IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 13/02 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
B05B13/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021018922
(22)【出願日】2021-02-09
(62)【分割の表示】P 2018194083の分割
【原出願日】2018-10-15
(65)【公開番号】P2021073095
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】吉野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】永井 久司
(72)【発明者】
【氏名】松澤 正明
(72)【発明者】
【氏名】原 哲也
【審査官】塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-107117(JP,A)
【文献】特開2003-156687(JP,A)
【文献】特開平07-084652(JP,A)
【文献】特開2012-192676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B12/00-12/14
13/00-13/06
B05C 7/00-21/00
B05D 1/00-7/26
B41J 2/01
2/165-2/20
2/21-2/215
B05B13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布物に対してインクを塗布するスプレーと、前記スプレーに対向して配置されている本体部と、前記本体部に収容されているヒータと、を有する塗布装置において、前記本体部は、少なくとも前記被塗布物を置くプレートと、前記ヒータを内部に収容するヒータボックスと、前記プレートを上方に設置して前記ヒータボックスを内蔵したケースと、から構成されており、前記プレートの表面側には複数の微細な孔部を有し、かつ前記プレートの裏面側には前記複数の孔部と連結した溝部が設けられており、前記溝部の一端は前記プレートの中央部または側面部まで延在し、前記プレートの表面における前記孔部を、前記プレートの中央部は同心円状の形態,前記プレートの外縁部は放射状の形態としてそれぞれ配置することを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記ヒータボックスはアルミニウム合金製であって、かつ前記プレートおよび前記ケースはステンレス鋼製であることを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー等を用いて基材に対して液体(インク)を塗布する塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に皮膜を形成する場合にインクを充填したスプレーを備えた塗布装置が用いられる。その際、基材はスプレーに対向する形態で台座(テーブル)に設置されて、その状態でインクが塗布される。
【0003】
基材が薄い板状(シート状)の場合には、インクを塗布した瞬間にスプレーによる風圧で基材が移動し、基材の端部がテーブルから離れる恐れがある。塗布時に基材が移動すると、基材の表面に均一にインクを塗布できないという問題が生じる。
【0004】
そのため、特許文献1には基材を設置する台座にエアによる吸引機構を設けて、インクの塗布時に基材を台座部分に固定する技術が開示されている。また、特許文献2には台座に吸引機構とヒータによる加熱機構を一体化することで基材を保温しながら塗布して、インクを速やかに乾燥できる点が開示されている。さらに、特許文献3にも塗布後におけるインクの乾燥を促進させるため、基材物を載せるワーク(台座)にホットプレート等の加熱手段を設ける点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-84449号公報
【文献】特開2003-100314号公報
【文献】特開2006-769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、塗布装置の台座に吸引機構を設けた場合、装置外部から真空ポンプでエアを引くことで吸引機能を発揮させても台座の吸引口から近い箇所と遠い箇所では吸引時間に差異が生じる。
【0007】
つまり、台座の吸引口から離れた箇所では吸引能力が相対的に低下するので塗布時に基材の一部が台座部分から離れるという問題があった。また、塗布時に基材の一部が台座から離れることでヒータ等で基材を加熱する場合でも温度分布が一様でない、いわゆる温度ムラが発生して、結果的に基材の一部にインクの乾燥ムラが発生していた。
【0008】
この問題に対して、台座の吸引口からの距離による吸引能力については真空ポンプの能力を引き上げて吸引力を上昇させることで吸引口から離れた箇所でも吸引力を高めることができる。
【0009】
しかし、吸引力を高めると台座の吸引口から近い部分では必要以上に基材を台座部分に寄せ付ける。そのため、厚さが数μmの基材である場合にはその基材が台座部分に設けられた吸引孔に侵入し、基材に吸引痕が残存するという別の問題が発生する。
【0010】
そこで、本発明は基材(被塗布物)の厚さが数μmであっても台座で基材を均一に吸引することで偏り無く固定し、ヒータ等の加熱手段による基材の温度ムラも解消できる塗布装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決するために、本発明の塗布装置は、被塗布物に対してインクを塗布するスプレーと、そのスプレーに対向して配置する本体部と、本体部に収容するヒータを有する塗布装置において、その本体部は、少なくとも被塗布物を置くプレートと、ヒータを内部に収容するヒータボックスと、プレートを上方に設置してヒータボックスを内蔵するケースから構成するものとした。
【0012】
ヒータボックスの材質をアルミニウム合金製としたり、プレートおよびケースの材質をステンレス鋼製とすることもできる。また、プレートの表面に複数の微細な孔部を設けて、それらの配置をプレートの中央部は同心円状の形態,プレートの外縁部は放射状の形態とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗布装置は、本体部を構成するプレートとケースを上述した構造にすることで厚さが数μmの被塗布物に対しても本体部で被塗布物を均一に吸引できる。また、被塗布物を均一に吸引することで被塗布物は本体部に偏り無く固定されて、ヒータ等の加熱手段による被塗布物の不均一な温度分布を解消できる。結果として、被塗布物の表面にインクを均一に塗布し、速やかに乾燥できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態を示す塗布装置1の正面図である。
図2】本発明の一実施形態を示す塗布装置1の平面図である。
図3】本体部10の平面図である。
図4】本体部10の斜視図である。
図5】本体部10の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明である塗布装置の構成について図面を用いて説明する。本発明の一実施形態である塗布装置1の正面図を図1、平面図(上面図)を図2にそれぞれ示す。塗布装置1は、大きく分けて図1および図2に示すように塗布時に試料(被塗布物)を設置する本体部10と、被塗布物に対してインクを噴霧するスプレー20と、内部に本体部10を収容すると共に上方にスプレー20を設置するアクリルケース30と、から構成されている。
【0016】
図1に示すようにアクリルケース30の正面には扉が取り付けられており、その扉を開閉することで被塗布物を塗布装置1の内外から出し入れできる。また、アクリルケース30の上方に設置されているスプレー20は、図面の上下方向および左右方向にレール(ガイド部材)に沿って縦横に移動できる。
【0017】
それにより、被塗布物の全面に万遍なくインクを塗布できる。なお、塗布装置1には図示しない本体部10に電力を供給する電気配線やスプレー20へ圧縮空気を供給するエア配管など種々の機器類も備えている。
【0018】
次に、図1および図2に示すアクリルケース30内部に収容されている本体部10の構造について説明する。本体部10の平面図を図3、斜視図を図4にそれぞれ示す。また、本体部10を構成部品ごとに分解した分解斜視図を図5に示す。
【0019】
本体部10は、図3ないし図5に示すように被塗布物を設置するプレート11と、プレート11を下方から加熱する複数個のヒータ12と、このヒータ12を内部に収容するケース13と、を備えている。以下、本体部10を構成するプレート11およびるケース13の詳細について説明する。
【0020】
本体部10を構成するプレート11は、被塗布物を設置する外側(表面側)に複数の微細な孔部11a,11b,11c,11d・・・を備えている。これらの孔部の配置形態は図3ないし図5に示すように同心円状、放射状、矩形状、多角形状などの単一形態やこれらの組み合わせによる混合形態が可能である。また、プレート11の裏面側(内側)は、外側に配置された複数の孔部に連結した溝部がプレート11の中央部または側面部まで設けられて、外部のエア供給源と接続できる構造となっている。なお、プレート11はヒータ12により加熱されたプレート11の保温性を確保する観点からステンレス鋼製であることが好ましい。
【0021】
本体部10を構成するケース13は、図5に示すように複数個のヒータ12およびそれらのヒータ12を収容するヒータボックス14を内部に収めると共に、上方にはプレート11が載置されている。図4および図5に示すようにケース13は、底部分に当たる底蓋部材13aと側面部に当たる外枠部材13bが互いに組み合わされた構造でも良いし、これらの両部材13a,13bを一体的に形成しても構わない。
【0022】
なお、ヒータボックス14の材質は、ヒータ12から発生する熱を被塗布物に効率的に伝える観点からアルミニウム合金製であることが好ましい。また、底蓋部材13aや外枠部材13bまたは両部材13a,13bを一体化したケース13は、ヒータ12により加熱されたケース13の保温性を確保する観点からステンレス鋼製であることが好ましい。さらに、図3ないし図5に示すヒータ12は4本のヒータ12a~12dを用いた場合を示すが、塗布装置の大きさや本体部の出力などの諸条件に応じてヒータの個数は任意に変更できる。
【実施例
【0023】
本発明である塗布装置(以下、本装置という)および従来の塗布装置(以下、従来装置という)をそれぞれ用いて、後述する試験条件で被塗布物の加熱試験を行った。その試験結果について以下に説明する。本装置は、図1および図2で示した同一形態の装置とした。これに対して、従来装置はヒータ等の加熱部品上にプレートを直接載置する形態とした。本加熱試験の被塗布物としては、縦80mm×横75mm×厚さ0.1mmのステンレス鋼(SUS304)製の箔材を使用した。
【0024】
次に、加熱試験の手順について説明する。まず、室温を23℃の雰囲気に設定した状態で、塗布装置のプレート上にステンレス鋼製の箔材を設置して、塗布装置の本体部に組み込まれたヒータの設定温度(以下、SVという)を50℃から10℃刻みで最高100℃までの範囲に設定した。
【0025】
SVの設定を行い、所定の時間が経過した後に同箔材の表面温度(以下、PVという)を赤外線式温度計により測定した。PVの測定は、箔材の四隅および中心位置の計5箇所について行い、時間を変えて合計5回の計測を行った。その後、各箇所の温度から箔材全体の平均値を算出した。
【0026】
なお、本試験の塗布装置は、本装置としてステンレス鋼製のプレートとケースおよびアルミニウム合金製のヒータボックスから構成される装置とした。これに対して、従来装置としては、プレート,ケースおよびヒータボックスの全てがアルミニウム合金製である装置(以下、従来装置1とする),プレート,ケースおよびヒータボックスの全てがステンレス鋼製である装置(以下、従来装置2とする)の2種類の装置を使用した。
【0027】
本装置を用いたステンレス鋼製の箔材における表面温度の測定結果を表1、従来装置1を用いた測定結果を表2、従来装置2を用いた測定結果を表3にそれぞれ示す。表1ないし表3において、ヒータの設定温度であるSV(℃),箔材の四隅および中心位置における計5箇所の測定温度の平均値(PV:℃)およびSVとPVの差をそれぞれ示す。各温度測定は、同一箔材に対して5回繰り返し行った。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
本装置を用いた加熱試験では表1に示すようにヒータの設定温度であるSVと箔材表面の測定温度であるPVの差(SV-PV)は、SVに関わらず0.2℃以下の範囲であった。
【0032】
これに対して、従来装置1および2を用いた加熱試験では表2および表3に示すようにSVとPVの差は従来装置1を用いた場合は0.9~2.1℃、従来装置2を用いた場合は0.1~0.8℃の範囲であった。いずれの場合も本装置を用いた場合よりもSVとPVの差は大きくなった。
【0033】
本装置の加熱試験において、従来装置1および2の場合に比べてSVとPVの差が 小さくなった原因は、本体部を構成するヒータボックスの材質が熱伝導率の高いアルミニウム合金(熱伝導率:1.95(W/m・℃) ×10-2)であること、プレートおよびその周囲を取り囲むケースの材質に保温性が良好なステンレス鋼(熱伝導率:0.16(W/m・℃) ×10-2)を選定したことにより、ステンレス鋼製の箔材の表面を均一に加熱できたためと考えられえる。
【0034】
これに対して、従来装置1には、本体部を構成する全ての材質に熱伝導率の高いアルミニウム合金を使用した結果、本体部のプレートを加熱すると同時に放熱も起ったために本装置の場合に比べてSVとPVの差が広がったと考えられる。
【0035】
また、従来装置2の場合、本体部を構成する全ての材質に熱伝導率の低いステンレス鋼を使用していたので、本体部全体が十分に加熱しなかったことによりSVとPVの差が本装置の場合に比べて広がった原因と思われる。
【0036】
次に、本装置を用いたステンレス鋼製の箔材における四隅および中心位置の表面温度の測定結果を表4、従来装置1を用いた測定結果を表5、従来装置2を用いた測定結果を表6にそれぞれ示す。表4ないし表6において、ヒータの設定温度であるSV(単位:℃)、箔材の四隅(隅部1~4)および中心位置の測定温度であるPV(単位:℃)およびPVの最大値と最小値の差をそれぞれ示す。
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
本装置を用いた加熱試験では、表4に示すようにSVに関わらず箔材表面の測定温度であるPVはSVとの誤差範囲が1℃未満であった。また、箔材の表面温度の測定箇所(全5箇所)の温度バラつきも0.1~0.4℃の範囲で1℃未満であった。これらの測定結果より、本装置を用いた加熱方式ではヒータによる加熱(入熱)が効率的に箔材を加熱して、同時に箔材の表面全体を均一に加熱していることがわかった。
【0041】
一方、従来装置1を用いた加熱試験では表5に示すように箔材表面のPVはSVとの誤差範囲が0.7~1.7℃の範囲であり、表1に示す本装置の誤差範囲に比べて広がった。加えて、ヒータの設定温度SVに対してPVが1℃以上低下する測定箇所も存在した。その原因は、前述したように本体部を構成する全ての材質に熱伝導率の高いアルミニウム合金を使用した結果、本体部のプレートを加熱すると同時に放熱も起ったことによるものと考えられる。
【0042】
また、従来装置2を用いた加熱試験では表6に示すように箔材表面のPVはSVとの誤差範囲が0.8~3.5℃の範囲であり、表5に示す従来装置1を用いた測定結果に比べて誤差範囲が更に広がった。特に、SVが80℃以上の場合がその傾向は顕著に見られた。合わせて、従来装置1の測定結果と同様に設定したSVに対して実際の測定値であるPVが1℃以上低く測定される箇所が存在した。この原因も前述したように本体部を構成する全ての材質に熱伝導率の低いステンレス鋼を使用した結果、本体部全体が十分に加熱しなかったことによるものと思われる。
【0043】
なお、本実施例に用いた本装置を構成するヒータボックスにはアルミニウム合金、ケースおよびプレートにはステンレス鋼を使用したが、いずれの部品もそれらの材質には限定されない。例えば、ヒータボックスの材質は相対的に熱伝導率の良好な錫,鉛,銅等の合金などでも構わない。また、ケースやプレートの材質は比較的に保温性の高い鋳鉄等の鉄基合金やニッケル合金でも良い。
【0044】
また、プレートの表面には図示するように多数の孔部を有し、それらの孔部からエアによる吸引によって被塗布物を固定させる構造としているが、孔部を設けることなく被塗布物をテープなどの固定手段によって被塗布物をプレート上に拘束する形態でも構わない。
【符号の説明】
【0045】
1 塗布装置
10 本体部
11 プレート
11a~11d プレートの孔部
12(12a~12d) ヒータ
13 ケース
13a 底蓋部材
13b 外枠部材
14 ヒータボックス
20 スプレー
30 アクリルケース
図1
図2
図3
図4
図5