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  • 特許-焼結体用硬質粒子粉末 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】焼結体用硬質粒子粉末
(51)【国際特許分類】
   C22C 30/00 20060101AFI20220511BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220511BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20220511BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20220511BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C22C30/00
B22F1/00 M
B22F1/00 R
C22C19/03 F
C22C19/07 F
C22C27/04 102
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018026177
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019143176
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 石根
(72)【発明者】
【氏名】山本 知己
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 隆久
(72)【発明者】
【氏名】河野 俊介
(72)【発明者】
【氏名】服部 広基
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157617(JP,A)
【文献】特開2012-052167(JP,A)
【文献】特開昭55-050449(JP,A)
【文献】特開昭63-109142(JP,A)
【文献】特開2009-155681(JP,A)
【文献】特開2017-133046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 30/00
B22F 1/00
C22C 19/03
C22C 19/07
C22C 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01≦C≦3.5mass%、
0.5≦Si≦4.0mass%、
4.0≦Mn≦10.0mass%、
27.0≦Ni≦35.0mass%、
0.1≦Cr≦40.0mass%、
5.0≦Mo≦50.0mass%、
0.1≦Fe≦30.0mass%、及び
0.01≦REM≦0.5mass%
を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなる焼結体用硬質粒子粉末。
【請求項2】
4.0≦Mn≦7.0mass%である請求項1に記載の焼結体用硬質粒子粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体用硬質粒子粉末に関し、さらに詳しくは、REMが添加された硬質粒子粉末であって、粉末特性や焼結特性に優れており、かつ、これを用いて焼結体(例えば、自動車エンジンバルブシート)を作製した時に高い耐摩耗性が得られる焼結体用硬質粒子粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
トリバロイ(登録商標)T-400は、Mo珪化物を主とした硬質相を形成するCo基の耐摩耗性の高い硬質粒子として周知である。トリバロイ(登録商標)T-400相当材であるCo-2.5Si-28Mo-8.5Cr系合金粉末は、自動車エンジンバルブシート(以下、単に「バルブシート」という)の耐摩耗性の向上に大きく寄与する硬質粒子として、高負荷がかかる自動車エンジンで多用されている。そのため、多くの先行技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、耐摩耗性や強度等を損なうことなく、硬質層をより多量に基地中に分散させることを目的として、
(a)基地形成粉末(鉄、SUS316、SUS304、SUS310、SUS430)と、硬質層形成粉末(Co-28Mo-2.5Si-8Cr)を含む原料粉末を圧縮成形し、焼結する耐摩耗性焼結部材の製造方法において、
(b)基地形成粉末の90質量%以上が最大粒径46μmの微粉末であり、硬質層形成粉末の原料粉末に占める割合が40~70質量%である
耐摩耗性焼結部材の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、耐摩耗性に優れた鉄基焼結合金材を得ることを目的として、
(a)純鉄粉、合金鉄粉、炭素粉末、微細炭化物析出鋼粉末、及び硬質粒子粉末(Cr-Mo-Co系、Ni-Cr-Mo-Co系等)からなる鉄基合金粉100重量部に対して、0.2~3.0重量部の固体潤滑材粉末(硫化物、フッ化物)及び/又は0.2~5.0重量部の酸化物安定化粉末(希土類元素の酸化物であるY23、CeO2、CaTiO3)を添加した鉄基合金粉を圧縮成形し、
(b)次いで焼結して焼結体を得る
バルブシート用耐摩耗性鉄基合金材の製造方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、エンジン要求特性の高負荷化に伴い、バルブシート材にはより高い耐摩耗性が要求されるようになっている。そのため、特許文献1、2等に開示された硬質粒子では、バルブシート材に要求される耐摩耗性が十分でないという問題があった。さらに、バルブシート材に要求される耐摩耗性を向上させようとすると、粉末特性(成形性)や焼結特性が損なわれることが考えられる。そのため、粉末特性や焼結特性を損なうことなく、バルブシート材に要求される耐摩耗性を向上させる技術が求められている。
【0006】
さらに、近年、CO2削減、石油資源枯渇などの地球規模の社会問題に対応するため、直噴エンジン、予混合圧縮着火(HCCI)エンジンなど省燃料のリーンバーン燃焼技術や、化石燃料を使わない植物原料のバイオメタノール燃料エンジンが推進されている。
リーンバーン燃焼エンジンやアルコール燃料エンジンでは、燃焼時の煤が従来エンジンに比較して少ないため、エンジン始動後の低温状態では煤によりバルブシートが保護されなくなり、摩耗が増加することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-107034号公報
【文献】特開2003-193173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、焼結体に添加される硬質粒子であって、粉末特性や焼結特性を損なうことなく、焼結体の耐摩耗性を向上させることが可能な焼結体用硬質粒子粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る焼結体用硬質粒子粉末は、
0.01≦C≦3.5mass%、
0.5≦Si≦4.0mass%、
4.0≦Mn≦10.0mass%、
27.0≦Ni≦35.0mass%、
0.1≦Cr≦40.0mass%、
5.0≦Mo≦50.0mass%、
0.1≦Fe≦30.0mass%、及び
0.01≦REM≦0.5mass%
を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
REMを含むCo系の硬質粒子において、成分を最適化すると、粉末特性や焼結特性を損なうことなく、硬質粒子を含む焼結体の耐摩耗性を向上させることができる。これは、硬質粒子に適量のREMを添加することによって、600℃程度の低温域において焼結体表面に酸化被膜が生成し、この酸化被膜が潤滑作用を示すためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】バルブシート単体摩耗試験機の概要を示す断面図である。
図2】摩耗試験片の摩耗量の測定箇所を説明するための図である。
図3参考例2及び比較例13で得られた硬質粒子粉末の重量増加と温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 焼結体用硬質粒子粉末]
本発明に係る焼結体硬質粒子粉末は、以下のような元素を含み、残部がCo及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0013】
(1) 0.01≦C≦3.5mass%:
C含有量が過剰になると、炭化物の生成により靱性が低下する。従って、C含有量は、3.5mass%以下である必要がある。C含有量は、好ましくは、2.0mass%以下である。
一方、必要以上にC含有量を低減しても、効果に差がなく、実益がない。従って、C含有量は、0.01mass%以上である必要がある。C含有量は、好ましくは、0.5mass%以上である。
【0014】
(2) 0.5≦Si≦4.0mass%:
Siは、ケイ化物の生成による硬さ向上を目的として含有させる成分元素である。Si含有量が少なすぎると、硬さが低くなりすぎ、硬質粒子として機能しない。従って、Si含有量は、0.5mass%以上である必要がある。Si含有量は、好ましくは、0.8mass%以上である。
一方、Si含有量が過剰になると、硬さが高くなりすぎる。その結果、硬質粒子を含む焼結体から硬質粒子が割れて脱落し、焼結体の摩耗量がかえって大きくなる。従って、Si含有量は、4.0mass%以下である必要がある。Si含有量は、好ましくは、3.0mass%以下である。
【0015】
(3) 0.1≦Mn≦10.0mass%:
Mn含有量が少なすぎると、粉末の表面に酸化皮膜が生成しにくくなり、潤滑性が低下する。その結果、耐摩耗性が劣化する。従って、Mn含有量は、0.1mass%以上である必要がある。Mn含有量は、好ましくは、0.2mass%以上、さらに好ましくは、4.0mass%以上である。
一方、Mn含有量が過剰になると、粉末酸化量の増加により焼結特性が劣化する。従って、Mn含有量は、10.0mass%以下である必要がある。Mn含有量は、好ましくは、7.0mass%以下である。
【0016】
(4) 0.1≦Ni≦35.0mass%:
Ni含有量が少なすぎると、耐熱性の低下により耐摩耗性が劣化する。従って、Ni含有量は、0.1mass%以上である必要がある。Ni含有量は、好ましくは、0.3mass%以上、さらに好ましくは、9.0mass%以上である。
一方、Ni含有量が過剰になると、耐熱性の低下により耐摩耗性が劣化する。従って、Ni含有量は、35.0mass%以下である必要がある。Ni含有量は、好ましくは、30.0mass%以下である。
【0017】
(5) 0.1≦Cr≦40.0mass%:
Crは、耐酸化性の保持を目的として含有させる元素である。Cr含有量が少なすぎると、耐酸化性の低下により耐摩耗性が劣化する。従って、Cr含有量は、0.1mass%以上である必要がある。Cr含有量は、好ましくは、3.0mass%以上である。
一方、Cr含有量が過剰になると、耐熱性の低下により耐摩耗性が劣化する。従って、Cr含有量は、40.0mass%以下である必要がある。Cr含有量は、好ましくは、30.0mass%以下である。
【0018】
(6) 5.0≦Mo≦50.0mass%:
Moは、粉末粒子の硬さ保持を目的として含有させる成分元素である。Mo含有量が少なすぎると、硬質粒子粉末を含む焼結体の耐摩耗性が不十分となる。従って、Mo含有量は、5.0mass%以上である必要がある。Mo含有量は、好ましくは、14.0mass%以上である。
一方、Mo含有量が過剰になると、硬さが高くなりすぎる。その結果、硬質粒子粉末を含む焼結体から硬質粒子が割れて脱落し、焼結体の摩耗量がかえって大きくなる。従って、Mo含有量は、50.0mass%以下である必要がある。Mo含有量は、好ましくは、40.0mass%以下である。
【0019】
(7) 0.1≦Fe≦30.0mass%:
Feは、硬質粒子粉末の鉄粉への拡散性を向上させる役割を果たす元素である。Fe含有量が少なすぎると、鉄粉への拡散性の低下により、硬質粒子粉末を含む焼結体から硬質粒子粉末が脱落しやすくなる。その結果、耐摩耗性が劣化する。従って、Fe含有量は、0.1mass%以上である必要がある。Fe含有量は、好ましくは、2.0mass%以上である。
一方、Fe含有量が過剰になると、Co含有量が減少する。Feは、Coより耐熱性、耐摩耗性が低いため、Fe含有量が過剰になると、耐熱性、及び耐摩耗性が著しく低下する。従って、Fe含有量は、30.0mass%以下である必要がある。Fe含有量は、好ましくは、20.0mass%以下である。
【0020】
(8) 0.01≦REM≦0.5mass%:
本発明において、「REM」とは、ランタノイド元素の少なくとも1種を含むものをいる。REMは、粉末特性や焼結特性を損なうことなく、硬質粒子粉末を含む焼結体の耐摩耗性を向上させるために含有させる成分元素である。REM含有量が少なすぎると、焼結体の耐摩耗性の向上に殆ど寄与しない。従って、REM含有量は、0.01mass%以上である必要がある。REM含有量は、好ましくは、0.05mass%以上である。
一方、REM含有量が過剰になると、粉末酸化量の増加により焼結特性が劣化し、さらに耐摩耗性も低下する。従って、REM含有量は、0.5mass%以下である必要がある。REM含有量は、好ましくは、0.3mass%以下である。
【0021】
[2. 焼結体の製造方法]
本発明に係る焼結体用硬質粒子粉末を含む焼結体は、
(a)本発明に係る焼結体用硬質粒子粉末と、純鉄粉と、黒鉛粉末とを混合し、
(b)混合粉末を圧粉成形して圧粉体とし、
(c)圧粉体を焼結する
ことにより製造することができる。
【0022】
[2.1. 混合工程]
まず、本発明に係る焼結体用硬質粒子粉末(以下、単に「硬質粒子粉末」ともいう)と、純鉄粉と、黒鉛粉末とを混合する(混合工程)。各成分の配合量は、目的に応じて最適な配合量を選択するのが好ましい。また、成形性を向上させるために、原料中に成形潤滑剤を添加するのが好ましい。
【0023】
硬質粒子粉末の配合量が少なすぎると、焼結体の耐摩耗性が低下する。従って、硬質粒子粉末の配合量は、5.0mass%以上が好ましい。硬質粒子粉末の配合量は、好ましくは、10.0mass%以上である。
一方、硬質粒子粉末の配合量が過剰になると、焼結特性が低下する。従って、硬質粒子粉末の配合量は、50.0mass%以下が好ましい。硬質粒子粉末の配合量は、好ましくは、30.0mass%以下である。
【0024】
黒鉛粉末の配合量が少なすぎると、焼結体の耐摩耗性が低下する。従って、黒鉛粉末の配合量は、0.5mass%以上が好ましい。黒鉛粉末の配合量は、好ましくは、0.8mass%以上である。
一方、黒鉛粉末の配合量が過剰になると、焼結特性が低下する。従って、黒鉛粉末の配合量は、2.0mass%以下が好ましい。黒鉛粉末の配合量は、好ましくは、1.5mass%以下である。
【0025】
[2.2. 成形工程]
次に、混合粉末を圧粉成形し、圧粉体を得る。成形条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。一般に、成形圧力が高くなるほど、成形密度が向上する。成形後、圧粉体を大気中において焼成し、脱脂する。
【0026】
[2.3. 焼結工程]
次に、圧粉体を焼結させる(焼結工程)。
焼結条件は、圧粉体の組成に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。一般に、焼結温度が高くなるほど、短時間の熱処理で緻密な焼結体を得ることができる。一方、焼結温度が高くなりすぎると、硬質粒子が鉄基マトリックスに拡散しすぎたり、溶融したりするという問題がある。最適な焼結条件は、圧粉体の組成により異なるが、通常、1100℃~1300℃で0.5時間~3時間焼結するのが好ましい。さらに、焼結は、還元雰囲気下(例えば、分解アンモニア雰囲気下)で行うのが好ましい。
【0027】
[3. 作用]
REMを含むCo系の硬質粒子において、成分を最適化すると、粉末特性や焼結特性を損なうことなく、硬質粒子を含む焼結体の耐摩耗性を向上させることができる。これは、硬質粒子に適量のREMを添加することによって、600℃程度の低温域において焼結体表面に酸化被膜が生成し、この酸化被膜が潤滑作用を示すためと考えられる。
【実施例
【0028】
参考例1~16、実施例17~18、参考例19~30、比較例1~44)
[1. 試料の作製]
[1.1. 硬質粒子粉末の作製]
表1及び表2に示す組成となるように原料を配合した。原料混合物を溶解し、アトマイズ法を用いて硬質粒子粉末を得た。なお、表1及び表2には、硬質粒子粉末を含む焼結体の焼結密度、及び後述する耐摩耗試験を行った時の焼結体の摩耗量も併せて示した。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
[1.2. 焼結体の作製]
純鉄粉(ASC100.29)69.2mass%、硬質粒子粉末30mass%、及び黒鉛粉末(CPB)0.8mass%を配合した。これを100重量部として、さらに、Zn-St(成形潤滑剤)0.5重量部を添加して混合した。
次に、原料を成形圧力8t/cm2で圧縮成形した。圧粉体形状は、
(a)径35mm×厚さ14mmのディスク形状、又は、
(b)外径28mm×内径20mm×厚さ4mmのリング形状
とした。
次に、圧粉体を大気雰囲気中において、400℃で1時間脱脂した。さらに、脱脂体を分解アンモニア雰囲気(N2+3H2)において、1160℃で1時間焼結し、焼結体を得た。
【0032】
[2. 試験方法]
[2.1. 粉末特性]
得られた硬質粒子粉末について、粉末特性(粒度分布、見掛密度、流動度、粉末硬さ、酸化開始温度)を調査した。ここで、
(a)粒度分布は、日本工業会規格:JIS Z 2510-2004により、
(b)見掛密度は、日本工業会規格:JIS Z 2504-2012により、
(c)流動度は、日本工業会規格:JIS Z 2502-2012により、
(d)粉末硬さは、微小硬さ測定機により、
(e)酸化開始温度は、熱天秤により
それぞれ、測定した。
【0033】
[2.2. 成形特性及び焼結特性]
作製した圧粉体及び焼結体について、成形特性及び焼結特性(圧粉密度、焼結密度、化学成分、焼結体硬さ、圧環強度)を調査した。
ここで、圧粉密度及び焼結密度は、日本工業会規格:JIS Z 2508、JIS Z 2509-2004により測定した。化学成分は、赤外線吸収法により求めた。
焼結体硬さ(HRA)は、ロックウェル硬さ試験機により測定した。圧環強度は、リング形状の焼結体を用いて、アムスラー試験機により測定した。
【0034】
[2.3. 焼結体の耐摩耗試験]
図1に示すバルブシート単体摩耗試験機(以下、単に「摩耗試験機」ともいう)を用いて、焼結体の耐摩耗試験を行った。ディスク形状の焼結体(径35mm×厚さ14mm)をバルブシート形状に加工し、これを各摩耗試験片とした。そして、摩耗試験片をシートホルダに圧入することにより摩耗試験機にセットした。
表3に示す試験条件で摩耗試験機を駆動し、バルブをガス火炎加熱することにより摩耗試験片を間接的に加熱しながら、クランク駆動によるたたき入力によって摩耗試験片を摩耗させた。
【0035】
【表3】
【0036】
形状測定器を用いて、摩耗試験前後の摩耗試験片の形状を測定した。図2図1の矢印Aで示す部分の拡大図)に示すように、摩耗試験片面に対して垂直方向の差Dを求め、これを摩耗試験片の摩耗量とした。
【0037】
[3. 結果]
[3.1. 粉末特性]
表4に、参考例1~3及び比較例9~10で得られた硬質粒子粉末の粉体特性を示す。図3に、参考例2及び比較例13で得られた硬質粒子粉末の重量増加と温度との関係を示す。表4及び図3より、以下のことが分かる。
(1)参考例1~3の粒度分布及び粉末特性は、比較例9~10の粒度分布及び粉末特性とほぼ同等であった。
(2)参考例1~3と比較例9~10の粒度分布に関し、-100~+145mesh、及び-145~+200meshにおける両者の粒度分布に差は少なく、粉末製造時のバラツキによるものと考えられる。
(3)参考例1~3の硬さは、比較例9~10とほぼ同等であった。
(4)参考例2は、比較例13に比べて酸化開始温度が低い。これは、硬質粒子粉末にREMを添加することによって、酸化しやすくなったためである。
【0038】
【表4】
【0039】
[3.2. 成形特性及び焼結特性]
表5に、参考例1~3及び比較例9~10で得られた圧粉体及び焼結体の特性を示す。表5より、以下のことが分かる。
(1)参考例1~3及び比較例9~10は、それぞれ、組成は異なるが、ほぼ同等の圧粉密度、焼結密度、及び焼結体硬さが得られた。
(2)参考例1~3は、比較例9~10に比べて、圧環強度が高い。圧環強度は、焼結体硬さに起因するため、焼結体硬さが高いと圧環強度も高くなる傾向にある。
【0040】
【表5】
【0041】
[3.3. 耐摩耗試験]
表1及び表2に、各硬質粒子粉末の組成、硬質粒子粉末を用いた焼結体の焼結密度、及び耐摩耗試験時の焼結体の摩耗量を示す。表1及び表2より、以下のことがわかる。
(1)参考例1~16、実施例17~18、参考例19~30は、いずれも摩耗量が20μm未満であった。一方、比較例1~44は、いずれも摩耗量が20μm以上であった。すなわち、参考例1~16、実施例17~18、参考例19~30は、比較例1~44と比べて摩耗量が少なかった。
【0042】
(2)参考例1~16、実施例17~18、参考例19~30と比較例13~28を比較すると、これらは、REMの有無以外はいずれも本発明の好ましい成分範囲を満たしている。従って、参考例1~16、実施例17~18、参考例19~30に係る成分組成(REMを除く)において、REMの添加は、焼結体(バルブシート)の耐摩耗性を向上させる効果があることがわかった。
(3)比較例29~44に示すように、REMの含有量が多すぎると、焼結体(バルブシート)の耐摩耗性を向上させる効果が得られないことがわかる。これらのことから、REM含有量は、0.6mass%を超えない方が良いことがわかる。このことから、REM含有量は、好ましくは、0.5mass%以下、さらに好ましくは、0.25mass%以下であることがわかった。
【0043】
(4)比較例1は、摩耗量が多い。これは、C量が多すぎるために、硬さが高くなりすぎ、硬質粒子粉末が破砕したためと考えられる。
(5)比較例2は、摩耗量が多い。これは、Si量が多すぎるために、硬さが高くなりすぎ、硬質粒子粉末が脱落したためと考えられる。
(6)比較例3は、摩耗量が多い。これは、Mnを含んでいないために、粉末酸化膜が形成されず、潤滑性が低下したためと考えられる。
(7)比較例4は、摩耗量が多い。これは、Mn量が多いため、粉末酸化量が増加し、焼結特性が劣化したためと考えられる。
(8)比較例5は、摩耗量が多い。これは、Niを含んでいないために、耐熱性が低下したためと考えられる。
(9)比較例6は、摩耗量が多い。これは、Ni量が多すぎるために、逆にバランス元素のCoが減少し、耐熱、耐摩耗性が低下したためと考えられる。
【0044】
(10)比較例7は、摩耗量が多い。これは、Crを含んでいないために、耐熱性が低下したためと考えられる。
(11)比較例8は、摩耗量が多い。これは、Cr量が多すぎるために、逆にバランス元素のCoが減少し、耐熱、耐摩耗性が低下したためと考えられる。
(12)比較例9は、摩耗量が多い。これは、Mo量が少なすぎるために、硬さが低下し、耐摩耗性が低下したためと考えられる。
(13)比較例10は、摩耗量が多い。これは、Mo量が多すぎるために、硬さが高くなりすぎ、硬質粒子粉末が脱落したためと考えられる。
(14)比較例11は、摩耗量が多い。これは、Feを含んでいないために、鉄粉への拡散性が低下し、硬質粒子粉末が脱落しやすくなったためと考えられる。
(15)比較例12は、摩耗量が多い。これは、Fe量が多すぎるために、耐熱性が低下したためと考えられる。
【0045】
(16)比較例13~28は、摩耗量が多い。これは、REMを含んでいないために、低温での酸化が起こらず、バルブ表面での潤滑性が低下したためと考えられる。
(17)比較例29~44は、摩耗量が多い。これは、REM量が多いために、粉末酸化量が増加し、焼結特性が低下したためと考えられる。
【0046】
以上のことから、所定の成分系からなる硬質粒子粉末にREMを添加すると、粉末特性や焼結特性をほとんど損なうことなく、焼結体(バルブシート)の耐摩耗性を向上させることができること、及び、耐摩耗性に優れた焼結体が得られることが分かった。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る焼結体用硬質粒子粉末は、バルブシート、バルブガイド、その他の機械構造部品として用いられる各種焼結体に対し、耐摩耗性の向上を目的として添加される硬質粒子粉末として用いることができる。
図1
図2
図3