(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】蓄電池用触媒栓
(51)【国際特許分類】
H01M 10/52 20060101AFI20220511BHJP
H01M 50/30 20210101ALI20220511BHJP
H01M 50/60 20210101ALI20220511BHJP
【FI】
H01M10/52 101
H01M50/30
H01M50/60
(21)【出願番号】P 2018074694
(22)【出願日】2018-04-09
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】陣野 俊介
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特公昭38-015720(JP,B1)
【文献】特開昭50-058538(JP,A)
【文献】特開昭58-100376(JP,A)
【文献】特開2009-176600(JP,A)
【文献】特開2002-313317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52 - 10/667
H01M 50/30 - 50/392
H01M 50/60 - 50/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と酸素とを反応させる触媒と、
前記触媒を収容する空間と外部とを仕切る外壁を有するとともに、前記水素および前記酸素の供給口と、前記水素および前記酸素の排気口と、を有する容器と、
前記容器内に配置されるとともに、前記触媒と前記外壁とを部分的に隔離する隔壁と、
を備え、
前記隔壁が、前記触媒の周囲に配された筒状部を有し、前記供給口側から見たときに、前記筒状部が、前記触媒を囲む仮想の囲繞線に沿って間欠的に設けられた複数のアーク状部により構成されており、
前記排気口は、前記触媒から前記隔壁により遮蔽されている、蓄電池用触媒栓。
【請求項2】
前記排気口が、前記隔壁に少なくとも一部が囲まれた中空の空間に連通している、請求項1に記載の蓄電池用触媒栓。
【請求項3】
前記中空の空間の少なくとも一部が、前記外壁と前記隔壁との間に形成されている、請求
項2に記載の蓄電池用触媒栓。
【請求項4】
前記筒状部の周囲長L1に対する前記アーク状部の合計の周囲長L2の比:L2/L1は、1/2以上2/3以下である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の蓄電池用触媒栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池用触媒栓に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池では、蓄電池内で水の電気分解反応により発生した水素および酸素を触媒反応により水に戻し、蓄電池内に水を還流させる触媒栓が用いられている。触媒栓は、水素と酸素とを反応させて水を生成する触媒と、触媒を収容する外容器と、を備える。外容器は、水素および酸素を触媒へ供給する供給口と、未反応の水素および酸素を外部へ排出する排気口と、を有する。
【0003】
例えば整流器の故障などが原因で、蓄電池が大電流で過充電されることがある。この場合、供給口から触媒に過剰の水素および酸素が供給され続ける。触媒反応が続くことで、反応熱が蓄積される。反応熱の蓄積により、触媒栓(触媒)の温度が過剰に上昇し、触媒栓が溶ける等の不具合が生じるおそれがある。
【0004】
一方、触媒反応により生成した水は、反応熱により水蒸気となる。水蒸気は、外容器の外壁と接触して冷却されることにより水となり、その水は、蓄電池内に還流される。水蒸気は外容器内に滞留しないため、供給口から触媒に過剰の水素および酸素が供給され続ける。
【0005】
上記の触媒栓の過剰な温度上昇を防止するため、特許文献1では、外容器内に触媒を収容する内器を設けることが提案されている。内器は、供給口より供給された水素および酸素を触媒へ送り込む開口を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の触媒栓では、過充電時の電流値がある一定値以上に大きくなると、内器中に触媒反応により生成した水蒸気が直ちに充満し、それにより内器中への水素および酸素の供給が一定量に抑制される。そのため、触媒反応が抑制され始める電流値が小さくなりやすく、蓄電池に還流される水量が不十分になる。触媒反応が抑制され始める過充電時の電流値が小さい場合、それより電流値が大きい場合には、排気口を通じて触媒栓の外部へ排出される未反応の水素および酸素の量が増大するためである。
【0008】
内器中に水蒸気が直ちに充満する理由として、内器の壁が触媒栓外部の空気と直接接触していないため、水蒸気が内器の壁に接触しても冷却され難く、液状化し難いことが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、水素と酸素とを反応させる触媒と、前記触媒を収容する空間と外部とを仕切る外壁を有するとともに、前記水素および前記酸素の供給口と、前記水素および前記酸素の排気口と、を有する容器と、前記容器内に配置されるとともに、前記触媒と前記外壁とを部分的に隔離する隔壁と、を備え、前記排気口は、前記触媒から前記隔壁により遮蔽されている、蓄電池用触媒栓に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蓄電池が大電流で過充電される場合に、触媒栓の温度上昇を抑制するとともに蓄電池内の電解液の減少を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る蓄電池用触媒栓を模式的に示す縦断面図である。
【
図1B】分解された状態の
図1Aに係る蓄電池用触媒栓の縦断面図である。
【
図2】
図1Aの蓄電池用触媒栓のX-X断面図である。
【
図3】
図1Aの蓄電池用触媒栓における隔壁の筒状部の斜視図である。
【
図4】
図3の隔壁の筒状部の変形例を示す斜視図である。
【
図5】
図3の隔壁の筒状部の別の変形例を示す斜視図である。
【
図6】本発明の別の実施形態に係る蓄電池用触媒栓を模式的に示す斜視図である。
【
図7】
図6の蓄電池用触媒栓のY-Y断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る触媒栓を装着した蓄電池の過充電時における触媒栓の温度推移の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る蓄電池用触媒栓は、水素と酸素とを反応させる触媒と、触媒を収容する空間と外部とを仕切る外壁を有するとともに、水素および酸素の供給口と、水素および酸素の排気口と、を有する容器と、容器内に配置されるとともに、触媒と外壁とを部分的に隔離する隔壁と、を備える。排気口は、触媒から隔壁により遮蔽されていればよい。例えば、隔壁によって少なくとも一部が囲まれるような中空の空間を形成し、そのような中空の空間を排気口と連通させてもよい。中空の空間は、その少なくとも一部を外壁と隔壁との間に形成してもよく、そのほぼ全体を隔壁で囲んで形成してもよい。
【0013】
隔壁が触媒と外壁とを「部分的」に隔離する場合、触媒と外壁との間には、隔壁が介在しない領域(以下、通路とも称する。)が形成される。このような通路を介して、触媒反応により生成した水蒸気の少なくとも一部が外壁側に送られる。供給口側から隔壁を切り欠くように通路を形成すると、触媒反応により生成した水蒸気の外壁側への移動が効率よく行われる。
【0014】
大電流での過充電時に、触媒と隔壁との間の空間(触媒の周囲)に水蒸気が適度に滞留する。これにより、触媒栓の過剰な温度上昇が抑制される。触媒の周囲に滞留する水蒸気の少なくとも一部は、上記通路を介して外壁側へ送られ、触媒を収容する空間と触媒栓の外部とを仕切る外壁と接触する。外壁と接触した水蒸気は冷却され、液状化する。水蒸気の外壁との接触による液状化により生成した水は、蓄電池内に還流される。
【0015】
触媒の周囲に滞留する水蒸気の通路を介した外壁側への移動および外壁との接触による液状化により、内器を設ける場合と比べて、大電流での過充電時における触媒の周囲での水蒸気の滞留が、適度に緩和される。これにより、触媒反応が抑制され始める過充電時の電流値が大きくなり、蓄電池内に還流される水量が増大する。すなわち、触媒栓外部への未反応ガスの排出量が減少する。
【0016】
以上のことから、蓄電池が大電流で過充電される場合に、触媒栓の温度上昇が抑制されるとともに、蓄電池内の電解液の減少が抑制され、密閉反応効率が高められる。
【0017】
なお、通路を介した水蒸気の外壁側への移動は、触媒の周囲での水蒸気の適度な滞留が損なわれない程度に行われる。水蒸気の適度な滞留を安定して行うには、隔壁は、触媒の上方において開口しておらず、上方を覆っていることが好ましい。また、触媒反応が抑制され始める過充電時の電流値は、上記通路の大きさなどを変えることにより制御することができる。
【0018】
隔壁は触媒の周囲に配された筒状部を有することが好ましい。筒状部は、触媒と外壁とを部分的に隔離しており、筒状部の内側に触媒が配置されている。この場合、触媒の周囲に水蒸気を適度に滞留させる効果と、水蒸気を適度に外壁へ移動させる効果とが、バランス良く得られ易い。水蒸気の適度な滞留が安定して行われるためには、筒状部の上部は開口していないことが好ましい。筒状部の断面形状は、円形状、楕円形状でもよく、正四角形状などの多角形状でもよい。
【0019】
筒状部は、その内側に連通する開口を有してもよい。筒状部の内側には触媒が配置されている。開口を供給口と対向するように配置することで、触媒への水素および酸素の供給が効率よく行われる。例えば、筒状部の下部を開口させて供給口と対向させればよい。
【0020】
供給口側から見たときに、筒状部は、例えば、触媒を囲む仮想の囲繞線に沿って間欠的に設けられた複数のアーク状部により構成されている。複数のアーク状部は、例えば円周に沿って間欠的に配置される。すなわち、筒状部は、隣り合うアーク状部の間に形成された通路(第1C空間など)を有することが好ましい。この場合、触媒の周囲に水蒸気を適度に滞留させる効果と、水蒸気を適度に外壁へ移動させる効果とが、バランス良く得られ易い。
【0021】
筒状部の周囲長L1に対するアーク状部の合計の周囲長L2の比:L2/L1は、1/2以上2/3以下であることが好ましい。L2/L1が1/2以上である場合、触媒の周囲にアーク状部が適度に設けられているため、触媒栓の温度上昇が十分に抑制される。L2/L1が2/3以下である場合、触媒の周囲にアーク状部が配置されない領域が適度に存在するため、蓄電池が大電流で過充電された場合でも、蓄電池内の電解液の減少が十分に抑制される。
【0022】
筒状部の周囲長L1とは、触媒を囲む筒状部の内周1周分の長さである。アーク状部の合計の周囲長L2とは、触媒を囲む筒状部の内周1周中に存在する複数のアーク状部の内周側の周囲長の合計長さである。すなわち、L2/L1は、筒状部の内周1周分の長さのうちアーク状部が占める長さの比率に相当する。
【0023】
具体的な一態様において、容器は、少なくとも第1空間と第2空間とを内部に有する。隔壁は、例えば触媒栓を供給口側から見たときに、第1空間と第2空間との間に介在している。第1空間は、供給口と連通するとともに、触媒を収容している。第2空間は、排気口に連通するとともに、触媒から隔壁により遮蔽されている。第1空間と第2空間とは連通しているため、水素および酸素は状況に応じた割合で第1空間および第2空間に分配供給される。外壁は、容器の少なくとも一部(例えば側壁)により構成されている。
【0024】
第2空間の少なくとも一部は、隔壁に囲まれた中空の空間であってもよい。この場合、外壁で囲まれた第1空間内に、中空の第2空間を有する隔壁が配置される。第1空間は、例えば、触媒と隔壁との間に形成される第1A空間と、隔壁と外壁との間に形成される第1B空間と、第1A空間と第1B空間とを連通する第1C空間(通路)とを有する。
【0025】
第1C空間は、例えば、触媒の側方(例えば、隔壁の筒状部)に設けられる。第1C空間は、1つ設けてもよく、2つ以上設けてもよい。複数の第1C空間の形状は、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。第1C空間は、例えば、隔壁(筒状部)に切り欠き部または穴部を設けることにより形成される。切り欠き部および穴部を組み合わせてもよい。第1C空間は、隔壁の筒状部の少なくとも触媒よりも上部に形成されていることが好ましい。
【0026】
第1C空間は、スリット部を有することが好ましい。スリット部は、例えば、筒状部の軸方向に沿って形成される。筒状部に形成される複数の第1C空間は、等間隔に設けられていることが好ましい。
【0027】
また、第2空間の少なくとも一部は、外壁と隔壁との間に形成された中空の空間であってもよい。この場合、第1空間は、外壁および隔壁で囲まれることにより形成されている。第1空間は、隔壁により画定される領域(第1空間内で外壁が露出しない領域)と、外壁により画定される領域(第1空間内で外壁が露出する領域)と、を有する。第1空間の一部が外壁により画定されることで、触媒と外壁との間に隔壁が介在しない領域が形成されている。
【0028】
排気口は、第2空間と連通している。未反応の余剰の水素および酸素は、第2空間に送られ、第2空間を介して排気口へ送られる。隔壁に、第2空間と連通する排気通路を有する排気部を設け、排気口に排気部を貫通させてもよい。
【0029】
隔壁が第1空間と第2空間との間に介在しており、第2空間は触媒から隔壁により遮蔽されている。これにより、余剰の水素および酸素の第1空間への流入や第1空間での滞留が抑制される。余剰の水素および酸素の第1空間への流入や第1空間での滞留により第1空間内の水蒸気が外壁へ移動し難くなることが抑制される。
【0030】
余剰の水素および酸素を第2空間内へ送り込む開口は、第1空間よりも上流側(第1空間の下方)に設けられていることが好ましい。この場合、余剰の水素および酸素が第2空間へ送り込まれ易くなり、第1空間への余剰の水素および酸素の流入が抑制される。
【0031】
触媒反応により生成した水蒸気の一部は、第2空間を介して排気口から余剰の水素および酸素とともに排出され得る。また、酸素は外部から排気口を通じて第1空間へ供給される場合もある。
【0032】
供給口は、第1空間と連通している。水素および酸素は供給口を通じて触媒に供給するとともに、水蒸気の外壁との接触により生成した水を供給口を通じて蓄電池内に戻すことができる。供給口は、第2空間と連通していてもよい。
【0033】
供給口は、第1空間における触媒と隔壁との間に形成される空間(例えば、隔壁の下方の開口)と対向して設けられていることが好ましい。この場合、水素および酸素を供給口を通じて触媒に供給し易い。また、供給口は容器(外容器)の底部に設けられていることが好ましい。この場合、水蒸気の外壁との接触により生成した水が下方へ移動し供給口を通じて蓄電池内に戻り易い。
【0034】
以下、本発明の一実施形態に係る蓄電池用触媒栓について、
図1A、
図1B、
図2および
図3を参照しながら説明する。
図1Aは、本発明の一実施形態に係る蓄電池用触媒栓を模式的に示す縦断面図である。
図1Bは、分解された状態の
図1Aに係る蓄電池用触媒栓の縦断面図である。
図2は、
図1Aの蓄電池用触媒栓のX-X断面図である。
図3は、
図1Aの蓄電池用触媒栓における隔壁の筒状部の斜視図である。なお、本発明に係る触媒栓は、
図1A、
図1B、
図2および
図3に示す構造に限定されない。
図1A、
図1B、
図2および
図3に示す隔壁7は固定部材23を備えるが、固定部材23を備えていなくてもよい。
【0035】
触媒栓1は、水素と酸素とを反応させて水蒸気を生成する触媒2と、触媒2を収容する容器3とを備える。容器3は、水素および酸素の供給口4と、未反応の余剰の水素および酸素を排出する排気口5と、を有するとともに、触媒2を収容する空間(内部)と外部とを仕切る外壁6を有する。触媒栓1は、容器3内に配置されるとともに、触媒2と外壁6とを部分的に隔離する隔壁7(筒状部17)を備える。排気口5は、触媒2から隔壁7により遮蔽されている。
【0036】
容器3は、少なくとも第1空間8と第2空間9とを内部に有する。触媒栓1を供給口4側から見たとき、隔壁7は、第1空間8と第2空間9との間に介在している。第1空間8は、供給口4と連通するとともに、触媒2を収容している。第2空間9は、排気口5に連通するとともに、触媒2から隔壁7により遮蔽されている。第1空間8と第2空間9とは供給口4側で連通しているため、水素および酸素は状況に応じた割合で第1空間8および第2空間9に分配供給される。外壁6は、容器3の少なくとも一部(外容器本体の側壁)により構成されている。
【0037】
第1空間8は、触媒2と隔壁7との間に形成される第1A空間10と、隔壁7と外壁6との間に形成される第1B空間11と、第1A空間10と第1B空間11とを連通する第1C空間(通路)12と、を有する。第1C空間12は、筒状部17の一部に切り欠き部を設けることにより形成されている。
【0038】
隔壁7により、第1A空間10内で水蒸気が適度に滞留する。また、第1A空間10内の水蒸気の少なくとも一部は、第1C空間12を介して第1B空間11へ移動する。第1B空間11へ移動した水蒸気は、第1B空間11内で外壁6と接触することにより冷却され、水となり、蓄電池内に戻る。
【0039】
触媒2は触媒容器2a内に収容されている。触媒2が収容された触媒容器2aは支持台13の上に載せられ、かつ第1A空間10内に配置されている。
【0040】
触媒2としては、例えば、Pd、Pt、Agなどの貴金属や、Fe、Co、Mnなどの卑金属が挙げられる。触媒2は、例えば、酸化アルミニウムなどの担体に担持させて用いられる。触媒容器2aとしては、例えば、酸化アルミニウムなどのセラミックス製の多孔質容器が用いられる。
【0041】
容器3は、容器本体14と、外容器本体14の開口を覆う蓋体15と、を備える。外容器本体14の側壁が外壁6を構成している。外容器本体14は、その底部に供給口4を有する。蓋体15は、中央に排気口5を有する。
【0042】
供給口4は第1A空間10および第1B空間11と連通している。蓄電池内で発生した水素および酸素は、供給口4を通じて第1A空間10へ供給される。また、第1B空間11で冷却により生成した水は下方へ移動して供給口4を通じて蓄電池内に戻る。
【0043】
隔壁7は、触媒2の周囲に配された筒状部17と、筒状部17の上面に配される上部18とを有する。筒状部17は、第1A空間10と第1B空間11とを部分的に隔離する。筒状部17の下部は開口しており、供給口4と対向している。蓄電池内で発生した水素ガスおよび酸素ガスは、供給口4から筒状部17の下部の開口を通じて第1A空間10内へ供給される。
【0044】
隔壁7の上部18は、排気通路5aを有する排気部19を備えており、排気部19を蓋体15の排気口5に貫通させている。排気通路5a(排気口5)は、第2空間9と連通しており、排気通路5a(排気口5)には、防爆用のフィルタ20が設けられている。筒状部17は、さらに、その上部開口を覆う上壁17aを有する。
【0045】
図2および
図3に示すように、供給口4側から見たときに、筒状部17は、触媒2(触媒容器2a)を囲む仮想の囲繞線に沿って間欠的に設けられた複数のアーク状部21により構成されている。アーク状部21の間に第1C空間12が形成されている。
【0046】
複数のアーク状部21は、互いに同じ形状であり、等間隔に設けられていることが好ましい。複数の第1C空間12は、それぞれ筒状部17の軸方向に沿って形成されたスリット部を有することが好ましい。この場合、触媒の周囲に水蒸気を適度に滞留させる効果と、水蒸気を適度に外壁へ移動させる効果とが、バランス良く得られ易い。
【0047】
筒状部17の周囲長L1に対するアーク状部21の合計の周囲長L2の比:L2/L1は、1/2以上2/3以下であることが好ましい。なお、筒状部17の周囲長L1とは、複数のアーク状部21および通路12を含む筒状部の内周1周分の長さである。アーク状部21の合計の周囲長L2とは、触媒を囲む筒状部の内周1周中に存在する複数のアーク状部21の内周側の周囲長の合計長さである。すなわち、L2/L1は、筒状部17の内周1周分の長さのうちアーク状部21が占める長さの比率に相当する。
【0048】
第2空間9は、隔壁7に囲まれた中空の空間である。第1空間8へ供給されない未反応の水素および酸素は、第2空間9を通過して排気口5より外部へ排出される。
【0049】
第2空間9は、第1部分9aと、第1部分9aの一方の端部と連通する第2部分9bとを有する。第1部分9aは、筒状部17のアーク状部21内に形成されている。
図3に示すように、筒状部17の上面において第1部分9aの一方の端部が開口している。第2部分9bは、筒状部17の上壁17aと上部18の凹部とにより形成されている。第1部分9aは供給口4と連通し、第2部分9bは上部18の排気部19に設けられた排気口5と連通している。
【0050】
第1部分9aの他方の端部は、未反応の水素および酸素を第2空間9内へ送り込む開口22を有する。開口22は、第1空間8の下方に設けられている。
【0051】
第2空間9の第1部分9a(開口22)の幅Wは、例えば、3.5mm以上が好ましい。幅Wが3.5mm以上である場合、未反応の水素および酸素が第2空間9の第1部分9a内にスムーズに送り込まれる。なお、上記の幅Wは、第2空間9の第1部分9aの、
図2に示す筒状部17の径方向に沿った長さである。
【0052】
図2および
図3に示すように、隔壁7(筒状部17)は、第1A空間10内で触媒容器2aを上方より支える固定部材23を備えることが好ましい。固定部材23により第1A空間10内で触媒容器2aが動かないように固定される。なお、固定部材は、固定部材23の形状に限定されず、第1A空間10内で触媒容器2aを固定可能な形状であればよい。
【0053】
本実施形態では、2つのアーク状部21(第1C空間12)を有する筒状部17を備える触媒栓を用いているが、触媒栓は、これに限定されない。
図4に示すように、触媒栓は、4つのアーク状部31(第1C空間32)を有する筒状部37を備えてもよい。筒状部37のアーク状部31は、その内部に第2空間の第1部分39aを有する。4つの第1C空間32は、互いに同じ形状であり、等間隔に設けられ、それぞれ筒状部37の軸方向に沿って形成されたスリット部を有する。
【0054】
また、
図5に示すように、触媒栓は、4つのアーク状部41(第1C空間42)を有する筒状部47を備えてもよい。筒状部47のアーク状部41は、その内部に第2空間の第1部分49aを有する。4つの第1C空間42は、互いに同じ形状であり、等間隔に設けられ、それぞれ、少なくとも触媒よりも上部に形成された穴部を有する。
図5に示す穴部は四角形状であるが、穴部の形状はこれに限定されず、円形状などでもよい。
【0055】
以下、本発明の別の実施形態に係る蓄電池用触媒栓について、
図6および
図7を参照しながら説明する。
図6は、本発明の別の実施形態に係る蓄電池用触媒栓を模式的に示す縦断面図である。
図7は、
図6の蓄電池用触媒栓のY-Y断面図である。なお、本発明に係る触媒栓は、
図6および
図7に示す構造に限定されない。
図6および
図7に示す隔壁57は固定部材73を備えるが、固定部材73を備えていなくてもよい。
【0056】
触媒栓51は、水素と酸素とを反応させて水蒸気を生成する触媒52と、触媒52を収容する容器53とを備える。容器53は、水素および酸素の供給口54と、未反応の余剰の水素および酸素を排出する排気口55と、を有するとともに、触媒52を収容する空間(内部)と外部とを仕切る外壁56を有する。触媒栓51は、容器53内に配置されるとともに、触媒52と外壁56とを部分的に隔離する隔壁57(筒状部67)を備える。排気口55は、触媒52から隔壁57により遮蔽されている。
【0057】
容器53は、少なくとも第1空間58と第2空間59とを内部に有する。触媒栓51を供給口54側から見たとき、隔壁57は、第1空間58と第2空間59との間に介在している。第1空間58は、供給口54と連通するとともに、触媒52を収容している。第1空間58は、外壁56および隔壁57で囲まれることにより形成されている。第2空間9は、排気口55に連通するとともに、触媒52から隔壁57により遮蔽されている。第1空間58と第2空間59とは供給口側で連通しているため、水素および酸素は状況に応じた割合で第1空間58および第2空間59に分配供給される。外壁56は、容器53の少なくとも一部(外容器本体の側壁)により構成されている。
【0058】
第1空間58は、触媒52と隔壁57の筒状部67との間に形成される第1D空間60と、通路形成部69の間に形成されるとともに第1D空間60と外壁56とを連通する第1E空間(通路)61と、を有する。第1E空間61により、触媒52と外壁56との間に隔壁57が介在しない領域が形成されている。隔壁57のアーク状部71および通路形成部69により第1空間58内で外壁56が露出しない領域が形成されている。第1E空間61により第1空間58内で外壁56が露出する領域が形成されている。
【0059】
隔壁57により、第1D空間60内で水蒸気が適度に滞留する。また、第1D空間60内の水蒸気の少なくとも一部は、第1E空間61へ移動する。第1E空間61へ移動した水蒸気は、外壁56に接触し、外壁56との接触により冷却され、水となり、蓄電池内に戻る。
【0060】
触媒52は触媒容器52a内に収容されている。触媒52が収容された触媒容器52aは支持台63の上に載せられ、かつ第1D空間60内に配置されている。触媒52としては、触媒2で例示したものを用いることができる。触媒容器52aとしては、触媒容器2aで例示したものを用いることができる。
【0061】
容器53は、外容器本体64と、外容器本体64の開口を覆う蓋体65と、を備える。外容器本体64の側壁が外壁56を構成している。蓋体65の側壁が外壁の一部を構成していてもよい。外容器本体64は、その底部に供給口54を有する。蓋体65は、中央に排気口55を有する。排気口55には、防爆用のフィルタ70が設けられている。供給口54は第1D空間60および第1E空間61と連通している。蓄電池内で発生した水素および酸素は、供給口54を通じて第1D空間60へ供給される。第1E空間61で冷却により生成した水は下方へ移動して供給口54を通じて蓄電池内に戻る。
【0062】
隔壁57は、触媒52の周囲に配された筒状部67と、筒状部67の上部を覆う上壁68と、第2空間59の第1部分59aの一部を画定する通路形成部69と、を有する。筒状部67は、触媒52と外壁56とを部分的に隔離する。筒状部67の下部は開口しており、供給口54と対向している。蓄電池内で発生した水素ガスおよび酸素ガスは、供給口54から筒状部67の下部の開口を通じて第1D空間60内へ供給される。通路形成部69は、第2空間59の第1部分59aと、第1E空間61との間に介在する。2つの通路形成部69の間に第1E空間61(通路)が形成されている。
【0063】
図7に示すように、供給口54側から見たときに、筒状部67は、触媒52(触媒容器52a)を囲む仮想の囲繞線に沿って間欠的に設けられた複数のアーク状部71により構成されている。アーク状部71の間に第1E空間61(通路)が形成されている。
【0064】
複数のアーク状部71は、互いに同じ形状であり、等間隔に設けられていることが好ましい。複数の第1E空間61は、それぞれ筒状部67の軸方向に沿って形成されたスリット部を有することが好ましい。この場合、触媒の周囲に水蒸気を適度に滞留させる効果と、水蒸気を適度に外壁へ移動させる効果とが、バランス良く得られ易い。
【0065】
本実施形態では、筒状部は、アーク状部(第1E空間)を2つ有するが、アーク状部(第1E空間)の数は、これに限定されない。第1E空間はスリット部を有するが、穴部を有してもよい。
【0066】
筒状部67の周囲長L1に対するアーク状部71の合計の周囲長L2の比:L2/L1は、1/2以上2/3以下であることが好ましい。なお、筒状部67の周囲長L1とは、複数のアーク状部71および第1E空間61を有する筒状部67の内周1周分の長さである。アーク状部71の合計の周囲長L2とは、触媒を囲む筒状部67の内周1周中に存在する複数のアーク状部71の内周側の周囲長の合計長さである。すなわち、L2/L1は、筒状部67の内周1周分の長さのうちアーク状部71が占める長さの比率に相当する。
【0067】
第2空間59は、隔壁57と外容器本体64(外壁56)および蓋体65との間に形成されている。第1空間58へ供給されない未反応の水素および酸素は第2空間59を通過して排気口55より外部へ排出される。
【0068】
第2空間59は、第1部分59aと、第1部分59aの一方の端部と連通する第2部分59bとを有する。第1部分59aは、隔壁57のアーク状部71および通路形成部69と外壁56とで囲まれることにより形成されている。第2部分59bは、隔壁57の上壁68と蓋体65の凹部とにより形成されている。第1部分59aは供給口54と連通し、第2部分59bは排気口55と連通している。
【0069】
第1部分59aの他方の端部は、未反応の水素および酸素を第2空間59内へ送り込む開口72を有する。開口72は、第1空間58の下方に設けられている。
【0070】
第2空間59の第1部分59a(開口72)の幅Wは、例えば、3.5mm以上が好ましい。幅Wが3.5mm以上である場合、未反応の水素および酸素が第2空間59の第1部分59a内にスムーズに送り込まれる。なお、上記の幅Wは、第2空間59の第1部分59aの、
図7に示す筒状部67の径方向に沿った長さである。
【0071】
図6および
図7に示すように、隔壁57(筒状部67)は、第1A空間60内で触媒容器2aを上方より支える固定部材73を備えることが好ましい。
【0072】
ここで、
図8は、本発明の一実施形態に係る触媒栓を用いた蓄電池の通電(充電)時の触媒栓の温度推移の一例を示す。具体的には、電流値を1Aから100Aまでの範囲で変えた場合の触媒栓の温度の経時変化を示す。
図8中の(a)、(b)、および(c)は、それぞれ、触媒容器内の温度、触媒容器外(第1A空間内)の温度、および触媒栓外(外容器の外壁)の温度を示す。
【0073】
なお、蓄電池には、定格容量が290Ah(10時間率)の鉛蓄電池を用いている。触媒栓には、
図1Aに示す構造の触媒栓を用いている。L2/L1は約2/3、幅Wは約3.5mmである。
【0074】
図8に示すように、通電時の電流値が1Aから100Aまでの範囲で、触媒栓の温度上昇が抑制されている。電流値が100Aと大きい場合でも、電流値が10Aの場合とほぼ同じ温度で一定となり、触媒栓の温度上昇が抑制されていることがわかる。
【0075】
また、蓄電池の種類や通電の条件などによっては、
図1Aの触媒栓を用いる場合では、隔壁に通路を設けない以外は
図1Aと同じ構造の触媒栓を用いる場合と比べて、密閉反応効率を、例えば約10%程度高めることができる。密閉反応効率としては、例えば、定格容量が290Ah(10時間率)の鉛蓄電池を12Aで5時間通電する場合の値が用いられる。なお、密閉反応効率は、蓄電池内で水の電気分解により発生した水素および酸素のうち触媒栓で触媒反応により水に戻った割合である。
【0076】
本発明の一側面に係る蓄電池用触媒栓を以下にまとめて記載する。
(1)本発明の一側面は、水素と酸素とを反応させる触媒と、
前記触媒を収容する空間と外部とを仕切る外壁を有するとともに、前記水素および前記酸素の供給口と、前記水素および前記酸素の排気口と、を有する容器と、
前記容器内に配置されるとともに、前記触媒と前記外壁とを部分的に隔離する隔壁と、
を備え、
前記排気口は、前記触媒から前記隔壁により遮蔽されている、蓄電池用触媒栓に関する。
【0077】
(2)上記(1)において、前記排気口が、前記隔壁に少なくとも一部が囲まれた中空の空間に連通していることが好ましい。
【0078】
(3)上記(1)または(2)において、前記中空の空間の少なくとも一部が、前記外壁と前記隔壁との間に形成されていることが好ましい。
【0079】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記隔壁が、前記触媒の周囲に配された筒状部を有することが好ましい。
【0080】
(5)上記(4)において、前記供給口側から見たときに、前記筒状部が、前記触媒を囲む仮想の囲繞線に沿って間欠的に設けられた複数のアーク状部により構成されていることが好ましい。
【0081】
(6)上記(5)において、前記筒状部の周囲長L1に対する前記アーク状部の合計の周囲長L2の比:L2/L1は、1/2以上2/3以下であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の一側面に係る触媒栓は、鉛蓄電池や産業用据置ニッケル・カドミウムアルカリ蓄電池などに好適に利用される。
【符号の説明】
【0083】
1,51:触媒栓、2,52:触媒、2a,52a:触媒容器、3,53:容器、4,54:供給口、5,55:排気口、5a:排気通路、6,56:外壁、7,57:隔壁、8,58:第1空間、9,59:第2空間、9a,39a,49a,59a:第1部分、9b,59b:第2部分、10:第1A空間、11:第1B空間、12,32,42:第1C空間、13,63:支持台、14,64:外容器本体、15,65:蓋体、17,37,47,67:筒状部、17a,68:上壁、18:上部、19:排気部、20,70:フィルタ、21,31,41,71:アーク状部、22,72:開口、23,73:固定部材、60:第1D空間、61:第1E空間、69:通路形成部