IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-楽器及びアップライトピアノ 図1
  • 特許-楽器及びアップライトピアノ 図2
  • 特許-楽器及びアップライトピアノ 図3
  • 特許-楽器及びアップライトピアノ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】楽器及びアップライトピアノ
(51)【国際特許分類】
   G10C 3/02 20060101AFI20220511BHJP
   G10C 1/02 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G10C3/02 110
G10C1/02
G10C3/02 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017214516
(22)【出願日】2017-11-07
(65)【公開番号】P2019086650
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100206391
【弁理士】
【氏名又は名称】柏野 由布子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 安住
(72)【発明者】
【氏名】深津 圭一
(72)【発明者】
【氏名】駒田 洋史
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 仁
(72)【発明者】
【氏名】篠原 大志
【審査官】菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-161748(JP,A)
【文献】特開2005-283955(JP,A)
【文献】特開平01-136190(JP,A)
【文献】実開昭60-008994(JP,U)
【文献】実開昭54-035624(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10B 1/00-3/24
G10C 1/00-9/00
G10F 1/00-5/06
G10H 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間、及び、前記内部空間を外部につなぐ開口を有する筐体と、
音を発生して前記内部空間において伝播させる音源と、
前記筐体の外側において前記筐体の開口に対向する対向面を有すると共に、前記筐体の開口が外部に向く方向に対して前記対向面が傾斜する位置に配置可能な蓋部と、
前記内部空間に設けられ、前記音源において発生した前記音が前記筐体の開口から外部に出るように前記音を反射する反射面を有する反射部と、
を備え
前記音源は、平坦な面に形成されて前記音を放音する放音面を有し、
前記反射部は、前記反射面が前記放音面に対して傾斜するように前記放音面に対向して配され、
前記反射部は、前記放音面に対する前記反射面の傾斜角度が変化するように前記筐体に対して回転可能に取り付けられる楽器。
【請求項2】
前記放音面に対する前記反射面の傾斜角度は、5度以上15度以下である請求項1に記載の楽器。
【請求項3】
内部空間、及び、前記内部空間を外部につなぐ開口を有する筐体と、
音を発生して前記内部空間において伝播させる音源と、
前記筐体の外側において前記筐体の開口に対向する対向面を有すると共に、前記筐体の開口が外部に向く方向に対して前記対向面が傾斜する位置に配置可能な蓋部と、
前記内部空間に設けられ、前記音源において発生した前記音が前記筐体の開口から外部に出るように前記音を反射する反射面を有する反射部と、
を備え
前記反射部は、前記筐体に一体に形成されている楽器。
【請求項4】
内部空間、及び、前記内部空間を外部につなぐ開口を有する筐体と、
音を発生して前記内部空間において伝播させる音源と、
前記筐体の外側において前記筐体の開口に対向する対向面を有すると共に、前記筐体の開口が外部に向く方向に対して前記対向面が傾斜する位置に配置可能な蓋部と、
前記内部空間に設けられ、前記音源において発生した前記音が前記筐体の開口から外部に出るように前記音を反射する反射面を有する反射部と、
を備え
前記反射部は、前記筐体の内面に固定される請求項1又は請求項2に記載の楽器。
【請求項5】
前記音源は、平坦な面に形成されて前記音を放音する放音面を有し、
前記反射部は、前記反射面が前記放音面に対して傾斜するように前記放音面に対向して配されている請求項3又は請求項4に記載の楽器。
【請求項6】
内部空間、及び、前記内部空間を外部につなぐ開口を有する筐体と、
音を発生して前記内部空間において伝播させる響板と、
前記筐体の外側において前記筐体の開口に対向する対向面を有すると共に、前記筐体の開口が外部に向く方向に対して前記対向面が傾斜する位置に配置可能な蓋部と、
前記内部空間のうち前記響板の内面に対向する位置に設けられ、前記響板において発生した前記音が前記筐体の開口から外部に出るように前記音を反射する反射面を有する反射部と、
を備えるアップライトピアノ。
【請求項7】
前記反射部は、前記響板の内面のうち1kHzよりも高い周波数の前記音を発生する領域に対向する位置に設けられる請求項6に記載のアップライトピアノ。
【請求項8】
前記反射部は、前記筐体の上前板及び下前板の少なくとも一方に設けられる請求項6又は請求項7に記載のアップライトピアノ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器及びアップライトピアノに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アップライトピアノ等のように、開口を有する筐体と、音を発生して筐体内で伝播させる音源と、を備える楽器がある。一般的なアップライトピアノでは、音源である響板において発生して筐体内で伝播する音を主に外部に出すための開口が、筐体の上部に設けられている。
特許文献1には、筐体の下前板を下板と上板とに分割して形成し、上板を下板に対して回転可能かつ所定角度で保持可能に連結したアップライトピアノが開示されている。特許文献1のアップライトピアノでは、下前板の上板を開くことで、音源である響板において発生して筐体内で伝播する音が、筐体の前面側の開口から外部に出る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公平07-025832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、筐体及び音源を有する上記従来の楽器では、筐体内で発生した音が、筐体の所望の開口(例えばアップライトピアノにおける筐体上部の開口)から効率よく外部に出ないことがある。
例えば、一般的なアップライトピアノでは、響板と上前板や下前板とが、筐体の上下方向に直交する方向(前後方向)に並び、互いに平行している。このため、響板において発生し筐体内で伝播する音は、上前板や下前板と響板との間で反射を繰り返して減衰してしまう。その結果として、筐体内で伝播する音を、筐体上部の開口から効率よく外部に出すことができない、という問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、筐体内で発生した音を筐体の所望の開口から効率よく外部に出すことができる楽器及びアップライトピアノを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の楽器は、内部空間、及び、前記内部空間を外部につなぐ開口を有する筐体と、音を発生して前記内部空間において伝播させる音源と、前記筐体の外側において前記筐体の開口に対向する対向面を有すると共に、前記筐体の開口が外部に向く方向に対して前記対向面が傾斜する位置に配置可能な蓋部と、前記内部空間に設けられ、前記音源において発生した前記音が前記筐体の開口から外部に出るように前記音を反射する反射面を有する反射部と、を備え、前記音源は、平坦な面に形成されて前記音を放音する放音面を有し、前記反射部は、前記反射面が前記放音面に対して傾斜するように前記放音面に対向して配され、前記反射部は、前記放音面に対する前記反射面の傾斜角度が変化するように前記筐体に対して回転可能に取り付けられる。
また、本発明の楽器は、内部空間、及び、前記内部空間を外部につなぐ開口を有する筐体と、音を発生して前記内部空間において伝播させる音源と、前記筐体の外側において前記筐体の開口に対向する対向面を有すると共に、前記筐体の開口が外部に向く方向に対して前記対向面が傾斜する位置に配置可能な蓋部と、前記内部空間に設けられ、前記音源において発生した前記音が前記筐体の開口から外部に出るように前記音を反射する反射面を有する反射部と、を備え、前記反射部は、前記筐体に一体に形成されている。
また、本発明の楽器は、内部空間、及び、前記内部空間を外部につなぐ開口を有する筐体と、音を発生して前記内部空間において伝播させる音源と、前記筐体の外側において前記筐体の開口に対向する対向面を有すると共に、前記筐体の開口が外部に向く方向に対して前記対向面が傾斜する位置に配置可能な蓋部と、前記内部空間に設けられ、前記音源において発生した前記音が前記筐体の開口から外部に出るように前記音を反射する反射面を有する反射部と、を備え、前記反射部は、前記筐体の内面に固定される。
【0007】
本発明のアップライトピアノは、内部空間、及び、前記内部空間を外部につなぐ開口を有する筐体と、音を発生して前記内部空間において伝播させる響板と、前記筐体の外側において前記筐体の開口に対向する対向面を有すると共に、前記筐体の開口が外部に向く方向に対して前記対向面が傾斜する位置に配置可能な蓋部と、前記内部空間のうち前記響板の内面に対向する位置に設けられ、前記響板において発生した前記音が前記筐体の開口から外部に出るように前記音を反射する反射面を有する反射部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、音源や響板において発生して内部空間で伝播する音を、筐体の開口から効率よく外部に出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るアップライトピアノを示す側断面図である。
図2図1のアップライトピアノにおける響板及び駒を示す平面図である。
図3図1のアップライトピアノにおける音の伝達を説明するための図である。
図4】本発明の他の実施形態に係るアップライトピアノの要部を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1-3を参照して本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、本発明に係る楽器として、アップライトピアノ1(以下、ピアノ1と呼ぶ。)を例示する。図1-3においては、ピアノ1の演奏者P(図3参照)から見てピアノ1の左右方向をX軸方向とし、ピアノ1の前後方向をY軸方向とし、ピアノ1の上下方向をZ軸方向としている。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係るピアノ1は、筐体2と、響板(音源)3と、蓋部4と、反射部5と、を備える。また、本実施形態のピアノ1は、鍵盤部6、アクション機構7、弦8、駒9など、一般的なアップライトピアノの構成を備える。
【0012】
筐体2は、内部空間11、及び、内部空間11を外部につなぐ開口12を有する。
本実施形態における筐体2の内部空間11は、上前板13、下前板14、一対の親板15、屋根後16、底板17、棚板18、前框19、鍵盤部6及び響板3によって囲まれた空間である。すなわち、本実施形態の鍵盤部6や響板3は、筐体2の一部を構成している。響板3の内面3a(筐体2の内側に向く面)は、ピアノ1の前後方向(Y軸方向)において上前板13や下前板14の内面13a,14a(筐体2の内側に向く面)に対向している。また、響板3の内面3aは、上前板13や下前板14の内面13a,14aに対して平行している。
本実施形態における筐体2の開口12は、上前板13及び一対の親板15の上端、並びに、屋根後16の前端によって囲まれた領域である。本実施形態において、筐体2の開口12が外部に向く方向は、筐体2の上方(Z軸正方向)である。
【0013】
響板3は、音を発生して筐体2の内部空間11において伝播させる。響板3において音を発生させる機構は、一般的なアップライトピアノと同様である。すなわち、鍵盤部6の鍵21を押し下げると、アクション機構7のハンマー22が響板3の内面3a上に張られた弦8を打撃する。打撃された弦8は振動する。弦8の振動は響板3の内面3aに設けられた駒9を介して響板3に伝達される。これにより、響板3がその板厚方向に振動して音が発生する。
響板3は、弦8の振動が駒9を介して伝達される部位において最も大きく振動する。このため、響板3において発生する音の大きさは、響板3のうち弦8の振動が駒9を介して伝達される部位において最も大きくなる。
【0014】
響板3において発生した音は、主に響板3の板厚方向において、響板3の外面3b(筐体2の外側に向く面)から離れる方向(主にY軸負方向)、及び、響板3の内面3aから離れる方向(主にY軸正方向)に伝播する。すなわち、平坦な面に形成された響板3の内面3aは、響板3において発生した音を放音する放音面となっている。
【0015】
蓋部4は、筐体2の外側において筐体2の開口12に対向する対向面4aを有する。蓋部4は、図1に例示するように、筐体2の開口12が外部に向く方向に対して蓋部4の対向面4aが傾斜する位置に配置可能とされている。
本実施形態における蓋部4は、一般的なアップライトピアノにおける屋根前であり、屋根後16の前端に接続されている。本実施形態において、蓋部4の対向面4aは、屋根後16の前端からピアノ1の前側(Y軸正方向側)に向かうにしたがってピアノ1の上方(Z軸正方向)に向かう方向に傾斜している。蓋部4の対向面4aは、例えば湾曲した面に形成されてよいが、本実施形態では平坦な面に形成されている。
【0016】
蓋部4は、例えば、筐体2の開口12が外部に向く方向に対する対向面4aの傾斜角度θ1が変化しないように、筐体2に対して固定されてよい。この場合、対向面4aの傾斜角度θ1は、少なくとも0度よりも大きく90度よりも小さければよい。
【0017】
本実施形態における蓋部4は、対向面4aの傾斜角度θ1が変化するように筐体2に対して回転可能に取り付けられている。具体的に、蓋部4は、屋根後16の前端に対してピアノ1の左右方向に延びる軸線を中心に回転可能とされている。対向面4aの傾斜角度θ1が90度である状態では、筐体2の開口12が蓋部4によって塞がれる。
本実施形態の蓋部4は、対向面4aが(筐体2の開口12が外部に向く方向に対して)所定の傾斜角度θ1で傾斜した状態に維持されるように、筐体2に対して保持される。所定の傾斜角度θ1は、少なくとも0度よりも大きく90度よりも小さい範囲であれば、任意であってよい。蓋部4を筐体2に対して保持する構成は、例えば蓋部4から上前板13や親板15の上端まで延びる支持棒など任意であってよい。
【0018】
反射部5は、筐体2の内部空間11に設けられている。具体的に、反射部5は、内部空間11のうち響板3の内面3aに対向する位置に設けられる。反射部5は、響板3において発生した音が筐体2の開口12から外部に出るように音を反射する反射面5aを有する。反射面5aは、例えば湾曲した曲面であってよいが、本実施形態では平坦面である。
【0019】
反射部5は、反射面5aが響板3の内面3a(放音面)に対して傾斜するように響板3の内面3aに対向して配されている。
反射面5aは、響板3の内面3a及び筐体2の開口12の両方に向くように、響板3の内面3aに対して傾斜している。具体的に、反射面5aは、響板3の内面3aに沿って筐体2の開口12に近づくにしたがって(Z軸正方向に向かうにしたがって)響板3の内面3aから離れるように、響板3の内面3aに対して傾斜している。
【0020】
響板3の内面3aに対する反射面5aの傾斜角度θ2は、少なくとも0度より大きく90度より小さければよい。本実施形態における反射面5aの傾斜角度θ2は、5度以上15度以下である。
【0021】
反射部5は、例えばピアノ1の前後方向において響板3と上前板13や下前板14との間に配されてよい。すなわち、反射部5は、上前板13や下前板14の内面13a,14aに対して間隔をあけて位置してよい。また、反射部5は、例えば下前板14に設けられてもよいし、上前板13及び下前板14の両方に設けられてもよい。本実施形態において、反射部5は上前板13のみに設けられている。本実施形態の反射部5は、上前板13と別個に構成され、上前板13の内面13aに接着等によって固定されている。
反射部5は、少なくとも音を効率よく反射できるように構成されればよく、木材、金属、セラミック、樹脂など任意の材料によって構成されてよい。
【0022】
反射部5の反射面5aの寸法(例えば一辺の寸法や直径寸法などの長さ寸法)は、例えば、響板3において発生する音の波長よりも十分に大きいとよい。反射面5aの寸法が音の波長よりも小さい場合には、該当する波長の音が反射面5aにおいて反射し難くなり、回折現象が起きやすくなるためである。すなわち、反射面5aの寸法を響板3において発生する音の波長よりも十分に大きくすることで、該当する波長の音を反射面5aにおいて効果的に反射できる。また、反射面5aの寸法をより大きくすることで、(例えば上前板13や下前板14の内面13a,14aにおける反射面5aの専有面積を大きくすることで、)より広い周波数帯域の音を反射面5aにおいて反射することができる。
【0023】
反射部5は、響板3の内面3aの任意の領域に対向する位置に設けられてよい。反射部5は、例えば上前板13や下前板14の全体又は一部に設けられてよい。
また、反射部5は、例えば響板3の特性を考慮した位置に設けられてよい。以下、響板3の特性について説明する。響板3の内面3a上には、振動数が互いに異なる多種類の弦8が、図2に示す駒9(長駒9Aや短駒9B)の各長手方向に配列されている。このため、駒9を介して所定の弦8を支持する響板3の内面3aの所定領域では、響板3の内面3aの他の領域と比較して、所定の弦8の振動数に応じた周波数の音を強く放音する。すなわち、響板3の内面3aから強く放音される音の周波数は、響板3の内面3aの領域に応じて異なる。
反射部5は、例えば、上記した響板3の特性を考慮して、響板3の内面3aのうち内部空間11におけるシュレーダー周波数よりも高い周波数の音を発生する領域に対向する位置に設けられてよい。
【0024】
シュレーダー周波数とは、筐体2の内部空間11の容積と残響時間(吸音率)によって計算される周波数である。
シュレーダー周波数よりも低い周波数の音は、筐体2の内部空間11において、筐体2の内部空間11の音響モードに起因する共振(音の干渉や回折)などの現象が支配的となる周波数帯域(モード音響領域)に含まれる。すなわち、筐体2の内部空間11では、シュレーダー周波数よりも低い周波数の音に関して、筐体2の内部空間11の音響モードに起因する共振などの現象が支配的となる。
一方、シュレーダー周波数よりも高い周波数の音は、筐体2の内部空間11において、筐体2の内部空間11の幾何形状に起因する反射や拡散等の現象が支配的となる周波数帯域(幾何音響領域)に含まれる。すなわち、筐体2の内部空間11では、シュレーダー周波数よりも高い周波数の音に関して、筐体2の内部空間11の幾何形状に起因する反射や拡散等の現象が支配的となる。
【0025】
本実施形態のピアノ1の内部空間11におけるシュレーダー周波数は1kHzである。このため、本実施形態の反射部5は、例えば、響板3の内面3aのうち1kHzよりも高い周波数の音を発生する領域に対向する位置に設けられてよい。また、反射部5は、例えば、響板3の内面3aのうち確実に幾何音響領域に含まれる1.5kHz以上の周波数の音を発生する領域に対向する位置に設けられてよい。
反射部5は、例えば、響板3の内面3aのうち放音される基音及び倍音(二倍音、三倍音など)の周波数が1.5kHz以上となる領域に対向する位置に設けられてよい。また、反射部5は、例えば響板3の内面3aのうち放音される基音の周波数が1.5kHz以上となる領域に対向する位置に設けられてよい。基音の周波数が1.5kHz以上となる響板3の内面3aの領域は、例えば図2に示すように、長駒9Aの右上部分を配した響板3の内面3aの領域、及び、その周囲領域である。
【0026】
図1に示すように、筐体2の開口12が駒9よりも上方に位置するピアノ1において、反射部5が駒9の所定部位(例えば1.5kHz以上の音が放音される響板3の部位)に対向するように配される場合、反射部5の反射面5aの下端は、図1,2に示すように、反射面5aに対向する駒9よりも下方に位置すると良い。この場合、駒9の所定部位を配した響板3の内面3aの領域から放射状に放音される大きな音を、より確実に反射部5の反射面5aにおいて反射させて筐体2の開口12側に向かわせることができる。
【0027】
次に、本実施形態に係るピアノ1の作用について、主に図3を参照して説明する。図3においては、音の主な伝播方向を矢印で示している。
ピアノ1において所定の弦8の振動が駒9を介して響板3に伝達されると、響板3がその板厚方向に振動して、図3に示すように、音が響板3の内面3aから離れる方向(主にY軸正方向)に伝播する。
【0028】
響板3の内面3aから離れる方向に伝播した音は、響板3の内面3aに対向する反射部5の反射面5aにおいて反射する。ここで、反射面5aは響板3の内面3a及び筐体2の開口12の両方に向くように、響板3の内面3aに対して傾斜している。このため、反射面5aにおいて反射した音は、響板3の板厚方向(Y軸方向)に対してピアノ1の上方(Z軸正方向)に傾斜する方向に伝播する。
【0029】
反射面5aにおいて反射した音は、例えば筐体2の開口12から外部に出てもよい。本実施形態において、反射面5aにおいて反射した音は、響板3の内面3aにおいてさらに反射する。ここで、反射面5aにおいて反射した音は響板3の内面3aに対して傾斜した方向から入射する。このため、響板3の内面3aにおいて反射した音は、響板3の板厚方向(Y軸方向)に対してピアノ1の上方(Z軸正方向)に傾斜する方向に伝播する。
【0030】
響板3の内面3aにおいて反射した音は、例えば筐体2の開口12から外部に出てもよいし、図示例のように反射部5の反射面5a及び響板3の内面3aにおいてさらに反射を繰り返した上で、筐体2の開口12から外部に出てもよい。図示例では、反射部5の反射面5a及び響板3の内面3aにおいて二回ずつ反射した上で、筐体2の開口12から外部に出る。
【0031】
その後、筐体2の開口12から外部に出た音は、所定の傾斜角度θ1(図1参照)で傾斜した蓋部4の対向面4aにおいて反射する。これにより、筐体2から外部に出た音の伝播方向を変えることができる。本実施形態の蓋部4は、対向面4aの傾斜角度θ1が変化するように筐体2に取り付けられているため、筐体2の開口12から外部に出た音を所望の方向に伝播させることができる。
【0032】
本実施形態のピアノ1では、反射面5aの傾斜角度θ2(図1参照)及び蓋部4の対向面4aの傾斜角度θ1の組み合わせを適切に設定することで、筐体2から外部に出た音を、ピアノ1の正面に位置する演奏者Pに好適に向かわせることができる。例えば、蓋部4の対向面4aの傾斜角度θ1を45度(又はこれに近い角度)とした場合には、反射面5aの傾斜角度θ2を12度~13度とすることで、筐体2から外部に出た音を、ピアノ1の正面に位置する演奏者Pに好適に向かわせることができる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態のピアノ1によれば、筐体2の内部空間11に、響板3において発生した音が筐体2の開口12から外部に出るように当該音を反射させる反射部5が設けられている。このため、響板3において発生して内部空間11で伝播する音を、筐体2の開口12から効率よく出すことができる。特に本実施形態では、響板3で発生して内部空間11において伝播する音を、積極的に筐体2の上方の開口12から外部に出すことができる。
【0034】
また、本実施形態のピアノ1によれば、蓋部4が、筐体2の外側において筐体2の開口12が外部に向く方向に対して傾斜する対向面4aを有する。このため、筐体2の開口12から外部に出た音を、蓋部4の対向面4aにおいて反射させることで、ピアノ1の外部において所望の方向に伝播させることができる。
特に本実施形態では、筐体2の上方の開口12から外部に出た音を蓋部4の対向面4aにおいて反射させることで、筐体2の前側(Y軸正方向側)に伝播させることができる。これにより、ピアノ1における音の定位を、一般的なアップライトピアノと比較して、より上方に位置させることができる。例えば、ピアノ1における音の定位を、グランドピアノにおける音の定位に近づけることができる。
【0035】
また、本実施形態のピアノ1によれば、反射部5の反射面5aが響板3の内面3aに対して傾斜するように対向している。このため、響板3の内面3aから放音された音を反射部5の反射面5aにおいて反射させることで、反射した音の伝播方向を、響板3の内面3aから放音された音の伝播方向に対して傾斜させることができる。すなわち、筐体2内における音の伝播方向を変えることができる。これにより、筐体2内で発生した音を、確実に筐体2の開口12から外部に出すことができる。
【0036】
また、本実施形態のピアノ1によれば、響板3の内面3aに対する反射面5aの傾斜角度θ2が5度以上15度以下となっている。反射面5aの傾斜角度θ2が5度以上であることで、反射面5aにおいて反射した音を筐体2の開口12に容易に到達させることができる。また、反射面5aの傾斜角度θ2を15度以下とすることで、内部空間11における反射部5の体積を小さく抑えることができる。これにより、アクション機構7など筐体2の内部空間11に配されるピアノ1の他の部品との干渉を好適に抑制できる。また、反射部5による筐体2の内部空間11の音響特性の変化も小さく抑えることができる。
【0037】
また、本実施形態のピアノ1によれば、反射部5が筐体2の内面に固定されている。具体的には、反射部5が上前板13の内面13aに固定されている。このため、一般的なアップライトピアノ(従来の楽器)に反射部5を設けるだけで、響板3において発生して内部空間11で伝播する音を、簡単に筐体2の開口12から効率よく外部に出すことができる。この効果は、反射部5を下前板14の内面14aに固定した場合であっても同様に奏し得る。
また、筐体2の内面と間隔をあけて配する場合と比較して、反射部5を設けることによる筐体2の内部空間11の形状変化を小さく抑えることができる。したがって、反射部5に基づく筐体2の音響特性の変化を抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態のピアノ1において、反射部5が、響板3の内面3aのうち1kHz(シュレーダー周波数)よりも高い周波数の音を発生する領域に対向する位置に設けられる場合には、以下の効果を奏する。筐体2内に設けられる反射部5(特に反射面5a)の大きさを小さく抑えながら、幾何音響領域に含まれる周波数の音を、反射部5の反射面5aにおいて効率よく反射させて、効果的に筐体2の外部に出すことができる。
【0039】
上記実施形態において、反射部5は、図4に例示するように、響板3の内面3aに対する傾斜角度θ2が変化するように筐体2に対して回転可能に取り付けられてよい。具体的に、反射部5は、筐体2に対してピアノ1Aの左右方向に延びる軸線を中心に回転可能とされてよい。反射部5は、図示例のように上前板13の内面13aに取り付けられてよいが、例えば下前板14の内面14a等に取り付けられてもよい。
この場合、ピアノ1Aの上下方向における反射部5の上端部が、蝶番30等を介して筐体2の内面に取り付けられればよい。また、反射部5は、反射面5aが所定の傾斜角度θ2で傾斜した状態に維持されるように、上前板13や下前板14に対して保持されればよい。反射部5を筐体2に対して保持する構成は、例えば反射部5の下端部から筐体2の内面まで延びる支持棒など任意であってよい。
【0040】
反射部5が上前板13や下前板14などの筐体2の内面に対して回転可能に取り付けられる場合には、上記実施形態と同様に、一般的なアップライトピアノに反射部5を設けるだけで、響板3において発生した音を筐体2の開口12から効率よく外部に出すことができる。また、筐体2に対する反射部5の取付精度が低くても、反射部5を筐体2に取り付けた後に、反射面5aの傾斜角度θ2を適切に調整することができる。すなわち、反射面5aの傾斜角度θ2を簡単に設定することができる。
【0041】
また、上記実施形態においては、例えば反射部5が上前板13や下前板14と一体に形成されてよい。すなわち、反射部5の反射面5aが、例えば上前板13や下前板14の内面13a,14aによって構成されてよい。この場合、上前板13や下前板14の内面13a,14aは、例えば、上前板13や下前板14の内面13a,14a側の部分を削る等することで、響板3の内面3aに対して傾斜してよい。また、上前板13や下前板14の内面13a,14aは、例えば、上前板13や下前板14が響板3の内面3aに対して傾斜するように配されることで、響板3の内面3aに対して傾斜してもよい。
反射部5が上前板13や下前板14などの筐体2の部位に一体に形成される場合には、アップライトピアノ(楽器)の構成部品点数を増やすことなく、響板において発生し内部空間11で伝播する音を、筐体2の開口12から効率よく外部に出すことができる。
【0042】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0043】
本発明は、アップライトピアノに適用されることに限らず、内部空間及び開口を有する筐体と、音を発生して内部空間において伝播させる音源と、筐体の外側において筐体の開口が外部に向く方向に対して傾斜する対向面を有する蓋部と、を備える任意の楽器に適用可能である。
【0044】
本発明の楽器において、響板等の音源は、筐体の一部を構成することに限らず、例えば筐体と別個に構成されてもよい。すなわち、音源は、例えば筐体の内部空間に配されてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1,1D…ピアノ(楽器)、2…筐体、3…響板(音源)、3a…内面(放音面)、4…蓋部、4a…対向面、5…反射部、5a…反射面、11…内部空間、12…開口、13…上前板、13a…内面、14…下前板、14a…内面、θ1…対向面4aの傾斜角度、θ2…反射面5aの傾斜角度
図1
図2
図3
図4