(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】移動部材の移動量制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 7/06 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
H02P7/06 G
(21)【出願番号】P 2018054639
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 貴史
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-536355(JP,A)
【文献】特開2007-236170(JP,A)
【文献】特開2007-318837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシを備えた電動モータの駆動により移動する移動部材の移動量制御装置であって、
前記電動モータに流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流の検出波形を周波数解析してピーク周波数を検出し、前記ピーク周波数を前記電流に発生するリップルの周波数であるリップル周波数として検出するリップル周波数検出部と、
前記リップル周波数に基づいて前記電動モータの回転状態を検出し、前記移動部材の移動量を制御する移動制御部と、を備え、
前記リップル周波数検出部は、前記ピーク周波数が複数ある場合、前記検出波形の検出時における前記移動部材の移動方向に基づいて、前記リップル周波数として検出する前記ピーク周波数を選択
し、
前記移動部材は開口部を開閉する開閉部材であり、
前記リップル周波数検出部は、前記検出波形の検出時が前記開閉部材の閉塞時である場合には最も低周波側の前記ピーク周波数を前記リップル周波数とし、前記検出波形の検出時が前記開閉部材の開放時である場合には最も高周波側の前記ピーク周波数を前記リップル周波数とする、
ことを特徴とする移動部材の移動量制御装置。
【請求項2】
前記開口部は、車両の窓開口であり、
前記開閉部材は、前記窓開口を開閉する窓板である、
ことを特徴とする請求項
1記載の移動部材の移動量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの駆動により移動する移動部材の移動量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータの回転状態を把握する方法として、ブラシノイズから発生する電流波形(リップル波形)の周期をカウントし、回転量を検出する手法が知られている。
例えば、下記特許文献1には、ブラシを備えるモータと、モータに供給する電力を制御するモータ制御手段と、モータに流れる電流を検出する電流検出手段と、検出した電流波形の周波数分析を行いブラシ部分から発するリップル周波数を検出してモータの回転数を検出する速度検出手段とを備え、モータ制御手段が、速度検出手段の検出した回転数が目標回転数になるように制御することにより、エンコーダのような外部検出手段なしで、温度やモータのばらつきの影響を受けにくい、精度のよい制御を行うように構成したブラシモータの速度制御装置が開示されている。
また、下記特許文献2には、ノイズの影響を低減して、電動モータの回転情報を精度よく検出することを目的とした電動モータの回転情報検出方法が開示されている。より詳細には、電動モータに流れる電流の時系列波形データを周波数解析して、得られた周波数のスペクトルの低域にある極大値を有する周波数を基本周波数候補Fbとし、基本周波数候補Fbのうち、最大振幅を有する周波数Fbmに、電動モータの整流子数と電動モータに流れる電流の変化特性とに基づいて予め設定された係数を乗じて、リップル周波数候補Frbを算出する。周波数のスペクトルでリップル周波数候補Frbの両隣にある極大値を有する周波数をリップル周波数候補Frr、Frlとして追加する。これらリップル周波数候補Frb、Frr、Frlの最大振幅が所定のしきい値以上である場合に、該最大振幅を有するリップル周波数候補Frlをリップル周波数と推定する。このリップル周波数に基づいて、電動モータの回転情報を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-080921号公報
【文献】特開2013-212028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両のパワーウィンドウやパワースライドドアなどでは、電動モータの回転状態に基づいて移動部材(窓板やドア板など)の位置を認識し、挟み込み防止制御等を行っている。
しかしながら、モータ電源に車両から発生する周期的なノイズが混ざった場合には、リップル波形を正確に捉えることができない場合があるという課題がある。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、電気的なノイズが生じて電動モータの回転状態を正確に把握するのが困難となった場合に、移動部材の状態を適切に制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明にかかる移動部材の移動量制御装置は、ブラシを備えた電動モータの駆動により移動する移動部材の移動量制御装置であって、前記電動モータに流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流の検出波形を周波数解析してピーク周波数を検出し、前記ピーク周波数を前記電流に発生するリップルの周波数であるリップル周波数として検出するリップル周波数検出部と、前記リップル周波数に基づいて前記電動モータの回転状態を検出し、前記移動部材の移動量を制御する移動制御部と、を備え、前記リップル周波数検出部は、前記ピーク周波数が複数ある場合、前記検出波形の検出時における前記移動部材の移動方向に基づいて、前記リップル周波数として検出する前記ピーク周波数を選択し、前記移動部材は開口部を開閉する開閉部材であり、前記リップル周波数検出部は、前記検出波形の検出時が前記開閉部材の閉塞時である場合には最も低周波側の前記ピーク周波数を前記リップル周波数とし、前記検出波形の検出時が前記開閉部材の開放時である場合には最も高周波側の前記ピーク周波数を前記リップル周波数とする前記ピーク周波数を選択する、ことを特徴とする。
また、本発明にかかる移動部材の移動量制御装置は、前記開口部は、車両の窓開口であり、前記開閉部材は、前記窓開口を開閉する窓板である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電気的なノイズ等に起因してピーク周波数が複数検出された場合に、検出波形の検出時における移動部材の移動方向に基づいてリップル周波数として検出するピーク周波数を選択するので、移動部材の位置が正確に把握できなくなった場合でも移動部材の状態を適切に制御する上で有利となる。
また、本発明によれば、検出波形の検出時が開閉部材の閉塞時である場合には最も低周波側のピーク周波数をリップル周波数とし、検出波形の検出時が開閉部材の開放時である場合には最も高周波側のピーク周波数をリップル周波数とするので、開閉部材の閉塞位置側に所定の制御の不感帯が設定されている場合に、開閉部材が不感帯にあると誤検知することを回避して、所定の制御を確実に実施する上で有利となる。
また、本発明によれば、車両の窓開口を開閉する窓板を開閉部材としたので、車両のパワーウィンドウシステムにおいて、挟み込み防止機能を確実に作動させる上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態にかかるパワーウィンドウシステム10の構成を示す図である。
【
図2】窓板位置検出部320の詳細構成を示すブロック図である。
【
図4】リップル周波数検出方法を模式的に示す説明図である。
【
図5】挟み込み防止機能における不感帯を模式的に示す説明図である。
【
図6】窓板16の閉塞時(上方移動時)を模式的に示す説明図である。
【
図7】窓板16の開放時(下方移動時)を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる移動部材の移動量制御装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
本実施の形態では、車両のパワーウィンドウシステムにおける窓位置制御、すなわち電動モータの移動対象物である移動部材が車両の窓開口(開口部)を開閉する窓板である場合について説明する。
【0009】
図1は、実施の形態にかかるパワーウィンドウシステム10の構成を示す図である。
パワーウィンドウシステム10は、車両のドア部材12に設けられた窓開口14を開閉するための窓板16の位置を、電動モータ40で移動させる機構である。
図1に示すように、ドア部材12の内部にはドアサッシュ18が備えられ、ドアサッシュ18には窓板16が昇降自在(開閉自在)に支持されている。ドア部材12のドアパネルの内部にはウインドウレギュレータ20が配され、ウインドウレギュレータ20により窓板16が昇降駆動(開閉駆動)される。
【0010】
より詳細には、ウインドウレギュレータ20には電動モータ40が設けられ、電動モータ40の駆動により、駆動ギヤ22、昇降アーム24、従動アーム26を介して窓板16が昇降駆動(開閉駆動)される。
窓板16の移動量(開放量)は、車両の乗員が車室内の操作スイッチ32を操作することにより決定される。操作スイッチ32は、窓板16の移動量制御装置30に接続されており、操作スイッチ32が操作されると、移動量制御装置30は電動モータ40に駆動制御信号を出力する。駆動制御信号に基づいて電動モータ40が駆動し、ウインドウレギュレータ20が作動することにより、窓板16が所望の位置まで移動する。
【0011】
電動モータ40は、ブラシと整流子を備えたDC(直流)モータである。電動モータ40は、バッテリ28に接続されており、バッテリ28から供給される電流により駆動する。電動モータ40に流れる電流(以下、「モータ電流」という)は、電流検出部34により検出され、検出値は移動量制御装置30に出力される。
【0012】
移動量制御装置30は、窓板位置検出部320および挟み込み防止機能部340を備える。
窓板位置検出部320は、電動モータ40の回転状態(回転数など)を検出し、これに基づいて窓板16の位置を検出する。窓板位置検出部320の詳細は、
図2を用いて説明する。
挟み込み防止機能部340は、窓板16と窓枠との間への物体の挟み込みを防止するため、挟み込み防止制御を実行する。挟み込み防止制御とは、窓板16の閉塞時における電動モータ40の回転速度を検出し、回転速度が所定値以下となった場合は挟み込みが生じていると判定し、電動モータ40の回転を反転させて窓板16を開放方向に移動させるものである。
【0013】
ここで、電動モータ40の回転速度の低下は、挟み込みが生じた時のみならず、窓板16が窓枠の上端位置および下端位置(移動限界位置)に到達した際にも生じる。このような場合にも移動方向を反転させると、窓板16の位置を適切に保つことができない。
よって、挟み込み防止機能部340は、
図5に示すように窓枠の上端位置から所定距離以内を不感帯とし、窓板16の上端位置が不感帯に位置する際に電動モータ40の回転速度の低下を検知しても、挟み込み防止機能を作動させないようにしている。
【0014】
図5には、窓板16および窓開口14を模式的に示している。
上述したように、窓板16は、ウインドウレギュレータ20の作動により上下に移動可能である。窓開口14は、開口上端位置F1と開口下端位置F2とがあり、窓板16の上端位置T0は、開口上端位置F1と開口下端位置F2との間で移動可能である。
ここで、窓板16が上方に移動している際(窓閉塞時)に、窓板16の上端位置T0と開口上端位置F1との間に物体が挟まると、窓板16の動き(電動モータ40の回転数)が遅くなる。挟み込み防止機能部340は、このような電動モータ40の回転数の低下が生じた際には、電動モータ40の動きを反転させて窓板16の移動方向を下方(窓開放方向)に変更する。
【0015】
開口上端位置F1から下方向に距離dの範囲には、不感帯Dが設定されている。これは、窓板16が開口上端位置F1に達した際に上記反転制御を行うと、窓を完全に閉塞することができなくなるためである。
よって、挟み込み防止機能部340は、窓板16の上端位置T0が不感帯Dに位置する際には反転制御を実施せず、窓板16の上端位置T0が不感帯D以外の領域である反転域Eに位置する際には反転制御を実施する。
このように、挟み込み防止機能を適切に機能させるためには、移動量制御装置30で窓板16の位置を把握する必要がある。
【0016】
つぎに、
図2を用いて窓板位置検出部320の詳細について説明する。
窓板位置検出部320は、傾向補正部322、周波数解析部326、リップル周波数検出部328、フィルタ設計部330、フィルタリング処理部332、パルス処理部334、移動制御部336を備える。
【0017】
傾向補正部322は、電流検出部34により検出されたモータ電流の時系列波形データの傾向を補正する。より詳細には、傾向補正部322は、
図3Aに示すようなモータ電流の時系列波形データを、最小二乗法により2次関数で近似して近似データを算出する。そして、モータ電流の時系列波形データの各値から、近似データの各値を減算して、モータ電流の時系列波形データの傾向を補正する。なお、
図3Aの波形にはノイズ成分が含まれている。
【0018】
周波数解析部326は、傾向補正後のモータ電流の時系列波形データ(電流の検出波形)を、FFT(高速フーリエ変換)により周波数解析する。これにより、
図3Aに示すようなモータ電流の時系列波形データが、たとえば
図3Bに示すような周波数のスペクトル(周波数単位の波形データ)に変換される。
【0019】
リップル周波数検出部328は、周波数解析部326の解析結果からピーク周波数を検出し、当該ピーク周波数を電流に発生するリップルの周波数であるリップル周波数として検出する。
図4は、リップル周波数検出方法を模式的に示す説明図である。
図4Aはノイズ等がない理想的なモータ電流の時系列波形データであり、左図は電動モータ40の回転が比較的遅い場合の波形、右図は電動モータ40の回転が比較的速い場合の波形を示している。
モータ電流は、電動モータ40の回転に伴ってブラシノイズに起因するリップル波形が現れる。リップル波形は周期的な波形であるため、周波数解析を行うと突出したピークを取る。すなわち、
図4A左図のように電動モータ40の回転が遅い場合は、
図4B左図のように低周波側にピークが出現し、
図4A右図のように電動モータ40の回転が速い場合は、
図4B右図のように高周波側にピークが出現する。
このように、周波数解析を行ったモータ電流のピーク周波数を検出することにより、リップル周波数を検出することができる。
【0020】
一方で、
図3Aに示すように、実際のモータ電流の波形には車両から発生するノイズが混ざっている。このような波形を周波数変換すると、
図3Bに示すようにピーク周波数が複数出現する場合がある。例えば、
図3Bでは2つのピーク周波数P1,P2が検出されている。
このように周波数解析後の波形にピーク周波数が複数ある場合、リップル周波数検出部328は、モータ電流の検出波形の検出時における窓板16(移動部材)の移動方向に基づいて、リップル周波数として検出するピーク周波数を選択する。
より詳細には、リップル周波数検出部328は、モータ電流(検出波形)の検出時が窓板16の閉塞時である場合には最も低周波側のピーク周波数をリップル周波数とし、モータ電流(検出波形)の検出時が窓板16の開放時である場合には最も高周波側のピーク周波数をリップル周波数とする。
これは、仮に選択したピーク周波数が間違いであった場合でも、挟み込み防止機能を確実に機能させるためである。
【0021】
例えば
図3Bのようにピーク周波数が2つ出現した場合、一方のピーク周波数が真のリップル周波数、他方のピーク周波数がノイズに起因するピークとなる。2つのピーク周波数のうち1つをリップル周波数として採用した場合、真のリップル周波数を選択できれば実際の電動モータの回転量、すなわち窓板16の位置を正しく算出できるが、ノイズに起因するピークを採用した場合、窓板16の位置を正しく算出することができない。
例えば、真のリップル周波数がP1である場合に、高周波側にあるピークP2をリップル周波数とした場合、実際よりも窓板16の移動量が大きく算出されることになる。また、真のリップル周波数がP2である場合に、低周波側にあるピークP1をリップル周波数とした場合、実際よりも窓板16の移動量が小さく算出されることになる。
【0022】
図6は、窓板16の閉塞時(上方移動時)を模式的に示す説明図であり、
図6Aは実際のリップル周波数よりも高周波側のピーク値をリップル周波数として採用した場合、
図6Bは実際のリップル周波数よりも低周波側のピーク値をリップル周波数として採用した場合を示している。
図6Aにおいて、実線で示すのが実際の窓板16の位置、点線で示すのは実際のリップル周波数よりも高周波側のピーク値をリップル周波数として採用した場合の誤検知した窓板16の位置である。上述のように、実際よりも高周波側のピークをリップル周波数とした場合、実際よりも窓板16の移動量が大きく算出される。よって、誤検知した窓板16の上端位置T1は、実際の窓板16の上端位置T0よりも高い位置となる。
この場合、実際の上端位置T0が反転域Eにあるにも関わらず、誤検知した上端位置T1が不感帯Dにあると判断され、挟み込み防止機能が働かない場合がある。
【0023】
また、
図6Bにおいて、実線で示すのが実際の窓板16の位置、点線で示すのは実際のリップル周波数よりも低周波側のピーク値をリップル周波数として採用した場合の誤検知した窓板16の位置である。上述のように、実際よりも低周波側のピークをリップル周波数とした場合、実際よりも窓板16の移動量が小さく算出される。よって、誤検知した窓板16の上端位置T2は、実際の窓板16の上端位置T0よりも低い位置となる。
この場合、実際の上端位置T0が不感帯Dにある場合でも、誤検知した上端位置T2が反転域Eにあると判断され、挟み込み防止機能が作動する。結果、窓枠の開口上端位置F1で窓板16が反転し、窓を完全に閉塞できない可能性はあるものの、物体の挟み込みは防止することができる。
よって、リップル周波数検出部328は、周波数解析後の波形にピーク周波数が複数ある場合、モータ電流(検出波形)の検出時が窓板16の閉塞時である時には最も低周波側のピーク周波数をリップル周波数とする。
【0024】
図7は、窓板16の開放時(下方移動時)を模式的に示す説明図であり、
図7Aは実際のリップル周波数よりも高周波側のピーク値をリップル周波数として採用した場合、
図7Bは実際のリップル周波数よりも低周波側のピーク値をリップル周波数として採用した場合を示している。
図7Aにおいて、実線で示すのが実際の窓板16の位置、点線で示すのは実際のリップル周波数よりも高周波側のピーク値をリップル周波数として採用した場合の誤検知した窓板16の位置である。上述のように、実際よりも高周波側のピークをリップル周波数とした場合、実際よりも窓板16の移動量が大きく算出される。よって、誤検知した窓板16の上端位置T3は、実際の窓板16の上端位置T0よりも低い位置となる。
この場合、実際の上端位置T0が不感帯Dにある場合でも、誤検知した上端位置T3が反転域Eにあると判断され、例えば窓板16の移動方向を反転させた際に窓開口14内に物体があった場合などに挟み込み防止機能が作動する。
【0025】
また、
図7Bにおいて、実線で示すのが実際の窓板16の位置、点線で示すのは実際のリップル周波数よりも低周波側のピーク値をリップル周波数として採用した場合の誤検知した窓板16の位置である。上述のように、実際よりも低周波側のピークをリップル周波数とした場合、実際よりも窓板16の移動量が小さく算出される。よって、誤検知した窓板16の上端位置T4は、実際の窓板16の上端位置T0よりも高い位置となる。
この場合、実際の上端位置T0が反転域Eにあるにも関わらず、誤検知した上端位置T1が不感帯Dにあると判断され、例えば窓板16の移動方向を反転させた際に窓開口14内に物体があった場合などに挟み込み防止機能が作動しない場合がある。
このため、リップル周波数検出部328は、周波数解析後の波形にピーク周波数が複数ある場合、モータ電流(検出波形)の検出時が窓板16の閉塞時である時には最も低周波側のピーク周波数をリップル周波数とする。
このように、リップル周波数検出部328は、モータ電流(検出波形)の検出時が窓板16の開放時である場合には最も高周波側のピーク周波数をリップル周波数とする。
【0026】
図2の説明に戻り、フィルタ設計部330は、リップル周波数検出部328で検出されたリップル周波数に基づいて、低域側および高域側のエッジ周波数をそれぞれ設定する。より詳細には、リップル周波数を所定比率C%増減した値を、それぞれ高域側と低域側のエッジ周波数とする。
そして、低域側と高域側のエッジ周波数に基づいてバンドパスフィルタ係数を算出する。より詳細には、窓関数法による一般的なFIR(有限インパルス応答)フィルタを設計して、各フィルタ係数を算出する。
【0027】
フィルタリング処理部332は、フィルタ設計部330で設計されたフィルタを用いて、モータ電流の時系列波形データをフィルタリング処理して、リップル電流の時系列波形データを抽出する。この結果、
図3Aに示すようなノイズを含むモータ電流の時系列波形データから、
図3Cに示すようなリップル電流のみの時系列波形データを抽出することができる。
パルス処理部334は、
図3Cのようなリップル電流の時系列波形データを二値化処理して、
図3Dに示すような矩形波のリップルパルス信号を生成する。
【0028】
移動制御部336は、リップル周波数(より詳細にはパルス処理部334で生成されたリップルパルス信号)に基づいて電動モータ40の回転状態を検出し、窓板16の移動量を制御する。
移動制御部336は、電動モータ40の回転数と回転角などの回転情報を検出し、窓板16の現在位置(例えば窓板16の上端位置T0)を算出する。そして、窓板16の現在位置に基づいて電動モータ40の回転量を制御することにより、窓板16の移動量を制御する。
なお、電動モータ40の回転数は、例えば電動モータ40の整流子数と単位時間あたりのパルス数とに基づいて算出したり、1パルスの幅の逆数を算出したりする。また、電動モータ40の回転角は、例えば基点からのパルス数に基づいて算出する。
【0029】
本実施の形態で示した波形の演算方法は一例であり、各種の変形例を適用可能である。例えば、本実施の形態では、周波数解析部326がモータ電流の時系列波形データをFFTで周波数解析する例を示したが、例えばDFT(離散フーリエ変換)などの他のアルゴリズムで周波数解析するようにしてもよい。
また、本実施の形態では、リップル周波数に基づいて窓関数法によるFIRフィルタを設計して、バンドパスフィルタ係数を算出し、FIRフィルタ演算によりモータ電流の時系列データからリップルパルス電流の時系列データを抽出する例を示したが、これ以外のリップル周波数に基づく信号処理方法により、モータ電流の時系列データからリップルパルス電流の時系列データを抽出するようにしてもよい。
【0030】
以上説明したように、実施の形態にかかる移動量制御装置30によれば、電気的なノイズ等に起因して周波数解析後のピーク周波数が複数検出された場合に、検出波形の検出時における窓板16の移動方向に基づいてリップル周波数として検出するピーク周波数を選択するので、窓板16の位置が正確に把握できなくなった場合でも窓板16の状態を適切に制御する上で有利となる。
また、移動量制御装置30によれば、検出波形の検出時が窓板16の閉塞時である場合には最も低周波側のピーク周波数をリップル周波数とし、検出波形の検出時が窓板16の開放時である場合には最も高周波側のピーク周波数をリップル周波数とするので、窓板16の閉塞位置側に挟み込み防止機能の不感帯が設定されている場合に、窓板16が不感帯にあると誤検知することを回避して、挟み込み防止機能を確実に実施する上で有利となる。
【0031】
なお、本実施の形態では、窓板16の閉塞位置側(開口上端位置F1側)に挟み込み防止機能の不感帯が設定されている場合について説明したが、例えば窓板16の開放位置側(開口下端位置F2側)に所定の制御の不感帯が設定されている場合も考えられる。
この場合は、リップル周波数検出部は、検出波形の検出時が開閉部材の閉塞時である場合には最も高周波側のピーク周波数をリップル周波数とし、検出波形の検出時が開閉部材の開放時である場合には最も低周波側のピーク周波数をリップル周波数とすればよい。
【0032】
また、本実施形態では、電動モータ40がパワーウィンドウシステムに適用される例を示したが、これ以外のブラシを備えた電動モータの回転情報が必要な種々の装置、例えば車両のパワースライドドアシステムなどにも本発明は適用することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 パワーウィンドウシステム
12 ドア部材
14 窓開口
16 窓板
18 ドアサッシュ
20 ウインドウレギュレータ
28 バッテリ
30 移動量制御装置
34 電流検出部
40 電動モータ
320 窓板位置検出部
322 傾向補正部
326 周波数解析部
328 リップル周波数検出部
330 フィルタ設計部
332 フィルタリング処理部
334 パルス処理部
336 移動制御部
340 挟み込み防止機能部