(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20220511BHJP
G02B 17/08 20060101ALI20220511BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B17/08 A
H04N5/64 511A
(21)【出願番号】P 2018043947
(22)【出願日】2018-03-12
【審査請求日】2020-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文彦
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-134264(JP,A)
【文献】特許第5214060(JP,B1)
【文献】特開平06-043397(JP,A)
【文献】特開2000-249975(JP,A)
【文献】特表平09-508477(JP,A)
【文献】特表平09-508478(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0248791(US,A1)
【文献】特開2002-277824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01,27/02,17/08
H04N 5/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
MEDLINE(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示部と、
前記画像表示部に表示される画像を中間像として結像するリレーレンズ系と、
入射光の一部を反射し、残りを透過する反射透過部と、
前記反射透過部側から、前記リレーレンズ系から出射した前記画像の光束が前記反射透過部で反射した光束を入射し、該入射した光束を前記反射透過部側に反射し、前記反射透過部を通じて前記画像の虚像を観察者に観察させる曲面ミラーとを備え、
前記曲面ミラーの焦点距離をfとし、前記中間像の前記観察者の視野の水平方向の幅をxとした場合、x/fの値が0.58以上1.19以下であ
り、
前記リレーレンズ系は、光軸上において、前記反射透過部で反射した光が前記曲面ミラーに入射するまでの位置で前記中間像を結像し、
前記曲面ミラーの光軸を通り、かつ前記観察者の視野の水平方向に対して垂直な断面において、前記曲面ミラーの光軸から前記リレーレンズ系の光出射面までの間の距離が、前記曲面ミラーの光軸から、前記画像表示部の端部から出射した光束が前記曲面ミラーで反射する位置を示す最大反射位置までの距離以下である、画像表示装置。
【請求項2】
前記リレーレンズ系の倍率は0.4倍以上59.6倍以下の範囲に設定される請求項
1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記リレーレンズ系、前記反射透過部、及び前記曲面ミラーは、互いに光軸を共有する共軸光学系である請求項1
又は2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記曲面ミラーは、外界から入射する光と前記反射透過部側から入射した光の反射光とを合成する曲面コンバイナである請求項1から
3何れか1項に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記反射透過部は、一部の光を透過し、他の光の少なくとも一部を反射するハーフミラーを含む請求項1から
4何れか1項に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記反射透過部は、所定偏波面の光を反射し、前記所定偏波面に直交する偏波面の光を透過する偏光ビームスプリッタと、前記曲面ミラーと前記偏光ビームスプリッタとの間に配置された1/4波長板とを含む請求項1から
4何れか1項に記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記リレーレンズ系は、凹レンズと凸レンズとを含む請求項1から
6何れか1項に記載の画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、小型ディスプレイの表示画像を、ユーザに虚像として見せるタイプの画像表示装置を開示する。特許文献1の画像表示装置は、表示画像を中間像として結像するリレー光学系と、中間像をユーザに導くために射出瞳を形成する接眼光学系とを有する。接眼光学系は、ハーフミラーと凹面鏡とで構成される。特許文献1に記載の画像表示装置において、リレー光学系から出射した表示光束はハーフミラーで反射し、次いで凹面鏡で逆向きに反射し、その後ハーフミラーを透過してユーザの眼球に到達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の画像表示装置では、リレー光学系を用いて小型ディスプレイの表示画像を中間像の結像面に大きく拡大し、それにより広い視野角を実現している。この場合において、中間像がハーフミラーや凹面鏡などの光学部材に結像されると、光学部材に付着した埃や汚れなどに起因して観察画像が劣化する場合がある。この点に関し、特許文献1には、中間像の結像面を、リレー光学系と接眼光学系との間に形成することが記載されている。また、特許文献1には、中間像の結像面は、接眼光学系中に形成されてもよいことも記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の画像表示装置において、中間像の結像面がリレー光学系と接眼光学系との間に形成される場合、リレー光学系とハーフミラーとの間の距離を長くする必要があり、装置の小型化が困難であるという問題が生じる。また、中間像の結像面が接眼光学系中に形成される場合、中間像の結像面が、凹面鏡で反射した光がユーザの眼球に到達するまでの間の光路上に形成される場合がある。その場合、ユーザの眼球は虚像にピントを合わせることができず、ユーザが虚像を観察することができないという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記事項に鑑み、広視野角を実現しつつ、小型化が可能な画像表示装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、画像表示部と、前記画像表示部に表示される画像を中間像として結像するリレーレンズ系と、入射光の一部を反射し、残りを透過する反射透過部と、前記反射透過部側から、前記リレーレンズ系から出射した前記画像の光束が前記反射透過部で反射した光束を入射し、該入射した光束を前記反射透過部側に反射し、前記画像の虚像を前記反射透過部を通じて観察者に観察させる曲面ミラーとを備え、前記リレーレンズ系は、光軸上において、前記反射透過部で反射した光が前記曲面ミラーに入射するまでの位置で前記中間像を結像し、前記曲面ミラーの光軸を通り、かつ前記観察者の視野の水平方向に対して垂直な断面において、前記曲面ミラーの光軸から前記リレーレンズ系の光出射面までの間の距離が、前記曲面ミラーの光軸から、前記画像表示部の端部から出射した光束が前記曲面ミラーで反射する位置を示す最大反射位置までの距離以下である画像表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の画像表示装置は、広視野角を実現しつつ、装置を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像表示装置を示す斜視図。
【
図6】比較例における片眼に対応した光学系を示す斜視図。
【
図8】比較例における光学系を上側から見た上面図。
【
図9】中間像幅と視野角と曲面コンバイナの焦点距離との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る画像表示装置を示す。本実施形態において、画像表示装置は、装着者(ユーザ)の頭部に搭載されるヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mounted Display)10として構成される。なお、以下の説明において、ユーザの頭部の正面方向を「前方」と呼び、HMD10を装着した場合におけるユーザの視線の上下方向を「縦方向」とも呼ぶ。また、ユーザの視線の左右方向を「水平方向」とも呼ぶ。
【0011】
図1は、HMD10をユーザの後頭部側から見た斜視図であり、
図2は、HMD10をユーザの頭頂部側から見た上面図である。HMD10は、画像表示素子11L及び11R、リレーレンズ系12L及び12R、ハーフミラー13L及び13R、並びに、曲面コンバイナ14L及び14Rを有する。HMD10において、画像表示素子11L、リレーレンズ系12L、ハーフミラー13L、及び曲面コンバイナ14Lは、ユーザの左目ELに対応した左目光学系を構成する。また、HMD10において、画像表示素子11R、リレーレンズ系12R、ハーフミラー13R、及び曲面コンバイナ14Rは、ユーザの右目ERに対応した右目光学系を構成する。
【0012】
上記左目光学系及び右目光学系は、それぞれ水平視野角82度を持つ。左目光学系及び右目光学系は、それぞれ中心軸をユーザの頭部の正面に対して15度程度外側に向けて配置され、他方の光学系と合体されている。左目光学系及び右目光学系は、合体面に対して対称に配置される。左右の視野のオーバラップ部分は30度となり、この部分はいわゆる立体視に対応できる。総水平視野角は、82度×2-30度=134度である。
【0013】
なお、左目光学系及び右目光学系は、基本的に同一の構成を有している。上記において、各要素の参照符号の添え字「L」及び「R」は、各要素が左目光学系を構成する要素であるか、右目光学系を構成する要素であるかを示す。以下の説明において、特に左右の光学系を区別する必要がない場合、添え字「L」及び「R」は省略されることがある。
【0014】
図3は、光学系の一方を横から見た図である。また、
図4は光学系の断面図、いわゆる光路図であり、
図5は光学系を上側から見た上面図である。画像表示素子11は、表示される画像を生成するディスプレイである。画像表示素子11には、例えばLCD(Liquid Crystal Display)、又はOLED(Organic Electro-Luminescence Display)などのディスプレイが用いられる。画像表示素子11は、例えばX方向(画面横方向)33mm×Y方向(画面縦方向)22mmの大きさを有する。画像表示素子11は、例えば
図3における画像表示素子11の位置に画像を投影する小型プロジェクタとして構成されていてもよい。画像表示素子11は、画像表示部を構成する。
【0015】
ここで、画像表示素子11において、X方向及びY方向の中心、すなわち画面の中央を示す点を位置P1とする。また、X方向の中心において、Y方向の一方の端部を示す位置をP2とし、他方の端部を示す位置をP3とする。さらに、Y方向の中心において、X方向の一方の端部を示す位置をP4とし、他方の端部を示す位置をP5とする。画像表示素子11の位置P1~P5のそれぞれから出射する光束51~55は、発散しながらリレーレンズ系12側に向って進行する。
【0016】
HMD10において、リレーレンズ系12、ハーフミラー13、及び曲面コンバイナ14は、互いに光軸を共有する共軸光学系である。リレーレンズ系12は、画像表示素子11に表示される画像を中間像として結像する。リレーレンズ系12は、凹レンズ12aと凸レンズ12bとを含む。リレーレンズ系12は、全体として強い収束パワーを有する凸レンズとして働く。凸レンズ12bには、例えばフレネルレンズを用いることができる。凸レンズ12bにフレネルレンズを用いた場合、レンズの厚みを抑えることができ、リレーレンズ系12の小型化に有利である。
【0017】
なお、リレーレンズ系12の構成は、特に上記したものには限定されない。リレーレンズ系12は、例えば全体として強い収束パワーを有する凸レンズとして働けばよい。例えば、リレーレンズ系12において、凸レンズ12bにフレネルレンズではない通常の凸レンズを用いることもできる。あるいは、リレーレンズ系12は凸レンズ12bのみの構成であってもよいし、回折レンズを含んだ構成であってもよい。
【0018】
画像表示素子11から出射した、光束51~55を含む画像の表示光束は、発散しながらリレーレンズ系12に入射する。リレーレンズ系12で屈折された表示光束は、収束光束となりながら、ハーフミラー13に向かう。このとき、光束51~55は、リレーレンズ系12とハーフミラー13との間の位置で交差し、その後、広がりながらハーフミラー13に入射する。ハーフミラー13は、入射光の一部を前方(
図3などにおけるY方向)に反射し、残りを
図3などにおけるZ方向(下方向)に透過する。ハーフミラー13は、例えば入射光の50%程度の光を反射し、残りの光を透過する。ハーフミラー13は、反射透過部を構成する。
【0019】
ハーフミラー13で反射した表示光束は、曲面コンバイナ14に向かう。このとき、光束51は、ハーフミラー13と曲面コンバイナ14との間の位置21で最も収束された状態となり、その位置21で中間像(空中像)が結像される。なお、
図4を参照すると、画像表示素子11の中央から出射した光束51が中間像を結ぶ位置(中間像結像位置)21と、各端部から出射した光束52及び53が最も収束する位置とがずれているが、これは光学系が持つ収差のためである。中間像結像位置21は、光軸付近の光束51を用いて計算された中間像の結像位置であり、光軸付近の光束はこの位置で収束して中間像を結ぶ。一方、周辺の光束は、必ずしも中間像結像位置21に立てた平面上では収束しない。
【0020】
光束51は、中間像結像位置21を過ぎると、発散しながら曲面コンバイナ14に入射する。周辺の光束52~55も同様に、発散しながら曲面ミラーである曲面コンバイナ14に入射する。曲面コンバイナ14は、半透過の凹面鏡であり、入射光束の一部を透過し、残りを反射する。曲面コンバイナ14は、外界から入射する光とハーフミラー13側から入射した光の反射光とを合成する。曲面コンバイナ14で反射した光束51~55は、ほぼ平行光束となってハーフミラー13側に逆向きに進行する。ハーフミラー13は、曲面コンバイナ14側から入射した光束の一部を反射し、残りを透過する。ハーフミラー13を透過した光は、ユーザの目(瞳孔)Eに向かい、瞳孔Eに入射する。瞳孔Eに入射した光束は、眼球の結像作用により網膜上に結像し、画像として認識される。
【0021】
ここで、曲面コンバイナ14の光軸を通り、かつ観察者の視野の水平方向に対して垂直な断面を考える。この断面は、
図4に示される断面に対応する。この断面において、曲面コンバイナ14の光軸からリレーレンズ系12の光出射面までの距離をL1とする。また、
図4において、画像表示素子11の位置P3から出射した光束53が曲面コンバイナ14で反射する位置を、最大反射位置P
r_maxと定義する。本実施形態に係るHMD10では、上記断面において曲面コンバイナ14の光軸から最大反射位置Pr_maxまでの距離をL2としたとき、L1≦L2が満たされる。この場合、リレーレンズ系12の光出射面は、最大反射位置P
r_maxに比べて光軸に近く、特にZ方向においてHMD10を小型化できる。
【0022】
なお、上記では、反射透過部がハーフミラー13として構成される例を説明したが、これには限定されない。例えば、反射透過部は、所定偏波面の光を反射し、所定偏波面に直交する偏波面の光を透過する偏光ビームスプリッタと、1/4波長板とを含む構成であってもよい。その構成において、1/4波長板は、偏光ビームスプリッタと曲面コンバイナ14との間に配置される。画像表示素子11が出射する光の偏波面が所定偏波面に揃っている場合、偏光ビームスプリッタは入射光の大部分を曲面コンバイナ14側に反射する。曲面コンバイナ14側に出射した光は1/4波長板を透過して円偏光となり、曲面コンバイナ14で反射した後、1/4波長板を逆向きに透過して偏波面が90度回転し、偏光ビームスプリッタを透過する。このような構成とした場合、画像観察に有効に光束が利用でき、ユーザはより明るい画像を観察することができる。
【0023】
また、上記では、曲面コンバイナ14に半透過の凹面鏡を用いる例を説明したが、これには限定されない。本実施形態に係るHMD10は外界の観察が可能なシースルー型には限定されず、非透過型であってもよい。その場合、曲面コンバイナ14に代えて、入射光のほぼ全てを反射する曲面ミラーを用いればよい。HMD10がシースルー型の装置として構成される場合、HMD10は、外界の景色に対して画像表示素子11の表示画像を重畳するAR(Augmented Reality)やMR(Mixed Reality)などの用途に適用できる。また、HMD10が非透過型の装置として構成される場合、HMD10は、VR(Virtual Reality)などの用途に適用できる。
【0024】
下記に、本実施形態に係るHMD10の光学設計例を下記表1に示す。
【表1】
上記表1において、要素番号#10「ディスプレイ面」は、画像表示素子11の画像表示面を示す。要素番号#9「非球面レンズ」はリレーレンズ系12の凹レンズ12aを示し、要素番号#6「フレネルレンズ」は凸レンズ12bを示す。要素番号#9及び#7は、光学要素間の空間(空気層)を示す。要素番号#5「ハーフミラー」はハーフミラー13を示し、要素番号#3「コンバイナ」は曲面コンバイナ14を示す。要素番号#4「中間像面」は中間像結像位置21を示し、要素番号#2「瞳孔面」はユーザの瞳孔Eを示す。要素番号#1「虚像面」は、ユーザが観察する虚像が形成される面を示す。なお、画像表示素子11の画像サイズは33mm×22mmである。
【0025】
上記表1において、「面間隔」は、レンズの厚み、又は次の光学要素までの間の距離を示す。「面間隔」において、正の値は、光学要素が、次の光学要素から見て
図4における紙面向かって右方向又は下方向に存在する旨を示す。また、負の値は、光学要素が、次の光学要素から見て
図4における紙面向かって左方向に存在する旨を示す。例えば要素番号#1「虚像面」の面間隔は-5000mmである。これは、「虚像面」が、要素番号#2「瞳孔面」から見て
図4における紙面向かって左側に5000mm離れた位置に存在していることを示す。また、要素番号#5「ハーフミラー」の面間隔は45mmである。これは、「ハーフミラー」が、要素番号#6「フレネルレンズ」から見て
図4における下方向に存在する旨を示す。
【0026】
上記表1における4次、6次、8次、及び10次の非球面係数の値は、コーニック係数と曲率半径とを用いて、下記式により計算できる。
【数1】
【0027】
ここで、比較例として、リレーレンズ系を有しないHMDを考える。
図6は、比較例に係るHMDにおける片眼に対応した光学系を横から見た図である。また、
図7は比較例における光学系の断面図、いわゆる光路図であり、
図8は光学系を上側から見た上面図である。比較例に係るHMD100は、ディスプレイ101、ハーフミラー102、及び曲面コンバイナ103を有する。ディスプレイ101は、本実施形態に係るHMD10における画像表示素子11(
図3などを参照)に対応し、ハーフミラー102は、HMD10におけるハーフミラー13に対応する。また、曲面コンバイナ103は、HMD10における曲面コンバイナ14に対応する。
【0028】
ディスプレイ101において、X方向及びY方向の中央の位置をP11とし、X方向の中心において、Y方向の一方の端部を示す位置をP12とし、他方の端部を示す位置をP13とする。また、Y方向の中心において、X方向の一方の端部を示す位置をP14とし、他方の端部を示す位置をP15とする。ディスプレイ101の位置P11~P15のそれぞれから出射する光束は、発散しながらハーフミラー102に向って進行する。
【0029】
ディスプレイ101から出射した光束はハーフミラー102に入射し、その一部が曲面コンバイナ103側に反射する。曲面コンバイナ103は、ハーフミラー102側から入射した光の一部を反射する。曲面コンバイナ103で反射した光は、ほぼ平行光束となってハーフミラー102に入射し、その一部がハーフミラー102を透過してユーザの瞳孔Eに入射する。瞳孔Eに入射した光束は、眼球の結像作用により網膜上に結像し、画像として認識される。ディスプレイ101のサイズは、33mm×22mmであるとする。
【0030】
図5と
図8とを比較すると、本実施形態に係るHMD10では水平画角は81.8度であるのに対し、比較例に係るHMD100では水平画角は40.3度である。また、
図4と
図7とを比較すると、本実施形態に係るHMD10では垂直画角は60.0度であるのに対し、比較例に係るHMD100では垂直画角は27.4度である。これらから、リレーレンズ系12が用いられる本実施形態に係るHMD10では、水平方向及び垂直方向の双方において、広視野角が得られていることがわかる。
【0031】
ここで、画面サイズと曲面コンバイナの半径と視野角との関係を説明する。画角の半分の角度である半画角をθとし、画像サイズの1/2を像高yとしたとき、半画角θと像高yとの関係は、次式で計算される。
y=f×tanθ (1)
上記式から、画角2θは、下記式で計算される。
2×θ=tan-1(y/f)×2 (2)
上記式1及び式2において、fは結像レンズ系の焦点距離を表し、これは曲面コンバイナの半径の1/2に等しい。
【0032】
例えば、水平方向の場合、比較例では像高(像幅)y=16.5mm、焦点距離f45mmで、画角2θ=40.2度となる。また、実際に販売されていた同様な構成を有する製品では、像高y=7.2mm、焦点距離f=27.5mmで、画角2θ=29.3度であった。式2を参照すると、より大きな画角を達成するためには、画面サイズを大きくし、また曲面コンバイナの半径を小さくすればよいことがわかる。
【0033】
図9は、像高(中間像幅)と視野角と曲面コンバイナの焦点距離との関係を示す。
図9に示されるグラフにおいて、縦軸は視野角を表し、横軸は中間像幅を表している。
図9において、グラフAは曲面コンバイナの焦点距離がf=50mmの場合の中間像幅と視野角との関係を示す。また、グラフBは、曲面コンバイナの焦点距離がf=75mmの場合の中間像幅と視野角との関係を示し、グラフCは、曲面コンバイナの焦点距離がf=100mmの場合の中間像幅と視野角との関係を示す。
【0034】
図9を参照すると、曲面コンバイナの焦点距離が一定の場合、中間像幅が広いほど、広い視野角を実現できることがわかる。また、中間像幅が一定の場合、曲面コンバイナの焦点距離が短いほど、別の言い方をすると曲面コンバイナの半径が小さいほど、広い視野角を実現できることがわかる。
【0035】
本実施形態に係るHMD10では、リレーレンズ系12は、画像表示素子11の画像サイズを拡大した中間像を生成する。このようにすることで、画像表示素子11と比較例に係るHMD100のディスプレイ101とが同じ画像サイズであった場合、比較例に係るHMD100に比べて大きな画角が実現できる。本実施形態の値を上記式2に当てはめると、中間像幅y=66.0、曲面コンバイナの焦点距離f=75で、画角2θ=82.7度となる。つまり、本実施形態では、画像サイズを、実際の画像表示素子11の画像サイズに対して4倍に拡大している。
【0036】
なお、上記において、曲面コンバイナの焦点距離fの値が比較例に係るHMD100と本実施形態に係るHMD10とで異なるのは、それぞれの構成においてできるだけ広い画角で、かつ現実的なレイアウトを採用した場合の値を適用しているためである。設計に応じて多少の差はあるものの、各光学素子の配置上、値はそれほど自由に変えられないという事情がある。また、上記した画角の値が、前述の画角の値と多少異なるのは、光学系の収差のためである。
【0037】
次いで、視野角と曲面コンバイナの焦点距離fとの制限について説明する。上記式1から、像高yと焦点距離fとの関係が決まる。すなわち、
y/f=tanθ (3)
である。ここでは、広い視野角と呼べる基準となる視野角を水平画角60度とする。つまり、水平画角が60度以上あれば、広い視野角が実現できているものとする。式3においてθに60度を代入するとy/f=0.58となり、像高yと焦点距離fとの比が0.58以上であることが広い視野角を実現するための条件となる。y/fの値は、比較例に係るHMD100では0.37、前述の製品では0.26、本実施形態に係るHMD10では0.88となっている。
【0038】
続いて、中間像の位置について説明する。中間像が結像する位置は光束が最も絞られる位置であり、この位置に光学部品があると、光学部品の傷や汚れの影響が画像に現れやすくなる。これについて、特許文献1では、中間像の結像面がリレー光学系と接眼光学系との間、又は接眼光学系中に形成される。別の例として、導光部材などの光学部材を用い、その光学部材の中に中間像を結像する例もある。これに対し、本実施形態では、中間像を、ハーフミラー13と曲面コンバイナ14との間に置いている。
【0039】
図4など参照すると、視野角を広くするために中間像を大きく取ろうとすると、中間像の位置はリレーレンズ系12から離す必要がある。しかし、リレーレンズ系12とハーフミラー13との間で、リレーレンズ系12から離れた位置に中間像を結像させると、光学系全体が大型化するという問題が生じる。このため、中間像の位置は、ハーフミラー13の後ろとすることが好ましい。一方で、曲面コンバイナ14で光束が反射してから瞳孔Eに到達するまでの間で中間像が結像される場合、網膜上に画像を結像することができない。従って、本実施形態において、中間像の位置は、ハーフミラー13で反射した光束が曲面コンバイナ14に入射するまでの光路上に置かれる。
【0040】
引き続き、画像サイズとリレーレンズ系の倍率の制限について説明する。前述のとおり、水平画角を60度以上取ろうとする場合、yとfとの比が0.58以上とすることが条件となる。曲面コンバイナの半径の1/2と等しい、様々なコンバイナの焦点距離fについてこの条件を満たす中間像幅を計算すると、下記の表2が得られる。下記表2における中間像の半幅xは、式3におけるyに対応する。
【表2】
【0041】
HMDに使用される小型ディスプレイのサイズは、0.2型から2.0型程度である。このとき、ディスプレイの横方向の半幅Xは約2mmから約20mmである。ハーフミラーを有するコンバイナ型HMDが実際に取れるコンバイナの半径は50mmから200mm程度であり、このとき焦点距離fは12.5mmから100mmとなる。HMDの構成がこれらの値のとき、水平画角60度の条件を満たすリレーレンズ系の倍率mを計算すると、下記の表3が得られる。
【表3】
上記表3を参照すると、HMDに0.2型から2.0型程度の小型ディスプレイを用いた場合において、水平画角を60度以上にするためには、リレーレンズ系の倍率を0.4倍以上28.9倍以下の範囲の中から選定すればよいことがわかる。
【0042】
上記と同様な計算を水平画角80度について実施すると、下記の表4及び表5が得られる。
【表4】
【表5】
また、上記と同様な計算を水平画角100度について実施すると、下記の表6及び表7が得られる。
【表6】
【表7】
表3、表5、及び表7を参照すると、広視野角と呼べる片目あたり60度から100度の水平画角を実現するためには、リレーレンズ系の倍率を0.4倍以上59.6倍以下の範囲に設定すればよいことがわかる。
【0043】
なお、片目の水平画角が100以上であることは、事実上、HMDにとって過剰である。水平画角100度をとする場合、yとfとの比は1.19となり、この値は、yとfとの比の上限となる。
【0044】
以上まとめると、本実施形態に係るHMD10は、小型の画像表示素子11の画像をリレーレンズ系12と曲面コンバイナ14で拡大又は縮小して観察者に観察させる。本実施形態において、リレーレンズ系12は、画像表示素子11の画像を、ハーフミラー13から曲面コンバイナ14に向かう光軸上の位置において中間像として結像する。本実施形態では、光軸上において中間像をハーフミラー13と曲面コンバイナ14との間の位置で結像しているため、埃や光学部材の汚れによる画像の劣化を抑えることができる。このとき、画像表示素子11の画面の端部から出射した光束はハーフミラー13上か又はハーフミラーに近い位置で最も収束することがあり得る。しかしながら、画像の周辺部はユーザが注視しないことが多いため、埃や光学部材の汚れに起因して画像が多少劣化したとしても、大きな問題にはならない。
【0045】
また、本実施形態では、曲面コンバイナ14の光軸を通り、かつ観察者の視野の水平方向に対して垂直な断面において、光軸からリレーレンズ系12の光出射面までの距離L1は、光軸から最大反射位置Pr_maxまでの距離L2以下である。このようにすることで、特に縦方向においてHMD10を小型化できる。
【0046】
なお、上記実施形態では、HMD10が左右一対の光学系を有する例について説明したが、これには限定されない。HMD10は、左右のどちらか一方にのみ光学系を有するものであってもよい。また、上記実施形態では、画像表示装置が、ユーザの頭部に装着されるHMDである例について説明したが、これには限定されない。画像表示装置は、ユーザに虚像を観察させるものであればよく、特にHMDには限定されない。
【0047】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
10:画像表示装置(HMD)
11L、11R:画像表示素子
12L、12R:リレーレンズ系
13L、13R:ハーフミラー
14L、14R:曲面コンバイナ
21:中間像結像位置
E:瞳孔