(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/20 20060101AFI20220511BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20220511BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20220511BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B60C9/20 E
B60C9/00 L
B60C9/18 K
D07B1/06 A
(21)【出願番号】P 2018002443
(22)【出願日】2018-01-11
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】西尾 好司
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0099515(US,A1)
【文献】特開2000-185517(JP,A)
【文献】特開2000-229504(JP,A)
【文献】特開平10-236107(JP,A)
【文献】特開昭60-071787(JP,A)
【文献】特開平01-162885(JP,A)
【文献】特許第4424822(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00
B60C 9/18-9/20
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架され、該カーカス層が各ビード部のビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられた構造を有し、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強線材を有する複数層のベルト層が配置された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層は、補強線材が層間で互いに交差するように配置された2層の主ベルト層を含み、
少なくとも1層の主ベルト層の補強線材は、複数本の単線スチールワイヤが無撚り状態で同一方向に引き揃えられてタイヤ径方向に積み重ねられた金属束から構成され、該金属束の周囲に結束用ラッピングワイヤが巻き付けられており、各単線スチールワイヤの厚さdが0.15mm~0.35mmであり、前記金属束の打ち込み間隔w
1が1.0mm以上であ
り、前記金属束における単線スチールワイヤ同士の隙間g
1
が0.05mm~0.3mmであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
各主ベルト層の引張剛性AEが1800kN/50mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記結束用ラッピングワイヤの直径d
1が0.1mm~0.3mmであり、前記結束用ラッピングワイヤの巻き付けピッチp
1が4.0mm~16.0mmであることを特徴とする請求項1~
2のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記金属束においてタイヤ径方向に隣り合う一対の単線スチールワイヤの少なくとも一方にスペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤが巻き付けられており、該スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤの直径d
2が0.1mm~0.3mmであり、前記スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤの巻き付けピッチp
2が4.0mm~16.0mmであることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ベルト層が前記主ベルト層に対して積層された補助ベルト層を含み、該補助ベルト層の補強線材が隣接する主ベルト層の補強線材と同方向に傾斜し、該補助ベルト層の補強線材のタイヤ周方向に対する傾斜角度が前記主ベルト層の補強線材のタイヤ周方向に対する傾斜角度よりも大きく設定され、
前記補助ベルト層の補強線材は、複数本の単線スチールワイヤが無撚り状態で同一方向に引き揃えられてタイヤ径方向に積み重ねられた金属束から構成され、該金属束の周囲に結束用ラッピングワイヤが巻き付けられており、各単線スチールワイヤの厚さdが0.15mm~0.35mmであり、前記金属束の打ち込み間隔w
1が1.0mm以上であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架され、該カーカス層が各ビード部のビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられた構造を有し、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強線材を有する複数層のベルト層が配置された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層は、補強線材が層間で互いに交差するように配置された2層の主ベルト層を含み、
少なくとも1層の主ベルト層の補強線材は、複数本の単線スチールワイヤが無撚り状態で同一方向に引き揃えられてタイヤ径方向に積み重ねられた金属束から構成され、該金属束の周囲に結束用ラッピングワイヤが巻き付けられており、各単線スチールワイヤの厚さdが0.15mm~0.35mmであり、前記金属束の打ち込み間隔w
1
が1.0mm以上であり、前記金属束においてタイヤ径方向に隣り合う一対の単線スチールワイヤの少なくとも一方にスペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤが巻き付けられており、該スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤの直径d
2
が0.1mm~0.3mmであり、前記スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤの巻き付けピッチp
2
が4.0mm~16.0mmであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーカス層の外周側にベルト層を備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ベルト層の補強線材として無撚り状態の単線スチールワイヤを用いることで、外径成長を抑制してベルト層の耐久性を改善し、かつ単線スチールワイヤの使用に起因するエッジセパレーションやワイヤ折れの発生を回避することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバス等に使用される重荷重用の空気入りタイヤにおいて、トレッド部が寿命まで摩耗してもリトレッドすることで同じタイヤを2回以上にわたり再生使用することができる(例えば、特許文献1参照)。このようなリトレッドされた台タイヤでは、ベルト層の耐久性を改善することが要求されている。ベルト層の耐久性を改善するには、外径成長を抑制することが必要であり、その一つの手段としてベルト層の初期伸びを低減することが有効である。
【0003】
ベルト層の初期伸びを低減する手法として、ベルト層の補強線材として無撚り状態の単線スチールワイヤを用いることが考えられる(例えば、特許文献2~4参照)。無撚り状態の単線スチールワイヤは撚り構造に起因する伸びを生じないため、外径成長の抑制に有効である。しかしながら、ベルト層の補強線材として総強力を確保するために単線スチールワイヤの直径を大きくすると、ベルト層の面外曲げ変形に起因して単線スチールワイヤに折損を生じ易いという欠点がある。一方、単線スチールワイヤの直径を小さくし、より多くの単線スチールワイヤをベルト層の面方向に沿って配列すると、ワイヤ同士の間隔が小さくなるためベルト層にエッジセパレーションが発生し易くなるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-183224号公報
【文献】特開2004-161199号公報
【文献】特開2010-111354号公報
【文献】特許第4424822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ベルト層の補強線材として無撚り状態の単線スチールワイヤを用いることで、外径成長を抑制してベルト層の耐久性を改善し、かつ単線スチールワイヤの使用に起因するエッジセパレーションやワイヤ折れの発生を回避することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架され、該カーカス層が各ビード部のビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられた構造を有し、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強線材を有する複数層のベルト層が配置された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層は、補強線材が層間で互いに交差するように配置された2層の主ベルト層を含み、
少なくとも1層の主ベルト層の補強線材は、複数本の単線スチールワイヤが無撚り状態で同一方向に引き揃えられてタイヤ径方向に積み重ねられた金属束から構成され、該金属束の周囲に結束用ラッピングワイヤが巻き付けられており、各単線スチールワイヤの厚さdが0.15mm~0.35mmであり、前記金属束の打ち込み間隔w1が1.0mm以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、少なくとも1層の主ベルト層の補強線材として、複数本の単線スチールワイヤが無撚り状態で同一方向に引き揃えられてタイヤ径方向に積み重ねられた金属束を使用することにより、補強線材の初期伸びが実質的に無くなるので、外径成長を抑止して主ベルト層を含むベルト層の耐久性を改善することができる。また、補強線材としての総強力を金属束の形態で確保することにより、各単線スチールワイヤの厚さdを小さくすることが可能になるので、ワイヤ折れを抑制することができる。更に、金属束において複数本の単線スチールワイヤをタイヤ径方向に積み重ねることにより、金属束の打ち込み間隔w1を大きくすることが可能になるので、主ベルト層のエッジセパレーションを抑制することができる。また、金属束の周囲には結束用ラッピングワイヤが巻き付けられているので、金属束の一体性を高めて補強線材として有効に機能させることができる。
【0008】
本発明において、各主ベルト層の引張剛性AEが1800kN/50mm以上であることが好ましい。これにより、外径成長を抑制し、主ベルト層を含むベルト層の耐久性を効果的に改善することができる。
【0009】
金属束における単線スチールワイヤ同士の隙間g1は0.05mm~0.3mmであることが好ましい。これにより、金属束における単線スチールワイヤ同士のフレッティングを防止し、主ベルト層の耐久性を効果的に改善することができる。
【0010】
結束用ラッピングワイヤの直径d1は0.1mm~0.3mmであり、結束用ラッピングワイヤの巻き付けピッチp1は4.0mm~16.0mmであることが好ましい。これにより、結束用ラッピングワイヤの付加によるコスト増加を最小限にしながら、単線スチールワイヤ間の面内せん断変形を効果的に抑制し、主ベルト層を含むベルト層の周方向の引張剛性を高めることができる。
【0011】
金属束においてタイヤ径方向に隣り合う一対の単線スチールワイヤの少なくとも一方にはスペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤが巻き付けられており、スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤの直径d2が0.1mm~0.3mmであり、スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤの巻き付けピッチp2が4.0mm~16.0mmであることが好ましい。これにより、金属束における単線スチールワイヤ同士の隙間g1が十分に確保されるので、金属束における単線スチールワイヤ同士のフレッティングを防止し、主ベルト層の耐久性を効果的に改善することができる。
【0012】
また、ベルト層が主ベルト層に対して積層された補助ベルト層を含み、該補助ベルト層の補強線材が隣接する主ベルト層の補強線材と同方向に傾斜し、該補助ベルト層の補強線材のタイヤ周方向に対する傾斜角度が前記主ベルト層の補強線材のタイヤ周方向に対する傾斜角度よりも大きく設定される場合、補助ベルト層の補強線材は、複数本の単線スチールワイヤが無撚り状態で同一方向に引き揃えられてタイヤ径方向に積み重ねられた金属束から構成され、該金属束の周囲に結束用ラッピングワイヤが巻き付けられており、各単線スチールワイヤの厚さdが0.15mm~0.35mmであり、前記金属束の打ち込み間隔w1が1.0mm以上であることが好ましい。
【0013】
これにより、補助ベルト層の幅方向の剛性を高めることができるので、主ベルト層のせん断変形を抑制し、外径成長を抑制することができる。また、補強線材としての総強力を金属束の形態で確保することにより、各単線スチールワイヤの厚さdを小さくすることが可能になるので、ワイヤ折れを抑制することができる。更に、金属束において複数本の単線スチールワイヤをタイヤ径方向に積み重ねることにより、金属束の打ち込み間隔w1を大きくすることが可能になるので、補助ベルト層のエッジセパレーションを抑制することができる。また、金属束の周囲には結束用ラッピングワイヤが巻き付けられているので、金属束の一体性を高めて補強線材として有効に機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態からなる重荷重用の空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】本発明の実施形態からなる重荷重用の空気入りタイヤのベルト層を抽出して示す展開図である。
【
図3】複数本の単線スチールワイヤからなる金属束の一例を示す斜視断面図である。
【
図4】複数本の単線スチールワイヤからなる金属束の変形例を示す斜視断面図である。
【
図5】複数本の単線スチールワイヤからなる金属束の他の変形例を示す斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる重荷重用の空気入りタイヤを示し、
図2はそのベルト層を抽出して示すものである。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0017】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられた構造を有している。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0018】
上記空気入りタイヤにおいて、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には4層のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強線材Rを備えている。これらベルト層7は、中央2層の主ベルト層72,73と、これら主ベルト層72,73のタイヤ径方向内側及び外側に配置された2層の補助ベルト層71,74とを含んでいる。
【0019】
図2に示すように、タイヤ径方向内側の主ベルト層72とタイヤ径方向外側の主ベルト層73は、補強線材Rが層間で互いに交差するように配置されている。また、タイヤ径方向内側に位置する補助ベルト層71の補強線材Rは該補助ベルト層71に隣接する主ベルト層72の補強線材Rと同方向に傾斜し、タイヤ径方向外側に位置する補助ベルト層74の補強線材Rは該補助ベルト層74に隣接する主ベルト層73の補強線材Rと同方向に傾斜している。補助ベルト層71,74を構成する補強線材Rのタイヤ周方向に対する傾斜角度βは主ベルト層72,73を構成する補強線材Rのタイヤ周方向に対する傾斜角度αよりも大きく設定されている。より具体的には、主ベルト層72,73を構成する補強線材Rの傾斜角度αは例えば15°~25°の範囲に設定され、補助ベルト層71,74を構成する補強線材Rの傾斜角度βは例えば50°~90°の範囲に設定され、両者の差(β-α)は例えば35°~65°の範囲に設定される。なお、主ベルト層72,73の補強線材Rの傾斜角度αと補助ベルト層71,74の補強線材Rの傾斜角度βは、いずれもタイヤ中心線CL上で測定される角度である。
【0020】
上記空気入りタイヤにおいて、主ベルト層72,73の少なくとも一方において、補強線材Rとして、後述する金属束10が使用されている。なお、主ベルト層72,73の両方に金属束10が適用されることが望ましいが、金属束10を適用しない層については通常のスチールコード等を使用することが可能である。
【0021】
図3及び
図4はそれぞれ複数本の単線スチールワイヤからなる金属束を示すものである。
図3及び
図4において、複数本の金属束10の各々は、複数本の単線スチールワイヤ11が無撚り状態で同一方向に引き揃えられてタイヤ径方向Trに積み重ねられた構造を有している。金属束10における単線スチールワイヤ11の積み重ね本数は2本~5本とすることが好ましい。ここで、「無撚り状態」とは、複数本の単線スチールワイヤ11が実質的に撚り合わされていない状態を意味し、具体的には、200mm以下のピッチで撚られていない状態、より好ましくは、1000mm以下のピッチで撚られていない状態を意味する。これら金属束10は主ベルト層72,73においてタイヤ幅方向Tw(主ベルト層72,73の面方向)に沿って等間隔で配置されている。各金属束10の周囲には結束用ラッピングワイヤ12が巻き付けられており、この結束用ラッピングワイヤ12により複数本の単線スチールワイヤ11が一体的に束ねられている。結束用ラッピングワイヤ12としては、円形断面を有するスチールワイヤが好適である。
【0022】
各単線スチールワイヤ11のタイヤ径方向の厚さdは0.15mm~0.35mmの範囲に設定されている。また、金属束10の打ち込み間隔w1は1.0mm以上に設定されている。金属束10の打ち込み間隔w1は、単線スチールワイヤ11の長手方向に対して垂直に交わる断面において測定される値であり、タイヤ幅方向Twに測定される金属束10の最短間隔である。これら単線スチールワイヤ11の厚さd及び金属束10の打ち込み間隔w1は結束用ラッピングワイヤ12の寸法を含まない値である。
【0023】
単線スチールワイヤ11の断面形状は特に限定されるものではなく、
図3のような円形や
図4のような偏平形状を採用することができる。特に、金属束10の打ち込み間隔w
1として1.0mm以上確保できるのであれば、長径と短径との比が3.0以上である偏平形状を採用することが好ましい。単線スチールワイヤ11が偏平形状を有していると、主ベルト層71,74のゲージを薄くすることができるため、軽量化及びコストダウンを図ることができる。また、単線スチールワイヤ11が偏平形状を有していると、ゴム引き工程において金属束10の崩れを抑制することができる。なお、「偏平」とは単線スチールワイヤ11の横断面において長径と短径とが存在する形状であるが、その外縁が外側に凸となる曲線又は直線であることが望ましい。例えば、外縁が曲線のみで構成される場合(楕円)や、外縁が直線のみで構成される場合(矩形)や、外縁が直線と曲線で構成される場合(略矩形、トラック型)が挙げられる。偏平形状を有する単線スチールワイヤ11は長径側がタイヤ幅方向Twとなるように配置される。
【0024】
図5及び
図6は複数本の単線スチールワイヤからなる金属束の他の変形例を示すものである。
図5及び
図6では、金属束10においてタイヤ径方向Trに隣り合う一対の単線スチールワイヤ11の少なくとも一方にスペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ13が巻き付けられている。結束用ラッピングワイヤ12が複数本の単線スチールワイヤ11を束ねる一方で、スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ13は1本の単線スチールワイヤ11の周囲に巻き付けられている。スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ13としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の有機繊維や、単線スチールワイヤを使用することができる。ラッピング糸又はラッピングワイヤ13は隣り合う一対の単線スチールワイヤ11,11間のスペーサーとして機能するものである。
【0025】
上述した空気入りタイヤによれば、主ベルト層72,73の少なくとも一方において、補強線材Rとして、複数本の単線スチールワイヤ11が無撚り状態で同一方向に引き揃えられてタイヤ径方向に積み重ねられた金属束10を使用することにより、補強線材Rの初期伸びが実質的に無くなるので、外径成長を抑止して主ベルト層72,73を含む補強層7の耐久性を改善することができる。また、補強線材Rとしての総強力を金属束10の形態で確保することにより、各単線スチールワイヤ11の厚さdを小さくすることが可能になるので、ワイヤ折れを抑制することができる。更に、金属束10において複数本の単線スチールワイヤ11をタイヤ径方向に積み重ねることにより、金属束10の打ち込み間隔w1を大きくすることが可能になるので、主ベルト層72,73のエッジセパレーションを抑制することができる。
【0026】
また、金属束10の周囲には結束用ラッピングワイヤ12が巻き付けられているので、金属束10の一体性を高めて補強線材Rとして有効に機能させることができる。つまり、金属束10の一体性を高めることで、主ベルト層72,73の周方向の引張剛性を増大させることができる。更に、金属束10が単線スチールワイヤ11の長手方向に圧縮された際に、単線スチールワイヤ11,11同士が離間するような変形を抑制することができる。また、金属束10が結束用ラッピングワイヤ12により一体化されているので、ベルト部材の製造が容易になるという利点もある。
【0027】
ここで、単線スチールワイヤ11の厚さdが0.15mm未満であると、ベルト部材の圧延時に単線スチールワイヤ11に割れが発生し易くなり、逆に0.35mmよりも大きいと、タイヤ転動時の面外曲げ変形に起因する単線スチールワイヤ11の疲労破壊が懸念される。特に、単線スチールワイヤ11の厚さdは0.18mm~0.30mmであることが好ましい。
【0028】
金属束10の打ち込み間隔w1が1.0mm未満であると、単線スチールワイヤ11の相互間隔が狭くなるため主ベルト層72,73のエッジ部でのセパレーションが懸念される。特に、金属束10の打ち込み間隔w1は1.2mm以上であることが好ましい。また、打ち込み間隔w1の上限値は例えば4.0mmとする。
【0029】
上記空気入りタイヤにおいて、主ベルト層72,73の各々の引張剛性AEは1800kN/50mm以上であると良い。これにより、外径成長を抑制し、主ベルト層72,73を含むベルト層7の耐久性を効果的に改善することができる。主ベルト層72,73の引張剛性AEは下記式(1)で求められる。下記式(1)において、Aは金属束10の断面積[mm2]であり、Eは金属束10を構成する単線スチールワイヤ11の弾性率[GPa]であり、Cは主ベルト層72,73の各々における金属束10の打ち込み本数[本/50mm]である。
AE[kN/50mm]=A[mm2]×E[GPa]×C[本/50mm] (1)
【0030】
ここで、主ベルト層72,73の引張剛性AEが1800kN/50mm未満であると、外径成長の増加によりコートゴムの劣化速度が増大し、その結果、主ベルト層72,73を含むベルト層7の耐久性が低下する。特に、主ベルト層72,73の引張剛性AEは2000kN/50mm以上であることが望ましい。引張剛性AEの上限値は特に限定されるものではないが、金属束10の打ち込み間隔w1の制約により実質的に限定される。
【0031】
上記空気入りタイヤにおいて、金属束10における単線スチールワイヤ11,11同士の隙間g1は0.05mm~0.3mmであると良い。隙間g1は積み上げられた単線スチールワイヤ11の相互間隔のうちの最小値である。単線スチールワイヤ11,11同士が接触している場合はg1=0.0mmである。金属束10における単線スチールワイヤ11,11同士の隙間g1を上記範囲に設定することにより、金属束10における単線スチールワイヤ11,11同士のフレッティングを防止し、主ベルト層72,73の耐久性を効果的に改善することができる。
【0032】
ここで、金属束10における単線スチールワイヤ11,11同士の隙間g1が0.05mm未満であると、フレッティングを防止する効果が得られず、逆に0.3mmよりも大きいと、フレッティング防止に対して過度な厚さとなりコストの増加を招く。特に、金属束10における単線スチールワイヤ11,11同士の隙間g1は0.08mm~0.25mmであることが望ましい。
【0033】
上記空気入りタイヤにおいて、結束用ラッピングワイヤ12の直径d
1は0.1mm~0.3mmであり、結束用ラッピングワイヤ12の巻き付けピッチp
1は4.0mm~16.0mmであると良い(
図6参照)。これにより、結束用ラッピングワイヤ12の付加によるコスト増加を最小限にしながら、単線スチールワイヤ11,11間の面内せん断変形を効果的に抑制し、主ベルト層72,73を含むベルト層7の周方向の引張剛性を高めることができる。
【0034】
ここで、結束用ラッピングワイヤ12の直径d1が0.1mm未満であると、単線スチールワイヤ11,11間の面内せん断変形を抑制する効果が低下し、逆に0.3mmよりも大きいと、単線スチールワイヤ11,11間の面内せん断変形を抑制する効果に対して過度な強度となりコストの増加を招く。特に、結束用ラッピングワイヤ12の直径d1は0.12mm~0.25mmであることが望ましい。
【0035】
また、結束用ラッピングワイヤの巻き付けピッチp1が4.0mm未満であると、単線スチールワイヤ11,11間の面内せん断変形を抑制する効果に対して過度な強度となりコストの増加を招き、逆に16.0mmよりも大きいと、単線スチールワイヤ11,11間の面内せん断変形を抑制する効果が低下する。特に、結束用ラッピングワイヤの巻き付けピッチp1は6.0mm~14.0mmであることが望ましい。
【0036】
金属束10にスペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ13を付加する場合、スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ13の直径d
2は0.1mm~0.3mmであり、スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ13の巻き付けピッチp
2は4.0mm~16.0mmであると良い(
図6参照)。これにより、金属束10における単線スチールワイヤ11,11同士の隙間g
1が十分に確保されるので、金属束10における単線スチールワイヤ11,11同士のフレッティングを防止し、主ベルト層72,73の耐久性を効果的に改善することができる。
【0037】
ここで、スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ13の直径d2が0.1mm未満であると、単線スチールワイヤ11,11同士の隙間g1が小さ過ぎてゴムが浸透しない部位が発生し、逆に0.3mmよりも大きいと、フレッティング防止に対して過度な厚さとなりコストの増加を招く。特に、スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ13の直径d2は0.12mm~0.25mmであることが望ましい。
【0038】
また、スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ13の巻き付けピッチp2が4.0mm未満であると、単線スチールワイヤ11,11同士の接触を防ぐ効果が飽和し、単にコストの増加を招くだけであり、逆に16.0mmよりも大きいと単線スチールワイヤ11,11同士が撓みにより接触する恐れがある。特に、スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ13の巻き付けピッチp2は6.0mm~14.0mmであることが望ましい。
【0039】
上記空気入りタイヤにおいて、ベルト層7が主ベルト層72,73の内周側及び外周側に配置された補助ベルト層71,74を含み、補助ベルト層71,74の補強線材Rが隣接する主ベルト層72,73の補強線材Rと同方向に傾斜し、補助ベルト層71,74の補強線材Rのタイヤ周方向に対する傾斜角度βが主ベルト層72,73の補強線材Rのタイヤ周方向に対する傾斜角度αよりも大きく設定される場合、補助ベルト層71,74の補強線材Rとして、上述した複数本の単線スチールワイヤ11からなる金属束10(
図3~
図6)が使用されることが望ましい。補助ベルト層71,74に使用される金属束10は主ベルト層72,73に使用されるものと同様の構成とすることができる。なお、補助ベルト層71,74の両方に金属束10が適用されることが望ましいが、金属束10を適用しない層については通常のスチールコード等を使用することが可能である。
【0040】
上述した空気入りタイヤによれば、補助ベルト層71,74の補強線材Rとして、複数本の単線スチールワイヤ11が無撚り状態で同一方向に引き揃えられてタイヤ径方向に積み重ねられた金属束10を使用することにより、補助ベルト層71,74の幅方向の剛性を高めることができるので、主ベルト層72,73のせん断変形を抑制し、外径成長を抑制することができる。また、補強線材Rとしての総強力を金属束10の形態で確保することにより、各単線スチールワイヤ11の厚さdを小さくすることが可能になるので、ワイヤ折れを抑制することができる。更に、金属束10において複数本の単線スチールワイヤ11をタイヤ径方向に積み重ねることにより、金属束10の打ち込み間隔w1を大きくすることが可能になるので、補助ベルト層71,74のエッジセパレーションを抑制することができる。
【0041】
また、金属束10の周囲には結束用ラッピングワイヤ12が巻き付けられているので、金属束10の一体性を高めて補強線材Rとして有効に機能させることができる。つまり、金属束10の一体性を高めることで、補助ベルト層71,74の周方向の引張剛性を増大させることができる。更に、金属束10が単線スチールワイヤ11の長手方向に圧縮された際に、単線スチールワイヤ11,11同士が離間するような変形を抑制することができる。また、金属束10が結束用ラッピングワイヤ12により一体化されているので、ベルト部材の製造が容易になるという利点もある。
【実施例】
【0042】
タイヤサイズ315/60R22.5で、トレッド部と一対のサイドウォール部と一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架され、該カーカス層が各ビード部のビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられた構造を有し、トレッド部におけるカーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強線材を有する4層のベルト層が配置された空気入りにおいて、少なくとも1層のベルト層の補強線材として、複数本の単線スチールワイヤが無撚り状態で同一方向に引き揃えられてタイヤ径方向に積み重ねられた金属束を用い、該金属束の周囲に結束用ラッピングワイヤが巻き付けられた構造を採用した実施例1~17及び比較例2~9のタイヤを製作した。なお、本明細書において、実施例11,12は参考例である。
【0043】
比較のため、ベルト層の補強線材として、円形断面形状を有するスチールワイヤからなる3+8構造のスチールコードを用いた従来例のタイヤと、ベルト層の補強線材として、単線スチールワイヤを用いた比較例1のタイヤとを製作した。
【0044】
従来例、実施例1~17及び比較例1~9において、ベルト層(1B)の補強線材の傾斜角度、ベルト層(2B)の補強線材の傾斜角度、ベルト層(3B) の補強線材の傾斜角度、ベルト層(4B) の補強線材の傾斜角度、補強線材として金属束を適用したベルト層、金属束を構成する単線スチールワイヤの本数、単線スチールワイヤの断面形状、補強線材の打ち込み本数、補強線材の実断面積、単線スチールワイヤの弾性率、補強線材の引張剛性、補強線材の幅、単線スチールワイヤの厚さd、補強線材の打ち込み間隔w1、ベルト層の引張剛性AE、単線スチールワイヤ同士の隙間g1、結束用ラッピングワイヤの直径d1、結束用ラッピングワイヤの巻き付けピッチp1、スペーサー用ラッピング糸(ワイヤ)の直径d2、スペーサー用ラッピング糸(ワイヤ)の巻き付けピッチp2を表1~4のように設定した。なお、4層のベルト層をタイヤ径方向内側から外側に向かって順に1B~4Bとした。ベルト層の補強線材の傾斜角度について、プラス値は左下がりを意味し、マイナス値は右下がりを意味する。補強線材として金属束を適用しないベルト層には従来例と同じスチールコードを使用した。
【0045】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、ベルト層の耐久性、ワイヤ折れの有無、外径成長、コストを評価し、その結果を表1~4に併せて示した。
【0046】
ベルト層の耐久性:
各試験タイヤをそれぞれETRTOの規定リムに装着して、ETRTOの規定空気圧の75%とし、ETRTOの規定荷重の1.4倍を負荷し、走行速度49km/hの条件でドラム試験機にて走行試験を実施した。タイヤのトレッド部にセパレーションが発生するまで走行させ、その走行距離を測定した。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、ベルト層の耐久性が優れていることを意味する。
【0047】
ワイヤ折れの有無:
上記耐久性試験を行った後、タイヤを解体し、ベルト層におけるワイヤ折れの有無を調べた。
【0048】
外径成長:
上記耐久性試験において、10,000km走行時におけるタイヤの外径成長量を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、外径成長が少ないことを意味する。
【0049】
コスト:
ベルト層の補強線材のコストを求めた。評価結果は、コストの逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、コストが安いことを意味する。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
これら表1~4から判るように、従来例との対比において、実施例1~17のタイヤはいずれも外径成長が少なく、ベルト層の耐久性が優れており、しかもベルト層におけるワイヤ折れが発生していなかった。
【0055】
これに対して、比較例1のタイヤでは、単線スチールワイヤを単独で使用しているため、その打ち込み間隔を十分に確保することができず、ベルト層の耐久性が悪化していた。一方、比較例2のタイヤでは、単線スチールワイヤの厚さdが大き過ぎるため、ベルト層においてワイヤ折れが発生し、ベルト層の耐久性が悪化していた。また、比較例2~9のタイヤもベルト層の耐久性を改善する効果が得られなかった。
【符号の説明】
【0056】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
10 金属束
11 単線スチールワイヤ
12 結束用ラッピングワイヤ
13 スペーサー用のラッピング糸又はラッピングワイヤ
71,74 補助ベルト層
72,73 主ベルト層