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  • 特許-積層体の製造方法、および積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】積層体の製造方法、および積層体
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/40 20060101AFI20220511BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20220511BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220511BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220511BHJP
   B29C 65/52 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B29C65/40
B32B7/12
B32B27/32 Z
B65D65/40 D
B29C65/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017251157
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019116010
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】396009595
【氏名又は名称】東洋モートン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】花木 寛
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘樹
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-007180(JP,A)
【文献】特表2006-519122(JP,A)
【文献】特開平08-099056(JP,A)
【文献】特開2015-032574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00ー65/82
B32B 7/12
B32B 27/32
B29D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配置された2つの回転ロール1と回転ロール2との間隙に向かって、
回転ロール1の外周に沿わせながら基材1を、回転ロール2の外周に沿わせながら基材2を走行させつつ、
接着剤で基材1と基材2とを貼り合せることを特徴とする積層体を製造する方法であって、
回転ロール1の外周の上方であって、基材1と基材2との貼り合せ位置よりも回転ロール1側に配置されてなるコーターヘッドのスリットまたは孔から、酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混合物であって酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンの質量比が70/30~40/60である混合物、プロピレンとエチレンとの共重合体の酸変性物、およびポリプロピレンとポリエチレンとの混合物の酸変性体からなる群より選択される、溶融状態にある接着剤を吐出し、
前記コーターヘッドのスリット幅または孔の直径よりも薄くした溶融状態にある接着剤を、回転ロール1の外周上にある基材1上に供給し、前記基材1上でさらに薄くし、
溶融状態にある接着剤に回転ロール2の外周に沿わせて走行させている基材2を重ねて、接着剤層を固化し、1~5μmの平均厚みの接着剤層で前記基材1と2とを貼り合わせる、積層体の製造方法。
【請求項2】
コーターヘッドの温度t℃において、接着剤が100~3000Pa・sの粘度を呈し、100~300m/分の速度で基材1と2とを貼り合わせる、請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
コーターヘッドのスリット幅または孔の直径をA、接着剤層の厚みをBとした場合に、A/B=50~300である、請求項1または2記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
コーターヘッドのスリット幅または孔の直径Aが200~800μmである、請求項1~3いずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
基材1が、金属箔、またはプラスチックフィルムに金属もしくは金属酸化物を蒸着してなる蒸着フィルムである、請求項1~4いずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
基材2が、熱可塑性樹脂の未延伸フィルムである、請求項1~5いずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
接着剤層を介して基材1と基材2とが貼り合わされてなる積層体であって、
前記接着剤層が、酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混合物であって酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンの質量比が70/30~40/60である混合物、プロピレンとエチレンとの共重合体の酸変性物、およびポリプロピレンとポリエチレンとの混合物の酸変性体からなる群より選択されるすくなくともいずれかを含み、平均厚みが1~5μmであり、厚みの標準偏差σが2以下である、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体の製造方法、および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医療品、化粧品等を包装するための材料や電池用の包装材料として、アルミニウム箔などの金属箔あるいは金属蒸着フィルムとポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエステル、ナイロンなどのプラスチックフィルムを積層化したものが用いられている。積層化の方法としては、溶融状態の熱可塑性樹脂を積層対象のシート状基材上に押出して、前記熱可塑性樹脂のフィルム化と多層化とを同時に行うエクストルージョンラミネート法(溶融押出しラミネート法)や、シート状基材上に接着剤溶液を塗工し、乾燥後、他のシート状基材を重ね合せた後、接着剤を硬化するドライラミネート法とがある。
例えば、特許文献1には、カーテンコーターを用い、ホットメルト接着剤によりシートと弾性部材を貼り合わせる事を特徴とする吸収性物品の製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、ホットメルト接着剤をカーテンコートして中芯原紙とライナーを接着させる事を特徴とするダンボールの製造方法が開示されている。
特許文献3の実施例6には、酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとのブレンド物と、ポリプロピレンを、膜厚が各5μmで金属箔上に溶融共押出し、加熱処理した積層体が開示されている。
また、特許文献4の実施例1、2には、酸変性ポリエステル樹脂や酸変性ポリオレフィン樹脂の溶融膜を用いて、アルミニウム箔と未延伸ポリプロピレンフィルムとを貼り合せてなる積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-237957号公報
【文献】特表2006-519122号公報
【文献】特開2015-032574号公報
【文献】特開2017-007180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エクストルージョンラミネート方式は、用いられる接着剤が有機溶剤を含まないので、有機溶剤の回収装置や防火対策設備等が不要である反面、接着剤として機能する樹脂層(接着剤層)が一般的に20~50μmの厚膜であるため積層体総厚も大きくなる。
特許文献4には、エクストルージョンラミネート方式によって形成される3μm程度の接着剤層で積層体を得る旨記載されてはいる。しかし、特許文献4に記載される積層体の場合、接着剤層の厚みのバラつきが大きく、接着性能にも影響が出るという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、エクストルージョンラミネート方式によって、ドライラミネート方式の場合と同程度の厚みであって、厚みのバラつきの小さい接着剤層によって貼り合わされた積層体を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、接着剤として、酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混合物、プロピレンとエチレンとの共重合体の酸変性物、およびポリプロピレンとポリエチレンとの混合物の酸変性体からなる群より選択される接着剤を用いることによって、上記課題を解決した。
即ち、本発明は以下の[1]~[7]に関する。
[1] 平行に配置された2つの回転ロール1と回転ロール2との間隙に向かって、
回転ロール1の外周に沿わせながら基材1を、回転ロール2の外周に沿わせながら基材2を走行させつつ、
接着剤で基材1と基材2とを貼り合せることを特徴とする積層体を製造する方法であって、
回転ロール1の外周の上方であって、基材1と基材2との貼り合せ位置よりも回転ロール1側に配置されてなるコーターヘッドのスリットまたは孔から、酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混合物、プロピレンとエチレンとの共重合体の酸変性物、およびポリプロピレンとポリエチレンとの混合物の酸変性体からなる群より選択される、溶融状態にある接着剤を吐出し、
前記コーターヘッドのスリット幅または孔の直径よりも薄くした溶融状態にある接着剤を、回転ロール1の外周上にある基材1上に供給し、前記基材1上でさらに薄くし、
溶融状態にある接着剤に回転ロール2の外周に沿わせて走行させている基材2を重ねて、接着剤層を固化し、1~5μmの平均厚みの接着剤層で前記基材1と2とを貼り合わせる、積層体の製造方法。
【0007】
[2] コーターヘッドの温度t℃において、接着剤が100~3000Pa・sの粘度を呈し、100~300m/分の速度で基材1と2とを貼り合わせる、[1]記載の積層体の製造方法。
【0008】
[3] コーターヘッドのスリット幅または孔の直径をA、接着剤層の厚みをBとした場合に、A/B=50~300である、[1]または[2]記載の積層体の製造方法。
【0009】
[4] コーターヘッドのスリット幅または孔の直径Aが200~800μmである、[1]~[3]いずれかに記載の積層体の製造方法。
【0010】
[5] 基材1が、金属箔、またはプラスチックフィルムに金属もしくは金属酸化物を蒸着してなる蒸着フィルムである、[1]~[4]いずれかに記載の積層体の製造方法。
【0011】
[6] 基材2が、熱可塑性樹脂の未延伸フィルムである、[1]~[5]いずれかに記載の積層体の製造方法。
【0012】
[7] 接着剤層を介して基材1と基材2とが貼り合わされてなる積層体であって、
前記接着剤層が、酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混合物、プロピレンとエチレンとの共重合体の酸変性物、およびポリプロピレンとポリエチレンとの混合物の酸変性体からなる群より選択されるすくなくともいずれかを含み、平均厚みが1~5μmであり、厚みの標準偏差σが2以下である、積層体。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、エクストルージョンラミネート方式によって、ドライラミネート方式の場合と同程度の厚みであって、厚みのバラつきの小さい接着剤層によって貼り合わされた積層体を製造することできるようになった。本発明による積層体は、アルコールに浸漬しても接着強度を高レベルで維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の製造方法の態様の1つを説明するための模式的断面図である。
図2】本発明の製造方法の他の態様を説明するための模式的断面図である。
図3】本発明の製造方法のさらに他の態様を説明するための模式的断面図である。
図4】比較例の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における接着剤について説明する。
本発明における接着剤は、酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混合物、プロピレンとエチレンとの共重合体の酸変性物、およびポリプロピレンとポリエチレンとの混合物の酸変性体からなる群より選択される。
【0016】
<酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混合物>
[酸変性ポリプロピレン]
酸変性ポリプロピレンは、ポリプロピレン系樹脂にカルボキシル基または酸無水物基を導入してなるものであり、ポリプロピレン系樹脂にエチレン性不飽和カルボキシル基またはその酸無水物をグラフト重合させたものの他、プロピレンを主要成分とするオレフィンモノマーとエチレン性不飽和カルボキシル基またはその酸無水物との共重合体も使用できる。グラフト重合の方法は、特に限定されないが、例えば特開平11-293216に開示されている方法を用いることができる。
【0017】
[酸変性ポリエチレン]
酸変性ポリエチレンは、ポリエチレン系樹脂にカルボキシル基または酸無水物基を導入してなるものであり、ポリエチレン系樹脂にエチレン性不飽和カルボキシル基またはその酸無水物をグラフト重合させたものの他、エチレンを主要成分とするオレフィンモノマーとエチレン性不飽和カルボキシル基またはその酸無水物との共重合体も使用できる。
【0018】
エチレンを主とする共重合体は、エチレンと、1-ヘキセン、1-ブテン、またはプロピレン等のオレフィン系モノマーとの共重合体であり、共重合比は、エチレンが80~98重量%の範囲が好ましい。エチレンの共重合比が上記範囲の場合、引張強度と溶融性のバランスがよく、高温でも溶融膜が強靭となり、薄膜塗工性が向上する。
【0019】
オレフィン系モノマーの重合方法は、特に限定されないが、例えば、特公平07-080948号に開示されている方法などチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒などの金属触媒や、必要に応じて(メチル)アルミノキサン等の助触媒を添加して、重合することができる。
【0020】
ポリプロピレンやポリエチレンを酸変性する際使用されるエチレン性不飽和カルボキシル基またはその酸無水物は、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸等が挙げられる。これらエチレン性不飽和カルボン酸またはその酸無水物は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。特に無水マレイン酸が好ましい。
【0021】
ポリプロピレンやポリエチレンに上記のエチレン性不飽和カルボキシル基またはその酸無水物を、グラフト重合の際に使用できるラジカル開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジーn-プロピルパーオキシジカーボネート、ジクミルパーオキサイド、ジーt-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、2,5-ジメチルー2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン等の公知の有機過酸化物が使用でき、反応条件から最適な有機過酸化物を選択することができる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0022】
酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとは、80/20~20/80(質量比)で混合することが好ましく、70/30~40/60(質量比)で混合することがより好ましい。酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンと併用することによって、塗工時の膜厚ブレを抑制出来、均一膜厚で欠点のない塗工が可能になる。
【0023】
酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混練性を高めるために、相溶化剤を使用してもよい。特に限定されるものではないが、例えば、アルケマ社のボンダインや、クレイトン社のGポリマー、日本シーマ社のシーマプラス、JSR社のDYNARON、三洋化成工業社のユーメックス、大阪ガスケミカル社のマリコン等が挙げられ、特にJSR社のDYNARONシリーズのオレフィン結晶とエチレンブチレンのブロックポリマー(CEBC)が好ましい。
【0024】
<プロピレンとエチレンとの共重合体の酸変性物>
本発明では、酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混合物と同様に、プロピレンとエチレンとの共重合体の酸変性物も接着剤として用いることができる。
プロピレンとエチレンとの共重合体は、プロピレンとエチレンとを主成分とし、必要に応じて他のオレフィン系モノマーを共重合してなるものであり、他のオレフィン系モノマーは2質量%以下程度であることが好ましい。他のオレフィン系モノマーとしては、1-ブテン、ブタジエン、イソプレン、1-ヘキセン、1-オクテン等が例示できる。他のオレフィン系モノマーを除く、プロピレンとエチレンとは、80/20~20/80(質量比)で混合することが好ましく、70/30~40/60(質量比)で混合することがより好ましい。プロピレンとエチレンとの共重合体の酸変性物を用いることによって、プロピレンとエチレンの界面が強固に結合している事で、延伸後も破断が無く、均一な薄膜が形成出来る。
酸変性の方法や用いられるエチレン性不飽和カルボキシル基またはその酸無水物やラジカル開始剤としては、前記と同様のものを例示できる。
【0025】
<ポリプロピレンとポリエチレンとの混合物の酸変性体>
本発明では、酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混合物と同様に、ポリプロピレンとポリエチレンとの混合物の酸変性体も接着剤として用いることができる。
ポリプロピレン、ポリエチレンとしては、前述のポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂を例示でき、 酸変性の方法や用いられるエチレン性不飽和カルボキシル基またはその酸無水物やラジカル開始剤としては、前記と同様のものを例示できる。
ポリプロピレンとポリエチレンとは、80/20~20/80(質量比)で混合することが好ましく、70/30~40/60(質量比)で混合することがより好ましい。混合に当たっては、前述の相溶化剤を使用することができる。ポリプロピレンとポリエチレンとの混合物の酸変性物を用いることによって、ポリプロピレンとポリエチレンが適度なドメインのモルフォロジー制御された膜を形成し、延伸後も破断の無い強靭な薄膜が形成出来る。
【0026】
本発明の積層体の製造方法について説明する。
図1に示すように、回転ロール1と回転ロール2とは平行に配置されている。そして、回転ロール1と回転ロール2との間隙に向かって、回転ロール1の外周に沿わせながら基材1を、回転ロール2の外周に沿わせながら基材2を走行させる。図では回転ロール1の左方向から基材1を供給し、回転ロール2の右側から基材2を供給する場合を示す。また図では、基材1、基材2は、各回転ロールにほぼ水平に供給する場合を示すが、斜め上方向や斜め下方向から各回転ロールに供給することもできる。
コーターヘッドは、回転ロール1の外周の上方であって、基材1と基材2との貼り合せ位置よりも回転ロール1側に配置される。コーターヘッドのスリットまたは孔から、前述の接着剤を溶融状態にて吐出すると、溶融状態にある接着剤は、自重により前記コーターヘッドのスリット幅または孔の直径よりも薄くなりつつ、回転ロール1の外周上にある基材1上に到達する。そして、回転ロール1の外周上にある基材1を走行させると、溶融状態にある接着剤は基材1上でさらに薄く延ばされることとなる。溶融膜を引き伸ばす(延伸)際に、さらに空気圧を利用する方法や、その他適切な方法を選択することもできる。
次いで、薄く延ばされた溶融状態にある接着剤に回転ロール2側から供給される基材2を重ねる。接着剤の温度低下に伴い、接着剤層が固化し、1~5μmの平均厚みの接着剤層を介して基材1と2とが貼り合われた積層体を製造することができる。
なお、接着剤を溶融膜にし、引き伸ばし、引き伸ばした溶融膜を基材1上に配する一連の工程は、接着剤を溶融状態にて基材1上に塗工する工程に類似する工程なので、以下塗工ともいう。
【0027】
前述の接着剤は、滑らかに引き伸ばして薄膜化しやすいという点、および基材1上に配する際のレベリング性の点から、コーターヘッドから吐出される溶融状態の際の温度t℃において、100~3000Pa・sの粘度を呈することが好ましく、300~1500Pa・sであることがより好ましく、700~1000Pa・sであることがさらに好ましい。
前記粘度は、レオメーターを用い、せん断速度1~10S-1にて測定した値である。即ち、前述の接着剤は、せん断速度1S-1においても100~3000Pa・sの粘度を呈することが好ましく、せん断速度10S-1においても100~3000Pa・sの粘度を呈することが好ましい。
なお、吐出される際の接着剤の温度は、接着剤の溶融温度以上で、接着剤の分解温度以下であれば、特に決められた範囲はない。
【0028】
また、基材1と基材2とを貼り合わせる速度(塗工速度)は、生産性および基材1へのレベリング性が向上し、積層体の外観が向上するという点から、100~300m/分であることが好ましい。塗工速度は、後述する基材1の搬送速度により制御することができる。
なお、上記範囲の塗工速度をせん断速度にシミュレーションするとほぼ1~10S-1の範囲となる。
【0029】
本発明におけるコーターヘッドは、スリットまたは複数の孔を有するものであり、溶融状態にある接着剤をスリットまたは孔から押し出す。押し出された接着剤は連続したカーテン状をなす流れとなって、基材1上に供給されることから、カーテンコーターとも言われる。溶融状態にある接着剤の押出しには、スリットのTD方向(幅方向)にギアポンプが複数配置し、TD方向の吐出量を精密に制御することが好ましい。
【0030】
コーターヘッドのスリット幅または孔の直径Aは200~800μmであることが好ましい。スリット幅や孔の直径を200μm以上とすることによって、吐出口での圧力損失が低減され、高速塗工時に接着剤層の膜厚のばらつきを効果的に抑制できる。また、スリット幅や孔の直径を800μm以下とすることによって、溶融膜への延伸応力が小さくなり、破断しにくくなる。
【0031】
また、コーターヘッドのスリット幅または孔の直径をA、接着剤層の厚みをBとした場合に、A/B=50~300であることが好ましい。A/Bは延伸倍率ということができる。
【0032】
基材1としては、金属箔やプラスチックフィルムに金属もしくは金属酸化物を蒸着してなる蒸着フィルムが挙げられる。
金属箔としては、アルミニウム箔やSUS箔等が挙げられる。
蒸着フィルムとしては、プラスチックフィルムに酸化ケイ素を蒸着してなるシリカ蒸着フィルムやプラスチックフィルムにアルミナを蒸着してなるアルミナ蒸着フィルムが挙げられる。蒸着層は少なくとも前記接着層側に配する。
また金属箔面や蒸着面にはリン酸クロメート処理、クロム酸クロメート処理、リン酸亜鉛処理、リン酸ジルコニウム処理、リン酸チタン処理、フッ酸処理、セリウム処理などによる公知な防腐処理を行ってもよく、特に前記防腐処理剤に有機樹脂が含まれる塗布型防腐処理が好ましい。
【0033】
基材2は、熱可塑性樹脂の未延伸フィルムであることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系ポリマーならびにオレフィン系ポリマーの酸変成物、アイオノマーが挙げられる。また、水酸基又は無水カルボン酸と架橋する成分があらかじめ塗工されたフィルムを用いても構わない。
【0034】
次に、図2、3に基づいて本発明の他の態様について説明する。
図2、3に示すように、図1の場合と同様に回転ロール1と回転ロール2とは平行に配置されている。図2の場合は、図1の場合と異なり、回転ロール1の回転軸が回転ロール2の回転軸よりも下方に位置する。図3の場合は、図1の場合と異なり、回転ロール1の回転軸と回転ロール2の回転軸とがほぼ同じ高さに位置する。
【実施例
【0035】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。実施例及び比較例中の%は総て質量%を意味する。
【0036】
せん断粘度は、レオメーターを用い、180℃、せん断速度:1S-1、および10S-1における粘度を測定した。
【0037】
(合成例1)
ポリプロピレン100部に無水マレイン酸4部およびキシレン375部を窒素吹込口、温度計、撹拌棒を備えた3つ口フラスコに仕込み、窒素ガス雰囲気中で撹拌しながら130℃に加熱する。0.1部の過酸化ベンゾイルを40部のキシレンに溶解し、90分間で滴下する。滴下終了後130℃で60分間加熱および撹拌を続ける。60分後室温まで冷却する。得られた懸濁物をロ過し、キシレンを除去した後、濾取した粗製物にキシレンを加え120℃で溶解し、溶解液をアセトン/水=50/50(質量比)混合液中に入れて、再沈殿し、遊離酸をロ液とともに除去し、精製物を濾取。濾取した精製物を真空減圧下の80℃で5時間乾燥し、ポリプロピレンに無水マレイン酸がグラフトした酸変性ポリプロピレン(A-1)を得た。
酸変性ポリプロピレン(A-1)の酸価は10.9mgKOH/g、180℃、せん断速度:1S-1における粘度は85Pa・s、せん断速度:10S-1における粘度は75Pa・sであった。
なお、酸価は以下のようにして求めた。即ち、精製した酸変性ポリプロピレン(A-1)をキシレン/シクロヘキサノール混合液に120℃で溶解し、溶解液にピリジン、水、0.1%フェノールフタレイン溶液を少量混合する。溶解液を150℃保持しながら、0.1M 水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、酸変性物の酸価を求めた。
【0038】
(合成例2)
ポリエチレン系樹脂(エチレン/1-ヘキセン共重合体(共重合比:95/5(重量比))100部に無水マレイン酸4部およびキシレン375部を窒素吹込口、温度計、撹拌棒を備えた3つ口フラスコに仕込み、窒素ガス雰囲気中で撹拌しながら130℃に加熱する。0.03部の過酸化ベンゾイルを40部のキシレンに溶解し、90分間で滴下する。滴下終了後130℃で60分間加熱および撹拌を続ける。60分後室温まで冷却する。得られた懸濁物をロ過し、キシレンを除去した後、メチルエチルケトンで洗浄を2~3回繰り返し、ポリエチレン系樹脂に無水マレイン酸がグラフトした酸変性ポリエチレン(A-2)を得た。グラフト酸価は10.5mgKOH/g、180℃、せん断速度:1S-1における粘度は4300Pa・s、せん断速度:10S-1における粘度は3700Pa・sであった。
【0039】
(合成例3)
プロピレンとエチレンとの共重合体(共重合比:50/50(重量比)100部に無水マレイン酸4部およびキシレン375部を窒素吹込口、温度計、撹拌棒を備えた3つ口フラスコに仕込み、窒素ガス雰囲気中で撹拌しながら130℃に加熱する。0.03部の過酸化ベンゾイルを40部のキシレンに溶解し、90分間で滴下する。滴下終了後130℃で60分間加熱および撹拌を続ける。60分後室温まで冷却する。得られた懸濁物をロ過し、キシレンを除去した後、メチルエチルケトンで洗浄を2~3回繰り返し、プロピレンとエチレンとの共重合体に無水マレイン酸がグラフトした酸変性体(A-3)を得た(A-3)。グラフト酸価は10.7mgKOH/g、180℃、せん断速度:1S-1における粘度は870Pa・s、せん断速度:10S-1における粘度は780Pa・sであった。
【0040】
(合成例4)
ポリプロピレンを45部、合成例2で用いたポリエチレン系樹脂を45部、相溶化剤としてJSR製 DYNARON6200を10部、無水マレイン酸を4部、およびキシレンを375部、窒素吹込口、温度計、撹拌棒を備えた3つ口フラスコに仕込み、窒素ガス雰囲気中で撹拌しながら130℃に加熱する。0.03部の過酸化ベンゾイルを40部のキシレンに溶解し、90分間で滴下する。滴下終了後130℃で60分間加熱および撹拌を続ける。60分後室温まで冷却する。得られた懸濁物をロ過し、キシレンを除去した後、メチルエチルケトンで洗浄を2~3回繰り返し、ポリプロピレンとポリエチレン系樹脂との混合物に無水マレイン酸がグラフトした酸変性体(A-4)を得た。グラフト酸価は10.6mgKOH/g、180℃、せん断速度:1S-1における粘度は920Pa・s、せん断速度:10S-1における粘度は880Pa・sであった。
【0041】
(実施例1)
合成例1で得た酸変性ポリプロピレン(A-1)と合成例2で得た酸変性ポリエチレンとを70:30(質量比)で溶融混合した接着剤を、スリット幅300μmのコーターヘッドから180℃で押出し溶融膜とし、前記溶融膜を、速度100m/分、または300m/分で搬送している9μmのアルミニウム箔上に配し、アルミニウム箔上で薄膜化し、次いで、前記溶融箔膜上に70μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(以下、CPPという)を重ね、前記溶融箔膜を固化し、アルミニウム箔と未延伸ポリプロピレンフィルムとを貼り合わせて積層体を得た。
なお、前記接着剤の180℃、せん断速度:1S-1における粘度は320Pa・s、せん断速度:10S-1における粘度は280Pa・sであった。
また、形成される接着剤層の厚みが約3μmとなるように押出し時の圧力を調整した。
【0042】
(実施例2、3、5、6)、(比較例1、2)
実施例2、3、5、6、比較例1、2においても、表1に示す酸変性体を用いて、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0043】
(実施例4)
酸変性ポリプロピレン(A-1):45部、酸変性ポリエチレン:45部、相溶化剤としてJSR製 DYNARON6200:10部を溶融混合した接着剤を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0044】
(実施例7)
スリット幅を600μmとした以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0045】
(比較例3)
図4に示すように、アルミニウム箔とCPPとが最も接近する位置(アルミニウム箔とCPPとの貼り合せ位置)の上方にコーターヘッドを設置し、幅300μmのスリットから酸変性ポリプロピレン(A-1)と酸変性ポリエチレンとを50:50(質量比)で溶融混合した接着剤(180℃)を自重にて薄膜化し、回転ロール1上にあるアルミニウム箔上ではなく、前記位置に供給し、積層体を得た。形成される接着剤層の厚みが約3μmとなるようにコーターヘッドの高さを調節した。
【0046】
<標準偏差>
上記のようにして得られた積層体に対して、TD(幅方向)中央部をMD(流れ)方向に5cm間隔で長さ3m(計60点)の積層体の厚みを測定した。アルミニウム箔およびCPPの厚みを差し引いて、接着剤層の平均厚み:B(μm)および標準偏差を求めた。

◎:標準偏差σが1以下
○:標準偏差σが1より大きく2以下
×:標準偏差σが2より大きい
【0047】
<剥離強度>
上記のようにして得られた積層体から15mm幅の短冊状の試験片を切り出し、エタノール中に40℃/7日浸漬し、T型剥離強度を測定した。剥離速度は100mm/分。
◎:剥離強度が10N以上
○:剥離強度が8N以上、10N未満
△:剥離強度が6N以上、8N未満
×:剥離強度が6N未満
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果から、酸変性ポリプロピレン樹脂と酸変性ポリエチレン樹脂の混合物、プロピレンとエチレンの共重合体の酸変性物、ポリプロピレンとポリエチレンとの混合物の酸変性物は、温度180℃での延伸応力に耐え得る弾性を有し、優れた伸張性を併せ持つことで、膜厚ばらつきが少ない優れた薄膜塗工性を持つ事が分かる。また、延伸する事で樹脂が配向し、耐エタノール性が向上している。
【0050】
一方、酸変性ポリプロピレンのみを用いる比較例1は、180℃における酸変性ポリプロピレンの凝集力が低く、低粘度のため、延伸応力に耐えうる弾性がなく、膜厚に揺らぎが生じ、膜厚ばらつきが発生する。なお、凝集力を上げる為に塗工温度を下げると、溶融膜の端部の温度が融点以下となり結晶化して膜が途中で破断してしまう。膜厚ばらつきにより、極薄膜部分でエタノールによる膨潤が進行するが、CPPフィルムに類似したポリプロピレン単独組成のため、一定の接着強度は保持される。
また、酸変性ポリエチレンのみを用いる比較例2は、180℃における酸変性ポリエチレンが高粘度のため、レベリング性が悪く、膜厚ばらつきが発生する。膜厚ばらつきにより、極薄膜部分でエタノールによる膨潤が進行し、更にCPPと異なる樹脂組成のため、接着性が著しく低下する。
一方、比較例3は、実施例2と同様に酸変性ポリプロピレンと酸変性ポリエチレンとの混合物を用いる場合であるが、基材1と基材2との貼り合せ位置よりも回転ロール1側に配置されてなるコーターヘッドから、回転ロール1の外周上にある基材1上に接着剤を供給するのではなく、基材1と基材2との貼り合せ位置にある基材1上に接着剤を供給したので、膜厚ばらつきと部分的な膜破断が発生する事で、エタノールによる膨潤が進行しやすく、剥離強度が著しく低下する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
厚みのバラつきの小さい接着剤層によって貼り合わされた本発明の積層体は、レトルト耐性の要求される食品向けの包装材料や、厳しい耐内容物性を要求される医療品、化粧品、洗剤、電池向けの包装材料に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0052】
1:回転ロール1
2:回転ロール2
3:基材1
4:基材2
5:コーターヘッド
6:接着剤
7:積層体
8:基材1と基材2との貼り合せ位置
図1
図2
図3
図4