(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体溶液、多孔質ポリイミドフィルムの製造方法、及び、多孔質ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20220511BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220511BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220511BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20220511BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220511BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220511BHJP
C08J 9/26 20060101ALI20220511BHJP
C08F 12/08 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08K3/013
C08K3/36
C08K5/17
C08G73/10
C08L101/00
C08J9/26 102
C08J9/26 CFG
C08F12/08
(21)【出願番号】P 2018010345
(22)【出願日】2018-01-25
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】額田 克己
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 知也
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 英一
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-183333(JP,A)
【文献】特開2008-088372(JP,A)
【文献】特開2010-260955(JP,A)
【文献】特開2012-025847(JP,A)
【文献】国際公開第2005/073288(WO,A1)
【文献】特開2007-063548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-9/42,
C08K3/00-13/08,
C08L1/00-101/14,
C08G73/10,
C08F12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む水性溶剤、前記水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、体積平均粒径が
5nm以上
65nm以下である無機粒子、及びポリイミド前駆体を含有する
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項2】
前記樹脂粒子の体積平均粒径が、0.1μm以上1.0μm以下であり、前記無機粒子の体積平均粒径よりも大きい請求項1記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項3】
前記樹脂粒子の体積平均粒径が、0.25μm以上0.98μm以下である請求項2記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項4】
前記樹脂粒子と前記無機粒子との質量比(前記樹脂粒子/前記無機粒子)が、100/100以上100/0.5以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項5】
記樹脂粒子と前記無機粒子との質量比(前記樹脂粒子/前記無機粒子)が、100/20以上100/0.9以下である請求項4に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項6】
前記樹脂粒子が、表面に酸性基を有する樹脂粒子である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項7】
前記樹脂粒子の含有量が、ポリイミド前駆体100質量部に対し、20質量部以上600質量部以下である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項8】
前記樹脂粒子の含有量が、ポリイミド前駆体100質量部に対し、30質量部以上500質量部以下である請求項7に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項9】
前記無機粒子の含有量が、ポリイミド前駆体100質量部に対し、5質量%以上30質量%以下である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項10】
前記無機粒子がシリカ粒子である請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項11】
さらに有機アミン化合物を含む請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項12】
前記有機アミン化合物が、3級アミン化合物である請求項11に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項13】
ポリイミド前駆体溶液中での前記樹脂粒子の体積粒度分布が少なくとも1つの極大値を有し、前記極大値のうち、最も体積頻度が大きくなる極大値Aの2倍以上になる粒子の体積頻度の占める割合が、前記極大値Aの体積頻度に対して5%以下である請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項14】
前記水性溶剤の全量に対する前記水の含有量が、50質量%以上100質量%以下である請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項15】
前記水性溶剤の全量に対する前記水の含有量が、80質量%以上100質量%以下である請求項14に記載の
多孔質ポリイミドフィルム形成用ポリイミド前駆体溶液。
【請求項16】
請求項1~請求項15のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液を塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥して、前記ポリイミド前駆体、前記樹脂粒子及び前記無機粒子を含む被膜を形成する第1の工程と、
前記被膜を加熱して、前記ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドフィルムを形成する第2の工程であって、前記樹脂粒子を除去する処理を含む第2の工程と、
を有する多孔質ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項17】
空孔径の平均値が1.0μm以下である球状の空孔を備え、体積平均粒径が
5nm以上
65nm以下である無機粒子を含む多孔質ポリイミドフィルム。
【請求項18】
空孔径の平均値が1.0μm以下である球状の空孔を備え、体積平均粒径が
5nm以上
65nm以下である無機粒子を含み、透気速度が10秒以上30秒以下である多孔質ポリイミドフィルム。
【請求項19】
前記無機粒子の含有量が多孔質ポリイミドフィルムの全体に対し、5質量%以上30質量%以下である請求項17又は請求項18に記載の多孔質ポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体溶液、多孔質ポリイミドフィルムの製造方法、及び、多孔質ポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、機械的強度、化学的安定性、耐熱性に優れた特性を有する材料であり、これらの特性を有する多孔質のポリイミドフィルムが注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、単分散球状無機粒子の最密充填堆積体を焼成して無機粒子の焼結体を形成し、この焼結体の無機粒子間隙にポリアミック酸を充填した後、焼成して形成されたポリイミド樹脂とし、その後、無機粒子は溶解するが樹脂は溶解しない溶液に浸漬して、無機粒子を溶解除去するリチウム二次電池用セパレータの製造方法が記載されている。
特許文献2には、ポリイミドからなる孔を有する有機多孔体と、孔内にカチオン成分とアニオン成分とを含有する電解質材料を保持したイオン伝導体が記載されている。
特許文献3には、ポリアミド酸若しくはポリイミド、シリカ粒子及び溶媒を混合してワニスを製造する、又はシリカ粒子が分散した溶剤中でポリアミド酸若しくはポリイミドを重合してワニスを製造するワニス製造工程、ワニス製造工程で製造されたワニスを基材に製膜後、イミド化を完結させて、ポリイミド-シリカ複合膜を製造する複合膜製造工程、及び、複合膜製造工程で製造されたポリイミド-シリカ複合膜のシリカを除去するシリカ除去工程を有する多孔質ポリイミド膜の製造方法が記載されている。
特許文献4には、シリカ粒子を充填後、焼結して、多孔質シリカ製鋳型を得る多孔質シリカ製鋳型の製造工程、多孔質シリカ製鋳型の製造工程で得られた多孔質シリカ製鋳型の空隙にポリイミドを充填するポリイミド充填工程およびポリイミドが充填された多孔質シリカ製鋳型からシリカを除去して、多孔質ポリイミドを得るシリカ除去工程を有する多孔質ポリイミドの製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献5には、ポリアミック酸の良溶剤である非プロトン性極性溶剤、樹脂粒子、ポリアミック酸の貧溶剤であるエタノールなどの混合有機溶剤を含む樹脂粒子分散ポリアミック酸混合溶液を用いた多孔質ポリイミドフィルムの製造方法が記載されている。
特許文献6には、水性溶剤に樹脂粒子が分散された樹脂粒子分散液中で、有機アミン化合物の存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合してポリイミド前駆体を形成する樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液の製造方法と、それを用いた多孔質ポリイミドフィルムが記載されている。
【0005】
特許文献7および特許文献8には、アルコキシシランなどのシリカ前駆体を用い、特定の平均孔径を有するマクロ孔と特定の平均孔径を有するメソ孔とを有する多孔質ポリイミドに、特定の平均粒径を示すシリカ粒子が分散してなり、シリカ成分を50質量%以下で含むポリイミド-シリカ複合多孔体が記載されている。また、この複合多孔体は、低誘電率基材として有効であることが記載されている。
特許文献9には、融点が170℃以上の合成樹脂を主剤とする樹脂材料と、フィラー粒子とにより形成された連続した空孔を有する多孔質膜よりなり、該フィラー粒子として多孔性シリカ粒子を含有する電子部品用セパレータが記載されている。
特許文献10には、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリイミド中にシリカ粒子等を含有させ、相分離等により多孔質化し、フィルム同士の摩擦係数が特定の範囲である多孔質フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許5331627号公報
【文献】特開2008-034212号公報
【文献】特開2012-107144号公報
【文献】特開2011-111470号公報
【文献】国際公開2014/196656号
【文献】特開2016-183333号公報
【文献】国際公開2014/057898号
【文献】特開2015-199845号公報
【文献】特開2006-338918号公報
【文献】特開2007-204518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水を含む水性溶剤、水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、及びポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体溶液中で樹脂粒子を均一に近い状態に分散させることが可能である。そして、このポリイミド前駆体溶液を用いることで、均一に近い空孔が形成された多孔質フィルムを得ることができる。
しかしながら、連続してフィルムを形成するために(以下、連続して形成されたフィルムを「連続フィルム」と称する。)、上記のポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布して、多孔質ポリイミドフィルムを形成する場合、得られた多孔質ポリイミドフィルムと基材との接着性が高く、基材からの剥離性が低い場合があった。剥離性が低い場合に、基材から多孔質ポリイミドフィルムを剥離しようとすると、多孔質ポリイミドフィルムが断裂してしまう場合があった。さらに、樹脂粒子の分散性が低い場合、得られた多孔質ポリイミドフィルムには、ピンホールが発生する場合があった。
【0008】
本発明の課題は、樹脂粒子を含むポリイミド前駆体溶液において、ポリイミド前駆体溶液が、水を含む水性溶剤、水を含む水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、有機アミン化合物、及びポリイミド前駆体のみ含む場合、又は水を含む水性溶剤、水を含む水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、有機アミン化合物、体積平均粒径が0.2μmを超えるシリカ粒子、及びポリイミド前駆体のみ含む場合に比べ、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する多孔質ポリイミドフィルムが得られるポリイミド前駆体溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
【0010】
<1> 水を含む水性溶剤、前記水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下である無機粒子、及びポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体溶液。
【0011】
<2> 前記樹脂粒子の体積平均粒径が、0.1μm以上1.0μm以下であり、前記無機粒子の体積平均粒径よりも大きい<1>記載のポリイミド前駆体溶液。
<3> 前記樹脂粒子の体積平均粒径が、0.25μm以上0.98μm以下である<2>記載のポリイミド前駆体溶液。
<4> 前記樹脂粒子と前記無機粒子との質量比(前記樹脂粒子/前記無機粒子)が、100/100以上100/0.5以下である<1>~<3>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
<5> 前記樹脂粒子と前記無機粒子との質量比(前記樹脂粒子/前記無機粒子)が、100/20以上100/0.9以下である<4>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<6> 前記樹脂粒子が、表面に酸性基を有する樹脂粒子である<1>~<5>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
<7> 前記樹脂粒子の含有量が、ポリイミド前駆体100質量部に対し、20質量部以上600質量部以下である<1>~<6>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
<8> 前記樹脂粒子の含有量が、ポリイミド前駆体100質量部に対し、30質量部以上500質量部以下である<7>に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0012】
<9> 前記無機粒子の含有量が、ポリイミド前駆体100質量部に対し、5質量%以上30質量%以下である<1>~<8>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
<10> 前記無機粒子がシリカ粒子である<1>~<9>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
<11> さらに有機アミン化合物を含む<1>~<10>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
<12> 前記有機アミン化合物が、3級アミン化合物である<11>に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0013】
<13> ポリイミド前駆体溶液中での前記樹脂粒子の体積粒度分布が少なくとも1つの極大値を有し、前記極大値のうち、最も体積頻度が大きくなる極大値Aの2倍以上になる粒子の体積頻度の占める割合が、前記極大値Aの体積頻度に対して5%以下である<1>~<12>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
<14> 前記水性溶剤の全量に対する前記水の含有量が、50質量%以上100質量%以下である<1>~<13>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
<15> 前記水性溶剤の全量に対する前記水の含有量が、80質量%以上100質量%以下である<14>に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0014】
<16> <1>~<15>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液を塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥して、前記ポリイミド前駆体、前記樹脂粒子及び前記無機粒子を含む被膜を形成する第1の工程と、
前記被膜を加熱して、前記ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドフィルムを形成する第2の工程であって、前記樹脂粒子を除去する処理を含む第2の工程と、
を有する多孔質ポリイミドフィルムの製造方法。
【0015】
<17> 空孔径の平均値が1.0μm以下である球状の空孔を備え、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下である無機粒子を含む多孔質ポリイミドフィルム。
<18> 空孔径の平均値が1.0μm以下である球状の空孔を備え、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下である無機粒子を含み、透気速度が10秒以上30秒以下である多孔質ポリイミドフィルム。
<19> 前記無機粒子の含有量が多孔質ポリイミドフィルムの全体に対し、5質量%以上30質量%以下である<17>又は<18>に記載の多孔質ポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0016】
<1>に係る発明によれば、樹脂粒子を含むポリイミド前駆体溶液において、ポリイミド前駆体溶液が、水を含む水性溶剤、水を含む水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、有機アミン化合物、及びポリイミド前駆体のみ含む場合、又は水を含む水性溶剤、水を含む水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、有機アミン化合物、体積平均粒径が0.2μmを超えるシリカ粒子、及びポリイミド前駆体のみ含む場合に比べ、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する多孔質ポリイミドフィルムが得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0017】
<2>、<3>に係る発明によれば、樹脂粒子の体積平均粒径が1.0μmを超える場合に比べ、ポリイミド前駆体溶液の樹脂粒子の分散性に優れるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<4>、<5>に係る発明によれば、樹脂粒子/無機粒子の質量比が、100/100未満又は100/0.5を超える場合に比べ、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する多孔質ポリイミドフィルムが得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<6>に係る発明によれば、樹脂粒子が、表面に酸性基を有さない樹脂粒子である場合に比べ、ピンホールの発生が抑制される多孔質ポリイミドフィルムが得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<7>、<8>に係る発明によれば、ポリイミド前駆体溶液が、水を含む水性溶剤、水を含む水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、有機アミン化合物、及びポリイミド前駆体のみ含む場合、又は水を含む水性溶剤、水を含む水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、有機アミン化合物、体積平均粒径が0.2μmを超えるシリカ粒子、及びポリイミド前駆体のみ含む場合に比べ、樹脂粒子の含有量が、ポリイミド前駆体固形分100質量部に対し、20質量部以上600質量部以下であっても、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する多孔質ポリイミドフィルムが得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<9>に係る発明によれば、無機粒子の含有量が、ポリイミド前駆体固形分100質量部に対し、5質量部未満又は30質量部を超える場合に比べ、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する多孔質ポリイミドフィルムが得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<10>に係る発明によれば、ポリイミド前駆体溶液が、水を含む水性溶剤、水を含む水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、有機アミン化合物、及びポリイミド前駆体のみ含む場合、又は水を含む水性溶剤、水を含む水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、有機アミン化合物、体積平均粒径が0.2μmを超えるシリカ粒子、及びポリイミド前駆体のみ含む場合に比べ、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する多孔質ポリイミドフィルムが得られる、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下であるシリカ粒子を含むポリイミド前駆体溶液が提供される。
<11>、<12>に係る発明によれば、ポリイミド前駆体溶液は、有機アミン化合物を有することで水を含む水性溶剤中での溶解性が優れ、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する多孔質ポリイミドフィルムが得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0018】
<13>に係る発明によれば、ポリイミド前駆体溶液中での前記樹脂粒子を含む粒子の体積粒度分布が少なくとも1つの極大値を有し、前記極大値のうち、最も体積頻度が大きくなる極大値Aの2倍以上になる前記樹脂粒子を含む粒子の体積頻度の占める割合が、前記極大値Aの体積頻度に対して5%を超える場合に比べ、ピンホールの発生が抑制される多孔質ポリイミドフィルムが得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<14>、<15>に係る発明によれば、水性溶媒全量に対する水の含有量が50質量%未満の場合に比べ、樹脂粒子の溶解、膨潤が抑制され、ピンホールの発生が抑制されるとともに、空孔形状がより均一で、基材からの剥離性が向上する多孔質ポリイミドフィルムが得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0019】
<16>に係る発明によれば、樹脂粒子を含むポリイミド前駆体溶液を塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥して、前記ポリイミド前駆体、前記樹脂粒子を含む被膜を形成する第1の工程と、前記被膜を加熱して、前記ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドフィルムを形成する第2の工程であって、前記樹脂粒子を除去する処理を含む第2の工程と、を有する多孔質ポリイミドフィルムの製造方法において、ポリイミド前駆体溶液が、水を含む水性溶剤、水を含む水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、有機アミン化合物、及びポリイミド前駆体のみ含む場合、又は水を含む水性溶剤、水を含む水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、有機アミン化合物、体積平均粒径が0.2μmを超えるシリカ粒子、及びポリイミド前駆体のみ含む場合に比べ、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する多孔質ポリイミドフィルムが得られる多孔質ポリイミドフィルムの製造方法が提供される。
【0020】
<17>、<18>、<19>に係る発明によれば、多孔質ポリイミドフィルムが、体積平均粒径が0.2μmを超える無機粒子を含む場合に比べ、ピンホールの発生が抑制される多孔質ポリイミドフィルムが得られる多孔質ポリイミドフィルムの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態のポリイミド前駆体溶液を用いて得られた多孔質ポリイミドフィルムの形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0023】
<ポリイミド前駆体溶液>
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、水を含む水性溶剤、前記水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下である無機粒子、及びポリイミド前駆体を含有する。
ここで、本明細書中において、「溶解しない」とは、25℃において、対象物質が対象液体に対して3質量%以下の範囲内で溶解することも含む。
【0024】
ポリイミドフィルムは、例えば、有機溶剤に溶解したポリイミド前駆体溶液(例えば、N-メチルピロリドン(以下、「NMP」と称することがある。)、N,N-ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」と称することがある。)等の高極性有機溶剤に溶解した状態のポリイミド前駆体溶液を塗布した後、加熱成形して得られる。
【0025】
ポリイミドフィルムの連続フィルムを形成するために、基材を用いて多孔質フィルムを形成する。この基材としては、例えば、金属基材(金属製の基材;金属製の無端ベルトなど)が挙げられ、連続フィルムは、金属基材上に、有機溶剤に溶解したポリイミド前駆体溶液を塗布した後、加熱形成して製造される場合が多い。
しかしながら、基材として、特に、金属基材を用いた場合、ポリイミドフィルムは金属基材と密着性が高く、剥離しにくい場合がある。そのため、剥離性の向上を目的として、シリコーンオイル、脂肪族ホスフェートなどの離型剤が用いられる。
【0026】
ところで、水を含む水性溶剤、水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、及びポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体溶液中で樹脂粒子を均一に近い状態で分散することが可能である。このポリイミド前駆体溶液を用いて得た多孔質ポリイミドフィルムは、均一に近い空孔が形成される。そして、このポリイミド前駆体溶液を用いる場合も、多孔質ポリイミドフィルムの連続フィルムを形成するために、樹脂粒子を分散させたポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布した後、加熱成形して製造する場合が多い。
【0027】
しかしながら、離型剤(シリコーンオイルなど)を基材上に塗布すると、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、水性溶剤を用いてポリイミド前駆体を溶解しているため、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜に、はじきが生じやすくなる場合がある。一方で、基材上に離型剤を塗布しないと、加熱成形した後のポリイミドフィルムは基材との接着性が高くなり、剥離性が低い場合がある。また、剥離性が低い場合に、基材から多孔質ポリイミドフィルムを剥離しようとすると、多孔質ポリイミドフィルムが断裂してしまう場合があった。特に、基材として金属基材を用いた場合、これらの現象が見られる傾向が顕著であった。
【0028】
多孔質ポリイミドフィルムは、目的に応じて、無機粒子、樹脂粒子等の粒子を混合したポリイミド前駆体溶液が使用されて形成される。例えば、高極性有機溶剤に溶解したポリイミド前駆体溶液に無機粒子を混合して、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製した場合、このポリイミド前駆体溶液中において、無機粒子の分散性は低い場合がある。
【0029】
一方、高極性有機溶剤に溶解したポリイミド前駆体溶液に樹脂粒子を混合する場合、一般的な樹脂粒子(例えば、ポリスチレン樹脂粒子等)では、高極性有機溶剤により、樹脂粒子が溶解する場合があり、このポリイミド前駆体溶液中において、樹脂粒子の分散性は低い。また、例えば、高極性有機溶剤に溶解し難い樹脂粒子を乳化重合等により作製した場合には、高極性有機溶剤に溶解したポリイミド前駆体溶液と混合するために、高極性有機溶剤に置換する場合がある。この場合、高極性有機溶剤に置換するために、樹脂粒子の分散液から樹脂粒子を取り出す場合があり、取り出された樹脂粒子は、凝集することがあり、分散性が低い場合がある。また、水を含む水性溶剤、水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、及びポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体溶液においても、樹脂粒子の分散性が低く、樹脂粒子の凝集が生じる場合がある。
【0030】
そして、例えば、樹脂粒子の凝集が生じたポリイミド前駆体溶液を用いて多孔質ポリイミドフィルムを形成した場合、多孔質ポリイミドフィルムには、ピンホールが発生する場合がある。
なお、本明細書中において、ピンホールは、樹脂粒子の除去によって得られた空孔と区別される。ピンホールは、表面から裏面まで貫通した貫通孔のことを表す。具体的には、径が0.1mm以上0.5mm以下程度の、使用した樹脂粒子径よりも明らかに大きく、目視でも確認できるものである。
【0031】
これに対し、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、上記構成により、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する。この理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0032】
水性溶剤、水性溶剤に溶解しない樹脂粒子、及びポリイミド前駆体に加えて、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子を含有させた場合、ポリイミド前駆体溶液中に、無機粒子が分散する。そして、この無機粒子が分散したポリイミド前駆体溶液を基材に塗布した後、加熱形成することで、得られた多孔質ポリイミドフィルムの基材側にも無機粒子が存在する。そのため、多孔質ポリイミドフィルムの表面に存在する無機粒子と基材とが接触することにより、多孔質ポリイミドフィルムと基材との接触面積が低下することで、基材からの剥離性が高まるものと推測される。なお、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を用いることで、得られる多孔質ポリイミドフィルムは、上記作用により基材からの剥離性が向上しているため、基材として、金属基材を用いた場合であっても、金属基材からの剥離性が向上すると考えられる。
【0033】
また、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子を含有させても、ポリイミド前駆体溶液中における樹脂粒子の分散性の低下が抑制されることで、樹脂粒子の凝集が抑制されていると考えられる。そのため、多孔質ポリイミドフィルムのピンホールの発生が抑制されると推測される。
【0034】
以上から、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、上記構成により、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を用いて形成した多孔質ポリイミドフィルムは、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上するものと推測される。
【0035】
なお、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を用いて、塗膜を形成し、この塗膜を乾燥させて被膜を形成する第1の工程と、この被膜を加熱してイミド化される第2の工程とを有し、第2の工程で樹脂粒子を除去する処理によって、本実施形態の多孔質ポリイミドフィルムが得られる。この製造方法によって得られた多孔質ポリイミドフィルムは、空孔の分布のバラつきが抑制されやすい。また、空孔の形状、空孔径等のバラつきが抑制されやすい。この理由は、以下のように推測される。
【0036】
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、樹脂粒子及び体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子の分散性が向上しているため、樹脂粒子を除去した後の多孔質ポリイミドフィルムは、空孔の分布のバラつきが抑制されやすいと考えられる。
また、樹脂粒子を用いることにより、空孔の形状、空孔径等はバラつきが抑制されやすいと考えられる。これは、ポリイミド前駆体のイミド化工程において、体積収縮による残留応力の緩和も有効に寄与しているためであると考えられる。
【0037】
さらに、水性溶剤に、ポリイミド前駆体を溶解させているため、ポリイミド前駆体溶液の沸点は100℃程度になる。そのため、ポリイミド前駆体と樹脂粒子、及び、シリカ粒子とを含む被膜を加熱するに伴って、速やかに溶剤が揮発した後、イミド化反応が進行する。そして、被膜中の樹脂粒子が熱による変形が生じる前に、流動性を失うとともに有機溶剤に不溶となる。そのため、空孔の形状が保持されやすくなるためとも考えられる。
【0038】
そして、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を用いて、樹脂粒子、及び、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子を含有するポリイミドフィルムを形成し、樹脂粒子を除去して得られた本実施形態の多孔質ポリイミドフィルムは、亀裂の発生が抑制されやすい。これは、本実施形態の多孔質ポリイミドフィルムの製造方法において、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子を用いることにより、ポリイミド前駆体のイミド化工程において、上記無機粒子が分散されたナノコンポジット(ナノ粒子が分散した複合材料)状態となる考えられるため、残留応力の緩和、強度向上に有効に寄与しているものと推測される。
【0039】
以下、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液とその製造方法について説明する。
【0040】
〔ポリイミド前駆体溶液の製造方法〕
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液の製造方法は、以下の方法が挙げられる。
まず、水性溶剤に、樹脂粒子が分散された樹脂粒子分散液を準備する。その後、前記樹脂粒子分散液中に、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子を分散させた後、例えば、有機アミン化合物の存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合してポリイミド前駆体を形成する。以下、有機アミン化合物存在下で反応させる場合について説明する。
【0041】
具体的には、水性溶剤に、樹脂粒子が分散された樹脂粒子分散液を準備する工程(以下「樹脂粒子分散液準備工程」と称することがある。)と、樹脂粒子分散液に対し、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子を加えて分散する工程(以下「無機分散工程」と称することがある。)と、さらに、有機アミン化合物、テトラカルボン酸二無水物、及び、ジアミン化合物を混合して、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合してポリイミド前駆体を形成する工程(以下、「ポリイミド前駆体形成工程」と称することがある。)とを有する。
【0042】
なお、ポリイミド前駆体溶液の製造方法は、予め水を含む水性溶剤に溶解したポリイミド前駆体溶液中に、樹脂粒子(乾燥状態の樹脂粒子又は水を含む水性溶剤に分散した樹脂粒子)、及び、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子(乾燥状態の無機粒子又は水を含む水性溶剤に分散した無機粒子)を加え、さらに分散させてもよい。
本実施形態のポリイミド前駆体溶液は、樹脂粒子分散液の作製からポリイミド前駆体溶液の作製まで、一つの系内(例えば、一つの容器内)で得られるため、ポリイミド前駆体溶液を製造する工程が簡略化される。また、樹脂粒子を乾燥、取出しを行うことなく取り扱えるため、乾燥時の凝集を防ぐことが可能となる。この点で、樹脂粒子、及び、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子を水系溶剤中に予め分散させた粒子分散液中で、ポリイミド前駆体を形成することが好ましい。
【0043】
(樹脂粒子分散液準備工程)
樹脂粒子分散液準備工程は、水性溶剤に、樹脂粒子が分散している樹脂粒子分散液が得られるのであれば、その方法は特に限定されない。
例えば、ポリイミド前駆体溶液に溶解しない樹脂粒子と、樹脂粒子分散液用の水性溶剤と、をそれぞれ計量し、これらを混合、攪拌して得る方法が挙げられる。樹脂粒子と水性溶剤とを混合、攪拌する方法は特に制限されない。例えば、水性溶剤を攪拌しながら樹脂粒子を混合する方法などが挙げられる。また、樹脂粒子の分散性を高める点で、例えば、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤との少なくとも一方を混合してもよい。
【0044】
また、樹脂粒子分散液は、前記水性溶剤中で樹脂粒子を造粒した樹脂粒子分散液であってもよい。水性溶剤中で樹脂粒子を造粒する場合、水性溶剤中で単量体成分を重合して形成された樹脂粒子分散液を作製してもよい。この場合、公知の重合法によって得られた分散液であってもよい。例えば、樹脂粒子が、ビニル樹脂粒子である場合には、公知の重合法(乳化重合、ソープフリー乳化重合、懸濁重合、ミニエマルション重合、マイクロエマルション重合等のラジカル重合法)が適用され得る。
【0045】
例えば、ビニル樹脂粒子の製造に乳化重合法を適用する場合、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤を溶解させた水中に、スチレン類、(メタ)アクリル酸類等のビニル基を有する単量体を加え、さらに必要に応じてドデシル硫酸ナトリウム、ジフェニルオキサイドジスルホン酸塩類等の界面活性剤を添加し、攪拌を行いながら加熱することにより重合を行い、ビニル樹脂粒子が得られる。そして、単量体成分として酸性基を有する単量体を用いることで、表面に酸性基を有するビニル樹脂となる。樹脂粒子が表面に酸性基を有する場合、樹脂粒子の分散性が高まるため好ましい。
【0046】
なお、樹脂粒子分散液形成工程では、上記方法に限られず、水性溶剤に分散された市販品の樹脂粒子分散液を準備してもよい。また、市販品の樹脂粒子分散液を用いる場合、目的に応じて、水性溶剤で希釈等の操作を行ってもよい。さらに、分散性に影響のない範囲で、有機溶剤に分散している樹脂粒子分散液を水性溶剤に置換してもよい。
【0047】
(無機粒子分散工程)
無機粒子分散工程は、水性溶剤に、樹脂粒子が分散している樹脂粒子分散液中で、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子が分散している分散液が得られる(すなわち、樹脂粒子及び前記の無機粒子が分散している分散液が得られる)のであれば、その方法は特に限定されない。
【0048】
無機粒子分散工程は、樹脂粒子が分散している樹脂粒子分散液と、乾燥状態の無機粒子とを混合して、樹脂粒子及び無機粒子が分散した分散液としてもよい。樹脂粒子が分散している樹脂粒子分散液と、無機粒子が分散している無機粒子分散液とを混合して、樹脂粒子及び無機粒子が分散した分散液としてもよい。分散性の点から、樹脂粒子が分散している樹脂粒子分散液と、無機粒子の水性溶剤分散液とを混合して、樹脂粒子及び無機粒子が分散した分散液とすることが好ましい。
【0049】
(ポリイミド前駆体形成工程)
次に、樹脂粒子及び無機粒子を分散させた分散液中で、例えば、有機アミン化合物の存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成してポリイミド前駆体溶液を得る。
この方法によれば、水性溶剤を適用するため、生産性も高く、ポリイミド前駆体溶液が1段階で製造される点で工程の簡略化の点で有利である。
【0050】
具体的には、樹脂粒子分散液準備工程及び無機粒子分散工程で準備した樹脂粒子及び無機粒子が分散した分散液に、有機アミン化合物、テトラカルボン酸二無水物、及びジアミン化合物を混合する。そして、有機アミン化合物の存在下で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して、樹脂粒子分散液中で、ポリイミド前駆体を形成する。なお、樹脂粒子分散液に、有機アミン化合物、テトラカルボン酸二無水物、及びジアミン化合物を混合する順序は特に限定されるものではない。
【0051】
樹脂粒子及び無機粒子を分散させた樹脂粒子分散液中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合する際に、樹脂粒子及び無機粒子分散液中の水性溶剤をそのまま利用してポリイミド前駆体を形成してもよい。また、必要に応じて、水性溶剤を新たに混合してもよい。水性溶剤を新たに混合する場合、水性溶剤は、非プロトン性極性溶剤を少量含む水性溶剤であってもよい。また、目的に応じて、その他の添加剤を混合してもよい。
【0052】
以上の工程により、樹脂粒子、及び、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子が分散したポリイミド前駆体溶液(以下、「樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液」と称する場合がある。)が得られる。
【0053】
次に、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を構成する材料について説明する。
【0054】
(水を含む水性溶剤)
水性溶剤は、樹脂粒子及び無機粒子分散液中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合する際に、樹脂粒子及び無機粒子分散液の作製に用いた樹脂粒子、及び、無機粒子分散液中の水性溶剤をそのまま利用してもよい。また、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合する際に、水性溶剤を重合に適するように調製してもよい。
【0055】
水性溶剤は、水を含む水性溶剤である。具体的には、水性溶剤は、全水性溶剤に対して水を50質量%以上含有する溶剤であることがよい。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、限外濾過水、純水等が挙げられる。
【0056】
水の含有量は、全水性溶剤に対して、50質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、80質量%以上100質量%以下が更に好ましい。
【0057】
樹脂粒子分散液を作製する際に用いる水性溶剤は、水を含む水性溶剤である。具体的には、樹脂粒子分散液用の水性溶剤は、全水性溶剤に対して水を50質量%以上含有する水性溶剤であることがよい。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、限外濾過水、純水等が挙げられる。また、水以外の溶性の有機溶剤を含む場合には、例えば、水溶性アルコール系溶剤を用いてもよい。なお、水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0058】
水性溶剤が水以外の溶剤を含む場合、水以外の溶剤としては、例えば、水溶性有機溶剤、非プロトン性極性溶剤が挙げられる。水以外の溶剤としては、ポリイミドフィルムの透明性、機械的強度等の点から、水溶性の有機溶剤が好ましい。特に、透明性、機械的強度に加え、耐熱性、電気特性、耐溶剤性等のポリイミドフィルムの諸特性向上の点から、水性溶剤は、非プロトン性極性溶剤を含ませてもよい。この場合、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の樹脂粒子の溶解、膨潤を防ぐため、全水性溶剤に対して40質量%以下、好ましくは30質量%以下であることがよい。また、ポリイミド前駆体溶液を乾燥し、フィルム化する際の樹脂粒子の溶解、膨潤を防ぐため、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体固形分に対し、5質量%以上300質量%以下、好ましくは、5質量%以上250質量%以下、より好ましくは、5質量%以上200質量%以下で用いることがよい。ここで、水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0059】
上記水溶性の有機溶剤は、1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。
上記水溶性の有機溶剤としては、後述の樹脂粒子が溶解しないものが好ましい。この理由は、例えば、水と水溶性の有機溶剤とを含む水性溶剤とした場合に、樹脂粒子分散液中で樹脂粒子を溶解していなくても、製膜の過程で樹脂粒子が溶解してしまう懸念があるためであるが、製膜の過程で樹脂粒子の溶解、膨潤が抑制できる範囲で使用してもよい。
【0060】
水溶性エーテル系溶剤は、一分子中にエーテル結合を持つ水溶性の溶剤である。水溶性エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、水溶性エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンが好ましい。
【0061】
水溶性ケトン系溶剤は、一分子中にケトン基を持つ水溶性の溶剤である。水溶性ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中でも、水溶性ケトン系溶剤としては、アセトンが好ましい。
【0062】
水溶性アルコール系溶剤は、一分子中にアルコール性水酸基を持つ水溶性の溶剤である。水溶性アルコール系溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテル、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール等が挙げられる。これらの中でも、水溶性アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテルが好ましい。
【0063】
水性溶剤として水以外の非プロトン性極性溶剤を含有する場合、併用される非プロトン性極性溶剤は、沸点150℃以上300℃以下で、双極子モーメントが3.0D以上5.0D以下の溶剤である。非プロトン性極性溶剤として具体的には、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチレンホスホルアミド(HMPA)、N-メチルカプロラクタム、N-アセチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。
【0064】
なお、水性溶剤として水以外の溶剤を含有する場合、併用される溶剤は、沸点が270℃以下であることがよく、好ましくは60℃以上250℃以下、より好ましくは80℃以上230℃以下である。併用される溶剤の沸点を上記範囲とすると、水以外の溶剤がポリイミドフィルムに残留し難くなり、また、機械的強度の高いポリイミドフィルムが得られ易くなる。
【0065】
ここで、ポリイミド前駆体が溶剤に溶解する範囲は、水の含有量、有機アミン化合物の種類及び量によって制御される。水の含有量が低い範囲では、有機アミン化合物の含有量が少ない領域でポリイミド前駆体は溶解し易くなる。逆に、水の含有量が高い範囲では、有機アミン化合物の含有量が多い領域でポリイミド前駆体は溶解し易くなる。また、有機アミン化合物が水酸基を有するなど親水性が高い場合は、水の含有量が高い領域でポリイミド前駆体は溶解し易くなる。
【0066】
(樹脂粒子)
樹脂粒子としては、水性溶剤に溶解せず、ポリイミド前駆体溶液に溶解しないものであれば、特に限定されないが、ポリイミド以外の樹脂からなる樹脂粒子である。例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の重合性単量体を重縮合して得られた樹脂粒子、ビニル樹脂、オレフィン樹脂、フッ素樹脂等の重合性単量体をラジカル重合して得られた樹脂粒子が挙げられる。ラジカル重合して得られた樹脂粒子としては、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン・(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂の樹脂粒子等が挙げられる。
これらの中でも、樹脂粒子としては、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン・(メタ)アクリル樹脂、及びポリスチレン樹脂からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
なお、本実施形態において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および「メタクリル」のいずれをも含むことを意味するものである。
【0067】
また、樹脂粒子は、架橋されていてもよく、架橋されていなくてもよい。ポリイミド前駆体のイミド化工程において、残留応力の緩和に有効に寄与する点で、架橋されていない樹脂粒子が好ましい。さらに、樹脂粒子分散液は、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液を製造する工程を簡略化する点で、乳化重合によって得られたビニル樹脂粒子分散液であることがより好ましい。
【0068】
樹脂粒子がビニル樹脂粒子である場合、単量体を重合して得られる。ビニル樹脂の単量体としては、以下に示す単量体が挙げられる。例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン等)、ビニルナフタレン等のスチレン骨格を有するスチレン類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)等のビニル基を有するエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル類;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ケイ皮酸、フマル酸、ビニルスルホン酸等の酸類;エチレンイミン、ビニルピリジン、ビニルアミン等の塩基類;等の単量体を重合体させたビニル樹脂単位が挙げられる。
その他の単量体として、酢酸ビニルなどの単官能単量体、エチレングリコールジメタクリレート、ノナンジアクリレート、デカンジオールジアクリレートなどの二官能単量体、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能単量体を併用してもよい。
また、ビニル樹脂は、これらの単量体を単独で用いた樹脂でもよいし、2種以上の単量体を用いた共重合体である樹脂であってもよい。
【0069】
樹脂粒子は、分散性が向上し、ピンホールの発生が抑制される点で、表面に酸性基を有することが好ましい。樹脂粒子の表面に存在する酸性基は、ポリイミド前駆体を水性溶剤に溶解するために用いた有機アミン化合物等の塩基と塩を形成することで、樹脂粒子の分散剤として機能すると考えられる。そのため、ポリイミド前駆体溶液中での樹脂粒子の分散性が向上するものと考えられる。
【0070】
樹脂粒子の表面に有する酸性基は、特に限定されるものではないが、カルボキシ基、スルホン酸基、フェノール性水酸基からなる群から選ばれる少なくとも一つであることがよい。これらの中でも、カルボキシ基が好ましい。
【0071】
樹脂粒子の表面に酸性基を有するための単量体としては、酸性基を有する単量体であれば特に限定されない。例えば、カルボキシ基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、フェノール性水酸基を有する単量体、及びそれらの塩が挙げられる。
具体的には、例えば、p-スチレンスルホン酸、4-ビニルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;4-ビニルジヒドロケイヒ酸、4-ビニルフェノール、4-ヒドロキシ-3-メトキシ-1-プロペニルベンゼン等のフェノール性水酸基を有する単量体;アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、3-メチルクロトン酸、フマル酸、マレイン酸、2-メチルイソクロトン酸、2,4-ヘキサジエン二酸、2-ペンテン酸、ソルビン酸、シトラコン酸、2-ヘキセン酸、フマル酸モノエチル等のカルボキシ基を有する単量体;及びそれらの塩;が挙げられる。これら酸性基を有する単量体は、酸性基を有さない単量体と混合して重合してもよいし、酸性基を有さない単量体を重合、粒子化した後に、表面に酸性基を有する単量体を重合してもよい。また、これらの単量体は1種単独、又は2種以上を併用してもよい。
【0072】
これらの中でも、アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、3-メチルクロトン酸、フマル酸、マレイン酸、2-メチルイソクロトン酸、2,4-ヘキサジエン二酸、2-ペンテン酸、ソルビン酸、シトラコン酸、2-ヘキセン酸、フマル酸モノエチル等、及びそれらの塩のカルボキシ基を有する単量体が好ましい。カルボキシ基を有する単量体は、1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
つまり、表面に酸性基を有する樹脂粒子は、アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、3-メチルクロトン酸、フマル酸、マレイン酸、2-メチルイソクロトン酸、2,4-ヘキサジエン二酸、2-ペンテン酸、ソルビン酸、シトラコン酸、2-ヘキセン酸、フマル酸モノエチル等、及びそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一つのカルボキシ基を有する単量体に由来する骨格を持つことが好ましい。
【0073】
酸性基を有する単量体と、酸性基を有さない単量体を混合して重合する場合、酸性基を有する単量体の量は特に限定されるものではないが、酸性基を有する単量体の量が少なすぎると、ポリイミド前駆体溶液での樹脂粒子の分散性が低下する場合があり、酸性基を有する単量体の量が多すぎると、乳化重合するときに、重合体の凝集体が発生する場合がある。そのため、酸性基を有する単量体は、単量体全体の0.3質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上15質量%以下がより好ましく、0.7質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。
一方、酸性基を有さない単量体を乳化重合した後に、さらに酸性基を有する単量体を追加して、重合する場合、上記と同様の点で、酸性基を有する単量体の量は、単量体全体の0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.07質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。
【0074】
前述のように、樹脂粒子は架橋されていないほうが好ましいが、樹脂粒子を架橋するとき、単量体成分の少なくとも一部として架橋剤を用いる場合には、全単量体成分に占める架橋剤の割合は、0質量%以上20質量%以下が好ましく、0質量%以上5質量%以下がより好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0075】
ビニル樹脂粒子を構成する樹脂に使用される単量体がスチレンを含有する場合、全単量体成分に占めるスチレンの割合は20質量%以上100質量%以下が好ましく、40質量%以上100質量%以下が更に好ましい。
【0076】
樹脂粒子の平均粒径としては、特に限定されない。例えば、0.1μm以上1.0μm以下であることがよく、0.25μm以上0.98μm以下であることが好ましく、0.25μm以上0.95μm以下であることがより好ましい。樹脂粒子の平均粒径が、この範囲であると、樹脂粒子の生産性が向上し、凝集性が抑制されやすくなる。さらに、多孔質ポリイミドフィルムのピンホール発生が抑制されやすくなる。同様の点で、後述の無機粒子の体積平均粒子径よりも大きいことが好ましい。
なお、樹脂粒子の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、既述のコールターカウンターLS13、ベックマン・コールター社製)の測定によって得られた粒度分布を用い、分割された粒度範囲(チャンネル)に対し、体積について小粒径側から累積分布を引き、全粒子に対して累積50%となる粒径を体積平均粒径D50vとして測定される。
【0077】
なお、樹脂粒子は、市販品の表面にさらに酸性基を有するモノマーを重合したものでもよい。具体的には、架橋された樹脂粒子としては、例えば、架橋ポリメタクリル酸メチル(MBX-シリーズ、積水化成品工業社製)、架橋ポリスチレン(SBX-シリーズ、積水化成品工業社製)、メタクリル酸メチルとスチレンの共重合架橋樹脂粒子(MSX-シリーズ、積水化成品工業社製)等が挙げられる。
また、架橋されていない樹脂粒子としては、ポリメタクリル酸メチル(MB-シリーズ、積水化成品工業社製)、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体(FS-シリーズ:日本ペイント社製)等が挙げられる。
【0078】
ポリイミド前駆体溶液において、樹脂粒子の含有量としては、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体固形分100質量部に対して、20質量部以上600質量部以下(好ましくは25質量部以上550質量部以下、より好ましくは30質量部以上500質量部以下)の範囲であることがよい。
【0079】
(無機粒子)
無機粒子の体積平均粒径は、0.001μm以上0.2μm以下である。ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する点で、0.004μm以上0.1μm以下であることが好ましく、0.005μm以上0.08μm以下であることがより好ましい。
なお、無機粒子の体積平均粒径は、前述の樹脂粒子の体積平均粒径の測定方法と同様の方法で測定される。
【0080】
体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子は、体積平均粒径の範囲を満足するものであれば、特に限定されるものではない。無機粒子は、具体的には、シリカ粒子、酸化チタン粒子、酸化アルミニウム粒子等が挙げられる。これらの中でも、無機粒子としては、分散性等の点で、シリカ粒子であることが好ましい。
【0081】
シリカ粒子としては、ゾルゲル法によって得られたゾルゲルシリカであってもよく、気相法によって得られたヒュームドシリカであってもよい。また、シリカ粒子としては、合成してもよく、市販品を用いても良い。さらに、シリカ粒子は、水性溶剤分散体(例えば、日産化学社製、スノーテックス(登録商標)シリーズ)であってもよく、乾燥粉体(例えば、エボニック社製、アエロジルシリーズ)であってもよい。分散性の観点から、シリカ粒子は水性分散液を用いることが好ましい。
【0082】
ポリイミド前駆体溶液において、0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子の含有量としては、基材からの剥離性が向上する点で、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体固形分100質量部に対して、3質量部以上50質量部以下であることがよく、5質量部以上30質量部以下の範囲であることがよく、10質量部以上25質量部以下の範囲であることがよい。
【0083】
ポリイミド前駆体溶液において、前述の樹脂粒子と無機粒子との質量比(樹脂粒子/無機粒子)は、ピンホールの発生を抑制し、基材からの剥離性が向上する点で、100/0.5以上100/100以下であることがよく、100/0.9以上100/20以下であることが好ましい。
【0084】
(ポリイミド前駆体)
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。具体的には、ポリイミド前駆体一般式(I)で表される繰り返し単位を有する樹脂(ポリアミック酸)である。
【0085】
【0086】
(一般式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。)
【0087】
ここで、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基としては、原料となるテトラカルボン酸二無水物より4つのカルボキシ基を除いたその残基である。
一方、Bが表す2価の有機基としては、原料となるジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基である。
【0088】
つまり、一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である。
【0089】
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0090】
芳香族系テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物等を挙げられる。
【0091】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0092】
これらの中でも、テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系テトラカルボン酸二無水物がよく、具体的には、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、更に、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、特に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がよい。
【0093】
なお、テトラカルボン酸二無水物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族テトラカルボン酸二無水物、又は脂肪族テトラカルボン酸を各々併用しても、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族テトラカルボン酸二無水物とを組み合わせてもよい。
【0094】
一方、ジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物である。ジアミン化合物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Bが表す2価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0095】
ジアミン化合物としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,7-ジアミノフルオレン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2’,5,5’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジクロロ-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)-ビフェニル、1,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]-ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0096】
これらの中でも、ジアミン化合物としては、芳香族系ジアミン化合物がよく、具体的には、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンがよく、特に、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミンがよい。
【0097】
なお、ジアミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族ジアミン化合物、又は脂肪族ジアミン化合物を各々併用しても、芳香族ジアミン化合物と脂肪族ジアミン化合物とを組み合わせてもよい。
【0098】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、1000以上150000以下であることがよく、より好ましくは5000以上130000以下、更に好ましくは10000以上100000以下である。
ポリイミド前駆体の数平均分子量を上記範囲とすると、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性の低下が抑制され、製膜性が確保され易くなる。
【0099】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される。
・カラム:東ソーTSKgelα-M(7.8mm I.D×30cm)
・溶離液:DMF(ジメチルホルムアミド)/30mMLiBr/60mMリン酸
・流速:0.6mL/min
・注入量:60μL
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0100】
ポリイミド前駆体の含有量(濃度)は、全ポリイミド前駆体溶液に対して、0.1質量%以上40質量%以下であることがよく、好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0101】
(有機アミン化合物)
有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体(そのカルボキシ基)をアミン塩化して、その水性溶剤に対する溶解性を高めると共に、イミド化促進剤としても機能する化合物である。具体的には、有機アミン化合物は、分子量170以下のアミン化合物であることがよい。有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体の原料となるジアミン化合物を除く化合物であることがよい。
なお、有機アミン化合物は、水溶性の化合物であることがよい。水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0102】
有機アミン化合物としては、1級アミン化合物、2級アミン化合物、3級アミン化合物が挙げられる。
これらの中でも、有機アミン化合物としては、2級アミン化合物、及び3級アミン化合物から選択される少なくとも一種(特に、3級アミン化合物)がよい。有機アミン化合物として、3級アミン化合物又は2級アミン化合物を適用すると(特に、3級アミン化合物)、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなり、また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性が向上し易くなる。
【0103】
また、有機アミン化合物としては、1価のアミン化合物以外にも、2価以上の多価アミン化合物も挙げられる。2価以上の多価アミン化合物を適用すると、ポリイミド前駆体の分子間に疑似架橋構造を形成し易くなり、また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性が向上し易くなる。
【0104】
1級アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、2-エタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、などが挙げられる。
2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、モルホリンなどが挙げられる。
3級アミン化合物としては、例えば、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
ポリイミド前駆体溶液のポットライフ、フィルム膜厚均一性の観点で、3級アミン化合物が好ましい。この点で、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0105】
ここで、有機アミン化合物としては、製膜性の点から、窒素を含有する複素環構造を有するアミン化合物(特に、3級アミン化合物)も好ましい。窒素を含有する複素環構造を有するアミン化合物(以下、「含窒素複素環アミン化合物」と称する)としては、例えば、イソキノリン類(イソキノリン骨格を有するアミン化合物)、ピリジン類(ピリジン骨格を有するアミン化合物)、ピリミジン類(ピリミジン骨格を有するアミン化合物)、ピラジン類(ピラジン骨格を有するアミン化合物)、ピペラジン類(ピペラジン骨格を有するアミン化合物)、トリアジン類(トリアジン骨格を有するアミン化合物)、イミダゾール類(イミダゾール骨格を有するアミン化合物)、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)、ポリアニリン、ポリピリジン、ポリアミンなどが挙げられる。
【0106】
含窒素複素環アミン化合物としては、製膜性の点から、モルホリン類、ピリジン類、ピペリジン類、およびイミダゾール類よりなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)であることがより好ましい。これらの中でも、N-メチルモルホリン、N-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、およびピコリンよりなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましく、N-メチルモルホリンであることがより好ましい。
【0107】
これらの中でも、有機アミン化合物としては、沸点が60℃以上(好ましくは60℃以上200℃以下、より好ましくは70℃以上150℃以下)の化合物であることがよい。有機アミン化合物の沸点を60℃以上とすると、保管するときに、ポリイミド前駆体溶液から有機アミン化合物が揮発するのを抑制し、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性の低下が抑制され易くなる。
【0108】
有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体のカルボキシ基(-COOH)に対して、50モル%以上500モル%以下で含有することがよく、好ましくは80モル%以上250モル%以下、より好ましくは90モル%以上200モル%以下で含有することである。
有機アミン化合物の含有量を上記範囲とすると、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなる。また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性も向上し易くなる。
【0109】
上記の有機アミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0110】
(その他の添加剤)
本実施形態に係る本実施形態のポリイミド前駆体溶液の製造方法において、ポリイミド前駆体溶液には、イミド化反応促進のための触媒や、製膜品質向上のためのレベリング材などを含んでもよい。
イミド化反応促進のための触媒には、酸無水物など脱水剤、フェノール誘導体、スルホン酸誘導体、安息香酸誘導体などの酸触媒などを使用してもよい。
【0111】
また、ポリイミド前駆体溶液には、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下である無機粒子以外の材料として、使用目的に応じて、例えば、導電性付与のために添加される導電材料(導電性(例えば、体積抵抗率107Ω・cm未満)もしくは半導電性(例えば、体積抵抗率107Ω・cm以上1013Ω・cm以下))を含有していてもよい。
導電剤としては、例えば、カーボンブラック(例えばpH5.0以下の酸性カーボンブラック);金属(例えばアルミニウムやニッケル等);金属酸化物(例えば酸化イットリウム、酸化錫等);イオン導電性物質(例えばチタン酸カリウム、LiCl等);等が挙げられる。これら導電材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0112】
また、ポリイミド前駆体溶液には、使用目的に応じて、機械強度向上のため添加される体積平均粒径が0.2μmを超える無機粒子を含有していてもよい。この無機粒子としては、シリカ粉、アルミナ粉、硫酸バリウム粉、酸化チタン粉、マイカ、タルクなどの粒子状材料が挙げられる。
【0113】
次に、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液の分散性について説明する。
ポリイミド前駆体溶液は、ピンホールの発生を抑制する点で、ポリイミド前駆体溶液中での樹脂粒子の体積粒度分布が少なくとも1つの極大値を有し、前記極大値のうち、最も体積頻度が大きくなる極大値Aの2倍以上になる粒子の体積頻度の占める割合は少ないほうがよく、前記極大値Aの体積頻度に対して5%以下であることがよい。同様の点で、極大値Aの2倍以上になる粒子の体積頻度の占める割合は、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、0%であることが特に好ましい。なお、極大値Aの2倍以上になる粒子には、主として樹脂粒子が含まれており、無機粒子が含まれていてもよい。
【0114】
ここで、本明細書中において、「体積頻度」は、ポリイミド前駆体溶液中での樹脂粒子の粒度分布において、体積基準で測定した樹脂粒子の存在割合を示す。
「極大値」(ピーク)とは、後述の測定方法によって測定される粒度分布を基にして、分割された粒度範囲(チャンネル)に対して、体積頻度の分布曲線を描いたときに、分布曲線の上下方向に反復する曲線が描ける山なりとなる部分における上昇方向から下降方向に転じる点を表す。
【0115】
ポリイミド前駆体溶液中での粒子の粒度分布は、次のようにして測定する。
測定対象となるポリイミド前駆体溶液を水で希釈する。そして、希釈したポリイミド前駆体溶液を、コールターカウンターLS13(ベックマン・コールター社製)を用いて、ポリイミド前駆体溶液中の樹脂粒子の粒度分布を測定する。測定される粒度分布を基にして、分割された粒度範囲(チャンネル)に対して、小径側から体積累積分布を描いて粒度分布を測定する。
そして、小径側から描いた体積累積分布のうち、最も体積頻度が大きくなる極大値を求め、この極大値を極大値Aとする。この極大値Aの2倍以上になる粒径の体積頻度の占める割合を求める。
【0116】
なお、ポリイミド前駆体溶液中での樹脂粒子を含む粒径の体積粒度分布の測定が、上記方法で測定し難い場合、動的光散乱法等の方法にて測定される。
【0117】
<樹脂粒子及び無機粒子含有ポリイミドフィルム>
樹脂粒子及び無機粒子含有ポリイミドフィルムは、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を塗布して塗膜を形成した後、塗膜を加熱することで得られる。
なお、樹脂粒子及び無機粒子含有ポリイミドフィルムは、樹脂粒子及び無機粒子含み、イミド化が完了したポリイミドフィルムのみならず、樹脂粒子及び無機粒子含み、イミド化が完了する前の部分的にイミド化されたポリイミドフィルムも含む。
【0118】
具体的には、本実施形態に係る樹脂粒子及び無機粒子含有ポリイミドフィルムは、例えば、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を塗布して塗膜を形成する工程(以下「塗膜形成工程」称する)と、塗膜を加熱してポリイミドフィルムを形成する工程(以下「加熱工程」称する)と、を有する。
【0119】
(塗膜形成工程)
まず、上述の樹脂粒子を分散させたポリイミド前駆体溶液(樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液)を準備する。次に、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布し、塗膜を形成する。
基材としては、例えば、樹脂製の基材;ガラス製の基材;セラミック製の基材;金属基材;これらの材料が組み合わされた複合材料の基材が挙げられる。連続フィルムを形成する場合には、金属基材を用いることが好ましい。なお、基材は、剥離処理が施された剥離層を備えていてもよい。本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を用いて得た多孔質ポリイミドフィルムは、基材との剥離性が向上しているため、基材に剥離処理を行わない場合でも剥離性に優れている。そのため、剥離処理を行わず、剥離層を備えていなくてもよい。
また、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基材に塗布する方法としては、特に制限はなく、例えば、スプレー塗布、回転塗布法、ロール塗布法、バー塗布法、スリットダイ塗布法、インクジェット塗布法等の各種の方法が挙げられる。
【0120】
なお、基材は、目的とする用途に応じて、各種の基材を用いることができる。例えば、液晶素子に適用される各種基材;集積回路が形成された半導体基材、配線が形成された配線基材、電子部品及び配線が設けられたプリント基板の基材;電線被覆材用の基材;等が挙げられる。
【0121】
(加熱工程)
次に、上記の塗膜形成工程で得られた塗膜に対して、乾燥処理を行う。この乾燥処理により、被膜(乾燥したイミド化前の被膜)を形成する。
乾燥処理の加熱条件は、例えば80℃以上200℃以下の温度で10分間以上60分間以下がよく、温度が高いほど加熱時間は短くてよい。加熱の際、熱風を当てることも有効である。加熱のときは、温度を段階的に上昇させてもよく、速度を変化させずに上昇させてもよい。
【0122】
次に、乾燥したイミド化前の被膜を加熱して、イミド化処理を行う。これにより、ポリイミド樹脂層が形成される。
イミド化処理の加熱条件としては、例えば150℃以上450℃以下(好ましくは200℃以上430℃以下)で、20分間以上60分間以下加熱することで、イミド化反応が起こり、ポリイミドフィルムが形成される。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することがよい。
【0123】
以上の工程を経て、樹脂粒子及び無機粒子含有ポリイミドフィルムが形成される。そして、必要に応じて、樹脂粒子含有ポリイミドフィルムを基材から取り出して樹脂粒子含有ポリイミドフィルムが得られる。また、樹脂粒子含有ポリイミドフィルムは、目的とする用途に応じて、後加工が施されてもよい。
【0124】
<多孔質ポリイミドフィルムの製造方法>
本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムの製造方法は、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥して、前記ポリイミド前駆体前記樹脂粒子及び前記無機粒子を含む被膜を形成する第1の工程と、前記被膜を加熱して、前記ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドフィルムを形成する第2の工程であって、前記樹脂粒子を除去する処理を含む第2の工程と、を有する。
【0125】
以下、本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムの製造方法について説明する。
なお、製造方法の説明において、参照する
図1中の符号として、3は基材、7は空孔、及び62は多孔質ポリイミドフィルムを表す。
【0126】
(第1の工程)
第1の工程は、まず、水性溶剤と樹脂粒子と体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下の無機粒子を含むポリイミド前駆体溶液(樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液)を準備する。次に、基材上に、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を塗布し、ポリイミド前駆体溶液と、前記樹脂粒子と、前記無機粒子とを含む塗膜を形成する。そして、基材上に形成された塗膜を乾燥して、ポリイミド前駆体、前記樹脂粒子、及び前記粒子を含む被膜を形成する。
【0127】
第1の工程のうち、ポリイミド前駆体、前記樹脂粒子、及び前記粒子を含む塗膜を基材上に形成する方法としては、例えば、次のような方法が挙げられるが、この方法に限定されない。
【0128】
具体的には、まず、水性溶剤に、樹脂粒子及び無機粒子が分散された分散液を準備する。そして、この分散液に有機アミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを混合し、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合してポリイミド前駆体を形成する。次に、この樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布し、ポリイミド前駆体溶液、樹脂粒子及び無機粒子を含む塗膜を形成する。この塗膜中の樹脂粒子及び無機粒子は、凝集が抑制された状態で分布している。
【0129】
樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を塗布する基材としては、特に制限されない。例えば、アルミニウム製、ステンレス鋼(SUS)等の金属基材、金属以外の材料が組み合わされた複合材料基材等が挙げられる。また、基材には、必要に応じて、例えば、シリコーン系やフッ素系の剥離剤等による剥離処理を行って剥離層を設けてもよい。なお、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を用いて得た多孔質ポリイミドフィルムは、基材との剥離性が向上しているため、基材に剥離処理を行わない場合でも剥離性に優れている。そのため、剥離処理を行わず、剥離層を設けなくてもよい。
【0130】
基材上に、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を塗布する方法としては、特に限定されない。例えば、スプレー塗布法、回転塗布法、ロール塗布法、バー塗布法、スリットダイ塗布法、インクジェット塗布法等の各種の方法が挙げられる。
【0131】
ポリイミド前駆体溶液、樹脂粒子、及び無機粒子を含む塗膜を得るためのポリイミド前駆体溶液の塗布量としては、予め定められた膜厚が得られる量に設定すればよい。
【0132】
ポリイミド前駆体溶液、樹脂粒子、及び無機粒子を含む塗膜を形成した後、乾燥して、ポリイミド前駆体、樹脂粒子及び無機粒子を含む被膜が形成される。具体的には、ポリイミド前駆体溶液、樹脂粒子及び無機粒子を含む塗膜を、例えば、加熱乾燥、自然乾燥、真空乾燥等の方法により乾燥させて、被膜を形成する。より具体的には、被膜に残留する溶剤が、被膜の固形分に対して50%以下、好ましくは30%以下となるように、塗膜を乾燥させて、被膜を形成する。この被膜は、ポリイミド前駆体が、水に溶解できる状態である。
【0133】
(第2の工程)
第2の工程は、第1の工程で得られたポリイミド前駆体、樹脂粒子及び無機粒子を含む被膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドフィルムを形成する工程である。そして、第2の工程には、樹脂粒子を除去する処理を含んでいる。樹脂粒子を除去する処理を経て、多孔質ポリイミドフィルムが得られる。
【0134】
第2の工程において、ポリイミドフィルムを形成する工程は、具体的に、第1の工程で得られたポリイミド前駆体、樹脂粒子及び無機粒子を含む被膜を加熱して、イミド化を進行させ、さらに加熱して、ポリイミドフィルムが形成される。なお、イミド化が進行し、イミド化率が高くなるにしたがい、有機溶剤に溶解し難くなる。
【0135】
そして、第2の工程において、樹脂粒子を除去する処理を行う。樹脂粒子の除去は、被膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において除去してもよく、イミド化が完了した後(イミド化後)のポリイミドフィルムから除去してもよい。
なお、本実施形態において、ポリイミド前駆体をイミド化する過程とは、第1の工程で得られたポリイミド前駆体及び樹脂粒子を含む被膜を加熱して、イミド化を進行させ、イミド化が完了した後のポリイミドフィルムとなるよりも前の状態となる過程を示す。
【0136】
樹脂粒子を除去する処理は、樹脂粒子の除去性等の点で、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%以上であるときに行うことが好ましい。イミド化率が10%以上になると、有機溶剤に溶解し難い状態となりやすく、形態を維持しやすい。
【0137】
樹脂粒子を除去する処理としては、例えば、樹脂粒子を加熱により除去する方法、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法、樹脂粒子をレーザ等による分解により除去する方法等が挙げられる。これらのうち、樹脂粒子を加熱により除去する方法、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法が好ましい。
【0138】
加熱により除去する方法としては、例えば、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において、イミド化を進行させるための加熱によって、樹脂粒子を分解させることで除去してもよい。この場合には、溶剤により樹脂粒子を除去する操作がない点で、工程の削減に対して有利である。一方で、樹脂粒子の種類によっては、加熱による分解ガスが発生する場合がある。そして、この分解ガスに起因して、多孔質ポリイミドフィルムには、破断や亀裂等が発生する場合があり得る。そのため、この場合には、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法を採用するほうがよい。
【0139】
樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法としては、例えば、樹脂粒子が溶解する有機溶剤と接触(例えば、溶剤中に浸漬)させ、樹脂粒子を溶解して除去する方法が挙げられる。この状態のときに、溶剤中に浸漬すると、樹脂粒子の溶解効率が高まる点で好ましい。
【0140】
樹脂粒子を除去するための樹脂粒子を溶解する有機溶剤としては、ポリイミド膜、及びイミド化が完了したポリイミドフィルムを溶解せず、樹脂粒子が可溶な有機溶剤であれば、特に限定されるものではない。例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類;トルエン等の芳香族類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;が挙げられる。
【0141】
第2の工程において、第1の工程で得た被膜を加熱して、イミド化を進行させてポリイミドフィルムを得るための加熱方法としては、特に限定されない。例えば、2段階で加熱する方法が挙げられる。2段階で加熱する場合、具体的には、以下のような加熱条件が挙げられる。
【0142】
第1段階の加熱条件としては、樹脂粒子の形状が保持される温度であることが好ましい。具体的には、例えば、50℃以上150℃以下の範囲がよく、60℃以上140℃以下の範囲が好ましい。また、加熱時間としては、10分間以上60分間以下の範囲がよい。加熱温度が高いほど加熱時間は短くてよい。
【0143】
第2段階の加熱条件としては、例えば、150℃以上450℃以下(好ましくは200℃以上430℃以下)で、20分間以上120分間以下の条件で加熱することが挙げられる。この範囲の加熱条件とすることで、イミド化反応がさらに進行し、ポリイミドフィルムが形成され得る。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することがよい。
【0144】
なお、加熱条件は上記の2段階の加熱方法に限らず、例えば、1段階で加熱する方法を採用してもよい。1段階で加熱する方法の場合、例えば、上記の第2段階で示した加熱条件のみによってイミド化を完了させてもよい。
【0145】
第2の工程において、開孔率を高める点で、樹脂粒子を露出させる処理を行って樹脂粒子を露出させた状態とすることが好ましい。第2の工程において、樹脂粒子を露出させる処理は、ポリイミド前駆体のイミド化を行う過程、又はイミド化後、且つ、樹脂粒子を除去する処理よりも前で行うことが好ましい。
【0146】
この場合、例えば、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて基材上に被膜を形成する場合、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布し、樹脂粒子が埋没した塗膜を形成する。次に、塗膜を乾燥してポリイミド前駆体及び樹脂粒子を含む被膜を形成する。この方法によって形成された被膜は、樹脂粒子が埋没された状態となる。この被膜に対して、加熱を行い、樹脂粒子の除去処理を行う前に、ポリイミド前駆体をイミド化する過程、又はイミド化が完了した後(イミド化後)のポリイミドフィルムから樹脂粒子を露出させる処理を施してもよい。
【0147】
第2の工程において、樹脂粒子を露出させる処理は、例えば、ポリイミド膜が次のような状態であるときに施すことが挙げられる。
ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%未満であるとき(すなわち、ポリイミド膜が水に溶解できる状態)に樹脂粒子を露出させる処理を行う場合、上記のポリイミド膜中に埋没している樹脂粒子を露出させる処理としては、拭き取る処理、水に浸漬する処理等が挙げられる。
【0148】
また、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%以上であるとき(すなわち、水、有機溶剤に溶解し難い状態)、及びイミド化が完了したポリイミドフィルムとなった状態であるときに樹脂粒子を露出させる処理を行う場合には、紙やすり等の工具類で機械的に切削して樹脂粒子を露出させる方法、レーザ等で分解して樹脂粒子を露出させる方法が挙げられる。
例えば、機械的に切削する場合には、ポリイミド膜に埋没している樹脂粒子の上部の領域(つまり、樹脂粒子の基材から離れた側の領域)に存在する樹脂粒子の一部分が、樹脂粒子の上部に存在しているポリイミド膜とともに切削され、切削された樹脂粒子がポリイミド膜の表面から露出される。
【0149】
その後、樹脂粒子が露出されたポリイミド膜から、既述の樹脂粒子の除去処理により樹脂粒子を除去する。そして、樹脂粒子が除去された多孔質ポリイミドフィルムが得られる(
図1参照)。
【0150】
なお、上記では、第2の工程において、樹脂粒子を露出させる処理を施した多孔質ポリイミドフィルムの製造工程について示したが、開孔率を高める点で、第1の工程で樹脂粒子を露出させる処理を施してもよい。この場合には、第1の工程において、塗膜を得た後、乾燥して被膜を形成する過程で、樹脂粒子を露出させる処理を行って、樹脂粒子を露出させた状態にしてもよい。この樹脂粒子を露出させる処理を行うことによって、多孔質ポリイミドフィルムの開孔率が高められる。
【0151】
例えば、ポリイミド前駆体溶液、樹脂粒子及び無機粒子を含む塗膜を得た後、塗膜を乾燥して、ポリイミド前駆体、樹脂粒子及び無機粒子を含む被膜を形成する過程では、前述のように、被膜は、ポリイミド前駆体が、水に溶解できる状態である。被膜がこの状態のときに、例えば、拭き取る処理、又は水に浸漬する処理等により、樹脂粒子を露出させることができる。具体的には、樹脂粒子層の厚み以上の領域に存在するポリイミド前駆体溶液を、例えば、水拭きにより樹脂粒子層を露出させる処理を行うことで、樹脂粒子層の厚み以上の領域に存在していたポリイミド前駆体溶液が除去される。そして、樹脂粒子層の上部の領域(つまり、樹脂粒子層の基材から離れた側の領域)に存在する樹脂粒子が、被膜の表面から露出される。
なお、ガス分離膜のように表面に開孔していないスキン層を持つことが好ましい場合には樹脂粒子を露出させる処理は行わないことがよい。
【0152】
なお、第2の工程において、第1の工程で使用した上記の被膜を形成するための基材は、乾燥した被膜となったときに剥離してもよく、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体が、有機溶剤に溶解し難い状態となったときに剥離してもよく、イミド化が完了したフィルムになった状態のときに剥離してもよい。
【0153】
以上の工程を経て、多孔質ポリイミドフィルムが得られる。そして、多孔質ポリイミドフィルムは、使用目的によって後加工してもよい。
【0154】
ここで、ポリイミド前駆体のイミド化率について説明する。
一部がイミド化したポリイミド前駆体は、例えば、下記一般式(I-1)、下記一般式(I-2)、及び下記一般式(I-3)で表される繰り返し単位を有する構造の前駆体が挙げられる。
【0155】
【0156】
一般式(I-1)、一般式(I-2)、及び一般式(I-3)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。lは1以上の整数を示し、m及びnは、各々独立に0又は1以上の整数を示す。
【0157】
なお、A及びBは、前述の一般式(I)中のA及びBと同義である。
【0158】
ポリイミド前駆体のイミド化率は、ポリイミド前駆体の結合部(テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応部)において、イミド閉環している結合部数(2n+m)の全結合部数(2l+2m+2n)に対する割合を表す。つまり、ポリイミド前駆体のイミド化率は、「(2n+m)/(2l+2m+2n)」で示される。
【0159】
なお、ポリイミド前駆体のイミド化率(「(2n+m)/(2l+2m+2n)」の値)は、次の方法により測定される。
【0160】
-ポリイミド前駆体のイミド化率の測定-
・ポリイミド前駆体試料の作製
(i)測定対象となるポリイミド前駆体組成物を、シリコーンウェハー上に、膜厚1μm以上10μm以下の範囲で塗布して、塗膜試料を作製する。
(ii)塗膜試料をテトラヒドロフラン(THF)中に20分間浸漬させて、塗膜試料中の溶媒をテトラヒドロフラン(THF)に置換する。浸漬させる溶媒は、THFに限定されることなく、ポリイミド前駆体を溶解せず、ポリイミド前駆体組成物に含まれている溶媒成分と混和し得る溶媒より選択できる。具体的には、メタノール、エタノールなどのアルコール溶媒、ジオキサンなどのエーテル化合物が使用できる。
(iii)塗膜試料を、THF中より取り出し、塗膜試料表面に付着しているTHFにN2ガスを吹き付け、取り除く。10mmHg以下の減圧下、5℃以上25℃以下の範囲にて12時間以上処理して塗膜試料を乾燥させ、ポリイミド前駆体試料を作製する。
【0161】
・100%イミド化標準試料の作製
(iv)上記(i)と同様に、測定対象となるポリイミド前駆体組成物をシリコーンウェハー上に塗布して、塗膜試料を作製する。
(v)塗膜試料を380℃にて60分間加熱してイミド化反応を行い、100%イミド化標準試料を作製する。
【0162】
・測定と解析
(vi)フーリエ変換赤外分光光度計(堀場製作所製FT-730)を用いて、100%イミド化標準試料、ポリイミド前駆体試料の赤外吸光スペクトルを測定する。100%イミド化標準試料の1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab’(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab’(1780cm-1))の比I’(100)を求める。
(vii)同様にして、ポリイミド前駆体試料について測定を行い、1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab(1780cm-1))の比I(x)を求める。
【0163】
そして、測定した各吸光ピークI’(100)、I(x)を使用し、下記式に基づき、ポリイミド前駆体のイミド化率を算出する。
・式: ポリイミド前駆体のイミド化率=I(x)/I’(100)
・式: I’(100)=(Ab’(1780cm-1))/(Ab’(1500cm-1))
・式: I(x)=(Ab(1780cm-1))/(Ab(1500cm-1))
【0164】
なお、このポリイミド前駆体のイミド化率の測定は、芳香族系ポリイミド前駆体のイミド化率の測定に適用される。脂肪族ポリイミド前駆体のイミド化率を測定する場合、芳香環の吸収ピークに代えて、イミド化反応前後で変化のない構造由来のピークを内部標準ピークとして使用する。
【0165】
<多孔質ポリイミドフィルム>
以下、本実施形態の多孔質ポリイミドフィルムについて説明する。
【0166】
本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムは、空孔径の平均値が1.0μm以下である球状の空孔を備え、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下である無機粒子を含む。また、空孔径の平均値が1.0μm以下である球状の空孔を備え、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下である無機粒子を含み、透気スピードが10秒以上30秒以下である。本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムは、上記構成を有することにより、ピンホールの発生が抑制されるとともに、基材からの剥離性が向上する。
【0167】
本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムは、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下である無機粒子の含有量が、多孔質ポリイミドフィルムの全体に対し、3質量%以上50質量%以下であってもよく、5質量%以上30質量%以下であってもよい。多孔質ポリイミドフィルムにおける無機粒子の含有量は10質量%以上25質量%以下であってもよい。
【0168】
(多孔質ポリイミドフィルムの特性)
本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムは、特に限定されないが、空孔率が30%以上であることがよい。また、空孔率が40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。空孔率の上限は、特に限定されないが、90%以下の範囲であることがよい。
【0169】
空孔は、球状の形状を有する。球状は、球状又は球状に近い形状である。本明細書中において、空孔における「球状」とは、球状、及びほぼ球状(球状に近い形状)の両者の形状を包含するものである。球状は、具体的には、長径と短径の比(長径/短径)が1以上1.5以下である粒子の割合が90%以上存在することを意味する。長径と短径の比が1に近づくほど真球状に近くなる。
また、空孔は、空孔どうしが互いに連結されて連なった形状であることが好ましい(
図1参照)。空孔どうしが互いに連結されている部分の空孔径は、例えば、空孔の最大径の1/100以上1/2以下であることがよく、1/50以上1/3以下であることが好ましく、1/20以上1/4以下であることがより好ましい。具体的には、空孔どうしが互いに連結されて連なっている部分の空孔径の平均値は、5nm以上1500nm以下であることがよい。
【0170】
空孔径の平均値としては、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上1.0μm以下であることがよく、0.25μm以上0.98μm以下であることが好ましく、0.25μm以上0.95μm以下であることがより好ましい。
【0171】
なお、本実施形態の多孔質ポリイミドフィルムは、空孔の最大径と最小径の比率(空孔径の最大値と最小値の比率)が1以上2以下である。好ましくは1以上1.9以下、より好ましくは1以上1.8以下である。この範囲の中でも、1に近いほうがさらに好ましい。この範囲にあることで、空孔径のバラつきが抑制される。また、本実施形態の多孔質ポリイミドフィルムを、例えば、リチウムイオン電池の電池セパレータに適用した場合に、イオン流に乱れを生じることが抑制されるため、リチウムデンドライトの形成が抑制されやすくなる。「空孔の最大径と最小径の比率」とは、空孔の最大径を最小径で除した値(つまり、空孔径の最大値/最小値)で表される比率である。
【0172】
空孔径の平均値、及び空孔どうしが互いに連結されている部分の空孔径の平均値は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察及び計測される値である。具体的には、まず、多孔質ポリイミドフィルムを切り出し、測定用試料を準備する。そして、この測定用試料をキーエンス(KEYENCE)社製のVE SEMにより、標準装備されている画像処理ソフトにて観察及び計測を実施する。観察及び計測は、測定用試料断面のうち、空孔部分のそれぞれについて100個行い、それぞれの平均値と最小径、最大径、算術平均径を求める。空孔の形状が円形でない場合には、最も長い部分を径とする。
【0173】
本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムは、透気速度(透気スピード)が10秒以上30秒以下であることがよい。透気速度の下限は、12秒以上でもよく、15秒以上でもよい。また、透気速度の上限は、28秒以下であってもよく、25秒以下であってもよい。なお、透気速度の測定方法は、後述の実施例で述べる。
【0174】
多孔質ポリイミドフィルムの膜厚は、特に限定されるものでないが、15μm以上500μm以下であることがよい。
【0175】
(多孔質ポリイミドフィルムの用途)
本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムが適用される用途としては、例えば、リチウム電池等の電池セパレータ;電解コンデンサー用のセパレータ;燃料電池等の電解質膜;電池電極材;気体又は液体の分離膜;低誘電率材料;ろ過膜;等が挙げられる。
【0176】
本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムを、例えば、電池セパレータに適用した場合には、リチウムイオンのイオン流分布のバラつきが抑制される等の作用により、リチウムデンドライトの生成が抑制されると考えられる。これは、本実施形態の多孔質ポリイミドフィルムの空孔の形状、空孔径のバラつきが抑制されているためと推測される。
また、例えば、電池電極材に適用した場合には、電解液に接触する機会が増加するため、電池の容量が増えると考えられる。これは、多孔質ポリイミドフィルムに含有させた電極用のカーボンブラック等の材料が、多孔質ポリイミドフィルムの空孔径の表面や、フィルムの表面に露出する量が増加するためと推測される。
さらに、例えば、多孔質ポリイミドフィルムの空孔内に、例えば、いわゆるイオン性液体をゲル化したイオン性ゲル等を充填して電解質膜として適用することも可能である。本実施形態の製造方法により、工程が簡略化されるため、より低コストの電解質膜が得られると考えられる。
【実施例】
【0177】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0178】
[無機粒子分散液の準備]
無機粒子分散液として、下記のシリカ粒子分散液を準備した。
シリカ粒子分散液(1):体積粒子径5nm 固形分20質量%
シリカ粒子分散液(2):体積粒子径13nm 固形分30質量%
シリカ粒子分散液(3):体積粒子径65nm 固形分40質量%
シリカ粒子分散液(4):体積粒子径210nm 固形分40質量%
シリカ粒子分散液(5):体積粒子径450nm 固形分40質量%
シリカ粒子分散液(6):体積粒子径150nm 固形分40質量%
酸化チタン粒子分散液(7):体積粒子径180nm 固形分40質量%
なお、無機粒子の平均粒径は、既述の方法により測定した体積平均粒径である。
【0179】
[樹脂粒子分散液の調製]
-樹脂粒子分散液(1)の調製-
スチレン770質量部、アクリル酸ブチル230質量部、アクリル酸20質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)25.0質量部、イオン交換水576質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、単量体乳化液を作製した。続いて、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)1.10質量部、イオン交換水1270質量部を反応容器に投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、モノマー乳化液のうち75質量部を添加した。その後、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りの単量体乳化液を220分かけて滴下し、さらに180分間反応させたのち、冷却して、表面に酸性基を有するスチレン・アクリル樹脂粒子の分散液である樹脂粒子分散液(1)を得た。樹脂粒子分散液(1)の固形分濃度は34.4質量%であった。また、この樹脂粒子の平均粒径は0.39μmであった。なお、樹脂粒子の平均粒径は、既述の方法により測定した体積平均粒径である(以下同様)。結果を表1にまとめて示す。
【0180】
-樹脂粒子分散液(2)の調製-
スチレン770質量部、アクリル酸ブチル230質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)5.0質量部、イオン交換水576質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、モノマー乳化液を作製した。続いて、イオン交換水1270質量部を反応容器に投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、モノマー乳化液のうち25質量部を添加した。その後、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りのモノマー乳化液を220分かけて滴下し、さらに50分間反応させた。次いで、マレイン酸5質量部、イオン交換水10質量部混合した液を5分かけて滴下し、150分反応した後、冷却して、表面に酸性基を有するスチレン・アクリル樹脂粒子の分散液である樹脂粒子分散液(2)を得た。樹脂粒子分散液(2)の固形分濃度は34.0質量%であった。この樹脂粒子の平均粒径は0.80μmであった。結果を表1にまとめて示す。
【0181】
-樹脂粒子分散液(3)の調製-
スチレン770質量部、アクリル酸ブチル230質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)3.0質量部、イオン交換水576質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、モノマー乳化液を作製した。続いて、イオン交換水1270質量部を反応容器に投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、モノマー乳化液のうち15質量部を添加した。その後、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りのモノマー乳化液を220分かけて滴下し、さらに50分間反応させた。次いで、マレイン酸5質量部、イオン交換水10質量部混合した液を5分かけて滴下し、150分反応した後、冷却して、表面に酸性基を有するスチレン・アクリル樹脂粒子の分散液である樹脂粒子分散液(3)を得た。樹脂粒子分散液(3)の固形分濃度は34.0質量%であった。この樹脂粒子の平均粒径は1.15μmであった。結果を表1にまとめて示す。なお、樹脂粒子分散液(3)において、撹拌羽に、約3質量部程度の樹脂の付着(析出)があった。
【0182】
-比較樹脂粒子分散液(4)の調整-
アクリル酸20質量部を用いなかった以外は樹脂粒子分散液(1)と同様にして樹脂粒子分散液(4)を作製した。結果を表1にまとめて示す。
【0183】
【0184】
以下、表1中の略称の詳細について示す。
・「St」 :スチレン
・「BA」 :アクリル酸ブチル
・「AA」 :アクリル酸
・「MA」 :マレイン酸
【0185】
<実施例1>
[樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液(PAA-1)の作製]
樹脂粒子分散液(1):固形分換算で樹脂粒子100g(水:191g含有)に、イオン交換水:209gを添加し、樹脂粒子の固形分濃度を20質量%に調整した。この樹脂粒子分散液に、シリカ粒子分散液(1)を固形分換算で2gとなるように加えて混合した後、p-フェニレンジアミン(分子量108.14):9.59g(88.7ミリモル)と、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(分子量294.22):25.58g(86.9ミリモル)とを添加し、20℃で10分間攪拌して分散させた。ついで、N-メチルモルホリン(有機アミン化合物):25.0g(247.3ミリモル)を、ゆっくりと添加し、反応温度60℃に保持しながら、24時間攪拌して溶解、反応を行い、さらにN-メチルピロリドンを25.0g加え、十分に撹拌し、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液(PAA-1)を得た(樹脂粒子/ポリイミド前駆体=100/35.2(質量比)、無機粒子(シリカ粒子)/ポリイミド前駆体=2/35.2(質量比)、多孔質ポリイミドフィルムとしたときのフィルム中のシリカ濃度5.6%相当)。得られたPAA-1を水で希釈し、既述の方法により粒度分布を測定したところ、樹脂粒子分散液(1)と同様に、極大値Aの2以上になる樹脂粒子を含む粒子は見られず、良好な分散状態であった。
【0186】
<実施例2~18>
表2にしたがって、樹脂粒子分散液の種類と量、シリカ粒子分散液の種類と量を変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液(PAA-2)~(PAA-18)を得た。各例の樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を既述の方法により粒度分布を測定した。結果を表2にまとめて示す。
【0187】
<比較例1~5>
[樹脂粒子分散ポリイミド前駆体(PAA-R1~PAA-R5)の作製]
表2にしたがって、樹脂粒子分散液の種類と量、シリカ粒子分散液の種類と量を変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液(PAA-R1)~(PAA-R5)を得た。各例の樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を既述の方法により粒度分布を測定した。結果を表2にまとめて示す。
【0188】
【0189】
なお、表2中、「粒子径」との表記は、体積平均粒径を表す。
表2中及び後述の表3中、「PI」との表記は、ポリイミドを表す。
【0190】
<実施例19>
[多孔質ポリイミドフィルム(PIF-1)の作製]
まず、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜を形成するためのアルミニウム製の基材(以下、アルミニウム基材と称する)を準備した。アルミニウム基材はトルエンで表面を洗浄し、使用した。
次に、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液(PAA-1)を、アルミニウム基材上に、乾燥後の膜厚が約30μmになるように塗布して塗膜を形成し、90℃で1時間乾燥した。その後、室温(25℃、以下同じ)から400℃まで10℃/分の速度で昇温し、400℃で1時間保持したのち、室温に冷却して膜厚約25μmの多孔質ポリイミドフィルム(PIF-1)を得た。
【0191】
<実施例20~36、比較例6~10>
表3にしたがって、樹脂粒子及び無機粒子分散ポリイミド前駆体溶液を変更した以外は実施例19と同様にして、多孔質ポリイミドフィルムを作製し、各例の多孔質ポリイミドフィルム(PIF-2)~(PIF18)及び(RPIF-1)~(RPIF-5)を得た。
【0192】
各例で得られた多孔質ポリイミドフィルムについて、下記の評価方法にしたがって、焼成後のアルミニウム基材からの剥離しやすさ、ピンホールの有無、及び透気速度(透気スピード)の評価を行った。結果を表3にまとめて示す。
【0193】
〔基材からの剥離性の評価〕
アルミニウム基材上で焼成したポリイミドフィルムを蒸留水に浸漬し、剥離を行った。剥離性を下記基準で目視で評価した。
-評価基準-
A:水浸漬後、1分以内で剥離
B:水浸漬後、10分以内で剥離
C:水浸漬後、10分以内で剥離できず
【0194】
〔ピンホールの評価〕
各例で得られた多孔質ポリイミドフィルムから試料を採取し、試料1cm2角を目視で観察して、表面から裏面まで貫通したピンホールの数の評価を行った。
なお、評価Bとなった試料は、用途によっては(例えば、セパレータ等の大面積が必要な用途)に適用する場合には、実用性に乏しいものとなりやすい傾向がある。特に評価Cとなった試料は、実用性に乏しくなる。
【0195】
-評価基準-
A:ピンホールなし
B:1か所以上3か所以下
C:4か所以上
【0196】
〔透気速度(透気スピード)の評価〕
作製した多孔質ポリイミドフィルムを1cm2角に切りだし、透気スピード測定用試料を採取した。試料を減圧濾過用フィルターホルダー(ADVANTEC社製、KGS-04)のファンネルとベース部との間に挟み込んでセットする。そして、試料を挟み込んだフィルターホルダーを逆さに向けて水中に漬け、ファンネル内の予め決められた位置まで水を満たした。ベース部のファンネルとベース部とが接していない側分から0.5気圧(0.05MPas)の空気圧を負荷し、50mlの空気が通過する時間(秒)を測定し、透気スピードとして評価した。
なお、ピンホールの評価が評価Bおよび評価Cとなった試料については、ピンホールを避けて測定を行った。また、ピンホールが多すぎる場合は測定できなかった。ピンホールが無くても、基材から剥離性不可であった場合も測定できなかった。
【0197】
【0198】
上記結果から、本実施例では、比較例に比べ、基材からの剥離性に優れ、ピンホールの評価結果が良好であることがわかる。
【符号の説明】
【0199】
3 基材、7 空孔、62 多孔質ポリイミドフィルム