(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】シリコーン架橋剤、界面活性剤および乳化組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 65/337 20060101AFI20220511BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20220511BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20220511BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20220511BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220511BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C08G65/337
C08L71/02
C08L83/05
C08L91/00
C08L83/04
C08K5/103
(21)【出願番号】P 2018158881
(22)【出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】新井 悠亮
(72)【発明者】
【氏名】藤井 基隆
(72)【発明者】
【氏名】原 優介
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-011190(JP,A)
【文献】特開2010-270242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G,C08L,C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるアルキルオキシラン誘導体からなるオルガノポリシロキサンの架橋剤であって、前記アルキルオキシラン誘導体のゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出されるM
HとM
Lとが式(2)の関係を満足
しており、
前記アルキルオキシラン誘導体は、複合金属シアン化物触媒の存在下で、水分量0.5wt%以下の炭素数1~22の炭化水素基を有する一価アルコールに対して水分量0.01wt%以下のメチルオキシランを70~110℃で開環付加させた中間体のエーテル化反応物であり、
メチルオキシランの全供給量の5~20wt%を供給する間のメチルオキシランの平均供給速度をV
1
、メチルオキシランの全供給量の20~50wt%を供給する間の平均供給速度をV
2
、メチルオキシランの全供給量の50~100wt%を供給する間の平均供給速度をV
3
としたとき、V
1
/V
2
=1.1~2.0、V
2
/V
3
=1.1~1.5とすることを特徴とする、架橋剤。
R
1O-(AO)n-R
1 ・・・・(1)
(式(1)中、
AOは炭素数3のオキシアルキレン基を示し、
nは25以上の数を示し、
R
1は炭素数3~5のアルケニル基である)
0.35≦ M
L/M
H ≦0.75 ・・・・(2)
(前記クロマトグラム上の屈折率強度が最大となる極大点KからベースラインBへの垂線の長さをLとし、屈折率強度がL/2となるクロマトグラム上の2点のうち溶出時間が早いほうを点Oとし、溶出時間が遅いほうを点Qとし、点Oと点Qを結ぶ直線Gと前記極大点Kから前記ベースラインへ引いた垂線との交点をPとしたとき、点Oと交点Pの距離をM
Hとし、点Qと交点Pの距離をM
Lとする。)
【請求項2】
前記クロマトグラムから算出されるAsが式(3)および式(4)の関係を満たすことを特徴とする、請求項1記載のオルガノポリシロキサンの架橋剤。
As= W
1/2/W
5% ・・・・(3)
0.50≦ As ≦0.90 ・・・・(4)
(前記クロマトグラム上で屈折率強度がL/20となる2点溶出時間が早いほうを点Rとし、溶出時間が遅いほうを点Sとし、点Rと点Sを結んだ直線Hと前記極大点Kから前記ベースラインBへ引いた垂線との交点をTとし、点のうちRと交点Tの距離をW
1/2、点Rと点Sの距離をW
5%とする。)
【請求項3】
請求項1または2記載の架橋剤、下記式(5)で表されるハイドロジェンオルガノポリシロキサンおよび下記式(6)で表されるシリコーン変性剤の反応物からなることを特徴とする、界面活性剤。
【化5】
(式(5)中、
mは1~50、lは0~50であり、l/mは0~1であり、
R
2は、炭素数1~8の炭化水素基であり、
R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~8の炭化水素基であり、l=0のときにはR
3とR
4との少なくとも一つは水素原子である。)
【化6】
(式(6)中、
AOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、
aは、前記オキシアルキレン基AOの平均付加モル数を示し、a=3~20であり、
R
5は、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基である。)
【請求項4】
下記成分(A)、成分(B)および成分(C)を含有することを特徴とする、乳化組成物。
成分(A): 請求項3記載の界面活性剤
成分(B): 25℃で液状の炭化水素油、25℃で液状のエステル油および25℃で液状のシリコーン油からなる群より選ばれた一種以上の油剤
成分(C): 水
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレングリコール構造の末端に二重結合を二つ有する架橋剤に関するものである。さらに当該化合物とハイドロジェンオルガノポリシロキサンの反応により得られるゲル状組成物に関する。また、当該架橋剤とポリアルキレングリコール構造の末端に二重結合を一つ有する化合物との反応により得られる界面活性剤に関し、当該界面活性剤を用いた乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン(ポリエーテル変性シリコーン)はジメチルポリシロキサンを基本骨格とし、メチル基の一部にポリオキシアルキレン系化合物(以下、ポリエーテル)を導入した化合物の総称であり、主に界面活性剤として利用されている。当該化合物はジメチルポリシロキサンとポリエーテルの配合比率、あるいはポリエーテル中のアルキレンオキサイドの付加形態により、水や油剤との相溶性を変化させることができ、さらにポリエーテルの分子鎖末端の官能基によっても界面特性がことなるという特長から幅広い分野に応用されている。
【0003】
主な使用例として、化粧品用途における使用が挙げられる。シリコーン油は、従来からその安全性等のために化粧品を初めとする諸分野において各種組成物の基油として用いられているが、シリコーン油を高配合すると、乳化が困難となり、配合安定性を損なうばかりか、使用感の悪化をもたらす場合があった。これは一般的に用いられる界面活性剤(ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル系等)はシリコーン油との相溶性が低く、安定な乳化状態を維持できないためである。そこで、シリコーン油と相溶性の良いポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン(ポリエーテル変性シリコーン)が界面活性剤として使用されている(例えば特許文献1、特許文献2および特許文献3)。
【0004】
他の用途としては、農薬用展着剤としての使用が挙げられる。従来から農業分野において、農作物の害虫駆除のために農薬が散布されるが、散布された農薬は、植物あるいは害虫等に吸収されて初めてその効果を発揮する。しかし、植物表面にはロウリポイド類が分泌されていたり、微細な凸凹があることが多く、農薬水溶液をはじく性能を有している。そこで、農薬の付着性を高める目的で、表面張力を低下させる働きを示すポリエーテル変性シリコーンが広く利用されている。
【0005】
ポリエーテル変性シリコーンの使用例は、前述した用途に限られず、塗料添加剤、ウレタンフォーム用整泡剤、プラスチック添加剤、防曇剤、消泡剤、繊維油剤あるいは水溶性潤滑剤等が挙げられる。
【0006】
ポリエーテル変性シリコーンは優れた性能を有するが、pHによる影響を受け易いという問題点がある。酸性および塩基性条件下では、シロキサン結合が加水分解されやすく構造が変化することで活性能が低下すると考えられている。そのため、ポリエーテル変性シリコーンを使用した乳化物は中性領域でのみでしか安定な乳化物が得られなかった(例えば非特許文献1)。
【0007】
例えば、化粧品用途において、染毛剤等の様にアルカリ性の化粧品も数多く存在し、前記ポリエーテル変性シリコーンの欠点は配合処方に制限をもたらしていた。また、農薬分野においても殺菌性能の向上のために、液性を酸性とする場合があるが(例えば特許文献4)、ポリエーテル変性シリコーンを展着剤として使用することを困難としていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】作田、「ポリエーテル変性シリコーンの界面活性力」、色材協会誌、一般社団法人色材協会、2001年1月20日、第74巻、第1号、p.34―38
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭61-293904号公報
【文献】特開昭62-216635号公報
【文献】特開2008-115358号公報
【文献】特開2006-176475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、優れた乳化性能を有し、耐酸性および耐塩基性を確保することのできる、ポリエーテル変性シリコーンが望まれる。
【0011】
本発明の課題は、油剤に対し優れた乳化性能を持ち、耐酸性および耐塩基性を確保するハイドロジェンオルガノポリシロキサンである界面活性剤を調製可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、ハイドロジェンポリシロキサンとアリル基を末端に一つ含有するポリアルキレングリコールである変性剤を反応させ、界面活性剤を製造する際にアリル基を末端に二つ含有する分子量分布に特定の偏りのあるポリアルキレングリコールを架橋剤として反応させることで、優れた乳化安定性と耐酸性および耐塩基性を示し、非常に有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のものである。
(1) 式(1)で表されるアルキルオキシラン誘導体からなるオルガノポリシロキサンの架橋剤であって、前記アルキルオキシラン誘導体のゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出されるMHとMLとが式(2)の関係を満足しており、
前記アルキルオキシラン誘導体は、複合金属シアン化物触媒の存在下で、水分量0.5wt%以下の炭素数1~22の炭化水素基を有する一価アルコールに対して水分量0.01wt%以下のメチルオキシランを70~110℃で開環付加させた中間体のエーテル化反応物であり
メチルオキシランの全供給量の5~20wt%を供給する間のメチルオキシランの平均供給速度をV
1
、メチルオキシランの全供給量の20~50wt%を供給する間の平均供給速度をV
2
、メチルオキシランの全供給量の50~100wt%を供給する間の平均供給速度をV
3
としたとき、V
1
/V
2
=1.1~2.0、V
2
/V
3
=1.1~1.5とすることを特徴とする、架橋剤。
R1O-(AO)n-R1 ・・・・(1)
(式(1)中、
AOは炭素数3のオキシアルキレン基を示し、
nは25以上の数を示し、
R1は炭素数3~5のアルケニル基である)
0.35≦ ML/MH ≦0.75 ・・・・(2)
(前記クロマトグラム上の屈折率強度が最大となる極大点KからベースラインBへの垂線の長さをLとし、屈折率強度がL/2となるクロマトグラム上の2点のうち溶出時間が早いほうを点Oとし、溶出時間が遅いほうを点Qとし、点Oと点Qを結ぶ直線Gと前記極大点Kから前記ベースラインへ引いた垂線との交点をPとしたとき、点Oと交点Pの距離をMHとし、点Qと交点Pの距離をMLとする。)
【0014】
前記クロマトグラムから算出されるAsが式(3)および式(4)の関係を満たすことを特徴とする、(1)のオルガノポリシロキサンの架橋剤。
As= W1/2/W5% ・・・・(3)
0.50≦ As ≦0.90 ・・・・(4)
(前記クロマトグラム上で屈折率強度がL/20となる2点溶出時間が早いほうを点Rとし、溶出時間が遅いほうを点Sとし、点Rと点Sを結んだ直線Hと前記極大点Kから前記ベースラインBへ引いた垂線との交点をTとし、点のうちRと交点Tの距離をW1/2、点Rと点Sの距離をW5%とする。)
【0015】
(3) (1)または(2)の架橋剤、下記式(5)で表されるハイドロジェンオルガノポリシロキサンおよび下記式(6)で表されるシリコーン変性剤の反応物からなることを特徴とする、界面活性剤。
【化5】
(式(5)中、
mは1~50、lは0~50であり、l/mは0~1であり、
R
2は、炭素数1~8の炭化水素基であり、
R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~8の炭化水素基であり、l=0のときにはR
3とR
4との少なくとも一つは水素原子である。)
【化6】
(式(6)中、
AOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、
aは、前記オキシアルキレン基AOの平均付加モル数を示し、a=3~20であり、
R
5は、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基である。)
【0016】
(4) 下記成分(A)、成分(B)および成分(C)を含有することを特徴とする、乳化組成物。
成分(A): (3)の界面活性剤
成分(B): 25℃で液状の炭化水素油、25℃で液状のエステル油および25℃で液状のシリコーン油からなる群より選ばれた一種以上の油剤
成分(C): 水
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る架橋剤を使用してポリエーテル変性シリコーンの製造を行なうことで、当該界面活性剤を使用した乳化物は長期安定性を有し耐酸性および耐塩基性に優れる。当該化合物は、化粧品添加剤、農薬展着剤、塗料添加剤、ウレタンフォーム用整泡剤、プラスチック添加剤、防曇剤、消泡剤、繊維油剤あるいは水溶性潤滑剤としての使用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本発明にて定義されるM
LとM
Hを説明するためのモデルクロマトグラム図である。
【
図2】
図2は本発明にて定義されるW
1/2とW
5%を説明するためのモデルクロマトグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(架橋剤)
本発明に係る架橋剤は、下記の式(1)で表されるアルキルオキシラン誘導体からなるものである。
R1O-(AO)n-R1 ・・・・(1)
【0020】
式(1)において、nは、炭素数3のオキシアルキレン基AOの平均付加モル数を示し、25以上である。オキシアルキレン基AOの付加モル数nが25未満になると、乳化安定性の低下を引き起こすため、25以上とするが、100以上が更に好ましい。また、nが200を超えると、ポリエーテル変性シリコーン製造の際に悪影響を及ぼすため、nは200以下が好ましく、架橋剤の製造容易性の観点からは170以下が更に好ましい。
【0021】
式(1)において、R1は炭素数3~5のアルケニル基である。シリコーンとの反応性および架橋剤の製造容易性の観点からは、炭素数3のアルケニル基であるアリル基が特に好ましい。
【0022】
本発明のアルキルオキシラン誘導体は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)において、示差屈折率計を用いて得られたクロマトグラムによって規定される。このクロマトグラムとは、屈折率強度と溶出時間との関係を表すグラフである。本発明のアルキルオキシラン誘導体では、クロマトグラムが左右非対称であり、式(2)の関係を満たす。なお、ML/M
Hが1に近い値となるほど、クロマトグラムの形状は左右対称となる。
0.35≦ ML/MH ≦0.75 ・・・・(2)
【0023】
ここで、
図1は、アルキルオキシラン誘導体のゲル浸透クロマトグラフィーにより得られるクロマトグラムのモデル図であり、横軸は溶出時間を、縦軸は示差屈折率計を用いて得られた屈折率強度を示す。
【0024】
ゲル浸透クロマトグラフに試料溶液を注入して展開すると、最も分子量の高い分子から溶出が始まり、屈折率強度の増加に伴い、溶出曲線が上昇していく。その後、屈折率強度が最大となる極大点Kを過ぎると、溶出曲線は下降していく。
【0025】
また、本発明のアルキルオキシラン誘導体のゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、クロマトグラムの屈折率強度の極大点が複数ある場合は、それらのうち屈折率強度が最も大きい点を極大点Kとする。さらに同じ屈折率強度の極大点が複数ある場合は、溶出時間の遅いほうを屈折率強度の極大点Kとする。この際、ゲル浸透クロマトグラフィーに使用した展開溶媒などに起因するピークや、使用したカラムや装置に起因するベースラインの揺らぎによる疑似ピークは除く。
【0026】
ML/MHは、それぞれ、以下のようにしてクロマトグラムから算出する。
(1) クロマトグラム上の屈折率強度の極大点KからベースラインBへ垂線を引き、垂線の長さをLとする。
(2) 屈折率強度がL/2となるクロマトグラム上の2点のうち、溶出時間が早いほうを点Oとし、溶出時間が遅いほうを点Qとする。
(3) 点Oと点Qを結んだ直線Gと、屈折率強度の極大点KからベースラインBへ引いた垂線との交点をPとする。
(4) 点Oと交点Pの距離をM H、交点Pと点Qの距離をMLとする。
【0027】
本発明のアルキルオキシラン誘導体は、ML/MHが0.35≦ML/MH≦0.75を満たすものである。ML/MHが0.75より大きくなると、アルキルオキシラン誘導体の粘度の低下が生じ、架橋剤としての十分な効果を発揮しない。この観点から、ML/MHを0.75以下とするが、0.62以下とすることが更に好ましい。
【0028】
また、ML/MHが小さくなるほど、分子量分布における高分子量側の偏りが大きくなり、それに由来する粘度の上昇などが見られる。ML/MHが0.35より小さくなると、粘度が高くなりすぎ、例えば化粧料に配合しにくくなる。この観点からは、ML/MHを0.35以上とするが、0.36以上とすることが更に好ましい。
【0029】
好適な実施形態においては、ゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、示差屈折率計を用いて得られた屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムが左右非対称であり、以下に示すようにして求められるクロマトグラムのピークの非対称値Asが以下の式(3)、式(4)を満たす。
As=W1/2/W5% ・・・(3)
0.50≦As≦0.90 ・・・(4)
【0030】
図2のクロマトグラムのモデル図を参照しつつ、Asの算出方法について更に説明する。横軸は溶出時間を、縦軸は示差屈折率計を用いて得られた屈折率強度を示す。ゲル浸透クロマトグラフに試料溶液を注入して展開すると、最も分子量の高い分子から溶出が始まり、屈折率強度の増加に伴い溶出曲線が上昇していく。その後、屈折率強度が最大となる極大点を過ぎ、溶出曲線は下降していく。
【0031】
(1) クロマトグラム上の屈折率強度の極大点KからベースラインBへ垂線を引き、その長さをLとする。
(2) 屈折率強度がL/20となるクロマトグラム上の2点のうち、溶出時間が早いほうを点Rとし、溶出時間が遅いほうを点Sとする。
(3) 点Rと点Sを結んだ直線Hと、屈折率強度の極大点KからベースラインBへ引いた垂線との交点をTとする。
(4) 点Rと交点Tの距離をW1/2、点Rと点Sの距離をW5%とする。
【0032】
好適な実施形態においては、Asが0.50≦As≦0.90を満たす。Asを0.90以下とすることによって、アルキルオキシラン誘導体を架橋剤として用いた際、乳化安定性が向上する傾向にある。この観点からは、Asを0.85以下とすることが好ましく、0.8以下とすることが更に好ましい。
【0033】
また、Asが小さくなるほど、分子量分布における高分子両側の偏りが大きくなり、それに由来する粘度の上昇などが見られる。Asを0.50以上とすることによって、粘度が高くなりすぎるのを抑制し、化粧料に配合し易くできる。この観点からは、Asは、0.57以上とすることが更に好ましい。
【0034】
本発明において、ML、MHおよびAsを求めるためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、システムとしてSHODEX(登録商標)
GPC101GPC専用システム、示差屈折率計としてSHODEX RI-71s、ガードカラムとしてSHODEX KF-G、カラムとしてHODEX KF804Lを3本連続装着し、カラム温度40℃、展開溶剤としてテトラヒドロフランを1ml/分の流速で流し、得られた反応物の0.1重量%テトラヒドロフラン溶液0.1mlを注入し、BORWIN GPC計算プログラムを用いて、屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムを得る。
【0035】
本発明のアルキルオキシラン誘導体は、複合金属シアン化物触媒(以下、DMC触媒と略記する)の存在下で、炭素数3のアルキレンオキサイド、すなわちプロピレンオキサイドを開環付加させた中間体を製造した後、塩基存在下で有機ハロゲン化物とのWilliamsonエーテル化反応により製造される。
【0036】
中間体の製造において、好ましくは、開始剤としてDMC触媒の存在下で、炭素数3のアルキレンオキサイド、すなわちプロピレンオキサイドを開環付加させる。反応容器内に、分子中に2個の水酸基を有する開始剤とDMC触媒を加え、不活性ガス雰囲気の攪拌下、プロピレンオキサイドを連続もしくは断続的に添加し付加重合する。プロピレンオキサイドは加圧して添加しても良く、大気圧下で添加しても良い。
【0037】
この時、メチルオキシランの全供給量の5~20wt%を供給する間の速度(単位時間あたりの供給量)をV1、メチルオキシランの全供給量の20~50wt%を供給する間の速度をV2、メチルオキシランの全供給量の50~100wt%を供給する間の速度をV3としたとき、V1/V2=1.1~2.0、V2/V3=1.1~1.5となるようにメチルオキシランの平均供給速度を制御する。
【0038】
また、反応温度は、70℃~110℃がより好ましい。
【0039】
本発明における開始剤としては、式(1)において、R1で示される炭素数1~22の炭化水素基を有する1価アルコールを使用することができる。
開始剤に含まれる水分量については、0.5wt%以下、メチルオキシランについては0.01wt%以下であることが望ましい。
【0040】
DMC触媒の使用量は、特に制限されるものではないが、生成するアルキルオキシラン誘導体に対して、0.0001~0.1wt%が好ましく、0.001~0.05wt%がより好ましい。DMC触媒の反応系への投入は初めに一括して導入してもよいし、順次分割して導入してもよい。重合反応終了後、複合金属錯体触媒の除去を行う。触媒の除去はろ別や遠心分離、合成吸着剤による処理など公知の方法により行うことが出来る。
【0041】
本発明に用いるDMC触媒は公知のものを用いることができるが、たとえば、式(7)で表わすことができる。
Ma[M’x(CN)y]b(H2O)c・(R)d・・・(7)
【0042】
式(7)中、MおよびM’は金属、Rは有機配位子、a、b、xおよびyは金属の原子価と配位数により変わる正の整数であり、cおよびdは、金属の配位数により変わる正の整数である。
【0043】
金属Mとしては、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Al(III)、Sr(II)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、Pb(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、W(IV)、W(VI)などがあげられ、なかでもZn(II)が好ましく用いられる。
【0044】
金属M’としては、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、V(V)などがあげられ、なかでもFe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)が好ましく用いられる。
【0045】
有機配位子Rとしてはアルコール、エーテル、ケトン、エステルなどが使用でき、アルコールがより好ましい。好ましい有機配位子は水溶性のものであり、具体例としては、tert-ブチルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレングリコールジメチルエーテル(グライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)などが挙げられる。特に好ましくはtert-ブチルアルコールが配位したZn3[Co(CN)6]2である。
【0046】
DMC触媒を使用して製造した中間体は、塩基存在下、有機ハロゲン化物とのWilliamsonエーテル化反応により式(1)で表されるアルキルオキシラン誘導体の製造に用いられる。エーテル化反応に用いられる塩基の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。また、エーテル化反応に用いられる有機ハロゲン化物は炭素数3~5のアルケニル基とハロゲン原子が結合した化合物である。特に、塩化アリル、ヨウ化アリル、臭化アリルが好適である。
【0047】
(界面活性剤)
本発明の界面活性剤は、前記架橋剤、式(5)で表されるハイドロジェンオルガノポリシロキサンおよび式(6)で表されるシリコーン変性剤の反応物からなる。
【0048】
(ハイドロジェンオルガノポリシロキサン)
式(5)において、mは1~50、lは0~50である。mは、乳化安定性の観点からは、50以下とするが、45以下が好ましく、40以下が更に好ましい。また、mは1以上とするが、5以上が更に好ましい。また、lは、乳化安定性の観点からは、50以下とするが、30以下が好ましく、10以下が更に好ましい。l/mは、乳化安定性の観点からは、1以下とするが、0.4以下が好ましく、0.2以下がさらに好ましい。
【0049】
R2は、炭素数1~8の炭化水素基を示す。こうした炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基があげられるが、アルキル基が好ましい。具体的化合物名としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基等があげられ、特に好ましくはメチル基である。
【0050】
R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~8の炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1~8の炭化水素基である。こうした炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基があげられるが、アルキル基が好ましい。具体的化合物名としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基等があげられ、好ましくはメチル基である。l=0のとき、R3またはR4の少なくとも一つは水素原子である。
【0051】
(シリコーン変性剤)
本発明に係るシリコーン変性剤は、式(6)で表される化合物からなるものである。式(6)において、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基、1,2-オキシブチレン基があげられ、好ましくはオキシエチレン基、オキシプロピレン基である。さらに好ましくはオキシエチレン基である。
【0052】
式(6)において、aは、オキシアルキレン基AOの平均付加モル数を示し、a=3~20である。オキシアルキレン基AOの付加モル数aが20を超えると、乳化物の感触に悪影響を及ぼすため、aは20以下とするが、乳化安定性の観点からは10以下が更に好ましい。また、aは5以上が更に好ましい。
R5は、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基である。
【0053】
界面活性剤を構成する反応物においては、本発明の架橋剤を1質量部としたとき、式(5)で表されるハイドロジェンオルガノポリシロキサンの比率は5~20質量部が好ましく、10~15質量部が更に好ましく、12~14質量部が特に好ましい。また、式(6)で表されるシリコーン変性剤の比率は4~15質量部が好ましく、5~12質量部が更に好ましく、8~10質量部が特に好ましい。
【0054】
(乳化組成物)
本発明に係る乳化組成物は、成分(A)、成分(B)および成分(C)の組成物である。
成分(A)は、上記記載の界面活性剤である。
【0055】
成分(B)は、25℃で液状の炭化水素油、25℃で液状のエステル油および25℃で液状のシリコーン油からなる群より選ばれた一種以上の油剤である。
【0056】
炭化水素油としては、流動パラフィン、水添ポリイソブテン、水添ポリデセン、スクワラン、スクワレン、プリスタン、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、流動イソパラフィン、テトラデセン、イソヘキサデカン、イソドデカン、α-オレフィンオリゴマー等をあげることができる。好ましくは、流動パラフィン、水添ポリイソブテンなどが挙げられる。
【0057】
エステル油としては、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸イソプロピル、2-エチルヘキサン酸セチル、2-エチルヘキサン酸イソセチル、2-エチルへキサン酸ステアリル、2-エチルへキサン酸イソステアリル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、イソステアリン酸2-ヘキシルデシル、イソステアリン酸イソステアリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソセチル、ラウリン酸ヘキシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オクチルドデシル、ピバリン酸イソステアリル、イソステアリン酸イソプロピル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸2-エチルヘキシル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、エルカ酸オクチルドデシル、ジデカン酸ネオペンチルグリコール、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル、リンゴ酸ジイソステアリル、トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパンアジピン酸ジデシル、アジピン酸ジデシル、イソステアリン酸コレステリル、イソステアリン酸バチル、モノヒドロキシステアリン酸硬化ヒマシ油、ラノリン脂肪酸イソステアリル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリン脂肪酸オクチルドデシル、リシノレイン酸セチル、コハク酸ジオクチル、乳酸セチル、ジカプリル酸プロピレングリコール、ジカプリン酸プロピレングリコール、ジノナン酸プロピレングリコール、ジ(カプリル・カプリン酸)プロピレングリコール、ジイソステアリン酸プロピレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコール、トリグリセリド、動植物油などがあげられる。トリグリセリドとしてはグリセリンとカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、2-エチルヘキサン酸、イソトリデカン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、エイコサン酸、オレイン酸などがあげられる。動植物油脂としてはオリーブ油、ヒマワリ油、サフラワー油、ヒマシ油、ツバキ油などがあげられる。
【0058】
シリコーン油としてはジメチコン、シクロメチコン、フェニルジメチコンなどがあげられるが、好ましくはジメチコン、シクロメチコンである。
【0059】
乳化組成物の成分(B)の油剤は、成分(A)のシリコーン変性剤との相溶性の観点からは、シリコーン油が特に好ましい。
【0060】
乳化組成物の成分(C)は水である。本発明の乳化組成物においては、成分(A)のオキシアルキレン鎖または水酸基が水和されることによって粘性が付与される。水としては、特には限定されない。例えば、蒸留水やイオン交換水などの精製水、生理食塩水、リン酸緩衝水溶液等を用いることができる。
【0061】
本発明に係る乳化組成物は、前記の成分(A)および成分(B)に対して成分(C)の水を配合することにより調製される。
本発明において、油中水型領域の乳化組成物の成分(A)、成分(B)および成分(C)の配合の質量比は、以下が好ましい。
ここで、成分(A)、成分(B)および成分(C)の質量の合計を100質量%とする。また、以下の数値単位は質量%である。
【0062】
[成分(A)]:
好ましくは10~40質量%、更に好ましくは15~35質量%、特に好ましくは20~30質量%。
[成分(B)]:
好ましくは20~50質量%、更に好ましくは、25~45質量%、特に好ましくは30~40質量%
【0063】
[成分(A)]+[成分(B)]:
好ましくは30~90質量%、更に好ましくは40~80質量%、特に好ましくは50~70質量%
[成分(C)]:
好ましくは5~70質量%、更に好ましくは5~60質量%、特に好ましくは5~50質量%
【0064】
本発明に係る乳化組成物に対して、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、一般的に用いられている各種成分を配合することが可能である。例えば、化粧品材料の分野では、保湿剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、美容成分、香料、水溶性高分子、色素、顔料、有機粉体などが挙げられる。
【0065】
本発明の形態は、特に限定されない。化粧品用途としては、乳液、クリーム、美容液、コンディショナー、ファンデーション、リップカラー、メイクアップベース等に使用可能である。また農薬展着剤、塗料添加剤や繊維処理剤、樹脂改質剤等の用途における使用も可能である。
【実施例】
【0066】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。なお、合成品の分析は下記に示す方法で行った。
【0067】
(分析方法)
水酸基価: JIS K 1557-1に準拠した方法で分析を行った。
動粘度: JIS K 2283に準拠した方法で分析を行った。
不飽和度: JIS K 1557-3に準拠した方法で分析を行った。
ゲル浸透クロマトグラフィー:
システムとしてSHODEX GPC101GPC専用システム、示差屈折率計としてSHODEX
RI-71S、ガードカラムとしてSHODEX KF-GS、カラムとしてHODEX KF804Lを3本連続装着し、カラム温度40℃、展開溶剤としてテトラヒドロフランを1ml/分の流速で流し、得られた反応物の0.1重量%テトラヒドロフラン溶液0.1mlを注入し、BORWIN GPC計算プログラムを用いて、屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムを得ることで分析を行なった。
【0068】
(実施例D1)
(合成例1:複合金属シアン化物錯体触媒の合成)
塩化亜鉛2.1gを含む2.0mlの水溶液中に、カリウムヘキサシアノコバルテートK3Co(CN)6を0.84g含む15mlの水溶液を、40℃にて攪拌しながら15分間かけて滴下した。滴下終了後、水16ml、tert-ブチルアルコール16gを加え、70℃に昇温し、1時間攪拌した。室温まで冷却後、濾過操作(1回目濾過)を行い、固体を得た。この固体に、水14ml、tert-ブチルアルコール8.0gを加え、30分間攪拌したのち濾過操作(2回目濾過)を行い、固体を得た。
【0069】
さらに再度、この固体にtert-ブチルアルコール18.6g、メタノール1.2gを加え、30分間攪拌したのち濾過操作(3回目濾過)を行い、得られた固体を40℃、減圧下で3時間乾燥し、複合金属シアン化物錯体触媒0.7gを得た。
【0070】
(合成例2:架橋剤の合成例)
撹拌装置、窒素導入管、および熱電対を取り付けた5リットル容量のオートクレーブにポリプロピレングリコール(分子量約700g/mol)84g、上記合成例1で得た複合金属シアン化物錯体触媒0.2gを仕込んだ。窒素置換後、110℃へと昇温し、0.3MPa以下の条件で、プロピレンオキサイド(住友化学製)100gを3時間かけて仕込んだ。この際、反応槽内の圧力と温度の経時的変化を測定した。3時間後、反応槽内の圧力が急激に減少した。その後、反応槽内を110℃に保ちながら、0.6MPa以下の条件で、徐々にプロピレンオキサイドを投入し、全量で1116gのプロピレンオキサイドを撹拌下に連続的に加圧添加した。このとき、プロピレンオキサイドを1016g導入するまでの時間は5時間であった。75~85℃、50~100Torrで1時間減圧処理後、ろ過を行い中間体(分子量約9300g/molのポリプロピレングリコール)を1140g得た。
【0071】
得られた中間体1000gを水酸化カリウム169gおよびアリルクロライド175gを仕込んだ。窒素置換後、120℃で3時間反応を行なった。水676gとメチルシクロヘキサン676gを添加して10分間撹拌した。1時間静置した後、分相した下層を廃水し、さらに上層を回収した。中和した後、80℃、窒素バブリング中で水分の除去を行ない、その後、90℃、-0.097MPa(ゲージ圧力)以下、窒素バブリング中で2時間処理を行ない、ろ過により、架橋剤であるポリプロピレングリコールジアリルエーテルを1079g得た。
【0072】
得られた架橋剤の水酸基価は1.9mgKOH/g、動粘度(100℃)は632mm2/s、不飽和度は0.21meq/gであった。またゲル浸透クロマトグラフィーの測定により得られるクロマトグラムからML/MHを求めると、0.55であり、Asは0.80であった。
【0073】
(合成例3:シリコーン変性剤の合成例)
撹拌装置、窒素導入管、および熱電対を取り付けた5リットル容量のオートクレーブにメタノールを49g、SM-28(28%ソジュウムメチラートメタノール溶液、日本曹達製)5.8gを仕込んだ。窒素置換後、110℃へと昇温し、0.3MPa以下の条件で、エチレンオキサイド(日本触媒製)732gを8時間かけて仕込んだ。75~85℃、50~100Torrで1時間減圧処理を行い残存したエチレンオキサイドを除去した。続いて水酸化カリウム165gおよびアリルクロライド165gを仕込んだ。窒素置換後、120℃で3時間反応を行なった。水410gを添加して10分間撹拌した。1時間静置した後、分相した下層を廃水し、さらに上層を回収した。中和した後、80℃、窒素バブリング中で水分の除去を行ない、その後、90℃、-0.097MPa(ゲージ圧力)以下、窒素バブリング中で2時間処理を行ない、ろ過により、シリコーン変性材であるポリエチレングリコールモノアリルモノメチルエーテルを776g得た。水酸基価は2.8mgKOH/g、動粘度(100℃)は4.0mm2/s、不飽和度は1.9meq/gであった。
【0074】
(実施例1の界面活性剤の合成例)
撹拌装置、窒素吹き込み管、熱電対および冷却管を取り付けた300ミリリットル容四ツ口フラスコに、合成例2で合成した架橋剤5g(不飽和当量;1.1meq)と、ハイドロジェンジメチルポリシロキサン(HMS-082(Gelest社製)、1g当たりのSiH当量=1.08meq/g)65g(架橋剤1質量部に対し13質量部、SiH当量;70meq)と、合成例3で合成したシリコーン変性剤45g(架橋剤1質量部に対し9質量部、不飽和当量;86meq)を仕込み、触媒として塩化白金酸六水和物のイソプロピルアルコール溶液(1×10-3モル/リットル)を白金換算で100ppmとなるように仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、90℃で反応を行った。サンプリングを行い、N/10水酸化カリウムのイソプロピルアルコール溶液を加えて水素ガスが発生しなくなるまで反応を継続し、FT-IR測定により、SiH基に由来する2100~2300cm-1の吸収が消失したことを確認し、界面活性剤である、実施例1のポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン化合物を得た。
【0075】
(乳化組成物の製造および安定性評価)
下記に示す方法で乳化組成物を作成し、安定性評価を行った。実施例1の界面活性剤を試験管に精秤し、油剤(KF-96-10cs(信越化学工業(株)製ジメチルシリコーンオイル)、水を順に加え、室温にて十分に撹拌し、1ヶ月間室温にて静置後、乳化組成物の状態を観察した。乳化物の配合比率は以下の表1の通りである。
また、表1において、各数値は質量%を示す。評価基準は以下のとおりである。
「○」: 乳化した
「△」: 乳化後に一部が分離した
「×」: 乳化後に完全に分離した
【0076】
(比較例D1)
撹拌装置、窒素吹き込み管、熱電対および冷却管を取り付けた300ミリリットル容四ツ口フラスコに、ハイドロジェンジメチルポリシロキサン(HMS-082(Gelest社製)、1g当たりのSiH当量=1.08meq/g)72g(SiH当量;70meq)と、合成例3で合成したシリコーン変性剤50g(不飽和当量;95meq)を仕込み、触媒として塩化白金酸六水和物のイソプロピルアルコール溶液(1×10-3モル/リットル)を白金換算で100ppmとなるように仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、90℃で反応を行った。サンプリングを行い、N/10水酸化カリウムのイソプロピルアルコール溶液を加えて水素ガスが発生しなくなるまで反応を継続し、FT-IR測定により、SiH基に由来する2100~2300cm-1の吸収が消失したことを確認し、界面活性剤である、比較例1のポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン化合物を得た。
【0077】
次いで、実施例D1において、実施例1の界面活性剤を比較例1の界面活性剤に変更した。その他の手順は実施例D1と同様にして乳化組成物を製造し、安定性を評価した。乳化組成物の配合比率は表1に示す。
【0078】
(比較例D2)
撹拌装置、窒素吹き込み管、熱電対および冷却管を取り付けた300ミリリットル容四ツ口フラスコに、架橋剤(ポリプロピレングリコールジアリルエーテル、分子量約7400g/mol、ML/MH=1.8、As=0.33)を5g(不飽和当量;1.1meq)と、ハイドロジェンジメチルポリシロキサン(HMS-082(Gelest社製)、1g当たりのSiH当量=1.08meq/g)65g(架橋剤1質量部に対し13質量部、SiH当量;70meq)とおよび合成例3で合成したシリコーン変性剤45g(架橋剤1質量部に対し9質量部、不飽和当量;86meq)を仕込み、触媒として塩化白金酸六水和物のイソプロピルアルコール溶液(1×10-3モル/リットル)を白金換算で100ppmとなるように仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、90℃で反応を行った。サンプリングを行い、N/10水酸化カリウムのイソプロピルアルコール溶液を加えて水素ガスが発生しなくなるまで反応を継続し、FT-IR測定により、SiH基に由来する2100~2300cm-1の吸収が消失したことを確認し、界面活性剤である比較例2のポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン化合物を得た。
【0079】
次いで、実施例D1において、実施例1の界面活性剤を比較例2の界面活性剤に変更した。その他の手順は実施例D1と同様にして乳化組成物を製造し、安定性を評価した。乳化組成物の配合比率は表1に示す。
【0080】
(実施例D2~比較例D8)
界面活性剤、油剤(成分(B))および水(成分(C))を、表1に示す各実施例、比較例に記載されたような組成比率で混合し、各乳化組成物を製造し、乳化安定性を評価した。ただし、成分(B)は、以下のいずれかである。
パナセート810(日油(株)製トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン )
IPP-R(日油(株)製パルミチン酸イソプロピル)
パールリームEX(日油(株)製流動イソパラフィン)
【0081】
【0082】
実施例D1と比較例D1、D2とを比較すると、比較例D1では乳化安定性が低下している。実施例D2と比較例D3、D4とを比較すると、比較例D3では乳化安定性が低下している。実施例D3と比較例D5、D6とを比較すると、比較例D5では乳化安定性が大きく低下している。実施例D4と比較例D7、D8とを比較すると、比較例D7では乳化安定性が大きく低下している。
【0083】
(実施例E1~比較例E8:酸性条件での乳化安定性)
実施例D1と同様にして、表2に示す各実施例、比較例の乳化組成物を製造した。ただし、各実施例、比較例の組成は、表2に示すように変更した。特に、成分(C)としては、0.1NのHCl水溶液を使用することによって、耐酸性を評価する。得られた各乳化組成物について、72時間、40℃にて静置後、状態を観察した。得られた結果を表2に示す。
表2において、各数値は質量%を示す。評価基準は以下のとおりである。
「○」: 乳化状態を維持した
「△」: 乳化後に一部が分離した
「×」: 乳化後に完全に分離した
【0084】
【0085】
実施例E1と比較例E1、E2とを比較すると、比較例E1では乳化安定性が低下している。実施例E2と比較例E3、E4とを比較すると、比較例E3では乳化安定性が低下している。実施例E5比較例E5、E6とを比較すると、比較例E5、E6では乳化安定性が大きく低下している。実施例E4と比較例E7、E8とを比較すると、比較例E7、E8では乳化安定性が大きく低下している。
【0086】
(実施例F1~比較例F8:塩基性条件下での乳化安定性評価)
実施例D1と同様にして、表3に示す各実施例、比較例の乳化組成物を製造した。ただし、各実施例、比較例の組成は、表3に示すように変更した。特に、成分(C)としては、0.1NのNaCl水溶液を使用することによって、耐塩基性を評価する。得られた各乳化組成物について、72時間、40℃にて静置後、状態を観察した。得られた結果を表3に示す。
表3において、各数値は質量%を示す。評価基準は以下のとおりである。
「○」: 乳化した
「△」: 乳化後に一部が分離した
「×」: 乳化後に完全に分離した
【0087】
【0088】
実施例F1と比較例F1、F2とを比較すると、比較例F1、F2では乳化安定性が低下している。実施例F2と比較例F3、F4とを比較すると、比較例F3では乳化安定性が低下している。実施例F5と比較例F5、F6とを比較すると、比較例F5では乳化安定性が低下している。実施例F4と比較例F7、F8とを比較すると、比較例F7、F8では乳化安定性が大きく低下している。