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特許7070091金属アルコキシド含有組成物、金属酸化物薄膜及びその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】金属アルコキシド含有組成物、金属酸化物薄膜及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20220511BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220511BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20220511BHJP
   B01D 53/28 20060101ALI20220511BHJP
   B01D 53/26 20060101ALI20220511BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20220511BHJP
   B01J 20/32 20060101ALI20220511BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20220511BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20220511BHJP
   H01L 21/312 20060101ALI20220511BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20220511BHJP
【FI】
H01L21/316 G
H05B33/14 A
H05B33/04
B01D53/28
B01D53/26 230
B01J20/02 A
B01J20/32 Z
B01J20/08 A
B01J20/10 A
H01L21/312 A
C09D11/30
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018100376
(22)【出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2019204915
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 香織
(72)【発明者】
【氏名】井 宏元
(72)【発明者】
【氏名】牧島 幸宏
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/044800(WO,A1)
【文献】特開2015-197483(JP,A)
【文献】特開2005-325440(JP,A)
【文献】特開2015-153474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 51/50
H05B 33/04
B01D 53/28
B01D 53/26
B01J 20/02
B01J 20/32
B01J 20/08
B01J 20/10
H01L 21/312
C09D 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化アルコキシ基を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有し、
前記金属アルコキシドが、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする金属アルコキシド含有組成物。
一般式(1): M(OR(O-R)x-y
[式中、Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。ORは、フッ化アルコキシ基を表し、当該フッ化アルコキシ基のフッ素(F)原子数が4~12である。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。]
【請求項2】
下記一般式(2)で表される構造を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有し、水と反応することにより撥水性又は疎水性物質を放出することを特徴とする金属アルコキシド含有組成物。
一般式(2): R-[M(OR(O-)x-y-R
[式中、Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。ORは、フッ化アルコキシ基を表し、当該フッ化アルコキシ基のフッ素(F)原子数が4~12である。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。nは重縮合度をそれぞれ表す。]
【請求項3】
前記Mで表される金属原子が、Ti、Zr、Sn、Ta、Fe、Zn、Si及びAlから選択されることを特徴とする請求項又は請求項に記載の金属アルコキシド含有組成物。
【請求項4】
前記可塑剤として、ポリシロキサン化合物を含有することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の金属アルコキシド含有組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の金属アルコキシド含有組成物を用いて形成された金属酸化物薄膜。
【請求項6】
請求項から請求項までのいずれか一項に記載の金属アルコキシド含有組成物がゾル・ゲル転移されてなる塗布膜であることを特徴とする金属酸化物薄膜。
【請求項7】
請求項又は請求項に記載の金属酸化物薄膜を作製する金属酸化物薄膜の作製方法であって、
塗布膜を形成する工程を有することを特徴とする金属酸化物薄膜の作製方法。
【請求項8】
前記塗布膜に紫外光を照射する工程を有することを特徴とする請求項に記載の金属酸化物薄膜の作製方法。
【請求項9】
フッ化アルコキシ基を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有する金属アルコキシド含有組成物を用いて形成された金属酸化物薄膜を作製する金属酸化物薄膜の作製方法であって、
塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜に紫外光を照射する工程を有することを特徴とする金属酸化物薄膜の作製方法。
【請求項10】
下記一般式(2)で表される構造を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有し、水と反応することにより撥水性又は疎水性物質を放出する金属アルコキシド含有組成物を用いて形成された金属酸化物薄膜を作製する金属酸化物薄膜の作製方法であって、
塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜に紫外光を照射する工程を有することを特徴とする金属酸化物薄膜の作製方法。
一般式(2): R-[M(OR (O-) x-y -R
[式中、Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。OR は、フッ化アルコキシ基を表す。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。nは重縮合度をそれぞれ表す。]
【請求項11】
下記一般式(2)で表される構造を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有し、水と反応することにより撥水性又は疎水性物質を放出する金属アルコキシド含有組成物を用いて形成された金属酸化物薄膜を作製する金属酸化物薄膜の作製方法であって、
前記金属酸化物薄膜は、前記金属アルコキシド含有組成物がゾル・ゲル転移されてなる塗布膜であり、
前記塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜に紫外光を照射する工程を有することを特徴とする金属酸化物薄膜の作製方法。
一般式(2): R-[M(OR (O-) x-y -R
[式中、Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。OR は、フッ化アルコキシ基を表す。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。nは重縮合度をそれぞれ表す。]
【請求項12】
前記塗布膜を形成する工程が、インクジェット・プリント法によることを特徴とする請求項7から請求項11までのいずれか一項に記載の金属酸化物薄膜の作製方法。
【請求項13】
前記塗布膜が、前記組成物をゾル・ゲル転移させて形成する膜であることを特徴とする請求項7から請求項12までのいずれか一項に記載の金属酸化物薄膜の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属アルコキシド含有組成物、金属酸化物薄膜及びその作製方法に関する。より詳しくは、各種有機電子デバイス等に対する水分透過の封止のための部材として用いることができる金属アルコキシド含有組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
産業界においては、トランジスタ、ダイオードをはじめとする数多くのエレクトロニクス部材が水や酸素による劣化を引き起こすため、封止や、不動態化処理(パッシベーション)と呼ばれる加工が施されている。特に電子伝導を有機化合物に担わせる、有機薄膜トランジスタや有機薄膜太陽電池、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」という。)などは、とりわけ水分子にセンシティブであり、極めて高度な封止が必要とされる。
【0003】
その中でも有機EL素子は、発光中において有機物としては最も反応性の高い励起状態となるため、水分濃度というよりも水分子の数を相手に対応しなければならず、高度なガスバリアーに加えて、水分子を捕捉するデシカント剤と呼ばれる乾燥剤が必要となってくる。また、ガスバリアー性を担うフィルムやガラスはデバイス基板に接着させる必要があり、その接着部から接着剤を通して水や酸素が透過することに対しても対策しなければならず、その意味においても乾燥剤の役割は重要となっている。
【0004】
封止方法は前記のような技術背景から、(1)緻密な無機酸化物や無機窒化物による固体封止膜、(2)ゼオライトや多孔質シリカゲルのような物理吸着型の乾燥剤、(3)アルカリ土類金属酸化物や金属ハイドライドのような水分子と即座に化学反応することで水分子を除去する化学反応型の乾燥剤が知られている。
【0005】
固体封止膜の作製方法としては、(1)は、蒸着、スパッタ、CVD(Chemical Vapor Deposition)、及びALD(Atomic Layer Deposition)等に代表される真空成膜により作製され、緻密膜を複数層形成することができるために水蒸気バリアー性に優れることが特長であるが、一方で大型の装置が必要であることや、ロールtoロールのような連続生産に不向きであることから製造上のコスト負荷が高く、大量かつ安価な生産に対しては問題が大きい。
【0006】
一方、(2)や(3)の水分子を除去する方式は、そのデバイスの許容水分濃度により使い分けることができるが、一般的に(2)のシリカゲルやゼオライト、モンモリロナイトのような水と吸着剤との化学平衡を吸着メカニズムとするものでは水分子の脱着現象は避けられず、高度な水分子除去を必要とする有機薄膜太陽電池や有機EL素子には適用することができない。
【0007】
酸化バリウムや酸化ストロンチウム等に代表される(3)の方式は、水分子との反応性が高いため乾燥剤としての能力は優れるものの、大気圧下では即座に水と反応してしまい性能劣化が起こること、それに伴う発熱の危険性などのプロセス上の問題点のほかに、デバイス内では水を化学量論量しか捕捉できないため、効果が一時的で長期保存には不向きであるなど、問題も多い。
【0008】
化学反応型の乾燥剤の一例として、加水分解による吸水を利用した乾燥剤が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、開示されているアルミナ環状三量体は、電子デバイスの封止膜に応用するには、いまだ水蒸気バリアー性が低いのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-000792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、各種有機電子デバイス等に対する水分透過の封止のための部材として用いることができる金属アルコキシド含有組成物、それを用いて形成される、撥水性が高くかつフレキシブルな金属酸化物薄膜及びその作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく上記問題の原因等について検討する過程において、
本発明者らは前記のような数々の問題を克服することを目的に、次のような現象を実現できる技術の創出に取り組んだ。
(I)水分子と反応する乾燥性(デシカント性)を有すること。
(II)水との反応の関数として、水を寄せ付けない性質を持つ物質を放出すること。
(III)大気圧下での塗布成膜が可能なこと。
(IV)フレキシブルな薄膜化が可能なこと。
【0012】
この四つの要素を併せ持つ材料と技術が構築できれば、電子デバイスの心臓部に水分子の透過を効果的に防ぐことができ、また、透過した水分量に応じて撥水性物質が生成することで、従来の水蒸気バリアー性とは全く異なる新しい技術思想の水蒸気透過を阻止する方法となり、かつ、大気圧下での塗布(コーティング)ができれば、安価でかつ大面積の封止が可能となり、これから到来するIoT時代へ向けて、実際には製造コストのボトルネックとなっていた、隠された課題(すなわち、安価でかつ効果的な封止加工)が一気に解決される可能性を秘めていると考えられる。
上記のような取り組の過程で、フッ化アルキル基を有する金属アルコキシド又は金属カルボキシレートを含む組成物から作製された化学反応型の有機薄膜状物質が、水分の透過を防止する撥水性又は疎水性物質を放出することを見いだし、かつ、各種電子デバイスに対して水分透過の封止膜として機能する金属酸化物薄膜(有機薄膜)が得られることを見いだし、本発明を成すに至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.フッ化アルコキシ基を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有し、
前記金属アルコキシドが、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする金属アルコキシド含有組成物。
一般式(1): M(OR(O-R)x-y
[式中、Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。ORは、フッ化アルコキシ基を表し、当該フッ化アルコキシ基のフッ素(F)原子数が4~12である。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。]
【0015】
.下記一般式(2)で表される構造を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有し、水と反応することにより撥水性又は疎水性物質を放出することを特徴とする金属アルコキシド含有組成物。
一般式(2): R-[M(OR(O-)x-y-R
[式中、Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。ORは、フッ化アルコキシ基を表し、当該フッ化アルコキシ基のフッ素(F)原子数が4~12である。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。nは重縮合度をそれぞれ表す。]
【0016】
.前記Mで表される金属原子が、Ti、Zr、Sn、Ta、Fe、Zn、Si及びAlから選択されることを特徴とする第1項又は第2項に記載の金属アルコキシド含有組成物。
【0018】
.前記可塑剤として、ポリシロキサン化合物を含有することを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の金属アルコキシド含有組成物。
【0019】
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の金属アルコキシド含有組成物を用いて形成された金属酸化物薄膜。
【0020】
.第項から第項までのいずれか一項に記載の金属アルコキシド含有組成物がゾル・ゲル転移されてなる塗布膜であることを特徴とする金属酸化物薄膜。
【0021】
.第項又は第項に記載の金属酸化物薄膜を作製する金属酸化物薄膜の作製方法であって、
塗布膜を形成する工程を有することを特徴とする金属酸化物薄膜の作製方法。
【0022】
8.前記塗布膜に紫外光を照射する工程を有することを特徴とする第7項に記載の金属酸化物薄膜の作製方法。
【0023】
9.フッ化アルコキシ基を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有する金属アルコキシド含有組成物を用いて形成された金属酸化物薄膜を作製する金属酸化物薄膜の作製方法であって、
塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜に紫外光を照射する工程を有することを特徴とする金属酸化物薄膜の作製方法。
10.下記一般式(2)で表される構造を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有し、水と反応することにより撥水性又は疎水性物質を放出する金属アルコキシド含有組成物を用いて形成された金属酸化物薄膜を作製する金属酸化物薄膜の作製方法であって、
塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜に紫外光を照射する工程を有することを特徴とする金属酸化物薄膜の作製方法。
一般式(2): R-[M(OR (O-) x-y -R
[式中、Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。OR は、フッ化アルコキシ基を表す。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。nは重縮合度をそれぞれ表す。]
11.下記一般式(2)で表される構造を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有し、水と反応することにより撥水性又は疎水性物質を放出する金属アルコキシド含有組成物を用いて形成された金属酸化物薄膜を作製する金属酸化物薄膜の作製方法であって、
前記金属酸化物薄膜は、前記金属アルコキシド含有組成物がゾル・ゲル転移されてなる塗布膜であり、
前記塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜に紫外光を照射する工程を有することを特徴とする金属酸化物薄膜の作製方法。
一般式(2): R-[M(OR (O-) x-y -R
[式中、Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。OR は、フッ化アルコキシ基を表す。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。nは重縮合度をそれぞれ表す。]
12.前記塗布膜を形成する工程が、インクジェット・プリント法によることを特徴とする第7項から第11項までのいずれか一項に記載の金属酸化物薄膜の作製方法。
13.前記塗布膜が、前記組成物をゾル・ゲル転移させて形成する膜であることを特徴とする第7項から第12項までのいずれか一項に記載の金属酸化物薄膜の作製方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0027】
本発明のフッ化アルコキシ基を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有す組成物及びそれを用いて作製された金属酸化物薄膜は、化学反応型のゲッター剤として機能し、かつ、水分との反応の分だけ撥水性又は疎水性物質を放出する、という水分透過に対する新たな乾燥剤及び封止膜として機能するものである。
【0028】
具体的には、可塑剤の共存下で前記一般式(1)で表される化合物から製造された、前記一般式(2)で表される構造を有する金属アルコキシド(以下、有機金属酸化物ともいう。)が加水分解により、クエンチされた水分子と等モルのフッ素化アルコールが生成し、それが撥水又は疎水機能を有するために、それ以上の水の侵入を防止するものである。したがって、従来の化学反応型の乾燥剤よりも、水分の侵入防止効果が極めて高く、すなわち、単一組成膜が乾燥性(デシカント性)に加え、水分との反応により撥水機能等が付加されて相乗効果(シナジー効果)を発揮するという、従来の乾燥剤及び有機薄膜にはない特徴を有する革新的な技術である。
【0029】
また、本発明の金属酸化物薄膜は、金属アルコキシド溶液を原料とし、一般にゾル・ゲル法と呼ばれる、金属アルコキシドの加水分解とそれに続く重縮合反応により有機無機ハイブリッド化合物を合成して、膜形成する方法を採用する。
【0030】
封止のみならず、無機酸化物を塗布方式で成膜する常套手段としてゾル・ゲル法が広く知られている。この方法は、一般的には、金属アルコキシド溶液を原料とし、金属アルコキシドの加水分解とそれに続く重縮合反応により無機酸化物が形成される方法で、金属アルコキシドの一部分をアルコキシ基ではなくアルキル基やアリール基にすると、該基はゾル・ゲル反応後も保持されるため、無機酸化物をベースとした有機無機ハイブリッド化合物膜を形成することもできる。
【0031】
基本的には、アルコキシ化できる全ての金属元素が、このゾル・ゲル法に適用できるが、実際には大気中で溶液にした際にゲル化が起こり、塗布できない場合がほとんどで、実用されているのはケイ素(テトラアルコキシシラン)に限られる。この理由は、金属元素がチタンやジルコニウムの場合、そのアルコキシド化合物自体がルイス酸であるために加水分解反応後の脱水重縮合の反応を触媒的に加速してしまい、すぐにゲル化が起こってしまうためである。
【0032】
また、アルカリ金属やアルカリ土類金属の場合は、アルコキシドにしても塩基性となるため、最初の加水分解反応が非常に早く、一方で脱水重縮合反応が遅いため、有機金属酸化物を得るのは難しい。その中間的な性質を持つのがケイ素アルコキシドであるため、ゾル・ゲル法による有機金属酸化物合成又は有機金属酸化物薄膜形成にはこれしか適合できないのが現状である。
【0033】
それに対し、金属アルコキシドを過剰のアルコール(A)に溶解すると化学平衡から金属のアルコキシドはアルコール(A)と置換され、当該アルコール(A)の金属アルコキシドが生成するが、この時、アルコール(A)をフッ素原子で置換されたアルコールとした場合、生成してくる金属フッ素化アルキルオキシ化合物(以降、「金属フッ化アルコキシド」と呼ぶ。)は、前記のゾル・ゲル反応速度を緩和することができる。
【0034】
これはフッ素原子の電子吸引効果による金属元素上の電子密度を低下させ水分子の求核反応は加速させるものの、それよりもフッ素原子による水の排除効果が大きく、水分子が金属元素に近寄れないことから、いわゆる頻度因子が大きく低下して、結果として加水分解速度が遅くなることと、例えばチタンやジルコニウム、さらには空のd軌道が存在する遷移金属(例えば4価のバナジウムや、4価のタングステン)のアルコキシド化合物がルイス酸であることから酸触媒的な効果を発現し、脱水重縮合や脱アルコール重縮合反応を加速するため高分子量の有機金属酸化物が生成しやすいという特長によるものである。
【0035】
この効果により、前記の(I)~(III)の全てを満たすことが可能となり、特に(III)の通常の金属アルコキシドではゲル化進行により取り扱いが実質的にできなかったものでも、フッ素化アルコールの存在下だと、それが可能となり、出来上がった膜に紫外線やプラズマ照射、マイクロ波照射などの高エネルギーを加えることにより、薄膜表面から連続的に高密度の有機金属酸化物膜が形成され、結果その薄膜は(I)の乾燥性(デシカント性)を有し、さらに未反応の金属フッ化アルコキシドが内部に残存しているため、入って来た水分子とそれとが反応して、水をはじくフッ素化アルコールを生成するため(II)の効果を発揮し、結果として(I)と(II)の効果を併せ持つ新たな薄膜を形成することが可能となる。
【0036】
さらに、本発明は、可塑剤の共存下でゾル・ゲル法(以下、「ゾル・ゲル反応」とも称する。)により有機金属酸化物薄膜を作製することが特徴である。
【0037】
すなわち、可塑剤の共存させることにより、ゾル・ゲル反応速度が緩和された金属アルコキシド溶液を用いることで、溶液の安定性の向上、及び成膜時の取り扱いを容易にすることが可能になる。一方で、出来上がった膜から高密度の有機金属酸化膜を形成するのに高エネルギーが必要になってくるが、紫外線の波長によっては酸素分子や窒素分子によって吸収されるため、ゾル・ゲル反応が膜表面に留まり、内部まで進行しない場合がある等の問題があった。
【0038】
これに対して、本発明では可塑剤の共存下で金属アルコキシドのゾル・ゲル反応を行うことで、ゾル・ゲル組成物と膜形成前後の問題を解決したのが本発明の特徴である。
すなわち、本発明は単に撥水性又は疎水性化合物を生成する組成物に留まるものではなく、従来困難だった保存安定性が改善された金属アルコキシド含有組成物が得られ、かつフレキシブルな膜を形成し得る。
【0039】
上記の点についてさらに詳しく説明するならば、従来のチタンアルコキシドなどの金属アルコキシドのゾル・ゲル組成物液は、大気中に放置しておくと水分と反応して3次元的な重合が進み、金属酸化物の粒子が生じる。特に金属アルコキシドとアルコール溶媒の系では、重合を抑制することができず粒子サイズが大きくなり最終的に沈殿を生じてしまう。
これに対して、フッ化アルコキシ基を有する金属アルコキシドを用いる方法がある。これは、中心金属周りに存在するフッ素原子が疎水効果を示すことで中心金属周りの水分の頻度因子を低減させることができ、結果として大気中でもある程度ゲル化を抑制することができ、粒子サイズを小さく抑えることができる。さらに、上記液から作製した膜は吸水性を示し、その吸水から撥水性を発現するという機能性フィルムとして効果を示す。
しかし、(a)中心金属と水との反応を完全に止めることはできず、大気中で徐々にではあるが水と反応してしまい、さらに、(b)フレキシブルな基板上に膜を形成した場合にクラックなどが発生してしまうという問題がある。
そこで、ポリシロキサン等の可塑剤を金属アルコキシド含有組成物に添加すると、金属オキサイド含有組成物が増粘し、水との反応頻度が落ちるため、ゲル化を抑制することが可能となり、金属アルコキシ含有組成物の保存安定性がさらに改善される。
また、成膜後の金属酸化物薄膜は、柔軟性も増し、フレキシブル基板へ適用してもクラック(ひび割れ)などが発生しにくく、良好な水蒸気バリアー膜、デシカント(乾燥剤)膜又は撥水・疎水性膜として機能を果たすことができる。
さらに、上記のような可塑剤を併用すると、膜の撥水・疎水機能がさらに向上することが明らかになった。これは、膜の柔軟性(フレキシブル性)が増したことにより、より膜中の疎水成分が膜表面に移動・配列しやすくなったためと推察される。
したがって、本発明は、従来の金属アルコキシドを用いたゾル・ゲル法による薄膜形成とは、コンセプトも異なり、形成される薄膜の機能も保存性能も異なる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の金属アルコキシド含有組成物は、可塑剤及び前記一般式(1)又は前記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有することを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0041】
実施形態としては、水分透過の封止性の観点から、前記Mで表される金属原子が、Ti、Zr、Sn、Ta、Fe、Zn、Si及びAlから選択されることが好ましい。
前記ORで表されるフッ化アルコキシ基のフッ素原子数が4~12の範囲内であることが金属アルコキシド含有組成物の安定性の点で好ましい。
また、前記可塑剤が、ポリシロキサン化合物を含有することが金属アルコキシド含有組成物から形成される膜質(フレキシブル性、疎水性)の点で好ましい。
本発明の金属アルコキシド含有組成物は、金属酸化物薄膜として好適に用いることができる。当該金属酸化物薄膜は、少なくとも前記金属アルコキシド含有組成物がゾル・ゲル転移(ゾル状態からゲル状態に相変化)されてなる塗布膜であることが好ましい。
【0042】
前記金属酸化物薄膜の作製方法としては、緻密で均一な金属酸化物薄膜を効率よく生産する観点から、前記金属アルコキシド含有組成物を含有する塗布膜を形成する工程を有す態様の作製方法であることが好ましく、前記塗布膜を形成する工程が、インクジェット・プリント法によることが好ましい。さらに、前記塗布膜が、前記組成物をゾル・ゲル転移させて形成する膜であることを特徴とする作製方法であることが好ましい。
また、金属酸化物薄膜の作製方法としては、ゾル・ゲル反応促進の観点から、前記塗布膜に紫外光を照射する工程を有することが好ましい。
【0043】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0044】
〔1〕金属アルコキシド含有組成物
本発明の金属アルコキシド含有組成物(以下において、単に「組成物」ともいう。)は、フッ化アルコキシ基を有する金属アルコキシドと可塑剤とを含有する組成物であることを特徴とする。そして、前記金属アルコキシドが、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される構造を有する金属アルコキシドを含有することが好ましく、水と反応することにより撥水性又は疎水性物質を放出する。
また、本発明の組成物は、水と反応することにより、撥水性又は疎水性物質を放出する化合物を含有する乾燥剤を得るための組成物であることを特徴とする。
なお、本発明に係る下記一般式(2)で表される金属アルコキシドの製造方法としては、金属アルコキシド又は金属カルボキシレートとフッ素化アルコール、及び可塑剤を混合し、可塑剤と下記一般式(1)で表される化合物の組成物とした後、これを用いて製造することが本発明の効果を得る上で好ましい態様である。
【0045】
〔2〕乾燥剤
本発明の組成物は、乾燥剤としても機能し得る。すなわち、本発明に係る乾燥剤は、前記組成物を含有することを特徴する。したがって、原料となる金属アルコキシドを過剰のアルコール存在下で加アルコール分解して、アルコール置換した有機金属酸化物又は有機金属酸化物の重縮合体である。その際に、ヒドロキシ基のβ位にフッ素原子が置換した長鎖アルコールを用いることで、フッ化アルコキシドを含有する有機金属酸化物となり、本発明に係る乾燥剤となる。
【0046】
一方、前記有機金属酸化物は、焼結や紫外線を照射することで、ゾル・ゲル反応を促進し重縮合体を形成することができる。その際、前記ヒドロキシ基のβ位にフッ素原子が置換した長鎖アルコールを用いると、フッ素の撥水効果により金属アルコキシド中の金属周りに存在する水分の頻度因子を減少させることで、加水分解速度が減少し、当該現象を利用することで3次元の重合反応を抑え、所望の有機金属酸化物を含有する均一で稠密な金属酸化物薄膜を形成しうるという特徴がある。
【0047】
本発明に係る乾燥剤に含有される有機金属酸化物は、以下の反応スキームIに示すものである。なお、焼結後の有機金属酸化物の重縮合体の構造式において、「O-M」部の「M」は、さらに置換基を有しているが、省略してある。
【0048】
【化1】
【0049】
上記有機金属酸化物が、紫外線照射により重縮合して形成された金属酸化物薄膜は、以下の反応スキームIIによって、系外からの水分(HO)によって加水分解し、撥水性又は疎水性物質であるフッ素化アルコール(R′-OH)を放出する。このフッ素化アルコールによって、さらに水分の電子デバイス内部への透過を防止するものである。
【0050】
すなわち、本発明に係る乾燥剤は、加水分解によって生成したフッ素化アルコールが撥水性又は疎水性のため、本来の乾燥性(デシカント性)に加え、水分との反応により撥水機能が付加されて、封止性に相乗効果(シナジー効果)を発揮するという、従来の乾燥剤にはない特徴を有する。
なお、下記構造式において、「O-M」部の「M」は、さらに置換基を有しているが、省略してある。
【0051】
【化2】
【0052】
本発明に係る乾燥剤は、下記一般式(1)で表される化合物から製造された下記一般式(2)で表される構造を有する有機金属酸化物を主成分として含有することが好ましい。「主成分」とは、前記乾燥剤の全体の質量のうち、70質量%以上が疎水性物質を放出する前記有機金属酸化物であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であることをいう。
【0053】
一般式(1): M(OR(O-R)x-y
[式中、Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。ORは、フッ化アルコキシ基を表す。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。]
【0054】
一般式(2): R-[M(OR(O-)x-y-R
[式中、Rは、水素、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。ORは、フッ化アルコキシ基を表す。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。nは重縮合度をそれぞれ表す。]
【0055】
本発明に係る有機金属酸化物は、ゾル・ゲル法を用いて作製できるものであれば特に制限はされず、例えば、「ゾル-ゲル法の科学」P13、P20に紹介されている金属、リチウム、ナトリウム、銅、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、イットリウム、ケイ素、ゲルマニウム、鉛、リン、アンチモン、バナジウム、タンタル、タングステン、ランタン、ネオジウム、チタン、ジルコニウムから選ばれる1種以上の金属を含有してなる金属酸化物を例として挙げることができる。好ましくは、前記Mで表される金属原子は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)から選択されることが、本発明の効果を得る観点から好ましい。
【0056】
上記一般式(1)及び一般式(2)において、ORはフッ化アルコキシ基を表す。
【0057】
は少なくとも一つフッ素原子に置換したアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。各置換基の具体例は後述する。
【0058】
Rは水素、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、又は複素環基を表す。又はそれぞれの基の水素の少なくとも一部をハロゲンで置換したものでもよい。また、ポリマーでもよい。
【0059】
アルキル基は置換又は未置換のものであるが、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル等であるが、好ましくは炭素数が8以上のものがよい。またこれらのオリゴマー、ポリマーでもよい。
【0060】
アルケニル基は、置換又は未置換のもので、具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキシセニル基等があり、好ましくは炭素数が8以上のものがよい。またこれらのオリゴマー又はポリマーでもよい。
【0061】
アリール基は置換又は未置換のもので、具体例としては、フェニル基、トリル基、4-シアノフェニル基、ビフェニル基、o,m,p-テルフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、9-フェニルアントラニル基、9,10-ジフェニルアントラニル基、ピレニル基等があり、好ましくは炭素数が8以上のものがよい。また、これらのオリゴマー又はポリマーでもよい。
【0062】
置換又は未置換のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、n-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基等でありが好ましくは炭素数が8以上のものがよい。また、これらのオリゴマー、ポリマーでもよい。
【0063】
置換又は未置換のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボナン基、アダマンタン基、4-メチルシクロヘキシル基、4-シアノシクロヘキシル基等であり好ましくは炭素数が8以上のものがよい。また、これらのオリゴマー又はポリマーでもよい。
【0064】
置換又は未置換の複素環基の具体例としては、ピロール基、ピロリン基、ピラゾール基、ピラゾリン基、イミダゾール基、トリアゾール基、ピリジン基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、トリアジン基、インドール基、ベンズイミダゾール基、プリン基、キノリン基、イソキノリン基、シノリン基、キノキサリン基、ベンゾキノリン基、フルオレノン基、ジシアノフルオレノン基、カルバゾール基、オキサゾール基、オキサジアゾール基、チアゾール基、チアジアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ビスベンゾオキサゾール基、ビスベンゾチアゾール基、ビスベンゾイミダゾール基等がある。またこれらのオリゴマー又はポリマーでもよい。
【0065】
置換又は未置換のアシル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、ピメロイル基、スベロイル基、アゼラオイル基、セバコイル基、アクリロイル基、プロピオロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、イソクロトノイル基、オレオイル基、エライドイル基、マレオイル基、フマロイル基、シトラコノイル基、メサコノイル基、カンホロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基、ナフトイル基、トルオイル基、ヒドロアトロポイル基、アトロポイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、グリコロイル基、ラクトイル基、グリセロイル基、タルトロノイル基、マロイル基、タルタロイル基、トロポイル基、ベンジロイル基、サリチロイル基、アニソイル基、バニロイル基、ベラトロイル基、ピペロニロイル基、プロトカテクオイル基、ガロイル基、グリオキシロイル基、ピルボイル基、アセトアセチル基、メソオキサリル基、メソオキサロ基、オキサルアセチル基、オキサルアセト基、レブリノイル基これらのアシル基にフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素などが置換してもよい。好ましくは、アシル基の炭素は8以上良い。また、これらのオリゴマー又はポリマーでもよい。
【0066】
本発明に係る一般式(1)で表される構造を有する有機金属酸化物を形成するための、金属アルコキシド、金属カルボキシレート及びフッ素化アルコールの具体的な組み合わせについて、以下に例示する。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。
【0067】
前記金属アルコキシド、金属カルボキシレートとフッ化アルコール(R′-OH)は以下の反応スキームIIIによって、本発明に係る有機金属酸化物となる。ここで、(R′-OH)としては、以下のF-1~F-16の構造が例示される。
【0068】
【化3】
【0069】
【化4】
【0070】
本発明に係る金属アルコキシド又は金属カルボキシレートは、以下のM(OR)又はM(OCOR)に示す化合物が例示され、本発明に係る有機金属酸化物は、前記(R′-OH:F-1~F-16)との組み合わせにより、下記例示化合物番号1~135の構造を有する化合物(下記例示化合物I、II及びIII参照。)となる。本発明に係る有機金属酸化物は、これに限定されるものではない。
【0071】
【化5】
【0072】
【化6】
【0073】
【化7】
【0074】
本発明に係る有機金属酸化物を製造する有機金属酸化物の製造方法は、金属アルコキシドとフッ化アルコールの混合液を用いて製造することが特徴である。
反応の一例として例示化合物番号1の反応スキームIV及び金属酸化物薄膜に適用するときの有機金属酸化物の構造を以下に示す。
【0075】
なお、下記構造式において、「O-Ti」部の「Ti」は、さらに置換基を有しているが、省略してある。
【0076】
【化8】
【0077】
本発明に係る有機金属酸化物の製造方法は、金属アルコキシド又は金属カルボキシレートにフッ化アルコールを加え混合液として撹拌混合させた後に、必要に応じて水と触媒を添加して所定温度で反応させる方法を挙げることができる。
【0078】
ゾル・ゲル反応をさせる際には、本発明に係る可塑剤のほかに、加水分解・重縮合反応を促進させる目的で下記に示すような加水分解・重合反応の触媒となりうるものを加えてもよい。ゾル・ゲル反応の加水分解・重合反応の触媒として使用されるものは、「最新ゾル-ゲル法による機能性薄膜作製技術」(平島碩著、株式会社総合技術センター、P29)や「ゾル-ゲル法の科学」(作花済夫著、アグネ承風社、P154)等に記載されている一般的なゾル・ゲル反応で用いられる触媒である。例えば、酸触媒では塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、トルエンスルホン酸等の無機及び有機酸類等が挙げられる。
【0079】
好ましい触媒の使用量は、有機金属酸化物の原料となる金属アルコキシド又は金属カルボキシレート1モルに対して2モル当量以下、さらに好ましくは1モル当量以下ある。
ゾル・ゲル反応をさせる際、好ましい水の添加量は、有機金属酸化物の原料となる金属アルコキシド又は金属カルボキシレート1モルに対して、40モル当量以下であり、より好ましくは、10モル当量以下であり、さらに好ましくは、5モル当量以下である。
【0080】
本発明において、好ましいゾル・ゲル反応の反応濃度、温度、時間は、使用する金属アルコキシド又は金属カルボキシレートの種類や分子量、それぞれの条件が相互に関わるため一概には言えない。すなわち、アルコキシド又は金属カルボキシレートの分子量が高い場合や、反応濃度の高い場合に、反応温度を高く設定したり、反応時間を長くし過ぎたりすると、加水分解、重縮合反応に伴って反応生成物の分子量が上がり、高粘度化やゲル化する可能性がある。したがって、通常の好ましい反応濃度は、おおむね溶液中の固形分の質量%濃度で1~50%の範囲内であり、5~30%の範囲内がより好ましい。また、反応温度は反応時間にもよるが通常0~150℃の範囲内であり、好ましくは1~100℃、より好ましくは20~60℃の範囲内であり、反応時間は1~50時間程度が好ましい。
【0081】
前記有機金属酸化物の重縮合体が金属酸化物薄膜を形成し、以下の反応スキームVにより、水分を吸収して疎水性物質であるフッ素化アルコールを放出する。
なお、下記構造式において、「O-Ti」部の「Ti」は、さらに置換基を有しているが、省略してある。
【0082】
【化9】
【0083】
〔3〕可塑剤
本発明に係る可塑剤の例には、ポリシロキサン化合物、ポリエステル化合物、多価アルコールエステル化合物、多価カルボン酸エステル化合物(フタル酸エステル化合物を含む。)、グリコレート化合物、及びエステル化合物(脂肪酸エステル化合物やリン酸エステル化合物などを含む。)が含まれる。これらは、単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
本発明の金属アルコキシド含有組成物、及び、金属酸化物薄膜に好ましい可塑剤は、ポリシロキサン化合物である。ポリシロキサン化合物は、本発明の金属酸化物薄膜と類似のSi-O-Si結合(金属-酸素結合)を有していることから、溶解性、相溶性などの点で好ましい。
【0085】
ポリシロキサン化合物とは、シロキサン結合(Si-O-Si結合)を有するポリマーであり、一般的構造単位として、下記式(2)で表される単位のいずれかを有している。
〔RSiO1/2〕、〔RSiO〕、〔RSiO3/2〕、〔SiO〕・・・(2)
式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、1~20の炭素原子を含むアルキル基、アリ
ール基、又は不飽和アルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、及びビニル基などであり、これらからなる群より独立して選択される。
【0086】
(ポリシロキサン化合物)
ポリシロキサン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトキエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の加水分解性シリル基を有するシラン化合物の部分加水分解物や、有機溶媒中に無水ケイ酸の微粒子を安定に分散させたオルガノシリカゾル、又は該オルガノシリカゾルにラジカル重合性を有する上記シラン化合物を付加させたもの等が挙げられる。
【0087】
(ポリジメチルシロキサン化合物)
ポリジメチルシロキサン化合物としては、ポリジメチルシロキサン、アルキル変性ポリジメチルシロキサン、カルボキシ変性ポリジメチルシロキサン、アミノ変性ポリジメチルシロキサン、エポキシ変性ポリジメチルシロキサン、フッ素変性ポリジメチルシロキサン、(メタ)アクリレート変性ポリジメチルシロキサン(例えば、東亞合成(株)製GUV-235)などが挙げられる。
また、ポリシロキサン化合物やポリジメチルシロキサン化合物の混合物やコポリマーも使用可能である。
【0088】
ポリエステル化合物とは、ジカルボン酸とジオールを反応させて得られる繰り返し単位を含む化合物であって、ポリエステル化合物を構成するジカルボン酸は、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又は脂環式ジカルボン酸であり、好ましくは芳香族ジカルボン酸である。ジカルボン酸は、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0089】
ポリエステル化合物を構成するジオールは、芳香族ジオール、脂肪族ジオール又は脂環式ジオールであり、好ましくは脂肪族ジオールであり、より好ましくは炭素数1~4のジオールである。ジオールは、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0090】
中でも、ポリエステル化合物は、少なくとも芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、炭素数1~4のジオールとを反応させて得られる繰り返し単位を含むことが好ましく、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸と、炭素数1~4のジオールとを反応させて得られる繰り返し単位を含むことがより好ましい。
【0091】
多価アルコールエステル化合物は、2価以上の脂肪族多価アルコールと、モノカルボン酸とのエステル化合物(アルコールエステル)であり、好ましくは2~20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0092】
脂肪族多価アルコールの好ましい例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4-ブタントリオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、キシリトール等が含まれる。中でも、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールなどが好ましい。
【0093】
モノカルボン酸は、特に制限はなく、脂肪族モノカルボン酸、脂環式モノカルボン酸又は芳香族モノカルボン酸等でありうる。フィルムの透湿性を高め、かつ揮発しにくくするためには、脂環式モノカルボン酸又は芳香族モノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸は、1種類であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。また、脂肪族多価アルコールに含まれるOH基の全部をエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0094】
脂肪族モノカルボン酸は、炭素数1~32の直鎖又は側鎖を有する脂肪酸であることが好ましい。脂肪族モノカルボン酸の炭素数はより好ましくは1~20であり、さらに好ましくは1~10である。脂肪族モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2-エチル-ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸;ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等が含まれる。
【0095】
脂環式モノカルボン酸の例には、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸などが含まれる。
【0096】
芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸;安息香酸のベンゼン環にアルキル基又はアルコキシ基(例えば、メトキシ基やエトキシ基)を1~3個を導入したもの(例えば、トルイル酸など);ベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸(例えば、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸など)が含まれ、好ましくは安息香酸である。
【0097】
多価アルコールエステル化合物の具体例は、特開2006-113239号公報段落〔0058〕~〔0061〕記載の化合物が挙げられる。
【0098】
多価カルボン酸エステル化合物は、2価以上、好ましくは2~20価の多価カルボン酸と、アルコール化合物とのエステル化合物である。多価カルボン酸は、2~20価の脂肪族多価カルボン酸であるか、3~20価の芳香族多価カルボン酸又は3~20価の脂環式多価カルボン酸であることが好ましい。
【0099】
多価カルボン酸エステル化合物の例には、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が含まれる。
【0100】
グリコレート化合物の例には、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が含まれる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類の例には、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が含まれる。
【0101】
エステル化合物には、脂肪酸エステル化合物、クエン酸エステル化合物やリン酸エステ
ル化合物などが含まれる。
【0102】
脂肪酸エステル化合物の例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、及びセバシン酸ジブチル等が含まれる。クエン酸エステル化合物の例には、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、及びクエン酸アセチルトリブチル等が含まれる。リン酸エステル化合物の例には、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、及びトリブチルホスフェート等が含まれる。
【0103】
可塑剤の含有量は、金属アルコキシド含有組成物中の0.1~30質量%の範囲内が好ましく、より好ましくは1~20質量%の範囲内である。可塑剤の含有量が上記範囲内であると、可塑剤の付与効果により、金属アルコキシド含有組成物の保存安定性、及び、当該組成物から形成される金属酸化物薄膜の元来の性質を損なわずに、薄膜に柔軟性を付与することが可能となり、さらには、疎水性のさらなる向上が達成される。
【0104】
〔4〕金属酸化物薄膜
本発明の金属酸化物薄膜は、前記一般式(1)又は前記一般式(2)で表される構造を有する化合物及び可塑剤を含有する組成物を用いて形成された膜であることを特徴とする。
本発明の金属酸化物薄膜は、電子デバイス用有機材料であることが好ましい。なお、「金属酸化物薄膜」はその機能から「封止膜」という場合がある。ただし、後述するガスバリアーフィルムやガラス等の電子デバイスの「封止部材」とは別の部材である。
【0105】
前記電子デバイスとしては、例えば、有機EL素子、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)、液晶素子、太陽電池(光電変換素子)、タッチパネル、液晶表示装置などのカラーフィルター等が挙げられる。特に、本発明においては、本発明の効果発現の観点から、電子デバイスが有機EL素子、太陽電池及び発光ダイオードであることが好ましい。
なお、本発明において、電子デバイス用有機材料とは、有機材料の固形成分のことをいい、有機溶媒を含まないものとする。
【0106】
〔4.1〕金属酸化物薄膜の詳細
本発明の金属酸化物薄膜は、水と反応することにより、疎水性物質を放出する前記乾燥剤を主成分として含有する。「主成分」とは、前記金属酸化物薄膜の全体の質量のうち、70質量%以上が前記乾燥剤であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であることをいう。
【0107】
本発明の金属酸化物薄膜は、前記本発明に係る乾燥剤を含む塗布液を調製し、電子デバイス上に塗布して焼結又は紫外線を照射して重縮合させながら皮膜化することで、形成することができる。
【0108】
塗布液を調製する際に必要であれば用いることのできる有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、又は、脂肪族エーテル又は脂環式エーテル等のエーテル類等が適宜使用できる。
【0109】
塗布液における本発明に係る乾燥剤(有機金属酸化物)の濃度は、目的とする厚さや塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2~35質量%程度であることが好ましい。本発明においては、塗布液には重合を促進する触媒を添加する。
【0110】
調製した塗布液は、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などの塗布による方法、インクジェット・プリント法を含む印刷法などのパターニングによる方法などの湿式形成法が挙げられ、材料に応じて使用できる。これらのうち好ましいのは、インクジェット・プリント法である。インクジェット・プリント法については、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。
【0111】
インクジェット・プリント法によるインクジェットヘッドからの塗布液の吐出方式は、オンデマンド方式及びコンティニュアス方式のいずれでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型及びシェアードウォール型等の電気-機械変換方式、又は、サーマルインクジェット型及びバブルジェット(登録商標)型等の電気-熱変換方式等のいずれでもよい。
【0112】
塗布後の金属酸化物薄膜を固定化するには、低温で重合反応が可能なプラズマやオゾンや紫外線を使うことが好ましい。
【0113】
真空紫外線処理における紫外線の発生手段としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ、UV光レーザー等が挙げられる。
【0114】
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、使用する基材の形状によって適宜選定することができる。金属酸化物薄膜を形成する基材が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することにより行うことができる。紫外線照射に要する時間は、使用する基材や乾燥剤含有塗布液の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒~10分間であり、好ましくは0.5秒~3分間である。
【0115】
塗膜面が受けるエネルギーとしては、均一で堅牢な薄膜を形成する観点から、3.0J/cm以上であることが好ましく、3.5J/cm以上であることがより好ましく、4.0J/cmであることがさらに好ましい。また、同様に、過度な紫外線照射を避ける観点から、14.0J/cm以下であることが好ましく、12.0J/cm以下であることがより好ましく、10.0J/cm以下であることがさらに好ましい。
【0116】
また、真空紫外線(VUV)を照射する際の、酸素濃度は300~10000体積ppm(1体積%)の範囲内とすることが好ましく、さらに好ましくは、500~5000体積ppmの範囲内である。このような酸素濃度の範囲に調整することにより、金属酸化物薄膜が酸素過多になるのを防止して、水分吸収の劣化を防止することができる。
【0117】
真空紫外線(VUV)照射時にこれら酸素以外のガスとしては乾燥不活性ガスを用いることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。
【0118】
これらの真空紫外線処理の詳細については、例えば、特開2012-086394号公報の段落0055~0091、特開2012-006154号公報の段落0049~0085、特開2011-251460号公報の段落0046~0074等に記載の内容を参照することができる。
【0119】
本発明の金属酸化物薄膜は、60℃・90%RH環境下で1時間放置されたときに、金属酸化物薄膜表面に、フッ素原子がどれだけ配向するか推定するために、23℃雰囲気下での純水の接触角を測定することが好ましく、この時の放置後の接触角が放置前の接触角に比べて増加する場合は、より撥水性が向上し、水分透過の封止性が高まる。
【0120】
〔接触角の測定〕
接触角の測定は、公知文献「接着の基礎と理論」(日刊工業新聞社)p52-53に記載の液滴法を参考にして以下の方法で測定することができる。
【0121】
具体的には、金属酸化物薄膜表面の純水の接触角の測定は、JIS-R3257に基づいて、60℃、90%RHで1時間放置した前後の金属酸化物薄膜試料に対して、23℃、55%RHの雰囲気下で、接触角計(協和界面科学株式会社製、商品名DropMaster DM100)を用いて、純水1μLを滴下し1分後における接触角を測定する。なお、測定は金属酸化物薄膜幅手方向に対して等間隔で10点測定して、最大値及び最小値を除いてその平均値を接触角とする。
【0122】
本発明の金属酸化物薄膜の膜厚は、膜厚の範囲はドライ膜で10nm~100μm、より好ましくは、0.1~1μmの範囲内であることが、封止膜としての効果を発現する上で好ましい。
【0123】
〔5〕他の有機化合物薄膜、無機化合物薄膜、又は無機-有機混合物薄膜
本発明の金属酸化物薄膜は、他の有機化合物薄膜、無機化合物薄膜、又は無機-有機混合物薄膜と積層して用いられてもよい。また、金属酸化物薄膜を複数層積層して用いてもよい。
【実施例
【0124】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0125】
実施例1
(組成物1-1の調製)
水分濃度1ppm以下の乾燥窒素雰囲気下のグローブボックス内で、チタニウムテトライソプロポキシド(Ti(OiPr))の3質量%、及び可塑剤1の0.03質量%の脱水テトラフルオロプロパノール(例示化合物F-1)溶液を調液し、ガラスシリンジに封入した25℃・湿度50%RHの大気(Air)を40mLバブリングをして、すぐにグローブボックス内に戻した溶液を金属酸化物ゾル・ゲル液組成物(金属アルコキシド含有組成物)1-1とした。
【0126】
(組成物1-2~1-15及び2-1~2-7の調製)
ゾル・ゲル液組成物の原料種類及び大気バブリング量を表Iに示すように変更した以外は組成物1-1と同様にして組成物1-2~15及び2-1~2-7を調製した。なお、実施例1で用いた可塑剤を下記に示す。
【0127】
可塑剤1:X-22-715(信越化学(株)製 ポリシロキサン化合物)
可塑剤2:TSF4450(GE東芝シリコーン(株)製 ポリシロキサン化合物)
可塑剤3:GUV-235(東亞合成(株)製 ポリシロキサン化合物)
可塑剤4:テトラエチレングリコール
【0128】
前記調製した大気バブリング後のゾル・ゲル液組成物の液状体について白濁(ゲル化)の有無を目視で確認し、さらに、金属酸化物粒子の平均粒径を下記方法によって測定した。
【0129】
(金属酸化物粒子の平均粒径)
平均粒径は、ゼータサイザーナノZS90(Malvern Panalytical社製)を用い、100個の粒子について3回の測定を行い、それぞれ得られる粒径の平均値を確認し、3回測定の平均値を平均粒径とした。その結果を表Iに示す。
表Iの結果から、大気バブリング量を増やしても(大気中経時保存しても)、本発明に係る可塑剤を添加することで、金属酸化物の粒子サイズを小さく抑えることができ、液の白濁も防止することができる。よって、大気中でより安定化し、ゲル化しないことが分かる。
【0130】
実施例2
(金属酸化物薄膜1-1~1-15及び2-1~2-6の作製)
プラスチック基板(ポリイミド)上に前記実施例1で調製したゾル・ゲル液組成物をスピンコート法(1000rpm、30秒)で塗布・成膜し、塗布膜に紫外線(低圧水銀灯;37mw/cmの強度)を80度で10分照射させて、金属酸化物薄膜(封止膜)(1-1~1-15及び2-1~2-6)を作製した。なお、各組成物の番号と各金属酸化物薄膜の番号は、それぞれ対応した関係となっている。
【0131】
(金属酸化物薄膜2-7の作製)
金属酸化物薄膜1-1と同じ組成物をスピンコート法に変えてインクジェット・プリント法で塗布・成膜した点以外は上記方法と同様にして金属酸化物薄膜2-7を作製した。
【0132】
得られた前記金属酸化物薄膜を60℃、90%RHの恒温恒湿槽に1日放置した。前記恒温恒湿槽における放置後の純水の接触角を下記液滴法で測定し、測定結果を下記表IIに示した。
以上の結果から、上記ゾル・ゲル液から作製した金属酸化物薄膜が水分に触れたことで疎水性(撥水性)物質を放出し、それが膜表面に配向したことで表面の疎水性(撥水性)が高まったことが認められた。
【0133】
<接触角の測定>
金属酸化物薄膜表面の純水の接触角の測定は、JIS-R3257に基づいて、60℃、90%RHで1時間放置した前後の金属酸化物薄膜試料に対して、23℃、55%RHの雰囲気下で、接触角計(協和界面科学株式会社製、商品名DropMaster DM100)を用いて、純水1μLを滴下し1分後における接触角を測定した。なお、測定は金属酸化物薄膜幅手方向に対して等間隔で10点測定して、最大値及び最小値を除いてその平均値を接触角とした。
【0134】
<膜性クラック>
得られた前記金属酸化物薄膜を、温度100℃で30分乾燥させた後、屈曲した後に目視観察を行うことで、水と反応することによるクラック(ひび割れ)について評価した。評価結果を下記表IIに示す。
以上の結果から、本発明に係る可塑剤を添加することで、クラックの発生を抑制でき、よって、膜の柔軟性(曲げ耐性)が向上していることを確認できた。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
表IIより、本発明の組成物からなる薄膜は、撥水性が高く、ひび割れ無く、フレキシブル性に優れた金属酸化物薄膜として使用できることが認められた。