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特許7070036診断システム、画像処理装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】診断システム、画像処理装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/60 20060101AFI20220511BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H04N1/60 020
G06T1/00 510
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018084453
(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公開番号】P2019193117
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【弁理士】
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】杉 伸介
【審査官】野口 俊明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-094103(JP,A)
【文献】特開2018-007123(JP,A)
【文献】特開2005-260305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/60
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像読み取り装置で色見本画像を読み取って得られた第1色空間における色データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記色データを、複数の変換方法によりそれぞれ変換し、前記第1色空間とは異なる第2色空間における特定の色に関する複数の変換後色データを得る変換手段と、
前記変換手段により得られた前記複数の変換後色データどうしの差異に基づき、前記画像読み取り装置の診断を行う診断手段と、
を備えることを特徴とする、診断システム。
【請求項2】
前記変換手段の変換により、前記色データにおける一部の色を変換した第1変換後色データと、当該色データにおける他の一部の色を変換した第2変換後色データとを得、
前記診断手段は、前記第1変換後色データと前記第2変換後色データとの差異に基づき、前記画像読み取り装置の診断を行うことを特徴とする、請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記第1変換後色データに変換される前記一部の色は、前記特定の色の補色であり、前記第2変換後色データに変換される前記他の一部の色は、加法混色すると当該特定の色になる複数の色であることを特徴とする、請求項2に記載の診断システム。
【請求項4】
前記特定の色が黄色であり、前記一部の色が青色であり、前記他の一部の色が赤色および緑色であることを特徴とする、請求項3に記載の診断システム。
【請求項5】
前記第1変換後色データに変換される前記一部の色は、前記第2変換後色データに変換される前記他の一部の色に対する補色であることを特徴とする、請求項2に記載の診断システム。
【請求項6】
前記第1色空間は、RGB色空間であり、前記第2色空間はLab色空間であることを特徴とする、請求項1に記載の診断システム。
【請求項7】
前記特定の色が黄色であり、前記複数の変換方法は、前記RGB色空間における青色単色を用いた変換方法と、当該RGB色空間における赤色単色および緑色単色を用いた変換方法と、を含むことを特徴とする、請求項6に記載の診断システム。
【請求項8】
前記診断手段は、前記Lab色空間におけるb特性において、前記複数の変換後色データどうしの差異を判定することを特徴とする、請求項7に記載の診断システム。
【請求項9】
前記複数の変換方法は、前記RGB色空間における単色の一つを用いた変換方法と、当該RGB色空間における他の二つの単色を用いた変換方法と、を含むことを特徴とする、請求項6に記載の診断システム。
【請求項10】
画像形成手段と、
画像読み取り手段と、
前記画像形成手段により形成された色見本画像を前記画像読み取り手段により読み取って得られた第1色空間における色データを、複数の変換方法によりそれぞれ変換し、当該第1色空間とは異なる第2色空間における特定の色に関する複数の変換後色データを得る変換手段と、
前記変換手段により得られた前記複数の変換後色データの少なくとも一つと前記色見本画像を測色器により測色して得られた測色データとの差異に基づいて前記画像形成手段の診断を行う第1診断手段と、
前記変換手段により得られた前記複数の変換後色データどうしの差異に基づいて前記画像読み取り手段の診断を行う第2診断手段と、
を備えることを特徴とする、画像処理装置。
【請求項11】
コンピュータを、
画像読み取り装置で色見本画像を読み取って得られた第1色空間における色データを取得する取得手段と、
複数の変換方法により前記取得手段により取得された前記色データをそれぞれ変換して、前記第1色空間とは異なる第2色空間における特定の色に関する複数の変換後色データを得る変換手段と、
前記変換手段により得られた前記複数の変換後色データどうしの差異に基づき、前記画像読み取り装置の診断を行う診断手段として、
機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断システム、画像処理装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
画像読み取り機能を備えた画像形成装置において色再現精度を評価するため、画像形成装置により出力した色見本を画像読み取り機能で読み取り、読み取り結果を評価する手法がある。特許文献1には、主走査方向における一部の領域のみを読み取り可能な測色計と、主走査方向における画像形成幅に亘って読み取り可能なラインセンサーとにより、画像形成後の同一用紙の同一面をインラインで読み取り、検出結果を画像形成条件にフィードバックすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-225285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像形成機構(プリンタ)の色再現精度を正しく評価するためには、画像読み取り機構(スキャナ)の経時的劣化等による性能変化を特定する必要がある。一般に、画像読み取り機構の性能変化を知るには、画像形成機構で出力した色見本を画像読み取り機構で読み取ると共に分光測色計で測色し、読み取り結果と測色値とを対比することが行われる。しかし、分光測色計を用いた測色には多大な手間がかかる。
【0005】
本発明は、画像読み取り機構による読み取り結果のみを用いて画像読み取り機構の診断を可能とし、画像読み取り機構の性能変化の評価に要する手間を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る本発明は、
画像読み取り装置で色見本画像を読み取って得られた第1色空間における色データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記色データを、複数の変換方法によりそれぞれ変換し、前記第1色空間とは異なる第2色空間における特定の色に関する複数の変換後色データを得る変換手段と、
前記変換手段により得られた前記複数の変換後色データどうしの差異に基づき、前記画像読み取り装置の診断を行う診断手段と、
を備えることを特徴とする、診断システムである。
請求項2に係る本発明は、
前記変換手段の変換により、前記色データにおける一部の色を変換した第1変換後色データと、当該色データにおける他の一部の色を変換した第2変換後色データとを得、
前記診断手段は、前記第1変換後色データと前記第2変換後色データとの差異に基づき、前記画像読み取り装置の診断を行うことを特徴とする、請求項1に記載の診断システムである。
請求項3に係る本発明は、
前記第1変換後色データに変換される前記一部の色は、前記特定の色の補色であり、前記第2変換後色データに変換される前記他の一部の色は、加法混色すると当該特定の色になる複数の色であることを特徴とする、請求項2に記載の診断システムである。
請求項4に係る本発明は、
前記特定の色が黄色であり、前記一部の色が青色であり、前記他の一部の色が赤色および緑色であることを特徴とする、請求項3に記載の診断システムである。
請求項5に係る本発明は、
前記第1変換後色データに変換される前記一部の色は、前記第2変換後色データに変換される前記他の一部の色に対する補色であることを特徴とする、請求項2に記載の診断システムである。
請求項6に係る本発明は、
前記第1色空間は、RGB色空間であり、前記第2色空間はLab色空間であることを特徴とする、請求項1に記載の診断システムである。
請求項7に係る本発明は、
前記特定の色が黄色であり、前記複数の変換方法は、前記RGB色空間における青色単色を用いた変換方法と、当該RGB色空間における赤色単色および緑色単色を用いた変換方法と、を含むことを特徴とする、請求項6に記載の診断システムである。
請求項8に係る本発明は、
前記診断手段は、前記Lab色空間におけるb特性において、前記複数の変換後色データどうしの差異を判定することを特徴とする、請求項7に記載の診断システムである。
請求項9に係る本発明は、
前記複数の変換方法は、前記RGB色空間における単色の一つを用いた変換方法と、当該RGB色空間における他の二つの単色を用いた変換方法と、を含むことを特徴とする、請求項6に記載の診断システムである。
請求項10に係る本発明は、
画像形成手段と、
画像読み取り手段と、
前記画像形成手段により形成された色見本画像を前記画像読み取り手段により読み取って得られた第1色空間における色データを、複数の変換方法によりそれぞれ変換し、当該第1色空間とは異なる第2色空間における特定の色に関する複数の変換後色データを得る変換手段と、
前記変換手段により得られた前記複数の変換後色データの少なくとも一つと前記色見本画像を測色器により測色して得られた測色データとの差異に基づいて前記画像形成手段の診断を行う第1診断手段と、
前記変換手段により得られた前記複数の変換後色データどうしの差異に基づいて前記画像読み取り手段の診断を行う第2診断手段と、
を備えることを特徴とする、画像処理装置である。
請求項11に係る本発明は、
コンピュータを、
画像読み取り装置で色見本画像を読み取って得られた第1色空間における色データを取得する取得手段と、
複数の変換方法により前記取得手段により取得された前記色データをそれぞれ変換して、前記第1色空間とは異なる第2色空間における特定の色に関する複数の変換後色データを得る変換手段と、
前記変換手段により得られた前記複数の変換後色データどうしの差異に基づき、前記画像読み取り装置の診断を行う診断手段として、
機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、画像読み取り手段で読み取った結果から単一の変換方法を用いて生成した変換後色データを用いて画像処理装置を診断する構成と比較して、画像読み取り手段による読み取り結果のみを用いて画像読み取り手段の診断を可能とし、画像読み取り手段の性能変化の評価に要する手間を軽減することができる。
請求項2の発明によれば、画像読み取り手段で読み取った結果から単一の変換方法を用いて生成した変換後色データを用いて画像処理装置を診断する構成と比較して、画像読み取り手段によるRGB色空間の読み取りデータから2種類の変換後色データを得ることができる。
請求項3の発明によれば、画像読み取り手段で読み取った結果から単に複数の変換方法を生成する構成と比較して、補色を用いることにより、画像読み取り手段の性能変化を検知する感度を高めることができる。
請求項4の発明によれば、画像読み取り手段で読み取った結果から単に複数の変換方法を生成する構成と比較して、解析対象の色を画像形成手段が画像形成するのに用いる色材の単色とし、画像読み取り手段によるRGB色空間の単色の読み取りデータを用いて変換後色データを得ることにより、診断精度を高めることができる。
請求項5の発明によれば、画像読み取り手段で読み取った結果から単に複数の変換方法を生成する構成と比較して、画像読み取り手段によるRGB色空間の単色の読み取りデータを用いて補色関係にある複数の変換後色データを得ることにより、診断精度を高めることができる。
請求項6の発明によれば、画像読み取り手段によるRGB色空間の色データで診断を行う構成と比較して、Lab色空間の色データを用いることで装置に依存しない診断を行うことができる。
請求項7の発明によれば、画像読み取り手段で読み取った結果から単に複数の変換方法を生成する構成と比較して、解析対象の色を画像形成手段が画像形成するのに用いる色材の単色とし、画像読み取り手段によるRGB色空間の単色の読み取りデータを用いて変換後色データを得ることにより、診断精度を高めることができる。
請求項8の発明によれば、単にLab色空間の色データに変換して診断を行う構成と比較して、黄色の読み取りデータに対してLab色空間のb特性を用いて診断することにより、画像読み取り手段の性能変化を検知する感度を高めることができる。
請求項9の発明によれば、画像読み取り手段で読み取った結果から単に複数の変換方法を生成する構成と比較して、画像読み取り手段によるRGB色空間の単色の読み取りデータを用いて補色関係にある複数の変換後色データを得ることにより、診断精度を高めることができる。
請求項10の発明によれば、画像読み取り手段で読み取った結果から単一の変換方法を用いて生成した変換後色データを用いて画像処理装置を診断する構成と比較して、画像形成手段の性能の変化と、画像読み取り手段の性能の変化とを分けて診断することができる。
請求項11の発明によれば、画像読み取り手段で読み取った結果から単一の変換方法を用いて生成した変換後色データを用いて画像処理装置を診断する構成と比較して、本発明のプログラムを実行する制御装置において、画像読み取り手段による読み取り結果のみを用いて画像読み取り手段の診断を可能とし、画像読み取り手段の性能変化の評価に要する手間を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態が適用される画像処理装置の構成例を示す図である。
図2】制御装置の機能構成を示す図である。
図3】検査部の機能構成を示す図である。
図4】検査部による変換方法生成時の動作を示すフローチャートである。
図5】検査部による検査時の動作を示すフローチャートである。
図6】初期状態のベースデータ、第1予測値および第2予測値の関係の例を示す図である。
図7】画像入力装置の特性が変化した場合のベースデータ、第1予測値および第2予測値の関係の例を示す図である。
図8図6および図7に示した第1予測値と第2予測値との差異を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<画像処理装置の構成>
図1は、本実施形態が適用される画像処理装置100の構成例を示す図である。画像処理装置100は、画像入力装置110と、画像出力装置120と、制御装置(コントローラ)130とを備える。なお、図1には、本実施形態における特徴的な構成が示されている。一般に画像処理装置が有するユーザ・インターフェイスやネットワーク・インターフェイス、FAX機能、各種のセンサ等は記載を省略している。
【0010】
画像入力装置110は、IIT(Image Input Terminal)である。画像入力装置110は、いわゆるスキャナ装置により構成され、セットされた原稿上の画像を光学的に読み取り、読み取り画像(画像データ)を生成する。画像の読み取り方式としては、例えば、光源から原稿に照射した光に対する反射光をレンズで縮小してCCD(Charge Coupled Devices)で受光するCCD方式や、LED(Light Emitting Diode)光源から原稿に順に照射した光に対する反射光をCIS(Contact Image Sensor)で受光するCIS方式が用いられる。画像入力装置110は、画像読み取り手段の一例である。
【0011】
画像出力装置120は、IOT(Image Output Terminal)である。画像出力装置120は、いわゆるプリンタ装置により構成され、記録材の一例である用紙に対して、画像形成材を用いて画像データに基づく画像を形成する。記録材に画像を形成する方式としては、例えば、感光体に付着させたトナーを記録材に転写して像を形成する電子写真方式や、インクを記録材上に吐出して像を形成するインクジェット方式等が用いられる。画像出力装置120は、画像形成手段の一例である。
【0012】
制御装置130は、画像処理装置100の各機能部を制御するコントローラである。また、制御装置130は、画像入力装置110により入力した画像および画像出力装置120により出力する画像に関する処理、その他のデータ処理を行う。制御装置130は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、不揮発性メモリとを備える。不揮発性メモリには、フラッシュメモリ等の半導体メモリや磁気ディスク装置等が含まれる。CPUは、ROMや不揮発性メモリに記憶された各種プログラムをRAMに読み込んで実行することにより、各機能を実現する。不揮発性メモリには、処理結果や制御パラメータが保持される。
【0013】
<制御装置の機能構成>
図2は、制御装置130の機能構成を示す図である。制御装置130は、入力画像受け付け部140と、検査部150とを備える。入力画像受け付け部140は、画像入力装置110を用いて入力された画像データを受け付ける。受け付けられた画像データは、ネットワーク・インターフェイスやFAX機能(何れも図示せず)により外部装置へ送信されたり、画像出力装置120による出力画像として処理されたりする。
【0014】
検査部150による検査が行われる場合は、受け付けられた画像データが検査部150に送られる。検査部150は、画像データから色データを抽出して解析し、画像入力装置110および画像出力装置120の特性の検査を行う。色データとは、画像入力装置110により入力した画像の色を表すデータであり、R(Red;赤)、G(Green;緑)、B(Blue;青)3色の組み合わせで表現される。以下、RGBで表現される色データをRGBデータとも呼ぶ。検査部150の処理については後述する。
【0015】
また、制御装置130は、画像出力装置120により出力する画像に関する機能部として、取得部161と、データ変換部162と、色調整部163と、画像処理部164と、出力部165とを備える。取得部161は、画像出力装置120による出力対象の画像データを取得する。データ変換部162は、取得された画像データをページ記述言語(PDL;Page Description Language)に変換し、ラスタイメージを作成する。また、データ変換部162は、画像の色データであるRGBデータをCMYKデータに変換する。CMYKデータとは、画像の色を画像出力装置120が画像を形成するのに用いる色材の色であるC(Cyan;シアン)、M(Magenta;マゼンタ)、Y(Yellow;イエロー)、K(Key plate;キープレート)で表現したデータである。色調整部163は、CMYKデータに対し、プロファイル(LUT;Look up Table)を用いて画像出力装置120の特性に応じた色調整を行う。画像処理部164は、ラスタイメージの調整やハーフトーン処理等の画像処理を行う。出力部165は、上記の各処理を経て生成された印刷データを画像出力装置120へ出力する。
【0016】
<画像出力における色調整>
ここで、画像出力における色調整について説明する。画像出力装置120により画像出力を行う場合、上記のように制御装置130による処理において、色調整部163による色調整が行われる。色調整は、画像出力装置120により出力される画像の色を、本来出力されるべき目標色に合わせるために行われる。上述したように、色調整は、プロファイルを用いて行われる。このプロファイルを設定するために、画像出力装置120で出力した画像(出力画像)の色と目標色との色差を求める必要がある。出力画像の色と目標色との色差を求めるには、例えば、画像出力装置120によりカラーチャートを出力し、このカラーチャートの各色を測色器で測定することが行われる。
【0017】
ところで、画像出力装置120の特性は、時間の経過に伴って、経時劣化等により変化する。そのため、例えば画像出力装置120が一定回数使用されるごとに、出力画像の色と目標色との色差を求めて検査し、予め定められた色差(目標色差)を越えた場合は、プロファイルを修正して、画像出力装置120の変化した特性に対応する必要がある。しかし、カラーチャートの各色を測色器で測定する作業には手間を要するため、検査には、画像入力装置110でカラーチャートを読み取った色データ(読み取りデータ)を用いることが行われる場合がある。すなわち、初期的に、同じカラーチャートの読み取りデータと測色器による測定値とを用い、回帰分析により、読み取りデータから測色器の測定値を予測する予測式を生成する。そして、検査の際には、画像入力装置110によるカラーチャートの読み取りデータに対して上記の予測式を適用し、得られた予測値を測色器の測定値の代わりに用いて目標色との色差が目標色差を達成しているか否かを判定する。
【0018】
一方、画像入力装置110の特性も、時間の経過に伴って、経時劣化等により変化する。そのため、読み取りデータに予測式を適用して得られた予測値と目標色との色差が目標色差を越えた場合、画像出力装置120の特性の変化(性能変化)を正しく診断するためには、画像入力装置110の特性の変化の影響を考慮する必要がある。しかしながら、画像入力装置110の特性の変化を判定するために、初期的に行ったように、同じカラーチャートの読み取りデータと測色器による測定値とを比較するとすれば、手間がかかる測色器による測定を行わなければならない。本実施形態では、検査部150が、測色器による測定を行うことなく、画像入力装置110の特性の変化を検出する。
【0019】
<検査部による検査>
検査部150は、初期的に上記の予測式を生成する際に、相異なる色データに基づく複数の回帰モデルによる複数の予測式を生成する。このとき、各予測式は、いずれも測色器の測定値に対応して生成されたものであるため、同じ色の読み取りデータに各予測式を適用して得られる予測値は、ほぼ一致する。これに対し、画像入力装置110の特性が変化すると、相異なる色データに基づく各予測式で得られる予測値には差異が生じる。したがって、この予測値の差異を検出することにより、画像入力装置110の特性が変化したことを検知し得る。
【0020】
予測式の生成に用いる色データ(読み取りデータ)は、特に限定されないが、一例として、RGBデータの原色の一つに基づく予測式と、RGBデータの原色のうちの他の二つに基づく予測式とを生成しても良い。具体例を挙げると、RGBデータのB値に基づく予測式と、R値およびG値に基づく予測式とを生成し得る。このようにすれば、生成される二つの予測式は、補色関係にある2色を用いた予測式となる(RGBデータにおける二つの原色を混合した二次色は、他の一つの原色に対する補色となる)。そのため、他の色を用いるよりも画像入力装置110の特性の変化が予測値に反映されやすく(感度が高い)、画像入力装置110の特性の変化を精度良く検知し得る。
【0021】
生成する予測式の数は、特に限定しないが、画像入力装置110の特性が変化した際に予測値の差異を検出し得る精度が得られる2式であっても良い。
【0022】
また、検査部150による検査の対象とする色およびその数は、特に限定されないが、一例としてY色を用いても良い。Y色は、画像出力装置120で用いられる色材の色の一つであり、単色の画像として形成し得る。検査の対象の色をY色とし、B値に基づく予測式とR値およびG値を用いた予測式とを生成すると、検査の対象の色であるY色と、予測式の一つに用いられたB値とは、補色関係となる。
【0023】
<検査部の機能構成>
図3は、検査部150の機能構成を示す図である。検査部150は、色見本画像を画像入力装置110で入力し、入力画像受け付け部140により受け付けられた画像の色データに基づいて画像入力装置110および画像出力装置120の特性の変化を検査する。検査部150は、変換方法生成部151と、保持部152と、色データ取得部153と、第1変換部154と、第1診断部155と、第2変換部156と、第2診断部157とを備える。
【0024】
変換方法生成部151は、画像入力装置110により入力した画像の色データから測色器(図示せず)の測定値を予測する予測式(変換方法)を生成する。変換方法生成部151は、色見本画像を画像入力装置110で入力して得られた色データと、測色器で測定して得られた測定値とを取得する。ここで、色データは、第1色空間の一例であるRGB色空間上の値として表現され、測定値は、第1色空間とは異なる第2色空間の一例であるLab(L)色空間上の値として表現される。
【0025】
また、変換方法生成部151は、検査の対象となる特定の色(対象色)に関して、RGBデータによる色データからLabデータによる測定値を予測するための複数の変換方法を生成する。一例として、対象色をY色とする。ここで、Lab色空間におけるY色の色データをLab(Y)と記す。また一例として、変換方法生成部151は、RGBデータからLab(Y)を得るための二つの変換方法を生成するものとし、B値に基づく変換方法f(B)と、R値およびG値に基づく変換方法f(RG)とを生成する。変換方法f(B)は第1変換方法の一例であり、変換方法f(RG)は第2変換方法の一例である。変換方法の生成は、回帰分析等を用いた既存の一般的な手法により行って良い。
【0026】
保持部152は、変換方法生成部151により生成された変換方法f(B)および変換方法f(RG)を保持する。また、保持部152は、変換方法生成部151において変換方法f(B)および変換方法f(RG)を生成した際に用いられたRGBデータとLabデータとのデータ対の集合(ベースデータ)を保持する。これ以後、保持部152に保持されている変換方法f(B)、変換方法f(RG)およびベースデータを用いて画像入力装置110および画像出力装置120の特性の検査が行われる。
【0027】
色データ取得部153は、変換方法生成部151が変換方法を生成するのに用いられる色データと、画像入力装置110および画像出力装置120の特性の検査を行うのに用いられる色データとを取得する。これらの色データは、画像出力装置120により出力された色見本画像を画像入力装置110で読み取って得られる。画像入力装置110および画像出力装置120の特性の検査を行う際の対象色には、変換方法生成部151が変換方法を生成するために用いられた対象色と同じ色(上記の例ではY色)が用いられる。色データ取得部153は、取得手段の一例である。
【0028】
第1変換部154は、色データ取得部153により取得したY色の色データに対し、変換方法f(B)を適用し、Lab(Y)の予測値を得る。以下、第1変換部154によるLab(Y)の予測値を、第1予測値と呼ぶ。第1予測値は、第1変換後色データの一例である。
【0029】
第1診断部155は、第1変換部154により計算された第1予測値と、保持部152に保持されているベースデータのLab(Y)の値とを比較する。ここで、画像入力装置110および画像出力装置120の特性が変化していなければ、第1予測値とベースデータの値とは一致するはずである。そして、画像入力装置110および画像出力装置120の何れかにおいて特性が変化している場合は、第1予測値とベースデータの値とは異なる値となる。そこで、第1診断部155は、Lab(Y)の予測値とベースデータの値との差分(色差)が、測定誤差等の必然的に生じ得る誤差を考慮して予め定められた目標色差以内であるならば、画像入力装置110および画像出力装置120の特性が正常(変化なし)と判定する。
【0030】
第2変換部156は、色データ取得部153により取得したY色の色データに対し、変換方法f(RG)を適用し、Lab(Y)の予測値を得る。以下、第2変換部156によるLab(Y)の予測値を、第2予測値と呼ぶ。第2予測値は、第2変換後色データの一例である。
【0031】
第2診断部157は、第1変換部154により計算された第1予測値と、第2変換部156により計算された第2予測値とを比較する。ここで、画像入力装置110の特性が変化していなければ、第1予測値と第2予測値とは一致するはずである。そして、画像入力装置110の特性が変化している場合は、第1予測値と第2予測値とは異なる値となる。そこで、第2診断部157は、第1予測値と第2予測値との差分が、測定誤差等の必然的に生じ得る誤差を考慮して予め定められた閾値以内であるならば、画像入力装置110の特性が正常(変化なし)と判定する。
【0032】
第2診断部157による判定が行われるのは、第1診断部155において画像入力装置110および画像出力装置120の何れかにおいて特性が変化したと判定された場合である。したがって、第2診断部157により画像入力装置110の特性が変化なしと判定された場合、画像出力装置120のみにおいて特性が変化したと判断される。
【0033】
第1変換部154および第2変換部156は、変換手段の一例である。第1診断部155は、第1診断手段の一例である。第2診断部157は、診断手段の一例であり、第2診断手段の一例である。
【0034】
<検査部の動作>
次に、検査部150の動作について説明する。検査部150の動作には、変換方法の生成時の動作と、画像入力装置110および画像出力装置120の特性の検査時の動作とがある。以下、フローチャートを参照して、それぞれの動作を説明する。
【0035】
図4は、検査部150による変換方法生成時の動作を示すフローチャートである。変換方法を生成する場合、まず、画像入力装置110により色見本画像を読み取り、色データ取得部153を介して、変換方法生成部151が、読み取りデータ(色データ、RGBデータ)を取得する(S401)。また、変換方法生成部151は、同じ色見本画像に対する測色器で測定した測定値(Labデータ)を取得する(S402)。なお、変換方法生成部151が変換方法を生成するためには、同じ色見本画像について、画像入力装置110で入力して得られた色データと測色器による測定値を取得すれば良く、取得順は図4に示す順番に限定されない。
【0036】
次に、変換方法生成部151は、取得した色データと測定値とに基づき、第1変換方法および第2変換方法を生成する(S403)。なお、ここでは二つの変換方法を作成しているが、三つ以上の変換方法を作成しても良い。一例として、上述のように、対象色をY色とし、色データのB値を用いた変換方法f(B)と、R値およびG値を用いた変換方法f(RG)とが生成される。変換方法生成部151は、生成した複数の変換方法とベースデータとを保持部152に保存する(S404)。
【0037】
図5は、検査部150による検査時の動作を示すフローチャートである。画像入力装置110および画像出力装置120の特性の変化を検査する場合、まず、画像入力装置110により色見本画像を読み取り、色データ取得部153を介して、変換方法生成部151が、読み取りデータ(色データ、RGBデータ)を取得する(S501)。そして、第1変換部154が、第1変換方法を用いて色データを変換し、測色器による測定値の予測値(第1予測値)を得る(S502)。次に、第1診断部155が、S502で得られた第1予測値と保持部152から取得したベースデータの測定値とを比較し、色差を求める。そして、第1予測値と測定値との色差が目標色差以内(目標色差を達成)である場合(S503でYes)、第1診断部155は、画像入力装置110および画像出力装置120の特性に変化なし(正常)との診断結果を出力する(S504)。
【0038】
一方、第1予測値と測定値との色差が目標色差を超えている場合(S503でNo)、次に、第2変換部156が、第2変換方法を用いて色データを変換し、測色器による測定値の予測値(第2予測値)を得る(S505)。そして、第2診断部157が、S502で得られた第1予測値と、S505で得られた第2予測値とを比較する(S506)。この第1予測値と第2の予測値との差分が、予め定められた基準に基づき正常な範囲である場合(S507でYes)、第2診断部157は、画像入力装置110の特性に変化なし(正常)との診断結果を出力する(S508)。この場合、画像出力装置120の特性に変化が生じていることがわかるので、画像出力装置120の色調整(キャリブレーション)を行うこととなる。
【0039】
これに対し、第1予測値と第2の予測値との差分が、予め定められた基準において正常な範囲を超えている場合(S507でNo)、第2診断部157は、画像入力装置110の特性に変化がある(異常)との診断結果を出力する(S509)。この場合、画像入力装置110の調整(キャリブレーション)を行った後に、改めて画像出力装置120の特性に変化があるかを検査することとなる。
【0040】
<検査例>
次に、具体例を挙げて、複数の変換方法を用いた画像入力装置110の検査について説明する。ここでは、対象色をLab色空間におけるY色(Lab(Y))とし、第1変換方法をB値に基づく変換方法f(B)、第2変換方法をR値およびG値に基づく変換方法f(RG)とする。第1変換方法による第1予測値と第2変換方法による第2予測値とは、Lab色空間におけるL値、a値、b値の何れで比較しても良いが、ここでは一例として、b値で比較する。
【0041】
図6は、初期状態(画像入力装置110の調整直後)のベースデータ、第1予測値および第2予測値の関係の例を示す図である。図6に示すグラフは、画像入力装置110により読み取られた色データ(RGBデータ)におけるB値(B信号の値)を横軸、ベースデータの測定値、第1予測値および第2予測値におけるb値を縦軸に取っている。また、図6において、ベースデータの測定値を黒丸(●)のドットで、第1予測値を白抜き三角形(△)のドットで、第2予測値を四角形(◆)のドットで描画している。図6を参照してわかるように、初期状態では、ベースデータの測定値、第1予測値および第2予測値が重なっており、ほぼ同値である。したがって、第1予測値および第2予測値のいずれも測色器の測定値を良好に予測している。
【0042】
図7は、画像入力装置110の特性が変化した場合のベースデータ、第1予測値および第2予測値の関係の例を示す図である。図7に示すグラフも図6のグラフと同様に、画像入力装置110により読み取られた色データのB値を横軸、ベースデータの測定値、第1予測値および第2予測値におけるb値を縦軸に取っている。また、図7に描画された各ドットの種類も図6に示したものと同様である。図7を参照すると、図6の場合と比較して、第1予測値と第2予測値に予測値とが離間している。また、第2予測値のばらつきが大きくなっている。そこで、第1予測値と第2予測値との差異に基づき、画像入力装置110の特性の変化を検知する。
【0043】
図8は、図6および図7に示した第1予測値と第2予測値との差異を示す図である。図8に示すグラフは、画像入力装置110により読み取られた色データのB値を横軸、第1予測値と第2予測値との差分(色差dE)を縦軸に取っている。図8において、図6に示した第1予測値と第2予測値との色差dE(以下、色差dE(1)と記す)を黒丸(●)のドットで、この差分の平均値を破線で示している。また、図8において、図7に示した第1予測値と第2予測値との色差dE(以下、色差dE(2)と記す)を四角形(◆)のドットで、この差分の平均値を一点鎖線で示している。
【0044】
ここで、画像入力装置110の特性に関して再調整が必要か否かを判定するための判定基準として、例えば、第1予測値と第2予測値との色差dEが値「4」以上とする。このように設定すると、図8に示した例では、初期状態である色差dE(1)は値「4」よりも小さい。一方、色差dE(2)は値「4」よりも大きい。したがって、この場合は画像入力装置110の再調整が必要と判定される。
【0045】
また、色差dEの平均値ではなく、平均値に対する個々の色差dEのばらつきを、再調整が必要か否かを判定するための判定基準としても良い。図8を参照すると、平均値に対する個々の色差dEのばらつきは、色差dE(1)よりも色差dE(2)の方が大きくなっている。そこで、平均値+2σの区間の幅で閾値を設定し、設定した閾値を超えた場合に画像入力装置110の再調整が必要と判定するようにしても良い。
【0046】
以上、本実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態には限定されない。例えば、本実施の形態では、変換方法生成部151により複数の変換方法を生成して保持部152に保持し、検査時に、画像入力装置110で読み取って得た色データに対して変換方法を適用することにより、各変換方法に基づく予測値を得た。これに対し、初期状態で測色器の測定値を用いて得られたベースデータのみを保持しておき、検査時に、保持しているベースデータに基づいて複数の変換方法を生成し、画像入力装置110で読み取って得た色データに対して変換方法を適用するようにしても良い。また、本実施の形態は、制御装置130のCPUで実行させることにより、検査部150の変換方法生成部151、色データ取得部153、第1変換部154、第1診断部155、第2変換部156および第2診断部157の各機能を実現させるプログラムとして提供しても良い。その他、本発明の技術思想の範囲から逸脱しない様々な変更や構成の代替は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
100…画像処理装置、110…画像入力装置、120…画像出力装置、130…制御装置、140…入力画像受け付け部、150…検査部、151…変換方法生成部、152…保持部、153…色データ取得部、154…第1変換部、155…第1診断部、156…第2変換部、157…第2診断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8