(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B60C 5/00 20060101AFI20220511BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220511BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B60C5/00 F
B60C1/00 Z
B29D30/06
(21)【出願番号】P 2017559735
(86)(22)【出願日】2017-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2017040962
(87)【国際公開番号】W WO2018146886
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2017021293
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 雅公
(72)【発明者】
【氏名】干場 崇史
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-044574(JP,A)
【文献】特開2015-128893(JP,A)
【文献】特開2005-138760(JP,A)
【文献】特開2010-046907(JP,A)
【文献】特開2013-032009(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038633(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/064283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 1/00
B29D 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの製造方法であって、加硫済みの空気入りタイヤのトレッド部の内面に吸音材を固定するにあたって、少なくとも該吸音材の固定領域において蛍光X線分析法で検出される前記離型剤のケイ素の量として、タイヤのカーカス層及びインナーライナー層から得られるシートサンプルを測定対象として蛍光X線分析装置で測定されるケイ素の含有量の比率を0.1重量%~10.0重量%の範囲とし、該吸音材の固定領域にタイヤ周方向に沿って接着層を介して前記吸音材を固定し、前記吸音材が発泡ポリウレタンからなることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記接着層の引き剥がし接着力が5N/20mm~100N/20mmであることを特徴とする請求項
1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記接着層が両面接着テープからなり、該接着層の総厚さが10μm~150μmであることを特徴とする請求項
1又は
2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記接着層が接着剤のみを含む又は接着剤と不織布とを含む両面接着テープからなることを特徴とする請求項
1~
3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記吸音材の幅方向の中心位置がタイヤ赤道に対して±10mmの範囲に配置されていることを特徴とする請求項
1~
4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記吸音材の体積が前記タイヤの内腔体積に対して10%~30%であることを特徴とする請求項
1~
5のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記吸音材の硬さが80N~150Nであり、前記吸音材の引張強度が90kPa以上であり、前記吸音材の破断伸度が200%以上であることを特徴とする請求項
1~
6のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記吸音材がタイヤ周方向の少なくとも一箇所に欠落部を有することを特徴とする請求項
1~
7のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記ブラダーに前記コーティング層を形成する工程において、該コーティング層の被覆時間t(hour)と温度T(℃)とがt≧-0.0571T+9.14かつ10℃≦T≦180℃の条件を満たすことを特徴とする請求項
1~
8のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関し、更に詳しくは、タイヤ内面に離型剤が付着した状態で吸音材を貼り付けることにより、タイヤ生産性を悪化させることなく、空気保持性と吸音材の接着性とを両立することを可能にした空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ騒音を発生させる原因の一つにタイヤ空洞部に充填された空気の振動による空洞共鳴音がある。この空洞共鳴音は、車両走行時に路面と接地するタイヤのトレッド部が路面の凹凸によって振動し、この振動がタイヤ空洞部内の空気を振動させることによって生じる。この空洞共鳴音の中で騒音となる周波数域があり、その周波数域の騒音レベルを低下させることがタイヤ騒音を低減するのに重要である。
【0003】
このような空洞共鳴現象による騒音を低減させる方法として、タイヤ内面にスポンジ等の多孔質材料からなる吸音材を弾性固定バンドによりトレッド部の内周面に装着することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、吸音材の固定を弾性固定バンドに依存した場合、高速走行時において弾性固定バンドが変形してしまうという問題がある。
【0004】
一方、ブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する際、ブラダーとグリーンタイヤの内面とはブラダーが貼り付き易いため、グリーンタイヤの内面に離型剤を塗布することにより、グリーンタイヤとブラダーとの貼り付きを防止するようにしている。そのような場合においてタイヤ内面に吸音材を直接接着して固定しようとすると、離型剤が付着したタイヤ内面と吸音材との接着性が悪く、吸音材が剥がれ易いという問題がある。
【0005】
これに対して、グリーンタイヤの内面に離型剤を塗布し、そのグリーンタイヤを加硫した後にタイヤ内面のバフ掛けを行うことで離型剤を除去することが提案されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、そのようなバフ掛けを行うことでインナーライナーのゲージも薄くしてしまうため、空気保持性が悪化するという問題がある。また、グリーンタイヤの内面に予めフィルムを貼り、そのフィルムを貼った状態でグリーンタイヤの内面に離型剤を塗布し、そのグリーンタイヤを加硫した後にフィルムを剥がすことで離型剤を除去することが提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、加硫後にフィルムを剥がす工程が必要となり製造時間が増加するため、タイヤ生産性が悪化するという問題がある。その他、離型剤が付着したタイヤ内面を洗浄することが提案されているが、このような手法では離型剤を十分に取り除くことができず、しかもタイヤ生産性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特許第4281874号公報
【文献】日本国特許第4410753号公報
【文献】日本国特開2015-107690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、タイヤ内面に離型剤が付着した状態で吸音材を貼り付けることにより、タイヤ生産性を悪化させることなく、空気保持性と吸音材の接着性とを両立することを可能にした空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤの製造方法は、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの製造方法であって、加硫済みの空気入りタイヤのトレッド部の内面に吸音材を固定するにあたって、少なくとも該吸音材の固定領域において蛍光X線分析法で検出される前記離型剤のケイ素の量として、タイヤのカーカス層及びインナーライナー層から得られるシートサンプルを測定対象として蛍光X線分析装置で測定されるケイ素の含有量の比率を0.1重量%~10.0重量%の範囲とし、該吸音材の固定領域にタイヤ周方向に沿って接着層を介して前記吸音材を固定し、前記吸音材が発泡ポリウレタンからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫を行うことにより、少なくとも吸音材の固定領域における離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とすることが可能となる。このように微量の離型剤をタイヤ内面に付着させた場合、離型剤がタイヤ内面からの空気の透過を阻害し、空気保持性が良化する一方で、タイヤ内面と吸音材との接着性を十分に確保することができる。また、本発明によれば、従来のようにタイヤ内面のバフ掛けを行う場合、タイヤ内面にフィルムを貼り付ける場合、タイヤ内面を洗浄する場合とは異なって、タイヤ生産性を悪化させることはない。その結果、タイヤ生産性を悪化させずに、空気保持性と吸音材の接着性とを両立することが可能となる。
【0011】
本発明では、接着層の引き剥がし接着力は5N/20mm~100N/20mmであることが好ましい。これにより、吸音材の固定強度を良好に保ちつつ、吸音材の貼り付け作業及びタイヤ廃棄時の解体作業を容易に行うことが可能になる。接着層の引き剥がし接着力は、JIS-Z0237に準拠して測定されるものである。即ち、両面接着シートを、厚さ25μmのPETフィルムを貼り合わせて裏打ちする。この裏打ちされた接着シートを20mm×200mmの方形状にカットして試験片を作製する。この試験片から剥離ライナーを剥がし、露出した接着面を、被着体としてのステンレス鋼(SUS304、表面仕上げBA)板に、2kgのローラーを一往復させて貼り付ける。これを23℃(標準状態)、RH50%の環境下に30分間保持した後、引張試験機を用い、JIS-Z0237に準拠して、23℃、RH50%の環境下、剥離角度180°、引張速度300mm/分の条件にて、SUS板に対する180°引き剥がし接着力を測定する。
【0012】
本発明では、接着層は両面接着テープからなり、該接着層の総厚さは10μm~150μmであることが好ましい。これにより、成形時の変形に対する追従性を確保することができる。
【0013】
本発明では、接着層は接着剤のみを含む又は接着剤と不織布とを含む両面接着テープからなることが好ましい。接着剤のみを含む両面接着テープの場合、放熱を阻害しないため、高速耐久性の悪化を抑制することができると共に、タイヤの変形に対する追従性に優れている。また、接着剤と不織布とを含む両面接着テープの場合、高速耐久性と追従性とを両立することができる。
【0014】
本発明では、吸音材の幅方向の中心位置はタイヤ赤道に対して±10mmの範囲に配置されていることが好ましい。このように吸音材を配置することで、タイヤユニフォミティを悪化させることがない。特に、タイヤ赤道に対して±5mmの範囲で配置されていることがより好ましい。
【0015】
本発明では、吸音材の体積はタイヤの内腔体積に対して10%~30%であることが好ましい。これにより、吸音材による吸音効果をより一層得ることが可能となる。このように吸音材の体積を大きくすることで優れた騒音低減効果を得ることができ、しかも大型の吸音材であっても良好な接着状態を長期間にわたって確保することができる。タイヤの内腔体積は、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態でタイヤとリムとの間に形成される空洞部の体積である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。但し、タイヤが新車装着タイヤの場合には、このタイヤが組まれた純正ホイールを用いて空洞部の体積を求めることとする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが新車装着タイヤの場合には、車両に表示された空気圧とする。
【0016】
本発明では、吸音材の硬さは80N~150Nであり、吸音材の引張強度は90kPa以上であり、吸音材の破断伸度は200%以上であることが好ましい。このような物性を有する吸音材は、タイヤのインフレートによる膨張や接地転動に起因する接着面のせん断歪みに対する耐久性が優れている。吸音材の硬さ、吸音材の引張強度及び吸音材の破断伸度は、JIS-K6400に準拠して測定されるものである。
【0017】
本発明では、吸音材はタイヤ周方向の少なくとも一箇所に欠落部を有することが好ましい。これにより、タイヤのインフレートによる膨張や、接地転動に起因する接着面のせん断ひずみに長時間耐えることが可能となる。
【0018】
本発明では、ブラダーにコーティング層を形成する工程において、コーティング層の被覆時間t(hour)と温度T(℃)とがt≧-0.0571T+9.14かつ10℃≦T≦180℃の条件を満たすことが好ましい。これにより、コーティング層を有するブラダーにおいて、離型剤をコーティングする時間を短縮することができると共に、ブラダーライフの短縮を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す斜視断面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す赤道線断面図である。
【
図3】
図3は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1~3は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
図1において、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。そして、トレッド部1とサイドウォール部2とビード部3とで囲まれた空洞部4には
図2に示すリング状の吸音材6が装着されている。この吸音材6はタイヤ内面5のトレッド部1に対応する領域に配置されている。
【0021】
吸音材6は、タイヤ内面5のトレッド部1に対応する領域にタイヤ周方向に沿って接着層7を介して固定されている。吸音材6は、連続気泡を有する多孔質材料から構成され、その多孔質構造に基づく所定の吸音特性を有している。吸音材6の多孔質材料としては発泡ポリウレタンを用いると良い。一方、接着層7としては、特に限定されるものではなく、例えば、接着剤や両面接着テープを使用することができる。
【0022】
上記空気入りタイヤにおいて、
図3に示すように、タイヤ内面5と接着層7との間には離型剤の転写層8が存在する。即ち、タイヤ径方向内側から吸音材6、接着層7、離型剤の転写層8の順に積層されている。この離型剤の転写層8は、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫することにより、加硫済みの空気入りタイヤにおいて、そのタイヤ内面5に転写されたものである。このようにして転写された離型剤はタイヤ内面5の全面には転写されておらず点在している。
【0023】
トレッド部1の内面に転写された離型剤のケイ素の量は、タイヤ内面5の少なくとも吸音材6の固定領域において0.1重量%~10.0重量%である。本発明では、トレッド部1の内面における離型剤の量を規定するにあたって、一般的な離型剤の主成分であるケイ素の量を指標とする。このケイ素の量は蛍光X線分析法を用いて検出することができ、一般に、蛍光X線分析法にはFP法(ファンダメンタルパラメータ法)と検量線法とがあるが、本発明ではFP法を採用する。離型剤(ケイ素)の量を測定する際には、上記空気入りタイヤの複数の箇所(例えば、タイヤ周方向4箇所及びタイヤ幅方向3箇所の計7箇所)においてカーカス層及びインナーライナー層を剥離して得られたシートサンプル(寸法:幅70mm、長さ100mm)を用い、各シートサンプルから更に角部4箇所及び中央部1箇所の計5箇所の測定サンプル(寸法:幅13mm~15mm、長さ35mm~40mm)を抜き取り、各測定サンプルについて蛍光X線分析装置を用いて離型剤の量を測定する。そして、上記シートサンプル毎に5つの測定サンプルの測定値を平均することによりシートサンプル毎の離型剤の量が算出され、その算出値がそれぞれ0.1重量%~10.0重量%の範囲に含まれるのである。また、蛍光X線粒子は原子番号に比例した固有のエネルギーを有しており、この固有エネルギーを測定することにより元素を特定することが可能となる。具体的には、ケイ素の固有エネルギーは1.74±0.05keVである。なお、離型剤(ケイ素)の蛍光X線粒子数(X線強度)は0.1cps/μA~1.5cps/μAの範囲である。
【0024】
離型剤からなる転写層8に配合可能な成分としては、例えば、シリコーン成分を有効成分として含有するものが挙げられる。シリコーン成分としては、オルガノポリシロキサン類が挙げられ、例えば、ジアルキルポリシロキサン、アルキルフェニルポリシロキサン、アルキルアラルキルポリシロキサン、3,3,3-トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等を挙げることができる。ジアルキルポリシロキサンは、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルイソプロピルポリシロキサン、メチルドデシルポリシロキサンである。アルキルフェニルポリシロキサンは、例えば、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体である。アルキルアラルキルポリシロキサンは、例えば、メチル(フェニルエチル)ポリシロキサン、メチル(フェニルプロピル)ポリシロキサンである。これらのオルガノポリシロキサン類は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0025】
上述のように離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫を行うことにより、少なくとも吸音材6の固定領域における離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とすることが可能となる。このように微量の離型剤をタイヤ内面5に付着させた場合、離型剤がタイヤ内面5からの空気の透過を阻害し、空気保持性が良化する一方で、タイヤ内面5と吸音材6との接着性を十分に確保することができる。ここで、吸音材6の固定領域における離型剤のケイ素の量が、0.1重量%より少なくなると空気保持性の向上が得られず、10.0重量%より多くなると吸音材6の接着性が悪化し、十分な耐久性が得られない。
【0026】
また、従来のようにタイヤ内面のバフ掛けを行う場合、タイヤ内面にフィルムを貼り付ける場合、タイヤ内面を洗浄する場合とは異なって、タイヤ生産性を悪化させることはない。その結果、タイヤ生産性を悪化させずに、空気保持性と吸音材6の接着性とを両立することが可能となる。これに対して、上述した従来の方法によりタイヤ内面に付着した離型剤を除去する場合には、各工程の作業時間が付加されるので、本発明のように離型剤が付着した状態で吸音材を固定する場合と比べてタイヤ生産性が悪化することとなる。
【0027】
上記空気入りタイヤにおいて、接着層7の引き剥がし接着力は5N/20mm~100N/20mmであると良い。このように接着層7の引き剥がし接着力を適度に設定することで、吸音材6の固定強度を良好に保ちつつ、吸音材6の貼り付け作業及びタイヤ廃棄時の解体作業を容易に行うことが可能になる。接着層7をなす接着剤としては、アクリル系接着剤、ゴム系接着剤、シリコーン系接着剤を挙げることができ、接着層7がこれら接着剤のいずれかから構成されると良い。特に、シリコーン系接着剤が好ましく、離型剤が残存していても接着の温度依存性がないため、吸音材6との接着性に優れている。また、アクリル系接着剤は、耐熱性に優れているため、高速領域において好適である。
【0028】
接着層7は両面接着テープからなり、接着層7の総厚さは10μm~150μmとなるように構成されていると良い。このように接着層7を構成することで、成形時の変形に対する追従性を確保することができる。ここで、接着層7の総厚さが10μm未満であると両面接着テープの強度が不足し吸音材6との接着性が十分に確保できず、接着層7の総厚さが150μmを超えると高速走行時に放熱を阻害するため高速耐久性が悪化し易い。
【0029】
接着層7は、接着剤のみを含む両面接着テープ、或いは、接着剤と不織布とを含む両面接着テープからなることが好ましい。接着剤のみを含む両面接着テープの場合(接着剤を支持する支持体である基材がない両面接着テープの場合)、放熱を阻害しないため、高速耐久性の悪化を抑制することができると共に、タイヤの変形に対する追従性に優れている。また、接着剤と不織布とを含む両面接着テープの場合(基材として不織布を有する両面接着テープの場合)、高速耐久性と追従性とを両立することができる。ここで、基材がポリエチレンテレフタレート(PET)のような硬質材料からなる場合、タイヤの変形に対して基材と接着剤、若しくはタイヤと接着剤との間で剥離が生じ易く、吸音材6の脱落に繋がる。また、基材の破断強度や破断伸びが低い場合、基材自体が損傷することもある。基材がアクリルフォームからなる場合、厚さが大きくなるため、高速耐久性が悪化し易い。
【0030】
上記空気入りタイヤにおいて、吸音材6の硬さは80N~150Nであり、吸音材6の引張強度は90kPa以上であり、吸音材6の破断伸度は200%以上であることが好ましい。このような物性を有する吸音材6は、タイヤのインフレートによる膨張や接地転動に起因する接着面のせん断歪みに対する耐久性が優れている。ここで、吸音材6の硬さが80N未満であると走行時の遠心力により吸音材6が圧縮変形し易く、吸音材6の硬さが150Nを超えると走行時のタイヤの変形に追従することができずに破断することがある。
【0031】
吸音材6は、その幅方向の中心位置がタイヤ赤道に対して±10mmの範囲に配置されていることが好ましく、タイヤ赤道に対して±5mmの範囲で配置されていることがより好ましい。このように吸音材6を配置することで、タイヤユニフォミティを悪化させることがない。
【0032】
吸音材6の体積はタイヤの内腔体積に対して10%~30%であることが好ましい。また、吸音材6の幅はタイヤ接地幅に対して30%~90%であることがより好ましい。これにより、吸音材6による吸音効果をより一層得ることが可能となる。ここで、吸音材6の体積がタイヤの内腔体積に対して10%を下回ると吸音効果を適切に得ることができない。また、吸音材6の体積がタイヤの内腔体積に対して30%を超えると空洞共鳴現象による騒音の低減効果が一定となり、より一層の低減効果が望めなくなる。
【0033】
図2に示すように、吸音材6はタイヤ周方向の少なくとも1箇所に欠落部9を有することが好ましい。欠落部9とはタイヤ周上で吸音材6が存在しない部分である。吸音材6に欠落部9を設けることにより、タイヤのインフレートによる膨張や接地転動に起因する接着面のせん断ひずみに長時間耐えることができ、吸音材6の接着面に生じるせん断歪みを効果的に緩和することが可能となる。このような欠落部9はタイヤ周上で1箇所又は3~5箇所設けるのが良い。つまり、欠落部9をタイヤ周上の2箇所に設けると質量アンバランスに起因してタイヤユニフォミティの悪化が顕著になり、欠落部9をタイヤ周上の6箇所以上に設けると製造コストの増大が顕著になる。
【0034】
なお、欠落部9をタイヤ周上の2箇所以上に設ける場合、吸音材6がタイヤ周方向に途切れることになるが、そのような場合であっても、例えば、両面接着テープからなる接着層7のような他の積層物で複数の吸音材6を互いに連結するようにすれば、これら吸音材6を一体的な部材として取り扱うことができるため、タイヤ内面5への貼り付け作業を容易に行うことができる。
【0035】
次に、本発明の空気入りタイヤの製造方法について説明する。グリーンタイヤを加硫するにあたって、予めブラダーに離型剤を被覆(好ましくは焼付け塗布)してブラダーの外面に離型剤からなるコーティング層を形成する。このブラダーの外面にコーティング層を形成する工程は、例えば、離型剤を塗布後に150℃で1時間、90℃で4時間又は常温で8時間の条件下で保管しながら施工する。また、ブラダーの外面にコーティング層を形成する工程は、1回以上3回以下の範囲で実施する。このようにコーティング層が形成されたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する。そして、その加硫済みタイヤにおいて、トレッド部1のタイヤ内面5の吸音材6の固定領域に対してタイヤ周方向に沿って接着層7を介して吸音材6を固定する。
【0036】
上述のように離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫を行うことにより、少なくとも吸音材6の固定領域における離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とすることが可能となる。このように微量の離型剤をタイヤ内面5に付着させた場合、離型剤がタイヤ内面5からの空気の透過を阻害し、空気保持性が良化する一方で、タイヤ内面5と吸音材6との接着性を十分に確保することができる。また、従来のようにタイヤ内面のバフ掛けを行う場合、タイヤ内面にフィルムを貼り付ける場合、タイヤ内面を洗浄する場合とは異なって、タイヤ生産性を悪化させることはない。その結果、タイヤ生産性を悪化させずに、空気保持性と吸音材6の接着性とを両立することが可能となる。
【0037】
特に、ブラダーの外面にコーティング層を形成する工程において、コーティング層の被覆時間t(hour)と温度T(℃)とがt≧-0.0571T+9.14かつ10℃≦T≦180℃の条件を満たすことが好ましい。また、温度Tを90℃、被覆時間tを4時間とすることがより好ましく、温度Tを150℃、被覆時間tを1時間とすることが更に好ましい。このような条件を満たすことで、コーティング層を有するブラダーにおいて、離型剤をコーティングする時間を短縮することができると共に、ブラダーライフの短縮を防止することができる。ここで、温度T(℃)が高い程、短時間でコーティング層を形成することができるが、ブラダーが劣化し易く、ブラダーライフを縮めることとなる。
【実施例】
【0038】
タイヤサイズ275/35ZR20で、トレッド部の内面にタイヤ周方向に沿って接着層を介して吸音材が固定された空気入りタイヤにおいて、離型剤の除去方法、タイヤ内面への離型剤の塗布、加硫時における離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーの使用、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量(重量%)を表1のように設定した比較例1~5及び実施例1~3のタイヤを製作した。
【0039】
比較例1については、タイヤ内面に離型剤を塗布し、離型剤の除去作業は行わなかった。また、比較例2~4については、タイヤ内面に離型剤を塗布し、加硫工程の終了後に離型剤の除去作業を行った。具体的には、比較例2ではバフ掛けによりタイヤ内面の離型剤を除去し、比較例3では予めタイヤ内面に貼ったフィルムを剥がすことによりタイヤ内面の離型剤を除去し、比較例4ではタイヤ内面を洗浄することによりタイヤ内面の離型剤を除去した。
【0040】
なお、表1において、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(島津製作所社製 EDX-720)を用いて、製作工程終了後の各試験タイヤのタイヤ周方向4箇所及びタイヤ幅方向3箇所でそれぞれ測定された離型剤(ケイ素)の量に基づいて算出された算出値を平均したものである。測定条件としては、真空状態で、電圧50kV、電流100μA、積分時間50秒、コリメータφ10mmである。
【0041】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、吸音材の接着性、空気保持性及びタイヤ生産性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0042】
吸音材の接着性:
ここで言う吸音材の接着性は、タイヤ内面と吸音材との接着面における剥がれに対する評価を示す。各試験タイヤをそれぞれリムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付け、走行速度80km/h、空気圧160kPa、荷重8.5kN、走行距離6480kmの条件でドラム試験機にて走行試験を実施した後、吸音材の脱落又は剥がれの有無を目視により確認した。吸音材の脱落及び剥がれが無い場合を「◎」で示し、吸音材の剥がれが吸音材全体の1/8未満の場合を「○」で示し、吸音材の剥がれが吸音材全体の1/8以上1/4未満の場合を「△」で示し、吸音材の剥がれが吸音材全体の1/4以上の場合を「×」で示した。
【0043】
空気保持性:
各試験タイヤをそれぞれリムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付け、空気圧270kPa、温度21℃の条件で24時間放置した後、初期空気圧250kPaにして42日間に渡って空気圧を測定し、15日目から42日目のエア漏れ量の傾きを求めた。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど空気保持性が優れていることを意味する。なお、指数値が「98」以上であれば、従来レベルの空気保持性を維持している。
【0044】
タイヤ生産性:
各試験タイヤについて、タイヤ1本を製作するために要する製作時間(分)を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどタイヤ生産性が優れていることを意味する。
【0045】
【0046】
この表1から判るように、実施例1~3の空気入りタイヤは、比較例1に比して、タイヤ生産性を悪化させることなく、空気保持性を維持しながら吸音材の接着性が改善されていた。
【0047】
一方、比較例2においては、タイヤ内面のバフ掛けを行ったため、タイヤ生産性が悪化し、インナーライナーのゲージが薄くなったことで空気保持性も悪化した。比較例3においては、タイヤ内面にフィルムを貼り付けて加硫後にフィルムを剥がしたため、タイヤ生産性が悪化した。比較例4においては、タイヤ内面を洗浄したものの、タイヤ内面の離型剤を完全に除去することができず、タイヤ内面に離型剤が比較的多く残ったため、吸音材の接着性が低下した。比較例5においては、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量を多く設定したため、吸音材の接着性の改善効果が不十分であった。
【符号の説明】
【0048】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 空洞部
5 タイヤ内面
6 吸音材
7 接着層
8 転写層
9 欠落部