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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ランフラットタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/02 20060101AFI20220511BHJP
   B60C 17/00 20060101ALI20220511BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20220511BHJP
   B60C 9/08 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B60C9/02 C
B60C17/00 B
B60C15/06 B
B60C9/08 J
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018042729
(22)【出願日】2018-03-09
(65)【公開番号】P2019156024
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】青木 知栄子
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1573870(KR,B1)
【文献】特開平11-115421(JP,A)
【文献】特開昭49-020802(JP,A)
【文献】特開平11-227426(JP,A)
【文献】特開2015-098198(JP,A)
【文献】米国特許第04023608(US,A)
【文献】実開昭62-203701(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランフラットタイヤであって、
トレッド部と一対のサイドウォール部を経て一対のビード部にそれぞれ埋設されたビードコア間に跨るカーカスと、
前記一対のサイドウォール部のそれぞれに配された断面三日月状をなすサイド補強ゴム層と、前記一対のビードコアのタイヤ半径方向の外側でタイヤ半径方向に先細状に延びるビードエイペックスゴムとを具え、
前記ビードエイペックスゴムは、前記ビードコアからタイヤ半径方向の外側に延びる第1ビードエイペックスゴムと、前記第1ビードエイペックスゴムよりもタイヤ軸方向の外側に配された第2ビードエイペックスゴムとを有し、
前記カーカスは、第1カーカスコードの層からなる第1カーカスプライと、第2カーカスコードの層からなる第2カーカスプライとを含み、
前記第1カーカスプライ及び前記第2カーカスプライは、それぞれ、前記ビードコア間をトロイド状に延びる本体部と、この本体部に連なり前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部とを有し、
前記第1カーカスプライの前記折返し部は、前記第2ビードエイペックスゴムのタイヤ軸方向の外側を通ってタイヤ半径方向に延びており、
前記第2カーカスプライの前記折返し部は、前記第1ビードエイペックスゴムと前記第2ビードエイペックスゴムとの間を通ってタイヤ半径方向に延びており
前記第1ビードエイペックスゴムの架橋ゴムの複素弾性率E*fと前記第2ビードエイペックスゴムの架橋ゴムの複素弾性率E*sとの比E*f/E*sが、0.75~1.28である、
ランフラットタイヤ。
【請求項2】
前記複素弾性率E*sが前記複素弾性率E*fよりも大きい、請求項1記載のランフラットタイヤ。
【請求項3】
ランフラットタイヤであって、
トレッド部と一対のサイドウォール部を経て一対のビード部にそれぞれ埋設されたビードコア間に跨るカーカスと、
前記一対のサイドウォール部のそれぞれに配された断面三日月状をなすサイド補強ゴム層と、前記一対のビードコアのタイヤ半径方向の外側でタイヤ半径方向に先細状に延びるビードエイペックスゴムとを具え、
前記ビードエイペックスゴムは、前記ビードコアからタイヤ半径方向の外側に延びる第1ビードエイペックスゴムと、前記第1ビードエイペックスゴムよりもタイヤ軸方向の外側に配された第2ビードエイペックスゴムとを有し、
前記カーカスは、第1カーカスコードの層からなる第1カーカスプライと、第2カーカスコードの層からなる第2カーカスプライとを含み、
前記第1カーカスプライ及び前記第2カーカスプライは、それぞれ、前記ビードコア間をトロイド状に延びる本体部と、この本体部に連なり前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部とを有し、
前記第1カーカスプライの前記折返し部は、前記第2ビードエイペックスゴムのタイヤ軸方向の外側を通ってタイヤ半径方向に延びており、
前記第2カーカスプライの前記折返し部は、前記第1ビードエイペックスゴムと前記第2ビードエイペックスゴムとの間を通ってタイヤ半径方向に延びており、かつ、前記第2ビードエイペックスゴムに沿って前記ビードコアのタイヤ軸方向外端よりもタイヤ軸方向の内側に配される部分を有する、
ランフラットタイヤ。
【請求項4】
前記第1カーカスプライの前記本体部は、前記サイド補強ゴム層のタイヤ軸方向の内側を延びている、請求項1乃至3のいずれかに記載のランフラットタイヤ。
【請求項5】
前記第2カーカスプライの前記本体部は、前記サイド補強ゴム層のタイヤ軸方向の外側を延びている、請求項1乃至4のいずれかに記載のランフラットタイヤ。
【請求項6】
正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の状態において、前記第1カーカスプライの前記折返し部のタイヤ半径方向の外端は、前記正規リムのリムフランジのタイヤ半径方向の外端よりもタイヤ半径方向の外側に位置している、請求項1乃至5のいずれかに記載のランフラットタイヤ。
【請求項7】
前記第1カーカスプライの前記折返し部のタイヤ半径方向の外端は、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ半径方向の外側に位置している、請求項6記載のランフラットタイヤ。
【請求項8】
前記カーカスのタイヤ半径方向の外側かつ前記トレッド部の内部に配されたベルト層をさらに具え、
前記第1カーカスプライの前記折返し部のタイヤ半径方向の外端は、前記ベルト層のタイヤ軸方向の外端よりもタイヤ軸方向の内側に位置している、請求項7記載のランフラットタイヤ。
【請求項9】
前記第2カーカスプライの前記折返し部のタイヤ半径方向の外端は、前記第1カーカスプライの前記折返し部のタイヤ半径方向の外端よりもタイヤ軸方向の内側に位置している、請求項8記載のランフラットタイヤ。
【請求項10】
前記第2ビードエイペックスゴムのタイヤ半径方向の外端は、前記第1ビードエイペックスゴムのタイヤ半径方向の外端よりもタイヤ半径方向の外側に位置している、請求項1乃至8のいずれかに記載のランフラットタイヤ。
【請求項11】
前記第1ビードエイペックスゴムのタイヤ半径方向の外端は、前記サイド補強ゴム層のタイヤ半径方向の内側よりもタイヤ半径方向の外側に位置している、請求項10記載のランフラットタイヤ。
【請求項12】
前記第1カーカスプライの層数は、前記第2カーカスプライの層数よりも多い、請求項3記載のランフラットタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンク状態においても走行可能なランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サイドウォール部においてカーカスの内側に断面略三日月状のサイド補強ゴム層が配されたランフラットタイヤが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、カーカスの折返し部のタイヤ軸方向内側に第1エイペックス、同外側に第2エイペックスが配されたランフラットタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2015-098198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ランフラットタイヤでは、縁石やポットホールを通過する際、カーカスに瞬間的に過度な張力が発生し、カーカスがピンチカットと称される損傷を受けるおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、ポットホールや縁石等を通過する際のカーカスの張力を低減し、カーカスの損傷を抑制できるランフラットタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ランフラットタイヤであって、トレッド部と一対のサイドウォール部を経て一対のビード部にそれぞれ埋設されたビードコア間に跨るカーカスと、前記一対のサイドウォール部のそれぞれに配された断面三日月状をなすサイド補強ゴム層と、前記一対のビードコアのタイヤ半径方向の外側でタイヤ半径方向に先細状に延びるビードエイペックスゴムとを具え、前記ビードエイペックスゴムは、前記ビードコアからタイヤ半径方向の外側に延びる第1ビードエイペックスゴムと、前記第1ビードエイペックスゴムよりもタイヤ軸方向の外側に配された第2ビードエイペックスゴムとを有し、前記カーカスは、第1カーカスコードの層からなる第1カーカスプライと、第2カーカスコードの層からなる第2カーカスプライとを含み、前記第1カーカスプライ及び前記第2カーカスプライは、それぞれ、前記ビードコア間をトロイド状に延びる本体部と、この本体部に連なり前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部とを有し、前記第1カーカスプライの前記折返し部は、前記第2ビードエイペックスゴムのタイヤ軸方向の外側を通ってタイヤ半径方向に延びており、前記第2カーカスプライの前記折返し部は、前記第1ビードエイペックスゴムと前記第2ビードエイペックスゴムとの間を通ってタイヤ半径方向に延びている。
【0008】
本発明の前記ランフラットタイヤにおいて、前記第1カーカスプライの前記本体部は、前記サイド補強ゴム層のタイヤ軸方向の内側を延びている、ことが望ましい。
【0009】
本発明の前記ランフラットタイヤにおいて、前記第2カーカスプライの前記本体部は、前記サイド補強ゴム層のタイヤ軸方向の外側を延びている、ことが望ましい。
【0010】
本発明の前記ランフラットタイヤにおいて、正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の状態において、前記第1カーカスプライの前記折返し部のタイヤ半径方向の外端は、前記正規リムのリムフランジのタイヤ半径方向の外端よりもタイヤ半径方向の外側に位置している、ことが望ましい。
【0011】
本発明の前記ランフラットタイヤにおいて、前記第1カーカスプライの前記折返し部のタイヤ半径方向の外端は、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ半径方向の外側に位置している、ことが望ましい。
【0012】
本発明の前記ランフラットタイヤにおいて、前記カーカスのタイヤ半径方向の外側かつ前記トレッド部の内部に配されたベルト層をさらに具え、前記第1カーカスプライの前記折返し部のタイヤ半径方向の外端は、前記ベルト層のタイヤ軸方向の外端よりもタイヤ軸方向の内側に位置している、ことが望ましい。
【0013】
本発明の前記ランフラットタイヤにおいて、前記第2カーカスプライの前記折返し部のタイヤ半径方向の外端は、前記第1カーカスプライの前記折返し部のタイヤ半径方向の外端よりもタイヤ軸方向の外側に位置している、ことが望ましい。
【0014】
本発明の前記ランフラットタイヤにおいて、前記第2ビードエイペックスゴムのタイヤ半径方向の外端は、前記第1ビードエイペックスゴムのタイヤ半径方向の外端よりもタイヤ半径方向の外側に位置している、ことが望ましい。
【0015】
本発明の前記ランフラットタイヤにおいて、前記第1ビードエイペックスゴムのタイヤ半径方向の外端は、前記サイド補強ゴム層のタイヤ半径方向の内側よりもタイヤ半径方向の外側に位置している、ことが望ましい。
【0016】
本発明の前記ランフラットタイヤにおいて、前記第1カーカスプライの層数は、前記第2カーカスプライの層数よりも多い、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のランフラットタイヤでは、ビードエイペックスゴムは、ビードコアからタイヤ半径方向の外側に延びる第1ビードエイペックスゴムと、第1ビードエイペックスゴムよりもタイヤ軸方向の外側に配された第2ビードエイペックスゴムとを有する。第1カーカスプライの折返し部は、第2ビードエイペックスゴムのタイヤ軸方向の外側を通ってタイヤ半径方向に延びている。これにより、縁石やポットホールを通過する際、第2ビードエイペックスゴムのタイヤ軸方向の外側に位置される第1カーカスプライの折返し部の張力が低減され、損傷が抑制される。また、第2カーカスプライの折返し部は、第1ビードエイペックスゴムと第2ビードエイペックスゴムとの間を通ってタイヤ半径方向に延びている。これにより、内圧低下時のビードエイペックスゴムの変形が抑制され、ランフラット耐久性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のランフラットタイヤの正規状態における回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。
図2図1のランフラットタイヤがポットホールを通過する際のサイドウォール部からビード部の変形を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態のランフラットタイヤ1の正規状態における回転軸を含むタイヤ子午線断面図が示されている。
【0020】
「正規状態」とは、タイヤが正規リムにリム組みされ、かつ、正規内圧が充填された無負荷の状態である。以下、特に言及しない場合、タイヤの各部の寸法等は、この正規状態で測定された値である。
【0021】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0022】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。タイヤが乗用車用である場合、正規内圧は、180kPaである。
【0023】
本実施形態のランフラットタイヤ1は、トレッド部2と一対のサイドウォール部3を経て一対のビード部4にそれぞれ埋設されたビードコア5間に跨るカーカス6と、ビードエイペックスゴム8と、サイドウォール部3を補強するためのサイド補強ゴム層9と、を備える。
【0024】
カーカス6は、第1カーカスコードをトッピングゴムで被覆した層からなる第1カーカスプライ6Aと、第2カーカスコードをトッピングゴムで被覆した層からなる第2カーカスプライ6Bを有する。第1カーカスコード及び第2カーカスコードには、例えば、ポリエステル又はレーヨン等の有機繊維が適用される。本実施形態では、第1カーカスコード及び第2カーカスコードは、タイヤ赤道Cに対して例えば75゜~90゜の角度で傾けて配されている。
【0025】
第1カーカスプライ6Aは、ビードコア5間をトロイド状に跨がって延びる本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の周りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを有する。同様に、第2カーカスプライ6Bは、ビードコア5間をトロイド状に跨がって延びる本体部6cと、この本体部6cに連なりビードコア5の周りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6dとを有する。
【0026】
ビードコア5は、例えば、スチール製のビードワイヤを螺旋巻きにしたものを、ゴム被覆することによって形成され、一対のビード部4に配されている。本実施形態のビードコア5は、断面が略矩形状に形成されている。
【0027】
ビードエイペックスゴム8は、第1ビードエイペックスゴム8Aと、第2ビードエイペックスゴム8Bとを有する。第1ビードエイペックスゴム8Aは、ビードコア5からタイヤ半径方向の外側に延びている。第1ビードエイペックスゴム8Aは、第1カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間に配されている。第2ビードエイペックスゴム8Bは、第1ビードエイペックスゴム8Aよりもタイヤ軸方向の外側に配されている。
【0028】
サイド補強ゴム層9は、サイドウォール部3に配され、断面が略三日月状に形成されている。サイド補強ゴム層9は、トレッド部2のショルダー部からサイドウォール部3をへてビード部4まで配されている。サイド補強ゴム層9は、カーカス6と共に内圧低下時の荷重を支え、タイヤの撓みを抑制する。
【0029】
なお、カーカス6の内側、すなわちタイヤ内腔面には、空気不透過性のゴムからなるインナーライナー層10が形成されている。サイド補強ゴム層9がタイヤの撓みを抑制することにより、インナーライナー層10の摩擦による損傷が抑制され、ランフラット走行が可能となる。
【0030】
第1カーカスプライ6Aの折返し部6bは、第2ビードエイペックスゴム8Bのタイヤ軸方向の外側を通ってタイヤ半径方向の内側から外側に延びている。第2カーカスプライ6Bの折返し部6dは、第1ビードエイペックスゴム8Aと第2ビードエイペックスゴム8Bとの間を通ってタイヤ半径方向の内側から外側に延びている。
【0031】
図2は、ランフラットタイヤ1がポットホールHを通過する際のサイドウォール部3からビード部4の変形を示している。ポットホールHの端縁部にランフラットタイヤ1のトレッド部2乃至サイドウォール部3が乗り上げると、サイドウォール部3が大きく撓んで、ビード部4が正規リムJのリムフランジJFに沿うようにタイヤ軸方向の外側に変形する。これに伴い、ビード部4のカーカス6に瞬間的に大きな張力がかかり破断するおそれがある。
【0032】
しかしながら、本実施形態のランフラットタイヤ1では、第1カーカスプライ6Aの折返し部6bが第2ビードエイペックスゴム8Bのタイヤ軸方向の外側を通ってタイヤ半径方向に延びているので、第1カーカスプライ6Aの折返し部6bの張力が低減され、折返し部6bの損傷が抑制される。
【0033】
また、第2カーカスプライ6Bの折返し部6dは、第1ビードエイペックスゴム8Aと第2ビードエイペックスゴム8Bとの間を通ってタイヤ半径方向に延びている。このような折返し部6dは、内圧低下時のビードエイペックスゴム8の変形を抑制し、ビード部4の撓みを抑制する。これにより、ランフラットタイヤ1のランフラット耐久性能が向上する。
【0034】
ところで、上記特許文献1に開示されたランフラットタイヤでは、上述したポットホールHを通過する際に、サイド補強ゴム層のタイヤ軸方向の外側に配されたカーカスプライの本体部に瞬間的に大きな張力がかかり破断するおそれがある。
【0035】
しかしながら、本実施形態のランフラットタイヤ1では、第1カーカスプライ6Aの本体部6aがサイド補強ゴム層9のタイヤ軸方向の内側を延びているので、ポットホールHを通過する際の第1カーカスプライ6Aの本体部6aの張力が低減され、本体部6aの損傷が抑制される。
【0036】
一方、第2カーカスプライ6Bの本体部6cは、サイド補強ゴム層9のタイヤ軸方向の外側を延びている。このような本体部6cは、内圧低下時にサイド補強ゴム層9と共に十分な張力を発生し、荷重を支え、サイドウォール部3の撓みを抑制する。これにより、ランフラットタイヤ1のランフラット耐久性能が向上する。
【0037】
サイド補強ゴム層9に対して本体部6a及び6cが上述した位置関係に配される第1カーカスプライ6A及び第2カーカスプライ6Bを有するランフラットタイヤ1において、第1カーカスプライ6Aの層数は、第2カーカスプライ6Bの層数よりも多いのが望ましい。このようなランフラットタイヤ1は、上述したポットホールHを通過する際に、第2カーカスプライ6Bの張力を低減し、第2カーカスプライ6Bの損傷を抑制する。また、仮に第2カーカスプライ6Bが損傷を受けた場合であっても、高い内圧保持性能を発揮する。
【0038】
図1に示されるように、正規状態のランフラットタイヤ1において、第1カーカスプライ6Aの折返し部6bのタイヤ半径方向の外端61は、正規リムJのリムフランジJFのタイヤ半径方向の外端JEよりもタイヤ半径方向の外側に位置しているのが望ましい。このような折返し部6bによってビード部4が十分に強化され、ポットホールHを通過する際の折返し部6bの損傷が抑制される。
【0039】
正規状態のランフラットタイヤ1において、第1カーカスプライ6Aの折返し部6bのタイヤ半径方向の外端61は、タイヤ最大幅位置31よりもタイヤ半径方向の外側に位置しているのが望ましい。このような折返し部6bは、内圧低下時に屈曲が大きくなるタイヤ最大幅位置31の撓みを抑制し、ランフラット耐久性能を高める。また、ビード部4からサイドウォール部3が十分に強化され、ポットホールHを通過する際の折返し部6bの損傷がより一層抑制される。なお、タイヤ最大幅位置31とは、正規状態において、サイドウォール部3に設けられた文字、模様、及び、リムプロテクター11等を除外したタイヤ断面輪郭形状(図1に2点鎖線で示す示す)から定められるものとする。
【0040】
図1に示されるように、本ランフラットタイヤ1は、カーカス6のタイヤ半径方向の外側かつトレッド部2の内部に配されたベルト層7をさらに具える。
【0041】
ベルト層7は、本例ではスチールからなるベルトコードをタイヤ赤道Cに対して例えば10~35゜程度で傾けて配列されたタイヤ半径方向内、外のベルトプライ7A、7Bから構成される。ベルトプライ7A、7Bは、上記ベルトコードが互いに交差するように重ね合わされ、カーカス6を強くタガ締めしトレッド部2の剛性を高める。なお、内側のベルトプライ7Aは、外側のベルトプライ7Bよりも幅が広いため、ベルト層7の外端71を定める。また、ベルトコードは、スチール材料以外にも、アラミド、レーヨン等の高弾性の有機繊維材料を必要に応じて用いることができる。
【0042】
ベルト層7のタイヤ半径方向の外側には、バンド層が配されていてもよい。該バンド層は、有機繊維コードをタイヤ周方向に対して例えば10度以下となるように小さい角度で配列した少なくとも1枚のバンドプライで構成される。バンドプライには、バンドコード又はリボン状の帯状プライを螺旋状に巻き付けることにより形成されたジョイントレスバンドやプライをスプライスしたもののいずれでもよい。
【0043】
第1カーカスプライ6Aの折返し部6bのタイヤ半径方向の外端61は、ベルト層7のタイヤ軸方向の外端71よりもタイヤ軸方向の内側に位置しているのが望ましい。このような折返し部6bは、内圧低下時に屈曲が大きくなるビード部4からショルダー部までの撓みを抑制し、ランフラット耐久性能を高める。また、ビード部4からサイドウォール部3を経て、トレッド部2のショルダー部までが十分に強化され、ポットホールHを通過する際の折返し部6bの損傷がより一層抑制される。
【0044】
第2カーカスプライ6Bの折返し部6dのタイヤ半径方向の外端62は、第1カーカスプライ6Aの折返し部6bのタイヤ半径方向の外端61よりもタイヤ軸方向の外側に位置しているのが望ましい。このような第2カーカスプライ6Bによって、内圧低下時におけるタイヤの撓みが抑制され、ランフラット耐久性能が向上する。
【0045】
さらに、第2ビードエイペックスゴム8Bのタイヤ半径方向の外端82は、第1ビードエイペックスゴム8Aのタイヤ半径方向の外端81よりもタイヤ半径方向の外側に位置しているのが望ましい。このような第1ビードエイペックスゴム8A及び第2ビードエイペックスゴム8Bの関係によって、第1カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとが第1ビードエイペックスゴム8Aを介さずに直接的に接触する領域が容易に拡大される。従って、内圧低下時のビードエイペックスゴム8の変形が抑制され、タイヤの撓みがより一層抑制される。
【0046】
さらに、第1ビードエイペックスゴム8Aのタイヤ半径方向の外端81は、サイド補強ゴム層9のタイヤ半径方向の内端91よりもタイヤ半径方向の外側に位置しているのが望ましい。このような第2ビードエイペックスゴム8Bによって、内圧低下時のビードエイペックスゴム8の変形が抑制され、タイヤの撓みが抑制される。
【0047】
図1に示されるように、本ランフラットタイヤ1では、ビードエイペックスゴム8のタイヤ軸方向外側にクリンチゴム12を有している。第2ビードエイペックスゴム8Bとクリンチゴム12とは、第1カーカスプライ6Aの折返し部6bを介して接合されている。
【0048】
第2ビードエイペックスゴム8Bの架橋ゴムの複素弾性率E*sとクリンチゴム12の架橋ゴムの複素弾性率E*cとが大きく異なると、第2ビードエイペックスゴム8Bと折返し部6bとクリンチゴム12との境界を起点に破損及び剥離が生じ易い。一方、複素弾性率E*sと複素弾性率E*cとの比E*c/E*sが1.00に近いタイヤは、ビード部4の耐久性能に優れる。上記観点から、比E*c/E*sは、好ましくは0.55以上であり、さらに好ましくは0.75以上であり、特に好ましくは0.90以上である。また、比E*c/E*sは、好ましくは1.25以下であり、さらに好ましくは1.15以下であり、特に好ましくは1.10以下である。
【0049】
第1ビードエイペックスゴム8Aと第2カーカスプライ6Bの折返し部6dと第2ビードエイペックスゴム8Bとは、一体で変形させられる。第1ビードエイペックスゴム8Aの架橋ゴムの複素弾性率E*fと第2ビードエイペックスゴム8Bの架橋ゴムの複素弾性率E*sとが大きく異なると、第1ビードエイペックスゴム8Aと折返し部6bと第2ビードエイペックスゴム8Bとの間で、破損及び剥離が生じ易い。一方、複素弾性率E*fと複素弾性率E*sとの比E*f/E*sが1.00に近いタイヤは、ビード部4の耐久性能に優れる。上記観点から比E*f/E*sは、好ましくは0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特に好ましくは0.90以上である。また、比E*f/E*sは、1.28以下であり、さらに好ましくは1.20以下であり、特に好ましくは1.10以下である。
【0050】
また、第2ビードエイペックスゴム8Bの架橋ゴムの複素弾性率E*sが第1ビードエイペックスゴム8Aの架橋ゴムの複素弾性率E*fよりも大きいランフラットタイヤ1は、ポットホールHを通過する際の、第1カーカスプライ6Aの本体部6a及び第2カーカスプライ6Bの本体部6c、折返し部6dの張力を低減し、第1カーカスプライ6A及び第2カーカスプライ6Bの損傷を抑制する。
【0051】
サイド補強ゴム層9の架橋ゴムの複素弾性率E*rが大きいランフラットタイヤ1は、パンク状態での縦撓みが抑制される。この観点から、サイド補強ゴム層9の複素弾性率E*rは、好ましくは5.0MPa以上であり、さらに好ましくは6.0MPa以上であり、特に好ましくは7.2MPa以上である。一方で、サイド補強ゴム層9の架橋ゴムの複素弾性率E*rが小さいランフラットタイヤ1は、通常状態での乗り心地に優れる。この観点から複素弾性率E*rは、好ましくは13.5MPa以下であり、さらに好ましくは12.0MPa以下であり、特に好ましくは10.5MPa以下である。
【0052】
以上、本発明のランフラットタイヤ及びその製造方法が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【実施例
【0053】
図1の基本構造を有するサイズ245/40R19のランフラットタイヤが、表1の仕様に基づき試作され、各試供タイヤのランフラット耐久性能及び耐ピンチカット性能がテストされた。各試供タイヤの主な共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
第1カーカスコードの材質 :レーヨン
第2カーカスコードの材質 :レーヨン
ベルトコードの材質 :スチール
【0054】
<ランフラット耐久性能>
ドラム式走行試験機を用いて、試供用タイヤを下記の条件にて走行させ、タイヤから異音が発生するまでの走行距離が測定された。結果は、比較例1の走行距離を100とする指数で表示されている。数値が大きい程、良好である。走行距離の上限は、比較例1の走行距離の1.3倍である。
リム :19×8.5J
速度 :80km/h
内圧 :0kPa(バルブコア除去)
縦荷重 :6.57kN
ドラム半径 :1.7m
【0055】
<耐ピンチカット性能>
各供試タイヤが、上記リムに組み込まれ、内圧240kPaが充填され、排気量2500ccの国産FR自動車の4輪に装着された。試験路上の側方に設けた高さ110mm、巾100mm、長さ1500mmの鉄製突起に対して、各試供タイヤが上記条件で装着された上記車両を、前記突起の長さ方向に対して15°の角度で進入させ該突起を乗り越す突起乗越しテストが行われた。このとき、進入速度を15km/hから1km/hのステップで逐次上昇させ、パンクが発生したときの速度を、比較例1を100とする指数で表示した。数値が大きいほど良好である。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から明らかなように、実施例のランフラットタイヤは、比較例に比べてランフラット耐久性能及び耐ピンチカット性能が有意に向上していることが確認できた。
【符号の説明】
【0058】
1 :ランフラットタイヤ
2 :トレッド部
3 :サイドウォール部
4 :ビード部
5 :ビードコア
6 :カーカス
6A :第1カーカスプライ
6B :第2カーカスプライ
6a :本体部
6b :折返し部
6c :本体部
6d :折返し部
7 :ベルト層
8 :ビードエイペックスゴム
8A :第1ビードエイペックスゴム
8B :第2ビードエイペックスゴム
9 :サイド補強ゴム層
31 :タイヤ最大幅位置
H :ポットホール
J :正規リム
JF :リムフランジ
図1
図2