(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】水切り装置、水切り方法およびウェブの製造方法
(51)【国際特許分類】
F26B 13/24 20060101AFI20220511BHJP
F26B 5/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
F26B13/24
F26B5/00
(21)【出願番号】P 2017251212
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 泰樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智彦
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-073969(JP,U)
【文献】特開2002-256073(JP,A)
【文献】特開2007-277494(JP,A)
【文献】特開2017-154079(JP,A)
【文献】特開2012-170885(JP,A)
【文献】国際公開第2014/088112(WO,A1)
【文献】特開2006-181515(JP,A)
【文献】特開2005-279577(JP,A)
【文献】特開2017-003955(JP,A)
【文献】特開2009-291678(JP,A)
【文献】特開2008-069396(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133642(WO,A1)
【文献】特開2009-144974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 13/24
F26B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が濡れたウェブの水切りを行なう水切り装置であって、
搬送される前記ウェブを背面から支える回転体と、
前記回転体に近接して設けられ、前記回転体に支えられた前記ウェブの表面に向けて空気流を噴出する吹き出し口と、
前記吹き出し口からみて前記ウェブの搬送方向上流側に設けられ、先端に前記ウェブの幅よりも長い辺を有する整流板と、
を有し、前記整流板の前記先端と前記回転体との間に前記ウェブが通過可能な隙間が設けられており、
前記吹き出し口が前記回転体に対向して配置されて
おり、
前記回転体の中心軸に直交する平面内で前記空気流の向きが、前記ウェブに衝突する位置からみて前記中心軸から前記ウェブの搬送方向下流側に測った角度において、前記空気流の噴出の方向が0°以上70°以下の範囲内にあり、
前記回転体の中心軸に直交する平面内で前記整流板の前記先端を中心として、前記整流板は、前記衝突する位置と前記中心軸とを結ぶ直線に対し、前記ウェブの搬送方向上流に向かって5°以上80°以下の角度で傾いていることを特徴とする水切り装置。
【請求項2】
前記吹き出し口は前記回転体の回転軸の方向に延びるように設置されており、前記吹き出し口からシート状空気流が前記ウェブに吹きつけられる、請求項1に記載の水切り装置。
【請求項3】
前記吹き出し口と前記回転体に支えられた前記ウェブの表面との間隔が0.1mm以上2mm以下である、請求項
1または2に記載の水切り装置。
【請求項4】
前記整流板の前記先端と前記回転体に支えられた前記ウェブの表面との間隔が0.1mm以上2mm以下である、請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の水切り装置。
【請求項5】
前記回転体の中心軸に直交する平面内で、前記衝突する位置と前記中心軸を結ぶ直線と、前記整流板の前記先端との距離が、1mm以上20mm以下である、請求項
1乃至4のいずれか1項に記載の水切り装置。
【請求項6】
表面が濡れたウェブの水切りを行なう水切り方法であって、
前記ウェブの背面を回転体によって支持しながら前記ウェブを搬送し、
前記ウェブの表面から離れて配置され先端に前記ウェブの幅よりも長い辺を有する整流板からみて前記ウェブの搬送方向の下流側の位置で、前記回転体によって支えられた前記ウェブの表面に向けて吹き出し口から空気流を噴出し、
前記吹き出し口が前記回転体に対向して配置されて
おり、
前記回転体の中心軸に直交する平面内で前記空気流が前記ウェブに衝突する位置からみて前記中心軸からウェブの搬送方向下流側に測った角度において、前記空気流の噴出の方向を0°以上70°以下の範囲内とし、
前記回転体の中心軸に直交する平面内で前記整流板の前記先端を中心として、前記整流板を、前記衝突する位置と前記中心軸とを結ぶ直線に対し、前記ウェブの搬送方向上流に向かって5°以上80°以下の角度で傾かせることを特徴とする、水切り方法。
【請求項7】
前記吹き出し口は前記回転体の回転軸の方向に延びるように設置されており、前記吹き出し口からシート状空気流を前記ウェブの表面に吹きつける、請求項
6に記載の水切り方法。
【請求項8】
前記吹き出し口と前記回転体に支えられた前記ウェブの表面との間隔を0.1mm以上2mm以下とする、請求項
6または7に記載の水切り方法。
【請求項9】
前記整流板の前記先端と前記回転体に支えられた前記ウェブの表面との間隔を0.1mm以上2mm以下とする、請求項
6乃至8のいずれか1項に記載の水切り方法。
【請求項10】
前記回転体の中心軸に直交する平面内で、前記衝突する位置と前記中心軸を結ぶ直線と、前記整流板の前記先端との距離を、1mm以上20mm以下とする、請求項
6乃至9のいずれか1項に記載の水切り方法。
【請求項11】
前記ウェブの引張弾性率が0.1GPa以上5.5GPa以下である、請求項
6乃至10のいずれか1項に記載の水切り方法。
【請求項12】
請求項
6乃至11のいずれか記載の水切り方法により表面が濡れたウェブの水切りを行なう工程を含むことを特徴とするウェブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が水で濡れたウェブから水を除去する水切り装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺の樹脂フィルムなどであるウェブの表面に付着した水を除去する方法として、空気をウェブの表面に吹きつけて空気流とともに水を飛散させる方法が知られている。特許文献1には、ロールに沿って搬送されている長尺のフィルムに対し、シート状あるいはカーテン状の空気を吹きつけることにより、フィルムの表面に付着している水を除去することが開示されている。シート状あるいはカーテン状の空気の噴流は、例えば、細長いスリットからなるノズル、あるいは、一直線上に配置された多数の噴出穴を有するノズルから空気を噴出させることにより形成される。シート状あるいはカーテン状の空気の噴流のことをシート状空気流と呼び、シート状空気流を生成するノズルをスリットノズルあるいはエアナイフとも呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生産性向上などの観点から、樹脂フィルムなどのウェブを加工し処理するときにウェブの搬送速度を高くすることが望まれている。ウェブの搬送速度が高くなった場合、それに対応して除去しなければならない水の量の多くなるから、ロールに沿って搬送されているウェブに対してシート状空気流を吹きつけて水切りを行なうときの空気流の速度も高くする必要がある。しかしながら、空気流の速度が高くなった場合、特許文献1に記載されているような、ウェブがロールなどの回転体に張架されて背面側から支持されている場合であっても、ウェブにしわが生ずることがある。ウェブが例えば樹脂フィルムである場合であれば、しわの発生は外観不良の原因となるだけでなく、そのウェブを後工程に搬送するときの搬送不良の原因ともなる。
【0005】
よって本発明の目的は、表面に水が濡れているウェブの水切りを行なう装置及び方法であって、しわ等を発生させることなく水切りを行うことができる装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水切り装置は、表面が濡れたウェブの水切りを行なう水切り装置であって、搬送されるウェブを背面から支える回転体と、回転体に近接して設けられ、回転体に支えられたウェブの表面に向けて空気流を噴出する吹き出し口と、吹き出し口からみてウェブの搬送方向上流側に設けられ、先端にウェブの幅よりも長い辺を有する整流板と、を有し、整流板の先端と回転体との間にウェブが通過可能な隙間が設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明の水切り方法は、表面が濡れたウェブの水切りを行なう水切り方法であって、ウェブの背面を回転体によって支持しながらウェブを搬送し、ウェブの表面から離れて配置され先端にウェブの幅よりも長い辺を有する整流板からみてウェブの搬送方向の下流側の位置で、回転体によって支えられたウェブの表面に向けて吹き出し口から空気流を噴出することを特徴とする。
【0008】
本発明のウェブの製造方法は、本発明の水切り方法により表面が濡れたウェブの水切りを行なう工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空気流を吹きつけてウェブの水切りを行なうときに、空気流を吹きつける位置よりもウェブの搬送方向上流側に整流板を配置することにより、空気流の風速が大きい場合であっても回転体からウェブが浮き上がることを抑制できてしわの発生を防止できるようになる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】水切り装置が適用されるシステムの一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の一形態の水切り装置を示す図である。
【
図3】水切り途中のウェブを説明する斜視図である。
【
図4】ウェブにおけるしわの発生を説明する図である。
【
図5】ウェブのロール表面からの浮上を説明する図である。
【
図8】実施の一形態の水切り装置の要部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、長尺の樹脂フィルムなどのウェブを処理するシステムであって、本発明に基づく水切り装置を含むシステムの構成の一例を示している。
【0012】
図1に示すシステムは、ロール形態で供給されるウェブ10の表面に対して塗工を行い、次いで水で洗浄し、洗浄後にウェブ10を乾燥させて再びロール形状に巻き取るものである。乾燥を行なう際にウェブ10の表面に水滴が付着していると、乾燥ムラが生じ、例えば外観不良などの原因となる。そこで乾燥を行なう前に水切りを行なう必要がある。このシステムは、ロール形態で供給されるウェブ10を巻き出す巻出し部11と、巻き出されたウェブ10の表面に塗工を行なう塗工機12と、塗工後のウェブ10を水で洗浄する洗浄槽13と、洗浄後のウェブ10の水切りを行なう水切り装置14と、水切りが行われたウェブ10を乾燥させる乾燥炉15と、乾燥後のウェブ10を巻き取る巻取り部16と、を備えている。ウェブ10は、巻出し部11から塗工機12、洗浄槽13、水切り装置14及び乾燥炉15を経て巻取り部16に連続して架け渡されており、巻出し部11から巻取り部16へ連続的に搬送されるようになっている。ウェブ10は、一例として樹脂フィルムであり、JIS C2151(JIS K7127)に基づいて測定される引張弾性率が好ましくは0.1GPa以上5.5GPa以下の範囲内にあるものである。
【0013】
図2は、水切り装置14の内部構成を断面図として示している。水切り装置14は、筺体24の内部に、空気を噴出するノズルである4本のエアノズル21と、エアノズル21ごとにエアノズル21に対向して設けられたロール22と、エアノズル21ごとにエアノズル21の空気吹き出し口に近接して配置された整流板23と、を備えている。このほか、ウェブ10を案内するためのいくつかの補助ロール25も設けられており、ロール22と補助ロール25とによってウェブ10のためのW字形の搬送経路が形成されており、ウェブ10はこの搬送経路に沿って図示矢印方向に連続的に搬送される。ウェブ10は、少なくともエアノズル21に対向する位置において、回転体であるロール22によって支えられることになる。ウェブ10の搬送のとき、ロール22や補助ロール25もウェブ10に引きずられて回転する。当然のことながら、ロール22及び補助ロール25の長さは、ウェブ10の幅よりも長い。
【0014】
各エアノズル21はスリットノズルあるいはエアナイフとして構成されたものであって、内部に空気通路26を有しており、この空気通路26は、エアノズル21の外周部においてスリット状に開口しており空気流の吹き出し口を形成している。空気通路26には、不図示の圧縮空気源から圧縮空気が供給されている。空気通路26の開口は、ロール22に沿って搬送されているウェブ10を向いており、開口が延びる方向は、対応するロール22の回転軸方向と平行になっている。開口は、ウェブ10の幅よりも長く形成されている。図では、エアノズル21が略四角形の断面形状として描かれており、空気通路26の開口は、断面を示す四角形の頂点の1つに位置することになる。このようにエアノズル21が構成されていることにより、エアノズル21からはシート状空気流が噴出し、ウェブ10の表面においてシート状空気流が衝突する領域は、ウェブ10の全幅にわたってロール22の回転軸方向に延びる細長い領域となる。
【0015】
ウェブの表面性状(親水性/疎水性)や表面状態により水の付着量が変化すること、およびウェブの搬送速度によって水の持ち込み量が異なることから、水切りに必要なエアノズルからの風速は任意に選択される。本発明の例では、10~100m/分の搬送速度に対し、30~140m/sのノズル風速を好適に選択するのが好ましい。
【0016】
また、ウェブをシワなく安定搬送させるには、ウェブの搬送に適した張力を付与する必要がある。ウェブの材質、厚み、幅、剛性といったパラメータと適用する工程、速度条件から最適な張力を付与する場合がほとんどであるが、過剰な張力はウェブの変形を生じさせることから好ましくない。本発明の例では15~100N/mの範囲で適用するのが好ましい。
【0017】
ここでは、スリット状の開口によってエアノズル21の吹き出し口を形成しているが、吹き出し口の構成はこれに限られるものではない。例えば、空気通路26に連通する複数の円形の貫通孔を一列に配置し、これらの貫通孔から同時に空気を噴出してシート状空気流を形成するようにした吹き出し口を用いるようにしてもよい。以下の説明においてエアノズル21の吹き出し口の長さとは、吹き出し口についてのロール22の回転軸方向での長さをいう。
【0018】
ロール26の回転軸に直交する面で考えると、エアノズル21からのシート状空気流は、ウェブ10に対して垂直方向ではなく、ウェブ10の搬送方向の上流側に空気流が流れるように、ウェブ10に対して傾斜する方向で噴出する。空気流をどの程度の傾斜角で噴出するかはエアノズル21の設置角度を変更することで調整できる。ウェブ10の搬送方向上流側に向かうようにエアノズル21からシート状空気流を噴き出すことにより、ウェブ10上の水滴も上流側に飛ばされるので、水切りを効率よく行うことができる。整流板23は、シート状空気流が当たったときのウェブ10の表面近傍での流れを制御するためのものであるが、その詳細については後述する。筺体24は、水切りによってウェブ10の表面から除去された水が水滴として周囲に飛散することを防ぐためのものである。効率的に水切りを行なうためには、筺体24の内部を排気することが好ましい。
【0019】
図2に示した水切り装置14では、ウェブ10の一方の表面に対して2個のエアノズル21を配置し、他方の表面に対しても2個のエアノズル21を配置することによって、ウェブ10の両方の表面の水切りが行なわれる。ウェブ10の各表面に対して複数のエアノズル21を配置するのは、ウェブ10の表面の性状や搬送速度によっては1つのエアノズル21だけでは水切りが十分に行なえない場合があるからである。
図3は、水切り工程の途中の状態を示す図である。エアノズル21からシート状空気流をウェブ10に対して吹きつけることによって、ウェブ10の表面の水が吹き飛ばされるが、エアノズル21からの1回の吹きつけだけでは、図において影を付した部分によって示すように、ウェブ10の表面に筋状に不均一に水が残存する。
図2に示したものではエアノズル21、ロール22及び整流板23からなる組を4組設けているが、必要に応じ、この組の数を増減することができる。
【0020】
本実施形態の水切り装置14では、ロール22に対するエアノズル21及び整流板23の配置を最適化することによって、シート状空気流の風速が大きい場合であってもしわ等を発生させることなく確実に水切りを行うことができるようにしている。以下、最適な配置を見つけるために本発明者らが得た知見を説明することによって、本実施形態の水切り装置14についてさらに詳しく説明する。
【0021】
図4は、ロール22に対向してエアノズル21を設けたが整流板23を設けなかった場合におけるウェブ10でのしわの発生を説明する図であり、(a)はエアノズル21からのシート状空気流の風速が相対的に小さい場合を示し、(b)は風速が相対的に大きい場合を示している。風速が相対的に小さい場合には、(a)に示すように、ロール22に沿って搬送されているウェブ10に対してエアノズル21からシート状空気流を吹きつけてもウェブ10にしわが発生することはなかった。これに対し、風速が相対的に大きい場合には、(b)に示すように、ロール22の表面に接している領域から搬送方向下流側に向け、ウェブ10の表面にしわ31が形成された。本発明者らはこの現象を検討したところ、シート状空気流を吹きつけたときにウェブ10がロール22の表面から浮き上がる現象を見出し、これがしわ31の原因ではないかとの結論を得るに至った。
【0022】
図5はロール22からのウェブ10の浮き上がりを説明する図であり、(a)はエアノズル21からのシート状空気流の風速が相対的に小さい場合を示し、(b)は風速が相対的に大きい場合を示している。風速が相対的に小さい場合には、(a)に示すように、ロール22に沿って搬送されているウェブ10に対してエアノズル21からシート状空気流を吹きつけてもウェブ10の浮き上がりが発生することはなかった。一方、風速が相対的に大きい場合には、(b)に示すように、ロール22の表面からウェブ10が浮き上がった。この浮き上がりをもたらす力を浮力Fとする。(b)ではウェブ10の全体がロール22から浮き上がっているが、
図3に示したようにウェブ10の表面に不均一に水が付着している場合、水が付着している領域ではウェブ10とロール22の表面との間の吸着力が発生するため、ロール22からのウェブ10の浮き上がりは、ウェブ10での筋状の領域で起こるものと考えられる。筋状の領域でウェブ10が浮き上がることより、ウェブ10にしわ31(
図4参照)が形成されるものと考えられる。
【0023】
図6は、ウェブ10の浮き上がりの原因を説明する図である。(a)に示すように、シート状空気流は、エアノズル21の空気通路26から吹き出し口を経てウェブ10に衝突し、衝突後は、ロール23に沿って湾曲しているウェブ10の表面に沿って流れる。ウェブ10の表面に沿って空気流が湾曲して流れると、コアンダ効果によって、ウェブ10をロール22の表面から引き離す方向への力すなわち浮力Fが発生するものと考えられる。図において、浮力Fが発生する領域の主要部には影が付されている。その結果、(b)においてSで示す領域において、ウェブ10がロール22の表面から浮き上がることになる。ここではシート状空気流は十分速くて乱流になっているから、浮き上がったウェブ10は、図示するように波打ってばたつくことになる。この波打ちはウェブ10の下流側にも伝播し、その結果、シート状空気流が衝突する領域よりも下流側において、ウェブ10にしわが発生するものと考えられる。以上の考察から明らかなように、シート状空気流の風速が大きいほど、ウェブ10の浮き上がりとしわの発生とが顕著になる。
【0024】
以上の結果を踏まえ、本発明者らは、エアノズル21の吹き出し口の近傍であってロール22の表面に近接した位置に整流板23を配置し、コアンダ効果によるウェブ10における浮力Fの発生を抑制することを検討した。整流板23は、例えば略四辺形である板状の部材である。整流板23は、シート状空気流を制御するために、エアノズル21の吹き出し口に近接するとともにロール22の回転軸方向と平行な辺を備えており、この辺は整流板23の先端となるものである。整流板23の先端を構成するこの辺の長さはエアノズル21の吹き出し口の長さよりも長くなっている。
図7は整流板23の配置の一例を示している。図示した例では、ロール22の回転軸に直交する平面で考えて、整流板23は、ロール22の回転軸とエアノズル21の吹き出し口とを結ぶ線に対してほぼ直交して配置している。このように整流板23を配置した場合、ウェブ10のロール22からの浮き上がりを抑制する一定の効果が認められた。しかしながら、整流板23とロール22の表面との間の間隔が狭くなっている部分で負圧が発生するので、この間隔が狭くなっている部分の面積が大きい場合、すなわちロール22の周方向での整流板23の長さが大きい場合、かえってウェブ10の浮き上がりを促進してしわの発生の原因となる。
【0025】
本発明者らは整流板23の配置についてさらに検討を重ね、ウェブ10の浮き上がりを抑制してウェブ10でのしわの発生を防止できる配置を見出した。
図8は、本発明の実施の一形態の水切り装置におけるエアノズル21、ロール22及び整流板23の配置を説明するものであって、ロール22の回転軸Oに垂直な平面での断面図として描かれている。エアノズル21の吹き出し口から噴出したシート状空気流がウェブ10に衝突する位置をPとする。ウェブ10の厚さが十分に薄いとすれば、点Pは、吹き出し口に連通する空気通路26の中心線とロール22の表面との交点と考えることができる。直線OPに沿った方向での点Pとエアノズル21の吹き出し口との距離をaとする。直線OPと整流板23の先端との距離をLとする。整流板23の先端とロール22の表面との間隔をbとし、直線OPと整流板23がなす角度をαとする。角度αは、整流板23の先端を中心として整流板23がウェブ10の搬送方向上流側に回転する方向が正となるように定める。エアノズル21におけるシート状空気流の噴出方向と直線OPとがなす角度をθとする。上述したようにシート状空気流は、ウェブ10の搬送方向上流側に向けて噴出させることが好ましいから、搬送方向上流側に噴出することとなるときが正の値となるように角度θを定める。エアノズル21の吹き出し口の幅、すなわち噴出時におけるシート状空気流の厚さをdとする。
【0026】
整流板23の傾きを示す角αについて、
図7に示すようにα=90°とした場合には、整流板23とロール22との間の間隔の狭い部分において負圧が発生するので、しわ防止の効果があまり得られない。本発明者らの検討によれば、しわ防止の観点から、角αを5°以上80°以下とすることが好ましく、例えば20°程度とすることがさらに好ましい。整流板23の先端とウェブ10の表面との間隔dは、0.1mm以上2mm以下とすることが好ましく、例えば1mm程度とすることが好ましい。直線OPに直交する方向におけるエアノズル21の吹き出し口と整流板23との先端の距離Lは、1mm以上20mm以下とすることが好ましく、例えば10mm程度とすることが好ましい。
【0027】
エアノズル21の吹き出し口とロール22の表面との間隔aは、0.1mm以上2mm以下とすることが好ましく、例えば1mmとすることが好ましい。吹き出し口の幅dは、例えば0.8mmに設定されるが、これよりも広くても狭くてもよい。エアノズル21の吹き出し口からのシート状空気流の噴出方向を表わす角度θについて、θ=0°すなわちウェブ10に対して垂直にシート状空気流が衝突する場合であっても水切り効果が得られるが、ウェブ10の搬送方向上流側に向けてシート状空気流を噴出する方が、言い換えればθを0°よりも大きくするほうが、より高い効果が得られる。その一方で、θ=90°すなわちウェブ10に対して平行にシート状空気流を噴出した場合には、吹き出し口の位置がロール22の表面から離れているので空気流がウェブ10に衝突しないこととなり、水切り効果が得られにくいことになる。本発明者らの検討によれば、θは0°以上70°以下とすることが好ましく、10°以上50°以下とすることがさらに好ましい。一例として角θは45°に設定される。
【0028】
以上説明した本実施形態の水切り装置14によれば、ウェブ10にしわを発生させることなく、エアノズル21の吹き出し口から大きい風速でシート状空気流をウェブ10に吹きつけることができる。その結果、JIS C2151(JIS K7127)に基づいて測定される引張弾性率が例えば0.1GPa以上5.5GPa以下の範囲内にあるウェブ10の表面に付着している水を、ウェブ10にしわを発生させることなく確実に除去することができる。また本発明の水切り装置は、排気チャンバのような大がかりな装置を要せずとも本発明の効果を奏することができ、運転コストの節約やメンテナンス負担の軽減にも資する。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
図1に示すシステムで、多孔を有する樹脂フィルムを加工した。具体的には、まず、幅600mmのポリオレフィン多孔質膜(厚さ7μm)を搬送速度60m/分でロールから巻き出し、塗工機12でポリオレフィン多孔質膜の両面に塗工液を塗布した後、洗浄槽13で表面を水洗浄し、水切り装置14、乾燥炉15を経て巻取り装置16で巻取った。
【0030】
エアノズル21、ロール22、整流板23の位置関係は、
図8で示すd=0.8mm、θ=45°、α=20°、a=b=1mmに調整し、ノズルからの風速85m/s、水切り装置内のフィルム張力が40N/mとなる条件で加工運転を行った。その結果得られた巻取り後のフィルムを目視観察した結果、乾燥ムラやシワのない好適なフィルムを得ることができた。
【0031】
[比較例1]
実施例1と同じシステム、材料、及び搬送速度で、水切り装置14の整流板23を取り外した構成で、
図8に示すd=0.8mm、θ=45°、a=1mmに調整し、ノズルからの風速85m/s、水切り装置内のフィルム張力が40N/mとなる条件で加工運転を行った。その結果、
図6の(b)に示すようなロールからのフィルム浮き上がりが生じて強いシワが発生したため、運転を中断した。
【符号の説明】
【0032】
10 ウェブ
14 水切り装置
21 エアノズル
22 ロール
23 整流板
24 筺体
25 補助ロール
26 空気通路