(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20220511BHJP
B29C 33/60 20060101ALI20220511BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20220511BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20220511BHJP
B60C 5/14 20060101ALI20220511BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C33/60
B29C35/02
B29D30/06
B60C5/14 Z
B60C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2017559733
(86)(22)【出願日】2017-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2017040959
(87)【国際公開番号】W WO2018146884
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2017021295
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】干場 崇史
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 雅公
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-056812(JP,A)
【文献】特表2016-540662(JP,A)
【文献】特開平08-020029(JP,A)
【文献】特開平06-134769(JP,A)
【文献】特開昭60-229719(JP,A)
【文献】特開昭57-119992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 - 33/76
B29C 35/00 - 35/18
B60C 5/14
B29D 30/06
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの製造方法であって、加硫済みの空気入りタイヤのトレッド部の内面において電子顕微鏡で検出される前記離型剤の厚さを0.1μm~100μmとし、前記離型剤が有効成分としてジアルキルポリシロキサン(但し、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサンの場合を除く。)、アルキルフェニルポリシロキサン、アルキルアラルキルポリシロキサン及び3,3,3-トリフルオロプロピルメチルポリシロキサンのうち少なくとも1種のシリコーン成分を含
み、前記ブラダーに前記コーティング層を形成する工程において該コーティング層の被覆時間t(hour)と温度T(℃)とがt≧-0.0571T+9.14かつ90℃≦T≦180℃の条件を満たすことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの製造方法であって、加硫済みの空気入りタイヤのトレッド部の内面において蛍光X線分析法で検出される前記離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とし、前記離型剤が有効成分としてジアルキルポリシロキサン(但し、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサンの場合を除く。)、アルキルフェニルポリシロキサン、アルキルアラルキルポリシロキサン及び3,3,3-トリフルオロプロピルメチルポリシロキサンのうち少なくとも1種のシリコーン成分を含
み、前記ブラダーに前記コーティング層を形成する工程において該コーティング層の被覆時間t(hour)と温度T(℃)とがt≧-0.0571T+9.14かつ90℃≦T≦180℃の条件を満たすことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、各ビード部にビードコアを埋設し、各ビードコアの外周上にビードフィラーを配置した空気入りタイヤの製造方法であって、前記離型剤が転写されてなる転写層をタイヤ内面の少なくとも一方のビードフィラーの上端位置から他方のビードフィラーの上端位置までの領域を含むタイヤ幅方向の一部の領域に配置したことを特徴とする請求項
1又は2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層を装架し、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にベルト層を配置した空気入りタイヤの製造方法であって、前記離型剤が転写されてなる転写層をタイヤ内面の少なくとも前記ベルト層の下部を含むタイヤ幅方向の一部の領域に配置したことを特徴とする請求項
1又は2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ及びその製造方法に関し、更に詳しくは、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫し、微量の離型剤がタイヤ内面に付着した状態を有することにより、走行時のリムずれ性を悪化させることなく、空気保持性とパンク修理時のシール性とを両立することを可能にした空気入りタイヤ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する際、ブラダーとグリーンタイヤの内面とはブラダーが貼り付き易いため、グリーンタイヤの内面に離型剤を塗布することにより、グリーンタイヤとブラダーとの貼り付きを防止するようにしている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、離型剤をタイヤ内面に塗布する場合、その塗布量が少な過ぎると離型剤による空気保持性を十分に得ることができない一方で、塗布量が多過ぎるとパンク修理時において離型剤がパンク修理液を弾き、シール性が悪化してしまうという問題がある。また、粉末状の離型剤を用いた場合、離型剤をタイヤ内面に塗布する際に離型剤がビード部まで飛散することがあり、離型剤がビード部付近に多量に付着した状態で加硫成形された空気入りタイヤは走行時にリムずれ性が悪化してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫し、微量の離型剤がタイヤ内面に付着した状態を有することにより、走行時のリムずれ性を悪化させることなく、空気保持性とパンク修理時のシール性とを両立することを可能にした空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの製造方法であって、加硫済みの空気入りタイヤのトレッド部の内面において電子顕微鏡で検出される前記離型剤の厚さを0.1μm~100μmとし、前記離型剤が有効成分としてジアルキルポリシロキサン(但し、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサンの場合を除く。)、アルキルフェニルポリシロキサン、アルキルアラルキルポリシロキサン及び3,3,3-トリフルオロプロピルメチルポリシロキサンのうち少なくとも1種のシリコーン成分を含み、前記ブラダーに前記コーティング層を形成する工程において該コーティング層の被覆時間t(hour)と温度T(℃)とがt≧-0.0571T+9.14かつ90℃≦T≦180℃の条件を満たすことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の空気入りタイヤの製造方法は、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの製造方法であって、加硫済みの空気入りタイヤのトレッド部の内面において蛍光X線分析法で検出される前記離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とし、前記離型剤が有効成分としてジアルキルポリシロキサン(但し、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサンの場合を除く。)、アルキルフェニルポリシロキサン、アルキルアラルキルポリシロキサン及び3,3,3-トリフルオロプロピルメチルポリシロキサンのうち少なくとも1種のシリコーン成分を含み、前記ブラダーに前記コーティング層を形成する工程において該コーティング層の被覆時間t(hour)と温度T(℃)とがt≧-0.0571T+9.14かつ90℃≦T≦180℃の条件を満たすことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫を行うことにより、タイヤ内面の離型剤の厚さを0.1μm~100μmとする、或いは離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とすることが可能となる。このように微量の離型剤をタイヤ内面に付着させた場合、離型剤がタイヤ内面からの空気の透過を阻害し、空気保持性が良化する一方で、パンク修理時のシール性を改善することができる。また、本発明によれば、従来のようにタイヤ内面に粉末状の離型剤を噴霧する場合とは異なり、ビード部付近に離型剤が過度に付着することがないのでリムずれ性を悪化させることはない。その結果、走行時のリムずれ性を悪化させずに、空気保持性とパンク修理時のシール性とを両立することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、
図1において、CLはタイヤ中心線である。
【0013】
図1に示すように、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0014】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0015】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0016】
また、トレッド部1にはタイヤ周方向に延びる複数本の主溝9が形成されており、これら主溝9によりトレッド部1には複数列の陸部10が区画されている。
【0017】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0018】
上記空気入りタイヤにおいて、
図2に示すように、タイヤ内面11のタイヤ径方向内側には離型剤の転写層12が存在する。この離型剤の転写層12は、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫することにより、加硫済みの空気入りタイヤにおいて、そのタイヤ内面11に転写されたものである。このようにして転写された離型剤はタイヤ内面11の全面には転写されておらず点在している。
【0019】
離型剤の転写層12の厚さgは0.1μm~100μmである。この離型剤の転写層12の厚さgは電子顕微鏡を用いて検出することができる。電子顕微鏡で離型剤の転写層12の厚さgを測定する際には、上記空気入りタイヤをタイヤ幅方向に沿って切り出したサンプルを用い、該サンプルにおいて複数の箇所(例えば、タイヤ周方向4箇所及びタイヤ幅方向3箇所)の厚さを測定する。そして、上記複数の箇所で測定された測定値を平均することにより、離型剤の転写層12の厚さg(平均厚さ)を算出する。
【0020】
一方、トレッド部1の内面における離型剤のケイ素の量は0.1重量%~10.0重量%である。本発明では、トレッド部1の内面における離型剤の量を規定するにあたって、一般的な離型剤の主成分であるケイ素の量を指標とする。このケイ素の量は蛍光X線分析法を用いて検出することができ、一般に、蛍光X線分析法にはFP法(ファンダメンタルパラメータ法)と検量線法とがあるが、本発明ではFP法を採用する。離型剤(ケイ素)の量を測定する際には、上記空気入りタイヤの複数の箇所(例えば、タイヤ周方向4箇所及びタイヤ幅方向3箇所の計7箇所)においてカーカス層及びインナーライナー層を剥離して得られたシートサンプル(寸法:幅70mm、長さ100mm)を用い、各シートサンプルから更に角部4箇所及び中央部1箇所の計5箇所の測定サンプル(寸法:幅13mm~15mm、長さ35mm~40mm)を抜き取り、各測定サンプルについて蛍光X線分析装置を用いて離型剤の量を測定する。そして、上記シートサンプル毎に5つの測定サンプルの測定値を平均することによりシートサンプル毎の離型剤の量が算出され、その算出値がそれぞれ0.1重量%~10.0重量%の範囲に含まれるのである。また、蛍光X線粒子は原子番号に比例した固有のエネルギーを有しており、この固有エネルギーを測定することにより元素を特定することが可能となる。具体的には、ケイ素の固有エネルギーは1.74±0.05keVである。なお、離型剤(ケイ素)の蛍光X線粒子数(X線強度)は0.1cps/μA~1.5cps/μAの範囲である。
【0021】
離型剤の転写層12は、タイヤ内面11の少なくとも一方のビードフィラー6の上端位置から他方のビードフィラー6の上端位置までの領域を含むタイヤ幅方向の一部の領域に部分的に配置されていると良い。この領域は、
図1に示すようにタイヤ最大幅位置を含む領域Xに相当する。タイヤ内面11の少なくとも領域Xに相当する領域に離型剤の転写層12を形成することで、空気保持性とパンク修理時のシール性とを同時に改善することができる。更に、離型剤の転写層12は、少なくともベルト層7の下部を含むタイヤ幅方向の一部の領域(
図1に示す領域Y)に部分的に配置されていることがより好ましい。
【0022】
離型剤からなる転写層12に配合可能な成分としては、例えば、シリコーン成分を有効成分として含有するものが挙げられる。シリコーン成分としては、オルガノポリシロキサン類が挙げられ、例えば、ジアルキルポリシロキサン、アルキルフェニルポリシロキサン、アルキルアラルキルポリシロキサン、3,3,3-トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等を挙げることができる。ジアルキルポリシロキサンは、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルイソプロピルポリシロキサン、メチルドデシルポリシロキサンである。アルキルフェニルポリシロキサンは、例えば、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体である。アルキルアラルキルポリシロキサンは、例えば、メチル(フェニルエチル)ポリシロキサン、メチル(フェニルプロピル)ポリシロキサンである。これらのオルガノポリシロキサン類は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0023】
上述のように離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫を行うことにより、タイヤ内面11の離型剤の厚さgを0.1μm~100μm、或いは離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とすることが可能となる。このように微量の離型剤をタイヤ内面11に付着させた場合、離型剤がタイヤ内面11からの空気の透過を阻害し、空気保持性が良化する一方で、パンク修理時のシール性を改善することができる。ここで、タイヤ内面11の離型剤の厚さが0.1μmより薄くなる、或いは離型剤のケイ素の量が0.1重量%より少なくなると、加硫時のグリーンタイヤとブラダーとの貼り付きを十分に防ぐことができない。離型剤の厚さが100μmより厚くなる、或いは離型剤のケイ素の量が10.0重量%より多くなると、パンク修理時において離型剤がパンク修理液を弾き、シール性が悪化する傾向がある。特に、ベルト端部付近においてシール性の悪化が顕著である。
【0024】
また、本発明によれば、従来のようにタイヤ内面11に粉末状の離型剤を噴霧する場合とは異なり、ビード部3付近に離型剤が過度に付着することがないのでリムずれ性を悪化させることはない。その結果、走行時のリムずれ性を悪化させずに、空気保持性とパンク修理時のシール性とを両立することが可能となる。
【0025】
次に、本発明の空気入りタイヤの製造方法について説明する。グリーンタイヤを加硫するにあたって、予めブラダーに離型剤を被覆(好ましくは焼付け塗布)してブラダーの外面に離型剤からなるコーティング層を形成する。このブラダーの外面にコーティング層を形成する工程は、例えば、離型剤を塗布後に150℃で1時間、90℃で4時間又は常温で8時間の条件下で保管しながら施工する。また、ブラダーの外面にコーティング層を形成する工程は、1回以上3回以下の範囲で実施する。このようにコーティング層が形成されたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する。
【0026】
上述のように離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫を行うことにより、タイヤ内面11の離型剤の厚さgを0.1μm~100μm、或いは離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とすることが可能となる。このように微量の離型剤をタイヤ内面11に付着させた場合、離型剤がタイヤ内面11からの空気の透過を阻害し、空気保持性が良化する一方で、パンク修理時のシール性を改善することができる。また、本発明によれば、従来のようにタイヤ内面11に粉末状の離型剤を噴霧する場合とは異なり、ビード部3付近に離型剤が過度に付着することがないのでリムずれ性を悪化させることはない。その結果、走行時のリムずれ性を悪化させずに、空気保持性とパンク修理時のシール性とを両立することが可能となる。
【0027】
特に、ブラダーの外面にコーティング層を形成する工程において、コーティング層の被覆時間t(hour)と温度T(℃)とがt≧-0.0571T+9.14かつ10℃≦T≦180℃の条件を満たすことが好ましい。また、温度Tを90℃、被覆時間tを4時間とすることがより好ましく、温度Tを150℃、被覆時間tを1時間とすることが更に好ましい。このような条件を満たすことで、コーティング層を有するブラダーにおいて、離型剤をコーティングする時間を短縮することができると共に、ブラダーライフの短縮を防止することができる。ここで、温度T(℃)が高い程、短時間でコーティング層を形成することができるが、ブラダーが劣化し易く、ブラダーライフを縮めることとなる。
【実施例】
【0028】
タイヤサイズ275/35ZR20で、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫された空気入りタイヤにおいて、タイヤ内面の離型剤の有無、タイヤ内面の離型剤の厚さ(μm)を表1のように設定した実施例1~3のタイヤを製作した。
【0029】
また、比較例1~3のタイヤを用意した。比較例1については、ブラダーの代わりに剛性中子を用いて加硫し、タイヤ内面に離型剤が存在しないこと以外は実施例1と同じ構造を有する。比較例2については、タイヤ内面の離型剤の厚さを110μmに設定したこと以外は実施例1と同じ構造を有する。比較例3については、タイヤ内面に粉末状の離型剤を噴霧して加硫し、タイヤ内面の離型剤の厚さを110μmに設定したこと以外は実施例1と同じ構造を有する。
【0030】
なお、表1において、タイヤ内面の離型剤の厚さ(μm)は、走査電子顕微鏡(SEM-EDX)を用いて、製作工程終了後の各試験タイヤのタイヤ周方向4箇所及びタイヤ幅方向3箇所における離型剤の厚さを測定し、これら測定値を平均したものである。
【0031】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、空気保持性、パンク修理時のシール性及びリムずれ性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0032】
空気保持性:
各試験タイヤをそれぞれリムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付け、空気圧270kPa、温度21℃の条件で24時間放置した後、初期空気圧250kPaにして42日間に渡って空気圧を測定し、15日目から42日目のエア漏れ量の傾きを求めた。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど空気保持性が優れていることを意味する。
【0033】
パンク修理時のシール性:
各試験タイヤのショルダー部にパンク孔(直径4mm)を空けた。次いで、パンク孔を空けたタイヤをドラム試験機に装着し、タイヤパンクシール剤450mLをタイヤのバルブから注入し、タイヤ内圧が200kPaになるように空気を充填した。その後、荷重4.17kN、時速30kmの条件下で上記タイヤを1分間走行させて停止する間欠運転を繰り返し、パンク孔がシールされて空気漏れがなくなるまでの走行距離(パンク修理距離)を測定した。空気漏れの有無は、上記パンク孔の部分に石鹸水を吹き付け、石鹸水が泡になるか否かで確認した。評価結果は、間欠運転のサイクル数に基づいて評価し、10サイクル以内でシールされた場合には〇とし、11サイクル以上でシールされた場合には△とし、シールされなかった場合には×とする。
【0034】
リムずれ性:
各試験タイヤをそれぞれリムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付け、走行速度50km/h、空気圧230kPaの条件で急制動を10回実施して、リムとタイヤのずれ量を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどリムずれ性が優れていることを意味する。
【0035】
【0036】
この表1から判るように、実施例1~3の空気入りタイヤは、比較例1に比して、走行時のリムずれ性を悪化させることなく、空気保持性とパンク修理時のシール性とが同時に改善されていた。
【0037】
一方、比較例2においては、タイヤ内面の離型剤の厚さが比較的厚かったため、パンク修理時のシール性が低下した。比較例3においては、タイヤ内面に離型剤が噴霧され、その離型剤がビード部(リムとの接触部)に付着したため、リムずれ性が低下した。
【0038】
次に、実施例1~3と同様に、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫された空気入りタイヤにおいて、タイヤ内面の離型剤の有無、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量(重量%)を表2のように設定した実施例4~6のタイヤを製作した。
【0039】
また、比較例4~6のタイヤを用意した。比較例4については、ブラダーの代わりに剛性中子を用いて加硫し、離型剤は使用しなかった。比較例5については、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量を11%に設定したこと以外は実施例4と同じ構造を有する。比較例6については、タイヤ内面に粉末状の離型剤を噴霧して加硫し、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量を45%に設定したこと以外は実施例4と同じ構造を有する。
【0040】
なお、表2において、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(島津製作所社製 EDX-720)を用いて、製作工程終了後の各試験タイヤのタイヤ周方向4箇所及びタイヤ幅方向3箇所でそれぞれ測定された離型剤(ケイ素)の量に基づいて算出された算出値を平均したものである。測定条件としては、真空状態で、電圧50kV、電流100μA、積分時間50秒、コリメータφ10mmである。
【0041】
これら試験タイヤについて、空気保持性、パンク修理時のシール性及びリムずれ性を評価し、その結果を表2に併せて示した。
【0042】
【0043】
この表2から判るように、実施例4~6の空気入りタイヤは、比較例4に比して、走行時のリムずれ性を悪化させることなく、空気保持性とパンク修理時のシール性とが同時に改善されていた。
【0044】
一方、比較例5においては、タイヤ内面の離型剤の量が比較的多かったため、パンク修理時のシール性が低下した。比較例6においては、タイヤ内面に離型剤が噴霧され、その離型剤がビード部(リムとの接触部)に付着したため、リムずれ性が低下した。
【符号の説明】
【0045】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
11 タイヤ内面
12 転写層