(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】化粧材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220511BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/20 A
(21)【出願番号】P 2018089853
(22)【出願日】2018-05-08
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塩田 歩
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-081004(JP,A)
【文献】特開2017-148990(JP,A)
【文献】特開2006-159030(JP,A)
【文献】特開2016-153175(JP,A)
【文献】特開2017-165077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層の表面に、絵柄層と光輝層を有する化粧材であって、絵柄層はインクジェット用インキからなる直径100μm以下の微細なインキドットによって構成されており、光輝層は平均粒径が1μm以上200μm以下の光輝性顔料を含むものであ
り、
前記基材層は、下地塗装を施した化粧板基材であることを特徴とする化粧材。
【請求項2】
前記絵柄層を、インクジェット印刷方式によって印刷形成し、前記光輝層は、光輝性顔料を含む塗工液をディスペンサから吐出することによって形成することを特徴とする
請求項1に記載の化粧材の製造方法。
【請求項3】
前記ディスペンサから吐出される塗工液は、光輝性顔料を10質量%以上75質量%以下含むものであることを特徴とする
請求項2に記載の化粧材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の内外装に用いる化粧材に関し、特にきらきらした高輝性の外観を有する化粧材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の内外装に用いる化粧材としては、さまざまな材質や形状、色彩や意匠を備えた化粧材が用いられている。特に印刷手法を用いて、種々の素材に絵柄を施した化粧材は、均一な製品を大量に供給できることから、主として量産性を重視する用途に対して一般的に使用されて来た。
【0003】
このような製品の例としては、各種内外装用化粧板が挙げられる。化粧板は、大きく2種類に分けられる。すなわち板状の基材に直接塗装や印刷を施す所謂ダイレクトプリント化粧板と、絵柄を紙やフィルム等の基材に印刷した化粧シートを基材に貼り合せた所謂ラミネート化粧板である。
【0004】
いずれの化粧板も、印刷に用いる版としては、長年グラビア版が用いられていた。グラビア版は、絵柄の再現性に優れ、版の耐久性も高く、インキの選択の幅が広いことに加え、エンドレスの絵柄が比較的容易に実現できることが、多く用いられて来た理由である。
【0005】
化粧シートの場合は、通常のグラビア輪転印刷機によって能率良く印刷ができる。ダイレクトプリント化粧板の場合は、グラビア版のインキを一旦オフセットロールに転移してから基材に印刷するグラビアオフセット印刷機を用いて印刷することができる。
【0006】
しかし近年、デザインの分野において、あまりの均一性が嫌われ、逆に多様性が求められるようになるにつれ、多品種少量生産に移行する傾向が強まってきた。量産性には優れるが、製版コストが高いグラビア印刷法では対応することが困難になってきた。
【0007】
そこで、印刷に当たって版を製版する必要のないインクジェット印刷法を用いた化粧材が提案されている。特許文献1に記載された化粧板は、木質基材の表面に下地膜を設けた後、印刷模様を直接インクジェット印刷した化粧板である。また、特許文献2に記載された化粧板は、インクジェット印刷により印刷層を形成した化粧紙に樹脂を含浸したパターン層を基材上に形成した化粧板である。
【0008】
一方、化粧材の意匠性において、金属光沢や、きらきらした光輝感のある表現が求められることがある。高い金属光沢や光輝感を実現するためには、ある程度粒径の大きいアルミニウム顔料やパール顔料を印刷する必要がある。グラビア印刷法によれば、グラビア版のセル径よりも小さい範囲であれば、数10μm程度の粒径の光輝性顔料を印刷可能であるが、インクジェット印刷法では、ノズルの詰まりを生じるため使用することができなかった。
【0009】
特許文献3に記載された化粧板原紙(化粧紙)は、紙基材にインク受容層、インクジェット印刷層、光輝性顔料を含有する高光沢層がこの順に積層された化粧板原紙(化粧紙)である。特許文献3によれば、高光沢層をグラビア印刷法によって形成することが記載されている。
【0010】
しかし特許文献3に記載されたように、実際に粒径が数10μmの光輝性顔料を含むグラビアインキを用いて印刷を行うと、次のような問題が発生することが判明した。
第1の問題は、光輝性顔料の粒径はあくまで平均粒径であって、実際には細かい粒子と粗い粒子が混在しており、印刷の過程においては、細かい粒子が優先的に消費されるため、時間経過とともにインキ中の光輝性顔料の粒径分布が変化し、結果的に光輝感が時間と伴に変化してしまい、安定した製品が得られないという問題である。
【0011】
第2の問題は、インクジェット印刷に先だって形成するインク受容層の問題である。インク受容層は、絵柄の再現性に対しては有効であるが、化粧紙に樹脂を含浸して使用する化粧板の場合、樹脂の含浸性を阻害する場合があることが分かった。特に光輝性顔料を用いた化粧紙の場合、その傾向が著しいことが判明したのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第5798145号公報
【文献】特開2001-71447号公報
【文献】特開2017-81004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の解決しようとする課題は、インクジェット印刷法を用いて形成された絵柄層と、大粒径の光輝性顔料を用いて形成された光輝層とを有する化粧材およびその製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、基材層の表面に、絵柄層と光輝層を有する化粧材であって、絵柄層はインクジェット用インキからなる直径100μm以下の微細なインキドットによって構成されており、光輝層は平均粒径が1μm以上200μm以下の光輝性顔料を含むものであり、
前記基材層は、下地塗装を施した化粧板基材であることを特徴とする化粧材である。
【0015】
本発明に係る化粧材は、基本となる絵柄をインクジェット用インキによって構成したので、インクジェット印刷方式によって印刷することで、多品種少量生産に対応することが可能となり、さらに平均粒径の大きい光輝性顔料を含む光輝層を設けたことにより、意匠性の高い表現が可能となった。
【0018】
また、請求項2に記載の発明は、前記絵柄層を、インクジェット印刷方式によって印刷形成し、前記光輝層は、光輝性顔料を含む塗工液をディスペンサから吐出することによって形成することを特徴とする請求項1に記載の化粧材の製造方法である。
【0019】
また、請求項3に記載の発明は、前記ディスペンサから吐出される塗工液は、光輝性顔料を10質量%以上75質量%以下含むものであることを特徴とする請求項2に記載の化粧材の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る化粧材は、基材層の表面に、絵柄層と光輝層を有する化粧材であって、絵
柄層がインクジェット用インキからなる直径100μm以下の微細なインキドットによって構成されている。すなわち、インクジェット印刷方式によって印刷することが可能であり、従って製版の必要がないため、多品種少量生産に適している。
また、光輝層は平均粒径が1μm以上200μm以下の比較的大粒径の光輝性顔料を含むものであるから、きらきらした光輝感が得られ、意匠性の高い表現が可能となった。
【0021】
基材層として、インクジェットインキ受容層を含まない樹脂含浸用チタン紙を使用した場合には、化粧材である化粧紙に例えばメラミン樹脂を含浸する際の樹脂含浸性が良好であり、樹脂含浸後に加熱圧締することにより、メラミン化粧板が得られる。この場合にも、多品種少量生産に適したものとなることは言うまでもない。
【0022】
基材層として下地塗装を施した化粧板基材を使用した場合には、最終的に透明な表面保護層を設けることにより、ダイレクトプリント化粧板が得られる。この化粧板は、予め全体の絵柄を分割しておくことにより、個々の化粧板を繋ぎ合わせて大面積の壁面を構成するようなこともできる。
【0023】
請求項4に記載の発明のように、絵柄層をインクジェット印刷方式によって印刷形成し、光輝層は、光輝性顔料を含む塗工液をディスペンサから吐出することによって形成することにより、大粒径の光輝性顔料を含む塗工液を目詰まりすることなく、塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明に係る化粧材の一実施態様を模式的に示した断面説明図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る化粧材の他の実施態様を模式的に示した断面説明図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る化粧材の製造工程において、絵柄層をインクジェット印刷装置によって形成する工程を模式的に示した断面説明図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る化粧材の製造工程において、光輝層をディスペンサによって形成する工程を模式的に示した断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下図面を参照しながら、本発明に係る化粧材およびその製造方法について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る化粧材の一実施態様を模式的に示した断面説明図である。本発明に係る化粧材1は、基材層2の表面に、絵柄層3と光輝層4を有する化粧材である。絵柄層3はインクジェット用インキからなる直径100μm以下の微細なインキドットによって構成されており、光輝層4は平均粒径が1μm以上200μm以下の光輝性顔料を含むものであることを特徴とする化粧材である。
【0026】
基材層2としては、チタン紙などの樹脂含浸用化粧板原紙、薄紙などの紙類や、合成樹脂製の着色合成樹脂基材シート、または各種化粧板基材に下地塗装を施した板状基材など任意の材料が使用できる。
図1に示した例は、基材層2としてチタン紙6を用いた場合の例である。
図2は、基材層2として、化粧板基材7に下地塗装8を施したものを使用した例である。この例では、印刷後のインキ面を保護するために、透明なトップコート層5が設けられている。
【0027】
基材層2として紙のようにポーラスな材料を用いる場合には、印刷面に予めインクジェ
ットインキ受容層を設けても良い。インクジェットインキ受容層は、インクジェットインキの定着を促進し、発色を良くする効果がある反面、樹脂の含浸性を損なう場合があり、むしろ無い方が良い場合もある。
基材層2が樹脂含浸用チタン紙6である場合には、次工程においてメラミン樹脂やベンゾグアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸して、熱硬化性樹脂化粧板として使用するが、この場合、樹脂の含浸性の観点からは、インクジェットインキ受容層が無い方が良い。
【0028】
プレコート化粧紙のように、後工程に樹脂含浸工程がない化粧紙の場合には、インクジェットインキ受容層を設けても良い。また、いずれの場合においても、絵柄層3と、光輝層4の順序は、逆でも良い。
【0029】
インクジェットインキとしては、油性または水性または無溶剤型のインクジェットインキを用いることができる。建材としての用途を考慮すると耐光性や耐候性の観点から、染料タイプではなく顔料タイプとするのが良い。
図3は、本発明に係る化粧材の製造工程において、絵柄層3をインクジェット印刷装置によって形成する工程を模式的に示した断面説明図である。基材層2を流れ方向に搬送する搬送コンベア12に載置し、インクジェットプリントヘッド10を走査しながら、印刷する。印刷装置としては、基材層の搬送が連続的に行われるものと、間歇的に行われるものがあるが、どちらでも良い。
【0030】
通常プリントヘッドには、複数の色調のインキを吐出する複数のヘッドが一体化されている。印刷しようとする絵柄に応じて、イエロー、マゼンタ、シアンの3原色にブラックを加えた構成としたり、予め調合した複数の特色を用いても良い。
図4は、本発明に係る化粧材の製造工程において、光輝層4をディスペンサによって形成する工程を模式的に示した断面説明図である。光輝層4を形成するための塗工液は、ディスペンサヘッド11から単位時間当たりの吐出量が一定になるように吐出される。ディスペンサヘッド11は、一定の速度で走査されるので、予めプログラムしておくことにより、光輝性顔料を含む塗工液を一定の厚さにパターン状に吐出することができる。
【0031】
ディスペンサヘッドの口径は、通常のインクジェットプリントヘッドとは比較にならない程大きくすることができるので、通常のインクジェットプリンタでは目詰まりして印刷できないような平均粒径の大きな光輝性顔料を使用することができる。
【0032】
光輝性顔料としては、リーフィングタイプあるいはノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料や、マイカの表面に酸化チタンや酸化鉄などの顔料をコーティングした合成パール顔料などが使用できる。光輝性顔料の平均粒径は、1μm以上、200μm以下とするのが適当である。1μm未満では光輝感が不足し、200μm超では、目詰まり等の問題が生じやすくなる。
【0033】
塗工液中の光輝性顔料の含有量としては、10質量%以上75質量%以下とするのが適当である。塗工液は水性または油性であり、光輝性顔料の他にバインダーと溶剤(水)、分散材、添加剤等が含まれる。
【0034】
なお、光輝層を形成する方法としては、ディスペンサに限らず、グラビア印刷版を用いたグラビア印刷法によっても良い。
【実施例1】
【0035】
基材層として坪量100g/m2の印刷用白色原紙(KJ特殊紙社製KW-1001P)(白色チタン紙)を使用した。インクジェット印刷機を用いて絵柄層を印刷した。インクジェットインキとしては、水性顔料インキ(東洋インキ社製LIOJET)を使用した。絵柄の解像度は1200×1200dpiとした。
【0036】
続いて、絵柄層の表面に光輝層を形成した。光輝層用の塗工液としては、カチオン系エマルション(中央理化工業社製 FK-820)100gに対して、体積基準粒子径の粒度分布における平均粒径が15μmの光輝性顔料(メルク社製 Iriodin201 Rutile Gold)11gを添加したものを使用した。
【0037】
塗工液の塗工には、グラビア印刷機を使用した。続いて塗工液を乾燥させて絵柄層の表面に光輝層を形成した。乾燥塗膜において、光輝層の質量に対して、光輝性顔料の質量は22%であった。
【0038】
得られた化粧紙にメラミンホルムアルデヒド樹脂を含浸し乾燥してプリプレグとした。別に用意したフェノールホルムアルデヒド樹脂を含浸したコア紙とメラミンホルムアルデヒド樹脂を含浸したオーバーレイ紙の間にプリプレグを挟み、鏡面板の間に挿入して加熱加圧し、メラミン樹脂化粧板を作成した。
【実施例2】
【0039】
絵柄層と光輝層の順序を逆にした以外は実施例1と同様にしてメラミン樹脂化粧板を作成した。
<比較例1>
比較例としてインキ受容層を設けた化粧紙を作成した。インキ受容層用の塗工液として、水75gに対し、体積基準粒子径の粒度分布における平均粒径が3.3μmの炭酸カルシウム(白石カルシウム社製 白艶華PZ)35g、カチオン系エマルション(中央理化工業社製 FK-820)38gを攪拌機で分散させたものを使用した。
【0040】
実施例1に使用した白チタン紙の表面に、グラビア印刷機を使用して、塗工液を塗工した。塗工後120℃のオーブンで塗工液を乾燥させてインクジェットインキ受容層を形成した。受容層の塗布量は、7.5g/m2(dry)であり、受容層中の炭酸カルシウム含有量は、70質量%であった。このチタン紙を使用して、以下実施例1と同様に絵柄層と光輝層を形成して同様にメラミン樹脂化粧板を作成した。
【0041】
実施例1、2、比較例1の印刷時に50%グレーのべた印刷部分を作成し、この部分における、化粧紙と化粧板との色差を測定した。色差の測定には、蛍光分光濃度計(X-Rite社製 eXact Advance)を使用した。色差が△E=2以下である場合を合格(○)、2を超える場合を不合格(×)とした。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
表1の結果から、メラミン樹脂化粧板においては、炭酸カルシウムを主成分としたインキ受容層がない方が良いことが分かった。
【実施例3】
【0043】
厚さ10mmのMDF(中密度木質繊維板)の表面にウレタン樹脂系の白色の下地塗装を施した後、インクジェット印刷機を用いて絵柄層を形成し、さらにこの上にディスペンサ(ノードソン社製PICO Pulseジェットバルブ、走査速度0.5m/分、ノズル口径50mm)を用いて光輝層を形成した。インクジェットインキ及び光輝層用塗工液としては、実施例1に使用したものと同様のものを使用した。最後にトップコートとして、ウレタン樹脂系透明塗料をロールコーターを用いて塗工し、乾燥した。
【実施例4】
【0044】
絵柄層と光輝層の順序を逆にした以外は、実施例3と同様にして化粧板を作成した。
<比較例2>
比較例として光輝層を設けなかった以外は、実施例3と同様にして化粧板を作成した。
【0045】
得られた3枚の化粧板を目視で比較すると、光輝層を含む実施例3、4の化粧板と光輝層のない比較例2の化粧板の意匠性では、実施例3、4が比較例2よりも明確に良好であり、その差は歴然としていた。また、ディスペンサには、目詰まり等の問題は生じなかった。
【符号の説明】
【0046】
1・・・化粧材
2・・・基材層
3・・・絵柄層
4・・・光輝層
5・・・トップコート層
6・・・チタン紙
7・・・化粧板基材
8・・・下地塗装
10・・・インクジェットプリントヘッド
11・・・ディスペンサヘッド
12・・・搬送コンベア