(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】タンディッシュ
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
B22D11/10 310F
B22D11/10 310G
(21)【出願番号】P 2018082210
(22)【出願日】2018-04-23
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 洋介
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 雅之
(72)【発明者】
【氏名】東 圭嗣
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-167457(JP,A)
【文献】特開2016-187812(JP,A)
【文献】特開2015-077603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯を注入される受湯室と、前記受湯室から流入した前記金属溶湯を注出する出湯室とを有し、
前記受湯室と前記出湯室は、
入口側が上方に位置し出口側が下方に下がった傾斜を有する中空筒状のスリーブによって連結されており、前記スリーブを介して、前記受湯室から前記出湯室へと、前記金属溶湯が流入し、
前記出湯室において、
前記スリーブからの前記金属溶湯の出口を含む領域の底面である流入域底面が、他の領域の底面よりも
上方に向かって高くなった底上げ構造を有していることを特徴とするタンディッシュ。
【請求項2】
前記タンディッシュは、前記出湯室の内部の空間を区画する耐火物よりなる堰を有さないことを特徴とする請求項
1に記載のタンディッシュ。
【請求項3】
前記流入域底面は、平面状であり、前記他の領域の底面と平行になっていることを特徴とする請求項1
または2に記載のタンディッシュ。
【請求項4】
前記流入域底面は、前記受湯室から前記出湯室に前記金属溶湯が流入する前後方向に沿って、前記タンディッシュの全域を占めて設けられていることを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載のタンディッシュ。
【請求項5】
前記受湯室から前記出湯室に前記金属溶湯が流入する方向に対向する前記出湯室の壁面は、下部が該金属溶湯が流れ込む方向に近く、上部が該金属溶湯が流れ込む方向から遠ざかった傾斜を、前記流入域底面に対して有することを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載のタンディッシュ。
【請求項6】
前記出湯室の底面には、前記金属溶湯を注出する注出口が、前記受湯室から前記金属溶湯が流入する位置を挟んで1対設けられており、前記流入域底面は、該1対の注出口に挟まれた領域に設けられていることを特徴とする請求項1から
5のいずれか1項に記載のタンディッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュに関し、さらに詳しくは、金属材料の連続鋳造工程において介在物の浮上分離に使用されるタンディッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造装置等を用いて金属材料を鋳造する工程においては、介在物(酸化物等の不純物)を除去したうえで鋳造を行うために、タンディッシュが用いられる。取鍋からタンディッシュに金属溶湯が注入され、金属溶湯がタンディッシュ内に滞在する間に、金属溶湯から介在物が浮上分離される。そして、介在物が除去または減少された状態で、タンディッシュから鋳型に金属溶湯が注出される。
【0003】
この種のタンディッシュ100としては、
図3に示すように、受湯室120と出湯室130がスリーブ140で連結された形態が公知である。このような、スリーブを有するタンディッシュは、例えば特許文献1に開示されている。金属溶湯は、浸漬管170を介して、取鍋から受湯室120に注入され、スリーブ140を通って、出湯室130へ流入する。そして、出湯室130の底面に設けられたノズル孔180から、鋳型へと注出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図3に示すもののように、スリーブ140を有するタンディッシュ100においては、
図4(b)のように、スリーブ140を通って出湯室130に流入した金属溶湯Mは、出湯室130の前方壁133の面に衝突する。すると、金属溶湯Mの流れは、上昇流F2と下降流F3に分割されることになる。
【0006】
タンディッシュ100においては、取鍋から注入された金属溶湯Mに含まれていた介在物の一部が、受湯室120で浮上分離された状態で、金属溶湯Mが出湯室130に流入するが、受湯室120で浮上分離されなかった介在物が、金属溶湯Mの流れに乗って、出湯室130に流入する。出湯室130に流入した金属溶湯Mが前方壁133に衝突して下降流F3を発生すると、介在物も、下降流F3に乗って、出湯室130の底面131の方向に向かって下降する。すると、出湯室130において、受湯室120から流入した介在物のさらなる浮上分離が進みにくくなる。介在物の浮上分離が出湯室130で十分に進行しないと、ノズル孔180から注出される金属溶湯Mの中に、介在物が高濃度で含有されることになり、鋳造物の品質に影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、金属溶湯が出湯室に流入する際に発生する下降流によって、介在物の浮上分離の効率が低下するのを、抑制することができるタンディッシュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるタンディッシュは、金属溶湯を注入される受湯室と、前記受湯室から流入した前記金属溶湯を注出する出湯室とを有し、前記出湯室において、前記受湯室から前記金属溶湯が流入する位置を含む領域の底面である流入域底面が、他の領域の底面よりも、前記出湯室の内側に向かって高くなっているものである。
【0009】
ここで、前記受湯室と前記出湯室は、中空筒状のスリーブによって連結されており、前記スリーブを介して、前記受湯室から前記出湯室へと、前記金属溶湯が流入し、前記流入域底面は、前記スリーブからの前記金属溶湯の出口を含む領域の底面として設けられているとよい。
【0010】
前記タンディッシュは、前記出湯室の内部の空間を区画する耐火物よりなる堰を有さないとよい。
【0011】
前記流入域底面は、平面状であり、前記他の領域の底面と平行になっているとよい。
【0012】
前記流入域底面は、前記受湯室から前記出湯室に前記金属溶湯が流入する前後方向に沿って、前記タンディッシュの全域を占めて設けられているとよい。
【0013】
前記受湯室から前記出湯室に前記金属溶湯が流入する方向に対向する前記出湯室の壁面は、下部が該金属溶湯が流れ込む方向に近く、上部が該金属溶湯が流れ込む方向から遠ざかった傾斜を、前記流入域底面に対して有するとよい。
【0014】
前記出湯室の底面には、前記金属溶湯を注出する注出口が、前記受湯室から前記金属溶湯が流入する位置を挟んで1対設けられており、前記流入域底面は、該1対の注出口に挟まれた領域に設けられているとよい。
【発明の効果】
【0015】
上記発明にかかるタンディッシュにおいては、出湯室において、金属溶湯が流入する位置を含む領域の底面である流入域底面が、他の領域の底面よりも高くなっている。そのため、流入域底面が他の領域の底面と同じ高さで設けられる場合と比較して、出湯室に流入した金属溶湯が出湯室の壁面に衝突する位置の底面からの距離が、小さくなる。その結果、金属溶湯が出湯室の壁面に衝突しても、下降流を生じにくくなる。そして、上昇流が発生しやすくなり、発生した上昇流の流速も大きくなりやすい。下降流は、出湯室における介在物の浮上分離を妨げる一方、上昇流に介在物が乗って金属溶湯中を上昇すると、介在物の浮上分離が促進されることになる。よって、出湯室において、下降流の発生を抑制し、上昇流の発生を促進することで、出湯室において、効率的に介在物の分離を進めることができる。
【0016】
一方、他の領域の底面が低くなっていることにより、タンディッシュ全体の底面が高い位置に設定されている場合とは異なり、出湯室に貯留される金属溶湯の容量を確保することができる。その結果、介在物の浮上分離の効果を高く保持することができる。
【0017】
ここで、受湯室と出湯室が、中空筒状のスリーブによって連結されており、スリーブを介して、受湯室から出湯室へと、金属溶湯が流入し、流入域底面が、スリーブからの金属溶湯の出口を含む領域の底面として設けられている場合には、受湯室から出湯室への金属溶湯の流入が、細いスリーブを介して行われるため、出湯室に流入する金属溶湯が、整流された状態で、勢いよく出湯室の壁面に衝突し、スリーブではなく堰等を介して流入する場合と比較して、下降流が生じやすい。しかし、上記のように、スリーブの出口の位置に相当する流入域底面を高く形成しておくことで、下降流の発生を効果的に抑制することができる。また、スリーブを介することで、受湯室で浮上分離された介在物が出湯室に移動しにくくなり、流入域底面を高く形成することにより、下降流を抑制することの効果と合わせて、出湯室から注出される金属溶湯に混入される介在物の量を、効果的に低減することができる。
【0018】
タンディッシュが、出湯室の内部の空間を区画する耐火物よりなる堰を有さない場合には、そのような堰を有するとすれば発生し得る、金属溶湯の湯面に形成されるスラグの層と堰との接触による耐火物の溶損の可能性が排除されるので、堰の保守に要する労力と費用を省略し、長期にわたって、低コストでタンディッシュを使用し続けることができる。また、出湯室に堰を有するとすれば、堰の使用中に、溶損や摩耗などにより、堰が消失する場合や、健全に存在しえなくなる場合が生じ、それらの場合には、堰を有することによる介在物浮上分離効果を利用できなくなるため、出湯室からの介在物の流出数が増加することになる。これに対し、上記のように、出湯室に堰を設けず、堰を介在物浮上分離に利用しないように構成しておくことで、出湯室から注出される金属溶湯において、安定した品質を確保することができる。
【0019】
流入域底面が、平面状であり、他の領域の底面と平行になっている場合には、流入域が曲面構造や底面に対する傾斜構造を有している場合と比較して、それらの構造に起因する金属溶湯の流れが生じにくいことにより、出湯室における下降流の発生を、効果的に抑制することができる。
【0020】
流入域底面が、受湯室から出湯室に金属溶湯が流入する前後方向に沿って、タンディッシュの全域を占めて設けられている場合にも、一部の領域のみを占める場合と比較して、出湯室における下降流の発生を、効果的に抑制することができる。
【0021】
受湯室から出湯室に金属溶湯が流入する方向に対向する出湯室の壁面が、下部が該金属溶湯が流れ込む方向に近く、上部が該金属溶湯が流れ込む方向から遠ざかった傾斜を、流入域底面に対して有する場合には、金属溶湯が壁面に衝突して生じる上昇流に乗って、介在物を効果的に浮上させやすい。
【0022】
出湯室の底面に、金属溶湯を注出する注出口が、受湯室から金属溶湯が流入する位置を挟んで1対設けられており、流入域底面が、該1対の注出口に挟まれた領域に設けられている場合には、過剰に流入域底面を広く設けることなく、注出口から注出される金属溶湯に混入される介在物の量を、効果的に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるタンディッシュの概略を示す斜視図である。
【
図2】上記タンディッシュにおける金属溶湯の流れの概略を説明する概略断面図である。
【
図3】従来一般のタンディッシュの概略を示す斜視図である。
【
図4】スリーブを介して出湯室に流入した金属溶湯の流れを説明する図であり、(a)は、流入域底面が高くなった底上げ構造をとる場合、(b)は流入域底面が高くなっていない平坦構造をとる従来一般の形態の場合を示している。
【
図5】タンディッシュにおける金属溶湯の流れを示すシミュレーション結果であり、(a)は、流入域底面が高くなった底上げ構造の場合、(b)は流入域底面が高くなっていない平坦構造の場合を示している。
【
図6】出湯室から注出される金属溶湯における介在物流出指数を示すシミュレーション結果であり、流入域底面が高くなった底上げ構造の場合と、高くなっていない平坦構造の場合の比較を、介在物の粒径ごとに示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態にかかるタンディッシュについて、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
[タンディッシュの構成]
図1に、本発明の一実施形態にかかるタンディッシュ1の概略を示す。また、
図2に、タンディッシュ1における金属溶湯Mの流れFの概略を示す。
【0026】
本実施形態にかかるタンディッシュ1は、受湯室2および出湯室3の2つの金属溶湯Mを貯留可能な空間を有し、主として連続鋳造に用いられる。なお、本明細書において、タンディッシュ1について、受湯室2側(
図1の斜視の奥側)を後方、出湯室3側(
図1の斜視の手前側)を前方とする。また、重力方向の上および下(
図1の上および下)をそれぞれ上方および下方とする。そして、前後方向および上下方向と直交する方向を幅方向とする。なお、本明細書中において、重力方向との関係や各部材間の相対関係において、「平行」、「中央」、「対称」等の語は、タンディッシュ1を用いた鋳造工程および介在物の浮上分離の効率に、実用上問題となるような影響を与えない程度の誤差を含むものとして定義される。
【0027】
受湯室2および出湯室3は、それぞれ、底面の外周に壁面が立設され、上方が開口した、有底の容器として形成されている。受湯室2および出湯室3は、それぞれ独立した底面と壁面を有し、相互に独立した空間として区画されている。受湯室2と出湯室3は、スリーブ4を介して、相互に連結され、連通されている。
【0028】
出湯室3は、受湯室2に対して、前方かつ下方に配置されている。また、受湯室2と出湯室3は、幅方向に対称な形状を有し、それぞれの幅方向中央の位置が、揃っている。受湯室2および出湯室3、またスリーブ4は、鉄皮よりなる外郭構造の内壁面に、金属酸化物よりなる耐火物が接合されて、形成されている。
【0029】
スリーブ4は、中空筒状の部材であり、図示した形態では、軸が直線状に延びた円筒の形状を有している。スリーブ4は、後方の端部である入口41が、受湯室2の前方の壁面の底部近傍の位置に接合され、受湯室2の内部空間と連通している。一方、前方の端部である出口42が、出湯室3の後方の壁面に接合され、出湯室3の内部空間と連通している。出湯室3が受湯室2に対して下方に配置されていることに対応して、スリーブ4は、受湯室2に接合された入口41側が上方に位置し、出湯室3に接合された出口42側が下方に下がった傾斜を有している。スリーブ4の数は特に限定されるものではないが、図示した形態では、受湯室2および出湯室3の幅方向中央の位置を挟んで対称に、2本のスリーブ4が設けられている。
【0030】
受湯室2には、中央の位置に配置された浸漬管7を介して、上方に設けられた取鍋(不図示)から金属溶湯Mが流入される。受湯室2に流入された金属溶湯Mは、
図2中に流れFとして示すように、スリーブ4を介して、出湯室3に流入する。出湯室3に流入した金属溶湯Mは、出湯室3の底面31に設けられたノズル孔(注出口)8a,8bを介して、鋳造ノズル8から鋳型(不図示)に注出される。本タンディッシュ1は、ノズル孔8a,8bを全部で4つ有する4ストランド型である。4つのノズル孔8a,8bは、出湯室3の幅方向中央の位置を挟んで両側に、2つずつ対称に設けられている。また、各ノズル孔8a,8bの上方には、上下運動可能なストッパー6が設けられている。ストッパー6は、上下動により、ノズル孔8a,8bのからの金属溶湯Mの鋳造開始時および終了時に、金属溶湯Mの排出開始または停止の役割を果たす。
【0031】
出湯室3の底面31は、幅方向中央の位置に設けられた流入域底面31aと、流入域底面31aの他の領域に対応する、幅方向両端部の外側底面31bとからなっている。流入域底面31aは、2本のスリーブ4の出口42に対応する位置、つまり受湯室2から金属溶湯Mが流入する位置を含む領域の底面31として、設けられている。後に詳しく説明するように、流入域底面31aは、外側底面31bから、出湯室3の内側に向かって、つまり上方に向かって、高くなっている。
【0032】
図示した形態では、流入域底面31aは、4つのノズル孔8a,8bのうち、幅方向内側の1対のノズル孔8aに挟まれた領域に形成されている。また、流入域底面31aは、受湯室2から出湯室3に金属溶湯Mが流入する方向である前後方向に沿って、全域を占めて形成されている。また、出湯室3の前方の壁面33は、流入域底面31aに対して、傾斜を有している。傾斜は、下部が後方(金属溶湯Mが流れ込む方向に近い方向)、上部が前方(金属溶湯Mが流れ込む方向から遠ざかる方向)となるように、形成されている。
【0033】
金属溶湯Mがタンディッシュ1に滞留する間に、金属溶湯Mから、介在物が浮上分離される。連続鋳造に用いられる溶鋼等の金属溶湯Mには通常、酸化物等の介在物が混入している。本タンディッシュ1において、受湯室2に注入される金属溶湯Mには、取鍋中のスラグ等に由来して、比較的多量の介在物が含まれているが、このような介在物は、比重が小さく、受湯室2内に金属溶湯Mが滞留する間に、金属溶湯Mの表面(湯面)に浮き上がる。そして、介在物は、受湯室2の湯面に形成されたスラグの層によって捕捉される。このようにして、金属溶湯Mに含まれる介在物が浮上分離される。スリーブ4の入口41が受湯室2の底部近傍に形成されているため、
図2に流れFとして示すように、浮上分離によって介在物の少なくなった受湯室2の底部近傍の金属溶湯Mが、スリーブ4に流入することになる。よって、スリーブ4を介して出湯室3に流入する金属溶湯Mにおける介在物の数密度は、浸漬管7を介して取鍋から注入される金属溶湯Mにおける数密度よりも減少している。
【0034】
さらに、出湯室3においても、金属溶湯M中の介在物が浮上し、湯面のスラグ層によって捕捉されることで、介在物の浮上分離が進行する。そして、スリーブ4から出湯室3に流入した時よりもさらに、介在物の数密度が減少した金属溶湯Mが、底面31のノズル孔8a,8bから注出される。このように、受湯室2における介在物の浮上分離、そして介在物の少ない受湯室2の底部近傍の金属溶湯Mのスリーブ4を介した移動、出湯室3における介在物のさらなる浮上分離を経て、取鍋から受湯室2に注入された状態よりも、介在物の数密度を低減した金属溶湯Mを、ノズル孔8a,8bから注出することができる。その結果、製造される鋳造物において、介在物の影響を低減することができる。
【0035】
[出湯室の形状と介在物分離]
文献1に開示されるもの等、従来一般のタンディッシュ100においては、
図3に示すように、出湯室130の底面131が、全域にわたって、平坦面として形成されている。これに対し、
図1に示す本実施形態にかかるタンディッシュ1においては、出湯室3の底面31のうち、スリーブ4の出口42から金属溶湯Mが流出する位置の直下の領域を含んで、流入域底面31aが設けられており、他の領域である外側底面31bよりも、上方に向かって高くなった底上げ構造を有している。出湯室3がこのような底上げ構造を有することにより、出湯室3において、介在物を効率的に浮上分離することができる。その機構は以下のとおりである。
【0036】
図4(b)に示すように、スリーブ140(4)が、前方側が下方に下がった傾斜を有する細い管よりなるため、スリーブ140(4)の出口142(42)から出湯室130(3)に吐出される金属溶湯Mは、斜め下方に向かいながら勢いよく前進する流れF1を形成している。この流れF1は、出湯室130(3)の前方壁133(33)に衝突する。衝突した流れF1は、衝突位置から上方に向かう上昇流F2と、下方に向かう下降流(短絡流)F3とを生じる。
【0037】
図3の従来一般のタンディッシュ100のように、出湯室130の底面131が平坦であり、スリーブ140から金属溶湯Mが流入する位置においても、他の位置と同様に、底面131の高さが低くなっている場合には、
図4(b)に示すように、金属溶湯Mが流入する位置において、スリーブ140の出口142と、出湯室130の底面131との間の距離L2が長くなる。それに伴って、前方壁133に金属溶湯Mの流れF1が衝突する衝突位置も、底面131から離れた位置となる。すると、衝突位置から底面131に向かって金属溶湯Mが流動することのできる空間が、衝突位置の下方に十分に存在することになる。その結果、上昇流F2との比率として、ある程度大きな割合を占めて、下降流F3が発生する。
【0038】
金属溶湯Mに含まれる介在物は、金属溶湯Mの流れF(F1~F3)に乗って移動することになる。出湯室130の前方壁133への金属溶湯Mの衝突によって生じた上昇流F2は、出湯室130に貯留された金属溶湯Mの湯面の方向に向かって上方に進む。介在物もこの上昇流F2に乗って浮上し、湯面に到達すると、湯面に形成されたスラグSの層に捕捉される。このように、上昇流F2は、介在物の浮上分離を促進するものとなる。
【0039】
一方、下降流F3は、出湯室130の底面131の方向に向かって下方に進む。この下降流F3に乗った介在物は、金属溶湯M中を下方に向かって運ばれる。つまり、金属溶湯Mの中を下方に向かって沈む。その介在物は、金属溶湯Mの流れに沿って上方へ移動し、湯面に到達することができないため、浮上分離を受けにくくなる。このように、下降流F3は、介在物の浮上分離を抑制するものとなる。
【0040】
上記のように、出湯室130の底面131が平坦な従来一般のタンディッシュ100においては、スリーブ140の出口142と底面131との間の距離L2の大きさにより、スリーブ140から吐出された金属溶湯Mの流れF1が、前方壁133との衝突後に下降流F3となる割合が高くなる。また、下降流F3となる割合が高くなることに対応して、上昇流F2となる割合が低くなる。上昇流F2の流速も小さくなりやすい。その結果、下降流F3による介在物の浮上分離の抑制が起こりやすくなるとともに、上昇流F2による介在物の浮上分離の促進の効果を十分に利用できなくなる。そのため、出湯室130において、介在物の浮上分離が進行しにくくなり、ノズル孔180から注出される金属溶湯Mにおいて、介在物の濃度を十分に低減することが難しくなる。
【0041】
一方、
図1に示す本発明の実施形態にかかるタンディッシュ1のように、出湯室3の底面31において、スリーブ4から金属溶湯Mが流入する位置に対応する流入域底面31aが、他の領域31bよりも高くなった底上げ構造を有する場合には、
図4(a)に示すように、金属溶湯Mが流入する位置において、スリーブ4の出口42と、出湯室3の底面31aとの間の距離L1が小さくなる。すると、図示するように、スリーブ4の出口42から吐出された金属溶湯Mの流れF1が、出湯室3の前方壁33に衝突する前に、流入域底面31aに衝突する可能性がある。この場合には、金属溶湯Mが、衝突位置から上方に向かうことになり、上昇流F2が発生する。下降流F3は、流入域底面31aに阻まれて、実質的に発生しない。
【0042】
また、スリーブ4の出口42から吐出された金属溶湯Mの流れF1が、流入域底面31aではなく、出湯室3の前方壁33に衝突するとしても、その衝突位置は、底面131からスリーブ140の出口142までの距離L2が大きい
図4(b)の場合と比較して、低い位置となる。すると、衝突位置から流入域底面31aに向かって金属溶湯Mが流動することのできる空間が小さくなり、下降流F3が発生しにくくなる。このように、出湯室3の流入域底面31aの位置が高くなっていることにより、高くなっていない場合と比べて、下降流F3の発生を抑制することができ、さらには、下降流F3が実質的に発生しないようにすることもできる。
【0043】
下降流F3の発生が抑制されることで、介在物が、下降流F3に乗って、金属溶湯Mの下方に向かって沈み込むことによる浮上分離の抑制が、起こりにくくなる。また、下降流F3の発生が抑制されるのに対応して、上昇流F2が占める割合が増加することになり、上昇流F2の流速も大きくなる。すると、介在物が上昇流F2に乗って湯面に到達しやすくなり、スラグSに捕捉されることによる浮上分離が、促進されることになる。それらの結果として、出湯室3において、介在物の浮上分離が効率的に進行し、ノズル孔8a,8bから注出される金属溶湯Mにおける介在物の濃度を、効果的に低減することができる。
【0044】
なお、
図3および
図4(b)に示すような平坦な底面131を有する出湯室130において、その平坦な底面131全体の高さを、
図1および
図4(a)の流入域底面31aのように、高い位置に設け、スリーブ140の出口142との間の距離L2を小さくすることでも、上記で
図4(a)について説明したのと同様の機構により、介在物の浮上分離を効率的に進めることが、可能ではある。しかし、その場合には、出湯室130全体が浅く形成されることになり、出湯室130に貯留できる金属溶湯Mの容量が小さくなってしまう。すると、タンディッシュ100を用いた浮上分離を効率的に進めることができなくなる。ここで、平坦な底面131とスリーブ140の出口142との間の距離L2をそのように小さくしながら、スリーブ140の出口142と出湯室130の上端の間の距離L3を長くし、出湯室130全体の深さを確保するようにすれば、出湯室130に貯留できる金属溶湯Mの容量を確保することができるが、その場合には、前方壁面133に合金溶湯Mの流れF1が衝突する衝突位置から、湯面までの距離が遠くなってしまうため、介在物を湯面まで到達させ、スラグSで捕捉するのが難しくなり、介在物の浮上分離の効率がかえって下がってしまう。
【0045】
これに対し、
図1に示すように、出湯室3に金属溶湯Mが流入する位置に相当する領域を含んだ、幅方向中央の流入域底面31aのみ、高い位置に形成し、その他の領域である外側底面31bの位置は低くしておくことで、流入域底面31aの高さによる介在物の浮上分離の促進の効果を享受しながら、出湯室3に貯留できる金属溶湯Mの容量を確保し、タンディッシュ1を用いた鋳造工程の効率を高く維持することができる。このように、鋳造工程全体の効率と、介在物の浮上分離の効率を両立し、介在物の影響の少ない鋳造物の製造が可能となる。
【0046】
本実施形態にかかるタンディッシュの出湯室3において、流入域底面31aは、その他の領域である外側底面31bよりも高くなっていれば、具体的な形状を限定されるものではない。しかし、図示したように、流入域底面31aが、平面状に形成され、外側底面31bと平行になっていることにより、効果的に下降流F3の発生を抑制し、介在物の浮上分離を促進することができる。流入域底面31aが、くぼみ等の曲面構造や、外側底面31bに対する傾斜を有するとすれば、それら曲面構造や傾斜構造のうち低くなった部位に向かって、金属溶湯Mの流れが発生し、下降流F3の抑制が難しくなる場合がある。これに対し、流入域底面31aを、外側底面31bに平行な平面よりなる簡素な構成としておくことで、流入域底面31aの構造自体に起因する金属溶湯Mの流れの発生を抑制し、出湯室3における金属溶湯Mの流れFに占める下降流F3の割合を、効果的に低減することができる。
【0047】
さらに、上記と同様に、流入域底面31aの構造自体に起因する金属溶湯Mの流れの発生を防止する観点から、流入域底面31aは、略長方形の外形を有していることが好ましい。また、外側底面31bから流入域底面31aが立ち上がる面、つまり流入域底面31aを外周部にて支持する側周面32は、外側底面31bに対して、傾斜せず、外側底面31bから略垂直に立ち上がっていることが好ましい。
【0048】
出湯室3において、流入域底面31aが占める領域は、スリーブ4の出口42から出湯室3に金属溶湯Mが流入する位置の直下の位置を含んでいれば、具体的に限定されるものではない。しかし、上記のように、前後方向に関しては、出湯室3の全域を占めていることが好ましい。それにより、出湯室3の前後方向全域において、下降流F3の発生を効果的に抑制することができる。また、幅方向に関しては、内側の1対のノズル孔8aに挟まれた領域を占めていることが好ましい。スリーブ4から出湯室3に流入する金属溶湯Mの流れF1は、幅方向の流れをある程度有しているため、下降流F3の効果的な抑制のために、スリーブ4の出口42近傍のごく狭い領域だけでなく、ある程度広い領域にわたって、流入域底面31aが設けられていることが好ましいが、ノズル孔8aの外側にまでわたって流入域底面31aが設けられていても、ノズル孔8a,8bから注出される金属溶湯Mにおける介在物の低減に効果を有さないからである。
【0049】
流入域底面31aの具体的な高さ寸法や幅方向寸法は、タンディッシュ1全体の形状や寸法、また要求される介在物の浮上分離の程度や、確保すべき出湯室3の容量等に応じて、適宜選択すればよい。流入域底面31aを高くするほど、下降流F3の発生を抑制するとともに、上昇流F2の流速を高め、介在物の浮上を促進することができる一方、流入域底面31aを高くしすぎても、上昇流F2の流速が速くなりすぎ、スラグSの層の直下を高速で金属溶湯Mが通過するため、介在物をスラグSで十分に捕捉できるだけの時間が確保されにくくなる。そのため、流入域底面31aの高さは、スラグSによる介在物の捕捉が可能な上昇流F2の流速を確保できる高さにすることが、望ましい。また、流入域底面31aの高さを高くしすぎないことにより、出湯室3の容量の確保と、介在物の低減とが、両立しやすくなる。
【0050】
また、本実施形態においては、出湯室3において、受湯室2から金属溶湯Mが流れ込む方向に対向する前方壁33が、下部ほど後方に向かう傾斜を有している。このような傾斜は、必須に設けられるものではないが、少なくとも流入域底面31aに対応する位置に設けておくことで、前方壁33に衝突する金属溶湯Mの流れF1が、前方壁33の上方側となす角θが大きくなり、下降流F3の発生を抑制しやすくなるとともに、上昇流F2を湯面に向かって高流速で上昇させやすくなる。その結果、介在物の浮上分離の効率を高めることができる。例えば、スリーブ4の傾斜を延長した直線と前方壁33の上方側とがなす角度(上記角度θとほぼ等しい)が、90°以上となる形態を、好適なものとして挙げることができる。
【0051】
そして、本実施形態においては、スリーブ4に、出湯室3側が受湯室2側よりも下方に下がった傾斜が設けられている。このような傾斜は、必ずしも設けられなくてもよいが、設けられることで、金属溶湯Mがスリーブ4を通過する際に、整流作用が働きやすくなるため、なお良い。また、金属溶湯Mの流れF1が、下方に向かう成分を有して出湯室3を進むため、金属溶湯Mの流れF1が前方壁33に衝突する衝突位置が、下方になりやすい。さらには、金属溶湯Mの流れF1が、前方壁33ではなく、流入域底面31aに衝突しやすくなる。そのため、衝突による下降流F3の発生が、抑制されやすくなる。
【0052】
本実施形態にかかるタンディッシュ1において、流入域底面31aは、どのような部材構成によって、外側底面31bに対して、高く形成されてもよい。例えば、出湯室3の底面31の外郭を構成する鉄皮自体に、流入域底面31aに相当する領域だけ、板面を上方に立ち上げた曲げ構造を形成することで、流入域底面31aの高さ位置を高くすることができる。しかし、全域が平坦な底面を形成しておき、流入域底面31aに相当する領域に、耐火物よりなるブロックを載置して固定することで、流入域底面31aを簡便に形成することができる。ブロックの上面が流入域底面31aとなり、ブロックを載置されなかった領域の底面が、外側底面31bとなる。そして、ブロックの厚みが、流入域底面31aと外側底面31bとの間の高さの差となる。このようにして流入域底面31aを構成する場合には、
図3に示すような底面131全体が平坦な出湯室130を有する従来一般のタンディッシュ100に対して、底面131へのブロックの設置を行うだけで、上記本発明の実施形態にかかるタンディッシュ1を、簡便に、また低コストで製造し、介在物の浮上分離の効率向上を達成することができる。
【0053】
本実施形態にかかるタンディッシュ1は、相互に独立して設けられた受湯室2と出湯室3の間が、スリーブ4を介して接続され、受湯室2から出湯室3への金属溶湯Mの流入が、スリーブ4を介してのみ行われる分離型のタンディッシュとして構成されている。これに対し、受湯室と出湯室を一体に有するT型のタンディッシュにおいて、受湯室と出湯室の間が、タンディッシュの上方および/または下方から配設された面状の堰によって区画されている形態の一体型タンディッシュも、従来から用いられている。一体型タンディッシュにおいても、堰を介して、金属溶湯が受湯室から出湯室に流入する位置を含んで、流入域底面を設定し、出湯室の他の領域の底面よりも高い位置に、その流入域底面を設けておくことで、下降流発生の抑制によって、介在物の浮上分離の効率を高めることができる。
【0054】
しかし、本実施形態のような分離型のタンディッシュ1においては、受湯室2と出湯室3が独立しており、受湯室2から出湯室3への金属溶湯Mの流入が、断面積の小さいスリーブ4のみを介して起こるため、面状の堰によって規定される広い断面積の領域を介して受湯室2から出湯室3への金属溶湯Mの流入が起こる一体型タンディッシュと比較して、受湯室2において浮上分離された介在物が、出湯室3に移動しにくくなっている。このため、流入域底面31aを高く設けることによる出湯室3での浮上分離の促進の効果と合わせて、ノズル孔8a,8bを介して出湯室3から注出される金属溶湯Mにおける介在物の濃度を、効果的に低減することができる。また、金属溶湯Mが、断面積の小さいスリーブ4を通ることで整流を受け、勢いよく出湯室3の前方壁33に衝突することになるので、スリーブ4を使用しない場合と比較して、衝突によって下降流F3が生じやすい条件にあるが、流入域底面31aを高く設けておくことで、そのような下降流F3の発生を、効果的に抑制することができる。
【0055】
また、一体型タンディッシュに設けられる堰においては、その面のうち、下方に位置する部位が、金属溶湯に接触することになる。すると、堰を構成する耐火物の面において、湯面のスラグSと接触する部位が生じる。このように、スラグと耐火物が接触すると、両者の間の化学反応によって、耐火物の溶損が進行しやすくなる。堰は、下端縁や側端縁の狭い面積において、タンディッシュ本体に取り付けられており、タンディッシュ本体に対して強固に固定されているとは言い難いので、耐火物の溶損が、堰の劣化や損傷につながりやすい。すると、堰を頻繁に交換、補修等する必要が生じる。これに対し、分離型タンディッシュ1においては、受湯室2と出湯室3の間を区画するのに、堰を用いる必要がないので、そのような交換、補修に要する労力およびコストを省略し、低コストで長期間にわたってタンディッシュ1の使用を継続することが可能となる。
【0056】
分離型タンディッシュ1において、さらに介在物の浮上分離を進めるために、出湯室3に、内部の空間を区画する堰を設ける形態も考えられるが、上記の一体型タンディッシュの場合と同様に起こり得る、製造中における堰の消失または機能不全による介在物流出数増加に伴う、金属溶湯Mの品質の悪化を排除する観点、および堰を設置することによる耐火物費用の増大を抑制する観点から、そのような堰は設けないことが好ましい。なお、上記のように、平坦な出湯室3の底面に、ブロック状の耐火物を設置することで、周囲よりも高くなった流入域底面31aを簡便に形成することができるが、この場合には、耐火物全体が金属溶湯Mの深部に設置され、スラグSとは接触しないので、堰の場合に起こるようなスラグSとの接触による耐火物の溶損は、実質的に起こらない。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。実施例として、相互に独立した受湯室と出湯室がスリーブによって連結された分離型のタンディッシュにおいて、出湯室の流入域底面の高さを、外側底面よりも高くした場合と、外側底面と同じ高さとした場合に対して、計算機シミュレーションを用いて、金属溶湯の流動の挙動、および介在物の浮上分離の効率についての比較を行った。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0058】
[シミュレーション方法]
解析の対象とするモデルとして、
図1に示したような、出湯室の流入域底面が外側底面よりも高くなった底上げ構造を有するタンディッシュを準備した。また、
図3に示したような、他の部位よりも高くなった流入域底面を有さず、出湯室の底面全域が平坦となった、平坦構造のタンディッシュを準備した。
【0059】
上記各モデルのタンディッシュに対して、シミュレーションにより、出湯室中での金属溶湯の流動の状態、および金属溶湯中に混入された介在物の挙動について、解析を行った。具体的には、各モデルにかかるタンディッシュの受湯室の中央に、浸漬管から、粒径30μm、50μm、100μmの介在物を模した粒子を混合した金属溶湯を注入し、金属溶湯の流動経路を解析した。また、ノズル孔から流出される金属溶湯中に含まれる介在物の量を粒径ごとに分析した。そして、浸漬管から注入する金属溶湯に混合した介在物の個数に対して、ノズル孔から流出した介在物の個数の割合を算出し、平坦構造の場合を基準とした指数(介在物流出指数)の形で、評価した。シミュレーションは、ナビエ・ストークス方程式に基づく有限差分法を用いた3次元の熱流体解析によって行った。介在物は、湯面に到達すると、スラグに捕捉されたものとして、金属溶湯中から除去するようにした。
【0060】
[シミュレーション結果]
図5に、タンディッシュにおける金属溶湯の流動を、ベクトル図として表示する。ベクトルの方向が流動の方向を示し、ベクトルの長さが流速を示している。図は、スリーブの位置を通る縦断面を示すものである。
図5(a)は、出湯室の流入域底面が高くなった底上げ構造の場合を示しており、
図5(b)は、出湯室の流入域底面が高くなっていない平坦構造の場合を示している。
【0061】
図5(b)に示されるように、流入域底面が高くなっていない平坦構造においては、スリーブの出口から出湯室に流入して前方壁に衝突した金属溶湯の流れは、上昇流と下降流に分割されている。前方壁に金属溶湯の流れが衝突する衝突位置と底面との間の距離が大きくなっていることに対応して、下降流が、上昇流と比較して、無視できない比率で発生しているのが分かる。
【0062】
一方、
図5(a)に示されるように、流入域底面が高くなった底上げ構造においては、スリーブの出口から出湯室に流入して前方壁に衝突した金属溶湯の流れは、大部分が、上昇流となっている。下降流は、上昇流と比較して、ごくわずかしか発生していない。また、
図5(b)と比較して、出湯室の前方壁の近傍を上方に向かうベクトルの長さが長くなっており、上昇流の流速が上昇している。これらは、前方壁に金属溶湯の流れが衝突する衝突位置と底面との間の距離が小さくなっていることに対応づけることができる。
【0063】
さらに、
図6に、流入域底面が高くなった底上げ構造と、高くなっていない平坦構造とで、介在物流出指数を比較した結果を示す。上記のように、介在物流出指数は、粒径ごとに、平坦構造の場合の介在物の流出割合を100%として示している。
【0064】
図6より明らかなように、いずれの粒径においても、底上げ構造をとる場合に、平坦構造をとる場合よりも、介在物流出指数が低減されており、介在物の流出量が減少している。これは、底上げ構造をとることで、出湯室における介在物の浮上分離が促進されていることを示している。
図5に示されるように、底上げ構造をとることで、平坦構造をとる場合よりも、下降流の発生が抑制されるとともに、上昇流の流速が増大し、その結果、上昇流に乗った介在物の浮上が進行しやすくなっていると解釈される。
【0065】
また、底上げ構造の場合の介在物流出指数は、介在物の粒径が大きくなるほど、低くなっている。特に、粒径100μmでは、介在物流出指数が0%となっている。つまり、介在物が全て浮上分離し、金属溶湯中から除去されている。粗大な介在物は、微細な介在物と異なり、自らの浮力が大きいため、容易に浮上分離を行えるが、一方で、短絡流(下降流)が発生した場合には、即座にノズル孔より流出する。上記のシミュレーションの結果においては、粗大な介在物粒子は全て浮上分離できており、これは、上記F3のような短絡流を大きく低減できたことを示唆していると解釈される。
【0066】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 タンディッシュ
2 受湯室
3 出湯室
31 出湯室の底面
31a 流入域底面
31b 外側底面(他の領域の底面)
32 流入域底面の側周面
33 出湯室の前方壁
4 スリーブ
41 スリーブの入口
42 スリーブの出口
7 浸漬管
8 鋳造ノズル
8a,8b ノズル孔(注出口)
F 金属溶湯の流れ
F1 スリーブから出湯室に流入する流れ
F2 上昇流
F3 下降流
M 金属溶湯
S スラグ