(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ICタグ付きタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
B60C19/00 B
B60C19/00 H
(21)【出願番号】P 2018020784
(22)【出願日】2018-02-08
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】朝香 聖成
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-102615(JP,A)
【文献】特開2017-132291(JP,A)
【文献】特開2004-330842(JP,A)
【文献】特開2001-063325(JP,A)
【文献】特開平08-067117(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0358839(US,A1)
【文献】特開2006-059363(JP,A)
【文献】特開2008-263354(JP,A)
【文献】特開2003-331250(JP,A)
【文献】特開2007-099052(JP,A)
【文献】特開昭59-053207(JP,A)
【文献】特開平10-119521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICタグが表面に接着されたタイヤであって、前記ICタグが、インレイフィルム上のループアンテナにRFIDチップが電気接続され、前記インレイフィルムの上下面がポリイミドフィルムで被覆され、前記ポリイミドフィルムの上面に前記インレイフィルムより大きい加硫層が設置されて構成され、前記ポリイミドフィルムから周囲がはみ出している前記加硫層の下面と下面側の前記ポリイミドフィルムの下面とが接着層によって前記タイヤに接着され、前記ICタグが、前記タイヤの
スチールワイヤからなるビード部に、リムから5mm以上20mm以下離れた位置に設置され、前記ICタグの前記ループアンテナがリム側に向けて
、かつ、前記RFIDチップはリムから遠い側に向けて設置されたことを特徴とするICタグ付きタイヤ。
【請求項2】
請求項1記載のICタグ付きタイヤであって、前記ICタグが複数設置され、前記ICタグが、ICタグ同士でビードコアを介して通信するICタグ間通信制御手段を有し、前記ICタグ間通信制御手段を用いて、外部装置のリーダ/ライタと通信するICタグを定めて通信することを特徴とするICタグ付きタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグ付きタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1のように、RFIDチップとアンテナ等を有したICタグを内蔵したタイヤが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、タイヤ内部に取り付けたICタグは、タイヤにICタグを埋め込むための穴加工が必要になり、その穴によるタイヤの強度計算、強度試験などが必要でタイヤの設計を難しくする問題があった。
【0005】
また、ICタグはタイヤ内部に貼り付けるため、タイヤの厚みや種類によるタイヤの影響によりICタグが外部装置のリーダ/ライタと通信可能な距離の変動が大きい問題があった。
【0006】
また、タイヤへの取り付けに特化した細長いダイポールアンテナを利用したUHF帯のICタグでは、そのICタグの長さが数センチメートルから十数センチメートルに長くなり、ICタグが取り付けられるタイヤに対する影響が大きくなる問題があった。
【0007】
本発明の課題は、かかる従来の問題を解決し、十分な通信距離を確保できるとともに、耐久性にも優れたICタグを設置したICタグ付きタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、ICタグが表面に接着されたタイヤであって、前記ICタグが、インレイフィルム上のループアンテナにRFIDチップが電気接続され、前記インレイフィルムの上下面がポリイミドフィルムで被覆され、前記ポリイミドフィルムの上面に前記インレイフィルムより大きい加硫層が設置されて構成され、前記ポリイミドフィルムから周囲がはみ出している前記加硫層の下面と下面側の前記ポリイミドフィルムの下面とが接着層によって前記タイヤに接着され、前記ICタグが、前記タイヤのスチールワイヤからなるビード部に、リムから5mm以上20mm以下離れた位置に設置され、前記ICタグの前記ループアンテナがリム側に向けて、かつ、前記RFIDチップはリムから遠い側に向けて設置されたことを特徴とするICタグ付きタイヤである。
【0009】
本発明は、上記の構成により、タイヤの変形時における曲げ応力がポリイミドフィルムと加硫層によって緩和されるのでICタグの耐久性が向上する効果がある。
【0010】
また、本発明は、上記のICタグ付きタイヤであって、前記ICタグが複数設置され、前記ICタグが、ICタグ同士でビードコアを介して通信するICタグ間通信制御手段を有し、前記ICタグ間通信制御手段を用いて、外部装置のリーダ/ライタと通信するICタグを定めて通信することを特徴とするICタグ付きタイヤである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、インレイフィルムの上下面がポリイミドフィルムで被覆され、そのポリイミドフィルムの上面にインレイフィルムより大きい加硫層が設置され、そのポリイミドフィルムと加硫層が、タイヤの変形時における曲げ応力を緩和されるのでICタグの耐久性が向上する効果がある。
【0012】
また、本発明は、ICタグが、タイヤのビード部に、リムから5mm以上20mm以下離れた位置に設置され、ICタグのループアンテナがリム側に向けて配置されているので、ICタグが外部装置のリーダ/ライタと通信できる理想通信距離が大きい効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るICタグ付きタイヤを示す断面図である。
【
図2】(a)本発明の実施形態によるICタグの平面図である。(b)同、側断面図である。
【
図3】本発明の実施形態によるICタグ付きタイヤの製造方法を示す断面図である。
【
図4】(a)本発明の第2の実施形態に係るICタグ付きタイヤを示す斜視図である。(b)同、側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
以下、
図1から
図3を参照して、本発明の第1の実施形態を説明する。
【0015】
(タイヤ10)
図1は、本実施の形態に係るICタグ付きタイヤ10の半径方向の断面図である。
図1のように、タイヤ10は、トレッド11、ベルト12、カーカス13、内側被覆ゴム14、ビード部15、サイドウォール部16で構成する。
【0016】
トレッド11は、タイヤ10が路面と接するタイヤの外皮であり、厚いゴム層から構成され、カーカス13を保護している。トレッド11のゴム層の表面にはトレッドパターンが形成されている。
【0017】
ベルト12は、ラジアル構造のトレッド11とカーカス12の間に円周方向に張った補強帯であり、コードをゴム部材で被覆した複数層で、タイヤ周方向の剛性を保つ「たが効果」を持たせている。
【0018】
カーカス13は、繊維やスチールワイヤのカーカスコードを被覆ゴム7bで被覆して構成したタイヤの骨格を成す部材であり、一対のビード部15間に、ビード部15を跨ぐように配置される。カーカス13は、荷重や衝撃、充填空気圧に耐えてタイヤ構造を保持する。
【0019】
内側被覆ゴム14は、チューブに相当するゴム層をタイヤの内側に貼り付けたものである。
【0020】
ビード部15は、ビードコア15aとビードフィラー15bとを備え、タイヤ10の中心を通るタイヤ中心軸に垂直な平面に対して対称に配置されて、カーカスコードの両端を支持し、タイヤをリム1に固定する。ビードコア15aは、スチールワイヤの束をリング状に形成したものをゴム部材で被覆したものである。ビードフィラー15bは、ビード部6に剛性を与えるために、サイドウォール部16のゴム層とビードコア15aとカーカス13との間に充填される断面が三角形のゴム部材である。
【0021】
サイドウォール部16は、トレッド11とビード部15の間に設けられたゴム層である。
【0022】
(ICタグ20)
ICタグ20は、
図2に示すように、インレイフィルム23上に形成したループアンテナ22に、RFID(Radio Frequency Identification:無線タグ)チップ21を電気接続し、その全体の上下面を2枚のポリイミドフィルム24aと24bで被覆する。このRFIDチップ21内には、データを記憶する記憶部と制御動作を実行する制御部とを備えている。
【0023】
ICタグ20のポリイミドフィルム24a上に加硫層25を設けた構造により、柔軟性を有して曲がり得る薄型フィルム状に形成する。そして、加硫層25と反対側のポリイミドフィルム24bの面とその周囲にはみ出している加硫層25の裏面にゴム性の接着層26を設けて、その接着層26でICタグ20をタイヤ10に接着する。
【0024】
このICタグ20全体の寸法は、インレイフィルム23と、そのインレイフィルム23の上下面を覆うポリイミドフィルム24aと24bを、例えば、縦がa1=6mm、横がa2=17mm、厚さがt=0.1mmのフィルム状に形成する。
【0025】
インレイフィルム23の上下面をポリイミドフィルム24aと24bで覆うことで、インレイフィルム23に曲げ応力がかかりにくくなり、ICタグ20の耐久性を向上させることができる。
【0026】
(加硫層25)
ICタグ20のポリイミドフィルム24aの面上に、タイヤ10の素材であるSBRと同質のゴム部材で、加硫により硬化させた0.1mm厚でICタグ20の面サイズより一回り大きい面サイズのシート状の加硫層25を、加硫層25にあらかじめ塗布したゴム系の接着剤を介して積層する。
【0027】
加硫層25をタイヤ10と同じ素材にすることで、タイヤ10使用時の変形量の違いから生じるICタグ20の周辺の亀裂の発生やICタグ20の剥離を防止する。
【0028】
(接着層26)
加硫層25とは反対側の下層のポリイミドフィルム24bの下面と、そのポリイミドフィルム24bの面から周囲がはみ出している加硫層25の裏面に接着層26を設けて、その接着層26でICタグ20をタイヤ10のサイドウォール部16の表面に接着させる。
【0029】
ここで、タイヤ10のサイドウォール部16の表面は、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム等又はこれらをブレンドしたゴム組成物を加硫して形成されている。
【0030】
接着層26は、接着強度が大きいクロロプレンゴム系接着剤、または、分子内に複数のイソシアネート基末端を有するウレタンプレポリマーを主成分とする接着剤などを用いる。
【0031】
これらの接着材による接着層26は、タイヤ走行時に大きな変形を繰返し受けるタイヤサイドウォール部表面にICタグ20を接着しても、硬化後の接着剤組成物が柔軟性を維持しているため、タイヤ走行時にICタグ20が剥離することがなく、動的耐久性に優れる。
【0032】
このようにポリイミドフィルム24aと24bで覆い、表面に加硫層25を形成したICタグ20を接着層26でタイヤ10に接着することで、ICタグ20が破損のおそれなくタイヤ10の表面に接着されたICタグ付きタイヤ10を形成することができる。
【0033】
(変形例1)
変形例1として、以下の手順によるタイヤ10の加硫処理により、ICタグ20をタイヤ10に設置することができる。すなわち、加硫層25を、ICタグ20のポリイミドフィルム24bの面上を可塑性のゴム部材で覆う加硫加工を施して設ける。
【0034】
(工程1)
まず、
図3(a)の側面断面図に示すように、ICタグ20のインレイフィルム23のRFIDチップ21が実装された面と反対側の面の上のポリイミドフィルム24bの上に、タイヤの素材であるSBRと同質のゴム部材で、加硫により硬化させた0.1mm厚でICタグ20の面サイズより一回り大きい面サイズのシート状の加硫層25を、加硫層25にあらかじめ塗布したゴム系の接着剤を介して積層する。
【0035】
(工程2)
次に、
図3(b)のように、未加硫のタイヤ10のサイドウォール部16の表面に、ICタグ20のポリイミドフィルム24aの面をタイヤ10の表面に向けICタグ20を接着する。
【0036】
この接着は、ゴム系の接着剤の接着層26を、ICタグ20のポリイミドフィルム24aの面と、その面から周囲がはみ出している加硫層25の裏面に形成し、その接着層26を用いてICタグ20をタイヤ10のサイドウォール部16の表面に接着する。
【0037】
(工程3)
次に、その未加硫のタイヤ10全体を金型30に挿入して、金型30とタイヤ10のサイドウォール部16の間にICタグ20を挟んで、180℃程度の高温と共に、タイヤ内部から外部へ25気圧程度の圧力を加えて加硫してタイヤ10を完成させる。
【0038】
この時、硬い金型30の面に加硫層25が接触して圧力を均一に分散させ、また、タイヤ10のサイドウォール部16のゴム部材が圧力を均一に分散させ、RFIDチップ21とインレイフィルム23に加わる圧力を均一化することで、RFIDチップ21が実装されたインレイフィルム23の変形を防止できる。また、ICタグ20の接着層26とタイヤ10のサイドウォール部16の表面のゴム部材は、加硫時の高温度と高圧力付加によって接合される。
【0039】
このようにICタグ20をタイヤ10に接着することでICタグ20を破損のおそれなくタイヤの表面に接着したICタグ付きタイヤ10を形成することができる。
【0040】
(ICタグ20の配置位置)
ICタグ20は、ビード部15に、リム1から10mm離れた位置のサイドウォール部16に、ループアンテナ22をタイヤホイールのリム1側に向け、RFIDチップ21はリム1から遠い側に向けて設置する。
【0041】
実験の結果により、ICタグ20を、ループアンテナ22をリム1側に向けて配置する場合が、ループアンテナ22をリム1から遠い側に向けて配置する場合よりも、ICタグ20が外部装置のリーダ/ライタと通信できる限界の距離(理想通信距離)が2倍程度に大きくなる知見を得た。
【0042】
また、ICタグ20をリム1から10mmの位置に設置した場合が、ICタグ20をリム側に近接して設置した場合及びリム1から20mmの位置に設置した場合よりも、理想通信距離が大きい知見を得た。
【0043】
すなわち、ICタグ20をリム1から10mmの位置に設置した場合に対して、リム1側に近接して設置した場合の理想通信距離は3分の1に小さくなり、リム1から20mmの位置に設置する場合の理想通信距離が2/3程度に小さくなった。
【0044】
そのため、ICタグ20はリム1から5mmから20mm離した位置に設置することが望ましい知見を得た。
【0045】
以上のように、本実施形態では、ICタグ20のRFIDチップ21とループアンテナ22をポリイミドフィルム24aと24bにより被覆してタイヤ10に接着し、そのICタグ20の表面を、加硫層25で覆った。こうすることで、これらの、ポリイミドフィルム24aと24bと加硫層25が、タイヤ10の変形時における曲げ応力を緩和するので、ICタグ20の耐久性が向上する効果がある。
【0046】
また、本実施形態のICタグ付きタイヤ10は、ICタグ20を、ビード部15の近くのサイドウォール部16に、リム1から5mmから20mm離れた位置に設置して、ICタグ20のループアンテナ22をアンテナとして機能するビードコア15aに電磁界結合させるので、長い通信距離を確保できる効果がある。
【0047】
<第2の実施形態>
次に、
図4を参照して本発明の第2の実施形態を説明する。第2の実施形態は、
図4のように、複数のICタグ20をタイヤ10のビード部15の表面に接着して配置する。
【0048】
ICタグ20の配置位置は、第1の実施形態と同様に、タイヤ10のリム1から5mmから20mm離した位置に設置する。また、ICタグ20のループアンテナ22側をリム1に向けてICタグ20を配置する。
【0049】
本実施形態では、1つのタイヤ10に複数のICタグ20を設けることで、タイヤ10が過酷な環境で使用されることで破損、あるいは、タイヤ10から剥離するICタグ20があっても、残りのICタグ20が、外部装置のリーダ/ライタと通信して必要な情報をリーダ/ライタに送信することができる。
【0050】
外部装置のリーダ/ライタがタイヤ10のビードコア15aに電磁結合して電力が供給されると、これらの複数のICタグ20がビードコア15aから電力を受電して動作する。そして、複数のICタグ20が、ビードコア15aを介して互いに通信して相談することで外部装置のリーダ/ライタと通信するICタグ20の優先順位を定める。そして、優先順位が一番高いICタグ20が外部装置のリーダ/ライタと通信する。
【0051】
ICタグ20には、この優先順位を定めるために他のICタグと通信する処理を行う、ICタグ間通信制御手段を備える。
【0052】
こうして、ICタグ同士がビードコア15aを介して互いに通信することで、外部装置のリーダ/ライタと通信するICタグ20を1つに定めて通信するので、外部装置のリーダ/ライタとタイヤ10の複数のICタグとの通信の秩序が維持される効果がある。
【0053】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0054】
例えば、前記実施の形態では、タイヤのデータを読みとるリーダ/ライタとの間で無線通信するパッシブ型のICタグ20について説明したが、本発明は、リーダ/ライタとの間でデータの送受信を行うアクティブ型のICタグにも適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1・・・リム
10・・・タイヤ
11・・・トレッド
12・・・ベルト
13・・・カーカス
14・・・内側被覆ゴム
15・・・ビード部
15a・・・ビードコア
15b・・・ビードフィラー
16・・・サイドウォール部
20・・・ICタグ
21・・・RFIDチップ
22・・・ループアンテナ
23・・・インレイフィルム
24a、24b・・・ポリイミドフィルム
25・・・加硫層
26・・・接着層
30・・・金型
a1・・・インレイフィルムの縦幅
a2・・・インレイフィルムの横幅