属材料が冷えて凝固することで、
図10(c)に示すように、接続部30が形成される。
【0062】
<S309:治具を取り除く工程(S309):
図10(d)>
接続部30が形成されたならば、上型51および下型55を第1電線10Cおよび第2電線20Cから後退させて、
図10(d)に示すように、治具50を取り除いて、電線接続体1Cを得る。
得られた電線接続体1Cについて、接続部30を含め第1電線10Cおよび第2電線20Cについて電気的な絶縁が必要な場合には、テープ状の絶縁材料(フッ素樹脂樹脂等)で被覆すればよい。
【0063】
[第3実施形態が奏する効果]
第3実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏するのに加えて、以下の効果を奏する。
第3実施形態によれば、絶縁被覆を備えていない電線同士であっても、治具50を用いることで、電線接続体1Cを得ることができる。
【0064】
[第4実施形態:
図12,
図13,
図14]
次に、第4実施形態について説明する。
第4実施形態は、ポケット12を形成する点で第1実施形態と同様であるとともに、第1実施形態で得られた電線接続体1Aと同様の構成を備える電線接続体1D(
図13(d))を得ることができる。ただし、第4実施形態はポケット12の形成方法が第1実施形態と異なる。以下、第4実施形態に係る電線接続体1Dの製造方法を説明する。
【0065】
[電線接続体1Dの製造方法:
図12,
図13,
図14]
電線接続体1Dの製造方法について、
図12、
図13および
図14を参照して、説明する。
この製造方法は、
図14に示すように、以下の工程を含む。
S401:第1電線に第1のレーザ照射をする工程
S403:レーザ照射により溶融された部分より先端側を取り除いて溶断する工程
S405:ポケットに第2電線の先端部を挿入する工程
S407:突き合せ部分に第2のレーザを照射する工程
S409:レーザ照射された部分を凝固/接合する工程
以下、
図12および
図13を参照して、各工程をS401~S411の順で説明する。
【0066】
<第1のレーザ照射をする工程(S401):
図12(a),(b),(c)>
第4実施形態において用意される第1電線10Dは、
図12(a)に示すように、芯線11が絶縁被覆体13の前端面13Eより露出している。露出する寸法は、後に行われる溶断の際に芯線11を掴んで引っ張ることができれば足りる。
芯線11が露出している第1電線10Dの絶縁被覆体13の上からレーザLAを照射する。レーザLAを照射するのは、
図12(b)に示すように、絶縁被覆体13の前端面13Eより第1電線10Dの後(B)に向けて所定距離だけ離れた位置である。この位置は、レーザLAの照射により溶融する部分が絶縁被覆体13の前端面13Eに達しないことが最低条件である。
レーザLAの照射により、
図12(c)に示すように、芯線11に溶融領域MPを形成する。この溶融領域MPは次の溶断の工程の起点となる。
【0067】
<溶融された部分より先端を取り除いて溶断する工程(S403):
図12(d)>
レーザLAを照射して溶融領域MPが形成されている最中に、絶縁被覆体13から露出する部分の芯線11を、
図12(d)に示すように、絶縁被覆体13を含む第1電線10Dを前(F)に向けて引っ張る。これにより、溶融領域MPより前(F)の部分を引き離して、芯線11を溶断する。その後、溶融領域MPに該当していたところは、冷えて凝固部SP,SPが形成される。絶縁被覆体13の内部は、引き離された芯線11が存在していたところは、ポケット12となる。このように、第4実施形態は、絶縁被覆体13に収容される芯線11を溶断することにより、ポケット12を形成する。
【0068】
<ポケットに第2電線を挿入する工程(S405):
図13(a),(b)>
第1電線10Aにポケット12が形成された後に、このポケット12に第1電線10Aの接合相手である第2電線20Aを挿入する。この挿入は、
図3(b)に示すように、第2電線20Aの前端面20Eが第1電線10Aの凝固部SPに突き合せるように行われる。
第2電線20Aの挿入、凝固部SPへの突き合せの過程で、ポケット12の周囲の絶縁被覆体13は第2電線20Aのガイドとして機能する。したがって、本実施形態によれば、第2電線20Aをポケット12に挿入してしまえば、第2電線20Aの前端面20Eと凝固部SPとの位置合せが容易である。なお、ここでは第1電線10Aの芯線11と第2電線20Aの外径(R11,R20)が同じ例を示しているが、第2電線20Aの外径(R20)が芯線11の外径(R11)よりも小さくても、ポケット12と絶縁被覆体13によるガイド機能は有効である。
【0069】
<第2のレーザ照射をする工程(S407):
図13(c)>
第2電線20Aの前端面20Eが第1電線10Aの凝固部SPに突き合せられたならば、
図3(b)に示すように、突き合せられた部分およびその近傍について、第2電線20Aと凝固部SPに第2のレーザLA2を照射する。第2のレーザLA2の照射により、第2電線20Aと凝固部SPのレーザ照射領域およびその近傍が溶融されることにより、後の凝固より第2電線20Aと芯線11が接合される。第2のレーザLA2は、第1のレーザLA1を踏襲すればよい。
【0070】
<レーザ照射された部分を凝固/接合する工程(S407):
図13(c),(d)>
所定時間を経過して第2のレーザLA2の照射を終えると、溶融した第2電線20Aと芯線11を構成する金属材料が冷えることで接続部30が形成され、電線接続体1Dが得られる。この電線接続体1Dは、接続部30が絶縁被覆体13の内部に配置される。
【0071】
[第4実施形態が奏する効果]
第4実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏するのに加えて、以下の効果を奏する。
第4実施形態によれば、
図13(d)に示すように、接続部30は、絶縁被覆体13の端面から内部に入ったところに配置される。これにより、絶縁被覆体13がガイドとなって、接続部30の形成を安定させることができる。また、仮に第2電線20Dが絶縁被覆体を有している場合に、電線接続体1Dの全体としての絶縁構造が取りやすくなる。つまり、第2電線20Dが絶縁被覆体を有している場合でも、接続部30は、第2電線20Dについては絶縁被覆体が存在しない状態にとなる。その絶縁被覆体がない部分を第1電線10Dの絶縁被覆体13の内部に挿入することが容易となり、接続体全体として、絶縁構造が取りやすくなる。
【0072】
[電線接続体1A~電線接続体1Dの用途例:
図15,
図16]
次に、第1実施形態~第4実施形態に係る電線接続体1A~電線接続体1Dの二つの具体的な用途例を説明する。ここで説明するのは、いずれも温度センサ素子に関するものである。
【0073】
<第1用途例(温度センサ素子100A):
図15>
第1用途例に係る温度センサ素子100Aは、
図15に示すように、検知体としての感熱体111と、感熱体111の周囲を覆うガラス製の保護層113と、感熱体111に電気的に接続される一対の電線接続体1A,1Aと、を備えている。
電線接続体1Aは、第1実施形態において説明したように、第1電線10Aと第2電線20Aを備える、第1電線10Aは、芯線11と、芯線11を覆う絶縁被覆体13と、を備え、この芯線11は撚線からなる。また、第2電線20Aは、絶縁被覆を有しない単線からなる。ただし、第2電線20Aは、第1電線10Aの芯線11に比べて線径が小さく、例えば、芯線11の線径(直径)が0.36mmに対して、第2電線20Aの線径は0.07mmである。
なお、温度センサ素子100Aにおいて、
図15に示すように、感熱体111が設けられる側を前Fと定義し、第1電線10Aが引き出される側を後Bと定義する。この定義は相対的なものとする。
【0074】
[感熱体111]
感熱体111は、例えば、サーミスタを用いることが好ましい。サーミスタはthermally sensitive resistorの略称であり、温度によって電気抵抗が変化する性質を利用して温度を検出する金属酸化物である。
サーミスタは、NTC(negative temperature coefficient)サーミスタとPTC(positive temperature coefficient)に区分されるが、本発明はいずれのサーミスタをも使用できる。
【0075】
[保護層113]
ガラス製の保護層113は、
図15に示すように、感熱体111を封止して気密状態に保持することによって、温度センサ素子100Aが用いられる周囲の環境条件に由来する感熱体111の化学的、物理的変化の発生を防止するとともに、感熱体111を機械的に保護する。
ガラス製の保護層113は、感熱体111の全体に加えて第2電線20A,20Aの前端を覆い、第2電線20A,20Aを封着する。
【0076】
[第1電線10A]
第1電線10Aは、
図15に示すように、導電体からなる芯線11と、芯線11を覆う絶縁被覆体13と、を備える。一対の第1電線10A,10Aは、2芯平行線、または単に平行線と称されている。第1電線10Aは、芯線11の部分が第2電線20Aと接続部30を介して溶接により接続される。
第1電線10Aの芯線11は、第2電線20Bのように線膨張係数の制約がなく、所定の耐熱性、耐久性を備えている限り、任意の材質を選択できる。
【0077】
[第2電線20A]
温度センサ素子100Aに適用される第2電線20Aは、
図15に示すように、図示を省略する感熱体111の電極に電気的に接続される。
第2電線20Aはガラス製の保護層113により封着されるため、線膨張係数がガラスと近いジュメット線(Dumet wires)が好適に用いられる。なお、ジュメット線は、鉄とニッケルを主成分とする合金を導電体である芯線として用い、そのまわりを銅で覆った電線である。
【0078】
[その他の付加的要素]
温度センサ素子100Aは、以上の要素以外の他の要素を備えることができる。
例えば、温度センサ素子100Aの主要部を覆う保護管と、温度センサ素子100Aと保護管の間に介在される充填体と、を備えることができる。
保護管は、好ましくは、熱伝導性の高い銅、銅合金から構成され、内部に収容される温度センサ素子100Aを周囲の雰囲気から保護することに加えて、周囲の雰囲気の温度を迅速に内部に伝える。
【0079】
<第2用途例(温度センサ素子100B):
図16>
第2用途例に係る温度センサ素子100Bは、
図16に示すように、感熱体111と、感熱体111の周囲を覆うガラス製の保護層113と、感熱体111に電気的に直に接続される一対の電線接続体1A,1Aと、を備えている。ここまでの要素は、温度センサ素子100Aと共通する。温度センサ素子100Bは、ガラス製の保護層113の後端側にセラミックス製の保護管115を備える。
【0080】
保護管115は、
図16に示すように、第2電線20Aが引き出される保護層113の後端部分と接合されることで、保護層113を機械的に補強し、電気的絶縁性と機械的強度を向上させる。
保護管115は、保護層113よりも機械的強度の高い、例えばアルミナ(Al
2O
3)、窒化ケイ素(Si
3N
4)等の焼結体から構成される。保護管115には、二つの第2電線20A,20Aのそれぞれが挿通される図示を省略する貫通孔が形成されている。
第2電線20Aは、一例として0.1~1.0mm程度の線径を有している。また、芯線11は、一例として0.5~2.0mm程度の線径を有する。
【0081】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に置き換えたりすることができる。
例えば、以上の実施形態では、温度センサ素子を適用対象としたが、本発明の電線接続体は他の対象についても適用が可能である。例えば、マイクロヒーター・発光体、振動子、マイクロモータなどに用いることも可能である。
【符号の説明】
【0082】
1A,1B,1C,1D 電線接続体
10A,10B,10C,10D 第1電線
11,21 芯線
12 ポケット
13,23 絶縁被覆体
20A,20B,20C,20D 第2電線
21 芯線
23 絶縁被覆
30 接続部
40 絶縁チューブ
50 治具
51 上型
52 型本体
53 キャビティ
55 下型
56 型本体
57 キャビティ
100A,100B 温度センサ素子
111 感熱体
113 保護層
【要約】
本発明の電線接続体1Aは、第1電線10Aと、第1電線10Aと電気的に接続される第2電線20Aと、第1電線10Aと第2電線20Aとを繋ぐ接続部30と、接続部30の周囲を覆う絶縁被覆体13と、を備える。接続部30は、第1電線10Aと第2電線20Aとの突き合せ溶接によるものである。