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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】シンチレータパネル
(51)【国際特許分類】
   G21K 4/00 20060101AFI20220511BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20220511BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20220511BHJP
   C09K 11/84 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
G21K4/00 A
G01T1/20 B
G01T1/20 C
G01T1/20 E
C09K11/00 E
C09K11/84
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018005015
(22)【出願日】2018-01-16
(65)【公開番号】P2019124574
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-09-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】萩原 清志
(72)【発明者】
【氏名】進藤 浩通
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-266898(JP,A)
【文献】特開2002-202374(JP,A)
【文献】特開2017-223568(JP,A)
【文献】特開2017-227520(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0363753(US,A1)
【文献】国際公開第2014/080941(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 4/00
G01T 1/20
C09K 11/00
C09K 11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンチレータ層と非シンチレータ層が、放射線の入射方向に対して、放射線の入射方向と層の延びる方向が互いに平行であるように繰り返し設置された構造を有する積層型シンチレータを備え、
シンチレータ層は少なくとも蛍光体と、ポリウレタン樹脂またはポリスチレン樹脂からなるバインダー樹脂と、空隙を含有し、かつ非シンチレータ層が透明であり、非シンチレータ層が透明性樹脂とともに、透明性微粒子を0.5~10質量%の範囲で含み、
シンチレータ層のバインダー樹脂と空隙の平均屈折率n1、非シンチレータ層の屈折率n2が、式(A) 0.9 ≦ (n2/n1) ≦1.2
の関係を満たすことを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項2】
シンチレータパネルが、さらに光電変換センサーを備え、
光電変換センサーに形成された光検出画素(ディテクター画素ともいう、P1)と、一対のシンチレータ層と非シンチレータ層の入射方向に対して垂直方向の厚さ(積層ピッチ、P2)とが、P1>P2であることを特徴とする請求項に記載のシンチレータパネル。
【請求項3】
前記積層型シンチレータと前記光電変換センサーとの間に光透過性樹脂材料からなる材料からなる層が配置されていることを特徴とする請求項に記載のシンチレータパネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タルボ・システムなどに好適な新規なシンチレータパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、X線画像診断では、X線の物体透過後の減弱を画像化する吸収画像が用いられている。一方でX線は電磁波の一種であることから、この波動性に着目し、X線物体透過後の位相の変化を画像化する試みが近年なされてきた。これらはそれぞれ吸収コントラストと位相コントラストと呼ばれる。この位相コントラストを用いた撮影技術は、従来の吸収コントラストと比較して、軽元素への感度が高いことから、これが多く含まれる人体の軟部組織への感度が高いと考えられている。
【0003】
しかしながら、従来の位相コントラスト撮影技術は、シンクロトロンX線源や微小焦点X線管を用いる必要があったため、前者は巨大な施設が必要であること、後者は人体を撮影する為に十分なX線量が確保できないことから、一般医療施設での実用は難しいと考えられていた。
【0004】
この課題を解決するために、従来から医療現場で用いられるX線源を用いて位相コントラスト画像を取得することができる、X線タルボ・ロー干渉計を用いた、X線画像診断(タルボ・システム)が期待されている。
【0005】
タルボ・ロー干渉計は、図4に示されるように、医療用X線管とFPDの間にG0格子、G1格子、G2格子が各々配置され、被写体によるX線の屈折をモアレ縞として可視化するものである。上部に配置されたX線源から縦方向にX線が照射され、G0、被写体、G1、G2を通って画像検出器に到達する。
【0006】
格子の製造方法としては、例えば、X線透過性の高いシリコンウェハをエッチングして格子状の凹部を設け、その中にX線遮蔽性の高い重金属を充填する方法が知られている。
しかしながら、上記方法では、入手できるシリコンウェハのサイズやエッチング装置の制約等により大面積化が困難であり、撮影対象は小さな部位に限定される。また、エッチングによってシリコンウェハに深い凹部を形成するのは容易でない上に、凹部の奥まで金属を均一に充填することも難しいため、X線を充分遮蔽するだけの厚みを有する格子は作製困難である。このため、特に高圧撮影条件ではX線が格子を透過してしまい良好な画像を得ることが出来ない。
【0007】
そこで、シンチレータに格子機能を付与し、スリット状に発光させるスリットシンチレータが着目されている。
たとえば、Applied Physics Letter 98, 171107(2011)の「Structured scintillator for x-ray grating interferometry」(Paul Scherrer Institute(PSI))」には、シリコンウェハをエッチングして作製した格子の溝に蛍光体(CsI)を充填した格子形状のシンチレータが開示されている。
【0008】
しかしながら、上記方式では、前述のG2格子の作製方法と同じくシリコンウェハを使用しているため、シリコンウェハ起因の課題である面積の制約や厚膜化が困難な状況は改善されていない。さらに、CsIの発光がシリコン格子の壁面での衝突を繰り返すうちに減衰し、輝度が低下するといった新たな課題も発生している。また、依然として高圧撮影条件ではX線が格子を透過してしまい良好な画像を得ることが出来ないという課題はあった。
【0009】
このため撮影部位に制約がなく、厚みある被写体の撮影も可能な新たなシンチレータの出現が望まれていた。
たとえば、隔壁に区切られたセル内に充填されたシンチレータ層を有する区画化シンチレータとして、WO2014/080941号(特許文献1)には、隔壁が、低融点ガラスを主成分とする材料により構成し、前記シンチレータ層が、蛍光体およびバインダー樹脂から構成し、シンチレータ層に含まれるバインダー樹脂を蛍光体の周りに充填することで、蛍光体の表面による光の散乱を抑制することができ、隔壁表面による光の散乱も抑制することが提案されている。
【0010】
また、そこで、本発明者らは、新たに格子形状を有するシンチレータとして、シンチレータ層と非シンチレータ層との積層体から構成されるスリット構造を有するシンチレータに着目した。スリット構造を有するシンチレータは、照射されたX線はシンチレータ層内で発光し、一方、非シンチレータ層内をX線は通過し、発光をセンサーにて検出するように構成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Applied Physics Letter 98, 171107(2011)
【特許文献】
【0012】
【文献】WO2014/080941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このようなスリット構造のシンチレータは、構造上、非シンチレータ層がシンチレータ層と交互に存在するため、通常シンチレータ量が1/2になり、輝度が低いという課題がある。このため、積層型シンチレータパネルのシンチレータの発光を、効率的に透明性樹脂からなる非シンチレータ層に導くことにより、輝度向上のつながると本発明を考えた。
【0014】
しかしながら、スリットシンチレータを構成するシンチレータ層と透明性樹脂層の界面は、積層圧着を経る製造プロセス上、凹凸、及び空隙を有する。そのような状態においても効率的に発光を取り出すことが輝度向上のために重要となる。
【0015】
なお特許文献1に開示の区画化シンチレータは、セル壁面に反射層が形成されており、反射層にて発光をシンチレータ層に戻すか、隣接するセルへの光の透過を抑制するものであり、本発明とは課題や解決手段を全く異とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような状況の下、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、そして、積層型シンチレータパネルの構成を見直し、シンチレータ層中の構成材料の平均屈折率、非シンチレータ層を構成する透明性樹脂の屈折率が所定の関係を満足することで、発光をシンチレータ層と非シンチレータ層界面で屈折させて、効率的に非シンチレータ層内に導くことにより、上記課題を解決し、輝度およびMTFの高いシンチレータパネルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の構成は以下の通りである。
[1]シンチレータ層と非シンチレータ層が、放射線の入射方向に対して略平行方向に繰り返し設置された構造を有する積層型シンチレータを備え、
シンチレータ層は少なくとも蛍光体とバインダー樹脂、空隙を含有し、かつ非シンチレータ層が透明であり、
シンチレータ層のバインダー樹脂と空隙の平均屈折率n1、非シンチレータ層の屈折率n2が、式(A)
0.9 ≦ (n2/n1)
の関係を満たすことを特徴とするシンチレータパネル。
[2]非シンチレータ層が透明性樹脂を含む[1]のシンチレータパネル。
[3]非シンチレータ層が透明性樹脂とともに、透明性微粒子を0.5~10質量%の範囲で含む[1]または[2]のシンチレータパネル。
[4]さらに下記式(B)を満足することを特徴とする[1]~[3]のシンチレータパネル。
0.9 ≦ (n2/n1) ≦1.2
[5]シンチレータパネルが、さらに光電変換センサーを備え、
光電変換センサーに形成された光検出画素(ディテクター画素ともいう、P1)と、一対のシンチレータ層と非シンチレータ層の入射方向に対して垂直方向の厚さ(積層ピッチ、P2)とが、P1>P2であることを特徴とする[1]~[4]のシンチレータパネル。
[6]前記積層型シンチレータと前記光電変換センサーとの間に光透過性樹脂材料からなる材料からなる層が配置されていることを特徴とする[1]~[5]のシンチレータパネル。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、輝度およびMTFが高いシンチレータパネルを提供できる。このような本発明のシンチレータパネルは、タルボ・システムに好適に使用することが可能である。
【0019】
このため、本発明のシンチレータパネルは、高圧撮影も可能となり、胸腹部、大腿部、肘関節、膝関節、股関節などの厚みある被写体の撮影も可能となる。
従来、軟骨の画像診断では、MRIが主流であり、大がかりな機材を使うため撮影コストが高く、撮影時間も長いという欠点もあった。これに対し、本発明によれば、より低コストでスピーディーなX線画像で、軟骨、筋腱、靭帯などの軟部組織や、内臓組織を写すことができる。このため、関節リュウマチ、変形性膝関節症等の整形外科疾患や、乳がんをはじめ、柔らかい組織の画像診断などへ、広く応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明にかかるシンチレータパネルの一態様の概略図である。
図2】本発明にかかるシンチレータパネルの要部拡大図である。
図3】本発明のシンチレータパネルを用いた、タルボシンチレータの概略構成図である。
図4】タルボシンチレータの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のシンチレータパネルについて説明する。
本発明にかかるシンチレータパネルは、図1に示されるように、X線を受けて発光される機能を有するシンチレータ層と、非シンチレータ層が、放射線の入射方向に対して略平行方向に繰り返し積層された構造を有する積層型シンチレータを備える。シンチレータ層における放射線による発光を、検出器を介して電気信号に変換し、デジタル画像を取得することが出来る。
【0022】
略平行とは、ほぼ平行あり、完全に平行でも多少の傾斜や湾曲があっても略平行の範疇に含まれる。このようなスリット状シンチレータは大面積化も可能となる。
一対のシンチレータ層と非シンチレータ層の入射方向に対して垂直方向の厚さ、すなわち積層方向の厚さ(以下、積層ピッチ)は、およびシンチレータ層と非シンチレータ層の積層方向の厚さの比率(以下、duty比)はタルボ干渉条件より導かれるが、一般的には、積層ピッチは0.5~50μm、duty比は30/70~70/30であることが好ましい。積層ピッチの繰り返し積層数は、充分な面積の診断画像を得るために1,000~500,000層であることが好ましい。
【0023】
・シンチレータ層
本発明におけるシンチレータ層とはシンチレータを主成分として含有する層であり、少シンチレータとして機能する蛍光体粒子と、バインダー樹脂および空隙とを含有する。
【0024】
シンチレータとしては、X線などの放射線を可視光などの異なる波長に変換することが可能な物質を適宜使用することが出来る。具体的には、「蛍光体ハンドブック」(蛍光体同学会編・オーム社・1987年)の284頁から299頁に至る箇所に記載されたシンチレータ及び蛍光体や、米国Lawrence Berkeley National LaboratoryのWebホームページ「Scintillation Properties(http://scintillator.lbl.gov/)」に記載の物質などが考えられるが、ここに指摘されていない物質でも、「X線などの放射線を可視光などの異なる波長に変換することが可能な物質」であれば、シンチレータとして用いることが出来る。
【0025】
具体的なシンチレータの組成としては、以下の例が挙げられる。まず、
基本組成式(I):MIX・aMIIX'2・bMIIIX''3:zA
で表わされる金属ハロゲン化物系蛍光体が挙げられる。
【0026】
上記基本組成式(I)において、MIは1価の陽イオンになり得る元素、すなわち、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、タリウム(Tl)および銀(Ag)などからなる群より選択される少なくとも1種を表す。
【0027】
IIは2価の陽イオンになり得る元素、すなわち、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびカドミウム(Cd)などからなる群より選択される少なくとも1種を表す。
【0028】
IIIは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)およびランタノイドに属する元素からなる群より選択される少なくとも1種を表す。
【0029】
X、X'およびX''は、それぞれハロゲン元素を表わすが、それぞれが異なる元素であっても、同じ元素であっても良い。
Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag(銀)、TlおよびBi(ビスマス)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。
【0030】
a、bおよびzはそれぞれ独立に、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表わす。
また、
基本組成式(II):MIIFX:zLnで表わされる希土類付活金属フッ化ハロゲン化物系蛍光体も挙げられる。
【0031】
上記基本組成式(II)において、MIIは少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を、Lnはランタノイドに属する少なくとも1種の元素を、Xは、少なくとも1種のハロゲン元素を、それぞれ表す。またzは、0<z≦0.2である。
【0032】
また、
基本組成式(III):Ln22S:zA
で表される希土類酸硫化物系蛍光体も挙げられる。
【0033】
上記基本組成式(III)において、Lnはランタノイドに属する少なくとも1種の元素を、Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag(銀)、TlおよびBi(ビスマス)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を、それぞれ表す。またzは、0<z<1である。
【0034】
特にLnとしてガドリニウム(Gd)を用いたGd22Sは、Aの元素種にテルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)等を用いることによって、センサーパネルが最も受光しやすい波長領域で、高い発光特性を示すことが知られているため、好ましい。
【0035】
また、
基本組成式(IV):MIIS:zA
で表される金属硫化物系蛍光体も挙げられる。
【0036】
上記基本組成式(IV)において、MIIは2価の陽イオンになり得る元素、すなわちアルカリ土類金属、Zn(亜鉛)、Sr(ストロンチウム)、Ga(ガリウム)等からなる群より選択される少なくとも1種の元素を、Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag(銀)、TlおよびBi(ビスマス)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を、それぞれ表す。またzは、0<z<1である。
【0037】
また、
基本組成式(V):MIIa(AG)b:zA
で表される金属オキソ酸塩系蛍光体も挙げられる。
【0038】
上記基本組成式(V)において、MIIは陽イオンになり得る金属元素を、(AG)はリン酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩、タングステン酸塩、アルミン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種のオキソ酸基を、Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag(銀)、TlおよびBi(ビスマス)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を、それぞれ表す。
【0039】
またaおよびbは、金属及びオキソ酸基の価数に応じて取り得る値全てを表す。zは、0<z<1である。
また、
基本組成式(VI):Mab:zA
で表わされる金属酸化物系蛍光体が挙げられる。
【0040】
上記基本組成式(VI)において、Mは陽イオンになり得る金属元素より選択される少なくとも1種の元素を表す。
Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag(銀)、TlおよびBi(ビスマス)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を、それぞれ表す。
【0041】
またaおよびbは、金属及びオキソ酸基の価数に応じて取り得る値全てを表す。zは、0<z<1である。
また他に、
基本組成式(VII):LnOX:zA
で表わされる金属酸ハロゲン化物系蛍光体が挙げられる。
【0042】
上記基本組成式(VII)において、Lnはランタノイドに属する少なくとも1種の元素を、Xは、少なくとも1種のハロゲン元素を、Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag(銀)、TlおよびBi(ビスマス)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を、それぞれ表す。またzは、0<z<1である。
【0043】
シンチレータを構成する蛍光体粒子の平均粒子径は、シンチレータ層の積層方向の厚さに応じて選択され、シンチレータ層の積層方向の厚さに対して100%以下が好ましく、90%以下が更に好ましい。蛍光体粒子の平均粒子径が上記範囲を超えると積層ピッチの乱れが大きくなりタルボ干渉機能が低下する。
【0044】
シンチレータ層には、蛍光体粒子のバインダーとしてバインダー樹脂が含まれている。バインダー樹脂は、シンチレータの発光の伝搬を阻害しないように、シンチレータの発光波長に対して透明な材料であることが好ましい。
【0045】
バインダー樹脂としては、本発明の目的を損なわない限り特に限定されず、例えば、ゼラチン等の蛋白質、デキストラン等のポリサッカライド、またはアラビアゴムのような天然高分子物質;および、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース、エチルセルロース、塩化ビニリデン・塩化ビニルコポリマー、ポリ(メタ)アクリレート、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー、ポリウレタン、セルロースアセテートブチレート、ポリビニルアルコール、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン系樹脂若しくはアクリル系樹脂などのような合成高分子物質が挙げられる。なお、これらの樹脂はエポキシやイソシアネート等の架橋剤によって架橋されたものであってもよく、これらのバインダー樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0046】
バインダー樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。後述の製造過程を考慮すればホットメルト樹脂を使用しても良い。ホットメルト樹脂には、例えば、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系若しくはアクリル系の樹脂を主成分としたものを用いることができる。これらのうち、光透過性、防湿性及び接着性の観点から、ポリオレフィン系の樹脂を主成分としたものが好ましい。ポリオレフィン系の樹脂としては、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-アクリル酸エステル共重合体(EMA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体(EMMA)、アイオノマー樹脂等を用いることができる。なお、これらの樹脂は、二種以上組み合わせた、いわゆるポリマーブレンドとして用いてもよい。
【0047】
シンチレータ層中のバインダー樹脂の含有率は、好ましくは1~70vol%、より好ましくは5~50vol%、更に好ましくは10~30vol%である。前記範囲の下限値よりも低いと充分な接着性が得られず、逆に前記範囲の上限値よりも高いと、シンチレータの含有率が不充分となり発光量が低下する。
【0048】
また、空隙は、シンチレータ層内部や非シンチレータ層との界面に存在している。所定の屈折率をみたす限り、空隙率は、特に限定されない。なお空隙率は、積層体の実測体積(面積×厚さ)と、積層体の理論体積(重量÷密度)を用いて次式より算出される。
【0049】
(積層体の実測体積-積層体の理論体積)÷積層体の理論体積×100
積層体の面積が一定であれば、空隙率は、積層体の実測厚さと、積層体の理論厚さ(重量÷密度÷面積)を用いて次式より算出される。
【0050】
(積層体の実測厚さ-積層体の理論厚さ)÷積層体の理論厚さ×100
シンチレータ層の空隙率は0より多く30vol%以下の範囲にあることが好ましい。上記範囲を超えるとシンチレータの充填率が低下し輝度が低下することがある。
【0051】
内部に空隙を設ける手段としては、例えば、シンチレータ層作製過程で層内に気泡を含有させても良いし、中空のポリマー粒子を添加しても良い。シンチレータ層や非シンチレータ層の表面に凹凸も設ける手段としては、例えば、ブラスト処理やエンボス処理のような凹凸処理を層の表面に施しても良い。蛍光体粒子とバインダー樹脂を含有する組成物をポリマーフィルム上に塗設することによりシンチレータ層を形成する場合、シンチレータ層の表面に凹凸が形成され、ポリマーフィルムとの接触界面に空隙を設けることが出来る。凹凸の大きさは、蛍光体粒子の粒径や分散性を制御することによって任意に調整することが出来る。
【0052】
・非シンチレータ層
本発明における非シンチレータ層とは、シンチレータを主成分として含まない層であり、非シンチレータ層中のシンチレータの含有量は10vol%未満、好ましくは1vol%未満であるが、0vol%であることが最も好ましい。
【0053】
非シンチレータ層は、各種のガラス、高分子材料、金属等が主成分として含まれることが望ましい。これらは単独で用いても良いし、複数を組み合わせて複合体にして用いても良い。
【0054】
具体的には、石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラス等の板ガラス;サファイア、窒化珪素、炭化珪素等のセラミック;
シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、ガリウム窒素等の半導体;
ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレーと(PEN)を始めとするポリエステル、ナイロンを始めとする脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、トリアセテート、セルロースアセテート、エポキシ、ビスマレイミド、ポリ乳酸、ポリフェニレンサルファイドやポリエーテルスルホンを始めとする含硫黄ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタンなどポリマー;
炭素繊維やガラス繊維など(特に、これら繊維を含む繊維強化樹脂シート)
アルミニウム、鉄、銅等の金属箔、キトサンやセルロースなどを含むバイオナノファイバーなどを使用できる。
【0055】
非シンチレータ層としては、製造上の取扱いの観点よりフィルム状のものが好ましい。
本発明では、非シンチレータ内を通して光検出センサーなどに光を導くために、非シンチレータ層が透明な材料から構成され、特に透明性樹脂から構成されるものが好ましい。
【0056】
透明性樹脂としては、以下の屈折率を満足する限り特に制限されないが、前記したポリマーのうち、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
さらに、非シンチレータ層には、透明性樹脂とともに、透明性粒子が含まれていることが好ましい。透明性粒子としては、非シンチレータ層が後述するような屈折率を満足するものであれば特に制限されないが、通常、透明性微粒子としては、例えば、メタクリル酸メチル重合体、メタクリル酸メチル-アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、スチレン重合体などの熱可塑性樹脂からなる有機樹脂粒子が挙げられる。また、タルク、ガラスビーズ、シリコーン粒子、無機酸化物や無機窒化物、炭酸塩や硫酸塩、塩化物などの金属塩粒子などの無機微粒子も使用可能である。なお、材料自体の屈折率が高くとも、平均粒子径によって層全体の屈折率は調整できるため、透明性微粒子の材質自体が透明である必要はない。
【0057】
無機微粒子としては、TiO2(アナターゼ型、ルチル型)、MgO、PbCO3・Pb(OH)2、BaSO4、Al23、M(II)FX(ただし、M(II)は、Ba、SrおよびCaから選ばれる少なくとも一種の原子であり、Xは、Cl原子またはBr原子である。)、CaCO3、ZnO、Sb23、SiO2、ZrO2、リトポン〔BaSO4・ZnS〕、タルク、珪酸マグネシウム、塩基性珪硫酸塩、塩基性燐酸鉛、珪酸アルミニウムなどの白色顔料を使用することができる。ガラスビーズ、樹脂ビーズ、中空部が粒子内に存在する中空粒子、中空部が粒子内に多数存在する多中空粒子、多孔質粒子なども使用することができる。これらは、一種単独で用いてもよいし、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
透明性樹脂と透明性微粒子の配合量は、非シンチレータ層が所定の屈折率となるように、調整される。透明性微粒子を含むと、屈折率の調整が容易となり、かつ、光も粒子界面で屈折・散乱するため、効率的に、発光を、非シンチレータ層内に通すことができる。透明性微粒子の含有量は、10質量%以下、好ましくは0.5~10質量%の範囲で含むことが望ましい。
【0059】
図2に、積層型シンチレータの要部拡大図を示す。シンチレータ層のバインダー樹脂と空隙の平均屈折率n1、非シンチレータ層の屈折率n2が、式(A)で表される関係を満足する。
0.9 ≦ (n2/n1) ・・・・(A)
【0060】
シンチレータ層と非シンチレータ層の界面は、積層圧着を経る製造プロセス上、凹凸及び空隙が存在する。通常、この凹凸や空隙によって、光が散乱してしまい、検出器まで光が届かくなってしまうことがある。なお、空隙は通常空気で充満される。
【0061】
これに対し、上記式(A)で表される屈折率の関係を満足すると、シンチレータ層と非シンチレータ層界面で、光が屈折により、効率的に、非シンチレータ層内に取り込まれる。なお、シンチレータ層のバインダー樹脂と空隙の平均屈折率n1は、バインダー樹脂および空隙(空気充満)の組成比から、計算によって求めることが可能である。
【0062】
スネルの法則は、光線が平面(屈折率の異なる媒質の境界)に入射した場合の入射角と出射角(さらに、媒質の屈折率)の関係を表す法則である。光線の入射角θ1、屈折角(出射角)θ2、反射角θ3、入射側媒質の屈折率n1、出射側の屈折率n2とすると、スネルの法則は、n1 sinθ1 = n2 sinθ2 となる。ただし、n1<n2である。したがって、理論上は1.0 < (n2/n1) のとき、全反射せず、光を取り出すことが可能となるが、本発明のような積層型シンチレータの場合、界面の凹凸や空隙を鑑み、前記式(A)を満足していれば、効率的にシンチレータ層での光を非シンチレータ層に導くことができる。
【0063】
一方で、非シンチレータ層の屈折率が高くなると、非シンチレータ層内の横方向への光の伝搬が広がり、鮮鋭性が低下することがある。
このため、シンチレータ層のバインダー樹脂と空隙の平均屈折率n1、非シンチレータ層の屈折率n2が、さらに、式(B)で表される関係を満足することが好ましい。
0.9 ≦ (n2/n1) ≦ 1.2 ・・・・(B)
【0064】
積層型シンチレータは、シンチレータ層と非シンチレータ層とを積層させて、シンチレータ層と非シンチレータ層を接合することで製造される。本発明における接合とは、シンチレータ層と非シンチレータ層を接着して一体化することを指す。接合方法としては接着剤層を介して両者を接着することもできるが、シンチレータ層もしくは非シンチレータ層に接着性樹脂を予め含有させておき、加圧により両者を密着させることで、接着剤層を介さずに接合することが、プロセス簡略化の観点より、好ましい。本発明では、シンチレータ層に接着性樹脂であるバインダー樹脂を含むので、必ずしも、接着剤層を介さずに接合することが可能である。
【0065】
また、加圧した状態で加熱することで、接着性を有する物質が溶融もしくは硬化し接着が強固なものとなり更に好ましい。また、非シンチレータ層表面に、シンチレータ層を形成しうる組成物をコートするか、あるいは、必要に応じて更に溶媒を除去することによってシンチレータ層と非シンチレータ層を接合することも可能である。
【0066】
シンチレータ層の形成方法としては、前記蛍光体粒子とバインダー樹脂を溶媒に溶解もしくは分散した組成物を、非シンチレータ層上にコートしてもよいし、前記蛍光体粒子とバインダー樹脂を含有する混合物を加熱溶融して調製した組成物をコートしてもよい。
【0067】
前記蛍光体粒子とバインダー樹脂を溶媒に溶解もしくは分散した組成物をコートする場合、使用できる溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、キシレン等の芳香族化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等の低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、メトキシプロパノールプロピレングリコールモノメチルエーテル 、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等などのエーテル、ベンゼントリオール、メチレンクロライド、エチレンクロライドなどのハロゲン化炭化水素及びそれらの混合物などが挙げられる。当該組成物には、組成物中の蛍光体粒子の分散性を向上させるための分散剤、また、形成後のシンチレータ層中におけるバインダー樹脂と蛍光体粒子との間の結合力を向上させるための硬化剤や可塑剤などの種々の添加剤が混合されていてもよい。
【0068】
そのような目的に用いられる分散剤の例としては、フタル酸、ステアリン酸、カプロン酸、親油性界面活性剤などを挙げることができる。
シンチレータ層を形成するための組成物のコート手段としては、特に制約はないが、通常のコート手段、例えば、ドクターブレード、ロールコーター、ナイフコーター、押し出しコーター、ダイコーター、グラビアコーター、リップコーター、キャピラリー式コーター、バーコーターなどを用いることができる。
【0069】
本発明にかかる積層型シンチレータは、シンチレータ層と非シンチレータ層を繰り返し積層した後、両者を接合する工程により構成される。
シンチレータ層と非シンチレータ層を繰り返し積層する方法としては特に制約は無いが、個別に形成しておいたシンチレータ層および非シンチレータ層をそれぞれ複数枚のシートに分割した上で、交互に繰り返し積層しても良い。
【0070】
また本発明では、前記シンチレータ層と前記非シンチレータ層が接合された部分積層体を複数作成したのち、当該複数の部分積層体を積層して前記積層体を形成することが、積層体の積層数や厚さの調整がしやすいので好ましい態様である。
【0071】
たとえば、予め、一対のシンチレータ層と非シンチレータ層からなる部分積層体を形成しておき、その部分積層体を複数枚のシートに分割し、繰り返し積層してもよい。このときいずれかに所望の機能層を別途設けておき、適当な間隔で配置するように積層すればよい。
【0072】
シンチレータ層と非シンチレータ層からなる部分積層体が巻取り可能なフィルム形状であれば、コアに巻取ることによって効率的に積層することが可能となる。巻取りコアとしては筒状でも平板でもよい。さらに効率的には、上記方法によって作製したシンチレータ層と非シンチレータ層の繰り返し積層体を加圧、加熱などによって接合(一体化)してから複数枚のシートに分割し繰り返し積層しても良い。
【0073】
またこの部分積層体を積層する際に、所定の層間隔となるように機能層を設けておけばよい。
シンチレータ層と非シンチレータ層からなる部分積層体の形成方法には特に制約は無いが、非シンチレータ層としてポリマーフィルムを選択し、その片面に、蛍光体粒子とバインダー樹脂を含有する組成物をコートすることでシンチレータ層を形成して良い。また、ポリマーフィルムの両面に、蛍光体粒子とバインダー樹脂とを含有する組成物をコートしても良い。
【0074】
部分積層体は、前記したように、蛍光体粒子とバインダー樹脂を含有する組成物を非シンチレータ層を構成するフィルム上にコートして形成すると、工程が簡略化できる上に複数枚のシートへの分割が容易となる。分割方法は特に制限されず、通常の裁断方法が選択される。
【0075】
また、あらかじめ転写基材に、シンチレータ層を塗設したものを、非シンチレータ層からなるフィルム上に転写してもよい。転写基材は必要に応じて、剥離などの手段により脱着される。
【0076】
本発明では、前記シンチレータ層と前記非シンチレータ層が放射線の入射方向に対して略平行方向になるように前記積層体を加圧することで、前記シンチレータ層と前記非シンチレータ層とを接合する。
【0077】
複数のシンチレータ層と非シンチレータ層の繰り返し積層体を所望の寸法になるように加圧した状態で加熱することにより、積層ピッチを所望の値に調整することが出来る。
複数のシンチレータ層と非シンチレータ層の繰り返し積層体を所望の寸法になるように加圧する方法には特に制約は無いが、積層体が所望の寸法以上に圧縮されないように、予め、金属等のスペーサを設けた状態で加圧することが好ましい。その際の圧力としては1MPa~10GPaが好ましい。圧力が前記範囲の下限値よりも低いと、積層体に含まれる樹脂成分を所定の寸法に変形させることが出来ない恐れがある。圧力が前記範囲の上限値よりも高いと、スペーサが変形してしまう場合があり、積層体を所望の寸法以上に圧縮してしまう恐れがある。前記積層体を加圧した状態で加熱することで接合をより強固なものとすることができる。
【0078】
複数のシンチレータ層と非シンチレータ層の繰り返し積層体を加熱する条件としては、樹脂の種類にもよるが、熱可塑性樹脂ではガラス転移点以上、熱硬化性樹脂では硬化温度以上の温度で、いずれも0.5~24時間程度加熱することが好ましい。加熱温度としては、一般的に40℃~250℃であることが好ましい。温度が前記範囲の下限値よりも低いと、樹脂の融着あるいは硬化反応が不充分な場合があり、接合不良や、もしくは圧縮を解除すると元の寸法に戻ってしまう恐れがある。温度が前記範囲の上限値よりも高いと、樹脂が変質し光学特性を損ねる恐れが生じる。積層体を加圧しながら加熱する方法には、特に制約は無いが、発熱体が装着されたプレス機を用いても良いし、積層体を所定の寸法になるように箱型の治具に封じ込めた状態でオーブン加熱しても良いし、箱型の治具に発熱体が装着されていても良い。
【0079】
複数のシンチレータ層と非シンチレータ層の繰り返し積層体が加圧される前の状態としては、シンチレータ層の内部、非シンチレータ層の内部、もしくはシンチレータ層と非シンチレータ層の界面に空隙が存在している。この空隙が加圧の際にクッションとなり、空隙がゼロになるまでの範囲であれば積層体を任意の寸法に調整することが出来、即ち、積層ピッチを任意の値に調整することが出来る。
【0080】
X線等の放射線を発する線源は一般に点波源であるため、個々のシンチレータ層と非シンチレータ層が完全に平行に形成されている場合には、積層型シンチレータの周辺領域では、X線が斜め入射してしまう。この結果、前記周辺領域では、放射線が充分に透過しない、いわゆるケラレが生じてしまう。ケラレは、シンチレータが大面積化するほど深刻な問題となる。
【0081】
本課題については、前記積層型シンチレータパネルにおいて、放射線入射側を第一面、第一面と対向する側を第二面としたとき、第二面における前記シンチレータ層と非シンチレータ層の積層ピッチを、第一面における前記シンチレータ層と非シンチレータ層の積層ピッチよりも大きくすることで、個々のシンチレータ層と非シンチレータ層が放射線に対して平行になるように配置することで改善できる。具体的には、積層型シンチレータパネルを湾曲させるか、もしくは湾曲させなくても積層型シンチレータパネルを傾斜構造にすることで実現可能である。本発明では、傾斜化された積層型シンチレータパネルの前記第一面と第二面をいずれも平面にすることで、一般的にはリジッドで平坦な光電変換パネルにも無理なく密着させることが出来、画質向上の観点で好ましい。一方、積層型シンチレータパネルを湾曲させる場合には、光電変換パネルも追従させる必要があるためフレキシブルな材料であることが好ましい。
【0082】
積層型シンチレータパネルを傾斜構造にするは、例えば、複数のシンチレータ層と非シンチレータ層の繰り返し積層体を加圧する工程において、加圧方向を斜めにすることで、断面が台形型の傾斜構造を形成することが出来る。傾斜角は積層型シンチレータパネルの端辺が最大で、中央に向かって連続的に平行に近づく。最大傾斜角は積層型シンチレータパネルのサイズや積層型シンチレータパネルと放射線源との距離によって決まるが、一般的に0~10°である。傾斜構造を形成する加圧方法としては、たとえば、所定の傾斜を設けた加圧治具を使用することなどが挙げられる。なお、傾斜角0°は平行で、前記範囲は本願明細書における「略平行」の概念に含まれる。
【0083】
積層型シンチレータパネルのシンチレータ層と非シンチレータ層の界面には鮮鋭性向上を目的として、シンチレータの発光の拡散を抑制する遮光層などの機能層を設けてもよい。遮光層としてはシンチレータの発光の伝搬を抑制する機能を有していれば特に限定されず、例えば光反射機能を有していても良く、また、光吸収機能を有していても良い。
【0084】
本発明では、複数のシンチレータ層と非シンチレータ層とが接合した接合端面を平坦化することが好ましい。特に、放射線入射側の面、もしくはその反対の面、もしくは両方の面を平坦化することで、接合端面におけるシンチレータ光の散乱を抑制すること出来、鮮鋭性が向上する。平坦化の方法には特に制限は無く、切削、研削、研磨などの機械加工の他、イオン、プラズマ、電子線等のエネルギーを照射しても良い。機械加工の場合、シンチレータ層と非シンチレータ層の積層構造にダメージを与えないよう、積層構造に対して平行方向に加工することが好ましい。
【0085】
本発明における積層型シンチレータパネルの放射線入射方向の厚さは数mm以下と非常に薄いため、積層構造を維持するためには、放射線入射側の面、もしくはその反対の面、もしくは両方の面が支持体に貼り合わされて保持されていることが好ましい。
【0086】
支持体としては、X線等の放射線を透過させることが可能な各種のガラス、高分子材料、金属等を用いることができるが、例えば、石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラスなどの板ガラス、サファイア、チッ化珪素、炭化珪素などのセラミック基板、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、ガリウム窒素など半導体基板(光電変換パネル)、またセルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、
ポリカーボネートフィルム等の高分子フィルム(プラスチックフィルム)、アルミニウムシート、鉄シート、銅シート等の金属シート、あるいは該金属酸化物の被覆層を有する金属シート、炭素繊維強化樹脂(CFRP)シート、アモルファスカーボンシートなどを用いることができる。支持体の厚みは50μm~2,000μmであることが好ましく、50~1,000μmであることがより好ましい。
【0087】
積層型シンチレータパネルと支持体とを貼り合わせる方法に特に指定は無いが、例えば接着剤や両面テープ、ホットメルトシートなどを用いることが出来る。積層型シンチレータパネルを支持体と貼りあわせた後に、接合面と反対の面を平坦化加工しても良い。
【0088】
積層型シンチレータパネルと支持体の間には、目的用途に応じて、シンチレータの発光を反射する層もしくは吸収する層を設けても良い。シンチレータの発光を反射する層を設けることで輝度が向上し、シンチレータの発光を吸収する層を設けることで鮮鋭性が向上する。シンチレータの発光を反射する機能もしくは吸収する機能を支持体自体が有していても良い。
【0089】
光電変換センサー
本発明に係るシンチレータパネルの一実施態様には、さらに光電変換センサーを備える。
光電変換センサーは、シンチレータ層で発生した発光光を吸収して、電荷の形に変換することで電気信号に変換して、発光光に含まれる情報を電気信号として放射線検出器の外部に出力する機能を有している。光電変換センサーは、その機能を果たせるものであれば特に制限されず、従来公知のものとすることができる。
【0090】
光電変換センサーは、光電変換素子がセンサーパネルに組み込まれたものである。光電変換センサーの構成は特に制限されないが、通常、光電変換素子のセンサーパネル用基板と、画像信号出力層と、光電変換素子とがこの順で積層されている。
【0091】
光電変換素子は、シンチレータ層で発生した光を吸収して、電荷の形に変換する機能を有する限り、どのような具体的な構造を有していてもよく、例えば、透明電極と、入射した光により励起されて電荷を発生する電荷発生層と、対電極とからなるものとすることができる。これら透明電極、電荷発生層および対電極は、いずれも、従来公知のものとすることができる。また、光電変換素子は、適当なフォトセンサーから構成されていてもよく、例えば、複数のフォトダイオードを2次元的に配置してなるものであってもよく、あるいは、CCD(Charge Coupled Devices)、CMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)センサーなどの2次元的なフォトセンサーからなるものであってもよい。
【0092】
また、画像信号出力層は、光電変換素子で得られた電荷を蓄積するとともに、蓄積された電荷に基づく信号の出力を行う機能を有する。画像信号出力層は、そのような機能を有する限り、どのような構造を有していてもよく、例えば、光電変換素子で生成された電荷を画素毎に蓄積する電荷蓄積素子であるコンデンサと、蓄積された電荷を信号として出力する画像信号出力素子であるトランジスタとを用いて構成することができる。ここで、好ましいトランジスタの例として、TFT(薄膜トランジスタ)が挙げられる。
【0093】
光電変換センサーでは、複数の光電変換素子が同一平面状でマトリクス上に配置されており、各々の光電変換素子(画素)において光信号を電気信号に変換し、その電気信号を画素ごとに逐次撮像素子外に出力する。
【0094】
光電変換素子の検出画素(ディテクター画素ともいう、P1)と、一対のシンチレータ層と非シンチレータ層の入射方向に対して垂直方向の厚さ(積層ピッチ、P2)とが、P1>P2であることが好ましい。このように光検出画素と積層ピッチを構成すると、輝度や鮮鋭性を高めることが可能となる。
【0095】
積層型シンチレータパネルを光電変換パネルに対向させることで、放射線によるシンチレータの発光を電気信号に変換しデジタル画像を取得することが出来る。積層型シンチレータパネルと光電変換パネルは非接触に対向させてもいが、積層型シンチレータパネルと光電変換パネル界面での光学ロスを低減するためには、屈折率が1.0(空気)を超える透明な材料(光透過性材料)で接合されていることが好ましい。
【0096】
光透過性材料層
光透過性材料層は、有機樹脂から構成される。光透過性材料層は、多層構成のものでも、空気層及び接着機能層等を含むものであってもよい。
【0097】
光透過性材料層が、積層型シンチレータの表面と光電変換素子センサーの表面とにそれぞれ密接する状態に形成される。
光透過性材料層の厚さは、積層型シンチレータからの発光を拡散させないためには薄くする必要があり、好ましくは50μm以下が好適であるが、より好ましくは30μm以下である。
【0098】
光透過性材料層を構成する成分としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、熱硬化樹脂、ホットメルトシート、感圧性接着シートが好ましい。
熱硬化樹脂としては、例えば、アクリル系やエポキシ系、シリコーン系等を主成分とする樹脂が挙げられる。なかでもアクリル系及びシリコン系等を主成分とする樹脂が低温熱硬化の観点より好ましい。市販品では、例えば、東レダウコーニング(株)製 メチルシリコーン系 JCR6122等が挙げられる。
【0099】
本発明におけるホットメルトシートとは、水や溶剤を含まず、室温では固形であり、不揮発性の熱可塑性材料からなる接着性樹脂(以下、ホットメルト樹脂)をシート状に成形したものである。被着体の間にホットメルトシートを挿入し、融点以上の温度でホットメルトシートを溶融後、融点以下の温度で固化させることにより、ホットメルトシートを介して被着体同士を接合する事が出来る。ホットメルト樹脂は極性溶媒、溶剤、および水を含んでいないため、潮解性を有する蛍光体層(例えば、ハロゲン化アルカリからなる柱状結晶構造を有する蛍光体層)に接触しても蛍光体層を潮解させないため、光電変換素子と蛍光体層の接合に適している。 また、ホットメルトシートは残留揮発物を含んでいないことで、乾燥による収縮が小さく、間隙充填性や寸法安定性にも優れている。
【0100】
ホットメルトシートとしては、具体的には主成分により、例えばポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系、アクリル系、EVA系等の樹脂をベースにしたものが挙げられる。なかでも光透過性、接着性の観点から、ポリオレフィン系、EVA系、アクリル系樹脂をベースにしたものが好ましい。
【0101】
光透過性材料層が、感圧性接着シートであってもよい。感圧性接着シートとしては、具体的には、アクリル系、ウレタン系、ゴム系及びシリコン系等を主成分としたものが挙げられる。なかでも光透過性、接着性の観点から、アクリル系及びシリコン系等を主成分としたものが好ましい。
【0102】
光透過性材料層は、熱硬化樹脂の場合、シンチレータ層又は光電変換素子の上にスピンコート、スクリーン印刷、及びディスペンサー等の手法により、塗布される。
ホットメルトシートの場合、積層型シンチレータと光電変換素子の間にホットメルトシートを挿入し、減圧下で、加熱することによって、光透過性材料層が形成される。
【0103】
感圧性接着シートは、ラミネーション装置等により貼り合せる。
さらに、光透過性材料層はファイバオプティクスプレート(FOP)から構成されていてもよい、FOPは数μmの光ファイバを束にした光学デバイスであり、入射された光を高効率、低歪みで光電変換素子に伝搬する事が可能である。また、FOPは放射線遮蔽効果が高く、放射線画像変換器に使用される光検出器を構成する各種素子への放射線ダメージを防ぐことも可能である。
【0104】
FOPはその放射線遮蔽率、可視光透過率などから市販のものを選択する事が可能である。FOPは接続部材を介して、区画化シンチレータおよび光電変換素子パネルと接合される。接続部材としては、両面粘着の粘着シート、液体硬化タイプの粘着材、又は接着剤等が用いられる。特に好適には、光学用粘着シート又は粘着材が用いられる。接着材としては、有機材料、無機材料の何れを用いても良い。例えば、アクリル系、エポキシ系、シリコン系、天然ゴム系、シリカ系、ウレタン系、エチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、セルロース系等が適宜用いられる。これらは単体でも混合でも用いられる。また、粘着シートの構造としては、PET等の芯材の両面に粘着層を形成したもの、芯材なしで単層の粘着層としてシート化されたもの等が用いられる。
【0105】
光透過性材料層の屈折率n3としたときに、非シンチレータ層の屈折率n2との関係が、さらに、式(C)で表される関係を満足することが好ましい。この関係を満足すると、シンチレーターの発光を効率よく検出器へ導く事が可能となる。
1.0 < (n3/n2) ・・・・(C)
【0106】
このような本発明によれば、シリコンウェハ使用とは全く異なる概念で、大面積化・厚層化が可能な積層型シンチレータパネルが提供できる。
【0107】
本発明によれば、シンチレータ層と非シンチレータ層の屈折率が調整されているので、光が非シンチレータ層を通って、検出器に伝えることができるため、輝度や鮮鋭性が低下することもない。また、この積層型シンチレータパネルは、従来困難であった大面積化や厚層化も可能であり、積層ピッチも任意に調整できる。このため本発明にかかる積層型シンチレータパネルは、タルボ・システム用途を始めとする各種区画化シンチレータとして使用することができる。また、本発明のシンチレータ層を、重金属等を含有する高X線吸収層に変更することで、G0格子、G1格子、G2格子等、タルボ用の各種格子の製造方法にも応用することが出来る。
【0108】
本発明のシンチレータまた、シンチレータパネルがG2格子の機能を既に持ち合わせているため、図3に示すように、G2格子は装置から取り外した状態でも使用できる。なお、タルボ撮影装置について、特開2016-220865号公報、特開2016-220787号公報、特開2016-209017号公報、特開2016-150173号公報などに詳細に記載されている。
【0109】
実施例
以下、本発明を実施例により説明するが本発明はかかる実施例に何ら制限されるものではない。
[実施例1]
平均粒径2μmのGd2O2S:Tb粒子とバインダー樹脂(ポリウレタン樹脂:屈折率1.4)を固形分比率(体積分率)が(50:50)となるようにMEK溶媒中で混合し、シンチレータ層形成用の組成物を得た。この組成物を、理論膜厚が2.7μm(重量より算出)の屈折率1.6のポリエチレンテレフタレートからなる透明樹脂フィルム(非シンチレータ層)上に、理論膜厚が2.6μm(重量より算出)になるようにコートすることで、シンチレータ層と非シンチレータ層からなる部分積層体を作製した。
【0110】
その後、上記部分積層体を120mm×3mmに断裁したものを20,000枚積層した。本積層体の実測膜厚は140mmであった。続いて、上記積層体の膜厚が120mmになるよう、金属製の治具を用いて圧力0.2GPaの条件で積層面に対して平行に加圧し、更にこの状態で、100℃、1時間加熱することで20,000層の部分積層体よりなる積層ブロック(120mm×120mm×3mm)を作製した。
【0111】
シンチレータ層内の空隙率を、蛍光体粒子とバインダー樹脂の量及び層厚から、算出し、シンチレータ層内でのバインダー樹脂と空隙比から平均屈折率を算出した。
上記積層ブロックの片側(120mm×120mmの面)を旋盤加工により平坦化した後、エポキシ接着剤を塗布し、0.5mm厚のCFRP板に貼り合せた。その後、上記積層ブロックの厚さを 0.3mmになるまで旋盤加工により切削することで積層型シンチレータパネル(120mm×120mm×0.3mm)を得た。
【0112】
[実施例2]
実施例1において、バインダー樹脂としてポリスチレン樹脂(屈折率1.6)を使用し、非シンチレータ層として屈折率1.4の低屈折アクリレートからなる透明樹脂フィルムに変更した以外は実施例1と同様にして積層型シンチレータパネルを作製した。
【0113】
[比較例1]
実施例1において、バインダー樹脂としてフッ素樹脂(屈折率1.3)を使用し、非シンチレータ層として屈折率1.7の透明ポリイミドからなる透明樹脂フィルムに変更した以外は実施例1と同様にして積層型シンチレータパネルを作製した。
【0114】
[比較例2]
実施例1において、バインダー樹脂として高屈折アクリレート(屈折率1.7)を使用し、非シンチレータ層として屈折率1.3のフッ素樹脂からなる透明樹脂フィルムに変更した以外は実施例1と同様にして積層型シンチレータパネルを作製した。
【0115】
<輝度評価>
作製した積層型シンチレータパネルをCMOSフラットパネル(ラドアイコン社製X線CMOSカメラシステムShad-o-Box6KHS)にセットし、積層型シンチレータパネルとX線管球との距離を172cmに設定した上で、管電圧60KvpのX線を照射した。得られたX線画像データから、X線画像全面の平均シグナル値を求めてシンチレータパネルの輝度とし、比較例2を1としたときの相対値を相対輝度として算出した。
【0116】
<鮮鋭度>
次に、フォトダイオードとTFTによって構成された画素サイズ100μm×100μmの光電変換素子を、センサー形成用のガラス基板(0.5mm厚の無アルカリガラス)上にマトリックス状に配置したセンサーパネルを準備し、前記積層型シンチレータとセンサーパネルの光電変換素子が対向するように位置合わせし、ホットメルト樹脂からなる厚(5.3)μmの接着剤層を介して接合することでX線検出器を作製した。
【0117】
管電圧を80kVpに設定したX線照射装置を用いて、鉛製のMTFチャートを通して、上記シンチレータパネルにX線を照射し、CMOSフラットパネルで検出された画像データをハードディスクに記録した。その後、ハードディスク上の画像データの記録をコンピュータで分析して、当該ハードディスクに記録されたX線画像の変調伝達関数MTF(空間周波数1サイクル/mmにおけるMTF値)を求め、比較例2を1としたときの相対値を相対鮮鋭度として算出した。
【0118】
結果を合わせて、表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
以上の実施形態を述べたが、本発明はこれらに限られるものではなく、目的、状態、用途、機能、およびその他の仕様の変更が適宜可能であり、他の実施形態によっても実施されうることは言うまでもない。
図1
図2
図3
図4