(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】複合磁性体
(51)【国際特許分類】
H01F 1/24 20060101AFI20220511BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20220511BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20220511BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220511BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20220511BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220511BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220511BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/26
H01F1/147
B22F1/00 Y
B22F1/16 100
C22C38/00 303S
B22F3/00 B
(21)【出願番号】P 2018062534
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】金田 功
(72)【発明者】
【氏名】堀野 賢治
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-236021(JP,A)
【文献】特開2015-226000(JP,A)
【文献】特開2013-213247(JP,A)
【文献】特開2013-167000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12-1/38
B22F 1/00-8/00
C22C 1/04-1/05、5/00-25/00
C22C 27/00-28/00、30/00-30/06
C22C 33/02、35/00-45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属コア部と前記金属コア部を被覆する酸化金属膜とを備える金属粒子、及び、絶縁体を含む複合磁性体であって、
前記金属粒子は1.5~10の平均アスペクト比を有し、
前記金属粒子は30~500nmの平均長軸径を有し、
前記金属粒子はFe、又は、Fe及びCoを主成分として含有し、
前記金属粒子はMnを0.05~3.0質量%の質量割合で含有し、
前記酸化金属膜中のMnの質量割合が前記金属粒子中のMnの質量割合
の5倍以上である、複合磁性体。
【請求項2】
前記金属粒子がさらにAlを0.1~5.0質量%の質量割合で、Rを0.5~10.0質量%の質量割合で含有し、前記Rは希土類元素又はYを示す、請求項
1に記載の複合磁性体。
【請求項3】
前記金属粒子がさらにTi、Zr、Hf、Mg、Ca、Sr、Ba及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の非磁性金属元素をそれぞれ0.1~1.0質量%の質量割合で含有する、請求項1
又は2に記載の複合磁性体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合磁性体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機及び携帯情報端末等の無線通信機器の電気信号の使用周波数の高周波化が進むとともに、複数の通信方式に対応するためにマルチバンド化の需要が増大している。これに伴い、これらの機器に搭載される電子部品においても高周波化及び広帯域化への対応が望まれている。
【0003】
高周波帯域(GHz帯等)で使用される電子部品としては、例えば、インダクタ、ローパスフィルタ、ダイプレクサ、EMIフィルタ及びアンテナ等が挙げられる。EMIフィルタは電子機器の高周波ノイズ対策に用いられ、アンテナは無線通信機器に用いられる。これらの電子部品の分野では、高周波帯域で求められる特性の改善及び寸法の小型化を図る目的として、高い透磁率及び低い磁気損失を有する材料の開発が盛んである。
【0004】
Fe及びFeCo系の磁性粒子は高い透磁率を有するが、抵抗率が低いため、高周波帯域において渦電流に起因する磁気損失が高くなり、透磁率及び磁気損失への要求の両立が困難であった。そこで、磁性材料にFe及びFeCo系の磁性粒子を用いたときの磁気損失を低くするために、(1)粒子間を絶縁することで、渦電流損失の発生を抑制する、(2)粒子サイズをナノオーダーとすることで単磁区化し、磁壁共鳴の損失をなくすと同時に渦電流損失を抑制する、(3)粒子のアスペクト比を大きくし、使用周波数と共鳴周波数との差を大きくすることによって磁気損失を低減する、ことなどが検討されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電子部品を長期間使用する場合又は過酷な環境下で使用する場合を考慮すると、こうした環境下でも安定した透磁率が得られることが望まれる。特許文献1では高い透磁率及び低い磁気損失が得られているものの、こうした過酷な環境下での信頼性については検討されていない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高い透磁率及び低い磁気損失を有し、高温高湿環境下に曝露した際にも透磁率の低下を抑制することが可能な複合磁性体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属コア部と上記金属コア部を被覆する酸化金属膜とを備える金属粒子、及び、絶縁体を含む複合磁性体であって、上記金属粒子は1.5~10の平均アスペクト比を有し、上記金属粒子は30~500nmの平均長軸径を有し、上記金属粒子はFe、又は、Fe及びCoを主成分として含有し、上記金属粒子はMnを0.05~3.0質量%の質量割合で含有し、上記酸化金属膜中のMnの質量割合が上記金属粒子中のMnの質量割合よりも大きい、複合磁性体を提供する。
【0009】
上記複合磁性体によれば、高い透磁率及び低い磁気損失が得られ、高温高湿環境下に曝露した際にも透磁率の低下を抑制することができる。上記複合磁性体は、高い飽和磁化を有するFe、又は、Fe及びCoを主成分とする金属粒子を含むことにより、高い透磁率を有することができる。さらに、上記金属粒子の平均アスペクト比を上記範囲内とすることにより自然共鳴周波数を制御し、磁気損失を低減することができる。また、上記金属粒子のサイズを小さくして上記範囲とすることにより一粒子内の渦電流損失を抑えることができる。さらに、上記金属粒子が表面に酸化金属膜を備え、当該酸化金属膜中に所定量のMnを金属粒子全体と比べて多く含有することにより、金属粒子間の絶縁性を向上させることができ、粒子間の渦電流に起因する磁気損失が低減されるとともに、高温高湿環境下に曝露した際の磁気特性の信頼性を向上させることができる。その際、金属粒子内部のMnの質量割合を一定以下としつつ、酸化金属膜中のそれを金属粒子全体と比べて高くすることにより、上記金属粒子の飽和磁化及び粒子間の絶縁性が向上するため、高透磁率、低磁気損失の上記複合磁性材料を得ることができる。
【0010】
上記複合磁性体において、上記酸化金属膜中のMnの質量割合が上記金属粒子中のMnの質量割合の5倍以上であることが好ましい。これにより、金属粒子がMnを含有する酸化金属膜を備えることによる効果及び飽和磁化の低下の抑制効果がさらに得られやすくなり、一層高い透磁率及び低い磁気損失が得られやすくなる。
【0011】
上記複合磁性体において、上記金属粒子がさらにAl及びRを含有することが好ましい。上記Rは希土類元素又はYを示す。さらに、上記金属粒子中のAlの質量割合が0.1~5.0質量%であり、上記金属粒子中のRの質量割合が0.5~10.0質量%であることが好ましい。これにより、上記金属粒子の酸化金属膜がさらに強化され、磁気損失をさらに低減できるとともに、磁気特性の信頼性向上にも寄与する。
【0012】
上記複合磁性体において、上記金属粒子がさらにTi、Zr、Hf、Mg、Ca、Sr、Ba及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の非磁性金属元素を含有することが好ましい。さらに、上記金属粒子中の上記非磁性金属元素の質量割合がそれぞれ0.1~1.0質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い透磁率及び低い磁気損失が得られ、高温高湿環境下に曝露した際にも透磁率の低下を抑制することが可能な複合磁性体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る複合磁性体に含まれる金属粒子を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る複合磁性体に含まれる金属粒子の製造過程を示す模式断面図であり、(a)は熱処理工程前の金属粒子を示し、(b)は熱処理工程中の金属粒子を示し、(c)は徐酸化工程後の金属粒子を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係る複合磁性体に含まれる金属粒子の製造において、熱処理工程に使用する水蒸気含有水素ガスを製造する器具の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
[複合磁性体]
本実施形態に係る複合磁性体は金属粒子及び絶縁体を含む。
図1は本実施形態に係る複合磁性体に含まれる上記金属粒子を示す模式断面図である。
図1において、金属粒子10は金属コア部2と金属コア部2を被覆する酸化金属膜4とを備える。
【0017】
(金属粒子)
金属粒子10はFe、又は、Fe及びCoを主成分として含有し、Fe及びCoを主成分として含有することが好ましい。金属粒子10が高い飽和磁化を有するFe、又は、Fe及びCoを主成分として含有することにより、複合磁性体が高い透磁率を有することができる。また、金属粒子10はMnをさらに含有する。金属粒子10は、Al、R、Ti、Zr、Hf、Mg、Ca、Sr、Ba及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の非磁性金属元素をさらに含有することが好ましく、Al又はRを含有することがより好ましく、Al及びRを含有することがさらに好ましい。Rは希土類元素又はYを示し、好ましくはYである。希土類元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYが挙げられる。金属粒子10は、上記非磁性金属元素として、Al及び/又はRに加えて、Ti、Zr、Hf、Mg、Ca、Sr、Ba及びSiからなる群より選択される少なくとも1種をさらに含有していてもよい。金属粒子10は金属磁性粒子ということもできる。
【0018】
金属粒子10中のFe及びCoの質量割合の合計(金属粒子10がCoを含有しない場合には、Feの質量割合)は80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。Fe及びCoの質量割合が80質量%以上であることにより、高い透磁率が得られやすくなる。また、金属粒子10中のFe及びCoの質量割合は99質量%以下であることができ、95質量%以下であってもよい。Fe及びCoの質量割合が99質量%以下であることにより、低い磁気損失が得られやすくなる。金属粒子10がCoを含有する場合、金属粒子10中のCoの質量割合は1.0~30質量%であることが好ましい。Coの質量割合が1.0質量%以上であることにより、金属粒子が容易に酸化することを抑制し、安定した磁気特性が得られやすくなる。Coの質量割合が30質量%以下であることにより、金属粒子製造時の金属粒子のサイズ又は形状の安定した制御が容易となる。同様の観点から、Coの質量割合は3.0~25質量%であることがより好ましく、5.0~20質量%であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、質量割合とは原子番号が11(Na)以上の元素の全質量を基準としたときの質量割合である。したがって、例えば、酸化金属膜4中に含まれる酸素は質量割合の測定及び算出において考慮しないものとする。
【0019】
本実施形態において、金属粒子10中のMnの質量割合は0.05~3.0質量%であり、酸化金属膜4中のMnの質量割合が金属粒子10中のMnの質量割合よりも大きい。金属粒子全体におけるMnの質量割合が0.05質量%以上であり、且つ、酸化金属膜中により多くのMnが存在することにより、金属粒子間の絶縁性を向上させて、粒子間の渦電流に起因する磁気損失が低減されるとともに、高温高湿環境下に曝露した際の磁気特性の信頼性を向上させることができる。また、金属粒子中のMnの質量割合が3.0質量%以下であり、且つ、酸化金属膜中により多くのMnが存在することにより、金属粒子10の飽和磁化及び粒子間の絶縁性が向上するため、高い透磁率及び低い磁気損失を有する複合磁性体を得ることができる。同様の観点から、金属粒子10中のMnの質量割合は0.1~1.0質量%であることが好ましい。
【0020】
また、酸化金属膜4中のMnの質量割合が金属粒子10中のMnの質量割合の5倍以上であることが好ましい。これにより、金属粒子間の絶縁性向上に伴う磁気損失のさらなる低減効果及び飽和磁化の低下に伴う磁気損失の増加をさらなる抑制効果を得ることができ、一層高い透磁率及び低い磁気損失が得られやすくなる。同様の観点から、酸化金属膜4中のMnの質量割合は金属コア部2中のMnの質量割合の7倍以上であることがより好ましく、10倍以上であることがさらに好ましい。
【0021】
金属粒子10中のAlの質量割合は0.1~5.0質量%であることが好ましい。また、金属粒子10中のRの質量割合は0.5~10.0質量%であることが好ましい。Al及び/又はRの質量割合が上記下限値以上であることにより、金属粒子の酸化金属膜がさらに強化され、磁気損失をさらに低減できるとともに、磁気特性の信頼性向上にも寄与する。Al及び/又はRの質量割合が上記上限値以下であることにより、飽和磁化の低下を抑え、これに伴う透磁率の低下を抑えることができる。同様の観点から、Alの質量割合は1.0~3.0質量%であることがより好ましい。また、Rの質量割合は2.0~6.0質量%であることがより好ましい。
【0022】
金属粒子10中のTi、Zr、Hf、Mg、Ca、Sr、Ba及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の非磁性金属元素の質量割合はそれぞれ0.1~1.0質量%であることができる。
【0023】
本実施形態において、金属粒子10は1.5~10の平均アスペクト比を有している。平均アスペクト比は粒子の長軸径の短軸径に対する比(アスペクト比)の平均値である。金属粒子の平均アスペクト比が上記範囲内にあることにより、自然共鳴周波数を制御し、磁気損失を低減することができる。すなわち、平均アスペクト比が1.5以上であることにより、使用周波数と共鳴周波数との差を大きくすることができ、これによって複合磁性体の磁気損失を低減することができる。また、平均アスペクト比が10以下であることにより、複合磁性体の透磁率の低下を抑制しつつ、GHz帯でも磁気損失の増加を抑制することができ、より広い波長帯域に適用可能な複合磁性体を得ることができる。同様の観点から、金属粒子10の平均アスペクト比は1.8~8であることが好ましく、2~7であることがより好ましい。金属粒子10の形状は針状であることが好ましい。
【0024】
本実施形態において、金属粒子10は30~500nmの平均長軸径を有している。金属粒子の平均長軸径が30nm以上であることにより、複合磁性体中における金属粒子の充填性が向上し、高い透磁率を得ることができる。また、金属粒子の平均長軸径が500nm以下であることにより、単磁区化して磁壁共鳴の損失をなくすと同時に、一粒子内の渦電流損失を抑制することができる。同様の観点から、金属粒子10の平均長軸径は、40~350nmであることが好ましく、45~200nmであることがより好ましい。また、金属粒子10の平均短軸径は、例えば、5~50nm程度であり、7~30nmであることができる。金属粒子10が上記範囲の平均長軸径及び平均短軸径を有すると、所望の平均アスペクト比が得られやすい。
【0025】
金属粒子10において、金属コア部2は金属粒子10に含まれる上述の元素を金属(0価)として含有し、Fe、又は、Fe及びCoを主成分とする磁性部を有する。金属コア部2は酸化金属膜4に被覆されているため、大気中においても酸化せず存在できる。上記磁性部はFe-Co合金であることが好ましい。FeにCoが固溶したFe-Co合金を形成することにより飽和磁化が向上し、高い透磁率が得られやすくなる。
【0026】
金属粒子10において、酸化金属膜4は金属粒子10に含まれる上述の元素を酸化物として含有する。本実施形態において、Fe及びCo以外の元素は酸化金属膜4に含まれていることが好ましい。Fe及びCo以外の元素が酸化金属膜4に含まれていることにより、磁気特性を低下させることなく、金属粒子10間の絶縁性を一層向上させ、渦電流発生に伴う磁気損失をより低減することができる。
【0027】
酸化金属膜4中のMnの質量割合は0.5~70質量%であることが好ましく、1.0~10質量%であることがより好ましく、2.0~10質量%であることがさらに好ましい。酸化金属膜4中のAl及びRを含む非磁性金属元素の質量割合は金属コア部2中のこれらの質量割合よりも大きいことが好ましい。
【0028】
酸化金属膜4の厚みは、例えば、1~20nmであることができる。酸化金属膜4の厚みが1nm以上であると、金属粒子間の絶縁性が得られやすく、磁気損失低減の効果が得られやすくなる。酸化金属膜4の厚みが20nm以下であると、磁気特性の低下を抑制しやすくなる。同様の観点から、酸化金属膜4の厚みは、1.5~15nmであってもよく、2.0~10nmであってもよい。
【0029】
(絶縁体)
絶縁体は電気絶縁性を有する材料であり、複合磁性体中では金属粒子10間にあってこれらを結合し、さらに金属粒子10間の絶縁性の向上が可能な材料である。絶縁体としては、例えば、絶縁性樹脂及びゴム、並びに、これらの硬化物等が挙げられる。絶縁性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
複合磁性体中の絶縁体の質量割合は、例えば、1.0~30質量%であることができる。絶縁体の質量割合が1.0質量%以上であると、金属粒子10間の絶縁性及び結合力が得られやすくなる。絶縁体の質量割合が30質量%以下であると、金属粒子による特性を複合磁性体においても発揮しやすくなる。
【0031】
[複合磁性体の製造方法]
本実施形態に係る複合磁性体の製造方法は、金属粒子と絶縁材料とを混合して複合磁性材料を得る混合工程、複合磁性材料を成形する成形工程、を備える。絶縁体が絶縁性樹脂又はゴムの硬化物である場合には、複合磁性体の製造方法はさらに硬化工程を備える。さらに、上記金属粒子の製造方法は、中和工程、酸化工程、脱水・アニール工程、熱処理工程及び徐酸化工程を備える。上記金属粒子の製造方法は、酸化工程後、脱水・アニール工程前に、コーティング工程をさらに備えることが好ましい。まず、一例として、Fe及びCoを主成分として含有する金属粒子の製造方法について説明する。
【0032】
(中和工程)
中和工程では、中和により水酸化第一鉄(Fe(OH)2)を含有する粒子が得られる。当該粒子はさらにCoを、水酸化第一鉄のFeの一部を置換する形態、又は、水酸化第一鉄とは独立したCoの水酸化物の形態等で、含有している。まず、Fe、Co及びMnの原料を準備する。Feの原料としては硫酸鉄等が挙げられる。Coの原料としては硫酸コバルト等が挙げられる。Mnの原料としては硫酸マンガン等が挙げられる。中和工程では、上記原料を水中に溶かして酸性の水溶液を調製し、これとアルカリ水溶液とを混ぜ合わせる。原料の(酸性)水溶液をアルカリ水溶液で中和して、水溶液を弱酸性とすることにより、水酸化第一鉄を含有する粒子が得られる。中和工程及び後述する酸化工程の条件を種々変更することにより、酸化工程での粒子の成長と得られるゲータイト粒子のサイズ、形状を制御することができ、さらには得られる金属粒子のサイズ、形状を制御することができる。例えば、原料の水溶液中の金属イオン濃度を調整することにより、ゲータイト粒子のサイズを制御することができる。また、アルカリ水溶液による中和率を調整することにより、ゲータイト粒子のアスペクト比は制御することができる(例えば、中和率を高くすることによりアスペクト比を大きくすることができる)。ゲータイト粒子のサイズ及び形状を制御することにより、金属粒子のサイズ及び形状の制御が容易となる。
【0033】
(酸化工程)
酸化工程では、中和工程後の水酸化第一鉄を含有する粒子が酸化される。すなわち、中和工程後の水溶液中にバブリングを行い、水溶液中に酸素を与える。水酸化第一鉄を含有する粒子が酸化し、酸化反応中に粒子が成長することによって、Co及びMnを含有するゲータイト(α-FeO(OH))粒子を得ることができる。また、上記バブリングを行う水溶液にはさらにAl、R、Ti、Zr及びHf等の元素の化合物を加えることもできる。Rは希土類元素又はYを示す。これにより、粒子の成長の際にこれらの元素が粒子中に組み込まれ、Co及びMnに加えて上記元素を含有するゲータイト粒子が得られる。水溶液に加えられる化合物は例えば上記元素の硫酸塩であることができる。得られたゲータイト粒子はろ過され、イオン交換水で洗浄後、乾燥することにより単離される。
【0034】
(コーティング工程)
コーティング工程では、酸化工程後に得られるCo及びMnを含有するゲータイト粒子の表面に非磁性金属元素がコーティングされる。コーティング工程では、酸化工程後のゲータイト粒子が、Al、R、Ti、Zr、Hf、Mg、Ca、Sr、Ba及びSi等の非磁性金属元素のアルコキシドのアルコール溶液に投入される。Rは希土類元素又はYを示す。アルコキシドの加水分解を徐々に行いながら撹拌することにより、ゲータイト粒子の表面に上記非磁性金属元素をコーティングすることができる。コーティング工程では、単独の元素がコーティングされてもよいし、複数種の元素がコーティングされてもよい。複数種の元素がコーティングされる場合には、2回以上の工程を繰り返して複数種の元素がそれぞれ別々にコーティングされてもよいし、1回の工程で複数種の元素が同時にコーティングされてもよい。コーティング後のゲータイト粒子はろ過され、アルコール等で洗浄後、乾燥することにより単離される。コーティング工程では、Al又はRがコーティングされることが好ましい。コーティングの厚さは、上記アルコール溶液中のアルコキシド濃度により制御され、所望の酸化金属膜の厚さが得られるように適宜設定される。コーティングにより、ゲータイト粒子はその表面に上記非磁性金属元素を含有するものとなる。また、コーティング工程において、コーティングされた元素は、主として金属粒子の酸化金属膜に含まれることになる。
【0035】
(脱水・アニール工程)
脱水・アニール工程では、上記で得られたCo及びMnを含有するゲータイト粒子が酸化雰囲気下で加熱される。加熱により、ゲータイト粒子は脱水され、酸化されてCo及びMnを含有するヘマタイト(α-Fe2O3)粒子となる。加熱の温度は、例えば、300~600℃である。ゲータイト粒子が非磁性金属元素を含有する場合には、Co、Mn及び非磁性金属元素を含有するヘマタイト粒子が得られる。
【0036】
(熱処理工程)
熱処理工程では、脱水・アニール工程で得られたCo及びMnを含有するヘマタイト粒子が酸化還元雰囲気下で加熱される。加熱の温度は、例えば、300~600℃である。ここで、酸化還元雰囲気とは、熱処理の対象であるCo及びMnを含有するヘマタイト粒子において酸化反応と還元反応の両方が起こり得る雰囲気を指す。酸化還元雰囲気は、例えば、熱処理する炉内に酸化還元性ガスを送気することにより得られる。酸化還元性ガスとしては、一酸化酸素と二酸化炭素の混合ガス、及び、水素と水蒸気の混合ガス等が挙げられる。一酸化炭素と二酸化炭素の混合ガスを用いる場合、二酸化炭素の分圧PCO2に対する一酸化炭素の分圧PCOの比(PCO/PCO2)が1~107であることが好ましく、100~107であることがより好ましい。また、水素と水蒸気の混合ガスを用いる場合、水蒸気の分圧PH2Oに対する水素の分圧PH2の比(PH2/PH2O)が10~108であることが好ましく、100~108であることがより好ましい。分圧比PCO/PCO2又はPH2/PH2Oが上記範囲内にある混合ガスによる酸化還元雰囲気下で熱処理することにより、Co及びMnを含有するヘマタイト粒子中のFe及びCoのみが還元され、これら以外の元素は酸化物のまま粒子の表面に排出・濃縮される。分圧比PCO/PCO2又はPH2/PH2Oをより好ましい範囲とすることでFe及びCoの還元反応が速やかに行われる。これにより、酸化物の表面への排出が促進され、磁性粒子の製造効率を高めることができる。これは、各元素によって、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが異なることを利用したものである。すなわち、温度300~600℃において、混合ガスの分圧比を上記のとおり制御することにより、酸化還元雰囲気中の酸素分圧を制御し、Fe及びCoが酸化されず、Mn等が酸化される環境を作っている。
【0037】
図2は金属粒子の製造過程を示す模式断面図であり、(a)は熱処理工程前の粒子を示し、(b)は熱処理工程後の粒子を示す。
図2(a)において、脱水・アニール工程後のヘマタイト粒子1はMn原子3とMn以外の成分2’とからなる。
図2(a)では、ヘマタイト粒子1中で、Mn原子3が全体にほぼ均一に分布している。続いて、
図2(b)に示すように、熱処理工程が始まると、全体に分布していたMn原子3が粒子表面に移動し、粒子表面に濃縮される。
【0038】
熱処理後、炉内を酸化還元性ガスから不活性ガスに切り替えて、200℃付近にまで冷却される。
【0039】
(徐酸化工程)
徐酸化工程では、熱処理工程後200℃付近まで冷却された炉内の酸素分圧を徐々に増やしながら、室温まで徐冷される。これにより、粒子表面が徐々に酸化し、熱処理工程前から粒子表面に存在していた元素と、熱処理工程で表面に濃縮された元素とを含む酸化金属膜が形成される。熱処理工程前から粒子表面に存在していた元素には、中和工程又は酸化工程で加えられ、酸化工程後にゲータイト粒子の表面に存在していたFe、Co、Mn及びその他の元素、並びに、コーティング工程において粒子表面にコーティングされた非磁性金属元素等が挙げられる。
図2(c)は徐酸化工程後の粒子を示している。
図2(c)において、粒子表面に酸化金属膜4が形成されており、酸化金属膜4には濃縮されたMn等の元素が含まれる。そして、徐酸化工程で酸化されなかった粒子内部は金属コア部2となる。熱処理工程でのMn等の元素の粒子表面への濃縮により、酸化金属膜4中のMn等の元素の質量割合は粒子全体と比べて大きくなり、金属コア部2中のMn等の元素の質量割合は粒子全体と比べて小さくなる。
【0040】
以上のようにして、金属コア部2と金属コア部2を被覆する酸化金属膜4とを備える金属粒子10が得られる。
【0041】
次に、得られた金属粒子を用いて複合磁性体が作製される。
【0042】
(混合工程)
混合工程では、上記のようにして得られた金属粒子10と絶縁材料とが混合され、複合磁性材料が得られる。混合方法は絶縁体によって適宜選択すればよい。すなわち、絶縁体が、例えば、絶縁性樹脂である場合には、加圧ニーダ及びボールミル等の撹拌機・混合機が選択される。また、絶縁体がゴムである場合も、加圧ニーダなどにより混合される。このとき、分散剤、カップリング剤等の他の成分が加えられてもよい。また、絶縁体が樹脂の硬化物である場合には、例えば、熱硬化性樹脂及び硬化剤、さらに必要に応じて硬化促進剤が加えられてもよい。混合条件は特に限定されないが、金属粒子10が絶縁体中に分散できるように、例えば、室温~100℃で20~60分間混合される。以上のようにして、金属粒子、熱硬化性樹脂、及び硬化剤を含む複合磁性材料が得られる。熱硬化性樹脂及び硬化剤に代えて、熱可塑性樹脂を用いることもできる。有機溶媒を用いて金属粒子の分散性を向上させることもできる。
【0043】
(成形工程)
成形工程では、複合磁性材料を加熱・加圧して、成形することにより、成形体が得られる。成形温度は、樹脂の軟化点以上であり、複合磁性材料が熱硬化性樹脂及び硬化剤を含む場合には、次の硬化工程における加熱温度以下である。成形温度は、例えば、60~80℃である。絶縁体が樹脂の硬化物でない場合には、上記成形体が複合磁性体となる。
【0044】
(硬化工程)
絶縁体が絶縁性樹脂の硬化物である場合には、複合磁性体の製造方法はさらに硬化工程を備える。成形体を加熱・硬化させることにより、複合磁性体が得られる。加熱温度は、樹脂及び硬化剤の種類によって適宜選択されるが、成形工程における成形温度より高く、120~200℃であることができる。加熱時間は、0.5~3時間であることができる。また、絶縁体がゴムの硬化物である場合には、例えば、ゴムの架橋反応に適した温度の金型中で成形し、架橋反応が終わるまで圧力を保持することにより複合磁性体を得ることができる。
【0045】
なお、上記硬化の前に仮硬化を行ってもよい。仮硬化を行う場合、仮硬化後の上記硬化を本硬化ということがある。仮硬化を行う場合の加熱温度は、80~120℃であることができる。加熱時間は、0.5~3時間であることができる。仮硬化を行うことにより、本硬化時に極端な樹脂の低粘度化を抑制することができる。
【0046】
仮硬化及び本硬化は、大気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、及び真空中のいずれで行ってもよいが、金属粒子の酸化を抑制するために、不活性ガス雰囲気下、又は真空中で行うことが好ましい。
【0047】
本実施形態に係る複合磁性体は高い透磁率を有し、また、広範囲の高周波帯域で使用される電子部品に用いた際にも、高い透磁率を有しつつ、渦電流損失が抑制されることから、低い磁気損失を有する。さらに、上記複合磁性体を用いた電子部品が長期間又は過酷な環境下で使用された際にも、透磁率の低下を抑制することができる。したがって、本実施形態に係る複合磁性体は高周波電子部品の構成材料として有用である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[複合磁性体の作製]
(実施例1)
硫酸第一鉄、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの水溶液を、金属粒子中のFe、Co及びMnが下記表1の質量比となるように配合し、これらをアルカリ水溶液で一部中和した(中和工程)。表1中の「bal.」は残部を示す。中和後の水溶液にバブリングを行って通気し、上記水溶液を撹拌することにより、Co及びMnを含有する針状のゲータイト粒子を得た(酸化工程)。水溶液をろ過して得られたCo及びMnを含有するゲータイト粒子をイオン交換水で洗浄して乾燥したあと、さらに空気中で加熱することにより、Co及びMnを含有するヘマタイト粒子を得た(脱水・アニール工程)。
【0050】
得られたCo及びMnを含有するヘマタイト粒子を、酸化還元雰囲気の炉内で、550℃で加熱した(熱処理工程)。その後、炉内雰囲気をアルゴンガスに切り替え、200℃程度まで冷却した。さらに、24時間かけて酸素分圧を21%まで増やしながら、室温まで冷却することにより、金属コア部と酸化金属膜とを備える金属粒子を得た(徐酸化工程)。
【0051】
なお、熱処理工程において、酸化還元雰囲気は炉内に水蒸気と水素の混合ガス(水蒸気含有水素ガス)を送気することにより作り出した。
図3は水蒸気含有水素ガスを製造する器具の側面図である。まず、
図3に示すフラスコ12を準備した。フラスコ12に水14を入れて、口をゴム栓で塞いだ。冷却器16を備えるウォーターバスにフラスコ12を浸漬させ、フラスコ12中の水14を5℃まで冷却した。その後、ゴム栓にガラス管18a,18bを通して、ガラス管18aから水素ガスを1mL/分で注入し、水素ガスをフラスコ12中の水14に潜らせ、これをガラス管18bからガスを回収した。ガラス管18bから回収したガスには水14から揮発した水蒸気が混入されており、当該ガスの分圧比(P
H2/P
H2O)は111であった。これは、5℃における水の蒸気圧が約9hPaであることを利用したことによる。これに水素ガスをさらに注入し、水蒸気濃度を制御することにより、分圧比(P
H2/P
H2O)が10000の水蒸気含有水素ガスを得た。このようにして得られた水蒸気含有水素ガスを熱処理工程における炉内に送気することにより、酸化還元雰囲気を作り出した。
【0052】
得られた金属粒子にエポキシ樹脂(商品名:JER806、三菱ケミカル株式会社製)及び硬化剤を加えて、ミキシングロールを用いて、95℃で混練し、70℃まで徐冷しながら混練を続け、70℃以下となったところで混練を止めて、室温まで急冷することにより、スラリー状の複合磁性材料を得た(混合工程)。得られた複合磁性材料中の金属粒子の質量割合(質量%)を表3に示す。次に、得られた複合磁性材料を、100℃に加熱した金型に投入し、980MPaの成形圧で成形を行った。得られた成形体を180℃で熱硬化してから切り出し、加工することで実施例1の複合磁性体を得た。なお、複合磁性体の形状は1mm×1mm×100mmの直方体とした。
【0053】
(実施例2~3及び比較例1~2)
中和工程において、硫酸鉄、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの水溶液を、Fe、Co及びMnが下記表1の質量比となるように配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~3及び比較例1~2の複合磁性体を得た。
【0054】
(実施例4)
中和工程において、硫酸鉄、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの水溶液を、合金粒子中のFe、Co及びMnが下記表1の質量比となるように配合したこと以外は、実施例1と同様にして、Co及びMnを含有するゲータイト粒子を得た。次に、アルミニウムアルコキシド及びイットリウムアルコキシドのアルコール溶液を準備した。合金粒子中のAl及びYが下記表1の質量比となるように、上記アルコール溶液中に、得られたゲータイト粒子を投入し、ゲータイト粒子の表面に(水)酸化アルミニウム及び(水)酸化イットリウムをコーティングした(コーティング工程)。
【0055】
コーティング後の粒子に対して、実施例1と同様に、脱水・アニール工程、熱処理工程及び徐酸化工程での処理を施し、金属粒子を得た。得られた金属粒子から、実施例1と同様にして、実施例4の複合磁性体を得た。
【0056】
(実施例5~6)
中和工程において、硫酸鉄、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの水溶液を、合金粒子中のFe、Co及びMnが下記表1の質量比となるように配合したこと以外は、実施例4と同様にして、ゲータイト粒子を得た。次に、コーティング工程において、合金粒子中のAl及びYが下記表1の質量比となるように、アルコール溶液を調製し、ゲータイト粒子を投入したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5~6の複合磁性体を得た。
【0057】
(比較例3)
中和工程において、硫酸鉄、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの水溶液を、合金粒子中のFe、Co及びMnが下記表1の質量比となるように配合したこと以外は、実施例4と同様にして、比較例3の複合磁性体を得た。
【0058】
(比較例4)
中和工程において、硫酸鉄、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの水溶液を、合金粒子中のFe、Co及びMnが下記表1の質量比となるように配合したこと以外は、実施例6と同様にして、比較例4の複合磁性体を得た。
【0059】
(実施例7~8)
熱処理工程において、炉内に送気する水蒸気含有水素ガスの分圧比(PH2/PH2O)をそれぞれ1000及び100に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、実施例7~8の複合磁性体を得た。
【0060】
(比較例5)
熱処理工程において、炉内に送気する水蒸気含有水素ガスを純水素ガスに変更したこと以外は、実施例5と同様にして、比較例5の複合磁性体を得た。
【0061】
(実施例9~25)
中和工程において、硫酸鉄、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの水溶液を、合金粒子中のFe、Co及びMnが下記表1の質量比となるように配合したこと以外は、実施例5と同様にして、Co及びMnを含有するゲータイト粒子を得た。次に、チタンテトラアルコキシド、ジルコニウムテトラアルコキシド、ハフニウムテトラアルコキシド、マグネシウムジアルコキシド、カルシウムジアルコキシド、ストロンチウムジアルコキシド、バリウムジアルコキシド、及びシランテトラアルコキシドのアルコール溶液をさらに準備した。コーティング工程において、合金粒子中の、Al及びY、並びに、Ti、Zr、Hf、Mg、Ca、Sr、Ba及びSiが下記表1の質量比となるように、各アルコール溶液を混合し、これに得られたCo及びMnを含有するゲータイト粒子を投入し、Co及びMnを含有するゲータイト粒子の表面に(水)酸化アルミニウム及び(水)酸化イットリウムとともに、(水)酸化チタン、(水)酸化ジルコニウム、(水)酸化ハフニウム、(水)酸化マグネシウム、(水)酸化カルシウム、(水)酸化ストロンチウム、(水)酸化バリウム、又は(水)酸化ケイ素をコーティングした(コーティング工程)。
【0062】
コーティング後の粒子に対して、実施例5と同様に、脱水・アニール工程、熱処理工程及び徐酸化工程での処理を施し、金属粒子を得た。得られた金属粒子から、実施例5と同様にして、実施例9~25の複合磁性体を得た。
【0063】
(実施例26~29及び比較例6~7)
中和工程において、硫酸鉄、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの水溶液を、合金粒子中のFe、Co及びMnが下記表1の質量比となるように配合したこと、水溶液中のそれぞれの金属イオン濃度及びアルカリ水溶液による中和率を変更して金属粒子サイズ及びアスペクト比を下記表2のとおりとなるように調整したこと以外は、実施例5と同様にして、実施例26~29及び比較例6~7の複合磁性体を得た。
【0064】
[評価方法]
(複合磁性体中のNa以上の原子番号の元素の質量割合)
実施例及び比較例で得られた複合磁性体表面を蛍光X線装置により分析し、原子番号がNa以上の元素の質量割合(質量%)を測定した。これにより、金属粒子全体に対する元素の質量割合が測定される。測定結果を表1に示す。
【0065】
(金属粒子のサイズ及びアスペクト比並びに酸化金属膜の厚み)
実施例及び比較例で得られた金属粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)にて明視野像を倍率50万倍で観察し、金属粒子の長軸及び短軸方向の寸法(長軸径及び短軸径)(nm)を測定し、アスペクト比を求めた。同様にして、200~500個の金属粒子を観察し、長軸径、短軸径及びアスペクト比の平均値を計算した。アスペクト比の平均値、及び、長軸径の平均値を、表2に示す。
【0066】
TEM画像において、金属粒子の酸化金属膜の部分は他の部分と比べて明るく(白く)見える。すなわち、金属粒子は金属コア部に位置する中央の暗い部分とその周囲を層状に取り囲む明るい部分とからなる。TEM画像において、金属粒子を長軸方向に4等分する短軸方向の3本の線上における酸化金属膜(6カ所)の厚みを測定し、厚みの平均値を計算した。合計5個の金属粒子に対して同様の測定を行い、5つの金属粒子における酸化金属膜の厚みの平均値を計算した。酸化金属膜の厚みの平均値を表2に示す。
【0067】
(Mn質量割合)
実施例及び比較例で得られた金属粒子を走査透過型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析法(STEM-EDS)により、金属粒子を長軸方向に4等分する短軸方向の3本の線上における酸化金属膜のMn質量割合(質量%)を線分析で測定した。線分析の測定点間隔は0.3nmとした。酸化金属膜を横切る分析線の中央部70%の範囲内にある測定点でのMn質量割合の測定結果を抽出し、平均値を求めた。このような測定を合計10個の金属粒子に対して行った。求めた値を酸化金属膜中のMn質量割合として、表2に示す。
【0068】
(抵抗率)
実施例及び比較例で得られた複合磁性体の電気抵抗率ρ(Ωm)を、超高抵抗計(アドバンテスト社製、R8340)を用いて、測定した。ρの測定結果を表3に示す。
【0069】
(複素透磁率及び磁気損失)
実施例及び比較例で得られた複合磁性体の複素透磁率の実部μ’、虚部μ’’、及び磁気損失tanδμを、ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製、HP8753D)と空洞共振器(株式会社関東電子応用開発製)を用いて摂動法により、周波数1GHz、2GHz及び3GHzでそれぞれ測定した。μ’及びtanδμの測定結果を表3に示す。
【0070】
測定後の複合磁性体を高温高湿槽中に配置し、温度85℃相対湿度85%の空気中に1000時間曝露した。曝露後の複素透磁率の実部μa’を周波数1GHzで測定した。曝露前後での周波数1GHzにおける複素透磁率の実部μ’及びμa’の差をμ’で割った(μa’-μ’)/μ’(%)を求め、信頼性として評価した。信頼性の評価結果を表3に示す。表3中では、(μa’-μ’)/μ’をΔμ’と示している。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
実施例で得られた複合磁性体は、高い透磁率及び低い磁気損失を有し、高温高湿環境下に曝露した際にも透磁率の低下が抑制されていることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
2…金属コア部、4…酸化金属膜、10…金属粒子。