(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】切削インサート
(51)【国際特許分類】
B23C 5/06 20060101AFI20220511BHJP
B23C 5/20 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B23C5/06 A
B23C5/20
(21)【出願番号】P 2018558928
(86)(22)【出願日】2017-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2017042999
(87)【国際公開番号】W WO2018123421
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-07-21
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/088913
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 雄介
(72)【発明者】
【氏名】金田 泰幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 敦彦
(72)【発明者】
【氏名】福山 奉章
(72)【発明者】
【氏名】長見 佳成
(72)【発明者】
【氏名】森崎 優太
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-085319(JP,U)
【文献】実開昭61-163116(JP,U)
【文献】特開昭54-124381(JP,A)
【文献】特開昭60-071105(JP,A)
【文献】実開昭62-032709(JP,U)
【文献】特開2001-269808(JP,A)
【文献】特開2006-082168(JP,A)
【文献】特表2010-524709(JP,A)
【文献】特開2014-087881(JP,A)
【文献】特開2016-093860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
B23B 51/00-51/14
B23C 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、
前記第1面と反対側にある第2面と、
前記第1面及び前記第2面の双方と連なる側面と、
前記第1面と前記側面との稜線により構成される切れ刃とを備え、
前記第1面は、前記切れ刃と連なるすくい面を有し、
前記切れ刃は、コーナ切れ刃と、前記コーナ切れ刃の第1端部に連なるサラエ刃と、前記コーナ切れ刃の前記第1端部と反対側の第2端部に連なる主切れ刃とを有し、
前記すくい面は、前記サラエ刃と連なる第1すくい面部と、前記主切れ刃と連なる第2すくい面部と、前記コーナ切れ刃と連なり、かつ前記第1すくい面部と前記第2すくい面部との間にある第3すくい面部とを有し、
前記すくい面には、前記第2すくい面部又は前記第3すくい面部において、前記主切れ刃と交差する方向に延在する段差部が設けられ、
前記段差部は、立ち上がり面と、前記コーナ切れ刃に近い側において前記立ち上がり面に隣接する第1領域と、前記コーナ切れ刃から遠い側において前記立ち上がり面に隣接する第2領域とにより構成され、
前記立ち上がり面は、前記第1領域から立ち上がり、前記第2領域に連なり、
前記立ち上がり面の前記第2面に対する傾斜角は、前記コーナ切れ刃から離れるにつれて大きくなり、
前記主切れ刃は、第1主切れ刃部と、第2主切れ刃部と、前記コーナ切れ刃に連なる第3主切れ刃部とを含み、
前記第1主切れ刃部は、前記第3主切れ刃部と第1境界部において連なり、かつ前記第1境界部から立ち上がり第2境界部において前記第2主切れ刃部に連なる、切削インサート。
【請求項2】
前記主切れ刃に連なる前記側面に垂直な方向からみて、前記第2端部は、前記第2境界部よりも高さが低い、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記段差部は、前記主切れ刃と交差する、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記段差部は、前記主切れ刃と交差しない、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記主切れ刃の延在方向と前記段差部の延在方向とがなす角度は、平面視において1°以上90°以下である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の切削インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削インサートに関する。本出願は、2016年12月27日に出願した国際特許出願であるPCT/JP2016/088913に基づく優先権を主張する。当該国際特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2015/174200号(特許文献1)には、フライス加工用の切削インサートが記載されている。特許文献1に記載の切削インサートは、主切れ刃と、主切れ刃に連なるすくい面とを有している。特許文献1に記載の切削インサートにおいては、すくい面の主切れ刃に対する傾斜角は、主切れ刃の延在方向においてほぼ一定となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る切削インサートは、第1面と、第1面と反対側にある第2面と、第1面及び第2面の双方と連なる側面と、第1面と側面との稜線により構成される切れ刃とを備える。第1面は、切れ刃と連なるすくい面を有する。切れ刃は、コーナ切れ刃と、コーナ切れ刃の第1端部に連なるサラエ刃と、コーナ切れ刃の第1端部と反対側の第2端部に連なる主切れ刃とを有する。すくい面は、サラエ刃と連なる第1すくい面部と、主切れ刃と連なる第2すくい面部と、コーナ切れ刃と連なり、かつ第1すくい面部と第2すくい面部との間にある第3すくい面部とを有する。すくい面には、第2すくい面部又は第3すくい面部において、主切れ刃と交差する方向に延在する段差部が設けられる。段差部は、立ち上がり面と、コーナ切れ刃に近い側において立ち上がり面に隣接する第1領域と、コーナ切れ刃から遠い側において立ち上がり面に隣接する第2領域とにより構成される。立ち上がり面は、第1領域から立ち上がり、第2領域に連なる。主切れ刃は、第1主切れ刃部と、第2主切れ刃部と、コーナ切れ刃に連なる第3主切れ刃部とを含む。第1主切れ刃部は、第3主切れ刃部と第1境界部において連なり、かつ第1境界部から立ち上がり第2境界部において第2主切れ刃部に連なる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る切削インサートの斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る切削インサートの平面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る切削インサートを用いた切削加工を示す模式図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係る切削インサートを用いた切削加工における切屑の挙動を示す模式図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係る切削インサートの拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示の解決しようとする課題]
特許文献1に記載の切削インサートを用いて工作物の切削加工を行う際、工作物の加工面に擦過痕が残る場合があった。本開示は、工作物の加工面に擦過痕が残ることを抑制する切削インサートを提供するものである。
【0007】
[本開示の効果]
本開示に係る切削インサートによると、工作物の加工面に擦過痕が残ることを抑制することができる。
【0008】
[本開示の実施形態の概要]
まず、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0009】
(1)本開示に係る切削インサートは、第1面と、第1面と反対側にある第2面と、第1面及び第2面の双方と連なる側面と、第1面と側面との稜線により構成される切れ刃とを備える。第1面は、切れ刃と連なるすくい面を有する。切れ刃は、コーナ切れ刃と、コーナ切れ刃の第1端部に連なるサラエ刃と、コーナ切れ刃の第1端部と反対側の第2端部に連なる主切れ刃とを有する。すくい面は、サラエ刃と連なる第1すくい面部と、主切れ刃と連なる第2すくい面部と、コーナ切れ刃と連なり、かつ第1すくい面部と第2すくい面部との間にある第3すくい面部とを有する。すくい面には、第2すくい面部又は第3すくい面部において、主切れ刃と交差する方向に延在する段差部が設けられる。段差部は、立ち上がり面と、第1領域と、第2領域とにより構成される。第1領域は、コーナ切れ刃に近い側において立ち上がり面に隣接する。第2領域は、コーナ切れ刃から遠い側において立ち上がり面に隣接する。立ち上がり面は、第1領域から立ち上がり、第2領域に連なる。主切れ刃は、第1主切れ刃部と、第2主切れ刃部と、コーナ切れ刃に連なる第3主切れ刃部とを含む。第1主切れ刃部は、第3主切れ刃部と第1境界部において連なり、かつ第1境界部から立ち上がり第2境界部において第2主切れ刃部に連なる。
【0010】
上記(1)の切削インサートによると、工作物の加工面に擦過痕が残ることを抑制することができる。
【0011】
(2)上記(1)の切削インサートにおいて、主切れ刃に連なる側面に垂直な方向からみて、第2端部は、第2境界部よりも高さが低くてもよい。上記(2)の切削インサートによると、工作物の加工面に擦過痕が残ることを抑制することができる。
【0012】
(3)上記(1)の切削インサートにおいて、段差部は、主切れ刃と交差していてもよい。上記(3)の切削インサートによると、工作物の加工面に擦過痕が残ることをさらに抑制することができる。
【0013】
(4)上記(1)の切削インサートにおいて、段差部は、主切れ刃と交差していなくてもよい。上記(4)の切削インサートによると、工作物の加工面の荒れを抑制することができる。
【0014】
(5)上記(1)~(4)の切削インサートにおいて、主切れ刃の延在方向と段差部の延在方向とがなす角度は、平面視において1°以上90°以下であってもよい。
【0015】
上記(5)の切削インサートによると、工作物の加工面に擦過痕が残ることをさらに抑制することができる。
【0016】
(6)上記(1)~(5)の切削インサートにおいて、主切れ刃は、第1部分と、第2部分とを含んでいてもよい。第1部分は、第2端部側に位置する。第2部分は、第2端部とは反対側に位置し、第1部分から離れるにしたがい第1部分の延長線から離れるように湾曲する。サラエ刃と段差部との距離は、サラエ刃と第1部分の第2部分側の端との距離の0.5倍以下であってもよい。
【0017】
上記(6)の切削インサートによると、工作物の加工面に擦過痕が残ることをさらに抑制することができる。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の実施形態の詳細について、図面を参照して説明する。なお、以下の図面において同一又は相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0019】
(第1実施形態)
以下に、第1実施形態に係る切削インサート100の構成について説明する。
【0020】
図1は、第1実施形態に係る切削インサートの斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る切削インサートの平面図である。
図3は、
図2の領域IIIの拡大平面図である。
【0021】
図1~
図3に示すように、第1実施形態に係る切削インサート100は、第1面1と、第2面2と、貫通穴3と、側面4と、切れ刃5とを有していてもよい。
【0022】
第2面2は、第1面1の反対側の面である。第1面1及び第2面2の各々は、直角コーナ(又は鋭角コーナ)と鈍角コーナとを交互に有する略多角形(略六角形)である。
【0023】
第1面1は、すくい面11と着座面12とを有している。すくい面11は、後述する切れ刃5に連なっている。着座面12は、すくい面11に対して切れ刃5と反対側にある。着座面12は、平面形状を有している。
【0024】
貫通穴3は、第1面1から第2面2に向かって、第1実施形態に係る切削インサート100を貫通している。
【0025】
側面4は、第1面1及び第2面2の双方に連なっている。切れ刃5は、第1面1と側面4との稜線により構成されている。切れ刃5は、例えば略六角形状の第1面1における3箇所のコーナに設けられている。
【0026】
切れ刃5は、コーナ切れ刃51と、サラエ刃52と、主切れ刃53とを有している。コーナ切れ刃51は、第1面1のノーズR部に配置されている。コーナ切れ刃51は、第1端部C1と、第2端部C2とを有している。第1端部C1及び第2端部C2において、切れ刃5の形状は、平面視において、曲線状から直線状に変化している。第2端部C2は、第1端部C1とは反対側に位置している。サラエ刃52は、第1端部C1において、コーナ切れ刃51に連なっている。主切れ刃53は、第2端部C2において、コーナ切れ刃51に連なっている。
【0027】
主切れ刃53は、第1部分53aと、第2部分53bとを有している。第1部分53aは、第2端部C2側に位置している主切れ刃53の部分である。サラエ刃52と第1部分53aの第2端部C2と反対側の端(第1部分53aの第2部分53b側の端)との距離は、距離L1である。
【0028】
第2部分53bは、第2端部C2と反対側に位置している主切れ刃53の部分である。第2部分53bは、第1部分53aから離れるにしたがい、第1部分53aの延長線(
図3中において点線により示されている)から離れるように湾曲している。
【0029】
すくい面11は、第1すくい面部11aと、第2すくい面部11bと、第3すくい面部11cとを有している。第1すくい面部11aは、サラエ刃52に連なっている。第2すくい面部11bは、主切れ刃53に連なっている。第3すくい面部11cは、コーナ切れ刃51に連なっている。第3すくい面部11cは、第1すくい面部11aと第2すくい面部11bとの間に配置されている。
【0030】
すくい面11には、段差部11dが設けられている。段差部11dは、第2すくい面部11b又は第3すくい面部11cに設けられている。段差部11dは、主切れ刃53と交差する方向に延在している。段差部11dは、主切れ刃53と交差していてもよい。段差部11dは、主切れ刃53と交差していなくてもよい。
【0031】
主切れ刃53の延在方向と段差部11dの延在方向とは、平面視において角度θをなしている。角度θは、1°以上90°以下であることが好ましい。角度θは、45°以上90°以下であることがさらに好ましい。
【0032】
なお、角度θが1°以上90°以下(45°以上90°以下)であるとは、主切れ刃53が設けられている側の側面4が右方を向き、かつサラエ刃52が設けられている側の側面4が下方を向いた状態において、段差部11dの延在方向が主切れ刃53に対して時計回りに1°以上90°以下(45°以上90°以下)回転していることをいう。
【0033】
サラエ刃52と段差部11dの主切れ刃53側の端との距離は、距離L2である。距離L2は、距離L1の0.5倍以下であることが好ましい。距離L2は、距離L1の0.3倍以下であることがさらに好ましい。
【0034】
図4は、
図3のIV-IV断面における断面図である。なお、IV-IV断面は、サラエ刃52に平行な方向における第1端部C1及び第2端部C2の中点を通り、かつ主切れ刃53に平行な断面である。
図5は、
図4の領域Vの拡大図である。
図4及び
図5に示すように、段差部11dは、第1領域11eと、第2領域11fと、立ち上がり面11gとにより規定されている。第1領域11eは、コーナ切れ刃51に近い側において立ち上がり面11gに隣接している。第2領域11fは、コーナ切れ刃51から遠い側において立ち上がり面11gに隣接している。立ち上がり面11gは、第1領域11eから立ち上がり、第2領域11fに連なっている。
【0035】
第1領域11eは、第3すくい面部11cに含まれていてもよい。第1領域11eが第3すくい面部11cに含まれている場合、立ち上がり面11gは第3すくい面部11cに含まれていてもよく、第3すくい面部11c及び第2すくい面部11bに跨って配置されていてもよい。
【0036】
なお、第1領域11eが第3すくい面部11cに含まれ、かつ立ち上がり面11gが第3すくい面部11cに含まれている場合、第2領域11fは第3すくい面部11cと第2すくい面部11bに跨って配置されている。また、第1領域11eが第3すくい面部11cに含まれ、かつ立ち上がり面11gが第3すくい面部11c及び第2すくい面部11bに跨って配置されている場合、第2領域11fは第2すくい面部11bに含まれている。
【0037】
第1領域11eは、第3すくい面部11c及び第2すくい面部11bに跨って配置されていてもよい。第1領域11eが第3すくい面部11c及び第2すくい面部11bに跨って配置されている場合、第2領域11f及び立ち上がり面11gは、第2すくい面部11bに含まれている。要するに、第1領域11e、第2領域11f及び立ち上がり面11gは、段差部11dが第2すくい面部11b又は第3すくい面部11cに設けられるように配置されていればよい。
【0038】
第1領域11eは、コーナ切れ刃51から離れるにつれて、着座面12に対して垂直な方向DRにおける高さが低くなるように延在している。立ち上がり面11gは、コーナ切れ刃51から離れるにつれて、着座面12に対して垂直な方向DRにおける高さが高くなるように延在している。第2領域11fは、コーナ切れ刃51から離れるにつれて、着座面12に対して垂直な方向DRにおける高さが低くなるように延在している。
【0039】
中点MPを通り、かつ主切れ刃53に平行な断面において、着座面12に対して垂直な方向DRにおける段差部11dの高さHは、例えば0.04mm以上0.5mm以下である。段差部11dの高さHは、着座面12に対して垂直な方向DRにおける第1領域11eでの最低位置11hと、立ち上がり面11gと第2領域11fとの境界部11iとの距離である。着座面12に平行な面に対する立ち上がり面11gの傾斜角θ1は、例えば10°以上60°以下である。
【0040】
図6は、
図3の方向VIからみた側面図である。なお、方向VIは、主切れ刃53に連なる側面4に直交する方向である。
図7は、領域VIIの拡大図である。第1部分53aは、第1主切れ刃部53aaと、第2主切れ刃部53abと、第3主切れ刃部53aeとを有している。第3主切れ刃部53aeは、第1主切れ刃部53aa及び第2主切れ刃部53abよりもコーナ切れ刃51側にあり、第1主切れ刃部53aaは、第2主切れ刃部53abよりもコーナ切れ刃51側にある。第3主切れ刃部53aeは、第1境界部53adにおいて、第1主切れ刃部53aaに連なっている。第1主切れ刃部53aaは、第2境界部53acにおいて、第2主切れ刃部53abに連なっている。第1主切れ刃部53aaは、第1境界部53adから第2境界部53acに向かって立ち上がっている。
【0041】
主切れ刃53に連なる側面4に垂直な方向からみて、着座面12に平行な直線13に対する第1主切れ刃部53aaの傾斜角θ2は、着座面12に平行な直線14に対する第2主切れ刃部53abの傾斜角θ3よりも大きい。言い換えれば、主切れ刃53に連なる側面4に垂直な方向からみて、第1部分53aは、その傾きが変化する変曲点を有する。第1主切れ刃部53aaと第2主切れ刃部53abとの第2境界部53acが、その変曲点となる。傾斜角θ2は、第2境界部53acと第1境界部53adとを結ぶ直線と着座面12に平行な直線13とがなす角である。傾斜角θ2は、例えば5°以上80°以下であってもよく、30°以上55°以下であってもよい。傾斜角θ3は、例えば0°超60°以下であってもよく、5°以上30°未満であってもよい。第2主切れ刃部53abは、第2境界部53acから離れるにつれて、方向DRにおける高さが低くなるように延在している。方向DRにおいて、第2境界部53acと第1境界部53adとの距離L3は、例えば0.02mm以上1.0mm以下である。
【0042】
主切れ刃53に連なる側面4に垂直な方向からみて、第2端部C2は、第2境界部53acよりも高さが低い。方向DRにおいて、第2境界部53acと第2端部C2との距離L4は、例えば0.02mm以上1.0mm以下である。
【0043】
なお、段差部11dが主切れ刃53と交差していない場合、主切れ刃53は変曲点を有しておらず、平坦な形状となっている。
【0044】
以下に、第1実施形態に係る切削インサート100を用いた切削加工の概要について説明する。
【0045】
図8は、第1実施形態に係る切削インサートを用いた切削加工を示す模式図である。
図8に示すように、第1実施形態に係る切削インサート100は、例えばフライスカッタボディ6に取り付けられる。第1実施形態に係る切削インサート100は、フライスカッタボディ6に取り付けられる際、フライスカッタボディ6と着座面12とが接することにより、位置決めされる。
【0046】
フライスカッタボディ6は、中心軸6aを中心として回転方向Aに回転する。これに伴い、フライスカッタボディ6に取り付けられた第1実施形態に係る切削インサート100も同様に回転する。フライスカッタボディ6は、回転方向Aに回転しながら、移動方向Bに移動する。これにより、回転する第1実施形態に係る切削インサート100の切れ刃5が、工作物Wに接触する。これにより、工作物Wが切削され、工作物Wから切屑CHが発生する。
【0047】
以下に、第1実施形態に係る切削インサート100の効果を説明する。
図9は、第1実施形態に係る切削インサートを用いた切削加工における切屑の挙動を示す模式図である。
図9に示すように、第1実施形態に係る切削インサート100を用いた切削加工においては、工作物Wから発生した切屑CHは、すくい面11(第2すくい面部11b及び第3すくい面部11c)上において、上方(サラエ刃52に直交し、サラエ刃52から離れる方向)に傾斜して流れる。
【0048】
第1実施形態に係る切削インサート100のすくい面11は、段差部11dを有している。段差部11dにおいては、すくい面11が立ち上がっている。そのため、段差部11dよりも下方に位置するコーナ切れ刃51又は主切れ刃53により削り出された切屑CH1は、段差部11dに接触する。その結果、段差部11dよりも下方(サラエ刃52に直交し、サラエ刃52に近づく方向)に位置するコーナ切れ刃51又は主切れ刃53により削り出された切屑CH1の流出速度は、低下する。
【0049】
他方で、段差部11dよりも上方に位置するコーナ切れ刃51又は主切れ刃53により削り出された切屑CH2は、段差部11dに接触しない。そのため、段差部11dよりも上方に位置するコーナ切れ刃51又は主切れ刃53により削り出された切屑CH2の流出速度は、段差部11dにより低下しない。
【0050】
このように、段差部11dよりも上方に位置するコーナ切れ刃51又は主切れ刃53により削り出された切屑CH2の流出速度は、段差部11dよりも下方に位置するコーナ切れ刃51又は主切れ刃53により削り出された切屑CH1の流出速度よりも速くなる。したがって、切屑CHの流出方向は、方向Vとなる。
【0051】
方向Vは、工作物Wの加工面W1から離れるように傾斜している。そのため、第1実施形態に係る切削インサート100を用いた切削加工によると、切屑CHが接触することによる加工面W1における擦過痕の発生が抑制される。
【0052】
第1実施形態に係る切削インサート100において、段差部11dが主切れ刃53と交差している場合には、切屑CHが段差部11dとより接触しやすくなる。そのため、この場合には、方向Vが加工面W1からさらに離れるように傾斜しやすく、切屑CHの接触による加工面W1における擦過痕の発生をさらに抑制することができる。
【0053】
第1実施形態に係る切削インサート100において、段差部11dが主切れ刃53と交差していない場合には、主切れ刃53が平坦な形状となる。そのため、この場合には、加工面W1の荒れを抑制することができる。
【0054】
第1実施形態に係る切削インサート100において、角度θが1°以上90°以下である場合には、切屑CH1が流れる方向と段差部11dの延在方向とがなす角度が大きくなり、段差部11dとの接触に伴う抵抗が大きくなる。そのため、この場合には、段差部11dよりも下方に位置するコーナ切れ刃51又は主切れ刃53から削り出される切屑CH1の流出速度がより大きく減少する。その結果、方向Vが加工面W1からさらに離れるように傾斜しやすく、切屑CHの接触による加工面W1における擦過痕の発生をさらに抑制することができる。
【0055】
第1実施形態に係る切削インサート100において、距離L2が距離L1の0.5倍を超えている場合、段差部11dよりも下方に位置するコーナ切れ刃51又は主切れ刃53から削り出されるが、段差部11dと接触しない切屑CH1が発生するおそれがある。その結果、流出速度が減少した切屑CHの部分が、流出速度が減少していない切屑CHの部分に挟み込まれることにより、方向Vが不安定化するおそれがある。
【0056】
他方、第1実施形態に係る切削インサート100において、距離L2が距離L1の0.5倍以下である場合には、段差部11dよりも下方に位置するコーナ切れ刃51又は主切れ刃53から削り出されるが、段差部11dと接触しない切屑CH1が少なくなる。そのため、方向Vが不安定化し難く、切屑CHの接触による加工面W1における擦過痕の発生をさらに抑制することができる。
【0057】
(第2実施形態)
以下に、第2実施形態に係る切削インサート200の構成について説明する。以下においては、第1実施形態に係る切削インサート100と異なる点について主に説明し、同様の説明については繰り返さない。
【0058】
図10は、第2実施形態に係る切削インサートの拡大平面図である。
図10に示すように、第2実施形態に係る切削インサート200のすくい面11には、第1実施形態に係る切削インサート100のすくい面11と同様に、段差部11dが設けられている。
【0059】
第2実施形態に係る切削インサート200における段差部11dは、第1実施形態に係る切削インサート100における段差部11dと異なり、平面視においてアーチ状に形成されている。このことを別の観点からいえば、第2実施形態に係る切削インサート200における段差部11dは、段差部11dの延在方向と主切れ刃53の延在方向とがなす角度が主切れ刃53から離れるにしたがって小さくなるように湾曲している。
【0060】
なお、その余の点に関しては、第2実施形態に係る切削インサート200は、第1実施形態に係る切削インサート100と同様である。
【0061】
第2実施形態に係る切削インサート200においては、段差部11dが平面視においてアーチ状に設けられているため、段差部11dよりも下方に位置するコーナ切れ刃51又は主切れ刃53から削り出される切屑CH1が、段差部11dにより接触しやすくなる。そのため、第2実施形態に係る切削インサート200によると、方向Vが加工面W1からさらに離れるように傾斜しやすく、切屑CHの接触による加工面W1における擦過痕の発生をさらに抑制することができる。
【0062】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 第1面、11 すくい面、11a 第1すくい面部、11b 第2すくい面部、11c 第3すくい面部、11d 段差部、11e 第1領域、11f 第2領域、11g 立ち上がり面、11h 最低位置、11i 境界部、12 着座面、13,14 直線、2 第2面、3 貫通穴、4 側面、5 切れ刃、51 コーナ切れ刃、52 サラエ刃、53 主切れ刃、53a 第1部分、53aa 第1主切れ刃部、53ab 第2主切れ刃部、53ac 第2境界部、53ad 第1境界部、53ae 第3主切れ刃部、53b 第2部分、6 フライスカッタボディ、100,200 切削インサート、6a 中心軸、A 回転方向、B 移動方向、C1 第1端部、C2 第2端部、CH,CH1,CH2 切屑、DR 方向、H 高さ、L1,L2,L3 距離、MP 中点、V 方向、W 工作物、W1 加工面、θ 角度、θ1,θ2,θ3 傾斜角。