(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
G03G15/20 515
(21)【出願番号】P 2018000105
(22)【出願日】2018-01-04
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(72)【発明者】
【氏名】森本 加奈子
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087908(JP,A)
【文献】特開2016-045274(JP,A)
【文献】特開2017-227688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着ベルトと、
前記定着ベルトをその外面側から加圧する加圧部材と、
前記定着ベルトの内面側に設けられ、前記定着ベルトをその内面側から前記加圧部材に向かって押圧する押圧部材と、
前記押圧部材に設けられ、前記定着ベルトを前記加圧部材との間において摺動可能に保持するベルト保持部と、
前記定着ベルトの内面と前記
ベルト保持部との間に設けられ、
発熱体、前記発熱体に通電する電気回路、並びに前記発熱体および前記電気回路が形成された基板を有し、前記定着ベルトを加熱する面状ヒーターと、
前記面状ヒーターと前記
ベルト保持部との間、または前記
ベルト保持部において前記面状ヒーターに臨む部分に設けられ、潤滑剤を保持する潤滑剤保持部とを備え、
前記基板には、前記潤滑剤保持部に保持された潤滑剤を前記定着ベルトの内面に供給するための潤滑剤通路が形成されていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記潤滑剤通路は、前記基板を貫通し、前記潤滑剤保持部内に連通する複数の穴、または前記基板の端面に形成され、前記潤滑剤保持部内に連通する複数の切り欠きであることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記各穴または前記各切り欠きは、前記基板において前記潤滑剤保持部に対応する位置に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記潤滑剤通路の一側は前記基板において前記潤滑剤保持部内に臨む面に開口し、前記潤滑剤通路の他側は前記基板において前記定着ベルトの内面と接触する面に開口していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記潤滑剤通路は用紙搬送方向において前記発熱体よりも上流側に配置されていることを特徴とする請求項1
ないし4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記
潤滑剤保持部は、前記
ベルト保持部において前記面状ヒーターに臨む面に形成された凹部の開口部を前記基板で覆うことにより形成されていることを特徴とする請求項
1ないし5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1ないし
6のいずれかに記載の定着装置を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体にトナー像を定着させる定着装置、およびこの定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複写機やプリンター等の電子写真方式の画像形成装置は、用紙等の記録媒体にトナー像を定着させる定着装置を備えている。
【0003】
特許文献1に記載されている定着装置は、定着ベルトと、定着ベルトの外面に圧接する加圧部材と、定着ベルトの内側に設けられ、定着ベルトを加圧部材側に向かって押圧する押圧部材と、押圧部材と定着ベルトとの間に設けられ、定着ベルトの内面に摺接するシート部材とを備えている。この定着装置は、潤滑剤をシート部材に含浸させることにより、定着ベルトの内面に潤滑剤を供給する構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されている定着装置のヒーターは、定着ベルトの内側において定着ベルトの回転軸よりも上側の空間に配置されており、定着ベルトの内面と離れた位置から熱を放射して、主に定着ベルトがヒーターの上方を通過する際に定着ベルトを加熱する。
【0006】
これに対し、定着装置の中には、押圧部材が定着ベルトを加圧部材側に向かって押圧する箇所において、押圧部材と定着ベルトとの間に面状ヒーターが設けられたものがある。このような定着装置では、面状ヒーターが定着ベルトの内面に摺接して定着ベルトを直接加熱する構成であるため、特許文献1に記載された定着装置のように、潤滑剤を含浸させたシート部材を用いて定着ベルトの内面に潤滑剤を供給することは困難である。定着ベルトの内面への潤滑剤の供給が不足すると、定着ベルトの内面と面状ヒーターとの間の摩擦力が増加し、その結果、記録媒体の搬送に支障を来し、または定着装置の短命化を招くおそれがある。
【0007】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、面状ヒーターにより定着ベルトを加熱する構成であっても、定着ベルトの内面に潤滑剤を適切に供給することができる定着装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の定着装置は、定着ベルトと、前記定着ベルトをその外面側から加圧する加圧部材と、前記定着ベルトの内面側に設けられ、前記定着ベルトをその内面側から前記加圧部材に向かって押圧する押圧部材と、前記押圧部材に設けられ、前記定着ベルトを前記加圧部材との間において摺動可能に保持するベルト保持部と、前記定着ベルトの内面と前記ベルト保持部との間に設けられ、発熱体、前記発熱体に通電する電気回路、並びに前記発熱体および前記電気回路が形成された基板を有し、前記定着ベルトを加熱する面状ヒーターと、前記面状ヒーターと前記ベルト保持部との間、または前記ベルト保持部において前記面状ヒーターに臨む部分に設けられ、潤滑剤を保持する潤滑剤保持部とを備え、前記基板には、前記潤滑剤保持部に保持された潤滑剤を前記定着ベルトの内面に供給するための潤滑剤通路が形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、上記本発明の定着装置において、前記潤滑剤通路は、前記基板を貫通し、前記潤滑剤保持部内に連通する複数の穴、または前記基板の端面に形成され、前記潤滑剤保持部内に連通する複数の切り欠きであることが好ましい。また、前記各穴または前記各切り欠きは、前記基板において前記潤滑剤保持部に対応する位置に配置されていることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明の定着装置において、前記潤滑剤通路の一側は前記基板において前記潤滑剤保持部内に臨む面に開口し、前記潤滑剤通路の他側は前記基板において前記定着ベルトの内面と接触する面に開口していることが好ましい。
【0011】
また、上記本発明の定着装置において、前記潤滑剤通路は用紙搬送方向において前記発熱体よりも上流側に配置されていることが好ましい。
【0012】
また、上記本発明の定着装置において、前記潤滑剤保持部は、前記ベルト保持部において前記面状ヒーターに臨む面に形成された凹部の開口部を前記基板で覆うことにより形成されていることが好ましい。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の画像形成装置は、上記本発明の定着装置を備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、面状ヒーターにより定着ベルトを加熱する構成であっても、定着ベルトの内面に潤滑剤を適切に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態の画像形成装置としてのプリンターを示す説明図である。
【
図2】本発明の実施形態の定着装置を示す説明図である。
【
図3】本発明の実施形態の定着装置における押圧部材、面状ヒーターおよび潤滑剤保持部等を示す断面図である。
【
図4】
図3中の矢示IV-IV方向から見た面状ヒーターおよび潤滑剤保持部等を示す断面図である。
【
図5】
図3中の矢示V-V方向から見た面状ヒーターおよび潤滑剤保持部等を示す断面図である。
【
図6】
図3中の矢示VI-VI方向から見た面状ヒーターを示す説明図である。
【
図7】本発明の実施形態の定着装置における面状ヒーターの第1の変形例を示す説明図である。
【
図8】本発明の実施形態の定着装置における面状ヒーターの第2の変形例を示す説明図である。
【
図9】本発明の実施形態の定着装置における面状ヒーターの第3の変形例を示す説明図である。
【
図10】本発明の実施形態の定着装置における面状ヒーター並びにこの第1、第2および第3の変形例等をそれぞれ用いて試験を行い、加圧ローラーのトルクの上昇を測定した結果を示す表である。
【
図11】本発明の実施形態の定着装置における潤滑剤保持部の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、画像形成装置としてのプリンター1の全体構成を示している。
図1において、プリンター1は、箱状の筐体2を備えている。筐体2の下部には、記録媒体としての用紙を収容する給紙カセット3が設けられ、筐体2の上部には排紙トレイ4が設けられている。また、筐体2内の上右部に設けられたトナーコンテナ収容部にはトナーコンテナ6が設けられ、筐体2の上右部にはトナーコンテナ収容部を開閉するための上カバー5が設けられている。トナーコンテナ6内には、現像器12に供給するためのトナーが収容されている。
【0017】
また、筐体2内には、露光器7および画像形成部8が設けられている。画像形成部8は、感光体ドラム10、帯電器11、現像器12、転写ローラー13およびクリーニング装置14を備えている。帯電器11は感光体ドラム10の表面を帯電させる。露光器7は感光体ドラム10の表面にレーザー光Pを照射し、感光体ドラム10の表面に静電潜像を形成する。現像器12はこの静電潜像に対応するトナー像を感光体ドラム10の表面に形成する。転写ローター13はこのトナー像を用紙上に転写する。クリーニング装置14はトナー像を用紙上に転写した後に感光体ドラム10の表面に残ったトナーを回収する。
【0018】
また、筐体2内には用紙の搬送経路15が形成されている。搬送経路15には、給紙カセット3に収容された用紙を搬送経路15に導入する給紙部16、トナー像を用紙上に転写する転写部17、およびトナー像が定着された後の用紙を排紙トレイ4へ排紙する排紙部19が設けられている。給紙部16において搬送経路15に導入された用紙は転写部17へ搬送され、転写部17において感光体ドラム10と転写ローラー13との間を通る。これにより、感光体ドラム10の表面に形成されたトナー像が用紙上に転写される。その後、用紙は、搬送経路15において画像形成部8の用紙搬送方向下流側に設けられた後述の定着装置18へ搬送され、定着ベルト22と加圧ローラー23との間を通る。これにより、トナー像が用紙上に定着される。その後、用紙は、排紙部19へ搬送され、排紙トレイ4へ排出される。
【0019】
図2は本発明の実施形態の定着装置18を示している。
図2に示すように、定着装置18は、フレーム部21、定着ベルト22、加圧部材としての加圧ローラー23、押圧部材24、面状ヒーター31、潤滑剤保持部36、潤滑剤通路(供給穴39)およびサーミスタ41(
図4参照)を備えている。
【0020】
フレーム部21は、全体的に見て箱状に形成されており、定着装置18の外殻を形成している。
【0021】
定着ベルト22は用紙上のトナー像を加熱する部材であり、フレーム部21内に配置されている。定着ベルト22は、無端状のベルトであり、円筒状に形成され、可撓性を有している。定着ベルト22は、その内面側から外面側に向かって、基材層、弾性層および離型層を順次積層することにより形成されている(各層の図示は省略)。基材層は例えばステンレス鋼等の金属またはポリイミド等の樹脂により形成されている。弾性層は例えばシリコンゴム等により形成されている。離型層はフッ素樹脂等により形成されている。
【0022】
加圧ローラー23は定着ベルト22をその外面側から加圧する部材であり、フレーム部21内において定着ベルト22の下方に配置されている。加圧ローラー23は円柱状に形成されている。加圧ローラー23の芯材23Aは鉄等の金属により形成され、芯材23Aの外周側にはシリコンゴム等により形成された弾性層23Bが設けられ、弾性層23Bの外周面上にはフッ素樹脂等により形成された離型層(図示を省略)が設けられている。また、加圧ローラー23の芯材23Aの軸方向両端部は、フレーム部21に上下方向に移動可能に支持され、かつフレーム部21に設けられた図示しないスプリング等の付勢手段により上方へ付勢されている。
【0023】
押圧部材24は定着ベルト22をその内面側から加圧ローラー23に向かって押圧する部材であり、定着ベルト22の内側(内面側)に配置されている。押圧部材24は、押圧部材24の骨格を形成する支柱部25と、支柱部25に取り付けられ、加圧ローラー23との間で定着ベルト22を摺動可能に保持するベルト保持部26とを備えている。支柱部25は、例えばステンレス鋼または鉄等の剛性の高い材料により形成されている。また、支柱部25は、柱状または筒状に形成され、定着ベルト22の軸方向に伸長している。本実施形態では、支柱部25が横断面コ字状の柱状に形成されている。また、支柱部25の軸方向両端部はフレーム部21に固定されている。ベルト保持部26は例えば液晶ポリマー等の樹脂により形成されている。また、ベルト保持部26は、
図2において支柱部25の左側から下側を経て右側に至る部分を覆っており、支柱部25の軸方向における一端部から他端部にかけて伸長している。
【0024】
また、
図2においてベルト保持部26の左右方向中間部の下面には、面状ヒーター31を配置するためのヒーター配置部27が形成されている。ヒーター配置部27は、ベルト保持部26の下面の一部を上方に凹ませることにより、下方に開口した凹状に形成されている。また、ヒーター配置部27は、ベルト保持部26の下面において、ベルト保持部26の軸方向の一端部から他端部にかけて形成されている。
【0025】
図3は押圧部材24、面状ヒーター31および潤滑剤保持部36等を示している。
図4は
図3中の矢示IV-IV方向から見た面状ヒーター31および潤滑剤保持部36等を示している。
図5は
図3中の矢示V-V方向から見た面状ヒーター31および潤滑剤保持部36等を示している。
図6は
図3中の矢示VI-VI方向から見た面状ヒーター31等を示している。
【0026】
面状ヒーター31は定着ベルト22を加熱する熱源である。面状ヒーター31は、
図3に示すように、ヒーター配置部27内に設けられ、
図2に示すように、定着ベルト22の内面とベルト保持部26との間に配置されている。面状ヒーター31は、
図6に示すように、基板32と、基板32の上面に形成された発熱体33と、発熱体33に通電する電気回路34と、電気回路34に電圧を印加するための一対の端子部35とを備えている。
【0027】
基板32は、細長い長方形の平板状に形成され、ベルト保持部26の軸方向の一端部から他端部にかけて伸長している。また、基板32は、例えば、ヒーター配置部27の内側側面に形成された溝に、基板32の縁部を挿入することによりヒーター配置部27内に支持されている。加圧ローラー23により定着ベルト22が加圧された状態では、定着ベルト22の内面が基板32の下面32A(
図5参照)と接触する。
【0028】
発熱体33は例えば通電することにより発熱する電熱線により形成されている。発熱体33は、
図6に示すように、基板32の上面であって、基板32の幅方向の中央部に配置され、基板32の長さ方向における一端部から他端部にかけて伸長している。また、基板32の上面には発熱体33の上面を覆うように被膜が形成されている。また、電気回路34は基板32の幅方向の中央部に配置され、各端子部35は基板32の角部に配置されている。
【0029】
潤滑剤保持部36は、主に定着ベルト22の内面と面状ヒーター31の基板32の下面32Aとの間の摩擦力を低減するために定着ベルト22の内面へ供給する潤滑剤を保持する部分である。潤滑剤保持部36は、
図3ないし
図5に示すように、ベルト保持部26において面状ヒーター31に臨む部分に設けられている。潤滑剤保持部36は、
図5に示すように、潤滑剤を貯留する複数の貯留室37を有している。各貯留室37は、ヒーター配置部27の底面に上方に凹むように形成された凹部の開口部を基板32で覆うことにより形成されている。また、各貯留室37は、後述するサーミスタ載置部42を避けるように、サーミスタ載置部42と異なる位置に配置されている。潤滑剤は例えばシリコーン系のオイルまたはグリスである。
【0030】
潤滑剤通路は、貯留室37にそれぞれ貯留された潤滑剤を定着ベルト22の内面へ供給するための通路である。本実施形態における潤滑剤通路は、
図6に示すように、基板32を貫通する複数の供給穴39により形成されている。各供給穴39は、基板32において、いずれかの貯留室37に対応する位置に配置され、いずれかの貯留室37に連通している。また、各供給穴39は、用紙の搬送方向(矢示R)において発熱体33よりも上流側に配置されている。また、各供給穴39は基板32の幅方向の端部、具体的には基板32において用紙搬送方向の上流側の端部に形成されている。また、各供給穴39は、基板32において、発熱体33、電気回路34および端子部35のそれぞれから例えばおよそ0.5mm~1mm以上離れた位置、より具体的にはおよそ0.7mm以上離れた位置に形成されている。
【0031】
サーミスタ41は、面状ヒーター31の温度を検出するセンサである。本実施形態の定着装置18には3つのサーミスタ41が設けられている。各サーミスタ41は、
図5に示すように、サーミスタ載置部42内に配置されている。各サーミスタ配置部42は、ベルト保持部26において面状ヒーター31に臨む部分に形成された、当該部分を上下方向に貫通する穴である。各サーミスタ41は、基板32の上面において発熱体33が配置された部分に接触または接近している。
【0032】
このような構成を有する定着装置18は次のように動作する。すなわち、
図2において、加圧ローラー23は、上述した付勢手段により上方に付勢され、定着ベルト22および押圧部材24を定着ベルト22の外面側から上方へ加圧する。押圧部材24は加圧ローラー23からの圧力を受け止め、その反力により定着ベルト22および加圧ローラー23を定着ベルト22の内面側から下方へ押圧する。この結果、加圧ローラー23の外面と定着ベルト22の外面とが互いに圧接し、当該圧接した部分にニップが形成される。また、これと同時に、定着ベルト22の内面が面状ヒーター31の基板32の下面32Aに接触する。
【0033】
この状態で加圧ローラー23が
図2において反時計回りに回転する。そして、加圧ローラー23と定着ベルト22の外面との間の摩擦力により定着ベルト22が
図2において時計回りに回転する。この結果、定着ベルト22の内面が面状ヒーター31の基板32の下面32A上を摺動する。この状態で、面状ヒーター31に電圧を印加することにより、発熱体33が発熱し、定着ベルト22が加熱される。
【0034】
その後、トナー像が転写された用紙が、加圧ローラー23の外面と定着ベルト22の外面との間(ニップ)を
図2中の矢示R方向に通過すると、用紙上のトナー像が溶融し、かつ用紙上に押し付けられ、これにより用紙上に定着する。
【0035】
また、定着ベルト22の内面が面状ヒーター31の基板32の下面32A上を摺動する間、潤滑剤が貯留室37内から供給穴39を通って定着ベルト22の内面に供給される。これにより、定着ベルト22の内面は潤滑した状態が維持され、定着ベルト22の内面と基板32の下面32Aとの間や、定着ベルト22の内面とベルト保持部26の下面との間の摩擦力が低減される。
【0036】
以上説明した通り、本発明の実施形態の定着装置18では、押圧部材24のベルト保持部26において面状ヒーター31に臨む部分に潤滑剤保持部36が設けられ、かつ面状ヒーター31の基板32に潤滑剤通路(供給穴39)が形成されている。この構成により、定着ベルト22の内面とベルト保持部26とが接触する部分に面状ヒーター31が設けられているために、その部分に、潤滑剤を含浸させたシート部材等を設けることが困難な場合でも、定着ベルト22の内面に潤滑剤を適切に供給することができる。これにより、定着ベルト22の内面と面状ヒーター31との間の摩擦力が増加することを抑制することができる。したがって、加圧ローラー23のトルクの上昇により用紙の搬送に支障が生じることを防止することができ、また、定着装置18における駆動時の負荷を軽減できるので、定着装置18の長寿命化を図ることができる。
【0037】
また、定着装置18では、ベルト保持部26において面状ヒーター31に臨む部分に貯留室37が形成され、貯留室37内に潤滑剤が貯留されている。この構成により、定着ベルト22の内面の潤滑を長期間継続して行うのに十分な量の潤滑剤を保持することができる。また、各貯留室37が定着ベルト22に接近した位置に配置されているので、各貯留室37内に貯留された潤滑剤を定着ベルト22の内面へ円滑に供給することができる。
【0038】
また、各貯留室37は、押圧部材24において面状ヒーター31に臨む面に形成された凹部の開口部を基板32で覆うことにより形成されている。この構成により、各貯留室37の構造を簡素化することができる。
【0039】
また、各貯留室37に貯留された潤滑剤を定着ベルト22の内面に供給するための潤滑剤通路が、基板32を貫通し、かつ基板32においていずれかの貯留室37に対応する位置に配置された供給穴39により形成されている。この構成により、潤滑剤通路を容易に形成することができる。また、供給穴39の個数または各供給穴39の直径を選択することにより、定着ベルト22の内面に供給する潤滑剤の量を容易に調節することができる。また、基板32に複数の供給穴39を分散させて形成することにより、潤滑剤を定着ベルト22の内面の全域に偏りなく供給することができる。
【0040】
また、各供給穴39は用紙の搬送方向において発熱体33よりも上流側に配置されている。この構成により、定着ベルト22の内面と面状ヒーター31の基板32の下面32Aとの間に潤滑剤を確実に介在させることができ、両者間の摩擦力の増加を抑制する効果を高めることができる。
【0041】
図7ないし
図9は本発明の実施形態の面状ヒーターの3つの変形例を示している。上述した本発明の実施形態の面状ヒーター31は、
図6に示すように、潤滑剤通路を形成する供給穴39が用紙の搬送方向(矢示R)において発熱体33よりも上流側のみに配置されている。一方、第1の変形例である面状ヒーター51は、
図7に示すように、供給穴39が用紙の搬送方向において発熱体33よりも下流側のみに配置されている。また、第2の変形例である面状ヒーター52は、
図8に示すように、供給穴39が用紙の搬送方向において発熱体33よりも上流側および下流側にそれぞれ配置されている。また、第3の変形例である面状ヒーター53は、
図9に示すように、潤滑剤通路が、面状ヒーター31の基板32の端面に形成された複数の切り欠き55により形成されている。また、面状ヒーター53において、各切り欠き55は、基板32においていずれかの貯留室37に対応する位置に配置されている。また、切り欠き55は、用紙の搬送方向において発熱体33よりも上流側および下流側にそれぞれ配置されている。
【0042】
図10は、面状ヒーター31、51、52および53等のそれぞれについて試験を行い、加圧ローラー23のトルクの上昇を測定した結果を示している。
図10において、試験Aでは、ヒーター配置部27に面状ヒーター31が取り付けられた定着装置18を用い、定着ベルト22の表面温度を約175度に維持しつつ連続印字を500時間以上行った。連続印字の開始直前には、定着ベルト22の内面と面状ヒーターの基板の下面との間に潤滑剤を十分に塗布した。試験Bでは、ヒーター配置部27に面状ヒーター51が取り付けられた定着装置18を用い、また、試験Cでは、ヒーター配置部27に面状ヒーター52が取り付けられた定着装置18を用い、また、試験Dでは、ヒーター配置部27に面状ヒーター53が取り付けられた定着装置18を用い、試験Aと同じ条件で連続印字をそれぞれ行った。試験Eでは、定着装置18のヒーター配置部27に、潤滑剤通路が全く形成されていない面状ヒーターを取り付けることにより、本発明が適用されていない定着装置を形成し、この定着装置を用いて、試験Aと同じ条件で連続印字をそれぞれ行った。
【0043】
試験Aでは、連続印字開始時のトルクが、連続印字開始時から500時間経過後においても維持されている。これは、連続印字中、定着ベルト22の内面に潤滑剤が十分に供給され、定着ベルト22の内面と面状ヒーター31の基板32の下面との間の摩擦力の増加が抑えられていることを意味する。
【0044】
試験Bでは、時間の経過に伴ってトルクが小幅に上昇している。これは、連続印字中、定着ベルト22の内面に潤滑剤が十分に供給されず、定着ベルト22の内面と面状ヒーター51の基板32の下面との間の摩擦力が若干増加したことを意味する。
【0045】
試験Cでは、試験Aの結果と同様に、連続印字開始時のトルクが、連続印字開始時から500時間経過後においても維持されている。また、試験Dにおいても、試験Aの結果と同様に、連続印字開始時のトルクが、連続印字開始時から500時間経過後においても維持されている。
【0046】
試験Eでは、時間の経過に伴ってトルクが大幅に上昇している。これは、連続印字中、定着ベルト22の内面の潤滑剤が枯渇し、定着ベルト22の内面と面状ヒーターの基板の下面との間の摩擦力が大幅に増加したことを意味する。
【0047】
試験AないしDのそれぞれの結果と試験Eの結果とを比較するとわかる通り、面状ヒーターの基板に潤滑剤通路(供給穴39または切り欠き55)を形成することにより、潤滑剤を定着ベルト22の内面に適切に供給することができ、定着ベルト22の内面と面状ヒーター31との間の摩擦力の増加を抑えることができる。
【0048】
また、試験Aの結果と試験Bの結果とを比較するとわかる通り、面状ヒーター31のように、発熱体33よりも上流側に潤滑剤通路(供給穴39)を形成することにより、潤滑剤を定着ベルト22の内面と面状ヒーター31の基板32の下面との間に確実に介在させることができ、定着ベルト22の内面と面状ヒーター31との間の摩擦力の増加を確実に抑えることができる。
【0049】
また、試験Aの結果と試験Cの結果とを比較するとわかる通り、面状ヒーター52のように、発熱体33よりも上流側および下流側の双方に潤滑剤通路(供給穴39)を形成することによっても、潤滑剤を定着ベルト22の内面と面状ヒーターの基板32の下面との間に確実に介在させることができ、定着ベルト22の内面と面状ヒーター31との間の摩擦力の増加を確実に抑えることができる。
【0050】
また、試験Cの結果と試験Dの結果とを比較するとわかる通り、面状ヒーター53のように、基板32の端面に形成された切り欠き55により潤滑剤通路を形成した場合でも、潤滑剤を定着ベルト22の内面と面状ヒーター31の基板32の下面との間に確実に介在させることができ、定着ベルト22の内面と面状ヒーター31との間の摩擦力の増加を確実に抑えることができる。
【0051】
なお、上記実施形態では、
図3に示すように、ベルト保持部26において面状ヒーター31に臨む部分に潤滑剤保持部36を一体形成する場合を例にあげたが、これに代え、
図11に示すように、ベルト保持部26と面状ヒーター31との間に、ベルト保持部26とは別体の板状部材62を設けることにより潤滑剤保持部61を形成してもよい。板状部材62はベルト保持部26の軸方向の一端部から他端部にかけて伸長する長い平板状に形成されている。また、板状部材62の下面には上方に凹むように凹部が形成され、その凹部の開口部を基板32で覆うことにより、潤滑剤を貯留する貯留室63が形成されている。
【0052】
また、潤滑剤通路を形成する供給穴39または切り欠き55の個数は限定されない。また、本発明はプリンターに限らず、複写機、ファクシミリ、複合機等の他の画像形成装置にも適用することができる。
【0053】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う定着装置および画像形成装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 プリンター(画像形成装置)
18 定着装置
22 定着ベルト
23 加圧ローラー
24 押圧部材
25 支柱部
26 ベルト保持部
27 ヒーター配置部
31、51、52、53 面状ヒーター
32 基板
33 発熱体
36、61 潤滑剤保持部
37、63 貯留室
39 供給穴(潤滑剤通路)
55 切り欠き(潤滑剤通路)
62 板状部材