(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ガスバリアフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20220511BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220511BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20220511BHJP
F16L 59/065 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B65D65/40 D
D21H11/18
F16L59/065
(21)【出願番号】P 2017227697
(22)【出願日】2017-11-28
【審査請求日】2020-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 幸子
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-105382(JP,A)
【文献】特開2016-011392(JP,A)
【文献】特開2010-184999(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118360(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/040547(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/40
D21H 11/18
F16L 59/065
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上にガスバリア被膜層を積層して構成されるガスバリアフィルムにおいて、
前記ガスバリア被膜層が
、下記化合物1~3を含むコーティング液を塗布反応させたものであり、かつミクロフィブリル化セルロースを0.01~5.00質量%含有していることを特徴とするガスバリアフィルム。
化合物1‥ミクロフィブリル化セルロース。
化合物2‥一般式Si(OR
1
)
4
で表されるケイ素化合物、その多量体又はこれらの加水分解物(但し、式中、R
1
はCH
3
,C
2
H
5
,またはC
2
H
4
OCH
3
を表す)。
化合物3‥水溶性高分子。
【請求項2】
前記コーティング液が、次の化合物4を含むことを特徴とする請求項
1に記載のガスバリアフィルム。
化合物4‥一般式(R
2Si(OR
3)
3)
nで表されるケイ素化合物、その多量体又はこれらの加水分解物(但し、式中、R
2は有機官能基を表し、R
3はCH
3,C
2H
5,またはC
2H
4OCH
3を表す)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスバリアフィルムに関し、屈曲してもガスバリア性が低下し難いガスバリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性を有するフィルムは、飲食物の包装材料、医薬品の包装材料、電子部品や電池の外装材、あるいは、真空断熱材の外装材等、さまざまな分野で広く使用されている。
【0003】
このようなガスバリア性フィルムにはさまざまなものが知られているが、例えば特許文献1は、金属アルコキシドと水溶性樹脂との複合物の皮膜層を設けたガスバリア性フィルムを提案している。また、特許文献2は、無機蒸着層に加えて、金属アルコキシドと水溶性樹脂との複合物の前記皮膜層を設けたガスバリア性フィルムを提案している。
【0004】
また、特許文献3は、金属アルコキシド、シランカップリング剤及び水溶性樹脂の三者で構成される複合皮膜層を設けたガスバリア性フィルムを提案している。
【0005】
これらガスバリア性フィルムは、いずれも、酸素ガスや水蒸気に対する高いバリア性を有し、食品等の包装材料として広く使用されている。
【0006】
しかしながら、例えば、これらガスバリア性フィルムを真空断熱材の外装材に使用する場合には、これらガスバリア性フィルムで作製した袋中にパーライト等の多孔質粉末やグラスウール等のコア材を充填し、真空吸引しながら密封するため、これらガスバリア性フィルムはコア材の外形に沿って変形する。そして、この変形に伴ってガスバリア性フィルムは屈曲し、また、屈曲に伴って部分的に牽引されるのである。そして、このような屈曲や牽引のため、前記ガスバリア皮膜層にピンホールが生じてそのガスバリア性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3401807号公報
【文献】特許第2790054号公報
【文献】特許第4200972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、屈曲やこれに伴う牽引によってもガスバリア性が低下し難いガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような技術的背景に基づいてなされたもので、前述のガスバリア皮膜層にミクロフィブリル化セルロースを配合することにより、ガスバリア皮膜層に柔軟性を付与し、屈曲やこれに伴う牽引によるガスバリア性の低下を防止したものである。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明は、基材フィルム上にガスバリア被膜層を積層して構成されるガスバリアフィルムにおいて、
前記ガスバリア被膜層が、下記化合物1~3を含むコーティング液を塗布反応させたものであり、かつミクロフィブリル化セルロースを0.01~5.00質量%含有していることを特徴とするガスバリアフィルムである。
化合物1‥ミクロフィブリル化セルロース。
化合物2‥一般式Si(OR
1
)
4
で表されるケイ素化合物、その多量体又はこれらの加水分解物(但し、式中、R
1
はCH
3
,C
2
H
5
,またはC
2
H
4
OCH
3
を表す)。
化合物3‥水溶性高分子。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記コーティング液が、次の化合物4を含むことを特徴とする請求項1に記載のガスバリアフィルムである。
化合物4‥一般式(R2Si(OR3)3)nで表されるケイ素化合物、その多量体又はこれらの加水分解物(但し、式中、R2は有機官能基を表し、R3はCH3,C2H5,またはC2H4OCH3を表す)。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明はガスバリア皮膜層にミクロフィブリル化セルロースを配合したものである。そして、このガスバリア皮膜層中でミクロフィブリル化セルロースは網目構造を形成し、これらミクロフィブリル化セルロース間の水素結合や架橋的な強い相互作用によって、高いガスバリア性を発現する。しかも、これに加えて、ミクロフィブリル化セルロースを配合したガスバリア皮膜層は高い柔軟性を有するため、屈曲やこれに伴う牽引によってもガスバリア性が低下し難いという性質を有する。なお、こうしてガスバリア皮膜層に配合されたミクロフィブリル化セルロースは互いに網目構造を構成するため、ガスバリア皮膜層の強度は高く、その耐熱性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明のガスバリアフィルムの具体例を示す断面説明図である。
【
図2】
図2は本発明のガスバリアフィルムを使用したヒートシール性フィルムの具体例を示す断面説明図である。
【
図3】
図3は本発明のガスバリアフィルムを使用した真空断熱材の具体例に係り、
図3(a)はその斜視図、
図3(b)は断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明を説明する。まず、
図1は本発明のガスバリアフィルムの具体例10を示す断面説明図である。
【0017】
この
図1から分かるように、本発明のガスバリアフィルム10は、基材フィルム11とガスバリア皮膜層13とを必須とするものである。これら基材フィルム11とガスバリア皮膜層13との間に他の層が介在していてもよい。この例は、基材フィルム11の上に無機蒸着層12を積層し、さらにこの無機蒸着層12の上にガスバリア皮膜層13を積層して構成したものである。
【0018】
基材フィルム11としては、任意の樹脂フィルムを使用することができる。単層構造のフィルムでもよいし、複数の樹脂フィルムを積層した多層構造の積層フィルムであってもよい。また、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのいずれでもよい、
寸法安定性に優れる点から、一軸延伸フィルムや二軸延伸フィルムを好適に利用できる。また、その厚みは、例えば、3~200μmであってよい。
【0019】
この基材フィルム11に利用できる樹脂フィルムを例示すると、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ビニルアルコール系樹脂フィルム等を挙げることができる。ポリエステル系樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のフィルムを例示できる。ポリアミド系樹脂フィルムとしては、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のフィルムを挙げることができる。また、ポリオレフィン系樹脂フィルムとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のフィルムを例示できる。ビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のフィルムが挙げられる。
【0020】
次に、無機蒸着層12は、酸化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化物を用いて、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等の薄膜形成手段により形成することができる。これらの中でも、無機蒸着層12は酸化アルミニウムで形成されていることが望ましい。その厚さは10~50nmでよい。望ましくは15~30nmである。
【0021】
なお、無機蒸着層12の形成に先立って、基材フィルム11の表面を表面処理したり、あるいはプライマー層を形成することも可能である。表面処理としてはコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等を例示できる。また、プライマー層はウレタン系プライマー剤を塗布して形成することができる。また、金属アルコキシドと水溶性高分子との混合物を塗布してプライマー層とすることも可能である。
【0022】
次に、ガスバリア被膜層13はミクロフィブリル化セルロースを必須成分として含有する必要がある。このガスバリア被膜層13は、ミクロフィブリル化セルロースに加えて、金属アルコキシドと水溶性高分子とを配合したコーティング剤を塗布硬化して形成することが望ましい。また、これらミクロフィブリル化セルロース、金属アルコキシド、水溶性高分子に加えて、シランカップリング剤を配合したコーティング剤を塗布硬化して形成することもできる。また、さらにイソシアネート化合物を配合することも可能である。
【0023】
このコーティング液の例を挙げると、例えば、下記化合物1~3を含むコーティング液を例示できる。なお、化合物2は金属アルコキシドを意味している。
化合物1‥ミクロフィブリル化セルロース。
化合物2‥一般式Si(OR1)4で表されるケイ素化合物、その多量体又はこれらの加水分解物(但し、式中、R1はCH3,C2H5,またはC2H4OCH3を表す)。
化合物3‥水溶性高分子。
【0024】
また、コーティング剤の別の例を挙げると、下記化合物1~4を含むものを例示できる。前述のとおり化合物2は金属アルコキシドを意味しており、化合物4はシランカップリング剤を意味している。
化合物1‥ミクロフィブリル化セルロース。
化合物2‥一般式Si(OR1)4で表されるケイ素化合物、その多量体又はこれらの加水分解物(但し、式中、R1はCH3,C2H5,またはC2H4OCH3を表す)。
化合物3‥水溶性高分子。
化合物4‥一般式(R2Si(OR3)3)nで表されるケイ素化合物、その多量体又はこれらの加水分解物(但し、式中、R2は有機官能基を表し、R3はCH3,C2H5,またはC2H4OCH3を表す)。
【0025】
このコーティング剤に配合するミクロフィブリル化セルロースは、セルロース繊維を解
繊して平均径400nm以下に微細化したものである。このようなミクロフィブリル化セルロースは、天然セルロース繊維やこれを化学的に変性したセルロース繊維を機械的に微粉砕して微細化することによって製造することができる。また、酢酸菌(アセトバクター)等の微生物によって微細化することもできる。
【0026】
このミクロフィブリル化セルロースの原料となる変性セルロース繊維としては、天然セルロース繊維をアルカリ水溶液で処理して変性したものを使用できる。例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリ水溶液である。
【0027】
また、天然セルロース繊維を酸化してその水酸基の一部をカルボキシル基に変換した変性セルロース繊維を使用することもできる。その酸化処理は、N-オキシル化合物を触媒として、酸化剤で酸化することによって可能である。また、この酸化処理は、臭化物又はヨウ化物との共存下で行うことが望ましい。N-オキシル化合物としては2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンN-オキシル(TEMPO)を使用することができる。また、酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸,亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。また、臭化物又はヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などが使用できる。この酸化処理は、セルロース骨格中6位の水酸基を選択的に酸化してカルボキシル基に変換するもので、この酸化処理によって、続く機械的な微細化処理によって効率的に微細化できる。
【0028】
なお、機械的な微細化処理は、例えば、リファイナー、高圧ホモナイザー、攪拌ミル、石臼、グラインダー等で可能である。なお、ミクロフィブリル化セルロースは、その平均径が400nm以下であればよいが、望ましくは200nm以下であり、さらに望ましくは100nm以下である。その平均径は3nm以上でよい。なお、ミクロフィブリル化セルロースの平均繊維長さは50nm~50μmでよく、望ましくは100nm~10μmである。
【0029】
次に、化合物2、すなわち、一般式Si(OR1)4で表される金属アルコキシドとしては、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランを例示できる。もちろん、その多量体あるいは加水分解物であってもよい。
【0030】
次に、化合物3、すなわち、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムを例示できる。
【0031】
また、化合物4、すなわち、一般式(R2Si(OR3)3)nで表されるシランカップリング剤としては、例えば、アミンシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤、アクリルシランカップリング剤等を使用することができる。また、イソシアネート基やエポキシ基を持つシランカップリング剤であってもよい。
【0032】
また、イソシアネートとしては、その分子中に2個以上のイソシアネート基(NCO基)を有するものを例示でき、例えばトリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等のモノマー類や、これらの重合体、誘導体等を挙げることができる。
【0033】
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液は、これら各成分を混合して調製することができる。このコーティング液は、まず、ミクロフィブリル化セルロースの分散液を製造し、次に、化合物1~3あるいはさらに化合物4やイソシアネートを配合する
ことによって調製してもよい。
【0034】
ミクロフィブリル化セルロースの分散液は、ミクロフィブリル化セルロースを水に分散させて調製することができる。その濃度は0.1~5.0質量%とすることが望ましい。この程度の薄い分散液では、ミクロフィブリル化セルロースの凝集を防いで均一に分散させることが可能である。なお、好ましくは1.0~3.0質量%である。
【0035】
そして、この分散液に化合物1~3あるいはさらに化合物4やイソシアネートを配合してコーティング液を調製することができるが、このコーティング液の固形分中の0.01~5.00質量%をミクロフィブリル化セルロースが占めることが望ましい。このようなコーティング液を塗布して形成されたガスバリア被膜層13は、ミクロフィブリル化セルロースを0.01~5.00質量%含有したものである。後述するように、ミクロフィブリル化セルロースを0.01質量%以上含有したガスバリア被膜層13は、熱伝導率が低く、しかも、長期間の保存後にも低い熱伝導率を維持できる。
【0036】
このコーティング液の塗布方法としては、通常のコーティング方法を用いることができる。例えば、ディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等を用いることができる。その厚みは0.01~50μmであることが望ましい。厚みは0.01μm以上であれば高いガスバリア性を発揮する。また、50μmであれば、ガスバリア被膜層13にクラックが生じにくい。
【0037】
そして、この塗布膜を加熱乾燥することによって、ガスバリア被膜層13を形成することができる。加熱乾燥に伴って、化合物2の金属アルコキシドが重縮合反応して鎖状或いは三次元樹枝状のポリマーを生成する。なお、コーティング液が化合物4のシランカップリング剤を含有している場合、あるいはイソシアネートを含有している場合には、これらシランカップリング剤やイソシアネートもこの反応に寄与していると推測できる。
【0038】
なお、このガスバリア被膜層13にミクロフィブリル化セルロースが占める割合は0.01~5.00質量%であることが望ましい。ミクロフィブリル化セルロースがこれより少ない場合には、十分なガスバリア性が得られない。また、後述する実施例から分かるように、ミクロフィブリル化セルロースの割合が5.00質量%を越えるとガスバリア性が低下する傾向にある。
【0039】
こうして得られたガスバリアフィルム10は、そのまま使用することも可能であるが、このガスバリアフィルム10にシーラントフィルムを積層してヒートシール性フィルムとすることにより、各種包装材料あるいは真空断熱材の外装材として利用することができる。
図2は、後述する実施例で使用したヒートシール性フィルム20の断面説明図で、この例は、ガスバリアフィルム10のガスバリア被膜層13側に、2枚の中間フィルム21,22を介して、シーラントフィルム23を積層したものである。
【0040】
シーラントフィルム23としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂のフィルムを使用することができる。また、フッ素系シーラント樹脂フィルムを使用することも可能である。
【0041】
なお、
図2に例示したヒートシール性フィルム20は、真空断熱材の外装材として利用するものである。このため、中間フィルム22として光反射性のフィルムを使用している。すなわち、中間フィルム21はポリアミドフィルムであり、中間フィルム22は光反射性のアルミニウム蒸着膜を設けたエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムである。
【0042】
このヒートシール性フィルム20は、
図3に示すように、真空断熱材30の外装材として使用できる。すなわち、このヒートシール性フィルム20を外装材として、その内部にコア材Xを封入し、内部を真空排気し、ヒートシール性フィルム20をヒートシールして密封することにより、真空断熱材30を製造することができる。コア材Xとしては、パーライト等の多孔質粉末やグラスウール等を使用できる。そして、このように真空包装した真空断熱材30は、
図3に示すように、ヒートシール性フィルム20がコア材Xの外形に沿って変形するため、ヒートシール性フィルム20には屈曲とこれに伴う部分的な牽引が生じるが、このような屈曲と牽引にも拘わらず、ヒートシール性フィルム20はそのガスバリア性が低下し難いという性質を発揮する。
【0043】
また、このヒートシール性フィルム20は、食品用包装袋の素材として使用することもできる。優れたガスバリア性と高い耐熱性とを有し、しかも、屈曲によってもガスバリア性が低下し難いという性質を有することから、レトルト殺菌する包装袋の素材としても適している。また、牛乳や日本酒等を収容する紙製容器の内面に貼り合わせて使用することも可能である。
【0044】
このほか、医薬品を収容する包装袋の素材として使用することも可能である。この場合にも、その優れたガスバリア性を生かすことができる。
【実施例】
【0045】
化合物1(ミクロフィブリル化セルロース)の分散液1a、化合物2(金属アルコキシド)の分散液2a,2b、化合物3(水溶性高分子)の溶液,3b、化合物4(シランカップリング剤)の溶液4a、及びカーボンマイクロコイルの分散液5aとして、それぞれ、次の溶液を準備した。
【0046】
化合物1の分散液1a 日本製紙(株)製TEMPO酸化セルロースナノファイバーをミクロフィブリル化セルロースとし、このミクロフィブリル化セルロースを水中に分散させた分散液。但し、ミクロフィブリル化セルロースの濃度は1質量%である。
【0047】
化合物2の分散液2a テトラエトキシシラン10.4g質量%と0.1規定の塩酸89.6質量%との混合液。但し、テトラエトキシシランをSiO2に換算したときの濃度は3質量%である。
【0048】
化合物2の分散液2b テトラエトキシシラン10.4g質量%と0.1規定の塩酸89.6質量%との混合液。但し、テトラエトキシシランをSiO2に換算したときの濃度は3質量%である。
【0049】
化合物3の溶液3a 水とイソプロピルアルコール(IPA)との混合溶剤中にポリビニルアルコールを溶解した溶液。但し、水とIPAとの質量比は90:10である。また、ポリビニルアルコールの濃度は3質量%である。
【0050】
化合物3の溶液3b 水とイソプロピルアルコール(IPA)との混合溶剤中にポリビニルアルコールを溶解した溶液。但し、水とIPAとの質量比は95:5である。また、ポリビニルアルコールの濃度は5質量%である。
【0051】
化合物4の溶液4a 水とイソプロピルアルコール(IPA)との混合溶剤中にシランカップリング剤を溶解した溶液。
【0052】
カーボンマイクロコイルの分散液5a カーボンマイクロコイルを水中に分散させた分散液。但し、カーボンマイクロコイルの濃度は1質量%である。
【0053】
そして、これら各分散液及び溶液を混合して、各実施例及び比較例のコーティング液を調製した。これらコーティング液の組成については、それぞれの実施例及び比較例の欄で説明する。
【0054】
なお、これら各実施例及び比較例は、化合物4(シランカップリング剤)の溶液4aを使用した例と使用しない例との区分できる。そこで、まず、化合物4の溶液4aを使用しない例(実施例1~4及び比較例1~2)を第1の実験群とし、使用した例(実施例5~8及び比較例3~4)を第2の実験群として、実験群ごとに説明する。
【0055】
<第1の実験群>
この第1の実験群は、化合物4(シランカップリング剤)の溶液4aを使用しない例(実施例1~4及び比較例1~2)である。
【0056】
(実施例1)
基材フィルム11として、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製:P60)を使用した。
【0057】
そして、その表面にコロナ放電処理を施した後、酸化ケイ素を真空蒸着して、無機蒸着層12を形成した。無機蒸着層12の厚みは20nmである。
【0058】
次に、ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液を調製した。このコーティング液の組成は次のとおりである。
【0059】
(コーティング液組成)
分散液1a 0.3g
分散液2a 60g
分散液3a 40g
そして、このコーティング液を無機蒸着層12の上に塗布し、加熱乾燥して、ガスバリア被膜層13を形成した。ガスバリア被膜層13の厚みは0.5μmである。
【0060】
次に、こうして得られたガスバリアフィルム10に、中間フィルム21,22及びシーラントフィルム23を積層して、
図2に示すヒートシール性フィルム20を製造した。中間フィルム21は厚さ15μmのポリアミドフィルム(暁星ジャパン(株)製:RT-12)である。中間フィルム22は、厚さ15μmのエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(クラレ(株)製:TM-XL)にアルミニウム蒸着層を設けた蒸着フィルムである。また、シーラントフィルム23は、厚さ40μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルムである。なお、これら各フィルム21,22,23は、それぞれ、ドライラミネーション法によって接着積層した。
【0061】
そして、このヒートシール性フィルム20を外装材として、真空断熱材30を製造した。コア材Xとしては、繊維径4μm、厚み30mmのグラスウールマットを使用した。すなわち、前記ヒートシール性フィルム20で200mm×200mmの袋体を作成し、この袋体を乾燥した後、コア材Xを挿入し、1Paで真空排気し、ヒートシールにより密封することにより、真空断熱材30を製造した。なお、このとき、ヒートシール性フィルム20がコア材Xの外形に沿って変形し、ヒートシール性フィルム20には屈曲とこれに伴う部分的な牽引が生じていた。
【0062】
(実施例2)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、次の組成のコーティン
グ液を使用したほかは、実施例1と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。
【0063】
(コーティング液組成)
分散液1a 15.8g
分散液2a 60g
分散液3a 40g
【0064】
(実施例3)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、次の組成のコーティング液を使用したほかは、実施例1と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。
【0065】
(コーティング液組成)
分散液1a 0.15g
分散液2a 60g
分散液3a 40g
【0066】
(実施例4)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、次の組成のコーティング液を使用したほかは、実施例1と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。
【0067】
(コーティング液組成)
分散液1a 33.3g
分散液2a 60g
分散液3a 40g
【0068】
(比較例1)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、分散液1aを配合しないコーティング液を使用したほかは、実施例1と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。このコーティング液の組成は次のとおりである。
【0069】
(コーティング液組成)
分散液2a 60g
分散液3a 40g
【0070】
(比較例2)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、ミクロフィブリル化セルロースの代わりに、カーボンマイクロコイルを配合したコーティング液を使用したほかは、実施例1と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。このコーティング液の組成は次のとおりである。
【0071】
(コーティング液組成)
分散液5a 0.3g
分散液2a 60g
分散液3a 40g
【0072】
(評価)
実施例1~4及び比較例1~2の真空断熱材30を、70℃、95%RHの恒温槽に4週間保存した。この保存後のヒートシール性フィルム20の酸素透過度を測定した。測定装置はMOCON OX-TRANである。また、測定条件は30℃、70%RHである。
【0073】
また、保存前の真空断熱材30の熱伝導率、2週間保存後の真空断熱材30の熱伝導率、及び4週間保存後の真空断熱材30の熱伝導率を測定した。測定装置はTAインスツルメント社製FOX314である。
【0074】
実施例1~4及び比較例1~2のガスバリア被膜層13に含まれる繊維(ミクロフィブリル化セルロース又はカーボンマイクロコイル)、テトラエトキシシラン、ポリビニルアルコールの重量比を表1に示す。表中、「CNF」はミクロフィブリル化セルロース、「CMC」はカーボンマイクロコイル、「PVA」はポリビニルアルコールを示す。また、テトラエトキシシランについては、これをSiO2に換算したときの数値で示す。なお、(ミクロフィブリル化セルロース又はカーボンマイクロコイル)については、重量比に加えて、重量%によって示す。
【0075】
【0076】
また、前記ヒートシール性フィルム20の酸素透過度及び真空断熱材30の熱伝導率を表2に示す。
【0077】
【0078】
(考察)
実施例1~4の酸素透過度と比較例1の酸素透過度とを比較して分かるように、ミクロフィブリル化セルロースを配合しないコーティング液を使用した比較例1に比べて、ミクロフィブリル化セルロースを配合したコーティング液を使用した実施例1~4では、真空断熱材を保存した後の酸素透過度が約10倍異なり、ミクロフィブリル化セルロースの配合によってそのガスバリア性が大きく向上されていることが理解できる。
【0079】
その理由は明瞭ではないが、真空断熱材製造の際に、ヒートシール性フィルムがコア材Xの外形に沿って変形し、このため、ヒートシール性フィルムには屈曲とこれに伴う部分的な牽引が生じる。ミクロフィブリル化セルロースを配合しないコーティング液を使用した比較例1では、この屈曲と牽引とに耐えられず、ガスバリア性が低下したものと考えられる。一方、ミクロフィブリル化セルロースを配合したコーティング液を使用した実施例1~4では、ガスバリア被膜層の柔軟性が改善されたため、前記屈曲と牽引とに耐えて、高いガスバリア性を維持するものと推察できる。
【0080】
なお、ミクロフィブリル化セルロースに代えてカーボンマイクロコイルを配合したコーティング液を使用した比較例2においても、ガスバリア性の向上は見られず、却ってガスバリア性が低下していることから、ミクロフィブリル化セルロースを配合した場合に限って、ガスバリア性が大きく向上するものと推測できる。
【0081】
また、実施例1~3と実施例4とを比較すると、ガスバリア被膜層にミクロフィブリル化セルロースが占める割合が10.00質量%の実施例4においては、それが0.01~5.00質量%の実施例1~3に比べて酸素透過度が高く、ガスバリア性が低いことが理解できる。このため、ミクロフィブリル化セルロースの割合は0.01~5.00質量%であることが望ましいのである。
【0082】
なお、外装材(ヒートシール性フィルム20)のガスバリア性の低下に伴って真空断熱材30の熱伝導率は増加するから、この熱伝導率についてもヒートシール性フィルム20の酸素透過度と同様の傾向が読み取れる。すなわち、ミクロフィブリル化セルロースを配合したコーティング液を使用した実施例1~4では保存前の真空断熱材30の熱伝導率に比較して保存後でも熱伝導率はほとんど変化しないのに対して、ミクロフィブリル化セルロースを配合しないコーティング液を使用した比較例1やミクロフィブリル化セルロースに代えてカーボンマイクロコイルを配合したコーティング液を使用した比較例2において
は、保存するにつれて熱伝導率が急激に高くなる。
【0083】
<第2の実験群>
この2の実験群は、化合物4(シランカップリング剤)の溶液4aを使用した例(実施例5~8及び比較例3~4)である。
【0084】
(実施例5)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、次の組成のコーティング液を使用したほかは、実施例1と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。
【0085】
(コーティング液組成)
分散液1a 0.65g
分散液2b 100g
分散液3b 20g
分散液4b 10g
【0086】
(実施例6)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、次の組成のコーティング液を使用したほかは、実施例1と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。
【0087】
(コーティング液組成)
分散液1a 34.2g
分散液2b 100g
分散液3b 20g
分散液4b 10g
【0088】
(実施例7)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、次の組成のコーティング液を使用したほかは、実施例1と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。
【0089】
(コーティング液組成)
分散液1a 0.33g
分散液2b 100g
分散液3b 20g
分散液4b 10g
【0090】
(実施例8)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、次の組成のコーティング液を使用したほかは、実施例1と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。
【0091】
(コーティング液組成)
分散液1a 72.2g
分散液2b 100g
分散液3b 20g
分散液4b 10g
【0092】
(比較例3)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、分散液1aを配合しないコーティング液を使用したほかは、実施例5と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。このコーティング液の組成は次のとおりである
。
【0093】
(コーティング液組成)
分散液2b 100g
分散液3b 20g
分散液4b 10g
【0094】
(比較例4)
ガスバリア被膜層13を形成するためのコーティング液として、ミクロフィブリル化セルロースの代わりに、カーボンマイクロコイルを配合したコーティング液を使用したほかは、実施例1と同様にヒートシール性フィルム20を製造し、また、真空断熱材30を製造した。このコーティング液の組成は次のとおりである。
【0095】
(コーティング液組成)
分散液5a 0.3g
分散液2b 100g
分散液3b 20g
分散液4b 10g
【0096】
(評価)
これら第2の実験群(実施例5~8及び比較例3~8)について、第1の実験群と同様に評価した。これらのガスバリア被膜層13に含まれる繊維(ミクロフィブリル化セルロース又はカーボンマイクロコイル)、テトラエトキシシラン、ポリビニルアルコールの重量比を表1に示す。また、その評価結果を表4に示す。
【0097】
【0098】
【0099】
(考察)
この第2の実験群においても、第1の実験群と同様の傾向が見られる。すなわち、ミクロフィブリル化セルロースを配合したコーティング液を使用した場合(実施例5~8)には、これを配合しない場合(比較例3)及びミクロフィブリル化セルロースの代わりにカーボンマイクロコイルを配合した場合(比較例4)に比べて、空断熱材を保存した後のヒートシール性フィルムのガスバリア性及び真空断熱材30の断熱性能が高い。また、フィブリル化セルロースの割合が0.01~5.00質量%の場合(実施例5~7)が特に優れていることも、第1の実験群と同様である。
【符号の説明】
【0100】
10:ガスバリアフィルム 11:基材フィルム 12:無機蒸着層 13:ガスバリア被膜層
20:ヒートシール性フィルム 21:中間フィルム 22:中間フィルム 23:シーラントフィルム
30:真空断熱材
X:コア材