(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】黒色近赤外線反射顔料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 45/00 20060101AFI20220511BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20220511BHJP
C09B 67/02 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C01G45/00
C09K3/00 105
C09B67/02 D
(21)【出願番号】P 2019505918
(86)(22)【出願日】2018-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2018008705
(87)【国際公開番号】W WO2018168596
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2017049174
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 猛
(72)【発明者】
【氏名】實藤 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】片岡 健治
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-270217(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080214(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/00
C09K 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、カルシウム元素と、チタン元素と、マンガン元素と、ビスマス元素と
、アルミニウム元素とを含み、
ABO
3
型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなる、黒色近赤外線反射顔料
であって、BET比表面積が1.0m
2
/g以上3.0m
2
/g未満である、黒色近赤外線反射顔料。
【請求項2】
チタン元素の原子含有量([Ti])とマンガン元素の原子含有量([Mn])の和に対するビスマス元素の原子含有量([Bi])の原子比([Bi]/([Ti]+[Mn]))が、0.02以下である、請求項1に記載の黒色近赤外線反射顔料。
【請求項3】
チタン元素の原子含有量([Ti])とマンガン元素の原子含有量([Mn])の和に対するアルミニウム元素の原子含有量([Al])の原子比([Al]/([Ti]+[Mn]))が、0.1以下である、請求項1又は2に記載の黒色近赤外線反射顔料。
【請求項4】
少なくとも、カルシウム化合物と、チタン化合物と、マンガン化合物と、ビスマス化合物と、アルミニウム元素とを湿式粉砕法で混合し、1100℃より高い温度で焼成する、黒色近赤外線反射顔料の製造方法であって、前記黒色近赤外線反射顔料が、ABO
3
型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、BET比表面積が1.0m
2
/g以上3.0m
2
/g未満である、製造方法。
【請求項5】
黒色近赤外線反射顔料中の、チタン元素の原子含有量([Ti])とマンガン元素の原子含有量([Mn])の和に対するアルミニウム元素の原子含有量([Al])の原子比([Al]/([Ti]+[Mn]))が、0.1以下である、請求項4に記載の黒色近赤外線反射顔料の製造方法。
【請求項6】
黒色近赤外線反射顔料中の、チタン元素の原子含有量([Ti])とマンガン元素の原子含有量([Mn])の和に対するビスマス元素の原子含有量([Bi])の原子比([Bi]/([Ti]+[Mn]))が、0.02以下である、請求項4又は5に記載の黒色近赤外線反射顔料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色近赤外線反射顔料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外線反射顔料は、太陽光等に含まれる近赤外線を反射する材料である。この顔料をアスファルトやコンクリート等で覆われた地表面や建築物等に適用すると、それらが吸収する赤外線量を減少させることができるため、ヒートアイランド現象の緩和や夏場の建築物の冷房効率のアップなどの効果がある。
【0003】
本出願人は、黒色系の近赤外線反射顔料として、少なくとも、アルカリ土類金属元素と、チタン元素及びマンガン元素とを含むペロブスカイト型複合酸化物を既に提案している(例えば特許文献1,2)。
【0004】
特許文献1では、少なくとも、アルカリ土類金属元素と、チタン元素と、マンガン元素とを含むペロブスカイト型複合酸化物赤外線反射顔料を提案し、BET比表面積が0.05~80m2/g程度が好ましいとしている。そして実施例において、原料をメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌してから焼成して比表面積が0.32~1.54m2/gのマンガン含有チタン酸カルシウムを製造している。また、同様の方法で、Al/Tiモル比が0.007~0.04で、比表面積が0.50~1.23m2/gのアルミニウム及びマンガン含有チタン酸カルシウムも製造している。
【0005】
特許文献2では、少なくとも、アルカリ土類金属元素と、チタン元素と、マンガン元素とを含むペロブスカイト型複合酸化物として、BET比表面積が3.0~150m2/gである、優れた隠蔽力や着色力を有する黒色系赤外線反射顔料を提案している。そして実施例において、原料を湿式粉砕機で混合し、Al/Tiモル比が0.007で、比表面積が4.3~8.7m2/gのアルミニウム及びマンガン含有チタン酸カルシウムを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-202489号公報
【文献】国際公開第2015/080214号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載の顔料は、黒色であって優れた近赤外線反射特性を有するものであるが、酸と接触するとその構成成分であるアルカリ土類金属元素やマンガン元素が溶出し易く、それに伴い顔料の色調が変化したり、光沢が低下したりしてしまうという問題がある(以降、この課題を「耐酸性の改良」と総称することもある)。そのため、酸性雨などの酸性環境に曝される屋外で使用する場合、あるいは屋内で使用する場合でも、近赤外線反射顔料に対してより一層の耐酸性の改良が求められている。屋内で使用する場合については、大気中の酸性汚染物質等が入り込んだりして酸性環境下に曝されることがあり得るためである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような従来技術の問題点に鑑み鋭意研究を行った結果、少なくとも、カルシウム元素の化合物と、チタン元素の化合物と、マンガン元素の化合物とを湿式粉砕法で混合し、焼成してBET比表面積を1.0m2/g以上3.0m2/g未満の範囲とすると、耐酸性が改良された黒色近赤外線反射顔料が得られることを見出し、本発明を完成した。
また、前記のカルシウム元素、チタン元素及びマンガン元素を含む黒色近赤外線反射顔料にアルミニウム元素及び/又はビスマス元素を特定量含有させることによって、耐酸性をより向上できることも見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記(1)~(11)の発明を含む。
(1)少なくとも、カルシウム元素と、チタン元素と、マンガン元素と、ビスマス元素とを含み、ペロブスカイト相を主相とする、黒色近赤外線反射顔料である。
(2)チタン元素の原子含有量([Ti])とマンガン元素の原子含有量([Mn])の和に対するビスマス元素の原子含有量([Bi])の原子比([Bi]/([Ti]+[Mn]))が、0.02以下である、(1)に記載の黒色近赤外線反射顔料である。
(3)少なくとも、カルシウム元素と、チタン元素と、マンガン元素と、ビスマス元素と、アルミニウム元素とを含み、ペロブスカイト相を主相とする、(1)又は(2)に記載の黒色近赤外線反射顔料である。
(4)チタン元素の原子含有量([Ti])とマンガン元素の原子含有量([Mn])の和に対するアルミニウム元素の原子含有量([Al])の原子比([Al]/([Ti]+[Mn]))が、0.1以下である、(3)に記載の黒色近赤外線反射顔料である。
(5)BET比表面積が1.0m2/g以上3.0m2/g未満である、(1)~(4)のいずれかに記載の黒色近赤外線反射顔料である。
(6)少なくとも、カルシウム化合物と、チタン化合物と、マンガン化合物とを湿式粉砕法で混合し、1100℃より高い温度で焼成する、黒色近赤外線反射顔料の製造方法であって、前記黒色近赤外線反射顔料が、ペロブスカイト相を主相とし、BET比表面積が1.0m2/g以上3.0m2/g未満である、製造方法である。
(7)少なくとも、カルシウム化合物と、チタン化合物と、マンガン化合物と、アルミニウム化合物とを湿式粉砕法で混合し、焼成する、(6)に記載の黒色近赤外線反射顔料の製造方法である。
(8)少なくとも、カルシウム化合物と、チタン化合物と、マンガン化合物と、ビスマス化合物とを湿式粉砕法で混合し、焼成する、(6)に記載の黒色近赤外線反射顔料の製造方法である。
(9)少なくとも、カルシウム化合物と、チタン化合物と、マンガン化合物と、アルミニウム化合物と、ビスマス化合物とを湿式粉砕法で混合し、焼成する、(6)に記載の黒色近赤外線反射顔料の製造方法である。
(10)黒色近赤外線反射顔料中の、チタン元素の原子含有量([Ti])とマンガン元素の原子含有量([Mn])の和に対するアルミニウム元素の原子含有量([Al])の原子比([Al]/([Ti]+[Mn]))が、0.1以下である、(7)又は(9)に記載の黒色近赤外線反射顔料の製造方法である。
(11)黒色近赤外線反射顔料中の、チタン元素の原子含有量([Ti])とマンガン元素の原子含有量([Mn])の和に対するビスマス元素の原子含有量([Bi])の原子比([Bi]/([Ti]+[Mn]))が、0.02以下である、(8)又は(9)に記載の黒色近赤外線反射顔料の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、原料化合物を湿式粉砕法で混合し、焼成するという簡便な方法であり、BET比表面積を特定の範囲に調整して耐酸性を改良した黒色近赤外線反射顔料を製造することができる。また、カルシウム元素、チタン元素及びマンガン元素を含む黒色近赤外線反射顔料にアルミニウム元素及び/又はビスマス元素を含有させることによって、耐酸性をより一層改良した黒色近赤外線反射顔料を製造することができる。
前記の黒色近赤外線反射顔料は、特定範囲のBET比表面積を有し、粒子径が比較的大きいことから、溶媒への分散が容易で、分散体、塗料、インキ等に配合し易い。また、樹脂に練り込んで成形したり、繊維を紡糸する際に練り込んだり、紡糸表面に固定したりし易く、適用場面に応じて使用し易い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実験1の各試料の比表面積と光沢保持率の関係を示す図である。
【
図2】実験2の各試料の比表面積と波長1200nmの反射率の関係を示す図である。
【
図3】実験2の試料K,L,P,Qの粉体の分光反射率曲線である。
【
図4】実験2の試料K,L,P,Qを用いて製造した塗膜の分光反射率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の黒色近赤外線反射顔料は、次のような特徴を有する。
(1)結晶構造
ペロブスカイト相を主相とする。ペロブスカイト相としては、ABO3型構造や層状ペロブスカイト型構造(n(ABO3)・AO)などが挙げられる。本発明では、式中、Aは少なくともカルシウム元素を含み、Bはチタン元素及びマンガン元素を少なくとも含む複合酸化物である。Oは酸素元素を示し、理論上は3個有することになるが、実際の顔料では欠損があってもよい。
【0013】
ペロブスカイト相の存在は、粉末X線回折により確認することができる。線源にCu-Kαを用いた場合、カルシウム元素、チタン元素及びマンガン元素を主構成成分とするABO3型ペロブスカイト相は、概ねブラッグ角2θ=24°,33.5°,48°,60°付近に主要な回折ピークを示す。なお、これらのピーク位置は組成により±1.5°程度の範囲内で変動し得る。例えばチタン元素とマンガン元素の比に関して、マンガン元素が増えるに従ってピーク位置は高角側にシフトしていく。
【0014】
ペロブスカイト相が主相であるとは、粉末X線回折パターン中の最大ピークがカルシウム元素、チタン元素及びマンガン元素を主構成成分とするペロブスカイト相に帰属されることを意味する。前述のカルシウム元素、チタン元素及びマンガン元素を主構成成分とするABO3型ペロブスカイト相の場合、2θ=33.5°付近のピークがメインピークである。本発明では、CaTiO3相やCaMnO3相に帰属されるピークが存在するように製造してもよい。その場合、それらのメインピーク強度は前述のカルシウム元素、チタン元素及びマンガン元素を主構成成分とするABO3型ペロブスカイト相のメインピークの強度に対して0.1以下であることが好ましい。カルシウム元素、チタン元素及びマンガン元素を主構成成分とするペロブスカイト単相になるように製造することが好ましい。
【0015】
チタン元素に対するマンガン元素の原子比(原子比とは、各原子の個数(原子数)の比、即ち、各原子のモル数の比であり、「モル比」とも称する)は、チタン元素の原子含有量(原子数)を[Ti]と表記し、マンガン原子含有量(原子数)を[Mn]と表記すると、[Mn]/[Ti]と表記され、その原子比[Mn]/[Ti]は0.5~2の範囲が好ましく、0.8~1.2の範囲がより好ましい。[Mn]/[Ti]≧0.5であれば、黒色度の高く、赤味の少ない近赤外線反射顔料とすることができる。[Mn]/[Ti]≦2であれば、近赤外線反射率を充分高くすることができる。
本願では、各原子の個数(原子数)を、その原子の「原子含有量」や「モル数」と称し、単に「含有量」と称することもある。
【0016】
(2)黒色度
本発明の近赤外線反射顔料は黒色度が高く、黒色顔料として好適に用いることができる。具体的には、Hunter Lab色空間(Lab表色系)の明度指数L値(ハンターL値といい、小さいほど黒色度が強い)で表して20以下とすることができる。特にL値を13以下とすることもできる。粉体色は、試料をメノウ乳鉢で十分に粉砕した後、30mmφのアルミリングに試料を入れ、9.8MPaの加重をかけ、プレス成型し、測色色差計ZE2000(日本電色工業株式会社製)を用いて測定する。
【0017】
前記のLab表色系のa値は-5~5程度と赤味を低く抑えることができ、a値を-0.5~1.5程度とすることもできる。また、Lab表色系のb値は-0.5~1.0程度と黄色味を抑えた黒色とすることができる。
【0018】
(3)近赤外線反射特性
本発明の黒色近赤外線反射顔料は、波長1200nmに対する反射率で示した粉末近赤外線反射特性を57%とすることができ、63%とすることもできる。実施例で示すとおり、本発明では耐酸性と近赤外線反射特性とを高いレベルで両立することができる。塗膜としたときにも高い近赤外線反射特性を示す。具体的には、波長780~2500nmの範囲の日射反射率(分光反射率からJIS K 5602に記載の重価係数により算出した値)を35%以上とすることができ、40%以上とすることもできる。
【0019】
(4)好ましい添加剤1(アルミニウム元素及び/又はビスマス元素)
少なくとも、カルシウム元素、チタン元素及びマンガン元素を含む、上述した本発明の黒色近赤外線反射顔料にアルミニウム元素及び/又はビスマス元素を含有させるとより好ましい。
【0020】
アルミニウム元素を含有させる場合、その含有量は、チタン元素(Ti)及びマンガン元素(Mn)の含有量の和に対し、原子比(モル比)、即ち、[Al]/([Ti]+[Mn])で表して0.1以下が好ましく、0.01≦[Al]/([Ti]+[Mn])≦0.1となる量がより好ましい。ここで、[Al]はアルミニウム元素のモル数を表し、[Ti]はチタン元素のモル数を表し、[Mn]はマンガン元素のモル数を表す。[Al]/([Ti]+[Mn])が0.01以上であると耐酸性の向上効果が認められ、0.015以上でより効果が明確になる。かかる観点から更により好ましい値として、0.03以上としてもよい。ただし、アルミニウム元素が多すぎると、a値が高めになり赤味を帯びてくる。また、粒子が硬くなるため、粉砕による粒度の調整のためにエネルギーを多く投入することが必要になる。更に、塗料等に用いる際に、分散性が低下し易くなる。[Al]/([Ti]+[Mn])が0.1以下であれば概ね問題は無く、また、0.07以下が適当である。アルミニウム元素の存在状態は不明であるが、[Al]/([Ti]+[Mn])が0.1以下であれば粉末X線回折でAl化合物に帰属される明確なピークは認められないため、ペロブスカイト相に固溶していると推測される。
【0021】
ビスマス元素を含有させる場合、その含有量は、チタン元素(Ti)の含有量とマンガン元素(Mn)の含有量の和に対し、原子比(モル比)、即ち、[Bi]/([Ti]+[Mn])で表して0.1以下が好ましく、0.002≦[Bi]/([Ti]+[Mn])≦0.02となる量がより好ましい。ここで、[Bi]はビスマス元素のモル数を表し、[Ti]はチタン元素のモル数を表し、[Mn]はマンガン元素のモル数を表す。[Bi]/([Ti]+[Mn])が0.002以上であると、耐酸性の向上効果が明確に認められるようになる。ただし、ビスマス元素の含有量が多すぎると、別相が形成されるようになり、それに伴い近赤外線反射率も低下し始める。[Bi]/([Ti]+[Mn])が0.02以下であれば概ね問題はなく、0.01以下がより好ましい。ビスマス元素の存在状態は不明であるが、[Bi]/([Ti]+[Mn])が0.01以下であれば、粉末X線回折でBi化合物に帰属される明確なピークは認められないため、ペロブスカイト相に固溶していると推測される。アルミニウム元素及びビスマス元素の両者を含有させる場合、上記のそれぞれの原子比(モル比)を含有させることができる。アルミニウム元素を含有した場合、BET比表面積が1.0m2/g以上3.0m2/g未満であるのが好ましい。他方、ビスマス元素を含有した場合、あるいはビスマス元素及びアルミニウム元素を含有した場合、BET比表面積が1.0m2/g以上3.0m2/g未満であるのが好ましいが、これに限定されるものではなく、1.0m2/g以上10m2/g以下の範囲としてもよい。
【0022】
カルシウム化合物、チタン化合物及びマンガン化合物に加えて、更にアルミニウム化合物も後述の湿式粉砕法で混合し、焼成してもよい。アルミニウム元素を含有することにより、耐酸性を更に高めることができる。これは、結晶中の原子価の不均衡や欠陥の存在に起因する結晶の不安定性をアルミニウムの添加により低減できたためと考えられる。アルミニウム化合物としては、例えば、水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムなどを用いることができる。チタンの酸化物、水和酸化物、水酸化物等の化合物の粒子表面に、アルミニウム化合物を予め析出させ存在させたり、粒子内部に予め存在させたりすると、アルミニウム元素がペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在し易く好ましい。その方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0023】
また、カルシウム化合物、チタン化合物及びマンガン化合物に加えて、更にビスマス化合物も後述の湿式粉砕法で混合し、焼成してもよい。ビスマス元素を含有することにより、耐酸性を更に高めることができる。これは、結晶中の原子価の不均衡や欠陥の存在に起因する結晶の不安定性をビスマスの添加により低減できたためと考えられる。ビスマス化合物としては、例えば、水酸化ビスマスや酸化ビスマスなどを用いることができる。
【0024】
(5)好ましい添加剤2(アルカリ土類金属元素、マグネシウム元素、希土類元素)
上述した本発明の黒色近赤外線反射顔料の製造法では、カルシウム化合物以外にも、ストロンチウム及びバリウム等のアルカリ土類金属元素の化合物やマグネシウム元素の化合物やイットリウム等の希土類元素の化合物を更に含ませて(即ち、併用して)湿式粉砕法で混合し、焼成してもよい。アルカリ土類金属の化合物や希土類の化合物やマグネシウムの化合物としては、それらの酸化物、水酸化物、炭酸塩等を用いることができる。特に、マグネシウム元素の化合物とカルシウム元素の化合物を併用すると、近赤外線反射能を向上させることもできる。マグネシウムの含有量は、近赤外線反射能等の所望の性能に応じて適宜設定することができ、マグネシウムの元素(Mg)と、アルカリ土類金属・希土類元素(A1)のモル比が1.0×10-6≦[Mg]/[A1]≦0.20であることが好ましく、1.0×10-6≦[Mg]/[A1]≦0.12が更に好ましい。ここで、[Mg]はマグネシウムの元素のモル数を表し、[A1]はアルカリ土類金属・希土類元素のモル数を表す。また、カルシウム元素(Ca)と、カルシウム元素以外のアルカリ土類金属・マグネシウム・希土類元素(A2)のモル比は0.8≦[Ca]/[A2]であることが好ましく、0.9≦[Ca]/[A2]が更に好ましい。ここで、[Ca]はカルシウム元素のモル数を表し、[A2]はカルシウム以外のアルカリ土類金属・希土類元素・マグネシウム元素のモル数を表す。なお、ここで使用される「・」は、「及び/又は」の意である。そのため、例えば、上記「カルシウム元素以外のアルカリ土類金属・希土類元素」は、カルシウム以外のアルカリ土類金属元素と希土類元素のうちの少なくとも1元素を含むものであればよく、上記「カルシウム以外のアルカリ土類金属・希土類元素・マグネシウム元素」は、カルシウム以外のアルカリ土類金属元素、希土類元素、及びマグネシウム元素のうちの少なくとも1元素を含むものであればよい。
【0025】
(6)好ましい添加剤3(周期表第13族元素や亜鉛元素)
上述した本発明の黒色近赤外線反射顔料の製造法では、ホウ素、ガリウム、インジウム等のアルミニウム以外の周期表第13族元素の化合物や亜鉛の化合物を更に含ませて湿式粉砕法で混合し、焼成してもよい。これらの元素を含有させることにより、近赤外線反射能を更に高めることができる。これらの元素の化合物としては、それぞれの元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩等を用いることができる。これらの化合物を混合する場合であってこれらの化合物の量が少量である場合は、チタン化合物の粒子表面及び/又は粒子内部に予め存在させると固相合成反応が均一に行われ均質な黒色近赤外線反射顔料が得られ易く好ましい。このようなことから、チタンの酸化物、水和酸化物、水酸化物等の化合物の粒子表面に、周期表第13族の化合物、あるいは亜鉛化合物を予め析出させて存在させたり、粒子内部に予め存在させたりすると、周期表第13族元素、あるいは亜鉛元素がペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在し易く、好ましい。その方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0026】
ホウ素、ガリウム、インジウム等のアルミニウム以外の周期表第13族元素は、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子表面及び/又は粒子内部に存在すればよく、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在するのが好ましい。これらの元素(アルミニウム以外の周期表第13族元素)の含有量は、所望の近赤外線反射能等の性能に応じて適宜設定することができ、チタン元素(Ti)及びマンガン元素(Mn)の含有量の和とこれらの元素(Ga)の原子比(モル比)が0.0005≦[Ga]/([Ti]+[Mn])≦1.5となる量を含有させるのが好ましい。ここで、[Ga]はアルミニウム以外の周期表第13族元素のモル数を表し、[Ti]はチタン元素のモル数を表し、[Mn]はマンガン元素のモル数を表す。それらの原子比(モル比)[Ga]/([Ti]+[Mn])の値が0.0005~1.5の範囲であると、優れた近赤外線反射能を有するため好ましく、より好ましくは0.001≦[Ga]/([Ti]+[Mn])≦0.45であり、更に好ましくは0.005≦[Ga]/([Ti]+[Mn])≦0.35であり、最も好ましくは0.005≦[Ga]/[Ti]≦0.25である。[Ga]/([Ti]+[Mn])の値が0.0005以上であれば添加効果が認められ、[Ga]/([Ti]+[Mn])の値が1.5以下であれば、別相の生成は認められない。
【0027】
亜鉛元素は、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子表面及び/又は粒子内部に存在すればよく、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在するのが好ましい。亜鉛元素の含有量は、所望の近赤外線反射能等の性能に応じて適宜設定することができ、チタン元素(Ti)及びマンガン元素(Mn)の含有量の和と亜鉛元素(Zn)の原子比(モル比)が1.0×10-6≦[Zn]/([Ti]+[Mn])≦0.20となる量を含有させるのが好ましい。ここで、[Zn]は亜鉛元素のモル数を表し、[Ti]はチタン元素のモル数を表し、[Mn]はマンガン元素のモル数を表す。それらの原子比(モル比)である[Zn]/([Ti]+[Mn])の値が1.0×10-6~0.20の範囲であると、優れた近赤外線反射能を有するため好ましく、より好ましくは1.0×10-6≦[Zn]/([Ti]+[Mn])≦0.15であり、更に好ましくは1.0×10-6≦[Zn]/([Ti]+[Mn])≦0.12である。[Zn]/([Ti]+[Mn])の値が1.0×10-6以上であれば添加効果が認められ、[Zn]/([Ti]+[Mn])の値が0.20以下であれば、別相の生成や粉体色の大幅な変化は認められない。
【0028】
本発明の黒色近赤外線反射顔料がABO3型ペロブスカイト型構造を有する場合、前記カルシウム、及び必要に応じて添加する前述した、カルシウム以外のアルカリ土類金属・希土類・マグネシウム元素の含有量をaモルとし、チタン元素、マンガン元素、必要に応じて添加する、周期表第13族元素及び/又は亜鉛元素の含有量の合計量をbモルとするとき、それらの比a/bは0.9≦a/b≦1.4になるように調整するのが好ましい。この範囲であれば、充分な近赤外線反射能を示す。0.9≦a/b≦1.1の範囲であると、比較的低い温度で焼成しても、ペロブスカイト型構造以外の別相ができにくくより好ましい。
【0029】
黒色近赤外線反射顔料に含まれるカルシウム元素、チタン元素、マンガン元素、並びに、必要に応じて含まれ得る、アルミニウム元素、ビスマス元素、カルシウム元素以外のアルカリ土類金属元素、希土類元素、マグネシウム元素、アルミニウム元素以外の周期表第13族元素、亜鉛元素の量は蛍光X線分析から求めることができる。
【0030】
本発明で製造される黒色近赤外線反射顔料には、不可避的に各種原料由来の不純物が混入している場合がある。その場合であってもCrはできる限り含有していないことが好ましく、不純物として含有していても1質量%以下であり、特に安全性の懸念があるCr6+の含有量は10ppm以下であるのが好ましい。また、原料の未反応残渣もできる限り含有していないのが好ましく、特に1質量%以下が好ましい。
【0031】
第二の本発明は、少なくとも、カルシウム化合物、チタン化合物、マンガン化合物を湿式粉砕法で混合し、1100℃より高い温度で焼成して、ペロブスカイト相を主相とし、BET比表面積が1.0m2/g以上3.0m2/g未満とする黒色近赤外線反射顔料の製造方法である。
【0032】
第二の本発明では、製造される黒色近赤外線反射顔料のBET比表面積が1.0m2/g以上3.0m2/g未満である。原料の混合を湿式粉砕法で行い、且つ、焼成して比表面積を上記範囲とすると、耐酸性を改良することができ、すなわち酸性環境下でも構成成分の溶出が抑制でき、それに伴い色調の変化及び光沢の低下が抑制された黒色近赤外線反射顔料を得ることができる。乾式での混合粉砕よりも湿式での混合粉砕のほうが、各原料粉末、特に二酸化マンガン原料粉末の凝集を低減でき、粒子径の異なる原料(カルシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物)を均一に混合できるため、結晶中の原子価の不均衡や欠陥の存在に起因する結晶の不安定性を低減できると考えられる。原料の混合を湿式粉砕法で行わない場合、BET比表面積を上記範囲内としても耐酸性が改良しにくい。原料の混合を湿式粉砕法で行う場合でも、BET比表面積が3.0m2/g以上では耐酸性が不十分である。耐酸性の観点から、BET比表面積は2.6m2/g以下であると好ましく、2.1m2/g以下であるとより好ましい。他方、近赤外線反射特性及び分散性の観点を考慮すると、BET比表面積は1.0m2/g以上3.0m2/g未満であり、1.5m2/g以上2.6m2/g以下であると好ましく、1.6m2/g以上2.1m2/g以下であるとより好ましい。このようにすると、優れた耐酸性に加えて、塗料等へ配合したときの分散性を更に高くでき、優れた黒色度と更に高い近赤外線反射特性を示す黒色近赤外線反射材を得ることができる。すなわち、耐酸性と、トレードオフの関係にある近赤外線反射特性及び分散性とを全体的に高い領域でバランスできる。BET比表面積は窒素吸着による一点法で求める。
【0033】
本発明の製造方法で得られる黒色近赤外線反射顔料は、焼成後の解砕により容易にほぐすことができる。そして、塗料化時や樹脂に混合した際に分散性がよく、高品質の塗料や樹脂が得られる。同時に、塗膜に仕上げたときの近赤外線反射率も高くすることができる。この傾向は、BET比表面積を1.6m2/g以上とした場合、特に顕著である。実施例で示すとおり、本発明では耐酸性と分散性とを高いレベルで両立することができる。湿式粉砕法で原料混合を行うことにより、各原料粉末、特に二酸化マンガン原料粉末の凝集を低減でき均一に混合できることから、その効果と推測される。具体的には、粒ゲージで測定した分散度を20μm以下とすることができ、好ましくは分散度を10μm以下とすることもできる。測定方法は実施例で詳述する。
【0034】
カルシウム化合物としては、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等を用いることができる。チタン化合物、マンガン化合物としては、それぞれの酸化物、水酸化物、炭酸塩等を用いることができる。これらの原料を所定の組成となるよう秤量する。
【0035】
次いで、前記の原料を湿式粉砕法で混合する。湿式粉砕法による混合は公知の方法で行うことができる。例えば、湿式粉砕機を用いる方法が挙げられる。湿式粉砕機には公知の機器を適宜用いることができる。例えば、湿式ボールミル、湿式ビーズミル、サンドグラインダーミル、媒体撹拌ミル等の粉砕メディアを用いる湿式粉砕機、あるいは撹拌ミル、ディスクミル、インラインミル、湿式ジェットミル等の粉砕メディアを用いない湿式粉砕機を用いることができる。本発明では、粉砕メディアを用いた湿式粉砕機、例えば湿式ボールミル、湿式ビーズミル等を用いると、各原料粉末、特に二酸化マンガン原料粉末の凝集を低減し、粒子径の異なる原料(カルシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物)を均一に混合する効果が高いため特に好ましい。湿式粉砕機は、循環式、パス式、バッチ式のいずれであってもよい。湿式粉砕の滞留(粉砕)時間、パス回数などは、設備の能力に合わせて適宜設定する。粉砕強度を高めるために、アルミナやジルコニアなど公知の粉砕メディアを用いることができる。粉砕メディアの径は適宜調整してよく、例えば直径0.001~1mm程度のものが使用できる。湿式粉砕機中の粉砕メディアの充填率も適宜調整してよく、例えば体積比で10~90%程度とすることができる。本発明の湿式粉砕法で用いる分散媒には任意の溶媒を用いることができる。例えば水、アルコール等が挙げられ、水を用いるのが好ましい。本発明では、湿式粉砕の際に、分散剤を添加してもよく、例えば、ポリオキシアルキレン系、ポリカルボン酸系等の高分子分散剤を用いるのが好ましい。分散剤の添加量は、適宜設定することができる。
【0036】
本発明では、湿式粉砕後の溶媒において、原料混合粉体の体積基準の累積90%粒子径を2.0μm以下にすると好ましく、1.5μm以下とするとより好ましく、その範囲に入るように湿式粉砕の条件を適宜調整する。累積90%粒子径はレーザー回折/散乱法により求める。分散媒には水を用い、屈折率は1.800に設定して測定する。
【0037】
なお、本発明では、湿式粉砕に先立ち乾式混合を行ってもよい。前記の原料の一部又は全てを乾式で混合し、引き続き湿式粉砕で混合すると、湿式粉砕機の負担を軽減することができる。乾式混合には公知の混合機、乾式粉砕機を用いることができる。例えば、乾式ジェットミル、ハンマーミル、乾式ビーズミル、インペラーミル、乾式ボールミルを用いることができる。乾式粉砕機は例えば、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、ローラーミル、パルベライザー等の摩砕粉砕機、乾式ジェットミル等の気流粉砕機を用いることができる。
【0038】
それぞれの原料を湿式粉砕法で混合した後、必要に応じてろ過し乾燥したり、噴霧乾燥したりしてもよい。また、必要に応じて造粒及び/又は成形してもよいし、前記の乾式粉砕機で適宜粉砕してもよい。
【0039】
次いで、前記の原料混合物を焼成する。焼成の温度は、焼成し必要に応じて解砕・粉砕した顔料のBET比表面積を前記範囲に調整することができる範囲に適宜設定することができ、1100℃より高い温度が好ましく、1100~1300℃の範囲であるとより好ましい。この範囲であると、前述する結晶相やBET比表面積を有する黒色近赤外線反射顔料が得られ易い。前述の添加元素や後述の焼成処理剤などにより焼成した顔料のBET比表面積は多少変動するため、前記温度範囲を目安に適宜微調整すればよい。特に1180~1250℃の範囲であるとより好ましい。
【0040】
焼成時の雰囲気はいずれの雰囲気で行ってよい。なかでも、酸素含有雰囲気下で焼成すると十分な近赤外線反射特性を保持できるため好ましく、空気中で焼成するとより好ましい。
【0041】
焼成時間は、適宜設定することができる。0.5~24時間であると、前述する結晶相やBET比表面積を有する黒色近赤外線反射顔料が得られ易い。前述の添加元素や後述の焼成処理剤により焼成した顔料のBET比表面積は多少変動するため、適宜微調整すればよい。特に1.0~12時間が好ましい。24時間以上であってもよいが経済的でない。
【0042】
焼成には公知の装置を用いることができる。焼成装置としては例えば、電気炉やロータリーキルン等が挙げられる。
【0043】
焼成した顔料は必要に応じて解砕・粉砕してもよい。解砕・粉砕には前述の乾式粉砕機を用いることができる。
【0044】
(A)好ましい製造方法1(焼成処理剤の添加)
前記の焼成反応をより均一に行うため、あるいは黒色近赤外線反射顔料の粒子径をより均一にするために焼成処理剤(粒度調整剤)を原料化合物の混合物に添加して焼成してもよい。このような焼成処理剤としては例えば、アルカリ金属化合物、シリカ、ケイ酸塩等のケイ素化合物、酸化スズ、水酸化スズ等のスズ化合物等や、前記のホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の周期表第13族元素の化合物も用いることができるが、これらに限定されるものではなく、種々の無機化合物又は有機化合物を用いることができる。焼成処理剤(粒度調整剤)の添加量は、適宜設定することができるが、近赤外線反射能を低減させない程度の量が好ましい。特に、アルカリ金属化合物を原料化合物の混合物に添加し焼成すると、黒色近赤外線反射顔料の粒子径がより均一なものが得られ易いため好ましい。しかも、アルカリ金属化合物を添加すると、焼成後の粉砕が比較的容易になるなどの利点もある。また、得られた黒色近赤外線反射顔料にアルカリ金属化合物が残存していても近赤外線反射能への悪影響は認められず、水洗により溶解して除去することもできる。アルカリ金属化合物としては、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム等のカリウム化合物、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物などを用いることができる。アルカリ金属化合物の添加量は、原料化合物の混合物100質量部に対して、アルカリ金属を酸化物(K2O、Na2O、Li2Oなど)に換算して0.01~15質量部が好ましく、0.1~6質量部がより好ましい。
【0045】
(B)好ましい製造方法2(再度焼成)
本発明で製造された黒色近赤外線反射顔料は、再度焼成に供してもよい。複合酸化物の結晶性がより高くなり、それによりカルシウム元素、マンガン元素等の水溶出を抑制することができるため好ましい。再度焼成の温度は200~1250℃の範囲が好ましく、400~1230℃がより好ましい。再度焼成時の雰囲気はいずれの雰囲気でも行えるが、十分な近赤外線反射能を保持するためには空気中で焼成するのが好ましい。再度焼成の時間は適宜設定することができるが、0.5~24時間が好ましく、1.0~12時間がより好ましい。
【0046】
(C)好ましい製造方法3(表面処理)
本発明では、黒色近赤外線反射顔料粒子の表面に無機化合物及び/又は有機化合物を被覆する工程を行ってもよい。これにより、塗料、インキ、プラスチック、セラミック、電子材料などに用いる場合に、配合する溶剤、樹脂への分散性を高めることができる。無機化合物としては、例えば、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン、リン及びスズから選ばれる少なくとも一種の化合物が好ましく、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン及びスズは酸化物、水和酸化物又は水酸化物の化合物がより好ましく、リンはリン酸又はリン酸塩の化合物がより好ましい。有機化合物としては、例えば、有機ケイ素化合物、有機金属化合物、ポリオール類、アルカノールアミン類又はその誘導体、高級脂肪酸類又はその金属塩、高級炭化水素類又はその誘導体等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0047】
前述の無機化合物の被覆は、本発明の方法で得られる黒色近赤外線反射顔料の耐水溶出性や耐酸性を更に向上させることができる。この観点では、特に、ケイ素、アルミニウムの酸化物、水和酸化物又は水酸化物が好ましい。ケイ素の酸化物、水和酸化物又は水酸化物(以下、シリカという場合がある)は、高密度シリカ又は多孔質シリカを形成するものがより好ましい。シリカ被覆処理の際のpH範囲に応じて、被覆されるシリカが多孔質となったり、非多孔質(高密度)となったりするが、高密度シリカであると緻密な被覆を形成し易いため、近赤外線反射顔料の水溶出性の抑制効果が高くより好ましい。そのため、黒色近赤外線反射顔料の粒子表面に高密度シリカの第一被覆層を存在させ、その上に多孔質シリカの第二被覆層あるいはアルミニウムの酸化物、水和酸化物、水酸化物(以下、アルミナという場合がある)を存在させてもよい。シリカ被覆は電子顕微鏡で観察することができる。無機化合物の被覆量は適宜設定することができ、例えば、近赤外線反射顔料に対して0.1~50質量%が好ましく、1.0~20質量%がより好ましい。無機化合物の量は蛍光X線分析、ICP発光分析等の通常の方法で測定することができる。
【0048】
黒色近赤外線反射顔料の粒子表面に無機化合物や有機化合物を被覆する方法としては、二酸化チタン顔料等の従来の表面処理方法を用いることができる。具体的には黒色近赤外線反射顔料のスラリーに無機化合物や有機化合物を添加し被覆するのが好ましく、スラリー中で無機化合物や有機化合物を中和し析出させて被覆するのがより好ましい。また、黒色近赤外線反射顔料の粉末に、無機化合物や有機化合物を添加し混合して被覆させてもよい。
【0049】
具体的に黒色近赤外線反射顔料の粒子表面に高密度シリカ被覆を行うには、まず、黒色近赤外線反射顔料の水性スラリーをアルカリ化合物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)やアンモニアなどによりpHを8以上、好ましくは8~10に調整した後、加温して70℃以上、好ましくは70~105℃とする。次いで、黒色近赤外線反射顔料の水性スラリーに対してケイ酸塩を添加する。ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどの種々のケイ酸塩を使用することができる。ケイ酸塩の添加は、通常15分間以上かけて行うのが好ましく、30分間以上がより好ましい。次いで、ケイ酸塩の添加終了後必要に応じて更に充分に撹拌し混合した後、スラリーの温度を好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上に維持しながら、酸で中和する。ここで使用する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸などが挙げられ、これらによりスラリーのpHを好ましくは7.5以下、より好ましくは7以下に調整して、黒色近赤外線反射顔料の粒子表面に高密度シリカを被覆することができる。
【0050】
また、黒色近赤外線反射顔料の粒子表面に多孔質シリカ被覆を行うには、まず、黒色近赤外線反射顔料の水性スラリーに、例えば硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸などの酸を添加してpHを1~4、好ましくは1.5~3に調整する。スラリー温度は50~70℃に調整するのが好ましい。次に、スラリーpHを前記範囲に保持しながら、ケイ酸塩と酸とを添加して多孔質シリカの被覆を形成する。ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどの種々のケイ酸塩を使用することができる。ケイ酸塩の添加は、通常15分間以上かけて行うのが好ましく、30分間以上がより好ましい。ケイ酸塩の添加終了後必要に応じて、アルカリ化合物を添加し、スラリーのpHを6~9程度に調整して、黒色近赤外線反射顔料の粒子表面に多孔質シリカを被覆することができる。
【0051】
一方、黒色近赤外線反射顔料の粒子表面にアルミナ被覆を行うには、まず、黒色近赤外線反射顔料のスラリーを水酸化ナトリウム等のアルカリでpHを8~9に中和した後50℃以上の温度に加熱し、次に、アルミニウム化合物と酸性水溶液とを同時並行で添加するのが好ましい。アルミニウム化合物としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等のアルミン酸塩を好適に用いることができ、酸性水溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸等の水溶液を好適に用いることができる。前記の同時並行での添加とは、アルミニウム化合物と酸性水溶液のそれぞれを別々に少量ずつ連続的あるいは間欠的に反応器に添加する方法をいう。具体的には反応器内のpHを8.0~9.0に保ちながら両者を10分~2時間程度かけて同時に添加するのが好ましい。アルミニウム化合物と酸性水溶液を添加後、酸性水溶液を更に添加しpHを5~6程度に調整するのが好ましい。
【0052】
前記の無機化合物を被覆した黒色近赤外線反射顔料を再度焼成すると、黒色近赤外線反射顔料の結晶性がより高くなり、耐水溶出性や耐酸性を更に向上させることができる。再度焼成の温度は200~1250℃の範囲が好ましく、400~1230℃がより好ましい。再度焼成時の雰囲気はいずれの雰囲気でも行えるが、十分な近赤外線反射能を保持するためには空気中で焼成するのが好ましい。再度焼成の時間は適宜設定することができるが、0.5~24時間が好ましく、1.0~12時間がより好ましい。
【0053】
以上の製造方法により得られた黒色近赤外線反射顔料は、粉末や成形体等種々の形態で使用することができる。粉末として用いる場合には、必要に応じて適宜粉砕して粒度を整えてもよく、成形体として用いる場合は、粉末を適当な大きさ、形に成形してもよい。粉砕機は例えば、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、ローラーミル、パルベライザー等の摩砕粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機を用いることができる。成形機は例えば押出し成形機等の汎用の成形機、造粒機を用いることができる。
【0054】
本発明の製造方法により得られた黒色近赤外線反射顔料は十分な近赤外線反射能を有する材料であるが、その他の赤外線反射能を有する化合物と混合して用いてもよい。これにより一層近赤外線反射能を高めたり、特定波長の反射能を補完したりすることができる。赤外線反射能を有する化合物には従来から使用されているものを用いることができる。例えば、二酸化チタン、鉄-クロム系、マンガン-ビスマス系、イットリウム-マンガン系等の無機化合物を挙げることができる。近赤外線反射能を有する化合物の種類、混合割合は、その用途に応じて適宜選定することができる。
【0055】
本発明の製造方法により得られた黒色近赤外線反射顔料をその他の顔料と混合して用いることもできる。例えば、黒色度をより強くしたり、あるいは灰色に調色したり、赤色、黄色、緑色、青色の中間色等の色彩を有するものとすることができる。前記の顔料としては、無機顔料、有機顔料、レーキ顔料等を使用することができる。具体的には、無機顔料としては二酸化チタン、亜鉛華、沈降性硫酸バリウム等の白色顔料、酸化鉄等の赤色顔料、ウルトラマリン青、プロシア青(フェロシアン化鉄カリウム)等の青色顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、アルミニウム粉等の顔料が挙げられる。有機顔料としては、アントラキノン、ペリレン、フタロシアニン、アゾ系、アゾメチアゾ系等の有機化合物が挙げられる。顔料の種類、混合割合は、色彩・色相に応じて適宜選定することができる。
【0056】
本発明の製造方法により得られた黒色近赤外線反射顔料は、溶媒分散体として用いることができる。溶媒としては、水等の無機溶媒やアルコール類、アルキル類、グリコール類、エーテル類、ケトン類、ベンゼン類、アセテート類等の有機溶媒、無機溶媒と有機溶媒の混合溶媒を用いることができる。黒色近赤外線反射顔料の濃度は適宜調整することができ、1~1000g/L程度が好ましい。溶媒分散体には、分散剤、顔料、充填剤、骨材、増粘剤、フローコントロール剤、レベリング剤、硬化剤、架橋剤、硬化用触媒などを配合することができる。溶媒分散体を製造するには、従来公知の方法で行うことができ、黒色近赤外線反射顔料を湿式粉砕機で溶媒に分散させるのが好ましい。湿式粉砕機としては公知の機器を適宜用いることができ、ビーズミル、サンドグラインダーミル、媒体撹拌ミル等のメディアを用いる湿式粉砕機、あるいは撹拌ミル、ディスクミル、インラインミル、ジェットミル等のメディアを用いない湿式粉砕機を用いることができる。本発明では、黒色近赤外線反射顔料を十分に分散させるためにメディアを用いた湿式粉砕機が好ましい。
【0057】
本発明の製造方法により得られた黒色近赤外線反射顔料は、塗料として用いることができる。塗料には、インキやインクといわれる組成物を含む。また、樹脂組成物として用いることができる。また、繊維組成物として用いることができる。また、前記塗料を基材上に塗布して近赤外線反射材として用いることができる。
【0058】
本発明の製造方法により得られた黒色近赤外線反射顔料は、塗料、インキやフィルム等のプラスチック成形物などの樹脂に含有されると、その優れた近赤外線反射能を利用した組成物とすることができる。塗料、インキ、樹脂組成物には、樹脂に対して黒色近赤外線反射顔料を任意の量で含有することができ、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。また、そのほかにそれぞれの分野で使用される組成物形成材料を配合し、更に各種の添加剤を配合してもよい。
【0059】
具体的には、塗料やインキとする場合、塗膜形成材料又はインキ膜形成材料のほかに、溶剤、分散剤、顔料、充填剤、骨材、増粘剤、フローコントロール剤、レベリング剤、硬化剤、架橋剤、硬化用触媒などを配合することができる。塗膜形成材料としては例えば、アクリル系樹脂、アルキド系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アミノ系樹脂などの有機系成分や、オルガノシリケート、オルガノチタネート、セメント、石膏などの無機系成分を用いることができる。インキ膜形成材料としては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩酢ビ系樹脂(塩化ビニル系と酢酸ビニル系の共重合樹脂)、塩素化プロピレン系樹脂などを用いることができる。これらの塗膜形成材料、インキ膜形成材料には、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂など各種のものを制限なく用いることができ、モノマーやオリゴマーの紫外線硬化性樹脂を用い、光重合開始剤や光増感剤を配合し、塗布後に紫外光を照射して硬化させると、基材に熱負荷を掛けず、硬度や密着性の優れた塗膜が得られるので好ましい。
【0060】
前記塗料は基材上に塗布して近赤外線反射材を製造することができる。この近赤外線反射材は赤外線の遮蔽材として、更には遮熱材としても用いることができる。つまり、赤外線反射材として用いることができる。基材としては、種々の材料、材質のものを用いることができる。具体的には各種建材や土木材料等を使用することができ、製造された近赤外線反射材は、家屋や工場等の屋根材、壁材又は床材、あるいは、道路や歩道を構成する舗装材などとして使用することができる。近赤外線反射材の厚みは、各種の用途に応じて任意に設定でき、例えば、屋根材として用いる場合には、概ね0.1~0.6mm、好ましくは0.1~0.3mmとし、舗装材として用いる場合には、概ね0.5~5mm、好ましくは1~5mmとする。基材上に塗布するには、塗布、吹き付けによる方法や、コテによる方法が可能であり、塗布後必要に応じて乾燥したり、焼付けしたり、養生したりしてもよい。
【0061】
樹脂組成物とする場合、樹脂のほかに、顔料、染料、分散剤、滑剤、酸化防止材、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、殺菌剤などを本発明の製造方法により得られた黒色近赤外線反射顔料とともに練り込み、フィルム状、シート状、板状などの任意の形状に成形する。樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ乳酸系樹脂などの熱可塑性樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。このような樹脂組成物は、フィルム、シート、板等の任意の形状に成形して、工業用、農業用、家庭用等の近赤外線反射材として用いることができる。また、赤外線を遮蔽して遮熱材としても用いることができる。
【0062】
本発明の製造方法により得られた黒色近赤外線反射顔料を含有する繊維組成物は、衣類、織布、不織布、壁紙等に近赤外線反射能を付与することができる。繊維としては公知のものを用いることができ、例えばレーヨン等のセルロース再生繊維、ナイロン等のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタラート等のポリエステルや、アクリル繊維、炭素繊維等が挙げられる。黒色近赤外線反射顔料は、繊維を紡糸する際に練り込んだり、紡糸表面に固定したりして用いることができ、これらの方法は従来の方法を適宜用いることができる。また、繊維に対して黒色近赤外線反射顔料を任意の量を含有することができ、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。
【0063】
以下、本発明を実施例、比較例により説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
(実験1)
実施例1
炭酸カルシウムCaCO3(神島化学工業(株)製)32.72g、二酸化チタン(石原産業(株)製)13.04g、二酸化マンガン(東ソー(株)製)14.12gを分取し、220mLマヨネーズ瓶の中に入れ、更にガラスビーズ100g及び純水を加え、ペイントシェーカーで十分に混合及び粉砕(時間:30分間)した。この原料混合物を乾燥後、1200℃で4時間焼成した。この焼成物を自動乳鉢で解砕し、試料Aを得た。
試料Aを蛍光X線分析装置((株)リガク製 RIX-2100)及び粉末X線回折装置((株)リガク製 UltimaIV)で分析した結果、チタン、マンガン、カルシウムを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)を[Mn]/[Ti]と表記すると、その値は1.00であった。また、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所(株)製 LA-910)を用いて粉砕混合後の原料混合物の粒度分布を測定したところ、累積90%粒子径(体積基準)は、1.29μmであった。
【0065】
実施例2
焼成温度を1180℃にした以外は実施例1と同様な操作を行い、試料Bを得た。
試料Bを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウムを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00であった。
【0066】
実施例3
焼成温度を1300℃にした以外は実施例1と同様な操作を行い、試料Cを得た。
試料Cを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウムを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00であった。
【0067】
比較例1
炭酸カルシウム32.72g、二酸化チタン13.04g、二酸化マンガン14.12gを分取し、自動乳鉢で十分に混合した後、1150℃で4時間焼成した。この焼成物を自動乳鉢で解砕し、試料Dを得た。
試料Dを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウムを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00であった。
【0068】
比較例2
焼成温度を1180℃にした以外は比較例1と同様な操作を行い、試料Eを得た。
試料Eを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウムを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00であった。
【0069】
比較例3
焼成温度を1200℃にした以外は比較例1と同様な操作を行い、試料Fを得た。
試料Fを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウムを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00であった。
【0070】
比較例4
焼成温度を1160℃にした以外は実施例1と同様な操作を行い、試料Gを得た。
試料Gを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウムを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00であった。
【0071】
比較例5
焼成温度を1140℃にした以外は実施例1と同様な操作を行い、試料Hを得た。
試料Hを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウムを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00であった。
【0072】
(評価1)BET比表面積測定
各試料のBET比表面積を測定した。測定にはMacsorb HM model 1220(マウンテック社製)を用い、窒素吸着によるBET一点法により算出した。
【0073】
(評価2)耐酸性評価
まず、試料、ポリエステル樹脂(東洋紡(株)製 バイロンGK-19CS)及びメラミン樹脂(DIC(株)製 スーパーベッカミンL-109)を、P/B(顔料/樹脂重量比)=0.8、SVC(固形分体積濃度)=44.7%となるように調整して塗料を作製した。作製した塗料を鋼板上に#15バーコーターで塗布し、210℃で10分間焼き付けて塗膜片を作製した。作製した塗膜片を5%硫酸に48時間浸漬した。鋼板上に塗布した塗膜について浸漬前後の60°光沢を測定し、初期塗膜との光沢変化(光沢保持率)を評価した。また、酸に浸漬後の塗膜片を、未浸漬の塗膜片と対比してカラーの変化を目視で観察した。両者をもって耐酸性の指標とした。60°光沢の測定には光沢計(日本電色工業(株)製 VG-2000)を用いた。カラー変化観察の基準は、「○」はほぼ変化なし、「△」は明確に変色、「×」は著しく変色とした。
【0074】
試料A~Hについての評価結果を表1に示す。合わせて、比表面積と光沢保持率をプロットしたグラフを
図1に示す。比表面積の低下に伴い硫酸浸漬後の光沢保持率は向上し、乾式粉砕でも湿式粉砕でもそれぞれの原料混合方法内でほぼ直線関係にあった。そして、乾式粉砕法と湿式粉砕法と同一の比表面積で対比すると、湿式で混合を行うことで、光沢保持率が20%ほど向上した。つまり、比表面積と光沢保持率のバランスを高特性側にシフトさせることができた。カラー変化についても、湿式粉砕で混合を行うことで低減されていた。乾式での混合粉砕よりも湿式での混合粉砕のほうが、各原料粉末、特に二酸化マンガン原料粉末の凝集を低減でき、粒子径の異なる原料(カルシウム化合物、マンガン化合物、チタン化合物)を均一に混合できたため、耐酸性の向上には有利となったと考えられる。比表面積が3m
2/g未満であれば、40%以上の光沢保持率が期待できる。比表面積が2.6m
2/g以下であれば、50%以上の光沢保持率が見込まれ、著しい変色は起こらなくなるため好ましい。比表面積が2.1m
2/g以下であれば、70%以上の光沢保持率が見込まれ、ほぼ変色は見られなくなるためより好ましい。
【0075】
【0076】
(実験2)
実施例4
実験1で用いたものと同じ炭酸カルシウム32.72g、二酸化チタン13.04g、二酸化マンガン14.12gに加え、水酸化アルミニウム(キシダ化学(株)製)0.29gと酸化ビスマス(関東化学(株)製)0.41g、塩化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.60gを分取し、220mLマヨネーズ瓶の中に入れ、更にガラスビーズ100g及び純水を加え、ペイントシェーカーで十分に混合及び粉砕(時間:30分間)した。この原料混合物を乾燥後、1180℃で4時間焼成した。この焼成物を自動乳鉢で解砕し、試料Iを得た。
試料Iを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウム、ビスマスを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00であり、アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)を[Al]/([Ti]+[Mn])と表記すると、その値は0.011であり、ビスマスとチタン、マンガンの原子比(モル比)を[Bi]/([Ti]+[Mn])と表記すると0.0053であった。ナトリウムはNa2Oとして0.13質量%含まれていた。
【0077】
実施例5
水酸化アルミニウムの量を0.44gとし、焼成温度を1150℃とした以外は実施例4と同様にして、試料Jを得た。
試料Jを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウム、ビスマスを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00、アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Al]/([Ti]+[Mn])は0.017、ビスマスとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Bi]/([Ti]+[Mn])は0.0053であった。
【0078】
実施例6
焼成温度を1200℃とした以外は実施例5と同様にして、試料Kを得た。
試料Kを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウム、ビスマスを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00、アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Al]/([Ti]+[Mn])は0.017、ビスマスとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Bi]/([Ti]+[Mn])は0.0053であった。
【0079】
実施例7
水酸化アルミニウムの量を0.88gとした以外は実施例6と同様にして、試料Lを得た。
試料Lを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウム、ビスマスを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00、アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Al]/([Ti]+[Mn])は0.034、ビスマスとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Bi]/([Ti]+[Mn])は0.0053であった。
【0080】
実施例8
水酸化アルミニウムの量を1.50gとした以外は実施例6と同様にして、試料Mを得た。
試料Mを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウム、ビスマスを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00、アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Al]/([Ti]+[Mn])は0.055、ビスマスとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Bi]/([Ti]+[Mn])は0.0053であった。
【0081】
実施例9
水酸化アルミニウムの量を3.00gとした以外は実施例6と同様にして、試料Nを得た。
試料Nを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウム、ビスマスを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00、アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Al]/([Ti]+[Mn])は0.11、ビスマスとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Bi]/([Ti]+[Mn])は0.0053であった。
【0082】
実施例10
酸化ビスマスと塩化ナトリウムを用いなかったこと以外は実施例6と同様にして、試料Oを得た。
試料Oを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウムを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00、アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Al]/([Ti]+[Mn])は0.017であった。
【0083】
実施例11
焼成温度を1300℃にした以外は実施例5と同様な操作を行い、試料Pを得た。
試料Pを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウム、ビスマスを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00、アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Al]/([Ti]+[Mn])は0.017、ビスマスとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Bi]/([Ti]+[Mn])は0.0053であった。
【0084】
実施例12
焼成温度を1300℃にした以外は実施例7と同様な操作を行い、試料Qを得た。
試料Qを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウム、ビスマスを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00、アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Al]/([Ti]+[Mn])は0.034、ビスマスとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Bi]/([Ti]+[Mn])は0.0053であった。
【0085】
実施例13
焼成温度を1300℃にした以外は実施例8と同様な操作を行い、試料Rを得た。
試料Rを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウム、ビスマスを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、[Mn]/[Ti]は1.00、[Al]/([Ti]+[Mn])は0.055、[Bi]/([Ti]+[Mn])は0.0053であった。
【0086】
実施例14
焼成温度を1300℃にした以外は実施例9と同様な操作を行い、試料Sを得た。
試料Sを実施例1と同様に分析した結果、チタン、マンガン、カルシウム及びアルミニウム、ビスマスを含有したABO3型ペロブスカイト構造の複合酸化物単相からなり、マンガンとチタンの原子比(モル比)である、[Mn]/[Ti]は1.00、アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Al]/([Ti]+[Mn])は0.11、ビスマスとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Bi]/([Ti]+[Mn])は0.0053であった。
【0087】
(評価3)分散度
まず、試料、アルキド樹脂(DIC(株)製 アルキディアJ-524IM)及びメラミン樹脂(DIC(株)製 アミディアJ-820)を、PVC(顔料体積濃度)=19.2、P/B(顔料/樹脂重量比)=0.8、SVC(固形分体積濃度)=46.0%となるように調整して塗料を作製した。作製した塗料に対し、JIS K 5600-2-5に基づき、最大深度100μmの粒ゲージを用いて密粒子の発生する深度を評価した。この評価を3回行い、3回の平均値を分散度(μm)とした。この分散度の値が小さいほど塗料中での顔料粒子の分散性が高いと言える。
【0088】
(評価4)粉体の反射率
粉体の近赤外線反射率の測定には、紫外可視近赤外分光光度計(日本電色工業(株)製 V-670)を用いた。試料を粉体のまま専用の測定用セルに入れ、300~2500nmの範囲の分光反射率を測定した。
【0089】
表2に各試料の比表面積と耐酸性(カラー変化及び光沢変化率)評価結果、分散度、波長1200nmの反射率の測定結果を示す。試料I~NのようにAlやBiを添加して焼成することで、試料Aよりも更に耐酸性効果が大きくなった。アルミニウムとチタン、マンガンの原子比(モル比)である、[Al]/([Ti]+[Mn])が0.01を超えると耐酸性向上効果が高まることがわかり、特に0.015を超えると高い耐酸性を示した。ただし、更に前記[Al]/([Ti]+[Mn])が0.1を超えて多くなるとカラー変化が見られ、分散度も大きくなった。また、試料KとOを比較すると耐酸性が向上しており、Bi添加による耐酸性向上効果も確認された。
【0090】
表2の通り、本発明の製造方法で得られた試料の中でも試料K~Nは、比表面積が1.6m2/g以上3.0m2/g未満であるため、粒ゲージで測定した分散度が20μm以下と特に分散性に優れ、塗料中に良好に分散させることができた。
【0091】
図2に比表面積と波長1200nmの粉体反射率をプロットしたグラフを、
図3に代表として試料K,L,P,Qの分光反射率曲線を示す。
図2からわかるように、波長1200nmの粉体反射率特性には比表面積が1.5m
2/g付近に変曲点があり、それより高比表面積になると粉体反射率が高くなる傾向にあった。比表面積が1.5m
2/g以上である試料K~Nは、それぞれ同一組成で比表面積が1.5m
2/g未満である試料P~Sと比較して、7~9ポイントほど高い反射率を示し、近赤外線反射率が高いことがわかる。また、
図3の通り、黒色であるため可視光域の反射率は低く抑えられているが、約900nm以上では試料K,Lは試料P,Qと比較して反射率が高いことがわかる。
【0092】
【0093】
(評価5)塗膜の反射率
評価3と同様の手順で塗料を作製した。塗料を白黒チャート紙に#30バーコーターで塗布し、110℃で30分間焼付けして塗膜を作製した。黒地上の塗膜を300~2500nmの範囲で紫外可視近赤外分光光度計(日本電色工業(株)製 V-670)を用いて、分光反射率を測定した。測定したデータをJIS K 5602に記載の重価係数を用いて計算し、塗膜の日射反射率(%)を算出した。
【0094】
図4に試料K,L,P,Qを用いて作製した塗膜の分光反射率曲線を示す。黒色であるため可視光域の反射率は低く抑えられているが、約900nm以上では試料K,Lは試料P,Qと比較して反射率が高いことがわかる。
【0095】
表3にJIS K 5602に記載の重価係数により算出した塗膜の日射反射率を示す。粉体の反射率と同様、黒色であるため可視光域の反射率は低く抑えられているが、780~2500nmの範囲では試料K,Lは試料P,Qと比較して反射率が高く、近赤外線反射特性に優れていることがわかる。
【0096】
【0097】
試料A~Sの黒色度をHunter Lab色空間(Lab表色系)で測定した結果、明度指数L値で表していずれの試料も20以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、少なくとも、カルシウム元素、チタン元素及びマンガン元素を含む黒色近赤外線反射顔料の耐酸性を改良することができ、種々の用途に用いることができる。特に、ヒートアイランド現象の緩和や夏場の建築物の冷房効率のアップなどに効果があり、産業上の利用可能性がある。