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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】スポーツ用下衣
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/00 20060101AFI20220510BHJP
   A41D 13/05 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
A41D13/00 115
A41D13/05 143
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022506700
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2021044011
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020217152
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西田 光治
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮介
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓之
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-105715(JP,A)
【文献】特開2017-008461(JP,A)
【文献】国際公開第2010/007986(WO,A1)
【文献】特開2013-139662(JP,A)
【文献】特開2004-300626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00
A41D 13/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腰部から少なくとも膝上までを被覆する伸縮性の本体生地を含み、身体にほぼ密着した状態で着用されるスポーツ用下衣であって、
前記本体生地の前部の股下部から横方向への延長線より下で膝より上の領域に強緊締部Aと、大腿の内股部に沿った領域に強緊締部Bを含むことを特徴とするスポーツ用下衣。
【請求項2】
前記強緊締部A及びBは、本体生地の裏面及び表面から選ばれる少なくとも一方に、本体生地の生地片及び本体生地とは別の生地片から選ばれる少なくとも一つの生地片が接着剤で接着されて構成されている請求項1に記載のスポーツ用下衣。
【請求項3】
前記本体生地は右側生地と左側生地と帯状生地を含み、胴体部分は前後の中央線で前記右側生地と左側生地がそれぞれ接続され、内股部は前記帯状生地を介在させて前記右側生地と左側生地が接続されている請求項1又は2に記載のスポーツ用下衣。
【請求項4】
前記強緊締部Aは大腿直筋の少なくとも中央部を覆う領域に配置され、前記強緊締部Bは内転筋群を覆う領域に配置される請求項1~3のいずれか1項に記載のスポーツ用下衣。
【請求項5】
前記強緊締部Aは、前記本体生地の前面部の股下部から横方向への延長線より下で膝より上の領域に配置され、前記強緊締部Bは大腿の内股部に沿った領域にそれぞれ独立に配置されている請求項1~4のいずれか1項に記載のスポーツ用下衣。
【請求項6】
前記強緊締部Aは、内腿側が長く、外腿側が短い台形ないしはこれに近似した矩形(但し、角は丸める)である請求項1~5のいずれか1項に記載のスポーツ用下衣。
【請求項7】
前記強緊締部Bは、前記強緊締部Aの内側辺に対応する大腿の内股部に沿った位置に、長さは前記内側辺と同じかあるいは内側辺±3cmとし、平行四辺形ないしはこれに近似した矩形(但し、角は丸める)である請求項1~6のいずれか1項に記載のスポーツ用下衣。
【請求項8】
前記生地片を接着させる接着剤は、ドット状又は部分的に配置したホットメルト接着剤である請求項に記載のスポーツ用下衣。
【請求項9】
前記本体生地はツーウエイ編物である請求項1~8のいずれか1項に記載のスポーツ用下衣。
【請求項10】
前記本体生地のJIS L 1096フラジール形通気性試験による空気通過量が50~250cm3/cm2・sであり、前記強緊締部A及びBの同空気通過量が0.5~10cm3/cm2・sである請求項1~9のいずれか1項に記載のスポーツ用下衣。
【請求項11】
前記スポーツ用下衣は、さらに骨盤周囲を覆う位置に強緊締部Cが配置されており、前記強緊締部Cは、後ろ側部分の中央幅が前側部分の中央幅より広く、かつ後ろ側部分の頂部は前側部分の頂部より高く、骨盤前傾を保持するように配置されている請求項1~10のいずれか1項に記載のスポーツ用下衣。
【請求項12】
前記スポーツ用下衣は、さらに後腿を覆う領域に強緊締部Eが配置されている、請求項1~11のいずれか1項に記載のスポーツ用下衣。
【請求項13】
前記スポーツ用下衣は、さらに外側広筋肉を覆う位置に強緊締部Dが配置されている請求項1~12のいずれか1項に記載のスポーツ用下衣。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスポーツ用下衣に関する。さらに好適にはマラソン、ランニング、ジョギング、散歩等のスポーツ用下衣に関する。
【背景技術】
【0002】
ランニング等のスポーツ用下衣は織物製の下衣、あるいは大臀部、太腿部、膝回り、ふくらはぎ部等の必要な筋肉に着圧パワーをかけたり、筋肉の振動を抑えたり、あるいは腰部を締めて姿勢制御する等の様々なコンプレッションタイプのタイツが知られている。従来例として、特許文献1には骨盤回りに強緊締部を配することにより、骨盤前傾をサポートさせるスポーツ用下衣が提案されている。本出願人は、部分的にパワー部位を配することにより、筋振動を抑制する運動用スパッツを提案し(特許文献2)、大腿部の着用感を良好にしつつ、ハムストリングスおよび内転筋を覆うように強緊締部を配し、筋振動を抑制する運動用衣服を提案し(特許文献3)、さらに骨盤回りに強緊締部を配することにより、骨盤前傾をサポートさせるスポーツ用下衣が提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-255247号公報
【文献】特開2011-226048号公報
【文献】特開2016-188449号公報
【文献】WO2019-172249号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献で提案されている下衣は、筋肉振動を抑えて運動パーフォーマンスを向上させることと、着用感を良好に保つことには問題があり、さらに改善が求められていた。
本発明は、前記従来の問題を解決するため、筋肉振動を抑えて運動パーフォーマンスを向上させ、着用感を良好に保つことが可能なスポーツ用下衣を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のスポーツ用下衣は、腰部から少なくとも膝上までを被覆する伸縮性の本体生地を含み、身体にほぼ密着した状態で着用されるスポーツ用下衣であって、前記本体生地の前部の股下部から横方向への延長線より下で膝より上の領域に強緊締部Aと、大腿の内股部に沿った領域に強緊締部Bを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、前記構成とすることにより、筋肉振動を抑えて運動パーフォーマンスを向上させ、着用感を良好に保つことが可能なスポーツ用下衣を提供できる。すなわち、運動時の大腿筋のうち、揺れやすくかつ揺れが収まるのが遅い筋肉部位を覆うように強緊締部を配置したことにより筋肉振動を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1Aは本発明の一実施例のスポーツ用下衣の正面図、図1Bは同背面図、図1Cは同側面図である。
図2図2Aは本発明の別の実施例のスポーツ用下衣の正面図、図2Bは同背面図である。
図3図3Aは本発明のさらに別の実施例のスポーツ用下衣の正面図、図3Bは同背面図である。
図4図4Aは本発明の一実施形態の足の筋肉の揺れやすい部位を示す正面図、図4Bは同右側側面図、図4Cは同背面図、図4Dは同左側側面図である。
図5図5Aは本発明の一実施形態の足の筋肉の揺れが収まるのが遅い部位を示す正面図、図5Bは同右側側面図、図5Cは同背面図、図5Dは同左側側面図である。
図6図6Aは本発明の一実施形態のヒトの走行時の皮膚の伸びの大きい部位を示す正面図、図6Bは同背面図である。
図7図7Aは本発明の一実施形態のヒトの走行時の皮膚の縮みの大きい部位を示す正面図、図7Bは同背面図である。
図8図8Aは本発明の一実施形態のホットメルト接着剤シートの正面図、図8Bは同拡大図である。
図9図9は本発明の一実施例の足の筋肉の加速度を示すグラフである。
図10図10は本発明の一実施例の足の筋肉の筋活動量を示すグラフである。
図11図11Aは従来例のスポーツ用下衣の正面図、図11Bは同右側側面図、図11Cは同背面図である。
図12図12は縫製仕様と接着仕様の生地の荷重-伸長率を示すグラフである。
図13図13A-Cは本発明の一実施例の衣服圧を測定する部所を示す説明図である。
図14図14は本発明の一実施例の衣服圧のデータを示すグラフである。
図15図15は本発明の一実施例の本体生地と生地片(接着生地)と強緊締部のタテ方向の荷重-伸長率を示すグラフである。
図16図16は本発明の一実施例の本体生地と生地片(接着生地)と強緊締部のヨコ方向の荷重-伸長率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のスポーツ用下衣は、腰部から少なくとも膝上までを被覆する伸縮性の本体生地を含む。すなわち、裾部は膝上から足首までの任意の箇所までのものであればよい。例えば膝上、膝下、脛部、足首までである。これにより、大腿部の運動パーフォーマンスを高く維持するとともに、気候に合わせて着用できる下衣とすることができる。この下衣は身体にほぼ密着した状態で着用される。身体にほぼ密着させるには、人体の標準の大きさに比べて胴回りは70~80%の大きさに形成するのが好ましい。身丈方向は身体とほぼ同一に形成するのが好ましい。
【0009】
本発明のスポーツ用下衣は、本体生地の前部の股下部から横方向への延長線より下で膝より上の領域の強緊締部A、及び大腿の内股部に沿った領域の強緊締部の強緊締部Bが配置されている。強緊締部Aは、大腿直筋の少なくとも中央部を覆う領域が好ましい。また、大腿の内股部に沿った領域の強緊締部Bの好ましい位置は、内転筋群を覆う領域である。これらの強緊締部A及びBは、筋肉が揺れやすくかつ揺れが収まるのが遅いため、これらの筋肉部位を覆うように強緊締部を配置することにより筋肉振動を抑える作用を発揮できる。
【0010】
前記強緊締部A及びBは、本体生地の裏面及び表面から選ばれる少なくとも一方に、本体生地の生地片及び本体生地とは別の生地片から選ばれる少なくとも一つの生地片が接着剤で接着されて構成されているのが好ましい。これにより縫製ラインを減少し、かつ不必要な部分は本体生地のままとしておくことにより、着用感を良好にできる。前記本体生地とは別の生地片は、本体生地と緊締力が同じでもよいし、異なってもよい。緊締力が異なる場合は、本体生地と緊締力が低くてもよいし高くてもよい。好ましくは、本体生地と緊締力が同じか又は高くする。強緊締部A及びBは、それぞれ独立に配置するのが好ましい。さらに、生地の接着だけでなく、部分的に織りを変える、加熱で溶ける糸を部分的に溶かす等の方法で強緊締部を形成することもできる。
【0011】
本発明のスポーツ用下衣の本体生地は、右側生地と左側生地と帯状生地を含み、胴体部分は前後の中央線で右側生地と左側生地をそれぞれ接続し、内股部は前記帯状生地を介在させて右側生地と左側生地を接続するのが好ましい。側部の身丈方向に縫製線がないのは、着用感を良好にするためである。内股部に帯状生地を介在させるのは、帯状生地の領域内に生地片を接着して強緊締部とするためである。
【0012】
前記生地片を接着させる接着剤は、ドット状又は部分的に配置したホットメルト接着剤が好ましい。例えば、ホットメルト接着剤をスクリーンプリントによってドット状又は部分的に配置することができる。平面から見て、10~30%程度、好ましくは15~25%程度の空隙率があると、通気性と接着性を満足するうえ、剥離しにくいことから好ましい。剥離しにくいのは、応力がかかった時、生地本体及び生地片が応力を吸収するからである。
【0013】
前記本体生地はツーウエイ編物が好ましく、例えば10%伸長時の荷重はタテ0.3~3N、ヨコ0.2~1Nが好ましい。前記の範囲であれば着用感に優れる。また、激しい運動である場合は、編み物でないと伸びが不十分となる。生地片(接着生地)の10%伸長時の荷重はタテ3~10N、ヨコ2~10Nが好ましい。本体生地と生地片(接着生地)を貼り合わせた強緊締部の10%伸長時の荷重はタテ10~35N、ヨコ10~30Nが好ましい。前記の範囲であれば筋肉振動を抑えるのに有効である。10%伸長時の荷重はタテヨコともに、本体生地<生地片(接着生地)<強緊締部となる関係が好ましい。
【0014】
前記本体生地のJIS L 1096フラジール形通気性試験による空気通過量は50~250cm/cm・sが好ましく、より好ましくは70~150cm/cm・sである。前記強緊締部の同空気通過量は0.5~10cm/cm・sが好ましく、より好ましくは1~8cm/cm・sである。前記の空気通過量であれば、着用感を良好に保てる。また、強緊締部を配置する部分は筋肉を良く使う部分であるため、その部分の通気性を低くすることで冷えにくくすることができ、寒冷期の運動能力の低下を抑制できる。
【0015】
強緊締部Cは、さらに骨盤周囲を覆い、後側部分の中央幅が前側部分の中央幅より広く、かつ後ろ側部分の頂部は前側部分の頂部より高く、骨盤前傾を保持するように腰回りに配置されているのが好ましい。この強緊締部Cにより、骨盤を前傾させ、ランニングに好適な姿勢を保持できる。
【0016】
強緊締部Dは、さらに外側広筋肉を覆う位置にも配置されているのが好ましい。この強緊締部Dにより、さらに大腿部の運動パーフォーマンスを高く維持できる。また大腿四頭筋付近に配置される強緊締部Aと強緊締部Dとの組み合わせにより、走行時に大腿が後方に流されることを抑制することができる。
【0017】
本発明のスポーツ用下衣は、強緊締部A-Dに段階的に着圧が異なるように接着生地を配置することもできる。段階的に着圧が異なるように接着生地を配置するには、面積当たりの接着剤の密度を変える、すなわち空隙率を変えることにより制御できる。一例として、強緊締部A>B>C>Dのように着圧を異ならせることもできるし、各強緊締部の中で着圧を異ならせることもできる。
【0018】
前記本体生地及び接着生地の単位面積当たりの質量(目付)は、それぞれ40~200g/m2であるのが好ましく、さらに好ましくは110~130g/m2である。目付が前記の範囲であれば軽量であり、スポーツ用下衣として好適である。
【0019】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において同一符号は同一物を示す。図1Aは本発明の一実施例のスポーツ用下衣1の正面図、図1Bは同背面図、図1Cは同側面図である。このスポーツ用下衣1は、本体生地が右側本体生地2aと左側本体生地2bと帯状本体生地2cを含む。胴体部分は前後の中央線で右側本体生地2aと左側本体生地2bがそれぞれ接続し、内股部は帯状本体生地2cを介在させて右側本体生地2aと左側本体生地2bが接続されている。側部の身丈方向には縫製線がない。本体生地(2a,2b,2c)の前部の股下部3から横方向への延長線より下で膝より上の領域に強緊締部A(4a,4b)、及び大腿の内股部に沿った領域に強緊締部B(5a,5b)を配置している。この強緊締部A及びBは、本体生地の裏面ないし表面に、本体生地よりも高い緊締力を有する生地片(接着生地)を接着剤で接着して構成されている。好ましくは本体生地の裏面に生地片(接着生地)を接着剤で接着する。本体生地の上端にはベルト部7があり、紐8も挿入されていて、身体の胴体に固定される。
【0020】
日本スポーツ工業協会が定めたサイズ規格(JASPO)のLサイズで強緊締部A(4a,4b)の好ましい位置は次のとおりである。
(1)上限は股下部3から横方向への延長線から下にL1:30~70mm、好ましくは40~60mm離れた位置。
(2)下限は股下部3から横方向への延長線から下にL2:150~190mm、好ましくは160~180mm離れた位置。
(3)内側の境界は下衣を正面に向けた状態で、内側端からL3:5~25mm、好ましくは10~20mm離れた位置。
(4)外側の境界は前記下衣を正面に向けた状態で、外側端からL4:35~65mm、好ましくは45~55mm離れた位置。
(5)以上の強緊締部A(4a,4b)は、内腿側が長く、外腿側が短い台形ないしはこれに近似した矩形(但し、角は丸める)が好ましい。とくに台形が好ましい。
強緊締部B(5a,5b)の好ましい位置は、強緊締部A(4a,4b)の内側辺に対応する大腿の内股部に沿った位置が好ましく、長さは前記内側辺と同じかあるいは内側辺±3cmが好ましい。これ以上長い、足が開きにくく、運動の妨げになる傾向となる。強緊締部Bの形状は、平行四辺形ないしはこれに近似した矩形(但し、角は丸める)が好ましい。
【0021】
図1A-Cに示すように、強緊締部C(6)は、さらに骨盤周囲を覆い、後側部分の中央幅L6が前側部分の中央幅L5より広く、かつ後側部分の頂部は前側部分の頂部より高くし、骨盤前傾を保持するように配置するのが好ましい。
【0022】
図2Aは本発明の別の実施例のスポーツ用下衣10の正面図、図2Bは同背面図である。図1A-Cに示すスポーツ用下衣1と異なる点は、外腿(外側広筋)を覆う領域にも生地片を接着し、強緊締部D(9a,9b,9c,9d)を形成したことである。これにより外腿(外側広筋)の筋振動を抑制できる。強緊締部D(9a,9b,9c,9d)は外下側に向けて10~45°の角度で傾斜させて形成するのが好ましい。
【0023】
図3Aは本発明のさらに別の実施例のスポーツ用下衣11の正面図、図3Bは同背面図である。図1A-Cに示すスポーツ用下衣1と異なる点は、後腿(ハムストリングス)を覆う領域にも生地片を接着し、強緊締部E(12a,12b)を形成したことである。これにより、前記スポーツ用下衣1よりも筋振動を抑制することが期待できる。股関節屈曲時の皮膚伸びが大きい部位への生地接着は避け、かつ全体として螺旋状にサポートライン13が入るため、脚上げ時の不快感を生じることなく、股関節外旋抑制(内旋サポート、ガニ股になるのを防ぐ)の効果も期待できる。
【0024】
図4Aは本発明の一実施形態の足の筋肉の揺れやすい部位を示す正面図、図4Bは同右側側面図、図4Cは同背面図、図4Dは同左側側面図である。ドットの濃い部分ほど筋肉が揺れやすい身体部位を示している。丸印の部分はとくに筋肉が揺れやすい身体部位である。
【0025】
図5Aは本発明の一実施形態の足の筋肉の揺れが収まるのが遅い部位を示す正面図、図5Bは同右側側面図、図5Cは同背面図、図5Dは同左側側面図である。ドットの薄い部分ほど筋肉が揺れの収まるのが遅い身体部位を示している。丸印の部分はとくに筋肉が揺れの収まるのが遅い身体部位である。
なお、足の筋肉の揺れやすい部位および揺れが収まりやすい部位は、例えば、以下の方法により測定することができる。
まず、右大腿24点、右下腿24点の計48点に加速度計(1軸)を貼付した状態で、右下肢が十分に脱力できるように脚立上に乗せた左足及び上肢で姿勢を保たせる。次に、加速度計の遠位2cm付近をインパルスハンマーで打撃して加速度応答を計測する。この計測は各部位5回ずつ行う。計測した加速度は100Hzのローパスフィルターをかけてノイズ処理する。そして、入力ピーク(F;kgf)および加速度ピーク(a;m/s)、を算出する。この加速度ピークを入力ピークで除することで、伝達関数として筋肉のイナータンス(イナータンス=a/F)を求める。このイナータンスが高いほど筋肉が揺れやすく、低いほど筋肉が揺れにくい。また入力後に出現する最大ピークの減衰率と2番目のピークの減衰率から対数減衰率(δ=ln(1stPeak/2ndPeak))を求める。この対数減衰率が低いほど筋肉の揺れが収まるのが遅く、高いほど筋肉の揺れが収まるのが早い。
図1A-Cに示すスポーツ用下衣1は、図4A-B及び図5A-Bに示す丸印、すなわち、揺れやすく、かつ揺れが収まるのが遅い部位を覆うように、生地片を本体生地の裏面に接着して強緊締部A,Bとしている。
【0026】
図6Aは本発明の一実施形態のヒトの走行時の皮膚の伸びの大きい部位を示す正面図、図6Bは同背面図である。ドットの濃いほど皮膚の伸びが大きい部位を示している。
図7Aは本発明の一実施形態のヒトの走行時の皮膚の縮みの大きい部位を示す正面図、図7Bは同背面図である。ドットの薄いほど皮膚の縮みが大きい部位を示している。
なお、皮膚の伸びが大きい部位および縮みが大きい部位は、動作時の身体セグメント情報から身体3次元CGモデルを作成することにより算出することができる。具体的には特許第3831348号明細書に記載の方法を適用できる。
本発明においては、着用感を良くするため、皮膚伸びの大きい部位および皮膚縮みの大きい部位を避けるように強緊締部A,Bを設けた。
【0027】
図8Aは本発明の一実施形態のホットメルト接着剤プリント意匠シートの正面図、図8Bは同拡大図である。この例は、Y字形を組み合わせた接着剤プリント意匠シートであり、寸法は図6Bに示すタテL7が20mm、ヨコL8が25mmである。塗布率は82%、空隙率は18%である。これにより、通気性と接着性を満足させ、剥離しにくい利点がある。剥離しにくいのは、応力がかかった時、生地本体及び生地片が応力を吸収するからである。このホットメルト接着剤プリント意匠シートは、等方性の伸縮性がある。
【実施例
【0028】
以下実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
(実施例1)
本体生地は、ポリウレタン弾性糸を芯とし、ナイロンマルチフィラメント糸を巻き付けて被覆したカバーリングヤーンを編糸にしたツーウエイ編物(質量190g/m)を使用した。
生地片(接着生地)は、ポリウレタン弾性糸を芯とし、ナイロンマルチフィラメント糸を巻き付けて被覆したカバーリングヤーンを経糸と緯糸にしたツーウエイ織物(質量120g/m)を使用した。この生地片(接着生地)は、図8に示すホットメルト接着剤プリント意匠シートである。
この生地片(接着生地)を所定形状にカットして本体生地に175℃で30秒間加熱加圧して接着した。本体生地と、生地片(接着生地)と、強緊締部の10%伸長時の荷重は表1、図15及び図16に示す通りであった。
【0029】
【表1】
【0030】
以上の強緊締部A,Bを含む本体生地を用いて図1A-Cに示すスポーツ用下衣1を作成した。強緊締部Aの形状は台形に近似した矩形(但し、角は丸めた)であり、Lサイズ(JASPO)の例で下記のように配置した。
(1)上限は股下部3から横方向への延長線から下にL1:50mm離れた位置。
(2)下限は股下部3から横方向への延長線から下にL2:173mm離れた位置。
(3)内側の境界は下衣を正面に向けた状態で、内側端からL3:15mm離れた位置。
(4)外側の境界は前記下衣を正面に向けた状態で、外側端からL4:50mm離れた位置。
(5)内腿側の辺125mm、外腿側の辺55mm、上側幅102mm、下側幅95mmとした。強緊締部Bの形状は平行四辺形に近似した矩形(但し、角は丸めた)であり、各長辺125mm,上側幅45mm,下側幅35mmとした。
前記本体生地のJIS L 1096フラジール形通気性試験による空気通過量は123cm/cm・sであり、前記強緊締部A,Bの同空気通過量は3.29cm/cm・sであった。
このようにして得られたスポーツ用下衣1のLサイズ(JASPO)の全体の寸法は静置状態で身丈420mm、腰幅325mm、重量は115gであった。大きさは、Lサイズ(JASPO)の人体の標準の大きさに比べて胴回りは75%、大腿回りは65%に形成した。
【0031】
(比較例1)
比較例1として市販のサポート機能のない生地のハーフタイツを使用した。
【0032】
実施例1で得られたスポーツ用下衣1と、比較例1の市販のサポート機能のない生地のハーフタイツを使用して、着用試験をした。着用試験条件は次のとおりである。
被験者:20歳台の男性
測定:筋電図と加速度を大腿直筋、大内転筋、大腿二頭筋長頭の箇所で測定。
順序:トレッドミルを使用して、慣らし 14km/h,5分間走行、休憩20分間、比較例1のハーフパンツを着用して14km/h,10分間走行、休憩20分間、実施例1のパンツを着用して14km/h,10分間走行
結果:下記表2、図9図10に示すように、実施例1のパンツは筋振動が抑制され(図9)、筋活動量が減少した(図10)。
【0033】
【表2】
【0034】
(比較例2)
比較例2として前記特許文献4のハーフパンツを使用した。図11Aは特許文献4のハーフパンツの正面図、図11Bは同右側側面図、図11Cは同背面図である。このハーフパンツは縫製によって腰回りを強緊締部としている。
【0035】
実施例1のパンツ生地(接着仕様)と比較例2のパンツ生地(縫製仕様)の荷重-伸長率を示すグラフを図12に示す。図12から明らかなとおり、実施例1のパンツ生地(接着仕様)は伸びが大きいことが確認できた。伸びが大きいと着用感は良好となり、運動動作の妨げにもならないという利点がある。
【0036】
(実施例2~3、比較例3~4)
実施例2として図2A-Bに示すハーフパンツを使用した。生地及び生地片(接着生地)は、実施例1と同一の生地とホットメルト接着剤プリント意匠シートを使用した。
実施例3として図3A-Bに示すハーフパンツを使用した。生地及び生地片(接着生地)は、実施例1と同一の生地とホットメルト接着剤プリント意匠シートを使用した。
比較例3として市販品のサポート機能のあるハーフタイツを使用した。
比較例4として前記特許文献3の図1に示すパンツ(但しハーフパンツ)を使用した。
以上のハーフパンツを着用して、図13A-Cに示す位置の衣服圧を測定した。衣服圧は、衣服圧測定用装置(エイエムアイ・テクノ社製、品名「接触圧測定器AMI3032-2(2B)」)を用いて測定した。
各衣服圧測定位置は次のとおりである。
14:前腿下
15:前腿上
16:内腿
17:外腿
18:後腿
表3及び図14に実施例1~3、比較例3~4のハーフパンツの各測定位置の衣服圧を示す。衣服圧の単位のmVは、100mV=1kPa=10hPaとなる。
【0037】
【表3】
【0038】
表3及び図14から明らかなとおり、衣服圧の前腿下と前腿上を比較すると、実施例1は5.6倍、実施例2は3.7倍、実施例3は4.0倍の衣服圧があった。これに対して比較例3は1.4倍、比較例4は1.8倍であり、実施例1~3は優位性が認められた。
また実施例1~3の内腿と外腿の衣服圧を比べるとほぼ同一か高く、比較例3~4の内腿と外腿の衣服圧に比べて、優位性が認められた。
【0039】
(実施例4)
実施例2において、強緊締部位に接着する生地片として、実施例1と同一の生地片(織物)を使用し、この生地片の片面にホットメルト接着シートを積層し生地に貼り付けてハーフパンツとした。前腿部、内腿部、腹部の衣服圧は表4に示す。
【0040】
(実施例5)
実施例2において、強緊締部位に接着する生地片として、本体生地と同じニット(編物)を生地片とし、片面にホットメルト接着シートを積層し生地に貼り付けてハーフパンツとした。前腿部、内腿部、腹部の衣服圧は表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
表4から明らかなとおり、強緊締部位に接着する生地片は、本体生地と緊締力が同じ(実施例5)又は高くする(実施例4)のが好ましかった。また、実施例4よりも実施例5の方が各部所の衣服圧が高いのは、ニット(編物)生地ほうが、織物生地よりも厚みがあるためである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のスポーツ用パンツは、ランニング、マラソン、ジョギング、トレイルラン、散歩、登山等の下衣として好適であるほか、様々なスポーツにも好適である。とくにマラソンを含むランニング用下衣として好適である。
【符号の説明】
【0044】
1,10,11 スポーツ用下衣
2a 右側本体生地
2b 左側本体生地
2c 帯状本体生地
3 股下部
4a,4b 強緊締部A
5a,5b 強緊締部B
6 強緊締部C
7 ベルト部
8 紐
9a,9b,9c,9d 強緊締部D
12a,12b 強緊締部E
13 サポートライン
【要約】
腰部から少なくとも膝上までを被覆する伸縮性の本体生地(2a,2b,2c)を含み、身体にほぼ密着した状態で着用されるスポーツ用下衣(1)であって、本体生地(2a,2b)の前部の股下部から横方向への延長線より下で膝より上の領域に強緊締部A(4a,4b)と、大腿の内股部に沿った領域に強緊締部B(5a,5b)を含む。強緊締部A及びBは、本体生地の裏面ないし表面に、本体生地の生地片又は本体生地とは別の生地片が接着剤で接着して形成してもよい。これにより、筋肉振動を抑えて運動パーフォーマンスを向上させ、着用感を良好に保つことが可能なスポーツ用下衣を提供する。
図1
図2
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図16