(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】光制御素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
G02F1/035
(21)【出願番号】P 2018065343
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】山根 裕治
(72)【発明者】
【氏名】藤野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】一明 秀樹
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/019913(WO,A1)
【文献】特開平07-128624(JP,A)
【文献】特開平07-152006(JP,A)
【文献】特開平08-086930(JP,A)
【文献】米国特許第04683448(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
G02B 6/12-6/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸リチウム基板上に形成された、チタン拡散による光導波路と、該光導波路の近傍に設けられる制御用電極とを備えた光制御素子において、
該光導波路のチタン膜のパターン幅が6μm以下であり、
該ニオブ酸リチウム基板中の水酸基吸収係数が0.5~2.5cm
-1の範囲内に設定されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光制御素子において、該水酸基吸収係数が1.0~2.5cm
-1の範囲内に設定されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光制御素子において、該ニオブ酸リチウム基板の厚みが、20μm以下であることを特徴とする光制御素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御素子に関し、特に、ニオブ酸リチウム基板上に形成された、チタン拡散による光導波路と、該光導波路の近傍に設けられる制御用電極とを備えた光制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、ニオブ酸リチウム基板(LN基板)にチタン拡散により光導波路を形成した光変調器(LN光変調器)などの光制御素子が多用されている。LN基板に形成するチタン膜のパターン幅は、光の閉じ込め効率を考慮し、従来は6μmを超える幅が採用されている。
【0003】
これは、チタン拡散により形成される光導波路は、チタン膜のパターン幅が狭くなると、チタン拡散する箇所の屈折率上昇が低いため、光の閉じ込めが弱く、製造プロセスの変動の影響を受けてモードフィールド径(MFD)が広がり易くなる。このため、6μmを超えるチタン膜のパターン幅が多く採用されている。
【0004】
近年では、1つの光制御素子内に複数の光変調回路を組み込む高集積化が行われ、光損失を低減することが必要となっている。特許文献1では、光導波路と制御用電極との交差部分において、制御用電極による信号光の吸収を抑制するため、制御用電極の幅を狭窄化させることが提案されている。
【0005】
また、LN光変調器を高集積化した場合には、光導波路の入射部、出射部、及び制御用電極との作用部では、高次モード光との干渉を避けるため、6μm以下のチタン膜のパターン幅が採用されている。したがって、光制御素子の光損失等の改善を図るためにも、MFDをより精確にコントロールできることが重要となっている。
【0006】
他方、LN光変調器の製造において、同一の製造条件であっても、MFDがばらつき、光損失が増加するという問題が発生している。MFDに影響を与える製造プロセスのパラメータ(チタンの幅、膜厚、拡散温度、拡散時間、拡散雰囲気)について調査したところ、拡散雰囲気の1つである電気炉内の水分量に大きく依存していることが判明した。
【0007】
なお、チタン拡散時に、基板内のLiが基板外に拡散することを抑制するため、プロセスガスを加湿して電気炉内に供給することは一般的に知られており、電気炉内の水分量が光導波路の伝搬損失に影響を及ぼすという報告(非特許文献1)もある。
【0008】
しかし、従来は光の閉じ込めの強い6μmを超えるチタン膜のパターン幅が採用されていたため、電気炉内の水分量がMFDに影響を及ぼすことは一般的には知られていなかった。本発明において、チタン膜のパターン幅を6μm以下とした場合には、製品のMFDが大きくバラツキ、光損失が特に顕著になることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】T.Nozawa,K.Noguchi,H.Miyazawa and K.Kawano:“Water vapor effects on optical characteristics in Ti:LiNbO3 channel waveguides.”,Applied Optics, vol.30,No9,pp1085-1089
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、MFDのバラツキを抑制し、光損失の少ない光制御素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の光制御素子は、以下の技術的特徴を有する。
(1) ニオブ酸リチウム基板上に形成された、チタン拡散による光導波路と、該光導波路の近傍に設けられる制御用電極とを備えた光制御素子において、該光導波路のチタン膜のパターン幅が6μm以下であり、該ニオブ酸リチウム基板中の水酸基吸収係数が0.5~2.5cm-1の範囲内に設定されていることを特徴とする。
以下の記載においては、「水酸基吸収量」と表示する場合があるが、これは「水酸基吸収係数」を意味している。
【0013】
(2) 上記(1)記載の光制御素子において、該水酸基吸収係数が1.0~2.5cm
-1
の範囲内に設定されていることを特徴とする。
【0014】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光制御素子において、該ニオブ酸リチウム基板の厚みが、20μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、ニオブ酸リチウム基板上に形成された、チタン拡散による光導波路と、該光導波路の近傍に設けられる制御用電極とを備えた光制御素子において、該ニオブ酸リチウム基板中の水酸基吸収量が0.5~2.5cm-1の範囲内に設定されているため、光導波路におけるMFDのバラツキが小さく、光損失が抑制された光制御素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】チタン膜のパターン幅に対するMFDの変動を示すグラフである。
【
図2】顕微FT-IRで計測した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の光制御素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光制御素子は、ニオブ酸リチウム基板上に形成された、チタン拡散による光導波路と、該光導波路の近傍に設けられる制御用電極とを備えた光制御素子において、該ニオブ酸リチウム基板中の水酸基吸収量が0.5~2.5cm-1の範囲内に設定されていることを特徴とする。
【0018】
特に、該光導波路における、入射部、出射部又は制御用電極との作用部の内、少なくともいずれかにおけるチタン膜のパターン幅が6μm以下である場合や、該ニオブ酸リチウム基板の厚みが、20μm以下である場合には、本発明は特に顕著な効果を発揮する。
【0019】
本発明の光制御素子の製造プロセスの条件を確認するため、以下の実験を行った。
LN基板として、市販の直径4インチ、厚さ0.5mmのニオブ酸リチウムウェハ(X板、オプトグレード、)を用いた。
LN基板上に形成するチタン膜のパターン幅を3.5μm,4.0μm,4.5μm,5.0μm,5.5μm,6.0μm,7.0μm,及び8.0μmとし、Ti膜の高さを1000Åに設定した。
LN基板上でチタンを熱拡散させるため、電気炉内の温度を1000℃に設定し、拡散時間として15時間を設けた。
電気炉内の露点温度は、10℃,30℃及び50℃に設定した。
【0020】
LN基板に光導波路を形成した後、LN基板を20μmの厚さになるまで研磨して薄板化した。
【0021】
チタン膜の各幅に対するMFDの変動値を
図1に示す。
チタン膜のパターン幅は、オリンパス(株)社製の光学顕微鏡(MX50)に(株)フローベル社製の自動線幅測定システム(TARCY LS200)を取り付け、熱拡散前のLN基板のチタン膜のパターン幅を測定した。熱拡散後のパターン幅も本システムで測定可能であり、熱拡散前後でパターン幅に大きな差異は生じなかった。MFDは、シナジーオプトシステムズ社製の高機能型ニアフィールドパターン(NFP)計測光学系(M-Scope type S)を用いて、波長1550nmで測定した。
【0022】
各チタン幅に対するMFDの変動値を
図1のグラフに示す。
図1を参照すると、露点温度により、MFDの変動値が大きく変化することが容易に理解される。露点温度10℃及び30℃の場合は、比較的近しい値を示すが、露点温度50℃は、露点温度30℃などからは大きく外れる傾向にあることが分かる。
【0023】
また、チタン幅が6μm以下の場合は、MFDの変動値が大きくなり、特に、チタン幅6μm以下で、露点温度50℃の場合は、MFDの変動値が大きくなり過ぎる傾向にある。このことから、プロセスガスに含まれる水分量が多い(露点温度50℃以上)の場合は、幅(チタン膜のパターン幅)が6μm以下の光導波路においては、チタン濃度分布の横方向の広がりが促進され、MFDの広がりに繋がることが判明した。
【0024】
なお、別の実験において、プロセスガスに殆ど水分が含まれない(露点温度-20℃以下)の場合には、チタン膜を熱拡散すると、パターン剥離や表面荒れが発生し、光導波路として十分に機能しないことが確認されている。
【0025】
このため、チタン膜のパターン幅が6μm以下の光導波路の場合は、プロセスガスに含まれる水蒸気量を露点温度0℃以上50℃未満とすることが、MFDの安定化を図る上で有効である。特に、10℃前後、例えば、0℃~20℃の範囲に設定することが好ましい。
【0026】
次に、各露点温度で処理した場合のLN基板中の水酸基吸収量を測定した。
上記実験で使用した試料の中から、電気炉内の露点温度を10℃,30℃及び50℃に設定した場合の3つのサンプルと、別途、露点温度-20℃以下で処理したサンプルについて、水酸基吸収量を測定した。
【0027】
水酸基吸収量の測定は、顕微FT-IR(Bruker社製 Hyperion-3000/Tensor27)を用いて透過法で行った。測定条件は試料を大気中に配置し、偏光子を用いて、結晶軸(c軸)に対して垂直方向の偏光測定で行った。
図2は、水酸基吸収量を示す分光スペクトルである。
【0028】
図2を参照すると、露点温度が-20℃から50℃へと上昇するに従い、LN基板の水酸基吸収量が0cm
-1から3cm
-1の範囲で変化することが容易に理解される。上述のように、露点温度は0℃以上50℃未満であることが好ましいことから、チタン拡散後のLN基板の水酸基吸収量は、0.5~2.5cm
-1であることが好ましいことが容易に理解される。
【0029】
なお、LN基板の厚さについては、基板の厚さを20μm以下にした場合には、シングルモードになるチタン膜のパターン幅は6μm以下となることから、20μm以下の厚みを有するLN基板には、本発明を適用することより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、MFDのバラツキを抑制し、光損失の少ない光制御素子を提供することができる。