(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】架空引込線離隔装置
(51)【国際特許分類】
H02G 7/00 20060101AFI20220511BHJP
H02G 1/02 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H02G7/00
H02G1/02
(21)【出願番号】P 2018085177
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 優生
【審査官】石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-141884(JP,A)
【文献】特開平11-215633(JP,A)
【文献】特開2010-220322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 7/00
H02G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空引込線の第1の位置に固定される第1の固定手段と、
前記架空引込線の第2の位置に固定される第2の固定手段と、
前記第1の固定手段と前記第2の固定手段とを接近させてその状態を保持することで、前記第1の位置と前記第2の位置の間の前記架空引込線を湾曲させる接近保持手段と、を備え
、
前記接近保持手段は、
円筒状であり、軸方向の一端側の外周面に雄ネジが形成され、前記雄ネジよりも先端側の部位の外周面が先端縁に向かって外形が小さくなるテーパ状に形成されているテーパ外周面を有し、さらに前記軸方向の他端に前記第1の固定手段の一端が連結される第1のバーと、
円筒状であり、軸方向の一端側が前記第1のバー内に挿入され、さらに前記軸方向の他端に前記第2の固定手段の一端が連結される第2のバーと、
略円筒状であり、軸方向の一端側の内周面に前記雄ネジと螺合する雌ネジが形成され、前記軸方向の他端側の内周面が他端縁に向かって内径が小さくなるテーパ状に形成されているテーパ内周面を有し、さらに前記第2のバーの前記第1のバー側が挿入されるコネクタと、を備え、
前記第2のバーの前記軸方向の前記一端側を前記第1のバー内に挿入して進退させることで伸び縮みして前記第1の固定手段と前記第2の固定手段とを接近させ、
前記コネクタの前記雌ネジを前記第1のバーの前記雄ネジに締め付けると、前記テーパ内周面が前記テーパ外周面に面接触して前記テーパ外周面の部位が前記第2のバーを押圧して前記第1のバーと前記第2のバーとが連結され固定される、
ことを特徴とする架空引込線離隔装置。
【請求項2】
前記第1の固定手段と前記第2の固定手段は、変形自在な線状体で、前記架空引込線に巻き付いて固定される、
ことを特徴とする請求項
1に記載の架空引込線離隔装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、架空引込線と他物との離隔を確保するための架空引込線離隔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配電設備の低圧架空引込線は、他物から所定距離以上離隔されている必要があり、定期的に巡視点検を行い、離隔が確保されていない箇所に対しては、その都度改修を行っている。しかしながら、近年、弱電類を電柱に共架するケースが増加し、離隔が確保されていない箇所が多く発生するばかりでなく、改修が容易でない場合が生じ、例えば、低圧架空引込線を家屋側から根本的に配設し直さなければならず、改修に多大な労力と時間を要していた。
【0003】
このため、ケーブルの形状を任意に変形させることで、ケーブル間の離隔を確保することができる、というケーブル位置調整部材が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このケーブル位置調整部材は、ケーブルに巻き付いて任意に変形させる巻線部と、巻線部の一端側に設けられて巻線部を他の部材に固定する第1固定手段と、巻線部の他端側に設けられて巻線部をケーブルに固定する第2固定手段とを備えものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、低圧架空引込線の離隔は全長にわたって確保する必要があり、任意の位置で離隔を確保する改修を行う必要性が生じ得る。しかしながら、特許文献1に記載のケーブル位置調整部材では、第1固定手段を碍子などに固定するため、碍子などの部材が近くにある位置でないとケーブル位置調整部材を配置することができない。また、巻線部によってケーブルを変形、保持させるだけであるため、外力や経年などによってケーブルが元の位置に戻ってしまうおそれがある。
【0006】
そこでこの発明は、架空引込線の任意の位置における離隔をより確実に確保することが可能な架空引込線離隔装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、架空引込線の第1の位置に固定される第1の固定手段と、前記架空引込線の第2の位置に固定される第2の固定手段と、前記第1の固定手段と前記第2の固定手段とを接近させてその状態を保持することで、前記第1の位置と前記第2の位置の間の前記架空引込線を湾曲させる接近保持手段と、を備え、前記接近保持手段は、円筒状であり、軸方向の一端側の外周面に雄ネジが形成され、前記雄ネジよりも先端側の部位の外周面が先端縁に向かって外形が小さくなるテーパ状に形成されているテーパ外周面を有し、さらに前記軸方向の他端に前記第1の固定手段の一端が連結される第1のバーと、円筒状であり、軸方向の一端側が前記第1のバー内に挿入され、さらに前記軸方向の他端に前記第2の固定手段の一端が連結される第2のバーと、略円筒状であり、軸方向の一端側の内周面に前記雄ネジと螺合する雌ネジが形成され、前記軸方向の他端側の内周面が他端縁に向かって内径が小さくなるテーパ状に形成されているテーパ内周面を有し、さらに前記第2のバーの前記第1のバー側が挿入されるコネクタと、を備え、前記第2のバーの前記軸方向の前記一端側を前記第1のバー内に挿入して進退させることで伸び縮みして前記第1の固定手段と前記第2の固定手段とを接近させ、前記コネクタの前記雌ネジを前記第1のバーの前記雄ネジに締め付けると、前記テーパ内周面が前記テーパ外周面に面接触して前記テーパ外周面の部位が前記第2のバーを押圧して前記第1のバーと前記第2のバーとが連結され固定される、ことを特徴とする架空引込線離隔装置である。
【0008】
この発明によれば、架空引込線の第1の位置に第1の固定手段を固定し、架空引込線の第2の位置に第2の固定手段を固定して、接近保持手段で第1の固定手段と第2の固定手段とを接近させてその状態を保持する。これにより、第1の位置と第2の位置の間の架空引込線が湾曲して、他物との離隔が確保される。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の架空引込線離隔装置において、前記第1の固定手段と前記第2の固定手段は、変形自在な線状体で、前記架空引込線に巻き付いて固定される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、接近保持手段で第1の固定手段と第2の固定手段とを接近させることで、第1の位置と第2の位置の間の架空引込線が湾曲して、他物との離隔を確保することができる。この際、離隔を確保したい箇所(引込線の部分)の一端である第1の位置に第1の固定手段を固定し、離隔を確保したい箇所の他端である第2の位置に第2の固定手段を固定することで、架空引込線の任意の位置・箇所に対して離隔を確保することができる。また、第1の固定手段と第2の固定手段との接近状態、つまり、架空引込線の湾曲状態が接近保持手段で保持されるため、外力や経年などによらず離隔をより確実に(長期間にわたって)確保することが可能となる。
【0012】
このように、本架空引込線離隔装置を取り付けることで離隔をより確実に確保できる結果、作業者が現場で改修方法を悩むことなく容易に離隔を確保でき、改修案の策定から施工までの労力と時間を削減することが可能となる。また、停電して改修する必要がなくなるため、需要家の満足度、信頼度を高めることが可能となる。
【0013】
請求項1の発明によれば、また、接近保持手段を収縮させるだけで、第1の固定手段と第2の固定手段とが接近して架空引込線が湾曲するため、高所や狭所など作業環境が厳しい場合でも、容易かつ確実に離隔を確保することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、架空引込線に巻き付けるだけで第1の固定手段と第2の固定手段が固定されるため、高所や狭所など作業環境が厳しい場合でも、容易かつ適正に架空引込線に取り付けて離隔を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施の形態に係る架空引込線離隔装置の使用状態を示す正面図である。
【
図2】
図1の架空引込線離隔装置を示す正面図である。
【
図3】
図2の架空引込線離隔装置の収縮バーの接続部を示す断面図である。
【
図4】この発明の実施の形態における離隔確保前の配線状態を示す正面図である。
【
図5】この発明の実施の形態における第1の変形例を正面図である。
【
図6】この発明の実施の形態における第2の変形例を正面図である。
【
図7】この発明の実施の形態における第3の変形例を正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0017】
図1~
図4は、この発明の実施の形態を示し、
図1は、この実施の形態に係る架空引込線離隔装置1の使用状態を示す正面図である。この架空引込線離隔装置1は、低圧架空引込線101と他物との離隔を所定距離以上に確保するための装置であり、
図2に示すように、主として、収縮バー(接近保持手段)20と、第1の巻き線(第1の固定手段)5と、第2の巻き線(第2の固定手段)6と、を備える。ここで、この実施の形態では、他物が弱電ケーブル102で、
図4に示すように、低圧架空引込線101に対して弱電ケーブル102が略垂直に延びる場合について、主として説明する。
【0018】
収縮バー20は、第1の巻き線5と第2の巻き線6とを接近させてその状態を保持することで、後述するように、第1の位置101aと第2の位置101bの間の低圧架空引込線101を湾曲させるものであり、伸縮(収縮)可能な棒状体となっている。すなわち、電気絶縁材で構成され、
図2に示すように、円筒状の第1のバー2と、一端側が第1のバー2に進退自在に挿入された円筒状の第2のバー3と、第1のバー2と第2のバー3を接続するコネクタ4と、を備える。
【0019】
第1のバー2の軸方向の一端側には、
図3に示すように、外周面に雄ネジ21が形成され、さらに、雄ネジ21よりも先端側に位置する部位の外周面(テーパ外周面22)は、先端縁に向かって外径が小さくなるテーパ状(円錐台状)に形成されている。また、この先端縁から雄ネジ21の中央部にわたって、軸方向に延びる細長い切込みであるスリット23が、円周周りに複数形成されている。一方、第1のバー2の他端(収縮バー20の収縮方向の一端側)には、
図2に示すように、第1の巻き線5の一端が連結されている。
【0020】
第2のバー3の外径は、第1のバー2の内径よりもやや小さく設定され、
図3に示すように、一端側を第1のバー2内に挿入して進退させる(一端縁3aの位置を変える)ことで、収縮バー20が伸び縮みするようになっている。一方、第2のバー3の他端(収縮バー20の収縮方向の他端側)には、
図2に示すように、第2の巻き線6の一端が連結されている。
【0021】
コネクタ4は、略円筒状で、軸方向の一端側の内周面に雌ネジ41が形成され、他端側の内周面(テーパ内周面42)は、他端縁に向かって内径が小さくなるテーパ状(円錐台状)に形成されている。ここで、雌ネジ41は、雄ネジ21と螺合するように形成され、テーパ内周面42は、テーパ外周面22と面接触するように形成されている。このようなコネクタ4に、第2のバー3の第1のバー2側が挿入されている。
【0022】
そして、第1のバー2に対する第2のバー3の挿入長さを調整して、コネクタ4の雌ネジ41を第1のバー2の雄ネジ21に締め付けると、テーパ内周面42がテーパ外周面22に面接触していき(くさびのように食い込み)、テーパ外周面22の部位つまり第1のバー2の一端側が第2のバー3を押圧して(第2のバー3に抱き着き)、第1のバー2と第2のバー3とが連結、固定されるものである。
【0023】
第1の巻き線5は、低圧架空引込線101の第1の位置101aに固定される部材であり、この実施の形態では、変形自在な線状体で、低圧架空引込線101に巻き付いて固定される。すなわち、変形自在で変形後に形状を保持する(塑性変形する)金属線材と、この金属線材の全外周面を覆う電気絶縁性(例えば、ゴム製)のコーティング材で構成されている。そして、
図1に示すように、低圧架空引込線101に巻き付けることで第1の位置101aに固定できるものである。ここで、第1の巻き線5の長さは、長期間安定して低圧架空引込線101に固定できるように設定されている。
【0024】
第2の巻き線6は、低圧架空引込線101の第2の位置101bに固定される部材であり、この実施の形態では、第1の巻き線5と同様に、変形自在な線状体で、低圧架空引込線101に巻き付いて固定される。
【0025】
このような構成の架空引込線離隔装置1を低圧架空引込線101に取り付けて、弱電ケーブル102との離隔を所定距離(法定距離)以上に確保するには、次のようにすればよい。ここで、架空引込線離隔装置1を取り付ける前には、
図4に示すように、低圧架空引込線101が弱電ケーブル102から所定距離未満の距離D1しか離れていないものとする。
【0026】
まず、低圧架空引込線101の弱電ケーブル102に対向する周辺において、収縮バー20を伸ばした状態で、低圧架空引込線101の第1の位置101aに第1の巻き線5を巻き付けて固定し、低圧架空引込線101の第2の位置101bに第2の巻き線6を巻き付けて固定する。ここで、収縮バー20が低圧架空引込線101よりも弱電ケーブル102側に位置し、低圧架空引込線101が湾曲した際に湾曲部が弱電ケーブル102から遠ざかるようにする。また、第1の位置101aは、低圧架空引込線101の離隔を確保したい箇所(引込線の部分)の一端で、例えば、弱電ケーブル102から一方より(左側)で、第2の位置101bは、低圧架空引込線101の離隔を確保したい箇所の他端で、例えば、弱電ケーブル102から他方より(右側)である。
【0027】
次に、
図1に示すように、収縮バー20を縮めて第1の巻き線5と第2の巻き線6とを接近させ、第1の位置101aと第2の位置101bの間の低圧架空引込線101を湾曲させる。この際、低圧架空引込線101の湾曲部と弱電ケーブル102との距離D2が所定距離以上になるまで、収縮バー20を縮める。そして、上記のようにしてコネクタ4を締め付けることで、収縮バー20の収縮状態つまり低圧架空引込線101の湾曲状態を保持するものである。なお、距離D2が確保されるように低圧架空引込線101を湾曲させた後に、収縮バー20の長さを調整して湾曲部の両側に巻き線5、6を固定してもよい。
【0028】
このように、この架空引込線離隔装置1によれば、収縮バー20で第1の巻き線5と第2の巻き線6とを接近させることで、第1の位置101aと第2の位置101bの間の低圧架空引込線101が湾曲して、弱電ケーブル102との離隔を確保することができる。この際、離隔を確保したい箇所(引込線の部分)の一端である第1の位置101aに第1の巻き線5を固定し、離隔を確保したい箇所の他端である第2の位置101bに第2の巻き線6を固定することで、低圧架空引込線101の任意の位置・箇所に対して離隔を確保することができる。また、第1の巻き線5と第2の巻き線6との接近状態、つまり、低圧架空引込線101の湾曲状態が収縮バー20で保持されるため、外力や経年などによらず離隔をより確実に(長期間にわたって)確保することが可能となる。
【0029】
このように、本架空引込線離隔装置1を取り付けることで離隔をより確実に確保できる結果、作業者が現場で改修方法を悩むことなく容易に離隔を確保でき、改修案の策定から施工までの労力と時間を削減することが可能となる。また、停電して改修する必要がなくなるため、需要家の満足度、信頼度を高めることが可能となる。
【0030】
また、収縮バー20を縮めるだけで、第1の巻き線5と第2の巻き線6とが接近して低圧架空引込線101が湾曲するため、高所や狭所など作業環境が厳しい場合でも、容易かつ確実に離隔を確保することができる。
【0031】
さらに、低圧架空引込線101に巻き付けるだけで第1の巻き線5と第2の巻き線6が固定されるため、高所や狭所など作業環境が厳しい場合でも、容易かつ適正に低圧架空引込線101に取り付けて離隔を確保することができる。
【0032】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、第1の固定手段と第2の固定手段が低圧架空引込線101に巻き付く巻き線5、6で構成されているが、低圧架空引込線101を把持するクランプなどで構成してもよい。
【0033】
また、接近保持手段は、上記の収縮バー20に限らず、他の構成であってもよい。例えば、
図5に示すように、第1のバー2に対する第2のバー3の挿入長さを調整して、第1のバー2に螺合された止めネジ31で第2のバー3を固定するようにしてもよい。
【0034】
また、
図6に示すように、筒状で軸方向に延びるスリット71が形成された本体7の両開口から、それぞれ巻き線5、6を挿入し、巻き線5、6の先端にハンドル72、73を設けてハンドル72、73をスリット71から突出させる。そして、ハンドル72、73を互いに近づけて固定することで、第1の巻き線5と第2の巻き線6とを接近させるようにしてもよい。
【0035】
あるいは、
図7に示すように、収容体8に回転自在に収容された巻き芯(図示せず)に、巻き線5、6の一端側を接続し、巻き芯を回転させるハンドル81を設ける。そして、ハンドル81を回して巻き芯に巻き線5、6を巻き付け、ハンドル81を固定して第1の巻き線5と第2の巻き線6とを接近させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 架空引込線離隔装置
20 収縮バー(接近保持手段)
2 第1のバー
3 第2のバー
4 コネクタ
5 第1の巻き線(第1の固定手段)
6 第2の巻き線(第2の固定手段)
101 低圧架空引込線(架空引込線)
101a 第1の位置
101b 第2の位置
102 弱電ケーブル(他物)