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特許7070238液体クロマトグラフ分析装置、移動相供給装置、液体クロマトグラフ分析方法および移動相供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ分析装置、移動相供給装置、液体クロマトグラフ分析方法および移動相供給方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/34 20060101AFI20220511BHJP
   G01N 30/54 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N30/34 A
G01N30/54 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018155792
(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2020030107
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】家氏 淳
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02495777(GB,A)
【文献】特開2008-232729(JP,A)
【文献】国際公開第2007/091323(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0162801(US,A1)
【文献】特開2013-195392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0134079(US,A1)
【文献】特開2015-017924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
B01D 15/00 -15/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相を生成する移動相供給装置と、
前記移動相供給装置により生成された移動相および試料が供給されるインジェクタと、
前記インジェクタに供給された移動相および試料が導入されるカラムと、
前記カラムを通過した試料を検出する検出器とを備え、
前記移動相供給装置は、
塩を含む水溶液を貯留する第1の貯留部と、
有機溶媒を貯留する第2の貯留部と、
前記第1の貯留部に貯留された水溶液と前記第2の貯留部に貯留された有機溶媒とを混合することにより移動相を生成する混合部と、
前記混合部と前記第1の貯留部とを接続する第1の配管と、
前記混合部と前記第2の貯留部とを接続する第2の配管と、
前記混合部により生成される移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、前記第1の配管の少なくとも一部および前記第2の配管の少なくとも一部を加熱する加熱部とを含む、液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項2】
前記カラムを収容し、前記カラムの温度を調整するカラム恒温槽をさらに備え、
前記カラム恒温槽は、前記加熱部を含み、前記第1の配管の少なくとも一部および前記第2の配管の少なくとも一部をさらに収容しつつ、前記第1の配管の少なくとも一部および前記第2の配管の少なくとも一部を加熱する、請求項1記載の液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項3】
試料の液体クロマトグラフ分析に用いる移動相を供給する移動相供給装置であって、
塩を含む水溶液を貯留する第1の貯留部と、
有機溶媒を貯留する第2の貯留部と、
前記第1の貯留部に貯留された水溶液と前記第2の貯留部に貯留された有機溶媒とを混合することにより移動相を生成する混合部と、
前記混合部と前記第1の貯留部とを接続する第1の配管と、
前記混合部と前記第2の貯留部とを接続する第2の配管と、
前記混合部により生成される移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、前記第1の配管の少なくとも一部および前記第2の配管の少なくとも一部を加熱する加熱部とを備える、移動相供給装置。
【請求項4】
移動相供給装置により移動相を生成するステップと、
前記移動相供給装置により生成された移動相および試料をインジェクタに供給するステップと、
前記インジェクタに供給された移動相および試料をカラムに導入するステップと、
前記カラムを通過した試料を検出器により検出するステップとを含み、
前記移動相供給装置により移動相を生成するステップは、
第1の貯留部に貯留された塩を含む水溶液を第1の配管を通して混合部に導くことと、
第2の貯留部に貯留された有機溶媒を第2の配管を通して前記混合部に導くことと、
前記混合部により水溶液と有機溶媒とを混合することにより移動相を生成することと、
前記混合部により生成される移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、前記第1の配管の少なくとも一部および前記第2の配管の少なくとも一部を加熱部により加熱することとを含む、液体クロマトグラフ分析方法。
【請求項5】
前記カラムを収容するカラム恒温槽により前記カラムの温度を調整するステップをさらに含み、
前記カラム恒温槽は、前記加熱部を含み、
前記第1の配管の少なくとも一部および前記第2の配管の少なくとも一部を加熱部により加熱することは、
前記第1の配管の少なくとも一部および前記第2の配管の少なくとも一部を前記カラム恒温槽に収容することと、
前記第1の配管の少なくとも一部および前記第2の配管の少なくとも一部を前記カラム恒温槽により加熱することとを含む、請求項4記載の液体クロマトグラフ分析方法。
【請求項6】
試料の液体クロマトグラフ分析に用いる移動相を供給する移動相供給方法であって、
第1の貯留部に貯留された塩を含む水溶液を第1の配管を通して混合部に導くステップと、
第2の貯留部に貯留された有機溶媒を第2の配管を通して前記混合部に導くステップと、
前記混合部により水溶液と有機溶媒とを混合することにより移動相を生成するステップと、
前記混合部により生成される移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、前記第1の配管の少なくとも一部および前記第2の配管の少なくとも一部を加熱部により加熱するステップとを含む、移動相供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動相を供給する液体クロマトグラフ分析装置、移動相供給装置、液体クロマトグラフ分析方法および移動相供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ分析装置においては、塩を含む水溶液(以下、単に水溶液と呼ぶ。)と有機溶媒との混合液が移動相として用いられることがある。例えば、水溶液と有機溶媒とが共通のボトル内で予め混合されることにより混合液が生成される。この場合、水溶液中の塩が析出することはほとんどない。仮に、塩が析出した場合でも、ボトル内で混合液を撹拌することにより塩を混合液に再度溶解させることができる。
【0003】
一方、水溶液と有機溶媒とが別個のボトルに貯留され、試料の分析時に、ボトルから供給された水溶液と有機溶媒とが共通の流路内で混合されることにより混合液が生成されることがある。この場合、水溶液と有機溶媒とが接触する界面では、有機溶媒の濃度が高くなるため、塩の析出が発生しやすくなる。有機溶媒の濃度が高い場合には、この問題はより顕在化する。
【0004】
特許文献1には、塩を溶解した緩衝液(以下、単に緩衝液と呼ぶ。)と有機溶媒との混合液を移動相として液体クロマトグラフの分析流路へ供給する移動相供給装置が記載されている。この移動相供給装置においては、第1の貯留タンクに貯留された緩衝液が、第1の電磁弁、第1の逆流防止弁および混合流路を通して送液ポンプに供給される。また、第2の貯留タンクに貯留された有機溶媒が、第2の電磁弁、第2の逆流防止弁および混合流路を通して送液ポンプに供給される。緩衝液と有機溶媒とは、送液ポンプのポンプ室内で混合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-156660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された移動相供給装置においては、混合流路で緩衝液と有機溶媒とが接触した際に塩が析出した場合でも、第1および第2の逆流防止弁により第1および第2の電磁弁に塩が侵入することがそれぞれ防止される。しかしながら、塩の析出自体を防止することはできず、析出された塩により移動相の安定的な供給が阻害される可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、移動相を安定的に供給することが可能な液体クロマトグラフ分析装置、移動相供給装置、液体クロマトグラフ分析方法および移動相供給方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)第1の発明に係る液体クロマトグラフ分析装置は、移動相を生成する移動相供給装置と、移動相供給装置により生成された移動相および試料が供給されるインジェクタと、インジェクタに供給された移動相および試料が導入されるカラムと、カラムを通過した試料を検出する検出器とを備え、移動相供給装置は、塩を含む水溶液を貯留する第1の貯留部と、有機溶媒を貯留する第2の貯留部と、第1の貯留部に貯留された水溶液と第2の貯留部に貯留された有機溶媒とを混合することにより移動相を生成する混合部と、混合部と第1の貯留部とを接続する第1の配管と、混合部と第2の貯留部とを接続する第2の配管と、混合部により生成される移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部を加熱する加熱部とを含む。
【0009】
この液体クロマトグラフ分析装置においては、移動相供給装置により生成された移動相および試料がインジェクタに供給される。インジェクタに供給された移動相および試料がカラムに導入され、カラムを通過した試料が検出器により検出される。
【0010】
移動相供給装置においては、第1の貯留部に貯留された塩を含む水溶液が第1の配管を通して混合部に導かれ、第2の貯留部に貯留された有機溶媒が第2の配管を通して混合部に導かれる。混合部により水溶液と有機溶媒とが混合されることにより移動相が生成される。ここで、混合部により生成される移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部が加熱部により加熱される。
【0011】
この構成によれば、混合部よりも上流において、移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように水溶液および有機溶媒が加熱される。そのため、水溶液が有機溶媒と接触した場合でも、有機溶媒の濃度に関わらず塩が析出することが防止される。したがって、塩が移動相の安定的な供給を阻害することがない。これにより、移動相を安定的に供給することができる。
【0012】
(2)液体クロマトグラフ分析装置は、カラムを収容し、カラムの温度を調整するカラム恒温槽をさらに備え、カラム恒温槽は、加熱部を含み、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部をさらに収容しつつ、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部を加熱してもよい。この場合、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部を加熱するための加熱部をカラム恒温槽と別個に設ける必要がない。これにより、移動相供給装置のコストを低減しつつ、移動相供給装置をコンパクトにすることができる。
【0013】
(3)第2の発明に係る移動相供給装置は、試料の液体クロマトグラフ分析に用いる移動相を供給する移動相供給装置であって、塩を含む水溶液を貯留する第1の貯留部と、有機溶媒を貯留する第2の貯留部と、第1の貯留部に貯留された水溶液と第2の貯留部に貯留された有機溶媒とを混合することにより移動相を生成する混合部と、混合部と第1の貯留部とを接続する第1の配管と、混合部と第2の貯留部とを接続する第2の配管と、混合部により生成される移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部を加熱する加熱部とを備える。
【0014】
この移動相供給装置においては、水溶液が有機溶媒と接触した場合でも、有機溶媒の濃度に関わらず塩が析出することが防止される。したがって、塩が移動相の安定的な供給を阻害することがない。これにより、移動相を安定的に供給することができる。
【0015】
(4)第3の発明に係る液体クロマトグラフ分析方法は、移動相供給装置により移動相を生成するステップと、移動相供給装置により生成された移動相および試料をインジェクタに供給するステップと、インジェクタに供給された移動相および試料をカラムに導入するステップと、カラムを通過した試料を検出器により検出するステップとを含み、移動相供給装置により移動相を生成するステップは、第1の貯留部に貯留された塩を含む水溶液を第1の配管を通して混合部に導くことと、第2の貯留部に貯留された有機溶媒を第2の配管を通して混合部に導くことと、混合部により水溶液と有機溶媒とを混合することにより移動相を生成することと、混合部により生成される移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部を加熱部により加熱することとを含む。
【0016】
この液体クロマトグラフ分析方法によれば、移動相供給装置において水溶液が有機溶媒と接触した場合でも、有機溶媒の濃度に関わらず塩が析出することが防止される。したがって、塩が移動相の安定的な供給を阻害することがない。これにより、移動相を安定的に供給することができる。
【0017】
(5)液体クロマトグラフ分析方法は、カラムを収容するカラム恒温槽によりカラムの温度を調整するステップをさらに含み、カラム恒温槽は、加熱部を含み、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部を加熱部により加熱することは、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部をカラム恒温槽に収容することと、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部をカラム恒温槽により加熱することとを含んでもよい。この場合、移動相供給装置のコストを低減しつつ、移動相供給装置をコンパクトにすることができる。
【0018】
(6)第4の発明に係る移動相供給方法は、試料の液体クロマトグラフ分析に用いる移動相を供給する移動相供給方法であって、第1の貯留部に貯留された塩を含む水溶液を第1の配管を通して混合部に導くステップと、第2の貯留部に貯留された有機溶媒を第2の配管を通して混合部に導くステップと、混合部により水溶液と有機溶媒とを混合することにより移動相を生成するステップと、混合部により生成される移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、第1の配管の少なくとも一部および第2の配管の少なくとも一部を加熱部により加熱するステップとを含む。
【0019】
この移動相供給方法によれば、水溶液が有機溶媒と接触した場合でも、有機溶媒の濃度に関わらず塩が析出することが防止される。したがって、塩が移動相の安定的な供給を阻害することがない。これにより、移動相を安定的に供給することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、移動相を安定的に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態に係る液体クロマトグラフ分析装置の構成を示す図である。
図2】第1の変形例に係る液体クロマトグラフ分析装置の構成を示す図である。
図3】第2の変形例に係る液体クロマトグラフ分析装置の構成を示す図である。
図4】実施例1における送液部の圧力指示値の時間変化を示す図である。
図5】比較例1における送液部の圧力指示値の時間変化を示す図である。
図6】実施例2における試料の分析の結果を示す図である。
図7】実施例3における試料のグラジエント分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)液体クロマトグラフ分析装置の構成
以下、本発明の実施の形態に係る移動相供給装置、液体クロマトグラフ分析装置、移動相供給方法および液体クロマトグラフ分析方法について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る液体クロマトグラフ分析装置の構成を示す図である。図1の液体クロマトグラフ分析装置100は、HPLC(高速液体クロマトグラフ分析装置)である。
【0023】
図1に示すように、液体クロマトグラフ分析装置100は、移動相供給装置10、インジェクタ20、カラム恒温槽30および検出器40を含む。カラム恒温槽30は、加熱部を含む。カラム恒温槽30の内部にはカラム31が収容され、カラム恒温槽30の内部は所定の一定温度に調整される。
【0024】
移動相供給装置10は、配管1,2,3、貯留部11,12、混合部13、脱気装置14および送液部15を含む。また、本実施の形態においては、移動相供給装置10は、カラム恒温槽30の一部(加熱部)を含む。貯留部11は、薬液ボトルであり、塩を含む水溶液(以下、単に水溶液と呼ぶ。)を貯留する。貯留部12は、貯留部11と同様の薬液ボトルであり、有機溶媒を貯留する。貯留部11,12は、それぞれ第1および第2の貯留部の例である。
【0025】
混合部13は、例えば低圧グラジエントユニットであり、ポートA,B,Cを含む。貯留部11と混合部13のポートAとが配管1により接続される。貯留部12と混合部13のポートBとが配管2により接続される。配管1,2は、それぞれ第1および第2の配管の例である。混合部13のポートCに配管3が接続される。混合部13は、配管1を通してポートAに供給された貯留部11からの水溶液と、配管2を通してポートBに供給された貯留部12からの有機溶媒とを混合することにより移動相を生成し、生成された移動相をポートCから出力する。
【0026】
以下の説明では、水溶液または有機溶媒の流れを基準として液体クロマトグラフ分析装置100の上流および下流を定義する。混合後の移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、混合部13よりも上流に位置する配管1,2の少なくとも一部が加熱される。本実施の形態においては、配管1,2の各々の一部がカラム恒温槽30内に配置される。これにより、カラム恒温槽30内において、混合後の移動相の温度が塩の溶解温度以上になるだけの熱交換を水溶液および有機溶媒に行うことができる。
【0027】
カラム恒温槽30に配置される配管1,2の部分は、ループ状に形成されてもよい。この場合、カラム恒温槽30に配置される配管1,2の部分を十分に長くしつつコンパクトに維持することができる。その結果、上記の熱交換をより容易に行うことができる。
【0028】
脱気装置14は、配管1,2の各々に介挿され、配管1内を流れる水溶液に含まれる気体を除去するとともに、配管2内を流れる有機溶媒に含まれる気体を除去する。送液部15は、例えばポンプユニットであり、配管3に介挿される。送液部15は、混合部13のポートCから出力された移動相を下流に圧送する。
【0029】
配管3には、送液部15よりも下流において、インジェクタ20、カラム31および検出器40がこの順で介挿される。インジェクタ20には、測定対象の試料が供給され、送液部15により圧送される移動相とともにカラム31に導入される。カラム31に導入された試料は、成分ごとに分離され、異なる時間で溶出される。検出器40は、カラム31から溶出された試料を検出する。
【0030】
(2)変形例
図2は、第1の変形例に係る液体クロマトグラフ分析装置100の構成を示す図である。図2に示すように、第1の変形例に係る液体クロマトグラフ分析装置100は、加熱部16,17を含む。第1の変形例に係る液体クロマトグラフ分析装置100は、脱気装置14を含まないが、脱気装置14を含んでもよい。後述する第2の変形例に係る液体クロマトグラフ分析装置100においても同様である。
【0031】
加熱部16,17は、温水槽、電熱ヒータまたはペルチェ素子等のいずれであってもよく、混合後の移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、配管1,2の少なくとも一部をそれぞれ加熱する。この場合、配管1,2の各々の一部がカラム恒温槽30内に配置されなくてもよい。なお、第1の変形例に係る液体クロマトグラフ分析装置100は、加熱部16,17に代えて、混合部13を加熱する共通の加熱部を含んでもよい。
【0032】
図3は、第2の変形例に係る液体クロマトグラフ分析装置100の構成を示す図である。図3に示すように、第2の変形例に係る液体クロマトグラフ分析装置100は、送液部15に代えて、送液部15と同様の送液部15a,15bを含む。また、混合部13は、低圧グラジエントユニットではなく、例えばミキサユニットである。
【0033】
送液部15aは、配管1に介挿され、貯留部11に貯留された水溶液を混合部13に向けて圧送する。送液部15bは、配管2に介挿され、貯留部12に貯留された有機溶媒を混合部13に向けて圧送する。この場合、水溶液と有機溶媒とが別個の送液部15a,15bにより送液される。これにより、高圧グラジエント法を用いて試料の分析を行うことができる。
【0034】
第2の変形例に係る液体クロマトグラフ分析装置100は、第1の変形例と同様の加熱部16,17、または混合部13を加熱する共通の加熱部を含んでもよい。この場合、配管1,2の各々の一部がカラム恒温槽30内に配置されなくてもよい。
【0035】
(3)効果
本実施の形態に係る液体クロマトグラフ分析装置100においては、移動相供給装置10により生成された移動相および試料がインジェクタ20に供給される。インジェクタ20に供給された移動相および試料がカラム恒温槽30に収容されたカラム31に導入され、カラム31を通過した試料が検出器40により検出される。
【0036】
移動相供給装置10においては、貯留部11に貯留された塩を含む水溶液が配管1を通して混合部13に導かれ、貯留部12に貯留された有機溶媒が配管2を通して混合部13に導かれる。混合部13により水溶液と有機溶媒とが混合されることにより移動相が生成される。ここで、配管1の少なくとも一部および配管2の少なくとも一部がカラム恒温槽30に収容される。混合部13により生成される移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように、配管1の少なくとも一部および配管2の少なくとも一部がカラム恒温槽30により加熱される。
【0037】
この構成によれば、混合部13よりも上流において、移動相の温度が水溶液に含まれる塩の溶解温度以上になるように水溶液および有機溶媒が加熱される。そのため、水溶液が有機溶媒と接触した場合でも、有機溶媒の濃度に関わらず塩が析出することが防止される。したがって、塩が移動相の安定的な供給を阻害することがない。これにより、移動相を安定的に供給することができる。
【0038】
また、本実施の形態においては、配管1の少なくとも一部および配管2の少なくとも一部がカラム恒温槽30により加熱されるので、加熱部をカラム恒温槽30と別個に設ける必要がない。これにより、移動相供給装置10のコストを低減しつつ、移動相供給装置10をコンパクトにすることができる。
【0039】
(4)実施例1および比較例
実施例1では、予め冷却されたリン酸カリウム緩衝液および予め冷却されたアセトニトリルをそれぞれ水溶液および有機溶媒とし、図1の移動相供給装置10を用いて移動相の供給を行った。以下、リン酸カリウム緩衝液をA液と呼び、アセトニトリルをB液と呼ぶ。後述する比較例1、実施例2および実施例3においても同様である。
【0040】
具体的には、実施例1では、貯留部11に50mmol/LのA液が貯留され、貯留部12に50mmol/LのB液が貯留された。これらの貯留部11,12から45:55の流量の比率でA液およびB液が送液されるように混合部13が制御された。ここで、混合部13は、低圧グラジエントユニットである。
【0041】
また、配管1,2をそれぞれ流れるA液およびB液が、約10分間カラム恒温槽30内を滞留して加熱されるように、各配管1,2における約5mLの部分がカラム恒温槽30内に配置された。A液およびB液は、カラム恒温槽30により加熱され、混合部13により混合された後、送液部15により下流に送液された。
【0042】
図4は、実施例1における送液部15の圧力指示値の時間変化を示す図である。図4に示すように、実施例1においては、送液部15の圧力は略一定であり、圧力に変動が発生しなかった。これにより、実施例1においては、A液とB液とが混合されても塩が析出することがなく、したがって、移動相を安定的に供給することが可能であることが確認された。
【0043】
一方、比較例1では、配管1,2を加熱するための構成が設けられない点を除いて図1の移動相供給装置10と同様の構成を有する液体クロマトグラフ分析装置を用いて、実施例1と同様の移動相の供給を行った。したがって、A液およびB液は、加熱されることなく混合部13により混合された後、送液部15により下流に送液された。
【0044】
図5は、比較例1における送液部15の圧力指示値の時間変化を示す図である。図5に示すように、比較例1においては、送液開始後、7分間程度は送液部15の圧力は略一定であり、圧力に変動が発生しなかった。これは、送液開始時の送液部15の温度が高かったため、塩が析出しなかったことが原因であると考えられる。しかしながら、送液開始後7分を超えると、送液部15の圧力が小刻みに大きく変動し、移動相を安定的に供給することが不可能になった。これは、送液部15の温度が低下したため、塩が析出したことが原因であると考えられる。
【0045】
(5)実施例2
実施例2では、図1の液体クロマトグラフ分析装置100を用いて試料の分析を行った。試料は、農薬のチウラム標準液である。具体的には、濃度0.1mg/L、0.2mg/L、0.5mg/Lおよび1.0mg/Lのチウラム標準液がインジェクタ20に順次供給され、実施例1と同一の条件で生成された移動相によりカラム31に導入された。ここで、カラム31は、ODS(オクタデシルシリル)カラムであり、カラム31の温度は40℃である。移動相の流量および供給量は、それぞれは1.0mL/minおよび20μLである。
【0046】
図6は、実施例2における試料の分析の結果を示す図である。図6の横軸は時間を示し、縦軸は試料の検出強度を示す。また、濃度0.1mg/L、0.2mg/L、0.5mg/Lおよび1.0mg/Lの試料の分析結果が、実線、点線、一点鎖線および二点鎖線によりそれぞれ示される。図6に示すように、実施例2においては、試料の濃度に関わらず、検出強度のベースラインに変動が発生しなかった。これにより、移動相を安定的に供給し、試料の検出および分析を安定的に行うことが可能であることが確認された。
【0047】
(6)実施例3
実施例3では、試料のグラジエント分析を行った。具体的には、濃度1.0mg/Lのチウラム標準液が試料として用いられ、A液とB液との濃度が70:30~30:70の範囲で連続的に変化された。他の分析条件は、実施例2における分析条件と同一である。
【0048】
図7(a)~(c)は、実施例3における試料のグラジエント分析の結果を示す図である。図7(a)~(c)の横軸は共通の時間を示し、図7(a)の縦軸はB液の比率(濃度)を示し、図7(b)の縦軸は送液部15の圧力の指示値を示し、図7(c)の縦軸は試料の検出強度を示す。
【0049】
図7(a),(b)に示すように、B液の濃度を30%から70%に上昇させた場合でも、送液部15の圧力が小刻みに変動することはなかった。これにより、A液が高い濃度を有するB液に混合された場合でも、塩が析出することがなく、したがって、移動相を安定的に供給することが可能であることが確認された。また、図7(c)に示すように、検出強度のベースラインに変動が発生しなかった。これにより、試料の検出およびグラジエント分析を安定的に行うことが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0050】
1~3…配管,10…移動相供給装置,11,12…貯留部,13…混合部,14…脱気装置,15,15a,15b…送液部,16,17…加熱部,20…インジェクタ,30…カラム恒温槽,31…カラム,40…検出器,100…液体クロマトグラフ分析装置,A~C…ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7